説明

絶対測長型エンコーダ

【課題】ABS/INC統合パターンから、簡単な処理回路を用いて高速でアブソリュートパターン信号とインクリメンタルパターン信号を分離する。
【解決手段】アブソリュートパターン12Aとインクリメンタルパターン12Bを統合したABS/INC統合パターン12Cを有する絶対測長型エンコーダにおいて、前記アブソリュートパターン12A由来の明暗信号と前記インクリメンタルパターン12B由来の明暗信号とに振幅差が生じるように設計された撮像光学系(レンズ14)と、前記ABS/INC統合パターン12Cからの受光信号を、前記振幅差を利用してアブソリュートパターン信号とインクリメンタルパターン信号に分離する信号処理系(比較器20)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブソリュート(ABSとも称する)パターンとインクリメンタル(INCとも称する)パターンを統合したABS/INC統合パターンを有する絶対測長型エンコーダに係り、特に、前記ABS/INC統合パターンからの受光信号を、高性能な処理回路を用いることなく短い演算時間で、アブソリュートパターン信号とインクリメンタルパターン信号に分離することが可能な絶対測長型エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は特許文献1の第2、第4の実施の形態で、アブソリュートパターンとインクリメンタルパターンを統合したABS/INC統合パターンを有する絶対測長型エンコーダを提案している。このABS/INC統合パターンによれば、一つのパターンで、アブソリュートパターンとインクリメンタルパターンの2種の情報を併せ持つことが可能となり、スケールの幅を狭くすることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−2702号公報(図6、図14)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ABS/INC統合パターンが、アブソリュートパターン信号とインクリメンタルパターン信号の2種の情報を持つので、それらの情報を分離するために煩雑な解析を伴うため、高性能な処理回路が必要となり、又、長い演算時間を要してしまうという問題点を有していた。例えば特許文献1では、その図8に示されるように、ローパスフィルタを用いて受光信号(図8(B))からアブソリュートパターン信号(図8(C))を分離しているが、ローパスフィルタを用いると、信号処理に時間がかかり、高速な処理が出来ない。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、ABS/INC統合パターンにおけるアブソリュートパターン信号とインクリメンタルパターン信号の分離を、高性能な処理回路を用いることなく、高速で行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アブソリュートパターンとインクリメンタルパターンを統合したアブソリュート(ABS)/インクリメンタル(INC)統合パターンを有する絶対測長型エンコーダにおいて、前記アブソリュートパターン由来の明暗信号と前記インクリメンタルパターン由来の明暗信号とに振幅差が生じるように設計された結像光学系と、前記ABS/INC統合パターンからの受光信号を、前記振幅差を利用してアブソリュートパターン信号とインクリメンタルパターン信号に分離する信号処理系と、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0007】
ここで、前記振幅差を利用したしきい値を決定し、2値化を行うことで、前記受光信号を分離することができる。
【0008】
又、前記しきい値を、前記アブソリュートパターン由来の明暗信号の最小値と前記インクリメンタルパターン由来の明暗信号の最小値の中間の値として2値化を行なうことで、アブソリュートパターン信号を分離することができる。
【0009】
あるいは、前記しきい値を、前記インクリメンタルパターン由来の明暗信号の最大値と前記アブソリュートパターン由来の明暗信号の最大値の中間の値として2値化を行なうことで、アブソリュートパターン信号を分離することができる。
【0010】
又、前記しきい値を、前記インクリメンタルパターン由来の明暗信号の最小値と最大値の中間の値として2値化を行なうことで、インクリメンタルパターン信号を分離することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適切に設計された撮像光学系を用いて、ABS/INC統合パターンを撮像することで、アブソリュートパターンのしきい値とインクリメンタルパターンのしきい値を決定することが出来る。従って、この導き出されたしきい値を元に2値化を行えば、アブソリュート、インクリメンタルの両パターン信号を容易に、且つ迅速に分離することが可能となる。この手法では、煩雑な演算を伴わないため、高性能な処理回路が必要なく、更には、演算時間の短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】反射型に適用した本発明に係る絶対測長型エンコーダの第1実施形態の全体構成を示す断面図
【図2】同じくABS/INC統合パターンを示す平面図
【図3】同じく結像光学系のMTF曲線の例を示す図
【図4】同じくアブソリュートパターン由来の明暗信号とインクリメンタルパターン由来の明暗信号の振幅差の例を示す図
【図5】図4の振幅差を利用して決定されたしきい値と、そのしきい値によって2値化することで得られるスケールパターン信号の例を示す図
【図6】透過型に適用した本発明に係る絶対測長型エンコーダの第2実施形態の全体構成を示す断面図
【図7】同じくアブソリュートパターン由来の明暗信号とインクリメンタルパターン由来の明暗信号の振幅差の例を示す図
【図8】図6の振幅差を利用して決定されたしきい値と、そのしきい値によって2値化することで得られるスケールパターン信号の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明の第1実施形態は、図1に全体構成を示す如く、例えば反射型であって、パターンの信号成分がスケール上の暗部となる絶対測長型エンコーダに本発明を適用したもので、光源10と、該光源10からの光が照射される反射型のABS/INC統合パターン12Cを有するスケール12と、アブソリュートパターン由来の明暗信号とインクリメンタルパターン由来の明暗信号とに振幅差が生じるようにMTF(Modulation Transfer Function)曲線が設計されたレンズ14と、該レンズ14を介して前記スケール12からの反射光を受光する受光素子(例えばフォトダイオードアレイ)16と、該受光素子16の出力の明暗信号を多値(例えば256値)のデジタル信号に変換するA/D変換器18と、該A/D変換器18の出力の明暗レベル信号をアブソリュートパターンのしきい値SABS及びインクリメンタルパターンのしきい値SINCと比較する比較器20と、該比較器20によって得られるアブソリュート(ABS)パターン信号を処理して絶対位置を検出する絶対位置検出回路22と、前記比較器20によって得られるインクリメンタル(INC)パターン信号を処理して相対位置を検出する相対位置検出回路24と、前記絶対位置検出回路22と相対位置検出回路24の出力を合成して、相対位置により補間された絶対位置信号を出力する絶対位置合成回路26とを備えている。
【0015】
前記スケール12上には、図2(C)に示す如く、例えば図2(A)に示すように擬似ランダムパターンを配置したアブソリュート(ABS)パターン12Aの位置に、図2(B)に示すように、所定ピッチpINCのインクリメンタル(INC)パターン12Bを配置して、ABSパターン12AとINCパターン12Bを1トラックに統合したABS/INC統合パターン12Cが配置されている。
【0016】
前記レンズ14は、そのMTF曲線(被写体の持つコントラストをどの程度忠実に再現できるかを空間周波特性として表記したもの)を図3に実線Aで例示する如く、粗いABSパターンに対しては振幅(コントラスト)が大で、細かいINCパターンに対しては振幅(コントラスト)が小であるようなMTF曲線を有する。即ち、通常は細かいINCパターンまで高解像度が得られる様に破線Bで示す様なMTF曲線のレンズを用いるのに対して、本発明では、実線Aで示す様なMTF曲線のレンズを用いて、INCパターンだけ振幅が小さくなる(解像力を低下させる)ようにしている。
【0017】
このようなレンズ14でABS/INC統合パターン12Cを撮像すると、得られた明暗信号の振幅Aは、図4に例示する如く、ピッチpINCでパターン(INCパターン)が配置されている箇所(INCパターン由来の明暗信号)で最小値A=AINCとなる。一方、ピッチpINCでパターンが配置されていない箇所(ABSパターン由来の明暗信号)では、振幅はA=AABS(>AINC)となる。つまり、
ABSパターン由来の明暗信号の最小値AABS−L
<INCパターン由来の明暗信号の最小値AINC−L
INCパターン由来の明暗信号の最大値AINC−H
<ABSパターン由来の明暗信号の最大値AABS−H
が成立する。
【0018】
従って、例えばAABS−LとAINC−Lの差を利用して、図5に示すように、アブソリュートパターンを分離するためのABSパターンしきい値SABSを、アブソリュートパターン由来の明暗信号の最小値AABS−Lとインクリメンタルパターン由来の明暗信号の最小値AINC−Lの中間の値SABS、即ち、AABS−L<SABS<AINC−Lとして2値化を行うことで、アブソリュートパターン信号を得ることができる。
【0019】
又、インクリメンタルパターンを分離するためのINCパターンしきい値SINCを、インクリメンタルパターン由来の明暗信号の最小値AINC−Lと最大値AINC−Hの中間の値、即ち、AINC−L<SINC<AINC−Hとして2値化を行うことで、インクリメンタルパターン信号を得ることができる。
【0020】
このようにして得られたアブソリュートパターン信号とインクリメンタルパターン信号を、それぞれ絶対位置検出回路22と相対位置検出回路24に送って、絶対位置信号と相対位置信号を得、これを絶対位置合成回路26で合成することによって、相対位置信号によって補間された絶対位置信号により絶対位置を得ることができる。なお、絶対位置検出回路22、相対位置検出回路24、絶対位置合成回路26の構成及び作用は、特許文献1と同じであるので、詳細な説明は省略する。又、インクリメンタルパターンを、アブソリュートパターン位置にのみ配置することによる精度低下は、例えば出願人が特開2010−48607号公報で提示したような正弦波関数のフィッティングにより補うことができる。
【0021】
なお、第1実施形態においては、本発明が反射型に適用され、パターンの暗部が信号成分を持つようにされていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、図6に示す第2実施形態のように、パターンの明部が信号成分となる、光源10がレンズ14の反対側に配置された透過型のエンコーダにも同様に適用できる。
【0022】
本実施形態においては、アブソリュートパターン由来の明暗信号とインクリメンタルパターン由来の明暗信号の振幅差は、図7に示す如くとなる。
【0023】
従って、アブソリュートパターンを分離するためのしきい値SABSをインクリメンタルパターン由来の明暗信号の最大値AINC−Hとアブソリュートパターン由来の明暗信号の最大値AABS−Hの中間の値、即ち、AINC−H<SABS<AABS−Hとすることによって、図8に例示するように、アブソリュートパターン信号を得ることができる。なお、インクリメンタルパターン信号の分離については、第1実施形態と同じしきい値SINCを用いれば良い。
【0024】
他の点については、第1実施形態と同じであるので、同じ符号を用いて、説明は省略する。
【0025】
なお、前記実施形態においては、いずれも、アブソリュートパターンが擬似ランダムパターンに従って配置されていたが、アブソリュートパターンの配置は、これに限定されない。
【0026】
又、結像光学系が1枚のレンズで構成されていたが、結像光学系の構成も、これに限定されない。
【符号の説明】
【0027】
10…光源
12…スケール
12A…アブソリュート(ABS)パターン
12B…インクリメンタル(INC)パターン
12C…ABS/INC統合パターン
14…レンズ
16…受光素子
18…A/D変換器
20…比較器
22…絶対位置検出回路
24…相対位置検出回路
26…絶対位置合成回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブソリュートパターンとインクリメンタルパターンを統合したアブソリュート/インクリメンタル統合パターンを有する絶対測長型エンコーダにおいて、
前記アブソリュートパターン由来の明暗信号と前記インクリメンタルパターン由来の明暗信号とに振幅差が生じるように設計された撮像光学系と、
前記アブソリュート/インクリメンタル統合パターンからの受光信号を、前記振幅差を利用してアブソリュートパターン信号とインクリメンタルパターン信号に分離する信号処理系と、
を備えたことを特徴とする絶対測長型エンコーダ。
【請求項2】
前記振幅差を利用したしきい値を決定し、2値化を行うことで、前記受光信号を分離することを特徴とする請求項1に記載の絶対測長型エンコーダ。
【請求項3】
前記しきい値を、前記アブソリュートパターン由来の明暗信号の最小値と前記インクリメンタルパターン由来の明暗信号の最小値の中間の値として2値化を行なうことで、アブソリュートパターン信号を分離することを特徴とする請求項2に記載の絶対測長型エンコーダ。
【請求項4】
前記しきい値を、前記インクリメンタルパターン由来の明暗信号の最大値と前記アブソリュートパターン由来の明暗信号の最大値の中間の値として2値化を行なうことで、アブソリュートパターン信号を分離することを特徴とする請求項2に記載の絶対測長型エンコーダ。
【請求項5】
前記しきい値を、前記インクリメンタルパターン由来の明暗信号の最小値と最大値の中間の値として2値化を行なうことで、インクリメンタルパターン信号を分離することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の絶対測長型エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53880(P2013−53880A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191027(P2011−191027)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】