説明

線材ガイド治具

【課題】線材を安定的に引き出させることができる線材ガイド治具を提供する。
【解決手段】線材ガイド治具1aは、コイル収納ドラム5に収納されコイル状に巻回積層された溶接ワイヤ2からなる溶接ワイヤコイル3から引き出される溶接ワイヤ2を案内する線材ガイド治具であって、第1案内部11と第2案内部12と連結部13とを備える。第1案内部11は、溶接ワイヤ2と接触して溶接ワイヤ2を案内する第1案内孔14を有しており、溶接ワイヤコイル3上に載置される。第2案内部12は、第1案内孔14の上方に配置されており、第1案内孔14よりも小径であり溶接ワイヤ2と接触して溶接ワイヤ2を案内する第2案内孔15を有する。連結部13は、第1案内部11と第2案内部12とを連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材コイルから引き出される線材を案内する線材ガイド治具に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤなどの線材は、コイル状に巻回積層された状態で保存されていることが多く、このような線材を使用する場合には、線材コイルから線材を引き出して使用する。このため、従来、線材コイルから線材を引き出すための治具が利用されている。例えば、線材コイルをコイル収納ドラムの内部に収納し、コイル収納ドラムの上端部に、円錐形状の線材ガイド治具(以下、「蓋体治具」と呼ぶ)を被せる(特許文献1参照)。線材は、蓋体治具の頂点部分に設けられた小孔から引き出されるため、線材が引き出される位置を一定にすることができる。
【0003】
しかし、上記のように線材が線材コイルから引き出される場合、数巻き分の線材が一緒に引き上げられることがある。この場合、コイル収納ドラムの内部において線材に絡みが発生し易くなり、線材を円滑に引き出すことが困難になる。このような問題を解決するものとして、上記のようなコイル収納ドラムの内部において線材コイルを押さえる線材ガイド治具(以下、「内部治具」と呼ぶ)が以下に示す特許文献2に開示されている。この内部治具は、中央に線材を案内する円孔が設けられた円盤状の外形を有しており、コイル収納ドラムの内部において線材コイルの上に載置される。線材ガイド治具は、自重により線材コイルを下方に押圧し、線材の減少による線材コイルの上面位置の低下と共に下方に移動する。これにより、線材コイルから数巻き分の線材が一緒に引き上げられることを防止することができる。
【特許文献1】特開2001−30077号公報 図5
【特許文献2】特開2002−361422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような蓋体治具および内部治具が利用される場合、線材の減少により線材の引き出し角度が変化してしまう。つまり、図13に示すように、線材コイル94の線材91が減少すると、蓋体治具92の小孔95と内部治具93の円孔96との間の距離が増大して、線材91の引き出し角度が減少する。すなわち、図13(a)に示すように線材91の残量が多い場合にθ1であった引き出し角度が、線材91の減少に伴って内部治具93の位置が低下すると、図13(b)に示すようにθ2に増大する。このように線材の残量の変化に従って引き出し角度が変化すると、線材を安定的に引き出すことが困難になる。
【0005】
本発明の課題は、線材を安定的に引き出させることができる線材ガイド治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る線材ガイド治具は、コイル収納ドラムに収納されコイル状に巻回積層された線材からなる線材コイルから引き出される線材を案内する線材ガイド治具であって、第1案内部と第2案内部と連結部とを備える。第1案内部は、線材と接触して線材を案内する第1案内孔を有しており、線材コイル上に載置される。第2案内部は、第1案内孔の上方に配置されており、第1案内孔よりも小径であり線材と接触して線材を案内する第2案内孔を有する。連結部は、第1案内部と第2案内部とを連結する。
【0007】
この線材ガイド治具では、第1案内部が線材コイル上に載置されることによって線材コイルの上面を押圧することができると共に、第1案内孔と第2案内孔とによって線材コイルから繰り出された線材を案内することができる。そして、第1案内部と第2案内部とが連結部によって連結されているため、線材が減少しても、第1案内部と第2案内部とは共に移動し、第1案内部と第2案内部との間の距離は変化しない。このため、この線材ガイド治具では、線材の残量が変化しても線材の引き出し角度を一定に保つことができ、安定的に線材を引き出すことができる。
【0008】
第2発明に係る線材ガイド治具は、第1発明の線材ガイド治具であって、第1案内孔の縁と第2案内孔の縁とを結ぶ仮想線と水平方向とのなす角度は、30°以上90°未満である。
【0009】
この線材ガイド治具では、第1案内孔の縁と第2案内孔の縁とを結ぶ仮想線と水平方向とのなす角度は、30°以上90°未満であり、概ねこの角度で線材が引き出される。線材の引き出しに必要な力は、線材の引き出し角度の影響を受けるが、この線材ガイド治具では、線材の引き出し角度が30°以上90°未満であることにより、引き出し角度が30°未満の場合よりも小さな力で線材を引き出すことができる。
【0010】
第3発明に係る線材ガイド治具は、第1発明または第2発明の線材ガイド治具であって、第2案内部は、引き出された線材を案内する案内ケーブルが接続される接続部を有する。
【0011】
この線材ガイド治具では、第2案内部の接続部に案内ケーブルを接続することができる。このため、第2案内部によって線材を案内ケーブルに容易に案内することができる。
【0012】
第4発明に係る線材ガイド治具は、第1発明から第3発明のいずれかの線材ガイド治具であって、吊りケーブルをさらに備える。吊りケーブルは、コイル収納ドラムの縁部に係止可能な係止部を一端に有し、他端が少なくとも第1案内部、第2案内部、連結部のいずれかに連結される。
【0013】
この線材ガイド治具では、吊りケーブルの係止部をコイル収納ドラムの縁部に係止させておくことによって、線材ガイド治具がコイル収納ドラムの底面近傍に位置している場合でも、吊りケーブルを手繰り寄せることによって線材ガイド治具をコイル収納ドラムから取り出すことができる。これにより、線材ガイド治具を容易に回収することができる。
【0014】
第5発明に係る線材ガイド治具は、第1発明から第4発明のいずれかの線材ガイド治具であって、潤滑剤吐出部と、スイッチ用ケーブルをさらに備える。潤滑剤吐出部は、引っ張られることによってオン状態となるスイッチを有し、スイッチがオン状態である場合に潤滑剤を吐出する。スイッチ用ケーブルは、コイル収納ドラムの縁部に係止可能な係止部を一端に有し、他端がスイッチに連結される。
【0015】
この線材ガイド治具では、線材コイルの線材の減少により線材ガイド治具が所定位置まで下降した場合に、潤滑剤吐出部のスイッチがスイッチ用ケーブルによって引っ張られてオン状態となる。これにより、潤滑剤吐出部から潤滑剤が吐出され、線材コイルから繰り出される線材に潤滑剤を供給することができる。このため、線材コイルの線材が残り少なくなったときに線材が引き出され難くなることを抑えることができる。
【0016】
第6発明に係る線材ガイド治具は、第1発明から第5発明のいずれかの線材ガイド治具であって、第1補助案内部を備える。第1補助案内部は、軸線が鉛直方向に延び内周面が下方に向けて拡径した管状の部材であり、その上端は第2案内部の第2案内孔へ接続される。
【0017】
この線材ガイド治具では、第1補助案内部の下端側の内周面が拡径しており、この内周面によって線材が案内される。線材が線材コイルから繰り出されるとき、線材の出所は第1案内孔の縁に沿って移動するが、この線材ガイド治具では、このような場合でも第1補助案内部の内周面によって線材を第2案内孔まで安定的に案内することができる。
【0018】
第7発明に係る線材ガイド治具は、第1発明から第5発明のいずれかの線材ガイド治具であって、第2補助案内部をさらに備える。第2補助案内部は、軸線が鉛直方向に対して傾斜して設けられた管状の部材であり、その上端が第2案内部の第2案内孔へ接続されており、上端を通る鉛直線を中心に回転自在に設けられる。
【0019】
この線材ガイド治具では、線材の出所が第1案内孔の縁に沿って移動しても、第2補助案内部が上端を通る鉛直線を中心に自在に回転するため、線材の出所の動きに応じて下端の開口の向きを自在に変更することができる。このため、第1案内孔から繰り出された線材を第2案内孔まで安定的に案内することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る線材ガイド治具では、第1案内部が線材コイル上に載置されることによって線材コイルの上面を押圧することができると共に、第1案内孔と第2案内孔とによって線材コイルから繰り出された線材を案内することができる。そして、第1案内部と第2案内部とが連結部によって連結されているため、線材が減少しても、第1案内部と第2案内部とは共に移動し、第1案内部と第2案内部との間の距離は変化しない。このため、この線材ガイド治具では、線材の残量が変化しても線材の引き出し角度を一定に保つことができ、安定的に線材を引き出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る線材ガイド治具1aが利用される溶接システム100を図1および図2に示す。この溶接システム100は、溶接ワイヤ2(線材)が溶接ワイヤコイル3(線材コイル)から引き出されてトーチ4に供給されるシステムである。溶接ワイヤコイル3は、線材2がコイル状に巻回積層されたものである。
【0022】
線材ガイド治具1aは、溶接ワイヤコイル3と共にコイル収納ドラム5に収納されており、溶接ワイヤコイル3上に載置される。なお、溶接ワイヤコイル3には、芯材となる内筒は設けられておらず、溶接ワイヤコイル3の中心は空洞となっている。
【0023】
溶接ワイヤコイル3から引き出された溶接ワイヤ2は、線材ガイド治具1aによって第1案内ケーブル6(案内ケーブル)に案内され、第1案内ケーブル6を通って送給装置7に送られる。送給装置7は、一対の送給ロール8と、送給ロール8を回転駆動するモータ(図示せず)とを備えており、溶接ワイヤ2は送給ロール8が回転することによって溶接ワイヤコイル3から引き出される。溶接ワイヤ2は、送給装置7から第2案内ケーブル9を通ってトーチ4に送られて溶接作業に使用される。
【0024】
〔線材ガイド治具1aの全体構成〕
線材ガイド治具1aは、コイル収納ドラム5に収納された溶接ワイヤコイル3から引き出される溶接ワイヤ2を案内する治具であり、図2および図3に示すように溶接ワイヤコイル3の上面に載置されている。この状態において線材ガイド治具1aは、コイル収納ドラム5や溶接ワイヤコイル3に固定されておらず、溶接ワイヤ2の増減に応じて鉛直方向に移動することができる。なお、第1案内ケーブル6は柔軟性を有するケーブルであり、線材ガイド治具1aの動きを妨げるものではない。この線材ガイド治具1aは、第1案内部11と第2案内部12と連結部13とを有する。
【0025】
〔第1案内部11〕
第1案内部11は、第1案内孔14が設けられた円盤状の部材であり、コイル収納ドラム5の内径よりも僅かに小さな外径を有する。第1案内部11は、溶接ワイヤコイル3上に載置されており、線材ガイド治具1aの自重によって溶接ワイヤコイル3の上面を下方へ押圧する。第1案内孔14は、第1案内部11の中心に設けられており、第1案内部11を鉛直方向に貫通している。第1案内孔14の内径は溶接ワイヤコイル3の内径と概ね同じか又は溶接ワイヤコイル3の内径よりも僅かに小さい。第1案内孔14は、溶接ワイヤコイル3の内周側部分から解かれた溶接ワイヤ2と接触して上方へと引き出される溶接ワイヤ2を案内する。
【0026】
〔第2案内部12〕
第2案内部12は、第1案内孔14の上方に配置されており、第1案内部11および第1案内孔14の中心を通る軸線と同心に配置されている。第2案内部12の中心には鉛直方向に貫通する第2案内孔15が設けられている。第2案内孔15は、第1案内孔14よりも小径であり、第1案内孔14を通って上方へ延びる溶接ワイヤ2と接触して溶接ワイヤ2をさらに上方へと案内する。第2案内孔15は、第1案内孔14から送られてくる溶接ワイヤ2が第2案内孔15の一部において接触する程度に小径であり、これにより安定的に溶接ワイヤ2を上方に案内することができる。
【0027】
図4に第2案内部12の断面拡大図を示す。第2案内部12は、台座部16、ボルト部17、ナット部18、ワッシャー19を有している。
【0028】
台座部16は、第1案内部11よりも小径の外径を有する円盤状の部材であり、ボルト部17が通される円孔20が中心部に設けられている。
【0029】
ボルト部17には上述した第2案内孔15が設けられており、第2案内孔15はボルト部17の中心軸に沿って鉛直方向に貫通している。ボルト部17は、外周に雄ネジが設けられた円筒形のネジ部21と、ネジ部21の下端に繋がっておりネジ部21よりも大径のヘッド部22とを有しており、台座部16の円孔20に下方から挿入されている。
【0030】
ナット部18は、内周面にボルト部17の雄ネジと螺合する雌ネジを有しており、ボルト部17を台座部16に固定する。
【0031】
ワッシャー19は、台座部16とナット部18との間に設けられる。
【0032】
また、ボルト部17の上部は、ナット部18から上方へ突出しており、第1案内ケーブル6が接続される接続部23となっている。第1案内ケーブル6の先端には、内周面にボルト部17の雄ネジと螺合する雌ネジが設けられた接続治具(図示せず)が取り付けられており、この接続治具が接続部23に固定されることによって、第1案内ケーブル6が第2案内部12に接続される。
【0033】
〔連結部13〕
連結部13は、第1案内部11と第2案内部12と連結する部材であり、第1案内部11と第2案内部12との間の距離を一定に保つ。連結部13は、細長い板状の形状を有しており、その下端は、第1案内部11の上面に固定されており、上端は第2案内部12に固定されている。
【0034】
また、連結部13は、第1案内部11と第2案内部12との間の距離を定めるものであるため、溶接ワイヤ2の引き出し角度に影響を与える。ここで、第1案内孔14の上端の縁と第2案内孔15の下端の縁とを結ぶ仮想線と水平方向とのなす角度θを溶接ワイヤ2の引き出し角度とすると、引き出し角度θが30°以上90°未満となるように、連結部13の長さ及び第1案内部11に対する傾斜角度が設定されている。なお、引き出し角度θは、より望ましくは30°以上75°以下である。
【0035】
〔特徴〕
(1)
この線材ガイド治具1aは、溶接ワイヤコイル3上に載置されることにより、自重によって溶接ワイヤコイル3の上面を下方に押圧する。これにより、溶接ワイヤコイル3から複数巻き分の溶接ワイヤ2が一緒に引き出されることを抑えることができる。また、溶接ワイヤコイル3から引き出された溶接ワイヤ2は、まず、第1案内孔14の縁と接触して上方へ案内され、次に、第2案内孔15の縁に接触してさらに上方に案内される。そして、図5に示すように、線材ガイド治具1aが溶接ワイヤコイル3の溶接ワイヤ2の減少に伴ってコイル収納ドラム5内を下方に移動しても、第1案内孔14と第2案内孔15との相対的な位置関係は不変であるため、引き出し角度θを一定に保つことができる。これにより、この線材ガイド治具1aでは、溶接ワイヤコイル3の残量に関わらず溶接ワイヤ2の引き出し状態を安定させることができ、絡みやキンクの発生を抑えることができる。
【0036】
(2)
この線材ガイド治具1aでは、引き出し角度θが30°以上90°未満となるように第1案内孔14と第2案内孔15との位置関係が設定されている。ここで、引き出し角度θと、送給ロール8を回転駆動するモータの負荷電流との関係を示すグラフを図6に示す。このグラフでは、引き出し角度θ<30°の範囲でモータの負荷電流が急増しており、溶接ワイヤ2の引き出しのために大きな力が必要であることが分かる。このため、引き出し角度θが30°以上90°未満とされることによって、より小さな力で溶接ワイヤ2を引き出すことができる。
【0037】
また、図6のグラフより、75°<θ<90°の範囲ではモータの負荷電流の変化が小さいことが分かる。引き出し角度θが大きいと第1案内部11と第2案内部12との間の距離が大きくなり、線材ガイド治具1aが鉛直方向に大型化してしまう。このため、線材ガイド治具1aの小型化およびバランスの観点からは、引き出し角度θは30°≦θ≦75°の範囲内であることがより望ましい。
【0038】
<第2実施形態>
〔構成〕
本発明の第2実施形態に係る線材ガイド治具1bを図7に示す。この線材ガイド治具1bは、複数の吊りケーブル24を備える。吊りケーブル24は、例えば、金属製のチェーンであり、コイル収納ドラム5の縁部に係止可能な係止部25を一端に有する。吊りケーブル24の他端は、第1案内部11の上面に固定されている。なお、吊りケーブル24の他端は、第1案内部11に限らず、第2案内部12や連結部13に固定されてもよい。
【0039】
他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0040】
〔特徴〕
この線材ガイド治具1bは、吊りケーブル24の係止部25をコイル収納ドラム5の縁部に係止させておくことによって、溶接ワイヤコイル3の線材の減少によって線材ガイド治具1bがコイル収納ドラム5の底面近傍に位置している場合でも、吊りケーブル24を手繰り寄せることによってコイル収納ドラム5から容易に取り出すことができる。これにより、線材ガイド治具1bを容易に回収することができる。
【0041】
また、吊りケーブル24を所望の長さに設定することによって、線材ガイド治具1bの移動の下限を設定することができる。例えば、吊りケーブル24をコイル収納ドラム5の高さよりも長くすることによって、線材ガイド治具1bの移動をコイル収納ドラム5の底面まで許容することができる。また、吊りケーブル24をコイル収納ドラム5の高さよりも短くすることによって、溶接ワイヤ2が所定量使用されたときに、線材ガイド治具1bが溶接ワイヤコイル3の上面から離れてコイル収納ドラム5の内部に吊り下げられた状態にすることも可能である(図7(b)参照)。なお、線材ガイド治具1bが吊り下げられたときのバランスを考慮すると、吊りケーブル24は3つ以上設けられることが望ましい。
【0042】
<第3実施形態>
〔構成〕
本発明の第3実施形態に係る線材ガイド治具1cを図8に示す。この線材ガイド治具1cは、潤滑剤吐出部27とスイッチ用ケーブル28とを備える。
【0043】
潤滑剤吐出部27は、引っ張られることによってオン状態となるスイッチ29を有し、スイッチ29がオン状態である場合に潤滑剤を吐出する。潤滑剤吐出部27は、第1案内部11の上面に固定されており、スイッチ29がオン状態となると、側方の溶接ワイヤ2や溶接ワイヤコイル3に向けて潤滑剤を吹き付ける。
【0044】
スイッチ用ケーブル28は、例えば、金属製のチェーンであり、一端にコイル収納ドラム5の縁部に係止可能なフック状の係止部30を有している。また、スイッチ用ケーブル28の他端は、潤滑剤吐出部27のスイッチ29に連結されている。また、スイッチ用ケーブル28の長さは、線材ガイド治具1cがコイル収納ドラム5内において所望の位置に到達したときに張られてスイッチ29を引っ張るように設定されている。
【0045】
他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0046】
〔特徴〕
コイル収納ドラム5の内部に溶接ワイヤコイル3が収納されている場合、コイル収納ドラム5の底面に近い部分の溶接ワイヤ2に錆が発生していることがある。この場合、溶接ワイヤ2の残りが僅かな状態では、溶接ワイヤ2を溶接ワイヤコイル3から円滑に引き出すことが困難な場合がある。
【0047】
そこで、この線材ガイド治具1cでは、線材ガイド治具1cが所定位置まで下降した場合に、潤滑剤吐出部27のスイッチ29がスイッチ用ケーブル28によって引っ張られてオン状態となる。これにより、潤滑剤吐出部27から潤滑剤が吐出され、溶接ワイヤコイル3から繰り出される溶接ワイヤ2や溶接ワイヤコイル3に潤滑剤を供給することができる。このため、溶接ワイヤコイル3の溶接ワイヤ2が残り少なくなったときに溶接ワイヤ2が溶接ワイヤコイル3から引き出され難くなることを抑えることができる。
【0048】
<第4実施形態>
〔構成〕
本発明の第4実施形態に係る線材ガイド治具1dを図9に示す。この線材ガイド治具1dは、第1案内孔14から上方へ延びる溶接ワイヤ2を第2案内孔15へと案内する第1補助案内部31を備える。第1補助案内部31は、軸線が鉛直方向に延び内周面が下方に向けて拡径した管状の部材である。第1補助案内部31の上端は第2案内部12の下面に連結されており、第1補助案内部31の上端の開口は第2案内孔15へ接続されている。第1補助案内部31の下端は、第1案内孔14の上方に位置しており、第1案内孔14と対向している。第1補助案内部31は、第1案内孔14および第2案内孔15の中心を通る軸線と同心に配置されている。
【0049】
他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0050】
〔特徴〕
この線材ガイド治具1dでは、第1補助案内部31の下端側の内周面が拡径しており、この内周面によって溶接ワイヤ2が案内される。このため、溶接ワイヤ2が第1案内部11の第1案内孔14の縁に沿って移動しながら引き出されても、溶接ワイヤ2を第2案内孔15まで安定的に案内することができる。
【0051】
また、図9では、第1案内部11、第2案内部12,第1補助案内部31は同心に配置されているが、第2案内部12と第1補助案内部31とが第1案内部11の軸線から偏心して配置されても、第1補助案内部31によって溶接ワイヤ2を第2案内孔15まで安定的に案内することができる。
【0052】
<第5実施形態>
〔構成〕
本発明の第5実施形態に係る線材ガイド治具1eを図10に示す。この線材ガイド治具1eは、第1案内孔14から上方へ延びる溶接ワイヤ2を第2案内孔15へと案内する第2補助案内部32を備える。なお、図10(b)は、第2補助案内部32を下方から見た図である。第2補助案内部32は、軸線が鉛直方向に対して傾斜して設けられた管状の部材である。第2補助案内部32の上端は第2案内部12に連結されており、第2補助案内部32の上端の開口は第2案内孔15へ接続されている。第2補助案内部32の上端は、第2案内部12に対して回転自在に取り付けられており、第2案内孔15の中心および第2補助案内部32の上端を通る鉛直線を中心に回転自在となっている。
【0053】
なお、図10(a)では、第2案内部12および第2補助案内部32が、第1案内部11の中心を通る軸線から偏心して配置されているが、第2案内部12および第2補助案内部32が第1案内部11の中心を通る軸線と同心に配置されてもよい。
【0054】
他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0055】
〔特徴〕
この線材ガイド治具1eでは、溶接ワイヤ2が第1案内部11の第1案内孔14の縁に沿って移動しながら引き出されても、第2補助案内部32が自在に回転するため、溶接ワイヤ2の動きに応じて下端の開口の向きを自在に変更することができる。このため、第1案内孔14から引き出された溶接ワイヤ2を第2案内孔15まで安定的に案内することができる。
【0056】
また、第2補助案内部32は溶接ワイヤ2の出所の変動に合わせて向き変更可能であるため、溶接ワイヤ2が動く範囲に合わせて第2補助案内部32の下端の開口を大径化する必要が無く、第2補助案内部32を小径に形成することができる。このため、第2補助案内部32によって溶接ワイヤ2をより安定的に案内することができる。
【0057】
<他の実施形態>
(1)
上記の実施形態では、線材ガイド治具1a−1eは、コイル収納ドラム5の上端の開口が開放された状態で使用されているが、図11に示すように、コイル収納ドラム5の上端の開口を閉じる蓋体治具33が取り付けられた状態で用いられてもよい。この場合、第2案内部12から引き出され蓋体治具33の頂点部分へ延びる溶接ワイヤ2は概ね直線状になるため、溶接ワイヤ2が蓋体治具33によって案内される際に絡みやキンクの発生を抑えることができる。
【0058】
(2)
上記の実施形態では、単一の連結部13が設けられているが、図12に示す線材ガイド治具1fように複数の連結部13が設けられてもよい。この場合、第1案内部11と第2案内部12とをより強固に連結することができる。
【0059】
(3)
上記の実施形態では、線材ガイド治具1a−1dは溶接ワイヤ2の引き出しに利用されているが、溶接ワイヤ2に限らず他の線材の引き出しにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、線材を安定的に引き出させることができる効果を有し、線材ガイド治具として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】線材ガイド治具が利用される溶接システムを示す図。
【図2】線材ガイド治具の使用状態を示す図。
【図3】線材ガイド治具の側面断面図。
【図4】第2案内部の断面拡大図。
【図5】溶接ワイヤの残量が変化した場合の線材ガイド治具の状態を示す図。
【図6】引き出し角度とモータ負荷電流の関係を示すグラフ。
【図7】第2実施形態に係る線材ガイド治具を示す図。
【図8】第3実施形態に係る線材ガイド治具を示す図。
【図9】第4実施形態に係る線材ガイド治具を示す図。
【図10】第5実施形態に係る線材ガイド治具を示す図。
【図11】他の実施形態に係る線材ガイド治具の使用状態を示す図。
【図12】他の実施形態に係る線材ガイド治具を示す図。
【図13】従来の線材ガイド治具を示す図。
【符号の説明】
【0062】
1a−1f 線材ガイド治具
2 溶接ワイヤ(線材)
3 溶接ワイヤコイル(線材コイル)
5 コイル収納ドラム
6 第1案内ケーブル(案内ケーブル)
11 第1案内部
12 第2案内部
13 連結部
14 第1案内孔
15 第2案内孔
23 接続部
24 吊りケーブル
25 係止部
27 潤滑剤吐出部
28 スイッチ用ケーブル
29 スイッチ
30 係止部
31 第1補助案内部
32 第2補助案内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル収納ドラムに収納されコイル状に巻回積層された線材からなる線材コイルから引き出される前記線材を案内する線材ガイド治具であって、
前記線材と接触して前記線材を案内する第1案内孔を有し、前記線材コイル上に載置される第1案内部と、
前記第1案内孔の上方に配置され、前記第1案内孔よりも小径であり前記線材と接触して前記線材を案内する第2案内孔を有する第2案内部と、
前記第1案内部と前記第2案内部とを連結する連結部と、
を備える線材ガイド治具。
【請求項2】
前記第1案内孔の縁と前記第2案内孔の縁とを結ぶ仮想線と水平方向とのなす角度は、30°以上90°未満である、
請求項1に記載の線材ガイド治具。
【請求項3】
前記第2案内部は、引き出された前記線材を案内する案内ケーブルが接続される接続部を有する、
請求項1または2に記載の線材ガイド治具。
【請求項4】
前記コイル収納ドラムの縁部に係止可能な係止部を一端に有し、他端が少なくとも前記第1案内部、前記第2案内部、前記連結部のいずれかに連結された吊りケーブルをさらに備える、
請求項1から3のいずれかに記載の線材ガイド治具。
【請求項5】
引っ張られることによってオン状態となるスイッチを有し、前記スイッチがオン状態である場合に潤滑剤を吐出する潤滑剤吐出部と、
前記コイル収納ドラムの縁部に係止可能な係止部を一端に有し、他端が前記スイッチに連結されたスイッチ用ケーブルと、
をさらに備える、
請求項1から4のいずれかに記載の線材ガイド治具。
【請求項6】
軸線が鉛直方向に延び内周面が下方に向けて拡径した管状の部材であり、上端が前記第2案内部の第2案内孔へ接続された第1補助案内部をさらに備える、
請求項1から5のいずれかに記載の線材ガイド治具。
【請求項7】
軸線が鉛直方向に対して傾斜して設けられた管状の部材であり、上端が前記第2案内部の第2案内孔へ接続され、前記上端を通る鉛直線を中心に回転自在に設けられた第2補助案内部をさらに備える、
請求項1から5のいずれかに記載の線材ガイド治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−238323(P2007−238323A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67529(P2006−67529)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】