説明

繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料

【課題】耐熱性および強度特性に優れた繊維強化複合材料、これを得るためのエポキシ樹脂組成物、およびそのエポキシ樹脂組成物を用いて得られるプリプレグを提供すること。
【解決手段】アミン型エポキシ樹脂[A]、芳香族アミン硬化剤[B]およびエポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C]を含んでなる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、当該エポキシ樹脂組成物を、強化繊維に含浸させてなるプリプレグ、およびそのプリプレグを硬化させてなる繊維強化複合材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空宇宙用途に適した繊維強化複合材料、これを得るためのプリプレグ、さらにはそのマトリックス樹脂として好適に用いられる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物(以下、単に「エポキシ樹脂組成物」と言うこともある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維やアラミド繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料は、その高い比強度と比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料、テニスラケット、ゴルフシャフトおよび釣り竿などのスポーツ、および一般産業用途などに利用されてきた。
【0003】
その繊推強化複合材料の製造方法には、強化繊維に未硬化のマトリックス樹脂が含浸されたシート状中間材料であるプリプレグを用い、それを硬化させる方法や、モールド中に配置した強化繊維に液状の樹脂を流し込んだ後、それを硬化させるレジン・トランスファー・モールディング法などが用いられている。プリプレグを用いる方法では、通常、複数枚積層したプリプレグを、加熱加圧することによって繊維強化複合材料成形物を得ている。このプリプレグに用いられるマトリックス樹脂は、プロセス性などの生産性の面から、熱硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂が用いられることが多い。
【0004】
中でも航空機や自動車などの用途として用いられる構造材では、軽量化や材料強度向上が強く要求されている。これに応えるため、より高弾性率な強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられるようになってきている。ただし、強化繊維を高弾性率化した場合、繊維方向圧縮強度や耐衝撃性などの特性は逆に低下する傾向にある。
【0005】
繊維方向圧縮強度などの強度特性を改善する方法として、特許文献1では、マトリックス樹脂にアミン型エポキシ樹脂成分を用いることが有効な手段であると述べられている。ただし、この場合でも耐衝撃性についてはほとんど改善が見られないことが課題であった。
【0006】
これに対して、繊維強化複合材料の耐衝撃性を上げるためには、繊維強化複合材料を構成する強化繊維の伸度やマトリックス樹脂の伸度や靱性を向上させる必要がある。これらのうち、特にマトリックス樹脂の靱性を向上させることが重要かつ有効であるとされ、エポキシ樹脂の改質が試みられてきた。
【0007】
従来、エポキシ樹脂の靱性を向上させる方法としては、靱性に優れるゴム成分や熱可塑性樹脂を配合する方法などが試されてきたが、これらの方法には、耐熱性の低下や増粘によるプロセス性の悪化、ボイド発生等の品位低下といった問題があった。
【0008】
また、近年では、スチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチルからなる共重合体や、ブタジエン−メタクリル酸メチルからなるブロック共重合体などのブロック共重合体を配合することで、エポキシ樹脂の硬化過程で微細な相分離構造を安定して形成し、エポキシ樹脂の靭性を大きく向上させる方法が提案されている。ただし、航空機などの耐熱性が要求される繊維強化複合材料には、アミン型エポキシ樹脂などが用いられるが、ブロック共重合体との相溶性が悪いために脆弱な硬化物が得られることが課題であった。
【0009】
前記課題に対し、特許文献2では、アミン型エポキシ樹脂中に高極性基をランダム共重合体したメタクリル酸メチル−アクリル酸ブチルからなるブロック共重合体を配合することで、圧縮強度特性を維持しつつ耐衝撃性を付与できることが提案されている。また、特許文献3では、アミン型エポキシ樹脂と剛直骨格を有するエポキシ樹脂とを特定の割合で配合したベースエポキシ樹脂中にブロック共重合体を配合することで、耐熱性や弾性率の低下を抑えつつ耐衝撃性を向上させる手法が提案されている。しかし、これらの手法ではアミン型エポキシ樹脂の配合量が多くなると、ブロック共重合体が粗大な相分離構造を形成し、力学特性が低下する問題があった。また、使用するベースエポキシ樹脂成分の粘度が高くなり、強化繊維への含浸性が問題となる場合や、航空機の主翼構造や風車ブレードのような大型構造部材に適用しようとした際に、炉内の温度ムラや材料の厚み方向の熱履歴の違いによりモルホロジーの変動が生じ、これに起因する特性の変動が問題となる場合等があった。
【0010】
一方、ブロック共重合体そのものについても改良が進でおり、反応性モノマーを共重合成分として導入したブロック共重合体が開発されている。例えば、特許文献4では、酸性官能基の共重合成分が導入されたメタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチルからなるブロック共重合体を配合することで、ポリマーとの水溶解度を制御できることが開示されている。ただし、このブロック共重合体とエポキシ樹脂との相溶性については何ら着目されておらず、それらを用いて得られる組成物の物性に関する知見は皆無であると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭62−1717号公報
【特許文献2】国際公開2008/143044号パンフレット
【特許文献3】国際公開2010/035859号パンフレット
【特許文献4】特表2009−538384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、成形条件によるモルホロジー変動が少なく、低粘度で高品位の成形体が得られるとともに、優れた耐熱性と強度特性に優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物、およびプリプレグ、繊維強化複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために次のいずれかの構成を有するものである。すなわち、少なくとも次の構成要素[A]、[B]、[C]を含んでなるエポキシ樹脂組成物であって、配合したエポキシ樹脂総量100質量部に対して[A]を70〜100質量部、[C]を2〜15質量部を含むことを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
[A]:アミン型エポキシ樹脂
[B]:芳香族アミン硬化剤
[C]:エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体。
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物の好ましい態様によれば、アミン型エポキシ樹脂[A]は、多官能エポキシ樹脂と2官能エポキシ樹脂を含むものであり、さらに好ましい態様によれば、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂総量100質量部に対して、多官能エポキシ樹脂の配合量が30〜70質量部、2官能エポキシ樹脂の配合量が20〜50質量部である。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂組成物の好ましい態様によれば、芳香族アミン硬化剤[B]は、ジアミノジフェニルスルホンもしくはその誘導体または異性体である。
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のエポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C]は、その反応性基がカルボキシル基である。
【0017】
また、本発明においては、前記エポキシ樹脂組成物を硬化させてなる樹脂硬化物とすること、前記エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させてプリプレグとすること、かかるプリプレグを硬化させて繊維強化複合材料とすること、さらには、前記樹脂硬化物と強化繊維を含む繊維強化複合材料とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性および繊維方向圧縮強度や耐衝撃性などの強度特性に優れた繊維強化複合材料、およびこれを得るためのエポキシ樹脂組成物およびプリプレグが得られる。
【0019】
特に、このエポキシ樹脂組成物および強化繊維として炭素繊維を用いて得られる炭素繊維強化複合材料は、成形条件による特性変動が少ないために材料としての信頼性が高く、航空機用途などの構造材に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料について詳細に説明する。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、アミン型エポキシ樹脂[A]、芳香族アミン硬化剤[B]、エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C]を含むものである。
【0022】
かかるエポキシ樹脂組成物におけるアミン型エポキシ樹脂[A]は、全エポキシ樹脂100質量部のうち70〜100質量部含まれることが必要であり、全エポキシ樹脂100質量部のうち80〜100質量部含まれることが好ましい。70質量部に満たない場合、繊維強化複合材料の強度向上の効果が発揮されない。
【0023】
また、[A]に含まれる2官能エポキシ樹脂が、配合されたエポキシ樹脂総量100質量部に対して20〜50質量が好ましく、より好ましくは30〜40質量である。この範囲であれば、繊維強化複合材料の強度発現に優れ、低粘度で強化繊維への含浸性が向上する。[A]に含まれる多官能エポキシ樹脂は、配合されたエポキシ樹脂総量100質量部に対して30〜70質量が好ましく、より好ましくは40〜60質量である。この範囲であれば、高い耐熱性を確保できる。
【0024】
本発明で好ましく用いられるアミン型エポキシ樹脂[A]としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキル置換体、水添品などが挙げられる。
【0025】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学工業(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、“アラルダイド(登録商標)”MY721(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)等を使用することができる。トリグリシジルアミノフェノール又はトリグリシジルアミノクレゾールの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、“スミエポキシ(登録商標)”ELM120(以上、住友化学工業(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、“アラルダイド(登録商標)”MY0510、“アラルダイド(登録商標)”MY0600(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ社製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)等を使用することができる。ジグリシジルアニリンの市販品としては、GAN(日本化薬(株)製)、PxGAN(東レ・ファインケミカル(株)製)などが挙げられる。ジグリシジルトルイジンの市販品としては、GOT(日本化薬(株)製)等を使用することができる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品の市販品としては、“TETRAD(登録商標)”−X、“TETRAD(登録商標)”−C(以上、三菱ガス化学(株)製)等を使用することができる。
【0026】
本発明における芳香族アミン硬化剤[B]は、エポキシ樹脂を硬化させるために必要な成分である。具体的には、例えば、ジアミノジフェニルメタンやジアミノジフェニルスルホンの各種誘導体または異性体、アミノ安息香酸エステル類、芳香族カルボン酸ヒドラジドなどが挙げられる。これらのエポキシ樹脂硬化剤は、単独で使用しても併用してもよい。中でも、耐熱性や力学特性に優れることから、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンおよびそれらの組み合わせが特に好ましく用いられる。
【0027】
[B]としてジアミノジフェニルスルホンを用いる場合、その配合量は、耐熱性や力学特性の観点から、活性水素量を、エポキシ樹脂中のエポキシ基量の0.6〜1.2倍とすることが好ましく、0.7〜1.1倍とすればより好ましい。0.6倍に満たない場合、硬化物の架橋密度が十分でないため、弾性率、耐熱性が不足し、繊維強化複合材料の静的強度特性が不足する。1.2倍を超える場合、硬化物の架橋密度や吸水率が高くなりすぎ、変形能力が不足し、繊維複合材料の耐衝撃性に劣る場合がある。
【0028】
芳香族アミン硬化剤の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA−220、3,3’−DAS(以上、三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(三菱化学(株)製)、Lonzacure(登録商標)”M−DEA、“Lonzacure(登録商標)”M−DIPA、“Lonzacure(登録商標)”M−MIPAおよび“Lonzacure(登録商標)“DETDA 80(以上、Lonza(株)製)などが挙げられる。
【0029】
また、これらエポキシ樹脂と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を組成物中に配合することもできる。この方法は、樹脂組成物の粘度調製や保存安定性向上に有効な場合がある。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C]が用いられることを必須とする。本発明で規定される、「エポキシ樹脂と反応されうる反応性基」とは、エポキシ分子のオキシラン基または硬化剤の官能基と反応可能な官能基を意味する。例えば、オキシラン基、アミノ基、水酸基またはカルボキシル基等の官能基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。中でも、カルボキシル基を反応性基とするブロック共重合体は、微細な相分離構造を形成し、高い靱性を与えることから、好ましく用いられる。例えば、ブロック共重合体に反応性基を付与するために用いられる反応性モノマーとして、(メタ)アクリル酸(本明細書において、メタクリル酸とアクリル酸を総称して「(メタ)アクリル酸」と略記する)、または、加水分解反応により(メタ)アクリル酸を得ることが可能なモノマー等を用いることができる。かかる反応性モノマーを用いてブロック共重合体に反応性基を付与することで、エポキシ樹脂との相溶性向上やエポキシ−ブロック共重合体界面での接着性向上、成形条件によるモルホロジーの変動を抑制させることが可能である。
【0031】
かかるエポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C]は、S−B−M、B−M、およびM−B−Mからなる群から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体(以下略して、ブロック共重合体と記すこともある)であることも好ましい。これにより、エポキシ樹脂組成物の優れた耐熱性を維持しつつ、靱性や耐衝撃性を向上させることが可能である。
【0032】
ここで前記のS、B、および、Mで表される各ブロックは、共有結合によって連結されるか、もしくは一方のブロックに一つの共有結合を介して結合され、他方のブロックに他の共有結合を介して結合された中間分子によって連結されている。
【0033】
ブロックMはポリメタクリル酸メチルのホモポリマーまたはメタクリル酸メチルを少なくとも50重量%含む共重合体からなるブロックである。さらに、ブロック共重合体[C]を、エポキシ分子のオキシラン基または硬化剤の官能基と反応可能にするため、このブロックMに反応性モノマーが共重合成分として導入されていると良い。
【0034】
ブロックBはブロックMに非相溶で、そのガラス転移温度Tg(以降、Tgとのみ記載することもある)が20℃以下のブロックである。 ブロックBのガラス転移温度Tgは、エポキシ樹脂組成物およびブロック共重合体単体のいずれを用いた場合でも、RSAII(レオメトリックス社製)を用いてDMA法により測定できる。すなわち、1×2.5×34mmの板状のサンプルを、−100〜250℃の温度で1Hzの牽引周期を加えてDMA法により測定し、tanδ値をガラス転移温度Tgとする。ここで、サンプルの作製は次のようにして行う。エポキシ樹脂組成物を用いた場合は、未硬化の樹脂組成物を真空中で脱泡した後、1mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み1mmになるように設定したモールド中で130℃の温度で2時間硬化させることでボイドのない板状硬化物が得られる。ブロック共重合体単体を用いた場合は、2軸押し出し機を用いることで同様にボイドのない板が得られる。これらの板をダイヤモンドカッターにより上記サイズに切り出して評価することができる。
【0035】
ブロックSはブロックBおよびMに非相溶であり、そのガラス転移温度Tgは、ブロックBよりも高いものである。
【0036】
また、ブロック共重合体が、S−B−Mの場合は、S、BおよびMのいずれかのブロックが、ブロック共重合体が、B−MまたはM−B−Mの場合は、BおよびMのいずれかのブロックが、エポキシ樹脂と相溶することは、靱性の向上の観点から好ましい。
【0037】
かかるエポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C]の配合量は、力学特性やコンポジット作製プロセスへの適合性の観点から、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂総量100質量部に対して2〜15質量部であることが好ましく、より好ましくは3〜10質量部、さらに好ましくは、4〜8質量部の範囲である。配合量が2質量部に満たない場合、硬化物の靭性および塑性変形能力が低下し、得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性が低くなる。配合量が15質量部を超える場合、硬化物の弾性率が顕著に低下し、得られる繊維強化複合材料の静的強度特性が低くなる上、成形温度での樹脂流れが不足し、得られる繊維強化複合材料がボイドを含む傾向になる。
【0038】
ブロックBのガラス転移温度Tgは、20℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−40℃以下である。かかるガラス転移温度Tgは、靱性の観点では低ければ低いほど好ましいが、−100℃を下回ると繊維強化複合材料とした際に切削面が荒れるなどの加工性に問題が生じる場合がある。
【0039】
ブロックBは、エラストマーブロックであることが好ましく、かかるエラストマーブロックを合成するのに用いられるモノマーはブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンおよび2−フェニル−1,3−ブタジエンから選択されるジエンが好ましい。特にポリブタジエン、ポリイソプレンおよびこれらのランダム共重合体または部分的または完全に水素化されたポリジエン類の中から選択するのが靱性の観点から好ましい。ポリブタジエンの中では1,2−ポリブタジエン(Tg:約0℃)なども挙げられるが、ガラス転移温度Tgが最も低い例えば1,4−ポリブタジエン(Tg:約−90℃)を使用するのがより好ましい。ガラス転移温度Tgがより低いブロックBを用いることは耐衝撃性や靱性の観点から有利だからである。ブロックBは水素化されていてもよい。この水素化は通常の方法に従って実行される。
【0040】
ブロックBを構成するモノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレートもまた好ましい。具体例としては、アクリル酸エチル(−24℃)、ブチルアクリレート(−54℃)、2−エチルヘキシルアクリレート(−85℃)、ヒドロキシエチルアクリレート(−15℃)および2−エチルヘキシルメタアクリレート(−10℃)を挙げることができる。ここで、各アクリレートの名称の後のカッコ中に示した数値は、それぞれのアクリレートを用いた場合に得られるブロックBのTgである。これらの中では、ブチルアクリレートを用いるのが好ましい。これらのアクリレートモノマーは、メタクリル酸メチルを少なくとも50重量%含むブロックMのアクリレートとは非相溶である。
【0041】
これらの中でもBブロックとしては、1,4−ポリブタジエン、ポリブチルアクリレートおよびポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)から選ばれたポリマーからなるブロックが好ましい。
【0042】
ブロック共重合体としてトリブロック共重合体S−B−Mを用いる場合、ブロックSは、ブロックBおよびMに非相溶で、そのガラス転移温度Tgは、ブロックBよりも高い。ブロックSのTgまたは融点は23℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。ブロックSの例として芳香族ビニル化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレンまたはビニールトルエンから得られるもの、アルキル鎖が1〜18の炭素原子を有するアルキル酸および/またはメタクリル酸のアルキルエステルから得られるものを挙げることができる。アルキル鎖が1〜18の炭素原子を有するアルキル酸および/またはメタクリル酸のアルキルエステルから得られるものは、メタクリル酸メチルを少なくとも50重量%含むブロックMとは互いに非相溶である。
【0043】
ブロック共重合体としてトリブロック共重合体M−B−Mを用いる場合、トリブロック共重合体M−B−Mの二つのブロックMは互いに同一でも異なっていてもよい。また、同じモノマーによるもので分子量が異なるものにすることもできる。
【0044】
ブロック共重合体としてトリブロック共重合体M−B−Mとジブロック共重合体B−Mを併用する場合には、このトリブロック共重合体M−B−MのブロックMはジブロック共重合体B−MのMブロックと同一でも、異なっていてもよく、また、M−B−MトリブロックのブロックBはジブロック共重合体B−Mと同一でも異なっていてもよい。
【0045】
ブロック共重合体としてトリブロック共重合体S−B−Mとジブロック共重合体B−Mおよび/またはトリブロック共重合体M−B−Mを併用する場合には、このトリブロック共重合体S−B−MのブロックMと、トリブロック共重合体M−B−Mの各ブロックMと、ジブロック共重合体B−MのブロックMとは互いに同一でも異なっていてもよく、トリブロック共重合体S−B−Mと、トリブロック共重合体M−B−Mと、ジブロック共重合体B−Mとの各ブロックBは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0046】
ブロック共重合体は、アニオン重合によって製造でき、例えば欧州特許第EP524,054号公報や欧州特許第EP749,987号公報に記載の方法で製造できる。
【0047】
反応する反応性基を有するブロック共重合体の具体例としては、カルボキシル基を共重合成分として導入したメタクリル酸メチル−ブチルアクリレート−メタクリル酸メチルのトリブロック共重合体として、“ナノストレングス(Nanostrength)(登録商標)”SM4032XM10(アルケマ(株)製)等が挙げられる。
【0048】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には未硬化時の粘弾性を調整して作業性を向上させたり、樹脂硬化物の弾性率や耐熱性を向上させる目的で、[A]以外のエポキシ樹脂を添加することができる。これらは1種類だけでなく、複数種組み合わせて添加しても良い。具体的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ウレタンおよびイソシアネート変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0049】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807、“jER(登録商標)”825、“jER(登録商標)”828、“jER(登録商標)”834、“jER(登録商標)”1001、“jER(登録商標)”1002、“jER(登録商標)”1003、“jER(登録商標)”1004、“jER(登録商標)”1004AF、“jER(登録商標)”1005F、“jER(登録商標)”1006FS、“jER(登録商標)”1007、“jER(登録商標)”1009、“jER(登録商標)”4002P、“jER(登録商標)”4004P、“jER(登録商標)”4007P、“jER(登録商標)”4009P、“jER(登録商標)”5050、“jER(登録商標)”5054、“jER(登録商標)”5057(以上、三菱化学(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2004(以上、新日鐵化学(株)製)、YSLV−80XY、“エピクロン(登録商標)”EXA−1514(DIC(株)製)などが挙げられる。
【0050】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピコート(登録商標)”152、“エピコート(登録商標)”154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N−740、“エピクロン(登録商標)”N−770、“エピクロン(登録商標)”N−775(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
【0051】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、“エピクロン(登録商標)”N−665、“エピクロン(登録商標)”N−670、“エピクロン(登録商標)”N−673、“エピクロン(登録商標)”N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0052】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の具体例としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0053】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては“エピクロン(登録商標)”HP7200、“エピクロン(登録商標)”HP7200L、“エピクロン(登録商標)”HP7200H(以上、DIC(株)製)、Tactix558(ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、XD−1000−1L、XD−1000−2L(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0054】
ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、“エピコート(登録商標)”YX4000H、“エピコート(登録商標)”YX4000、“エピコート(登録商標)”YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0055】
ウレタンおよびイソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品としては、オキサゾリドン環を有するAER4152(旭化成イーマテリアルズ(株)製)やACR1348(旭電化(株)製)などが挙げられる。
【0056】
また、本発明の効果を失わない範囲において、エポキシ樹脂、[B]および[C]以外の成分を含んでも構わない。例えば、本発明のエポキシ樹脂組成物には、粘弾性を制御しプリプレグのタックやドレープ特性を改良したり、繊維強化複合材料の耐衝撃性などの力学特性を改良するため、エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂や、ゴム粒子及び熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子や、無機粒子等を配合することができる。
【0057】
エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂として、アルコール性水酸基、アミド結合、スルホニル基などの水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂を配合すると樹脂と強化繊維との接着性改善効果が期待できるため好ましい。具体的には、アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドン、スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンを挙げることができる。ポリアミド、ポリイミドおよびポリスルホンは主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子に置換基を有してもよい。エポキシ樹脂可溶で、水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂の市販品は、ポリビニルアセタール樹脂として、デンカブチラールおよび“デンカホルマール(登録商標)”(電気化学工業(株)製)、“ビニレック(登録商標)”(チッソ(株)製)を、フェノキシ樹脂として、“UCAR(登録商標)”PKHP(ユニオンカーバイド社製)を、ポリアミド樹脂として“マクロメルト(登録商標)”(ヘンケル白水(株)製)、“アミラン(登録商標)”CM4000(東レ(株)製)を、ポリイミドとして“ウルテム(登録商標)”(ジェネラル・エレクトリック社製)、“Matrimid(登録商標)”5218(チバ社製)を、ポリスルホンとして“Victrex(登録商標)”(三井化学(株)製)、“UDEL(登録商標)”(ユニオンカーバイド社製)を、ポリビニルピロリドンとして、“ルビスコール(登録商標)”(ビーエーエスエフジャパン(株)製)を挙げることができる。
【0058】
また、エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂として上記の他にもアクリル系樹脂が、エポキシ樹脂との相溶性が高く、粘弾性制御のために好適に用いられる。アクリル樹脂の市販品として、“ダイヤナール(登録商標)”BRシリーズ(三菱レイヨン(株)製)、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M,M100,M500(松本油脂製薬(株)製)などを挙げることができる。
【0059】
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、及び架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。
【0060】
架橋ゴム粒子の市販品としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるFX501P(日本合成ゴム工業社製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(日本触媒(株)製)、YR−500シリーズ(新日鉄化学(株)製)等を使用することができる。
【0061】
コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL−2655(呉羽化学工業(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC−3355、TR−2122(武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる“PARALOID(登録商標)”EXL−2611、EXL−3387(Rohm&Haas社製)、“カネエース(登録商標)”MXシリーズ(カネカ(株)製)等を使用することができる。
【0062】
熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミド粒子やポリイミド粒子が好ましく用いられ、ポリアミド粒子の市販品として、SP−500(東レ(株)製)、“トレパール(登録商標)”TN(東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D(ATOCHEM(株)製)、“オルガソール(登録商標)”2002(ATOCHEM(株)製)、“オルガソール(登録商標)”3202(ATOCHEM(株)製)、トロガミドT5000などが挙げられる。
【0063】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、ニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機などが好ましく用いられる。アミン型エポキシ樹脂[A]に[C]のブロック共重合体を投入、混練後、撹拌しながら組成物の温度を130〜180℃の任意の温度まで上昇させた後、その温度で撹拌しながら[C]のブロック共重合体をエポキシ樹脂に溶解させる。[C]のブロック共重合体をエポキシ樹脂に溶解させた透明な粘調液を得た後、撹拌しながら好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下の温度まで下げて[B]の芳香族アミン硬化剤ならびに硬化触媒を添加し混練する方法は、[C]のブロック共重合体の粗大な分離が発生しにくく、また樹脂組成物の保存安定性にも優れるため好ましく用いられる。
【0064】
本発明のエポキシ樹脂組成物をプリプレグのマトリックス樹脂として用いる場合、タックやドレープなどのプロセス性の観点から、80℃における粘度が0.1〜200Pa・sであることが好ましく、より好ましくは0.5〜100Pa・s、さらに好ましくは1〜50Pa・sの範囲である。80℃における粘度が0.1Pa・sに満たない場合、プリプレグの形状保持性が低くなり、割れが発生する場合があり、また成形時の樹脂フローが多く発生し、繊維含有量にばらつきを生じたりする場合がある。80℃における粘度が200Pa・sを超える場合、樹脂組成物のフィルム化行程でかすれを生じたり、強化繊維への含浸行程で未含浸部分が発生する場合がある。
【0065】
また、特に、航空機1次構造材用プリプレグに用いる場合、本発明のエポキシ樹脂組成物の最低粘度は0.05〜20Pa・sであることが好ましく、より好ましくは0.1〜10Pa・sの範囲である。最低粘度が0.05Pa・sに満たない場合、プリプレグの形状保持性が低くなり、割れが発生する場合があり、また成形時の樹脂フローが多く発生し、強化繊維含有量にばらつきを生じたりする場合がある。最低粘度が20Pa・sを超える場合、エポキシ樹脂組成物のフィルム化工程でかすれを生じたり、強化繊維への含浸工程で未含浸部分が発生する場合がある。
【0066】
ここでいう粘度とは、動的粘弾性測定装置(レオメーターRDA2:レオメトリックス社製)を用い、直径40mmのパラレルプレートを用い、昇温速度2℃/minで単純昇温し、周波数0.5Hz、Gap1mmで測定を行った複素粘性率ηのことを指している。
【0067】
本発明のエポキシ組成物は、その硬化過程で[C]のブロック共重合体が相分離し、微細な相分離構造が形成される。正確には、[C]のブロック共重合体中の複数のブロックのうち、エポキシ樹脂に対して相溶性の低いブロックが、硬化中に相分離してできるものである。本発明のエポキシ樹脂組成物は、180℃2時間で硬化させたとき、大きさが0.01〜5μmの範囲にある相分離構造を形成することが好ましい。ここで、相分離構造の大きさ(以下、相分離サイズと記載する)は、海島構造の場合、島相の大きさの数平均値である。島相が楕円形のときは、長径をとり、不定形の場合は外接する円の直径を用いる。また、二層以上の円または楕円になっている場合には、最外層の円の直径または楕円の長径を用いるものとする。なお、海島構造の場合、所定の領域内に存在する全ての島相の長径を測定し、これらの数平均値を相分離サイズとする。かかる所定の領域とは、顕微鏡写真を基に以下のようにして設定するものとする。相分離サイズが10nmオーダー(10nm以上100nm未満)と予想される場合、倍率を20,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに4mm四方の領域(サンプル上200nm四方の領域)3箇所を選出した領域をいい、同様にして、相分離サイズが100nmオーダー(100nm以上1000nm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに4mm四方の領域(サンプル上2μm四方の領域)3箇所を選出した領域をいい、相分離サイズが1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上でランダムに4mm四方の領域(サンプル上20μm四方の領域)をいうものとする。もし、測定した相分離サイズが予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて対応する領域を再度測定し、これを採用する。また、両相連続構造の場合、顕微鏡写真の上に所定の長さの直線を引き、その直線と相界面の交点を抽出し、隣り合う交点間の距離を測定し、これらの数平均値を相分離サイズとする。かかる所定の長さとは、顕微鏡写真を基に以下のようにして設定するものとする。相分離サイズが10nmオーダー(10nm以上100nm未満)と予想される場合、倍率を20,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mmの長さ(サンプル上1000nmの長さ)3本を選出したものをいい、同様にして、相分離サイズが100nmオーダー(100nm以上1000nm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mmの長さ(サンプル上10μmの長さ)3本を選出したものをいい、相分離サイズが1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mmの長さ(サンプル上100μmの長さ)3本を選出したものをいうものとする。もし、測定した相分離サイズが予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて対応する長さを再度測定し、これを採用する。なお、写真上での測定時には、0.1mm以上の相を島相として測定するものとする。かかる相分離サイズは、10〜500nmの範囲にあることがより好ましく、さらに好ましくは10〜200nm、とりわけ好ましくは15〜100nmの範囲にあることが望ましい。相分離サイズが10nmに満たない場合、硬化物の靭性が不足し、繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。また、相分離サイズが500nmを超える粗大な相分離であると、硬化物の塑性変形能力や靭性が不足し、繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。この相分離構造は、樹脂硬化物の断面を走査型電子顕微鏡もしくは透過型電子顕微鏡により観察することができる。必要に応じて、オスミウムなどで染色しても良い。染色は、通常の方法で行われる。
【0068】
かかる相分離構造サイズは、成形条件に対する依存性が十分小さいことが好ましい。かかる依存性が小さいことで、成形時にモルホロジー変動が生じにくくなり、例えば、大型の航空機部材等においても均一な相分離構造を形成させることができる結果、安定した力学特性を発現させることができる。具体的には、例えば、成形時の昇温速度を1.5℃/分から5℃/分まで変化させた場合の上記相分離構造サイズの変動幅が±20%以下であることが好ましく、±10%以下であることがより好ましい。
【0069】
本発明で用いられる強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維等が挙げられる。これらの強化繊維を2種以上混合して用いても構わないが、より軽量で、より耐久性の高い成形品を得るために、炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが好ましい。特に、材料の軽量化や高強度化の要求が高い用途においては、その優れた比弾性率と比強度のため、炭素繊維を好適に用いられる。
【0070】
本発明で好ましく用いられる炭素繊維は、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、耐衝撃性の点から高くとも400GPaの引張弾性率を有する炭素繊維であることが好ましい。また、強度の観点からは、高い剛性および機械強度を有する複合材料が得られることから、引張強度が好ましくは4.4〜6.5GPaの炭素繊維が用いられる。また、引張伸度も重要な要素であり、1.7〜2.3%の高強度高伸度炭素繊維であることが好ましい。従って、引張弾性率が少なくとも230GPaであり、引張強度が少なくとも4.4GPaであり 、引張伸度が少なくとも1.7%であるという特性を兼ね備えた炭素繊維が最も適している。
【0071】
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800G−24K、“トレカ(登録商標)”T800S−24K、 “トレカ(登録商標)”T700G−24K、“トレカ(登録商標)”T300−3K、および“トレカ(登録商標)”T700S−12K(以上東レ(株)製)などが挙げられる。
【0072】
炭素繊維の形態や配列については、一方向に引き揃えた長繊維や織物等から適宜選択できるが、軽量で耐久性がより高い水準にある炭素繊維強化複合材料を得るためには、炭素繊維が、一方向に引き揃えた長繊維(繊維束)や織物等連続繊維の形態であることが好ましい。
【0073】
本発明で好ましく用いられる炭素繊維束は、単繊維繊度が0.2〜2.0dtexであることが好ましく、より好ましくは0.4〜1.8dtexである。単繊維繊度が0.2dtex未満では、撚糸時においてガイドローラーとの接触による炭素繊維束の損傷が起こり易くなることがあり、また樹脂組成物の含浸処理工程においても同様の損傷が起こることがある。単繊維繊度が2.0dtexを超えると炭素繊維束に樹脂組成物が充分に含浸されないことがあり、結果として耐疲労性が低下することがある。
【0074】
本発明で好ましく用いられる炭素繊維束は、一つの繊維束中のフィラメント数が2500〜50000本の範囲であることが好ましい。フィラメント数が2500本を下回ると繊維配列が蛇行しやすく強度低下の原因となりやすい。また、フィラメント数が50000本を上回るとプリプレグ作製時あるいは成形時に樹脂含浸が難しいことがある。フィラメント数は、より好ましくは2800〜40000本の範囲である。
【0075】
本発明のプリプレグは、上述のエポキシ樹脂組成物を上記強化繊維に含浸したものである。そのプリプレグの繊維質量分率は好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。繊維質量分率が低すぎると、得られる複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、繊維質量分率が高すぎると、樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
【0076】
強化繊維の形態は特に限定されるものではなく、例えば、一方向に引き揃えた長繊維、トウ、織物、マット、ニット、組み紐などが用いられる。また、特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
【0077】
本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂として用いられる前記エポキシ樹脂組成物を、メチルエチルケトンやメタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、強化繊維に含浸させる方法(ウェット法)と、マトリックス樹脂を加熱により低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法(ドライ法)等により作製することができる。
【0078】
ウェット法は、強化繊維をマトリックス樹脂であるエポキシ樹脂組成物の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発させる方法であり、ホットメルト法(ドライ法)は、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、または一旦エポキシ樹脂組成物を離型紙等の上にコーティングしたフィルムを作成しておき、次いで強化繊維の両側または片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。ホットメルト法によれば、プリプレグ中に残留する溶媒が実質上皆無となるため、本発明においては好ましい態様である。
【0079】
得られたプリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながらマトリックス樹脂を加熱硬化させる方法等により、本発明による繊維強化複合材料が作製される。
【0080】
ここで熱および圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法等が採用される。
【0081】
本発明の繊維強化複合材料は、プリプレグを介さず、エポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させた後、加熱硬化せしめる方法、例えば、ハンド・レイアップ法、フィラメント・ワインディング法、プルトルージョン法、レジン・インジェクション・モールディング法、およびレジン・トランスファー・モールディング法等の成形法によっても作製できる。これら方法では、エポキシ樹脂からなる主剤とエポキシ樹脂硬化剤との2液を使用直前に混合してエポキシ樹脂組成物を調製することが好ましい。
【0082】
本発明のエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いた繊維強化複合材料は、スポーツ用途、航空機用途および一般産業用途に好適に用いられる。より具体的には、航空宇宙用途では、主翼、尾翼およびフロアビーム等の航空機一次構造材用途、フラップ、エルロン、カウル、フェアリングおよび内装材等の二次構造材用途、ロケットモーターケースおよび人工衛星構造材用途等に好適に用いられる。このような航空宇宙用途の中でも、特に耐衝撃性が必要で、かつ、高度飛行中において低温にさらされるため、低温における引張強度が必要な航空機一次構造材用途、特に胴体スキンや主翼スキンにおいて、本発明による繊維強化複合材料が特に好適に用いられる。また、スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニス、バトミントンおよびスカッシュ等のラケット用途、ホッケー等のスティック用途、およびスキーポール用途等に好適に用いられる。さらに一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両等の移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、補強筋、および補修補強材料等の土木・建築材料用途等に好適に用いられる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例によって、本発明のエポキシ樹脂組成物について、より具体的に説明する。実施例で用いた樹脂原料の作製方法および評価法を、次に示す。
【0084】
<エポキシ樹脂>
アミン型エポキシ樹脂[A]
(2官能型エポキシ樹脂)
・下記方法で合成したN,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリン
温度計、滴下漏斗、冷却管および攪拌機を取り付けた四つ口フラスコに、エピクロロヒドリン610.6g(6.6mol)を仕込み、窒素パージを行いながら温度を70℃まで上げて、これにエタノール1020gに溶解させたp−フェノキシアニリン203.7g(1.1mol)を4時間かけて滴下した。さらに6時間撹拌し、付加反応を完結させ、4−フェノキシ−N,N−ビス(2−ヒドロキシ−3−クロロプロピル)アニリンを得た。続いて、フラスコ内温度を25℃に下げてから、これに48%NaOH水溶液229g(2.75mol)を2時間で滴下してさらに1時間撹拌した。環化反応が終わってからエタノールを留去して、408gのトルエンで抽出を行い5%食塩水で2回洗浄を行った。有機層からトルエンとエピクロロヒドリンを減圧下で除くと、褐色の粘性液体が308.5g(収率94.5%)得られた。主生成物であるN,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリンの純度は、91%(GCarea%)であった。
【0085】
(多官能型エポキシ樹脂)
・ELM434(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、住友化学(株)製)
・“jER(登録商標)”630(トリグリシジル−p−アミノフェノール、三菱化学(株)製)。
【0086】
([A]以外のエポキシ樹脂)
・“EPON (登録商標) ”825(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製))
・“jER (登録商標) ”4007P(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)
・“jER(登録商標)”152(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製)。
【0087】
(その他の成分)
・“トレパール(登録商標)”TN(東レ(株)製、平均粒子径:13.0μm)。
【0088】
<芳香族アミン硬化剤[B]>
・“セイカキュア (登録商標) ”−S(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)
・3,3’−DAS(3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、三井化学ファイン(株)製)。
【0089】
<ブロック共重合体[C]ほか>
(エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C])
・“ナノストレングス(Nanostrength)(登録商標)”SM4032XM10(アルケマ(株)製、Bがブチルアクリレート(Tg:−54℃)、Mがメタクリル酸メチルとカルボキシル基含有アクリル系モノマーとのランダム共重合鎖からなるM−B−Mのブロック共重合体[C])
・(MMA−GMA)−EHMA {ポリ(メチルメタクリレート−ran−グリシジルメタクリレート)−block−ポリ(2−エチルヘキシルメタクリレート)、(MMA−GMA)ブロック質量分率=0.22、(MMA−GMA)ブロック中のグリシジルメタクリレートのモル分率=0.4、Mn=25,500g/モル}
“Macromolecules”、34巻、p.8593(2001年)の、R.B.Grubbs,J.M.Dean,F.S.Batesによる“Methacrylate Block Copolymers through Metal−Mediated Living Free−Radical Polymerization for Modification of Termosetting Epoxy”の記載に従って合成した。
・(MA−AA)−BA {ポリ(メチルアクリレート−ran−アクリル酸)−block−ポリ(ブチルアクリレート)、(MA−AA)ブロック質量分率=0.24、(MA−AA)ブロック中のアクリル酸のモル分率=0.05、Mn=78,100g/モル}
アルコキシアミンBlocBuilder(iBA−DEPN)を使用して、ポリ(メチルアクリレート−ran−アクリル酸)のリビング第1ブロックを調製した。iBA−DEPNをメチルアクリレートとアクリル酸の混合物に添加し、窒素雰囲気下で110〜120℃で加熱し、60〜90%の転化率まで重合を進行させた。この重合物をアクリル酸ブチルモノマーで希釈して、残留アクリル酸メチルを50〜60℃で、真空下で揮散させた。トルエンを加え、窒素雰囲気下で110〜120℃で加熱し、60〜90%の転化率まで第2のブロックを重合させた。溶剤および残余モノマーを真空下で除去し、ブロック共重合体を得た。
【0090】
(エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を含まないブロック共重合体)
・“ナノストレングス(Nanostrength)(登録商標)”M22N(アルケマ(株)製、Bがブチルアクリレート(Tg:−54℃)、Mがメタクリル酸メチルと極性アクリル系モノマーのランダム共重合鎖からなるM−B−Mのブロック共重合体)。
【0091】
(1)エポキシ樹脂組成物の調製
ニーダー中に、硬化剤および硬化促進剤以外の成分を所定量加え、混練しつつ、160℃まで昇温し、160℃、1時間混練することで、透明な粘調液を得た。混練しつつ80℃まで降温させた後、硬化剤および硬化促進剤を所定量添加え、さらに混練し、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0092】
(2)樹脂硬化物の曲げ弾性率測定
上記(1)で調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中に注入した。180℃の温度で2時間硬化させ、厚さ2mmの樹脂硬化物を得た。次に、得られた樹脂硬化物の板から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、スパン間32mmの3点曲げを測定し、JIS K7171−1994に従い、曲げ弾性率を求めた。
【0093】
(3)樹脂硬化物の靱性(KIC)測定
上記(1)で調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、6mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み6mmになるように設定したモールド中で、180℃の温度で2時間硬化させ、厚さ6mmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物を12.7×150mmのサイズにカットし、試験片を得た。インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、ASTM D5045(1999)に従って試験片の加工および実験をおこなった。試験片への初期の予亀裂の導入は、液体窒素温度まで冷やした剃刀の刃を試験片にあてハンマーで剃刀に衝撃を加えることで行った。ここでいう、樹脂硬化物の靱性とは、変形モードI(開口型)の臨界応力拡大係数のことを指している。
【0094】
(4)ガラス転移温度測定
上記(2)で作製した樹脂硬化物の板から、樹脂硬化物を7mg取り出し、TAインスツルメンツ社製DSC2910(型番)を用いて、30℃〜350℃の温度範囲を昇温速度10℃/分にて、測定を行い、JIS K7121−1987に基づいて求めた中間点温度をガラス転移温度Tgとし、耐熱性を評価した。
【0095】
(5)相分離構造サイズの測定
上記(1)で調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡し、30℃〜180℃までの温度領域を1.5℃/分の速度で昇温させた後、180℃の温度で2時間硬化させた樹脂硬化物を得た。樹脂硬化物を染色後、薄切片化し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて下記の条件で透過電子像を取得した。染色剤は、モルホロジーに十分なコントラストが付くよう、OsOとRuOを樹脂組成に応じて使い分けた。
・装置:H−7100透過型電子顕微鏡(日立(株)製)
・加速電圧:100kV
・倍率:10,000倍。
【0096】
これにより、アミン型エポキシ樹脂[A]リッチ相とエポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C]リッチ相の構造周期を観察した。[A]と[C]の種類や比率により、硬化物の相分離構造は、両相連続構造や海島構造を形成するのでそれぞれについて以下のように測定した。
【0097】
両相連続構造の場合、顕微鏡写真の上に所定の長さの直線を引き、その直線と相界面の交点を抽出し、隣り合う交点間の距離を測定し、測定した全ての距離の数平均値を構造周期とした。所定の長さとは、顕微鏡写真を基に以下のようにして設定した。構造周期が10nmオーダー(10nm以上100nm未満)と予想される場合、倍率を20,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mmの長さ(サンプル上1μmの長さ)3本を選出した。同様にして、構造周期が100nmオーダー(100nm以上1μm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mmの長さ(サンプル上10μmの長さ)3本を選出した。構造周期が1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mmの長さ(サンプル上100μmの長さ)3本を選出した。もし、測定した構造周期が予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて対応する長さを再度測定し、これを採用した。
【0098】
また、海島構造の場合、所定の領域内に存在する全ての島相の長径を測定し、これらの数平均値を島相の径とした。ここで所定の領域とは、得られた像から島相の径が100nm未満と予想される場合、倍率を20,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mm四方の領域(サンプル上1μm四方の領域)3箇所を選出した。同様にして、島相の径が100nmオーダー(100nm以上1μm未満)と予想される場合、倍率を2,000倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mm四方の領域(サンプル上10μm四方の領域)3箇所を選出した。島相の径が1μmオーダー(1μm以上10μm未満)と予想される場合、倍率を200倍で写真撮影し、写真上でランダムに20mm四方の領域(サンプル上100μm四方の領域)3箇所を選出した。もし、測定した島相の径が予想したオーダーより外れていた場合、該当するオーダーに対応する倍率にて対応する領域を再度測定し、これを採用した。
【0099】
(6)モルホロジー変動の安定性
上記(1)で調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡し、30℃〜180℃までの温度領域を1.5℃/分、5℃/分の速度で各々昇温させた後、180℃の温度で2時間硬化させ、成形条件の異なる樹脂硬化物を得た。上記(5)の方法で透過型電子像を取得し、相分離構造サイズを求め、次式にて相分離構造サイズの変動幅を算出した。
【0100】
変動幅(%)={(5℃/min.昇温成形時の相分離構造サイズ)/(1.5℃/min.昇温成形時の相分離構造サイズ)−1)}×100
(実施例1)
混練装置で、20質量部のN,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリン(2官能のアミン型エポキシ樹脂[A])、70質量部のELM434(多官能のアミン型エポキシ樹脂[A])、10質量部のEPON825([A]以外のエポキシ樹脂)および7質量部のSM4032XM10(エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C])を混練した後、芳香族アミン硬化剤[B]であるセイカキュア−Sを45質量部混練して、エポキシ樹脂組成物を作製した。表1に、組成と割合を示す(表1中、数字は質量部を表す)。得られたエポキシ樹脂組成物について、上記の(2)樹脂硬化物の曲げ弾性率測定、(3)樹脂硬化物の靱性(KIC)測定、(4)ガラス転移温度測定、(5)相分離構造サイズの測定、(6)モルホロジー変動の安定性に従い、樹脂硬化物の曲げ弾性率、KIC、ガラス転移温度、相分離構造サイズ、各々の成形条件による相分離構造サイズを測定した。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例1)
混練装置で、100質量部のN,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリン(2官能のエポキシ樹脂[A])と7質量部のM22N(エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を含まないブロック共重合体)を混練したところ、溶解しなかった。表2に、組成と割合を示す(表2中、数字は質量部を表す。)
(実施例2〜12、比較例2〜7)
エポキシ樹脂と硬化剤の種類および配合量を、表1、2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を作製した。得られたエポキシ樹脂組成物について、上記の(2)樹脂硬化物の曲げ弾性率測定と(3)樹脂硬化物の靱性(KIC)測定、(4)ガラス転移温度測定、(5)相分離構造サイズの測定、(6)モルホロジー変動の安定性に従い、樹脂硬化物の曲げ弾性率、KIC、ガラス転移温度、相分離構造サイズ、各々の成形条件による相分離構造サイズを測定した。結果を表1、2に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
実施例1〜12と比較例1〜8との対比により、本発明のエポキシ樹脂組成物は低粘度であるとともに、本発明のエポキシ樹脂硬化物は微細な相分離構造を形成し、かつ、そのモルホロジーは成形条件による変動が少なく、高弾性率、高靱性に加え高い耐熱性を備えていることが明らかにされた。
【0105】
また、実施例1〜12と比較例4〜6との対比により、たとえ構成要素[C]が配合されていても、併せて構成要素[A]が所定量配合されていない場合、十分な硬化物の特性が得られないことが明らかにされた。
【0106】
また、実施例1〜12と比較例7、8との対比により、たとえ構成要素[C]が配合されていても、それが所定量配合されていない場合、やはり十分な硬化物の特性が得られないことが明らかにされた。
【0107】
さらに、実施例2、4と比較例1〜3との対比により、たとえ構成要素[A]が所定量配合されていても、併せて構成要素[C]が配合されていない場合、成形条件によるモルホロジー変動が生じたり、エポキシ樹脂とブロック共重合体が相溶しなったりする等、やはり十分な硬化物の特性が得られないことが明らかにされた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、耐熱性および強度特性に優れた繊維強化複合材料、およびこれを得るためのエポキシ樹脂組成物およびプリプレグが得られる。さらにはかかるエポキシ樹脂組成物により得られる繊維強化複合材料は、成形条件による特性変動が少ないため材料信頼性が高く、特に構造材料に好適に用いられる。これにより、繊維強化複合材料の高性能化・軽量化に加えて加工性が向上し、材料構成や形状の自由度が向上することから、様々な分野において、金属等の既存材料から繊維強化複合材料への置き換えに貢献することが期待される。例えば、航空宇宙用途では主翼、尾翼およびフロアビーム等の航空機一次構造材用途、フラップ、エルロン、カウル、フェアリングおよび内装材等の二次構造材用途、ロケットモーターケースおよび人工衛星構造材用途等に好適に用いられる。また一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両等の移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、各種タービン、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、補強筋、および補修補強材料等の土木・建築材料用途等に好適に用いられる。さらにスポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニス、バトミントンおよびスカッシュ等のラケット用途、ホッケー等のスティック用途、およびスキーポール用途等に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも次の構成要素[A]、[B]、[C]を含んでなるエポキシ樹脂組成物であって、配合したエポキシ樹脂総量100質量部に対して[A]を70〜100質量部、[C]を2〜15質量部を含むことを特徴とする繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
[A]:アミン型エポキシ樹脂
[B]:芳香族アミン硬化剤
[C]:エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体
【請求項2】
エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C]の、該反応性基がカルボキシル基である、請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂と反応されうる反応性基を有するブロック共重合体[C]が、S−B−M、B−MおよびM−B−Mからなる群から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体である、請求項2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
(ここで、前記の各ブロックは共有結合によって連結されるか、もしくは一方のブロックに一つの共有結合を介して結合され、他方のブロックに他の共有結合を介して結合された中間分子によって連結されており、ブロックMはポリメタクリル酸メチルのホモポリマーまたはメタクリル酸メチルを少なくとも50質量%含む共重合体からなり、かつ、反応性モノマーが共重合成分として導入されたブロックであり、ブロックBはブロックMに非相溶で、かつ、そのガラス転移温度が20℃以下のブロックであり、ブロックSはブロックBおよびMに非相溶で、かつ、そのガラス転移温度がブロックBのガラス転移温度よりも高いブロックである。)
【請求項4】
アミン型エポキシ樹脂[A]が、多官能エポキシ樹脂と2官能エポキシ樹脂を含むものである、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂総量100質量部に対して、多官能エポキシ樹脂の配合量が30〜70質量部、2官能エポキシ樹脂の配合量が20〜50質量部である、請求項4に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
芳香族アミン硬化剤[B]が、ジアミノジフェニルスルホンもしくはその誘導体または異性体である、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
80℃における複素粘性率が0.1〜200Pa・sの範囲内である、請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物であって、その相分離構造の大きさが0.01〜5μmの範囲にある繊維強化複合材料用エポキシ樹脂硬化物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を、強化繊維に含浸させてなるプリプレグ。
【請求項10】
強化繊維が炭素繊維である、請求項9に記載のプリプレグ。
【請求項11】
請求項9に記載のプリプレグを硬化させてなる繊維強化複合材料。
【請求項12】
請求項9に記載のプリプレグを積層し、硬化させてなる繊維強化複合材料。
【請求項13】
請求項8に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂硬化物、および強化繊維を含んでなる繊維強化複合材料。
【請求項14】
強化繊維が炭素繊維である、請求項11〜13のいずれかに記載の繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2012−188651(P2012−188651A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−31299(P2012−31299)
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】