説明

絶縁導線の被覆剥離方法

【課題】 導線の諸性状を低下させずに確実な被覆剥離が可能な絶縁導線の被覆剥離方法を提供する。
【解決手段】 絶縁導線の端部に規定された剥離箇所1Cであって芯線1Aの表面にパルスレーザを照射してその表面温度を急激に上昇させて界面1aの絶縁被覆1Bを構成するポリアミドイミドを化学変化させ溶融することなくガス化することにより、界面1aに気泡1bを発生させると共に、気泡1bを瞬時に膨張させて被覆1Bを破裂し飛散させる被覆剥離工程を実施して剥離箇所1Cの絶縁被覆1Bを剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁導線の被覆剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電子機器には導線として絶縁導線が用いられている。この絶縁導線は、一例として、芯線として銅線等を使用し、その芯線を覆う絶縁被覆としてポリウレタン被覆を使用している。ポリウレタン被覆は、熱に対してあまり強くないため、ポリウレタン被覆を使用した導線を電子機器の電極に継線する場合には、予め被覆を剥離させることなく、継線時の熱により継線と同時に被覆を剥離していた。
【0003】
また、絶縁導線が使用された電子機器の種類によっては、導線に高耐久性、具体的には耐熱性が要求されることがあり、この場合に絶縁被覆としてポリアミドイミドが使用される場合がある。ポリアミドイミドは、融点がポリウレタンに比較して高いため、継線時の熱によりポリアミドイミド被覆を剥離させることは容易ではない。よって、継線前に被覆を剥離する必要があり、回転刃等により機械的に剥離する方法や、特許文献1に示すように、レーザにより被覆を溶融させて剥離する方法が提案されていた。
【特許文献1】特開2000−299240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の被覆剥離方法では、機械的に剥離させる場合には芯線に傷が入り、傷が入った箇所が強度的な弱点となる場合があった。またレーザによる被覆剥離では芯線に傷は付かないが、被覆を溶融させる際に、溶融した被覆の一部や炭化した被覆の一部が芯線に付着したままとなる場合があり、継線時にこれら付着物があると確実な継線ができず、接触不良や継線箇所の強度不足が発生するおそれがあった。
【0005】
そこで本発明は、導線の諸性状を低下させずに確実な被覆剥離が可能な絶縁導線の被覆剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために第一の発明は、芯線と芯線を覆う絶縁被覆とを備えた絶縁導線の絶縁被覆を芯線から剥離する被覆剥離方法であって、絶縁導線にパルスレーザを照射して、芯線と絶縁被覆との界面に気泡を発生させ、気泡を膨張させて被覆を破裂し飛散させる被覆剥離工程を備えた絶縁導線の被覆剥離方法を提供する。
【0007】
このような方法によると、被覆を溶融せずに芯線より剥離することができる。よって絶縁被覆の剥離に刃物等を用いる必要がなく、芯線に傷が付くことを防止することができる。また被覆が飛散するため、剥離箇所に被覆が残り難くなる。
【0008】
また、パルスレーザの波長は、パルスレーザが絶縁被覆を透過可能な波長であることが好ましい。パルスレーザの波長が絶縁被覆を透過可能な波長であることにより、絶縁被覆を直接加熱することなく、絶縁被覆と芯線との界面を好適に加熱することができる。
【0009】
また、パルスレーザの照射時間は、100nsec以下であることが好ましい。パルスレーザの照射時間が100nsecを越えると絶縁被覆がパルスレーザにより加熱されて溶融する場合があるからである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の絶縁導線の被覆剥離方法によれば、導線の諸性状を低下させることなく、確実な被覆剥離が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態による絶縁導線の被覆剥離方法について図1から図3を参照しながら説明する。図1に示されるように、絶縁導線1は、銅線である芯線1Aとポリアミドイミドからなる絶縁被覆1Bとより構成される。絶縁導線1は、外径が約90μm、芯線径が約70μmである。この絶縁導線1の端部が剥離箇所1Cとなる。
【0012】
剥離箇所1Cの絶縁被覆1Bを剥離するため、図2に示されるように、絶縁導線1はレーザ剥離機10により剥離処理される。このレーザ剥離機10は、本体11に内蔵されたレーザ照射装置12と、コントローラ13と、ワークベース14と、マスク15と、吸引ノズル16とから構成される。
【0013】
レーザ照射装置12は、パルスレーザを照射するYAGレーザ照射装置であり、照射されるパルスレーザの波長が1064nm、パルス幅が100nsec以下であって好ましくは40nsec以下、周波数が20Hz、照射エネルギー量が2.60mJ/cmとなる装置である。またレーザ照射装置12は照射されるパルスレーザをワークベース14側に反射するミラー12Aと、ミラー12Aにより反射されたパルスレーザを絶縁導線1に好適に照射するレンズ部材である光学系12Bとを備えている。コントローラ13は、レーザ照射装置12に電力を供給すると共に、その出力を制御している。ワークベース14は絶縁導線1を担持する保持台14Aが設けられていると共に、ワークベース14上で保持台14Aを水平方向に移動可能としている。マスク15には照射口15aが形成されており、この照射口15aが絶縁導線1と光学系12Bとの間に配置されて、絶縁導線1に照射されるパルスレーザの領域を規定する。吸引ノズル16は、剥離された絶縁被覆1B(図1)を吸引して除去している。
【0014】
剥離工程としては、先ず、図2に示されるように、保持台14A上に剥離箇所1Cを配置する。この時に剥離箇所1C位置がパルスレーザ照射箇所となるように保持台14Aを水平移動させて調整する。またパルスレーザの焦点位置は、予め芯線1A表面近傍である保持台14A表面より約80μmの位置に焦点が合うように、光学系12Bにより調整されている。
【0015】
絶縁導線1が保持台14A上に固定された状態で、絶縁導線1と光学系12Bとの間に金属板のマスク15を挿入し、照射口15a内に剥離箇所1Cが位置するように配置される。これにより照射口15aを介してのみ絶縁導線1にパルスレーザが照射されるため、絶縁導線1の剥離箇所1C以外にはパルスレーザは照射されない。よって、絶縁導線1の非剥離箇所にパルスレーザが照射されることが防止される。
【0016】
マスク15を所定位置に配置した後に、図3(a)に示されるように、パルスレーザ照射装置により剥離箇所1Cにパルスレーザが照射される。パルスレーザの照射時間は、一箇所の剥離箇所1Cに対して約40nsecである。
【0017】
この場合にパルスレーザは絶縁被覆1Bを透過して芯線1Aに照射されるため、芯線1Aの表面がパルスレーザのエネルギーを吸収し、絶縁被覆1Bと芯線1Aとの間の界面1aが急激に温度上昇する。この温度上昇(常温から1000℃以上への温度変化)が極短時間で起こるため、界面1aの絶縁被覆1Bを構成するポリアミドイミドが化学変化し、溶融することなくガス化する。よって図3(b)に示すように、界面1aに無数の気泡1bが発生する。
【0018】
パルスレーザが照射された箇所の温度上昇により、図3(c)に示すように気泡1bが界面1aに沿って急激に体積膨張し、連続的に芯線1A表面から絶縁被覆1Bを剥離していく。
【0019】
気泡1bの体積膨張が進むと、絶縁被覆1Bが体積膨張に係る応力に耐えられなくなり、図3(d)に示すように、絶縁被覆1Bの気泡1bを覆う箇所が破裂する。この気泡1bの発生〜膨張〜破裂までの過程は極短時間で行われるため、絶縁被覆1Bの気泡1bを覆う箇所の破裂は衝撃を伴う。よって、絶縁被覆1Bは断片化された状態で芯線1A表面より飛散し、飛散した絶縁被覆1Bは、吸引ノズル16により吸い取られて除去される。従って、剥離箇所1Cに剥離された絶縁被覆1Bが付着したままになることは抑制される。
【0020】
そして、図3(e)に示すように、剥離箇所1Cの絶縁被覆1Bが全て飛散し芯線1A表面が露出してパルスレーザによる剥離が完了する。この時に芯線1Aの表面は、加熱されたのみであるため、傷が発生することはない。
【0021】
本発明による絶縁導線の被覆剥離方法は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、本実施の形態では、パルスレーザの照射時間は40nsecとしたが、これに限らず100nsec以内であるならば、被覆を上述の被覆剥離工程により剥離することが可能である。また、被覆の材料はポリアミドイミドに限らず、他の素材、例えばポリウレタンであっても、パルスレーザにより剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る絶縁導線の斜視図。
【図2】本発明の実施の形態に係るレーザ剥離機を示す概略図。
【図3】本発明の実施の形態に係る被覆剥離工程で(a)パルスレーザ照射、(b)気泡発生、(c)気泡膨張、(d)気泡破裂、(e)剥離完了の状態を表す部分断面図。
【符号の説明】
【0023】
1・・絶縁導線 1A・・芯線 1B・・絶縁被覆 1C・・剥離箇所 1a・・界面
1b・・気泡 10・・レーザ剥離機 11・・本体 12・・レーザ照射装置
12A・・ミラー 12B・・光学系 13・・コントローラ 14・・ワークベース
14A・・保持台 15・・マスク 15a・・照射口 16・・吸引ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線と該芯線を覆う絶縁被覆とを備えた絶縁導線の該絶縁被覆を該芯線から剥離する被覆剥離方法であって、
該絶縁導線にパルスレーザを照射して、該芯線と該絶縁被覆との界面に気泡を発生させ、該気泡を膨張させて該被覆を破裂し飛散させる被覆剥離工程を備えることを特徴とする絶縁導線の被覆剥離方法。
【請求項2】
該パルスレーザの波長は、該パルスレーザが該絶縁被覆を透過可能な波長であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁導線の被覆剥離方法。
【請求項3】
該パルスレーザの照射時間は、100nsec以下であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の絶縁導線の被覆剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−68343(P2007−68343A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252035(P2005−252035)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】