説明

結晶質塊生成装置用るつぼおよびその生成方法

底部(7)の伝熱特性が、底部(7)にほぼ垂直に延びる軸に平行な側壁(8)の伝熱特性よりもかなり高いるつぼを開示する。前記底部(7)および側壁(8)は、同じ主要化学成分を有する材料から作られている。底部(7)は赤外線を通すことができるが、側壁(8)は赤外線を通すことができない。底部(7)は、非晶質シリカから作ることができ、側壁(8)は、不透明石英から成るセラミック材料から作ることができる。るつぼは、グラファイトからも作ることができる。装置は、るつぼの底部(7)と冷却手段(4)との間に配設されたグラファイト・フェルト(9)と、グラファイト・フェルト(9)を圧縮するための手段(10)とを含むことができ、それによって液相内に8℃/cm〜30℃/cmの範囲の温度勾配を規定することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側壁および底部を備え、底部が、底部にほぼ垂直方向に平行に、その方向に沿った側壁よりもかなり高い伝熱特性を有する、方位結晶法(directed crystallization)による結晶質塊生成装置用るつぼに関する。
【背景技術】
【0002】
光電池用途向けの多結晶固体シリコンを得るための従来技術は、
−シリコン塊の量および高さにかかわる、結晶化に必要な時間によって経済的に、
−少数キャリア拡散距離にかかわる、半導体性デバイスの性能によって技術的に、
−材料損失を生じ剥離を余儀なくさせる、調整不可の横方向成長によって、
−剥離を余儀なくさせる、るつぼからシリコン内への不純物拡散によって、
制約される。
【0003】
これらの制約を改善するために、炉設計および固体化される材料の質に関して相当な努力がなされている。このように、金属不純物の分離を可能にするプラズマ浄化および炉設計が、実際このようにして得られた太陽電池の性能改善を可能にしているが、結晶化シリコン塊の量および高さに関し、技術経済的制約に絶えず直面している。
【0004】
液体シリコン浴(bath)からのシリコンの固体化は、一般に方位結晶法、つまり固体化最前部(固体/液体界面)が、初期の固体化部分から移行すること、特に局部冷却によって結晶化された種結晶または第1の層から移行することによって達成される。このように、固体シリコン塊は、液浴を供給されて徐々に成長する。従来から使用されている2つの方法に、チョクラルスキー法およびブリッジマン法またはそれらの変形がある。チョクラルスキー法によると、多くの場合固体シリコンの結晶軸に対して配向される種結晶は、湯に浸漬され、次いでゆっくりと引き上げられる。この時液体シリコン浴および温度勾配は、不動のままあるが、ブリッジマン法によると、液浴は温度勾配に対して、または温度勾配が液浴に対して動かされる。
【0005】
本発明はブリッジマン法に関する。図1に示されるように、シリコンを含む容器は従来、断熱材料から作られる断熱筐体2内に配置された成形石英るつぼ1から成る。温度勾配は、断熱筐体2の上部に配置された加熱手段3と、断熱筐体2の底部に配置された冷却手段4との間に作り出される。液体シリコン6から得られた固体シリコン5は、多くの場合非均質体、例えば、種結晶の臨界寸法に達しておらず、クラスタ状の微粒子構造(「微粉(microgrit)」)を呈しているため、少数キャリア拡散距離が短くなる。別の問題は、当業者にはよく知られている破滅的現象である、結晶化周期の臨界終点に起因する液体ポケットの発生である。さらに、シリコン内の等温面同士が平行な面を呈していないため、それによっても得られた固体シリコンの質が損なわれる。
【0006】
特開平7−010672号公報は、ブリッジマン法による単結晶成長用電気炉内に設置されたプラチナ製るつぼについて記載している。このるつぼは結晶に接触させた液体を含み、この結晶は種結晶として働き、るつぼの底部内に配置されている。結晶の下には透明な物質が配置されている。るつぼの材料は、反射性がある。このようなるつぼは、実施するのが難しい。
【0007】
フランス特許公報第2509638号は、太陽電池作成用部材として使用されるように設計されたシリコン製シリンダを成形するための鋳型について記載している。この鋳型は、外部金属筐体内に、グラファイト繊維製またはセラミック製容器の薄い側壁の回りに配設された、例えばセラミック繊維で作られた断熱性の厚い皮膜を含む。例えばケイ砂で作られた底部層は、容器の下に配設されている。このような鋳型は、複雑でかさばる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、これらの短所、特に方位結晶法による結晶質塊生成装置および方法を改善して、特に、光電池用途に適した結晶構造を有する十分に純粋な多結晶シリコンの取得を可能にし、生産コストを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この目的は、添付の特許請求の範囲によって達成され、より具体的には、底部および側壁が、同じ主要化学成分を有する材料によって形成されているという事実によって達成される。
【0010】
他の利点および特色は、単に非限定例として挙げられ、添付の図面に示された以下に説明する本発明の特定の実施形態から、よりはっきりと明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図2に示された、方位結晶法による結晶質塊生成装置は、断熱組立体または筐体2と、側壁8にしっかりと固定されたるつぼ底部7とを含む。さらに、底部7および側壁は、単一部分を形成する。底部7は、底部7にほぼ垂直な軸に平行な方向に、その軸に沿ったるつぼの側壁8よりもかなり高い伝熱特性を有する。伝熱特性は、一方では材料の熱伝導率を含み、他方ではその赤外線透過率を含む。底部7および側壁8は、同じ主要化学成分を有する材料によって形成されている。従って、底部7は、側壁8に接合、例えば難なくはんだ付けすることができるため、これらの材料の熱膨張率は実質的に同じである。各材料の主成分は、例えば、SiO化学成分であることができるが、底部7を構成するSiO化学成分の空間における構成は、側壁8を構成するSiO化学成分の空間における構成とは異なる。
【0012】
加熱手段3および冷却手段4は、それぞれ断熱筐体2内のるつぼ上部に配置された熱抵抗体、および断熱筐体2内のるつぼ下部に配置された熱交換体によって形成されている。熱抵抗体および熱交換体は、るつぼを十分に覆うほど広い。加熱手段は、誘導加熱手段によっても形成することができる。
【0013】
以下に、シリコン塊の生成に関し、いくつかの特定の実施形態を説明する。しかし、本発明はいかなる種類の結晶質にも適用する。
【0014】
特定の一実施形態では、るつぼの底部7は赤外線を通すが、側壁8は赤外線を通さない。このようなるつぼは、非晶質シリカによって作られた底部7と、不透明石英セラミックで作られた側壁8とによって形成することができる。これらの材料はその主要成分としてSiOを有し、その結晶構造および空間内でのSiO成分の配置のみが異なる。従って、るつぼ内に含まれる固体シリコン5によって放射された赤外線は、透明な非晶質シリカを介して熱交換体4に伝達され、それによって固体シリコン5から熱が取り除かれ、少なくとも8℃/cmの温度勾配がるつぼ内に確立されることが可能となる。実際に、所定の温度勾配には、その温度勾配に比例した効率的な熱除去が不可欠である。一方、側壁8の不透過度によって壁を介した赤外線の交換が防止され、その結果液体シリコンの対流が起こる。従って等温面同士は、ほぼ平坦かつ平行となり、その結果固体化最前部もるつぼ底部7に平行な方向にほぼ平坦となる。
【0015】
るつぼが作製されるとき、石英不透明セラミック側壁8および非晶質シリカ底部7は、例えば側壁8および底部7の、接合を形成するように設計された数箇所をそれぞれ加熱することによって互いにしっかりと固定される。加熱温度は、約2000℃で材料の溶融温度より高く、これはブローランプを用いて行うことができる。次いで、これらの材料は密接に結合される。
【0016】
一方の非晶質シリカの熱伝導率および他方の不透明石英セラミックの熱伝導率は、約2W/(m℃)であり、実際は同じくらいの等級であることを留意されたい。伝熱差は、従って赤外線に対する透過率のみによる。
【0017】
シリコンの結晶化が起こると固相の厚さが増し、その結果固体化最前部は、るつぼの底部から離れて上向きに進む。シリコンの溶融温度は1410℃なので、1410℃の等温面はその時るつぼの底部から離れ、従って結晶化工程中にるつぼ底部における温度は低下する。しかし、いかなる物体から放射によって放出された出力も、温度とともに低下する。
【0018】
冷却手段4によって除去される熱出力が、全固体化工程を通して実質的に一定に留まるためには、装置(図2)において、るつぼの底部と冷却手段4との間に配置されたグラファイト・フェルト9と、シリコンの結晶化中のグラファイト・フェルトの圧縮手段10とを組み込むことが可能である。図2では、冷却装置4およびグラファイト・フェルト9は、圧縮手段10がるつぼおよび冷却手段に対して圧力を与えるように、圧縮手段10とるつぼとの間に配置されている。従って、グラファイト・フェルト9の厚さは低減し、その熱伝導率が増大する。グラファイト・フェルト9の熱伝導率による熱伝達は、従って圧縮手段10によって調整することができる。固体化工程中に、圧縮力を徐々に増加して、るつぼの底部を介した放射による熱伝達の低減を補償することができる。従って、固体化工程中に、るつぼ内の温度勾配を調整し、結晶化率の増大を可能にする8℃/cm〜30℃/cm、好ましくは10℃/cm〜20℃/cmから成る値に維持することができる。無圧縮グラファイト・フェルトの厚さは5mmであるが、その厚さは圧縮下では3.5mmである。
【0019】
熱交換体は通常、冷却液回路を有し、冷却液は用途に応じて、例えば使用温度が300℃未満を有する合成油、または、例えばヘリウムなどの、例えば圧力下のガスなど高温で動作する流体であることができる。固体化全体を通して、除去された出力が一定となるように、調整を利かせた方法で冷却液の温度を変えることが可能である。
【0020】
特定の別の実施形態では、底部7および側壁8は、異方熱伝導特性を有する同じ材料からできた板材によって形成されている。板材の熱伝導は、板材の平面において、この平面に垂直方向の熱伝導率よりもかなり低い。例えば、その幾何構造のため、高異方特性を有するグラファイトによってるつぼを実現することができる。特に、板材の平面において低熱伝導率を、板材に垂直方向に高熱伝導率を有するグラファイト板材によって形成された底部および側壁を有するるつぼを実現することができる。従って、シリコンの熱エネルギーは、底部7を介した熱伝導によって熱交換体に伝達されるが、側壁内の熱伝導は、底部にほぼ垂直なこの軸に対して平行な方向には非常に低い。この実施形態は、少なくとも8℃/cmの温度勾配が確立されること、およびほぼ平坦な固体化最前部が達成されることも可能にしている。
【0021】
好ましい実施形態では、るつぼは、側壁の内面および/または外面上に皮膜11を含んでおり、それが側壁の伝熱特性の加減を可能にしている。側壁8の内面上の窒化シリコン堆積物は、例えば側壁8の放射率が低減されることを可能にし、従って放射による熱伝達が低減されることを可能にしている。側壁8の外面上に堆積された反射物質を含む皮膜も、側壁8を介した熱伝達が低減されることを可能にしている。
【0022】
非限定的な数値例によれば、側面が450mmおよび高さが250mmの四角いるつぼは、128kgのシリコンに相当する50リットルの液体シリコンで満たされる。通常、るつぼの側壁厚さは10mm、また、るつぼの底部厚さは10mmである。有利なことに、結晶化は決められた速度20mm/hで行われるので、必然的に12時間30分続く。るつぼの上部と底部との間の初期の温度差は375℃であり、それは液相における15℃/cmの温度勾配に相当する。ジュール効果によって熱抵抗体内で放散された出力Pは、断熱筐体2によって外部に伝達された熱損失は度外視して、るつぼ下部に位置する熱交換体の位置で本質的に回収される。出力Pに加えて、結晶化が起こるときに液体/固体移行の潜熱によって再生された出力Pも、熱交換体の位置で回収される。この例で考察された装置の場合、液相における温度勾配と液体シリコンの熱伝導率(56W/(m℃))とに左右される出力Pは約17kWであるが、結晶化速度に左右される出力Pが、約5kWであるため、その時熱交換体内で除去される出力は約22kWである。完全に透明なるつぼ底部7を考えると、固体シリコン温度がるつぼ底部で1150℃の場合、20℃の温度に維持された熱交換体によって、放射により22kWの熱出力を除去することができ、シリコンの放射率は約0.5である。
【0023】
本発明は、光電池の用途に適した結晶構造を有する、十分に純粋な多結晶シリコンの調整を利かせた結晶化を可能にする。本発明は、より速い結晶化速度を得ることも可能にして、既知の技術で得られた高さよりも高い多結晶シリコン塊を生成するので、冷却手段に使用される流体のより高い効率を達成することが可能である。8℃/cm〜30℃/cmから成る温度勾配、るつぼの熱的異方性およびるつぼ周りの熱集結によって、固体化最前部は、より安定化され、金属不純物の分離は改善され、また結晶粒の大きさおよび構造が改善される。その結果、このようにして得られた多結晶シリコンは、より長い少数キャリア拡散距離を特徴とし、そういう理由で光起電素子の性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来技術による、方位結晶法による結晶質塊生成装置を示す図である。
【図2】本発明によるるつぼを含む、本発明による装置を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
2 筐体
3 加熱手段
4 冷却手段
5 固体シリコン
7 底部
8 側壁
9 グラファイト・フェルト
10 圧縮手段
11 皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁(8)および底部(7)を備え、前記底部(7)が、前記底部にほぼ垂直方向に平行に、前記方向に沿った前記側壁(8)よりもかなり高い伝熱特性を有する、方位結晶法による結晶質塊生成装置用るつぼにおいて、前記底部(7)および側壁(8)が、同じ主要化学成分を有する材料によって形成されることを特徴とするるつぼ。
【請求項2】
前記底部(7)が、赤外線を通し、前記側壁(8)が赤外線を通さないことを特徴とする、請求項1に記載のるつぼ。
【請求項3】
前記底部(7)が非晶質シリカ、前記側壁(8)が不透明石英セラミックから作られることを特徴とする、請求項2に記載のるつぼ。
【請求項4】
前記底部(7)および前記側壁(8)が、異方熱伝導特性を有する同じ材料から作られた板材によって形成され、前記板材の熱伝導率が、前記板材の平面において、この平面に垂直なその熱伝導率よりもかなり低いことを特徴とする、請求項1に記載のるつぼ。
【請求項5】
前記るつぼが、グラファイトから作られることを特徴とする、請求項4に記載のるつぼ。
【請求項6】
前記るつぼが、前記側壁(8)の少なくとも1つの面上に少なくとも1枚の皮膜(11)を備えることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のるつぼ。
【請求項7】
前記皮膜(11)の材料が、窒化シリコンおよび反射物質から選択されることを特徴とする、請求項6に記載のるつぼ。
【請求項8】
るつぼを含み、前記るつぼが、断熱筐体(2)内において前記るつぼの上部に配置された加熱手段(3)と、前記るつぼの下部に配置された冷却手段(4)との間に配置された、方位結晶法による結晶質塊生成装置において、前記るつぼが、請求項1から7のいずれか一項によるるつぼであることを特徴とする装置。
【請求項9】
前記るつぼの前記底部(7)と前記冷却手段(4)との間に配置されたグラファイト・フェルト(9)と、前記結晶質の結晶化中に前記グラファイト・フェルト(9)を圧縮するための圧縮手段(10)とを含むことを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
請求項8および9のいずれか一項による装置を使用し、それによって液相において8℃/cmから30℃/cmから成る温度勾配を規定することを特徴とする、方位結晶法による結晶質塊生成方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−526751(P2006−526751A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505792(P2006−505792)
【出願日】平成16年4月9日(2004.4.9)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000894
【国際公開番号】WO2004/094704
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(505278218)
【氏名又は名称原語表記】APOLLON SOLAR
【出願人】(505383246)
【氏名又は名称原語表記】CYBERSTAR
【出願人】(505383257)ウエフデ、アンデュクスィオン、ソシエテ、アノニム (2)
【氏名又は名称原語表記】EFD INDUCTION SA
【Fターム(参考)】