説明

繊維強化複合材料成形装置

【課題】繊維強化複合材料成形装置において、長尺繊維束をより変形し易くして、繊維強化樹脂複合材料を成形することである。
【解決手段】成形中の繊維束14における端と、新品の繊維束44における端とを重ね合わせて接合し、長尺繊維束46として繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形装置10であって、成形中の繊維束14と新品の繊維束44との重ね合わせ領域Aは、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部を有する。そして、重ね合わせ領域Aは、点状に接合された接合部48等を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料成形装置に係り、特に、一方の繊維束における端と、他方の繊維束における端とを重ね合わせて接合し、長尺繊維束として繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮水素ガスや圧縮天然ガス(CNG)等を貯蔵する、例えば、車両用高圧タンク等の圧力容器には、軽量化のために、繊維強化複合材料が用いられている。繊維強化複合材料には、例えば、強化繊維としての炭素繊維等に、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂等を含浸させて成形した繊維強化複合材料が使用される。
【0003】
繊維強化複合材料の成形には、例えば、フィラメントワインディング(Filament Winding:FW)成形法等が用いられる。フィラメントワインディング成形法は、例えば、ボビン等から送り出された繊維束に樹脂を含浸させた後、樹脂含浸した繊維束をマンドレル等に連続して巻き付けることにより繊維強化複合材料を成形する成形方法である。
【0004】
ここで、高圧タンクのライナ等に繊維束を連続して巻き付けるために、ボビン等から送り出された成形中の繊維束の端は、ボビン等に巻かれた成形に用いられていない新しい繊維束の端と重ね合わせて接合し、長尺繊維束として送り出される。そして、成形中の繊維束の端と、新しい繊維束の端とは、例えば、接着剤等で接着して接合される。
【0005】
特許文献1には、原反ロールの強化繊維束の送出し終了端と新原反ロールの強化繊維束の送出し開始端とを接着テープで接続することが示されている。また、特許文献2には、先に巻き出されたロールシートの後端部に、続いて巻き出されるロールシートの先端部を両面テープ、接着剤等で接着して接合することが示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平3−110108号公報
【特許文献2】特開2000−94472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、一方の繊維束の端と、他方の繊維束の端とを重ね合わせて、重ね合わせた部分を全て合成樹脂等の接着剤で接着して長尺繊維束とした場合には、長尺繊維束に含まれる重ね合わせ領域の剛性が高くなり、重ね合わせ領域は柔軟性が低下して、変形し難くなる可能性がある。その結果、成形された繊維強化複合材料に内部欠陥等が生じて、繊維強化複合材料の機械的強度等が低下する場合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、一方の繊維束の端と、他方の繊維束の端と重ね合わせた領域をより変形し易くして、繊維強化樹脂複合材料を成形することができる繊維強化複合材料成形装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る繊維強化複合材料成形装置は、一方の繊維束における端と、他方の繊維束における端とを重ね合わせて接合し、長尺繊維束として繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形装置であって、一方の繊維束と、他方の繊維束との重ね合わせ領域は、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る繊維強化複合材料成形装置において、一方の繊維束と、他方の繊維束との重ね合わせ領域は、点状に接合された接合部を有することが好ましい。
【0011】
本発明に係る繊維強化複合材料成形装置において、一方の繊維束と、他方の繊維束との重ね合わせ領域は、縞状に接合された接合部を有することが好ましい。
【0012】
本発明に係る繊維強化複合材料成形装置において、長尺繊維束は、圧力容器のライナに巻き付けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記のように本発明に係る繊維強化複合材料成形装置によれば、一方の繊維束の端と、他方の繊維束の端とを重ね合わせた領域に複数の接合部を有するので、長尺繊維束に含まれる重ね合わせ領域をより変形し易くして、繊維強化樹脂複合材料を成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。図1は、繊維強化複合材料成形装置10の構成を示す図である。
【0015】
繊維供給装置12は、繊維束14を送り出す機能を有している。繊維供給装置12には、例えば、クリールスタンド(Creel Stand)等を用いることができる。繊維供給装置12は、繊維束14を巻き付けるための複数のボビン16と、複数の繊維束14に負荷される張力を調整するための複数の繊維張力調整装置18とを有している。それにより、ボビン16等から送り出された複数の繊維束14を、繊維張力調整装置18で所定の張力に調整して供給することができる。勿論、他の条件次第では、繊維束14の本数は、複数本に限定されることはなく、1本でもよい。
【0016】
繊維束14の繊維には、高強度繊維または高弾性繊維である炭素繊維等を使用することができる。そして、炭素繊維には、レーヨン系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile:PAN)系炭素繊維またはピッチ系炭素繊維等が用いられる。勿論、繊維束14の繊維には、炭素繊維に限定されることはなく、ガラス繊維またはアラミド繊維等を用いることができる。
【0017】
繊維束14には、繊維径が、例えば、1μmから5μmの単繊維であるフィラメントを束ねたヤーン、ストランド、ロービング等を用いることができる。例えば、炭素繊維を用いた繊維束14には、炭素繊維フィラメントを1万本〜5万本束ねた炭素繊維ストランドを用いることができる。また、繊維束14には、一方向材だけでなく、平織や朱子織等で織られた織物材の繊維シート等を使用してもよい。勿論、他の条件次第では、繊維束14は、これらの形態に限定されることはない。
【0018】
繊維束14には、予め繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを使用することができる。そして、プリプレグ用の樹脂には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂または不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。勿論、プリプレグ用の樹脂は、上記樹脂に限定されることはない。
【0019】
繊維張力測定装置20は、繊維供給装置12から送り出された複数の繊維束14に負荷された張力を測定する機能を有している。繊維張力測定装置20には、一般的に、炭素繊維等の張力測定に用いられている張力測定装置を使用することができる。
【0020】
樹脂含浸装置22は、繊維張力測定装置20で張力測定された繊維束14に、樹脂等を含浸する機能を有している。樹脂含浸装置22は、繊維束14に含浸する樹脂を溜める樹脂槽24と、繊維束14に樹脂を付着させる樹脂含浸ローラ26と、第1テンションローラ28と、第2テンションローラ30と、を備えている。また、樹脂含浸装置22は、樹脂粘度を調整するために樹脂温度を測定する樹脂温度計と、樹脂含浸量を調整するために繊維束14に付着した樹脂膜厚を測定する樹脂膜厚計32とを有している。そして、樹脂含浸ローラ26を回転させて、ローラ面を樹脂槽24に溜めた樹脂に浸漬した後、樹脂が付着したローラ面を繊維束14に接触させることで樹脂含浸することができる。繊維束14に含浸される合成樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂または不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。勿論、合成樹脂は、上記合成樹脂に限定されることなない。
【0021】
フィラメントワインディング装置34は、樹脂含浸装置22から送り出された樹脂含浸した繊維束14を、型または心金であるマンドレル36(Mandrel)等に巻き付ける機能を有している。フィラメントワインディング装置34は、樹脂含浸した繊維束14をマンドレル36等の円周方向や軸方向に巻き付けることができる。フィラメントワインディング装置34は、例えば、マンドレル36等の回転軸方向に対して略垂直に巻き付けるフープ巻き(Hoop Winding)や、マンドレル36等の回転軸方向に対して所定の角度で巻き付けるヘリカル巻き(Helical Winding)等により樹脂含浸した繊維束14を巻き付けることができる。
【0022】
圧力容器、例えば、高圧タンク等を製造する場合には、マンドレル36の代わりにポリアミド樹脂等により成形された樹脂ライナまたはアルミニウム等により成形された金属ライナ等を使用することができる。そして、樹脂含浸した繊維束14は、フィラメントワインディング装置34により、張力を与えつつ樹脂ライナまたは金属ライナに巻き付けられる。
【0023】
制御装置38は、繊維張力測定装置20と、樹脂含浸装置22に配置される樹脂温度センサと、樹脂膜厚計32等とにリード線とコネクタ等を用いて接続される。制御装置38は、繊維張力測定装置20から出力される繊維束14の張力データの電気信号を入力し、繊維束14の張力を制御することができる機能を有している。そして、制御装置38は、樹脂含浸装置22に配置された樹脂温度センサから出力される樹脂温度データの電気信号を入力し、樹脂温度を制御することができる機能を有している。更に、制御装置34は、樹脂膜厚計32から出力される樹脂膜厚データの電気信号を入力して、基準となる所定の樹脂量が樹脂含浸ローラ26に付着されているか否かを検知することができる機能を有している。かかる制御装置38は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)で構成することができる。また、制御装置38と接続されたデータロガ40には、上述した繊維束14の張力データ、樹脂温度データ、樹脂膜厚データ等が記憶されて保存される。
【0024】
繊維接合装置42は、一方の繊維束である成形中の繊維束14における端と、他方の繊維束である成形に用いられていない新品の繊維束44における端とを重ね合わせて接合し、長尺繊維束46を形成する機能を有している。ボビン16に巻かれた成形中の繊維束14を使用し尽す前に新しいボビンに交換することにより、繊維の歩留まりを向上させることができる。そして、成形中の繊維束14と新品の繊維束44との重ね合わせ領域は、長尺繊維束46の長尺方向に対して、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部を有している。重ね合わせ領域における各々接合部の間には所定の間隔が設けられているため、各々接合部の間では、成形中の繊維束14と新品の繊維束44とは接合されていない。接合されていない部分は、接合された部分よりも変形し易いため、長尺繊維束46に含まれる重ね合わせ領域での変形をより容易に生じさせることができる。
【0025】
成形中の繊維束14と新品の繊維束44との重ね合わせ領域は、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて点状に接合された接合部を有していることが好ましい。図2は、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて点状に接合された複数の接合部を有する重ね合わせ領域Aを示す図である。重ね合わせ領域Aにおける各々点状の接合部48の間には所定の間隔が設けられているため、各々点状の接合部48の間では、成形中の繊維束14と新品の繊維束44とは接合されていない。そのため、長尺繊維束46に含まれる重ね合わせ領域Aに柔軟性を持たせて変形を生じ易くすることができる。
【0026】
例えば、長尺繊維束46をフィラメントワインディング装置34により高圧タンクのライナ等の回転軸方向に対して略垂直に巻き付けるフープ巻き(Hoop Winding)で巻き付ける場合だけでなく、高圧タンクのライナ等の回転軸方向に対して所定の角度で巻き付けるヘリカル巻き(Helical Winding)等により巻き付ける場合においても、長尺繊維束46に含まれる重ね合わせ領域Aは、所定の間隔を設けて点状に接合された接合部48を有しているので、重ね合わせ領域Aを容易に変形させてライナ等に巻き付けることができる。
【0027】
また、点状に接合された接合部48の数は、図2に示すように、13箇所に限定されることなく、例えば、10箇所でもよいし、15箇所でもよい。更に、点状に接合された各々接合部48の間隔は、略一定の間隔に限定されることなく、各々接合部48で異なる間隔とすることもできる。
【0028】
成形中の繊維束14と新品の繊維束44との重ね合わせ領域は、長尺繊維束46の長尺方向に対して、所定の間隔を設けて縞状(ストライプ状)に接合された接合部を有していることが好ましい。図3は、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて縞状に接合された複数の接合部を有する重ね合わせ領域Aを示す図である。重ね合わせ領域Aにおける各々縞状の接合部50の間には所定の間隔が設けられているため、各々縞状の接合部50の間では、成形中の繊維束14と新品の繊維束44とは接合されていない。そのため、長尺繊維束46に含まれる重ね合わせ領域Aに柔軟性を持たせて変形を生じ易くすることができる。
【0029】
縞状に接合された接合部50は、点状に接合された接合部48よりも接着面積が大きいため、重ね合わせ領域Aにおける接合強度をより高くすることができる。そのため、例えば、長尺繊維束46を、フィラメントワインディング装置34により高圧タンクのライナ等の回転軸方向に対して略垂直方向に巻き付けるフープ巻き(Hoop Winding)で巻き付ける場合に、長尺繊維束46の張力をより高くして巻き付けることができる。
【0030】
縞状に接合された複数の接合部50は、図3に示すように略直線状だけでなく、曲線状に接合されてもよい。また、縞状に接合された接合部50の数は、図3に示すように、5箇所に限定されることなく、例えば、3箇所でもよいし、7箇所でもよい。更に、縞状に形成された各々接合部50の間隔は、略一定の間隔に限定されることなく、各々接合部50で異なる間隔とすることもできる。
【0031】
成形中の繊維束14と新品の繊維束44とは、接着剤等により接着して接合することができる。図4は、成形中の繊維束14と新品の繊維束44との重ね合わせ領域における接合部48,50の接合方法を示す図である。成形中の繊維束14の端と、新品の繊維束44の端とは重ね合わされて、例えば、繊維接合装置42に設けられた接着剤供給ノズル52等から供給される合成樹脂の接着剤等により接着して接合することができる。また、繊維接合装置42に設けられたヒータ等により、接合部48,50を加熱して接着剤の硬化を促進することができる。
【0032】
接着剤には、成形中の繊維束14と新品の繊維束44との接合強度が高い合成樹脂の接着剤を用いることが好ましい。成形中の繊維束14と新品の繊維束44との接合部48,50の接合強度を高めて、接合部48,50における破断等を抑えることができるからである。また、接着剤には、より短い時間で硬化して接着する合成樹脂の接着剤を用いることが好ましい。成形中の繊維束14と新品の繊維束44とをより短時間で接合させることができるので、繊維強化複合材料の生産性が向上するからである。更に、接着剤には、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂と同等の物性を有する合成樹脂の接着剤を用いることが好ましい。例えば、マトリックス樹脂にエポキシ系合成樹脂を使用する場合には、接着剤にエポキシ系合成樹脂の接着剤を使用することが好ましい。これにより、接着剤が硬化して形成された接着層とマトリックス樹脂との界面での剥離等を抑えることができるからである。また、接着剤は、ペースト状接着剤に限定されることなく、例えば、フィルム状接着剤等を用いることができる。
【0033】
接着剤には、嫌気性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を使用することができる。アクリル樹脂等の嫌気性樹脂を接着剤として使用する場合には、嫌気性樹脂を成形中の繊維束14と新品の繊維束44との所定位置に塗布した後、重ね合わせて保持することにより接合することができる。ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂を接着剤として使用する場合には、加熱して粘度が低下した熱可塑性樹脂を、成形中の繊維束14と新品の繊維束44との所定位置に塗布した後、重ね合わせて冷却することにより接合することができる。エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を接着剤として使用する場合には、熱硬化性樹脂を成形中の繊維束14と新品の繊維束44との所定位置に塗布した後、重ね合わせて熱板や高周波で加熱することにより接合することができる。また、嫌気性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を成形中の繊維束14と新品の繊維束44とに含浸させるため、加圧して接着してもよい。
【0034】
なお、プリプレグを使用した場合においても、同様にして、一方のプリプレグである成形中のプリプレグの端と、他方のプリプレグである新品のプリプレグの端との重ね合わせ領域Aは、長尺プリプレグの長尺方向に対して、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部を有している。重ね合わせ領域Aにおける各々接合部の間には所定の間隔が設けられているため、各々接合部の間では、成形中のプリプレグと新品のプリプレグとは接合されていない。そのため、長尺プリプレグに含まれる重ね合わせ領域Aでの変形をより容易に生じされることができる。そして、成形中のプリプレグと新品のプリプレグとの重ね合わせ領域Aは、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて点状に接合された接合部を有していることが好ましい。また、成形中のプリプレグと新品のプリプレグとの重ね合わせ領域Aは、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて縞状に接合された接合部を有していることが好ましい。
【0035】
図5は、成形中のプリプレグ54と新品のプリプレグ56との重ね合わせ領域における接合部58の接合方法を示す図である。成形中のプリプレグ54における端と、他方のプリプレグ56における端とを重ね合わせて、繊維接合装置42に設けられるホットガン60等で加熱することにより、加熱された部分を接合することができる。プリプレグ54,56には、予め、熱硬化性樹脂等の合成樹脂が含浸されているので、加熱によりプリプレグ54,56に含浸した合成樹脂を硬化させて接合することができる。勿論、プリプレグ54,56の加熱手段には、ホットガン60に限定されることなく、熱板や高周波を発生させる高周波発生器等を使用してもよい。
【0036】
次に、再び、図1に戻り、繊維強化複合材料成形装置10の動作について説明する。
【0037】
繊維強化複合材料を成形中の繊維束14の端と、成形に使用されていない新品の繊維束44の端とを重ね合わせる。そして、重ね合わせ領域Aが、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部48,50を有するように、成形中の繊維束14と新品の繊維束44とを繊維接合装置42により接着剤等で接合する。繊維接合装置42により接合された重ね合わせ領域Aを含む長尺繊維束46は、繊維供給装置12へ送られる。
【0038】
繊維供給装置12のボビン16から長尺繊維束46が繰り出され、ボビン16から繰り出された長尺繊維束46は、繊維張力調整装置18により所定の張力に調整されて繊維供給装置12から送り出される。
【0039】
繊維供給装置12から送り出された長尺繊維束46は、繊維張力測定装置20により長尺繊維束46に負荷されている張力が測定される。ここで、繊維張力測定装置20により測定された長尺繊維束46の張力データは、繊維張力測定装置20から制御装置38へ出力され、データロガ40に記憶されて保存される。また、長尺繊維束46に、例えば、基準となる所定の張力が負荷されていない場合には、制御装置38が、張力の異常を検知して異常信号等を出力する。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形装置10が停止する。
【0040】
繊維張力測定装置20を通過した長尺繊維束46は、樹脂含浸装置22に送り出される。樹脂含浸装置22における樹脂槽24の中には、例えば、エポキシ樹脂である液状の樹脂が溜められている。樹脂の温度は、熱電対等の樹脂温度センサにより測定される。そして、樹脂温度データは、樹脂温度センサからから制御装置38へ出力され、データロガ40に記憶されて保存される。また、樹脂温度が、例えば、設定された樹脂温度でない場合には、制御装置38が樹脂温度の異常を検知して、異常信号等を出力する。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形装置10が停止する。
【0041】
樹脂含浸ローラ26は、ローラが回転することにより樹脂槽24に溜められた樹脂と接触し、樹脂含浸ローラ26の表面に樹脂が付着する。そして、第1テンションローラ28と第2テンションローラ30とにより押さえられた長尺繊維束46は、樹脂含浸ローラ26と接触することにより樹脂が含浸される。長尺繊維束46に含まれる重ね合わせ領域Aは、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部48、50を有しているので、樹脂含浸ローラ26のローラ面等に対して、重ね合わせ領域Aでの変形をより容易に生じさせることができる。それにより、長尺繊維束46に含まれる重ね合わせ領域Aに、より均一に樹脂を含浸することができる。
【0042】
そして、樹脂膜厚計32により測定された樹脂膜厚データは、樹脂膜厚計32から制御装置38へ出力される。そして、出力された樹脂膜厚データは、制御装置38により基準となる樹脂膜厚と比較されるとともにデータロガ40に記憶される。そして、樹脂膜厚データが基準となる樹脂膜厚よりも薄い場合には、制御装置38により長尺繊維束46に適正な樹脂量の樹脂が含浸されていないと判断されて、異常信号等が出力される。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形装置10が停止する。
【0043】
樹脂含浸した長尺繊維束46は、第2テンションローラ30を介した後、フィラメントワインディング装置34へ送り出される。樹脂含浸した長尺繊維束46は、フィラメントワインディング装置34により、マンドレル36または高圧タンクのライナ等にフープ巻き等により巻き付けられる。長尺繊維束46に含まれる重ね合わせ領域Aは、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部48,50を有しているので、マンドレル36または高圧タンクのライナ等の曲面等に対して、重ね合わせ領域Aでの変形をより容易に生じさせることができる。それにより、樹脂含浸した長尺繊維束46を、より均一にマンドレル36または高圧タンクのライナ等に巻き付けて積層することができる。その後、マンドレル36またはライナ等に巻き付けた樹脂含浸した長尺繊維束46を図示されない樹脂硬化炉等で加熱することにより、樹脂を硬化して繊維強化複合材料が成形される。
【0044】
次に、繊維束としてプリプレグを使用した場合について説明する。
【0045】
繊維強化複合材料を成形中のプリプレグの端と、成形に使用されていない新品のプリプレグの端とを重ね合わせる。そして、重ね合わせ領域Aが、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部48,50を有するように、成形中のプリプレグと新品のプリプレグとを繊維接合装置42により接着剤等で接合する。繊維接合装置42により接合された重ね合わせ領域Aを含む長尺プリプレグは、繊維供給装置12へ送られる。繊維供給装置12から送り出された長尺プリプレグは、繊維張力測定装置20により長尺プリプレグに負荷されている張力が測定される。そして、長尺プリプレグは、すでに樹脂が含浸されているため、直接、フィラメントワインディング装置34へ送られる。
【0046】
長尺プリプレグは、フィラメントワインディング装置34により、上述したマンドレル36または高圧タンクのライナ等にフープ巻き等で巻き付けられる。長尺プリプレグに含まれる重ね合わせ領域Aは、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部を有しているので、マンドレル36または高圧タンクのライナ等の曲面等に対して、重ね合わせ領域Aでの変形をより容易に生じさせることができる。それにより、長尺プリプレグをより均一に、マンドレル36または高圧タンクのライナ等に巻き付けて積層することができる。マンドレル36またはライナ等に巻き付けられた長尺プリプレグを、図示されない樹脂硬化炉等で加熱することにより、樹脂を硬化して繊維強化複合材料が成形される。
【0047】
上記構成によれば、長尺繊維束に含まれる重ね合わせ領域は、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部を有するので、重ね合わせ領域の変形を容易に生じさせることができる。それにより、成形中の繊維束と新品の繊維束を結ぶことにより形成される結び玉や、重ね合わせ領域の全てを合成樹脂等で接着することにより生じる剛直性等に起因する繊維強化樹脂複合材料の内部欠陥や形状異常を抑えることにより、繊維強化複合材料の機械的強度等の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態において、繊維強化樹脂複合材料成形装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態において、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて点状に接合された複数の接合部を有する重ね合わせ領域を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態において、長尺方向に対して、所定の間隔を設けて縞状に接合された複数の接合部を有する重ね合わせ領域を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態において、成形中の繊維束と新品の繊維束との重ね合わせ領域における接合部の接合方法を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態において、成形中のプリプレグと新品のプリプレグとの重ね合わせ領域における接合部の接合方法を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 繊維強化複合材料成形装置、12 繊維供給装置、14,44 繊維束、16 ボビン、18 繊維張力調整装置、20 繊維張力測定装置、22 樹脂含浸装置、24 樹脂槽、26 樹脂含浸ローラ、28 第1テンションローラ、30 第2テンションローラ、32 樹脂膜厚計、34 フィラメントワインディング装置、36 マンドレル、38 制御装置、40 データロガ、42 繊維接合装置、46 長尺繊維束、48,50,58 接合部、52 接着剤供給ノズル、54,56 プリプレグ、60 ホットガン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の繊維束における端と、他方の繊維束における端とを重ね合わせて接合し、長尺繊維束として繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形装置であって、
一方の繊維束と、他方の繊維束との重ね合わせ領域は、
長尺方向に対して、所定の間隔を設けて接合された複数の接合部を有することを特徴とする繊維強化複合材料成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化複合材料成形装置であって、
一方の繊維束と、他方の繊維束との重ね合わせ領域は、点状に接合された接合部を有することを特徴とする繊維強化複合材料成形装置。
【請求項3】
請求項1に記載の繊維強化複合材料成形装置であって、
一方の繊維束と、他方の繊維束との重ね合わせ領域は、縞状に接合された接合部を有することを特徴とする繊維強化複合材料成形装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の繊維強化複合材料成形装置であって、
長尺繊維束は、圧力容器のライナに巻き付けられることを特徴とする繊維強化複合材料成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−143087(P2008−143087A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334616(P2006−334616)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】