説明

繊維強化プラスチックの製造方法

【課題】良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する繊維強化プラスチックの製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する。(1)少なくとも積層体の一部に、切り込みにより強化繊維が10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材のみが積層されている領域が形成されるように複数のプリプレグ基材を積層して積層体を得る積層工程、(2)成形型成形型のダブルコンター部に前記領域を配置し、前記領域を伸張させてダブルコンター部に沿わせて成形する成型工程、(3)成形型から繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な流動性、成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する、繊維強化プラスチックの製造方法に関する。かかる繊維強化プラスチックは、例えば自動車などの輸送機器、自転車などのスポーツ用具などの構造部材に特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れること、耐候性、耐薬品性などの高機能特性を有することなどから産業用途においても注目され、その需要は年々高まりつつある。
【0003】
繊維強化プラスチックの成形方法としては、プリプレグ基材と称される連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸せしめた半硬化状態の中間基材を積層し、高温高圧釜で加熱加圧することにより熱硬化性樹脂を硬化させ繊維強化プラスチックを成形するオートクレーブ成形が最も一般的に行われている。また、近年では生産効率の向上を目的として、あらかじめ部材形状に賦形した連続繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸および硬化させるRTM(レジントランスファーモールディング)成形なども行われている。これらの成形法により得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維である所以優れた力学物性を有する。また、連続繊維は規則的な配列であるため、基材の配置により必要とする力学物性に設計することが可能であり、力学物性のバラツキも小さい。しかしながら、一方で連続繊維である所以3次元形状を形成することは難しい、という問題があった。
【0004】
特に複雑な3次元形状の場合、さらにこの問題は深刻であった。複雑な3次元形状に、例えば紙など面内でせん断変形を起こしにくいシートを想像すると分かりやすいが、このような連続繊維基材を賦形した場合には、形状表面を覆いきれない箇所で突っ張りが、基材が余った箇所でシワが発生するため、高品位な賦形が難しい。連続繊維基材であっても、織物基材のように面内でせん断変形が可能な場合は、紙などに比べるとかなり賦形しやすいものの、形状が複雑になれば、やはり繊維の突っ張りやシワが発生してしまう、という問題があった。
【0005】
例えば、BMC(バルクモールディングコンパウンド)(例えば、特許文献1)、SMC(シートモールディングコンパウンド)やスタンパブルシート(例えば、特許文献2)のように束状の不連続繊維を熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂と混合して分散したシート基材を用いれば上述のダブルコンター部を有する3次元形状にも成形追従することが分かっているものの、力学的特性が低いため、構造部材には適用できないという問題があった。
【特許文献1】特開平8−118379号公報
【特許文献2】特開平9−267344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する、繊維強化プラスチックおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(I)一方向に引き揃えられた強化繊維と熱硬化性樹脂から構成されるプリプレグ基材の積層体をホットプレス成形し、ダブルコンター部を有する繊維強化プラスチックとする、繊維強化プラスチックの製造方法であって、前記プリプレグ基材として、該強化繊維を横切る方向に複数の切り込みによって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する、繊維強化プラスチックの製造方法。
(1)前記切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも前記積層体の一部に、前記切り込みにより強化繊維が10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材のみが積層されている領域が形成されるように積層し、平板状の積層体を得る積層工程
(2)成形型上に前記積層体を配置し、加熱して軟化させ、前記積層体を前記成形型に押し付けて硬化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、前記成形型のダブルコンター部に前記領域を配置し、前記領域を伸張させてダブルコンター部に沿わせて成形する成型工程
(3)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程。
【0008】
(II)一方向に引き揃えられた強化繊維と熱可塑性樹脂から構成されるプリプレグ基材の積層体をコールドプレス成形し、ダブルコンター部を有する繊維強化プラスチックとする、繊維強化プラスチックの製造方法であって、前記プリプレグ基材として、該強化繊維を横切る方向に複数の切り込みによって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(4)〜(6)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する、繊維強化プラスチックの製造方法。
(4)前記切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも前記積層体の一部に、前記切り込みにより強化繊維が10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材のみが積層されている領域が形成されるように積層し、平板状の積層体を得る積層工程
(5)前記積層体を加熱して軟化させ、前記積層体よりも低温の成形型上に前記積層体を配置し、前記積層体を成形型に押し付けて固化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、前記成型型のダブルコンター部に前記領域を配置し、前記領域を伸張させてダブルコンター部に沿わせて成形する成型工程
(6)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程。
【0009】
(III)前記切込プリプレグ基材を構成する強化繊維の全てが前記切り込みにより分断されており、前記切り込みにより分断されている繊維長さLが10〜100mmの範囲内である、(I)または(II)に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0010】
(IV)前記切込プリプレグ基材の切り込みが直線状であり、かつ、該切り込みの長さWが2〜100mmであり、断続的かつ周期的に全面にわたって配置されている、(I)〜(III)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0011】
(V)前記切込プリプレグ基材が2層以上連続して隣接し、該2層以上の層のうち隣接する任意の2層について、一方の切込プリプレグ基材上の任意の切り込みの幾何中心と他方の切込プリプレグ基材上のいずれの切り込みの幾何中心とも5mm以上離れる様に積層する、(I)〜(IV)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0012】
(VI)前記切り込みが繊維直交方向から傾いている、請求項(I)〜(V)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0013】
(VII)前記切り込みが強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内である、(I)〜(V)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0014】
(VIII)前記積層体が前記切込プリプレグ基材のみから構成される、(I)〜(VII)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0015】
(IX)前記成形型が片面型であり、該片面型上に前記積層体を配し、前記積層体の上に伸縮性のフィルムを覆って前記積層体を密封し、該密封された空間と外気との差圧により前記積層体を前記片面型に押し付けて成形する、(I)〜(VIII)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0016】
(X)前記成形型が2つ以上の型からなり、型締めにより前記積層体を前記成形型に押し付けるに際し、前記積層体が2つの型両方に最初に接触する領域に連続繊維が配されている、(I)〜(IX)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0017】
(XI)前記積層工程後、前記成形工程に先立って、前記積層体を成形後の繊維強化プラスチックの略形状に予備賦形した後、成形型上に前記積層体を配置する、(I)〜(X)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0018】
(XII)前記積層体をシングルコンター形状に予備賦形する、(XI)に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0019】
(XIII)繊維強化プラスチックの凹凸部において、前記凹凸部の最も形状変化の少ない方向から±10°以下の角度に強化繊維が配向した層を他層より厚く偏肉する、請求項(I)〜(XII)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する、繊維強化プラスチックを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者らは、良好な流動性、複雑な形状の成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する、繊維強化プラスチックの製造方法について、鋭意検討し、一方向に引き揃えられた炭素繊維とマトリックス樹脂から構成されるプリプレグ基材という特定の基材に特定の切り込みパターンを挿入した切込プリプレグ基材を用い、該切込プリプレグ基材を平板状に積層した積層体において切り込みにより特定の範囲内の繊維長さの強化繊維のみから構成される領域を成形型のダブルコンター部に押し付け伸張させて繊維強化プラスチックを成形することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したのである。
【0022】
なお、本発明の製造方法は3次元形状を有し、ダブルコンター部を有する繊維強化プラスチックを対象とする。繊維強化プラスチックの一部にリブやボスなどがあってもよい。本発明において、“ダブルコンター部を有する繊維強化プラスチック”とは、繊維強化プラスチックの表面を二次曲面として取り出してきた際、該二次曲面上の点であって、該点を通るどのような平面を参照しても、該平面と該二次曲面の交線のうち該点を通る交線が直線となることがない点がダブルコンター部に属し、これらダブルコンター部を少なくとも一部に含む繊維強化プラスチックを指す。具体的には鞍型、半球形状や凹凸部を有する平板などが該当するが凹凸部のない平板、円錐形状や円筒形状は該当しない。本明細書では、特に断らない限り、繊維あるいは繊維を含む用語(例えば“繊維方向”など)において、繊維とは強化繊維を表すものとする。また、本明細書では連続繊維とは100mm以上の繊維長さを持つ強化繊維を指す。本発明で用いられるプリプレグ基材には、一方向に引き揃えられた強化繊維や強化繊維基材に樹脂が完全に含浸した基材に加え、樹脂シートが繊維間に完全に含浸していない状態で一体化した樹脂半含浸基材(セミプレグ:以下、半含浸プリプレグと称することもある。)を含むものとする。
【0023】
本発明で用いられる切込プリプレグ基材は、一方向に引き揃えられた強化繊維とマトリックス樹脂とから構成され、該強化繊維を横切る方向に複数の切り込みによって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断しているものを指す。切込プリプレグ基材上において強化繊維が10〜100mmの長さに分断されている領域は、成形時に基材が伸長することができる領域に対応している。したがって、複雑形状の繊維強化プラスチックを成形するにあたり、凹凸部に対応する領域の積層体は、切込プリプレグ基材上で切り込みによって強化繊維が10〜100mmの長さに分断されている領域が積層されていることを必須とする。
【0024】
本発明に用いる切込プリプレグ基材は強化繊維が一方向に引き揃えられているので、繊維方向の配向制御により任意の力学物性を有する成形体の設計が可能となる。加えて、繊維を横切る方向に複数の切り込みによって少なくとも一部の繊維を100mm以下の長さに分断していることによって、成形時に繊維が流動可能、特に繊維長手方向にも流動可能となり、複雑な形状の成形追従性にも優れる。該切り込みがない場合、すなわち連続繊維のみの場合、繊維長手方向には流動しないため、複雑形状を形成することは出来ない。一方、繊維長さを10mm未満にすると、さらに流動性が向上するが、他の要件を満たしても構造材として必要な高力学特性は得られない。流動性と力学特性との関係を鑑みると、繊維長さが10〜100mmである必要があり、さらに好ましくは20〜60mmの範囲内である。
【0025】
図5に切込プリプレグ基材の流動のメカニズムの例を示した。図5a)のとおり、90°のプリプレグ基材に0°の切込プリプレグ基材が挟まれた積層体12の上から圧力13が加わり成形する際、図5b)のように、圧力で押し出された樹脂が90°方向に流れ14を作り、その流れに従って強化繊維の端部の開き15が起こる。すなわち、一方向に引き揃えられた繊維からなるプリプレグ基材に切り込みを設け、少なくとも一部の強化繊維が10〜100mmの長さである切込プリプレグ基材を積層することではじめて、繊維長手方向への流動が可能となり、複雑な形状の成形追従性が生まれる。
【0026】
このように繊維の流動は樹脂の流動が駆動源であるため、適性のVf(繊維体積含有率)であることが好ましい。すなわち、Vfは65%以下で十分な流動性が得られるようになり好ましい。また、Vfが低いほど流動性は向上するが、Vfが45%を下回ると、構造材に必要な高力学特性が得られなくなる可能性があるので、Vfは45%以上であることが好ましい。流動性と力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは55〜60%の範囲内である。
【0027】
本発明では、上記切込プリプレグのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、繊維強化プラスチックを成形するにあたり、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経ることが必要である。
(1)切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも積層体の一部に、切り込みにより強化繊維が10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材のみが積層されている領域が形成されるように積層し、平板状の積層体を得る積層工程
(2)成形型上に積層体を配置し、加熱して軟化させ、積層体を成形型に押し付けて硬化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、成形型のダブルコンター部に前記領域を配置し、前記領域を伸張させてダブルコンター部に沿わせて成形する成型工程
(3)成形型から繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程。
【0028】
例えば、図1c)のように平板上に半球状のダブルコンター部を有する繊維強化プラスチックを製造するにあたり、次のような工程を順次経る。
【0029】
まず、切込プリプレグ基材を少なくとも含む複数枚のプリプレグ基材を積層して平板状の積層体を作成する。プリプレグ基材を、成形型に沿って一枚一枚積層、賦形しながら積層体を作製したり、最終形状である成形後の繊維強化プラスチックの略形状(得られる繊維強化プラスチックの形状を単純にした形状であって、凹凸の数が少なくなったり、起伏が少なくなったりした形状)に沿って一枚一枚積層、賦形しながら積層体を作製したりする方法も考えられるが、本発明によればプリプレグ基材を一気に平板状に積層するだけで成形可能であり、低コストに積層体を作成することができる。さらに図4に示すように、少なくともこの積層体の一部が、切り込みにより繊維が10〜100mmの長さに分断された切込プリプレグ基材のみが積層されてなる領域37を形成することを必須とする。すなわち、領域37では積層体の厚み方向に、実質的に10〜100mmの繊維のみからなる、切込プリプレグ基材のみが積層されている。ここで”実質的に10〜100mmの繊維のみからなる”とは該領域に含まれる強化繊維本数のうち95%以上が10〜100mmに分断されていることを言う。該領域を以下、積層体の不連続部と称す。
【0030】
複雑形状を有する繊維強化プラスチックを成形するにあたり、複雑形状に対応する積層体の領域が不連続部であることで、成形時に容易に伸張することができ、複雑形状に沿わせることができる。図4a)、b)はそれぞれの積層体の一部に不連続部を有した例を示しており、それぞれ上図は平面図、下図はA−A断面の断面図を示す。図4a)は全面に切り込みを入れられた切込プリプレグ基材10aを5層積層した上に、切込プリプレグ基材10aより小さな連続繊維からなるプリプレグ基材11を1層表層に積層した例を示す。連続繊維からなるプリプレグ基材11に覆われていない領域37が不連続部にあたる。なお、連続繊維からなるプリプレグ基材としては、一方向に連続繊維を引き揃えたプリプレグ基材や織物のプリプレグ基材などが考えられる。図4b)は一部に切り込みを入れられた切込プリプレグ基材10bを5層積層した積層体12で、積層された切込プリプレグ基材10bはすべて図4b)の上図のように左端の領域にのみ切り込みが入れられている例を示す。各切込プリプレグ基材10bの切り込みが入れられている領域が重なって積層されている領域37が不連続部にあたる。
【0031】
ダブルコンター部を有する繊維強化プラスチックを成形するに当たり、連続繊維基材を用いて成形する場合は、繊維強化プラスチックの表面形状を展開した平面状のカットパターンを作成し、該カットパターンで裁断した連続繊維基材を成形型に厳密に沿わせて賦形し、積層数分だけそれを繰り返して積層体を作製する必要がある。一方、本発明に係る切込プリプレグ基材を用いて成形する場合には、不連続部が伸張して複雑形状に沿うため、複雑なカットパターンとしなくてもよく、また成形型(すなわち成形後の繊維強化プラスチック)の形状に完全に沿わせて賦形しなくても(すなわち成形後の繊維強化プラスチックの略形状に賦形しても)よいため、一気に平板状に積層した後に成形型上に配置できるので、極めて高効率に繊維強化プラスチックを製造できる。
【0032】
次に、成形型もしくは成形型と積層体両方を加熱しておき、積層体を成形型上に配置し、積層体を加熱して軟化させ、積層体を成形型に押し付けて硬化させるホットプレス成形により繊維強化プラスチックを成形する。本発明におけるホットプレス成形は、加熱した両面型で機械的にプレスする圧縮成形だけでなく、加熱した片面型にバッグフィルム等で押し付けたり、加熱したローラーなどで加圧しながら形状に沿わせたりするホットドレープ成形も含む。図1b)のように、前記不連続部を成形型のダブルコンター部上に配置し、不連続部を伸張させてダブルコンター部に積層体を沿わせて成形することを必須とする。成形型としては、例えば片面型を用いフィルムなどで密封して真空引きし、大気圧との差圧で型に積層体を押し付けでもよいし、上型と下型からなる両面型や、さらに複雑形状に対応した3つ以上の型からなる分割型を用いて、プレス成形してもよい。
【0033】
最後に、成形型から繊維強化プラスチックを取り出す。熱硬化性樹脂の硬化が終わった後、もしくは脱型可能な程度硬化した後、成形型から繊維強化プラスチックを取り出す。繊維強化プラスチックを取り出した後、別のオーブンに入れ、後硬化させてもよい。
【0034】
また、本発明の別の一態様として、上記切込プリプレグ基材のマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合、繊維強化プラスチックを成形するにあたり、少なくとも次の(4)〜(6)の工程を順次経ることが必要である。
(4)切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも積層体の一部に、切り込みにより強化繊維が10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材のみが積層されている領域が形成されるように積層し、平板状の積層体を得る積層工程
(5)積層体を加熱して軟化させ、積層体よりも低温の成形型上に積層体を配置し、積層体を成形型に押し付けて固化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、成型型のダブルコンター部に前記領域を配置し、前記領域を伸張させてダブルコンター部に沿わせて成形する成型工程
(6)成形型から繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程。
【0035】
まず、切込プリプレグ基材を少なくとも含む複数枚のプリプレグ基材を積層して平板状に積層体を作成する。マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いた際と同様に、少なくとも一部に不連続部を有する積層体を作製する。プリプレグを積層する際、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂にタックがないため、単純に重ねるだけでもよいし、加熱して各層を融着させ一体化させておいてもよい。複雑なカットパターンが必要ないメリット、成形後の繊維強化プラスチックの形状に完全に沿わせて賦形しなくてもよいメリット、一気に平板状に積層できるメリットにより、極めて高効率に繊維強化プラスチックを製造できる。
【0036】
次に、積層体をマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂のもしくは融点付近もしくはそれ以上にIRヒーターやオーブンなどで加熱しておき(ただし、融点よりも高い温度に加熱する際は、高温に暴露する時間を短くする)。軟化させ、室温、もしくは積層体よりも低温に温度制御された成形型上に積層体を配置し、積層体を成形型に押し付けて、積層体を冷却、固化させるコールドプレス成形により繊維強化プラスチックとする。この際、図1b)のように、前記不連続部を成形型のダブルコンター部上に配置し、不連続部を伸張させてダブルコンター部に積層体を沿わせて成形することを必須とする。成形型としては、いろいろな型が考えられる。例えば片面型を用いフィルムなどで密封して真空引きし、大気圧との差圧で型に積層体を押し付けでもよいが、中でも両面金型を用いるのが好ましい。両面金型でコールドプレスを行うことで、すばやく積層体から熱を奪うことができ、高効率に繊維強化プラスチックを製造することができる。
【0037】
最後に、成形型から繊維強化プラスチックを取り出す。得られた繊維強化プラスチックにアニーリングなどの処理を加えてもよい。一般的に、熱可塑性樹脂を用いた成形は熱硬化性樹脂を用いた成形よりも成形サイクルタイムが早く、また脱型も容易である、というメリットがある。
【0038】
このようにして、本発明によれば、繊維強化プラスチックの形状が複雑形状であっても、熱硬化性樹脂を用いても、熱可塑性樹脂を用いても、高力学特性を有する繊維強化プラスチックを容易に製造することが可能である。
【0039】
こうして得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維基材のように成形時に繊維が突っ張ることがないため、積層体がしっかり成形型に押し付けられ、充分に型面が転写された高品位な表面を得ることができる。また、最終形状である繊維強化プラスチックよりも小さめに積層体を用意してもよいため、嵩高である積層体が成形型に収まりきれずバリやシワ、型間への繊維噛み込みが発生すること少ない。また、マッチドダイを用いることで、トリムレスの繊維強化プラスチックを得ることができる。繊維強化プラスチックの特徴としては、少なくとも繊維強化プラスチックの一部の領域(特にダブルコンター部)に含まれるすべての強化繊維の繊維長さLcが10〜100mmの範囲内である。
【0040】
さらに好ましくは、切込プリプレグ基材を構成する強化繊維の全てが前記切り込みにより分断されており、前記切り込みにより分断されている繊維長さLが10〜100mmの範囲内である。切込プリプレグ基材の全ての繊維長さLを100mm以下とすることで、最終的に製造される繊維強化プラスチックの形状を考慮することなく、切込プリプレグ基材や積層体を製造することができるため、設計、作業効率の面で大きなメリットがある。また、積層時にトラップされた空気が厚み方向に切り込みを通じて脱気しやすく、ボイドが発生しにくく、高力学特性が期待できる。なお、本発明において“強化繊維の全てが前記切り込みにより分断され”ているとは、プリプレグ基材に含まれる強化繊維本数のうち95%以上が10〜100mmに分断されていることを言う。
【0041】
好ましい切込プリプレグ基材の切り込みの形態の一つとして、切り込みが直線状であり、かつ、切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが30μm〜100mmであり、断続的かつ周期的に全面にわたって配置されている切込プリプレグ基材が挙げられる。切り込みが連続的ではなく断続的に入っていることで、切込プリプレグ基材が切り込みによりばらばらになることなく、積層時などの取り扱い性に優れる。また、周期的に切り込みが配置することで、切り込みの位置を制御することができ、物性を制御することができる。ここで、“切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs”とは図2に示すとおり、切り込み4を強化繊維3の垂直方向(繊維直交方向2)を投影面として、切り込み4から該投影面に垂直(繊維長手方向1)に投影した際の長さ9を指す。また、切り込みが“全面にわたって配置されている”とは、切込プリプレグ基材全面に含まれる強化繊維をすべて10〜100mmの長さに分断する切り込みを設けることを意味する。
【0042】
切り込みにより生成された繊維束端部は、繊維強化プラスチックに荷重が加わったときに応力集中が起こり、破壊の起点となる可能性が高い。したがって、切り込みが小さい方が強度上有利である。Wsは分断する強化繊維の量を示す指標であり、Wsが100mm以下の場合には強度が大きく向上する。しかしながら、Wsが30μmより小さくとなると、切り込みの制御が難しくなる場合があり、強化繊維の不連続部全体に渡ってLが10〜100mmとなるよう、保障することが難しくなることがある。すなわち、切り込みにより切断されていない繊維が複雑形状に沿うことを期待されている不連続部中に存在すると、繊維が突っ張り流動性は著しく低下することがあるが、長めに切り込みを入れるとLが10mmを下回る領域が多くなってしまい設計値より低い強度となってしまうことがある、という問題点がある。逆にWsが100mmより大きいときにはほぼ強度が一定に落ち着く。すなわち、繊維束端部がある一定以上に大きくなると、破壊が始まる荷重がほぼ同等となる。さらに好ましくは、Wsが1.5mm以下であるときに、強度向上が著しい。すなわち、簡易な装置で切り込みを挿入することができるという観点からは、Wsは1〜100mmであることが好ましく、一方、切り込みの制御のしやすさと力学特性との関係を鑑みると、Wsは30μm〜1.5mmであることが好ましく、さらに好ましくは50μm〜1mmの範囲内である。
【0043】
以下、好ましい切り込みパターンの一例を、図2を用いて説明する。
【0044】
強化繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材上に制御されて整列した切り込み4を複数入れる。繊維長手方向1の対になる切り込み同士で繊維が分断され、その間隔6を10〜100mmとすることで、プリプレグ基材上の強化繊維の繊維長さLを実質的に10〜100mmにすることができる。
【0045】
図2では繊維長さLと切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsがいずれも一種類である例を示している。第1の断続的な切り込みからなる列7aと、第3の断続的な切り込みからなる列7cは繊維長手方向1にL平行移動することで重ねることができ、また、第2の断続的な切り込みからなる列7bと、第4の断続的な切り込みからなる列7dは繊維長手方向1にL平行移動することで重ねることができる。また、第1、第2の切り込みの列と第3、第4の切り込みの列に互いに切り込まれた繊維があり、繊維長さL以下に切り込まれた幅5が存在することによって、安定的に繊維長さを100mm以下で切込プリプレグ基材を製造できる。切り込みのパターンとしては図3のa)〜f)にいくつか例示したが、上記条件を満たせばどのようなパターンでも構わない。図3において、強化繊維の配列の図示は省略されているが、強化繊維の配列方向は、図2において上下方向である。図3のa)、b)あるいはc)は、切り込みが繊維直交方向2に入っている態様、図2のd)、e)あるいはf)は、切り込みが繊維直交方向2から傾いている様態を示している。対になる切り込み以外の切り込みに分断される繊維の中には、前記繊維長さより短い繊維も存在するが、かかる繊維は本発明で規定する繊維長さLを有する繊維には含まない。そして、そのような10mm以下の繊維は少なければ少ないほどよい。
【0046】
図5でも説明したとおり、本発明で用いられる切込プリプレグ基材は、90°方向への樹脂の流動が繊維の流動の駆動力であるため、繊維が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材を2層以上異なる繊維方向に積層すると、繊維長手方向への流動性が発現する。したがって、切込プリプレグ基材に隣接する層は一方向に強化繊維が配向したプリプレグ基材(本発明に係る切込プリプレグ基材を含む)であり、切込プリプレグ基材とは異なる繊維方向に積層されているのがよい。やむを得ず同一繊維方向の切込プリプレグ基材を隣接して積層する際には、切り込みが重ならないように積層するのがよい。またこれら切込プリプレグ基材の層間に樹脂フィルムなどを積層し、流動性を向上させてもよい。また流動しなくてもよい領域には連続繊維基材を配し、さらにその領域の力学特性を向上させることもできる。
【0047】
層同士で繊維方向が異なると、層ごとの流動方向、距離に違いが生じるが、層間が滑ることで変位差を吸収できる。すなわち、繊維体積含有率Vfが45〜65%と高くても、本発明に用いる積層体は層間に樹脂を偏在させることができる構成のため、高い流動性を発現することができる。SMCの場合、ランダムに分散したチョップドストランド同士で流動性が異なり、互いに違う方向に流動しようとするが、繊維同士が干渉して流動しにくく、最大でVfが40%程度までしか流動性を確保することができない。すなわち、本発明に用いる積層体は力学特性を向上することができる高Vfの構成であっても高い流動性を発現できる、という特徴を有する。また、本流動性の特長により、得られた繊維強化プラスチックは、複雑形状であっても積層構造を保つことができ、高い弾性率や強度が発現し、強度ばらつきが低減し、さらに衝撃特性も大きく向上する。
【0048】
さらに好ましくは、切込プリプレグ基材が2層以上連続して隣接し、該2層以上の層のうち隣接する任意の2層について、一方の切込プリプレグ基材上の任意の切り込みの幾何中心と他方の切込プリプレグ基材上のいずれの切り込みの幾何中心とも5mm以上離れる様に積層するのがよい。隣接する切込プリプレグ基材の切り込みの幾何中心同士が離れているのは、2つの意味で重要である。一つ目は、成形時に積層体が伸張される際、切り込み同士がつながっていると、そこから裂け易く、本発明の成形が失敗してしまうことがあるからである。また、成形時に裂けなくても、切り込みの幾何中心同士が近い領域では繊維含有率が低くなり、肉厚が減ってしまうなどの、品質に影響を与えてしまう可能性がある。二つ目は、繊維強化プラスチックとなった際、切り込みによって分断された強化繊維束端部は、いわゆる応力集中点のため、破壊の起点となりやすいが、切り込み同士がつながっていると、容易にクラックがつながりやすく、強度が低くなる場合がある。図6に、積層された切込プリプレグ基材の2層の関係を図示したが、1層目の切り込み4aと2層目の切り込み4bの内、最近接の切り込みの幾何中心8同士が図6b)〜d)のように離れており、好ましくは5mm以上離れていれば、成形時の懸念点も、物性面の懸念点も問題なくクリアできるが、図6a)のように、5mmより近づくと、問題が起こってくることがある。なお、ここで言う“幾何中心”とは、そのまわりで一次モーメントが0であるような点であり、切り込み上の点xに対して、幾何中心点gが次のような式が成り立つ。
【0049】
【数1】

【0050】
本発明に係る切込プリプレグ基材を得るためにプリプレグ基材に切り込みを入れる方法としては、まず一方向に引き揃えられた連続繊維のプリプレグ基材を作製し、その後カッターを用いての手作業や裁断機により切り込みを入れる方法、あるいは一方向に引き揃えられた連続繊維のプリプレグ基材製造工程において所定の位置に刃を配置した回転ローラーを連続的に押し当てたり、多層にプリプレグ基材を重ねて所定の位置に刃を配置した型で押し切ったりするなどの方法がある。成形現場などで簡易にプリプレグ基材の一部に切り込みを入れる場合には前者が、生産効率を考慮し大量に切込プリプレグ基材を作製する場合、特に全面に切り込みを入れる場合には後者が適している。回転ローラーを用いる場合には、直接ローラーを削りだして所定の刃を設けてもよいが、マグネットローラーなどに平板を削りだして所定の位置に刃を配置したシート状の型を巻きつけることにより、刃の取りかえが容易で好ましい。このような回転ローラーを用いることで、Wsの小さな(具体的には1mm以下であっても)切込プリプレグ基材でも良好に切り込みを挿入することができる。切り込みを入れた後、さらに、切込プリプレグ基材をローラーなどで熱圧着することで、切り込み部に樹脂が充填、融着することにより、取り扱い性を向上させてもよい。
【0051】
このようにして得られた切込プリプレグ基材の一例を用いて本発明により成形して得た繊維強化プラスチックの特徴を、図7を用いて説明する。切り込み4が繊維3を90°方向に横切っている切込プリプレグ基材10を積層した積層体12の一部をa)、その積層体12を本発明により成形して得た繊維強化プラスチック16の一部をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材10由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。図7a)の切込プリプレグ基材10は、図3a)〜c)のように、繊維に垂直な切り込みを全面に設けられており、切り込み4は層の厚み方向に貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、容易に積層体12より面積が伸長した繊維強化プラスチック16を得ることができる(ただし、厚みは減る)。図7b)のように、伸長した繊維強化プラスチック16を得た際、切込プリプレグ基材10由来の短繊維層17は、繊維垂直方向に伸長すると共に、繊維が存在しない領域(切り込み開口部)18が生成される。これは一般的に強化繊維が成形程度の圧力では伸長しないためであり、図7のケースでは、伸張した長さ分だけ切り込み開口部18が生成される。この領域18は断面図に示すとおり、隣接層19が侵入してきて、略三角形の樹脂リッチ部20と隣接層19が侵入している領域とで占められる。例えば、繊維強化プラスチックの表層に、全面に切り込みを入れた切込プリプレグ基材が配されている場合、繊維が流動した領域では積層体切り込み開口部18が観察される、という特徴がある。さらに好ましくは、繊維強化プラスチックを構成する層すべてが、繊維長さLcが10〜100mmの範囲内であり、幅Wscが30μm〜150mmの短冊状の集合体から構成されることである。本発明において、図7の点線で囲まれた領域35に示したように、2つの対になる繊維束分断部22に囲まれた領域を短冊状と表現する。切込プリプレグ基材の切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsに対して、成形後の繊維垂直方向の広がり幅である短冊状の幅Wscは、成形により最大50%程度まで伸張されることが予想されるため、Wscは30μm〜150mmの範囲となる。
【0052】
図3a)〜c)のように切り込みが繊維に垂直な切込プリプレグ基材以外の本発明に好適に用いられる切込プリプレグ基材としては、図3d)〜f)に示すように、切り込みが繊維直交方向2から傾いているのがよい。工業的に回転ローラーなどで切り込みを入れる際、繊維方向に供給されたプリプレグ基材に繊維直交方向2に切り込みを入れようとすると、繊維を一気に分断する必要があり、大きな力が必要な他、刃の耐久性が低くなり、また繊維が直交方向2に逃げやすく、繊維の切り残りが増える。一方、切り込みが繊維直交方向2から傾いていることにより、刃の単位長さあたり裁断する繊維量が減少し、小さな力で繊維を裁断でき、刃の耐久性が高く、繊維の切り残り少なくできる。さらに、切り込みが繊維直交方向2から傾いていることにより、切り込み長さに対して、切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを小さくすることができ、一つ一つの切り込みにより分断される繊維量が減ることにより、強度向上が見込まれる。繊維直交方向2に切り込みを入れる場合には、Wsを小さくするために、小さな刃を用意するのが好ましいが、小さくし過ぎると耐久性、加工性に問題が生じる可能性がある。
【0053】
さらに別の切込プリプレグ基材の好ましい形態としては、切り込みが強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内である切込プリプレグ基材が挙げられる。この切込プリプレグ基材の場合は、断続的な切り込みであって、かつ切り込みが強化繊維となす角度Θが小さい、図9のような切り込みでもよいし、図8に示すような連続的な切り込みでも良い。Θの絶対値が25°より大きくても流動性は得ることができ、従来のSMCなどと比較して高い力学特性は得ることができるが、特にΘの絶対値が25°以下であることで力学特性の向上が著しい。一方、Θの絶対値は2°より小さくても流動性も力学特性も十分得ることが出来るが、切り込みを安定して入れることが難しくなる。すなわち、繊維に対しする切り込みの角度が小さくなってくると、切り込みを入れる際、繊維が刃から逃げやすく、また、繊維長さLを100mm以下とするためには、Θの絶対値が2°より小さいと少なくとも切り込み同士の最短距離が0.9mmより小さくなるなど、生産安定性に欠ける場合がある。また、このように切り込み同士の距離が小さいと積層時の取り扱い性が難しくなるという問題が生じることがある。切り込みの制御のしやすさと力学特性との関係に鑑みると、さらに好ましくは5〜15°の範囲内である。
【0054】
切り込みは図10c)のように曲線でも構わないが、直線状が流動性をコントロールしやすく好ましい。また、切り込みにより分断される強化繊維の長さLは図10b)のように一定でなくてもよいが、図10a)のように繊維長さLが全面で一定であると流動性をコントロールしやすく、強度ばらつきをさらに押さえることができるため好ましい。なお、ここで規定の直線状とは、幾何学上の直線の一部をなしている状態を意味するが、前記流動性のコントロールを容易とするという効果を損なわない限り、前記幾何学上の直線の一部をなしていない箇所があっても差支えが無く、その結果、繊維長さLが全面で一定とはならない箇所があっても(この場合、繊維長さLが実質的に全面で一定であると言えるので)差支えが無い。
【0055】
好ましい例[1]としては、図8や図10a)〜c)のように、切り込み4cが連続して入れられているのがよい。例[1]のパターンでは、切り込み4cが断続的でないため、切り込み端部付近での流動乱れが起きず、切り込み4cを入れた領域では、すべての繊維長さLを一定とすることができ、流動が安定している。切り込みをプリプレグ基材全面に設ける場合、切り込み4cが連続的に入れられているため、切込プリプレグ基材10がばらばらになってしまうのを防ぐ目的で、切込プリプレグ基材の周辺部に切り込みがつながっていない領域を設けたり、切り込みの入っていないシート状の離型紙やフィルムなどの支持体で把持することで、取り扱い性を向上させることができる。また、積層時の取り扱い性を向上するために、図17のようにあらかじめ切り込みを連続的に入れた上記切込プリプレグ基材を切り込みが重ならないように2枚重ねて積層した2層積層体としてもよい。
【0056】
また、他の好ましい例[2]としては、図9に示すように、強化繊維の垂直方向に投影した長さ9をWsとするとWsが30μm〜100mmの範囲内である断続的な切り込み4dが切込プリプレグ基材10全面に設けられており、切り込み4dと前記切り込み4dの繊維長手方向に隣接した切り込み4dの幾何形状が同一であるとよい。図9では、LとWsがいずれも一種類である例を示している。いずれの切り込み4d(例えば4d)も繊維方向に平行移動することで重なる他の切り込み4d(例えば4d)がある。前記繊維方向の対になる切り込み4d同士により分断される繊維長さLよりさらに短い繊維長さで隣接する切り込みにより分断され繊維が分断される幅5が存在することによって、安定的に繊維長さを100mm以下で切込プリプレグ基材10を製造できる。例[2]のパターンでは、得られた切込プリプレグ基材10を積層する際、切り込みが断続的なため取り扱い性に優れる。図10d)、e)にはその他のパターンも例示したが、上記条件を満たせばどのようなパターンでも構わない。
【0057】
このようにして得られた好ましい例[1]の切込プリプレグ基材を用いて本発明により成形して得られた繊維強化プラスチックの繊維強化プラスチック16の特徴を、図11を用いて説明する。本発明に係る切込プリプレグ基材10を積層した積層体12の一部をa)、その積層体12を本発明により成形して得た繊維強化プラスチックの繊維強化プラスチック16の一部をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材10由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材10は、繊維3との角度が25°以下の切り込み4cを全面に設けられており、切り込み4cは層の厚み方向を貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、容易に積層体12より面積が伸長した繊維強化プラスチック16を得ることが出来る。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック16を得た際、切込プリプレグ基材10由来の短繊維層17は、繊維垂直方向に伸長すると共に、繊維3自体が回転24して伸長領域の面積を稼ぐため、図7のように繊維が存在しない領域(切り込み開口部)18が実質的に生成せず、切り込み開口部の層の表面における面積が層の表面積と比較して10%以下である。従って、断面図からも分かるとおり、隣接層19が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高剛性、高強度で品位の高い繊維強化プラスチック16を得ることが出来る。面内全体にくまなく繊維3が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この繊維が回転して伸長し、層うねりのない繊維強化プラスチックを得るというさらなる画期的効果は、切り込みの繊維となす角度Θの絶対値が25°以下であることで初めて得ることができる。また、強度の面では、前述と同様に荷重方向から±10°以下程度に向いている繊維に注目すると、図11b)のように、繊維束端部22が荷重方向に対して寝てきている様子がわかる。繊維束端部22が層厚み方向に斜めとなっているため、荷重の伝達がスムーズであり、繊維束端部22からの剥離も起こりにくい。従って、図7に比べさらなる強度向上が見込まれる。この繊維束端部22が層厚み方向に斜めとなるのは上述の繊維が回転する際、上面と下面の摩擦により上面から下面で繊維3の回転24になだらかな分布があるためで、そのため、層厚み方向に繊維3の存在分布が発生し、繊維束端部22が層厚み方向に斜めとなったと考えられる。このような繊維強化プラスチック16の層内で層厚み方向に斜めの繊維束端部を形成し、強度を著しく向上するというさらなる画期的効果は、切り込み4cの繊維3となす角度Θの絶対値が25°以下であることで初めて得ることができる。
【0058】
一方、図12には、好ましい例[2]の切込プリプレグ基材10を積層した積層体12の一部をa)、その積層体12を成形した繊維強化プラスチック16の一部をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材10由来の層をクローズアップした平面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材10は、繊維3となす角度Θの絶対値が25°以下の断続的な切り込み4dが全面に設けられており、切り込み4dは層の厚み方向を貫いている。切り込み4dにより繊維長さLを切込プリプレグ基材10の全面で100mm以下とすることで、流動性が確保され、容易に積層体12より面積が伸長した繊維強化プラスチック16とすることができる。切り込み長さ、切り込み角度を小さくすることにより、切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることができる。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック16を得た際、切込プリプレグ基材10由来の短繊維層17は、繊維垂直方向に伸長する際、繊維方向に繊維が伸張しないため、繊維が存在しない領域(切り込み開口部)18が生成されるが、隣接する短繊維群が繊維垂直方向に流動することで、切り込み開口部18を埋め、切り込み開口部18の面積が小さくなる。この傾向は特に、切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで顕著となり、実質的に切り込み開口部18が生成せず、切り込み開口部18の層の表面における面積が層の表面積と比較して0.1〜10%の範囲内とすることができる。従って、厚み方向に隣接層が侵入することもなく、層のうねりや樹脂リッチ部のない高剛性、高強度で品位の高い繊維強化プラスチック16を得ることが出来る。面内全体にくまなく繊維3が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この切り込み開口部18を繊維垂直方向の流動により埋め、層うねりのない繊維強化プラスチック16を得るという画期的効果は切り込み角度Θの絶対値が25°以下であり、かつ切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで初めて得ることができる。さらに好ましくはWsが1mm以下であることにより、より高剛性、高強度、高品位とすることができ、外板部材としての適用も可能となる。
【0059】
さらに、積層体が切込プリプレグ基材のみから構成されるのが、流動性向上のために好ましい。さらに好ましくは、積層体が切込プリプレグ基材のみから構成され、かつ、その切込プリプレグ基材を構成する強化繊維の全ての繊維長さLが10〜100mmの範囲内であるのが良い。形状に合わせて切り込みを入れるのは、設計、作業の面で非常に手間がかかりやすいため、品質安定性のためにも、全面に切り込みを入れ、積層体のどの領域が複雑形状にあたっても沿いやすくしておくことが好ましい。また、全面に切り込みを入れることで、積層体は平板状であっても、積層体が全体的に伸張し、隅々まで繊維が行き渡った繊維強化プラスチックとなるため、本発明を高効率に実施できる。また、成形型のキャビティより積層体を小さく用意することができ、型間に積層体が噛み込むことなく型締めが容易となる。
【0060】
本発明に係る切込プリプレグ基材に用いられる強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。その中でも特に炭素繊維は、これら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、軽量化が望まれる自動車パネルなどの部材に好適である。なかでも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が好ましい。
【0061】
本発明に係る切込プリプレグ基材に用いられるマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、シリコーンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。その中でも特に熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であることにより、切込プリプレグ基材は室温においてタック性を有しているため、該基材を積層した際に上下の該基材と粘着により一体化され、意図したとおりの積層構成を保ったままで成形することができる。
【0062】
また、本発明に係る切込プリプレグ基材はテープ状支持体に密着されていてもよい。切り込みが挿入された基材は、全ての繊維が切り込みにより切断されてもその形態を保持することが可能となり、賦形時に繊維が脱落してバラバラになってしまうという問題はない。マトリックス樹脂がタック性を有する熱硬化性樹脂であるとさらに好ましい。ここで、テープ状支持体とは、クラフト紙などの紙類やポリエチレン・ポリプロピレンなどのポリマーフィルム類、アルミなどの金属箔類などが挙げられ、さらに樹脂との離型性を得るために、シリコーン系や“テフロン(登録商標)”系の離型剤や金属蒸着などを表面に付与しても構わない。
【0063】
さらに好ましくは熱硬化性樹脂の中でも、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂などや、それらの混合樹脂がよい。これらの樹脂の常温(25℃)における樹脂粘度としては、1×10Pa・s以下であることが好ましく、この範囲内であれば本発明に好適なタック性およびドレープ性を有するプリプレグ基材を得ることができる。中でもエポキシ樹脂は炭素繊維と組み合わせて得られる強化繊維複合材料としての力学特性に最も優れている。
【0064】
本発明に好適なマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合の成形条件としては、成形工程における成形型の温度T1と、脱型工程における成形型の温度T2とを実質的に一定とするのがよい。なお、成形型の温度は積層体に触れるキャビティの表面を複数点(上下型ある場合には、少なくとも一点以上どちらの型も測定)、熱電対で測定した温度の平均で代表する。ここで、本発明における金型温度Tが実質的に一定とは、通常金型温度の変動が±10℃の範囲内であることを表す。また、T1、T2ともに経時的に変化しないのがよい。
【0065】
本発明において、繊維強化プラスチックは、金型温度Tが、プリプレグ基材に用いられる熱硬化性樹脂の示差走査熱量測定(DSC)に拠る発熱ピーク温度Tpに対して、
Tp−60≦T≦Tp+20・・・(I)
の範囲内で製造することが好ましい。さらに好ましくは、
Tp−30≦T≦Tp・・・(II)
の範囲内である。金型温度Tが、Tp−60より低い場合、樹脂の硬化に要する時間が非常に長くなり、また硬化が不十分である場合もある。一方、Tp+20より高い場合、樹脂の急激な反応により樹脂内部でのボイドの生成、硬化不良を引き起こすことがある。なお、本発明におけるDSCに拠る発熱ピーク温度Tpは、JIS K 7121(1987)に準じて行われ、温度30〜180℃で、昇温速度10℃/分の条件にて昇温させて得た発熱曲線のピークをとった値である。JIS K 7121(1987)に言う試験片は、本発明においてはペーストである。従って、「試験片の状態調節」、「試験片」はそれぞれ「ペーストの状態調節」、「ペースト」と言うことができる。ペーストの状態調節は、原則として、温度23±2℃及び相対湿度50±5%において6〜8時間静置して行い、熱処理などは一切行わない。また、ペーストはペースト状のまま測定するため、寸法に関する規定はない。
【0066】
本発明において、プリプレグ基材に用いられる熱硬化性樹脂は、動的粘弾性測定(DMA)に拠る最低粘度が0.1〜100Pa・sで製造することが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10Pa・sである。最低粘度が0.1Pa・sより小さい場合、加圧時に樹脂のみが流動し、突起部の先端まで十分に強化繊維が充填されない場合がある。一方、100Pa・sより大きい場合、樹脂の流動性が乏しいため、突起部の先端まで十分に強化繊維および樹脂が充填されない場合がある。なお、本発明におけるDMAに拠る最低粘度は、回転粘度計を使用して、半径20mmの平行平板を用い、平行平板間の距離1mm、測定開始温度40℃、昇温速度1.5℃/分、測定周波数0.5Hzの条件にて測定し、観測された最低粘度の値である。
【0067】
さらに好ましい製造方法の具体例を以下に説明していく。
【0068】
例えば、成形型が片面型であり、片面型上に積層体を配し、積層体の上に伸縮性のフィルムを覆って積層体を密封し、密封された空間と外気との差圧により積層体を片面型に押し付けて成形するのがよい。図13の例では、片面型28cの上に平板状の積層体12を配置し、片面型28cと伸縮性のフィルム32を脱気口26となるパイプを残してシーラント31などで密封し、真空ポンプなどを用いて密封された空間30を減圧し、大気圧との差圧により積層体12を片面型28cに押し付ける。さらにオートクレーブなどの圧力容器中にこのセットを入れ、圧力容器内の圧力と密封された空間30との差圧(0.1〜0.6MPa程度)で積層体12を片面型28cに押し当てるのもよい。片面型を用いた本発明の製造方法は、型代が両面型などに比べ低コストであり、型の昇降機など大型の施設を導入しなくても成形が可能となるため、好ましい。成形ごとにフィルムを使い捨てにしてもよいが、代わりに耐久性のあるシリコンラバーフィルムなどを開閉式の蓋として用いることで、量産にも対応することができる。伸縮性のフィルムは耐熱性に不安がある場合があるため、熱硬化性樹脂を用いた成形の場合には繊維強化プラスチックが脱型可能な硬度となったところで脱型し、オーブン等で後硬化してもよい。熱可塑性樹脂を用いた成形の場合には繊維強化プラスチックが脱型可能な硬度となったところで脱型し、別の冶具(大量に繊維強化プラスチックを矯正できる冶具など)で固定してアニーリングを行ってもよい。
【0069】
例えば、成形型が2つ以上の型からなり、型締めにより積層体を成形型に押し付けるに際し、積層体が2つの型両方に最初に接触する領域に連続繊維が配されているのがよい。積層体のうち、連続繊維が配されている領域は流動しにくい。そのため、流動しない部分を最初に型と接触させ、固定して基準とすることで、流動を制御しやすい。具体的には、図14のような、上型28aと下型28b、下型28bがアクセスできる穴が設けられた平板状の型である分割型28dからなるような成形型において、積層体12をスプリング27で支えられた分割型28dに載せ、まず、上型28aと分割型28dを接触させる。この際、積層体12はキャビティいっぱいに配置されており、積層体12の周辺部には連続繊維が配されている。したがって、上型28aと最初に接触する積層体12の周辺部は流動せず、固定される。しかる後に、下型28bが積層体12に押してられ、積層体12の中央部が伸張されて繊維強化プラスチックを得ることができる。連続繊維を周辺部に配しそこから型締めすることで流動の起点を固定し、流動を制御することで、均一な繊維流動を実現して高品位な繊維強化プラスチックを不良品少なく製造できる。両面型を用いることで、熱容量が大きく品質が安定しやすい。また、脱型の機構を備えると量産性に優れる。
【0070】
例えば、積層工程後、成形工程に先立って、積層体を成形後の繊維強化プラスチックの略形状に予備賦型した後、成形型上に積層体を配置してもよい。複雑な形状を成形するに当たり、平板状に積層体を作成した後、成形型に配する前に、積極的に切込プリプレグ基材を伸張させることのない、折り曲げなどの簡単な操作で予備賦型することで、成形型へ配置する際の位置決めが楽になり、また伸張させる方向を明確にすることで品位の安定した繊維強化プラスチックを得ることができる。予備賦型の手段としては、室温でそのまま折り曲げ加工してもよいし、両面型でプレスしてもよいが、好ましくはマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂であっても、平板状の積層体を片面型とシリコンラバーフィルムなどで密閉して、密閉空間を減圧することで片面型に押し付けるのがよい。この際、平板状の積層体を軟化させるため、積層体自体をマトリックス樹脂が硬化、劣化しないような比較的低温で加熱し、より低温の片面型に押し付けてもよいし、室温の平板状の積層体を、マトリックス樹脂が硬化、劣化しないような比較的低温で加熱した片面型に押し付け、予備賦型されたら成形型を急冷してもよい。
【0071】
さらに好ましくは、積層工程後、成形工程に先立って、積層体をシングルコンター形状に予備賦形しておくのがよい。ここで、“シングルコンター形状”とは凹凸形状の種類を指し、積層体の表面を二次曲面として取り出してきた際、該二次曲面上の点であって、該点を通る任意の平面を参照した際、該平面と該二次曲面の交線のうち該点を通る交線が直線となる交線が1つだけ存在する点の集合を指し、具体的には円錐形状や円筒形状、それらの一部が該当する。シングルコンター形状であれば、切込プリプレグ基材の伸張を伴わなくてもある程度の形状であれば追従可能である。例えば、図18b)のような弁当箱の蓋のような形状の繊維強化プラスチック16を作成するに当たり、図18a)のように平板状に作成した積層体12をコの字型に予備賦型した後に成形型28bに配置すると、位置決めが容易であり、成形時積層体12が伸張する方向を制御することができ、好ましい。
【0072】
本発明に基づいて繊維強化プラスチックを製造するに当たり、繊維強化プラスチックの凹凸部において、凹凸部の最も曲率の小さな方向から±10°以下(−10°〜10°の範囲内)の角度に強化繊維が配向した層を他層より厚く偏肉するのがよい。図18b)の繊維強化プラスチック16の凹凸部に対応するR部の断面40に注目すると、図19のように奥行きが繊維配向方向の層41についてR部で層厚みが厚い領域42が見られる。R部などの凹凸部では外表面と内表面との曲率の差から、層厚みが均等にならず、本発明のような製造方法を用いることでより流動しやすい凹凸部の曲率の小さな方向(図19の場合は奥行き方向)から±10°以下の角度に繊維配向した層が厚く存在する。一般的に凹凸形状は立ち面によって曲げ剛性向上を意図して設計しており、凹凸部の最も曲率の小さな方向、すなわち立ち面に平行な方向に繊維配向することは目的に合致していて好ましい。
【0073】
また、図4に示した積層体12の不連続部37に、回転部などの機構を備える目的で金属インサートを埋め込み、硬化、一体化させることにより、アセンブリコストが低減することができる。その際、金属インサートの周囲に複数の凹部設けることにより、流動した繊維が凹部に進入し、容易に隙間を充填することができるとともに、成形温度から低下することで、金属と繊維の熱膨張差でかしめられ、強固に一体化させることができる。
【0074】
なお、本発明により製造された繊維強化プラスチックの用途としては、強度、剛性、軽量性が要求される、自転車用品、ゴルフなどのスポーツ部材のシャフトやヘッド、ドアやシートフレームなどの自動車部材、ロボットアームなどの機械部品がある。中でも、強度、軽量に加え、部材形状が複雑で、本材料のように形状追従性が要求されるシートパネルやシートフレームなどの自動車部品に好ましく適用できる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるというものではない。
【0076】
(実施例1)
<プリプレグ基材の作製>
以下に示す手順にてエポキシ樹脂組成物を得た。
【0077】
(a)エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製“エピコート(登録商標)”828:30重量部、エピコート1001:35重量部、エピコート154:35重量部)と、熱可塑性樹脂ポリビニルホルマール(チッソ(株)製“ビニレック(登録商標)”K)5重量部とを、150〜190℃に加熱しながら1〜3時間攪拌し、ポリビニルホルマールを均一に溶解した。
【0078】
(b)樹脂温度を55〜65℃まで降温した後、硬化剤ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製DICY7)3.5重量部と、硬化促進剤3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(保土谷化学工業(株)製DCMU99)4重量部とを加え、該温度で30〜40分間混練後、ニーダー中から取り出してエポキシ樹脂組成物を得た。
【0079】
得られたエポキシ樹脂組成物を、リバースロールコーターを使用し離型紙上に塗布し、樹脂フィルムを作製した。
【0080】
次に、シート状に一方向に整列させた炭素繊維(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa)に樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱し、加圧して樹脂組成物を含浸させ、炭素繊維目付150g/m、樹脂重量分率33%(繊維体積含有率Vf58%相当)の一方向プリプレグ基材を作製した。
【0081】
得られたエポキシ樹脂組成物のDSCに拠る発熱ピーク温度Tpは152℃であった。測定装置としては、ティー・エイ・インスツルメンツ社製DSC2910(品番)を用いて、昇温速度10℃/分の条件にて測定した。
【0082】
DMAに拠る最低粘度は0.5Pa・sであった。測定装置としては、ティー・エイ・インスツルメンツ社製動的粘弾性測定装置“ARES”を用いて、昇温速度1.5℃/分、周波数0.5Hz、パラレルプレート(半径20mm)の条件にて、温度と粘度の関係曲線から最低粘度を求めた。
【0083】
<プリプレグ基材への切り込みの導入>
上記プリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図16に示すような切り込みを全面に挿入することにより、等間隔で規則的な切り込みを有する切込プリプレグ基材を得た。切り込みの方向は繊維直交方向2で、切り込みの長さWは10.1mm(すなわち、Ws=10.1mm)であり、間隔L(繊維長さ)は30mmである。図16に示すように、隣り合う切り込みの列7aと7bは繊維直交方向に10mm移動すると、幾何的に同等である。また、繊維長手方向に対になる切り込みの列には、7aと7c、7bと7dの組があり、切り込みの列のパターンは2パターン存在する。さらに、隣り合う列の切り込みが互いに切り込んでいる5の範囲は0.1mmである。
【0084】
<繊維強化プラスチックの成形>
図15に示すような、300×200mmの矩形の平板上にダブルコンター部25が2つ(それぞれ直径100mm、150mmの円を境界線として、R200mm、R300mmの球が頭を出した形状)設けられた繊維強化プラスチック16を成形した。
【0085】
矩形の長手方向を0°として、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に切込プリプレグ基材を矩形(270×180mm)に切り出し、[45/0/−45/90]2Sの積層構成で16層積層し、270×180mmの平板状の積層体を得た。
【0086】
成形型は上型、下型からなり、両型を合わせた際のキャビティは最終成形品の外形状を決定するよう設計した。成形型はプレス機に設置され、上型が昇降することで、型の開け締めを行った。成形工程における成形型の温度T1が、プリプレグ基材に用いたエポキシ樹脂組成物のDSCに拠る発熱ピーク温度Tpとほぼ同となるよう150℃に温度制御した。下型の上に積層体をキャビティの略中央に配置し、型を締めた。このときのプレス圧は、300×200mmの面積で割り返した圧力が6MPaとなるよう、調節した。積層体がキャビティより小さめに作成されているため、配置に手間と時間がかからないというメリットがあった。金型内で30分間放置した後、脱型工程における成形型の温度T2をT1から低下させることなく150℃のまま成形型を開け、繊維強化プラスチック16を脱型した。
【0087】
積層体はキャビティよりも小さかったものの隅々まで繊維が流動し、成形型の外形上に沿ったダブルコンター部を複数有する維強化プラスチックを得ることができた。3次元形状であることから、高剛性で軽量な繊維強化プラスチックとなった。ダブルコンター部だけでなく全体的に伸張され、切り込みにより分断された繊維束端部間に存在する切り込み開口部と、繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束が全体的に分布していた。特にこのような2つ以上ダブルコンター部を有する形状では、連続繊維基材を用いた成形では繊維が必ず突っ張るため、賦形工程として成形前にあらかじめ成形型に忠実な積層体の賦形が必須であり、賦形工程を取り入れたとしてもシワや繊維突っ張りによる表面品位悪化をなくすこととは極めて困難である。本発明のように平板状の基材を高精度な位置決めなしで高品位な繊維強化プラスチックを得られる工数削減効果は非常に大きい。
【0088】
(実施例2)
共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM4000、ポリアミド6/66/610共重合体、融点155℃)のペレットを、200℃で加熱した平板プレス機で34μm厚みのフィルム状に加工した。ポリアミド樹脂の25℃雰囲気下における粘度は固体であるため測定不可能であり、該基材はタック性がなかった。離型紙を用いなかった他は実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作成した。実施例1と同様にプリプレグ基材へ切り込みを導入し、切込プリプレグ基材を得た後、実施例1と同様に積層体を得た。ただし、タックがないため、積層体は一体化しておらず、単純に16層重なった状態であった。実施例1と同様な両面型を70℃に温度制御しておく。一方、積層体を200℃に加熱したオーブン内に入れ、表面温度が160℃に達した時点で取り出し、下型の上に置き、一気に型締めを行った。このときのプレス圧は、300×200mmの面積で割り返した圧力が6MPaとなるよう、調節した。積層体がキャビティより小さめに作成されているため、簡単に配置でき、積層体の温度が下がりきる前にコールドプレスすることができた。金型内で90秒間放置した後、脱型した。コールドプレスであるので、脱型は非常に容易であった。
【0089】
積層体はキャビティより小さかったものの隅々まで繊維が流動し、成形型の外形上に沿ったダブルコンター部を複数有する繊維強化プラスチックを得ることができた。3次元形状であることから、高剛性で軽量な繊維強化プラスチックとなった。ダブルコンター部だけでなく全体的に伸張され、切り込みにより分断された繊維束端部間に存在する切り込み開口部と、繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束が全体的に分布していた。若干、層間にボイドがみられたため、実施例1よりは力学特性に優れない可能性はあるものの、本発明を用いて極めてサイクルタイムの早い成形を実証することができた。
【0090】
(実施例3)
実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製した。このプリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図8に示すような繊維から10°の方向の直線的な切り込みを連続的に挿入した。こうして得たプリプレグ基材を図17に示すように繊維方向が同一で切り込みが交差するように(10°と−10°方向に)2枚表裏に重ねて積層し、連続的な切り込みによりプリプレグ基材がばらばらになるのを防いだ。この2層積層体を8セットそれぞれの方向に矩形(270×180mm)に切り出し、疑似等方([45/45/0/0/−45/−45/90/90])に積層し、270×180mmの平板状の積層体を得た。次に、実施例1と同様にして成形を行い、繊維強化プラスチックを得た。
【0091】
得られた繊維強化プラスチックは、実施例1と同様に、設計どおりの形状に成形された。表面の切り込み部においても、ほとんど切り込み開口部が見られず、強化繊維が存在せずに樹脂リッチとなっている領域や、隣接層の強化繊維が除いている領域はほとんどなく、良好な外観品位と平滑性を得た。繊維方向は積層体を配置したときから回転しており、その回転により切り込み開口部を埋め、平滑な繊維強化プラスチックとなったと推測された。
【0092】
(実施例4)
実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作成した。このプリプレグ基材に、自動裁断機を用いて図9に示すような繊維から20°の方向に、1mmの直線状の切り込みを断続的に挿入することで、切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを0.34mmとした。対になる切り込み4d、4dにより、繊維は分断され、得られた切込プリプレグ基材の全面で繊維長さLは30mmとなった。こうして得られた切込プリプレグ基材を実施例1と同様に切り出し、積層、成形を行って繊維強化プラスチックを得た。
【0093】
得られた繊維強化プラスチックは、図12b)のように、繊維3が若干うねりながら、切り込み開口部18を埋め、表面にほとんど切り込み開口部18が見られず、切り込みがあったことさえ、見分けがつかないほど良好な外観品位と平滑性を得た。
【0094】
(実施例5)
図13のような成形装置を用いて、楕円形の弁当箱の蓋のような形状の繊維強化プラスチックを成形した。実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製し、切り込みを導入して切込プリプレグ基材を作製、積層一体化して積層体12を作製した。
【0095】
成形型としては、図13に示した最終形状をかたどった凸部(ダブルコンター部25)と、その周りに溝33を設けた片面型28cを用意した。片面型28cの周囲にはシーラント31を配し、また、真空ポンプと連結したポリアミド製の耐熱チューブをシーラント31上に配置し脱気口26とし、150℃に温度制御されたオーブン内で加熱した。片面型28cが150℃一定となったところで、凸部の表面積よりも小さな積層体12を凸部上の略中央に配置し、すばやく伸縮性のシリコンラバーフィルム32を被せてシーラント31で密着させ、フィルム32と型28c間に密閉空間30を形成した。と同時に、真空ポンプを起動させ、真空引き38を行い、脱気口26から排気して、外気と密閉空間30との差圧(約0.1MPa)で軟化した積層体12を伸張させ型28cに押し付けて、ホットドレープ成形した。溝33の存在により、フィルム32がしっかり凸部の根元まで形状に沿い、凸部の根元までしっかり圧力が加わった。30分間オーブン内に放置した後、オーブンから成形装置全体を取り出し、フィルム32を破って、繊維強化プラスチックを型28cから脱型した。
【0096】
積層体12は得られた繊維強化プラスチックよりも小さな平板状であったものの、設計どおり楕円形の弁当箱の蓋のような形状の繊維強化プラスチックを得ることができた。実施例1、2と比べると成形の圧力が小さいため、大きくは伸張していないものの、ダブルコンター部の形状はきれいに転写されており、表面品位のよい繊維強化プラスチックを得ることができた。
【0097】
(実施例6)
図14のような成形型を用いて、図1c)のような500×500mmの正方形の平板上にダブルコンター部(直径350mmの円を境界線として、R800mmの球が頭を出した形状)が中央に設けられた繊維強化プラスチックを成形した。
【0098】
実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製し、まず0°および45°の方向に500×500mmの正方形に切り出した。正方形の中央部に直径360mmの範囲内に実施例1と同様の切り込みを入れ、繊維長が実質的に25mmの強化繊維のみで構成される領域を形成した。実施例1と同様に[45/0/−45/90]2Sの積層構成で16層積層し、500×500mmの平板状の積層体を得た。25mmの強化繊維のみで構成される領域は各層すべて重なっており、図1a)のように積層体の中央部直径360mmの範囲内に不連続部37を形成した。
【0099】
成形型は上型28a、下型28bとともに、スプリング27で支持された分割型28dから形成されている。下型28bはダブルコンター部25のみの形状を決定する型であり、分割型28dは下型28bが上型28aにアクセスできるように平板を円形にくり抜いた形状であり、平板部の形状を決定する型である。分割型28dはスプリングで支えられ、型が開いている時は、下型28bより上方にある。成形型全体を実施例1と同様に150℃で温度制御し、積層体12を分割型28d上に配置した。この際、積層体12の大きさとキャビティの大きさが一緒のため、精度よく位置決めして配置した。次に上型28aを降ろし、まず積層体12の周囲および分割型28dと接触させた。積層体12の周囲は連続繊維が配された領域36であり、繊維が流動しにくいため、領域36の繊維はこの段階で固定され、積層体12の伸張の起点となった。さらに上型28aを押し込むことで、下型28bと上型28aによりダブルコンター部25の形状が決定され、成形型のキャビティが閉じられた。このときのプレス圧は、500×500mmの面積で割り返した圧力が6MPaとなるよう、調節した。実施例1と同様に、金型内で30分間放置した後、繊維強化プラスチックを脱型した。
【0100】
成形型の外形上に沿ったダブルコンター部を有する維強化プラスチックを得ることができた。実施例1と同様に表面品位はよく、ダブルコンター部のみが伸張され、切り込みにより分断された繊維束端部間に存在する切り込み開口部と、繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束がダブルコンター部に集中して分布していた。また、積層体12の周辺部はほとんど流動しておらず、キャビティ通り成形され、トリムレスで繊維強化プラスチックが得られた。
【0101】
(実施例7)
図18b)のような150×150×20mmの直方体の弁当箱の蓋のような繊維強化プラスチック16を両面型でホットプレス成形した。実施例1と同様のプリプレグ基材を用いて、実施例4と同様の、図9に示すような繊維から20°の方向に、1mmの直線状の切り込み(Wsは0.34mm)を入れ、全面で繊維長さLが30mmとなる切込プリプレグ基材を作成した。こうして得られた切込プリプレグ基材を矩形(190×150mm)に切り出し、[45/0/−45/90]2Sの積層構成で16層積層し、180×150mmの平板状の積層体を得た。次に、成形型の下型28b上に平板状の積層体を配置し、80℃に温度制御したアイロンを押し当てて、該積層体をR部で15mmずつ折り返してコの字型とした。このようにして得られたシングルコンター形状に予備賦形した積層体12を下型28bから取り外した後、成形型を150℃に温度制御した。成形型が上下型とも150℃となったところで、図18a)のように改めて予備賦形した積層体12を下型28bに配置し、型締めして、150×150mmの面積で割り返した圧力が6MPaとなるようなプレス圧を加え、繊維強化プラスチック16を30分後に脱型した。
【0102】
得られた繊維強化プラスチック16は、図18b)に示すように2つの立ち面も含め良好に繊維が充填していた。予備賦形により2つの立ち面を埋めていたため、積層体12の伸張方向が制御され、安定した品質の繊維強化プラスチック16が得られたものと推測された。さらに、成形時に充填した立ち面と平面の角におけるR部断面40を観察したところ、図19のように、成形時に充填されたにもかかわらず、平面と変わらない積層構造(若干のうねりを含む)が生成されていた。特に、奥行きが繊維配向方向の層41について、R部において局所的に層厚みが厚く偏肉された領域42が存在した。これにより繊維強化プラスチック16全体の曲げ剛性が向上すると推測された。
【0103】
(実施例8)
図20c)のようなドーナツ形状の窓枠のような繊維強化プラスチック16を片面型でオートクレーブ成形した。実施例1と同様のプリプレグ基材を用いて、実施例4と同様の、図9に示すような繊維から20°の方向に、1mmの直線状の切り込み(Wsは0.34mm)を入れ、全面で繊維長さLが30mmとなる切込プリプレグ基材を作成した。こうして得られた切込プリプレグ基材を、繊維強化プラスチック16の外形線に沿って裁断し、積層して積層体を作成し、繊維強化プラスチックを成形した後、中央部をトリミングしてもよいが、歩止まりが悪いので、図20a)のようなカットパターンで切込プリプレグ基材の突き合わせ位置39が斜めとなるように切込プリプレグ基材10を裁断し、切込プリプレグ基材10をドーナツ形状に積層し、平板状の積層体12を得た。積層構成は[45/0/−45/90]2Sである。こうして得た積層体12を成形後の繊維強化プラスチックの最終形状をかたどった凸部を設けた片面型上に配した。片面型の周囲にはシーラントを配し、バッグフィルムを被せて、バッグフィルムと片面型間に密閉空間を形成した。密閉空間にアクセスする金属ホースを取り付け、真空ポンプで減圧した状態で、この成形型をオートクレーブ内に搬入し、150℃、2時間の条件で、密閉空間とオートクレーブ雰囲気の差圧が0.3MPaのとなるようにしてオートクレーブ成形し、脱型して図20c)のような繊維強化プラスチック16を得た。
【0104】
得られた繊維強化プラスチック16は、表面品位よく、切り込みがあったことさえ、見分けがつかないほど良好な外観品位と平滑性を得た。また、断面を切り出してみてもオートクレーブにより加圧したためボイドが見られず、高い力学特性を発現すると推測された。
【0105】
(参考例1)
実施例1の繊維強化プラスチックが高力学特性であることを、繊維強化プラスチックの平板で実証した。実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製し、切り込みを導入して切込プリプレグ基材を作製した。炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ250×250mmの大きさのサイズに切出した。切り出したプリプレグ基材を16層で疑似等方に積層して([45/0/−45/90]2S)、積層体を得た。
【0106】
さらに、上記の積層体を用いて、300×300mmのキャビティを有する平板金型上の概中央部に配置した後、加熱型プレス成形機により、6MPaの加圧のもと、150℃×30分間の条件により硬化せしめ、300×300mmの平板状の繊維強化プラスチックを得た。
【0107】
得られた平板状の繊維強化プラスチックより、長さ250±1mm、幅25±0.2mmの引張強度試験片を切り出した。JIS K−7073(1998)に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分で引張強度を測定した。なお、本参考例においては、試験機としてインストロン(登録商標)万能試験機4208型を用いた。測定した試験片の数はn=5とし、平均値を引張強度とした。さらに、測定値より標準偏差を算出し、その標準偏差を平均値で除することにより、バラツキの指標である変動係数(CV値(%))を算出した。引張弾性率は43GPa、引張強度に関しても370MPaと高い値が発現し、そのCV値も3%ときわめてバラツキの小さい結果となった。
【0108】
繊維強化プラスチックは端部まで繊維が均等に流動しており、実施例1と同様に繊維長さLcが30mm、幅Wsが11〜15mm程度の分布を持つ短冊状の繊維束が表面全体にほぼ均等に分布していたことから、実施例1で得られた繊維強化プラスチックも高力学特性を発現することが予想された。
【0109】
(参考例2)
実施例3の繊維強化プラスチックが高力学特性であることを、繊維強化プラスチックの平板で実証した。実施例3と同様にして、2層積層体を得た。この2層積層体から、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ250×250mmの大きさに切り出し、2層積層体を8枚それぞれの方向に疑似等方([45/45/0/0/−45/−45/90/90])に積層して、全面に切り込みを有する250×250mmの積層体を得た。
【0110】
こうして得られた積層体を参考例1と同様にしてホットプレス成形し、平板の繊維強化プラスチックを得た。得られた繊維強化プラスチックを参考例1と同様に引張試験した。引張弾性率は46GPa、引張強度に関しても470MPaと高い値が発現し、そのCV値も4%ときわめてバラツキの小さい結果となった。
【0111】
繊維強化プラスチックは端部まで繊維が均等に流動しており、表面にほとんど切り込み開口部が見られず、繊維方向も積層体を配置したときから回転している様子も実施例3と同様であるため、実施例3で得られた繊維強化プラスチックも高力学特性を発現することが予想された。
【0112】
(参考例3)
実施例4の繊維強化プラスチックが高力学特性であることを、平板で実証した。実施例4と同様にして、切込プリプレグ基材を得、参考例1と同様にして切り出し、積層、ホットプレス成形した。得られた繊維強化プラスチックを参考例1と同様に引張試験したところ、引張弾性率は46GPa、引張強度は620MPaと高い値が発現し、そのCV値も4%ときわめてバラツキの小さい結果となった。繊維強化プラスチックは端部まで繊維が均等に流動しており、繊維が若干うねりながら、切り込み開口部を埋め、表面にほとんど切り込み開口部が見られず、切り込みがあったことさえ、見分けがつかない様子も実施例4と同様であるため、実施例4で得られた繊維強化プラスチックも高力学特性を発現することが予想された。
【0113】
(比較例1)
実施例1と同様に、図15に示す、平板上にダブルコンター部が複数設けられた繊維強化プラスチックを連続繊維プリプレグ基材で成形を試みた。実施例1と同様にして、プリプレグ基材を作製した。こうして得たプリプレグ基材を矩形(270×180mm)に切り出し、[45/0/−45/90]2Sの積層構成で16層積層し、270×180mmの平板状の積層体を得た。次に、実施例1と同様に成形を行った。
【0114】
得られた繊維強化プラスチックは、簡単に脱型することができ、表面はざらざらで、繊維強化プラスチックが成形型に完全に密着してなかった様子がわかった。繊維が突っ張り、積層体が伸張することができず、成形型に沿わなかったことが原因と推測された。
【0115】
(比較例2)
実施例1と同様に平板上にダブルコンター部が複数設けられた繊維強化プラスチックを積層体にSMCを用いて成形を試みた。SMCのマトリックス樹脂としてビニルエステル樹脂(ダウ・ケミカル(株)製、デラケン790)を100重量部、硬化剤としてtert−ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂(株)製、パーブチルZ)を1重量部、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(堺化学工業(株)製、SZ−2000)を2重量部、増粘剤として酸化マグネシウム(協和化学工業(株)製、MgO#40)を4重量部用いて、それらを十分に混合撹拌し、樹脂ペーストを得た。樹脂ペーストをドクターブレードを用いて、ポリプロピレン製の離型フィルム上に塗布した。その上から、長さ25mmにカットされた炭素繊維束(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa、12,000本)を単位面積あたりの重量が500g/mになるよう均一に落下、散布した。さらに、樹脂ペーストを塗布したもう一方のポリプロピレンフィルムとで樹脂ペースト側を内にして挟んだ。炭素繊維のSMCシートに対する体積含有量Vfは40%とした。得られたシートを40℃にて24時間静置することにより、樹脂ペーストを十分に増粘化させて、SMCシートを得た。このSMCシートを270×180mmの矩形に切り出し、3枚積層し、積層体を得た。その後は実施例1と同様に成形し、繊維強化プラスチックを得た。
【0116】
得られた繊維強化プラスチックはキャビティの端部まで繊維が十分に流動していた。ソリはなかったが、表面に繊維の粗密による若干のヒケが見られた。また、Vfが40%であることから、強度も実施例1ほどは得られないと推測された。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す図である。
【図2】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図3】本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【図4】本発明に用いる積層体の一例を示す平面図および断面図である。
【図5】本発明に用いる積層体の流動のメカニズムの一例を示す断面図である。
【図6】本発明に用いる積層体の切り込み位置関係の例を示す平面図である。
【図7】本発明に用いる積層体の伸張の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【図8】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図9】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図10】本発明に用いる切込プリプレグ基材の例を示す平面図である。
【図11】本発明に用いる積層体の伸張の様子の一例を示す平面図および断面図である。
【図12】本発明に用いる積層体の伸張の様子の一例を示す平面図である。
【図13】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す平面図および断面図である。
【図14】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す断面図である。
【図15】本発明により製造された繊維強化プラスチックの一例を示す概略図である。
【図16】本発明に用いる切込プリプレグ基材の一例を示す拡大平面図である。
【図17】本発明に用いる切込プリプレグ基材の形態の一例を示す平面図である。
【図18】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す概略図である。
【図19】本発明により製造された繊維強化プラスチックの特徴の一例を示す断面図である。
【図20】本発明の繊維強化プラスチックの製造方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0118】
1:繊維長手方向
2:繊維直交方向
3:強化繊維
4:強化繊維の不連続端(切り込み)
4a:a層の切り込み
4b:b層の切り込み
4c(4c,4c):連続的な切り込み
4d(4d,4d):断続的な切り込み
5:互いに切り込んでいる幅
6:繊維方向に対になる切り込みの幾何中心同士の間隔L(繊維長さL)
7:断続的な切り込みの列
7a:第1の断続的な切り込みの列
7b:第2の断続的な切り込みの列
7c:第3の断続的な切り込みの列
7d:第4の断続的な切り込みの列
8:切り込みの幾何中心
8a:a層の切り込みの幾何中心
8b:b層の切り込みの幾何中心
9:切り込みを強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs
10:切込プリプレグ基材
10a:全面に切り込みが入れられたプリプレグ基材
10b:一部に切り込みが入れられたプリプレグ基材
11:連続繊維基材のプリプレグ基材
12:積層体
13:積層体に加わる圧力
14:樹脂の流れ
15:強化繊維の端部の開き
16:繊維強化プラスチック
17:短繊維層
18:強化繊維の存在しない領域(切り込み開口部)
19:隣接層
20:樹脂リッチ部
21:層うねり
22:繊維束端部
23:切り込みと繊維方向のなす角度Θ
24:強化繊維の回転
25:ダブルコンター部
26:脱気口
27:スプリング
28:成形型
28a:上型
28b:下型
28c:片面型
28d:分割型
29:成形型のキャビティ
30:密閉された空間
31:シーラント
32:伸縮性のフィルム
33:溝
34:切込プリプレグ基材を2層積層した基材
35:2つの対になる繊維束分断部に囲まれた領域(短冊状の繊維束)
36:連続繊維が配された領域
37:切り込みにより繊維が10〜100mmの長さに分断された切込プリプレグ基材のみが積層されてなる領域(積層体の不連続部)
38:真空引き
39:プリプレグ基材の突き合わせ位置
40:R部断面
41:奥行きが繊維配向方向の層
42:層厚みが厚い領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に引き揃えられた強化繊維と熱硬化性樹脂から構成されるプリプレグ基材の積層体をホットプレス成形し、ダブルコンター部を有する繊維強化プラスチックとする、繊維強化プラスチックの製造方法であって、前記プリプレグ基材として、該強化繊維を横切る方向に複数の切り込みによって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(1)〜(3)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する、繊維強化プラスチックの製造方法。
(1)前記切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも前記積層体の一部に、前記切り込みにより強化繊維が10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材のみが積層されている領域が形成されるように積層し、平板状の積層体を得る積層工程
(2)成形型上に前記積層体を配置し、加熱して軟化させ、前記積層体を前記成形型に押し付けて硬化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、前記成形型のダブルコンター部に前記領域を配置し、前記領域を伸張させてダブルコンター部に沿わせて成形する成型工程
(3)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程
【請求項2】
一方向に引き揃えられた強化繊維と熱可塑性樹脂から構成されるプリプレグ基材の積層体をコールドプレス成形し、ダブルコンター部を有する繊維強化プラスチックとする、繊維強化プラスチックの製造方法であって、前記プリプレグ基材として、該強化繊維を横切る方向に複数の切り込みによって少なくとも一部の強化繊維を10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材を用いて、少なくとも次の(4)〜(6)の工程を順次経て繊維強化プラスチックを成形する、繊維強化プラスチックの製造方法。
(4)前記切込プリプレグ基材を含む複数枚のプリプレグ基材を積層して積層体を得るに際し、少なくとも前記積層体の一部に、前記切り込みにより強化繊維が10〜100mmの長さに分断した切込プリプレグ基材のみが積層されている領域が形成されるように積層し、平板状の積層体を得る積層工程
(5)前記積層体を加熱して軟化させ、前記積層体よりも低温の成形型上に前記積層体を配置し、前記積層体を成形型に押し付けて固化させ、繊維強化プラスチックとするに際し、前記成型型のダブルコンター部に前記領域を配置し、前記領域を伸張させてダブルコンター部に沿わせて成形する成型工程
(6)前記成形型から前記繊維強化プラスチックを取り出す脱型工程
【請求項3】
前記切込プリプレグ基材を構成する強化繊維の全てが前記切り込みにより分断されており、前記切り込みにより分断されている繊維長さLが10〜100mmの範囲内である、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
前記切込プリプレグ基材の切り込みが直線状であり、かつ、該切り込みの長さWが30μm〜100mmであり、断続的かつ周期的に全面にわたって配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
前記切込プリプレグ基材が2層以上連続して隣接し、該2層以上の層のうち隣接する任意の2層について、一方の切込プリプレグ基材上の任意の切り込みの幾何中心と他方の切込プリプレグ基材上のいずれの切り込みの幾何中心とも5mm以上離れる様に積層する、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
前記切り込みが繊維直交方向から傾いている、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項7】
前記切り込みが強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項8】
前記積層体が前記切込プリプレグ基材のみから構成される、請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項9】
前記成形型が片面型であり、該片面型上に前記積層体を配し、前記積層体の上に伸縮性のフィルムを覆って前記積層体を密封し、該密封された空間と外気との差圧により前記積層体を前記片面型に押し付けて成形する、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項10】
前記成形型が2つ以上の型からなり、型締めにより前記積層体を前記成形型に押し付けるに際し、前記積層体が2つの型両方に最初に接触する領域に連続繊維が配されている、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項11】
前記積層工程後、前記成形工程に先立って、前記積層体を成形後の繊維強化プラスチックの略形状に予備賦形した後、成形型上に前記積層体を配置する、請求項1〜10のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項12】
前記積層体をシングルコンター形状に予備賦形する、請求項11に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項13】
繊維強化プラスチックの凹凸部において、前記凹凸部の最も曲率の小さな方向から±10°以下の角度に強化繊維が配向した層を他層より厚く偏肉する、請求項1〜12のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−279753(P2008−279753A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30022(P2008−30022)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】