説明

絞りしごき缶被覆用フィルム

【課題】2ピース缶用のラミネートフィルムとして適用できる、製缶における成形加工性に優れかつ飲料のフレーバー性に優れた絞りしごき缶被覆用フィルム、フィルムラミネート金属板及びフィルムラミネート金属容器を提供することにある。
【解決手段】ポリエステルフィルムを金属基体上に貼り合わせて、そのフィルムの融点以上の熱によって再溶融後、急速に冷却をさせた後、50℃環境下にて鋼球を滑走子とするフィルム表面との動摩擦係数が0.30以下であり、且つ製缶後の該リメルトフィルム中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.70重量%以下であることを特徴とする絞りしごき缶被覆用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂被覆金属板に好適な熱可塑性樹脂フィルムに関するものである。特には、絞りしごき缶の表面被覆に好適に用いられる熱可塑性樹脂フィルムに関する。さらに詳細には、絞り・しごき加工などの製缶加工性に優れかつ飲料のフレーバー性にも優れる絞りしごき缶被覆用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属缶内壁面及び外壁面の腐食防止方法として、熱可塑性樹脂フィルムをラミネートする方法がある。例えば、食品缶詰め用の金属材料にラミネートするためのポリエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平7―227946号公報
【0003】
このポリエステルフィルムは耐スクラッチ性に優れていて、例えば、金属板を円筒成形し、この円筒の上下開口部分に蓋体を巻締め加工するという製缶工程において、フィルムがラミネートされた金属板(以下、「フィルムラミネート金属板」という)を移送する時や、巻締め加工などによりラミネート金属板を加工する時に、スクラッチ傷が発生したりして、商品価値を低下せしめるということがなくて済む。
【0004】
また、このフィルムは巻締め加工時の耐性に優れ、かつ製缶後に食品を充填後、レトルト処理などの加熱温水処理を行った時のオリゴマー溶出量が少ないので、金属容器の内壁面にラミネートするポリエステルフィルムとして優れている。
【0005】
ところで、食品用缶には、金属板を円筒成形してなる金属円筒の上下開口部に蓋体を取り付けてなる、所謂3ピース缶の他に、金属板を深絞り成形して容器部を形成し、この容器部の上面開口部に蓋体を巻締め加工してなる、所謂2ピース缶がある。
【0006】
3ピース缶の場合には、フィルムラミネート金属板は円筒状に成形されるだけであるが、2ピース缶の場合には、フィルムラミネート金属板は、絞りしごき成形されることになる。従って2ピース缶に適用できるためには、金属板の成形に追随して成形されるという良好な成形性を有し、金属板に対する密着性が優れている必要がある。成形性が不十分であったり、金属板に対するフィルムの密着性が不十分な場合には、フィルムが金属板から剥がれるという、所謂デラミネート現象が起こったり、2ピース缶の容器部の作製時にフィルムが破れてしまったりするからである。
【0007】
さらに、絞り加工では、ポンチの下降上昇を繰返しながらフィルムラミネート金属板を容器状に加工していくので、容器内壁面側にラミネートされるフィルムの場合にはポンチとの離型性、同様に容器外壁面の場合にはダイスとの離型性が要求される事となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はこのような事情に鑑みてなされたものであり、所謂2ピース缶用のラミネートフィルムとして適用できる、製缶における成形加工性に優れかつ飲料等のフレーバー性に優れた絞りしごき缶被覆用フィルム、フィルムラミネート金属板及びフィルムラミネート金属容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成し得た本発明の絞りしごき缶被覆用フィルムは、ポリエステルフィルムを金属基体上に貼り合わせて、そのフィルムの融点以上の熱によって再溶融し、急速に冷却をさせた後、50℃環境下での鋼球を滑走子とするフィルム表面の動摩擦係数が0.30以下であり、且つ該フィルム中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.70重量%以下であり、フィルム中に酸化防止剤を0.01〜1.0重量%含有することを特徴とするものである。
【0010】
この場合において、該ポリエステルフィルムが、エチレンテレフタレート成分およびエチレンイソフタレート成分からなる共重合ポリエステルを主体とする、融点220〜240℃、ガラス転移点60〜80℃のポリエステルフィルムであり、該ポリエステル組成物が炭素数が2個以上のアルキレンオキサイド単位の繰り返しが3以上であるポリオキシアルキレングリコール成分を、該ポリオキシアルキレングリコール成分に由来する炭素数が2個以上のアルキレンオキサイド単位として、該ポリエステル組成物の全酸成分に対して2〜20モル%含有する事が好適である。
【0011】
この場合において該ポリエステルフィルムが、不活性粒子を0.05〜2.0重量%含有する事が好適である。
【0012】
また、この場合において、前記絞りしごき缶被覆用フィルムを金属板に被覆したことを特徴とする絞りしごき缶用金属板が有用である。
【0013】
さらにまた、この場合において、前記フィルム被覆金属板を製缶してなることを特徴とする絞りしごき缶が有用である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属板貼り合せ成形加工用ポリエステルフィルムは、2ピース缶用のラミネートフィルムとして使用した場合でも、金属との密着性や成形加工性及び意匠性に優れ、飲料のフレーバー性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のポリエステルについて説明する。ポリエステルに用いるポリエステル樹脂は特に限定はされないが、結晶性のポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートを20〜80/80〜20重量%、で構成させることが好ましい。ポリエチレンイソフタレート比率が20重量%未満であると製缶工程において製缶時の延展性不良が発生し、80重量%を超えると融解ピークが200℃未満となり製缶性が損なわれ、且つ製膜・原料コストの面からも経済的ではないからである。
【0016】
また、本発明におけるポリエステルの融解ピークは200℃〜240℃の範囲内に存在する。融解ピークが200℃未満であると製缶性が損なわれ、240℃を超える場合はリメルト処理での温度バランスが崩れ、収率が低下する為、共に好ましくない。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムには滑剤として、不活性無機粒子や架橋高分子粒子等またはワックスを用いることが好ましい。また該不活性粒子としては、シリカ、アルミナ、カオリン、クレー、酸化チタン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、フッ化リチウム、硫酸バリウム、カーボンブラック等が好ましい。
【0018】
架橋高分子粒子としては、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等のアクリル系単量体、スチレンやアルキル置換スチレン等のスチレン系単量体等と、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、エチレングリコールジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリメチルアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメチルアクリレート等の架橋性単量体との共重合体;メラミン系樹脂;ベンゾグアナミン系樹脂;フェノール系樹脂;シリコン含有系樹脂等が例示できる。
【0019】
前記粒子系滑剤の平均粒径としては、1〜3μmが好ましい。1μm未満ではポンチ離型性の改良効果が発現できないからである。逆に3μmを越えるとポンチ離型性の向上効果が飽和する一方、摩耗による滑剤の脱落が起こりやすくなったり、金属板とのラミネート時にフィルム破断が起こる場合があるからである。
【0020】
本発明のフィルムは特にポリエステルフィルムを金属基体上に貼り合わせて、そのフィルムの融点以上の熱によって再溶融(所謂リメルト処理)後、急速に冷却をさせた後50℃環境下にて鋼球を滑走子とするフィルム表面との動摩擦係数が0.30以下である事が好適である。50℃環境下での動摩擦係数が0.30より高いとポンチとの離型性が悪くなり所謂ポンチ抜け不良が発生する為である。
【0021】
滑剤の量としては0.05〜2.0重量%の範囲で添加するのが好ましい。これは50℃環境下での動摩擦係数を0.30以下にする為には、0.05重量%以上の滑剤量が好ましいからである。一方、2.0重量%を超える量を含有しても、離型性の効果が変わらず、コスト的に不利になるだけだからである。
【0022】
また、エチレンテレフタレート環状三量体をはじめとする環状三量体の該フィルムのリメルト処理後の含有量は0.7重量%以下とする事が好ましい。これは、飲料等へのオリゴマーの析出を抑制するためである。後述するように、2ピース缶を製造する場合、本発明のフィルムは、無配向ポリエステルとするリメルト処理を経た後、絞り加工されることとなる。環状三量体が0.7重量%超含まれていると、例えば、このフィルムをラミネートしてなる2ピース缶に、飲料等を充填し、レトルト処理などの加熱処理を行ったときに、ポリエステルからオリゴマーが多量に溶出し、更にこのオリゴマーが飲料に移行して、飲料等の味やフレーバーに対して悪影響を及ぼすことになるからである。
【0023】
このためには、リメルト前のフィルムのエチレンテレフタレート環状三量体をはじめとする環状三量体の含有量を0.7重量%以下にする事が必要であるが、その方法については特に限定せず、1.積層フィルム形成後に、この積層フィルムから水または有機溶剤で環状三量体を抽出除去する方法、2.環状三量体の少ないポリエステルを用いて、ポリエステルフィルムを構成する方法などが挙げられる。これらのうち、2.の方法の方が経済的で好ましい。
上記2.の方法において、環状三量体の含有量の少ないポリエステルを製造する方法も限定されず、固相重合法;重合後、減圧加熱処理により、あるいは水または有機溶剤による抽出により環状三量体を抽出除去する方法;及びこれらの方法を組合わせた方法などが挙げられる。特に、固相重合法により環状三量体含有量の少ないポリエステルを製造した後、得られたポリエステルを水で抽出してさらに環状三量体を低減させる方法は、フィルム形成工程での環状三量体の生成量が押さえられるので最も好ましい。
【0024】
本発明に用いられるポリエステルは、ジカルボン酸とジオールとを直接反応させる直接エステル化法;ジカルボン酸ジメチルエステルとジオールとを反応させるエステル交換法などの従来より公知の方法により合成される。これらの方法はそれぞれ、回分式および連続式のいずれの方法で行ってもよい。あるいは、分子量を高めるために固相重合法を用いてもよい。固相重合法は、前述のように環状三量体の含有量を低減する点からも好ましい。このようにして合成されるポリエステルは、ポリエステルフィルムに1種類だけ含まれていてもよいし、2種以上が混合して含まれていてもよい。
【0025】
また、上記ポリエステルフィルムでは、ポリエステル中に、酸化防止剤を0.01〜1重量%含有することが好ましい。これはポリエステルフィルムを金属基体上に貼り合わせて、そのフィルムの融点以上の熱によって再溶融(所謂リメルト処理)の工程及び製缶工程に於いて新たなオリゴマーを生成するケースもあるため、この防止策として酸化防止剤を含有する事が好ましい為である。酸化防止剤が0.01重量%未満では、オリゴマー生成に対しての効果が少なく好ましくない。また、1重量%以上含有しても効果が変わらず、コスト的に不利になるからである。
【0026】
上記各種成分を混合したときのポリエステルフィルムの極限粘度は、0.6〜1.2の範囲であることが好ましい。ポリエステルの極限粘度が0.6未満の場合には、得られるフィルムの力学特性が低下するおそれがあり、1.2を越えても力学特性の効果は変わらず、また原料のポリエステルの生産性も低下するので経済的ではない。
【0027】
本発明のフィルムは、ポリエステルの金属板と接する面に水分散型共重合ポリエステル樹脂が塗布されていても良い。
【0028】
ここで、水分散型子共重合ポリエステル樹脂について説明する。本発明のポリエステルフィルムには、該フィルムの金属板との接着面側に水分散型共重合ポリエステル樹脂を5〜25nm範囲の厚みで塗布されていても良い。この際水分散型共重合ポリエステル樹脂は、Tgが40℃以上であり且つ、所謂コーティングにより5nmから25nmの厚みに制御されてなることが好ましい。コート厚みが5nm以下ではコート層が所謂膜割れを起こし、適正な樹脂膜を形成できず、25nmを超えてると該リメルト板のレトルト処理時に、剥がれ・浮きなどが起こり品質上好ましくないからである。このコーティング処理に関しては、製膜中(インライン)の延伸膜でも製膜後(オフライン)のフィルムに処理してもどちらでも良い。水分散型高分子とはそれ自身は水には不溶であるが、水系溶媒に分散または溶解することが出来る高分子化合物である。具体的には分子内に親水性基を有するモノマー成分を共重合した高分子化合物が挙げられる。このような高分子を用いることにより金属板との優れた密着強度を実現することが出来る。
また、有機溶剤を使用しないことにより、人体や環境への悪影響を低減することが出本発明の水分散型高分子化合物としては、親水性基を有するモノマー成分を共重合したポリエステル樹脂が挙げられる。親水性基とは、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基または、それらの誘導体や金属塩基、エーテル基等であり、これらの基を分子内に含むモノマーを共重合し、水に分散可能な状態で存在するものである。
親水性基を含むモノマーとしては、具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、5−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、5(4−スルホフェノキシ)イソフタル酸等のスルホン酸含有モノマーの金属塩等が挙げられる。
また、共重合ポリエステルに、親水性基を有するピニル系モノマーをグラフト重合させる方法がある。上記親水性基を有するビニル系モノマーとしては、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アミド基等を含むもの、親水性基に変化させることが出来る基としては酸無水物基、グリシジル基、クロル基などを含むものが挙げられる。なかでもカルボキシル基を有するものが好ましい。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及びそれらの塩等のモノマーである。
【0029】
ポリエステルの金属板と接する面に水分散型共重合ポリエステル樹脂が塗布されていてる際には、コーティング層側が金属板側となるようにラミネートするのが好ましい。離型性を有するポリエステル層がフィルムラミネート金属板の表層を構成することにより、絞り成形時にポンチとの離型性を発揮できるからである。
【0030】
また、本発明のフィルムはニ軸延伸フィルムであっても、無延伸フィルムであってもよい。ここで、ニ軸延伸法としては、遂次ニ軸延伸、同時ニ軸延伸、それらを組合わせたいずれの方法であってもよい。そして遂次ニ軸延伸の場合は、一般的には縦方向に延伸した後、横方向に延伸する方法が採用されているが、逆の順序で延伸する方法で実施してもかまわない。またニ軸延伸後、熱処理によりポリエステルの配向を固定することが好ましいが、二軸延伸後、熱処理工程を供する前に長手方向および/または幅方向に再延伸を行なってもよい。さらに、延伸工程またはその前後において、フィルムの片面または両面にコロナ放電処理を施すことも何ら制限を受けない。
【0031】
ポリエステルフィルムの金属板へのラミネート方法は特に限定しない。例えば、ドライラミネート法、サーマルラミネート法などを採用することができる。具体的には220℃に予熱した金属板に、上記で作製したポリエステル積層フィルムのポリエステルC層が金属板と接するように、ニップロール間を通過させてラミネートした後、10〜40℃の水槽中で急冷固化させることによりラミネートさせる。
【0032】
また、フィルムのラミネートは金属板の片面だけに行っても、両面に行ってもよい。両面ラミネートの場合は同時にラミネートしても遂次でラミネートしてもよい。
【0033】
本発明中のニ軸延伸フィルムラミネート金属板を2ピース缶に適用する場合、ラミネート後、ポリエステルの配向を除去するために、フィルムを構成するポリエステルの融点以上で加熱した後、急冷するというリメルト処理を行なうことが好ましい。リメルト処理後のX線観察による配向度は、10%以下で、実質的に無配向と言えるものである。つまり、ポリエステルが配向状態にある2軸延伸フィルムでは、塑性変形したり、延びにくいため、容器部を形成するための絞り成形工程を行いにくくなり、ひどい場合には、絞りしごき成形時に金属板から剥がれるというデラミネート現象が起こったり、破れたり、削れたりするからである。一方、実質的に無配向であれば、ラミネートしている金属板の変形に追随できるので、デラミネートや破れ等を生じることなく、2ピース缶のように、金属の塑性変形を伴う成形を行なうことができるからである。
【0034】
本発明のフィルムラミネート金属容器は、本発明の二軸延伸タイプ又は無配向タイプのフィルムラミネート金属板を、適宜成形してなる金属容器であり、その容器の形状、金属容器を成形する方法は、特に限定しない。具体的には、天地蓋を巻き締めて内容物を充填する、いわゆる3ピース缶は勿論、金属板を絞り成形して容器部を形成する2ピース缶などが挙げられる。
【0035】
本発明の金属容器において、本発明のポリエステルフィルムは、金属容器の内壁面側になるように成形してもよいし、外壁面側になるように成形してもよい。但し、2ピース缶の場合には、その絞り加工適正の点から、離型性に優れているポリエステルがポンチと接するように、容器内壁面側に用いることが好適である。
【0036】
尚、絞りしごき成形を行なう場合、必要に応じて、ポンチが接触するフィルム表面に、潤滑剤を塗布してもよい。
本発明のフィルムラミネート金属容器には、必要に応じて印刷等を施してもよく、また製缶工程・印刷工程等の後、再リメルト処理を行ってもかまわない。
【0037】
また、本発明におけるポリエステルには、ここまで挙げてきた添加剤・滑剤・ワックス等の他に、必要に応じて紫外線吸収剤,可塑剤,顔料,帯電防止剤,潤滑剤,結晶核剤等を配合させてもよい。
【0038】
本発明では金属板として、ティンフリースティール等の表面処理鋼板あるいはアルミニウム板又はアルミニウム合金板あるいは表面処理を施したアルミニウム板又はアルミニウム合金板が使用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例をもとに本発明を説明する。
【0040】
以下に本発明における各種評価方法を示す。
【0041】
(1)ポリエステルの熱特性
ポリエステル組成物を300℃で5分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷して
得たサンプル10mgを用い、窒素気流中、示差走査型熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で発熱・吸熱曲線(DSC曲線)を測定したときの、融解に伴う吸熱ピークの頂点温度を融点Tm(℃)とし昇温結晶化時の頂点温度をTC(℃)とした。
【0042】
(2)50℃環境下での鋼球を滑走子とした動摩擦測定
1.フィルムラミネート金属板の作製
220℃に予熱した金属板に、上記で作製したポリエステル積層フィルムのポリエステルC層が金属板と接するように、ニップロール間を通過させてラミネートした後、10〜40℃の水槽中で急冷し、フィルムがラミネートされた金属板を得た。
2.リメルト処理(再溶融処理)
フィルムラミネート金属板を、270℃で加熱した後空冷し、更に水中急冷して、リメルト金属板を作製した。
3.鋼球を滑走子とする動摩擦係数
リメルトアルミ板の測定箇所に、50℃の環境下にて鋼球3個(JIS B1501規格に準じる。直径12.7mmΦ)を三角形状に頂点間の距離が各25mmとなるように配置、固定させ、前記測定箇所と3点で接触(各鋼球で頂点1点ずつ接触)するように滑走子(重量=0.5kg)をセットし、200mm/分で滑走させた時の動摩擦係数を測定した。
【0043】
(3)製缶性
ラミネート金属板を絞り加工によってカップに成形した後、180缶/分の速度で再絞り・しごき加工によって300缶連続製缶し、成形缶上部に起る座屈程度を目視観察した。評価基準は以下のとおり設定し、○を実用性ありと評価した。
○:缶開口部の座屈未発生
△:缶開口部円周の約1/3に座屈発生
×:缶開口部円周の1/3以上に座屈発生
【0044】
(4)不活性粒子の平均粒径
真空乾燥機にて終夜乾燥させた被覆用フィルム試料にイオンプラズマエッチング処理を行い、ベースフィルムのA,B層中に含有されている不活性粒子を露出させた。次いで、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、粒子の大きさにあわせて適宜倍率を変え写真撮影を行った。少なくとも100点以上の粒子の円相当径を画像処理装置にて求め、粒子の個数で除して個数基準の平均粒子径(μm)を求めた。写真撮影された粒子のコントラストが弱い場合には、OHPフィルムに粒子の輪郭を極細マジックペンでトレースし、該トレース像を画像処理装置にて粒子の円相当径を求めた。
また、ポリエステルに粒子を添加する前の紛体状態の粒子は、SEM試料台に両面テープを張り、その上に紛体を薄くのせ、カーボン蒸着後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、粒子の大きさにあわせて適宜倍率を変え写真撮影を行った。少なくとも100点以上の粒子の円相当径を画像処理装置にて求め、粒子の個数で除して個数基準の平均粒子径(μm)を求めた。
【0045】
(5)ポリエステルの組成比
サンプル約5mgを重クロロホルムとトリフルオロ酢酸の混合溶液(9/1;体積比)0.7mlに溶解し、1H−NMR(varian製、UNITY50)を使用して求めた。
【0046】
(6)ポリエステル中のエチレンテレフタレート環状3量体の含有量
ポリエステルをヘキサフルオロイソプロピルアルコール/クロロホルム=2/3(V/V)に溶解し、メタノールでポリエステルを沈殿させ、沈殿物を濾別する。濾液を蒸発乾固し、この蒸発乾固物をジメチルホルムアミドに溶解する。得られた溶液を液体クロマトグラフィー法で展開し、エチレンテレフタレート環状3量体の含有量を定量した。
また、製缶後のフィルム中のエチレンテレフタレート環状3量体の含有量については製缶品より塩酸処理によってアルミを除去し製缶フィルムのみを取り出した。その後、上記と同様の方法にてエチレンテレフタレート環状三量体含有量を測定した。
【0047】
(7)極限粘度(IV)
オルトクロロフェノール中25℃で測定した値(dl/g)である。
【0048】
(実施例−1)
〔ポリエステルフィルムの作製〕
ポリエステル:PET/PET−Iの重量比率が50/50重量%のベース樹脂に、凝集タイプのシリカ粒子(平均粒径1.5μm)0.3重量%を含有させた、極限粘度0.7、エチレンテレフタレート環状3量体が0.4重量%のポリエステル組成物Aを得た。
ポリエステル組成物A 98重量%に対して、ヒンダートフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010、チバガイギー社製)5重量%とPET95重量%を2軸押出機にて溶融混練した、酸化防止剤5%含有ポリエステル組成物Bを2重量%添加した。
【0049】
組成物A98%、組成物B2%の混合物を押し出し機で溶融させ、この溶融体をダイ内より押し出し急冷して未延伸シートを得た。
この未延伸シートを、予熱温度65℃、延伸温度100℃で、縦方向に3.3倍延伸し、さらにテンター中で予熱温度65℃、延伸温度90℃で、横方向に4.0倍延伸した後、160℃にて8秒間熱処理を行い、160℃で4%の弛緩処理を行い、厚さ10μmの二軸延伸積層フィルムを得た。
【0050】
〔フィルムラミネート金属板の作製〕
予熱したアルミ板の両面に、上記で作製したポリエステル積層フィルムの水分散型共重合ポリエステル樹脂層がアルミ板と接するように、ニップロール間を通過させてラミネートした後、熱処理を行い、直後に10〜40℃の水槽中で急冷し、両面にフィルムがラミネートされたアルミ板を得た。ラミネート時には、初期密着性や張力変動、ニップロールへの巻付け等もなく、本実施例の積層フィルムのラミネート適性は良好であった。
次に該フィルムラミネートアルミ板を、270℃で加熱した後空冷し更に水中急冷して、リメルトアルミ板を作製した。
【0051】
〔フィルムラミネート金属容器の作製〕
上記で作製したリメルトアルミ板を、板厚減少率30%となるように、絞りしごき成形を行なって、フィルムラミネート金属容器を成形した。成形時には、フィルムの剥離や破れはなく、金型との離型性等もよく、また熱処理後の急冷時にもフィルムの白化による外観変化はなかった。
さらに外面を印刷した後、ニスを塗布し、加熱硬化後、冷風で急冷した。
このようにして成形した容器に飲料を充填し、タブの付いた蓋を巻き締め接合後、125℃で30分間温水処理をして、2ピース飲料缶を製造した。
できた飲料缶は、製缶性に優れ、また飲料へのオリゴマーの溶出やフィルムからの析出もなかった。
【0052】
(実施例−2)
ポリエステル:PET/PET−Iの重量比率が50/50重量%のベース樹脂に、凝集タイプのシリカ粒子(平均粒径1.5μm)0.3重量%を含有させた、極限粘度0.7、エチレンテレフタレート環状3量体が0.4重量%のポリエステル組成物Aを得た。
ポリエステル組成物A 98重量%に対して、ヒンダートフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010、チバガイギー社製)5重量%とPET95重量%を2軸押出機にて溶融混練した、酸化防止剤5%含有ポリエステル組成物Bを2重量%添加した。
【0053】
組成物A98重量%と組成物B2重量%の混合物を押し出し機で溶融させ、この溶融体をダイ内より押し出し急冷して未延伸シートを得た。
この未延伸シートを、予熱温度65℃、延伸温度100℃で、縦方向に3.3倍延伸し、さらにテンター中で予熱温度65℃、延伸温度90℃で、横方向に4.0倍延伸した後、160℃にて8秒間熱処理を行い、160℃で4%の弛緩処理を行い、厚さ10μmの二軸延伸積層フィルムを得た。該フィルムに対して、グラビアコーティング法にて、コート層厚みが10nmとなるように調整したコート液(東洋紡製 バイロナールMD1200)をポリエステルコーティングし、160℃にて8秒間、乾燥した。
これ以降の製缶工程、評価については実施例−1に準ずる。
できた飲料缶は、実施例−1と同様に、製缶性に優れ、飲料へのオリゴマーの溶出やフィルムからの析出もなかった。
【0054】
(比較例−1)
ポリエステル:PET/PET−Iの重量比率が50/50重量%のベース樹脂に、凝集タイプのシリカ粒子(平均粒径1.5μm)0.3重量%を含有させ、極限粘度0.7、エチレンテレフタレート環状3量体が0.4重量%のポリエステル組成物Cを得た。
【0055】
組成物を押し出し機で溶融させ、この溶融体をダイ内より押し出し急冷して未延伸積層シートを得た。
この未延伸積層シートを、予熱温度65℃、延伸温度100℃で、縦方向に3.3倍延伸した後、テンター中で予熱温度65℃、延伸温度90℃で、横方向に4.0倍延伸した後、160℃にて8秒間熱処理を行い、160℃で4%の弛緩処理を行い、厚さ 10μmの二軸延伸フィルムを得た。該フィルムに対して、グラビアコーティング法にて、コート層厚みが50nmとなるように調整したコート液(東洋紡製 バイロナールMD1200)をコーティングし、160℃にて8秒間、乾燥した。これ以降の製缶工程、評価については実施例−1に準ずる。
できた飲料缶は、製缶性は良好であるものの、飲料へのオリゴマー析出において、実施例での品質には及ばなかった。
【0056】
(比較例−2)
ポリエステル:PET/PET−Iの重量比率が50/50重量%のベース樹脂に、凝集タイプのシリカ粒子(平均粒径1.5μm)0.02重量%を含有させ、極限粘度0.7、エチレンテレフタレート環状3量体が0.4重量%のポリエステル組成物Dを得た。
ポリエステル組成物D98重量%に対して、ヒンダートフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010、チバガイギー社製)5重量%とPET95重量%を2軸押出機にて溶融混練した、酸化防止剤5%含有ポリエステル組成物Bを2重量%添加した。
【0057】
組成物D98重量%と組成物B2重量%の混合物を押し出し機で溶融させ、この溶融体をダイ内より押し出し急冷して未延伸シートを得た。
この未延伸シートを、予熱温度65℃、延伸温度100℃で、縦方向に3.3倍延伸した後、テンター中で予熱温度65℃、延伸温度90℃で、横方向に4.0倍延伸した後、160℃にて8秒間熱処理を行い、160℃で4%の弛緩処理を行い、厚さ10μmの二軸延伸フィルムを得た。これ以降の製缶工程、評価については実施例−1に準ずる。
できた飲料缶は、オリゴマー析出については良好であるものの、製缶性に於いては、実施例での品質には及ばなかった。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本願発明の絞りしごき缶被覆用フィルムは、製缶における成形加工性に優れかつ飲料のフレーバー性にも優れるため、2ピース缶用のラミネートフィルムとして利用することができ、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムを金属基体上に貼り合わせて、そのフィルムの融点以上の熱によって再溶融し、急速に冷却をさせた後、50℃環境下での鋼球を滑走子とするフィルム表面の動摩擦係数が0.30以下であり、且つ該フィルム中のエチレンテレフタレート環状三量体含有量が0.70重量%以下であり、フィルム中に酸化防止剤を0.01〜1.0重量%含有することを特徴とする絞りしごき缶被覆用フィルム。
【請求項2】
請求項1記載のポリエステルフィルムが、エチレンテレフタレート成分およびエチレンイソフタレート成分からなる共重合ポリエステルを主体とする、融点220〜240℃、ガラス転移点60〜80℃のポリエステルフィルムであり、該ポリエステル組成物が炭素数が2個以上のアルキレンオキサイド単位の繰り返しが3以上であるポリオキシアルキレングリコール成分を、該ポリオキシアルキレングリコール成分に由来する炭素数が2個以上のアルキレンオキサイド単位として、該ポリエステル組成物の全酸成分に対して2〜20モル%含有し事を特徴とする絞りしごき缶被覆用フィルム。
【請求項3】
請求項1〜2に記載のポリエステルフィルムが、不活性粒子を0.05〜2.0重量%含有する事を特徴とする絞りしごき缶被覆用フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3記載の絞りしごき缶被覆用フィルムを金属板に被覆したことを特徴とする絞りしごき缶用金属板。
【請求項5】
請求項4記載のフィルム被覆金属板を製缶してなることを特徴とする絞りしごき缶。

【公開番号】特開2007−51259(P2007−51259A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242865(P2005−242865)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】