説明

結露防止剤

【課題】ナノメートルオーダーの微粒子の粒子間に形成される多孔質構造を有する多孔質材料及びその吸放湿機能を利用した新しい調湿剤、及び結露防止剤を提供する。
【解決手段】金属、金属酸化物又は金属含水酸化物等のナノメートルオーダーの微粒子が、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積された構造体からなり、該微粒子間に、ナノメートルサイズの空孔を有する多孔質材料、その調製方法、及び該方法により得られた多孔質材料からなる調湿剤、及び結露防止剤。
【効果】ナノメートルオーダーの粒子間に形成された、ナノメートルサイズの空孔の多孔質構造を有する多孔質材料、及び該多孔質材料の有する吸放湿機能を利用した新しい調湿材料、及び結露防止材料を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿剤、及び結露防止剤として有用な多孔質材料、その調製方法、及びその用途に関するものであり、更に詳しくは、ナノメートルオーダーの金属、金属酸化物、金属含水酸化物等よりなる微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させた構造体からなり、該微粒子間に、細孔半径が1nmから10nmのナノメートルサイズの空孔を有し、所定の相対湿度域において優れた吸放湿特性を有する新規多孔質材料、その調製方法、及びその用途に関するものである。従来、一般に、材料自体が多孔質な材料を使用して調湿材料が製造されていた調湿材料の技術分野において、本発明は、ナノメートルオーダーの微粒子の粒子間に形成されるナノメートルサイズの空孔の多孔質構造を有する新しい多孔質材料を提供すること、及びナノメートルオーダーの微粒子の粒子間に形成された特定の多孔質構造の、ナノメートルサイズの空孔の有する吸放湿機能を利用した新しい調湿材、及び結露防止剤を提供すること、を特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、我国の住宅建築様式においては、例えば、床下は、周囲をコンクリート側壁等で覆って、一辺が肩幅程度の矩形の出入口を空けただけのものが多く、風通しが不良なために多湿になりがちであり、そのことが、木材腐朽菌の繁殖や湿気を好む白アリによる被害の原因となっている。そのため、従来から建築物床下の腐蝕を防止したり、生活の快適化、及び衛生化を図るために適した湿度環境を提供する試みが種々行なわれてきた。例えば、木炭、及び天然軽石等の調湿剤を床下地盤に直接撒いて、床下空間の湿度を低減する方法が古くから行なわれていた。しかし、この種の方法では、これらの材料の吸湿能力には限界があり、その効果も充分ではなかった。
【0003】
また、最近では、調湿材料として、珪藻土、アロフェン、セピオライト、及び鹿沼土等の無機系の粘土鉱物や、炭、及びシリカゲル等が一般に使われている。しかしながら、無機系の粘土鉱物を調湿材料とした場合、一般に、吸湿能力はあるが、放湿能力が劣っているため、長期間の使用に対して充分な調湿能力を持ち合わせておらず、更に、得られる調湿材料の産地により水蒸気の吸着量も大きく異なる。また、調湿材料が水蒸気を急激に吸着及び脱着する湿度範囲もその産地により異なり、所望の湿度範囲で吸放湿する材料の選定が困難である。調湿材料を、特に、床下の調湿に用いようとする場合、高湿度下での吸放湿が重要であるが、天然鉱物や炭等は、吸湿・放湿曲線の立上がりが相対湿度50%から60%にあり、床下調湿に適した相対湿度75%から93%、特に好ましい相対湿度80%付近では、常に飽和している状態となり、必ずしも最適な調湿材料と言えるものではない。
【0004】
また、シリカゲルは、一度吸湿すると、加熱しない限り水分を放出しないので、床下の調湿材料としては不適当である。また、木材の腐れの原因となる腐朽菌の育成条件は、相対湿度80%以上であるため、床下調湿材としては、相対湿度80%付近において充分な吸湿力を求められる。一方、調湿能力を長期間維持するためには、相対湿度が低下した時、好ましくは相対湿度60%前後の時に、水蒸気を放出し、調湿能力が回復するものでなければならない。
【0005】
また、近年では、省エネ性を高めるために、住宅の高気密・高断熱化が進み、押入等の換気が不十分な場所においては、結露が生じやすく、その対策のために、塩化カルシウム等の乾燥剤が使用されることが多い。しかし、これらの潮解性を有する塩類は、繰り返し利用が困難であり、そのために、相対湿度が低下した時、好ましくは相対湿度60%前後の時に、水蒸気を放出し、調湿能力が回復する材料が、押入等の結露防止用にも求められていた。このような調湿機能を有する天然材料として、稚内層珪質頁岩が報告されており(非特許文献1参照)、床下調湿材として市販されているが、産出地が限られており、安定供給の面で難点がある。
【0006】
モンスーン気候帯に属し、比較的湿潤な環境である我が国においては、上述のような住環境に限らず、結露対策は、重要な課題である。例えば、各種機械設備を設置する機械室や工場棟等では、空調管理が必ずしも充分でない場合、制御盤内等で結露が発生し、腐食、漏電等のトラブルの要因となったりもするので、結露対策が必要である。
【0007】
相対湿度80%付近で充分な調湿能力が期待できる多孔質材料の製造技術として、例えば、γ―アルミナ多孔体の製造方法がある(特許文献1参照)。この種の方法によれば、通常、2nmから4nm付近に細孔径の揃った鋭いピークを示し、10nmから数十nm付近にもピークを示し、平均孔径は3nmから6nm程度のγ−アルミナ多孔体を得ることができる。しかし、この種の材料は、高湿度域である相対湿度90%から95%において毛管凝縮により水蒸気を吸収することが期待される半径4nmから10nmの細孔が少ないため、結露防止材料としては好ましくない。また、上述の製造方法において、γ―アルミナ微粒子を連結している非晶質シリカを完全に溶解してしまうと、細孔構造が崩壊してしまうため、結露防止材料としての多孔質材料の製造方法としては難点がある。
【0008】
一方、無機系以外の調湿材料としては、例えば、平均粒子径が200μmから1000μmの木粉原料を主成分として熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を配合して、熱成形したもの(特許文献2参照)や、ポリオールと吸水性樹脂の分散体を、ポリイソシアネートと反応させて発泡ウレタン樹脂とした化粧材用調湿材(特許文献3参照)、等が報告されているが、この種の調湿剤では、製造コスト、調湿機能等の面で難点がある。
【0009】
このように、従来、種々の調湿材料が知られているが、現状では、各々に問題点があって充分に満足いくものはなく、また、床下調湿に適した相対湿度域で充分に吸放湿し、手軽に調湿効果が長時間に亘って有効に発揮できる調湿材料として期待される稚内層珪質頁岩は、安定供給の面で難点があるため、当技術分野においては、従来材のような問題点のない新たな調湿材料の開発が強く要望されていた。
【0010】
本発明者らは、以前、相対湿度50%から70%の環境を自律的に維持する材料として、γ−アルミナ系多孔質材料の研究を行った際、熱処理温度条件をムライトが生成する温度域にした場合、細孔半径1nmから10nmのブロードな細孔分布を有する多孔質材料が得られる可能性を見出した。その後、更に、床下調湿や押入等の結露防止に適した相対湿度60%から90%、特に好ましい相対湿度80%付近で吸湿能力を有し、住宅の床下や押入等を適度な湿度に長期間に亘って保つことができる結露防止剤について鋭意研究を重ねた。
【0011】
その結果、カオリン系鉱物を加熱して、ムライト相と非晶質シリカとに相分離された熱処理物を調製し、次いで、得られた熱処理物をアルカリ又はフッ酸にて処理して非晶質シリカを溶出させることにより得られる多孔質材料が、ある限られた温度領域で処理した場合においてのみ、細孔半径1nmから10nm付近のブロードな細孔分布を有し、相対湿度変動に応じて吸放湿を繰り返すことで、調湿能力が長期間持続する結露防止剤として使用できることを見出した(特許文献4参照)。
【0012】
【特許文献1】特開平7−267632号公報
【特許文献2】特開2004−122729号公報
【特許文献3】特開2001−310996号公報
【特許文献4】特開2004-35380号公報
【非特許文献1】セラミックス協会学術論文誌、109巻、p.457−460、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の諸問題を抜本的に解決することが可能な新しい調湿材料を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、ケルビンの毛管凝縮理論に基づく調湿現象を発現し得る、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する多孔質構造を形成するためには、材料自体が多孔質でなくとも、材料粒子間の空隙に適切な孔径の空孔を形成できれば、材料に調湿機能を付与できること、また、ナノメートルオーダーの金属、金属酸化物あるいは金属含水酸化物等の微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させることにより、ナノメートルサイズの空孔を形成することができること、更に、これを熱処理することにより容易に除湿能力を回復させることができ、更に、再利用が可能な結露防止剤を調製することができること、を見出し、更に研究を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明は、ナノメートルオーダーの微粒子の微粒子間にナノメートルサイズの空孔を形成した多孔質材料を提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記多孔質材料の優れた吸放湿機能を利用した、床下の調湿や押入等の結露防止に適した相対湿度75%から93%、特に好ましい相対湿度80%付近で吸湿力を有しながら、相対湿度60%付近においては放湿し、住宅の床下や押入等を適度な湿度に長期間に亘って保つことができる新しい調湿剤、及び結露防止剤を提供することを目的とするものである。
【0015】
また、本発明は、ケルビンの毛管凝縮理論に基づき、相対湿度75%から93%の領域で水蒸気吸着量の増加を示す細孔半径1nmから10nm付近の細孔分布を有する上記多孔質材料の用途を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記多孔質材料を有効成分として含有する材料を熱処理することにより容易に調湿性能を回復させることができ、再利用が可能な新しい調湿材、及び結露防止剤を提供することを目的とするものである
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)ナノメートルオーダーの微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積した構造体からなり、該微粒子間に、ナノメートルサイズの空孔を有する多孔質構造を形成したことを特徴とする多孔質材料。
(2)ナノメートルオーダーの微粒子が、平均粒径1nmから30nmの微粒子である上記(1)に記載の多孔質材料。
(3)粒子間の空孔が、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する上記(1)に記載の多孔質材料。
(4)ナノメートルオーダーの微粒子が、金属、金属酸化物、又は金属含水酸化物よりなる上記(1)に記載の多孔質材料。
(5)金属酸化物、又は金属含水酸化物が、アルミニウム酸化物、又はアルミニウム含水酸化物である上記(4)に記載の多孔質材料。
(6)300℃前後の熱処理に対して、耐熱性を有する上記(1)に記載の多孔質材料。
(7)上記(1)から(6)のいずれかに記載の多孔質材料からなることを特徴とする調湿剤。
(8)上記(1)から(6)のいずれかに記載の多孔質材料からなることを特徴とする結露防止剤。
(9)上記(7)に記載の調湿剤を用いて、床下又は室内を調湿することを特徴とする床下又は室内の調湿方法。
(10)上記(8)に記載の結露防止剤を用いて、床下又は室内の結露を防止することを特徴とする床下又は室内の結露防止方法。
(11)ナノメートルオーダーの微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させることにより、該微粒子間に、ブロードな細孔分布を有するナノメートルサイズの空孔を有する多孔質構造を形成することを特徴とする多孔質材料の調製方法。
(12)ナノメートルオーダーの微粒子の平均粒径が、1nmから30nmである上記(11)に記載の多孔質材料の調製方法。
(13)粒子間の空孔が、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する上記(11)に記載の多孔質材料の調製方法。
(14)ナノメートルオーダーの微粒子が、金属、金属酸化物、又は金属含水酸化物である上記(11)に記載の多孔質材料の調製方法。
(15)金属酸化物、又は金属含水酸化物が、アルミニウム酸化物、又はアルミニウム含水酸化物である上記(14)に記載の多孔質材料の調製方法。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、ナノメートルオーダーの微粒子、例えば、金属、金属酸化物、又は金属含水酸化物よりなる微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させることにより、該微粒子間に、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する空孔を形成した特定の多孔質構造を持つ多孔質材料を製造し、提供する点、及び上記多孔質材料からなる調湿剤、及び結露防止剤を提供する点に特徴を有するものである。本発明の多孔質材料は、材料自体が多孔質である必要はなく、ナノメートルオーダーの材料粒子間の空隙にナノメートルサイズの空孔を形成して材料粒子間に特定の多孔質構造を構築した点に特徴を有するものである。
【0018】
本発明の多孔質材料は、ナノメートルオーダーの微粒子が、平均粒径1nmから30nmの範囲にブロードな細孔分布を有すること、及び粒子間の空孔が、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有すること、を特徴としている。また、本発明の多孔質材料は、上記ナノメートルオーダーの微粒子が、金属、金属酸化物、又は金属含水酸化物よりなること、該金属酸化物、又は金属含水酸化物は、アルミニウム酸化物、又はアルミニウム含水酸化物であること、及び300℃前後の熱処理に対して、耐熱性を有すること、を特徴としている。本発明の調湿剤は、上記多孔質材料を有効成分として含むことを特徴とするものである。また、本発明の結露防止剤は、上記多孔質材料を有効成分として含むことを特徴とするものである。
【0019】
本発明の多孔質材料の多孔質構造について説明すると、本発明の方法で形成される多孔質構造は、微粒子の集積体からなり、該集積体を構成する粒子サイズを適宜調整することにより、多孔質構造を任意に制御することが可能である。多孔質構造を形成する材料としては、その組成よりも粒子サイズが重要であり、粒子間の空隙が、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有するためには、少なくとも数十ナノメートル以下、好適には、1nmから30nmの粒径を有する粒子を用いることが必要とされる。
【0020】
本発明において、微粒子間の空隙を損なうことなく微粒子を充填、集積して任意のナノメートルサイズの空孔を形成するには、具体的には、1nmから30nmの粒径の微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことがないよう、過度な圧力を掛けることなく堆積又は圧粉といった方法により充填することが好適である。本発明において、ナノメートルオーダーの微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させるとは、上記粒子間に本来的に形成される空隙を略維持した状態で粒子を任意の手段で充填、集積させることを意味するものであり、具体的には、上記空隙が維持されるように、過度な圧力を掛けることなく堆積、圧粉する等の充填手段で充填し、集積させる方法が例示される。しかし、充填、集積の手段は、これらに制限されるものではなく、上記空隙を損なうことなく粒子を充填、集積させることができる手段及び方法であれば同様に使用することができる。
【0021】
本発明では、平均粒径が1nmから30nm前後の微粒子を、その粒子間へ空隙を損なうことなく充填、集積させることにより、ナノサイズの空孔を形成した、多孔質構造を構築することが可能となる。このように処理した集積体の粒子間には、例えば、約1nmから30nm程度、好ましくは約1nmから10nmを含む空孔が形成される。また、本発明では、集積体の粒子の粒径、製造条件、及び処理条件等を調整することにより空孔の孔径を任意にコントロールすることができる。空孔の孔径をコントロールするための具体的方法としては、好適には、例えば、粒子の粒径を適宜選択することで空孔の孔径を制御する方法、及び異なる粒径の粒子を配合することで、形成される空孔の孔径を制御する方法が例示されるが、これらに制限されるものではない。
【0022】
本発明では、ナノメートルオーダーの微粒子として、好適には、例えば、金属酸化物、又は金属含水酸化物が使用されるが、具体的には、例えば、アルミニウム酸化物(アルミナ)、アルミニウム含水酸化物(ベーマイト、ギブサイト等)等が例示される。本発明では、好適には、ナノメートルオーダーの材料として、これらのアルミニウム酸化物系材料が好適な材料として使用されるが、これらに制限されるものではなく、これらと同等もしくは類似のものであれば、他の金属系酸化物等であっても同様に使用することができる。調湿現象は、基本的には、ケルビンの毛管凝縮理論に基づくものであるため、多孔質構造の形成に用いる材料の材質には基本的には依存しない。
【0023】
そのため、本発明で用いられる材料は、水との相互作用によりその性状を変化させるもの、例えば、潮解、溶解等により形状が消失する可溶性の塩類微粒子、膨潤等により変形し得る高分子系微粒子、水と化学反応する金属あるいは金属酸化物系微粒子等でない限り、その種類及び組成が特に限定されるものではない。本発明においては、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する多孔質構造を持つ多孔質材料が、調湿剤、及び結露防止剤として利用可能な多孔質構造の多孔質材料として例示される。本発明では、多孔質材料の粒径をより精密に制御することにより、ケルビンの毛管凝縮理論に基づく調湿現象が生じる相対湿度条件を精密に調整することが可能である。
【0024】
この場合、金属酸化物あるいは金属含水酸化物が熱的、化学的に安定な条件であれば、材料自体は変化することがなく、当然の結果として、材料粒子間に形成される空隙も影響を受けることはない。一般的に、結露防止剤は、吸湿により、その性能が徐々に低下し、吸湿飽和に至ると無力化するが、本発明では、材料が影響を受けない範囲での熱処理により、吸湿性能を容易に回復させることが可能である。例えば、本発明の結露防止剤を、50℃から300℃の温度で、熱処理することにより、吸湿飽和した吸湿能力を再生することができる。本発明においては、材料の金属酸化物あるいは金属含水酸化物が熱的、化学的に安定な条件で、材料を粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させるが、その具体的な方法としては、前述のように、空隙を損なうことがないよう、過度な圧力を掛けることなく堆積又は圧粉するといった方法が例示される。
【0025】
上記方法により、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する多孔質構造を有し、ケルビンの毛管凝縮理論に基づき、相対湿度75%から95%の領域で水蒸気吸着量の増加を示す多孔質材料を調製することができる。本発明では、平均粒径1nmから30nmの微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させることにより、細孔分布が精密に制御された、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する多孔質材料を調製することができる。
【0026】
このように、本発明では、例えば、平均粒径1nmから30nmの微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させることにより、該空隙に、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布の空孔を有する多孔質構造からなる多孔質材料を製造することが可能であり、また、これらの製造工程における処理条件を調節することにより、細孔分布が精密に制御された、所定の相対湿度の領域において優れた吸放湿特性を有する、調湿剤、及び結露防止剤として有用な多孔質材料を製造し、提供することができる。
【0027】
本発明の多孔質材料は、床下等の調湿には、例えば、そのまま散布して用いることが可能であり、また、押入等の結露防止には、例えば、通気性を有する容器等に充填して使用することが可能である。また、該多孔質材料を繊維等に漉き込み、紙製又は布製シート形状にて使用することも可能である。また、上記多孔質材料は、その調湿性能等を妨げないような適宜の工夫を付加することで、例えば、内装建材等の原材料として利用することができる。しかし、本発明の、多孔質材料の調湿剤及び/又は結露防止剤の使用形態は特に制限されるものではなく、それらの製品の形態については製品の種類及び大きさ等に応じて任意に設計することができる。
【0028】
従来材では、主に、粒子自体が多孔質性を有する材料が調湿剤として使用されていた。これに対して、本発明では、ナノメートルオーダーの微粒子が、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積された構造体からなり、該微粒子間に、ナノメートルサイズの空孔を有する多孔質材料が使用される。本発明の多孔質材料は、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する多孔質構造を有し、ケルビンの毛管凝縮理論に基づき、相対湿度75%から93%の領域で水蒸気吸着量の増加を示す。該多孔質材料は、後記する実施例に示されるように、その吸着・脱着等温線からみて、吸着等温線の立ち上がりは約80%付近であり、相対湿度75%から93%の範囲での吸湿量は、約12mass%であること、脱着等温線からは、相対湿度約70%において、相対湿度75%から93%の範囲で吸着していた水蒸気は放湿され、結露防止能力が回復されること、等の特性を有する。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、1)ナノメートルオーダーの微粒子間に、細孔半径が1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する空孔を形成した特定の多孔質構造を有し、優れた吸放湿機能を有する多孔質材料を提供することができる、2)上記多孔質材料を利用することにより、ケルビンの毛管凝縮理論に基づき、相対湿度75%から93%の領域で水蒸気吸着量の増加を示す調湿剤又は結露防止剤を提供することができる、3)相対湿度75%から93%の領域で水蒸気吸着量の増加を示す上記多孔質材料を用いて所定の空間を調湿する該空間の調湿方法及び結露防止方法を提供することができる、4)該調湿剤及び結露防止剤は、300℃、2時間の熱処理程度では調湿性能には殆ど影響を与えないため、吸湿によって調湿性能が低下した場合でも、熱処理するだけで、容易に、かつ短時間でその調湿性能を回復し得る再利用可能性を有する、5)住宅の床下又は室内を適度な湿度に保つ、調湿剤又は結露防止剤を提供することができる、という格別の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
(1)アルミニウム含水酸化物による多孔質構造の構築
材料として、比表面積126m/g、平均粒子サイズ30nmのアルミニウム含水酸化物(ベーマイト)を用意した。このベーマイト粒子を、過度な圧力を掛けることなく充填することにより、その粒子間の空隙を損なうことなく集積し、粒子間の接触により粒子間の空隙に、ブロードなナノメートルサイズの細孔分布を有する空孔を形成した特定の多孔質構造を構築した。
【0032】
(2)測定方法
比表面積は、105℃で加熱・真空脱気処理した試料を用いて、窒素ガスを用いたBET法により、比表面積自動測定装置(Sorptomatic 1900,Calro Erba社)で測定した。細孔径分布は、比表面積自動測定装置で測定した窒素吸着等温線をDollimore−Heal法により解析して求めた。水蒸気吸着量は、測定温度(25℃)にて真空脱気処理した試料を用いて、吸着平衡測定装置(EAM−01,JTトーシ(株))で、相対湿度10%から95%の範囲で測定した。
【0033】
(3)結果
本実施例において、粒子間の空隙として形成され、調湿に寄与し得ると考えられる細孔容積は、0.47ml/gであった。また、その細孔径分布を図1(実施例1)に示す。細孔半径1nmから30nmの範囲にブロードな細孔分布を有することが判る。また、その吸着・脱着等温線を図2(実施例1)に示す。吸着等温線の立ち上がりは約80%付近であった。相対湿度75%から93%の範囲での吸湿量に着目すると、約12mass%であった。脱着等温線からは相対湿度約70%において、相対湿度75%から93%の範囲で吸着していた水蒸気は放湿され、結露防止能力が回復することが示された。
【0034】
比較例
(1)試料の調製
比較例として、実施例1と同組成であるが、比表面積12m/g、粒子サイズ200nmのアルミニウム含水酸化物(ベーマイト)を用意した。このベーマイト粒子を過度な圧力を掛けることなく充填することにより粒子間の接触による空隙を形成した。
【0035】
(2)測定方法
比表面積は、105℃で加熱・真空脱気処理した試料を用いて、窒素ガスを用いたBET法により、比表面積自動測定装置(Sorptomatic 1900,Calro Erba社)で測定した。細孔径分布は、比表面積自動測定装置で測定した窒素吸着等温線をDollimore−Heal法により解析して求めた。水蒸気吸着量は、測定温度(25℃)にて真空脱気処理した試料を用いて、吸着平衡測定装置(EAM−01,JTトーシ(株))で、相対湿度10%から95%の範囲で測定した。
【0036】
(3)結果
本比較例において、粒子間の空隙として形成され、調湿に寄与し得ると考えられる細孔容積は、0.07ml/gであった。また、その細孔径分布を図1(比較例)に示す。実施例1と比較して、細孔半径1nmから30nmの範囲における細孔は殆ど認められないことが判る。また、その吸着・脱着等温線を図2(比較例)に示す。吸着等温線の立ち上がりは殆ど認められず、毛管凝縮現象に起因する調湿効果がないことが判る。
【実施例2】
【0037】
(1)アルミニウム含水酸化物による多孔質構造の熱処理による影響
材料として、比表面積126m/g、粒子サイズ30nmのアルミニウム含水酸化物(ベーマイト)を350℃で2時間熱処理したものを用意した。このベーマイト粒子を、過度な圧力を掛けることなく充填することにより、その粒子間の空隙を損なうことなく集積し、粒子間の接触により粒子間の空隙を形成させた。
【0038】
(2)測定方法
比表面積は、105℃で加熱・真空脱気処理した試料を用いて、窒素ガスを用いたBET法により、比表面積自動測定装置(Sorptomatic 1900,Calro Erba社)で測定した。細孔径分布は、比表面積自動測定装置で測定した窒素吸着等温線をDollimore−Heal法により解析して求めた。水蒸気吸着量は、測定温度(25℃)にて真空脱気処理した試料を用いて、吸着平衡測定装置(EAM−01,JTトーシ(株))で、相対湿度10%から95%の範囲で測定した。
【0039】
(3)結果
本実施例において、粒子間の空隙に空孔として形成され、調湿に寄与し得ると考えられる細孔容積は、0.42ml/gであった。また、その細孔径分布を図3に示す。細孔半径1nmから30nmの範囲にブロードな細孔分布を有することが判る。また、その吸着・脱着等温線を図4に示す。吸着等温線の立ち上がりは約80%付近であった。相対湿度75%から93%の範囲での吸湿量に着目すると、約12mass%であった。脱着等温線からは相対湿度約70%において、相対湿度75%から93%の範囲で吸着していた水蒸気は放湿され、結露防止能力が回復することが示された。
【0040】
本実施例により、比表面積126m/g、粒子サイズ30nmのアルミニウム含水酸化物(ベーマイト)は、350℃、2時間の熱処理程度では調湿性能には殆ど影響を受けないことが明らかであり、吸湿によって調湿性能が低下した場合でも、熱処理で容易に、かつ短時間で調湿性能を回復し得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上詳述したように、本発明は、調湿剤、及び結露防止剤に係るものであり、本発明により、ナノメートルオーダーの微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させることにより、粒子間に、ブロードナ細孔分布を有するナノメートルサイズの空孔を形成した多孔質材料を調製し、提供することができる。本発明は、上記多孔質材料を利用した、床下調湿や押入等の結露防止に適した相対湿度75%から93%、特に好ましい相対湿度80%付近で吸湿力を有しながら、相対湿度60%付近においては放湿し、住宅の床下や押入等を適度な湿度に長期間に亘って保つことができる、調湿剤、及び結露防止剤を提供することができる。
【0042】
また、本発明は、ケルビンの毛管凝縮理論に基づき、相対湿度75%から93%の領域で水蒸気吸着量の増加を示す特定の多孔質構造を有する調湿剤、及び結露防止剤を提供することができる。また、本発明は、300℃、2時間の熱処理程度では調湿性能には殆ど影響を与えず、吸湿によって調湿機能が低下した場合でも、熱処理することにより容易に除湿能力を回復させることができる、再利用可能な、調湿剤、及び結露防止剤を提供することができる。本発明は、ナノメートルサイズの粒子の粒子間に形成された多孔質構造である、ナノメートルサイズの空孔の有する吸放出機能を利用した新しいタイプの調湿剤、及び結露防止剤を提供するものであり、従来材にない多様な空孔構造とそれに基づく多様な吸放湿機能を有する所望の吸放湿製品を任意に設計し、提供することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1及び比較例の多孔質材料の細孔分布を示す。
【図2】実施例1及び比較例の多孔質材料の水蒸気吸着・脱着等温線を示す。
【図3】実施例2の多孔質材料の細孔分布を示す。
【図4】実施例2の多孔質材料の水蒸気吸着・脱着等温線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノメートルオーダーの微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積した構造体からなり、該微粒子間に、ナノメートルサイズの空孔を有する多孔質構造を形成したことを特徴とする多孔質材料。
【請求項2】
ナノメートルオーダーの微粒子が、平均粒径1nmから30nmの微粒子である請求項1に記載の多孔質材料。
【請求項3】
粒子間の空孔が、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する請求項1に記載の多孔質材料。
【請求項4】
ナノメートルオーダーの微粒子が、金属、金属酸化物、又は金属含水酸化物よりなる請求項1に記載の多孔質材料。
【請求項5】
金属酸化物、又は金属含水酸化物が、アルミニウム酸化物、又はアルミニウム含水酸化物である請求項4に記載の多孔質材料。
【請求項6】
300℃前後の熱処理に対して、耐熱性を有する請求項1に記載の多孔質材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の多孔質材料からなることを特徴とする調湿剤。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の多孔質材料からなることを特徴とする結露防止剤。
【請求項9】
請求項7に記載の調湿剤を用いて、床下又は室内を調湿することを特徴とする床下又は室内の調湿方法。
【請求項10】
請求項8に記載の結露防止剤を用いて、床下又は室内の結露を防止することを特徴とする床下又は室内の結露防止方法。
【請求項11】
ナノメートルオーダーの微粒子を、その粒子間の空隙を損なうことなく充填、集積させることにより、該微粒子間に、ブロードな細孔分布を有するナノメートルサイズの空孔を有する多孔質構造を形成することを特徴とする多孔質材料の調製方法。
【請求項12】
ナノメートルオーダーの微粒子の平均粒径が、1nmから30nmである請求項11に記載の多孔質材料の調製方法。
【請求項13】
粒子間の空孔が、細孔半径1nmから10nmの範囲にブロードな細孔分布を有する請求項11に記載の多孔質材料の調製方法。
【請求項14】
ナノメートルオーダーの微粒子が、金属、金属酸化物、又は金属含水酸化物である請求項11に記載の多孔質材料の調製方法。
【請求項15】
金属酸化物、又は金属含水酸化物が、アルミニウム酸化物、又はアルミニウム含水酸化物である請求項14に記載の多孔質材料の調製方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−327855(P2006−327855A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151695(P2005−151695)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(391062595)大明化学工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】