結晶育成装置および結晶の育成方法
【課題】種結晶が保持部材から剥離されることを抑制することが可能な結晶育成装置および結晶の育成方法を提供する。
【解決手段】坩堝内にある炭化珪素の融液に、保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定した炭化珪素からなる種結晶4の下面4Bを接触させて、下面4Bに融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶育成装置において、保持部材2は炭素からなるとともに、接着材3は、沸点が炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素とを含み、保持部材2の下端面2Aは、算術平均粗さRaが5μm以上30μm以下の粗面である。また、結晶の育成方法において、保持部材2の下端面2Aを所定の粗さの粗面にする工程と、下端面2Aに、接着材3を塗布する工程と、種結晶4を接着材3に接触させることによって、種結晶4を保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定する工程とを有する。
【解決手段】坩堝内にある炭化珪素の融液に、保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定した炭化珪素からなる種結晶4の下面4Bを接触させて、下面4Bに融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶育成装置において、保持部材2は炭素からなるとともに、接着材3は、沸点が炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素とを含み、保持部材2の下端面2Aは、算術平均粗さRaが5μm以上30μm以下の粗面である。また、結晶の育成方法において、保持部材2の下端面2Aを所定の粗さの粗面にする工程と、下端面2Aに、接着材3を塗布する工程と、種結晶4を接着材3に接触させることによって、種結晶4を保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定する工程とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素の結晶を育成する結晶育成装置および結晶の育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在注目されている結晶として、炭素と、珪素の化合物である炭化珪素(Silicon carbide;SiC)がある。炭化珪素は、バンドギャップがシリコンと比べて広く、絶縁破壊に至る電界強度が大きい(耐電圧特性がよい)こと、熱伝導性が高いこと、耐熱性が高いこと、耐薬品性に優れること、および耐放射線性に優れることなどの種々の利点から注目を集めている。この炭化珪素に注目している分野は、例えば、原子力を含む重電、自動車および航空を含む運輸、家電、ならびに宇宙などと幅広い。炭化珪素の単結晶は、例えば特許文献1に記載されるような、溶液成長法で製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−264790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭化珪素からなる結晶育成の研究・開発において、溶液成長法で結晶を大型化した場合、育成させた当該単結晶を保持部材に固定しておくことが難しかった。本発明は、このような事情を鑑みて案出されたものであり、育成する結晶を安定的に固定することが可能な結晶育成装置および結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の結晶育成装置は、坩堝内にある炭化珪素の融液に、保持部材の下端面に接着材を介して固定した炭化珪素からなる種結晶の下面を接触させて、該下面に前記融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶育成装置において、前記保持部材は炭素からなるとともに、前記接着材は、沸点が前記炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素の粒子とを含み、前記保持部材の前記下端面は、算術平均粗さRaが5μm以上30μm以下の粗面である。
【0006】
また、本発明の結晶の育成方法は、保持部材の下端面に固定された種結晶の下面を、坩堝内にある炭化珪素の融液に接触させて、前記保持部材を上方に引き上げることによって、前記種結晶の前記下面に前記融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶の育成方法において、前記保持部材の前記下端面を所定の粗さの粗面にする工程と、粗面にされた前記下端面に、沸点が前記炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素の粒子とを含む接着材を塗布する工程と、前記接着材を塗布する工程の後、前記種結晶を前記接着材に接触させることによって、前記種結晶を前記保持部材の前記下端面に前記接着材を介して固定する工程とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の結晶育成装置によれば、保持部材の下端面が粗面となっていることから、この下端面と種結晶の上面とを接着材を介して固定することによって、接着材に含まれる炭素の粒子が粗面の凹部に入り込み、接着材との接着強度を向上させることができる。その結果、種結晶が保持部材から剥離されることを抑制することができ、種結晶および種結晶の下面に成長した炭化珪素の結晶を安定的に保持部材に固定することができる。
【0008】
また、本発明の結晶の育成方法は、保持部材の下端面を粗面にする工程を有していることから、種結晶が保持部材から剥離されにくくすることができる。その結果、種結晶の下面に結晶を大きく成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る結晶育成装置の実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す結晶育成装置の一部を示す図であり、(a)は一部を拡大した断面図であり、(b)はさらにその一部を拡大した断面図である。
【図3】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図4】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図5】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図6】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図7】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図8】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図9】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図10】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<結晶育成装置>
本発明に係る結晶育成装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。結晶育成装置1は、主に保持部材2、接着材3、種結晶4および融液5によって構成されている。以下に、図1を参照しつつ、結晶育成装置1の概略を説明する。
【0011】
坩堝6は、坩堝容器7の内部に配置されている。坩堝容器7は、坩堝6を保持する機能を担っている。この坩堝容器7と坩堝6との間には、保温材8が配置されている。この保温材8は、坩堝6の周囲を囲んでいる。保温材8は、坩堝6からの放熱を抑制し、坩堝6の温度を安定して保つことに寄与している。
【0012】
坩堝6は、育成する炭化珪素の単結晶の原料を内部で融解させる器としての機能を担っている。本実施形態では、坩堝6の中で、単結晶の原料(炭素および珪素)を融解させて、融液5として貯留する。本実施形態では、溶液成長法を採用しており、この坩堝6の内部で熱的平衡状態を作り出すことによって結晶の育成を行う。
【0013】
坩堝6は、加熱機構10によって、熱が加えられる。本実施形態の加熱機構10は、電磁波によって坩堝6を加熱する電磁加熱方式を採用しており、コイル11および交流電源12を含んで構成されている。坩堝6は、例えば炭素(黒鉛)によって構成されている。
【0014】
坩堝6の内部には、融液5が配置されている。融液5は、育成する炭化珪素の結晶を構成する元素である炭素および珪素が溶媒として溶融している。溶質となる元素の溶解度は、溶媒となる元素の温度が高くなるほど大きくなる。このため、高温下の溶媒に多くの溶質を溶解させた融液5が冷えると、熱的な平衡を境に溶質が析出する。この熱的平衡による析出を利用して、本実施形態が採用している溶液成長法では、種結晶4の下面4Bに結晶の育成を行っている。
【0015】
コイル11は、導体によって形成され、坩堝6の周囲を囲むように巻き回されている。交流電源12は、コイル11に交流電流を流すためのものであり、交流電流の周波数が高いものを用いることによって、坩堝6内の設定温度までの加熱時間を短縮することができる。
【0016】
本実施形態では、坩堝6を、次のようにして加熱している。まず、交流電源12を用いてコイル11に電流を流して、保温材8を含む空間に電磁場を発生させる。次に、この電磁場によって、坩堝6に誘導電流が流れる。坩堝6に流れた誘導電流は、電気抵抗によるジュール発熱、およびヒステリシス損失による発熱などの種々の損失によって、熱エネルギに変換される。つまり、坩堝6は、誘導電流の熱損失によって加熱される。なお、この電磁場によって融液5自体に誘導電流を流して発熱させてもよい。このように融液5自体を発熱させる場合は、坩堝6自体を発熱させなくてもよい。
【0017】
本実施形態では、加熱機構10として電磁加熱方式を採用しているが、他の方式を用いて加熱してもよい。加熱機構10は、例えば、カーボンなどの発熱抵抗体で生じた熱を伝熱する方式などの他の方式を採用することができる。この伝熱方式の加熱機構を採用する場合は、(坩堝6と保温材8との間に)発熱抵抗体が配置される。
【0018】
坩堝6の融液5には、搬送機構13によって単結晶の種結晶4が供給される。この搬送機構13は、融液5の中から育成した結晶を搬出する機能も担っている。搬送機構13は、保持部材2、および動力源14を含んで構成されている。この保持部材2によって、種結晶4および種結晶4の下面4Bに育成した単結晶の搬入出が行われる。種結晶4は、保持部材2の下端面2Aに取り付けられており、この保持部材2は、動力源14によって上下方向D1,D2に移動が制御される。本実施形態では、D1方向が物理空間上の下方向を意味し、D2方向が物理空間上の上方向を意味する。
【0019】
結晶育成装置1では、加熱機構10の交流電源12と、搬送機構13の動力源14とが制御部15に接続されて制御されている。つまり、この結晶育成装置1は、制御部15によって、融液5の加熱および温度制御と、種結晶4の搬入出とが連動して制御されている。制御部15は、中央演算処理装置、およびメモリなどの記憶装置を含んで構成されており、例えば公知のコンピュータからなる。
【0020】
このように保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定した種結晶4の下面4Bを融液5に接触させて、下面4Bに結晶を成長させることができる。
【0021】
次に、種結晶4および保持部材2などの結晶を固定する部分について詳細に述べる。
【0022】
保持部材2は、図2(a)に示すように、下端面2Aに種結晶4が接着材3を介して固定されている。ここで、図2(a)は、結種晶4、接着材3および保持部材2を含む部分を拡大した図である。保持部材2は、下端面2Aを有していればよく、下端面2Aは、平面視形状が四角形状などの多角形状、または円形状などの形状をなしている。保持部材2は、立体形状が、例えば棒状、直方体状などをなしている。
【0023】
保持部材2の下端面2Aは、種結晶4の上面4Aよりも大きい面積でもよいし、種結晶4の上面4Aよりも小さい面積でもよい。本実施形態では、保持部材2の下端面2Aは、種結晶4の上面4Aの面積よりも小さくなっている。なお、保持部材2の下端面2Aの面積が、種結晶4の上面4Aの面積以上となっている場合には、種結晶4の上面4A全体を、接着材3を介して固定することができる。そのため、種結晶4が保持部材2から剥離されることをさらに抑制することができる。
【0024】
また、保持部材2は、炭素から構成されている。保持部材2は、炭素を主成分とする材料によって構成されていればよい。保持部材2の炭素は、例えば炭素の多結晶体または炭素を焼成した焼成体などによって構成されている。このように保持部材2が、炭素の多結晶体または焼成体によって構成されていることによって、保持部材2内の気孔率が高くなっている。保持部材2の内部の気孔率は、例えば焼成条件などを調整することによって変化させることができる。なお、気孔率(%)の算出方法は、簡単に測定する計算方法として、例えば「気孔率(%)=体積÷質量×100」なる計算式を用いることができる。
【0025】
さらに、保持部材2は、下端面2Aが粗面となっている。保持部材2の粗面は、一部でも有していればよい。すなわち、保持部材2の粗面は、下端面2A全体に渡って設けられていてもよいし、一部にだけ設けられていてもよい。保持部材2の粗面は、下端面2A全体の面積に対して、例えば30%以上となるように設けることができる。
【0026】
保持部材2の下端面2Aの全体に渡って粗面となっている場合には、例えば接着材3に含まれる炭素が粗面となった下端面2Aの全体に渡って炭化された状態となることから、接着材3が保持部材2の下端面2Aから剥離しにくくすることができる。
【0027】
保持部材2の下端面2Aの粗面は、複数の凹部9で構成されている。下端面2Aの粗面は、算術平均粗さRaが、例えば5μm以上30μm以下となっている。保持部材2の下端面2Aの表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えばJIS B0601−2001によって確認することができる。一つの凹部9は、深さが、例えば5μm以上60μm以下となるように設定されている。
【0028】
接着材3には、図2(b)に示すように、炭素の粒子3aが含まれている。炭素の粒子3aは、粒径が、例えば0.7μm以上40μm以下に設定することができる。保持部材2の下端面2Aの表面粗さRaよりも、粒径の小さい炭素粒子を接着材3に含有させることによって、粗面を構成する凹部9にも炭素の粒子3aが入り込みやすくすることができる。
【0029】
そのため、接着材3が下端面2Aから剥離されにくくすることができる。なお、炭素の粒子3aは、粒径が、粗面の凹部9の深さよりも小さく設定されていれば、本発明の効果を奏するものである。接着材3は、その内部に含まれる炭素の粒子3aが、保持部材2の下端面2Aの表面と種結晶4の上面4Aの表面を、炭化することによって化学的に接着していると考えられる。
【0030】
本実施形態では、下端面2Aの粗面の凹部9に、接着材3の炭素の粒子3aが入り込むようになっている。このように下端面2の粗面と接着材3が接着していることから、保持部材4から接着材3が剥離することを抑制することができる。
【0031】
従来の保持部材の下端面は平坦だったため、下端面と炭素の粒子3aとが接触する箇所が少なく、接着強度が弱かった。その結果、保持部材から接着材が剥離しやすく、種結晶の下面に成長させる結晶を大型化することが困難だった。
【0032】
(結晶育成装置の変形例1)
接着材3には、沸点が炭化珪素の融点よりも低い材料(以下、気化材料という)を含んでいてもよい。ここで「炭化珪素の融点」としては、炭化珪素の融液5内に例えばチタンまたはクロムなどを含んでいる場合には、例えば融液5の温度を用いればよい。炭化珪素の融液5にチタンまたはクロムを含ませることにより、融液5に含まれる炭素の比率を大きくすることができ、種結晶4の下面4Bに成長させる炭化珪素の結晶の成長速度を向上させることができる。
【0033】
接着材3の気化材料は、具体的に、炭化珪素の融点(融点:2545℃)よりも低い材料として、例えばフェノール樹脂(沸点:約380℃)、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性材料が含まれている。なお、熱硬化性材料の沸点が測定しにくい場合には、例えば分解温度などを用いてもよい。これは、分解する際に、気体が発生すると考えられるからである。
【0034】
本変形例では、接着材3の内部に炭化珪素の融点よりも低い沸点を持つ気化材料が含まれている。そのことから、種結晶4を融液5に近づけた際に、例えば種結晶4を伝わるなどして接着材3の温度が上昇することによって、接着材3の内部に存在する気化材料が気体となって、気泡が生じる。ここで、下端面2Aが粗面となっていることから、下端面2Aの表面積が大きくなっており、接着材3の内部で発生する気泡が保持部材から抜けやすくなっている。
【0035】
このように接着材3の内部で発生する気泡が、接着材3の内部で滞留しにくくなっていることから、接着材3の接着強度の低下を抑制することができる。そのため、種結晶4の下面4Bに炭化珪素からなる結晶を大きく成長させて、種結晶4および種結晶4の下面4Bに成長した結晶の重量が増えたとしても、保持部材2から剥離されることを抑制することができる。その結果、種結晶4の下面4Bに成長させる結晶を大型化することができ、結晶の生産性を向上させることができる。
【0036】
従来の種結晶は、平坦な下端面の保持部材に接着材を介して固定されていることから、接着材の内部で発生した小さな気泡が多数滞留することによって、接着材が剥離しやすかった。そのため、種結晶が保持部材から脱落しやすいことから、種結晶の下面に成長させる結晶の大型化をすることが困難だった。
【0037】
(結晶育成装置の変形例2)
保持部材2は、図3に示すように、下端面2Aが、上下方向に垂直な水平面L1に対して傾斜していてもよい。下端面2Aと水平面L1とのなす角D1は、例えば0.5°以上45°以下となるように設定することができる。このように下端面2Aを、水平面L1から傾斜させる方法としては、例えば保持部材2の下端面2Aを傾斜させた状態で、粗面化する方法などを挙げることができる。粗面化する方法としては、例えば後述するように研磨法などを用いることができる。
【0038】
このように保持部材2の下端面2Aを水平面L1に対して傾斜させることによって、粗面となった下端面2Aの表面積を大きくすることができるため、接着材3との接着強度を向上させることができる。また、保持部材2の下端面2Aを、水平面L1から傾斜させることから、下端面2Aに当たった気泡が傾斜面に沿って移動しやすくすることができる。このように気泡が傾斜面に沿って移動しやすくなるため、保持部材2から気泡が抜けやすくなっている。
【0039】
(結晶育成装置の変形例3)
下端面2Aの端部は、図4に示すように、種結晶4の上面4Aと当接するように位置していてもよい。すなわち、下端面2Aの粗面の一部は、種結晶4の上面4Aと接するように配置されている。このように配置されていることから、種結晶4からの熱を保持部材2から抜けやすくすることができ、種結晶4の上面4Aから接着材3に伝わる熱を緩和することができる。その結果、接着材3で発生する気泡を少なくすることができる。
【0040】
さらに、下端面2Aの端部が種結晶4Aと当接するように位置していることから、凹部9より内側に位置する接着材3の内部で発生した気泡が、凹部9の内表面を通って、接着材3内に発生した気泡を保持部材2から抜けやすくすることができる。その結果、接着材3内に滞留する気泡を少なくすることができ、接着材3が剥離されにくくすることができる。
【0041】
(結晶育成装置の変形例4)
保持部材2は、図5に示すように、下端面2Aを含む部分が、炭化珪素からなる多結晶2’で構成されていてもよい。このように下端面2Aを含む部分が、炭化珪素からなる多結晶2’で構成されていることから、種結晶4と似た熱膨張係数を持つことになり、保持部材2の多結晶2’の部分と、種結晶4との間で熱膨張係数の差が小さくすることができる。その結果、接着材3に、多結晶2’と種結晶4との熱膨張係数の差に起因する応力の発生を抑制することができ、接着強度を維持することができる。
【0042】
(結晶育成装置の変形例5)
接着材3は、シリコンをさらに含んでいてもよい。接着材3にシリコンを含有させることによって、種結晶4との間で熱膨張係数の差を小さくすることができ、両者の間で発生する応力を抑制することができる。その結果、種結晶4が保持部材2から剥離されにくくすることができる。
【0043】
また、このように接着材3にシリコンを含んでいることによって、保持部材2、接着材3および種結晶4を融液5に近づけた際に、接着材3内に含まれる炭素の粒子3aとシリコンとを熱によって炭化珪素とした場合には、種結晶4をさらに強固に固定することができる。その結果、種結晶4との熱膨張係数の差を小さくすることができるとともに、種結晶4が保持部材2からより剥離しにくくすることができる。
【0044】
さらに、変形例4に示したように、下端面2Aを含む部分が炭化珪素からなる多結晶2’で構成されていた場合には、多結晶2’、種結晶4および接着材3との間で、熱膨張係数の差を小さくすることができるため、さらに種結晶4が保持部材2から剥離しにくくすることができる。
【0045】
(結晶育成装置の変形例6)
接着材3は、図6に示すように、保持部材2の下端面2Aの一部と、種結晶4の上面4Aの一部と固定する複数の接着体3’からなっていてもよい。このように接着体3’が複数の島状に、保持部材2の下端面2Aの一部と、種結晶4の上面4Aの一部とが固定されていることによって、接着体3’同士の間に空間を有するようになる。
【0046】
そのため、接着体3’の内部で発生した気泡が、保持部材2の粗面からだけでなく、この接着体3’同士の間の空間からも抜けやすくなり、種結晶4が保持部材2から剥離されにくくすることができる。
【0047】
(結晶育成装置の変形例7)
接着材3は、図7に示すように、保持部材2の下端面2Aと種結晶4の上面4Aとの間に位置する、炭化珪素からなる多結晶質の緩衝層17を有していてもよい。
【0048】
緩衝層17は、保持部材2の下端面2Aと種結晶4の上面4Aとから離れて位置している。そのため、緩衝層17の上面17Aと保持部材2の下端面2Aとの間、および緩衝層17の下面17Bと種結晶4の上面4Aとの間に、接着材3が配置されている。緩衝層17は、厚みが、例えば1μm以上3μm以下となるように設定することができる。
【0049】
このように接着材3の内部に、緩衝層17が配置されていることによって、接着材3の内部で発生した気泡を、緩衝層17の内部に取り込むことができ、種結晶4が保持部材2からより剥離されにくくすることができる。
【0050】
(結晶育成装置の変形例8)
保持部材2は、図8に示すように、粗面となった下端面2Aの一部に、種結晶4と接触する接触部分2”を有していてもよい。接触部分2”は、種結晶4の上面4Aと接触するように設定されている。そのため、接触部分2”は、粗面となった下端面2Aよりも種結晶4側に高くなっている。すなわち、接触部分2”は、保持部材2において、最下端面となっている。なお、接触部分2”は、保持部材2の下端面2Aが接触部分2”の外周を取り囲むように設けられていればよい。
【0051】
そのため、保持部材2と種結晶4とを接着材3を介して固定した際に、下端面2Aの粗面と種結晶4の上面4Aとの間に位置する接着材3によって両者が固定されるとともに、接触部分2”と種結晶4の上面4Aとの間に接着材3が入りにくくなっている。その結果、保持部材2の下端面2Aの中心付近に接着材3が存在しにくくなっていることから、当該中心付近で接着材3の内部で気泡が発生しにくくなっており、種結晶4が接着材3から剥離されにくくすることができる。
【0052】
また接触部分2”は、保持部材2の他の部分よりも気孔率が低く、炭素で緻密に構成されていてもよい。すなわち、接触部分2”は、気泡(気体)を通しにくくなっている。このように接触部分2”が、保持部材2の下端面2Aの中心を含む領域に設けられていることから、接着材3の内部で発生した気泡(気体)が、接触部分2”を通りにくくなっている。そのため、接触部分2”と種結晶4の上面4Aとの間に接着材3が入り込んで気泡が発生した場合であっても、気泡が、接触部分2”の表面を伝って(表面に沿って)、粗面となった下端面2Aに移動し、保持部材2から抜けやすくすることができる。
【0053】
(結晶育成装置の変形例9)
保持部材2は、図9に示すように、下端面2Aの粗面が、同心円状となるように設けられていてもよい。この場合でも、保持部材2の下端面2Aの粗面は、図9(b)に示すように、高さThが、例えば5μm以上30μm以下となるように設定することができる。
【0054】
下端面2Aの粗面は、厚み方向に垂直な水平面L1に平行な面部分の長さTdを出来るだけ少なくすればよいが、図9(c)に示すように面部分の長さTdが粗面の高さThよりも小さく設定されていれば、本発明の効果を奏するものである。そのため、面部分Tdの長さは、粗面の高さThによって設定することができ、例えば60μm以下となるように設定することができる。
【0055】
このように下端面2Aの粗面を同心円状とすることによって、接着材3の内部で発生した気泡が、それぞれの円周をなす凹部9に存在しやすくなる。そのため、気泡の発生する箇所を均等に分散することができ、一部分に気泡が集中して発生することを抑制することができる。このように接着材3で発生する気泡を分散させることができるため、接着材3が剥離されることを抑制することができる。
【0056】
このような同心円状の凹部9を持つ下端面2Aは、例えば、旋盤などで保持部材2の下端面2Aを加工することにより形成することができる。なお、同心円状の粗面は、例えばらせん状であってもよいし、渦巻き状であってもよい。
【0057】
また、同心円状の粗面を持つ下端面2Aが、種結晶4の上面4Aと当接されていた場合には、下端面2Aが同心円状となっていることから、下端面2Aと種結晶4との間で発生する熱の応力が一部分に集中することを緩和することができる。その結果、接着材3が剥離されるのをさらに抑制することができる。
【0058】
また、図10に示すように、同心円状の粗面を持つ下端面2Aは、中心(同心)に向かうにつれて、傾斜させてもよい。下端面2Aの傾斜は、下端面2Aの中心(同心)から、水平面に対する角度D2を持つように設定されている。このように下端面2Aに傾斜をつけることによって、外側の円の凹部9に存在する気泡が、さらに内側の円の凹部9に移動しやすくなる。接着材3の内部で発生する気泡が、一部に集中することを抑制することができる。
【0059】
<結晶の育成方法>
本発明の実施形態に係る結晶の育成方法について説明する。本実施形態の結晶の育成方法は、保持部材2の下端面2Aに固定された種結晶4の下面4Bを、坩堝6内にある炭化珪素の融液5に接触させて、保持部材2の上方に引き上げることによって、種結晶4の下面4Bに融液5から炭化珪素の結晶の育成を行なう。
【0060】
炭化珪素からなる単結晶は、結晶育成装置1によって製造することができる。結晶育成装置1は、坩堝6、坩堝容器7、加熱機構10、搬送機構13、および制御部15を有して構成されている。この結晶育成装置1では、溶液成長法を用いて単結晶の育成を行うものである。
【0061】
(保持部材の下端面を所定の粗さの粗面にする工程)
保持部材2の下端面2Aを粗面とする工程を有する。保持部材2の下端面2Aを所定の粗面とする方法としては、例えば、化学機械研磨法、または研磨布紙を用いる方法などを用いることができる。所定の粗面とするには、例えば所定の粒径の研磨砂を用いて研磨する方法などがある。この場合、研磨砂の粒径としては、算術平均粗さRaよりも大きいものを用いることができ、例えば7μm以上60μm以下のものを用いることができる。保持部材2の下端面2Aは、算術平均粗さRaが5μm以上30μm以下の粗面となるように設定することができる。
【0062】
(接着材を塗布する工程)
下端面2Aを粗面とする工程の後、粗面とされた下端面2Aに、接着材3を塗布する工程を有する。接着材3は、保持部材2の下端面2Aの全面に塗布される。種結晶4と保持部材2の下端面2Aとの間に、複数の接着体3’を有するようにする場合(結晶育成装置の変形例4の場合)には、例えば接着材3を保持部材2の下端面14の一部に塗布することによって形成してもよい。
【0063】
(種結晶を接着材を介して保持部材に固定する工程)
接着材3を塗布する工程の後、種結晶4を接着材3に接触させることによって、種結晶4を保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定する。種結晶4は、下端面2Aに塗布された接着材3に接触させる。
【0064】
種結晶4は、接着材3に接触させた状態で、例えば熱処理を行なってもよい。このように熱処理を行なうことによって、接着材3の内部に含まれる熱硬化性材料の硬化および炭素の炭化を行なうことができる。これによって、種結晶4と保持部材2とを接着材3を介して強固に固定することができる。
【0065】
このような接着材3の熱処理は、加熱炉(例えば、脱脂炉および焼成炉などを含む)を用いて、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気中で行なうことができる。加熱温度は、例えば150℃以上800℃以下に設定することができる。具体的には、例えば200℃の温度で1時間仮加熱し、次いで700℃で3時間本加熱を行なった後、炉内を室温まで冷却すればよい。
【0066】
このように保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定された種結晶4の下面4Bを、融液5に接触させることによって、種結晶4の下面4Bに炭化珪素からなる結晶を成長させることができる。そして、保持部材2を少しずつ上方に引き上げることによって、種結晶4の下面4Bに結晶を成長させ続けることができる。
【0067】
従来の保持部材は、下端面全体が気孔率の高い緻密面となっていたことから、接着材の内部で発生した気泡が内部で滞留しやすくなっており、接着材が剥離しやすいという問題があった。
【0068】
本実施形態では、保持部材2の下端面2Aを粗面にする工程を有していることから、気孔率の高くなった緻密面を除去することができるため、接着材3の内部で発生した気泡(気体)が当該粗面から抜けやすくすることができる。その結果、接着材3の内部に存在する気泡を少なくすることができ、種結晶4が保持部材4から剥離されにくくすることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 結晶育成装置
2 保持部材
2A 下端面
2’ 多結晶
2” 接触部分
3 接着材
3a 粒子
4 種結晶
4A 上面
4B 下面
5 融液
6 坩堝
7 坩堝容器
8 保温材
9 凹部
10 加熱機構
11 コイル
12 交流電源
13 搬送機構
14 動力源
15 制御部
17 緩衝層
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素の結晶を育成する結晶育成装置および結晶の育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在注目されている結晶として、炭素と、珪素の化合物である炭化珪素(Silicon carbide;SiC)がある。炭化珪素は、バンドギャップがシリコンと比べて広く、絶縁破壊に至る電界強度が大きい(耐電圧特性がよい)こと、熱伝導性が高いこと、耐熱性が高いこと、耐薬品性に優れること、および耐放射線性に優れることなどの種々の利点から注目を集めている。この炭化珪素に注目している分野は、例えば、原子力を含む重電、自動車および航空を含む運輸、家電、ならびに宇宙などと幅広い。炭化珪素の単結晶は、例えば特許文献1に記載されるような、溶液成長法で製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−264790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭化珪素からなる結晶育成の研究・開発において、溶液成長法で結晶を大型化した場合、育成させた当該単結晶を保持部材に固定しておくことが難しかった。本発明は、このような事情を鑑みて案出されたものであり、育成する結晶を安定的に固定することが可能な結晶育成装置および結晶の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の結晶育成装置は、坩堝内にある炭化珪素の融液に、保持部材の下端面に接着材を介して固定した炭化珪素からなる種結晶の下面を接触させて、該下面に前記融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶育成装置において、前記保持部材は炭素からなるとともに、前記接着材は、沸点が前記炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素の粒子とを含み、前記保持部材の前記下端面は、算術平均粗さRaが5μm以上30μm以下の粗面である。
【0006】
また、本発明の結晶の育成方法は、保持部材の下端面に固定された種結晶の下面を、坩堝内にある炭化珪素の融液に接触させて、前記保持部材を上方に引き上げることによって、前記種結晶の前記下面に前記融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶の育成方法において、前記保持部材の前記下端面を所定の粗さの粗面にする工程と、粗面にされた前記下端面に、沸点が前記炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素の粒子とを含む接着材を塗布する工程と、前記接着材を塗布する工程の後、前記種結晶を前記接着材に接触させることによって、前記種結晶を前記保持部材の前記下端面に前記接着材を介して固定する工程とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の結晶育成装置によれば、保持部材の下端面が粗面となっていることから、この下端面と種結晶の上面とを接着材を介して固定することによって、接着材に含まれる炭素の粒子が粗面の凹部に入り込み、接着材との接着強度を向上させることができる。その結果、種結晶が保持部材から剥離されることを抑制することができ、種結晶および種結晶の下面に成長した炭化珪素の結晶を安定的に保持部材に固定することができる。
【0008】
また、本発明の結晶の育成方法は、保持部材の下端面を粗面にする工程を有していることから、種結晶が保持部材から剥離されにくくすることができる。その結果、種結晶の下面に結晶を大きく成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る結晶育成装置の実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す結晶育成装置の一部を示す図であり、(a)は一部を拡大した断面図であり、(b)はさらにその一部を拡大した断面図である。
【図3】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図4】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図5】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図6】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図7】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図8】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図9】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【図10】図1の結晶育成装置の変形例を示す図であり、一部を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<結晶育成装置>
本発明に係る結晶育成装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。結晶育成装置1は、主に保持部材2、接着材3、種結晶4および融液5によって構成されている。以下に、図1を参照しつつ、結晶育成装置1の概略を説明する。
【0011】
坩堝6は、坩堝容器7の内部に配置されている。坩堝容器7は、坩堝6を保持する機能を担っている。この坩堝容器7と坩堝6との間には、保温材8が配置されている。この保温材8は、坩堝6の周囲を囲んでいる。保温材8は、坩堝6からの放熱を抑制し、坩堝6の温度を安定して保つことに寄与している。
【0012】
坩堝6は、育成する炭化珪素の単結晶の原料を内部で融解させる器としての機能を担っている。本実施形態では、坩堝6の中で、単結晶の原料(炭素および珪素)を融解させて、融液5として貯留する。本実施形態では、溶液成長法を採用しており、この坩堝6の内部で熱的平衡状態を作り出すことによって結晶の育成を行う。
【0013】
坩堝6は、加熱機構10によって、熱が加えられる。本実施形態の加熱機構10は、電磁波によって坩堝6を加熱する電磁加熱方式を採用しており、コイル11および交流電源12を含んで構成されている。坩堝6は、例えば炭素(黒鉛)によって構成されている。
【0014】
坩堝6の内部には、融液5が配置されている。融液5は、育成する炭化珪素の結晶を構成する元素である炭素および珪素が溶媒として溶融している。溶質となる元素の溶解度は、溶媒となる元素の温度が高くなるほど大きくなる。このため、高温下の溶媒に多くの溶質を溶解させた融液5が冷えると、熱的な平衡を境に溶質が析出する。この熱的平衡による析出を利用して、本実施形態が採用している溶液成長法では、種結晶4の下面4Bに結晶の育成を行っている。
【0015】
コイル11は、導体によって形成され、坩堝6の周囲を囲むように巻き回されている。交流電源12は、コイル11に交流電流を流すためのものであり、交流電流の周波数が高いものを用いることによって、坩堝6内の設定温度までの加熱時間を短縮することができる。
【0016】
本実施形態では、坩堝6を、次のようにして加熱している。まず、交流電源12を用いてコイル11に電流を流して、保温材8を含む空間に電磁場を発生させる。次に、この電磁場によって、坩堝6に誘導電流が流れる。坩堝6に流れた誘導電流は、電気抵抗によるジュール発熱、およびヒステリシス損失による発熱などの種々の損失によって、熱エネルギに変換される。つまり、坩堝6は、誘導電流の熱損失によって加熱される。なお、この電磁場によって融液5自体に誘導電流を流して発熱させてもよい。このように融液5自体を発熱させる場合は、坩堝6自体を発熱させなくてもよい。
【0017】
本実施形態では、加熱機構10として電磁加熱方式を採用しているが、他の方式を用いて加熱してもよい。加熱機構10は、例えば、カーボンなどの発熱抵抗体で生じた熱を伝熱する方式などの他の方式を採用することができる。この伝熱方式の加熱機構を採用する場合は、(坩堝6と保温材8との間に)発熱抵抗体が配置される。
【0018】
坩堝6の融液5には、搬送機構13によって単結晶の種結晶4が供給される。この搬送機構13は、融液5の中から育成した結晶を搬出する機能も担っている。搬送機構13は、保持部材2、および動力源14を含んで構成されている。この保持部材2によって、種結晶4および種結晶4の下面4Bに育成した単結晶の搬入出が行われる。種結晶4は、保持部材2の下端面2Aに取り付けられており、この保持部材2は、動力源14によって上下方向D1,D2に移動が制御される。本実施形態では、D1方向が物理空間上の下方向を意味し、D2方向が物理空間上の上方向を意味する。
【0019】
結晶育成装置1では、加熱機構10の交流電源12と、搬送機構13の動力源14とが制御部15に接続されて制御されている。つまり、この結晶育成装置1は、制御部15によって、融液5の加熱および温度制御と、種結晶4の搬入出とが連動して制御されている。制御部15は、中央演算処理装置、およびメモリなどの記憶装置を含んで構成されており、例えば公知のコンピュータからなる。
【0020】
このように保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定した種結晶4の下面4Bを融液5に接触させて、下面4Bに結晶を成長させることができる。
【0021】
次に、種結晶4および保持部材2などの結晶を固定する部分について詳細に述べる。
【0022】
保持部材2は、図2(a)に示すように、下端面2Aに種結晶4が接着材3を介して固定されている。ここで、図2(a)は、結種晶4、接着材3および保持部材2を含む部分を拡大した図である。保持部材2は、下端面2Aを有していればよく、下端面2Aは、平面視形状が四角形状などの多角形状、または円形状などの形状をなしている。保持部材2は、立体形状が、例えば棒状、直方体状などをなしている。
【0023】
保持部材2の下端面2Aは、種結晶4の上面4Aよりも大きい面積でもよいし、種結晶4の上面4Aよりも小さい面積でもよい。本実施形態では、保持部材2の下端面2Aは、種結晶4の上面4Aの面積よりも小さくなっている。なお、保持部材2の下端面2Aの面積が、種結晶4の上面4Aの面積以上となっている場合には、種結晶4の上面4A全体を、接着材3を介して固定することができる。そのため、種結晶4が保持部材2から剥離されることをさらに抑制することができる。
【0024】
また、保持部材2は、炭素から構成されている。保持部材2は、炭素を主成分とする材料によって構成されていればよい。保持部材2の炭素は、例えば炭素の多結晶体または炭素を焼成した焼成体などによって構成されている。このように保持部材2が、炭素の多結晶体または焼成体によって構成されていることによって、保持部材2内の気孔率が高くなっている。保持部材2の内部の気孔率は、例えば焼成条件などを調整することによって変化させることができる。なお、気孔率(%)の算出方法は、簡単に測定する計算方法として、例えば「気孔率(%)=体積÷質量×100」なる計算式を用いることができる。
【0025】
さらに、保持部材2は、下端面2Aが粗面となっている。保持部材2の粗面は、一部でも有していればよい。すなわち、保持部材2の粗面は、下端面2A全体に渡って設けられていてもよいし、一部にだけ設けられていてもよい。保持部材2の粗面は、下端面2A全体の面積に対して、例えば30%以上となるように設けることができる。
【0026】
保持部材2の下端面2Aの全体に渡って粗面となっている場合には、例えば接着材3に含まれる炭素が粗面となった下端面2Aの全体に渡って炭化された状態となることから、接着材3が保持部材2の下端面2Aから剥離しにくくすることができる。
【0027】
保持部材2の下端面2Aの粗面は、複数の凹部9で構成されている。下端面2Aの粗面は、算術平均粗さRaが、例えば5μm以上30μm以下となっている。保持部材2の下端面2Aの表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えばJIS B0601−2001によって確認することができる。一つの凹部9は、深さが、例えば5μm以上60μm以下となるように設定されている。
【0028】
接着材3には、図2(b)に示すように、炭素の粒子3aが含まれている。炭素の粒子3aは、粒径が、例えば0.7μm以上40μm以下に設定することができる。保持部材2の下端面2Aの表面粗さRaよりも、粒径の小さい炭素粒子を接着材3に含有させることによって、粗面を構成する凹部9にも炭素の粒子3aが入り込みやすくすることができる。
【0029】
そのため、接着材3が下端面2Aから剥離されにくくすることができる。なお、炭素の粒子3aは、粒径が、粗面の凹部9の深さよりも小さく設定されていれば、本発明の効果を奏するものである。接着材3は、その内部に含まれる炭素の粒子3aが、保持部材2の下端面2Aの表面と種結晶4の上面4Aの表面を、炭化することによって化学的に接着していると考えられる。
【0030】
本実施形態では、下端面2Aの粗面の凹部9に、接着材3の炭素の粒子3aが入り込むようになっている。このように下端面2の粗面と接着材3が接着していることから、保持部材4から接着材3が剥離することを抑制することができる。
【0031】
従来の保持部材の下端面は平坦だったため、下端面と炭素の粒子3aとが接触する箇所が少なく、接着強度が弱かった。その結果、保持部材から接着材が剥離しやすく、種結晶の下面に成長させる結晶を大型化することが困難だった。
【0032】
(結晶育成装置の変形例1)
接着材3には、沸点が炭化珪素の融点よりも低い材料(以下、気化材料という)を含んでいてもよい。ここで「炭化珪素の融点」としては、炭化珪素の融液5内に例えばチタンまたはクロムなどを含んでいる場合には、例えば融液5の温度を用いればよい。炭化珪素の融液5にチタンまたはクロムを含ませることにより、融液5に含まれる炭素の比率を大きくすることができ、種結晶4の下面4Bに成長させる炭化珪素の結晶の成長速度を向上させることができる。
【0033】
接着材3の気化材料は、具体的に、炭化珪素の融点(融点:2545℃)よりも低い材料として、例えばフェノール樹脂(沸点:約380℃)、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性材料が含まれている。なお、熱硬化性材料の沸点が測定しにくい場合には、例えば分解温度などを用いてもよい。これは、分解する際に、気体が発生すると考えられるからである。
【0034】
本変形例では、接着材3の内部に炭化珪素の融点よりも低い沸点を持つ気化材料が含まれている。そのことから、種結晶4を融液5に近づけた際に、例えば種結晶4を伝わるなどして接着材3の温度が上昇することによって、接着材3の内部に存在する気化材料が気体となって、気泡が生じる。ここで、下端面2Aが粗面となっていることから、下端面2Aの表面積が大きくなっており、接着材3の内部で発生する気泡が保持部材から抜けやすくなっている。
【0035】
このように接着材3の内部で発生する気泡が、接着材3の内部で滞留しにくくなっていることから、接着材3の接着強度の低下を抑制することができる。そのため、種結晶4の下面4Bに炭化珪素からなる結晶を大きく成長させて、種結晶4および種結晶4の下面4Bに成長した結晶の重量が増えたとしても、保持部材2から剥離されることを抑制することができる。その結果、種結晶4の下面4Bに成長させる結晶を大型化することができ、結晶の生産性を向上させることができる。
【0036】
従来の種結晶は、平坦な下端面の保持部材に接着材を介して固定されていることから、接着材の内部で発生した小さな気泡が多数滞留することによって、接着材が剥離しやすかった。そのため、種結晶が保持部材から脱落しやすいことから、種結晶の下面に成長させる結晶の大型化をすることが困難だった。
【0037】
(結晶育成装置の変形例2)
保持部材2は、図3に示すように、下端面2Aが、上下方向に垂直な水平面L1に対して傾斜していてもよい。下端面2Aと水平面L1とのなす角D1は、例えば0.5°以上45°以下となるように設定することができる。このように下端面2Aを、水平面L1から傾斜させる方法としては、例えば保持部材2の下端面2Aを傾斜させた状態で、粗面化する方法などを挙げることができる。粗面化する方法としては、例えば後述するように研磨法などを用いることができる。
【0038】
このように保持部材2の下端面2Aを水平面L1に対して傾斜させることによって、粗面となった下端面2Aの表面積を大きくすることができるため、接着材3との接着強度を向上させることができる。また、保持部材2の下端面2Aを、水平面L1から傾斜させることから、下端面2Aに当たった気泡が傾斜面に沿って移動しやすくすることができる。このように気泡が傾斜面に沿って移動しやすくなるため、保持部材2から気泡が抜けやすくなっている。
【0039】
(結晶育成装置の変形例3)
下端面2Aの端部は、図4に示すように、種結晶4の上面4Aと当接するように位置していてもよい。すなわち、下端面2Aの粗面の一部は、種結晶4の上面4Aと接するように配置されている。このように配置されていることから、種結晶4からの熱を保持部材2から抜けやすくすることができ、種結晶4の上面4Aから接着材3に伝わる熱を緩和することができる。その結果、接着材3で発生する気泡を少なくすることができる。
【0040】
さらに、下端面2Aの端部が種結晶4Aと当接するように位置していることから、凹部9より内側に位置する接着材3の内部で発生した気泡が、凹部9の内表面を通って、接着材3内に発生した気泡を保持部材2から抜けやすくすることができる。その結果、接着材3内に滞留する気泡を少なくすることができ、接着材3が剥離されにくくすることができる。
【0041】
(結晶育成装置の変形例4)
保持部材2は、図5に示すように、下端面2Aを含む部分が、炭化珪素からなる多結晶2’で構成されていてもよい。このように下端面2Aを含む部分が、炭化珪素からなる多結晶2’で構成されていることから、種結晶4と似た熱膨張係数を持つことになり、保持部材2の多結晶2’の部分と、種結晶4との間で熱膨張係数の差が小さくすることができる。その結果、接着材3に、多結晶2’と種結晶4との熱膨張係数の差に起因する応力の発生を抑制することができ、接着強度を維持することができる。
【0042】
(結晶育成装置の変形例5)
接着材3は、シリコンをさらに含んでいてもよい。接着材3にシリコンを含有させることによって、種結晶4との間で熱膨張係数の差を小さくすることができ、両者の間で発生する応力を抑制することができる。その結果、種結晶4が保持部材2から剥離されにくくすることができる。
【0043】
また、このように接着材3にシリコンを含んでいることによって、保持部材2、接着材3および種結晶4を融液5に近づけた際に、接着材3内に含まれる炭素の粒子3aとシリコンとを熱によって炭化珪素とした場合には、種結晶4をさらに強固に固定することができる。その結果、種結晶4との熱膨張係数の差を小さくすることができるとともに、種結晶4が保持部材2からより剥離しにくくすることができる。
【0044】
さらに、変形例4に示したように、下端面2Aを含む部分が炭化珪素からなる多結晶2’で構成されていた場合には、多結晶2’、種結晶4および接着材3との間で、熱膨張係数の差を小さくすることができるため、さらに種結晶4が保持部材2から剥離しにくくすることができる。
【0045】
(結晶育成装置の変形例6)
接着材3は、図6に示すように、保持部材2の下端面2Aの一部と、種結晶4の上面4Aの一部と固定する複数の接着体3’からなっていてもよい。このように接着体3’が複数の島状に、保持部材2の下端面2Aの一部と、種結晶4の上面4Aの一部とが固定されていることによって、接着体3’同士の間に空間を有するようになる。
【0046】
そのため、接着体3’の内部で発生した気泡が、保持部材2の粗面からだけでなく、この接着体3’同士の間の空間からも抜けやすくなり、種結晶4が保持部材2から剥離されにくくすることができる。
【0047】
(結晶育成装置の変形例7)
接着材3は、図7に示すように、保持部材2の下端面2Aと種結晶4の上面4Aとの間に位置する、炭化珪素からなる多結晶質の緩衝層17を有していてもよい。
【0048】
緩衝層17は、保持部材2の下端面2Aと種結晶4の上面4Aとから離れて位置している。そのため、緩衝層17の上面17Aと保持部材2の下端面2Aとの間、および緩衝層17の下面17Bと種結晶4の上面4Aとの間に、接着材3が配置されている。緩衝層17は、厚みが、例えば1μm以上3μm以下となるように設定することができる。
【0049】
このように接着材3の内部に、緩衝層17が配置されていることによって、接着材3の内部で発生した気泡を、緩衝層17の内部に取り込むことができ、種結晶4が保持部材2からより剥離されにくくすることができる。
【0050】
(結晶育成装置の変形例8)
保持部材2は、図8に示すように、粗面となった下端面2Aの一部に、種結晶4と接触する接触部分2”を有していてもよい。接触部分2”は、種結晶4の上面4Aと接触するように設定されている。そのため、接触部分2”は、粗面となった下端面2Aよりも種結晶4側に高くなっている。すなわち、接触部分2”は、保持部材2において、最下端面となっている。なお、接触部分2”は、保持部材2の下端面2Aが接触部分2”の外周を取り囲むように設けられていればよい。
【0051】
そのため、保持部材2と種結晶4とを接着材3を介して固定した際に、下端面2Aの粗面と種結晶4の上面4Aとの間に位置する接着材3によって両者が固定されるとともに、接触部分2”と種結晶4の上面4Aとの間に接着材3が入りにくくなっている。その結果、保持部材2の下端面2Aの中心付近に接着材3が存在しにくくなっていることから、当該中心付近で接着材3の内部で気泡が発生しにくくなっており、種結晶4が接着材3から剥離されにくくすることができる。
【0052】
また接触部分2”は、保持部材2の他の部分よりも気孔率が低く、炭素で緻密に構成されていてもよい。すなわち、接触部分2”は、気泡(気体)を通しにくくなっている。このように接触部分2”が、保持部材2の下端面2Aの中心を含む領域に設けられていることから、接着材3の内部で発生した気泡(気体)が、接触部分2”を通りにくくなっている。そのため、接触部分2”と種結晶4の上面4Aとの間に接着材3が入り込んで気泡が発生した場合であっても、気泡が、接触部分2”の表面を伝って(表面に沿って)、粗面となった下端面2Aに移動し、保持部材2から抜けやすくすることができる。
【0053】
(結晶育成装置の変形例9)
保持部材2は、図9に示すように、下端面2Aの粗面が、同心円状となるように設けられていてもよい。この場合でも、保持部材2の下端面2Aの粗面は、図9(b)に示すように、高さThが、例えば5μm以上30μm以下となるように設定することができる。
【0054】
下端面2Aの粗面は、厚み方向に垂直な水平面L1に平行な面部分の長さTdを出来るだけ少なくすればよいが、図9(c)に示すように面部分の長さTdが粗面の高さThよりも小さく設定されていれば、本発明の効果を奏するものである。そのため、面部分Tdの長さは、粗面の高さThによって設定することができ、例えば60μm以下となるように設定することができる。
【0055】
このように下端面2Aの粗面を同心円状とすることによって、接着材3の内部で発生した気泡が、それぞれの円周をなす凹部9に存在しやすくなる。そのため、気泡の発生する箇所を均等に分散することができ、一部分に気泡が集中して発生することを抑制することができる。このように接着材3で発生する気泡を分散させることができるため、接着材3が剥離されることを抑制することができる。
【0056】
このような同心円状の凹部9を持つ下端面2Aは、例えば、旋盤などで保持部材2の下端面2Aを加工することにより形成することができる。なお、同心円状の粗面は、例えばらせん状であってもよいし、渦巻き状であってもよい。
【0057】
また、同心円状の粗面を持つ下端面2Aが、種結晶4の上面4Aと当接されていた場合には、下端面2Aが同心円状となっていることから、下端面2Aと種結晶4との間で発生する熱の応力が一部分に集中することを緩和することができる。その結果、接着材3が剥離されるのをさらに抑制することができる。
【0058】
また、図10に示すように、同心円状の粗面を持つ下端面2Aは、中心(同心)に向かうにつれて、傾斜させてもよい。下端面2Aの傾斜は、下端面2Aの中心(同心)から、水平面に対する角度D2を持つように設定されている。このように下端面2Aに傾斜をつけることによって、外側の円の凹部9に存在する気泡が、さらに内側の円の凹部9に移動しやすくなる。接着材3の内部で発生する気泡が、一部に集中することを抑制することができる。
【0059】
<結晶の育成方法>
本発明の実施形態に係る結晶の育成方法について説明する。本実施形態の結晶の育成方法は、保持部材2の下端面2Aに固定された種結晶4の下面4Bを、坩堝6内にある炭化珪素の融液5に接触させて、保持部材2の上方に引き上げることによって、種結晶4の下面4Bに融液5から炭化珪素の結晶の育成を行なう。
【0060】
炭化珪素からなる単結晶は、結晶育成装置1によって製造することができる。結晶育成装置1は、坩堝6、坩堝容器7、加熱機構10、搬送機構13、および制御部15を有して構成されている。この結晶育成装置1では、溶液成長法を用いて単結晶の育成を行うものである。
【0061】
(保持部材の下端面を所定の粗さの粗面にする工程)
保持部材2の下端面2Aを粗面とする工程を有する。保持部材2の下端面2Aを所定の粗面とする方法としては、例えば、化学機械研磨法、または研磨布紙を用いる方法などを用いることができる。所定の粗面とするには、例えば所定の粒径の研磨砂を用いて研磨する方法などがある。この場合、研磨砂の粒径としては、算術平均粗さRaよりも大きいものを用いることができ、例えば7μm以上60μm以下のものを用いることができる。保持部材2の下端面2Aは、算術平均粗さRaが5μm以上30μm以下の粗面となるように設定することができる。
【0062】
(接着材を塗布する工程)
下端面2Aを粗面とする工程の後、粗面とされた下端面2Aに、接着材3を塗布する工程を有する。接着材3は、保持部材2の下端面2Aの全面に塗布される。種結晶4と保持部材2の下端面2Aとの間に、複数の接着体3’を有するようにする場合(結晶育成装置の変形例4の場合)には、例えば接着材3を保持部材2の下端面14の一部に塗布することによって形成してもよい。
【0063】
(種結晶を接着材を介して保持部材に固定する工程)
接着材3を塗布する工程の後、種結晶4を接着材3に接触させることによって、種結晶4を保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定する。種結晶4は、下端面2Aに塗布された接着材3に接触させる。
【0064】
種結晶4は、接着材3に接触させた状態で、例えば熱処理を行なってもよい。このように熱処理を行なうことによって、接着材3の内部に含まれる熱硬化性材料の硬化および炭素の炭化を行なうことができる。これによって、種結晶4と保持部材2とを接着材3を介して強固に固定することができる。
【0065】
このような接着材3の熱処理は、加熱炉(例えば、脱脂炉および焼成炉などを含む)を用いて、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気中で行なうことができる。加熱温度は、例えば150℃以上800℃以下に設定することができる。具体的には、例えば200℃の温度で1時間仮加熱し、次いで700℃で3時間本加熱を行なった後、炉内を室温まで冷却すればよい。
【0066】
このように保持部材2の下端面2Aに接着材3を介して固定された種結晶4の下面4Bを、融液5に接触させることによって、種結晶4の下面4Bに炭化珪素からなる結晶を成長させることができる。そして、保持部材2を少しずつ上方に引き上げることによって、種結晶4の下面4Bに結晶を成長させ続けることができる。
【0067】
従来の保持部材は、下端面全体が気孔率の高い緻密面となっていたことから、接着材の内部で発生した気泡が内部で滞留しやすくなっており、接着材が剥離しやすいという問題があった。
【0068】
本実施形態では、保持部材2の下端面2Aを粗面にする工程を有していることから、気孔率の高くなった緻密面を除去することができるため、接着材3の内部で発生した気泡(気体)が当該粗面から抜けやすくすることができる。その結果、接着材3の内部に存在する気泡を少なくすることができ、種結晶4が保持部材4から剥離されにくくすることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 結晶育成装置
2 保持部材
2A 下端面
2’ 多結晶
2” 接触部分
3 接着材
3a 粒子
4 種結晶
4A 上面
4B 下面
5 融液
6 坩堝
7 坩堝容器
8 保温材
9 凹部
10 加熱機構
11 コイル
12 交流電源
13 搬送機構
14 動力源
15 制御部
17 緩衝層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝内にある炭化珪素の融液に、保持部材の下端面に接着材を介して固定した炭化珪素からなる種結晶の下面を接触させて、該下面に前記融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶育成装置において、
前記保持部材は炭素からなるとともに、前記接着材は、沸点が前記炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素の粒子とを含み、
前記保持部材の前記下端面は、算術平均粗さRaが5μm以上30μm以下の粗面である
結晶育成装置。
【請求項2】
前記保持部材は、前記下端面が全体に渡って前記粗面となっている請求項1に記載の結晶育成装置。
【請求項3】
前記保持部材は、前記下端面が、上下方向に垂直な水平面に対して傾斜している請求項1または2に記載の結晶育成装置。
【請求項4】
前記保持部材は、前記下端面を含む部分が、炭化珪素からなる多結晶で構成されている請求項1〜3のいずれかに記載の結晶育成装置。
【請求項5】
前記接着材は、シリコンをさらに含んでいる請求項1〜4のいずれかに記載の結晶育成装置。
【請求項6】
前記接着材は、前記保持部材の前記下端面の一部と、前記種結晶の上面の一部とを固定する複数の接着体からなる請求項1〜5のいずれかに記載の結晶育成装置。
【請求項7】
前記接着材は、前記保持部材の前記下端面と前記種結晶の上面との間に位置する、炭化珪素からなる多結晶質の緩衝層を有している請求項1〜6のいずれかに記載の結晶育成装置。
【請求項8】
保持部材の下端面に固定された種結晶の下面を、坩堝内にある炭化珪素の融液に接触させて、前記保持部材を上方に引き上げることによって、前記種結晶の前記下面に前記融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶の育成方法において、
前記保持部材の前記下端面を所定の粗さの粗面にする工程と、
粗面にされた前記下端面に、沸点が前記炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素とを含む接着材を塗布する工程と、
前記接着材を塗布する工程の後、前記種結晶を前記接着材に接触させることによって、前記種結晶を前記保持部材の前記下端面に前記接着材を介して固定する工程とを有する
結晶の育成方法。
【請求項1】
坩堝内にある炭化珪素の融液に、保持部材の下端面に接着材を介して固定した炭化珪素からなる種結晶の下面を接触させて、該下面に前記融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶育成装置において、
前記保持部材は炭素からなるとともに、前記接着材は、沸点が前記炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素の粒子とを含み、
前記保持部材の前記下端面は、算術平均粗さRaが5μm以上30μm以下の粗面である
結晶育成装置。
【請求項2】
前記保持部材は、前記下端面が全体に渡って前記粗面となっている請求項1に記載の結晶育成装置。
【請求項3】
前記保持部材は、前記下端面が、上下方向に垂直な水平面に対して傾斜している請求項1または2に記載の結晶育成装置。
【請求項4】
前記保持部材は、前記下端面を含む部分が、炭化珪素からなる多結晶で構成されている請求項1〜3のいずれかに記載の結晶育成装置。
【請求項5】
前記接着材は、シリコンをさらに含んでいる請求項1〜4のいずれかに記載の結晶育成装置。
【請求項6】
前記接着材は、前記保持部材の前記下端面の一部と、前記種結晶の上面の一部とを固定する複数の接着体からなる請求項1〜5のいずれかに記載の結晶育成装置。
【請求項7】
前記接着材は、前記保持部材の前記下端面と前記種結晶の上面との間に位置する、炭化珪素からなる多結晶質の緩衝層を有している請求項1〜6のいずれかに記載の結晶育成装置。
【請求項8】
保持部材の下端面に固定された種結晶の下面を、坩堝内にある炭化珪素の融液に接触させて、前記保持部材を上方に引き上げることによって、前記種結晶の前記下面に前記融液から炭化珪素の結晶を成長させる結晶の育成方法において、
前記保持部材の前記下端面を所定の粗さの粗面にする工程と、
粗面にされた前記下端面に、沸点が前記炭化珪素の融点よりも低い材料と炭素とを含む接着材を塗布する工程と、
前記接着材を塗布する工程の後、前記種結晶を前記接着材に接触させることによって、前記種結晶を前記保持部材の前記下端面に前記接着材を介して固定する工程とを有する
結晶の育成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−71870(P2013−71870A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212775(P2011−212775)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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