説明

繊維強化熱可塑性樹脂摩擦攪拌接合

【課題】機械的性質を保持したまま熱可塑性樹脂複合材料を接合する方法の提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂マトリックス中に強化繊維が所定の配向で分散した第1の複合部材112を用意し、熱可塑性樹脂マトリックス中に強化繊維が所定の配向で分散した第2の複合部材114を用意し、接合経路内の強化繊維の平均体積分率が接合前の複合部材中の強化繊維の平均体積分率と実質的に等しくなるように第1の複合部材と第2の複合部材とを所定の接合経路に沿った摩擦攪拌接合によって接合することを含む繊維強化部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広義には熱可塑性樹脂部品に関するものであり、特に摩擦攪拌接合による部品の接合に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリマーマトリックスを強化繊維と共に用いて複合材料(以下、「熱可塑性樹脂複合材料」という)を構築することは従来技術において公知である。こうした材料は、軽量で良好な強度を有する。通例、強化繊維は長さが比較的短く、部品が等方性をもつようにランダムに配向される。強化プラスチックから構築できるタービンエンジン部品の例としては、ファン動翼、出口案内翼、逆噴射装置用(リバーサ)カスケード、その他様々な他の静止構造が挙げられる。
【0003】
熱可塑性樹脂複合材料は所望の形状に成形することができ、熱融着のような手段で接合することができる。残念ながら、融着プロセスの際に起こる流体流動は所期の配向を乱し、接合部に沿って部品に加わる荷重をマトリックスのみで支える領域が生じる。
【特許文献1】米国特許第5272809号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、機械的性質を保持したまま熱可塑性樹脂複合材料を接合する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述のニーズは本発明によって満足され、本発明の一つの態様では、熱可塑性樹脂マトリックス中に強化繊維が所定の配向で分散した第1の複合部材を用意し、熱可塑性樹脂マトリックス中に強化繊維が所定の配向で分散した第2の複合部材を用意し、所定の接合経路内の強化繊維の平均体積分率が接合前の複合部材中の強化繊維の平均体積分率と実質的に等しくなるように接合経路に沿った摩擦攪拌接合によって第1の複合部材と第2の複合部材を接合することを含む繊維強化部品の製造方法を提供する。
【0006】
本発明の別の態様では、繊維強化部品は、熱可塑性樹脂マトリックス中に強化繊維が所定の配向で分散した第1の複合部材と、熱可塑性樹脂マトリックス中に強化繊維が所定の配向で分散した第2の複合部材とを含んでおり、第1の複合部材と第2の複合部材とは、接合経路内の強化繊維の平均体積分率が部材の残部における強化繊維の平均体積分率と実質的に等しくなるように所定の接合経路に沿った固相接合によって接合している。
【0007】
添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって本発明の理解を深めることができよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照するが、図面全体を通して、同様の構成要素には類似の符号を付した。図1は、接合経路16に沿って接合した第1の部材12と第2の部材14とを有する例示的な従来技術の強化熱可塑性樹脂部品10を示す。部材12及び部材14は共に熱可塑性樹脂マトリックス18中に強化繊維20が分散した複合材料からなる。図示した例では、強化繊維20は、部材12及び部材14に等方性を与えるため三次元にランダムに配向している。なお、繊維20は例示のため非常に誇張された縮尺で記載されていることに留意されたい。部材12と部材14は熱融着のような従来法を用いて接合されており、各部材12及び部材14のマトリックス18は接合部に沿って固相線温度を超える温度に加熱され、溶融して共に流動する。部材12及び部材14は次いで冷却されて一体部品を形成する。残念ながら、熱融着プロセスは熱影響部22を生じ、この部分には強化繊維20は存在しないか、或いはそれらの分布密度又は配向に乱れを生じる。こうした状況下では、接合経路16周辺の領域は、強化繊維20の使用に伴って期待される十分な強度に欠ける。
【0009】
図2〜図4は、摩擦攪拌接合を用いた突合せ接合での強化熱可塑性樹脂部品の接合法を示す。この例では、第1の部材112と第2の部材114は接合経路116に沿って接合され、完成部品110を形成する。例示した部材112及び部材114は、一定の厚さの単純な板状部品である。ただし、これらは代表例にすぎず、本明細書で説明する方法は、摩擦攪拌接合を行うことのできるあらゆるタイプの部品の接合に使用できる。強化プラスチックから製造できるタービンエンジン部品の例としては、ファン動翼、出口案内翼、逆噴射装置用カスケード、その他様々な静止構造物が挙げられる。さらに、本発明は、上述の突合せ接合以外の接合法にも適応できる。
【0010】
第1の部材112と第2の部材114は、熱可塑性樹脂マトリックス118中に強化繊維120を分散したものからなる。図示した例では、強化繊維120は部材112及び部材114に等方性を付与するため三次元にランダムに配向しているが、所望の特性を達成するため他の配向を用いることもできる。強化繊維120は、部材112及び部材114の各々の容積全体に実質的に均一に分布する。この分布は、マトリックス118の単位体積当たりの繊維の平均体積分率として表すことができ、0.0の値はマトリックス118中に強化繊維120が全く存在しないことを表し、1.0の値は強化繊維120の中実塊を表す。
【0011】
熱可塑性樹脂マトリックス118は、特定の用途の要件に応じて左右される。構造部品に適した公知の熱可塑性樹脂材料の非限定的な例としては、アセタール、アクリル樹脂、酢酸セルロース、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ビニル、ポリエステル及びこれらの混合物が挙げられる。
【0012】
強化繊維120も特定の用途に応じて左右される。繊維は、マトリックス118と構造上相乗的な組合せを形成するため、マトリックス118よりも大きい引張強さを有するのが好ましい。強化繊維120として有用な材料の非限定的な例としては、ガラス、炭素繊維及び金属が挙げられる。図示した例では、強化繊維120は直径約1μm(40マイクロインチ)〜約25μm(980マイクロインチ)、アスペクト比約100〜約15000、及び長さ1mm(0.004インチ)〜約38cm(14.7インチ)である。
【0013】
部材112は、摩擦攪拌接合法を用いて部材114と接合される。この接合法は、公知の摩擦攪拌接合装置及び固定治具(図示せず)を使用して実施される。図2に示すように、チップ「R」を有する円筒形のショルダ付耐摩耗性ピン「P」を接合経路116に回転しながら押し込む。ピンPと部材112及び114との摩擦によって、材料が溶融せずに軟化・流動する。従って、摩擦攪拌接合は固相接合法の一形態である。図示した例では、ピンPは約10.7mm(0.420インチ)のショルダ径「D」を有しており、チップRはショルダから遠位端までの長さ「l」が約2.8mm(0.110インチ)で直径「d」が約6.4mm(0.250インチ)であり、チップ部に左ねじが形成されている。以下の例示的なパラメーターで妥当な摩擦攪拌接合接合が得られることが判明した:ピン速度約700〜約900rpm、移動速度約10cm/分(4インチ/分)〜約15.2cm/分(6インチ/分)、ピンPの力約499kg(1100ポンド)〜約635kg(1400ポンド)。ピンPは、部材112と部材114をまたがる接合経路116に沿って移動し、移動後には接合した部材112と部材114が残る。
【0014】
接合ラインに沿ってピンPを移動させると、発生した熱がピンPから部材112及び114の表面へ伝わって、漸減温度勾配を生じる。この勾配に沿って、部材112及び部材114への影響に応じて様々な部分を識別することができる。攪拌部「S」が生じるが、この部分は幅がチップRの幅よりわずかに大きく、例えばチップRの両端から例えば約0.25mm(0.010インチ)だけ大きい。熱機械的改質部「T」は、攪拌部「S」の端から外側に、例えば両側で約0.25mm(0.010インチ)延在する。熱影響部「H」は、熱機械的改質部「T」の端から、例えば両側で約0.76mm(0.030インチ)延在する。これらの部分の幅は、部材112及び114の熱的性質並びにそれらの形状及び寸法によって影響される。
【0015】
攪拌部S内で、マトリックス118のらせん状円形渦流がチップRの周囲に生ずる。マトリックス118は流動状態であるので、強化繊維120はこの流れと共に自由に移動する。繊維はチップRの周縁に運ばれる(図3参照)。今回、強化繊維120は、それらの長手軸が材料内の剪断勾配と平行に整列する傾向があることが判明した。従って、強化繊維120が渦流の周囲で運ばれる際に渦流の接線方向にとどまる傾向がある。熱機械的改質部Tでは、強化繊維120の移動は減少するが、移動する剪断面と平行かつ接合経路116と垂直に自然配向する傾向がある。従来の熱接合法に比して、強化繊維120は接合経路116の近傍に残る傾向がある。
【0016】
プローブPが接合ラインを移動すると、攪拌部Sは冷却・固化して部材112と部材114とが合体する。個々の繊維120は、マトリックス118が固化する際に繊維を「閉じ込め」た位置及び配向のまま留まる。摩擦攪拌接合パラメーターは、強化繊維120の最終的配向に影響を与えるように変更することができる。例えば、移動速度を、ピン速度に対して増減させてもよい。移動速度が相対的に遅いと、接合経路116を横切る強化繊維120の移動は減少する傾向があり、横断速度が相対的に速いと、接合経路116を横切る強化繊維120の移動は増加する。さらに、ピン速度又は圧力が高いと、攪拌部S及び熱機械的改質部Tが増大して、移動の量が増す傾向がある。図4は、強化繊維120が接合経路116に沿って実質的にランダムに配向するプロセスで接合した部品110を示す。図5は、接合経路116’に沿って接合した2つの部材112’及び114’からなる同様の部品110’を示す。この例では、強化繊維120’は、接合経路116’に対して横断方向に配向する傾向がある。かかる配向は、移動速度を相対的に遅くすることにより得られる。
【0017】
得られる接合部は接合経路に沿って滑らかな表面仕上げを有しており、許容できる完成品を得るのに最低限の処理しか必要としない。従来技術の接合法とは対照的に、強化繊維120は接合経路116の内部及び接合経路116を横切って顕著に分布し、接合前の平均繊維体積分率とほぼ等しい。そのため、部材112及び114の構造特性は実質的に保持され、部品は接合経路116沿いに弱い部分を有していない。
【0018】
以上、摩擦攪拌接合を用いた繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の接合法について説明してきた。本発明の特定の実施形態を参照してきたが、本発明の技術的思想及び技術的範囲内で様々な変更がなし得ることは当業者には明らかであろう。従って、本発明の好ましい実施形態及び実施のための最良の形態に関する以上の記載は、例示を目的としたものにすぎず、特許請求の範囲で定義される本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】2つの部材を熱接合した従来技術の部品の平面図。
【図2】摩擦攪拌接合法を用いて接合しようとする2つの部材の側面図。
【図3】摩擦攪拌接合法で接合しようとする2つの部材の平面図。
【図4】摩擦攪拌接合後の図3の部材の平面図。
【図5】代替的な摩擦攪拌接合法で接合した後の図3の部材の平面図。
【符号の説明】
【0020】
10,110,110’ 熱可塑性樹脂部品
12,112,112’ 第1の部材
14,114,114’ 第2の部材
16,116,116’ 接合経路
18,118,118’ 熱可塑性樹脂マトリックス
20,120,120’ 強化繊維
D 直径
l 長さ
P ピン
R チップ
S 攪拌部
T 熱機械的改質部
H 熱影響部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化部品(10)の製造方法であって、熱可塑性樹脂マトリックス(18)中に強化繊維(20)が所定の配向で分散した第1の複合部材(12)を用意し、熱可塑性樹脂マトリックス(18)中に強化繊維(20)が所定の配向で分散した第2の複合部材(14)を用意し、所定の接合経路(16)内の強化繊維(20)の平均体積分率が接合前の複合部材中の強化繊維の平均体積分率と実質的に等しくなるように第1の複合部材(12)と第2の複合部材(14)を接合経路(16)に沿った摩擦攪拌接合によって接合することを含んでなる方法。
【請求項2】
強化繊維(20)が摩擦攪拌接合後の接合経路(16)内で前記所定の配向に保持される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
強化繊維(20)が第1の複合部材(12)及び第2の複合部材(12)中でランダムに配向している、請求項1記載の方法。
【請求項4】
強化繊維(20)が摩擦攪拌接合後の接合経路(16)内でランダムに配向している、請求項3記載の方法。
【請求項5】
強化繊維(20)が接合経路(16)内で新たな所定の配向に配向している、請求項4記載の方法。
【請求項6】
複数の強化繊維(20)が摩擦攪拌接合後に接合経路(16)を横断して延在する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
繊維強化部品(10)であって、
熱可塑性樹脂マトリックス(18)中に強化繊維(20)が所定の配向で分散した第1の複合部材(12)と、
熱可塑性樹脂マトリックス(18)中に強化繊維(20)が所定の配向で分散した第2の複合部材(14)と
を含んでおり、所定の接合経路(16)内の強化繊維(20)の平均体積分率が部材の残部における強化繊維の平均体積分率と実質的に等しくなるように第1の複合部材(12)と第2の複合部材(14)とが接合経路(16)に沿った固相接合によって接合している、部品(10)。
【請求項8】
強化繊維(20)が摩擦攪拌接合後の接合経路(16)内で前記所定の配向に保持される、請求項7記載の部品。
【請求項9】
強化繊維(20)が第1の複合部材(12)及び第2の複合部材(14)中でランダムに配向している、請求項7記載の部品。
【請求項10】
強化繊維(20)が摩擦攪拌接合後の接合経路(16)内でランダムに配向している、請求項9記載の部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−162280(P2008−162280A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331283(P2007−331283)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】