説明

線維細胞形成阻害の検出方法、ならびに線維細胞形成を増強する方法および化合物

本発明は、単球から線維細胞への分化を抑制するSAPの能力に関する。本発明はまた、単球の線維細胞への分化を増強し得るIL−4およびIL−3の能力に関する。SAPを結合し、SAPレベルを低減し、SAP活性を抑制する方法および組成物を提供する。特に、CPHPC、β−D−ガラクトピラノースの4,6−ピルビン酸アセチル、エタノールアミン、高EEOアガロース、IL−4、IL−13、抗SAP抗体およびその断片を使用して、単球からの線維細胞への分化を促進する方法を提供する。これらの方法は、創傷治癒を含む様々な適用例で有用である。創傷包帯剤も提供する。最後に、本発明は、様々な薬剤の、単球から線維細胞への分化を調節し、単球の欠陥を検出する能力を検出するアッセイを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単球から線維細胞への分化を抑制するSAPの能力に関する。したがって、本発明は、そのような分化を増強するための組成物および方法を含む。それらの組成物および方法は、創傷治癒など、線維細胞の形成を増強することが有益な様々な適用例で有用となり得る。本発明は、さらに、単球の線維細胞への分化能力の問題またはSAPがこの分化を抑制する問題を検出する方法を含む。これらの問題は、疾患と相互に関係していてもよいし、薬物によって誘発されたものでもよい。
【背景技術】
【0002】
線維細胞
炎症は、組織外傷または感染に対する協調応答である。開始事象は、白血球遊走因子の局所での放出、血小板の活性化、ならびに凝集および補体経路の開始を媒介とする。これらの事象が局所内皮を刺激して、好中球および単球の血管外遊出を促進する。炎症の第二相は、リンパ球を含む適応免疫系細胞の組織への流入を特徴とする。その後の消散相は、過剰白血球のアポトーシスおよび組織マクロファージによる抱き込みが起こるときには、線維芽細胞などの間質細胞による組織損傷の修復も特徴とする。
【0003】
IL−4およびIL−13は共に、線維性応答の強力な賦活物質である。IL−4は、創傷の修復および治癒を高めることが知られている。IL−13は、IL−4との相同性が高く、多くの系でこれらは同様の働きをする。しかし、様々な状況において、これら2種のタンパク質の機能の重要な違いが発見された。例えば、IL−13は、腸内線虫、およびリーシュマニアなどの細胞内寄生体による感染への抵抗時により優性となる。またIL−13は、喘息においてもIL−4よりはるかに重要な役割を担う。対照的に、IL−4は、B細胞による免疫グロブリン産生の刺激およびT細胞の生存および分化においてIL−13よりも優性である。
【0004】
TGFβは、これも創傷治癒で役割を担うことが知られているが、線維細胞の、創傷治癒とさらに関連のある筋線維芽細胞への分化を促進することがわかっている。
【0005】
IL−4、IL−13、TGFβ、および他の様々な因子が線維性応答で役割を担うことは知られているものの、創傷病巣の修復を司り、または他の線維性応答で役割をもつ線維芽細胞の供給源については議論の最中にある。従来の仮説では、局所の静止線維芽細胞が、患部に移動し、細胞外マトリックスタンパク質を産生し、創傷の収縮または線維化を促進することが示唆されている。もう1つの仮説は、血液内に存在する循環線維芽細胞前駆細胞(線維細胞と呼ぶ)が、外傷部位または線維化部位に遊走し、そこで分化し、組織修復および他の線維性応答を媒介するというものである。
【0006】
線維細胞は、CD14+末梢血単球前駆体集団から分化することが知られている。線維細胞は、造血細胞(CD45、MHCクラスII、CD34)および間質細胞(コラーゲンI型およびIII型、フィブロネクチン)の両方のマーカーを発現させる。成熟線維細胞は、組織外傷部位にすばやく侵入し、そこで炎症性のサイトカインを分泌する。そしてすぐに、線維細胞は、抗原提示細胞(APC)として機能し、それによって抗原特異的な免疫を誘発することができる。線維細胞は、創傷修復の助けとなり得る細胞外マトリックスタンパク質、サイトカイン、および血管原性前駆分子を分泌することもできる。
【0007】
線維細胞は、他の様々な過程および障害とも関連している。線維細胞は、マウスにおける日本住血吸虫感染後の線維性病変の成立と関連しており、自己免疫疾患に随伴する線維症にも関与する。線維細胞は、放射線による損傷と関係のある病原性線維症、ライム病、および肺線維症とも関連付けられている。CD34+線維細胞は、膵炎および間質性線維症における間質の再構築とも関連付けられており、一方この種の線維細胞の欠乏は、膵臓腫瘍および腺癌と関連している。この相互関係は、線維細胞のAPCとして機能できる能力と関連しているかもしれない。最後に、線維細胞は、内皮細胞に作用して血管形成を促進することがわかっている。
【0008】
血清アミロイドP
線維細胞が役割を担う過程および疾患の範囲の広さを考えると、末梢血単球から線維細胞への分化を調節する機構は、非常に興味深いものである。本発明は、単球からの末梢血線維細胞への分化が、血清および血漿中の因子によって抑制されるという発見に基づく。ヒト血漿を分別すると、この因子が血清アミロイドP(SAP)として同定された。SAPは、C反応性タンパク質(CRP)を含む、タンパク質のペントラキシンファミリーのメンバーであり、肝臓によって分泌され、安定な五量体として血中を循環する。SAPの正確な役割は未だ不明であるが、免疫応答の開始相および消散相の両方で役割を担うと思われる。SAPは、細菌表面上の糖残基に結合し、そのオプソニン作用をもたらし、抱き込まれる。またSAPは、免疫応答の消散時に、アポトーシス細胞によって生成される遊離のDNAおよびクロマチンに結合し、そうして二次炎症性応答を防ぐ。FcγRI(CD64)およびFcγRII(CD32)が優先されるが、SAPが古典的Fcγ受容体(FcγR)の3種すべてに結合できるために、SAPが結合した分子は、細胞外区域から除去される。受容体への結合後、SAPおよび結合相手の分子は、おそらくは細胞に抱き込まれる。
【0009】
FcγRは、IgGが広範な造血細胞に結合するのに必要である。末梢血単球は、CD64およびCD32を発現させ、組織マクロファージは、3種すべての古典的FcγRを発現させる。単球の亜集団もCD16を発現させる。
【0010】
病原体に結合し、または免疫複合体の部分として結合したIgGによって単球上のFcγRがクラスターを形成すると、広範な生化学事象が開始される。受容体の集合に続く最初の事象は、一連のsrcキナーゼタンパク質の活性化を含む。単球では、これらには、lyn、hck、およびfgrが含まれ、これらが、FcγRIおよびFcγRIIIに関連するFcR−γ鎖のITAMモチーフ上、またはFcγRIIの細胞質ドメインのITAMモチーフ上にあるチロシン残基をリン酸化する。リン酸化を受けたITAMは、sykを含む第2セットのsrcキナーゼによって結合されることになる。sykは、IgGに覆われた粒子に対する食作用にとって極めて重要であることがわかっている。しかし、非造血細胞中のsykの分布が広いこと、ならびにsykが、インテグリンおよびGタンパク質共役型受容体の両方のシグナル伝達に関与するという証拠は、この分子が多くの機能を有することを示唆している。
【0011】
SAPおよびCRPはどちらも、食作用を増強し、様々な細胞上のFcγ受容体に結合する。CRPは、FcγRII(CD32)に高い親和性で結合し、FcγRI(CD64)に低い親和性で結合するが、FcγRIII(CD16)は結合しない。SAPは、FcγRIおよびFcγRII、特にFcγRIに優先的に、3種すべての古典的Fcγ受容体に結合する。CRPのFcγRへの結合についての各所見は一致していないが、SAPおよびCRPはどちらも、Fc受容体に結合し、FcγRの結合と一致する細胞内シグナル伝達事象を開始することがわかっている。
【0012】
ヒト血清では、男性は通常、約32μg/ml+/−7μg/mlのSAPを有し、12〜50μg/mlの範囲が正常である。女性は一般に、血清中に約24μg/ml+/−8μg/mlのSAPを有し、8〜55μg/mlの範囲が正常である。ヒトの大脳脊髄液中には、男性では通常約12.8ng/ml、女性では約8.5ng/mlのSAPが存在する。男性と女性のデータを合わせると、ヒト血清中の正常SAPレベルは、26μg/ml+/−8μg/mlであり、12〜55μg/mlの範囲が正常である。(上記血清レベルは、平均+/−標準偏差として示してある。)
【0013】
SAPは、主にアミロイド症におけるその役割に関して研究されている。最近では、SAPを枯渇させ、それによってアミロイド症を治療するために、薬物R−1−(6−[R−2−カルボキシ−ピロリジン−1−イル]−6−オキソ−ヘキサノイル)ピロリジン−2−カルボン酸(CPHPC)が開発された。しかし、この薬物は、全身に適用され、創傷治癒の処置には使用されておらず、あるいは他の局在性もしくは全身性の作用をもたないようである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の態様は、SAPを枯渇させる際のアガロースの使用に関する。寒天は、以前から創傷包帯剤として使用されてきた。しかし、適切な化学部分を含んでおらず、または不適切に使用されているかもしれないので、このようなこれまでの創傷包帯剤で、SAPを枯渇させることができていたかどうかは不明である。とにかく、これらの以前からの創傷包帯剤には、付加的な創傷治癒因子が組み込まれていないと思われる。さらに、こうした包帯剤は、外面の創傷に対してのみ使用されていると思われる。最後に、これらの包帯剤は、精製されたSAP枯渇性化学物質が組み込まれてもいなければ、またはそのレベルが高められてもいないと思われる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、SAPを結合する組成物および方法を含む。SAPを結合することのできる組成物には、CPHPC、β−D−ガラクトピラノースの4,6−ピルビン酸アセチル、ホスホエタノールアミン、および抗SAP抗体もしくはその断片が含まれ得る。このような結合は、in vitroで行ってもin vivoで行ってもよい。
【0016】
本発明は、試料中のSAPレベルを低下させる組成物および方法も含む。試料は、in vitroにあってもin vivoにあってもよい。in vivoでは、試料は、生物体全体またはその一部を含んでよく、枯渇は、全身でもよいし、または臓器や創傷などの特定の区域に限定してもよい。組成物には、直接に供給されるもの、または、例えば導入遺伝子を発現させて試料中に生成されるものが含まれ得る。SAPを枯渇させることのできる組成物には、CPHPC、β−D−ガラクトピラノースの4,6−ピルビン酸アセチル、ホスホエタノールアミン、および抗SAP抗体もしくはその断片が含まれ得る。試料中のSAPレベルは、その最初の産生を妨害し、または分解を促進して低下させてもよい。
【0017】
本発明は、SAP活性を抑制する組成物および方法も含む。抑制は、試料中で起こってもよいし、in vitroで行ってもin vivoで行ってもよい。組成物には、試料に直接に供給される組成物、および導入遺伝子を発現させるなどして試料中に生成されるものも含まれる。これらの組成物は、SAPの生成を減少させ、SAPタンパク質が単球と相互に作用する能力を低下させ、SAPタンパク質が補助因子と相互に作用する能力もしくはそのような補因子のレベルを低下させ、またSAPのFcγRへの結合を誘因とする経路など、単球中でSAPによって誘発されるシグナル伝達を妨害することによって作用する。SAP活性を抑制するように作用することのできる組成物としては、抗SAP抗体およびその断片、特にFc結合領域を標的とするものが挙げられる。
【0018】
本発明はさらに、創傷領域中のSAPを枯渇させ、または抑制して、創傷治癒を促進する方法および組成物を含む。組成物は、追加の創傷治癒因子を含んでいてもよい。本発明の特定の実施形態では、創傷治癒組成物としては、高EEOアガロース、ホスホエタノールアミンアガロース、またはCa2+、ならびにこれらの組合せが挙げられる。これら組成物に、IL−13、IL−4、TGFβなどのサイトカインを加えてもよい。
【0019】
本発明のさらに別の態様は、単球にIL−4、IL−13、またはその種の組合せを供給して、線維細胞の生成を促進する組成物および方法に関する。単球は、in vitroにあってもin vivoにあってもよい。IL−4およびIL−13は、外来供給源によって供給してもよいし、または内生を増大させてもよい。
【0020】
最後に、本発明は、試料の、単球から線維細胞への分化を調節する能力を検出するためのアッセイを含む。一実施形態では、正常な単球を試料と共に供給する。試料は、正常なSAPを含んでよい。試料は、創傷治癒障害患者などの患者に由来するSAPまたは生物学的な体液を含んでいてもよいし、あるいは潜在的な薬物を含んでいてもよい。別の実施形態では、試料は正常なSAPを含み、単球は、患者由来であり、異常なものでよい。どちらのタイプのアッセイでも、単球の線維細胞への分化に及ぼされる影響を正常な対照と比較して、正常なものと比べた、単球の分化の増加または減少を検出することができる。
【0021】
以下の図は、本明細書の部分であり、本発明のある側面をさらに実証するために含まれる。本発明は、これらの図面の1種または複数を本明細書で提供する詳細な説明と合わせて参照することによってより深く理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
線維細胞は、末梢血単球由来の線維芽細胞様細胞の特徴的な集団である。血清または血漿不在でCD14+末梢血単球を培養すると、線維細胞に急速に分化するようになる。この過程は、通常は48〜72時間以内に起こり、血清または血漿が存在すると抑制される。本明細書でさらに記載する実験によって、この抑制がSAPによって引き起こされることが確定した。追加の実験では、単球を無血清培地で培養するとき、IL−4またはIL−13が存在すると線維細胞への分化が増強されることが確定した。
【0023】
SAPの結合
本発明は、SAPを結合する組成物および方法を含む。組成物としては、CPHPC、β−D−ガラクトピラノースの4,6−ピルビン酸アセチル、ホスホエタノールアミン、および抗SAP抗体もしくはその断片を挙げることができる。これらの組成物は、精製された化学物質を含んでもよいし、または化学物質をアガロースなどのはるかに大きい化合物に結合してもよい。結合は、in vitroで行ってもin vivoで行ってもよい。
【0024】
特定の実施形態では、SAPを、約1%w/vの高EEOアガロースを含む組成物に結合することができる。この組成物は、MgやCa2+などのカチオンを含んでもよい。例えば、アガロースは、約5mMのCaClを含んでよい。
【0025】
他の実施形態では、組成物は、単球からの線維細胞の生成を抑制する際に機能し得るSAPの一部を標的とする抗体または抗体断片を含む。好例となる実施形態では、SAPの機能性部分は、線維細胞の生成に対して影響を及ぼさない、CRPと配列相同性の関係にない領域から選択する。例えば、SAPのアミノ酸65〜89(KERVGEYSLYIGRHKVTPKVIEKFP−配列番号1)は、CRPと相同でない。アミノ酸170〜181(ILSAYAYQGTPLPA−配列番号2)および192〜205(IRGYVIIKPLV−配列番号3)も相同でない。さらに、2種のタンパク質間の単一アミノ酸によるいくつかの差異が知られており、機能の違いをもたらし得る。
【0026】
SAPの枯渇
本発明の別の態様は、試料中のSAPレベルを枯渇させる組成物および方法に関する。試料は、in vitroにあっても、in vivoにあってもよい。in vitro試料としては、組織培養物、バイオリアクター、組織工学用足場材料、および生検材料が挙げられる。in vivoでは、試料は、生物体全体を含んでも、または臓器や外傷部位などのその部分を含んでもよい。in vivoでの枯渇は、全身でもよいし、または臓器や創傷などの特定の区域に限定してもよい。
【0027】
SAPを枯渇させる組成物には、試料に直接に供給されるものが含まれ得る。例えば、上記の結合剤はすべて、試料に直接供給することができる。それら結合剤は、どんな形態もしくは製剤にして供給してもよいが、試料の所望の成果をほとんど妨害しないものが好ましい。
【0028】
SAPを枯渇させる組成物は、試料中で生成しても、または試料を含む生物体中で生成してもよい。例えば、抗SAP抗体をコードしている導入遺伝子を試料に導入することができる。
【0029】
最後に、その最初の産生を妨害し、またはその分解を促進して、SAPレベルを激減させることもできる。特定の実施形態では、SAP産生を抑制する組成物を投与して、in vivoでSAPレベルを激減させる。SAPは、主に肝臓で産生されるので、SAP産生のin vivoでの抑制は容易に実現されるはずであるが、全身性となる。SAP産生を妨害する組成物は、SAP産生を調節するシグナル伝達経路に対して作用することができる。
【0030】
SAP活性の抑制
本発明は、SAP活性を抑制する組成物および方法も含む。抑制は、試料中で起こってもよいし、in vitroまたはin vivoで行ってもよい。組成物には、試料に直接供給される組成物、および試料中で生成する組成物も含まれる。このような組成物は、多くが、上述のSAP結合組成物である。特に、SAP活性を抑制する組成物には、CRPとの相同性をもたない特定のSAP領域に結合させるために上述のように選択した抗体を含めることができる。抗体は、FcγRに結合するSAP領域を標的とするものでもよい。
【0031】
SAP活性を抑制する組成物は、SAPタンパク質が単球と相互に作用する能力を低下させるもの、SAPタンパク質が補因子と相互に作用する能力もしくはそのような補因子のレベルを低下させるもの、SAPのFcγRへの結合を誘因とする経路など、単球中でSAPによって誘発されるシグナル伝達を妨害するものを含むがこれに限らない、様々な機序によって作用する。この経路は、Daeron、Marcによる「Fc Receptor Biology」、Annu.Rev.Immunology、第15巻:203〜34ページ(1997年)に詳述されている。好例となる実施形態では、副作用を最小限に抑えるために、他のシグナル伝達カスケードに共有されず、または単に数の限られた決定的でないシグナル伝達カスケードに過ぎない経路の一部を選択する。
【0032】
IL−4およびIL−13の影響
本発明のさらに別の態様は、単球にIL−4、IL−13、または2種の組合せを供給して、線維細胞の生成を促進する組成物および方法に関する。単球は、in vitroにあっても、in vivoにあってもよい。IL−4およびIL−13は、外来供給源によって供給してもよいし、または内生を増大させてもよい。より詳細には、IL−4またはIL−13は、約0.1〜10ng/mlの濃度で供給することができる。
【0033】
線維細胞形成調節の使用例
試料におけるSAPまたはIL−4もしくはIL−13供給の枯渇もしくは抑制を利用して、単球からの線維細胞へ分化を促進することができる。この作用は、in vitroおよびin vivoの両方で多くの用途をもつ。例えば、in vitroでは、線維細胞形成の促進は、組織工学で有用となり得る。血管新生を必要とする区域で線維細胞を生成すれば、血管新生が誘発される。in vitroでは、線維細胞を生成するための、単球の分化の促進を利用して、内部での組織工学に向けることもでき、または新しい脈管構造を必要とする区域で血管生成を誘発することもできる。
【0034】
さらに、単球の線維細胞への分化をin vivoで促進させていくと、創傷治癒を促進し、または整形手術に適用することができる。創傷治癒は、特に、線維細胞が筋線維芽細胞などの他の細胞にさらに分化する能力、線維細胞の血管生成作用、ならびにAPCとして機能し、それによって感染の予防または制御を助けるその能力の恩恵である。
【0035】
線維細胞がAPCとして機能できる能力のために、慢性に感染した区域、または軟骨など、感染しても免疫系が容易に到達しない区域も、単球の線維細胞への分化が促進されると恩恵を受けることができる。
【0036】
膵臓腫瘍および腺癌では、示される線維細胞のレベルがより低いので、これらの組織で単球の線維細胞への分化を促進することは、腫瘍の進行の緩慢化を助長し、または寛解の助けとなり得る。
【0037】
特定の実施例では、本発明は、創傷範囲のSAPを枯渇させ、または抑制して、創傷治癒を促進する方法および組成物を含む。これらの創傷治癒組成物には、CPHPC、抗SAP抗体;高EEOアガロース上に見られるものなど、B−D−ガラクトピラノースの4,6−ピルビン酸アセチル;ホスホエタノールアミンアガロース上に見られるものなどのエタノールアミン、またはCa2+、ならびにこれらの組合せが含まれ得る。IL−13、IL−4、FGF、TGFβなどのサイトカインをこれらの組成物に加えてもよい。
【0038】
多くの患者では、局所的なSAPの枯渇、またはSAPによって調節される経路の抑制もしくは妨害だけが望ましくなる。本発明の範囲内の多くの組成物は、そのような患者に局所的に投与することができる。例えば、組成物の投与は、軟膏、クリーム、固体、スプレー、蒸気、または創傷包帯剤にするなど、局所的でよい。このような局所製剤は、アルコール、水、消毒薬、他の揮発性物質、または他の薬剤活性のある薬品もしくは薬剤として許容される担体を含んでよい。局所投与は、組成物単独、または別の薬剤活性のある薬品もしくは薬剤として許容される担体との組合せの局所的な注射によるものでもよい。
【0039】
単球の線維細胞への分化を促進する組成物の局所的な投与を得策とする患者には、軽度〜中程度の火傷患者;外科処置の間に負ったものを含む裂傷を被っている患者;潰瘍などの糖尿病の合併症に罹患している患者;内部に圧迫潰瘍もしくは循環の弱い区域のある患者;擦過傷、軽症の挫傷、刺創のある患者;射創または榴散弾による創傷のある患者;開放骨折患者;組織工学上または美容上の理由で組織を成長させる必要のある患者;および免疫抑制の患者、血友病患者、または大部分の創傷がより急速に治癒する恩恵を受けそうな他の患者が含まれるがこれに限らない。
【0040】
重症もしくは多数の創傷または他の障害を有する患者では、IVまたは他の全身注射によって組成物をより広く投与して、線維細胞の生成を促進することが適切となり得る。SAPを枯渇させ、または抑制する薬剤の全身投与が役立ち得る患者には、重症の火傷患者;後期の末梢動脈閉塞性疾患の患者;および一般の創傷治癒障害の患者が含まれるがこれに限らない。
【0041】
局所投与または全身投与に相応しい製剤もあるかもしれない。さらに、SAPを粉末などの固体形態で供給し、次いで再形成して、患者に最後に投与する製剤を生成してもよい。
【0042】
創傷治癒のための好例となる実施形態では、高EEOアガロースまたはホスホエタノールアミンアガロースを創傷包帯剤として投与してもよい。この実施形態では、アガロースは、濃度約1%(w/v)でよく、約5mMのCaClを含有していてもよい。創傷包帯剤は、任意の期間にわたり適用することができる。創傷包帯剤は、創傷が閉じるまで継続して適用することができるが(約2日間またはそれ以上)、12時間などの最初の短期間だけにも適用することができる。このように最初に創傷からSAPを除去することで、十分に単球の線維細胞への分化の促進を引き起こし、創傷治癒を促進することができる。
【0043】
好例となる別の実施形態では、CPHPCを全身に投与して、広範囲に及ぶ創傷または手に負えない創傷の治癒を促進する。CPHPCは、アミロイド症の実験でマウスでは以前から浸透圧ポンプによって1.5〜15mg/kg/日の範囲で投与されている。CPHPCは、飲用水中1mg/mlの濃度でマウスに投与されている。20gのマウスは、1日約3mlの水を飲み、そのためCPHPC約0.15mg/kg/日を摂取することになる。したがって、このような範囲は、SAPレベルを低下させるのに人間にはおそらくは安全であるが、異なる範囲が創傷治癒に最適な恩恵をもたらすこともある。
【0044】
単球分化アッセイ
本発明の別の態様は、単球からの線維細胞への分化を調節する試料の能力を検出するアッセイに関する。無血清培地では、正常な単球は、2〜3日で線維細胞になる。正常な血清、血液、または他の生物学的な体液は、特定の希釈度範囲内で正常な単球からの線維細胞の生成を抑制する。すなわち、このアッセイを使用して、試料が、無血清培地中で単球の線維細胞への分化を調節し得るかどうかを試験することができる。このアッセイを使用すると、試料の単球が無血清培地中で正常に線維細胞に分化するかどうか、さらに血清、SAP、またはこの分化に影響を及ぼす他の因子に対して正常に応答したかどうかを判定することもできる。
【0045】
特定の実施形態では、このアッセイを使用して、患者の生物学的な体液の、単球から線維細胞への分化を抑制する能力が低下しているか促進しているかを判定することができる。SAPによる抑制を試験する場合、本発明では、全血、血清、血漿、滑液、大脳脊髄液、および気管支体液を含めて、SAPが常時または一過性に存在するどんな生体液を使用してもよい。単球の分化を抑制する能力の促進は、創傷治癒障害または他の障害の指標とすることもでき、またはそのような障害になる性向であるともいえる。多くの患者では、生体液の線維細胞形成抑制能の促進は、SAPレベルが低いためであるかもしれないが、必ずしもこのとおりでない。SAPは、正常レベルで存在しても、SAP自体の欠陥、または補因子もしくは他の分子の有無のために抑制活性の低下を示すこともある。ELISA、電気泳動法、分別など、抑制の問題のより正確な性質を決定する方法は、当分野の技術者に明らかとなろう。
【0046】
上述の方法を使用して、線維細胞の分化に影響を及ぼすある種の潜在的な薬物が、患者にとって適切となり得るか否かを判定することもできる。
【0047】
別の特定の実施形態では、このアッセイを使用して、患者の単球が、無血清培地で線維細胞に分化することができるか、ならびに生体液、SAP、または別の組成物に正常に応答するかを判定することができる。より詳細には、創傷治癒の問題を抱える患者が正常レベルのSAPをもっていると思われる場合、血清またはSAPなしで分化することができるかを判定するために、患者の単球の試料を得ることが得策となり得る。
【0048】
最後に、別の特定の実施形態では、このアッセイを使用して、単球の線維細胞への分化に対する薬物または他の組成物の作用を試験することができる。アッセイをこのように使用して、線維細胞の生成を調節するように設計された潜在的な薬物を同定してもよいし、あるいはアッセイを使用して、他の用途に向けた薬物の潜在的な有害事象をスクリーニングしてもよい。
【0049】
本発明の特定の実施形態を明示するために、以下の実施例を含める。当業者ならば、以下の実施例中で開示する技術は、本発明を実施した際に発明者らが十分に機能することを発見した技術を代表するものであることを承知すべきである。しかし、当業者は、この開示を考えて、本発明の意図および範囲から逸脱することなく、開示する特定の実施形態に多くの変更を加えても、同様または類似の結果が得られることを承知すべきである。
【実施例】
【0050】
実施例1
線維細胞形成の抑制
末梢血T細胞の生存における細胞密度の考えられる役割を調べている際に、無血清培地で、末梢血単核細胞(PBMC)が線維芽細胞様細胞集団を生じさせたことが観察された。これらの細胞は、粘着性であり、紡錘体型の形態(図1A)であった。無血清培地では約0.5〜1%のPBMCが線維芽細胞様細胞に分化し、この分化は、組織培養によって処理したプラスチック容器、ホウケイ酸塩スライドガラス、および標準のスライドガラスで起こった。
【0051】
培養して3日以内のこれらの細胞の急速な出現は、ヒトの血清もしくは血漿によって抑制された。この過程をより詳細に調べるため、徐々に増していく各濃度のヒト血漿を含有する無血清培地中で、1mlあたり5×10細胞のPBMCを6日間培養した。血漿が10%〜0.5%の濃度で存在するとき、線維芽細胞様細胞には分化しなかった(図1B)。しかし、0.1%以下の血清では、線維芽細胞様細胞が急速に発育した。線維細胞の生成を抑制した血清の活性は、30kDaカットオフのスピンフィルターに捕らえられた(データ非表示)。血清を30分間かけて56℃に加熱した場合、効力は10分の1になり、95℃の加熱は、抑制活性を消滅させた(データ非表示)。
【0052】
これらのデータは、抑制因子がタンパク質であることを示唆した。阻害因子はヒト血清中に存在していたので、凝固系とは関係がなさそうであることが示唆された。ウシ、ウマ、ヤギ、およびラットの血清も、これらの線維芽細胞様細胞の出現を抑制することができたので、阻害因子は、進化の過程で保存されたタンパク質であるようにも思われた(データ非表示)。
実施例2
【0053】
線維芽細胞様細胞の特性決定
これら線維芽細胞様細胞が末梢血から分化したことは、これらが末梢血線維細胞であるかもしれないことを示唆した。線維細胞は、in vitroおよびin vivoで線維芽細胞様細胞に分化する末梢血単球由来の集団である。線維細胞は、創傷部位にすばやく侵入し、T細胞に抗原を提示することができる。この細胞の表現型は、CD45やMHCクラスIIなどの造血性マーカーと、コラーゲンIやフィブロネクチンなどの間質性マーカーとからなる。しかし、これらの細胞を同定するために、PBMCは、一般に、血清を含有する培地で1〜2週間培養した。
【0054】
この系で認められた細胞が線維細胞であるかどうかを特性決定するために、PBMCのT細胞を抗CD3で、B細胞を抗CD19で、単球を抗CD14で枯渇させ、あるいはすべての抗原提示細胞を抗HLAクラスIIで枯渇させ、次いで血清なしの条件で6日間培養した。PBMCを抗CD3または抗CD19で枯渇処理しても、血清なしの培養物中で培養したとき、PBMCから線維芽細胞様細胞は枯渇されなかった(データ非表示)。抗原提示細胞を抗HLAクラスIIで、または単球を抗CD14抗体で枯渇させると、線維芽細胞様細胞の出現が妨げられたので、線維芽細胞様細胞が単球由来であり、樹状細胞集団でないことが示唆された。
【0055】
線維芽細胞様細胞をさらに特性決定するために、PBMCをスライドガラス上の無血清培地で5日間培養した。次いで、細胞を風乾し、アセトン固定し、種々の抗体で標識した(表1および図2)。線維細胞は、CD11a、CD11b、CD45、CD80、CD86、MHCクラスII、コラーゲンI、フィブロネクチン、ケモカイン受容体のCCR3、CCR5、CCR7、CXCR4、およびα−平滑筋アクチンを発現させる。上記培養条件下では、この実験の線維芽細胞様細胞も、これらすべてのマーカーを発現させた。線維細胞は、CD1a、CD3、CD19、CD38、およびvWFについては陰性であり、この実験の線維芽細胞様細胞もそのとおりであった。これらのデータによれば、この実験で認められた線維芽細胞様細胞は、線維細胞であると思われる。さらに実験を行って、この表現型を広げた。上記条件下では、この線維細胞は、α1(CD49a)、α2(CD49b)、α5(CD49e)、β1(CD29)、およびβ3(CD61)に加えて高レベルのβ2(CD18)を含む数種のβ1インテグリンを発現させたが、α3、α4、α6、α4β7、αE、およびCLAについては陰性であった(図2および表1)。
【0056】
【表1】


【0057】
表1のデータを得るために、8穴スライドガラスのウェルに入った無血清培地中で、1mlあたり(1ウェル400μl)2.5×10細胞のPBMCを6日間培養した。次いで、細胞を風乾し、アセトン固定し、免疫ペルオキシダーゼ染色した。細胞は、アイソタイプを一致させた対照抗体と比較して、示される抗原を陽性または陰性で記録した。
実施例3
【0058】
線維細胞抑制因子の特性決定
急速な線維細胞への分化を妨げる血清因子の最初の特性決定では、その因子が、イオン交換カラム(High Q)から4種のタンパク質のうちの1種として溶出されたヘパリン結合性分子であったことが示された。未変性ゲルから切断したバンドのトリプシン処理タンパク質断片の配列決定を行って、3種のタンパク質のうちの1種をC4b結合タンパク質(C4BP)として同定した。C4b結合タンパク質は、7本のα鎖(70kDa)と、通常は1本のβ鎖(40kDa)とからなる570kDaのタンパク質であり、補体系のC4b成分およびC2a成分の衰退の調節に関与する。C4BPは、ビタミンK依存的な抗凝固タンパク質Sとも相互に作用する。C4BP/タンパク質S複合体は、BaCl沈殿法を使用して、血清または血漿から精製することができる。
【0059】
C4BPまたは関連するタンパク質が線維細胞への分化の抑制を司る因子であったかどうかを評価するため、クエン酸血漿をBaCl処理した。抑制因子は、BaC1沈殿中に存在した(図3および表2)。この画分をヘパリンカラムにかけ、画分を徐々に増していく各濃度のNaClで溶離し、無血清培地中で単球の線維細胞への分化を抑制するその能力を評価した。活性因子は、ヘパリンカラムから、200mMのNaCl濃度をピークに溶出された(図3および表2)。収量の若干の増加は、このステップが、この因子の活性を若干妨害する因子を除去したかもしれないことを示唆した。
【0060】
200mMピークの画分をプールし、High Qイオン交換クロマトグラフィーによってさらに分別した。300mMのNaClで溶出される小さなピークが含んでいた活性は、線維細胞の分化を抑制した。この画分に存在するタンパク質を分析すると、主バンドが27kDaのタンパク質であったことが示された。イオン交換クロマトグラフィーにかけると、回収されるSAPの量は減少したものの(図3A、レーン8〜10、および図3D、レーン8〜10)、このステップにより、数種の混入タンパク質が確かに除去された。イオン交換ステップの後、唯一識別できる混入物は65kDaのアルブミンであった(図3A、レーン10)。
【0061】
HighQ画分を濃縮し、非還元性ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動によって分別した後、ゲル切片中の物質を溶離した。約140kDaのところに移動した単一のバンドが、分化を抑制することができた(図3B)。このバンドの分子量は、還元性ポリアクリルアミドゲルでは27kDaであったので、このタンパク質の未変性の構造が五量体であったことが示唆された(図3C)。このバンドをゲルから切除し、トリプシンで消化し、MALDI質量分光測定によって分析した。そこで、大きい方の3種のペプチドと、小さい方の2種のペプチド、すなわち、VFVFPR、VGEYSLYIGR、AYSLFSYNTQGR、QGYFVEAQPK、およびIVLGQEQDSYGGKが同定された。これらの配列は、血清アミロイドPのアミノ酸配列8〜13、68〜77、46〜57、121〜130、および131〜143とぴったり一致した。
【0062】
活性画分がSAPを含んでいたことを確認するため、カラムクロマトグラフィーによって収集した画分をウェスタンブロッティングによって分析した(図3D)。線維細胞への分化を抑制したすべての画分で、SAPの存在が27kDaのところで検出された(図3D、レーン6、8、10、および11)。BaCl沈殿ステップの上清中にかなりの量のSAPが存在したので、この手順の効率が悪いことが示唆され、BaClペレット中には、線維細胞抑制活性の約10〜15%しか回収されなかった(図3A、レーン2)。ウェスタンブロッティングと共に使用するときに抗SAP抗体が免疫グロブリンに結合するという既知の問題を解消するために、この抗体を、アガロースに結合させたヒトIgGと共に予めインキュベートした。画分のCRP、C4BP、およびタンパク質Sの存在についても分析した。ウェスタンブロッティングでは、C4BPおよびタンパク質Sが、血漿中、およびバリウム沈殿物中には存在するが、ヘパリンクロマトグラフィーによって収集した活性画分には存在しないことが示された(データ非表示)。
【0063】
【表2】

【0064】
血漿は、BaCl沈殿法、ヘパリンクロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーによって分別した。タンパク質濃度は、分光光度法によって280nmで評価した。線維細胞の分化の抑制は、形態によって評価した。試料の線維細胞抑制活性は、無血清培地に加えたときに試料が線維細胞への分化を50%抑制した希釈度の逆数であると定義した。
【0065】
SAPは、以下の方法を使用するELISAによって検出することもできる。
Maxisorb96穴プレート(Nalge Nunc International、ニューヨーク州ロチェスター)を、40℃のもと、モノクローナル抗SAP抗体(SAP−5、Sigma)の入った50mMの炭酸ナトリウム緩衝液pH9.5で被覆した。次いで、プレートを、4%のBSAを含有するトリス緩衝食塩水pH7.4(TBS)(TBS−4%BSA)中でインキュベートして、非特異的結合を抑制した。血清および精製タンパク質をTBS−4%BSAで1000倍に希釈して、SAPが凝固しないようにし、37℃で60分間インキュベートした。次いで、プレートを0.05%のTween−20を含有するTBSで洗浄した。TBS−4%BSAで5000倍に希釈したポリクローナルウサギ抗SAP抗体(BioGenesis)を検出用抗体として使用した。洗浄した後、TBS−4%BSAで希釈した100pg/mlのビオチン標識ヤギ(Fab)2抗ウサギ(Southern Biotechnology Inc.)を60分間かけて加えた。ビオチン標識した抗体をExtrAvidinペルオキシダーゼ(Sigma)によって検出した。希釈していないペルオキシダーゼ基質3,3,5,5−テトラメチルベンジジン(TMB、Sigma)を室温で5分間インキュベートした後、1N HClによって反応を停止させ、450nmで読み取った(BioTek Instruments、米バーモント州ウィヌースカ)。アッセイは、200pg/mlまで感度があった。
実施例4
【0066】
血清アミロイドPの特異性
血清アミロイドPは、構成血漿タンパク質であり、ヒトの主要な急性相タンパク質であるCRPと近い関係にある。他の血漿タンパク質も線維細胞への分化を抑制することができるかどうかを評価するため、精製した市販のSAP、CRP、C4b、またはタンパク質Sの存在下、PBMCを無血清培地で培養した。市販のSAPは、非置換アガロースのカルシウム依存的なアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製した。試験したタンパク質のうち、SAPだけが線維細胞への分化を抑制することができ、阻害活性は、1μg/mlで最高に達した(図4)。希釈曲線は、市販のSAPの活性が約6.6×10単位/mgであることを示唆した(図4)。血清および血漿は、30〜50μg/mlのSAPを含有する。線維細胞は、約0.15〜0.25μg/mlのSAPになるはずの0.5%の血漿希釈度で出現し始めたが、これは、精製SAPの閾値濃度に匹敵する。異なる2通りの手順を使用して精製したSAPが、線維細胞への分化を抑制することを示すデータは、SAPが線維細胞への分化を抑制することを強く示唆している。
【0067】
これらのデータは、SAPが線維細胞の発育を抑制し得ることを示唆しており、このことを示す方法でSAPが精製されているが、血漿および血清からSAPを枯渇させると抑制が無効になるかどうかを判定したものではない。アガロースビーズ(BioGel A、BioRad)を使用して、血漿からSAPを枯渇させた。血漿を100mMのトリスpH8、150mMのNaCl、5mMのCaCl緩衝液で20%に希釈し、40℃で2時間、1mlのアガロースビーズと混合した。次いで、遠心分離によってビーズを除去し、この過程を繰り返した。次いで、この枯渇処理した血漿の、線維細胞への分化を抑制する能力を評価した。100mMのトリスpH8、150mMのNaCl、5mMのCaCl緩衝液で20%に希釈した対照血漿の希釈曲線は、未処理の血漿で認められるものと類似していた。対照的に、ビーズで処理した血漿は、中程度の血漿レベルでは線維細胞への分化をそれほど抑制することができなかった。これらのデータ、ならびに精製SAPが線維細胞への分化を抑制できることは、SAPが、線維細胞への分化を抑制する血清および血漿中の活性因子であることを強く示唆している(図5Aを参照のこと)。
【0068】
血漿のSAPの、抗SAP抗体で被覆したタンパク質Gビーズを使用する枯渇処理も行った。SAPを除去すると、血漿の、線維細胞への分化を抑制する能力が、血漿、または対照抗体で被覆したビーズで処理した血漿と比べて有意に低下した(p<0.05)(図5B)。対照抗体で被覆したビーズは、血漿からいくらかの線維細胞抑制活性を除去したが、これは、血漿と共に培養した細胞と有意に異なってはいなかった。このことはおそらく、SAPがタンパク質Gビーズ中のアガロースに結合していることを反映している。これらのデータ、ならびに精製SAPが線維細胞への分化を抑制できることは、SAPが、線維細胞への分化を抑制する血清および血漿中の活性因子であることを強く示唆している。
実施例5
【0069】
抗体およびタンパク質
精製されたヒトCRP、血清アミロイドP、タンパク質S、およびC4bは、Calbiochem(米カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。CD1a、CD3、CD11a、CD11b、CD11c、CD14、CD16、CD19、CD34、CD40、Pan CD45、CD64、CD83、CD90、HLA−DR/DP/DQ、マウスIgM、マウスIgG1、およびマウスIgG2aに対するモノクローナル抗体は、BD Pharmingen(BD Biosciences、米カリフォルニア州サンディエゴ)から得た。ケモカイン受容体抗体は、R and D Systems(米ミネソタ州ミネアポリス)から購入した。ウサギ抗コラーゲンIはChemicon International(米カリフォルニア州テメキュラ)から、モノクローナルC4b結合タンパク質はGreen Mountain Antibodies(米バーモント州バーリントン)から、ヒツジ抗ヒトC4b結合タンパク質はThe Binding Site(英バーミンガム)から、モノクローナル抗CRPはSigma(米ミズーリ州セントルイス)から得た。ポリクローナルウサギ抗タンパク質Sは、Biogenesis(英国ドーセット州プール市)から得た。
実施例6
【0070】
細胞の分離
Ficoll−Paque(Amersham Biosciences、米ニュージャージー州ピスカタウェイ)による400×gでの遠心分離に40分間かけて、バフィーコート(Gulf Coast Regional Blood Center、米テキサス州ヒューストン)から末梢血単各細胞を単離した。magnetic Dynabeads(Dynal Biotech Inc.、米ニューヨーク州レークサクセス)を使用するネガティブ選択を利用して、以前に記載したとおりに、指定された白血球サブセットの枯渇処理を行った。簡潔に述べると、PBMCを一次抗体と共に40℃で30分間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、ヤギ抗マウスIgGで被覆したDynabeadsと共に30分間インキュベートした後、磁気選択によって抗体で覆われた細胞を除去した。この過程を2回繰り返した。ネガティブ選択した細胞の純度は、モノクローナル抗体標識によって判定したところ、決まって98%を超えていた。
実施例7
【0071】
細胞培養および線維細胞分化アッセイ
細胞を、次のような無血清培地、すなわち、10mMのHEPES(GibcoBRL/Life)、2mMのグルタミン、100U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン、0.2%のウシ血清アルブミン(BSA、Sigma)、5μg/mlのインスリン(Sigma)、5μg/mlの鉄で飽和させたトランスフェリン(Sigma)、および5ng/mlの亜セレン酸ナトリウム(Sigma)を補充したRPMI(GibcoBRL Life、Invitrogen、米カリフォルニア州カールスバッド)中でインキュベートした。正常ヒト血清(Sigma)、正常ヒト血漿(Gulf Coast Regional Blood Center)、またはウシ胎児血清(Sigma)、カラム画分、患者の血清および滑液、または精製タンパク質を所定の濃度で加えた。患者試料は、ヒューストンのテキサス大学医学部にある、研究者に開放されている貯蔵所から入手した。この貯蔵所は、患者の情報を守秘し、NIH指針をすべて満たしている。
【0072】
5%のCOを含む加湿インキュベーター中で、体積がそれぞれ2mlまたは200μlの24穴または96穴の組織培養プレート(Becton Dickinson、米ニュージャージー州フランクリンレークス)に入った1mlあたり2.5×10細胞のPBMCを、37℃で指示どおりの時間培養した。小さなリンパ球または付着単球と異なる、引き伸ばされた紡錘型の形態を有する付着細胞として生存培養物中に存在する形態によって、異なる5箇所の直径900μm視野にある線維細胞を数えた。あるいは、細胞を風乾し、メタノール固定し、ヘマトキシリンエオシン染色を施した(Hema3 Stain、VWR、米テキサス州ヒューストン)。上記の判断基準、および楕円形の核の存在を利用して線維細胞を数えた。線維細胞のカウントは、ウェルあたり2.5×10細胞の細胞を平底96穴プレートで6日間培養したものについて行った。さらに、免疫ペルオキシダーゼ染色によって線維細胞の同一性を確認した(以下を参照のこと)。試料の線維細胞抑制活性は、無血清培地に加えたときに試料が線維細胞への分化を50%抑制した希釈度の逆数であると定義した。
実施例8
【0073】
血清タンパク質および血漿タンパク質の精製と特性決定
冷凍ヒト血清もしくは血漿100mlを37℃ですばやく解凍し、1倍「Complete」プロテアーゼ阻害剤(Roche、米インディアナ州インディアナポリス)、1mMのベンズアミジンHCl(Sigma)、および1mMのPefabloc(AEBSF:フッ化4−(2−アミノエチル)−ベンゼンスルホニル塩酸塩、Roche)を加えた。後続のステップはすべて、氷上または4℃で実施した。血漿を、以前に述べたとおりに、クエン酸バリウムに吸着させた。10,000×gで15分間の遠心分離にかけて、沈殿を収集し、100mMのBaClプラス阻害剤20mlに再懸濁し、遠心分離にかけ直した。2回洗浄した後、ペレットを、5mMのEDTAおよび1mMのベンズアミジンHClを含有する10mMのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4に再懸濁して20mlとし、同じ緩衝液4リットルを3回交換しながら24時間かけて透析した。
【0074】
Econo system(Bio−Rad、米カリフォルニア州ハーキュレス)を使用するクロマトグラフィーを行って、流速1ml/分で1mlの試料を収集した。透析処理したクエン酸バリウム沈殿を5ml容Hi−Trap Heparinカラム(Amersham Biosciences)に装入し、280nmでの吸光度が基点に戻るまで、カラムを10mMのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4で十分に洗浄した。結合している材料を、100、200、300、および500mMのNaClを含む10mMのリン酸ナトリウム緩衝液pH7.4各15mlで段階的に勾配をかけて溶離した。単球の線維細胞への分化を阻害した画分は、200mMのNaClで溶出された。これらをプールし(2ml)、5ml容Econo−Pak High Qカラムに装入した。10mMのリン酸緩衝液でカラムを洗浄した後、結合している材料を上記のように段階的な勾配をかけて溶離したが、活性画分は、300mMのNaClで溶出された。
【0075】
Aquacide II(Calbiochem)を使用して、High Qクロマトグラフィーの活性画分を200μlに濃縮し、次いで以前に述べたとおりに4〜20%の未還元性ポリアクリルアミドゲル(BMA、BioWhittaker、米メイン州ロックランド)上に載せた。電気泳動にかけた後、ゲルのレーンを切断して5mmの切片とし、1mMのベンズアミジンHClを含有する200μlの20mMリン酸ナトリウム、150mM NaCl、5mM EDTA pH7.4と混合し、エッペンドルフ試験管に入れて小さな乳棒で砕き、4℃で3日間転倒型ミキサーに入れておいた。ゲルから溶出されたタンパク質の活性を分析した。アミノ酸配列を得るため、ゲル切片から溶出されたタンパク質を、100μMのチオグリコール酸を含む上部チャンバー(Sigma)中の4〜20%のゲル上に載せた。電気泳動にかけた後、ゲルを直ちにクーマシーブリリアントブルーで染色し、脱染色し、ゲルからバンドを切除した。アミノ酸の配列決定は、Baylor College of Medicine、免疫学科、Protein Sequencing FacilityのRichard Cook博士が行った。
実施例9
【0076】
ウェスタンブロッティング
ウェスタンブロッティングについては、血漿および血清試料を10mMのリン酸ナトリウムpH7.4で500倍に希釈した。ヘパリンカラムおよびHigh Qカラムからの画分は希釈しなかった。試料を、20mMのDTTを含有するLaemmeli試料緩衝液と混合し、5分間かけて100℃に加熱した。試料を4〜20%のトリス/グリシンポリアクリルアミドゲル(Cambrex)上に載せた。未変性ゲル用の試料は、DTTまたはSDSなしで分析した。タンパク質を、20%のメタノールを含有するトリス/グリシン/SDS緩衝液中のPVDF(Immobilon P、Millipore、米マサチューセッツ州ベッドフォード)膜に移した。フィルターを、4℃で18時間かけて、5%のBSA、5%の無脂肪乳タンパク質、および0.1%のTween20を含有するトリス緩衝食塩水(TES)pH7.4でブロックした。所定の最適希尺度(データ非表示)を使用して、一次抗体およびビオチン標識二次抗体を、5%のBSA、5%の無脂肪乳タンパク質、および0.1%のTween20を含有するTBS pH7.4で60分間かけて希釈した。5%のBSAおよび0.1%のTween20を含有するTBS pH7.4で希釈したExtrAvidinペルオキシダーゼ(Sigma)を使用してビオチン標識抗体を同定し、化学発光法(ECL、Amersham Biosciences)を使用して結果を可視化した。
実施例10
【0077】
免疫組織化学
ガラス製8穴顕微鏡スライド(Lab−Tek、Nalge Nunc International、米イリノイ州ネーパーヴィル)上で培養した細胞を風乾した後、15分間アセトン固定した。内発性のペルオキシダーゼを0.03%のHで15分間かけて失活させ、次いで、2%のPBS中BSAの中で60分間インキュベートして非特異的結合をブロックした。スライドを、2%のBSAを含有するPBS中の一次抗体を加えて60分間インキュベートした。アイソタイプを一致させた、関連性のない抗体を対照として使用した。次いで、スライドを15分間かけてPBSで3回洗浄し、ビオチン標識ヤギ抗マウスIg(BD Pharmingen)と共に60分間インキュベートした。洗浄した後、ExtrAvidinペルオキシダーゼ(Sigma)によってビオチン標識抗体を検出した。染色の発色は、DAB(ジアミノベンジジン、Sigma)で3分間かけて行い、マイヤーのヘマラム(Sigma)で30秒間の対比染色を行った。
実施例11
【0078】
線維細胞上の表面マーカーの発現
8穴スライドガラスのウェルに入った無血清培地中で、1mlあたり(1ウェル400μl)2.5×10細胞のPBMCを6日間培養した。次いで、細胞を風乾し、アセトン固定し、免疫ペルオキシダーゼ染色を施した。細胞は、アイソタイプを一致させた対照抗体と比較して、示される抗原を陽性または陰性で記録した。
実施例12
【0079】
分別にかけたヒト血漿からのタンパク質および線維細胞抑制活性の回収
血漿は、BaCl沈殿法、ヘパリンクロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーによって分別した。タンパク質濃度は、吸光分光分析によって280nmで評価した。線維細胞への分化の抑制は、形態によって評価した。試料の線維細胞抑制活性は、無血清培地に加えたときに試料が線維細胞への分化を50%抑制した希釈度の逆数であると定義した。
実施例13
【0080】
高EEOアガロース帯具を用いるラットの創傷治癒試験
本発明の一適用例は、小さな切傷や手術による切開などの小さな創傷、ならびに糖尿病性潰瘍などの慢性の潰瘍の治療に関する。これらおよび類似の適用例のために開発された治療は、より大きな創傷およびより重症の問題の治療に向けて容易に変更することもできる。
【0081】
創傷治癒ではSAPの局所的な枯渇が重要であり、上述のものなどの実験によって、SAPが、当業界で高EEOアガロースとして知られている、ある種類のアガロースに特によく結合することが明らかになった。この結合が、カルシウムの存在によって影響を受けることも確定した。
【0082】
カルシウム/アガロース帯具が創傷治癒に及ぼす影響を試験するため、麻酔をかけた3匹のラットの背中に、皮膚の層を完全に貫通する4cmの創傷を設けた(図6を参照のこと)。創傷からの出血はほとんどなかった。1匹のラットは、1mlの生理食塩水(0.9%w/vの水中NaCl)で軽くぬらした4×4ガーゼ帯具(Topper4x4スポンジガーゼ、Johnson & Johnson、米ニュージャージー州スキルマン)のみで処置した。このガーゼの層を乾いた4×4ガーゼ帯具で覆い、いく層かのVetwrap(登録商標)(3M Animal Care Products、米ミネソタ州セントポール)をラットの胴体に巻きつけて、これらのガーゼを定位置に保持した。2番目のラットは、最初の層を生理食塩水/5mMのCaCl(1ml)で軽くぬらした、同様の帯具で処置した。
【0083】
3番目のラットは、アガロース/CaCl帯具で処置した。この帯具の最初の層を準備するため、0.2gの高EEOアガロース(電気泳動グレードの高EEOアガロース 製品番号BP−162、Fisher Scientific、米ニュージャージー州フェアローン)は、50ml容ポリプロピレン試験管(Falcon、Becton Dickinson、米ニュージャージー州フランクリンレークス)中の溶液を、混合物が沸騰し始めるまで電子レンジで加熱することによって、上述の生理食塩水/CaCl溶液20mlに溶解させた。かき回してアガロースを溶解させた後、1mlの熱い混合物を4×4ガーゼ帯具上に注ぎ、1枚のサランラップ(登録商標)の上に平らに置いておいた。アガロース−CaCl−生理食塩水を含浸させたガーゼ帯具を冷ました。次いで、これを3番目のラットの帯具の最初の層として使用した。2枚目の層の乾いたガーゼおよびVetwrap(登録商標)のカバーを、初めの2匹のラットで行ったように適用した。
【0084】
麻酔、創傷処置、および帯具装着の間の時間の差を最小限に抑えるために、各ラットの麻酔、写真撮影、および帯具装着は別々に行った。
【0085】
24時間後、ラットを軽く麻酔し、秤量し、次いで帯具を外し、創傷の写真撮影を行った(図7を参照のこと)。次いで、最初と同じ組成の新しい帯具を各ラットに適用し直した。さらに24時間後、この過程を繰り返して、さらに写真を撮った(図8を参照のこと)。
【0086】
アガロース/CaCl帯具で処置したラットは、他の2匹のラットのどちらよりもかなり急速な創傷治癒を示した(図8Bを参照のこと)。
【0087】
この実施例ではアガロース帯具を1日ごとに適用し直したが、本発明の他の実施形態では、アガロース帯具を最初、または最初と1日目くらいだけ適用し、その後、創傷がほぼ閉じたなら乾いた帯具を適用してもよい。創傷が閉じたら、アガロースのSAP吸収能力は、限られるといえる。閉じた創傷が、乾燥させる環境の恩恵を得ることもできる。
【0088】
この実施例では水和したアガロースを使用したが、それほど水和していないアガロースを含む帯具および他の製剤を利用することも可能である。アガロースは、創傷自体から漏れ出る血清によって湿り気を得ることができる。
【0089】
本発明の局所用アガロース調製物は、創傷の浄化および創傷治癒の促進を可能にするため、防腐剤を使用して調製してもよい。特定の実施例では、最初に創傷を浄化し、次いで時間と共に蒸発することのできるアルコールを加えたアガロースを調製してもよい。
実施例14
【0090】
局所の創傷治癒実施形態で使用する追加因子
上記のアガロース帯具は、創傷治癒の促進に実に有効であることがわかったが、認められた作用は、帯具または他の局所用アガロース製剤に他の創傷治癒因子を加えることによって多分に促進できそうである。そのような因子には、小分子やポリペプチドなどの任意の化合物または組成物が含まれ得る。
【0091】
特に、これらの因子は、別途の創傷治癒経路に影響を及ぼしてもよく、または線維細胞形成経路に影響を及ぼしてもよい。またこれら因子は、SAPとは異なる方法で線維細胞形成経路に影響を及ぼしてもよく、またはSAPと類似の機序によってそれに影響を及ぼす、例えば、アガロース製剤中の抗体がさらにSAPを結合し、失活させてもよい。
【0092】
その一部が創傷治癒にも作用する、他の諸問題に対処する因子を含めることもできる。例えば、血友病患者向けのアガロース帯具は、創傷からの出血を止め、または防ぐために凝固因子をさらに含んでよい。
【0093】
特定の実施形態では、IL−4および/またはIL−13をアガロース製剤に含めることができる。両者とも線維性応答の強力な賦活物質である。IL−4は、創傷の修復および治癒において役割を担うことが以前から述べられている。
【0094】
実験は、IL−4およびIL−13がin vitroで線維細胞への分化を促進し得ることを示した。詳細には、IL−4またはIL−13の存在下、末梢血単核細胞を無血清培地で培養した。10〜0.1ng/mlのIL−4もしくはIL−13濃度が、培養中の線維細胞数を増大させた(図9を参照のこと)。このことは、IL−4およびIL−13が、線維細胞前駆体の成熟線維細胞への分化を促進し得ることを示唆している。したがって、IL−4および/またはIL−13をさらに含有する上述のような帯具または他の局所用アガロース製剤は、創傷治癒の更なる促進を示すことが予想される。
【0095】
上述のようなアガロース帯具もしくは局所用製剤に加えることのできる他の因子、または模倣される生理的条件には、
SAPに結合することがわかっている分子、すなわち、
コラーゲンIV、
ラミニン、
フィブロネクチン、
C4BP、
凝集したIgGのFc、
CD16、CD32、およびCD64:Fc受容体、
ヘパリン、
LPS、
アポトーシス細胞、特にクロマチンおよびDNA、
ザイモザン
が含まれる。
【0096】
SAP結合に関係のある生理的条件は、
SAPが、例えば血清アミロイドA(SAA)、免疫グロブリン軽鎖、β2ミクログロブリン、トランスチレチン、および神経原線維濃縮体から生成したアミロイド線維へのカルシウム依存的な結合を示すこと、
SAPが、ガラクトースのピルビン酸アセチルが発現されるため、また細菌表面上の他の糖のために細菌表面に結合すること
である。
【0097】
SAPは、「人工」リガンドの高EEOアガロースおよびホスホエタノールアミン−アガロースに、また低い親和性でホスホコリン−セファロースに結合する。これらの特徴をもとに、血清または血漿からSAPを精製する2通りの手段が生まれる。第1に、SAPは、高EEOアガロースに、アガロース調製物の副次的な成分である−ガラクトースのピルビン酸アセチルを介して結合させることができる。第2に、SAPをホスホエタノールアミン−アガロースに結合させることができ、これは、現在当業界で好まれているSAP精製法である。したがって、帯具または局所用製剤にホスホエタノールアミン−アガロースを使用することができる。
【0098】
本発明の単に例示的な実施形態を上で詳述しているが、本発明の真意および意図する範囲から逸脱することなく、これら実施例の変更形態および変形形態が考えられることは承知されよう。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】線維芽細胞様細胞への急速な分化に対する血清および血漿の影響を示す図である。 図1Aでは、無血清培地で、1mlあたり2.5×10の末梢血単核細胞(PBMC)を、0.1%のヒト血清の存在下または不在下で3または6日間培養し、次いで、線維芽細胞様細胞が出現したかどうか顕微鏡で調べた。帯は100μmである。 図1Bでは、無血清培地で、1mlあたり2.5×10のPBMCを、ヒト血漿の希釈物中で6日間培養した。次いで、細胞を風乾し、固定し、染色し、形態によって線維細胞を数えた。結果は、2.5×10PBMCあたりの線維細胞数の平均±SDとして示す(n=5実験)。星印は、0SAP値からの統計学的有意差がある値を示す。
【図2】線維芽細胞様細胞上の表面分子の発現を示すグラフである。PBMCを、スライドガラス上の無血清培地で6日間培養した。細胞を風乾し、免疫組織化学によって分析した。使用したモノクローナル抗体は、表示したとおりであり、ビオチン結合ヤギ抗マウスIg、次いでExtrAvidinペルオキシダーゼによって同定した。細胞にマイヤーヘマトキシリンで対比染色を施して、核を確認した。陽性の染色は、褐色の染色によって確認したが、核は、青色に対比染色される。CD83への書き込みは、樹状細胞への陽性染色を示すために用いた。
【図3】血漿中に存在する、線維細胞への分化を抑制する分子の特性決定を示す図である。クエン酸血漿をBaCl2で処理し、沈殿した物質を遠心分離によって収集し、10mMのEDTAおよびプロテアーゼ阻害剤を含有する10mMのリン酸ナトリウムを用いて透析した。次いで、この物質をヘパリンクロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーによって分別した。 図3Aでは、画分を4〜20%の変性ゲル上でのPAGEによって分析し、クーマシーブルーで染色した。Mは、分子量マーカーを示す。レーン1は血漿を含み、レーン2はBaCl上清を含み、レーン3は洗液1を含み、レーン4は洗液2を含み、レーン5はBaCl沈殿を含み、レーン6はBaCl沈殿を含み、レーン7はヘパリン通過物を含み、レーン8はヘパリン画分を含み、レーン9はHigh Q通過物を含み、レーン10はHigh Q画分を含み、レーン11はゲル精製された画分を含んでいた。レーン1〜5は、リン酸ナトリウム緩衝液で500倍に希釈し、レーン6〜11は希釈しなかった。 High Qイオン交換カラムから溶出された活性画分およびゲル切片を、図3Bでは未変性ゲル上、図3Cでは変性ゲル上での4〜20%PAGEによって分析した。NMは未変性ゲルマーカーを示し、RMは変性ゲルマーカーを示し、図3Bではレーン1〜3が対照ゲル試料であり、レーン4が活性画分を含んでいた。図3Dでは、ウサギ抗SAP抗体を使用して、画分をウェスタンブロッティングによって評価した。レーン1〜11は、図3Aと対応している。
【図4】線維細胞の生成がSAPによって抑制され、CRPまたは他の血漿タンパク質によっては抑制されないことを示すグラフである。無血清培地で、1mlあたり2.5×10のPBMCを、精製した市販のSAP(黒四角)、CRP(白四角)、タンパク質S(白ひし形)、またはC4b(白丸)の存在下で6日間培養し、次いで、線維芽細胞様細胞が出現したかどうかを調べた。次いで、細胞を風乾し、固定し、染色し、形態によって線維細胞を数えた。結果は、2.5×10のPBMCあたりの線維細胞の平均±SDである(n=3通りの独立した実験)。
【図5】線維細胞分化アッセイにおける血漿からのSAPの除去の影響を示すグラフである。 図5Aは、BioGelアガロースビーズを用いての血漿からのSAPの除去が線維細胞への分化に及ぼす影響を示す。様々な希釈度の血漿(白四角)またはBioGelによって枯渇処理した血漿(黒四角)を供給したアッセイで見られた線維細胞の数を示す。 図5Bは、血漿なし、または等希釈度の血漿、BioGel SAP枯渇処理血漿、もしくは抗SAP抗体枯渇処理血漿を用いて実施したアッセイで生成した線維細胞の数を示す。星印は、統計学的有意差を示す。
【図6】生理食塩水、CaCl添加生理食塩水、または生理食塩水およびCaCl添加アガロースで処置することになる、異なる3匹のラットの最初の皮膚切開部を示す写真である。
【図7】図6で示した皮膚切開部の治癒を示す写真である。図7Aは、生理食塩水、CaCl添加生理食塩水、または生理食塩水およびCaCl添加アガロースで処置してから1日後の、異なる3匹のラットの皮膚切開部の治癒を示す。図7Bは、異なる3匹のラットの最初の皮膚切開部と、生理食塩水、CaCl添加生理食塩水、または生理食塩水およびCaCl添加アガロースで処置してから1日後の治癒との比較を示す。
【図8】ラットの皮膚切開部の治癒を示す写真である。図8Aは、生理食塩水、CaCl添加生理食塩水、または生理食塩水およびCaCl添加アガロースで処置してから2日後の、異なる3匹のラットの皮膚切開部の治癒を示す。図8Bは、異なる3匹のラットの最初の皮膚切開部と、生理食塩水、CaCl添加生理食塩水、または生理食塩水およびCaCl添加アガロースで処置してから1日後および2日後の治癒との比較を示す。
【図9】様々なサイトカインが線維細胞への分化の促進に及ぼす作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物において創傷治癒を促進する方法であって、
SAPを含む創傷を有する哺乳動物に、SAPを枯渇させ、またはSAP活性を抑制するように作用することのできる組成物を供給することを含み、
単球から線維細胞への分化を抑制するSAPの能力を、抑制するのに十分な量と時間の長さとで、前記組成物を供給する方法。
【請求項2】
前記創傷中に存在する線維細胞数を増加させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記創傷中のSAPを枯渇させ、またはSAP活性を抑制することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が、CPHPC、β−D−ガラクトピラノースの4,6−ピルビン酸アセチル、エタノールアミン、ホスホエタノールアミン、抗SAP抗体またはその断片、およびこれらの組合せからなる群から選択された組成物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
試料中に存在する線維細胞の数を増加させる方法であって、
単球およびSAPを含む試料に、SAPを枯渇させ、またはSAP活性を抑制するように作用することのできる組成物を供給し、
単球から線維細胞への分化を抑制するSAPの能力を、抑制するのに十分な時間の長さとで前記組成物を供給するステップと、
前記試料中のSAPを枯渇させ、またはSAP活性を抑制するステップと、
前記試料中に存在する線維細胞の数を増加させるステップと
を含む方法。
【請求項7】
哺乳動物中にある前記試料をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物がCPHPCを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記哺乳動物に約0.15〜15mg/kg/日の量のCPHPCを投与するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物がβ−D−ガラクトピラノースの4,6−ピルビン酸アセチルを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物がホスホエタノールアミンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が高EEOアガロースおよびCa2+を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が抗SAP抗体またはその断片を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
アガロースを含み、前記アガロースが哺乳動物の創傷治癒を促進することのできる創傷包帯剤。
【請求項15】
高EEOアガロースをさらに含む、請求項14に記載の創傷包帯剤。
【請求項16】
カチオンをさらに含む、請求高15に記載の創傷包帯剤。
【請求項17】
約1%(w/v)の高EEOアガロースおよび約5mMのCaClをさらに含む、請求項16に記載の創傷包帯剤。
【請求項18】
ホスホエタノールアミンおよびCa2+をさらに含む、請求項14に記載の創傷包帯剤。
【請求項19】
追加の創傷治癒因子をさらに含む、請求項14に記載の創傷包帯剤。
【請求項20】
前記の追加の創傷治癒因子が、IL−4、IL−13、FGF、TGFβ、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項19に記載の創傷包帯剤。
【請求項21】
0.1〜10ng/mlの濃度のIL−13をさらに含む、請求項14に記載の創傷包帯剤。
【請求項22】
0.1〜10ng/mlの濃度のIL−4をさらに含む、請求項14に記載の創傷包帯剤。
【請求項23】
帯具をさらに含む、請求項14に記載の包帯剤。
【請求項24】
薬剤の線維細胞形成促進能の検出方法であって、
単球を含む試料に既知の濃度の薬剤を供給して、試験混合物を形成するステップと、
前記試験混合物を約48〜72時間インキュベートするステップと、
線維細胞の存在について前記試験化合物を調べるステップと
を含み、
異常に多数の線維細胞の存在が、既知の濃度の前記薬剤が単球の線維細胞への分化を促進できることを示す方法。
【請求項25】
前記薬剤が潜在的な薬物を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記薬剤が患者からの生体液を含む、請求項25に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−511586(P2006−511586A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564024(P2004−564024)
【出願日】平成15年12月22日(2003.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2003/041183
【国際公開番号】WO2004/059318
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(505226389)ウイリアム、マーシュ、ライス、ユーニヴァーサティ (3)
【Fターム(参考)】