説明

絶縁構造材料

【課題】 優れた電気的、機械的強度を有し、微生物分解される機能を発揮する絶縁構造材料を得る。
【解決手段】 注型絶縁物、成形絶縁物、繊維強化型複合絶縁物、電子部品封着絶縁物などの電気、電子部品を構成する絶縁構造材料1であって、酸無水物系の官能基、エポキシ基、アミド基、アミン基、イミダゾール基、カルボキシル基、ビニル基、アルコキシド基からなる官能基の少なくとも一つの官能基の分子構造中に、化学修飾で得られたセルロース誘導体2もしくはヘミセルロース誘導体2を含有させ、土壌埋設時に微生物分解させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力機器、受配電機器などに用いる注型絶縁物や成形絶縁物、および繊維強化型複合絶縁物や電子部品封着絶縁物を製造するときに用いられる電気、電子部品を構成する熱硬化性の絶縁構造材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の絶縁構造材料は、木質資源を出発原料として転換精製したセルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体からなる有機フィラー材料をエポキシ樹脂材料などに充填させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、この絶縁構造材料で製造した絶縁物を、長年使用して廃棄したとき、仮に地中埋設すると、土壌細菌によって微生物分解される機能が現れ、エポキシ樹脂のような熱硬化性マトリックス樹脂成分が分解される。このため、難分解性とされていた絶縁構造材料が分解され、環境負荷要因を低減させる効果が生じる。また、石油依存度を減少した新しい分解機能を持つものとされている。
【特許文献1】特開2004−171799号公報 (第4〜6 ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の絶縁構造材料においては、次のような問題がある。
木質由来の有機フィラー材料と熱硬化性マトリックス樹脂との化学的結合が充分に強くないため、得られる絶縁物においては、有機フィラー材料と熱硬化性マトリックス樹脂との界面が電気的、機械的な破壊の起点となり易い。また、微生物分解が一部分の有機フィラー成分に限定される懸念があった。
【0005】
このため、電気的、機械的強度を低下させることなく微生物分解される絶縁構造材料が望まれていた。
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、優れた電気的、機械的強度を有し、微生物分解される機能を発揮する絶縁構造材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の絶縁構造材料は、電気、電子部品を構成する絶縁構造材料であって、酸無水物系の官能基、エポキシ基、アミド基、アミン基、イミダゾール基、カルボキシル基、ビニル基、アルコキシド基からなる官能基の少なくとも一つの官能基の分子構造中に、化学修飾で得られたセルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、反応性の高い官能基を導入したセルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体を熱硬化性マトリックス樹脂に含ませているので、優れた電気的、機械的強度を有し、土壌埋設時に、長期的に微生物分解される機能が現れる絶縁構造材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0010】
先ず、本発明の実施例1に係る絶縁構造材料を図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る絶縁構造材料の微細構造を模式的に示す図である。
【0011】
図1に示すように、酸無水物系の官能基、エポキシ基、アミド基、アミン基、イミダゾール基、カルボキシル基、ビニル基、アルコキシド基のような官能基を有する熱硬化型マトリックス樹脂からなる絶縁材料1には、3次元網状構造を有するセルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体からなるセルロース2が含有されている。
【0012】
ここで、セルロース誘導体とは、セルロースやリグノセルロースなどのセルロース系多糖類に化学修飾を加えたものである。また、ヘミセルロース誘導体とは、グルコース、キシロース、マンノース、アラビノースなどの単糖類が、β−1、4結合、β−グルゴシド結合、β−1、3結合、β−1、6結合で連なった多糖類に化学修飾を加えたものである。
【0013】
このような絶縁材料1は、次のようにして製作した。以下、酸無水物系の官能基を用いる場合を説明する。
【0014】
無水トリメリット酸40.04g(0.208mol)と、化1式に示すセルロース3.00g(1.85×10−2mol・unit)をフラスコに入れ、窒素フローしながら200℃で40分間加熱攪拌した。次いで、この懸濁液に無水酢酸2.09g(2.09×10−2mol)を加え、20分間200℃で加熱した後、3mmHgまでの減圧を開始し、1時間かけて水、酢酸、無水酢酸を除去した。これを常温常圧に戻すと、懸濁液は固体化した。この固体にメタノール300cmを加え、1時間攪拌し、これをろ別して、化学修飾によるセルロース誘導体を得た。
【0015】
即ち、化2式のセルロース中の6位のヒドロキシル基(−OH)に、酸無水物のカルボキシル基(−COOH)を結合させることで、セルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体を得ることができる。CHOHとHOOCとの結合時に、それぞれHとHOが抜け、−CHO−OC−の結合が形成されることになる。なお、アミド基などからも同様に、化学修飾によるセルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体を得ることができる。
【0016】
こうして得られた化2式に示す酸無水物系セルロース60gと4−アミノフェニルエーテル10gとをジメチルアセトアミド溶液に溶解し、これを室温で一晩攪拌した後、165℃にて8時間、加熱還流した。この溶液をガラス板上に流延し、80℃にて溶媒を除去することにより、化3式に示すポリイミドフィルムを得た。
【化1】

【化2】

【化3】

【0017】
このようにして得られた10mm×10mmのポリイミドフィルムを、土壌を加えたNa水溶液をデカンテーションした上澄み溶液中に浸漬し、50℃にて放置した。28日後には、ポリイミドフィルムの形状に変化が観察され、その重量は減少が見られた。即ち、ポリイミドフィルムからは、HOやCOなどが分離し、フィルム形状が一枚の板状から複数の破片状や粉状に変化し、微生物分解されていることがわかった。この変化は、一部分ではなく、全体から起きていた。
【0018】
上記実施例1の構造絶縁材料によれば、酸無水物系の官能基の分子構造体中に、セルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体を含んでいるので、土壌埋設時に、長期的に微生物分解させることができる。
【0019】
なお、上記実施例1では、構造絶縁材料を酸無水物系の官能基からなるもので説明したが、セルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体をメラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などにも用いることができる。即ち、このようなマトリックス樹脂でも微生物分解させることができる。
【実施例2】
【0020】
次に、本発明の実施例2に係る絶縁構造材を説明する。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、セルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体をエポキシ樹脂に用いたことである。実施例1と同様の構成部分においては、その詳細な説明を省略する。
【0021】
実施例1の化2式で得られた酸無水物系セルロース70重量部と、日本化薬社製カヤハード(MCD)の酸無水物硬化剤30重量部と、アミン系硬化促進剤0.8重量部とを万能混合攪拌機を用いて60℃の大気圧下で60分間攪拌した。次いで、平均粒径17μmの球状シリカからなる無機充填材を240重量部添加し、60℃の真空下で3時間攪拌した。攪拌終了後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部を加え、更に60℃の真空下で30分間攪拌した。このようにして得られた混合物を予め80℃に加熱しておいた金型に流し込み、真空下で脱泡後、80℃−15時間の1次硬化を行い、引続いて150℃−15時間の2次硬化を行い、実施例2の試験片を得た。
【0022】
なお、無機充填材には、アルミナ、マイカ、酸化チタンなどを用いることができる。また、硬化剤には、酸無水物類のほかに、ポリアミド類、アミン類、イミダゾール類を用いることができる。
【0023】
(比較例1)
実施例1の化1式のセルロース70重量部と、日本化薬社製カヤハード(MCD)の酸無水物硬化剤70重量部と、アミン系硬化促進剤0.8重量部とを万能混合攪拌機を用いて60℃の大気圧下で60分間攪拌した。次いで、平均粒径17μmの球状シリカを240重量部添加し、60℃の真空下で3時間攪拌した。攪拌終了後、ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部を加え、更に60℃の真空下で30分間攪拌した。このようにして得られた混合物を予め80℃に加熱しておいた金型に流し込み、真空下で脱泡後、80℃−15時間の1次硬化を行い、引続いて150℃−15時間の2次硬化を行い、比較例1の試験片を得た。
【0024】
このようにして得られた試験片の曲げ強度を、JIS−K7171に準拠した試験方法で求めた。その結果、実施例2では、曲げ強度112MPaであったのに対し、比較例1では、84MPaであった。即ち、酸無水物系セルロースを有するものでは、機械的強度が約30%向上することがわかった。
【0025】
また、これらの試験片を12時間煮沸し、煮沸前後の破壊電圧特性を調べた。その結果、実施例2では、煮沸前20.3kV/mm、煮沸後19.8kV/mmであり、破壊電圧は大きく変化しなかった。これに対し、比較例1では、煮沸前18.7kV/mm、煮沸後8.0kV/mmであり、煮沸後に大きく破壊電圧が低下した。これは、水酸基にエステル結合、またはエーテル結合による官能基を導入する構成をとることにより、吸水による破壊電圧の低下を防止したものと考えられる。即ち、酸無水物系セルロースを有するものでは、電気的強度を向上させることわかった。
【0026】
一方、分子量分布の異なるセルロースもしくはオリゴ糖を用い、耐環境性や耐薬品性を調べた。その結果、セルロースの分子量分布が10量体未満であると、アセトンなどに対する耐薬品性、および汚損湿潤などの耐環境性が劣っていた。このため、セルロースの分子量は、10量体以上が好ましいといえる。
【0027】
上記実施例2の構造絶縁材料によれば、実施例1による効果のほかに、機械的強度および電気的強度を向上させることができる。
【実施例3】
【0028】
次に、本発明の実施例3に係る絶縁構造材を説明する。なお、この実施例3が実施例2と異なる点は、セルロースに対して無水トリメリット酸の導入率を制御したことである。実施例2と同様の構成部分においては、その詳細な説明を省略する。
【0029】
化2式においてセルロース中の直鎖の全数量と無水トリメリット酸の仕込み比を制御した。それぞれ制御した無水トリメリット酸をエポキシ樹脂成分に充填し、それぞれの試験片を製作した。
【0030】
このようにして得られた実施例3の試験片では、セルロースの水酸基の全数量に対して、無水トリメリット酸の導入率が5%以上のとき、高い機械的強度を示した。セルロースもしくはヘミセルロースの水酸基の全数量に対して、5%以上を酸無水物系の官能基に置換すれば、機械的強度を向上させることができる。
【0031】
なお、導入率が5%未満では、機械的強度が著しく低下した。また、50%超過させて導入することは困難となる。このため、無水トリメリット酸は、5〜50%導入することが好ましい。
【0032】
一方、化2式において得られた酸無水物系セルロースの粒径を分級により制御し、作業性を検討した。この結果、粒径が0.1μm未満であると樹脂粘度が増加し、注型作業が困難であった。また、500μm超過では、粒子が沈殿し、混合が困難であった。このため、セルロース誘導体の粒径は、0.1〜500μmが注型作業に適する。
【0033】
上記実施例3の構造絶縁材料によれば、実施例2による効果のほかに、機械的強度を更に向上させることができる。
【実施例4】
【0034】
次に、本発明の実施例4に係る絶縁構造材を図2を参照して説明する。図2は、本発明の実施例4に係る絶縁構造材料の熱的特性を示す特性図である。なお、この実施例4が実施例2と異なる点は、硬化剤である。実施例2と同様の構成部分においては、その詳細な説明を省略する。
【0035】
化2式で得られた酸無水物系セルロース100重量部と、日本化薬社製カヤハード(MCD)の酸無水物硬化剤30重量部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部と、アミン系硬化促進剤0.8重量部とを万能混合攪拌機を用いて60℃の大気圧下で10分間攪拌した。このようにして得られた混合物を真空下で10分間脱泡し、予め80℃に加熱しておいた金型に流し込み、真空下で脱泡後、80℃−15時間の1次硬化を行い、引続いて150℃−15時間の2次硬化を行い、実施例4の試験片を得た。
【0036】
(比較例2)
日本化薬社製カヤハード(MCD)の酸無水物硬化剤70重量部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部と、アミン系硬化促進剤0.8重量部とを万能混合攪拌機を用いて60℃の大気圧下で10分間攪拌した。このようにして得られた混合物を真空下で10分間脱泡し、予め80℃に加熱しておいた金型に流し込み、真空下で脱泡後、80℃−15時間の1次硬化を行い、引続いて150℃−15時間の2次硬化を行い、比較例2の試験片を得た。
【0037】
このようにして得られた試験片の動的粘弾性を測定した。結果を図2に示すように、実線で示す実施例4の試験片では、約165℃まで貯蔵弾性率の低下が起こらなかった。これに対し、点線で示す比較例2の試験片では、約140℃から貯蔵弾性率が低下した。このことからセルロース誘導体をマトリックス樹脂中に組み込むことにより、3次元網目構造をなす鎖状高分子ネットワークが形成され、樹脂の耐熱温度を飛躍的に向上させる可能性があることがわかった。また、tanδも良好であった。
【0038】
上記実施例4の構造絶縁材料によれば、実施例2による効果のほかに、耐熱特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1に係る絶縁構造材料の微細構造を模式的に示す図。
【図2】本発明の実施例4に係る絶縁構造材料の熱的特性を示す特性図。
【符号の説明】
【0040】
1 絶縁材料
2 セルロース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気、電子部品を構成する絶縁構造材料であって、
酸無水物系の官能基、エポキシ基、アミド基、アミン基、イミダゾール基、カルボキシル基、ビニル基、アルコキシド基からなる官能基の少なくとも一つの官能基の分子構造中に、化学修飾で得られたセルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体を含有することを特徴とする絶縁構造材料。
【請求項2】
電気、電子部品を構成する絶縁構造材料であって、
熱硬化性マトリックス樹脂と、
酸無水物類、ポリアミド類、アミン類、イミダゾール類の少なくとも一種類の硬化剤と、
シリカ、アルミナ、マイカ、酸化チタンの少なくとも一つからなる無機充填材と、
化学修飾で得られたセルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体からなる充填材とを有することを特徴とする絶縁構造材料。
【請求項3】
前記セルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体の水酸基の全数量に対して前記水酸基の5〜50%を、酸無水物系の官能基、エポキシ基、アミド基、アミン基、イミダゾール基、カルボキシル基、ビニル基、アルコキシド基からなる官能基の少なくとも一つの官能基に置換したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁構造材料。
【請求項4】
前記セルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体の水酸基をエステル結合、エーテル結合させて官能基を導入したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁構造材料。
【請求項5】
前記セルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体が10量体以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の絶縁構造材料。
【請求項6】
前記セルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体が、0.1〜500μmの粒径を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の絶縁構造材料。
【請求項7】
前記セルロース誘導体もしくはヘミセルロース誘導体が、鎖状高分子ネットワークを形成することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の絶縁構造材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−53174(P2008−53174A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231190(P2006−231190)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】