説明

緩衝部材、軸連結構造体、及び一軸偏心ねじポンプ

【課題】出力軸と受動軸とを軸心のズレやがたつきが生じないように容易に連結可能であると共に、一方の軸から他方の軸に向けて外力が直接的に作用することや、熱伝導や熱膨張による影響が生じることを抑制可能な緩衝部材、及び当該緩衝部材を備えた一軸偏心ねじポンプの提供を目的とした。
【解決手段】緩衝部材82は、出力軸70aとドライブシャフト56との間に介挿され、両軸を連結可能なものである。緩衝部材82は、樹脂製であって筒状の緩衝部材本体84と、結合手段90とを有している。緩衝部材本体84は、ドライブシャフト56の端部に設けられた緩衝部材内挿部56aに内挿することにより、ドライブシャフト56と嵌合結合された状態になる。また、緩衝部材本体84に設けられた内挿部88に出力軸70aを内挿し、結合手段90をなすキー92をキー溝70bに係合させることにより、出力軸70aと緩衝部材本体84とが連結された状態になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータなどの駆動機からの出力に応じて回動する出力軸と、これに接続される受動軸との間に介挿される緩衝部材、当該緩衝部材を備えた軸連結構造体、及び当該軸連結構造体を備えた一軸偏心ねじポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されている一軸偏心ねじポンプなどにおいては、モータ等によって構成される駆動機の出力軸に対してポンプ本体(受動機)側に設けられた受動軸を接続する際に、「焼き嵌め」と称される方法等により接合されている。焼き嵌めによる接合は、加熱状態において出力軸及び受動軸のうち一方の端部に対して他方を挿入し、膨張あるいは収縮させることにより行われる。このようにして接合することにより、軸心にズレが無くがたつかない状態となるように両軸を接合することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−56715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した焼き嵌めにより出力軸と受動軸とを接合する場合は、メンテナンスなどのために出力軸と受動軸とを分離させるために接合部分を加熱せねばならず、相当の手間や専用の設備などを必要とするという問題がある。また、受動軸側から軸方向(アキシャル方向)に外力が作用すると、出力軸やモータ等の駆動機などに対して外力が直接的に作用し、駆動機の故障などの原因になりかねないという問題がある。さらに、焼き嵌めによって接合を行った場合は、出力軸及び受動軸の一方側から他方側に、熱伝導や熱膨張による何らかの影響が生じる可能性があるという問題がある。
【0005】
また、出力軸と受動軸とをいわゆる「キー結合」により連結する方策も考え得るが、このような連結方法によって単に接続しただけでは、両軸の軸心にズレやがたつきが生じるおそれがあるという問題がある。さらに、キー結合により両軸を直接的に連結した場合は、金属同士が接触することになるため、フレッティング摩耗などの問題が生じる可能性もある。
【0006】
加えて、上述した従来技術の一軸偏心ねじポンプでは、受動機(ポンプ本体)側で生じるラジアル荷重やスラスト荷重を駆動機内部に設けられているベアリングによって受け止める構造とされている。そのため、大きな負荷が発生する場合には、ベアリングの負荷容量が不足することがあり、場合によっては特殊な駆動機や大型の駆動機を選定する必要がある。
【0007】
また、従来技術で採用されている構造の場合は、駆動機が無ければ受動軸を保持するもの(ベアリング等)が無いため、駆動機のみの交換であっても受動機側から分解するか、何らかの治工具で受動軸を一時的に支持する必要がある。そのため、メンテナンスに要する時間が長くなくなることや、分解作業を行う上での注意すべき事項が多くなりメンテナンスが煩雑なものとなることが想定され、実用上の支障をきたす場合もある。具体的には、例えば使用者自身でメンテナンス出来ない等の支障が想定される。
【0008】
また、受動機側で生じる大きな負荷を受けるために、受動軸をベアリングで回転支持することも可能である。しかしながら、このような構成とした場合に受動軸と駆動軸とを隙間やあそびが無いような状態で強固に締結すると、受動機側と駆動機側に備えられるベアリングが実質一軸で連結され、いわゆる3点支持や4点支持の状態となる。このような状態になると、軸やベアリングの取り付けにわずかなズレ等が存在するだけで軸自体やベアリング自体に過度な負担が作用することとなり、機械設計上の問題が生じる可能性もある。
【0009】
上述したような理由から、受動機側にベアリングを設ける場合は、駆動軸と受動軸との軸締結には隙間やあそびを設けた方が良いとの考えもあるが、隙間を設ける場合には互いの軸が回転中に微動接触するため、フレッティング現象を起こし、フレッティング・コロージョンあるいは、フレッティング摩耗が発生する。これらがある程度進行すると、前者の場合は受動軸が駆動軸から外れなくなり、後者の場合は軸がガタつきメカニカルシールやリップシールなどの軸封の破損や、異常振動の要因となりうる。
【0010】
上述したフレッティング・コロージョンやフレッティング摩耗の抑制は、機械設計上、非常に難しい問題であり、種々の対策がとられている。例えば、軸側及び穴側に潤滑油を塗布し組み立てる対策や、軸側及び穴側の接触面に表面処理を施す対策、軸及び穴をそれぞれ消耗部品とみなし定期的に交換もしくは交換可能な構造とする対策等がとられている。しかし、これらの対策を講じたとしても、十分な効果が得られず、本質的な改善とならないという問題がある。
【0011】
そこで本発明は、出力軸と受動軸とを軸心のズレやがたつきが生じないように容易に連結可能であり、一方の軸から他方の軸に向けて外力が直接的に作用することや、熱伝導や熱膨張による影響が生じるのを抑制可能であると共に、過剰性能の駆動機を選定するのを回避可能な緩衝部材、及び当該緩衝部材を備えた一軸偏心ねじポンプの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の緩衝部材は、駆動機側に設けられた出力軸と、前記駆動機側から動力が伝達されることにより作動する受動機側に設けられた受動軸の間に介挿され、前記出力軸及び前記受動軸を軸方向に連結可能なものである。本発明の緩衝部材は、樹脂製であって筒状の緩衝部材本体と、結合手段とを有し、前記出力軸及び前記受動軸の一方を軸A、他方を軸Bとしたときに、前記緩衝部材本体が、前記軸Aの端部に内挿することにより前記軸Aとトルク伝達可能なように嵌合結合可能であるとともに、前記軸Bの端部を内挿可能な内挿部を備えたものであり、前記結合手段が、前記内挿部に内挿された前記軸B及び前記緩衝部材本体を一体的に回転可能なように結合させるものである。
【0013】
本発明の緩衝部材は、前記緩衝部材本体が、前記軸Aと隙間嵌めの状態で嵌合結合するものであることが好ましい。
【0014】
本発明の緩衝部材は、前記緩衝部材本体を軸方向に内挿可能な緩衝部材内挿部を端部に有し、前記緩衝部材内挿部の内周面に軸方向に延びる嵌合溝が形成された軸Aに対して内挿されるものであり、前記緩衝部材本体の外周面に、軸方向に延び、径方向外側に向けて突出した嵌合山が形成されており、前記緩衝部材内挿部に内挿することにより、前記嵌合山と前記嵌合溝とがトルク伝達可能なように嵌合結合された状態になるものとすることが可能である。
【0015】
同様の課題を解決すべく提供される本発明の軸連結構造体は、駆動機側に設けられた出力軸と、受動機側に設けられた受動軸と、上述した本発明の緩衝部材とを有するものである。本発明の軸連結構造体では、前記出力軸及び前記受動軸の一方を軸A、他方を軸Bとしたときに、前記軸Aの端部に前記緩衝部材本体が内挿され、前記軸Aと緩衝部材本体とがトルク伝達可能なように嵌合結合されており、前記軸Bの端部が前記緩衝部材本体に形成された内挿部に内挿され、前記結合手段により前記軸B及び前記緩衝部材本体が結合されている。
【0016】
本発明の軸連結構造体は、受動軸が、少なくともスラスト荷重を受けることが可能な軸受によって回転可能なように支持されていることが好ましい。
【0017】
本発明の軸連結構造体は、軸Aの端部に、緩衝部材本体を軸方向に内挿可能な緩衝部材内挿部が設けられており、前記緩衝部材本体の外周面に、軸方向に延び、径方向外側に向けて突出した嵌合山が形成されており、前記緩衝部材内挿部の内周面に、前記嵌合山と嵌合可能であって軸方向に延びる嵌合溝が形成されたものであってもよい。また、本発明の軸連結構造体は、結合手段を、キー及びキー溝によって構成することが可能である。
【0018】
本発明の一軸偏心ねじポンプは、回転動力を発生させることが可能な駆動機と、前記駆動機から入力された回転動力を伝達するための動力伝達機構部と、前記動力伝達機構部を介して伝達された回転動力により駆動されて偏心回転する雄ねじ型のロータと、前記ロータを挿通可能であり、内周面が雌ねじ型に形成されたステータとを備えている。本発明の一軸偏心ねじポンプは、前記駆動機に設けられた出力軸と、前記動力伝達機構部に設けられた受動軸とが、上述した本発明の軸連結構造体によって連結されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の緩衝部材を出力軸及び受動軸とは別に準備し、これらの軸を連結することとすれば、出力軸と受動軸とを容易に分離及び連結させることが可能となる。特に、検査やメンテナンスのために駆動機を受動機側から取り外す作業や、駆動機を受動機側に接続する作業が容易になる。また、本発明の緩衝部材を消耗部品や交換部品とすることにより、出力軸や受動軸を傷付けることなく連結や分解などの作業を実施することが可能となり、ランニングコストの削減などに資することが可能となる。
【0020】
また、本発明の緩衝部材は、緩衝部材本体が樹脂製であり、これが出力軸や受動軸の間に介在した状態とされる。そのため、出力軸や受動軸が金属製のものであっても、両者の直接的な接触を回避し、いわゆるフレッティング摩耗などのような摩耗現象や、これに伴う破損、フレッティング・コロージョンの発生などの問題を解消することができる。さらに、緩衝部材本体を樹脂製とすることにより、出力軸及び受動軸の一方側の軸から軸方向に衝撃力や振動が作用したとしても、これらを緩衝部材本体において受け止め、場合によっては緩衝部材本体自体が破損することにより、他方側の軸に対して軸方向に大きな外力が作用するのを防止することができる。すなわち、本発明の緩衝部材は、いわゆるクラッシャブル・エレメントとしての機能を発揮し、軸方向に作用する衝撃力や振動を弾性吸収し、緩和させることができる。
【0021】
本発明の緩衝部材は、緩衝部材本体が樹脂製であり、金属よりも熱伝導性が低い。従って、出力軸及び受動軸のいずれか一方側から他方側への伝熱を本発明の緩衝部材によって抑制することが可能であり、伝熱による駆動機の不具合のような副次的な問題の発生も防止することができる。
【0022】
また、本発明の緩衝部材が緩衝部材本体と軸Aとが隙間嵌め(遊動嵌合)の状態で嵌合結合するものである場合は、駆動機と受動機とを容易に分離させることが可能である。そのため、本発明の緩衝部材を駆動機及び受動機の軸締結に用いれば、駆動機単体のメンテナンスや点検等が非常に実施しやすくなる。
【0023】
本発明の軸連結構造体は、駆動機側に設けられた出力軸と受動機側に設けられた受動軸とを緩衝部材によって連結したものであり、上述したように緩衝部材がクラッシャブル・エレメントとして機能するため、消耗・交換部位を容易に特定することができる。また、緩衝部材は、軸A,Bに対して容易に着脱し得る。従って、本発明の軸連結構造体は、緩衝部材を消耗部品や交換部品として使用することが可能であり、メンテナンスに要する手間やランニングコストなどを最小限に抑制することが可能である。
【0024】
また、本発明の軸連結構造体において採用されている緩衝部材は、緩衝部材本体が樹脂製であるため、出力軸や受動軸(軸A,B)として金属製のものが採用された場合であっても、フレッティング摩耗や、フレッティング・コロージョンの発生等の摩耗に伴う副次的な問題を防止することができる。さらに、緩衝部材本体が樹脂製であるため、出力軸及び受動軸(軸A,B)の一方側の軸から他方側の軸に衝撃力や振動が直接的に伝達されるのを緩和することが可能である。また、緩衝部材が軸A,B間に介在しているため、軸A,Bの一方側から他方側への伝熱や、伝熱に伴う副次的な不具合を防止することができる。
【0025】
本発明の軸連結構造体は、軸Aの端部に緩衝部材内挿部が設けられており、この内周面には嵌合溝が軸方向に延びるように形成されている。また、緩衝部材本体の外周面には、軸方向に延び、径方向外側に向けて突出した嵌合山が形成されており、前記緩衝部材内挿部に緩衝部材本体を軸方向に内挿することにより、嵌合山と嵌合溝とを嵌合した状態とすることができる。このようにして軸A,Bを連結することにより、軸Aと緩衝部材とをトルク伝達可能なように連結することが可能であると共に、軸Aと緩衝部材との間に軸方向への遊びを持たせることが可能である。
【0026】
本発明の軸連結構造体は、受動軸が少なくともスラスト荷重を受けることが可能な軸受によって回転可能なように支持されている場合は、受動機側から駆動機側に向けて作用する軸方向に作用する衝撃力や振動を軸受によって受け止めることが可能であり、駆動機に内蔵されている軸受の許容負荷を考慮する必要がない。従って、本発明の軸連結構造体によって駆動軸及び受動軸を連結することとすれば、負荷を考慮して過剰性能の駆動機を選定する必要がなくなる。また、軸受によって受動軸が支持されているため、駆動機と受動機とを切り離す作業を行う際に受動軸を支えるための治工具を準備する等の必要がなく、メンテナンスに要する手間や時間を最小限に抑制できる。
【0027】
また、本発明の軸連結構造体は、結合手段をキー及びキー溝によって構成されたものとすることにより、簡易な構成でありながら軸Bと緩衝部材本体とが一体的に回転可能なように結合させることが可能となる。
【0028】
本発明の一軸偏心ねじポンプは、駆動機に設けられた出力軸と、動力伝達機構に設けられた受動軸とが、上述した軸連結構造体によって連結されているため、出力軸と受動軸とをトルク伝達可能なように容易に連結可能である。また、本発明の一軸偏心ねじポンプは、軸連結構造体に用いられている緩衝部材を出力軸及び受動軸の連結用に用いる消耗部品あるいは交換部品として用いることが可能であり、消耗・交換部位を特定可能となるためランニングコストを抑制することが可能である。
【0029】
本発明の一軸偏心ねじポンプでは、緩衝部材をなす緩衝部材本体が樹脂製であるため、フレッティング摩耗の問題や、これに付随する問題、具体的にはフレッティング・コロージョンの発生等のような副次的な問題が発生しにくい。また、流動物を輸送することにより発生する反力などの影響により軸方向への衝撃力や運転中の振動が作用したとしても、この衝撃力や振動を樹脂製の緩衝部材本体により弾性吸収して受け止め、軽減させることが可能である。さらに、緩衝部材本体が樹脂製であるため、受動軸と出力軸との間における伝熱が中間に設けられた緩衝部材によって緩和される。従って、駆動機側において発生した熱が出力軸や受動軸を介して輸送されている流動物に伝達する現象や、これとは逆に流動物側から駆動機側に伝熱する現象を抑制することができる。これにより、流動物が熱変性してしまうことや、駆動機が故障してしまうこと等、出力軸及び受動軸を介した伝熱に起因して想定される懸念を確実に解消しうる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る一軸偏心ねじポンプの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る緩衝部材を構成する緩衝部材本体を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る軸連結構造体を示す分解斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る軸連結構造体を示す断面図である。
【図5】図4に示す軸連結構造体の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
続いて、本発明の一実施形態に係る一軸偏心ねじポンプ10、軸連結構造体80、及び緩衝部材82について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、一軸偏心ねじポンプ10は、軸連結構造体80及び緩衝部材82に特徴を有するものであるが、以下の説明ではこれらの説明に先立って全体構造について説明する。
【0032】
≪一軸偏心ねじポンプ10の全体構造について≫
一軸偏心ねじポンプ10は、いわゆる回転容積型のポンプである。一軸偏心ねじポンプ10は、図1に示すように、ケーシング12の内部にステータ20や、ロータ30、動力伝達機構部50などが収容され、ケーシング12の外部に取り付けられた駆動機70(駆動機)から伝達される動力により作動可能とされている。すなわち、一軸偏心ねじポンプ10は、ケーシング12側の部分が駆動機70から動力を受けて作動する受動機11を構成するものであり、駆動機70と受動機11とが軸方向(アキシャル方向)に軸連結された構成とされている。
【0033】
ケーシング12は、金属製で筒状の部材あり、長手方向一端側に取り付けられた円板形のエンドスタッド12aに第1開口14aが設けられている。また、ケーシング12の外周部分には、第2開口14bが設けられている。第2開口14bは、ケーシング12の長手方向中間部分に位置する中間部12dにおいてケーシング12の内部空間に連通している。
【0034】
第1,2開口14a,14bは、それぞれ一軸偏心ねじポンプ10の吸込口および吐出口として機能する部分である。さらに詳細に説明すると、本実施形態の一軸偏心ねじポンプ10は、ロータ30を正方向に回転させることにより、第1開口14aが吐出口として機能し、第2開口14bが吸込口として機能するように流動物(流体)を圧送することが可能である。またこれとは逆に、一軸偏心ねじポンプ10は、ロータ30を逆方向に回転させることにより、第1開口14aが吸込口として機能し、第2開口14bが吐出口として機能するように流動物を圧送させることが可能である。
【0035】
ステータ20は、ゴムに代表される弾性体や樹脂などで作成され、ほぼ円筒形の外観形状を有する部材である。ステータ20の材質は、一軸偏心ねじポンプ10を用いて移送する被搬送物である流動物の種類や性状などにあわせて適宜選択される。ステータ20は、ケーシング12において第1開口14aに隣接する位置にあるステータ取付部12b内に収容されている。ステータ20の外径は、ステータ取付部12bの内径とほぼ同一である。そのため、ステータ20は、その外周面がステータ取付部12bの内周面にほぼ密着するような状態で取り付けられている。また、ステータ20は、一端側にあるフランジ部20aをケーシング12の端部においてエンドスタッド12aによって挟み込み、エンドスタッド12aとケーシング12の本体部分とに亘ってステーボルト16を取り付けて締め付けることにより固定されている。そのため、ステータ20は、ケーシング12のステータ取付部12b内において位置ずれ等を起こさない。図1に示すように、ステータ20の内周面24は、2条で多段の雌ねじ形状とされている。
【0036】
ロータ30は、金属製の軸体であり、1条で多段の雄ねじ形状とされている。ロータ30は、長手方向のいずれの位置で断面視しても、その断面形状がほぼ真円形となるように形成されている。ロータ30は、上述したステータ20に形成された貫通孔22に挿通され、貫通孔22の内部において自由に偏心回転可能とされている。
【0037】
ロータ30をステータ20に対して挿通すると、ロータ30の外周面32とステータ20の内周面24とが両者の接線にわたって当接した状態になる。また、この状態において、貫通孔22を形成しているステータ20の内周面24と、ロータ30の外周面との間には、流体搬送路40が形成される。流体搬送路40は、上述したステータ20やロータ30のリードの長さLを基準長Sとした場合に、ステータ20やロータ30の軸方向にリードの基準長Sのd倍の長さを有する多段(d段)の流路となっている。
【0038】
流体搬送路40は、ステータ20やロータ30の長手方向に向けて螺旋状に延びている。また、流体搬送路40は、ロータ30をステータ20の貫通孔22内において回転させると、ステータ20内を回転しながらステータ20の長手方向に進む。そのため、ロータ30を回転させると、ステータ20の一端側から流体搬送路40内に流動物を吸い込むと共に、この流動物を流体搬送路40内に閉じこめた状態でステータ20の他端側に向けて移送し、ステータ20の他端側において吐出させることが可能である。すなわち、ロータ30を正方向に回転させると、第2開口14bから吸い込んだ流動物を圧送し、第1開口14aから吐出することが可能である。また、ロータ30を逆方向に回転させると、第1開口14aから吸い込んだ流動物を第2開口14bから吐出することが可能である。
【0039】
動力伝達機構部50は、ケーシング12の外部に設けられたモータなどの駆動機(図示せず)から上述したロータ30に対して動力を伝達するために設けられている。動力伝達機構部50は、動力接続部52と偏心回転部54とを有する。動力接続部52は、ケーシング12の長手方向の一端側、さらに詳細には上述したエンドスタッド12aやステータ取付部12bが設けられたのとは反対側(以下、単に「基端側」とも称す)に設けられた軸収容部12c内に設けられている。また、偏心回転部54は、軸収容部12cとステータ取付部12bとの間に形成された中間部12dに設けられている。
【0040】
動力接続部52は、ドライブシャフト56を有し、これが2つの軸受58a,58bによって自由に回転可能なように支持されている。軸受58a,58bは、少なくともスラスト荷重を受けることが可能なものである。軸受58a,58bには、例えばスラスト軸受などを好適に使用することができる。ドライブシャフト56は、ケーシング12の基端側の閉塞部分から外部に取り出されており、駆動機に接続されている。そのため、駆動機を作動させることにより、ドライブシャフト56を回転させることが可能である。動力接続部52が設けられた軸収容部12cと中間部12dとの間には、例えばメカニカルシールやグランドパッキンなどからなる軸封装置60が設けられており、これにより中間部12d側から軸収容部12c側に被搬送物たる流動物が漏れ出さない構造とされている。
【0041】
偏心回転部54は、上述したドライブシャフト56(受動軸,軸A)とロータ30とを動力伝達可能なように接続する部分である。偏心回転部54は、枢軸62と、2つのユニバーサルジョイント64,64とを有する。枢軸62は、従来公知のカップリングロッドや、スクリューロッドなどによって構成されいる。ユニバーサルジョイント64,64は、それぞれ枢軸62とロータ30との間、及び枢軸62とドライブシャフト56との間を連結するものである。ユニバーサルジョイント64,64は、ドライブシャフト56を介して伝達されてきた回転動力をロータ30に伝達し、ロータ30を偏心回転させることが可能である。
【0042】
ドライブシャフト56は、後に詳述する緩衝部材82を介して駆動機70に接続される軸体である。図3に示すように、ドライブシャフト56は、端部に緩衝部材82を軸方向に内挿可能な中空の緩衝部材内挿部56aを備えている。また、緩衝部材内挿部56aの内周面には、嵌合溝56bが軸方向に向けて直線的に延びるように形成されている。嵌合溝56bは、緩衝部材内挿部56aの周方向に4つ、略等間隔すなわち略90度毎に設けられている。
【0043】
図1に示すように、駆動機70は、従来公知のモータによって構成されており、回転動力を出力するための出力軸70a(軸B)を備えている。出力軸70aは、後に詳述するように、軸連結構造体80の構成部品である緩衝部材82を介してドライブシャフト56に連結されている。また、図3に示すように、出力軸70aには、キー溝70bが設けられている。
【0044】
≪軸連結構造体80及び緩衝部材82について≫
続いて、一軸偏心ねじポンプ10の特徴的部分である軸連結構造体80及びこれに用いられている緩衝部材82について詳細に説明する。図3や図4に示すように、軸連結構造体80は、上述したドライブシャフト56と出力軸70aとを緩衝部材82を介して軸方向に連結することにより構成されるものである。
【0045】
図3や図4に示すように、緩衝部材82は、緩衝部材本体84と結合手段90とを備えている。図2や図3に示すように、緩衝部材本体84は、樹脂製であって円筒状の外観形状を有するものである。図4に示すように、緩衝部材本体84は、外径がドライブシャフト56(軸A)の端部に設けられた緩衝部材内挿部56aの内径よりも僅かに小さい程度とされており、緩衝部材内挿部56aに対して内挿されることにより隙間嵌め(遊動嵌合)された状態になる。
【0046】
図2〜図4に示すように、緩衝部材本体84の外周面には嵌合山86が形成されており、内側には内挿部88が形成されている。嵌合山86は、緩衝部材本体84の径方向外側に向けて突出しており、断面形状が略半円形であって軸方向に延びるように形成されたリブ状の突起である。嵌合山86は、緩衝部材本体84の周方向に3カ所に設けられている。具体的には、3つの嵌合山86をそれぞれ嵌合山86a,86b,86cとした場合、嵌合山86a,86b、及び嵌合山86b,86cはそれぞれ周方向に略90度離れた位置に設けられている。嵌合山86a,86cは、周方向に略180度離れた位置に設けられている。そのため、ドライブシャフト56に設けられた緩衝部材内挿部56aに対して緩衝部材本体84を内挿すると、4つ設けられている嵌合溝56bのうちの3つに嵌合山86a,86b,86cが差し込まれ、遊動嵌合(隙間嵌め)された状態になる。これにより、緩衝部材本体84は、ドライブシャフト56と一体的に回動可能な状態となる。
【0047】
また、図4に示すように、緩衝部材本体84の内側に形成された内挿部88の内径は、上述した駆動機70の出力軸70aの外径と略同一である。そのため、内挿部88には、出力軸70aを略隙間無く内挿させることが可能である。すなわち、内挿部88には、出力軸70aが圧入される。また、緩衝部材本体84の外周部には、キー92を差し込むための開口84aが設けられている。キー92は、出力軸70aに設けられたキー溝70bとの組み合わせにより結合手段90を構成するものである。内挿部88に対して出力軸70aを内挿しキー溝70bと開口84とを連通させた状態において、開口84aからキー92を差し込むことにより緩衝部材本体84と出力軸70aとを結合させることが可能である。
【0048】
上述したように、本実施形態の一軸偏心ねじポンプ10において採用されている軸連結構造体80は、駆動機70側に設けられた出力軸70aとケーシング12側に設けられたドライブシャフト56とを緩衝部材82を介在させて連結したものである。すなわち、一軸偏心ねじポンプ10は、ドライブシャフト56及び出力軸70aとは別に準備された緩衝部材82によってこれらの軸を連結したものであるため、従来技術のように焼き嵌めによる場合よりも容易に両軸を連結及び分解することが可能であり、メンテナンスや検査などの作業についても効率よく実施することができる。また、一軸偏心ねじポンプ10においては、緩衝部材82を消耗部品や交換部品として用いることにより、ドライブシャフト56や出力軸70aを破損等することなく使用することができ、ランニングコストを最小限に抑制することができる。
【0049】
本実施形態において採用されている軸連結構造体80では、樹脂製の緩衝部材本体84が金属製のドライブシャフト56や出力軸70aの間に介在しており、連結部分において両軸は直接的に接触していない。そのため、一軸偏心ねじポンプ10を駆動させても、ドライブシャフト56と出力軸70aとの間におけるフレッティング摩耗の発生や、フレッティング・コロージョンの発生のような副次的な問題が発生しない。
【0050】
また、緩衝部材本体84が樹脂製であるため、出力軸70a及びドライブシャフト56のうちいずれか一方側の軸から衝撃力や振動が発生した場合に、これらの影響を緩和し、他方側の軸に伝達するのを抑制することができる。さらに、緩衝部材82は、樹脂製であり、金属製である出力軸70aやドライブシャフト56よりも熱伝導性が低いため、ドライブシャフト56及び出力軸70aの一方側から他方側への伝熱や、伝熱に伴う副次的な不具合を防止することができる。具体的には、駆動機70において発生した熱が、ケーシング12側において流動している流動物に伝播して流動物に悪影響を与えるといった不具合や、これとは逆に流動物の熱が駆動機70側に伝播して駆動機70に悪影響を与えるといったような不具合が生じにくい。
【0051】
また、上述したように、一軸偏心ねじポンプ10は、緩衝部材82の緩衝部材本体84とドライブシャフト56とが隙間嵌め(遊動嵌合)の状態で嵌合結合するものであるため、駆動機70と受動機11とを必要に応じて容易に分離させることが可能である。加えて、一軸偏心ねじポンプ10は、ドライブシャフト56が軸受58a,58bによって支持されていることから、駆動機70を受動機11から取り外す際にドライブシャフト56を支えるための治工具を準備する等の必要がなく、メンテナンスに要する手間や時間を最小限に抑制できる。さらに、ドライブシャフト56を回転可能なように支持する軸受58a,58bがスラスト荷重を受けることが可能なものであり、受動機11側に設けられているため、受動機11の内部で発生する負荷を軸受58a,58bによって受け止めることが可能となり、駆動機70の内部の軸受(図示せず)の許容負荷を考慮する必要がない。従って、一軸偏心ねじポンプ10では、負荷を考慮して過剰性能の駆動機70を選定する必要がなく、駆動機70の選択の幅が広い。なお、軸受58a,58bは、少なくともスラスト方向への荷重を受けることが可能なものであればよく、スラスト軸受のほか、ラジアル方向への荷重及びスラスト方向への荷重の双方を受けることが可能なものであってもよい。
【0052】
本実施形態では、緩衝部材内挿部56aの内周面に形成された嵌合溝56b、及び緩衝部材82の外周面に形成された嵌合山86が共に軸方向に延びるように形成されおり、嵌合溝56bに対して嵌合山86を差し込むことにより嵌合山86と嵌合溝56bとを嵌合結合させ、ドライブシャフト56と緩衝部材82とをトルク伝達可能なように連結させることができる。また、このようにしてドライブシャフト56と緩衝部材82とを連結させた場合は、ドライブシャフト56と緩衝部材82との間に軸方向への遊びを持たせることが可能であるため、この遊びによって軸方向に作用する外力を逃がすことが可能である。具体的には、一軸偏心ねじポンプ10において流動物を輸送することにより発生する反力の影響により衝撃力や振動が発生したとしても、これらを前述した遊びや緩衝部材本体84によって受け止めて軽減させ、ドライブシャフト56や出力軸70a、これらに接続された機器類を保護することが可能である。
【0053】
なお、上述した嵌合溝56b及び嵌合山86によって構成されるドライブシャフト56と緩衝部材本体84との連結構造は本発明の一例を示したものに過ぎず、トルク伝達可能なものであれば他の構造によって連結することとしてもよい。具体的には、図5に示すように、緩衝部材本体84の外周面においてドライブシャフト56の内周面に設けられた嵌合溝56bに相当する位置に凹部85(あるいは溝)を設け、この凹部85と嵌合溝56bとの間に樹脂などの非金属製のピン96を挿入することにより、緩衝部材本体84とドライブシャフト56とを動力伝達可能なように連結した構成としてもよい。
【0054】
上述したように、キー92及びキー溝70bからなる結合手段90を用いて緩衝部材本体84と出力軸70aとを結合させているため、簡易な構成でありながら出力軸70aと緩衝部材本体84とを確実に結合させることが可能となる。なお、本実施形態では、キー92及びキー溝70bの組み合わせを結合手段90として用いた例を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばピンやボルトなどを結合手段90として用いてもよい。
【0055】
本実施形態では、緩衝部材本体84を駆動機70の出力軸70aに結合手段90を用いて結合(装着)すると共に、緩衝部材本体84をドライブシャフト56と嵌合結合させた例を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。具体的には、駆動機70の出力軸70a側に上述した緩衝部材内挿部56aに相当するものを設けると共に、ドライブシャフト56の端部に結合手段90に相当するものによって緩衝部材本体84を装着し、この緩衝部材本体84を緩衝部材内挿部56aに内挿して嵌合結合させることによって出力軸70aとドライブシャフト56とを連結した構成としてもよい。かかる構成とした場合についても、本実施形態で示したものと同様の作用効果が得られる。
【0056】
本実施形態では、緩衝部材本体84の外周に設けられた嵌合山86の数量と、緩衝部材内挿部56aの内側に形成された嵌合溝56bの数量とが非同一である例を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、両者の数量が同一であってもよい。また、本実施形態では、嵌合山86及び嵌合溝56bの断面形状がそれぞれ半円状のものを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、略矩形状等の適宜の形状とすることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 一軸偏心ねじポンプ
20 ステータ
30 ロータ
56 ドライブシャフト(受動軸,軸A)
56a 緩衝部材内挿部
56b 嵌合溝
70 駆動機(駆動機)
70a 出力軸(軸B)
70b キー溝
80 軸連結構造体
82 緩衝部材
84 緩衝部材本体
86 嵌合山
88 内挿部
90 結合手段
92 キー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機側に設けられた出力軸と、前記駆動機側から動力が伝達されることにより作動する受動機側に設けられた受動軸の間に介挿され、前記出力軸及び前記受動軸を軸方向に連結可能な緩衝部材であって、
樹脂製であって筒状の緩衝部材本体と、結合手段とを有し、
前記出力軸及び前記受動軸の一方を軸A、他方を軸Bとしたときに、
前記緩衝部材本体が、前記軸Aの端部に内挿することにより前記軸Aとトルク伝達可能なように嵌合結合可能であるとともに、前記軸Bの端部を内挿可能な内挿部を備えたものであり、
前記結合手段が、前記内挿部に内挿された前記軸B及び前記緩衝部材本体を一体的に回転可能なように結合させるものであることを特徴とする緩衝部材。
【請求項2】
前記緩衝部材本体が、前記軸Aと隙間嵌めの状態で嵌合結合することを特徴とする請求項1に記載の緩衝部材。
【請求項3】
前記緩衝部材本体を軸方向に内挿可能な緩衝部材内挿部を端部に有し、前記緩衝部材内挿部の内周面に軸方向に延びる嵌合溝が形成された軸Aに対して内挿されるものであり、
前記緩衝部材本体の外周面に、軸方向に延び、径方向外側に向けて突出した嵌合山が形成されており、
前記緩衝部材内挿部に内挿することにより、前記嵌合山と前記嵌合溝とがトルク伝達可能なように嵌合結合された状態になることを特徴とする請求項1又は2に記載の緩衝部材。
【請求項4】
駆動機側に設けられた出力軸と、
受動機側に設けられた受動軸と、
請求項1〜3のいずれかに記載の緩衝部材とを有し、
前記出力軸及び前記受動軸の一方を軸A、他方を軸Bとしたときに、
前記軸Aの端部に前記緩衝部材本体が内挿され、前記軸Aと緩衝部材本体とがトルク伝達可能なように嵌合結合されており、
前記軸Bの端部が前記緩衝部材本体に形成された内挿部に内挿され、前記結合手段により前記軸B及び前記緩衝部材本体が結合されていることを特徴とする軸連結構造体。
【請求項5】
前記受動軸が、少なくともスラスト荷重を受けることが可能な軸受によって回転可能なように支持されていることを特徴とする請求項4に記載の軸連結構造体。
【請求項6】
軸Aの端部に、緩衝部材本体を軸方向に内挿可能な緩衝部材内挿部が設けられており、
前記緩衝部材本体の外周面に、軸方向に延び、径方向外側に向けて突出した嵌合山が形成されており、
前記緩衝部材内挿部の内周面に、前記嵌合山と嵌合可能であって軸方向に延びる嵌合溝が形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の軸連結構造体。
【請求項7】
結合手段が、キー及びキー溝によって構成されていることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の軸連結構造体。
【請求項8】
回転動力を発生させることが可能な駆動機と、
前記駆動機から入力された回転動力を伝達するための動力伝達機構部と、
前記動力伝達機構部を介して伝達された回転動力により駆動されて偏心回転する雄ねじ型のロータと、
前記ロータを挿通可能であり、内周面が雌ねじ型に形成されたステータとを備えており、
前記駆動機に設けられた出力軸と、前記動力伝達機構部に設けられた受動軸とが、請求項4〜7のいずれかに記載の軸連結構造体によって連結されていることを特徴とする一軸偏心ねじポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−256948(P2011−256948A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132364(P2010−132364)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000239758)兵神装備株式会社 (76)
【Fターム(参考)】