説明

繊維強化プラスチックの製造方法及びその加熱処理装置

【課題】長大の繊維強化プラスチック成形品に対して加熱硬化処理を可能とする繊維強化プラスチックの製造方法及びその装置を提供する。
【解決手段】繊維強化プラスチック成形品16が帯状品であり、該繊維強化プラスチック成形品全幅に亘る加熱範囲を長手方向に移動させ、任意の部位が所定時間加熱される工程を具備する熱硬化型の繊維強化プラスチックの製造方法に係り、又該繊維強化プラスチックに常温硬化樹脂が使用され、常温硬化後、加熱範囲を長手方向に移動させ、任意の部位が所定時間加熱される工程を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチックの製造方法、特に大型の繊維強化プラスチックの製造方法及びその製造過程で用いられる加熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックの製造方法として、成形型が簡単で、簡便に、而も大型の繊維強化プラスチック成形品を製造可能な方法として、真空圧樹脂含浸成形法(VaRTM:Vacuum assisted Resin Transfer Molding)、或は樹脂含浸成形法(RTM:Resin Transfer Molding)が有る。
【0003】
先ず、図3に於いて、真空圧樹脂含浸成形法(VaRTM)について説明する。
【0004】
図3中、1は成形型であり、図示の成形型1は平板形状の繊維強化プラスチック成形品を製作する場合を示している。
【0005】
前記成形型1上に芯材2を設置する。該芯材2は、例えばカーボンファイバ、ガラスファイバ等を積層して形成した繊維基材である。前記芯材2を目の細かい布材である剥離シート3により覆い、更に、メッシュ布である含浸メディア4により前記剥離シート3に重ねて前記芯材2を覆う。
【0006】
更に、前記含浸メディア4の外周囲迄覆う密閉シート5を被せ、該密閉シート5の周囲をシール材14を介して前記成形型1に密着させる。前記密閉シート5は、例えばポリエチレン等の気密性を有する材質が用いられる。
【0007】
前記密閉シート5の内部、前記芯材2の端部に近接させて樹脂供給ノズル6が配設され、該樹脂供給ノズル6には上流液送チューブ7が連通し、該上流液送チューブ7には樹脂供給源8が接続されている。
【0008】
前記密閉シート5の内部で、前記芯材2を挾んで前記樹脂供給ノズル6と対向する位置に、樹脂吸引ノズル9が配設され、該樹脂吸引ノズル9には下流液送チューブ11を介して真空ポンプ12が接続され、又前記下流液送チューブ11には捕液用のトラップ13が接続される。
【0009】
繊維強化プラスチックを成形する場合は、先ず前記真空ポンプ12によって前記密閉シート5の内部を吸引して真空状態とし、前記芯材2の内部のガスも吸引する。次に、前記樹脂供給源8より前記上流液送チューブ7、前記樹脂供給ノズル6を介して前記密閉シート5の内部に液状の樹脂が供給されると、樹脂は、前記芯材2の上面と前記密閉シート5間の隙間を流れ、余剰の樹脂は前記樹脂吸引ノズル9より吸引され、更に前記トラップ13に捕集される。樹脂が前記芯材2と前記剥離シート3との間を流動することで、樹脂が前記芯材2の内部に染込み、又該芯材2の表面を覆う。
【0010】
該芯材2への樹脂の含浸が完了すると、クリップ等で空間10内を密閉し、真空度を保ったまま前記上流液送チューブ7、前記下流液送チューブ11を切断し、常温で硬化、或は炉で所定温度に加熱維持して硬化させる。硬化後、前記密閉シート5、前記含浸メディア4、前記剥離シート3を剥がし、前記成形型1から成形品(芯材2に樹脂が含浸され、硬化したもの)を取出す。
【0011】
尚、VaRTM成形法、RTM成形法による繊維強化プラスチックの成形については、特許文献1、特許文献2に示されるものがある。
【0012】
一般に、成形後加熱硬化処理することが品質の向上、安定の為好ましいが、大型の成形品では長さが数十mに及ぶものもあり、炉内に装入して加熱硬化処理する為には成形品以上の炉が必要となり、大きな費用負担が生じる。
【0013】
この為、長大の繊維強化プラスチック成形品では、使用される合成樹脂については常温硬化樹脂が用いられ、加熱硬化処理を実施していない。
【0014】
然し乍ら、常温硬化樹脂で硬化した状態であっても、完全には反応しているとは言えず、品質、例えば硬度、強度、安定性等を考慮すると、加熱して後硬化処理を実施することが好ましい。
【0015】
【特許文献1】特開2006−130733号公報
【0016】
【特許文献2】特開2006−240046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は斯かる実情に鑑み、長大の繊維強化プラスチック成形品に対して加熱硬化処理を実施する繊維強化プラスチックの製造方法を提供するものであり、又加熱硬化処理を実施する加熱処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、繊維強化プラスチック成形品が帯状品であり、該繊維強化プラスチック成形品全幅に亘る加熱範囲を長手方向に移動させ、任意の部位が所定時間加熱される工程を具備する熱硬化型の繊維強化プラスチックの製造方法に係り、又前記繊維強化プラスチックに常温硬化樹脂が使用され、常温硬化後、加熱範囲を長手方向に移動させ、任意の部位が所定時間加熱される工程を具備する熱硬化型の繊維強化プラスチックの製造方法に係るものである。
【0019】
又本発明は、繊維強化プラスチック成形品を跨ぐ門型形状の加熱装置本体と、前記繊維強化プラスチック成形品の任意の部位が所定時間加熱される様に前記加熱装置本体を移動させる移動手段を具備した加熱処理装置に係り、又前記加熱装置本体が脚部と脚部上端を結ぶ梁部を有し、前記脚部、前記梁部はそれぞれ連通した中空部を有し、前記加熱装置本体の前後開口部は屈撓自在な断熱カバーによって覆われ、前記梁部に送風機、ヒータが設けられ、前記送風機は前記ヒータで加熱された熱風を前記繊維強化プラスチック成形品に向けて送出すると共に、前記脚部の下端部より熱風を吸引する様構成した加熱処理装置に係り、又前記脚部の下端部に車輪が設けられ、該車輪を介して移動可能となっている加熱処理装置に係り、更に又前記加熱装置本体が移動式クレーンに吊下げられ、該移動式クレーンによって移動可能となっている加熱処理装置に係るものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、繊維強化プラスチック成形品が帯状品であり、該繊維強化プラスチック成形品全幅に亘る加熱範囲を長手方向に移動させ、任意の部位が所定時間加熱される工程を具備するので、成形品の形状の大きさに拘らず、加熱硬化処理を実施可能であり、製品の品質の向上、品質の安定性を向上できる。
【0021】
又本発明によれば、前記繊維強化プラスチックに常温硬化樹脂が使用され、常温硬化後、加熱範囲を長手方向に移動させ、任意の部位が所定時間加熱される工程を具備するので、常温硬化した樹脂の品質、安定性を更に向上させることができる。
【0022】
又本発明によれば、繊維強化プラスチック成形品を跨ぐ門型形状の加熱装置本体と、前記繊維強化プラスチック成形品の任意の部位が所定時間加熱される様に前記加熱装置本体を移動させる移動手段を具備したので、加熱可能な長さに制約がなく、任意の長さの繊維強化プラスチック成形品の後加熱処理が可能であり、更に長尺の成形品の後加熱処理が可能である。
【0023】
又本発明によれば、前記加熱装置本体が脚部と脚部上端を結ぶ梁部を有し、前記脚部、前記梁部はそれぞれ連通した中空部を有し、前記加熱装置本体の前後開口部は屈撓自在な断熱カバーによって覆われ、前記梁部に送風機、ヒータが設けられ、前記送風機は前記ヒータで加熱された熱風を前記繊維強化プラスチック成形品に向けて送出すると共に、前記脚部の下端部より熱風を吸引する様構成したので、熱風が加熱装置本体内部を循環し、熱損失を抑制し、効率よく繊維強化プラスチック成形品を加熱することができる。
【0024】
更に又本発明によれば、前記加熱装置本体が移動式クレーンに吊下げられ、該移動式クレーンによって移動可能となっているので、既存の設備を利用して繊維強化プラスチック成形品を加熱することができるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0026】
尚、本発明の対象となる繊維強化プラスチック成形品を成形する方法、装置としては、上述したVaRTM成形法、RTM成形法及びその装置が使用可能である。
【0027】
以下は、成形後の後加熱処理について説明する。又、図1、図2は、後加熱処理に使用される加熱処理装置の一例を示している。
【0028】
図中、15は加熱処理装置を示し、16は後加熱処理の対象となる繊維強化プラスチック成形品であり、指定幅を有する長尺品(帯状品)である。
【0029】
前記加熱処理装置15は前記繊維強化プラスチック成形品16を跨ぐ門型構造であり、脚部17,17の下端には車輪18が設けられ、又該車輪18はモータ19等の駆動源により駆動され、自走可能となっている。
【0030】
前記脚部17,17及び該脚部17,17に掛渡された梁部21は、それぞれ中空構造となっている。該梁部21の下部には、所要数の送風機22が配設され、又該送風機22の下側にはヒータ23が設けられ、前記送風機22から吐出された熱風24は、前記ヒータ23により100℃〜200℃程度に加熱され、下方に送風される様になっている。又、前記脚部17の下部内側には、吸気口25が設けられており、前記熱風24は前記吸気口25から吸引される。
【0031】
前記梁部21の前縁、後縁からはそれぞれ断熱カバー26が垂下されている。該断熱カバー26は上端が固定され、下端は自由端となっている。前記断熱カバー26の下端は、前記繊維強化プラスチック成形品16から僅かに離れているか、或は僅かに接触しているかいずれであってもよく、前記繊維強化プラスチック成形品16の上面に突起物が有った場合は、該突起物を乗越えられる様になっている。前記断熱カバー26は、屈撓自在の材質が用いられ、例えば、ゴムシートであり、又100℃〜200℃程度の熱に耐え得る材質となっている。
【0032】
前記加熱処理装置15の前側、後側の開口部がそれぞれ前記断熱カバー26によって覆われることで、前記脚部17,17及び前記断熱カバー26,26によって囲まれた空間27が形成される。
【0033】
前記送風機22から前記ヒータ23を介して送出された前記熱風24は、前記空間27を流下し、前記繊維強化プラスチック成形品16を加熱し、加熱後、前記吸気口25より吸引され、前記脚部17及び前記梁部21の内部を循環して再び前記送風機22より送出される様になっている。
【0034】
前記熱風24は略密閉された前記空間27、前記脚部17、前記梁部21の内部を循環する構成であるので、前記熱風24が外部に漏出すること、又外気が浸入することが抑制され、前記空間27の雰囲気温度を高く維持できる。
【0035】
以下、作動について説明する。
【0036】
前記繊維強化プラスチック成形品16は、例えば所定の幅を有する長尺物とする。前記繊維強化プラスチック成形品16を常温で硬化させた後、密閉シート5、樹脂供給ノズル6、樹脂吸引ノズル9等、成形に用いられた部材(図3参照)を除去し、前記繊維強化プラスチック成形品16を跨ぐ様に、前記加熱処理装置15を成形型1上に設置する。尚、該成形型1を跨ぐ様に設置してもよい。
【0037】
前記繊維強化プラスチック成形品16の加熱硬化処理を実行する場合の加熱温度、加熱時間は、プラスチックの組成で決定されるが、例えば、加熱温度100℃、加熱時間を12時間とする。又、前記加熱処理装置15で加熱される範囲をL(前記加熱処理装置15の進行方向についてL)とする。
【0038】
前記加熱処理装置15を停止状態で12時間加熱し、次に前記加熱処理装置15をLだけ走行させ、更に停止させ12時間加熱する。而して、12時間の加熱と走行Lを繰返し、前記繊維強化プラスチック成形品16を全長に亘って加熱する。尚、加熱境界部を形成させない様に、前記加熱処理装置15の移動距離を(L−α)とし、所要部分αが重なる様に加熱してもよい。
【0039】
尚、前記モータ19を駆動する制御部(図示せず)は、タイマ(図示せず)と走行距離を検出する走行距離計(図示せず)を具備し、上記した間欠走行を可能とする。
【0040】
尚、全ての部位が実質的に12時間加熱される様に、前記加熱処理装置15を低速で連続走行させてもよい。
【0041】
又、前記繊維強化プラスチック成形品16の加熱処理を開始した、始端部と終端部とでは、加熱処理に大きな時間差が生じるが、常温硬化した状態から加熱し、前記繊維強化プラスチック成形品16は常温状態で設置されているので、前記繊維強化プラスチック成形品16の加熱が遅くなった部位で、品質が変ることはない。
【0042】
又、前記繊維強化プラスチック成形品16の板厚が厚くて、片面加熱では充分な熱硬化処理が行えない場合は、前記繊維強化プラスチック成形品16を裏返して、更に片面処理を実行する。
【0043】
尚、前記加熱処理装置15を走行させる手段としては、該加熱処理装置15に牽引用のロープを係着し、ウインチ等によりロープを巻取る様にしてもよい。
【0044】
又、前記加熱処理装置15をホイスト式クレーンの様な移動クレーンにより吊下げ、クレーンの走行によって移動させる様にしてもよい。更に又、自走方式の場合、レールを敷設してレール上を走行させる様にしてもよい。
【0045】
又、上記実施例に於いて、前記ヒータ23を前記繊維強化プラスチック成形品16に接近させ、前記ヒータ23により直接前記繊維強化プラスチック成形品16を加熱する様にし、前記送風機22を省略してもよい。
【0046】
本発明によれば、小規模の加熱処理装置15で長大な繊維強化プラスチック成形品16の後加熱処理が可能となり、又大きさに制限を受けることがなく、大小いずれの繊維強化プラスチック成形品16の後加熱処理が実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に用いられる加熱処理装置を示す斜視図である。
【図2】前記加熱処理装置の概略立断面図である。
【図3】真空圧樹脂含浸成形法による繊維強化プラスチック成形についての説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 成形型
15 加熱処理装置
16 繊維強化プラスチック成形品
17 脚部
18 車輪
19 モータ
21 梁部
22 送風機
23 ヒータ
24 熱風
25 吸気口
26 断熱カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチック成形品が帯状品であり、該繊維強化プラスチック成形品全幅に亘る加熱範囲を長手方向に移動させ、任意の部位が所定時間加熱される工程を具備することを特徴とする熱硬化型の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項2】
前記繊維強化プラスチックに常温硬化樹脂が使用され、常温硬化後、加熱範囲を長手方向に移動させ、任意の部位が所定時間加熱される工程を具備する請求項1の熱硬化型の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
繊維強化プラスチック成形品を跨ぐ門型形状の加熱装置本体と、前記繊維強化プラスチック成形品の任意の部位が所定時間加熱される様に前記加熱装置本体を移動させる移動手段を具備したことを特徴とする加熱処理装置。
【請求項4】
前記加熱装置本体が脚部と脚部上端を結ぶ梁部を有し、前記脚部、前記梁部はそれぞれ連通した中空部を有し、前記加熱装置本体の前後開口部は屈撓自在な断熱カバーによって覆われ、前記梁部に送風機、ヒータが設けられ、前記送風機は前記ヒータで加熱された熱風を前記繊維強化プラスチック成形品に向けて送出すると共に、前記脚部の下端部より熱風を吸引する様構成した請求項3の加熱処理装置。
【請求項5】
前記脚部の下端部に車輪が設けられ、該車輪を介して移動可能となっている請求項3又は請求項4の加熱処理装置。
【請求項6】
前記加熱装置本体が移動式クレーンに吊下げられ、該移動式クレーンによって移動可能となっている請求項3又は請求項4の加熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−292117(P2009−292117A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150369(P2008−150369)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】