結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びその製造方法並びにそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法
【課題】測定できる試験センサーの作成方法を提供する。試験場所を選ばず、様々な環境下で鉱物(ミネラル)や金属の結晶成長試験や結晶溶解速度測定が迅速・簡易に行なえるようにする。また、μmオーダーでの簡易な測定に適用可能とする。
【解決手段】耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シート例えばPFAテフロン(登録商標)シート1の表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子2,3を加熱下に埋め込み、必要に応じて研磨することで結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5を作成する。PFAテフロン(登録商標)シートの表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子を埋め込んで成る結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を試験前後で測定し、試験前後の表面形状の差から鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるものである。
【解決手段】耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シート例えばPFAテフロン(登録商標)シート1の表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子2,3を加熱下に埋め込み、必要に応じて研磨することで結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5を作成する。PFAテフロン(登録商標)シートの表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子を埋め込んで成る結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を試験前後で測定し、試験前後の表面形状の差から鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原位置で鉱物または金属の結晶成長・溶解速度を測定する結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びその製造方法並びにそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば200℃程度の高温環境下における鉱物または金属の結晶成長・溶解速度を測定するのに好適な方法並びにそれに用いる結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びその製造方法並びにそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国のように、地下浅所で比較的温度の高い地域では、地下に注入したCO2と岩盤との反応が速く、CO2が炭酸塩鉱物(方解石)として固定される可能性がある。そこで、地球温暖化の主な原因とされる二酸化炭素(CO2 )を地下に封じ込める方法の一つとして、本件特許出願人は、高温の地下環境を利用し、岩盤中でCO2 を鉱物固定することを提案している(非特許文献1)。非特許文献1記載の研究では、深さ1000m程度、温度200℃程度の条件下にCO2 溶解水を注入することにより、花崗岩質岩盤とCO2 とが短時間(1日程度)で反応し、岩盤中からCaイオンが溶け出すこと、及びこのような条件下で方解石は結晶成長する場合があることが示された。さらに、今後の課題として、方解石の結晶成長条件を確認すること、および方解石の結晶成長により岩盤中の空隙が閉塞され、透水性が低下するかどうかを確認することが重要であることが確認された(非特許文献2)。鉱物の生成により岩盤の透水性が変化する可能性もある。しかし、このような検討は室内実験レベルでは行われているが、実際に現場で検証された例はなく、実用化の上でも原位置測定の必要がある。
【0003】
従来の原位置結晶成長試験法は、試験対象となる鉱物の表面に金被膜を貼り、金被膜が張られた部分とその周囲との間での変化を測定するようにしている(非特許文献2)。例えば、地熱地域の岩盤中における方解石の結晶成長あるいは溶解速度を測定するには、3〜4mmに成形した方解石の表面に金被膜を張り付けたものを用意し、これを地化学サンプラーの内部に収容し、井戸から対象岩盤中に降ろして試験を行うようにしている。
【0004】
金被膜で覆った部分は、方解石と反応しないので、方解石の露出した面と金被膜に覆われた面との間で方解石の結晶成長あるいは溶解速度において差異が生じ、結晶成長あるいは溶解速度一様とならずに段差を生ずる。そこで、方解石の表面形状を試験の前後で測定して、金被膜で覆われた面を基準面として段差即ち表面形状の差を求めることにより、方解石の結晶成長あるいは溶解速度を測定するようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】海江田秀志,窪田健二,伊藤久敏,大隅多加志,若浜 洋,三戸彩絵子著「雄勝高温岩体への二酸化炭素注入による鉱物化固定に関する原位置実験」電力中央研究所研究報告:N08051,22p.2009
【0006】
【非特許文献2】上田 晃,黒田佳宏,山田達也,加藤耕一,矢島達哉,佐藤久夫,杉山和稔,小澤晃子,小田島吉次,海江田秀志,伊藤久敏,窪田健二,戸高法文,阿島秀司,佐藤龍也,鍜治義和,大隅多加志,若濱 洋,三戸彩絵子著 「ジオリアクターによるCO2固定化試験:雄勝高温岩体での原位置試験」岩石鉱物科学38,220-231,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金被膜は方解石にシリコン接着剤で貼り付けているだけなので、容器内に収容しないで外に剥き出しで配置すればCO2 溶解水や地下水などの流れに剥離されてまう虞がある。したがって、専用の容器に収納してから使うしかない。そこで、従来の結晶成長試験法は、地化学サンプラーに試験センサー即ち方解石に金被膜を貼ったものを収容してから設置するため、測定できる場所に制限がある。また、nmオーダーでの結晶成長・溶解速度の測定であるため、精密結晶成長試験や精密結晶溶解速度測定に向いているが、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定には不向きである。したがって、nmオーダーで起こる現象がμmレベルで同じなのかどうかを判断することができない問題がある。しかも、CO2 を炭酸塩鉱物(方解石)として固定する場合に、実際に効果がでるのはmmオーダーであることから、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定が行える試験センサーシートの開発が望まれている。
【0008】
本発明は、様々な環境下で結晶成長試験や結晶溶解速度測定が行なえるようにする結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びその製造方法並びにそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法を提供することを目的とする。また、本発明は、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定が行えるようにする結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びその製造方法並びにそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために請求項1記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子を埋め込んで成るようにしている。
【0010】
ここで、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーには、鉱物又は金属の粒子と共に参照用のジルコン粒子を埋め込んでいることが好ましい。また、樹脂シートとしてはフッ素樹脂、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)の使用が好ましく、中でもPTFE、PFA、FEPのいずれかの使用がより好ましい。
【0011】
また、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、樹脂シートの表面並びに樹脂シートに埋め込まれて固定された粒子の表面が研磨され、樹脂シートと前記粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にしたものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に、鉱物又は金属の粒子を加熱下に埋め込み、樹脂シートを冷却して鉱物又は金属の粒子を前記樹脂シートに固定させるようにして製造されている。
【0013】
また、本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、樹脂シートの粒子を埋め込んだ側の面を研磨し、樹脂シートと鉱物又は金属の粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にするようにして製造されている。
【0014】
また、本発明の原位置結晶成長・溶解速度測定法は、請求項1,3,4のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、その差から鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるようにしている。
【0015】
さらには、本発明の原位置結晶成長・溶解速度測定法は、請求項2,3,4のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、ジルコン粒子と樹脂シートとの試験前後の段差から樹脂シートの溶解量を求め、鉱物または金属の粒子と樹脂シートとの段差の値から樹脂シートの溶解量を差し引くことにより、鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるようにしている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーによると、試験対象となる鉱物又は金属の粒子が耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートに埋め込まれることによって固定され、樹脂シート表面の粒子が露出していることから、地化学サンプラーのような専用の容器に収納してから使うこともできるが、容器内に収容しないで外に剥き出しで配置して使用する場合にもCO2 溶解水や地下水などの液体の流れに鉱物又は金属の粒子が剥離される虞がない。したがって、測定する場所に制限を受けない。
【0017】
また、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの試験前後における表面形状を求め、試験前後における樹脂シートの表面と鉱物の表面との間の段差を測定し、その差分値から鉱物の結晶成長や金属の溶解速度を求めるようにしているので、最適な測定レンジは数μm〜数10μmである。したがって、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定に使用することができ、nmオーダーで起こる現象がμmレベルで同じなのかどうかを判断することができる。このことは、例えばmmオーダーで実際に効果がでるCO2 を炭酸塩鉱物(方解石)として固定する場合の簡易な結晶成長試験や金属溶解速度測定への使用において有用である。また、試験対象となるのは鉱物に限らず、粒径100〜500μm程度の固体であれば鉱物以外の物質でも対象とすることができ、例えば金属でも適用可能であり、金属粒子の場合にはその溶解現象や金属の表面に付着する物質の成長現象を観察・測定することも可能である。これにより、配管の目詰まりや金属の腐食を早期に評価することにも適用可能である。つまり、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、溶解現象を把握する全ての分野で使えることができ、また結晶成長を観察する際の結晶の種として使うことができるものである。
【0018】
また、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートを基板として試験対象となる鉱物又は金属の粒子を埋め込むようにして固定しているため、比較的高温下、例えばフッ素樹脂を基板として用いる場合には200℃以下の様々な環境で適用可能である。しかも、耐熱性シリコンテープを用い、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に貼り付けることにより、適用範囲を拡げることができる。また、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは平らな面の状態で試験する必要があるため、試験場所に合わせ、現場で樹脂シートの形状をカッターナイフ等で切ることで自由に変更することが可能であり、適用範囲を拡げることができる。
【0019】
また、鉱物又は金属の粒子と共に参照用のジルコン粒子を埋め込んだ結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの場合、各粒子を保持する基板としての樹脂シートが溶解の虞のある使用環境下において使用したとしても、ジルコン粒子が基準面となるため、樹脂シートの溶解量を求めて鉱物または金属の粒子の結晶成長量や溶解量などを較正することができる。例えば、200℃程度の高温、強アルカリ等の条件では、テフロン(登録商標)自体が溶解する場合があるので、例えばジルコンに例示される耐熱・耐薬品性にすぐれた鉱物を参照用として樹脂シートに埋め込むことにより、樹脂シートの溶解量を測定し、その値を鉱物又は金属の粒子と樹脂シートとの間の段差から差し引くことにより、より精度の高い測定を行なうことができる。
【0020】
また、樹脂シートとして、PTEE、PFA、FEPのいずれかのフッ素樹脂を使用する場合には、例えば200℃程度の高温、アルカリあるいは酸性下の使用条件でも、使用することができる。しかも、200℃程度までは耐えるが、250℃〜300℃に加熱すると、表面が少し溶解して鉱物を埋め込むことができる。そして、温度が下がると、粒子を保持して固定できる。
【0021】
また、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、鉱物又は金属の粒子、更には必要に応じて参照用のジルコン粒子を埋め込んだ側の面を研磨していなくとも、試験前後のシート表面形状の変化を見ることはできる。本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法は、粒子と樹脂シートとの間の段差だけを測ろうとするものではなく、結晶の表面がどう変化するかを観察し、測定するものである。したがって、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの粒子を埋め込んだ側の面の研磨は必須要件ではない。しかしながら、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、鉱物又は金属の粒子、更には必要に応じて参照用のジルコン粒子を埋め込んだ側の面を研磨している場合には、樹脂シート面もそこに埋め込まれている粒子の面も平らな面となるため、いずれの面で基準面として設定し易く、測定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの一例を示す平面図である。
【図2】本発明の原位置結晶成長・溶解速度測定法を実施する雄勝実験場の概要を示す概念図である。
【図3】方解石の実験前画像である。
【図4】石英の実験前画像である。
【図5】地化学サンプラーに入れた試験片(結晶成長・溶解速度試験用試験センサー)を示す。
【図6】地化学サンプラーに入れた試験片(サンプラー内に入った状況)を示す画像である。
【図7】地化学サンプラーの外に試験片をセットした状況を示す画像である。
【図8】地化学サンプラー内にセットした方解石の実験前後の形状を示す画像である。
【図9】地化学サンプラー内にセットした方解石の実験前後の3D画像である。
【図10】地化学サンプラー内にセットした石英の実験前後の形状を示す画像である。
【図11】地化学サンプラー内にセットした石英の実験前後の3D画像である。
【図12】地化学サンプラー外にセットした方解石の実験前後の形状を示す画像である。
【図13】地化学サンプラー外にセットした石英の実験前後の形状を示す画像である。
【図14】ジルコンの実験前後の形状を示す画像である。
【図15】方解石Aの実験前後の形状を示す画像である。
【図16】方解石Bの実験前後の形状を示す画像である。
【図17】方解石Aの実験後の形状(対物レンズ100倍)の画像である。
【図18】方解石Bの実験後の形状(対物レンズ100倍)の画像である。
【図19】石英の実験前後の形状(対物レンズ100倍)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1に、本発明の原位置結晶成長・溶解速度測定法に用いる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの実施形態の一例を示す。尚、本実施形態では、主に方解石・鉱物の結晶成長(溶解を含む)を測定するために用いていることからミネラルセンサーとも呼べるが、金属の表面に付着した物質の結晶成長や金属そのものの溶解も観察することができることから固体センサーとも呼べるものである。
【0025】
この結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、図1に示すように、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シート1の表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子2,3を埋め込んで成る。試験対象となるのは鉱物に限らず、粒径100〜500μm程度の固体であれば鉱物以外の物質でも対象とすることができ、例えば金属でも適用可能であり、金属粒子の場合にはその溶解現象や金属の表面に付着する物質の成長現象を観察・測定することも可能である。本実施形態における結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、高温岩盤地熱発電プラントの坑井内にCO2 溶解水を注入することで、坑井内の高温地下環境下で炭酸塩(方解石)が結晶成長するかどうかについて検討を行なう試験のためのものであり、試験対象としての鉱物として、方解石2と石英3とを2粒ずつ埋め込んでいる。また、試験対象となる粒子2,3と共に参照用の耐熱・耐薬品性にすぐれた鉱物例えば50μm程度のジルコン粒子4を同様に2粒ずつ埋め込んでいる。尚、本実施形態の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、坑井内に挿入される地化学サンプラーの内部あるいは外部に取り付けられて使用されるため、10mm×10mm(あるいは直径10mmの円)×1mm程度に成形しているが、この寸法に特に限定されるものではなく、試験の目的や条件などに応じて適宜選定されるものである。また、参照用の鉱物粒子即ちジルコン粒子4は、樹脂シート1のフッ素樹脂が溶解する虞のある環境下、例えば200℃程度の高温下で尚かつ強アルカリ等の条件下での試験においては精度の高い測定を行うには必要であるが、特にフッ素樹脂が溶解する虞のない環境下での試験においては不要である。
【0026】
ここで、樹脂シートとしてはフッ素樹脂、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)の使用が好ましく、中でもPTFE、PFA、FEPのいずれかの使用が好ましく、特にPFAの使用がより好ましい。これらフッ素樹脂は、耐薬品性、耐熱性に優れ、原位置結晶成長試験特に高温岩盤中での鉱物結晶成長あるいは溶解速度を測定するのに好適である。
【0027】
本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5を用いた、原位置結晶成長・溶解速度測定法は、樹脂シートの表面に露出した鉱物の粒子を種として成長する結晶の成長の様子や鉱物の溶解の状況を観察・測定するものであるため、結晶の表面がどう変化するかを測定することが主となる。また、金属粒子の場合にはその溶解現象や金属の表面に付着する物質の成長現象を観察・測定することである。そこで、試験前後のシート表面形状の変化を見ることができれば十分である。したがって、樹脂シート並びに粒子の表面は必ずしも研磨していなくとも観察・測定することはできる。しかしながら、鉱物等の粒子を樹脂シートに固定した状態で樹脂シートの表面を研磨し、樹脂シートと鉱物又は金属の粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にしたものであることが好ましい。この場合には、樹脂シートと粒子との段差を精度良く測定することができるので、結晶等の成長・溶解をより精密に測定することが可能となる。
【0028】
以上のように構成される結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に、鉱物又は金属の粒子を加熱下に埋め込み、樹脂シートを冷却して鉱物又は金属の粒子を前記樹脂シートに固定させるようにして製造されている。樹脂シートの溶融温度付近の熱をかけて、樹脂シートの表面を僅かに溶解させた状態で適宜大きさ例えば粒径100〜500μm程度の鉱物又は金属の粒子を埋め込み、常温まで放置ないし冷却して埋め込んだ粒子を樹脂シートに固定することによって製造されている。例えば、樹脂シートとしてPFAを採用する場合、PFAは200℃程度までは耐えるが、250℃〜300℃に加熱すると、表面が少し溶解して鉱物を埋め込むことができる。そして、温度が下がると、粒子を保持して固定できる。
【0029】
また、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、粒子を埋め込んだ樹脂シートの表面が固化した後、あるいは検査の直前に、樹脂シートの粒子を埋め込んだ側の面を研磨し、樹脂シートと鉱物又は金属の粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にすることが高精度の測定を行なう上で好ましい。研磨は、例えばダイヤモンドペーストを用いて行う。より具体的には、研磨盤のような平らな台の上に置いた耐水研磨紙の上に水滴を垂らし、濡れた状態で試験センサーシートを数回軽く研磨した後、さらに、光学顕微鏡で粒子全体が研磨されていることを確認した後、回転式の研磨台でダイヤモンドペーストを用いた仕上げ研磨を行なう。研磨は、研磨紙により生じた傷が消えるまで、光学顕微鏡で確認しながら行う。研磨後、試料の汚れをエタノールでふき取るとともに、必要に応じて水道水を用いた超音波洗浄を行う。
【0030】
以上のようにして製造された結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いることにより、次のようにして原位置結晶成長・溶解速度測定法を実施できる。例えば、試験対象となる鉱物または金属の粒子のみを固定した結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いる場合、同試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、その差から鉱物又は金属の結晶成長量(速度)もしくは溶解量(速度)を求める。
【0031】
また、試験対象となる鉱物または金属の粒子と共に参照用鉱物例えばジルコン粒子を固定した結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いる場合、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、ジルコン粒子と樹脂シートとの試験前後の段差から樹脂シートの溶解量を求め、鉱物または金属の粒子と樹脂シートとの段差の値から樹脂シートの溶解量を差し引くことにより、鉱物又は金属の結晶成長量(速度)もしくは溶解量(速度)を求めることができる。
【0032】
尚、この原位置結晶成長・溶解速度測定法は、200℃以下の様々な環境で適用可能である。結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの試験位置への配置は、例えば耐熱性シリコンテープを用い、必要とされる試験場所に貼り付けることにより、適用範囲を拡げることができる。また、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーはフラットな状態で試験する必要があるため、樹脂シートの形状をカッターナイフ等で試験場所に合わせ変更することにより、適用範囲を拡げることができる。
【0033】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、樹脂シートは各粒子と共に露出するように設けられているが、場合によってはテフロン(登録商標)の表面に粒子を埋め込んだ後に金被膜を蒸着などで覆って、粒子部分だけを剥がして露出させるようにしても良い。この場合、各粒子の回りは金被膜で覆われているので、各粒子部分でのみ結晶成長あるいは溶解が起こるので、測定精度が上がる。また、樹脂シート自体の変化が起こり得ない環境下での試験には、耐熱性・耐薬品性にすぐれた鉱物例えばジルコンを参照用として必ずしも用いることはない。
【実施例1】
【0034】
本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いて、高温岩盤地熱発電プラントの坑井内にCO2 溶解水を注入することで、坑井内の高温地下環境下で炭酸塩(方解石)の結晶成長を追試することを目的に、坑井(秋田県湯沢市にある財団法人電力中央研究所の雄勝実験場のOGC-2井)を用いた原位置実験を実施した。図2に雄勝実験場の概要と本実験の概念を示す。本実験は、雄勝実験場にある3本の坑井のうち、OGC-2 井を用いた。OGC-2井は掘削深度1100mであり、深度700〜1100mが裸孔である。深度307m以深でマイロナイト化した花崗閃緑岩が分布する。深度700mに上部貯留層、1100mに下部貯留層が存在する。
【0035】
(非研磨試験センサーを使用した結晶成長試験)
ジルコン粒子4を含まない結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いて原位置試験を行った。尚、本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、地化学サンプラーの内側と外側とに設置して原位置実験を行った。
【0036】
(試験センサーの作成)
方解石および石英の結晶を先の尖った金属性の棒で粉砕し、径300μm 程度のものを選別し、実験用試料とした。なお、石英は風化や変質には強いが、地熱井ではシリカスケールとして晶出することがある。今回の実験により、方解石以外に石英が晶出する可能性があるかどうかを検討するために実験に使用した。
径300μm 程度の大きさに粉砕した方解石と同程度の粒径の石英の各2個を、実体顕微鏡下で大型石英ガラスの上に並べ、それを300℃程度に加熱したホットプレート上に置き、その上にPFAテフロン(登録商標)シートと石英ガラスをこの順で被せ、ピンセットで石英ガラスを押さえつけることにより、PFAテフロン(登録商標)シートに鉱物粒を埋め込んだ結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを作成した。また、PFAテフロン(登録商標)シートとしては、10mm×10mm×1mmの、石英ガラスとしては(大:60mm×60mm×1mm、小:42mm×28mm×1mm)の大きさのものを用いた。
【0037】
(実験前形状測定)
共焦点レーザー顕微鏡(キーエンス製VK-8500)により、実験前の結晶表面形状を取得した。
測定結果の表示・解析には三谷商事製の解析ソフト(商品名:Virtual View 3D Ver. 2.5 )を使用した。
取得した画像の例を以下に示す。図3は、方解石の画像である。この図では、右下の「2DView」内の2 つの画像のうち左側の白線が計測ラインを示している。そのラインに沿った計測データは、「評価ライン」に断面データとして示される。「評価ライン」の断面データのうち、C ラインとD ラインの差が、方解石の表面とテフロン(登録商標)の表面の段差であり、その値は「ライン測定データ」に[C-D]:80.1851μm と表示されている。従って、段差は80.2μm である。図4に石英の画像を示す。石英の表面とテフロン(登録商標)の表面の段差は73.8μm である。
【0038】
(原位置実験)
雄勝実験場のOGC-2 井の950mに地化学サンプラーをセットし、結晶成長試験と採水を行なった。
尚、図5に地化学サンプラーに入れた試験センサー(実験終了直後)を、図6に地化学サンプラーに試料をセットした状況を示す。また、図7に地化学サンプラーの外にセットした試料の状況を示す。この試料は、地化学サンプラーの連結部にシリコンテープで試料を貼り付けた。
【0039】
(実験結果)
図8に地化学サンプラー内にセットした方解石の実験前後の形状を示す。実験前の方解石とテフロン(登録商標)との段差は80.2μmで実験後には79.7μmとなった。従って、測定データは、方解石が0.5μm溶解していることを示している。なお、図9に地化学サンプラー内にセットした方解石の実験前後の3D 画像を示すが、方解石に変化は見られない。場所を変えた測定では、2.7μm、1.0μm溶解している(表1)。測定データからは、方解石が平均で1.4μm溶解しており、後述の研磨試験センサーを使用した結晶成長試験から、テフロン(登録商標)面が溶解により、2μm 低下したとして、方解石が3.4μm溶解した可能性が考えられる。
【表1】
図10に地化学サンプラー内にセットした石英の実験前後の形状を示す。測定データからは、石英が0.9μm 成長している。図11 に地化学サンプラー内にセットした石英の実験前後の3D 画像を示すが、石英に変化は見られない。3回の測定で、石英は平均で3μm の成長を示す(表1)。測定データからは、石英が3μm成長しているが、テフロン(登録商標)シートの基準面が2μm低下したとして、石英は1μm成長した可能性が考えられる。
図12に地化学サンプラーの外にセットした方解石の実験前後の形状を示す。3箇所の測定で平均では1.4μmの成長となり、テフロン(登録商標)シートの基準面が2μm低下したとして、0.6μm溶解した可能性がある(表1)。
図13に地化学サンプラーの外にセットした石英の実験前後の形状を示す。この例では、石英面がテフロン(登録商標)面よりも下にあるので、段差はマイナスで表示している。3箇所の測定で、成長量は平均−2.1μmであるが、テフロン(登録商標)シートの基準面が2μm低下したとして、4.1μm溶解したと判断する(表1)。
【0040】
(研磨試験センサーを使用した結晶成長試験)
図1に示す結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いた原位置試験を行った。尚、本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、地化学サンプラーの外側や検層器のケーブル等に直接試験センサーを貼り付けた状態で結晶成長試験が可能であるが、この原位置実験では地化学サンプラー内に試験センサーを入れて行った。また、この実験においては、テフロン(登録商標)が溶解し、基準面が低下することが考えられたので、方解石、石英に加え、ジルコンも使用した。
【0041】
(試験センサーの作成)
結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの作成方法については、ジルコン粒子を加える点と研磨を施す点を除いて上述した通りである。なお、ジルコンは極めて安定な鉱物であり、今回の実験を通して、結晶成長や溶解が絶対に生じない鉱物である。今回用いたジルコンは、財団法人電力中央研究所がフィッション・トラック年代測定用に保管しているものであり、径300μm程度のものを選別し、実験用試料とした。石英は雄勝実験場周辺に分布するデイサイト質凝灰岩中の石英であり、径300μm程度のものを選別し、実験用試料とした。方解石は前述の非研磨試験センサーに使用したものと同じものを使用した。これらの3種類の鉱物を各2粒、1枚のPFAテフロン(登録商標)シートに埋め込み、それを2セット準備した。
方解石とジルコンと石英の各2個を、PFAテフロン(登録商標)シートに埋め込んで固定した試料の研磨は以下のように実施した。
まず、平らな台の上に置いた耐水研磨紙(#1200)の上に水滴を垂らし、濡れた状態で試験センサーシートを数回軽く研磨した。さらに、光学顕微鏡(Nikon OPTIPHO)で落射光を用い、粒子全体が研磨されていることを確認後、回転式の研磨台でダイヤモンドペースト(6μm)を用いた仕上げ研磨を行なった。研磨は、研磨紙により生じた傷が消えるまで、光学顕微鏡(落射光)で確認しながら実施した。研磨後、試料の汚れをエタノールでふき取るとともに、水道水を用いた超音波洗浄を行なった。そして、方解石と石英を各1粒埋め込んだPFAテフロン(登録商標)シートを2枚作成し、実験に使用した。
【0042】
(実験前形状測定)
研磨後の試料に対し、共焦点レーザー顕微鏡(キーエンス製VK-8500)により、実験前の表面形状を取得した。なお、今回は、三谷商事製の解析ソフト(商品名:Virtual View 3D Ver.2.5 )で読み込んだデータに対し、さらに三谷商事製の解析ソフト(商品名:WinROOF Ver.5.5.0 )を用い、測定結果を表示・解析した。
【0043】
(原位置実験)
実験は、地化学サンプラーをOGC-2 の深度950mにセットして行った。
(実験結果)
図14にジルコンの実験前後の形状を示す。中央の計測断面図より、実験前にはジルコン面はテフロン(登録商標)面より下にあるが、実験後にはテフロン(登録商標)面より上になっている。ジルコンは不変であるので、これは、テフロン(登録商標)が溶解したことを示す。4箇所の測定の平均として(表2)、テフロン(登録商標)は2.3μm溶解した結果となった。なお、計測ラインDの結果は、ジルコンの上部での計測結果であるが、ジルコンの下部では、テフロン(登録商標)面との段差は見られない。また、計測ラインDの実験後のジルコンは2μm程度傾いているように見える。これらの不確かさを考慮し、ここではテフロン(登録商標)は2μm溶解したとして議論する。
【表2】
図15に方解石(方解石Aとする)の実験前後の形状を示す。なお、この方解石は対物レンズ50倍で取得したデータである。5箇所で測定したが、計測ラインBとCは、図15の右側の計測断面図から分るように、実験後に部分的に結晶成長したものと判断できるので、これらのデータを除いた3つの平均として、0.1μm溶解した結果となった。ここで、テフロン(登録商標)面の2μmの溶解を考慮に入れると、2.1μm溶解したと判断する。
図16に別の方解石(方解石Bとする)の実験前後の形状を示す。この方解石のデータは20倍の対物レンズで取得した。この図の左側の計測断面図から、実験後のテフロン(登録商標)が少し撓み(凸状になり)、方解石が左側に少し傾斜していることが分る。このような点は、計測には支障となるが、4箇所の測定データは概ね揃っており、平均で2.1μm成長した結果となった。ここで、テフロン(登録商標)面の2μmの溶解を考慮に入れ、0.1μm成長となるが、誤差を考慮し、変化なしと判断する。
以上のことから、2つの方解石A,Bの平均として、1μm程度方解石が溶解した可能性が考えられる。
次に、100倍の対物レンズで実験後の方解石の形状データを取得した結果を図17、図18に示す。
図17 は対物レンズ100倍で取得した方解石Aの実験後の形状を示す。方解石の表面に成長丘と思われるものがほぼ一様に分布している。図で示した成長丘の高さは0.6μm、幅は4.2μmであり、その他の成長丘も概ね同様の大きさを示す。すなわち、この方解石は結晶が成長中であったことを示すと思われる。
図18は対物レンズ100倍で取得した方解石Bの実験後の形状を示す。方解石の表面にエッチピットと思われるものがほぼ一様に分布している。図で示したエッチピットの深さは0.4μm、幅は3.3μmであり、その他のエッチピットも概ね同様の大きさを示す。すなわち、この方解石は結晶が溶解中であったことを示すと思われる。
図19に石英の実験前後の形状(対物レンズ50倍)を示す。実験前は、石英とテフロン(登録商標)の表面は同じ高さに揃っており(段差は0.0μm)、しかも全体にフラットである。これは、研磨により、品質の良い試料作成が出来たことを示す。実験後の段差は、3回の平均で0.7μmとなった。テフロン(登録商標)が2μm溶解したとすると、石英は1.3μm溶解したことを示す。
【0044】
(実験結果)
1.非研磨試験センサーを使用した結晶成長試験では、地化学サンプラーの内と外に試料をセットし、方解石と石英について実験を行なった。その結果、方解石はサンプラーの内外ともにわずかに(数μm以下)溶解した。
2.研磨試験センサーを使用した結晶成長試験では、ジルコン、方解石、石英について、地化学サンプラー内に試料をセットした実験を行なった。試料を研磨したこととジルコンを同時に埋め込んだことから、より品質の良い(高精度で測定しやすく、データの信頼性が高い)条件で実験を行なうことができた。ジルコンの結果から、テフロン(登録商標)が2μm 程度溶解することが分ったため、その分を考慮すると、方解石、石英ともに1μm程度溶解した結果が得られた。なお、方解石の表面を高倍率で観察した結果、2個の方解石のうち、一方には成長丘が、他方にはエッチピットが認められた。成長丘は成長を示す現象であるが、この方解石(方解石C1)も段差測定では溶解を示している。このことは、実験環境が化学的平衡に近い状態であったことを示していると考えられる。
3.非研磨試験センサーを使用した結晶成長試験では、地化学サンプラーの外側でも内側と同様に結晶成長試験が可能であることを示している。これは大きなメリットであり、例えば、坑井の深度を変えて、同時に多数の試料を用いた実験を行なうことなどが可能である。また、本手法では、実験後に鉱物と基準面との段差が10μm以上になるような実験条件とすることで、測定精度が向上し、より信頼性の高いデータの取得が期待できることが判明した。
以上のことから、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法によれば、様々な環境下で結晶成長試験や結晶溶解速度測定が行なえることが明らかである。また、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法によれば、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定に適用できることが判明した。
【符号の説明】
【0045】
1 樹脂シート
2 試験対象たる方解石
3 試験対象たる石英
4 参照用鉱物たるジルコン
5 結晶成長・溶解速度試験用試験センサー
【技術分野】
【0001】
本発明は、原位置で鉱物または金属の結晶成長・溶解速度を測定する結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びその製造方法並びにそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法に関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば200℃程度の高温環境下における鉱物または金属の結晶成長・溶解速度を測定するのに好適な方法並びにそれに用いる結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びその製造方法並びにそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国のように、地下浅所で比較的温度の高い地域では、地下に注入したCO2と岩盤との反応が速く、CO2が炭酸塩鉱物(方解石)として固定される可能性がある。そこで、地球温暖化の主な原因とされる二酸化炭素(CO2 )を地下に封じ込める方法の一つとして、本件特許出願人は、高温の地下環境を利用し、岩盤中でCO2 を鉱物固定することを提案している(非特許文献1)。非特許文献1記載の研究では、深さ1000m程度、温度200℃程度の条件下にCO2 溶解水を注入することにより、花崗岩質岩盤とCO2 とが短時間(1日程度)で反応し、岩盤中からCaイオンが溶け出すこと、及びこのような条件下で方解石は結晶成長する場合があることが示された。さらに、今後の課題として、方解石の結晶成長条件を確認すること、および方解石の結晶成長により岩盤中の空隙が閉塞され、透水性が低下するかどうかを確認することが重要であることが確認された(非特許文献2)。鉱物の生成により岩盤の透水性が変化する可能性もある。しかし、このような検討は室内実験レベルでは行われているが、実際に現場で検証された例はなく、実用化の上でも原位置測定の必要がある。
【0003】
従来の原位置結晶成長試験法は、試験対象となる鉱物の表面に金被膜を貼り、金被膜が張られた部分とその周囲との間での変化を測定するようにしている(非特許文献2)。例えば、地熱地域の岩盤中における方解石の結晶成長あるいは溶解速度を測定するには、3〜4mmに成形した方解石の表面に金被膜を張り付けたものを用意し、これを地化学サンプラーの内部に収容し、井戸から対象岩盤中に降ろして試験を行うようにしている。
【0004】
金被膜で覆った部分は、方解石と反応しないので、方解石の露出した面と金被膜に覆われた面との間で方解石の結晶成長あるいは溶解速度において差異が生じ、結晶成長あるいは溶解速度一様とならずに段差を生ずる。そこで、方解石の表面形状を試験の前後で測定して、金被膜で覆われた面を基準面として段差即ち表面形状の差を求めることにより、方解石の結晶成長あるいは溶解速度を測定するようにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】海江田秀志,窪田健二,伊藤久敏,大隅多加志,若浜 洋,三戸彩絵子著「雄勝高温岩体への二酸化炭素注入による鉱物化固定に関する原位置実験」電力中央研究所研究報告:N08051,22p.2009
【0006】
【非特許文献2】上田 晃,黒田佳宏,山田達也,加藤耕一,矢島達哉,佐藤久夫,杉山和稔,小澤晃子,小田島吉次,海江田秀志,伊藤久敏,窪田健二,戸高法文,阿島秀司,佐藤龍也,鍜治義和,大隅多加志,若濱 洋,三戸彩絵子著 「ジオリアクターによるCO2固定化試験:雄勝高温岩体での原位置試験」岩石鉱物科学38,220-231,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金被膜は方解石にシリコン接着剤で貼り付けているだけなので、容器内に収容しないで外に剥き出しで配置すればCO2 溶解水や地下水などの流れに剥離されてまう虞がある。したがって、専用の容器に収納してから使うしかない。そこで、従来の結晶成長試験法は、地化学サンプラーに試験センサー即ち方解石に金被膜を貼ったものを収容してから設置するため、測定できる場所に制限がある。また、nmオーダーでの結晶成長・溶解速度の測定であるため、精密結晶成長試験や精密結晶溶解速度測定に向いているが、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定には不向きである。したがって、nmオーダーで起こる現象がμmレベルで同じなのかどうかを判断することができない問題がある。しかも、CO2 を炭酸塩鉱物(方解石)として固定する場合に、実際に効果がでるのはmmオーダーであることから、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定が行える試験センサーシートの開発が望まれている。
【0008】
本発明は、様々な環境下で結晶成長試験や結晶溶解速度測定が行なえるようにする結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びその製造方法並びにそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法を提供することを目的とする。また、本発明は、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定が行えるようにする結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びその製造方法並びにそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために請求項1記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子を埋め込んで成るようにしている。
【0010】
ここで、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーには、鉱物又は金属の粒子と共に参照用のジルコン粒子を埋め込んでいることが好ましい。また、樹脂シートとしてはフッ素樹脂、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)の使用が好ましく、中でもPTFE、PFA、FEPのいずれかの使用がより好ましい。
【0011】
また、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、樹脂シートの表面並びに樹脂シートに埋め込まれて固定された粒子の表面が研磨され、樹脂シートと前記粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にしたものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に、鉱物又は金属の粒子を加熱下に埋め込み、樹脂シートを冷却して鉱物又は金属の粒子を前記樹脂シートに固定させるようにして製造されている。
【0013】
また、本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、樹脂シートの粒子を埋め込んだ側の面を研磨し、樹脂シートと鉱物又は金属の粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にするようにして製造されている。
【0014】
また、本発明の原位置結晶成長・溶解速度測定法は、請求項1,3,4のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、その差から鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるようにしている。
【0015】
さらには、本発明の原位置結晶成長・溶解速度測定法は、請求項2,3,4のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、ジルコン粒子と樹脂シートとの試験前後の段差から樹脂シートの溶解量を求め、鉱物または金属の粒子と樹脂シートとの段差の値から樹脂シートの溶解量を差し引くことにより、鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるようにしている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーによると、試験対象となる鉱物又は金属の粒子が耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートに埋め込まれることによって固定され、樹脂シート表面の粒子が露出していることから、地化学サンプラーのような専用の容器に収納してから使うこともできるが、容器内に収容しないで外に剥き出しで配置して使用する場合にもCO2 溶解水や地下水などの液体の流れに鉱物又は金属の粒子が剥離される虞がない。したがって、測定する場所に制限を受けない。
【0017】
また、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの試験前後における表面形状を求め、試験前後における樹脂シートの表面と鉱物の表面との間の段差を測定し、その差分値から鉱物の結晶成長や金属の溶解速度を求めるようにしているので、最適な測定レンジは数μm〜数10μmである。したがって、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定に使用することができ、nmオーダーで起こる現象がμmレベルで同じなのかどうかを判断することができる。このことは、例えばmmオーダーで実際に効果がでるCO2 を炭酸塩鉱物(方解石)として固定する場合の簡易な結晶成長試験や金属溶解速度測定への使用において有用である。また、試験対象となるのは鉱物に限らず、粒径100〜500μm程度の固体であれば鉱物以外の物質でも対象とすることができ、例えば金属でも適用可能であり、金属粒子の場合にはその溶解現象や金属の表面に付着する物質の成長現象を観察・測定することも可能である。これにより、配管の目詰まりや金属の腐食を早期に評価することにも適用可能である。つまり、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、溶解現象を把握する全ての分野で使えることができ、また結晶成長を観察する際の結晶の種として使うことができるものである。
【0018】
また、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートを基板として試験対象となる鉱物又は金属の粒子を埋め込むようにして固定しているため、比較的高温下、例えばフッ素樹脂を基板として用いる場合には200℃以下の様々な環境で適用可能である。しかも、耐熱性シリコンテープを用い、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に貼り付けることにより、適用範囲を拡げることができる。また、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは平らな面の状態で試験する必要があるため、試験場所に合わせ、現場で樹脂シートの形状をカッターナイフ等で切ることで自由に変更することが可能であり、適用範囲を拡げることができる。
【0019】
また、鉱物又は金属の粒子と共に参照用のジルコン粒子を埋め込んだ結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの場合、各粒子を保持する基板としての樹脂シートが溶解の虞のある使用環境下において使用したとしても、ジルコン粒子が基準面となるため、樹脂シートの溶解量を求めて鉱物または金属の粒子の結晶成長量や溶解量などを較正することができる。例えば、200℃程度の高温、強アルカリ等の条件では、テフロン(登録商標)自体が溶解する場合があるので、例えばジルコンに例示される耐熱・耐薬品性にすぐれた鉱物を参照用として樹脂シートに埋め込むことにより、樹脂シートの溶解量を測定し、その値を鉱物又は金属の粒子と樹脂シートとの間の段差から差し引くことにより、より精度の高い測定を行なうことができる。
【0020】
また、樹脂シートとして、PTEE、PFA、FEPのいずれかのフッ素樹脂を使用する場合には、例えば200℃程度の高温、アルカリあるいは酸性下の使用条件でも、使用することができる。しかも、200℃程度までは耐えるが、250℃〜300℃に加熱すると、表面が少し溶解して鉱物を埋め込むことができる。そして、温度が下がると、粒子を保持して固定できる。
【0021】
また、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、鉱物又は金属の粒子、更には必要に応じて参照用のジルコン粒子を埋め込んだ側の面を研磨していなくとも、試験前後のシート表面形状の変化を見ることはできる。本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法は、粒子と樹脂シートとの間の段差だけを測ろうとするものではなく、結晶の表面がどう変化するかを観察し、測定するものである。したがって、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの粒子を埋め込んだ側の面の研磨は必須要件ではない。しかしながら、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、鉱物又は金属の粒子、更には必要に応じて参照用のジルコン粒子を埋め込んだ側の面を研磨している場合には、樹脂シート面もそこに埋め込まれている粒子の面も平らな面となるため、いずれの面で基準面として設定し易く、測定精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの一例を示す平面図である。
【図2】本発明の原位置結晶成長・溶解速度測定法を実施する雄勝実験場の概要を示す概念図である。
【図3】方解石の実験前画像である。
【図4】石英の実験前画像である。
【図5】地化学サンプラーに入れた試験片(結晶成長・溶解速度試験用試験センサー)を示す。
【図6】地化学サンプラーに入れた試験片(サンプラー内に入った状況)を示す画像である。
【図7】地化学サンプラーの外に試験片をセットした状況を示す画像である。
【図8】地化学サンプラー内にセットした方解石の実験前後の形状を示す画像である。
【図9】地化学サンプラー内にセットした方解石の実験前後の3D画像である。
【図10】地化学サンプラー内にセットした石英の実験前後の形状を示す画像である。
【図11】地化学サンプラー内にセットした石英の実験前後の3D画像である。
【図12】地化学サンプラー外にセットした方解石の実験前後の形状を示す画像である。
【図13】地化学サンプラー外にセットした石英の実験前後の形状を示す画像である。
【図14】ジルコンの実験前後の形状を示す画像である。
【図15】方解石Aの実験前後の形状を示す画像である。
【図16】方解石Bの実験前後の形状を示す画像である。
【図17】方解石Aの実験後の形状(対物レンズ100倍)の画像である。
【図18】方解石Bの実験後の形状(対物レンズ100倍)の画像である。
【図19】石英の実験前後の形状(対物レンズ100倍)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1に、本発明の原位置結晶成長・溶解速度測定法に用いる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの実施形態の一例を示す。尚、本実施形態では、主に方解石・鉱物の結晶成長(溶解を含む)を測定するために用いていることからミネラルセンサーとも呼べるが、金属の表面に付着した物質の結晶成長や金属そのものの溶解も観察することができることから固体センサーとも呼べるものである。
【0025】
この結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、図1に示すように、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シート1の表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子2,3を埋め込んで成る。試験対象となるのは鉱物に限らず、粒径100〜500μm程度の固体であれば鉱物以外の物質でも対象とすることができ、例えば金属でも適用可能であり、金属粒子の場合にはその溶解現象や金属の表面に付着する物質の成長現象を観察・測定することも可能である。本実施形態における結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、高温岩盤地熱発電プラントの坑井内にCO2 溶解水を注入することで、坑井内の高温地下環境下で炭酸塩(方解石)が結晶成長するかどうかについて検討を行なう試験のためのものであり、試験対象としての鉱物として、方解石2と石英3とを2粒ずつ埋め込んでいる。また、試験対象となる粒子2,3と共に参照用の耐熱・耐薬品性にすぐれた鉱物例えば50μm程度のジルコン粒子4を同様に2粒ずつ埋め込んでいる。尚、本実施形態の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、坑井内に挿入される地化学サンプラーの内部あるいは外部に取り付けられて使用されるため、10mm×10mm(あるいは直径10mmの円)×1mm程度に成形しているが、この寸法に特に限定されるものではなく、試験の目的や条件などに応じて適宜選定されるものである。また、参照用の鉱物粒子即ちジルコン粒子4は、樹脂シート1のフッ素樹脂が溶解する虞のある環境下、例えば200℃程度の高温下で尚かつ強アルカリ等の条件下での試験においては精度の高い測定を行うには必要であるが、特にフッ素樹脂が溶解する虞のない環境下での試験においては不要である。
【0026】
ここで、樹脂シートとしてはフッ素樹脂、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)の使用が好ましく、中でもPTFE、PFA、FEPのいずれかの使用が好ましく、特にPFAの使用がより好ましい。これらフッ素樹脂は、耐薬品性、耐熱性に優れ、原位置結晶成長試験特に高温岩盤中での鉱物結晶成長あるいは溶解速度を測定するのに好適である。
【0027】
本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5を用いた、原位置結晶成長・溶解速度測定法は、樹脂シートの表面に露出した鉱物の粒子を種として成長する結晶の成長の様子や鉱物の溶解の状況を観察・測定するものであるため、結晶の表面がどう変化するかを測定することが主となる。また、金属粒子の場合にはその溶解現象や金属の表面に付着する物質の成長現象を観察・測定することである。そこで、試験前後のシート表面形状の変化を見ることができれば十分である。したがって、樹脂シート並びに粒子の表面は必ずしも研磨していなくとも観察・測定することはできる。しかしながら、鉱物等の粒子を樹脂シートに固定した状態で樹脂シートの表面を研磨し、樹脂シートと鉱物又は金属の粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にしたものであることが好ましい。この場合には、樹脂シートと粒子との段差を精度良く測定することができるので、結晶等の成長・溶解をより精密に測定することが可能となる。
【0028】
以上のように構成される結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に、鉱物又は金属の粒子を加熱下に埋め込み、樹脂シートを冷却して鉱物又は金属の粒子を前記樹脂シートに固定させるようにして製造されている。樹脂シートの溶融温度付近の熱をかけて、樹脂シートの表面を僅かに溶解させた状態で適宜大きさ例えば粒径100〜500μm程度の鉱物又は金属の粒子を埋め込み、常温まで放置ないし冷却して埋め込んだ粒子を樹脂シートに固定することによって製造されている。例えば、樹脂シートとしてPFAを採用する場合、PFAは200℃程度までは耐えるが、250℃〜300℃に加熱すると、表面が少し溶解して鉱物を埋め込むことができる。そして、温度が下がると、粒子を保持して固定できる。
【0029】
また、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーは、粒子を埋め込んだ樹脂シートの表面が固化した後、あるいは検査の直前に、樹脂シートの粒子を埋め込んだ側の面を研磨し、樹脂シートと鉱物又は金属の粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にすることが高精度の測定を行なう上で好ましい。研磨は、例えばダイヤモンドペーストを用いて行う。より具体的には、研磨盤のような平らな台の上に置いた耐水研磨紙の上に水滴を垂らし、濡れた状態で試験センサーシートを数回軽く研磨した後、さらに、光学顕微鏡で粒子全体が研磨されていることを確認した後、回転式の研磨台でダイヤモンドペーストを用いた仕上げ研磨を行なう。研磨は、研磨紙により生じた傷が消えるまで、光学顕微鏡で確認しながら行う。研磨後、試料の汚れをエタノールでふき取るとともに、必要に応じて水道水を用いた超音波洗浄を行う。
【0030】
以上のようにして製造された結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いることにより、次のようにして原位置結晶成長・溶解速度測定法を実施できる。例えば、試験対象となる鉱物または金属の粒子のみを固定した結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いる場合、同試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、その差から鉱物又は金属の結晶成長量(速度)もしくは溶解量(速度)を求める。
【0031】
また、試験対象となる鉱物または金属の粒子と共に参照用鉱物例えばジルコン粒子を固定した結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いる場合、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、ジルコン粒子と樹脂シートとの試験前後の段差から樹脂シートの溶解量を求め、鉱物または金属の粒子と樹脂シートとの段差の値から樹脂シートの溶解量を差し引くことにより、鉱物又は金属の結晶成長量(速度)もしくは溶解量(速度)を求めることができる。
【0032】
尚、この原位置結晶成長・溶解速度測定法は、200℃以下の様々な環境で適用可能である。結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの試験位置への配置は、例えば耐熱性シリコンテープを用い、必要とされる試験場所に貼り付けることにより、適用範囲を拡げることができる。また、結晶成長・溶解速度試験用試験センサーはフラットな状態で試験する必要があるため、樹脂シートの形状をカッターナイフ等で試験場所に合わせ変更することにより、適用範囲を拡げることができる。
【0033】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、樹脂シートは各粒子と共に露出するように設けられているが、場合によってはテフロン(登録商標)の表面に粒子を埋め込んだ後に金被膜を蒸着などで覆って、粒子部分だけを剥がして露出させるようにしても良い。この場合、各粒子の回りは金被膜で覆われているので、各粒子部分でのみ結晶成長あるいは溶解が起こるので、測定精度が上がる。また、樹脂シート自体の変化が起こり得ない環境下での試験には、耐熱性・耐薬品性にすぐれた鉱物例えばジルコンを参照用として必ずしも用いることはない。
【実施例1】
【0034】
本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いて、高温岩盤地熱発電プラントの坑井内にCO2 溶解水を注入することで、坑井内の高温地下環境下で炭酸塩(方解石)の結晶成長を追試することを目的に、坑井(秋田県湯沢市にある財団法人電力中央研究所の雄勝実験場のOGC-2井)を用いた原位置実験を実施した。図2に雄勝実験場の概要と本実験の概念を示す。本実験は、雄勝実験場にある3本の坑井のうち、OGC-2 井を用いた。OGC-2井は掘削深度1100mであり、深度700〜1100mが裸孔である。深度307m以深でマイロナイト化した花崗閃緑岩が分布する。深度700mに上部貯留層、1100mに下部貯留層が存在する。
【0035】
(非研磨試験センサーを使用した結晶成長試験)
ジルコン粒子4を含まない結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いて原位置試験を行った。尚、本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、地化学サンプラーの内側と外側とに設置して原位置実験を行った。
【0036】
(試験センサーの作成)
方解石および石英の結晶を先の尖った金属性の棒で粉砕し、径300μm 程度のものを選別し、実験用試料とした。なお、石英は風化や変質には強いが、地熱井ではシリカスケールとして晶出することがある。今回の実験により、方解石以外に石英が晶出する可能性があるかどうかを検討するために実験に使用した。
径300μm 程度の大きさに粉砕した方解石と同程度の粒径の石英の各2個を、実体顕微鏡下で大型石英ガラスの上に並べ、それを300℃程度に加熱したホットプレート上に置き、その上にPFAテフロン(登録商標)シートと石英ガラスをこの順で被せ、ピンセットで石英ガラスを押さえつけることにより、PFAテフロン(登録商標)シートに鉱物粒を埋め込んだ結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを作成した。また、PFAテフロン(登録商標)シートとしては、10mm×10mm×1mmの、石英ガラスとしては(大:60mm×60mm×1mm、小:42mm×28mm×1mm)の大きさのものを用いた。
【0037】
(実験前形状測定)
共焦点レーザー顕微鏡(キーエンス製VK-8500)により、実験前の結晶表面形状を取得した。
測定結果の表示・解析には三谷商事製の解析ソフト(商品名:Virtual View 3D Ver. 2.5 )を使用した。
取得した画像の例を以下に示す。図3は、方解石の画像である。この図では、右下の「2DView」内の2 つの画像のうち左側の白線が計測ラインを示している。そのラインに沿った計測データは、「評価ライン」に断面データとして示される。「評価ライン」の断面データのうち、C ラインとD ラインの差が、方解石の表面とテフロン(登録商標)の表面の段差であり、その値は「ライン測定データ」に[C-D]:80.1851μm と表示されている。従って、段差は80.2μm である。図4に石英の画像を示す。石英の表面とテフロン(登録商標)の表面の段差は73.8μm である。
【0038】
(原位置実験)
雄勝実験場のOGC-2 井の950mに地化学サンプラーをセットし、結晶成長試験と採水を行なった。
尚、図5に地化学サンプラーに入れた試験センサー(実験終了直後)を、図6に地化学サンプラーに試料をセットした状況を示す。また、図7に地化学サンプラーの外にセットした試料の状況を示す。この試料は、地化学サンプラーの連結部にシリコンテープで試料を貼り付けた。
【0039】
(実験結果)
図8に地化学サンプラー内にセットした方解石の実験前後の形状を示す。実験前の方解石とテフロン(登録商標)との段差は80.2μmで実験後には79.7μmとなった。従って、測定データは、方解石が0.5μm溶解していることを示している。なお、図9に地化学サンプラー内にセットした方解石の実験前後の3D 画像を示すが、方解石に変化は見られない。場所を変えた測定では、2.7μm、1.0μm溶解している(表1)。測定データからは、方解石が平均で1.4μm溶解しており、後述の研磨試験センサーを使用した結晶成長試験から、テフロン(登録商標)面が溶解により、2μm 低下したとして、方解石が3.4μm溶解した可能性が考えられる。
【表1】
図10に地化学サンプラー内にセットした石英の実験前後の形状を示す。測定データからは、石英が0.9μm 成長している。図11 に地化学サンプラー内にセットした石英の実験前後の3D 画像を示すが、石英に変化は見られない。3回の測定で、石英は平均で3μm の成長を示す(表1)。測定データからは、石英が3μm成長しているが、テフロン(登録商標)シートの基準面が2μm低下したとして、石英は1μm成長した可能性が考えられる。
図12に地化学サンプラーの外にセットした方解石の実験前後の形状を示す。3箇所の測定で平均では1.4μmの成長となり、テフロン(登録商標)シートの基準面が2μm低下したとして、0.6μm溶解した可能性がある(表1)。
図13に地化学サンプラーの外にセットした石英の実験前後の形状を示す。この例では、石英面がテフロン(登録商標)面よりも下にあるので、段差はマイナスで表示している。3箇所の測定で、成長量は平均−2.1μmであるが、テフロン(登録商標)シートの基準面が2μm低下したとして、4.1μm溶解したと判断する(表1)。
【0040】
(研磨試験センサーを使用した結晶成長試験)
図1に示す結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを用いた原位置試験を行った。尚、本発明の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー5は、地化学サンプラーの外側や検層器のケーブル等に直接試験センサーを貼り付けた状態で結晶成長試験が可能であるが、この原位置実験では地化学サンプラー内に試験センサーを入れて行った。また、この実験においては、テフロン(登録商標)が溶解し、基準面が低下することが考えられたので、方解石、石英に加え、ジルコンも使用した。
【0041】
(試験センサーの作成)
結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの作成方法については、ジルコン粒子を加える点と研磨を施す点を除いて上述した通りである。なお、ジルコンは極めて安定な鉱物であり、今回の実験を通して、結晶成長や溶解が絶対に生じない鉱物である。今回用いたジルコンは、財団法人電力中央研究所がフィッション・トラック年代測定用に保管しているものであり、径300μm程度のものを選別し、実験用試料とした。石英は雄勝実験場周辺に分布するデイサイト質凝灰岩中の石英であり、径300μm程度のものを選別し、実験用試料とした。方解石は前述の非研磨試験センサーに使用したものと同じものを使用した。これらの3種類の鉱物を各2粒、1枚のPFAテフロン(登録商標)シートに埋め込み、それを2セット準備した。
方解石とジルコンと石英の各2個を、PFAテフロン(登録商標)シートに埋め込んで固定した試料の研磨は以下のように実施した。
まず、平らな台の上に置いた耐水研磨紙(#1200)の上に水滴を垂らし、濡れた状態で試験センサーシートを数回軽く研磨した。さらに、光学顕微鏡(Nikon OPTIPHO)で落射光を用い、粒子全体が研磨されていることを確認後、回転式の研磨台でダイヤモンドペースト(6μm)を用いた仕上げ研磨を行なった。研磨は、研磨紙により生じた傷が消えるまで、光学顕微鏡(落射光)で確認しながら実施した。研磨後、試料の汚れをエタノールでふき取るとともに、水道水を用いた超音波洗浄を行なった。そして、方解石と石英を各1粒埋め込んだPFAテフロン(登録商標)シートを2枚作成し、実験に使用した。
【0042】
(実験前形状測定)
研磨後の試料に対し、共焦点レーザー顕微鏡(キーエンス製VK-8500)により、実験前の表面形状を取得した。なお、今回は、三谷商事製の解析ソフト(商品名:Virtual View 3D Ver.2.5 )で読み込んだデータに対し、さらに三谷商事製の解析ソフト(商品名:WinROOF Ver.5.5.0 )を用い、測定結果を表示・解析した。
【0043】
(原位置実験)
実験は、地化学サンプラーをOGC-2 の深度950mにセットして行った。
(実験結果)
図14にジルコンの実験前後の形状を示す。中央の計測断面図より、実験前にはジルコン面はテフロン(登録商標)面より下にあるが、実験後にはテフロン(登録商標)面より上になっている。ジルコンは不変であるので、これは、テフロン(登録商標)が溶解したことを示す。4箇所の測定の平均として(表2)、テフロン(登録商標)は2.3μm溶解した結果となった。なお、計測ラインDの結果は、ジルコンの上部での計測結果であるが、ジルコンの下部では、テフロン(登録商標)面との段差は見られない。また、計測ラインDの実験後のジルコンは2μm程度傾いているように見える。これらの不確かさを考慮し、ここではテフロン(登録商標)は2μm溶解したとして議論する。
【表2】
図15に方解石(方解石Aとする)の実験前後の形状を示す。なお、この方解石は対物レンズ50倍で取得したデータである。5箇所で測定したが、計測ラインBとCは、図15の右側の計測断面図から分るように、実験後に部分的に結晶成長したものと判断できるので、これらのデータを除いた3つの平均として、0.1μm溶解した結果となった。ここで、テフロン(登録商標)面の2μmの溶解を考慮に入れると、2.1μm溶解したと判断する。
図16に別の方解石(方解石Bとする)の実験前後の形状を示す。この方解石のデータは20倍の対物レンズで取得した。この図の左側の計測断面図から、実験後のテフロン(登録商標)が少し撓み(凸状になり)、方解石が左側に少し傾斜していることが分る。このような点は、計測には支障となるが、4箇所の測定データは概ね揃っており、平均で2.1μm成長した結果となった。ここで、テフロン(登録商標)面の2μmの溶解を考慮に入れ、0.1μm成長となるが、誤差を考慮し、変化なしと判断する。
以上のことから、2つの方解石A,Bの平均として、1μm程度方解石が溶解した可能性が考えられる。
次に、100倍の対物レンズで実験後の方解石の形状データを取得した結果を図17、図18に示す。
図17 は対物レンズ100倍で取得した方解石Aの実験後の形状を示す。方解石の表面に成長丘と思われるものがほぼ一様に分布している。図で示した成長丘の高さは0.6μm、幅は4.2μmであり、その他の成長丘も概ね同様の大きさを示す。すなわち、この方解石は結晶が成長中であったことを示すと思われる。
図18は対物レンズ100倍で取得した方解石Bの実験後の形状を示す。方解石の表面にエッチピットと思われるものがほぼ一様に分布している。図で示したエッチピットの深さは0.4μm、幅は3.3μmであり、その他のエッチピットも概ね同様の大きさを示す。すなわち、この方解石は結晶が溶解中であったことを示すと思われる。
図19に石英の実験前後の形状(対物レンズ50倍)を示す。実験前は、石英とテフロン(登録商標)の表面は同じ高さに揃っており(段差は0.0μm)、しかも全体にフラットである。これは、研磨により、品質の良い試料作成が出来たことを示す。実験後の段差は、3回の平均で0.7μmとなった。テフロン(登録商標)が2μm溶解したとすると、石英は1.3μm溶解したことを示す。
【0044】
(実験結果)
1.非研磨試験センサーを使用した結晶成長試験では、地化学サンプラーの内と外に試料をセットし、方解石と石英について実験を行なった。その結果、方解石はサンプラーの内外ともにわずかに(数μm以下)溶解した。
2.研磨試験センサーを使用した結晶成長試験では、ジルコン、方解石、石英について、地化学サンプラー内に試料をセットした実験を行なった。試料を研磨したこととジルコンを同時に埋め込んだことから、より品質の良い(高精度で測定しやすく、データの信頼性が高い)条件で実験を行なうことができた。ジルコンの結果から、テフロン(登録商標)が2μm 程度溶解することが分ったため、その分を考慮すると、方解石、石英ともに1μm程度溶解した結果が得られた。なお、方解石の表面を高倍率で観察した結果、2個の方解石のうち、一方には成長丘が、他方にはエッチピットが認められた。成長丘は成長を示す現象であるが、この方解石(方解石C1)も段差測定では溶解を示している。このことは、実験環境が化学的平衡に近い状態であったことを示していると考えられる。
3.非研磨試験センサーを使用した結晶成長試験では、地化学サンプラーの外側でも内側と同様に結晶成長試験が可能であることを示している。これは大きなメリットであり、例えば、坑井の深度を変えて、同時に多数の試料を用いた実験を行なうことなどが可能である。また、本手法では、実験後に鉱物と基準面との段差が10μm以上になるような実験条件とすることで、測定精度が向上し、より信頼性の高いデータの取得が期待できることが判明した。
以上のことから、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法によれば、様々な環境下で結晶成長試験や結晶溶解速度測定が行なえることが明らかである。また、本発明にかかる結晶成長・溶解速度試験用試験センサー及びそれを用いた原位置結晶成長・溶解速度測定法によれば、μmオーダーでの簡易な結晶成長試験や結晶溶解速度測定に適用できることが判明した。
【符号の説明】
【0045】
1 樹脂シート
2 試験対象たる方解石
3 試験対象たる石英
4 参照用鉱物たるジルコン
5 結晶成長・溶解速度試験用試験センサー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子を埋め込んで成る結晶成長・溶解速度試験用試験センサー。
【請求項2】
前記鉱物又は金属の粒子と共に参照用のジルコン粒子を埋め込んだことを特徴とする請求項1記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー。
【請求項3】
前記樹脂シートはPTFE、PFA、FEPのいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー。
【請求項4】
前記樹脂シートの表面並びに前記樹脂シートに埋め込まれて固定された前記粒子の表面が研磨され、前記樹脂シートと前記粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にしたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー。
【請求項5】
耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に、鉱物又は金属の粒子を加熱下に埋め込み、前記樹脂シートを冷却して前記鉱物又は金属の粒子を前記樹脂シートに固定させることを特徴とする結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂シートの前記粒子を埋め込んだ側の面を研磨し、前記樹脂シートと前記鉱物又は金属の粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にすることを特徴とする請求項5記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの製造方法。
【請求項7】
請求項1、3、4のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、その差から前記鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるものである原位置結晶成長・溶解速度測定法。
【請求項8】
請求項2、3、4のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、前記ジルコン粒子と前記樹脂シートとの試験前後の段差から前記樹脂シートの溶解量を求め、前記鉱物または金属の粒子と前記樹脂シートとの段差の値から前記樹脂シートの溶解量を差し引くことにより、前記鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるものである原位置結晶成長・溶解速度測定法。
【請求項1】
耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に試験対象となる鉱物又は金属の粒子を埋め込んで成る結晶成長・溶解速度試験用試験センサー。
【請求項2】
前記鉱物又は金属の粒子と共に参照用のジルコン粒子を埋め込んだことを特徴とする請求項1記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー。
【請求項3】
前記樹脂シートはPTFE、PFA、FEPのいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー。
【請求項4】
前記樹脂シートの表面並びに前記樹脂シートに埋め込まれて固定された前記粒子の表面が研磨され、前記樹脂シートと前記粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にしたものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサー。
【請求項5】
耐熱・耐薬品性にすぐれた樹脂シートの表面に、鉱物又は金属の粒子を加熱下に埋め込み、前記樹脂シートを冷却して前記鉱物又は金属の粒子を前記樹脂シートに固定させることを特徴とする結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂シートの前記粒子を埋め込んだ側の面を研磨し、前記樹脂シートと前記鉱物又は金属の粒子との段差を小さくするとともに、これらの表面を平滑にすることを特徴とする請求項5記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの製造方法。
【請求項7】
請求項1、3、4のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、その差から前記鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるものである原位置結晶成長・溶解速度測定法。
【請求項8】
請求項2、3、4のいずれか1つに記載の結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を予め測定した後、この結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを試験場所に設置して結晶成長または溶解試験を実施し、試験後に前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーを取り出し、前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を再び同じ装置で測定し、試験前後の前記結晶成長・溶解速度試験用試験センサーの表面形状を比較し、前記ジルコン粒子と前記樹脂シートとの試験前後の段差から前記樹脂シートの溶解量を求め、前記鉱物または金属の粒子と前記樹脂シートとの段差の値から前記樹脂シートの溶解量を差し引くことにより、前記鉱物又は金属の結晶成長速度もしくは溶解速度を求めるものである原位置結晶成長・溶解速度測定法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−193083(P2012−193083A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59337(P2011−59337)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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