説明

繊維強化プラスチックの処理方法、その粉砕物及び固化体

【課題】廃棄物のFRPの再利用をより促進可能なFRPの処理方法及びその粉砕物を提供する。
【解決手段】本発明の繊維強化プラスチック(FRP)の処理方法は、FRPからなる粗粒を粉砕機によって粉砕し、粉砕物とする粉砕工程を備えたものである。粉砕機は、せん断力及び圧縮力を粗粒に作用させることにより粗粒を粉砕する摩砕式粉砕機である。粗粒又は粉砕物に水酸化アルミニウム粉末を混合し、混合物とする混合工程と、混合物を成形し、成形体とする成形工程と、成形体を蒸気養生によって固化する固化工程とを備えていることが好ましい。混合工程も摩砕式混合機によって行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽、カウンタ等に使用される繊維強化プラスチック(FRP)の再利用を目的とした処理方法と、その粉砕物と、固化体とに関する。
【背景技術】
【0002】
浴槽等に採用されるFRPは、一般には長さ15〜25mmのガラス繊維が20〜40質量%、無機粉末からなる添加物が20〜40質量%、不飽和ポリエステル樹脂が残部である。無機粉末としては、炭酸カルシウム(CaCO3)又は水酸化アルミニウム(Al(OH)3))が多く採用されている。ガラス繊維以外はマトリックスを構成している。このFRPが廃棄あるいは再利用される場合、FRPをいかに処理するかが環境上問題となる。
【0003】
従来、そのようなFRPを粉砕し、成形体とするFRPの処理方法が知られている(特許文献1、2)。特許文献1開示の処理方法は、FRPを粉砕機にかけて粉砕物とする粉砕工程と、この粉砕物を熱可塑性樹脂と溶融混練してペレットとし、このペレットを用いて成形体とする成形工程とからなるものである。また、特許文献2開示の処理方法は、FRPを高温高圧の流体で処理し、処理物を媒体中で解砕して粉砕物とする粉砕工程と、その粉砕物を充填剤として新たなFRP等の成形体とする成形工程とからなるものである。これらの処理方法により、廃棄物となったFRPを再利用することが可能になる。
【0004】
【特許文献1】特開2002−120255号公報
【特許文献2】特開2003−105126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、発明者らの試験結果によれば、上記のようにFRPを処理する場合であっても、成形体の成形性が悪いとともに、得られた成形体の強度が低いことが明らかとなった。
【0006】
すなわち、上記従来の処理方法では、微細な粉砕物さえ得られれば足りる粉砕工程を採用していたため、FRP中のガラス繊維等の繊維成分まで微細に粉砕してしまい、用途が狭い。繊維を残した粉砕を行えば、その強度を利用することで用途が広がる。例えば、この粉砕方法で廃棄物のFRPから強度のある再成形体を作ることができる。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、廃棄物のFRPの再利用をより促進可能なFRPの処理方法、その粉砕物及び固化体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究を行った。すなわち、一般的に被処理物を粉砕する場合、被処理物には圧縮力、衝撃力及びせん断力の少なくとも1種が作用するのであるが、発明者らの試験結果によれば、せん断力及び圧縮力を粗粒に作用させることによりFRPからなる粗粒の粉砕を行えば、粉砕物に繊維成分が残りやすい。こうして以下の本発明が完成された。
【0009】
本発明のFRPの処理方法は、FRPからなる粗粒を粉砕機によって粉砕し、粉砕物とする粉砕工程を備えたFRPの処理方法であって、前記粉砕機はせん断力及び圧縮力を前記粗粒に作用させることにより前記粗粒を粉砕する摩砕式粉砕機であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のFRPの粉砕物は、FRPからなる粗粒を粉砕機によって粉砕したFRPの粉砕物であって、前記粉砕機はせん断力及び圧縮力を前記粗粒に作用させることにより前記粗粒を粉砕する摩砕式粉砕機であることを特徴とする。
【0011】
発明者らの試験結果によれば、本発明の処理方法によれば、粉砕物中に繊維成分を残しやすい。この理由は、粗粒をせん断力及び圧縮力のみにより粉砕すると、摩砕(frictional grinding)により、繊維表面からマトリックス粒子が効率的に剥離するためであると考えている。このため、得られる粉砕物を成形体にすれば、繊維成分が成形体の強度を確保しやすい。
【0012】
また、本発明の処理方法によれば、J. Soc. Powder Technol., Japan, 42, 625-631(2005)「ナノ粒子ボンディング技術による粒子・材料の構造制御」に記載されているように、その粉砕物では、繊維成分のナノ粒子、マトリックスのナノ粒子又は添加物のナノ粒子が繊維成分に付着し、高い表面活性を有することとなる。このため、この粉砕物を用いた成形体は、高い表面活性により個々の粉砕物が強固に結合すると考えられる。また、発明者らの試験結果によれば、ナノ粒子がガラス繊維の表面にびっしりと付着した粉砕物は、ガラス繊維という無機材料の性質が低められ、低熱伝導性、断熱性に優れたものとなった。
【0013】
なお、特開平7−155738号公報には、FRPを衝撃力だけで粉砕する粉砕工程が開示されている。これでは繊維成分も粉砕するおそれが大きい。
【0014】
また、特開昭63−105119号公報や特開2003−245569号公報には、せん断力及び衝撃力によりFRPを粉砕する粉砕工程が開示されている。この粉砕工程も衝撃力によって繊維成分を破壊するおそれが大きい。
【0015】
一方、特開平6−55540号公報には、FRPをせん断力だけで粉砕する粉砕工程が開示されている。同公報によれば、この粉砕工程を採用すれば、FRP中の繊維成分が残余のマトリックスから剥離するとされている。しかしながら、この粉砕工程は、詳細が不明であるとともに、FRPを圧縮力によって粉砕していないことから、ガラス繊維とマトリックスとの界面の剥離が十分に行われない点が懸念される。
【0016】
したがって、本発明の処理方法及び粉砕物によれば、廃棄物のFRPを成形体等として再利用しやすく、この再利用をより促進することが可能になる。
【0017】
本発明に係る摩砕式粉砕機は、内部に粉砕室をもち、この粉砕室の周壁が軸芯回りの円筒面とされたケーシングと、粉砕室内で軸芯回りに回転することにより、周壁との間で粗粒にせん断力及び圧縮力のみを付与するロータとを有し得る。
【0018】
ロータは周壁と対面する方向に延びる羽根部を有し得る。羽根部は複数であることが好ましい。羽根部の周壁側の先端には、周壁の曲率に対して一定範囲の曲率からなる摩砕面が形成されていることが好ましい。羽根部の摩砕面の曲率が一定範囲であれば、せん断力及び圧縮力のみにより粗粒を粉砕し易い。摩砕式粉砕機は、周壁と摩砕面との間の間隙が調整可能なものであることが好ましい。
【0019】
本発明の処理方法において、粗粒又は粉砕物に水酸化アルミニウム粉末及び/又はカルシウム分粉末を混合し、混合物とする混合工程と、混合物を成形し、成形体とする成形工程と、成形体を蒸気養生によって固化する固化工程とを備えていることが好ましい。この処理方法は固化体の製造方法でもある。FRPは炭酸カルシウム又は水酸化アルミニウムを含む場合が多い。FRPが炭酸カルシウムを多く含み、水酸化アルミニウムを多く含まない場合には、混合工程で水酸化アルミニウムを混合し、FRPが水酸化アルミニウムを多く含み、炭酸カルシウムを多く含まない場合には、混合工程でカルシウム分粉末を混合し、FRPが炭酸カルシウム及び水酸化アルミニウムを多く含まない場合には、混合工程で水酸化アルミニウム及びカルシウム分粉末を混合する。これにより、粉砕物を固化体として再利用することができる。カルシウム分粉末としては、炭酸カルシウムの他、水酸化カルシウムを採用することができる。但し、粗粒のみで粉砕を行うと、FRPのマトリックスの微粒子化が進み難く、所望の粉砕物が得られ難い。
【0020】
この場合、混合工程では、粉砕物に水酸化アルミニウム粉末及び/又はカルシウム分粉末を混合することが好ましい。粗粒の段階で水酸化アルミニウム粉末及び/又はカルシウム分粉末を混合すると、FRPのマトリックスの微粒子化が進む前に水酸化アルミニウム同士、カルシウム分粉末同士又は水酸化アルミニウムとカルシウム分粉末との付着が始まり、ガラス繊維へのナノ粒子の付着を生じ難い。
【0021】
本発明の処理方法において、混合工程は、せん断力及び圧縮力を粉砕物に作用させることにより混合を行う摩砕式混合機によって行われることが好ましい。せん断力及び圧縮力のみを粉砕物に作用させることにより混合を行う摩砕式混合機によって混合工程が行われることがより好ましい。粉砕物の段階で水酸化アルミニウム粉末等を混合すれば、水酸化アルミニウム等のナノ粒子を繊維成分に付着させ易い。このため、強度の高い固化体を得ることができる。残留した繊維成分自体が固化体の強度を機械的に向上させる他、繊維成分に付着したナノ粒子の高い表面活性により、個々の粉砕物が強固に結合するものと考えられる。
【0022】
また、発明者らは本発明の処理方法により本発明の固化体を完成した。この固化体は実用的な強度を有することから、廃棄物のFRPの再利用をより促進することが可能である。
【0023】
本発明の固化体は、FRPからなる粉砕物と水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとを含み、全体中、水酸化アルミニウムが35質量%以上であり、炭酸カルシウムが10質量%以上であることを特徴とする。この範囲内の固化体は実用的な強度を発揮する。
【0024】
また、本発明の固化体は、FRPからなる粉砕物と水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとを含み、水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとが質量比で2.1以上:1であることを特徴とする。この範囲内の固化体も実用的な強度を発揮する。
【0025】
発明者らの試験結果によれば、固化体は、全体中、水酸化アルミニウムが38〜46質量%であり、炭酸カルシウムが10〜18質量%であることが好ましい。また、固化体は、水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとが質量比で2.1:1〜4.5:1であることが好ましい。これらの範囲内であれば、蒸気養生前後で曲げ強度が大きく向上し、固化体はより実用的な強度を発揮する。
【0026】
固化体がこれらの範囲の組成になるように粉砕物、水酸化アルミニウム粉末及び/又は炭酸カルシウム粉末を混合し、成形し、かつ固化することにより、実用的な固化体を製造することが可能である。
【0027】
したがって、本発明の固化体によれば、廃棄物のFRPを成形体等として再利用しやすく、この再利用をより促進することが可能になる。
【0028】
なお、本発明において、水酸化アルミニウム粉末やカルシウム分粉末の代わりに又はこれらとともにシリカ粉末等の無機粉末を混合し、無機ナノ粒子を繊維成分に付着させることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、試験品1〜9に基づいて本発明を説明する。
【0030】
まず、長さ15〜25mmのガラス繊維が24質量%、炭酸カルシウムが30〜45質量%、他の添加物が0〜10質量%、残部が不飽和ポリエステル樹脂の廃棄物であるFRPを用意する。このFRPを最大長さが数mm〜1cmに粗く粉砕し、粗粒とした。
【0031】
一方、図1(A)及び(B)に要部を示す摩砕式粉砕混合機(ホソカワミクロン(株)製、「メカノフュージョンシステム」)を用意した。この摩砕式粉砕混合機では、内部に粉砕室10をもつステンレス製のケーシング11が上下を軸方向として設けられている。粉砕室10の周壁は、内径Dが80mmの軸芯回りの円筒面とされている。ケーシング11の底壁には軸孔11aが貫設されており、軸孔11aには回転軸12が回転可能に挿通されている。粉砕室10内には回転軸12と同期回転するロータ13が固定されている。
【0032】
ロータ13は、粉砕室10の周壁と対面する方向で互いに遠ざかる方向に延びる一対の羽根部13aを有している。両羽根部13aの周壁側の先端には、曲率Rが18mmの摩砕面が形成されている。ロータ13は、両羽根部13aの先端間の距離である最大外径dが72mm、最小外径wが55mm、高さhが35mmである。よって、粉砕室10の周壁とロータ13の両羽根部13aの先端とのクリアランスは4mmである。この摩砕式粉砕混合機は、以上の構成により、せん断力及び圧縮力を粗粒に作用させることにより粗粒を粉砕することが可能であるとともに、粉砕物と添加物との混合が可能になっている。
【0033】
(試験1)
まず、粗粒のみを摩砕式粉砕混合機の粉砕室10に投入し、回転数900rpmで30分間の粉砕を行った(粉砕工程)。この粉砕物のEPMA写真を図2に示す。図2では、ガラス繊維等の無機物が白っぽく見え、有機物である樹脂が黒っぽく見えている。図2より、この粉砕物は、FRPに含まれるガラス繊維がその形状をほぼ保ったままほぼマトリックスだけが粉砕されていることがわかる。
【0034】
一方、市販の振動ミルを用いて粗粒のみを30分間粉砕した。この粉砕物のSEM写真を図3に示す。図3より、この粉砕物は、FRPに含まれるガラス繊維もマトリックスと同様に粉砕されていることがわかる。
【0035】
(試験2)
次いで、表1に示す条件で少なくとも粗粒を粉砕するとともに水酸化アルミニウム粉末及び/又は炭酸カルシウムと混合し、試験品1〜6、8、9とした(粉砕工程、混合工程)。
【0036】
【表1】

【0037】
すなわち、試験品1では、粗粒のみを摩砕式粉砕混合機で60分間粉砕して粉砕物とした。粗粒と水酸化アルミニウム粉末と炭酸カルシウムとの質量比は10:0:0である。得られた粉砕物を355μmの篩いにかけ、篩いを通ったものを試験品1とした。
【0038】
試験品2では、粗粒及び水酸化アルミニウム粉末を摩砕式粉砕混合機で60分間粉砕しながら混合した。粗粒と水酸化アルミニウム粉末と炭酸カルシウムとの質量比は10:4:0とした。得られた混合物を355μmの篩いにかけ、篩いを通ったものを試験品2とした。
【0039】
試験品3については、粗粒のみを摩砕式粉砕混合機で30分間粉砕し、次いで水酸化アルミニウム粉末を添加してさらに30分間粉砕及び混合を行った。粗粒と水酸化アルミニウム粉末と炭酸カルシウムとの質量比は10:4:0とした。得られた混合物を355μmの篩いにかけ、篩いを通ったものを試験品3とした。
【0040】
試験品4については、粗粒のみを摩砕式粉砕混合機で90分間粉砕し、次いで水酸化アルミニウム粉末を添加してさらに30分間粉砕及び混合を行った。粗粒と水酸化アルミニウム粉末と炭酸カルシウムとの質量比は10:4:0とした。得られた混合物を355μmの篩いにかけ、篩いを通ったものを試験品4とした。
【0041】
試験品5については、粗粒のみを摩砕式粉砕混合機で30分間粉砕し、これを355μmの篩いにかけた。そして、篩いを通った粉砕物に水酸化アルミニウム粉末を添加してさらに30分間粉砕及び混合を行った。篩いを通った粉砕物と水酸化アルミニウム粉末と炭酸カルシウムとの質量比は3:1:0とした。得られた混合物が試験品5である。
【0042】
一方、粗粒及び水酸化アルミニウム粉末を振動ミルで30分間粉砕及び混合し、試験品6とした。粗粒と水酸化アルミニウム粉末と炭酸カルシウムとの質量比は10:4:0とした。
【0043】
また、粗粒のみを振動ミルで30分間粉砕し、試験品7とした。
【0044】
試験品8については、粗粒のみを摩砕式粉砕混合機で90分間粉砕し、次いで水酸化アルミニウム粉末及び炭酸カルシウム粉末を添加してさらに30分間粉砕及び混合を行った。粗粒と水酸化アルミニウム粉末と炭酸カルシウムとの質量比は10:4:0.4とした。得られた混合物を355μmの篩いにかけ、篩いを通ったものを試験品8とした。
【0045】
試験品9については、粗粒のみを摩砕式粉砕混合機で90分間粉砕し、次いで水酸化アルミニウム粉末及び炭酸カルシウム粉末を添加してさらに30分間粉砕及び混合を行った。粗粒と水酸化アルミニウム粉末と炭酸カルシウムとの質量比は10:4:2とした。得られた混合物を355μmの篩いにかけ、篩いを通ったものを試験品9とした。
【0046】
各試験品1〜9の粉砕工程における粗粒のみの条件である時間(分)、実動力(kw)及び回転数(rpm)を表2に示す。また、各試験品1〜9の粉砕工程における水酸化アルミニウム粉末及び/又は炭酸カルシウム粉末添加後の条件である時間(分)、実動力(kw)及び回転数(rpm)を表3に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
試験品3のSEM写真を図4に示し、図4のEDX(Al)写真を図5に示す。図4及び図5より、この混合物では、ガラス繊維に水酸化アルミニウムのナノ粒子がびっしりと付着していることがわかる。
【0050】
各試験品1〜6、8、9の混合物を100MPaで一軸加圧成形し、タイル形状の成形体とした(成形工程)。そして、各成形体の密度(g/cm3)を測定した。また、各成形体を3点曲げ強度試験に供し、曲げ強度(MPa)を測定した。
【0051】
次いで、各成形体を80°C、24時間の蒸気養生に供して固化し、固化体とした(固化工程)。各固化体についても密度及び曲げ強度を測定した。成形体及び固化体の密度及び曲げ強度の試験結果を表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
また、試験品3の成形体のSEM写真を図6に示し、試験品3の固化体のSEM写真を図7に示す。一方、試験品6の成形体のSEM写真を図8に示し、試験品6の固化体のSEM写真を図9に示す。
【0054】
図6〜9より、試験品3の成形体及び固化体においては数百μmのガラス繊維が無数に組み込まれているのに対し、試験品6の成形体及び固化体においては微小なガラス繊維と樹脂とがバルク状になっていることがわかる。
【0055】
試験品1〜3及び試験品6、7の粒度分布を図10に示す。
【0056】
表4及び図10より、試験品1では成形体及び固化体の強度が十分ではなかった。粗粒のみを粉砕しているため、粉砕物の微粒子化が進み難く、所望の粉砕物が得られ難いからであると考えられる。
【0057】
また、試験品2でも成形体及び固化体の強度が十分ではない。粗粒の段階で水酸化アルミニウム粉末を混合しているため、FRPのマトリックスの剥離や微粒子化が進む前に水酸化アルミニウムがガラス繊維及びマトリックスの粗粒子に付着し始め、ガラス繊維へのナノ粒子の付着を生じ難いからであると考えられる。
【0058】
試験品3では、建築材料として十分な強度(5MPa程度以上)の固化体が得られた。マトリックスが微粒子化し、ガラス繊維が残留した粉砕物となっており、かつガラス繊維及びマトリックスの微粒子にナノ粒子が付着しているためである。また、試験品3の固化体においては、密度が低下し、強度が向上していることがわかる。
【0059】
試験品4では成形体及び固化体の強度がさらに向上している。粗粒のみの粉砕時間を増やしているため、ガラス繊維とマトリックスとの剥離が進むとともに、これらの粒子表面にナノ粒子がより付着しやすく、高い表面活性を有するからである。
【0060】
試験品5では成形体及び固化体の強度が十分ではない。粗粒のみを粉砕して一旦篩いにかけているため、摩砕式粉砕混合機の粉砕室10の周壁とロータ13の両羽根部13aの先端とのクリアランスに粉砕物が収まり、ナノ粒子の付着が進行し難いからである。
【0061】
一方、試験品6では成形体及び固化体の強度が十分ではない。ガラス繊維及びマトリックスがともに微粒子化し、かつガラス繊維へのナノ粒子の付着も生じないからである。
【0062】
また、試験品8の成形体のSEM写真を図11及び図12に示す。また、試験品8の固化体のSEM写真を図13〜16に示す。
【0063】
試験品8の固化体は強度が上がっている。図11〜16より、試験品8では、成形体の段階で、微細化した粗粒に水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムのナノ粒子が付着しているため、蒸気養生によって水和物が生成するからである。FRPが炭酸カルシウム及び水酸化アルミニウムを多く含まない場合において、混合工程で水酸化アルミニウム及びカルシウム分粉末を混合しているからである。
【0064】
試験品9では、最終的な粉砕物の炭酸カルシウム量が全体の25%以内において、固化体がある程度の強度を維持できることがわかる。
【0065】
(試験3)
上記試験品1〜6、8、9の固化体及び他の2個の固化体(試験品10、11)について、全体中の水酸化アルミニウムの質量%と、全体中の炭酸カルシウムの質量%と、水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとの質量比を求めた。結果を表5に示す。表5には、これらの成形体(養生前)及び固化体(養生後)の曲げ強度(MPa)も記した。また、水酸化アルミニウムの含有率(質量%)と成形体及び固化体の曲げ強度(MPa)との関係を図17に示し、炭酸カルシウムの含有率(質量%)と成形体及び固化体の曲げ強度(MPa)との関係を図18に示し、水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとの質量比と成形体及び固化体の曲げ強度(MPa)との関係を図19に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
表5及び図17〜19より、固化体は、全体中、水酸化アルミニウムが35質量%以上であり、炭酸カルシウムが10質量%以上であれば、実用的な強度を発揮できることがわかる。また、固化体は、水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとが質量比で2.1以上:1であれば、実用的な強度を発揮できることがわかる。
【0068】
特に、全体中、水酸化アルミニウムが38〜46質量%であり、炭酸カルシウムが10〜18質量%の固化体は、より実用的な強度を発揮する。また、水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとが質量比で2.1:1〜4.5:1の固化体は、より実用的な強度を発揮する。
【0069】
なお、水酸化アルミニウムを初めから添加した試験品2の混合物と、振動ミルを用い、水酸化アルミニウムを後から添加した試験品6の混合物とは、蒸気養生によって強度が十分に向上しない。試験品2の混合物は、FRPのマトリックスの微粒子化が進む前に水酸化アルミニウム同士の付着が始まり、水酸化アルミニウムのナノ粒子がガラス繊維に付着し難いからである。また、試験品6の混合物は、ガラス繊維が残り難く、水酸化アルミニウムのナノ粒子もガラス繊維に付着し難いからである。
【0070】
また、粗粒を粉砕後に篩いにかけ、その後に水酸化アルミニウムを添加した試験品5の混合物は、強度が十分でない。試験品5の混合物は、水酸化アルミニウムのナノ粒子がガラス繊維に十分に付着していないためである。
【0071】
したがって、本発明の処理方法、粉砕物及び固化体によれば、廃棄物のFRPを成形体等として再利用しやすく、この再利用をより促進できることが明らかである。
【0072】
以上において、本発明を試験品に即して説明したが、本発明は上記試験品に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は再生FRP製品の製造方法等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】試験1、2に用いた摩砕式粉砕混合機に係り、図(A)は横断面図、図(B)は縦断面図である。
【図2】試験1において、摩砕式粉砕混合機で粗粒を粉砕した粉砕物のEPMA写真である。
【図3】試験1において、市販の振動ミルで粗粒を粉砕した粉砕物のSEM写真である。
【図4】試験2において、試験品3のガラス繊維を拡大したSEM写真である。
【図5】試験2において、図4のEDX(Al)写真である。
【図6】試験2において、試験品3の成形体のSEM写真である。
【図7】試験2において、試験品3の固化体のSEM写真である。
【図8】試験2において、試験品6の成形体のSEM写真である。
【図9】試験2において、試験品6の固化体のSEM写真である。
【図10】試験2において、試験品1〜3及び試験品6、7の粒度分布を示すグラフである。
【図11】試験2において、試験品8の成形体のSEM写真である。
【図12】試験2において、試験品8の成形体のSEM写真である。
【図13】試験2において、試験品8の固化体のSEM写真である。
【図14】試験2において、試験品8の固化体のSEM写真である。
【図15】試験2において、試験品8の固化体のSEM写真である。
【図16】試験2において、試験品8の固化体のSEM写真である。
【図17】試験3において、水酸化アルミニウムの含有率と成形体及び固化体の曲げ強度との関係を示すグラフである。
【図18】試験3において、炭酸カルシウムの含有率と成形体及び固化体の曲げ強度との関係を示すグラフである。
【図19】水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとの質量比と成形体及び固化体の曲げ強度(MPa)との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックからなる粗粒を粉砕機によって粉砕し、粉砕物とする粉砕工程を備えた繊維強化プラスチックの処理方法であって、
前記粉砕機はせん断力及び圧縮力を前記粗粒に作用させることにより該粗粒を粉砕する摩砕式粉砕機であることを特徴とする繊維強化プラスチックの処理方法。
【請求項2】
前記粗粒又は前記粉砕物に水酸化アルミニウム粉末及び/又はカルシウム分粉末を混合し、混合物とする混合工程と、
該混合物を成形し、成形体とする成形工程と、
該成形体を蒸気養生によって固化する固化工程とを備えている請求項1記載の繊維強化プラスチックの処理方法。
【請求項3】
前記混合工程では、前記粉砕物に水酸化アルミニウム粉末及び/又はカルシウム分粉末を混合する請求項2記載の繊維強化プラスチックの処理方法。
【請求項4】
前記混合工程は、せん断力及び圧縮力を前記粉砕物に作用させることにより混合を行う摩砕式混合機によって行われる請求項2又は3記載の繊維強化プラスチックの処理方法。
【請求項5】
繊維強化プラスチックからなる粗粒を粉砕機によって粉砕した繊維強化プラスチックの粉砕物であって、
前記粉砕機はせん断力及び圧縮力を前記粗粒に作用させることにより前記粗粒を粉砕する摩砕式粉砕機であることを特徴とする繊維強化プラスチックの粉砕物。
【請求項6】
繊維強化プラスチックからなる粉砕物と水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとを含み、全体中、水酸化アルミニウムが35質量%以上であり、炭酸カルシウムが10質量%以上であることを特徴とする固化体。
【請求項7】
全体中、水酸化アルミニウムが38〜46質量%であり、炭酸カルシウムが10〜18質量%である請求項6記載の固化体。
【請求項8】
繊維強化プラスチックからなる粉砕物と水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとを含み、水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとが質量比で2.1以上:1であることを特徴とする固化体。
【請求項9】
水酸化アルミニウムと炭酸カルシウムとが質量比で2.1:1〜4.5:1である請求項8記載の固化体。

【図1】
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【図10】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−207546(P2008−207546A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13718(P2008−13718)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】