説明

結晶シリコン系太陽電池

【課題】従来の単結晶、多結晶、薄膜太陽電池において、各半導体接合界面や集電極付着界面で各層の剥離が起こりやすく、生産性および耐久性に悪影響を与えるという課題があった。
【解決手段】
厚みが200μm以下の一導電型単結晶シリコン基板を用い、前記基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記基板と前記p型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記基板と前記n型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記p型およびn型シリコン系薄膜層上に導電性酸化物層を備え、さらに前記導電性酸化物層上に集電極、さらにその上に保護層を設けた結晶シリコン系太陽電池であって、前記単結晶シリコン基板から保護層までの間の少なくとも1層に1〜20nmの膜厚のアモルファスカーボン層が設けられていることを特徴とする、結晶シリコン系太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリコン基板表面にヘテロ接合を有する結晶シリコン太陽電池に関し、更に詳しくは光電変換効率に優れた結晶シリコン太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン太陽電池は、光電変換効率が高く、既に太陽光発電システムとして広く一般に実用化されている。中でも単結晶シリコンとはバンドギャップの異なる非晶質シリコン系薄膜を単結晶表面へ製膜し、拡散電位を形成した結晶シリコン太陽電池はヘテロ接合太陽電池と呼ばれている。
【0003】
さらに、中でも拡散電位を形成するための導電型非晶質シリコン系薄膜と結晶シリコン表面の間に薄い真性の非晶質シリコン層を介在させる太陽電池は、変換効率の最も高い結晶シリコン太陽電池の形態の一つとして知られている。結晶シリコン表面と導電型非晶質シリコン系薄膜の間に、薄い真性な非晶質シリコン層を製膜することで、製膜による新たな欠陥準位の生成を低減しつつ結晶シリコンの表面に存在する欠陥(主にシリコンの未結合手)を水素で終端化処理することができる。また、導電型非晶質シリコン系薄膜を製膜する際の、キャリア導入不純物の結晶シリコン表面への拡散を防止することもできる。
【0004】
近年、結晶シリコン太陽電池の原料問題の観点から使用する単結晶シリコン基板の厚みを低減する必要性が高まっている。このため、この基板の厚みの低減に応じて、光を基板内へ閉じ込める技術が重要となっている。
【0005】
これに対し、一般的に非晶質シリコンを導電型層として用いるヘテロ接合太陽電池において、入射面と裏面に酸化インジウムを透明電極として用いることが透過率、導電性、電気的接合及び信頼性の観点から良いことが開示されている(例えば、特許文献1参照)。一方で、厚いi層を有する薄膜シリコン太陽電池において、裏面n型層上に製膜する導電性酸化物層として酸化亜鉛を用いる際に、i型微結晶シリコン/n型微結晶シリコン層を導電性酸化物層との界面に配置することが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、例えば特許文献3には、シリコン系化合物半導体層と背面電極との間に膜厚70nm程度の屈折率が2.0以下のダイヤモンド様炭素膜を形成することにより反射率の向上が期待でき、光電変換効率を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4152197号公報
【特許文献2】特開2007−214283号公報
【特許文献3】特許第3342257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の単結晶シリコン、多結晶シリコン、薄膜シリコン系太陽電池において、各シリコン半導体接合界面やシリコン/透明電極接合界面、および透明電極/集電極付着界面で各層の剥離が起こりやすく、生産性および耐久性に悪影響を与えるという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、単結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン系太陽電池において、前記のような界面剥離が抑制されており、光電変換効率に優れた結晶シリコン系太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、単結晶シリコン基板から保護層までの間に、1〜20nmと極薄膜のアモルファスカーボン層を設けることにより、界面剥離の問題が抑制され、光電変換効率に優れる結晶シリコン系太陽電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、厚みが200μm以下の一導電型単結晶シリコン基板を用い、前記単結晶シリコン基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記単結晶シリコン基板と前記p型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記単結晶シリコン基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記単結晶シリコン基板と前記n型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記p型およびn型シリコン系薄膜層上に導電性酸化物層を備え、さらに前記導電性酸化物層上に集電極、さらにその上に保護層を設けた結晶シリコン系太陽電池であって、前記単結晶シリコン基板から保護層までの間の少なくとも1層に1〜20nmの膜厚のアモルファスカーボン層が設けられていることを特徴とする、結晶シリコン系太陽電池に関する。
【0012】
好ましい実施態様は、前記アモルファスカーボンのX線光電子分光から測定されるSP3結合の割合が65%以上のダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする、前記の結晶シリコン系太陽電池に関する。
【0013】
好ましい実施態様は、前記アモルファスカーボンの分光エリプソメトリーから測定される500nmの波長での屈折率が1.6以上2.4以下であることを特徴とする、前記の結晶シリコン系太陽電池に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、各界面における不純物拡散が減少し、さらに各界面どうしの密着性の向上が期待できる。このため、光電変換効率に優れた結晶シリコン系太陽電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1の結晶シリコン太陽電池に係る模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、厚みが200μm以下の一導電型単結晶シリコン基板を用い、前記単結晶シリコン基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記単結晶シリコン基板と前記p型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記単結晶シリコン基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記単結晶シリコン基板と前記n型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記p型およびn型シリコン系薄膜層上に導電性酸化物層を備え、さらに前記導電性酸化物層上に集電極、さらにその上に保護層を設けた結晶シリコン系太陽電池であって、前記単結晶シリコン基板から保護層までの間の少なくとも1層に1〜20nmの膜厚のアモルファスカーボンが設けられていることを特徴とする。
【0017】
まず、本発明の結晶シリコン系太陽電池における、一導電型単結晶シリコン基板について説明する。
【0018】
一般的に単結晶シリコン基板は、導電性を持たせるためにシリコンに対して電荷を供給する不純物を含有させる。一般に単結晶シリコン基板は、Si原子に対して電子を導入するリン原子を供給したn型と、ホール(正孔ともいう)を導入するボロン原子を供給したp型がある。太陽電池に用いる場合、単結晶シリコン基板へ入射した光が最も多く吸収される入射側のへテロ接合を逆接合として強い電場を設けることで、電子正孔対を効率的に分離回収することができる。よって入射側のヘテロ接合は逆接合とすることが好ましい。一方で、正孔と電子を比較した場合、有効質量及び散乱断面積の小さい電子の方が一般的に移動度は大きくなる。以上の観点から、本発明において使用する単結晶シリコン半導体基板は、n型単結晶シリコン半導体基板であることが好ましい。
【0019】
n型単結晶シリコン基板を用いた場合の本発明の好適な構成としては、例えば、保護層/集電極/透明電極層/p型非晶質シリコン系薄膜層/i型非晶質シリコン系薄膜層/n型単結晶シリコン基板/i型非晶質シリコン系薄膜層/n型非晶質シリコン系薄膜層/n型微結晶シリコン系薄膜層/酸化亜鉛層/集電極/保護層となり、この場合は裏面をn層とすることが好ましい。本発明におけるアモルファスカーボン層は、単結晶シリコン基板から保護層までの間に挿入すればよいが、中でも集電極/保護層界面を除く、単結晶シリコン基板から集電極までの間の各界面間に挿入することが好ましい。これにより不純物拡散の抑制と界面間の剥離抑制をより効果的に発現することが可能となる。アモルファスカーボン層は上記界面の少なくとも1層にあればよい。これは、アモルファスカーボン層が存在することの接合性向上の効果とともに、デバイス中の残留応力の緩和が原因であると考えられる。
【0020】
また、導電性酸化物層である前記酸化亜鉛層の上に酸化インジウムといった別種の導電性酸化物層を製膜しても良い。この場合、酸化亜鉛層の膜厚は、透明性と導電性の観点から、10nm以上100nm以下であることが好ましい。また、透明性の観点から、酸化亜鉛層を含む導電性酸化物層の膜厚は60〜140nmの範囲であることが好ましく、80〜120nmの範囲であることが更に好ましい。
【0021】
また、裏面をn層とする場合においては、光閉じ込めの観点から、酸化亜鉛を含む導電性酸化物層上に反射層を形成すると更に好ましい。反射層とは光を反射する機能を太陽電池に付加する層を意味し、例えばAgやAlといった金属層でも良く、MgOやAl23、白色亜鉛といった金属酸化物の微粒子からなる白色高反射材料を用いて形成しても良い。また、屈折率と膜厚の異なる二種類以上の誘電体層を積層して多層膜を製膜し、多層膜内の界面における反射光を干渉させることで、一定範囲の波長の光に対して反射率を有するフォトニック構造を形成しても良い。但し、セラミック系材料や誘電体層を用いる場合は、当該材料は絶縁体であるため、導電性酸化物上に集電極を形成した後に反射層を製膜することが好ましい。反射層を用いない場合、絶縁体材料を反射層として用いる場合は、上記膜厚を有する酸化亜鉛層のみからなる導電性酸化物層では、一般的な集電極の間隔(数mm)に対して十分な導電性を確保することが難しい場合がある。そのような場合には、酸化亜鉛層上に酸化インジウム等の、より「膜厚に対する導電率」が高い材料を製膜することが好ましい。
【0022】
また、前記一導電型単結晶シリコン基板として、p型単結晶シリコン基板を用いた場合の本発明の好適な構成としては、保護層/集電極/酸化亜鉛層/n型微結晶シリコン系薄膜層/n型非晶質シリコン系薄膜層/i型非晶質シリコン系薄膜層/p型単結晶シリコン基板/i型非晶質シリコン系薄膜層/p型非晶質シリコン系薄膜層/透明電極層/集電極/保護層となり、この場合は逆接合部を光入射側とするキャリアの高効率回収の観点から、入射面をn層とすることが好ましい。本発明におけるアモルファスカーボン層は、単結晶シリコン基板から保護層までの間に挿入すればよいが、中でも集電極/保護層界面を除く、単結晶シリコン基板から集電極までの間の各界面間に挿入することが好ましい。これにより不純物拡散の抑制と界面間の剥離抑制をより効果的に発現することが可能となる。アモルファスカーボン層は上記界面の少なくとも1層にあればよい。これは、アモルファスカーボン層が存在することの接合性向上の効果とともに、デバイス中の残留応力の緩和が原因であると考えられる。
【0023】
また、その場合は、導電率の観点から、酸化亜鉛層の上に酸化インジウムといった別種の導電性酸化物層を製膜することが好ましい。この場合、透明性と導電性の観点から、酸化亜鉛層の膜厚は10nm以上100nm以下であることが好ましく、酸化亜鉛層を含む導電性酸化物層の膜厚は60〜140nmの範囲であることが好ましく、80〜120nmの範囲であることが更に好ましい。
【0024】
単結晶シリコン基板の入射面は(100)面であるように切り出されていることが好ましい。これは、単結晶シリコン基板をエッチングする場合に、(100)面と(111)面のエッチングレートが異なる異方性エッチングによって容易にテクスチャ構造を形成できるためである。一般的にテクスチャサイズはエッチングが進行すればするほど大きくなる。例えば、エッチング時間を長くするとテクスチャサイズは大きくなるが、反応速度が大きくなるようにエッチャント濃度、供給速度の増加や液温の上昇等によってもテクスチャサイズを大きくすることができる。また、エッチングが開始される表面状態によってもエッチング速度が異なるため、一般にラビング等の工程を実施した表面とそうでない表面とではテクスチャサイズが異なる。また、基板表面に形成されたテクスチャの鋭い谷部では、薄膜を製膜する際の圧縮応力によって、欠陥が発生しやすいため、テクスチャ形成エッチング後に形成したテクスチャの谷や山の形状を緩和する工程として、(100)面と(111)面の選択性の低い等方性エッチングを行うことが好ましい。
【0025】
このようにして作製した単結晶シリコン基板へのシリコン系薄膜の製膜方法としては、特にプラズマCVD法を用いることが好ましい。プラズマCVD法を用いた場合のシリコン系薄膜の形成条件としては、例えば、基板温度100〜300℃、圧力20〜2600Pa、高周波パワー密度0.003〜0.5W/cm2が好ましく用いられる。シリコン系薄膜の形成に使用する原料ガスとしては、SiH4、Si26等のシリコン含有ガス、またはそれらのガスとH2を混合したものが好適に用いられる。光電変換ユニットにおけるシリコン系薄膜のp型またはn型層を形成するためのドーパントガスとしては、例えば、B26またはPH3等が好ましく用いられる。また、PやBといった不純物の添加量は微量でよいため、予めSiH4やH2などで希釈された混合ガスを用いることもできる。また、CH4、CO2、NH3、GeH4等といった異種元素を含むガスを上記ガスに添加することで、合金化しエネルギーギャップを変更することもできる。
【0026】
本発明の結晶シリコン系太陽電池においては、前記単結晶シリコン基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記単結晶シリコン基板とp型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備えており、また、前記単結晶シリコン基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記単結晶シリコン基板とn型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備えている。
【0027】
上記の実質的に真正なi型シリコン系薄膜層は、シリコンと水素で構成されるi型水素化非晶質シリコンであることが好ましい。この場合、i型水素化非晶質シリコン層のCVD製膜時に、単結晶シリコン基板への不純物拡散を抑えつつ、単結晶シリコン表面のパッシベーションを有効に行うことができる。また、膜中の水素量を変化させることで、エネルギーギャップにキャリア回収を行う上で有効なプロファイルを持たせることができる。
【0028】
前記p型シリコン系薄膜層は、p型水素化非晶質シリコン層か、p型酸化非晶質シリコン層であることが好ましい。不純物拡散や直列抵抗の観点から、p型シリコン系薄膜層はp型水素化非晶質シリコン層を用いることが好ましい。一方で、ワイドギャップの低屈折率層として光学的なロスを低減できる観点から、p型酸化非晶質シリコン層を用いることが好ましい。
【0029】
また、前記のn型シリコン系薄膜層としては、例えば、n型水素化非晶質シリコン層、n型非晶質シリコンナイトライド層、n型微結晶シリコン層が好ましい。本件の構成においては、n型微結晶シリコン系薄膜の下地層として、結晶化阻害元素を含まないn型水素化非晶質シリコンを用いることが特に好ましい。n型微結晶シリコン系薄膜層に関しては、n型微結晶シリコン層、n型微結晶シリコンカーバイド層、n型微結晶シリコンオキサイド層等が挙げられるが、欠陥の生成を抑制する観点からドーパント以外の不純物を積極的に添加しないn型微結晶シリコン層が好ましい。上記の場合、n型微結晶シリコン層は、その上に製膜する透明電極層の結晶性を、n型非晶質シリコン層上に製膜する場合に比べて向上させることができるため、設けることが好ましい。
【0030】
本発明において、n側薄膜層の製膜に関しては、i型シリコン層への不純物拡散及び製膜ダメージを低減させることが好ましい。一方、n型微結晶シリコン層を製膜するためには、水素プラズマを高密度で発生させるため高パワーでプラズマを発生させる必要がある。しかしながら、予めn型水素化非晶質シリコンを薄く製膜しておき、これを下地としてn型微結晶シリコン層を製膜することで製膜に要するパワーを低減することができる。このため、本発明のn型シリコン系薄膜層としては、i型シリコン薄膜層側から、n型水素化非晶質シリコン薄膜層とn型微結晶シリコン薄膜層で構成されることが好ましい。
【0031】
一方で、シリコンに酸素や炭素を添加することで実効的な光学ギャップを広げることができ、屈折率も低下するので、光学的なメリットが得られる場合がある。上記観点から、結晶化を妨げない流量比範囲、例えばCO2/SiH4<10、CH4/SiH4<3にて添加することが好ましい。
【0032】
本発明では、p型およびn型シリコン系薄膜層上に導電性酸化物層を備えることにより構成される。導電酸化物層としては、例えば、酸化亜鉛や酸化インジウム、酸化錫を単独または混合して用いることができる。さらにこれらには導電性ドーピング剤を添加することができる。例えば、酸化亜鉛にはアルミニウムやガリウム、ホウ素、ケイ素、炭素などが挙げられる。酸化インジウムには亜鉛や錫、チタン、タングステン、モリブデンなどが挙げられる。これらの導電性酸化物層は単膜で用いても良いし、積層構造でもよい。
【0033】
本発明の導電性酸化物層の膜厚は、透明性と導電性の観点から、10nm以上140nm以下であることが好ましい。導電性酸化物層の役割は、集電極へのキャリアの輸送であり、そのために必要な導電性があればよい。一方で透明性の観点から、厚すぎる導電性酸化物層は、それ自身の吸収ロスのために透過率が減少し、その結果光電変換効率を低下させる原因となりうる場合がある。
【0034】
前記の導電性酸化物層製膜方法としては、例えば、スパッタ蒸着や熱CVD等が挙げられる。例えば、導電性酸化物層として酸化亜鉛を主成分とする導電性酸化物層を用い、スパッタ蒸着にて形成する場合、酸化亜鉛のドーパントとしてはAlやGa、In、Siといったものが挙げられる。中でも、Alをドーパントとして1〜5原子%程度添加したものが好ましく用いられる。製膜時のスパッタガスは、例えばArであることが好ましい。
【0035】
例えば、熱CVD法によって製膜された酸化亜鉛は結晶粒が大きく、表面に微細なテクスチャを有する。このテクスチャは反射防止構造や光散乱構造として機能するため、光学的な観点から好ましい。ドーパントとしては、例えばBが挙げられる。また、熱CVD法による酸化亜鉛層を用いる場合、n型シリコン層へのB原子の拡散を抑えるために、B添加量を製膜初期には無くすか、減らしておくと好ましい。また、熱CVD法による製膜前に結晶性の低いInやSiといったドーパントを含む酸化亜鉛層を製膜しておいても良い。
【0036】
電極層上には集電極が形成されうる。集電極は、インクジェット、スクリーン印刷、導線接着、スプレー等の公知技術によって作製できるが、生産性の観点からスクリーン印刷がより好ましい。スクリーン印刷は金属粒子と樹脂バインダーからなる導電ペーストをスクリーン印刷によって印刷し、集電極を形成する工程が好ましく用いられる。
【0037】
集電極に用いられる導電ペーストの固化も兼ねてセルのアニールが行われうる。アニールによって、透明導電膜(TCO)の透過率/抵抗率比の向上、接触抵抗や界面準位の低減といった各界面特性の向上なども得られる。アニール温度としてはシリコン系薄膜の製膜温度から100℃前後の高温度領域に留めることが好ましい。アニール温度が高すぎると、導電型シリコン系薄膜層から真性シリコン系薄膜層へのドーパントの拡散、TCOからシリコン領域への異種元素の拡散による不純物準位の形成、非晶質シリコン中での欠陥準位の形成などによって、特性が悪化してしまう場合がある。
【0038】
これらの層の上に、例えばエチレン・ビニル・アセテート(EVA)樹脂のようなフィルムを保護層としてコーティングすることで、物理的な強度を向上することが可能である。さらに、酸素や水分によるシリコン層や電極層の劣化を防ぐ役割を果たすこともできる。また、このEVAフィルムにヘイズを有するようなブラスト処理等を施すことで、光学特性の損失を抑えることも可能となる。
【0039】
本発明においては、単結晶シリコン基板から保護膜までの間の少なくとも1層にアモルファスカーボン層を設けることが重要な特徴である。アモルファスカーボンの膜厚は1〜20nmの範囲が好ましく、さらには2〜8nmの範囲がより好ましい。アモルファスカーボンの膜厚が1nmを下回って薄い場合には、アモルファスカーボン製膜の効果が得られにくく、特に不純物の拡散を減少することに対しては効果が期待しにくい。一方、アモルファスカーボンの膜厚が20nmを超えて厚い場合には、導電性が悪くなるため、直列抵抗が高くなり性能の低下を招く虞がある。さらに、膜厚が厚いアモルファスカーボンは、カーボン膜が凝集破壊を起こす可能性がある。これは、シリコン層や電極層とカーボン膜との接着性と残留応力とのバランスから起こるものと予想される。
【0040】
本発明において使用しうるアモルファスカーボンは、炭素原子を主成分とするものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ダイヤモンドライクカーボンなどが本発明の効果を達成するためには好適に用いられる。アモルファスカーボンは一部水素化された水素化アモルファスカーボンでもよく、この場合の水素の含有量は10〜90原子%の範囲で効果が認められうる。アモルファスカーボンは、SP3混成軌道の結合割合が65%以上であることが好ましく、また95%以下であることが好ましい。このSP3結合割合は、全炭素原子における、SP3混成軌道を示す炭素原子の数を表しており、X線光電子分光法(XPS)により検出されるC1Sの結合エネルギーをフィッティングすることで求めることができる。具体的には、(SP3結合割合)=(SP3結合面積強度)÷{(SP3結合面積強度)+(SP2結合面積強度)}であらわされる。上記の範囲にある場合、密度に由来すると考えられる物理的な強度の観点から、特に密着性への影響がより期待できる。
【0041】
前記アモルファスカーボンの屈折率に限定はないが、透明なアモルファスカーボンを得ることができる観点から、1.6以上2.4以下の範囲が好ましい。さらに不純物拡散の抑制と密着性の観点から、2.0以上2.4以下の範囲で優れたアモルファスカーボンを形成することが可能となる。なお、500nmの波長での屈折率は分光エリプソメトリーから測定できる。
【0042】
アモルファスカーボン層は、単結晶シリコン基板から保護層までの間に少なくとも1層あればよく、例えば各層間すべてに形成されていても構わない。とくに透明電極層と集電極間に形成されることで、集電極の剥離防止効果が期待できる。当該界面は金属酸化物と金属が接する界面であり、一般的に付着力が弱くなる界面である。ここに本発明のアモルファスカーボン層を形成することで付着力の改善効果を得ることができる。また、金属原子の透明電極層への拡散を防ぐことができ、透明電極の透明性を確保することが可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
図1は、本発明に従う実施例1の結晶シリコン太陽電池を示す模式的断面図である。本実施例の結晶シリコン太陽電池はヘテロ接合太陽電池であり、n型単結晶シリコン基板1の両面にそれぞれテクスチャを備えている。n型単結晶シリコン基板1の入射面にはi型非晶質シリコン層2/p型非晶質シリコン層3/酸化インジウム層8が製膜されている。酸化インジウム層8の上にはアモルファスカーボン層9が形成され、その上に集電極10が形成されている。一方、基板1の裏面にはi型非晶質シリコン層4/n型非晶質シリコン層5/n型微結晶シリコン層6/酸化亜鉛層7が製膜されている。酸化亜鉛層7の上にはアモルファスカーボン層9、さらにその上に集電極10が形成されている。
【0045】
図1に示す実施例1の結晶シリコン太陽電池を以下のようにして製造した。
【0046】
入射面の面方位が(100)で、厚みが200μmのn型単結晶シリコン基板をアセトン中で洗浄した後、2重量%のHF水溶液に3分間浸漬し、表面の酸化シリコン膜を除去し、超純水によるリンスを2回行った。次に70℃に保持した5/15重量%のKOH/イソプロピルアルコール水溶液に15分間浸漬し、基板表面をエッチングすることでテクスチャを形成した。その後に超純水によるリンスを2回行った。原子間力顕微鏡(以下AFM パシフィックナノテクノロジー社製)による単結晶シリコン基板1の表面観察を行ったところ、基板表面はエッチングが最も進行しており、(111)面が露出したピラミッド型のテクスチャが形成されていた。
【0047】
エッチングが終了した単結晶シリコン基板1をCVD装置へ導入し、入射面にi型非晶質シリコン層2を3nm製膜した。本実施例において製膜した薄膜の膜厚は、ガラス基板上に同条件にて製膜した場合の膜厚を分光エリプソメトリー(商品名VASE、ジェー・エー・ウーラム社製)にて測定し、製膜速度を求め、同じ製膜速度にて製膜されていると仮定して算出した。i型非晶質シリコン層2の製膜条件は基板温度が170℃、圧力120Pa、SiH4/H2流量比が3/10、投入パワー密度が0.011W/cm-2であった。i型非晶質シリコン層2の上にp型非晶質シリコン層3を4nm製膜した。p型非晶質シリコン層3の製膜条件は基板温度が170℃、圧力60Pa、SiH4/B26流量比が1/3、投入パワー密度が0.01W/cm-2であった。なお、本件でいうB26ガスは、B26濃度を5000ppmまでH2で希釈したガスを用いた。
【0048】
次に裏面側にi型非晶質シリコン層4を6nm製膜した。i型非晶質シリコン層4の製膜条件は基板温度が170℃、圧力120Pa、SiH4/H2流量比が3/10、投入パワー密度が0.011W/cm-2であった。i型非晶質シリコン層4上にn型非晶質シリコン層5を4nm製膜した。n型非晶質シリコン層5の製膜条件は基板温度が170℃、圧力60Pa、SiH4/PH3流量比が1/2、投入パワー密度が0.01W/cm-2であった。なお、本件でいうPH3ガスは、PH3濃度を5000ppmまでH2で希釈したガスを用いた。n型非晶質シリコン層5上にn型微結晶シリコン層6を6nm製膜した。n型微結晶シリコン層6の製膜条件は、基板温度が170℃、圧力800Pa、SiH4/PH3/H2流量比が1/5/180、投入パワー密度が0.08W/cm-2であった。
【0049】
次に裏面のn型微結晶シリコン層6上に、スパッタリング法により酸化亜鉛層を100nm製膜した。スパッタリングターゲットはAl23をZnOへ2%添加したものを用いた。p型非晶質シリコン層3上に酸化インジウム層8をスパッタリング法によって100nm製膜した。スパッタリングターゲットはIn23へSnを10%添加したものを用いた。
【0050】
この透明電極層7および8上にアモルファスカーボン層9を製膜した。アモルファスカーボン層の製膜はプラズマCVD法を用いた。プラズマCVD法では、基板温度を170℃、圧力120Pa、CH4/H2流量比が1/200、投入パワー密度が0.1W/cm-2として、5nmの膜厚のアモルファスカーボン層を製膜した。
【0051】
最後に、これらアモルファスカーボン層上に、銀ペーストをスクリーン印刷し、櫛形電極を形成し、集電極10とした。
【0052】
(実施例2)
アモルファスカーボン層を、単結晶シリコン基板1とi型非晶質シリコン層2および4との間に製膜した以外は実施例1と同様にして、結晶シリコン系太陽電池を作製した。
【0053】
(実施例3)
アモルファスカーボン層を、i型非晶質シリコン層2とp型非晶質シリコン層3との間に製膜した以外は実施例1と同様にして、結晶シリコン系太陽電池を作製した。
【0054】
(実施例4)
アモルファスカーボン層を、i型非晶質シリコン層4とn型非晶質シリコン層5との間に製膜した以外は実施例1と同様にして、結晶シリコン系太陽電池を作製した。
【0055】
(実施例5)
アモルファスカーボン層を、n型非晶質シリコン層5とn型微結晶シリコン層6との間に製膜した以外は実施例1と同様にして、結晶シリコン系太陽電池を作製した。
【0056】
(実施例6)
アモルファスカーボン層を、n型微結晶シリコン層6と透明電極層7との間、およびp型非晶質シリコン層3と透明電極層8との間に製膜した以外は実施例1と同様にして、結晶シリコン系太陽電池を作製した。
【0057】
(比較例1)
アモルファスカーボン層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、結晶シリコン系太陽電池を作製した。
【0058】
(比較例2)
実施例1のアモルファスカーボン層の製膜条件を下記のようにした以外は、実施例1と同様にして、結晶シリコン系太陽電池を作製した。アモルファスカーボン層の製膜はプラズマCVD法を用いた。プラズマCVD法では、基板温度を170℃、圧力120Pa、CH4ガスを100sccm、投入パワー密度が0.1W/cm-2として、70nmの膜厚のアモルファスカーボン層を製膜した。
【0059】
上記実施例及び比較例の太陽電池セルの光電変換特性を、ソーラーシミュレータを用いて評価した。上記太陽電池モジュールの短絡電流、開放電圧、曲線因子、出力、および85℃・85%RH環境下に1000時間放置したときの膜の剥離状態を目視で観察した結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
上記実施例及び比較例の結果から、アモルファスカーボン層を、例えば、シリコン層界面、シリコン層/電極層界面または電極層/集電極界面などに製膜することで、光電変換特性の低下のない、特に曲線因子の低下のない、且つ各界面での剥離が抑制された、結晶シリコン系太陽電池を作製できることがわかる。
【符号の説明】
【0062】
1.単結晶シリコン基板(n型単結晶シリコン基板)
2.i型非晶質シリコン層
3.p型非晶質シリコン層
4.i型非晶質シリコン層
5.n型非晶質シリコン層
6.n型微結晶シリコン層
7.透明電極層(酸化亜鉛層)
8.透明電極層(酸化インジウム層)
9.アモルファスカーボン層
10.集電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが200μm以下の一導電型単結晶シリコン基板を用い、前記単結晶シリコン基板の一面にp型シリコン系薄膜層を有し、前記単結晶シリコン基板と前記p型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記単結晶シリコン基板の他面にn型シリコン系薄膜層を有し、前記単結晶シリコン基板と前記n型シリコン系薄膜層の間に実質的に真正なシリコン系薄膜層を備え、前記p型およびn型シリコン系薄膜層上に導電性酸化物層を備え、さらに前記導電性酸化物層上に集電極、さらにその上に保護層を設けた結晶シリコン系太陽電池であって、
前記単結晶シリコン基板から保護層までの間の少なくとも1層に1〜20nmの膜厚のアモルファスカーボン層が設けられていることを特徴とする、結晶シリコン系太陽電池。
【請求項2】
前記アモルファスカーボンのX線光電子分光から測定されるSP3結合の割合が65%以上のダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする、請求項1に記載の結晶シリコン系太陽電池。
【請求項3】
前記アモルファスカーボンの分光エリプソメトリーから測定される500nmの波長での屈折率が1.6以上2.4以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の結晶シリコン系太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−3848(P2011−3848A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147841(P2009−147841)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】