説明

絶縁層形成用ガラス組成物および絶縁層形成用材料

【課題】ガラス組成中に実質的にPbOを含有せず、ガラスの熱的安定性が良好であるとともに、軟化点が低く、しかもガラス基板等の収縮挙動に整合した熱膨張係数を有する絶縁層形成用ガラス組成物および絶縁層形成用材料を提供すること。
【解決手段】本発明の絶縁層形成用ガラス組成物は、ガラス組成として、モル%で、ZnO 31〜45%、B23 25〜45%、SiO2 11〜25%、Al23 0〜7%、Li2O 0〜12%、Na2O 1〜13%、K2O 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 8〜17%、BaO 0〜10%を含有し、モル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.2〜0.8であり、且つ実質的にPbOを含有しないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光表示管、各種電子放出素子を有する各種形式のフィールドエミッションディスプレイ、プラズマディスプレイパネル等の平面表示装置等に用いられる絶縁層形成用ガラス組成物およびこれを用いた絶縁層形成用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光表示管は、自己発光型の平面表示装置であり、高輝度、低電圧駆動、軽量薄型および高信頼性といった特徴を活かし、家電、オーディオ、計測器等の幅広い分野で利用されている。
【0003】
一般的に、蛍光表示管は、対向する前面ガラス基板と背面ガラス基板とを封着した真空容器の中に、フィラメント状カソードと、グリッドおよび蛍光体層を形成したアノードで構成される三極真空管である。また、アノード電極上には、絶縁層が形成されている。カソードから放出された熱電子は、メッシュ状グリッドで加速、制御され、アノード上の蛍光体層を選択的に励起発光させる。これにより所望の表示特性を得ることができる。
【0004】
一般的に、蛍光表示管の絶縁層形成用材料には、ガラス粉末が用いられている。ガラス粉末は、ガラス基板の熱変形を防止するために580℃以下、好ましくは570℃以下で焼成できることが重要である。それ故、この用途には、軟化点が580℃以下、好ましくは570℃以下のガラス粉末が使用される。
【0005】
従来、この種の絶縁層形成用材料は、低温で焼成可能な鉛含有ガラス(PbO−B23系ガラス)粉末が広く用いられていた。しかし、近年、環境的観点から、鉛を含まない絶縁層形成用材料が要求されており、絶縁層形成用材料として、アルカリ金属酸化物を含むZnO−B23−SiO2系ガラス粉末が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平5−339029号公報
【特許文献2】特開平11−250809号公報
【特許文献3】特開2000−226232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蛍光表示管等に使用される絶縁層形成用材料は、次のような特性が要求される。
(1)配線または電極間の導通不良を防止するために、絶縁特性が良好であること。
(2)蛍光表示管等の輝度特性を維持するために、輝度特性を劣化させる揮発物を発生させないこと。
(3)平滑な絶縁層を得るために、熱的安定性が良好であること。
(4)ガラス基板等の熱変形を防止するために、低温で焼成可能であること。
(5)ガラス基板等の反りを防止するために、ガラス基板等の収縮挙動に整合した熱膨張係数を有すること等の特性が要求される。
【0007】
従来の鉛含有ガラスは、熱的安定性が良好であり、且つガラス組成中にPbOを多量に含有しているため、ガラスの軟化点が低く、しかも熱膨張係数が小さいため、上記要求特性(3)〜(5)を満たすことができる。
【0008】
しかし、ZnO−B23−SiO2系ガラスは、ガラス組成中にPbOを含有していないため、ガラスの熱的安定性を維持した上で軟化点を下げることが困難であった。また、ZnO−B23−SiO2系ガラスは、ガラスの軟化点を下げるためにアルカリ金属酸化物を一定量含有させる必要があるため、ガラスの軟化点を下げると同時に、熱膨張係数を下げることが困難であった。このような事情から、ZnO−B23−SiO2系ガラスは、上記要求特性(3)〜(5)を同時に満たすことが困難であった。
【0009】
なお、従来の鉛含有ガラスは、従来の製品においては上記要求特性(1)および(2)を満足するが、蛍光表示管等の高性能化等が進むにつれて、印加電圧等が高くなるため、近年、上記要求特性(1)および(2)を更に改良する必要性が生じている。
【0010】
そこで、本発明は、ガラス組成中に実質的にPbOを含有せず、ガラスの熱的安定性が良好であるとともに、軟化点が低く、しかもガラス基板等の収縮挙動に整合した熱膨張係数を有する絶縁層形成用ガラス組成物および絶縁層形成用材料を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意努力の結果、ZnO−B23−SiO2系ガラスのガラス組成範囲をモル%で、ZnO 31〜45%、B23 25〜45%、SiO2 11〜25%、Al23 0〜7%、Li2O 0〜12%、Na2O 1〜13%、K2O 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O(Li2O、Na2OおよびK2Oの合量) 8〜17%、BaO 0〜10%に規制するとともに、モル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値を一定範囲に規制することで上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の絶縁層形成用ガラス組成物は、ガラス組成として、モル%で、ZnO 31〜45%、B23 25〜45%、SiO2 11〜25%、Al23 0〜7%、Li2O 0〜12%、Na2O 1〜13%、K2O 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 8〜17%、BaO 0〜10%を含有し、モル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.2〜0.8であり、且つ実質的にPbOを含有しないことを特徴とする。ここで、本発明でいう「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0012】
本発明の絶縁層形成用ガラス組成物は、ガラス組成範囲を上記のように規制しているため、ガラスの軟化点が低いにもかかわらず、熱的安定性が良好、つまりガラスが失透し難く、ガラスの失透に起因して、絶縁層の表面平滑性が損なわれる事態を防止することができる。なお、絶縁層の表面平滑性が損なわれると、局所的に絶縁層の絶縁特性が悪化しやすくなる。
【0013】
本発明の絶縁層形成用ガラス組成物は、ZnOの含有量、Li2O+Na2O+K2Oの含有量およびモル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値を規制しているため、ガラスの軟化点を下げると同時に、熱膨張係数を容易に下げることができ、結果として、ガラス基板等の熱変形を防止した上でガラス基板の反りを低減することができる。
【0014】
さらに、本発明の絶縁層形成用ガラス組成物は、ガラス組成中に実質的にPbOを含有しない。このようにすれば、近年の環境的要請を的確に満たすことができる。
【0015】
第二に、本発明の絶縁層形成用ガラス組成物は、更に、ガラス組成として、モル%で、TiO2を0.01〜10%含有することに特徴付けられる。このようにすれば、絶縁層に生じる発泡を低減できるため、ガラスの絶縁特性を大幅に向上させることができる。
【0016】
第三に、本発明の絶縁層形成用材料は、上記の絶縁層形成用ガラス組成物からなるガラス粉末90〜100質量%と、着色剤0〜10質量%とを含有することに特徴付けられる。
【0017】
第四に、本発明の絶縁層形成用材料は、熱膨張係数が78×10-7/℃以下であることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「熱膨張係数」とは、JIS R3102に基づいて測定した値を指し、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置により、30〜300℃の温度範囲で測定した値を指す。なお、測定試料は、絶縁層形成用材料をプレス成型し、緻密に焼成した後、直径4mm、長さ40mmの円柱状に研磨加工したものを用いる。
【0018】
第五に、本発明の絶縁層形成用材料は、軟化点が580℃以下であることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「軟化点」とは、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指し、マクロ型DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、図1に示す第四屈曲点の温度(TS)を指す。
【0019】
第六に、本発明の絶縁層形成用材料は、平均粒子径D50が15μm以下であることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「平均粒子径D50」とは、レーザー回折法で測定した値を指す。
【0020】
第七に、本発明の絶縁層形成用材料は、最大粒子径Dmaxが30μm以下であることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「最大粒子径Dmax」とは、レーザー回折法で測定した値を指す。
【0021】
第八に、本発明の絶縁層形成用材料は、蛍光表示管に用いることに特徴付けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の絶縁層形成用ガラス組成物のガラス組成範囲を上記のように限定した理由を述べる。なお、以下の%表示は、特に限定がある場合を除き、モル%を指す。
【0023】
ZnOは、ガラスの溶融温度や軟化点を過剰に上げることなく、熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は31〜45%、好ましくは31〜40%、より好ましくは31〜37%である。ZnOの含有量が31%より少ないと、ガラスの熱膨張係数が十分に低下せず、焼成時にガラスの収縮挙動がガラス基板等の収縮挙動に整合し難くなり、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。また、ZnOの含有量が31%より少ないと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。一方、ZnOの含有量が45%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し、焼成時にガラスが失透しやすくなる。
【0024】
23は、ガラスの骨格を形成する成分であるとともに、ガラスの溶融温度および軟化点を下げる成分であり、その含有量は25〜45%、好ましくは29〜45%、より好ましくは32〜40%である。B23の含有量が25%より少ないと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。一方、B23の含有量が45%より多いと、ガラスが分相しやすくなり、この場合、580℃以下の温度で焼成すると、平滑な絶縁層が得難く、ガラスの絶縁特性が悪化しやすくなる。
【0025】
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分であるとともに、熱膨張係数を低下させる効果があり、その含有量は11〜25%、好ましくは11〜20%、より好ましくは12.5〜18%である。SiO2の含有量が11%より少ないと、ガラスの熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。一方、SiO2の含有量が25%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。
【0026】
Al23は、ガラスの分相を抑える成分であり、またガラスの耐薬品性を高める成分であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3%である。Al23の含有量が7%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。
【0027】
Li2Oは、ガラスの軟化点を下げる成分であり、その含有量は0〜12%、好ましくは0〜7.5%、より好ましくは0.1〜5%である。Li2Oの含有量が12%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
【0028】
Na2Oは、ガラスの軟化点を下げる成分であり、その含有量は1〜13%、好ましくは1〜9%、より好ましくは2〜7%である。Na2Oの含有量が1%より少ないと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。一方、Na2Oの含有量が13%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
【0029】
2Oは、ガラスの軟化点を下げる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜7%、より好ましくは0.1〜5.5%である。K2Oの含有量が10%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
【0030】
Li2O+Na2O+K2Oは、ガラスの軟化点、熱的安定性、耐薬品性および熱膨張係数に影響を及ぼし、その含有量は8〜17%、好ましくは8〜15%、より好ましくは9〜13.5%である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が8%より少ないと、ガラスの軟化点が高くなり過ぎ、580℃以下の温度で平滑な絶縁層を得難くなる。一方、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が15%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。また、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が15%より多いと、ガラスの熱膨張係数が十分に低下せず、焼成時にガラスの収縮挙動がガラス基板等の収縮挙動に整合し難くなり、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。
【0031】
モル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)は、ガラスの熱的安定性を維持しつつ、ガラスの軟化点を下げ、更には熱膨張係数を下げるために重要な成分比率、つまりアルカリ混合効果を適確に享受するために重要な成分比率であり、その値は0.2〜0.8、好ましくは0.3〜0.7、より好ましくは0.35〜0.6である。モル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.2より小さいと、ガラスの軟化点が十分に低下せず、焼成温度が高くなる傾向がある。また、モル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.2より小さいと、ガラスの熱的安定性が損なわれ、或いは熱膨張係数が大きくなる傾向がある。一方、モル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.8より大きいと、ガラスの軟化点が十分に低下せず、焼成温度が高くなる傾向がある。
【0032】
BaOは、ガラスの熱的安定性を向上させる成分であり、また耐水性や耐薬品性を改良する成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3.5%である。BaOの含有量が10%より多いと、焼成時にガラスの収縮挙動がガラス基板等の収縮挙動に整合し難くなり、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。
【0033】
本発明の絶縁層形成用ガラス組成物には、上記成分以外にも、下記の成分をガラス組成中に含有させることができる。
【0034】
TiO2は、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、またガラスの絶縁特性を向上させる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0.01〜7%、より好ましくは0.1〜3%である。TiO2の含有量が10%より多いと、ガラスの熱的安定性が低下し、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。ガラスの絶縁特性を確実に向上させるためには、TiO2の含有量を0.1%以上にすればよい。
【0035】
MgOは、ガラスの熱的安定性を向上させる成分であり、また耐水性や耐薬品性を改良する成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3.5%である。MgOの含有量が10%より多いと、ガラスの熱膨張係数が十分に低下せず、焼成時にガラスの収縮挙動がガラス基板等の収縮挙動に整合し難くなり、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。
【0036】
CaOは、ガラスの熱的安定性を向上させる成分であり、また耐水性や耐薬品性を改良する成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3.5%である。CaOの含有量が10%より多いと、ガラスの熱膨張係数が十分に低下せず、焼成時にガラスの収縮挙動がガラス基板等の収縮挙動に整合し難くなり、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。
【0037】
SrOは、ガラスの熱的安定性を向上させる成分であり、また耐水性や耐薬品性を改良する成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3.5%である。SrOの含有量が10%より多いと、ガラスの熱膨張係数が十分に低下せず、焼成時にガラスの収縮挙動がガラス基板等の収縮挙動に整合し難くなり、ガラス基板等に反りが発生しやすくなる。
【0038】
上記成分の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を添加することができる。例えば、耐水性や耐薬品性を向上させるためにZrO2を5%(好ましくは2%)まで、またガラスの熱的安定性を向上させるのためにP25または希土類酸化物を10モル%まで添加してもよい。
【0039】
本発明の絶縁層形成用ガラス組成物は、既述の通り、環境的観点からPbOを実質的に含有しない。また、ガラス中に含まれるPbOは、ビークル中のカーボンによってPbに還元され、これがアノードに付着し、蛍光表示管等の輝度特性を劣化させるおそれもある。なお、PbOと同様にして、Bi23も環境的影響が懸念される場合があるため、本発明の絶縁層形成用ガラス組成物は、実質的にBi23を含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にBi23を含有しない」とは、ガラス組成中のBi23の含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0040】
本発明の絶縁層形成用ガラス組成物において、ハロゲン(特に、F2、Cl2)およびSO3を実質的に含まないことが好ましい。ハロゲンおよびSO3は焼成時に揮発し、カソードやアノードを汚染して電子の授受を阻害し、その結果、蛍光表示管等の輝度特性を低下させるおそれがある。よって、焼成時の成分揮発による輝度特性の劣化が問題とならないレベルにまでこれらの成分を低減することが好ましい。具体的には、ハロゲンを合量で100ppm(質量)以下、SO3を10ppm(質量)以下に規制することが好ましい。ハロゲンおよびSO3の含有量を低減するためには、ガラス原料を選択する際にこれらの含有量が少ないものを選択すればよい。また、ガラスの溶融温度を1300℃以上に設定したり、或いは溶融時間を長くすると、ハロゲンおよびSO3の含有量を更に低減することができる。
【0041】
本発明の絶縁層形成用材料は、上記の絶縁層形成用ガラス組成物からなるガラス粉末90〜100質量%と、着色剤0〜10質量%とを含有し、好ましくは上記の絶縁層形成用ガラス組成物からなるガラス粉末95〜100質量%と、着色剤0〜5質量%とを含有し、より好ましくは上記の絶縁層形成用ガラス組成物からなるガラス粉末95〜99.9質量%と、着色剤0.1〜5質量%とを含有する。一般的に、本発明の絶縁層形成用材料は、絶縁層の表面平滑性を向上させるために、上記の絶縁層形成用ガラス組成物からなるガラス粉末のみで構成されるが、必要に応じて着色剤を10質量%まで添加することもできる。しかし、着色剤の含有量が10質量%より多いと、絶縁層の表面平滑性が損なわれやすくなり、しかも絶縁層に泡等が残存しやすくなる。
【0042】
着色剤として、Cu系酸化物、Al系酸化物、Fe系酸化物、Cr系酸化物、Ti系酸化物、Co系酸化物、Mn系酸化物、Zn系酸化物およびこれらのスピネル型複合酸化物等が使用可能であり、特に、着色剤として、Cu系酸化物、Cr系酸化物およびMn系酸化物が好ましい。Cu系酸化物、Cr系酸化物およびMn系酸化物は、黒色であるため、絶縁層形成用材料に不純物が混入しても、絶縁層が外観不良になりにくい。また、絶縁層形成用材料にこれらの着色剤を含有させると、絶縁層の反射を低減でき、蛍光表示管等のコントラストを向上させることができる。さらに、絶縁層形成用材料にこれらの着色剤を含有させると、蛍光表示管等の製造工程において、センサー等で構成部材を認識しやすくなり、製造工程のオートメーション化等を容易に図ることができる。また、絶縁層の反射率を上げる必要性がある場合には、着色剤として、Ti系酸化物、Zn系酸化物等の白色顔料を添加すればよい。
【0043】
本発明の絶縁層形成用材料は、必要に応じて、耐火性フィラー粉末、例えばアルミナ、ジルコニア、ジルコン、チタニア、コーディエライト、ムライト、シリカ、ウイレマイト、酸化錫、酸化亜鉛等の粉末を合量で10質量%まで添加することができる。しかし、絶縁層形成用材料に耐火性フィラー粉末を含有させると、絶縁層の表面平滑性が損なわれやすくなるため、本発明の絶縁層形成用材料は、実質的に耐火性フィラー粉末を含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に耐火性フィラー粉末を含有しない」とは、絶縁層形成材料中の耐火性フィラー粉末の含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
【0044】
本発明の絶縁層形成用材料において、熱膨張係数は78×10-7/℃以下が好ましく、76×10-7/℃以下がより好ましく、75×10-7/℃未満が更に好ましい。絶縁層形成用材料の熱膨張係数が78×10-7/℃より大きいと、焼成後にガラス基板等に反りが発生しやすくなり、その後の製造工程で不具合が生じるおそれがある。絶縁層形成用材料の熱膨張係数は、ガラス基板等に対して5〜30×10-7/℃、好ましくは7〜20×10-7/℃程度低く設計することが重要である。このようにすれば、焼成時に絶縁層形成用材料とガラス基板等の収縮挙動を整合させることができ、ガラス基板等に反りが発生し難くなる。特に、ソーダガラス基板(熱膨張係数85×10-7/℃)の場合、絶縁層形成用材料の好適な熱膨張係数は65〜78×10-7/℃である。
【0045】
本発明の絶縁層形成用材料において、軟化点は580℃以下が好ましく、570℃以下がより好ましく、560℃以下が更に好ましい。絶縁層形成用材料の軟化点が580℃より高いと、絶縁層の形成に際し、高温焼成が必要になり、ガラス基板等に熱変形等が生じやすくなる。また、絶縁層形成用材料の軟化点が580℃より高いと、ガラスの流動性が乏しくなり、平滑な絶縁層を得難くなることに加えて、絶縁層の緻密性が低下する。
【0046】
本発明の絶縁層形成用材料において、平均粒子径D50は15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下が更に好ましい。絶縁層形成用材料の平均粒子径D50が15μmより大きいと、ガラスが軟化し難くなり、平滑な絶縁層を得難くなる。
【0047】
本発明の絶縁層形成用材料において、最大粒子径Dmaxは30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下が更に好ましい。絶縁層形成用材料の平均粒子径Dmaxが30μmより大きいと、スクリーン印刷で塗布膜を形成する場合、スクリーンメッシュのメッシュサイズを大きくする必要があるため、塗布膜の厚みを均一化することが困難になり、その結果、平滑な絶縁層を得難くなる。
【0048】
本発明の絶縁層形成用材料は、ペーストの形態で使用することができる。ペーストの形態で使用する場合、絶縁層形成材料とともに、熱可塑性樹脂、可塑剤、溶剤等を使用する。ペースト中の絶縁層形成材料の含有量は、30〜90質量%が好ましい。絶縁層形成材料の含有量が30質量%より少ないと、ペーストの粘性が低くなり過ぎ、乾燥膜の膜厚を制御することが困難になる。一方、絶縁層形成材料の含有量が90質量%より多いと、ペーストの粘性が高くなり過ぎ、乾燥膜の膜厚を制御することが困難になる。
【0049】
熱可塑性樹脂は、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分であり、その含有量は0.1〜20質量%が好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が0.1質量%より小さいと、上記効果を得難くなる。一方、熱可塑性樹脂の含有量が20質量%より多いと、絶縁層の膜厚を制御し難くなり、しかも絶縁層中に泡が残存しやすくなり、結果として、平滑な絶縁層を得難くなる。熱可塑性樹脂として、エチルセルロース、ポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート等を単独あるいは混合して使用することができる。
【0050】
可塑剤は、乾燥速度をコントロールするとともに、乾燥膜に柔軟性を与える成分であり、その含有量は0〜10質量%が好ましい。可塑剤の含有量が10質量%より多いと、絶縁層の膜厚を制御し難くなり、しかも絶縁層中に泡が残存しやすくなり、結果として、平滑な絶縁層を得難くなる。可塑剤として、ブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等を単独あるいは混合して使用することができる。
【0051】
溶剤は、絶縁層形成用材料を分散し、ペースト化するための成分であり、その含有量は10〜30質量%が好ましい。溶剤の含有量が10質量%より少ないと、ペーストの粘性が高くなり過ぎ、乾燥膜の膜厚を制御することが困難になる。一方、溶剤の含有量が30質量%より多いと、ペーストの粘性が低くなり過ぎ、乾燥膜の膜厚を制御することが困難になる。溶剤として、ターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等を単独または混合して使用することができる。
【0052】
ペーストは、絶縁層形成用材料、熱可塑性樹脂、可塑剤、溶剤等を所定の割合で混合した後、三本ローラー等で混練することにより作製することができる。絶縁層は、得られたペーストをスクリーン印刷法で所定の膜厚になるまで積層した後、これを乾燥し、所定温度で焼成することで形成することができる。なお、塗布膜は、ドクターブレード法、ロールコート法、スプレー法、リバースコーター法、グリーンシート法、テーブルコーター法等でも形成することができる。
【0053】
本発明の絶縁層形成用材料は、上記の要求特性(1)〜(5)を満足することができるため、蛍光表示管に好適に使用することができる。また、本発明の絶縁層形成用材料は、上記の要求特性(1)〜(5)を満足することができるため、プラズマディスプレイパネル等の誘電体材料にも好適に使用することができる。
【0054】
本発明の絶縁層形成用材料は、鉛含有ガラスで生じる鉛樹問題が生じないため、蛍光表示管に好適に使用することができる。ソーダガラス基板は、ガラス組成中にNa2Oを含有しているが、長期の使用によりNa2OがNa+に電解し、これが鉛含有ガラス中のPbOを還元させ、アノード電極上にPbを樹枝状に析出させる。これは鉛樹と称される現象であるが、この現象が生じると、絶縁層の絶縁特性が損なわれる。しかし、本発明の絶縁層形成用材料は、ガラス組成中にPbOを含有しないため、このような問題は生じない。なお、本発明の絶縁層形成用材料は、鉛含有ガラスで形成された絶縁層の保護層としても用いることができる。このようにすれば、鉛含有ガラスが本発明の絶縁層形成用材料で保護されているため、鉛樹問題が生じ難い。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。表1〜4は、本発明の実施例(試料No.1〜17)、比較例(試料No.18〜20)を示している。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
各試料は次のようにして調製した。まず表1〜4に示すガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等のガラス原料を調合し、均一に混合した後、白金坩堝に入れて1250℃で2時間溶融し、次いで溶融ガラスの一部をフィルム状に成形し、残りの溶融ガラスを密度測定用試料として板状に成形した。続いて、ガラスフィルムを所望の粒径となるように、ジルコニアボールを用いたアルミナ製ボールミルで所定時間粉砕した後、空気分級を行い、平均粒子径D50が5μm、最大粒子径Dmaxが15μmのガラス粉末を得た。なお、ガラス中のハロゲンの含有量が100ppm(質量)以下、SO3の含有量が10ppm(質量)以下になるように、不純物の少ないガラス原料を選択した。
【0061】
密度は、周知のアルキメデス法で測定した。
【0062】
熱膨張係数は、JIS R3102に基づいて測定し、TMA装置により、30〜300℃の温度範囲で測定した。なお、測定試料は、各試料を所定形状にプレス成型し、緻密に焼成した後、直径4mm、長さ40mmの円柱状に研磨加工したものを用いた。
【0063】
ガラス転移点は、TMA装置で測定した。なお、測定試料は、各試料を所定形状にプレス成型し、緻密に焼成した後、直径4mm、長さ40mmの円柱状に研磨加工したものを用いた。
【0064】
軟化点は、マクロ型DTA装置で測定した。マクロ型DTAは、室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とした。
【0065】
絶縁特性は、以下のようにして評価した。まず各試料をビークル(エチルセルロースを5%含有させたターピネオール溶液)中に分散させた後、三本ロールミルで混練してペースト化した。次いで、このペーストをアルミニウム配線が施されたソーダガラス基板(熱膨張係数85×10-7/℃)の上にスクリーン印刷法で塗布し、膜厚200μmの塗布膜を形成した。続いて、この塗布膜を150℃で30分間乾燥し、乾燥膜を得た後、電気炉で560℃30分間焼成した。焼成に際し、昇降温速度は10℃/分とした。最後に、このような方法で得られた絶縁層を2枚用意し、これらを一定間隔を保った上で食塩水中に浸漬した後、両絶縁層を通電し、絶縁層の表面に発生した泡数を評価した。具体的には、絶縁層の表面に発泡が全く認められなかったものを「○」、発泡は認められたが1〜4個/cm2であったものを「△」、発泡が5個/cm2以上であったものを「×」として評価した。
【0066】
表面平滑性は、以下のようにして評価した。まず各試料をビークル(エチルセルロースを5%含有させたターピネオール)中に分散させた後、三本ロールミルで混練してペースト化した。次いで、このペーストをソーダガラス基板(熱膨張係数:85×10-7/℃)の上にスクリーン印刷法で塗布し、膜厚200μmの塗布膜を形成した。続いて、この塗布膜を150℃で30分間乾燥し、乾燥膜を得た後、電気炉で560℃30分間焼成した。焼成に際し、昇降温速度は10℃/分とした。最後に、得られた絶縁層の表面粗さRaを触針式表面粗さ計で測定し、表面粗さRaが1μm以下のものを「○」、1μmを超えるものを「×」として評価した。
【0067】
輝度特性は、以下のようにして評価した。まず予め輝度特性に影響がないことが確認された鉛含有ガラスを用い、蛍光表示管を作製した。この蛍光表示管の輝度特性を測定し、これを100%とした。次に、表中の各試料を用いて作製した蛍光表示管の輝度特性を測定し、輝度特性が相対値で90%以上のものを「○」、90%未満のものを「×」として評価した。蛍光表示管は、内部に蛍光体、リード配線、絶縁層、グリッド、フィラメント、アノード等を組み込み、前面ガラス基板と背面ガラス基板を封着材料で封着することにより作製した。なお、封着材料は、予め輝度特性に影響がないことが確認されたものを使用した。
【0068】
表1〜4から明らかなように、試料No.1〜17は、熱膨張係数が78×10-7/℃以下、軟化点が580℃以下であり、且つ絶縁特性、表面平滑性および輝度特性が良好であった。
【0069】
表4から明らかなように、試料No.18は、ZnOの含有量が31%未満であるため、ガラスの軟化点が高く、平滑な絶縁層を得ることができなかった。その結果、試料No.18において、表面平滑性の評価が不良であった。また、試料No.18は、表面平滑性の評価が不良であるため、絶縁層の絶縁特性は、局所的に悪化するおそれがあると考えられる。試料No.19は、モル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.8より大きいため、熱的安定性が乏しく、絶縁層の表面に結晶が析出し、平滑な絶縁層を得ることができなかった。その結果、試料No.19において、表面平滑性の評価が不良であった。また、試料No.19は、表面平滑性の評価が不良であるため、絶縁層の絶縁特性は、局所的に悪化するおそれがあると考えられる。試料No.20は、SiO2の含有量が11%未満およびモル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.2未満であるため、熱的安定性が乏しく、絶縁層の表面に結晶が析出し、平滑な絶縁層を得ることができなかった。その結果、試料No.20において、表面平滑性の評価が不良であった。また、試料No.20は、表面平滑性の評価が不良であるため、絶縁層の絶縁特性は、局所的に悪化するおそれがあると考えられる。
【0070】
試料No.1〜17に着色剤としてCu系酸化物を3質量%添加した絶縁層形成用材料、試料No.1〜17に着色剤としてMn系酸化物を3質量%添加した絶縁層形成用材料および試料No.1〜17に着色剤としてCr系酸化物を3質量%添加した絶縁層形成用材料について、上記と同様に表面平滑性、絶縁特性および輝度特性を評価した。その結果、いずれの試料も表面平滑性、絶縁特性および輝度特性の評価が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の絶縁層形成用ガラス組成物および絶縁層形成用材料は、蛍光表示管、各種電子放出素子を有する各種形式のフィールドエミッションディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、有機エレクトロルミネセンスディスプレイ、無機エレクトロルミネセンスディスプレイ等の平面表示装置等に好適である。また、本発明の絶縁層形成用ガラス組成物および絶縁層形成用材料は、平面蛍光ランプ(Flat Fluorecent Lamp、略してFFLと称される)等の電極被覆に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】マクロ型DTA装置で測定した時のガラスの軟化点を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、モル%で、ZnO 31〜45%、B23 25〜45%、SiO2 11〜25%、Al23 0〜7%、Li2O 0〜12%、Na2O 1〜13%、K2O 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 8〜17%、BaO 0〜10%を含有し、モル比Na2O/(Li2O+Na2O+K2O)の値が0.2〜0.8であり、且つ実質的にPbOを含有しないことを特徴とする絶縁層形成用ガラス組成物。
【請求項2】
更に、ガラス組成として、モル%で、TiO2を0.01〜10%含有することを特徴とする請求項1に記載の絶縁層形成用ガラス組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の絶縁層形成用ガラス組成物からなるガラス粉末90〜100質量%と、着色剤0〜10質量%とを含有することを特徴とする絶縁層形成用材料。
【請求項4】
熱膨張係数が78×10-7/℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の絶縁層形成用ガラス組成物。
【請求項5】
軟化点が580℃以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の絶縁層形成用材料。
【請求項6】
平均粒子径D50が15μm以下であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の絶縁層形成用材料。
【請求項7】
最大粒子径Dmaxが30μm以下であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の絶縁層形成用材料。
【請求項8】
蛍光表示管に使用することを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の絶縁層形成用材料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−167024(P2009−167024A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4152(P2008−4152)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】