説明

絶縁性熱伝導シート

【課題】優れた熱伝導性を有するとともに、発熱部材や放熱部材等の被接着物に対する取り付け性(タック性)に優れる絶縁性熱伝導シートを提供する。
【解決手段】高分子量ポリマーと熱伝導性フィラーとを含有する絶縁性熱伝導シートであって、前記高分子量ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が−50〜50℃、かつ、重量平均分子量が1万〜500万であり、前記熱伝導性フィラーの含有量が30〜90体積部であり、熱伝導率が0.5W・mK以上、かつ、シリコン基板に対する25℃での90℃ピール力が5〜1000N/mである絶縁性熱伝導シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた熱伝導性を有するとともに、発熱部材や放熱部材等の被接着物に対する取り付け性(タック性)に優れる絶縁性熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気・電子部品等の発熱部材に添設して発熱体から伝わった発熱体の熱を放熱させるヒートシンク等の放熱部材との間には、熱が発熱部材から放熱部材に効率よく伝わるように熱伝導シートが介設されている。
このような熱伝導シートとしては、例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂と相溶性でありかつ重量平均分子量が3万以上の高分子量樹脂、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下である高分子量樹脂、及び、無機フィラーを含有し、樹脂100体積部に対して無機フィラーが30〜130体積部である熱伝導性接着剤組成物からなる熱伝導性接着フィルムが開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示の熱伝導性接着フィルムは、樹脂中に熱伝導性の無機フィラーが高充填されることで高い熱伝導性を有するものであるものの、表面タック性が不充分になるという問題があった。そのため、特許文献1に開示の熱伝導シートは、発熱体やヒートシンク等の放熱部材への取り付け性が劣るという問題があった。
【0004】
一方、特許文献2には、シート状黒鉛層の片面又は両面に、ポリビニルアルコール層を介して、シリコーンエラストマー層を設けてなる熱伝導性シートが開示されている。特許文献2に開示の熱伝導性シートによると、シート状黒鉛層の片面又は両面に設けられたシリコーンエラストマー層がタック性を発揮し、発熱体や放熱部材に対する取り付け性に優れるものであった。しかしながら、特許文献2に開示された熱伝導性シートは、多層構造にならざるを得ず、製造工程が煩雑になるという問題があった。
【特許文献1】特開平10−237410号公報
【特許文献2】特開2004−243650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、優れた熱伝導性を有するとともに、発熱部材や放熱部材等の被接着物に対する取り付け性(タック性)に優れる絶縁性熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、高分子量ポリマーと熱伝導性フィラーとを含有する絶縁性熱伝導シートであって、前記高分子量ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が−50〜50℃、かつ、重量平均分子量が1万〜500万であり、前記熱伝導性フィラーの含有量が30〜90体積部であり、熱伝導率が0.5W・mK以上、かつ、シリコン基板に対する25℃での90度ピール力が5〜1000N/mである絶縁性熱伝導シートである。
以下、本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ガラス転移温度及び重量平均分子量を所定の範囲内とした高分子量ポリマーと、配合量を所定の範囲内とした熱伝導性フィラーとを含有する絶縁性熱伝導シートは、優れた熱伝導性と、発熱体や放熱部材等の被接着物に対する優れた取り付け性(タック性)とを有するものとすることができ、更に、このような高分子量ポリマーと熱伝導性フィラーとを含有する絶縁性熱伝導シートは、単層構造としても、優れた熱伝導性と被接着物に対する優れた取り付け性(タック性)とを有するものとすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の絶縁性熱伝導シートは、高分子量ポリマーと熱伝導性フィラーとを含有する。
上記高分子量ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)の下限が−50℃、上限が50℃である。−50℃未満であると、ポリマーの分子量にも依存するが、概ねポリマーは液体状になり、弾性的な性質が無くなってくる可能性が高い。50℃を超えると、室温においてシートが硬くなるため、本発明の絶縁性熱伝導シートのタック性が不充分となり、発熱体や放熱部材等の被接着物に対する取り付け性が不充分となる。好ましい下限は−30℃、好ましい上限は10℃である。なお、上記ガラス転移温度は、DSCを用いて、20℃/分の割合でサンプルを昇温させて得られる吸熱曲線から測定することができる。
【0009】
上記高分子量ポリマーを構成するモノマー組成としては、モノマーのホモポリマーが、上記範囲のガラス転移温度を有すれば特に限定されず、例えば、モノマーM1及びモノマーM2からなる2成分系共重合体については、下記式(1)で表されるフォックス式(T.G.フォックス、Bull.Am.Physics Soc.、第1巻、第3号、123頁(1956年))を使用して計算することによってある程度予測することができる。
3成分以上の多成分系共重合体のモノマー組成についても、下記式(1)を多成分系に一般化した式を用いて計算することによってある程度予測することができる。
【0010】
【数1】

【0011】
式(1)中、Tg(計算値)は共重合体について計算されたガラス転移温度(K)、w(M1)は共重合体中のモノマーM1の重量画分、w(M2)は共重合体中のモノマーM2の重量画分、Tg(M1)はM1のホモポリマーについてのガラス転移温度(K)、Tg(M2)はM2のホモポリマーについてのガラス転移温度(K)を示す。
なお、ホモポリマーのガラス転移温度は、例えば、J.ブランドラップ及びE.H.インマーグートによるインターサイエンスパブリッシャーズ編集の「ポリマーハンドブック」において見出されている。
【0012】
上記式(1)を利用することによって、上記所望範囲のガラス転移温度を達成するために好適なモノマー及びモノマー量を適宜選択することができる。
【0013】
また、上記高分子量ポリマーの重量平均分子量の下限は1万、上限は500万である。1万未満であると、本発明の絶縁性熱伝導シートを製造する際のシート加工時の加工性に劣り、また、本発明の絶縁性熱伝導シートが脆くなってしまう。500万を超えると、塗液の粘度が大きくなり、均一な厚みのシートを得ることが困難になる。好ましい下限は5万、好ましい上限は200万である。なお、本明細書において、重量平均分子量とは、室温にてGPCを用いて測定される、ポリスチレン換算分子量の重量平均分子量を意味する。
【0014】
上記高分子量ポリマーとしては、上記Tg及び重量平均分子量を有するものであれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、イミド系ポリマー、イミドシリコーン系ポリマーや、これらの共重合体等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル系共重合体を用いると、耐熱性も良好であり、半導体用の放熱材料に対して好適に用いることができ、好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0015】
上記(メタ)アクリル系共重合体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル系モノマーと、他の重合性モノマーとを共重合した高分子が挙げられる。
【0016】
上記(メタ)アクリル系共重合体を構成する(メタ)アクリル系モノマーとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフラル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、側鎖のアルキル鎖がより長い(メタ)アクリル系モノマーを用いることが好ましい。側鎖のアルキル鎖がより長い(メタ)アクリル系モノマーを用いることによって、得られる絶縁性熱伝導シートのタック性がより優れたものとなる。
これらの(メタ)アクリル系モノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0017】
上記(メタ)アクリル系共重合体を構成する他の重合性モノマーとしては特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、メチルスチレン、クロルスチレン、ビニリデンクロライド、アクリルアミド、エチルα−アセトキシアクリレート等が挙げられる。
上記重合性モノマーを用いることによって、シート形状保持性をコントロールすることができる。上記重合性モノマーは、シート形状保持性をコントロールするために用いてもよいが、用いなくてもよい。
特に、シート形状保持性を重視する場合、上記(メタ)アクリル系共重合体が、結晶性を有する構造単位を含むことが好ましい。このような結晶性を有する構造単位を有しつつ、かつ、上記Tgを有するような(メタ)アクリル系共重合体を用いると、得られる絶縁性熱伝導シートは、タック性が若干低下する場合があるものの、シート形状保持性に優れたものとなる。
【0018】
上記(メタ)アクリル系共重合体が、例えば、上記(メタ)アクリルモノマーと他の重合性モノマーとが共重合したものである場合、共重合体中の(メタ)アクリル成分の割合の好ましい下限は30重量%である。30重量%未満であると、25℃において(メタ)アクリル系共重合体が流動性を示さなくなることがある。より好ましい下限は40重量%である。(メタ)アクリル成分の割合の上限としては適宜選択されるが、好ましい上限は90重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0019】
また、本発明の絶縁性熱伝導シートが後述する硬化性化合物を含有する場合には、上記(メタ)アクリル系共重合体は、硬化性化合物と反応可能な官能基を有することが好ましい。例えば、後述する硬化性化合物がエポキシ基を有する場合においては、上記(メタ)アクリル系共重合体は、エポキシ基と反応可能な官能基を有することが好ましい。
本発明の絶縁性熱伝導シートが、後述する硬化性化合物と、高分子量ポリマーとして硬化性化合物と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリル系共重合体とを含有する場合、加熱により硬化性化合物と(メタ)アクリル系共重合体とが架橋し、硬化物の耐熱信頼性等に極めて優れたものとなる。
【0020】
上記硬化性化合物と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリル系共重合体は、例えば、(メタ)アクリル系モノマーと、エポキシ基、イミド基等の反応性官能基を有する不飽和モノマーとを共重合することで得ることができる。なかでも、硬化特性及び硬化物の信頼性の面において、上記不飽和モノマーは、エポキシ基を有することが好ましい。
【0021】
上記エポキシ基を有する不飽和モノマーとしては特に限定はされず、例えば、下記一般式(1)で表される群よりなる少なくとも1種のアクリルモノマーを用いることができる。
【0022】
【化1】

【0023】
上記一般式(1)で表されるアクリルモノマー群中、Rは、H又はメチル基を表し、Rは、炭素数1〜8の2価の炭化水素基を表す。
なかでも、共重合性に優れ、得られる共重合体が耐熱性に優れたものとなることからグリシジルメタクリレートが好適である。即ち、上記硬化性化合物と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル系モノマーと、グリシジルメタクリレートとの共重合体であることが好ましい。
【0024】
上記(メタ)アクリル系モノマーと、上記エポキシ基を有する不飽和モノマーとを共重合することによって得られる上記硬化性化合物と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリル系共重合体を用いることによって、本発明の絶縁性熱伝導シートは、充分なタック性が得やすくなり、耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。
【0025】
上記不飽和モノマーの配合量は、上記(メタ)アクリル系モノマー100重量部に対して、好ましい下限が3重量部、好ましい上限が50重量部である。3重量部未満であると、得られる硬化物について、充分な熱硬化性が得られず、耐熱性が低下する可能性がある。50重要部を超えると、硬化物が脆くなったり、Tgのコントロールが困難になり、充分なタック性が得られなかったりすることがある。
【0026】
このような(メタ)アクリル系共重合体は、任意に合成することで得ることができるが、市販品としては、例えば、マープルーフシリーズ(日本油脂社製)、テイサンレジンシリーズ(ナガセケムテックス社製)、ビニロールシリーズ(昭和高分子社製)、バナレジンシリーズ(新中村化学社製)等が挙げられる。これらの中から、Tgが適正なグレードのものを選択すればよい。
【0027】
本発明の絶縁性熱伝導シートは、更に、硬化性化合物を含有することが好ましい。
上記硬化性化合物としては、熱硬化性化合物であることが好ましい。
上記熱硬化性化合物としては特に限定はされず、例えば、エポキシ化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。なかでも、硬化後の信頼性に優れることから、エポキシ化合物であることが好ましい。
【0028】
上記エポキシ化合物としては特に限定はされず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシ等のビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンジオキシド、ジシクロペンタジエン骨格を有するフェノールノボラックエポキシ樹脂等のジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、1−グリシジルナフタレン、2−グリシジルナフタレン、1,2−ジグリシジルナフタレン、1,5−ジグリシジルナフタレン、1,6−ジグリシジルナフタレン、1,7−ジグリシジルナフタレン、2,7−ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、1,2,5,6−テトラグリシジルナフタレン等のナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、トリス(o−グリシジルオキシフェニル)メタン、トリス(m−グリシジルオキシフェニル)メタン、トリス(p−グリシジルオキシフェニル)メタン等のトリス(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシ樹脂及びトリス(グリシジルオキシフェニル)メタンをモノマー構造に持つ重合体、トリス(o−グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(m−グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(p−グリシジルオキシフェニル)エタン等のトリス(グリシジルオキシフェニル)エタン骨格を有するエポキシ樹脂、及び、トリス(グリシジルオキシフェニル)エタンをモノマー構造に持つ重合体、テトラキス(o−グリシジルオキシフェニル)メタン、テトラキス(m−グリシジルオキシフェニル)メタン、テトラキス(p−グリシジルオキシフェニル)メタン等のテトラキス(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシ樹脂及びテトラキス(グリシジルオキシフェニル)メタンをモノマー構造に持つ重合体、1,1’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’―バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’―バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン等のバイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシ樹脂、キサンテン型エポキシ樹脂、(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボネート、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
なかでも、分子中にビスフェノール基に代表されるような剛直な骨格と、アルキル基に代表されるような柔軟な骨格とを有するエポキシ化合物が好ましい。このような骨格を有するエポキシ化合物を用いることによって、得られる絶縁性熱伝導シートのタック性を向上させる効果が期待できる。これらのエポキシ化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
このようなエポキシ化合物は、上述した高分子量ポリマーと併用した場合に、本発明の絶縁性熱伝導シートが好適なタック性を示すものを適宜選択して使用すればよい。また、相溶性は、共重合比等の高分子量ポリマーの骨格により変化するため、最適なエポキシ化合物は、高分子量ポリマー骨格により変化する。例えば、上記高分子量ポリマーとして、エポキシ基を有する(メタ)アクリル系共重合体を用いる場合、上記エポキシ化合物の中でも、芳香族環を有するエポキシ化合物が好ましく用いられる傾向にある。このようなエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂等が挙げられる。
【0030】
このようなエポキシ化合物の配合量としては特に限定はされず、上記高分子量ポリマーとの組合せにおいて、本発明の絶縁性熱伝導シートに好適なタック性が得られるよう適宜調整することが好ましい。具体的には、例えば、上記高分子量ポリマーとしてエポキシ基を有する(メタ)アクリル系共重合体を用いる場合、上記エポキシ化合物の配合量としては、上記エポキシ基を有する(メタ)アクリル系共重合体100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が200重量部である。エポキシ化合物を配合しなくとも、高分子量ポリマーのガラス転移温度と重量平均分子量とのコントロールによっては、タック性を有する絶縁性熱伝導シートを得ることができることもあるが、0.1重量部未満であると、タック性が不充分となったり、硬化物が脆くなったりすることがある。200重量部を超えると、シートとしての取り扱い性が困難になったり、エポキシ化合物のブリードが進むことでシートの物性が不均一になったりする場合がある。より好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は150重量部である。
【0031】
本発明の絶縁性熱伝導シートが上記硬化性化合物を含有する場合、更に、硬化剤を含有することが好ましい。
上記硬化剤としては特に限定されず、エポキシ樹脂用硬化剤として用いられているものが挙げられ、例えば、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、潜在性硬化剤、カチオン系触媒型硬化剤等が挙げられる。なかでも、酸無水物系硬化剤が好ましい。
これらの硬化剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
上記酸無水物系硬化剤としては特に限定されず、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。なかでも、メチルテトラヒドロ無水フタル酸やメチルヘキサヒドロ無水フタル酸に比べて疎水化されており、耐水性を高め得るので、メチルナジック酸無水物やトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸が好適に用いられる。これらの加熱硬化型酸無水物硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
上記フェノール系硬化剤としては特に限定されず、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、ビスフェノールA型ノボラック、キシリレン変性ノボラック、デカリン変性ノボラック、ポリ(ジ−o−ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ−m−ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ−p−ヒドロキシフェニル)メタン等が挙げられる。これらのフェノール系硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
上記アミン系硬化剤として特に限定されず、例えば、鎖状脂肪族アミン系硬化剤、環状脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、3級アミン系硬化剤等が挙げられる。
上記鎖状脂肪族アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン等が挙げられる。
上記環状脂肪族アミン系硬化剤としては、例えば、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ3−メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。
上記芳香族アミン系硬化剤としては、例えば、m−キシレンジアミン、α−(m/pアミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
また、上記3級アミン系硬化剤としては、例えば、N,N−ジメチルピペラジン、ピリジン、ピコリン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビスシクロ(5,4,0)ウンデセン−1等が挙げられる。
これらのアミン系硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
上記潜在性硬化剤としては特に限定されず、例えば、ジシアンジアミドや、カルボン酸エステル、酸無水物、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の塩類が挙げられる。これらの潜在性硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
上記カチオン系触媒型硬化剤としては特に限定されず、例えば、イオン性カチオン系触媒型硬化剤、非イオン性カチオン系触媒型硬化剤等が挙げられる。
上記イオン性カチオン系触媒型硬化剤としては、例えば、対アニオンとして6フッ化アンチモン、6フッ化リン、4フッ化ホウ素等用いたベンジルスルホニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ベンジルピリジニウム塩、ベンジルホスホニウム塩等が挙げられる。
上記非イオン性カチオン系触媒型硬化剤としては、例えば、N−ベンジルフタルイミド、芳香族スルホン酸エステル等が挙げられる。これらのカチオン系触媒型硬化剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記硬化剤の配合量としては特に限定されないが、上記硬化性化合物の反応性官能基の当量100に対して、好ましい下限が50当量、好ましい上限が200当量である。すなわち、理論的に必要な当量の50〜200%の割合で配合することが好ましい。具体的には、例えば、上記硬化性化合物がエポキシ基を有し、高分子量ポリマーの硬化性化合物と反応可能な官能基もエポキシ基である場合、含有する総エポキシ基当量100に対して、上記硬化剤の配合量の下限を50当量、上限を200当量の割合で配合することが好ましい。50当量未満であると、硬化不足となり本発明の絶縁性熱伝導シートの接着強度が充分に得られないことがあり、200当量を超えると、硬化速度が非常に遅くなったり、硬化が進まなくなったりすることがある。より好ましい下限は70当量、より好ましい上限は120当量である。
但し、後述する硬化促進剤を用いる場合には、上記範囲を外れてもエポキシ基同士の反応により充分な硬化性を得られることがあるため、後述する硬化促進剤を用いる場合の上記硬化剤の配合量は、上記硬化性化合物の反応性官能基の当量100に対して、好ましい下限は30当量である。
【0038】
本発明の絶縁性熱伝導シートは、硬化速度や硬化物の物性等を調整するために、上記硬化剤とともに、硬化促進剤を併用してもよい。
上記硬化促進剤としては特に限定されず、例えば、イミダゾール系硬化促進剤、3級アミン系硬化促進剤等が挙げられる。なかでも、硬化速度や硬化物の物性等の調整をするための反応系の制御をしやすいことから、イミダゾール系硬化促進剤が好適に用いられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0039】
上記イミダゾール系硬化促進剤としては、例えば、イミダゾールの1位をシアノエチル基で保護した1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールや、イソシアヌル酸で塩基性を保護した商品名「2MA−OK」(四国化成工業社製)等が挙げられる。これらのイミダゾール系硬化促進剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
ここで、例えば、上記酸無水物系硬化剤とイミダゾール系硬化促進剤等の硬化促進剤とを併用する場合、酸無水物系硬化剤の添加量を、本発明の絶縁性熱伝導シートに含まれるエポキシ基に対して理論的に必要な当量以下とすることが好ましい。酸無水物系硬化剤の添加量が必要以上に過剰であると、水分により硬化物から塩素イオンが溶出しやすくなるおそれがある。
また、例えば、上記アミン系硬化剤とイミダゾール系硬化促進剤等の硬化促進剤とを併用する場合も、アミン系硬化剤の添加量を、本発明の絶縁性熱伝導シートに含まれるエポキシ基に対して理論的に必要な当量以下とすることが好ましい。アミン系硬化剤の添加量が必要以上に過剰であると、水分により硬化物から塩素イオンが溶出しやすくなるおそれがある。
【0041】
本発明の絶縁性熱伝導シートは、熱伝導性フィラーを含有する。熱伝導性フィラーとしては、絶縁性が要求されるため、金属を使用することは困難であり、セラミック系のものが好ましい。具体的には、例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛等が挙げられる。なかでも、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化アルミニウムが好ましい。
【0042】
上記熱伝導性フィラーの形状としては特に限定されないが、球状であることが好ましい。球状であることにより、上記熱伝導性フィラーを本発明の絶縁性熱伝導シート中に高充填しやすくなるため、好ましい。
【0043】
上記熱伝導性フィラーの配合量としては、下限が30体積部、上限が90体積部である。30体積部未満であると、本発明の絶縁性熱伝導シートに充分な熱伝導性が得られなくなり、90体積部を超えると、本発明の絶縁性熱伝導シートに充分なタック性が得られなくなる。好ましい下限は40体積部、好ましい上限は75体積部である。なお、本明細書において熱伝導性フィラーの配合量を表す体積部とは、本発明の絶縁性熱伝導シートの体積を100体積部とした場合の割合を示す値である。
【0044】
上記熱伝導性フィラーの粒子径としては、その累積体積分率と粒子径との関係がFuller曲線にできるだけ近い曲線(以下、Fuller曲線様ともいう)を描くように調整されることが好ましい。すなわち、上記熱伝導性フィラーを、その累積体積分率と粒子径とがFuller曲線様を描くように配合することで最密充填となるため、本発明の絶縁性熱伝導シートが充分な熱伝導性を得ることができる。なお、本明細書において、Fuller曲線にできるだけ近い曲線(Fuller曲線様)とは、累積体積分率と粒子径とのグラフを、粒子径が大きくなるにつれて累積体積分率が増えるように描いたときに、累積体積分率が30%のときの粒径をφ30、累積体積分率が70%のときの粒径をφ70としたときに、φ70/φ30が3.0以上である曲線のことをいう。
また、粒子径が小さい粒子を増やすと、シートの表面に粒子が出ることによってタック性を出すことが困難になる傾向にあるため、特に粒子径が大きい領域で、Fuller曲線様に近づけることが好ましい。
【0045】
よって、例えば、上記熱伝導性フィラーの粒子径の分布が、その累積体積分率との関係でFuller曲線様を描くような場合、このような熱伝導性フィラー1種のみを用いればよい。一方、1種の熱伝導性フィラーのみではFuller曲線様が描けない場合には、異なる粒子径分布を有する2種以上の熱伝導性フィラーを併用し、累積体積分率との関係でFuller曲線様になるような粒子径分布とすることが好ましい。このように粒子径分布の異なるフィラーを2種以上用いる場合は、上記Fuller曲線と、粒子径と累積体積分率の合成曲線とを用いて適宜粒子径分布及び配合量を調整することが好ましい。
【0046】
上記粒子径分布の異なる熱伝導性フィラーを2種選択する場合の具体的な例としては、例えば、得られる絶縁性熱伝導シートの厚みが200μm程度である場合は、平均粒子径が1〜5μmの熱伝導性フィラー(小フィラー)を20〜70体積部、平均粒子径が10〜60μmの熱伝導性フィラー(大フィラー)を30〜80体積部配合すること等が挙げられる。
より好ましくは、平均粒子径が1〜5μmの熱伝導性フィラーを30〜50体積部、平均粒子径が10〜60μmの熱伝導性フィラーを50〜70体積部配合することが好ましい。
上記小フィラーの平均粒子径が1μm未満であると、その配合量を多くする必要があり、本発明の絶縁性熱伝導シートに充分なタック性が得られないことがある。上記小フィラーの平均粒子径が5μmを超えたり、大フィラーの平均粒子径が10μm未満であったりする場合、又は、これらの配合量が上記範囲から大きく外れる場合、Fullerの曲線様の粒子径と配合量との調整が困難になる場合がある。また、上記大フィラーの平均粒子径が60μmを超えたり、シートの厚みの半分を超えたりしたものの配合量が多くなると、シートの表面性が悪くなる場合がある。
このような2種の小フィラーと大フィラーとを含有する熱伝導性フィラーにおいて、小フィラーの粒子径分布は1〜10μmであることが好ましく、大フィラーの粒子径分布は10〜100μmであることが好ましい。
しかし、先にも述べたように結果的に累積体積分率曲線がFuller曲線様になれば、フィラーの選択は自由である。
【0047】
本発明の絶縁性熱伝導シートは、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で接着性付与剤、チキソ性付与剤、分散剤、難燃剤、酸化防止剤等が含有されていてもよい。
【0048】
上記接着性付与剤としては特に限定されず、例えば、エポキシシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、ケチミンシランカップリング剤、イミダゾールシランカップリング剤、カチオン系シランカップリング剤等が挙げられる。
【0049】
本発明の絶縁性熱伝導シートは、上述のようなTgが−50〜50℃かつ重量平均分子量が1万〜500万である高分子量ポリマーを含有するため、シートとしての性状を好適に保つことができるとともに、発熱体や放熱部材等の被接着物に対する優れた取り付け性(タック性)を有するものとなる。また、本発明の絶縁性熱伝導シートは、上述のような熱伝導性フィラーを、30〜90体積部含有するため、極めて優れた熱伝導性を有するものとなる。
【0050】
本発明の絶縁性熱伝導シートは、熱伝導率の下限が0.5W・mKである。熱伝導率は高ければ高いほど好ましいため、上限は特にないが、10W・mK以上になってくると、タック性を維持しつつ熱伝導率を上げることが困難になってくる。0.5W・mK未満であると、本発明の絶縁性熱伝導シートを半導体用の放熱部材等に用いた場合に、その熱伝導性が不充分となる。好ましい下限は1.0W・mKである。
【0051】
このような本発明の絶縁性熱伝導シートは、シリコン基板に対する25℃での90度ピール力の下限が5N/m、上限が1000N/mである。5N/m未満であると、本発明の絶縁性熱伝導シートのタック性が不足し、作業性に劣ることとなる。1000N/mを超えると、ピール力がシートの強度を上回る傾向になるため、例えば、本発明の絶縁性熱伝導シートを、薄型チップや薄型の基板等に貼りつける作業に失敗した場合に、シートを貼り直そうとしても、シートが細かくちぎれて作業性が悪くなったり、薄型チップや基板を破損することなくリペアすることが不可能となったりする。好ましい下限は20N/m、好ましい上限は300N/mである。
なお、本明細書において、シリコン基板に対する90度ピール力とは、シリコン基板にシートをラミネートして、20分放置後に、シリコン基板を水平に保持した状態で、引っ張り試験機を用いてシートを鉛直方向に300mm/分の速度で剥がした時に得られる荷重をシートの幅で割ることで得られる値を意味する。このとき、シリコン基板とシートが鉛直を保つように基板を連続的に移動させる。
【0052】
本発明の絶縁性熱伝導シートは、上述の構成を有するため、すぐれた絶縁性を有する。絶縁性は、絶縁破壊電圧で評価することができる。
本発明の絶縁性熱伝導シートにおいて、絶縁破壊電圧の好ましい下限は5kV/mmである。5kV/mm未満であると、絶縁性が充分でない場合がある。より好ましい下限は10kV/mmである。また、絶縁破壊電圧は高ければ高いほど好ましいため、上限は特に限定されない。
【0053】
このような本発明の絶縁性熱伝導シートは、単層構造であることが好ましい。単層構造であることにより、本発明の絶縁性熱伝導シートを簡易かつ迅速に製造することが可能となる。また、本発明の絶縁性熱伝導シートは、上述した高分子量ポリマーと熱伝導性フィラーとを上述した条件で含有するものであるため、単層構造とした場合であっても、優れた熱伝導性と被接着物に対する優れたタック性とを兼ね備えたものとなる。
【0054】
本発明の絶縁性熱伝導シートの膜厚としては、用途によるため特に限定されないが、好ましい下限は10μm、好ましい上限は500μmである。10μm未満であると、本発明の絶縁性熱伝導シートの絶縁性が低下することがある。シートの膜厚は500μmを超えると、キャスト塗工方式で生産する場合には、溶媒を充分に乾燥させることが困難になってくるため、例えば、薄いシートを張り合わせて厚みを確保する等の工程が必要になり、生産性が落ちることがある。
【0055】
このような本発明の絶縁性熱伝導シートの製造方法としては特に限定されないが、例えば、溶剤キャスト法、押し出し成膜等の方法が好適である。なかでも、熱伝導性フィラーの配合率を上げたい場合には、溶剤キャスト法が好ましい。溶剤キャスト法の例としては、上記高分子量ポリマー、熱伝導性フィラー、必要に応じて添加される硬化性化合物、硬化剤、及び、その他の添加剤を配合し、更に希釈溶媒を加えて、遊星撹拌脱泡等を用いて混合したものを、例えば、コンマコーター等でキャストし、加熱乾燥することでシート状に加工することで製造することができる。
【0056】
本発明の絶縁性熱伝導シートの用途としては特に限定はされず、例えば、半導体チップとヒートシンクとの間の間隙材、パワーMOSFETに代表されるパワー半導体の内部に埋め込まれる半導体チップと放熱板との間の間隙材、放熱基板等に用いることができる。なかでも、パワーMOSFET等のパワー半導体における間隙材、放熱基板等に特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、優れた熱伝導性を有するとともに、発熱部材や放熱部材等の被接着物に対する取り付け性(タック性)に優れる絶縁性熱伝導シートを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
本実施例及び比較例で絶縁性熱伝導シートの製造に用いた材料は、以下の通りである。
(高分子量ポリマー)
下記表1に示すポリマー(1)〜(7)を高分子量ポリマーとして使用した。
【0060】
【表1】

【0061】
表1中、ANはアクリロニトリル、EAはエチルアクリレート、EMAはエチルメタクリレート、BAはブチルアクリレート、BMAはブチルメタクリレート、2−EHAは2−エチルヘキシルアクリレート、GMAはグリシジルメタクリレート、MMAはメチルメタクリレートを示す。
なお、ポリマー(1)は市販品(ナガセケムテックス社製、商品名:テイサンレジンSG−P3、Mw=85万、Tg=15℃、15%メチルエチルケトン溶液)、ポリマー(7)は市販品(日本油脂社製、商品名:マープルーフG2050M、Mw=25万、Tg=74℃)である。
【0062】
(硬化性化合物)
エポキシ(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(阪本薬品社製、商品名:SR−FXB)
エポキシ(2)脂肪族系エポキシ樹脂(阪本薬品社製、商品名:SR−HHPA)
エポキシ(3)脂肪族系エポキシ樹脂(大日本インキ社製、商品名:725)
エポキシ(4)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(大日本インキ社製、商品名:850CRP)
エポキシ(5)フェノールノボラック型エポキシ樹脂(JER社製、商品名:152)
【0063】
(硬化剤)
(1)酸無水物硬化剤(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:YH−307)
(2)イソシアヌル変性固体分散型イミダゾール(イミダゾール系硬化促進剤、四国化成社製、商品名:2MZA−PW)
【0064】
(添加剤)
エポキシシランカップリング剤(信越化学社製、商品名:KBM−303)
【0065】
(熱伝導性フィラー)
(1)窒化アルミニウム(三井化学社製、商品名:MAN−2A、平均粒径2μm)
(2)窒化アルミニウム(東洋アルミ社製、商品名:FLX、平均粒径14μm)
【0066】
(溶剤)
(1)メチルエチルケトン(MEK)
【0067】
(実施例1)
ホモディスパー型攪拌機を用い、下記表2に示す割合で各化合物及び溶剤を配合し、均一に混練及び脱泡して塗液を調製した。なお、表2中、各化合物の配合の割合は、固形分の重量%を表す。
調製した塗液を50μmの離形PETシートに塗工し、オーブンにて50℃10分、続けて100℃20分間乾燥し、200μm厚のシート状の絶縁性熱伝導シートを作製した。
【0068】
(実施例2〜11及び比較例1〜3)
使用した化合物の種類及び配合量を下記表2に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様にして塗液を調製し、絶縁性熱伝導シートを作製した。
【0069】
(評価)
作製した各実施例及び比較例に係る絶縁性熱伝導シートについて、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
(1)熱伝導率
硬化前の各実施例及び比較例に係る絶縁性熱伝導シートを、ラミネーターにて70℃の条件下で数枚貼り合わせ、厚み1.0〜1.5mmのシートを得た。迅速熱伝導率計(京都電子工業社製QTM−500)を用いて、熱伝導率を測定した。
【0071】
(2)タック性
実施例及び比較例に係る絶縁性熱伝導シートを20mm×100mm角に切り出したものをシリコンウエハ上に室温にて2kgロールを1往復させることでラミネートし、室温にて20分放置後、引っ張り試験機(オリエンテック社製、テンシロンRTC1310A)にて、引っ張り速度300mm毎分で90度ピール試験を行った。得られた平均荷重を1m幅当たりの荷重(N/m)に換算し、ピール力とした。なお、ピール力が5N/m以上である場合には、充分なタック性を有するものと判断できる。
【0072】
(3)基材への取り付け性
シリコンウエハへの取り付け性について、下記の基準で評価した。
◎:取り付け性に非常に優れ、極めて容易に基材への貼着を行うことができる。
○:取り付け性に優れ、容易に基材への貼着を行うことができる。
×:取り付け性が充分ではない。
【0073】
【表2】

【0074】
表2の結果より、熱伝導性フィラーの充填率がほぼ同じ配合の実施例1と比較例1とを比較すると、高分子量ポリマーのTgが高い比較例1は、タック性が全くないのに対し、Tgが低く、低分子硬化剤を配合した実施例1では、タック性を付与できた。
また、熱伝導性フィラーの粒子径分布について、小粒径と大粒径を組み合わせた、実施例2は、小粒径のみである、実施例1よりもタック性が優れる。更に、実施例3で熱伝導性フィラーの配合量を80重量%まで多くしてもタック性を確保することができ、結果的に熱伝導率も高くすることができた。小粒径の熱伝導性フィラーのみである比較例2は、熱伝統性フィラーの配合量を80重量%まで多くすると、熱伝導度はある程度確保できるものの、タック性が大きく低下した。
高分子量ポリマーの構成の中でも、ポリマー(2)〜(5)を用いた実施例8〜11では、ポリマー(1)を用いている実施例3よりもタック性が高い。これはポリマー(1)に含まれているアクリロニトリルが結晶性を有するため、粘着性を阻害しているものと考えられる。
比較例3は塗工を行っても、シートとして得ることができなかった。これは、ポリマーのガラス転移温度が−70℃と極端に低いためである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、優れた熱伝導性を有するとともに、発熱部材や放熱部材等の被接着物に対する取り付け性(タック性)に優れる絶縁性熱伝導シートを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子量ポリマーと熱伝導性フィラーとを含有する絶縁性熱伝導シートであって、
前記高分子量ポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が−50〜50℃、かつ、重量平均分子量が1万〜500万であり、
前記熱伝導性フィラーの含有量が30〜90体積部であり、
熱伝導率が0.5W・mK以上、かつ、シリコン基板に対する25℃での90度ピール力が5〜1000N/mである
ことを特徴とする絶縁性熱伝導シート。
【請求項2】
単層構造であることを特徴とする請求項1記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項3】
高分子量ポリマーは、硬化性化合物と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリル系共重合体であり、かつ、更に硬化性化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の絶縁性熱伝導シート。
【請求項4】
硬化性化合物と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル系モノマーと、グリシジルメタクリレートとの共重合体であることを特徴とする請求項3記載の絶縁性熱伝導シート。

【公開番号】特開2008−277759(P2008−277759A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53248(P2008−53248)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】