説明

繊維強化プラスチックパネル及びその異常検出方法並びに繊維補強基材

【課題】硬化後のパネル内部の異常を容易に検出できる繊維強化プラスチックパネル及びその異常検出方法並びに、異常検出方法に用いる繊維補強基材を提供する。
【解決手段】繊維強化プラスチックパネル1の製造後に、内部に埋設して両端部をパネル端面まで延設した導線4aの通電の有無を測定器6により検査して通電しない場合には、パネル内部が変形等の損傷を受けていると判断し、内部に埋設した導線4から選択した2本の導線4a、4e間の電気容量または電気抵抗を測定器6により測定して、所定の値よりも大きな場合には、パネル内部に空隙があると判断する。また、繊維強化プラスチックパネル1を製造する際に、導線4を配設した繊維補強基材3を積層体2の一部として積層するだけで、パネルの硬化後にはパネル内部の異常を検出する導線4になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化させた後の繊維強化プラスチックパネルの内部の異常を容易に検出できるようにした繊維強化プラスチックパネル及びその異常検出方法並びに、この異常検出方法に用いる繊維補強基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶の分野では大型船体の繊維強化プラスチック(FRP)パネル化が進み、これに伴って大型の繊維強化プラスチックパネルが必要になってきた。繊維強化プラスチックパネル等の樹脂成型物を製造する方法は種々知られているが、オートクレーブ法による樹脂成型方法では、オートクレーブの大きさの制約があるため、十分に大きな繊維強化プラスチックパネルを製造することができない。
【0003】
そこで、設備として大きさの制約が少なく、品質の向上やコスト低減も期待できる樹脂トランスファー成形法(RTM)またはバキューム樹脂トランスファー成形法(VaRTM:Vacuum-assisted Resin Transfer Molding)による繊維強化プラスチックパネルの開発が進められている。このバキューム樹脂トランスファー成形法(VaRTM)は、常温プロセスで簡便に大型樹脂成型物を成型できる点で非常にメリットが大きく、風力発電機ブレード等の製造に適用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
この製造方法では、繊維補強基材を積層した積層体にモールド上で樹脂材料を含浸させる際に、積層体の内部や下部については目視では含浸状況を把握できないため、経験則等に基づいて判断しなければならず、場合によっては含浸状況の判断を誤り、樹脂材料の含浸が不十分な状態で硬化させてパネル内部に空隙が生じて製造不良になることがある。しかしながら、硬化後に、このようなパネル内部の異常を検出することは難しく、パネルを破壊する或いは超音波検査を行なうなど、多大に工数や高価な設備が必要であった。
【特許文献1】特表2000−501659号公報
【特許文献2】特表2001−510748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に着目して案出されたもので、その主たる目的は、硬化させた後の繊維強化プラスチックパネルの内部の異常を容易に検出できるようにした繊維強化プラスチックパネル及びその異常検出方法並びに、この異常検出方法に用いる繊維補強基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の繊維強化プラスチックパネルは、繊維補強基材を積層した積層体に樹脂材料を含浸させた後に、硬化させて形成した繊維強化プラスチックパネルにおいて、前記形成した繊維強化プラスチックパネルの内部に導線を埋設し、該導線の両端部をパネル端面まで延設したことを要旨とするものである。
【0007】
ここで、前記導線を複数本、互いを非接触状態で繊維強化プラスチックパネルの内部に埋設することもできる。その際に、前記導線を格子状に繊維強化プラスチックパネルの内部に埋設することもできる。
【0008】
また、本発明の繊維強化プラスチックパネルの異常検出方法は、上記に記載の繊維強化プラスチックパネルに埋設された導線の通電の有無を検査し、該検査結果に基づいて繊維強化プラスチックパネルの損傷の有無を検出するようにしたことを要旨とするものである。
【0009】
本発明の別の繊維強化プラスチックパネルの異常検出方法は、上記に記載の繊維強化プラスチックパネルに埋設された複数本の導線の中、選択した2本の導線間の電気容量または電気抵抗を測定し、該測定結果に基づいて繊維強化プラスチックパネルの空隙の有無を検出するようにしたことを要旨とするものである。
【0010】
また、本発明の繊維補強基材は、複数積層した状態にして負圧下で樹脂材料を含浸させた後に、硬化させることにより繊維強化プラスチックパネルを形成する繊維補強基材において、前記繊維補強基材を構成する繊維織物に導線を配設し、該導線の両端部が前記形成する繊維強化プラスチックパネルの端面まで延設されることを要旨とするものである。
【0011】
ここで、前記導線を複数本、互いを非接触状態で繊維織物に配設することもできる。この際に、前記導線を格子状に繊維織物に配設することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維強化プラスチックパネルは、形成した繊維強化プラスチックパネルの内部に導線を埋設し、該導線の両端部をパネル端面まで延設したので、この導線の通電の有無を検査する本発明の異常検出方法により、通電しない場合には、パネル内部が変形等の損傷を受けていると容易に判断することができる。
【0013】
また、本発明の繊維強化プラスチックパネルに埋設された複数本の導線の中、選択した2本の導線間の電気容量または電気抵抗を測定する本発明の異常検出方法により、測定した電気容量または電気抵抗が所定の値よりも大きな場合には、パネル内部に空隙があると容易に判断することができる。
【0014】
また、本発明の繊維補強基材によれば、繊維補強基材を構成する繊維織物に導線を配設し、該導線の両端部が前記形成する繊維強化プラスチックパネルの端面まで延設されているので、繊維強化プラスチックパネルを製造する際に、繊維補強基材の積層体の一部として積層するだけで、パネルの硬化後には、繊維織物に配設した導線を上記した本発明の異常検出方法によるパネル内部の異常を検出する導線として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0016】
図1、図2に例示するように、本発明の繊維強化プラスチックパネル1は、樹脂材料Wを含浸させた複数の繊維補強基材3を積層した積層体2を硬化させることにより形成されている。この繊維強化プラスチックパネル1の内部には、複数の導線4a〜4hがその両端部をパネル端面まで延設して格子状に埋設されている。これら導線4a〜4hは、互いに接触していない状態になっている。
【0017】
繊維強化プラスチックパネル1の内部に、埋設する導線4の数は特に限定されず、その両端部がパネル端面まで延設されていれば単数でもよい。複数の導線4を埋設する場合には、互いの導線4を非接触状態にする。導線4の素材としては、炭素繊維、ステンレス鋼繊維や銅繊維などの金属繊維等を用いることができる。
【0018】
繊維補強基材3は、図4に例示するような繊維織物により構成されている。この繊維補強基材3は、ポリエステル、アラミド等の有機繊維5或いはガラス等の無機繊維5から成り、この繊維織物の中にそれぞれの導線4a〜4dが互いに非接触状態で配設されている。1枚の繊維補強基材3に配設する導線4は単数でもよく、複数の導線4を埋設する場合は、互いの導線4を非接触状態にする。複数の導線4を格子状に配設してもよい。
【0019】
図1に例示する繊維強化プラスチックパネル1は、導線4を有しない繊維補強基材3aを介在させて、図4に例示する2枚の繊維補強基材3を、それぞれの導線4a〜4dと導線4e〜4hとが、直交するように積層して形成される。繊維強化プラスチックパネル1の製造方法については後述する。
【0020】
次いで、本発明の繊維強化プラスチックパネルの異常検出方法について説明する。図2に例示するように、繊維強化プラスチックパネル1に埋設された複数本の導線4の中、2本の導線4a、4eを選択し、これら導線4a、4eのパネル端面に位置する端部を、リード線を介して測定器6に接続する。この測定器6は、互いの導線4a、4e間の電気容量を測定し、その測定結果はモニタリング装置7に表示される。測定器6としては互いの導線4a、4e間の電気抵抗を測定するものでもよい。
【0021】
2本の導線4a、4eの間に空隙がある場合は、樹脂材料Wが充填されていて空隙のない場所に比べて、電気容量や電気抵抗が変化する。そこで、測定器6により測定した電気容量或いは電気抵抗の結果に基づいて、測定値が所定の値よりも大きな場合は、空隙があると判断することができる。判断基準となる所定の値(基準電気容量値、基準電気抵抗値)は、空隙のない健全な位置での測定値を用いればよい。
【0022】
導線4を格子状に配設している場合には、電気容量或いは電気抵抗を測定する2本の導線4の組み合わせを順次変えて測定を行なうことにより、空隙のある位置を一段と容易に特定することができる。
次いで、本発明の別の異常検出方法について説明する。図3に例示するように、繊維強化プラスチックパネル1に埋設された複数本の導線4の中、1本の導線4aを選択し、この導線4aのパネル端面に位置する両端部を、リード線を介して測定器6に接続する。この測定器6は、導線4aの通電の有無を検査するのものであり、その検査結果はモニタリング装置7に表示される。測定器6としては電気抵抗計(テスター)を用いることができる。
【0023】
導線4aが通電しない場合は、繊維強化プラスチックパネル1が過大な変形等により導線4aが断線したと考えられる。そこで、測定器6による通電の有無の検査結果に基づいて、通電しない場合には繊維強化プラスチックパネル1の内部に変形等の損傷があると判断することができる。
このように、本発明の繊維強化プラスチックパネル1とその異常検出方法によれば、硬化させた後の繊維強化プラスチックパネル1の内部の異常(空隙や損傷等)を、高価な装置を用いることなく容易に検出することができる。
【0024】
次いで、本発明の繊維補強基材3を用いて繊維強化プラスチックパネル1を製造する方法を説明する。
【0025】
図5に例示するように、モールド8上に複数枚の繊維補強基材3、3aを積層した積層体2を載置し、積層体2上に、コンティニアスマット等の樹脂流路媒体や樹脂材料W(主剤,硬化剤,促進剤)の供給チューブ9を順に配設して、これら全体をバキュームバッグ10によって覆った状態にする。ここで、積層体2は図1、図2に例示したように、導線4を有しない繊維補強基材3aを介在させて、2枚の繊維補強基材3、3を、それぞれの導線4a〜4dと導線4e〜4hとが、直交するように積層して形成されている。
【0026】
モールド8の外周側にはそれぞれの導線4a〜4hを延設させて、バキュームバッグ10の周囲をシールテープによりモールド8上に気密的に固定する。積層体2の下部近傍には、ポンプに接続された吸引パイプ11が配置されている。
【0027】
そして、吸引パイプ11を通じてバキュームバッグ10の内側の空気を吸引しつつ、供給チューブ9を通じて樹脂材料Wをバキュームバッグ10の内側に供給する。これにより、吸引パイプ11を通じて空気とともに樹脂材料Wが、バキュームバッグ10の内側から外側に排出され、これと同時に積層体2に樹脂材料Wが含浸されてゆく。
【0028】
次いで、樹脂材料Wが含浸された積層体2を硬化させる。積層体2から延出している導線4a〜4hは積層体2(パネル)端面で切断する。これにより本発明の繊維強化プラスチックパネル1が製造される。
【0029】
このように、本発明の繊維補強基材3を用いれば、繊維強化プラスチックパネル1を製造する際に、積層体2の一部として積層するだけで、パネルの硬化後には、繊維織物に配設した導線4をパネル内部の異常を検出する導線4として用いることができる。
【0030】
また、この導線4は、繊維強化プラスチックパネル1を製造する際に、積層体2の上層から下層に至る全体に樹脂材料Wが均一に含浸されているか否かをモニタリングするための電気容量センサとしても用いることができる。
【0031】
含浸過程において樹脂材料Wが導線4を配置した位置まで達すると、導線4間の電気容量値が変化する。そこで、選択した2本の導線4をリード線を介して測定器6に接続し、測定器6により測定した導線4間の電気容量をモニタリング装置7で監視することによって、樹脂材料Wの積層体4への含浸状況を把握することができる。例えば、測定した電気容量値が予め設定した基準値よりも大きくなった場合に、導線4が配置されている位置では、樹脂材料Wが積層体2に含浸したと判断するようにする。
【0032】
これにより、目視することが不可能な積層体2の内部や下部であっても樹脂材料Wの含浸状況を確実に把握できるので、樹脂材料Wの含浸が不十分な状態の積層体2を硬化させるような製造不良を防止できる。そのため、高精度で品質の優れた繊維強化プラスチックパネル1を製造することができるようになる。
【0033】
導線4を格子状に配設している場合には、電気容量を測定する2本の導線4の組み合わせを順次変えて測定を行なうことにより、含浸の不十分な位置を容易に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の繊維強化プラスチックパネルを例示する内部透視斜視図である。
【図2】図1の繊維強化プラスチックパネルを用いた本発明の異常検出方法を例示する説明図である。
【図3】本発明の別の異常検出方法を例示する説明図である。
【図4】本発明の繊維補強基材を例示する斜視図である。
【図5】図4の繊維補強基材を用いて本発明の繊維強化プラスチックパネルを製造する方法を例示する説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 繊維強化プラスチックパネル
2 積層体
3 繊維補強基材
3a 導線を有しない繊維補強基材
4、4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4h 導線
5 繊維
6 測定器
7 モニタリング装置
8 モールド
9 供給チューブ
10 バキュームバッグ
11 吸引パイプ
W 樹脂材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強基材を積層した積層体に樹脂材料を含浸させた後に、硬化させて形成した繊維強化プラスチックパネルにおいて、前記形成した繊維強化プラスチックパネルの内部に導線を埋設し、該導線の両端部をパネル端面まで延設した繊維強化プラスチックパネル。
【請求項2】
前記導線を複数本、互いを非接触状態で繊維強化プラスチックパネルの内部に埋設した請求項1に記載の繊維強化プラスチックパネル。
【請求項3】
前記導線を格子状に繊維強化プラスチックパネルの内部に埋設した請求項2に記載の繊維強化プラスチックパネル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチックパネルに埋設された導線の通電の有無を検査し、該検査結果に基づいて繊維強化プラスチックパネルの損傷の有無を検出するようにした繊維強化プラスチックパネルの異常検出方法。
【請求項5】
請求項2または3に記載の繊維強化プラスチックパネルに埋設された複数本の導線の中、選択した2本の導線間の電気容量または電気抵抗を測定し、該測定結果に基づいて繊維強化プラスチックパネルの空隙の有無を検出するようにした繊維強化プラスチックパネルの異常検出方法。
【請求項6】
複数積層した状態にして負圧下で樹脂材料を含浸させた後に、硬化させることにより繊維強化プラスチックパネルを形成する繊維補強基材において、前記繊維補強基材を構成する繊維織物に導線を配設し、該導線の両端部が前記形成する繊維強化プラスチックパネルの端面まで延設される繊維補強基材。
【請求項7】
前記導線を複数本、互いを非接触状態で繊維織物に配設した請求項6に記載の繊維補強基材。
【請求項8】
前記導線を格子状に繊維織物に配設した請求項7に記載の繊維補強基材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−6497(P2009−6497A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167557(P2007−167557)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】