説明

絞り羽根及びその製造方法

【課題】工程数を減少させてコスト低減を図ることができる絞り羽根及び製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】絞り羽根11は、羽根基板14、揺動軸15、係合部16、及びリブ17が一体に形成されている。揺動軸15及び係合部16は、羽根基板14に対してして板厚T約半分突出するように形成されている。リブ17は、揺動軸15とは反対側の面から突出し、羽根基板14の摺動性を向上させる。絞り羽根11を製造するとき、金属薄板をプレスし、半抜き加工することによって揺動軸15、係合部16、及びリブ17を同時に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
絞り機構を構成する絞り羽根及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラやプロジェクタの光学系には、光量を調節するために絞りを可変させる絞り機構が設けられている。絞り機構は、リング状となるように重ね合わせて配された複数の絞り羽根と、この絞り羽根を保持する保持環と、絞り羽根をそれぞれ回転させる菊座と呼ばれるカム部材とからなり、菊座に連動させて絞り羽根を回転させると、絞り羽根の内径側端縁からなる絞り開口が可変する構成が一般的である。
【0003】
上述した絞り機構を構成する絞り羽根は、遮光するための羽根基板と、保持環に対して揺動自在に取り付けられる揺動軸、及びカム部材に係合する係合部としての突部とからなり、これらの突部が羽根基板に対して突出するように設けられている。この絞り羽根の製造方法としては、特許文献1に記載されているように、羽根基板に孔を形成し、別体の金属製ピンからなる突部を羽根基板の孔にかしめて固定する方法や、突部を羽根基板と樹脂成形により一体に形成する方法が知られている。
【0004】
ところが、突部を別体の金属ピンとする製造方法の場合、羽根基板の外形状及び穴を形成する工程の他、揺動軸用及び係合部用の突部を形成する工程、及びこれらの突部を羽根基板にそれぞれかしめる工程が必要となり、工程数が多くなるため製造コストが掛かる。また、突部を羽根基板と一体に樹脂成形する製造方法の場合、樹脂には成形収縮があるため、揺動軸や係合部としての突部の寸法精度が金属製のものよりも低下する。
【0005】
そこで、特許文献2に記載されているように、突部の寸法精度を維持したまま、突部と羽根基板とを一体に形成する方法として、金属薄板を絞り加工(バーリング)することによって、突部を形成する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−317826号公報
【特許文献2】特開平8−29830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2記載の方法では、突部の寸法精度は向上するものの、羽根基板及び突部を一体に形成する絞り加工の後、突部の高さを調節したり、端面を平坦にするなどの工程が必要となるため、製造コスト低減の妨げとなっていた。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、突部を高い寸法精度で形成しつつ、工程数を減少させて製造コストを低減させることを可能とする絞り羽根及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の絞り羽根では、複数枚を重ね合わせて円環状を形成し、絞り径を可変させる絞り羽根であって、カム部材のガイドに従って揺動する羽根基板と、前記羽根基板の少なくとも一方の面から突出し、前記羽根基板に対して板厚の範囲内で突出するように半抜き加工で形成された突部とを有することを特徴とする。
【0010】
なお、前記羽根基板の少なくとも一方の面から突出し、前記半抜き加工で形成されたリブを有することが好ましい。また、前記突部は、前記羽根基板の両面からそれぞれ突出することが好ましい。さらにまた、前記突部は、前記絞り羽根が揺動自在に支持される揺動軸、または前記カム部材のガイド溝に係合する係合部の少なくとも一方であることが好ましい。
【0011】
本発明の絞り羽根の製造方法では、複数枚を重ね合わせて円環状を形成し、カム部材のガイドに従って羽根基板が揺動して絞り径が可変する絞り羽根の製造方法であって、前記羽根基板の少なくとも一方の面から突出する突部を、前記羽根基板に対して板厚の範囲内で突出させるように半抜き加工で形成することを特徴とする。なお、前記羽根基板の少なくとも一方の面から突出するリブを前記半抜き加工で形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、羽根基板に対して板厚の範囲内で突出させるように半抜き加工で突部を形成しているので、突部を高い寸法精度で形成しつつ、絞り羽根を製造する工程数を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】絞り機構の構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明を適用した絞り羽根の構成を示す平面図(A)と、平面図のX−X線断面図(B)である。
【図3】絞り機構の絞り開口径を開放開口径(A)、及び最小絞り開口径(B)とした状態をそれぞれ示す説明図である。
【図4】本発明の製造方法に用いる成形型の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明を適用した絞り羽根を備える絞り機構の構成を概略的に示す分解斜視図である。絞り機構10は、複数枚の絞り羽根11、菊座(カム部材)12、保持環13を有する。この絞り機構10は、絞り羽根11が重なり合って光軸を中心とするリング状となるように配置され、菊座12と保持環13との間に絞り羽根11が挟まれた状態で光学機器に組み込まれる。
【0015】
絞り羽根11は、図2に示ように、羽根基板14、揺動軸15(突部)、係合部16(突部)、及びリブ17が一体に形成されている。揺動軸15及び係合部16は、羽根基板14の裏面及び表面からそれぞれ突出するように後述する半抜き加工によって形成されており、羽根基板14の板厚Tが例えば0.5mmとすると、揺動軸15及び係合部16は板厚Tの半分、すなわち羽根基板14に対して厚み方向に0.25mm突出するように形成される。リブ17は、羽根基板14が重なり合う部分とは干渉しない位置に形成されている。リブ17は揺動軸15とは反対側の面、すなわち係合部16と同じ側の面から突出するように半抜き加工によって形成されている。よって、絞り機構10が光学機器に組み込まれたとき、絞り羽根11のうち、係合部16と、羽根基板14同士が重なり合う先端部と、リブ17だけが菊座12と接触するので、従来の絞り羽根よりも菊座12との接触面積が減少し、羽根基板14の摺動性を向上させることができる。
【0016】
保持環13は、円環状の外形で、絞り羽根11の揺動軸15をそれぞれ揺動自在に支持する軸受孔18が形成されている。菊座12は、円環状の外形で、絞り羽根11の係合部16がそれぞれ係合されるガイド溝19が形成されている。なお、菊座12及び保持環13は、一方が光学機器に固定され、他方が駆動力を受けて光軸回りに回転する構成であればよいが、以下では、保持環13が固定され、菊座12が回転する構成として説明する。図3(A)に示すように、係合部16がガイド溝19の一端と当接する位置にあるとき、絞り羽根11の内側端縁からなる絞り開口20は、開放開口径となっており、菊座12に設けた開口12aよりも僅かに小さい絞り開口径となっている。なお、図3では煩雑化を避けるため保持環13を省略している。
【0017】
菊座12側から見る絞り機構10において、菊座12が光軸を中心として時計方向に回転すると、ガイド溝19のガイドに沿って係合部16が移動する。これにより、絞り羽根11の先端が揺動軸15を中心に光軸へ近付く方向に回動する。ガイド溝19の他端と係合部16が当接する位置まで菊座12が回転すると、図3(B)に示すように、絞り開口20は、最小絞り開口径となる。
【0018】
次に、絞り羽根11を製造する方法を説明する。絞り羽根11は、金属薄板をプレス成形して形成される。絞り羽根11を形成する金属薄板としては、アルミ、銅、真鍮、リン青銅などの材料が用いられる。絞り羽根11をプレス成形する成形型の一例を図4に示す。成形型30は、上型31及び下型32、半抜きパンチ33〜35を備える。
【0019】
上型31には、羽根基板14の外形状を形成する凹部36と、この凹部36と絞り羽根11の厚み方向に連続し、半抜きパンチ35とともに揺動軸15を形成するための凹部37とが形成される。半抜きパンチ33,34は、上型31に組み込まれ、先端が凹部36の内部へ突出するように配置されている。下型32には、上型31の凹部36とともに羽根基板14の外形状を形成する凸部38と、半抜きパンチ33とともに係合部16を形成する凹部39と、半抜きパンチ34とともにリブ17を形成する凹部40とが形成され、半抜きパンチ35が組み込まれている。半抜きパンチ35は、先端が凸部38から上方へ突出するように配置されている。
【0020】
羽根基板14の外形状を形成する凹部36及び凸部38と、揺動軸15を形成する凹部37及び半抜きパンチ35と、係合部16を形成する半抜きパンチ33及び凹部39と、リブ17を形成する半抜きパンチ34及び凹部40とは、金属薄板をプレスしたときの上下の隙間が絞り羽根11の板厚Tに合わせるように形成されている。さらに、揺動軸15を形成する凹部37、係合部16を形成する凹部39は、羽根基板14の外形状を形成する凹部36及び凸部38に対して、板厚Tの約半分厚み方向に位置を上下にずらして形成されている。また、リブ17を形成する凹部40は、係合部16を形成する凹部39よりも厚み方向の寸法が小さく形成されている。
【0021】
このような上型31、下型32及び半抜きパンチ33〜35からなる成形型30で金属薄板を上下からプレス成形すると、凹部36及び凸部38によって金属薄板がせん断されて羽根基板14の外形状が形成されるとともに、凹部37及び半抜きパンチ35と、半抜きパンチ33及び凹部39と、半抜きパンチ34及び凹部40とによって金属薄板が半抜き加工されて、揺動軸15、係合部16及びリブ17が形成される。これにより、絞り加工のように金属薄板を打ち抜いて貫通させることが無く、揺動軸15及び係合部16を形成することができるので、突部の高さ調節、端面の平坦化などの後工程を必要としない。また、成形型の構成としては上記のものに限らず、羽根基板14の外形状を金属薄板からせん断し、揺動軸15、係合部16及びリブ17を板厚Tの範囲内で突出させるように半抜き加工して形成する構成であればよい。
【0022】
上記の製造方法で絞り羽根11を製造することで、羽根基板14に対して突出する揺動軸15及び係合部16をプレス成形で同時に形成することができるので、従来の製造方法よりも工程数を減少させ、製造コストを低減させることができるとともに、金属薄板のプレス成形で、羽根基板14、揺動軸15及び係合部16を形成するので、樹脂成形の絞り羽根よりも寸法精度が高い揺動軸及び係合部を形成することができる。また、揺動軸15の反対側から突出するリブ17を形成していることから、菊座12に対する羽根基板14の摺動性を向上させることができる。よって、絞り羽根11の移動がスムーズになるため、軸受孔18に取り付けられた揺動軸15に掛かる力を減少させ、絞り羽根11の耐久性を向上させることができる。さらに、本発明を適用した絞り羽根11からなる絞り機構10が光学機器に組み込まれたとき、揺動軸15及び係合部16の寸法精度、羽根基板14の摺動性を向上させたことで、絞り機構10による光量調節の精度が向上する。
【0023】
上記実施形態では、羽根基板14の一方の面から突出するリブ17を、揺動軸15とは反対の面側から突出するように形成しているが、これに限らず、揺動軸15と同じ面側からリブを突出させるように形成して保持環13と絞り羽根11との接触面積を減少させて摺動性を向上させるようにしてもよく、さらに両面側からリブを突出させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
デジタルカメラ、写真カメラやプロジェクタなどの光学機器で光量を可変させる光学系を備えたものであれば、本発明を適用した絞り羽根を組み込むことができる。
【符号の説明】
【0025】
10 絞り機構
11 絞り羽根
12 菊座
14 羽根基板
15 揺動軸(突部)
16 係合部(突部)
17 リブ
18 軸受孔
19 ガイド溝
20 絞り開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚を重ね合わせて円環状を形成し、絞り径を可変させる絞り羽根であって、
カム部材のガイドに従って揺動する羽根基板と、
前記羽根基板の少なくとも一方の面から突出し、前記羽根基板に対して板厚の範囲内で突出するように半抜き加工で形成された突部とを有することを特徴とする絞り羽根。
【請求項2】
前記羽根基板の少なくとも一方の面から突出し、前記半抜き加工で形成されたリブを有することを特徴とする請求項1記載の絞り羽根。
【請求項3】
前記突部は、前記羽根基板の両面からそれぞれ突出することを特徴とする請求項1又は2記載の絞り羽根。
【請求項4】
前記突部は、前記絞り羽根が揺動自在に支持される揺動軸、または前記カム部材のガイド溝に係合する係合部の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1ないし3いずれかの絞り羽根。
【請求項5】
複数枚を重ね合わせて円環状を形成し、カム部材のガイドに従って羽根基板が揺動して絞り径が可変する絞り羽根の製造方法であって、
前記羽根基板の少なくとも一方の面から突出する突部を、前記羽根基板に対して板厚の範囲内で突出させるように半抜き加工で形成することを特徴とする絞り羽根の製造方法。
【請求項6】
前記羽根基板の少なくとも一方の面から突出するリブを前記半抜き加工で形成することを特徴とする請求項5記載の絞り羽根の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−243906(P2010−243906A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94120(P2009−94120)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】