説明

線条材の製造方法及び製造装置

【課題】液体を効果的に線条材表面から除去することにより、液体の蒸発に投入するエネルギーを低減すると共に、液体の蒸発に要する時間を短縮して線条材表面が変色する前に乾燥を完了させることを可能とする線条材の製造方法を提供する。
【解決手段】線条素材6aを線条材6bに加工する機械加工工程と、機械加工工程の後段に設けられ線条材6bを洗浄する洗浄工程と、洗浄工程の後段に設けられ線条材6bに付着した洗浄液14を除去する乾燥工程とを含む線条材の製造方法であって、洗浄工程は、線条材6bとマイクロバブル23を含む洗浄液14とが接触する工程を含み、乾燥工程は、線条材6bに気体を吹き付けて洗浄液14の除去を行うガスブロー工程を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属線や、金属条、またプレス装置により加工されたリードフレーム等の線条材など、線条材表面に付着した加工粉並びに加工用潤滑剤等を除去する線条材の製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線に用いられる導体金属心線(以下、導体と呼ぶ)の表面は、伸線工程や圧延工程において発生したその金属特有の金属粉や、同工程で使用する加工用潤滑剤などが表面に付着している。電気的特性の要請から絶縁層の厚さは薄膜化の一途をたどっており、導体表面に付着している金属粉が除去されないまま絶縁塗料を塗布すると、絶縁性能の低下を招くことが指摘されている。
【0003】
また、金属条やリードフレームなどのフープ材は、圧延ののち必要に応じてプレス加工されるが、圧延工程並びにプレス工程において発生したその金属特有の金属粉や、同工程で使用する加工用潤滑剤などが表面に付着していると、後続の、例えばめっき工程などでめっき不良が発生するなどの問題点が指摘されている。
【0004】
図6に示すように、従来の線条材の製造工程にあっては、線条素材60aを加工する際に鉱物油や水溶性潤滑液等の加工用潤滑剤を線条素材60aに塗布して加工装置61で加工を行い、当該加工後の線条材60bを洗浄液62が貯留された洗浄槽63に浸漬して洗浄し、かかる洗浄工程に次いでエアブロー装置64によりエアを吹き付けて洗浄液62を除去し、さらに乾燥装置65により線条材60bを乾燥して巻取りドラム66に巻き取って次工程に送る作業が行われていた。このような線条材の製造方法もしくは製造装置は例えば特許文献1〜3に開示されている(以下、これらを従来技術1という)。
【0005】
また、特許文献4には、乾燥装置として加熱機構を用いる方法が開示されている(以下、従来技術2という)。
【0006】
また、特許文献5,6には、乾燥を還元性気体中で行う方法が開示されている(以下、従来技術3という)。
【0007】
また、特許文献7には、水切りロールを用いて線条材表面から洗浄液を除去する方法が開示されている(以下、従来技術4という)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4324767号公報
【特許文献2】特許第3232149号公報
【特許文献3】特開2001−198638号公報
【特許文献4】特開2005−121267号公報
【特許文献5】特開平11−131286号公報
【特許文献6】特開平8−46107号公報
【特許文献7】特開平6−104376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術1にかかる問題点は、導体表面から有機溶剤を除去する際に有機溶剤が飛散、揮発することである。揮発した有機溶剤は所謂VOC(Volatile organic compounds:揮発性有機化合物)として大気中に拡散するが、これは光化学オキシダントの原因となる可能性があり、大気汚染を引き起こす虞がある。大気中に拡散したVOCを回収するためには、VOCの何百倍、何千倍といった体積の大気を吸引してVOCを分離しなければならず、大規模な設備が必要となる。この問題を回避するために洗浄液として水を用いる場合には、水と金属と、大気中の酸素が反応して、金属表面が変色するという新たな問題が発生する虞がある。
【0010】
従来技術2にかかる問題点は、乾燥のためにエネルギーを投入しなければならないことである。この問題は、洗浄液として水を用いる場合に特に顕著となる。洗浄液を蒸発させるのに必要な熱量として、単位体積当りの蒸発潜熱を比較すると、代表的洗浄溶剤であるデカンでは0.22kJ/cm3であるのに対し、水では2.26kJ/cm3と、約10倍のエネルギーを必要とする。また、熱によって金属材料の変色が加速される虞もある。
【0011】
従来技術3にかかる問題点は、還元性気体の取り扱いという新たな管理項目が増えることである。還元性気体の多くは易燃性を有し、水素のように爆発性を持つものも少なくない。そのような還元性気体を安全に取り扱うためには、製造装置全体を密閉構造にしたり、或いは乾燥部のみの雰囲気を制御するとしても常に雰囲気をモニターするための機構を設けたりする必要があり、装置コストが増大する。
【0012】
従来技術4にかかる問題点は、水切りロールから線条材への逆汚染の虞があることである。長時間にわたって水切りロールを使用すると、水切りロールの材料が摩耗するなどして異物が発生して線条材を汚染する可能性がある。また、微量に洗浄液中に含まれていた汚染が長期間にわたって水切りロールに蓄積し、線条材と接触することにより線条材を汚染する虞がある。
【0013】
本発明は、かかる問題に鑑みなされたものであり、液体を効果的に線条材表面から除去することにより、液体の蒸発に投入するエネルギーを低減すると共に、液体の蒸発に要する時間を短縮して線条材表面が変色する前に乾燥を完了させることを可能とする線条材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、線条素材を線条材に加工する機械加工工程と、前記機械加工工程の後段に設けられ前記線条材を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程の後段に設けられ前記線条材に付着した洗浄液を除去する乾燥工程とを含む線条材の製造方法であって、前記洗浄工程は、前記線条材とマイクロバブルを含む洗浄液とが接触する工程を含み、前記乾燥工程は、前記線条材に気体を吹き付けて洗浄液の除去を行うガスブロー工程を含む線条材の製造方法である。
【0015】
請求項2の発明は、前記線条材がリードフレーム又は絶縁電線用の導体金属心線又は異形銅条である請求項1に記載の線条材の製造方法である。
【0016】
請求項3の発明は、機械加工装置と、前記機械加工装置により加工された線条材を洗浄する洗浄ユニットと、前記洗浄ユニットの後段に配置され前記線条材に付着した洗浄液を除去する乾燥ユニットとを備えた線条材の製造装置であって、前記洗浄ユニットは、前記線条材表面に付着した液体又は固体を除去するための洗浄液を貯留した洗浄槽と、前記洗浄槽にマイクロバブルを導入するためのマイクロバブル発生機構とを備え、前記乾燥ユニットは、前記洗浄ユニットを通過した前記線条材に気体を吹き付けて洗浄液の除去を行うガスブロー機構とを備えている線条材の製造装置である。
【0017】
請求項4の発明は、前記乾燥ユニットは、前記気体を加熱する加熱機構を備えている請求項3に記載の線条材の製造装置である。
【0018】
請求項5の発明は、前記乾燥ユニットは、前記気体に還元性気体を供給する還元性気体供給手段を備えている請求項3又は4に記載の線条材の製造装置である。
【0019】
請求項6の発明は、前記洗浄槽から、前記線条材が略鉛直上向き方向に引き出される請求項3〜5のいずれかに記載の線条材の製造装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、液体を効果的に線条材表面から除去することにより、液体の蒸発に投入するエネルギーを低減すると共に、液体の蒸発に要する時間を短縮して線条材表面が変色する前に乾燥を完了させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る線条材の製造装置を示す概略図である。
【図2】図1の線条材の製造装置における第2洗浄ユニットを示す概略図である。
【図3】図1の線条材の製造装置における乾燥ユニットを示す概略図である。
【図4】マイクロバブルの作用を示す模式図である。
【図5】本発明の変形例に係る線条材の製造装置を示す概略図である。
【図6】従来の線条材の製造装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0023】
本発明の線条材の製造方法を製造装置と共に説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る線条材の製造装置を示す概略図である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態に係る線条材の製造装置1は、上流側から順に、送出しドラム2、機械加工装置3、洗浄乾燥装置4、巻取りドラム5とから概略構成されている。図1において白抜き矢印は、線条素材6a、線条材6bの走行方向を示しており、図中左から右に向かって、プレス加工、洗浄乾燥、巻き取りの各工程を経るように移送される。
【0026】
洗浄乾燥装置4の前段に設置された機械加工装置3は、線条素材6aに鉱物油や水溶性潤滑液等の加工用潤滑剤を塗布してプレス加工するプレス加工装置7を備える。なお、ここではプレス加工装置7にてプレス加工を行ったリードフレームなどの線条材6bを洗浄乾燥装置4で洗浄する例を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば伸線装置によって伸線加工を行った絶縁電線用の導体金属心線などの線材の洗浄に適用してもよく、また圧延加工装置によって圧延加工を行った異形銅条などの金属条の洗浄に適用してもよい。
【0027】
洗浄乾燥装置4は、第1洗浄ユニット8と、第1洗浄ユニット8の後段に設置された第2洗浄ユニット9と、第2洗浄ユニット9の後段に設置された乾燥ユニット10とからなる。ここでは、2つの洗浄ユニット8,9を備えた洗浄乾燥装置4を示したが、洗浄ユニットの数は1でも、3以上でもよい。
【0028】
洗浄ユニット8,9は、機械加工装置3により加工された線条材6bを洗浄するためのユニットである。
【0029】
第1洗浄ユニット8は、線条材6bの表面の液体又は固体などの付着物を除去するための洗浄液11を貯留した洗浄槽12と、後段に配置した第2洗浄ユニット9側に線条材6bを送り出す線条材送り機構13とを有する。
【0030】
洗浄槽12に貯留される洗浄液11は、プレス加工時に使用する加工用潤滑剤の種類や、プレス加工時に発生する塵埃の量に応じて適宜選択されるが、本実施の形態では、例えば、水溶性洗浄剤を使用している。
【0031】
この第1洗浄ユニット8では、洗浄効果を高めるために超音波発生装置などを設置して、洗浄槽12内の洗浄液11にエネルギーを付与するなどしてもよい。付与するエネルギーとしては、例えば、流速などの運動エネルギーや、薬品などを用いる化学エネルギー、前述した超音波などを用いる熱エネルギーが挙げられる。これらエネルギーは組み合わせて用いても構わない。
【0032】
第2洗浄ユニット9は、線条材6bの表面の液体又は固体などの付着物を除去するための洗浄液14を貯留した洗浄槽15と、洗浄槽15にマイクロバブル23を導入するためのマイクロバブル発生機構16と、後段に配置した乾燥ユニット10側に線条材6bを送り出す線条材送り機構17とを有する。
【0033】
洗浄槽15に貯留される洗浄液14は、洗浄槽12に貯留される洗浄液11や、最終的な目標清浄度などに応じて適宜選択されるが、本実施の形態では、例えば、純水を使用している。
【0034】
この第2洗浄ユニット9では、洗浄効果を高めるために超音波発生装置などを設置して、洗浄槽15内の洗浄液14にエネルギーを付与するなどしてもよい。
【0035】
図2は、第2洗浄ユニット9における洗浄槽15、線条材送り機構17、及びマイクロバブル発生機構16の配置を示す概略図である。図2において白抜き矢印は、線条材6bの走行方向を示しており、プレス加工された線条材6bは図中左側から投入されて洗浄槽15に移送される。
【0036】
この洗浄槽15では、洗浄槽12で除去しきれなかった加工用潤滑剤や異物などを洗い落とすほか、洗浄槽12で付着した洗浄液11を洗い落としてもよい。本実施の形態では、線条材6bを洗浄液14中に浸漬しながら洗浄する構成となっており、洗浄槽15の中間部には少なくとも一部が洗浄液14中に位置する押さえローラ18を配置し、線条材6bを押さえローラ18により規制しながら移送させることによって、線条材6bが洗浄液14中を通過して洗浄される。かかるのち、線条材6bは洗浄槽15内で連続的にマイクロバブル23を含む洗浄液14と接触し、上方に設置された線条材送り機構17によって液面から上方に取り出される。
【0037】
なお、線条材6bの表面に付着して持ち出される洗浄液14の量は、線条材6bが鉛直上向きに洗浄槽15から引き上げられるときに最小となる。即ち、本発明における洗浄槽15からの線条材6bの取り出し方向は鉛直上向きであることが望ましい。但し、水平方向に線条材6bを引き出す場合にも、乾燥ユニット10を適切に配置することにより、後述するマイクロバブル23の効果を得ることができる。
【0038】
第2洗浄ユニット9の後段に設けられた乾燥ユニット10は、洗浄槽15を通過した線条材6bに気体(ガス)を吹き付けて乾燥を行うものであり、第2洗浄ユニット9を通過した線条材6bにガスを吹き付けて液切りして洗浄液の除去を行うガスブロー機構19を備えている。
【0039】
図3は、乾燥ユニット10を示す概略図である。図3において白抜き矢印は、線条材6bの走行方向を示しており、図中下から上、左から右に向かって移送される。
【0040】
本実施の形態においては、図示しないガス供給手段により乾燥ユニット10に供給されたガスを、ガスブローノズル20を通じて線条材6bに吹き付けるように構成されている。線条材6bは、かかるガスブロー機構19を通過することにより、前工程で付着した洗浄液14(洗浄液11も含む)がほとんど除去される。
【0041】
ガス流路上の、ガスブロー機構19の前段には、ガスを加熱する加熱機構21が設けられており、必要に応じてガスを加熱することができる構造となっている。
【0042】
この加熱機構21は、加熱温度の調節が可能なヒータ熱板(図示せず)を有し、ヒータ熱板によって加熱された配管22内をガスが通過することにより、ガスが加熱される。
【0043】
このように加熱されたガスを線条材6bに吹き付けることにより、洗浄液14は完全に蒸発する。従って、乾燥ユニット10を通過した線条材6bは、洗浄液14が除去された状態で、巻取りドラム5に移送される。
【0044】
また、乾燥ユニット10は、ガスに還元性気体を供給する図示しない還元性気体供給手段を備えている。これにより、線条材6bの表面の変色、変質の可能性をさらに低減することが可能となる。還元性気体としては、水素ガスやこれとアルゴンガス又は炭酸ガスとの混合ガスなどを用いることができる。
【0045】
この線条材の製造装置1では、洗浄槽15の洗浄液14のうちある量が、線条材6bの表面に付着した状態で、第2洗浄ユニット9から乾燥ユニット10に持ち込まれる。前記した、線条材6bの乾燥不良や、洗浄液を蒸発させるためのエネルギーなどの問題に鑑み、線条材6bの表面に付着して第2洗浄ユニット9から乾燥ユニット10に持ち込まれる洗浄液14の量は可能な限り少なく抑えることが必要である。
【0046】
しかしながら、従来技術であるガスブロー(エアブロー)のみでは、プレス加工を施されたリードフレームのように複雑な形状をした材料の表面から効率よく洗浄液を除去することは困難であった。本発明者の鋭意検討の結果、線条材6bを、マイクロバブル23を含む洗浄液14と接触せしめ、かかるのちに速やかに洗浄液14から引き上げることにより、線条材6bの表面に付着する洗浄液14の量を劇的に低減できることが明らかとなった。
【0047】
線条材6bを、マイクロバブル23を含む洗浄液14と接触させることで、線条材6bの表面に付着する洗浄液14の量が低減できるメカニズムについて、図4を用いて説明する。
【0048】
洗浄槽15から引き上げられた線条材6bの表面には、洗浄液14が液膜状に付着している。その厚さは、線条材6bの引き上げ速度に依存するが、親水性の材料を水中から鉛直上向きに引き上げる場合には、およそ10μm乃至70μmである。
【0049】
引き上げられた線条材6bからは重力に従って洗浄液14が排液されるが、線条材6bの引き上げ速度が速いと排液が追いつかず、一定の膜厚の洗浄液14が付着した状態で線条材6bは引き上げられる。このとき、線条材6bの表面に付着した洗浄液14中には、マイクロバブル23が含まれる。
【0050】
マイクロバブル23とは、直径が1μm乃至数10μmの気泡であり、小さいほど重力の影響を受けず、液体中に長時間存在する。洗浄液14の表面張力をγ、マイクロバブル23の半径をRとすると、その内圧はマイクロバブル23外部の圧力より、2γ/Rだけ高いことが、ラプラスの式より導かれる。
【0051】
通常の製造装置は大気圧下に設置されているので、マイクロバブル23の内圧は大気圧より2γ/Rだけ高い。また同式より、マイクロバブル23は小さいほど、内圧が高い。
【0052】
図4に示すように、このようなマイクロバブル23を含む洗浄液14と接触した線条材6bが、洗浄槽15の液面から上方に引き上げられると、まずこのとき付着している洗浄液14の量はマイクロバブル23が存在しない場合に比べて、マイクロバブル23の体積だけ少ない。本発明者の検討においては、マイクロバブル23の体積分率は例えば10%程度である。
【0053】
さらに、マイクロバブル23が線条材6b並びに周囲の洗浄液14と共に大気中に引き上げられると、特にマイクロバブル23の大きさが液膜の厚さと比べて著しく小さい場合を除いて、マイクロバブル23を包囲する洗浄液14の厚さが薄い部分24が生じる。
【0054】
この部分24は、非常に薄い液体を介して、マイクロバブル23が大気と接している。前記したように、マイクロバブル23の内圧は大気圧より2γ/Rだけ高いことから、大気とマイクロバブル23を隔離している非常に薄い液体は、マイクロバブル23側から大気側に向かって2γ/Rの圧力で押されている。
【0055】
このような状況におかれたマイクロバブル23は容易に破泡する。その際に発生する力によって洗浄液14が流動することにより、排液が促進される。
【0056】
かかる作用の結果、線条材6bの上に残る洗浄液14の量は、洗浄液14にマイクロバブル23を添加することにより、劇的に低減することが可能となる。これにより、線条材6bの表面に付着する液体を蒸発させるために投入するエネルギーが低減でき、また液体を蒸発させるために要する時間が短縮できる。その結果、線条材6bの変色の可能性も軽減される。
【0057】
以上より、本発明では、第2洗浄ユニット9から乾燥ユニット10に持ち込まれる洗浄液14の量が少なく抑えられるため、水切りロールのような接触部品を用いた洗浄液除去を行う必要が無く、洗浄乾燥装置4の構造が簡単になると共に、装置のメンテナンスの負荷が軽減される。
【0058】
さらに、線条材6bの乾燥に必要な時間を短縮でき、その結果、線条材6bの変色、変質といった問題を解決できる。
【0059】
さらにまた、水のように蒸発潜熱の大きな液体を乾燥させる場合にも、投入するエネルギーを低減でき、エネルギーコストの低減や、エネルギー使用量低減を通じたCO2排出削減も実現できる。
【0060】
さらにまた、本発明に基づく洗浄乾燥装置4を用いて線条材6bを水系の洗浄液で洗浄したのち乾燥を実施することにより、有機溶剤を用いた洗浄を行う必要がない。その結果として、有機溶剤の大気への漏洩を低減することができ、VOCの発生抑制や、労働作業環境改善、大気環境への影響低減も可能となる。
【0061】
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0062】
例えば、図5に示すように、より厚く剛性の高いリードフレームを製造できるよう、走行路ができるだけ直線を形成するように線条材の製造装置50を構成してもよい。
【0063】
この線条材の製造装置50では、洗浄槽51,52には、線条材6bの入口並びに出口に可能な限り小さな開口部53が形成されており、液面が開口部53より常に高くなるように、図示しないポンプより洗浄液11,14が送られているが、開口部53より常に洗浄液11,14は漏出する。
【0064】
また、線条材の製造装置50は、洗浄槽15から鉛直上向きに線条材6bを引き上げる場合と比べて、線条材6bの表面に付着する洗浄液14の量は多くなるため、洗浄槽52の出口直後に液切りガスブローノズル54を備えている。線条材6bは、液切りガスブローノズル54にてある程度乾燥されたのち乾燥ユニット55へと搬送される。
【0065】
この線条材の製造装置50でも、液体を効果的に線条材6bの表面から除去することにより、液体の蒸発に投入するエネルギーを低減すると共に、液体の蒸発に要する時間を短縮して線条材6bの表面が変色する前に乾燥を完了させることが可能となる。
【実施例】
【0066】
(実施例1、比較例1)
乾燥性能の評価をした結果の一例を表1に示す。評価に供したリードフレームは、幅が約50mm、厚さが約0.2mmのものであり、線速度3m/分で走行している。乾燥ユニット10では、乾燥空気を1ノズルあたり300L/分の流量で吹き付け、加熱用ヒータは用いず室温での処理を行った。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1では、従来技術を用いた比較例1と比べて、洗浄槽からの洗浄液持ち出し量が低減されている。
【0069】
以上のように、本発明に係る線条材の製造装置1を経た線条材6bは、第1及び第2洗浄ユニット8,9によって加工用潤滑剤などが除去され、さらに乾燥ユニット10によって洗浄液14が除去され、清浄な加工部品として次工程で利用することができる。
【0070】
(実施例2,3、比較例2)
次に、本発明に係る線条材の製造装置1、及び従来技術に係る線条材の製造装置を用いて、ガスを加熱する場合と加熱しない場合の比較を行い、結果は乾燥後のリードフレーム1mあたりの変色点数並びに表面の酸化皮膜の厚さにより評価した。
【0071】
【表2】

【0072】
表2に示すように、本発明に係る線条材の製造装置1を用いた実施例2,3を比較すると、両者とも変色点数は0個/mで優れており、ガスを加熱した実施例3の方が加熱しない実施例2に比べて酸化皮膜の厚さをより薄くすることができた。
【0073】
これに対し、従来技術に係る線条材の製造装置を用いた比較例2では、ガスを加熱しても変色点数が17個/m、皮膜の厚さが267nmであり、実施例2,3に比べて非常に劣っていた。
【0074】
(実施例4,5、比較例3)
図5に示した線条材の製造装置50、従来技術に係る線条材の製造装置(図5と同様の構成で、マイクロバブルを発生させないもの)を用いてリードフレームを製造し、乾燥性能の評価をした結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
表3に示すように、液切りガスブローノズル54からガスブローしなくとも(実施例4)洗浄直後には変色は見られず、用途によっては実用上問題ないが、液切りガスブローノズル54を機能させることにより(実施例5)、加速試験後の変色をも防止することができた。
【0077】
これに対し、比較例3では、洗浄後に17個/mの変色点数が確認された。
【符号の説明】
【0078】
1 線条材の製造装置
2 送出しドラム
3 機械加工装置
4 洗浄乾燥装置
5 巻取りドラム
6a 線条素材
6b 線条材
7 プレス加工装置
8 第1洗浄ユニット
9 第2洗浄ユニット
10 乾燥ユニット
11 洗浄液
12 洗浄槽
13 線条材送り機構
14 洗浄液
15 洗浄槽
16 マイクロバブル発生機構
17 線条材送り機構
18 押さえローラ
19 ガスブロー機構
20 ガスブローノズル
23 マイクロバブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条素材を線条材に加工する機械加工工程と、前記機械加工工程の後段に設けられ前記線条材を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程の後段に設けられ前記線条材に付着した洗浄液を除去する乾燥工程とを含む線条材の製造方法であって、
前記洗浄工程は、前記線条材とマイクロバブルを含む洗浄液とが接触する工程を含み、
前記乾燥工程は、前記線条材に気体を吹き付けて洗浄液の除去を行うガスブロー工程を含むことを特徴とする線条材の製造方法。
【請求項2】
前記線条材がリードフレーム又は絶縁電線用の導体金属心線又は異形銅条である請求項1に記載の線条材の製造方法。
【請求項3】
機械加工装置と、前記機械加工装置により加工された線条材を洗浄する洗浄ユニットと、前記洗浄ユニットの後段に配置され前記線条材に付着した洗浄液を除去する乾燥ユニットとを備えた線条材の製造装置であって、
前記洗浄ユニットは、前記線条材表面に付着した液体又は固体を除去するための洗浄液を貯留した洗浄槽と、前記洗浄槽にマイクロバブルを導入するためのマイクロバブル発生機構とを備え、
前記乾燥ユニットは、前記洗浄ユニットを通過した前記線条材に気体を吹き付けて洗浄液の除去を行うガスブロー機構とを備えていることを特徴とする線条材の製造装置。
【請求項4】
前記乾燥ユニットは、前記気体を加熱する加熱機構を備えている請求項3に記載の線条材の製造装置。
【請求項5】
前記乾燥ユニットは、前記気体に還元性気体を供給する還元性気体供給手段を備えている請求項3又は4に記載の線条材の製造装置。
【請求項6】
前記洗浄槽から、前記線条材が略鉛直上向き方向に引き出される請求項3〜5のいずれかに記載の線条材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−231380(P2011−231380A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104054(P2010−104054)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】