説明

繊維材料への原子層蒸着

本発明は封入層を高分子繊維及び弾道抵抗性布帛の表面上に蒸着するための方法を提供する。さらに詳しくは、本発明は、非半導性高分子繊維及び布帛への材料の原子層蒸着により塗被されたコンフォーマルな封入層を有する布帛を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子繊維及び弾道抵抗性布帛の表面上に封入層を蒸着するための方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、非半導性高分子繊維及び布帛への材料の原子層蒸着、及び、原子層蒸着により塗被されたコンフォーマルな封入層を有する布帛類に関する。
【背景技術】
【0002】
原子層蒸着(ALD)は、種々の基板の表面上に種々の材料の高密度フィルムを蒸着させるための周知の技術である。例えば、半導体基板を使用するALD法を教示する米国特許第7,128,787号明細書を参照されたい。ALDプロセスは、繰り返される交互蒸着の手順の中で、基板表面上における気化された前駆体材料の2つの自己制限化学反応を特徴とする。本方法は、通常亜大気圧及び変動蒸着温度に維持される蒸着チャンバ又は蒸着チューブ内で行われる。材料の連続的な層の堆積は、基板表面での分子前駆体の化学吸着により行われる。プロセスの1つの例では、第1の蒸気前駆体は、第1の前駆体分子を生成する蒸着チャンバに供給されて、基板表面上で分子と化学的に反応する。第1の前駆体の流れを停止した後、基板に化学吸着されていない残りの第1の前駆体を除去するのに効果的な不活性パージガスを該チャンバに流す。続いて、第1の前駆体の化学的吸着分子と化学的に反応するのに効果的な、第1蒸気前駆体とは異なる第2蒸気前駆体を該チャンバに供給し、基板上に反応生成物の第1単分子層を形成する。該プロセスを繰り返すと、第1の気化された前駆体は、形成された単分子層の表面分子と反応する。そして、反応容器への気相前駆体の交互装填によって、所望の厚さの蒸着材料が基板上に形成されるまで、連続的な単分子層を形成されることになる。ALDは、フィルム組成物に優る高度の調節及び厚さを提供し、蒸着される層は、多大な面積均一性及び三次元コンフォーマリティーを有する。
【0003】
原子層蒸着は、半導体基板上に無機塗膜を塗被して基板の表面特性を高めるために集積回路工業において一般的に使用されている。それは、半導体基板上の高アスペクト比特性を有する表面に材料をコンフォーマルに蒸着することが望ましい場合に選択される特別な方法である。例えば、米国特許第7,119,034号明細書;同7,105,444号明細書及び同7.087,482号明細書を参照されたい。ALDは、またディスプレー、光学塗膜、マイクロ-エレクトロ-メカニカルシステム(MEMS)、ナノ-エレクトロ-メカニカルシステム(NEMS)の製造に使用することもでき、有機発光ダイオード(OLED)の不動態化及び反射防止塗膜、粒子上塗膜;及び、その他のナノテクノロジー分野についても使用されてきた。
【0004】
本発明は、新たな用途を提供し、ALDにより、封入層が、特に弾道抵抗性布帛を形成するために使用される非半導性高強度繊維上の1つ以上の高分子繊維の表面上に蒸着される。発射体に対して優れた特性を有する高強度繊維を含有する弾道抵抗性物品は周知である。防弾チョッキ、ヘルメット、自動車のパネル及び軍事用装備の構造部材のような物品は、典型的には、高強度繊維、例えば、SPECTRA(登録商標)ポリエチレン繊維又はKevlar(登録商標)アラミド繊維を含む布帛から製造される。多くの用途、例えば、チョッキ又はチョッキの一部については、繊維は、織布又は編布に使用されてよい。その他の用途では、繊維は、高分子マトリックス中に封入又は埋設してよく、又、不織布に形成してよい。例えば、米国特許第4,403,012号明細書;同4,457,985号明細書;同4,613,535号明細書;同4,623,574号明細書;同4,650,710号明細書;同4,737,402号明細書;同4,748,064号明細書;同5,552,208号明細書;同5,587,230号明細書;同6,642,159号明細書;同6,841,492号明細書;同6,846,758号明細書(これらは全て、参考により本明細書中に援用されるものとするものとする)には、伸び切り鎖超高分子量ポリエチレンのような材料から製造される高強度繊維を含む弾道抵抗性複合材料が記載されている。これら複合材料は、弾丸、砲弾、散弾の破片等のような発射体からの高速度での衝撃による貫通に対する様々な程度の抵抗性を示す。
【0005】
非半導性高強度高分子繊維上への種々の材料の薄い封入層の塗布が、繊維の柔軟性を維持しながら、繊維の移動性(発射体により係止される場合)、繊維熱導電性及び放熱、発射体接触部分での繊維の耐荷特性の保護、繊維表面硬度及び耐環境分解性のような性質を改善することは予想外の発見であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,128,787号明細書
【特許文献2】米国特許第7,119,034号明細書
【特許文献3】米国特許第7,105,444号明細書
【特許文献4】米国特許第7.087,482号明細書
【特許文献5】米国特許第4,403,012号明細書
【特許文献6】米国特許第4,457,985号明細書
【特許文献7】米国特許第4,613,535号明細書
【特許文献8】米国特許第4,623,574号明細書
【特許文献9】米国特許第4,650,710号明細書
【特許文献10】米国特許第4,737,402号明細書
【特許文献11】米国特許第4,748,064号明細書
【特許文献12】米国特許第5,552,208号明細書
【特許文献13】米国特許第5,587,230号明細書
【特許文献14】米国特許第6,642,159号明細書
【特許文献15】米国特許第6,841,492号明細書
【特許文献16】米国特許第6,846,758号明細書
【発明の概要】
【0007】
本発明は、原子層蒸着による1つ以上の高分子繊維表面上に封入層を蒸着する工程を含む方法を提供する。
本発明は、また、配列状に配置された複数の高分子繊維を含み、前記繊維が、その上に原子層蒸着された封入層を有する布帛を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、45°繊維プルアウト試験に基づく、3つの異なる塗膜重量及び未塗被対照試料についてのTa2O5、ALD塗膜の繊維プルアウト力及びエネルギーの効果を示すグラフである。
【図2】図2は、45°繊維プルアウト試験に基づく、2つの異なる塗膜重量及び未塗被対照試料についてのAl2O3、ALD塗膜の繊維プルアウト力及びエネルギーの効果を示すグラフである。
【図3】図3は、個々の繊維上のAl2O3塗膜を示す、ALDでAl2O3塗被された織布の断面の走査電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、表面上に蒸着された封入層を有する繊維類、布帛類及び物品類を提供する。該封入層は、原子層蒸着技術により蒸着される。本明細書中に使用する“繊維”は、細長い物体であり、その長手寸法は、幅及び厚みの横断寸法よりはるかに長い。本発明に使用される繊維の断面は広範に変動する。これらは、断面が円形、平坦又は長方形であってもよい。したがって、繊維という用語は、規則的又は不規則的な断面を有するフィラメント、リボン、ストリップ等を包含する。これらは、また、繊維類の線形又は縦軸から突出する1つ以上の規則的又は不規則的なローブを有する不規則又は規則マルチローバル断面を有するのがよい。繊維類が単一ローブであり、又、実質的に円形の断面を有することが好ましい。
【0010】
ALDプロセスは、単一の高分子繊維又は複数の高分子繊維について実施してよい。複数の繊維類は、職布、不織布又はヤーンの形で存在してもよく、ヤーンは、本明細書では、マルチ繊維からなるストランドと定義される。さらに、複数の繊維を含む実施態様において、ALDは、繊維を布帛又はヤーンに配列する前か又は繊維を布帛又はヤーンに配列した後のいずれかに実施してよい。
【0011】
本発明の繊維は、いずれかの高分子繊維タイプを含むのがよい。典型的には、弾道抵抗性布帛の形成に有用な繊維は、非半導性である。最も好ましくは、繊維は、弾道抵抗性率材料及び物品の形成に有用な高強度高引張弾性率繊維を含む。本明細書中に使用する“高強度高引張弾性率繊維”は、両方ともそれぞれASTM D2236に従って測定して、好ましくは少なくとも約7g/デニール以上の靭性、好ましくは少なくとも約150g/デニール以上の引張弾性率、好ましくは、少なくとも約8J/g以上の破断エネルギーを有する。本明細書中に“デニール”という用語は、線形密度の単位を示し、9000メートルの繊維又はヤーン当りグラム単位での質量に等しい。本明細書中に使用する“靭性”という用語は、応力をかけていない試料の単位線形密度(デニール)当りの力(グラム)として表される引張応力を意味する。繊維の“初期弾性率”は、その変形抵抗性を表す材料の特性である。“引張弾性率”という用語は、歪の変化(当初の繊維長さ(in/in)の分率で表示)に対する靭性の変化(グラム重量/denier(g/d)で表示)の比を意味する。
【0012】
繊維を形成するポリマーは、熱可塑性又は熱硬化性であってよく、好ましくは弾道抵抗性布帛の製造に適した高強度高引張弾性率繊維である。弾道抵抗性材料及び物品の形成に特に適した高強度高引張弾性率繊維材料としては、高密度及び低密度ポリエチレンを含めポリオレフィン繊維が挙げられる。伸び切り鎖ポリオレフィン繊維、例えば、高配向高分子量ポリエチレン繊維、特に超高分子量ポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維が特に好ましい。また、アラミド繊維、特に、パラ-アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリカーボネートポリブチレン繊維、ポリスチレン繊維、ポリエステル繊維、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリカーボネート繊維、ポリアクリレート繊維、ポリブタジエン繊維、ポリウレタン繊維、伸び切り鎖ポリビニルアルコール繊維、フルオロポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エポキシ繊維、フェノール性樹脂高分子繊維、ポリビニルクロライド繊維、オルガノシリコーン高分子繊維、伸び切り鎖ポリアクリロニトリル繊維、ポリベンザゾール繊維、例えば、ポリベンズオキサゾール(PBO)及びポリベンゾチアゾール(PBT)繊維、液晶コポリエステル繊維、及び、硬質ロッド繊維、例えば、M5(登録商標)繊維が適している。コポリマー、ブロックポリマー及び上記材料のブレンドは、また、高分子繊維を製造するのに適している。上記繊維タイプの全てが弾道抵抗性布帛の形成に有用であるわけではない。弾道抵抗性布帛用の最も好ましい繊維タイプとしては、ポリエチレン、特に伸び切り鎖ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維、液晶コポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、特に、高配向伸び切り鎖ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維及び硬質ロッド繊維、特に、M5繊維が挙げられる。
【0013】
ポリエチレンの場合に、好ましい繊維は、少なくとも500,000、好ましくは、少なくとも百万、さらに好ましくは、二百万〜五百万の分子量を有する伸び切り鎖ポリエチレンである。このような伸び切り鎖ポリエチレン(ECPE)繊維は、例えば、米国特許第4,137,394号明細書又は同4,356,138号明細書(これらの特許は、参考により本明細書に援用されるものとするものとする)のような溶液紡糸プロセスによって成長させることができ、又は、例えば、米国特許第4,551,296号明細書及び同5,006,390号明細書(これらの特許は、参考により本明細書に援用されるものとする)に記載されているように、溶液から紡糸してゲル構造を形成することができる。本発明において使用される特に好ましい繊維タイプは、ハネウェル・インターナショナル社から商標SPECTRA(登録商標)の下で販売されているポリエチレン繊維である。SPECTRA繊維は、当分野で周知であり、例えば、米国特許第4,623,547号明細書及び同4,748,064号明細書に記載されている。
【0014】
アラミド(芳香族ポリアミド)又はパラ-アラミド繊維もまた特に好ましい。このような繊維は、商業的に入手可能であり、例えば、米国特許第3,671,542号明細書に記載されている。例えば、有用なポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)繊維は、デュポン社によりKEVLAR(登録商標)の商標の下に商業的に生産されている。デュポン社により取引名NOMEX(登録商標)の下に商業的に生産されているポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)及びテイジンにより取引名TWARON (登録商標)の下に商業的に生産されている繊維もまた本発明の実施に有用である。
【0015】
本発明の実施に適したポリベンザゾールは、商業的に入手可能であり、例えば、米国.特許第5,286,833号明細書;同5,296,185号明細書;同5,356,584号明細書;同5,534,205号明細書及び同6,040,050号明細書に開示されており、これら特許はそれぞれ参考により本明細書に援用されるものとするものとする。好ましいポリベンザゾール繊維は、東洋紡績からのZYLON (登録商標)ブランドの繊維である。本発明の実施に適した液晶コポリエステル繊維は、商業的に入手可能であり、例えば、米国特許第3,975,487号明細書;同4,118,372号明細書;及び、同4,161,470号明細書に開示されており、これら特許の各々は、参考により本明細書に援用されるものとするものとする。
【0016】
適したポリプロピレン繊維としては、米国特許第4,413,110号明細書(該特許は参考により本明細書に援用されるものとするものとする)に記載されているような高配向伸び切り鎖ポリプロピレン(ECPP)繊維が挙げられる。好適なポリビニルアルコール(PV-OH)繊維は、例えば、米国特許第4,440,711号明細書及び同4,599,267号明細書(該特許は、参考により本明細書に援用されるものとするものとする)に記載されている。好適なポリアクリロニトリル(PAN)繊維は、例えば、米国特許第4,535,027号明細書(該特許は参考により本明細書に援用されるものとするものとする)に開示されている。これら繊維タイプの各々は、慣用的に公知であり、広く商業的に入手可能である。
【0017】
本発明に使用されるその他の好適な繊維タイプとしては、硬質ロッド繊維、例えば、M5繊維;及び、上記材料の全ての組み合わせが挙げられ、これらは、全て、商業的に入手可能である。例えば、繊維層は、SPECTRA繊維及びKevlar繊維から形成することができる。M5繊維は、バージニア州リッチモンドのマゼラン・システムズ・インターナショナル社により製造され、例えば、米国特許第5,674,969号明細書;同5,939,553号明細書;同5,943,537号明細書;及び、同6,040,478号明細書(該特許はそれぞれ参考により本明細書に援用されるものとするものとする)に記載されている。特に好ましい繊維としては、M5繊維、ポリエチレンSPECTRA繊維及びアラミドKevlar繊維が挙げられる。繊維は、任意の適切なデニール、例えば、50〜約3000デニール、なおさらに好ましくは、約650〜約2000、最も好ましくは、約800〜約1500デニールを有してもよい。これらのデニールは、良好な弾道抵抗性のために好ましいものの、ALDは、繊維のデニールに関係なく、全ての布帛タイプの弾道抵抗性を増加させなければならない。
【0018】
本発明の目的のために最も好ましい繊維は、高強度高引張弾性率伸び切り鎖ポリエチレン繊維か又は高強度高引張弾性率パラ-アミド繊維のいずれかである。上記のとおり、高強度高引張弾性率繊維は、各々ASTM D2256に従って測定して、好ましくは約7g/デニール以上の靭性、好ましくは約150g/デニール以上の引張弾性率、及び、好ましくは約8J/g以上の破断エネルギーを有するものである。本発明の好ましい実施態様において、繊維の靭性は、約15g/デニール以上であるべきであり、好ましくは、約20g/デニール以上、さらに好ましくは、約25g/デニール以上、最も好ましくは、約30g/デニール以上である。本発明の繊維は、また、好ましくは約300g/デニール以上、さらに好ましくは、約400g/デニール以上、さらに好ましくは、約500g/デニール以上、さらに好ましくは、約1,000g/デニール以上、最も好ましくは、約1,500g/デニール以上の引張弾性率を有する。本発明の繊維は、また、好ましくは約15J/g以上、さらに好ましくは、約25J/g以上、さらに好ましくは、約30J/g以上の破断エネルギーを有し、最も好ましくは、約40J/g以上の破断エネルギーを有する。
【0019】
これらの高強度特性の組み合わせは、周知の方法を使用することにより達成可能である。米国特許第4,413,110号明細書;同4,440,711号明細書;同4,535,027号明細書;同4,457,985号明細書;同4,623,547号明細書;同4,650,710号明細書;及び、同4,748,064号明細書には、おおよそ、本発明に使用される好ましい高強度伸び切り鎖ポリエチレン繊維の形成が説明されている。このような方法は、溶液成長又はゲル繊維プロセスを含め、当分野で周知である。また、パラ-アラミド繊維を含め、その他の好ましい繊維タイプをそれぞれ形成する方法は、当分野では従来公知であり、該繊維は商業的に入手可能である。
【0020】
弾道抵抗性布帛に有用な繊維は、好ましくは、約50デニール〜約3000デニールである。弾道性効率及びコストについての考慮によって選択は左右される。微細な繊維は、製造及び製織するためにコストが高くつくが、単位重量当りより大きな弾道性効率を生じさせることができる。繊維は、好ましくは、約200デニール〜約3000デニール、さらに好ましくは、約650デニール〜約1500デニール、最も好ましくは、約800デニール〜約1300デニールである。
【0021】
上記のとおり、本発明の方法において、ALDプロセスは、単一高分子繊維に対して又は複数の高分子繊維に対して実施してよい。本発明の好ましい実施態様では、複数の繊維が存在し、織布又は不織布の形態である。織布に関して、ALDは、繊維の製織前又は製織後のいずれかの時点で実施してよいが、ALDは、繊維を製織して布帛にした後に行うことが最も好ましい。不織布に関して、ALDは、布帛が不織布に形成される前に行うことが好ましい。
【0022】
当分野で周知のように、原子層蒸着は、種々の異なる反応前駆体及びパージガスを使用して、多様で異なる反応容器内で実施することができる。反応温度及び圧力は、蒸着される材料及び基体のタイプに応じて変動可能である。本発明のために、原子層蒸着の公知の変形方法は、ポリマーを分解することなく高分子繊維上にコンフォーマルな封入層を形成するのに十分である限りは、実施することができる。“コンフォーマル(conformal)”の用語は、塗膜の厚さが、粒子の表面を横切って比較的均一であることを意味する。反応物質は、前駆体が反応チャンバに送り込まれると、基体の表面が該前駆体の直接経路にはない場合でさえ、該基体の全表面をカバーすることができる。しかし、原子層蒸着は、前駆体組成物が到達することができる露出した基体表面を塗被するだけである。“封入(encapsulation)”という用語は、織布又は不織布の表面が1種類以上の蒸着材料の単分子層で完全にカバーされるが、布帛を形成する個々の繊維の表面積の100%未満がカバーされ得るような実施態様を包含する。
【0023】
原子層蒸着は、ALD反応が本質的にCVD反応を2つの半反応に分断し、反応の間に前駆体材料の分離を保つ以外は、化学蒸気蒸着(CVD)のための化学に類似している。ALDフィルムの成長は自己制限的であり、又、原子スケールの蒸着コントロールの実施を可能にするような表面反応に基づく。ALDは、幾つかの領域でCVDに優る利点を有し、例えば、ALD成長したフィルムは、コンフォーマルでピンホールがなく、フィルム厚さの極めて正確な制御を可能にし、高い均一性を実現する。
【0024】
通常のALD法によれば、繊維及び/又は繊維布帛は、適当な反応容器、特に真空にでき又亜大気圧に維持できるチャンバ又は反応チューブ内に置かれる。最も典型的には、反応は減圧下で行われる。薄膜の蒸着に使用するのに適した反応器の例としては、F-120、F-120 SAT及びフィンランドのASM Microchemistry Ltd.により製造されているPULSAR(登録商標)反応器ならびにフィンランドのPlanar Systems Inc.により製造されているP400Aなど、商業的に入手可能なALD装置が挙げられる。これらのALD反応器以外に、ロータリーチューブ反応器及び前駆体にパルスをかけるための適当な装置及び手段を備えたロータリーチューブ反応器及びCVD反応器など、塗膜のALD成長を可能にするたくさんの種類のその他の反応器を使用することができる。
【0025】
最初に、反応容器は、好ましくは、ポンプで減圧し、不活性ガスを再充填して、不純物を容器からパージする。その間、内部容器圧を約13.33Pa(0.1Torr)〜約2666Pa(20Torr)に保つ。好適なパージガスの例としては、窒素、アルゴン及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。加熱活性化したALD反応において、繊維及び/又は繊維布帛は、約0.1Torr〜約20Torrに低下させた圧力下で適当な蒸着温度まで加熱する。典型的な加熱活性化されたALD反応は、約室温(ほぼ20〜25℃)〜約400℃で行われる。高温下で基体中のポリマーを加熱攪拌すると、ポリマーの表面が炭素鎖フリーラジカルに暴露され、ポリマーの表面上にALD前駆体との反応のための官能基が生じ、ALD前駆体の吸着が促進される。したがって、ある場合には、高温でALD反応連鎖を行うことが望ましい。本発明のためには、ポリマーがその物理的形状を失うまで分解、溶融又は軟化する温度より低い温度で、反応が行われることが重要である。したがって、本明細書中、ALD反応が実施される温度は、概して約300℃より低く、好ましくは、約200℃より低く、上限温度は塗被される個々のポリマーに依存する。本明細書中、有用な多くの非半導性のポリマーは、約200℃〜約300℃の温度で、分解、溶融又は軟化する。本明細書に記載する特に好ましい高分子繊維に対して、繊維及び/又は繊維布帛は、好ましくは、約室温〜約200℃まで加熱される。
【0026】
これとは別の方法では、ALDプロセスは、加熱活性化する代わりに又は加熱活性化するとともに、プラズマ強化ALD又はPEALDとして公知のプロセスにおいてプラズマ活性化することができる。PEALDは、当分野で周知であるが、PEALDでは、プラズマ投入は、反応を調節するが、この間、繊維は、加熱してよく、又は、加熱しなくてよい。一般的なプラズマタイプとしては、直接プラズマ、リモートプラズマ、高周波数ACプラズマ、RFプラズマ、マイクロウエーブプラズマ又は誘導結合プラズマが挙げられる。プラズマ周波数は、0Hz〜約2.5GHzであってよく、エネルギー密度は、約0.01W/cm2〜約10W/cm2であってよい。プラズマパルス時間は、0.1〜50秒であってよい。PEALDプロセスでは、チャンバの圧力は、好ましくは、約0.1Torr〜約20Torrの間であり、繊維蒸着温度は、約室温〜約200℃である。プラズマは、基体上の第1前駆体の吸着層とその次に来る第2前駆体との間の反応を活性化するための該第2前駆体の暴露工程の間に向けられる。プラズマ活性化により、PEALDは、蒸着温度を低下させ、かつ、基体に塗被される材料の接着力を改善する。
【0027】
反応容器の内部では、繊維(単数又は複数)は、引き続き2つの反応性蒸気反応物質と逐次接触する。各反応物質は、通常、不活性キャリヤーガスとともに、反応容器に逐次投入される。第1の蒸気前駆体は、ガス状の相で反応容器にパルス供給され前駆体分子は、基体表面が基体上に吸着される前駆体化合物の1つの層と第1の前駆体により飽和されるまで、繊維及び/又は布帛表面(基体)上の反応部位に化学吸着される。容器は、一度飽和させた後、好ましくは、真空ポンプによる減圧と、過剰の不活性ガスによる反応容器のパージを組み合わせることにより、好ましくは、過剰の未反応前駆体を取り除く。これは、例えば、各反応工程後に基体を約10-5torr以下の高減圧下におくことにより達成することができる。該パージ工程は、プラズマ強化プロセスには必要ではないかもしれない。ガスを流入させることなく、フルスロットルバルブをポンプに対して開放する排気工程は、また、不活性ガスパージの代わりに又は不活性ガスパージとともに行ってよい。続いて、第2の蒸気前駆体反応物質を容器並びに繊維及び/又は布帛にパルス供給し、繊維/布帛表面に吸着された第1の前駆体分子と反応させる。
【0028】
前駆体は、キャリヤーガス(例えば、窒素、アルゴン及び水素)を用いて又は用いることなく容器内にパルス供給してよい。前駆体供給のその他の例は、予め決められた液体有機溶剤に前駆体を溶解させて液体溶液を生成させ、ついで、その溶液を気化器に供給し、そこで、それを気化させ、その蒸気をキャリヤーガスを用いて又は用いることなく基体表面に供給する工程を含む。好適な溶剤のタイプは前駆体材料に応じて異なり、当業者であれば容易に決定することができるであろう。
【0029】
反応後、過剰の第2の蒸気前駆体反応物質及び表面反応のいずれかのガス状の副生物は、好ましくは、反応チャンバからパージされる。パルス供給及びパージ工程は、所望の蒸着薄膜の厚さに到達するまで、指定された順序で繰り返される。1サイクルが反応容器への両前駆体の充填を含む反応サイクルの好ましい回数は、2〜約10,000サイクル、さらに好ましくは、約2〜約2000反応サイクル、最も好ましくは、約50〜約1000反応サイクルであり、蒸着される材料に関係ない。要するに、ALD法は、前駆体薬品の制御された表面反応に基づき、反応容器中の暴露された繊維又は布帛の表面上に封入層を蒸着する。
【0030】
ロータリーチューブ反応器を使用する際は、反応器は、繊維又は布帛を含有する中空チューブを含む。チューブ反応器は、水平に対して一定の角度で保持され、基体は、重力の作用によりチューブを通過する。チューブは、基体表面を反応物質に均一に暴露するために回転させる。チューブ反応器は、連続運転用に特に適している。反応物質は、チューブを介して個別に又は逐次的に、好ましくは、基体の方向に対して向流になるように導入される。
【0031】
本発明の目的のため、封入層を形成するために原子層蒸着により蒸着される材料としては、Al2O3、SiO2、Ta2O5、ZrO2、HfO2、ZnO、TiO2、MgO、Cr2O3、Co2O3、NiO、FeO、Ga2O3、GeO2、V2O5、Y2O3、希土類酸化物、CaO、In2O3、SnO2、PbO、MoO3及びWO3が挙げられるが、これらに限定されるものではない。蒸着される窒化物としては、TiN、TaN、Si3N4、AlN、Hf3N4、Zr3N4、WNx(ここで、x=0.1〜2.0)、BN、窒化炭素;及び、それらの合金類;ならびに、それらのナノ積層板が挙げられる。蒸着されるカーバイドとしては、SiC、TiC、炭化ホウ素、WC、W2C、Fe3C、TaC、HfC、ZrC、MoC;及びそれらの合金類;ならびに、それらのナノ積層板が挙げられる。蒸着されるシリサイド類としては、NiSi、WSi2、CoSi2及びTiSi2が挙げられる。蒸着されるボライド類としては、TiB2、WB及びMgB2が挙げられる。蒸着されるスルフィド類としては、WS2、MoS2、硫化銅、CaS2、La2S3が挙げられる。蒸着されうる金属としては、Ru、Pt、Pd、Co、Ni、Fe、Mo、Cr、Sn、W及びCuが挙げられる。蒸着されるフッ化物としては、CaF2、SrS、SrF2、ZnF2が挙げられ;蒸着される第3級化合物としては、TiCN、TiON、タングステンカルボナイトライド、チタンアルミニウムナイトライド、SrTiO3、La2O2S及びLaAlO3が挙げられる。上記物質の組み合わせは、合金として又はナノ積層板として蒸着され、ここで、ナノ積層板は、例えば、Al2O3及びTa2O3のような種々の組成物の交互的に配置された下位層(sub-layer)により構成される薄膜である。下位層はそれぞれ、ALDにより、対応する第1及び第2前駆体を用いて蒸着される。有用な合金としては、Hf-Si-O、Hf-Al-O、Ru-Cu、Ta-Al-O及びTi-Al-Oが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これれの合金は、前駆体を含有する2つの金属を同時パルス供給又はミキシングによって形成することができる。有用なナノ積層板としては、HfO2-Al2O3、HfO2-SiO2、Ru-Pt、ZrO2-Al2O3、ZrO2-SiO2及びAl2O3-SiO2が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の最も好ましい実施態様において、封入層(単数又は複数)は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、チタンアルミネート、チタンシリケート、ハフニウムアルミネート、ハフニウムシリケート、ジルコニウムアルミネート、ジルコニウムシリケート、窒化ホウ素、又は、それらの組み合わせを含む。
【0032】
本技術分野で周知のように、これらの材料は、第1蒸気前駆体と第2蒸気前駆体との反応からの反応生成物として蒸着される。上述のように、第1前駆体の分子は基体とその表面で反応し、化学吸着され、そして第2前駆体の分子は第1前駆体の分子と反応する。有用な気化可能な第1前駆体の例は、限定することを意図するものではないが、トリメチルアルミニウム(TMA)、チタンイソプロピルオキシド、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、テトラキス(ジエチルアミド)ハフニウム(IV)、テトラキス(ジメチルアミド)ハフニウム(IV)、テトラキス(エチルメチルアミド)ハフニウム(IV)、塩化ハフニウム(IV)、ハフニウム(IV)t−ブトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、トリス(ジエチルアミド)アルミニウム、トリス(エチルメチルアミド)アルミニウム、ビス(N,N´−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)鉄(II)、ビス(N,N´−ジイソプロピルアセトアミジネート)ニッケル(II)、ビス(N,N´−ジイソプロピルアセトアミジネート)コバルト(II)、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(II)、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)マグネシウム(II)、モリブデンヘキサカルボニル、モリブデンヘキサフルオリド、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ジメトキシジメチルシラン、メチルシラン、ジシラン、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラメチルシクロトラテトラシロキサン、トリス(t−ブチル)シラノール、トリス(ジエチルアミド)(t−ブチルイミド)タンタル(V)、ビス(ジエチルアミノ)ビス(ジイソプロピルアミノ)チタン(IV)、テトラキス(ジエチルアミド)チタン(IV)、テトラキス(ジメチルアミド)チタン(IV)、テトラキス(エチルメチルアミド)チタン(IV)、ビス(t−ブチルイミド)ビス(ジメチルアミド)タングステン(VI)、タングステンヘキサカルボニル、トリス(N,N−ビス(トリメチルシリル)アミド)イットリウム(III)、イットリウム(III)トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、トリス(シクロペンタジエニル)イットリウム、トリス(ブチルシクロペンタジエニル)イットリウム、ジエチル亜鉛、テトラキス(ジエチルアミド)ジルコニウム(IV)、テトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(IV)、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(IV)、ジルコニウムテトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)、ビス(エチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)、コバルトトリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)クロム(II)、ビス(シクロペンタジエニル)バナジウム(II)、バナジルアセチルアセトネート、タングステンヘキサフルオリド、ビス(シクロペンタジエニル)タングステンジクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)タングステンジヒドリド、SiCl、AlCl、TaI、TaF、SnI、塩化クロミル、銅(II)ジアルキルアミノ−2−プロポキシド、トリス[ビス(トリメチルシリル)アミド]ランタン、Ga(NEt、TiCl、プラセオジムアルコキシド、Pt(C)(CH、Pt(acac)(「acac」=アセチルアセトネート配位子)、塩化モリブデン(V)、亜鉛ビス(O−エチルキサンテート)、Cu(II)(tmhd)(tmhd=2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、ビス(シクロペンタジエニル)ルテニウム(II)(一般にRu(Cp)と称される)、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)(一般にRu(EtCp)とされる)(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)Ru、トリス(2,4−ペンタンジオネート)イリジウム、Ru(thd)(thd=2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金、ヘキサフルオロアセチルアセトネート(トリメチルシリルエチレン)銅、Cu(II)(ジケチミネート)、シクロペンタジエニルアリルニッケル、Rh(アセチルアセトネート)、Pd(ヘキサフルオロアセトニルアセトネート)、Pd(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金、Ga(NMe、[(CHGaNH、Er(thd)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)Sr、Pd(thd)、Pb(C、(CpCHGd、ビス−ジピバロイルメタネート−バリウム(Ba(thd))及びInCl、β−ジケトネートタイプの配位子を有する希土類前駆体、例えばβ−ジケトネートタイプLn(thd)材料(Gd(thd)及びEr(thd)が含まれる)、並びに他の配位子と混ざったthdである。
【0033】
これらの中で以下のものが好ましい:トリメチルアルミニウム、チタンイソプロピルオキシド、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、テトラキス(ジエチルアミド)ハフニウム(IV)、テトラキス(ジメチルアミド)ハフニウム(IV)、テトラキス(エチルメチルアミド)ハフニウム(IV)、塩化ハフニウム(IV)、トリス(ジエチルアミド)アルミニウム、トリス(エチルメチルアミド)アルミニウム、ビス(N,N´−ジ−t−ブチルアセトアミジネート)鉄(II)、ビス(N,N´−ジイソプロピルアセトアミジネート)ニッケル(II)、ビス(N,N´−ジイソプロピルアセトアミジネート)コバルト(II)、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(II)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ニッケル(II)、ジメトキシジメチルシラン、メチルシラン、ジシラン、トリス(t−ブチルオキシ)シラノール、トリス(ジエチルアミド)(t−ブチルイミド)タンタル(V)、ビス(ジエチルアミノ)ビス(ジイソプロピルアミノ)チタン(IV)、テトラキス(ジエチルアミド)チタン(IV)、テトラキス(ジメチルアミド)チタン(IV)、テトラキス(エチルメチルアミド)チタン(IV)、ビス(t−ブチルイミド)ビス(ジメチルアミド)タングステン(VI)、イットリウム(III)トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、トリス(シクロペンタジエニル)イットリウム、トリス(ブチルシクロペンタジエニル)イットリウム、ジエチル亜鉛、テトラキス(ジエチルアミド)ジルコニウム(IV)、テトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(IV)、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(IV)、ジルコニウムテトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)、ビス(エチルシクロペンタジエニル)コバルト(II)、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)クロム(II)、ビス(シクロペンタジエニル)バナジウム(II)、バナジルアセチルアセトネート、タングステンヘキサフルオリド,SiCl、AlCl、TaI、TaF、SnI、塩化クロミル、銅(II)ジアルキルアミノ−2−プロポキシド、トリス[ビス(トリメチルシリル)アミド]ランタン、Ga(NEt、TiCl、プラセオジムアルコキシド、Pt(C)(CH、Pt(acac)、塩化モリブデン(V)、亜鉛ビス(O−エチルキサンテート)、Cu(II)(tmhd)、Ru(Cp)、Ru(EtCp)、(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)Ru、トリス(2,4−ペンタンジオネート)イリジウム、Ru(thd)、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金、ヘキサフルオロアセチルアセトネート(トリメチルシリルエチレン)銅、Cu(II)(ジケチミネート)、シクロペンタジエニルアリルニッケル、Rh(アセチルアセトネート)、Pd(ヘキサフルオロアセトニルアセトネート)、Pd(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン)、メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金、Ga(NMe、[(CHGaNH、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)Sr、Pd(thd)、Pb(C、(CpCHGd、Ba(thd)、InCl及びβ−ジケトネートタイプの配位子を有する希土類前駆体(例えばGd(thd)及びEr(thd))。最も好ましいのは、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム(一般にアルミナと呼ばれる)、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、アルミン酸チタン、珪酸チタン、アルミン酸ハフニウム、珪酸ハフニウム、アルミン酸ジルコニウム、珪酸ジルコニウム又は窒化ホウ素反応生成物の製造に有用な第1前駆体である。
【0034】
有用な気化された又は気化可能な第2前駆体の例は、HO(水蒸気)、O、O、亜酸化窒素(NO)、酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、五酸化窒素(N)、NH、N、H、ジボラン、H、トリフェニルボラン、HS及びメタンである。ALD前駆体の理想的な特性には、高い蒸気圧、蒸着前の熱安定性、取り扱い及び運搬の容易さ、基体表面への化学吸着力、補完的な前駆体との積極的な反応、基体に対する非腐食性、高純度及び副生成物の危険性が少ないことが含まれる。第1及び第2前駆体反応物質はいずれも反応が行われる温度で気体でなければならない。特に好ましい反応物質は、室温付近から約150℃の温度で、少なくとも約0.1トル(Torr)又はそれ以上の蒸気圧を有する。反応物質は、上記の温度で望ましい材料を形成する反応に関与することができるように選択される。触媒は、要求される温度での反応を促進するために用いてもよい。
【0035】
ALDによって蒸着される材料は無機化合物であるのが最も一般的である。以下の表1に適した塗膜材料、第1前駆体及び共反応物質(すなわち、第2前駆体)を挙げる。
【0036】
【表1−1】

【0037】
【表1−2】

【0038】
【表1−3】

【0039】
具体的には、表1は、金属酸化物及び金属ALD塗膜形成用の金属含有前駆体及び共反応物質(第2前駆体)の例を示すものである。窒化物ALD塗膜蒸着には、窒素含有前駆体NH及びNHNHが好ましい。炭化物の形成には、炭素含有共反応物質、例えばメタンが好ましい。硫化物の形成には、硫黄含有共反応物質、例えばHSが好ましい。珪化物の形成には、珪素含有共反応物質、例えばSiH、Si、ジメトキシジメチルシラン、メチルシラン、ジシラン、2,4,6,8−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(t−ブチルオキシ)シラノール及びSiClが好ましい。硼化物の形成には、ホウ素含有共反応物質、例えばボラン及びジボランが好ましい。フッ化物の形成には、フッ素含有共反応物質、例えばHF及びSiFが好ましい。
【0040】
1つの好ましい態様では、酸化アルミニウムは、次の反応メカニズムを経て、第1前駆体としてのTMA及び第2前駆体としての水蒸気との2つの半反応を行うことによってALDにより基体へ蒸着される:
−Al−OH(s) + Al(CH(g)
→ Al−OAl(CH(s) + CH(g) (反応1)
−O−Al(CH(s) + H
→ −Al−OH(s) + CH(g) (反応2)
これらの反応は室温付近から約200℃で行って、繊維又は布帛表面と効果的に反応させ、そしてこれへ化学吸着させて、酸化アルミニウム単分子層を形成するのが好ましい。酸化アルミニウムの1つの単分子層は約1Å(0.1nm)の厚さを有する。
【0041】
酸化タンタルをALDにより基体へ蒸着する方法では、2つの半反応は、第1前駆体としてのペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル及び第2前駆体としてのHOとで行われる。第1の半反応では、Ta−N結合の同時開裂及びTa−O結合の形成でTa(NMeがヒドロキシル基末端表面へ化学的に吸着する。この段階で、1〜4のタンタル−酸素結合が形成する。第2前駆体パルス段階で、水は化学的に吸着されたタンタルアミドと反応して、残りのTa−N結合を切り離すことによって表面ヒドロキシルを再び生成する。ジメチルアミンは両段階で副生成物として放出される。
【0042】
これらの反応は室温付近から約200℃で行って、繊維又は布帛表面と効果的に反応させ、そして、これに化学吸着させて、酸化タンタル単分子層を形成するのが好ましい。酸化タンタルの成長速度は約1Å/サイクル(0.1nm)である。
【0043】
上記反応生成物を形成する前駆体は、薄膜の構造及び組成要件により気化可能な前駆体化合物に基づく1種類以上の異なる元素を含んでいてもよい。例えば、異なる金属に基づく気化可能な前駆体の導入はドープされた、合金化された又はナノ積層された塗膜を生じる。異なる金属に基づく気化可能な前駆体は、ドープされた又は合金化された塗膜形成のために、反応容器に同時パルス供給されそして基体表面に吸着されてもよい。反応物質への暴露を交互に行うことで蒸着塗膜に独特の性質がもたらされる。塗膜の厚さは単に蒸着サイクルの数によって決まり、前駆体は飽和するまで化学吸着されて、広い領域が均一で3D整合性の化学量論的塗膜を形成し、塗膜はダストに比較的影響されず、そして固有の蒸着均一性及び小さい源の大きさの容易な測定を可能にする。ナノラミネート及び混合酸化物は低温蒸着が可能であり、ALDは敏感な基体のための穏やかな蒸着法である。
【0044】
上記のとおり、本発明の基体は、例えば、単一繊維、好ましくは非半導性高分子繊維又は複数の高分子、好ましくは非半導性繊維であり、複数の繊維は織布、不織布又はヤーンの形で存在してよい。本技術分野で周知のように、弾道抵抗性織布は平織、千鳥綾織、バスケット織、スタチン織、綾織等のような布帛織りを用いる多くの一般的な技術を用いて形成しうる。平織が最も一般的である。
【0045】
様々な織布が一般に用いられ、これらは繊維の種類及び織り特性、例えば織りスタイル、織りの詰まり及び布帛打込み数に基づいて異なる。例えば、ハネウエル・インターナショナル社製のSPECTRA900繊維のような1200デニールポリエチレン繊維の場合、好ましい織布は平織布帛であり、約15×15本/インチ(約5.9本/cm)〜約45×45本/インチ(17.7本/cm)が好ましい。より好ましいのは、約17×17本/インチ(約6.7本/cm)〜約23×23本/インチ(9.0本/cm)平織布帛である。650デニールSPECTRA900ポリエチレン繊維の場合、約20×20本/インチ(約7.9本/cm)〜約40×40本/インチ(16本/cm)の平織布帛が好ましい。215デニールSPECTRA1000ポリエチレン繊維の場合、約40×40本/インチ(約16本/cm)〜約60×60本/インチ(24本/cm)の平織布帛が好ましい。本発明の最も好ましい態様では、本発明の弾道抵抗性布帛は布帛スタイル903のSPECTRA織布を含み、これは平織構造を有し、打込み数21×21本/インチ(2.54本/cm)、面積重量7オンス/ヤード(217g/m(gsm))である。織られたSPECTRA布帛スタイル960(375デニールSPECTRA1000繊維)も好ましく、これは平織構造を有し、打込み数35×35本/インチ、布帛厚さ0.007インチ(0.18mm)及び面積重量3.2オンス/ヤードである。すぐれた弾道性能の場合、ここで用いられる個々の布帛層は少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約85%の圧縮カバー率を有する。布帛層の圧縮カバー率は、1インチ(2.54cm)×1インチ(2.54cm)布帛面積中の繊維量として定義できる。1200デニール繊維で構成される布帛の場合、1インチ×1インチの面積に適合しうる繊維の最大数は縦糸及び横糸方向に24×24である。圧縮カバー率は、利用可能な繊維面積を満たす繊維のパーセンテージである。例えば、織られた布帛スタイル903は、打込み数21×21本/インチの平織を有する、1200デニール繊維、S900SPECTRA繊維で構成される。24×24本/インチの最大と比較して、布帛スタイル903は21を24で割った、すなわち約87%の圧縮カバー率を有する。織布の場合、織が密なほど、打込み数は多い。より緩い織りの布帛、例えば目の粗いメッシュの布帛又はスクリムの打込み数ははるかに少ない。布帛スタイル903は、例えば、打込み数17×17、圧縮カバー率約71%の布帛スタイル902と区別する。本発明のためには、蜜に織られた布帛が最も好ましい。
【0046】
不織布もまた、多様な構造を有し、フェルトのようなランダムに配向した繊維、又は並行配列のような、組織化された配列に配置された繊維を含む。「配列」は繊維又はヤーンの規則正しい配列を表し、「並行配列」は、繊維又はヤーンが共通の繊維方向に沿って互いに実質的に並行であるように並んだ繊維又はヤーンの規則正しい一方向並行配列を表す。不織布は1つ以上の繊維層(又は「プライ」)を含んでいてもよく、ここで、繊維「層」は織られた又は不織の繊維又はヤーンの平らな配列を表し、多数の繊維層は、好ましくは、圧密化によって一体化されて単層圧密化構造を形成する。
【0047】
本発明の好ましい態様では、不織布は、繊維が弾性又は硬質の高分子組成物で少なくとも部分的に覆われている繊維の単層圧密化網状構造を含み、高分子組成物は本技術分野では高分子マトリックス組成物とも称される。繊維「網状構造」は複数の連結された繊維又はヤーンの層を意味する。本明細書で用いられる「連結された」という用語は、本発明の多層又は多数パネルの相互結合を表し、単一構成単位としての構造機能を表す。「圧密化網状構造」は、繊維層と高分子組成物との圧密化した(融合した)一体物を表す。本明細書用いられる「単層」構造は、互いに積み重ねられそして単一構造に圧密化された1つ以上の個々の繊維層からなる一体構造を指す。一般に、「布帛」は織布又は不織布のいずれかを指す。
【0048】
本技術分野において従来から知られているように、優れた弾道抵抗性は、1つの層の繊維配列方向が別の繊維の繊維配列方向に対してある角度で回転しているように、個々の繊維層がクロスプライされているときに得られる。従って、そのような一方向に並んだ繊維の連続層は前の層に対して回転しているのが好ましい。1つの例は、隣接層(プライ)が0°/90°配向で配列している2層(2プライ)構造であり、ここで、各個々の不織プライは「ユニテープ」としても知られている。しかしながら、隣接層は、別の層の縦繊維方向に対して、約0°〜約90°の実質的にどの角度で並んでいてもよい。例えば、5プライ不織構造は0°/45°/90°/45°/0°配向又は他の角度のプライを有する。本発明の好ましい態様では、0°及び90°でクロスプライされた2つの個々の不織層は単層網状構造に圧密化される。しかしながら、本発明の単層圧密化網状構造はいくつかのクロスプライされた(又はクロスプライされていない)プライを一般に含みうることを理解すべきである。圧密化構造に合併される層の数がより多いほど弾道抵抗性がより大きいと考えられるが、重量も増える。最も一般的には、単層圧密化網状構造は1〜約6の層を含むが、様々な用途に望ましいとき、約10〜約20もの層を含みうる。そのような回転一方向配列は、例えば、米国特許第4,457,985号;第4,748,064号;第4,916,000号;第4,403,012号;第4,623,573号;及び第4,737,402号に記載されている。本発明の布帛は、銃弾及び高エネルギー破片、例えば榴散弾を含む高エネルギー弾道脅威に対してすぐれた弾道貫通抵抗性を有するように選択される。
【0049】
上記のように、単層圧密化構造中の各層は、高分子マトリックス組成物で塗被されている繊維を含む。本発明のためには、マトリックス組成物の繊維への塗被は、封入層の原子層蒸着後に行わなければならない。第1前駆体材料は高分子マトリックス組成物の表面分子と反応性ではないので、これは重要である。従って、高分子マトリックス組成物は原子層が蒸着された封入層へ塗被される。高分子マトリックス組成物は織布へも同様に塗被され、マトリックス高分子は封入層へ塗被される。さらに、複数の織布も高分子マトリックス組成物で塗被され、加圧成形されることによって一体構造に圧密化される。織布の各層は1つの層に等しい。
【0050】
様々な高分子組成物(高分子マトリックス組成物)材料には、低弾性率弾性材料及び高弾性率硬質材料が含まれる。適した高分子組成物材料には、限定するものではないが、ASTM D638により37℃でそれぞれ測定して、約6,000psi(41.3MPa)未満の初期引張弾性率を有する低弾性率弾性材料、及び少なくとも約300,000psi(2068MPa)の初期引張弾性率を有する高弾性率硬質材料が含まれる。本明細書全体に用いられる引張弾性率とは、繊維についてはASTM2256によって、又、高分子マトリックス組成物材料についてはASTM D638によって測定された弾性率を意味する。
【0051】
弾性高分子マトリックス組成物は様々な材料を含んでいてもよい。好ましい弾性高分子組成物は低弾性率弾性材料を含む。本発明のためには、低弾性率弾性材料はASTM D638試験法により約6,000psi(41.4MPa)以下の引張弾性率を有する。エラストマーの引張弾性率は、好ましくは約4,000psi(27.6MPa)以下、より好ましくは約2400psi(16.5MPa)以下、より好ましくは約1200psi(8.23MPa)以下、最も好ましくは約500psi(3.45MPa)以下である。エラストマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは約0℃未満、より好ましくは約−40℃未満、最も好ましくは約−50℃未満である。エラストマーはまた、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約100%、最も好ましくは少なくとも約300%の破断点伸びを有する。
【0052】
低弾性率を有する広い範囲の材料及び配合物を高分子マトリックス組成物として用いることができる。代表的な例は、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー、ポリスルフィドポリマー、ポリウレタンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリクロロプレン、可塑化ポリビニルクロリド、ブタジエンアクリロニトリルエラストマー、イソブチレン−イソプレンコポリマー、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリエーテル、フルオロエラストマー、シリコーンエラストマー、エチレンのコポリマー、及びそれらの組み合わせ、並びにポリオレフィン繊維の融点未満の温度で硬化可能な他の低弾性率ポリマー及びコポリマーである。異なるエラストマー材料のブレンド、又はエラストマー材料と1種以上の熱可塑性樹脂とのブレンドも好ましい。高分子組成物はまた、カーボンブラック又はシリカのような充填材を含んでいてもよく、オイルで増量されていてもよく、硫黄、過酸化物、金属酸化物又は本技術分野で周知の放射線硬化系によって加硫されていてもよい。
【0053】
共役ジエン及びビニル芳香族モノマーのブロックコポリマーが特に有用である。ブタジエン及びイソプレンは好ましい共役ジエンエラストマーである。スチレン、ビニルトルエン及びt−ブチルスチレンは好ましい共役芳香族モノマーである。ポリイソプレンを組み込んでいるブロックコポリマーは水素添加すると飽和炭化水素エラストマーセグメントを有する熱可塑性エラストマーを生成しうる。ポリマーはタイプA−B−Aの簡単なトリ−ブロックコポリマー、タイプ(AB)(n=2〜10)のマルチ−ブロックコポリマー又はタイプR−(BA)(x=3〜150)の放射形状コポリマー(Aはポリビニル芳香族モノマーからのブロックであり、Bは共役ジエンエラストマーからのブロックである)でもよい。これらのポリマーの多くはテキサス州ヒューストンのクレイトン・ポリマーズ社により商業的に生産されており、広報誌「Kraton Thermoplastic Rubber」,SC−68−81に記載されている。最も好ましい高分子組成物ポリマーは、クレイトン・ポリマーズにより商業的に生産され、Kratonの登録商標で販売されているスチレンブロックコポリマーを含む。最も好ましい低弾性率高分子マトリックス組成物はポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマーを含む。
【0054】
本発明に有用な好ましい高弾性率硬質高分子組成物材料としては、ビニルエステルポリマー又はスチレン−ブタジエンブロックコポリマーのような材料、並びにビニルエステル及びジアリルフタレート又はフェノールホルムアルデヒド及びポリビニルブチラールのようなポリマーの混合物が挙げられる。本発明に用いるのに特に好ましい硬質高分子組成物材料は、好ましくはメチルエチルケトンのような炭素−炭素飽和溶媒に可溶性であり、そしてASTM D638により測定して、硬化時に少なくとも約1×10psi(6895MPa)の高引張弾性率を有する熱硬化性ポリマーである。特に好ましい硬質高分子組成物材料は、米国特許第6,642,159号明細書(参考により本明細書に援用されたものとする)に記載のものである。
【0055】
本発明の布帛から形成された物品の剛性、耐衝撃及び弾道抵抗性は、高分子組成物ポリマーの引張弾性率に影響される。例えば、米国特許第4,623,574号には、約6,000psi(41,300kPa)未満の引張弾性率を有するエラストマーマトリックスで構成された繊維強化複合材料が、弾性率がより高いポリマーで構成された複合材料と比較して、又、高分子マトリックス組成物を含まない同じ繊維構造と比較して、すぐれた弾道抵抗性を有することが開示されている。しかしながら、低引張弾性率高分子マトリックス組成物ポリマーもより低い剛性の複合材料を生じる。さらに、特定の用途、特に、複合材料料が耐弾道性能と構造の両面で機能を果たさなければならない用途では、弾道抵抗性と剛性のすぐれた組み合わせが必要とされる。従って、用いられる高分子組成物ポリマーの最も適切な種類は本発明の布帛から形成される物品の種類による。両方の性質を調和させるために、好適な高分子マトリックス組成物は低弾性率及び高弾性率材料を組み合わせて単一高分子マトリックス組成物を形成しうる。
【0056】
本発明の好ましい態様では、織布の各層、各フェルト層、各不織布層、又は織布もしくは不織布層(もしくは両者)を含む各圧密化単層構造は、繊維含有率が、ALD塗被複合材料構造の組み合わせ総重量の少なくとも約65重量%、より好ましくは少なくとも約70重量%、より好ましくは少なくとも約75重量%、最も好ましくは少なくとも約80重量%である。複合材料構造は繊維、封入材料、任意成分としての高分子マトリックス組成物及び添加剤からなる。
【0057】
好ましくは、複合材料を構成する高分子マトリックス組成物の割合は、各複合材料の総重量に基づいて、好ましくは約0〜約35重量%、ALD塗被複合材料構造の重量に基づいて、より好ましくは約11〜約22重量%、最も好ましくは約7〜約15重量%である。好ましくは、複合材料を構成する封入層の割合は、複合材料の総重量に基づいて、好ましくは約0.001〜約1重量%、ALD塗被複合材料構造の重量に基づいて、より好ましくは約0.001〜約0.5重量%、最も好ましくは約0.001〜約0.1重量%である。一般に、ナノメートルサイズ厚さの封入層を加えることによる重量変化は小さすぎて常時測定することはできない。これは、均一な厚いコンフォーマル塗膜を得るのに有利である。そのような割合が好ましいが、個々のニーズを満たし、さらに本発明の範囲に入る、他の割合の複合材料を製造しうることは無論のことである。
【0058】
複数の積層繊維層を圧密化したら、それらを熱及び圧力を加えることによって一体構造にして、単層圧密化網状構造を形成する。圧密化は各構成繊維層の繊維及び高分子マトリックス組成物を融合させる。不織繊維網状構造は周知の方法、例えば米国特許第6,642,159号に記載の方法によってつくることができる。圧密化網状構造はまた、複数のヤーンを含んでいてもよく、それらはそのような高分子マトリックス組成物で塗被され、複数の層に形成され、そして布帛に圧密化される。上記のように、不織繊維網状構造はまた、従来公知の技術を用いて形成されるフェルト構造を含んでいてもよく、一緒に敷きつめられ圧縮された適当な高分子組成物に埋め込まれたランダム配向の繊維を含む。
【0059】
高分子マトリックス組成物は、本技術分野で周知の様々な方法で繊維に塗被される。「塗被される」という用語は、高分子組成物が繊維表面(単数又は複数)に塗被される方法に限定されない。例えば、高分子組成物は、組成物を繊維表面へ吹付け又はロール塗被することによって、あるいは適当な溶媒に溶解された高分子組成物を含む溶液の浴に繊維又は布帛層を浸漬することによって、溶液又はエマルジョンの形で塗被してよい。別の方法は、塗膜材料のそのままのポリマーを繊維へ液体、懸濁液中の粘着固体もしくは粒子として、又は流動床として塗被する方法である。高分子マトリックス組成物を塗被するとき、封入層の最上部における繊維表面の100%を覆うことが好ましい。
【0060】
高分子組成物の塗被は繊維層の圧密化前に行い、高分子組成物を繊維表面に塗布する任意の適切な方法も用いてよい。従って、本発明の繊維は高分子組成物を繊維に施すことによって高分子組成物で塗被され、含浸され、埋め込まれ、又は他の方法で塗布され、そして組成物−繊維一体物が必要に応じて圧密化されて複合材料を形成しうる。上記のように、「圧密化する」ということは、高分子組成物材料及び各個々の繊維層が単一の層に合体されることを意味する。圧密化は、乾燥、冷却、加熱、加圧又はそれらの組み合わせにより生じうる。「複合材料」という用語は、繊維と高分子マトリックス組成物の圧密化された組み合わせを指す。ここで用いられる「マトリックス」という用語は本技術分野で周知の用語であり、圧密化後に繊維を共に結合する高分子結合材を表すのに用いられる。一般に、高分子マトリックス組成物塗膜は複数の布帛層を効果的に圧密化するのに必要である。
【0061】
多数の布帛層は、好適な成形装置で加熱及び加圧下成形することによって圧密化されることが好ましい。一般に、層は約50psi(344.7kPa)〜約5000psi(34470kPa)、より好ましくは約100psi(689.5kPa)〜約1500psi(10340kPa)、最も好ましくは約150psi(1034kPa)〜約1000psi(6895kPa)の圧力で成形される。多数の層はあるいは約500psi(3447kPa)〜約5000psi、より好ましくは約750psi(5171kPa)〜約5000psi、さらに好ましくは約1000psi〜約5000psiのより高い圧力で成形されてもよい。成形工程は約4秒〜約45分かけうる。好ましい成形温度は約200°F(〜93℃)〜約350°F(〜177℃)、より好ましくは約200°F〜約300°F(〜149℃)、最も好ましくは約200°F〜約280°F(〜121℃)である。適した成形温度、圧力及び時間は、高分子組成物の種類、高分子組成物の含有量、及び繊維の種類により一般に変わる。本発明の布帛が成形される圧力は得られる成形品の剛性又は柔軟性に直接影響する。特に、布帛が成形される圧力が高いほど、剛性は高くなり、逆も言える。さらに、成形圧力に加えて、布帛層の量、厚さ及び組成、高分子組成物の種類及び任意成分としての高分子塗膜も本発明の布帛から形成される物品の剛性又は柔軟性に直接影響する。
【0062】
圧密化は、代替的な方法として、本技術分野で従来から知られているオートクレーブ中での加熱で行ってもよい。高分子マトリックス組成物を加熱する場合は、高分子マトリックス組成物は完全に溶解することなく粘着又は流動させることが可能である。しかしながら、一般に、高分子組成物材料を溶融させるならば、複合材料の形成に必要な圧力は比較的わずかである一方、高分子組成物材料を粘着点に加熱だけならば、より高い圧力が必要である。オートクレーブ中での圧密化は一般に約10秒〜約24時間かかり、適した温度、圧力及び時間は高分子マトリックス組成物の種類、高分子マトリックス含有量及び繊維の種類による。
【0063】
圧密化ではなく、複数の布帛層を他の手段で付着させてもよい。各層は非結合配列で積層又は隣接させ、その後、全ての層を共に結び付けて結合配列を形成する。多数の層複合材料は、それらが相互結合されて単一構成単位として機能するのが特に好ましい。結合方法は本技術分野でよく知られており、例えば、縫い合わせ、キルティング、ボルティング、接着剤での接着等がある。複数の層は、例えば粘着縫い合わせによって、層の端部分で一緒に縫い合わせるのが好ましい。
【0064】
弾道抵抗性物品を形成する布帛層の数は、物品の望ましい使用目的に応じて変わる。例えば、軍隊用防護ベストでは、1.0ポンド/フィート面積密度(4.9kg/m)を達成する物品複合材料を形成するために、合計22の個々の層が必要であり、層は本明細書中に記載の高強度繊維から形成される織布、編布、フェルト布又は不織布でもよく、層は一緒に結び付いていてもいなくてもよい。別の態様では、警察用防護ベストはNational Insutitute of Justiceの脅威レベルに基づく層の数を有する。例えば、NIJ Threat Level IIIAベストでは合計22層である。より低いNIJ Threat Levelでは、それより少ない層が用いられる。
【0065】
個々の布帛層の厚さは個々の繊維の厚さに対応する。従って、好ましい織布の厚さは、好ましくは約25〜約500μm、より好ましくは約75〜約385μm、最も好ましくは約125〜約255μmである。好ましい単層圧密化網状構造の厚さは、好ましくは約12〜約500μm、より好ましくは約75〜約385μm、最も好ましくは約125〜約255μmである。封入層の厚さは、好ましくは約0.5〜約1000nm、より好ましくは約5〜約500nm、最も好ましくは約10〜約100nmである。そのような厚さが好ましいが、個別のニーズを満たし、さらに本発明の範囲に属する、別の塗膜厚さを作り出してよいことはいうまでもない。本発明に従って形成された軟質防護物品の面積密度は、好ましくは約0.25Lb/ft(psf)(1.22kg/m(ksm))〜約2.0psf(9.76ksm)、より好ましくは約0.5psf(2.44ksm)〜約1.5psf(7.32ksm)、最も好ましくは約0.75psf(3.66ksm)〜約1.25psf(6.1ksm)である。硬質防護物品の面積密度は、好ましくは約0.25Lb/ft(psf)(1.22kg/m(ksm))〜約6.0psf(29.28ksm)、より好ましくは約0.5psf(2.44ksm)〜約4.0psf(19.52ksm)、最も好ましくは約0.75psf(3.66ksm)〜約2.00psf(9.76ksm)である。
【0066】
本発明のALD塗被布帛は様々な用途に使用され、周知の技術を用いて各種弾道抵抗性物品を形成し得る。例えば、弾道抵抗性物品を形成するのに適した技術は、例えば、米国特許第4,623,574号、第4,650,710号、第4,748,064号、第5,552,208号、第5,587,230号、第6,642,159号、第6,841,492号及び第6,846,758号に記載されている。それらは特に柔軟性で軟質の防護物品、例えば、多くの弾道脅威、例えば9mmフルメタルジャケット(FMJ)銃弾、並びに手榴弾、大砲、Improvised Explosive Device (IED)、並びに軍隊及び平和維持活動で遭遇する他のそのような装置による様々な破片に打ち勝つ軍人用のベスト、パンツ、帽子又は他の衣服物品のような衣類、カバー又は毛布の形成に特に有用である。本明細書で用いられる「軟質な」又は「柔軟な」防護物品は、かなりの大きさの応力を加えたときその形を維持せず、且つ潰れずに独力で立っていること不可能な防護物品である。
【0067】
それらはまた、剛性で硬質の防護物品にも有用である。「硬質」防護物品は、ヘルメット、軍用車のパネル、又は盾のような物品を意味し、それらはかなりの大きさの応力を加えたときその構造剛性を維持し、且つ潰れずに独力で立っていられるくらいに十分な機械的強度を有する。構造物は複数の不連続シートに切断し、積層して物品にしてよく、あるいはそれらを、引き続き物品を製造するために使用する前駆体にしてもよい。そのような技術は本技術分野でよく知られている。
【0068】
本発明の衣類は本技術分野で従来公知の方法によって形成される。衣類は、本発明の弾道抵抗性物品を衣類物品と接合することによって形成しうる。例えば、ベストは、本発明の弾道抵抗性構造物と接合された一般的な布帛ベストからなり、本発明の物品は戦略的に配置されたポケットに挿入される。ここで用いられるように、「接合する」又は「接合される」という用語は、縫い合わせ又は接着等によるような結合、並びに、弾道抵抗性物品がベスト又は他の衣類物品から任意に容易に取り外せるように、他の布帛との非結合性の連結又は並置を含むことを意味する。柔軟なシート、ベスト及び他の衣類のような柔軟性構造の形成に用いられる物品は、低引張弾性率高分子マトリックス組成物を用いて形成されるのが好ましい。ヘルメット及び防護物品のような硬質物品は、高引張弾性率高分子マトリックス組成物を用いて形成されるのが好ましい。
【0069】
酸化アルミニウムのALD層のような原子層蒸着封入層の適用は、弾道抵抗性布帛の多くの性質を改善することが分った。銃弾/破片−布帛相互作用は繊維/表面特性に直接影響される。例えば、原子層蒸着封入層は、繊維移動性(発射体のルートからの繊維の移動し易さ)及び発射体による繊維の係合の程度などの布帛特性を改善する。封入層は繊維摩擦係数を高め、従って、布帛の重量を著しく増加させることなく繊維の横断移動性を減少させる。例えば、SPECTRA繊維の摩擦係数は比較的低く、ALD塗膜で発射体に対抗する。封入層は、接触応力による繊維破損に対する抵抗性、並びに発射体接触領域での繊維熱伝導性、熱放散、及び繊維耐荷特性の保護に影響を及ぼす繊維表面硬度を高める。表面硬度を高めることによって、接触損傷抵抗性が高まる。熱伝導性は約1から2桁台で増加し、従って、繊維及び布帛の低温特性が維持される時間が長くなる。
【0070】
さらに、酸化アルミニウムのALD塗膜は、ALD処理布帛のプルアウト抵抗性を、酸化アルミニウムなしの布帛と比較して、100%改善することが分った。さらに、封入層は液体、例えば海水又はガソリン、及び繊維及び/又は布帛を劣化しうる他の有害な環境条件に対してバリヤーを形成する。繊維にしっかり結合した封入層と共に繊維柔軟性を維持しながら、これらの改善の全てが実現される。封入層はまた、繊維の短時間難燃及び熱抑制性能を改善しうる。破片に対する弾道抵抗性能を高める繊維表面摩擦のかなりの増加が最少量のALD塗膜で得られることは重要である。
【0071】
原子層蒸着封入層の適用が、非弾道抵抗性布帛の多くの性質を改善することも分った。例えば、TiOのような酸化物のALD塗膜は光触媒機能をもたらして、環境による布帛表面における有機汚染を減少させる。半導体酸化物塗膜、例えば、限定されないが、V、SnO、WO、ZnO、MoO、TiO及びMnOはガスセンサー装置の一部のようなガス検出層としての機能を提供することができる。低屈折率材料及び高屈折率材料からなるALD塗膜を高分子繊維及び布帛に施すと、鏡、又は敵対環境における敵−味方認識のような機能を有する独自光学サインフィルターのような光学装置を形成することもできる。そのような層の例は、Al−TiO、SiO−TiO、Al−Ta、及びSiO−Taの多数の二重層である。
【0072】
本発明の布帛の弾道抵抗性は、本技術分野で周知の標準試験法を用いて測定される。特に、構造の保護能又は貫通抵抗性は、V50値としても知られる、銃弾の50%が複合材料を貫通し、50%がシールドで停止される撃速を引用して通常表される。本明細書中に用いられる物品の「貫通抵抗性」は、指定の脅威、例えば銃弾、破片、鋭利な物等を含む物理的対象、及び爆風のような非物理的対象による貫通抵抗性である。複合材料の面積密度(複合材料パネルの重量を表面積で除したもの)が等しい場合、V50が高いほど、複合材料の抵抗性が良好である。本発明の物品の弾道抵抗性は多くのファクター、特に布帛製造に用いられる繊維の種類によって変わる。
【0073】
本発明において形成される重量1psf(4.88ksm)の柔軟な弾道防護物品のV50は、4グレンRight Circular Cylinder (RCC)発射体で衝撃を与えたとき、少なくとも約2000フィート/秒(fps)(610m/秒)であることが好ましい。本発明において形成される柔軟な弾道防護物品のV50は、17グレンFragment Simulated Projectile (FSP)で衝撃を与えたとき、少なくとも約1550フィート/秒(fps)(472m/秒)であることが好ましい。
【実施例】
【0074】
次の実施例で本発明を説明する。
実施例1
熱ALDを行って酸化タンタルをSPECTRA布帛(布帛スタイル960)の3つの試料上に蒸着した。ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタルをタンタル含有有機金属前駆体としてフロータイプF−120SAT ALD反応器中でのTaのALD塗膜合成に用いた。水を共反応物質として、又、Nをパージガスとして用いた。成長実験中に用いられるペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル蒸発温度は105℃であった。成長中の布帛温度は110℃であった。第1ガス流量は200標準cm/分(sccm)、第2ガス流量は300sccmであった。ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタルパルス時間は3秒であり、その後2秒窒素パージを行った。HOパルス時間は1秒、そして2秒窒素パージが続いた。蒸着サイクルの所定の数(それぞれ750、1100及び2300)の後、Taを布帛試料に塗被した。Ta塗膜厚さはシリコンウエハー上のTa塗膜成長速度に基づいて推定した。3つの試料全てを塗被した。3つの試料について、布帛上の推定Ta塗膜厚は750サイクルで450Å、1100サイクルで670Å、そして2300サイクルで1400Åである。
実施例2
熱ALDを行って酸化アルミニウム(Al)をSPECTRA布帛、スタイル960の3つの試料上に蒸着した。トリメチルアルミニウムをアルミニウム含有有機金属前駆体としてフロータイプF−120SAT ALD反応器中でのAlのALD塗膜合成に用いた。水を共反応物質として、又、Nをパージガスとして用いた。成長実験中に用いられるトリメチルアルミニウム蒸発温度は18℃であった。成長中の布帛温度は110℃であった。第1ガス流量は300sccm、第2ガス流量は200sccmであった。トリメチルアルミニウムパルス時間は1秒であり、そして2秒窒素パージが続いた。HOパルス時間は1秒であり、その語2秒窒素パージを行った。布帛上のAlの成長速度はSiウエファー上のAl成長速度から推定して約1Å/サイクルである。アルミナで塗被された3つの試料の推定厚さはそれぞれ471Å、678Å、そして1445Åであった。
【0075】
ALD塗被されたAl塗膜の例を図3に示す。この図は塗被された布帛の断面の走査電子顕微鏡画像である。明るい表面層はAlからのAlのX線マッピングであり、個々の繊維表面の均一な塗膜を示している。
実施例3
熱ALDを行って二硫化タングステン(WS)をSPECTRA布帛、スタイル960上に蒸着した。六フッ化タングステン(WF)をタングステン含有有機金属前駆体としてフロータイプF−120SAT ALD反応器中での二硫化タングステンのALD塗膜合成に用いた。二硫化水素(HS)を共反応物質として、Nをパージガスとして用いた。両前駆体はガスボンベから供給することができる。成長中の布帛温度は110℃であった。第1ガス流量は300sccm、第2ガス流量は200sccmであった。WFパルス時間は2秒であり、その後5秒窒素パージを行った。HSパルス時間は2秒であり、その後25秒窒素パージを行った。所定数の蒸着サイクルの後、WSは布帛へ塗被された。
実施例4
PEALDを行ってタングステンをSPECTRA布帛、スタイル960上に蒸着した。六フッ化タングステンをタングステン含有有機金属前駆体としてフロータイプF−120SAT ALD反応器中での二硫化タングステン(WS)のALD塗膜合成に用いた。Siを共反応物質として、又、Nをパージガスとして用いた。両前駆体はガスボンベから供給することができる。成長中の布帛温度は110℃である。第1ガス流量は300sccm、第2ガス流量は200sccmであった。WFパルス時間は2秒であり、その後5秒窒素パージを行った。Siパルス時間は2秒であり、その後5秒窒素パージを行った。Siパルスの間、プラズマを適用した。所定数の蒸着サイクルの後、WSが布帛へ塗被された。
実施例5
熱ALDを行ってHf−Al−O合金酸化物をSPECTRA布帛、スタイル960上に蒸着した。テトラキス(エチルメチルアミノ)ハフニウムをハフニウム含有有機金属前駆体として、そしてトリメチルアルミニウムをアルミニウム含有有機金属前駆体として、フロータイプF−120SAT ALD反応器中でのHf−Al−OのALD塗膜合成に用いた。水を共反応物質として、又、Nをパージガスとして用いた。テトラキス(エチルメチルアミノ)ハフニウム及びトリメチルアルミニウムを金属含有前駆体パルス用の反応チャンバへ同時注入した。成長中の布帛温度は110℃であった。第1ガス流量は200sccm、第2ガス流量は300sccmであった。金属含有パルス時間は1秒であり、その後2秒窒素パージを行った。HOパルス時間は1秒であり、その後2秒窒素パージを行った。所定の蒸着サイクルの後、Hf−Al−O合金塗膜が布帛へ塗被された。
実施例6
ALDアルミナ塗被SPECTRA布帛の耐突き刺し性を測定するために、SPECTRA布帛スタイル960の試料をアルミナの1000Å(100nm)厚み層で塗被し、試験した。試験体をホルダー(Instron Model 4502テスター;試験法:圧縮#06;荷重速度1.5インチ/分)で伸ばし、先端が円錐(稜角:60°)の鋼ロッド(直径0.21インチ)を押し付けることによってパンチ/突き刺しを行った。先端が円錐のこの種のロッドは、一般的な発射体破片及び一般的な突き刺し兵器に似た形の部材である。パンチはアルミナ塗被布帛を平均171ポンド±16ポンドで貫いた(3つの試料を試験し、パンチ貫通結果はそれぞれ173ポンド、153ポンド及び186ポンドであった)。
実施例7(比較)
アルミナ塗膜のないSPECTRA布帛スタイル960の標準試料を用いて、実施例6を繰り返した。パンチは未塗被布帛を平均92ポンド±10ポンドで貫いた(3つの試料を試験し、パンチ貫通結果はそれぞれ81ポンド、95ポンド及び102ポンドであった)。
【0076】
実施例6及び比較実施例7は、厚さ1000Åの原子層が蒸着されたアルミナ塗膜では鋭いプローブの貫通抵抗性が86%増加することを示す。
実施例8
引張試験をALDアルミナ塗被された(125℃で塗被された)SPECTRA布帛、スタイル960の2つの試料で行った。実施した引張試験は、±45°布帛/繊維プルアウト試験法であった。塗膜厚さは、1つの試料は471ű20Å、別の試料は1445Åであった。
【0077】
この試験では、繊維方向に対して45°の角度で切断したSPECTRA布帛のストリップを張力でプルアウトする(引き離す)。引張試験はInstron Model 5500試験装置(荷重速度5インチ/分;室温23℃;湿度50%;220ポンドロードセル)を用いて行った。グリップ長さは0.5インチ(1.27cm)であった。各繊維を上方又は下方グリップによって引張、それらを互いに対してスライドさせた。ストリップ幅はゲージ長さより少し小さかった。その結果、伸張状態で、グリップを横切り、かみ合う繊維はなかった。唯一の抵抗性は繊維相互のスライディングの結果として生じる。Instron機によって記録される全体抵抗は繊維摩擦による。試験は繊維表面特性に非常に敏感である。布帛を、繊維が破断する又は高分子マトリックスから引き抜かれる状態である繊維プルアウトについて調べた。
【0078】
試験試料は1インチ幅であり、1.125インチ(2.857cm)長さゲージ(試料の試験長さ)であった。ALD塗被試料両方のプルアウト抵抗性は、アルミナで塗被されていない布帛と比較して著しく高かった。471Å塗被試料は繊維プルアウトの徴候はなく、120ポンド(54.43kg)でグリップからスライドした。未塗被対照試料は、破断する前は90ポンド(40.82kg)の最高プルアウト力を有していた。
実施例9
実施例8を、678ÅALDアルミナ塗膜で塗被された試料を用いて繰り返し、5分エポキシ接着剤で接着されたエメリーペーパータブを有する1インチ(2.45cm)長さグリップでしっかり固定した。再び、未塗被試料は90ポンドの最高プルアウト力を有していた。塗被試料は繊維プルアウトの徴候なしで、220ポンドの荷重を達成した。220ポンドはロードセル能力の最高荷重であるので、試験は220ポンド荷重でやめた。
実施例10
試験布帛試料の形が0.5インチ幅、0.7インチゲージ長さの試料サイズに変えた以外は、表2に示す各種試料について実施例9を繰り返した。1インチのグリップ長さ及びエメリータブは維持した。これらの寸法で、引張試験を行い、ALD処理効果を表2に示すように測定し、試料#1、3及び4についての力対変位結果を図2にプロットする。
【0079】
【表2】

【0080】
実施例8〜10から、SPECTRA布帛スタイル960上のアルミナのALD塗被は繊維対繊維摩擦を劇的に増加させる。プルアウト力は未処理対照に比べて3倍まで増加する。
プルアウト力の有意な差は、塗膜が最も薄い試料と塗膜が最も厚い試料との間で認められなかった。塗膜厚さの3倍の増加は、プルアウト力の約22%の増加をもたらした。破片に対する弾道抵抗性性能を増加させるための繊維表面摩擦の著しい増加は、最小のALD塗被で得られる。
実施例11
約400Å(40nm)厚さのアルミナ封入層を、SPECTRA織布(布帛スタイル903;平織;打込み数:21×21エンド/インチ(2.54cm);面積重量:7オンス/ヤード(217g)の12”×12”シート22枚の表面に塗被した。22枚のシートを一緒にクランプして、弾道試験用の22層シュートパックを形成した。クランプ後のターゲット面積は10”×10”であった。シュートパックを、MIL−P−46593Aのとおりに形、大きさ及び重量を一致させる17グレンFragment Simulated Projectile (FSP)に対して試験した。V50弾道試験はMIL−STD−662Eの手順に従って行い、得られたV50は1653フィート/秒であった。同じ条件下で試験した同様であるが塗被されていない布帛の1472フィート/秒のV50と比較して、性能は25.9%改善されたという計算結果になった。
実施例12
約394Å(39.4nm)厚さのアルミナ封入層を、SPECTRA織布(実施例11で用いたのと同様な布帛スタイル903)の15”×15”シート22枚の表面に塗被した。22枚のシートを一緒にクランプして、弾道試験用の22層シュートパックを形成した。クランプ後のターゲット面積は10”×10”であった。シュートパックを、MIL−P−46593Aのとおりに形、大きさ及び重量を一致させる4グレンRight Circular Cylinder (RCC)及び17グレンFSPの両方に対して試験した。V50弾道試験はMIL−STD−662Eの手順に従って行った。4グレンRCCに対しては、得られたV50は2017フィート/秒であった。4グレンRCCに対して同じ条件下で試験した同様であるが塗被されていない布帛の1982フィート/秒のV50と比較して、性能は3.5%改善されたという計算結果になった。17グレンFSPに対しては、得られたV50は1594フィート/秒であった。17グレンFSPに対して同じ条件下で試験した同様であるが塗被されていない布帛の1533フィート/秒のV50と比較して、性能は8.1%改善されたという計算結果になった。結果は以下の表3に示す。
【0081】
実施例13
約774Å(77.4nm)厚さのアルミナ封入層を、SPECTRA織布(実施例11で用いたのと同様な布帛スタイル903)の15”×15”シート22枚の表面に塗被した。22枚のシートを一緒にクランプして、弾道試験用の22層シュートパックを形成した。クランプ後のターゲット面積は10”×10”であった。
【0082】
シュートパックを、MIL−P−46593Aのとおりに形、大きさ及び重量を一致させる4グレンRCC及び17グレンFSPの両方に対して試験した。V50弾道試験はMIL−STD−662Eの手順に従って行った。4グレンRCCに対しては、得られたV50は2074フィート/秒であった。4グレンRCCに対して同じ条件下で試験した同様であるが塗被されていない布帛の1982フィート/秒のV50と比較して、性能は9.5%改善されたという計算結果になった。17グレンFSPに対しては、得られたV50は1570フィート/秒であった。17グレンFSPに対して同じ条件下で試験した同様であるが塗被されていない布帛の1533フィート/秒のV50と比較して、性能は4.8%改善されたという計算結果になった。結果は以下の表3に示す。
【0083】
実施例14
約486Å(48.6nm)厚さの酸化チタン封入層を、SPECTRA織布(実施例11で用いたのと同様な布帛スタイル903)の15”×15”シート22枚の表面に塗被した。22枚のシートを一緒にクランプして、弾道試験用の22層シュートパックを形成した。クランプ後のターゲット面積は10”×10”であった。
【0084】
シュートパックを、MIL−P−46593Aのとおりに形、大きさ及び重量を一致させる4グレンRCC及び17グレンFSPに対して試験した。V50弾道試験はMIL−STD−662Eの手順に従って行った。4グレンRCCに対しては、得られたV50は2039フィート/秒であった。4グレンRCCに対して同じ条件下で試験した同様であるが塗被されていない布帛の1982フィート/秒のV50と比較して、性能は5.8%改善された計算になった。17グレンFSPに対しては、得られたV50は1579フィート/秒であった。17グレンFSPに対して同じ条件下で試験した同様であるが塗被されていない布帛の1533フィート/秒のV50と比較して、性能は6.1%改善されたという計算結果になった。結果は以下の表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
実施例11〜14は、弾道抵抗性SPECTRA布帛をALD層で処理したときの破片に対する弾道抵抗性性能の改善を示す。観察された改善の最高レベルは、4グレン破片については9.5%(アルミナALD、774Å)、17グレンについては8.1%(アルミナALD、394Å)であった。この性能のさらなる改善は、塗膜厚さの最適化及び織布のより密な織りにより期待される。織りの密度及び摩擦はALD処理から共に増加する。
【0087】
実施例15
実施例8を、1400Å、670Å及び450Åの厚さのALD Taでそれぞれ塗被された(110℃で塗被された)SPECTRA布帛、布帛スタイル903の3つの試料、及びTa塗膜のない1つの試料で繰り返した。布帛を繊維プルアウトについて検査した。ALD塗被試料の全ては、Taで塗被されていない布帛と比べて、著しく高いプルアウト抵抗性を有していた。試験体は幅0.5インチ(1.27cm)であり、0.75インチ(1.91cm)の長さゲージを有していた。グリップ長さは1インチ(1.27cm)であった。結果は図1に示す。
【0088】
好ましい態様を参照して本発明を詳細に示しかつ説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができることは本技術分野における当業者にとって明らかなことであろう。請求の範囲は、開示された態様、以上に説明された代替物、及びそれらに均等物の全てをカバーするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子層蒸着により、1つ以上の高分子繊維の表面上に封入層を蒸着する工程を含む方法。
【請求項2】
前記1つ以上の高分子繊維が、非半導性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高分子繊維が、約7g/デニール以上の靭性と約150g/デニール以上の引張弾性率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記高分子繊維が、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアクリロニトリル繊維、液晶コポリエステル繊維、硬質ロッド繊維、又は、それらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記高分子繊維が、ポリエチレン繊維を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記原子層蒸着が、その1つ以上の高分子繊維の溶融温度より低い温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記封入層が、無機材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記封入層が、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、チタンアルミネート、チタンシリケート、ハフニウムアルミネート、ハフニウムシリケート、ジルコニウムアルミネート、ジルコニウムシリケート、窒化ホウ素、又は、それらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
さらに、高分子マトリックス組成物を封入層上に逐次塗被する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
封入層が、原子層蒸着による複数の高分子繊維の表面上に蒸着され、前記繊維が、封入層の前記原子層蒸着の前に一緒の織られる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
封入層が、原子層蒸着による複数の高分子繊維の表面上に蒸着され、その後前記複数の繊維が布帛に形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
原子層蒸着により、封入層が複数の高分子繊維の表面上に蒸着され、引き続き、封入層上に高分子マトリックス組成物が塗被され、その後、前記複数の繊維が布帛に形成される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記封入層が、約1000nm未満の厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
配列上に配置された複数の非半導性高分子繊維を含み、前記繊維がその上に原子層蒸着された封入層を有することを特徴とする布帛。
【請求項15】
前記1つ以上の高分子繊維が、非半導性である、請求項14に記載の布帛。
【請求項16】
弾道抵抗性布帛を含み、前記高分子繊維が、約7g/デニール以上の靭性と約150g/デニール以上の引張弾性率を有する、請求項14に記載の布帛。
【請求項17】
織布を含む、請求項14に記載の布帛。
【請求項18】
不織布を含み、前記高分子繊維が、さらに、前記封入層上に高分子マトリックス組成物を含む、請求項14に記載の布帛。
【請求項19】
前記高分子繊維が、ポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアクリロニトリル繊維、液晶コポリエステル繊維、硬質ロッド繊維、又は、それらの組み合わせを含む、請求項14に記載の布帛。
【請求項20】
前記封入層が、無機材料を含む、請求項14に記載の布帛。
【請求項21】
前記封入層が、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、チタンアルミネート、チタンシリケート、ハフニウムアルミネート、ハフニウムシリケート、ジルコニウムアルミネート、ジルコニウムシリケート、窒化ホウ素、又は、それらの組み合わせを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記封入層が、約1000nm未満の厚さを有する、請求項14に記載の布帛。
【請求項23】
請求項14の布帛から形成される物品。
【請求項24】
請求項18の布帛から形成される物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−510392(P2010−510392A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538468(P2009−538468)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/085065
【国際公開番号】WO2008/140578
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】