説明

繊維強化金属の製造方法及び繊維強化金属材

【課題】強化繊維プリフォームの密度が溶湯より低い場合であっても、所望の部位に複合材を製造することができる繊維強化金属の製造方法と、このような方法によって製造された繊維強化金属材を提供する。
【解決手段】鋳造法によって繊維強化金属を製造するに際して、強化繊維プリフォーム12を内部に収納した網目状の金属製傾斜防止籠13に、溶湯温度以上の融点を備えた金属又はセラミックスから成る位置決め治具14を接合して治具一体型プリフォーム11を作製し、この治具一体型プリフォーム11を予熱したのち、金型内に配置した状態でマトリックス金属の溶湯を注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属マトリックス中に強化繊維プリフォームを含む繊維強化金属(FRM)の鋳造法による製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造法によって金属基複合材料を作製する場合、繊維や粒子などの強化材が金属溶湯を含浸し易いように、あらかじめプリフォームを形成する技術が従来から知られており、例えば強化繊維としてカーボン、マットリックス金属としてアルミニウム合金を選択した場合のように、強化繊維とマトリックス金属との濡れ性が悪い組合せの場合には、プリフォームに溶湯を注いだ後に、圧力を付与して複合化するする技術、いわゆる溶湯鍛造法が広く知られている。また、このような溶湯鍛造法は、溶湯を短時間で凝固させるため、合金組織が緻密で鋳巣のない複合材を得ることができ、比較的量産性に優れることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭61−137624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、強化材プリフォームの密度が溶湯の密度よりも低い場合、金型底部に配したプリフォームが溶湯中に浮遊して、所望の位置から離れてしまうために、複合材の製造歩留まりが低下すると共に、複合材の切り出しコストが増加するといった問題が生じていた。
【0004】
本発明は、鋳造法による繊維強化金属複合材の従来の製造方法における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、強化繊維プリフォームの密度が溶湯密度よりも低い場合においても、所望の部位に複合材を製造することができる繊維強化金属の製造方法と、このような方法によって製造された繊維強化金属材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、強化繊維プリフォームを網目状の金属製傾斜防止籠内に配し、これに位置決め治具を接合した治具一体型プリフォームを用いることによって上記目的が達成されることを見出し本発明を完成するに到った。
【0006】
本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の繊維強化金属の製造方法においては、鋳造法によって繊維強化金属を製造するに当たり、強化繊維プリフォームを収納した金属製傾斜防止籠に、溶湯温度以上の融点を備えた金属又はセラミックスから成る位置決め治具を接合して治具一体型プリフォームとなし、この治具一体型プリフォームを予熱して、金型内に配置したのち、注湯するようにしている。
【0007】
また、本発明の繊維強化金属材は、上記方法によって製造されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強化繊維プリフォームを配した金属製の傾斜防止籠に、溶湯温度以上の融点を有する金属製あるいはセラミックス製の位置決め治具を接合して成る治具一体型プリフォームを、例えば予熱炉によって予熱して、金型内に配置したのち、この状態で注湯することによって鋳造するようにしているので、上記強化繊維プリフォームが溶湯内で浮遊して大きく移動することがなく、繊維強化金属における強化繊維との複合部位を所望の位置に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の繊維強化金属の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0010】
図1(a)及び(b)は、本発明の繊維強化金属製造方法に用いる治具一体型プリフォームの一例を示すものであって、図示する治具一体型プリフォーム11は、強化繊維プリフォーム12と、この例では線材から成り、上記プリフォーム12を内部に収納した金属製の傾斜防止籠13と、この例では十字状に組み立てた金属板材から成り、マトリックスとなる金属材料の溶湯温度以上の融点を有する位置決め治具14から構成され、この位置決め治具14の図中下方位置に上記金属製傾斜防止籠13が接合されている。
【0011】
ここで、上記強化繊維プリフォーム12は各種繊維から成るものであって、このような繊維としては、樹脂や植物繊維のように、金属溶湯の熱によって溶けたり、燃えたりするようなものでなければ、特に限定されず、セラミックス繊維、金属繊維、ウイスカーなどを使用することができるが、複合材の強度及び熱伝導性を向上させる観点から炭素繊維を使用することが望ましい。
【0012】
なお、ここで言う炭素繊維としては、ピッチ系やPAN系の通常の炭素繊維のみならず、フラーレンや、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイルなどのナノ炭素繊維を用いることができる。
これらは、高強度、高弾性というだけでなく、高熱伝導率、低電気抵抗、低熱膨張といった特性を併せ持っていることから、機械的性質のみならず、熱的性質にも優れた複合材を得ることができる。
【0013】
上記金属製傾斜防止籠13は、金属、例えばアルミニウム合金や銅、銅軽合金、鋼材等から成る線材(針金)や、金網、エキスパンドメタル、パンチングメタルなどの材料から製造することができるが、上記強化繊維プリフォーム12を保持することができさえすれば、その形状や構造については特に限定されることはない。
【0014】
当該傾斜防止籠13を構成する金属材料としては、その融点がマトリックスとなる金属材料の溶湯温度以上であるものを用いることが望ましく、これによって溶湯鍛造後でも当該傾斜防止籠13を複合材内に残存させることができる。
複合材内に残存する上記傾斜防止籠13は、その形状的な特徴からX線透過試験などによってマトリックスとの識別が可能で、複合材中の複合部の3次元的位置を非破壊で把握することができる。
【0015】
一方、上記位置決め治具14は、金属又はセラミックス材から成るものであって、代表的には、銅合金やステンレス鋼などの鋼材を用いることができるが、溶湯中において強化繊維プリフォーム12を収納した上記傾斜防止籠13の位置を確保する機能を発揮させるためには、その融点がマトリックス金属の溶湯温度以上であることが必要となる。
なお、上記図1(a),(b)においては、板材を十字形に組み立てた構造のものを例示したが、当該位置決め治具14自身を強化繊維プリフォーム12及び金属製傾斜防止籠13と共に、金型内の所定の位置に保持することができさえすれば、その形状や構造について特に限定されるものではない。
【0016】
また、上記位置決め治具14は、その熱伝導率が金型の熱伝導率よりも低いことが望ましい。
すなわち、上記強化繊維プリフォーム12は、溶湯温度の低下を抑制するために、予熱炉などによって溶湯温度程度に予熱処理されるが、溶湯鍛造法のように溶湯を短時間で凝固させることのできる工法においても、金型底部に配置してから、溶湯を型内に流し込んで加圧するまでの間に、強化繊維プリフォーム12が金型と接触することによって温度低下することから、含浸開始圧が上昇してしまい、強化繊維とマトリックス金属とを完全に複合化することができない場合があるが、位置決め治具14の熱伝導率を金型の熱伝導率よりも低くすることによって、金型との接触による熱移動に基づく強化繊維プリフォーム12の温度低下を抑制することができる。
【0017】
本発明で使用する治具一体型プリフォーム11は、上記のような材料及び構造のものであるが、この一体型プリフォーム11全体の密度としては、マトリックスとなる金属溶湯の密度よりも高いことが望ましく、これによって当該一体型プリフォーム11が溶湯中に浮き上がるような事態を防止することができ、位置決め治具14や金型の設計自由度を向上させることができる。
なお、ここで言う治具一体型プリフォーム11の密度とは、当該プリフォーム11の全重量を全体の体積、つまり強化繊維プリフォーム12、金属製傾斜防止籠13及び位置決め治具14の体積の総和で除した値を意味する。
【0018】
本発明の繊維強化金属製造方法においては、上記治具一体型プリフォーム11を溶湯温度程度に予熱した後、図1(c)に示すように、金型30内に設置した状態で注湯するようになすものであるが、このとき図2(a)及び(b)に示すように、位置決め治具14を強化繊維プリフォーム12の下側に接合し、言い換えると図1(a)及び(b)に示した治具一体型プリフォーム11を反転させた状態で金型30内に配置し、図2(c)に示すように、強化繊維プリフォーム12が金型30の底部から離れた状態にすることが望ましく、これによって溶湯鍛造による圧力が強化繊維プリフォーム12の底面側にも付加されるようになり、溶湯の含浸性が向上することになる。
【0019】
また、本発明の繊維強化金属製造方法においては、上記治具一体型プリフォーム11を金型内に設置するに際して、金属製傾斜防止籠13の周囲、あるいは強化繊維プリフォーム12の周囲を0.2g/cm以下の密度を有するアルミナシートによって覆うことが望ましく、これによって、金型内の雰囲気による治具一体型プリフォーム11の温度低下、特に傾斜防止籠13及び強化繊維プリフォーム12の温度低下を抑制することができ、マトリックス金属と強化繊維との複合化をより完全なものとすることができる。
【0020】
なお、上記アルミナシートとは、アルミナ繊維から成る不織布状をなし、例えば建築用の断熱シートとしても使用されるものであって、当該アルミナシートの密度が0.2g/cmを超えると、アルミナ繊維間の目開きが小さくなって、金属溶湯が通過し難くなることがある。
【0021】
本発明の繊維強化金属に用いられるマトリックス金属としては、軽量で構造用部材に広く適用することができることから、アルミニウム合金や、マグネシウム合金、チタン合金などを用いることができ、これらのうち、取り扱いが容易で鋳造性に優れる点から、アルミニウム合金を用いることが好ましいが、これら金属のみに限定される訳ではなく、用途によっては銅合金や、亜鉛合金などを用いることも可能である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
20〜100nmの直径を有する多層カーボンナノチューブから成る強化繊維プリフォーム12を、アルミニウム合金製線材から成る金属製傾斜防止籠13に収納した後、ステンレス鋼製板材を十字状に組み立てた位置決め治具14を上記傾斜防止籠13の図中上面側に接合することによって、図1に示したような治具一体型プリフォーム11を作製した。
なお、上記金属製傾斜防止籠13を構成するアルミニウム合金製線材の融点は約660℃、位置決め治具14を構成するステンレス鋼の融点は約1510℃であると共に、該ステンレス鋼の熱伝導率は80W/m・K、治具一体型プリフォーム11の密度は、6.06であった。
【0024】
次いで、上記治具一体型プリフォーム11を予熱炉内で700℃に加熱した後、図2に示すように、溶湯鍛造用金型30の底部に配置した。
そして、マトリックス金属としてアルミニウム(工業用純アルミニウム1050材)を用いて、鋳込み温度700〜750℃、加圧力80〜100MPaの条件のもとに溶湯鍛造し、本例の繊維強化金属インゴットを得た。なお、上記溶湯鍛造用金型30は、鋼材からなるものであって、その熱伝導率については、80W/m・K程度であった。
【0025】
(実施例2)
図2に示すように、上記位置決め治具14を金属製傾斜防止籠13の図中下面側に接合することによって治具一体型プリフォーム11を作製し、このような一体型プリフォーム11を使用したこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の繊維強化金属インゴットを得た。
【0026】
(実施例3)
図3に示すように、強化繊維プリフォーム12の周囲を0.15g/cmの密度を有するアルミナシート21(電気化学工学社製)で覆ったのち、金属製傾斜防止籠13に収納したことと以外は、上記実施例2と同様の操作を繰り返し、本例の繊維強化金属インゴットを得た。
【0027】
(実施例4)
アルミニウム合金製に替えてステンレス鋼製の金属製傾斜防止籠13を用いたこと以外は、上記実施例3と同様の操作を繰り返し、本例の繊維強化金属インゴットを得た。
なお、ステンレス鋼製の金属製傾斜防止籠(融点約1510℃)を用いたことによって上記治具一体型プリフォーム11の密度は、5.58となった。
【0028】
(比較例)
20〜100nmの直径を有する多層カーボンナノチューブから成る強化繊維プリフォーム12を一体型プリフォームとすることなく、そのまま溶湯鍛造用金型30に配したこと以外は、上記実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の繊維強化金属インゴットを得た。
【0029】
〔性能評価〕
(複合化評価)
上記実施例及び比較例により得られ各繊維強化金属インゴットをそれぞれ切り出し、複合化部を肉眼及び顕微鏡観察によって検査した。その結果を表1に示す。
なお、表1において、「◎」は複合化、すなわち強化繊維プリフォームへの溶湯の含浸が完全に行われているもの、「○」はその大部分が複合化できているもの、「△」は半分程度が複合化できているもの、「×」については複合化がほとんどできていないものを示している。
【0030】
(複合部位置の評価)
上記実施例及び比較例により得られ各繊維強化金属インゴットを同様に切り出し、複合化部が所望の位置からどの程度ずれているかを目視により検査した。その結果を表1に併せて示す。
なお、表1において、「◎」は非破壊検査による複合部位の確認が可能で、しかも複合化部が所望の位置からほとんどずれていないもの、「○」は複合化部が所望の位置からほとんどずれていないもの、「×」については複合化部が大幅にずれているものを示している。
【0031】
【表1】

【0032】
これらの結果から、強化繊維プリフォームを金属製傾斜防止籠に収納し、これに位置決め治具を接合して治具一体型プリフォームとすることによって、複合部の位置精度が大幅に向上することが判明した。
また、金型の底部側に位置決め治具を配置することや、アルミナシートによって強化繊維プリフォームを覆うことによって、注湯までの温度低下を抑制することが有効であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)〜(c)は本発明の実施例1に用いた治具一体型プリフォームの構造及び繊維強化金属の製造要領を示す説明図である。
【図2】(a)〜(c)は本発明の実施例2に用いた治具一体型プリフォームの構造及び繊維強化金属の製造要領を示す説明図である。
【図3】(a)及び(b)は本発明の実施例3及び4に用いた治具一体型プリフォームの構造を示す説明図である。
【図4】比較例における繊維強化金属の製造要領を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
11 治具一体型プリフォーム
12 強化繊維プリフォーム
13 金属製傾斜防止籠
14 位置決め治具
21 アルミナシート
30 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造法により繊維強化金属を製造するに際し、強化繊維プリフォームを収納した金属製傾斜防止籠に、溶湯温度以上の融点を備えた金属又はセラミックスから成る位置決め治具を接合して治具一体型プリフォームとなし、該治具一体型プリフォームを予熱した状態で金型内に配置し、注湯することを特徴とする繊維強化金属の製造方法。
【請求項2】
上記強化繊維プリフォームに対して、位置決め治具を金型底部側に配置することを特徴とする請求項1に記載の繊維強化金属の製造方法。
【請求項3】
上記治具一体型プリフォームの密度が溶湯の密度よりも高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化金属の製造方法。
【請求項4】
上記強化繊維プリフォームが炭素繊維から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の繊維強化金属の製造方法。
【請求項5】
上記金属製傾斜防止籠の融点が溶湯温度以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の繊維強化金属の製造方法。
【請求項6】
上記位置決め治具の熱伝導率が金型の熱伝導率よりも低いことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の繊維強化金属の製造方法。
【請求項7】
上記強化繊維プリフォーム又は金属製傾斜防止籠の周囲を0.2g/cm以下の密度を有するアルミナシートによって覆うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の繊維強化金属の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の方法によって製造されたことを特徴とする繊維強化金属材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−268586(P2007−268586A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99202(P2006−99202)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【出願人】(505259181)
【出願人】(505260899)
【Fターム(参考)】