繊維織物及び複合材
【課題】賦形性、強度に優れ、且つ繊維織物の重ね合わせによって厚みを増した重ね合わせシートの生産効率を向上できる繊維織物、及びこの繊維織物を用いた繊維強化樹脂製の複合材を提供する。
【解決手段】繊維織物11は、複数の第1繊維束121からなる第1繊維層12と、複数の第2繊維束131からなる第2繊維層13と、複数の抜け止め糸141からなる抜け止め糸群14と、複数の拘束糸151からなる拘束糸群15とから構成されている。第1繊維層12と第2繊維層13とは、隣接して積層されている。第1繊維束121と第2繊維束131とは、45°の角度で斜交している。拘束糸151は、繊維織物11の厚み方向に第1繊維層12と第2繊維層13とを貫通しており、抜け止め糸141と拘束糸151とは、45°の角度で交差している。
【解決手段】繊維織物11は、複数の第1繊維束121からなる第1繊維層12と、複数の第2繊維束131からなる第2繊維層13と、複数の抜け止め糸141からなる抜け止め糸群14と、複数の拘束糸151からなる拘束糸群15とから構成されている。第1繊維層12と第2繊維層13とは、隣接して積層されている。第1繊維束121と第2繊維束131とは、45°の角度で斜交している。拘束糸151は、繊維織物11の厚み方向に第1繊維層12と第2繊維層13とを貫通しており、抜け止め糸141と拘束糸151とは、45°の角度で交差している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維織物、及び繊維織物によって樹脂を強化した複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時における衝撃を緩和するバンパ装置を構成する荷重エネルギー吸収材は、バンパ装置を構成するバンパリィンフォースに加えられた衝撃荷重のエネルギーを吸収する。このようなバンパ装置の軽量化のため、バンパリィンフォースや荷重エネルギー吸収材を繊維強化樹脂で形成した複合材が知られている。
【0003】
樹脂を強化するための繊維としては例えば特許文献1,2,3に開示されるような織物を用いることができる。
特許文献1に開示の織物は、経糸に対して緯糸を斜めに織り込んだ構成となっている。しかし、経糸と緯糸とのみによって織られた織物であるため、糸が屈曲・蛇行しており、複合材の強度を高める上で不利であるという欠点がある。
【0004】
特許文献2に開示の織物は、互いに隣接する2本の経糸又は緯糸の中心を通る2本の垂線と、経糸と緯糸とが交錯する1本の経糸又は緯糸の中心線とを結んだ線と、経糸又は緯糸の配列方向に平行な線とのなす角度を1度以下とした構成となっている。つまり、糸のクリンプが小さい。しかし、小さいとは言えクリンプがあれば、複合材の強度を高める上で不利である。
【0005】
特許文献3に開示の織物では、応力が集中するような屈曲を有しない偏平な強化繊維マルチフィラメント糸を一方向に互いに並行かつシート状に引き揃えた糸条群のシート面の両側に、強化繊維マルチフィラメント糸と交差する緯方向補助糸群が配置されている。さらに、強化繊維マルチフィラメント糸と並行する経方向補助糸群と緯方向補助糸群とが織組織をなして糸状群を一体に保持している。この織物では、偏平な強化繊維マルチフィラメント糸を一方向に互いに並行かつシート状に引き揃えるため、クリンプのない糸条群が構成される。そのため、この織物は、複合材の強度を高める上で有利であり、かつ賦形性に優れる。
【特許文献1】特開昭63−303145号公報
【特許文献2】特開平7−243147号公報
【特許文献3】特開平7−243149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合材の厚みを増すには複数枚の織物を重ね合わせればよい。しかし、特許文献3の織物は、単層シート形状の織物であるため、厚みのある複合材を生産する場合の生産効率は良くない。
【0007】
本発明は、賦形性、強度に優れ、且つ繊維織物の重ね合わせによって厚みを増した重ね合わせシートの生産効率を向上できる繊維織物、及びこの繊維織物を用いた繊維強化樹脂製の複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明の繊維織物は、長さ方向を揃えられた複数の第1繊維束からなる第1繊維層と、前記第1繊維束の長さ方向に対して斜交する方向に長さ方向を揃えられた複数の第2繊維束からなる第2繊維層と、長さ方向を揃えられた複数の抜け止め糸からなる抜け止め糸群と、前記抜け止め糸と交差する方向に長さ方向を揃えられた複数の拘束糸からなる拘束糸群とを備え、前記第1繊維層と前記第2繊維層とは、隣接して積層されており、前記抜け止め糸群と前記拘束糸群とは、織り組織を成して前記第1繊維層と前記第2繊維層とを保持していることを特徴とする。
【0009】
第1繊維層と第2繊維層とにはクリンプがないため、本発明の繊維織物は、複合材の強度を高める上で有利であり、かつ賦形性に優れる。又、本発明の繊維織物は、2層構造の繊維織物であるため、本発明の繊維織物の重ね合わせによって厚みを増す重ね合わせシートの生産効率は、単層構造の繊維織物の場合よりも向上する。請求項1の或る繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物も本発明に含まれる。ここにおける鏡映対称な関係とは、第1繊維束及び第2繊維束の長さ方向に関する鏡映対称な関係のことである。なお、抜け止め糸の長さ方向とは、第1,2繊維層の層方向への抜け止め糸の方向成分のことであり、拘束糸の長さ方向とは、第1,2繊維層の層方向への拘束糸の方向成分のことである。ここにおける糸とは、撚りを掛けられた糸のみならず、多数本を繊維を束ねて撚りを掛けていない繊維束も含む。
【0010】
好適な例では、前記抜け止め糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている。
【0011】
抜け止め糸の長さ方向のこのような設定では、抜け止め糸に層面で接する繊維層の繊維束と抜け止め糸とが必ず交差する。又、抜け止め糸と拘束糸とが交差しているため、拘束糸に層面で接する繊維層の繊維束と拘束糸とが必ず交差する。
【0012】
好適な例では、前記拘束糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている。
【0013】
拘束糸の長さ方向のこのような設定では、拘束糸に層面で接する繊維層の繊維束と拘束糸とが必ず交差する。又、抜け止め糸と拘束糸とが交差しているため、抜け止め糸に層面で接する繊維層の繊維束と抜け止め糸とが必ず交差する。
【0014】
好適な例では、前記抜け止め糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられており、前記拘束糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている。
【0015】
このような構成は、最も賦形性に優れた繊維織物をもたらす。
好適な例では、前記第1繊維束の長さ方向と前記第2繊維束の長さ方向とは、45°の角度で斜交している。
【0016】
第1繊維束と第2繊維束とのうちの一方の長さ方向が0°であるとする。この場合、45°の角度で斜交する第1繊維束と第2繊維束とを備えた繊維織物は、裏返し、−45°の回転、あるいは90°回転させることによって、第1繊維束と第2繊維束とのいずれか一方の長さ方向が0°方向又は90°方向となり、他方の長さ方向が45°又は−45°となる長さ方向の組み合わせの異なる繊維織物をもたらす。
【0017】
請求項6及び請求項7の発明は、繊維織物によって樹脂を強化した複合材を対象とし、請求項6の発明の複合材の繊維織物には、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の繊維織物が用いられていることを特徴とする。
【0018】
本発明の繊維織物は、繊維強化樹脂製の複合材を構成する繊維織物として好適である。
好適な例では、前記繊維織物と、該繊維織物に対して鏡映対称な繊維織物とが鏡映対称に配置して用いられている。
【0019】
互いに鏡映対称な繊維織物を鏡映対称に配置した構成は、反りのない複合材を得る上で好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の繊維織物は、賦形性、強度に優れ、且つ繊維織物の重ね合わせによって厚みを増した重ね合わせシートの生産効率を向上できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
図1(a),(b),(c)に示すように、繊維織物11は、複数の第1繊維束121からなる第1繊維層12と、複数の第2繊維束131からなる第2繊維層13と、複数の抜け止め糸141からなる抜け止め糸群14と、複数の拘束糸151からなる拘束糸群15とから構成されている。第1繊維層12と第2繊維層13とは、隣接して積層されている。拘束糸151は、繊維織物11の厚み方向に第1繊維層12と第2繊維層13とを貫通しており、抜け止め糸141と拘束糸151とは交差している。抜け止め糸141及び拘束糸151の配列ピッチは、第1繊維束121及び第2繊維束131の配列ピッチよりも大きくしてある。
【0022】
図2(a),(c)に示すように、全ての第1繊維束121は、一方向に引き揃えられている。つまり、全ての第1繊維束121の長さ方向は、同じ方向に揃えられている。以下、第1繊維束121の長さ方向を基準の方向として0°方向と表記する。全ての抜け止め糸141は、第1繊維束121の長さ方向とは別の一方向に引き揃えられている。つまり、第1,2繊維層12,13の層方向への抜け止め糸141の方向成分を抜け止め糸141の長さ方向ということにすると、抜け止め糸141の長さ方向は、第1繊維束121の長さ方向に対して45°の角度で交差している。以下、抜け止め糸141の長さ方向を45°方向と表記する。なお、図2(a)は、第1繊維束121と抜け止め糸141とび拘束糸151とのみで繊維織物11を表しており、図2(c)は、第1繊維束121と第2繊維束131とのみで繊維織物11を表した簡略図である。
【0023】
図2(b),(c)に示すように、全ての第2繊維束131は、第1繊維束121の長さ方向及び抜け止め糸141の長さ方向とは別の一方向に引き揃えられている。つまり、全ての第2繊維束131の長さ方向は、同じ方向に揃えられている。第2繊維束131の長さ方向は、第1繊維束121の長さ方向に対して45°の角度で交差している。つまり、第2繊維束131の長さ方向と抜け止め糸141の長さ方向とは、揃えられている。以下、第2繊維束131の長さ方向を45°方向と表記する。第1,2繊維層12,13の層方向への拘束糸151の方向成分を拘束糸151の長さ方向ということにすると、全ての拘束糸151の長さ方向は、第1繊維束121の長さ方向に揃えられている。なお、図2(b)は、第2繊維束131と拘束糸151とのみで繊維織物11を表している。
【0024】
第1繊維束121、第2繊維束131、抜け止め糸141及び拘束糸151は、連続繊維からなる。本実施形態では、第1繊維束121及び第2繊維束131の連続繊維の本数は、12000本程度、抜け止め糸141及び拘束糸151の連続繊維の本数は、2000本程度である。
【0025】
図1(b)に示すように、繊維織物11の厚み方向に第1繊維層12及び第2繊維層13を貫通する拘束糸151は、第1繊維層12の一方の層面122〔図1(b)では上面〕側で抜け止め糸141を跨ぐように折り返されている。又、拘束糸151は、第2繊維層13の一方の層面132〔図1(b)では下面〕では拘束糸151の配列ピッチだけ離れた挿入位置で再び第1繊維層12及び第2繊維層13に挿入されている。第2繊維層13の一方の層面132側にある拘束糸151の部分(以下、層部152と記す)は、第1繊維束121の長さ方向を向いている。つまり、拘束糸群15の層部152における拘束糸151は、第1繊維束121の長さ方向(0°方向)に揃えられている。以下、拘束糸群15の長さ方向を0°方向と表記する。
【0026】
抜け止め糸群14と拘束糸群15とは、織り組織を成して第1繊維層12と第2繊維層13とを抜け止め糸群14と拘束糸群15の層部152との間に保持している。繊維織物11の主体となる第1繊維層12の第1繊維束121の長さ方向は、0°方向であり、繊維織物11の主体となる第2繊維層13の第2繊維束131の長さ方向は、45°方向である。以下、繊維織物11の第1,2繊維束121,131の長さ方向を(0°,45°)と表記する。
【0027】
繊維織物11は、例えば以下のようにして製作される。
図3(a)に示すように、矩形状の枠体16に所定ピッチで着脱可能に立設された多数のピン17に第1繊維束121を折り返し係合させて第1繊維層12を形成する。次に、図3(b)に示すように、ピン17に第2繊維束131を折り返し係合させて第1繊維層12の上に第2繊維層13を形成する。
【0028】
次に、例えば特開平8−218249号公報に開示されている方法により、拘束糸151が第2繊維層13及び第1繊維層12に挿入される。つまり、挿入針の先端にある孔に拘束糸151を係止した状態で、第2繊維層13及び第1繊維層12の厚さ方向に挿入針が挿入され、挿入針の孔が第2繊維層13及び第1繊維層12を貫通する位置まで挿入針が前進される。その後、挿入針が僅かに後退され、拘束糸151がU字状のループを形成した状態となる。次いで、抜け止め糸針が拘束糸151のU字状のループ内を通過され、第2繊維層13及び第1繊維層12の端部まで到達した時点で停止される。このとき、抜け止め糸141が抜け止め糸針の先端に係止される。そして、抜け止め糸針が引き戻され、抜け止め糸141が拘束糸151のU字状のループ内に挿通された状態となる。この状態で挿入針が引き戻される。これにより、抜け止め糸141が拘束糸151により締め付けられて繊維織物11が製作される。
【0029】
図4(a),(b)に示す繊維織物11Mは、複数の第1繊維束121からなる第1繊維層12Mと、複数の第2繊維束131からなる第2繊維層13Mと、複数の抜け止め糸141からなる抜け止め糸群14Mと、複数の拘束糸151からなる拘束糸群15Mとから構成されている。図4(b)は、第1繊維束121と第2繊維束131とのみによって繊維織物11Mを示した簡略図である。繊維織物11Mの第2繊維束131の長さ方向は、繊維織物11Mの第1繊維束121の長さ方向(0°方向)に対して45°の角度で交差しているが、繊維織物11Mの第2繊維束131の長さ方向は、繊維織物11における第1繊維層12のみを90°回転させたときの第1繊維層12の長さ方向に一致する。以下、繊維織物11Mの第2繊維束131の長さ方向を−45°方向と表記する。繊維織物11Mは、繊維織物11に対して鏡映対称の関係にある。
【0030】
繊維織物11Mの主体となる第1繊維層12Mの第1繊維束121の長さ方向は、0°方向であり、繊維織物11Mの主体となる第2繊維層13Mの第2繊維束131の長さ方向は、―45°方向である。以下、繊維織物11Mの第1,2繊維束121,131の長さ方向を(0°,−45°)と表記する。
【0031】
なお、第1繊維束121及び第2繊維束131には、例えば炭素繊維、ガラス繊維が用いられる。抜け止め糸141及び拘束糸151には、例えばポリエステル、ガラス繊維が用いられる。
【0032】
図5(a)は、繊維織物11と繊維織物11Mとを重ね合わせて構成された繊維強化樹脂製のバンパリィンフォース18を示す。図5(b)は、繊維織物11と繊維織物11Mとを重ね合わせた重ね合わせシート19を示す。重ね合わせシート19における繊維織物11Mは、図4(a),(b)に示す状態から裏返して(左右反転して)繊維織物11に重ね合わせられる。バンパリィンフォース18を構成する繊維織物11と繊維織物11Mとは、鏡映対称な重ね合わせ状態にある。樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル等の熱硬化性樹脂が用いられている。
【0033】
複合材としてのバンパリィンフォース18においては、繊維織物11,11Mは、第1繊維束121がバンパリィンフォース18の長手方向に延びるように、用いられる。
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
【0034】
(1)第1繊維層12,12Mと第2繊維層13,13Mとにはクリンプがないため、繊維織物11,11Mは、繊維強化樹脂製の複合材(本実施形態ではバンパリィンフォース18)の強度を高める上で有利であり、かつ賦形性に優れる。又、繊維織物11,11Mは、第1繊維層12,12Mと第2繊維層13,13Mとの2層を積層した2層構造の繊維織物であるため、繊維織物11,11Mの重ね合わせによって厚みを増した重ね合わせシート19の生産効率は、単層構造の繊維織物の場合よりも向上する。
【0035】
(2)第1繊維層12の層面122に接する抜け止め糸141は、第2繊維層13の第2繊維束131の長さ方向に揃えられている。第1繊維層12の第1繊維束121と第2繊維層13の第2繊維束131とは、斜交しているため、抜け止め糸141は、抜け止め糸141に層面122で接する第1繊維層12の第1繊維束121と必ず交差する。同様に、第1繊維層12Mの層面122に接する抜け止め糸141は、第2繊維層13Mの第2繊維束131の長さ方向に揃えられており、抜け止め糸群14Mの抜け止め糸141は、この抜け止め糸141に層面122で接する第1繊維層12Mの第1繊維束121と必ず交差する。
【0036】
一方、第2繊維層13の層面132に接する拘束糸群15の層部152における拘束糸151は、第1繊維層12の第1繊維束121の長さ方向に揃えられている。第1繊維層12の第1繊維束121と第2繊維層13の第2繊維束131とは、斜交しているため、層部152における拘束糸151は、層部152に層面132で接する第2繊維層13の第2繊維束131と必ず交差する。同様に、拘束糸群15Mの拘束糸151は、この拘束糸151に層面132で接する第2繊維層13Mの第2繊維束131と必ず交差する。
【0037】
従って、抜け止め糸群14と拘束糸群15の層部152との間に挟み込まれた第1繊維層12及び第2繊維層13は、抜け止め糸141と拘束糸151との協働による拘束作用によって、繊維束の配列を乱さないように良好に保持される。
【0038】
抜け止め糸141の長さ方向を第2繊維束131の長さ方向に揃えると共に、拘束糸151の長さ方向を第1繊維束121の長さ方向に揃えた構成では、繊維織物中の繊維方向が2つのみとなる。従って、第1繊維層12に接する抜け止め糸141の長さ方向を第2繊維束131の長さ方向に揃えると共に、第2繊維層13に層部152を介して接する拘束糸151の長さ方向を第1繊維束121の長さ方向に揃えた構成は、優れた賦形性をもたらす上で最適である。
【0039】
(3)バンパリィンフォース18の強度は、その壁厚を大きくすることによって高めることができる。壁厚を大きくするには、複数の繊維織物11を重ね合わせたり、複数の繊維織物11Mを重ね合わせたり、あるいは繊維織物11と繊維織物11Mとを重ね合わせたりすればよい。特に、鏡映対称な関係にある繊維織物11〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)の繊維織物〕と繊維織物11M〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,−45°)の繊維織物〕とを鏡映対称に重ね合わせた重ね合わせシート19は、反りのない複合材(バンパリィンフォース18)を得る上で好ましい。繊維織物11Mを裏返した繊維織物の第1,2繊維束121,131の長さ方向は、(45°,0°)となり、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(45°,0°)の繊維織物と、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)の繊維織物11とを重ね合わせた重ね合わせシート19の第1,2繊維束121,131の長さ方向は、(0°,45°,45°,0°)となる。
【0040】
(4)0°方向と45°方向との組み合わせ、つまり第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)の繊維織物11は、繊維織物11の裏返し〔図2(a)において左右反転〕によって−45°方向と0°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(−45,0°)の繊維織物〕をもたらす。又、0°方向と45°方向との組み合わせは、繊維織物11の90°回転によって90°方向と−45°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,−45°)の繊維織物〕をもたらす。第1,2繊維束121,131の長さ方向が(−45°,0°)の繊維織物を90°回転、又は第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,−45°)の繊維織物を裏返せば、45°方向と90°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(45°,90°)の繊維織物〕がもたらされる。
【0041】
同様に、0°方向と−45°方向との組み合わせ、つまり第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,−45°)の繊維織物11Mは、繊維織物11Mの裏返しによって45°方向と0°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(45°,0°)の繊維織物〕をもたらす。又、0°方向と−45°方向との組み合わせは、繊維織物11Mの90°回転によって90°方向と45°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,45°)の繊維織物〕をもたらす。第1,2繊維束121,131の長さ方向が(45°,0°)の繊維織物を90°回転、又は第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,45°)の繊維織物を裏返せば、−45°方向と90°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(−45°,90°)の繊維織物〕がもたらされる。
【0042】
例えば、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°,90°,−45°,−45°,90°,45°,0°)の重ね合わせシートを作るには、以下のようにすればよい。繊維織物11〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)〕と、繊維織物11を90°回転させた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,−45°)〕とを重ね合わせて重ね合わせシート(S1と記す)を作る。又、繊維織物11M〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,−45°)〕と、繊維織物11Mを90°回転させた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,45°)〕とを重ね合わせて重ね合わせシート(S2と記す)を作る。重ね合わせシートS2は、重ね合わせシートS1に対して鏡映対称な関係にある。そして、重ね合わせシートS1〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°,90°,−45°)〕と、重ね合わせシートS2を裏返した重ね合わせシート〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(−45°,90°,45°,0°)〕とを重ね合わせれば、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°,90°,−45°,−45°,90°,45°,0°)の重ね合わせシートが得られる。
【0043】
鏡映対称な関係にある重ね合わせシートS1,S2を鏡映対称に重ね合わせた重ね合わせシートは、反りの出ない複合材を作る上で好適である。第1繊維束121と第2繊維束131とを45°で斜交させた繊維織物11,11Mは、鏡映対称な関係にある重ね合わせシートS1,S2の製作を可能にする。つまり、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)の繊維織物11、及び第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,−45°)の繊維織物11Mは、厚みのある複合材を構成する重ね合わせシートの素材として好適である。
【0044】
本発明では以下のような実施形態も可能である。
・図6(a),(b),(c)に示すように、抜け止め糸141が第1繊維束121に対して90°の角度で交差するようにしてもよい。繊維織物11Aを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び拘束糸151の長さ方向は、第1の実施形態の場合と同じである。図6(d)は、繊維織物11Aに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11AMである。
【0045】
・図7(a),(b),(c)に示すように、第1繊維束121の長さ方向が45°方向、第2繊維束131の長さ方向が90°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Bを構成する抜け止め糸141及び拘束糸151の長さ方向は、第1の実施形態の場合と同じである。図7(d)は、繊維織物11Bに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11BMである。
【0046】
・図8(a),(b),(c)に示すように、第1繊維束121の長さ方向が90°方向、第2繊維束131の長さ方向が45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Cを構成する抜け止め糸141及び拘束糸151の長さ方向は、第2の実施形態の場合と同じである。図8(d)は、繊維織物11Cに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11CMである。
【0047】
・図9(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が−45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Dを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第1の実施形態の場合と同じである。図9(b)は、繊維織物11Dに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11DMである。
【0048】
・図10(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が−45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Eを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第2の実施形態の場合と同じである。図10(b)は、繊維織物11Eに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11EMである。
【0049】
・図11(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が−45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Fを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第3の実施形態の場合と同じである。図11(b)は、繊維織物11Dに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11FMである。
【0050】
・図12(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が−45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Gを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第4の実施形態の場合と同じである。図12(b)は、繊維織物11Gに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11GMである。
【0051】
・図13(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が90°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Hを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第1の実施形態の場合と同じである。図13(b)は、繊維織物11Hに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11HMである。
【0052】
・図14(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が90°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Jを構成する第1繊維束121の長さ方向は45°方向であり、第2繊維束131の長さ方向は0°方向であり、抜け止め糸141の長さ方向は0°方向である。図14(b)は、繊維織物11Jに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11HMである。
【0053】
・図15に示すように、繊維織物11Kを構成する第1繊維束121と第2繊維束131との一方の長さ方向を22.5°方向とし、他方を−22.5°方向としてもよい。
例えば、梁の長手方向に対して第1繊維束121と第2繊維束131とを22.5°の角度で斜交させるように梁を形成する場合を考える。第1の実施形態における矩形状に製作された繊維織物11を用いる場合、第1繊維束121の0°方向に対して22.5°の方向に切断し、かつ−67.5°の方向に切断して必要な大きさに切り出すことになる。しかし、このように切断して繊維織物11から必要な大きさに切り出す場合には、利用できない無駄部分が多くできてしまう。
【0054】
図15のように矩形状に製作された繊維織物11Kから必要な大きさに切り出す場合には、0°方向と90°方向とに切断すればよく、無駄部分が少ない。
・図16に示すように、繊維織物11Lを構成する第1繊維束121と第2繊維束131との一方の長さ方向を67.5°方向とし、他方を−67.5°方向としてもよい。
【0055】
例えば、梁の長手方向に対して第1繊維束121と第2繊維束131とを67.5°の角度で斜交させるように梁を形成する場合を考える。第1の実施形態における矩形状に製作された繊維織物11を用いる場合、第1繊維束121の0°方向に対して67.5°の方向に切断し、かつ−22.5°の方向に切断して必要な大きさに切り出すことになる。しかし、このように切断して繊維織物11から必要な大きさに切り出す場合には、利用できない無駄部分が多くできてしまう。
【0056】
図16のように矩形状に製作された繊維織物11Kから必要な大きさに切り出す場合には、0°方向と90°方向とに切断すればよく、無駄部分が少ない。
・第1繊維束121と第2繊維束131との繊維種類を異ならせてもよい。例えば、第1繊維束121を炭素繊維とし、第2繊維束131をガラス繊維としたり、第1繊維束121をアラミド繊維とし、第2繊維束131を炭素繊維とする等の組み合わせを行なってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1実施形態を示し、(a)は一部破断簡略斜視図。(b),(c)は、断面図。
【図2】(a)は、繊維織物の一方の面を示す図。(b)は、繊維織物の他方の面を示す図。(c)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図3】(a),(b)は、繊維織物の製作を説明する平面図。
【図4】(a)は一部破断簡略斜視図。(b)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図5】(a)はバンパリィンフォースの断面図。(b)は一部破断簡略斜視図。
【図6】第2の実施形態を示し、(a)は、繊維織物の一方の面を示す図。(b)は、繊維織物の他方の面を示す図。(c)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。(d)は、(c)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図7】第3の実施形態を示し、(a)は、繊維織物の一方の面を示す図。(b)は、繊維織物の他方の面を示す図。(c)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。(d)は、(c)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図8】第4の実施形態を示し、(a)は、繊維織物の一方の面を示す図。(b)は、繊維織物の他方の面を示す図。(c)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。(d)は、(c)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図9】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図10】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図11】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図12】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図13】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図14】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図15】別の実施形態を示す簡略図。
【図16】別の実施形態を示す簡略図。
【符号の説明】
【0058】
11,11A,11B,11C,11D,11E,11F,11G,11H,11J,11M,11AM,11BM,11CM,11DM,11EM,11FM,11GM,11HM,11JM,11K,11L…繊維織物。12,12M…第1繊維層。121…第1繊維束。122…層面。13,13M…第2繊維束。131…第2繊維束。132…層面。14,14M…抜け止め糸群。141…抜け止め糸。15,15M…拘束糸群。151…拘束糸。18…複合材としてのバンパリィンフォース。
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維織物、及び繊維織物によって樹脂を強化した複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時における衝撃を緩和するバンパ装置を構成する荷重エネルギー吸収材は、バンパ装置を構成するバンパリィンフォースに加えられた衝撃荷重のエネルギーを吸収する。このようなバンパ装置の軽量化のため、バンパリィンフォースや荷重エネルギー吸収材を繊維強化樹脂で形成した複合材が知られている。
【0003】
樹脂を強化するための繊維としては例えば特許文献1,2,3に開示されるような織物を用いることができる。
特許文献1に開示の織物は、経糸に対して緯糸を斜めに織り込んだ構成となっている。しかし、経糸と緯糸とのみによって織られた織物であるため、糸が屈曲・蛇行しており、複合材の強度を高める上で不利であるという欠点がある。
【0004】
特許文献2に開示の織物は、互いに隣接する2本の経糸又は緯糸の中心を通る2本の垂線と、経糸と緯糸とが交錯する1本の経糸又は緯糸の中心線とを結んだ線と、経糸又は緯糸の配列方向に平行な線とのなす角度を1度以下とした構成となっている。つまり、糸のクリンプが小さい。しかし、小さいとは言えクリンプがあれば、複合材の強度を高める上で不利である。
【0005】
特許文献3に開示の織物では、応力が集中するような屈曲を有しない偏平な強化繊維マルチフィラメント糸を一方向に互いに並行かつシート状に引き揃えた糸条群のシート面の両側に、強化繊維マルチフィラメント糸と交差する緯方向補助糸群が配置されている。さらに、強化繊維マルチフィラメント糸と並行する経方向補助糸群と緯方向補助糸群とが織組織をなして糸状群を一体に保持している。この織物では、偏平な強化繊維マルチフィラメント糸を一方向に互いに並行かつシート状に引き揃えるため、クリンプのない糸条群が構成される。そのため、この織物は、複合材の強度を高める上で有利であり、かつ賦形性に優れる。
【特許文献1】特開昭63−303145号公報
【特許文献2】特開平7−243147号公報
【特許文献3】特開平7−243149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複合材の厚みを増すには複数枚の織物を重ね合わせればよい。しかし、特許文献3の織物は、単層シート形状の織物であるため、厚みのある複合材を生産する場合の生産効率は良くない。
【0007】
本発明は、賦形性、強度に優れ、且つ繊維織物の重ね合わせによって厚みを増した重ね合わせシートの生産効率を向上できる繊維織物、及びこの繊維織物を用いた繊維強化樹脂製の複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明の繊維織物は、長さ方向を揃えられた複数の第1繊維束からなる第1繊維層と、前記第1繊維束の長さ方向に対して斜交する方向に長さ方向を揃えられた複数の第2繊維束からなる第2繊維層と、長さ方向を揃えられた複数の抜け止め糸からなる抜け止め糸群と、前記抜け止め糸と交差する方向に長さ方向を揃えられた複数の拘束糸からなる拘束糸群とを備え、前記第1繊維層と前記第2繊維層とは、隣接して積層されており、前記抜け止め糸群と前記拘束糸群とは、織り組織を成して前記第1繊維層と前記第2繊維層とを保持していることを特徴とする。
【0009】
第1繊維層と第2繊維層とにはクリンプがないため、本発明の繊維織物は、複合材の強度を高める上で有利であり、かつ賦形性に優れる。又、本発明の繊維織物は、2層構造の繊維織物であるため、本発明の繊維織物の重ね合わせによって厚みを増す重ね合わせシートの生産効率は、単層構造の繊維織物の場合よりも向上する。請求項1の或る繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物も本発明に含まれる。ここにおける鏡映対称な関係とは、第1繊維束及び第2繊維束の長さ方向に関する鏡映対称な関係のことである。なお、抜け止め糸の長さ方向とは、第1,2繊維層の層方向への抜け止め糸の方向成分のことであり、拘束糸の長さ方向とは、第1,2繊維層の層方向への拘束糸の方向成分のことである。ここにおける糸とは、撚りを掛けられた糸のみならず、多数本を繊維を束ねて撚りを掛けていない繊維束も含む。
【0010】
好適な例では、前記抜け止め糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている。
【0011】
抜け止め糸の長さ方向のこのような設定では、抜け止め糸に層面で接する繊維層の繊維束と抜け止め糸とが必ず交差する。又、抜け止め糸と拘束糸とが交差しているため、拘束糸に層面で接する繊維層の繊維束と拘束糸とが必ず交差する。
【0012】
好適な例では、前記拘束糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている。
【0013】
拘束糸の長さ方向のこのような設定では、拘束糸に層面で接する繊維層の繊維束と拘束糸とが必ず交差する。又、抜け止め糸と拘束糸とが交差しているため、抜け止め糸に層面で接する繊維層の繊維束と抜け止め糸とが必ず交差する。
【0014】
好適な例では、前記抜け止め糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられており、前記拘束糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている。
【0015】
このような構成は、最も賦形性に優れた繊維織物をもたらす。
好適な例では、前記第1繊維束の長さ方向と前記第2繊維束の長さ方向とは、45°の角度で斜交している。
【0016】
第1繊維束と第2繊維束とのうちの一方の長さ方向が0°であるとする。この場合、45°の角度で斜交する第1繊維束と第2繊維束とを備えた繊維織物は、裏返し、−45°の回転、あるいは90°回転させることによって、第1繊維束と第2繊維束とのいずれか一方の長さ方向が0°方向又は90°方向となり、他方の長さ方向が45°又は−45°となる長さ方向の組み合わせの異なる繊維織物をもたらす。
【0017】
請求項6及び請求項7の発明は、繊維織物によって樹脂を強化した複合材を対象とし、請求項6の発明の複合材の繊維織物には、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の繊維織物が用いられていることを特徴とする。
【0018】
本発明の繊維織物は、繊維強化樹脂製の複合材を構成する繊維織物として好適である。
好適な例では、前記繊維織物と、該繊維織物に対して鏡映対称な繊維織物とが鏡映対称に配置して用いられている。
【0019】
互いに鏡映対称な繊維織物を鏡映対称に配置した構成は、反りのない複合材を得る上で好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の繊維織物は、賦形性、強度に優れ、且つ繊維織物の重ね合わせによって厚みを増した重ね合わせシートの生産効率を向上できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
図1(a),(b),(c)に示すように、繊維織物11は、複数の第1繊維束121からなる第1繊維層12と、複数の第2繊維束131からなる第2繊維層13と、複数の抜け止め糸141からなる抜け止め糸群14と、複数の拘束糸151からなる拘束糸群15とから構成されている。第1繊維層12と第2繊維層13とは、隣接して積層されている。拘束糸151は、繊維織物11の厚み方向に第1繊維層12と第2繊維層13とを貫通しており、抜け止め糸141と拘束糸151とは交差している。抜け止め糸141及び拘束糸151の配列ピッチは、第1繊維束121及び第2繊維束131の配列ピッチよりも大きくしてある。
【0022】
図2(a),(c)に示すように、全ての第1繊維束121は、一方向に引き揃えられている。つまり、全ての第1繊維束121の長さ方向は、同じ方向に揃えられている。以下、第1繊維束121の長さ方向を基準の方向として0°方向と表記する。全ての抜け止め糸141は、第1繊維束121の長さ方向とは別の一方向に引き揃えられている。つまり、第1,2繊維層12,13の層方向への抜け止め糸141の方向成分を抜け止め糸141の長さ方向ということにすると、抜け止め糸141の長さ方向は、第1繊維束121の長さ方向に対して45°の角度で交差している。以下、抜け止め糸141の長さ方向を45°方向と表記する。なお、図2(a)は、第1繊維束121と抜け止め糸141とび拘束糸151とのみで繊維織物11を表しており、図2(c)は、第1繊維束121と第2繊維束131とのみで繊維織物11を表した簡略図である。
【0023】
図2(b),(c)に示すように、全ての第2繊維束131は、第1繊維束121の長さ方向及び抜け止め糸141の長さ方向とは別の一方向に引き揃えられている。つまり、全ての第2繊維束131の長さ方向は、同じ方向に揃えられている。第2繊維束131の長さ方向は、第1繊維束121の長さ方向に対して45°の角度で交差している。つまり、第2繊維束131の長さ方向と抜け止め糸141の長さ方向とは、揃えられている。以下、第2繊維束131の長さ方向を45°方向と表記する。第1,2繊維層12,13の層方向への拘束糸151の方向成分を拘束糸151の長さ方向ということにすると、全ての拘束糸151の長さ方向は、第1繊維束121の長さ方向に揃えられている。なお、図2(b)は、第2繊維束131と拘束糸151とのみで繊維織物11を表している。
【0024】
第1繊維束121、第2繊維束131、抜け止め糸141及び拘束糸151は、連続繊維からなる。本実施形態では、第1繊維束121及び第2繊維束131の連続繊維の本数は、12000本程度、抜け止め糸141及び拘束糸151の連続繊維の本数は、2000本程度である。
【0025】
図1(b)に示すように、繊維織物11の厚み方向に第1繊維層12及び第2繊維層13を貫通する拘束糸151は、第1繊維層12の一方の層面122〔図1(b)では上面〕側で抜け止め糸141を跨ぐように折り返されている。又、拘束糸151は、第2繊維層13の一方の層面132〔図1(b)では下面〕では拘束糸151の配列ピッチだけ離れた挿入位置で再び第1繊維層12及び第2繊維層13に挿入されている。第2繊維層13の一方の層面132側にある拘束糸151の部分(以下、層部152と記す)は、第1繊維束121の長さ方向を向いている。つまり、拘束糸群15の層部152における拘束糸151は、第1繊維束121の長さ方向(0°方向)に揃えられている。以下、拘束糸群15の長さ方向を0°方向と表記する。
【0026】
抜け止め糸群14と拘束糸群15とは、織り組織を成して第1繊維層12と第2繊維層13とを抜け止め糸群14と拘束糸群15の層部152との間に保持している。繊維織物11の主体となる第1繊維層12の第1繊維束121の長さ方向は、0°方向であり、繊維織物11の主体となる第2繊維層13の第2繊維束131の長さ方向は、45°方向である。以下、繊維織物11の第1,2繊維束121,131の長さ方向を(0°,45°)と表記する。
【0027】
繊維織物11は、例えば以下のようにして製作される。
図3(a)に示すように、矩形状の枠体16に所定ピッチで着脱可能に立設された多数のピン17に第1繊維束121を折り返し係合させて第1繊維層12を形成する。次に、図3(b)に示すように、ピン17に第2繊維束131を折り返し係合させて第1繊維層12の上に第2繊維層13を形成する。
【0028】
次に、例えば特開平8−218249号公報に開示されている方法により、拘束糸151が第2繊維層13及び第1繊維層12に挿入される。つまり、挿入針の先端にある孔に拘束糸151を係止した状態で、第2繊維層13及び第1繊維層12の厚さ方向に挿入針が挿入され、挿入針の孔が第2繊維層13及び第1繊維層12を貫通する位置まで挿入針が前進される。その後、挿入針が僅かに後退され、拘束糸151がU字状のループを形成した状態となる。次いで、抜け止め糸針が拘束糸151のU字状のループ内を通過され、第2繊維層13及び第1繊維層12の端部まで到達した時点で停止される。このとき、抜け止め糸141が抜け止め糸針の先端に係止される。そして、抜け止め糸針が引き戻され、抜け止め糸141が拘束糸151のU字状のループ内に挿通された状態となる。この状態で挿入針が引き戻される。これにより、抜け止め糸141が拘束糸151により締め付けられて繊維織物11が製作される。
【0029】
図4(a),(b)に示す繊維織物11Mは、複数の第1繊維束121からなる第1繊維層12Mと、複数の第2繊維束131からなる第2繊維層13Mと、複数の抜け止め糸141からなる抜け止め糸群14Mと、複数の拘束糸151からなる拘束糸群15Mとから構成されている。図4(b)は、第1繊維束121と第2繊維束131とのみによって繊維織物11Mを示した簡略図である。繊維織物11Mの第2繊維束131の長さ方向は、繊維織物11Mの第1繊維束121の長さ方向(0°方向)に対して45°の角度で交差しているが、繊維織物11Mの第2繊維束131の長さ方向は、繊維織物11における第1繊維層12のみを90°回転させたときの第1繊維層12の長さ方向に一致する。以下、繊維織物11Mの第2繊維束131の長さ方向を−45°方向と表記する。繊維織物11Mは、繊維織物11に対して鏡映対称の関係にある。
【0030】
繊維織物11Mの主体となる第1繊維層12Mの第1繊維束121の長さ方向は、0°方向であり、繊維織物11Mの主体となる第2繊維層13Mの第2繊維束131の長さ方向は、―45°方向である。以下、繊維織物11Mの第1,2繊維束121,131の長さ方向を(0°,−45°)と表記する。
【0031】
なお、第1繊維束121及び第2繊維束131には、例えば炭素繊維、ガラス繊維が用いられる。抜け止め糸141及び拘束糸151には、例えばポリエステル、ガラス繊維が用いられる。
【0032】
図5(a)は、繊維織物11と繊維織物11Mとを重ね合わせて構成された繊維強化樹脂製のバンパリィンフォース18を示す。図5(b)は、繊維織物11と繊維織物11Mとを重ね合わせた重ね合わせシート19を示す。重ね合わせシート19における繊維織物11Mは、図4(a),(b)に示す状態から裏返して(左右反転して)繊維織物11に重ね合わせられる。バンパリィンフォース18を構成する繊維織物11と繊維織物11Mとは、鏡映対称な重ね合わせ状態にある。樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル等の熱硬化性樹脂が用いられている。
【0033】
複合材としてのバンパリィンフォース18においては、繊維織物11,11Mは、第1繊維束121がバンパリィンフォース18の長手方向に延びるように、用いられる。
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
【0034】
(1)第1繊維層12,12Mと第2繊維層13,13Mとにはクリンプがないため、繊維織物11,11Mは、繊維強化樹脂製の複合材(本実施形態ではバンパリィンフォース18)の強度を高める上で有利であり、かつ賦形性に優れる。又、繊維織物11,11Mは、第1繊維層12,12Mと第2繊維層13,13Mとの2層を積層した2層構造の繊維織物であるため、繊維織物11,11Mの重ね合わせによって厚みを増した重ね合わせシート19の生産効率は、単層構造の繊維織物の場合よりも向上する。
【0035】
(2)第1繊維層12の層面122に接する抜け止め糸141は、第2繊維層13の第2繊維束131の長さ方向に揃えられている。第1繊維層12の第1繊維束121と第2繊維層13の第2繊維束131とは、斜交しているため、抜け止め糸141は、抜け止め糸141に層面122で接する第1繊維層12の第1繊維束121と必ず交差する。同様に、第1繊維層12Mの層面122に接する抜け止め糸141は、第2繊維層13Mの第2繊維束131の長さ方向に揃えられており、抜け止め糸群14Mの抜け止め糸141は、この抜け止め糸141に層面122で接する第1繊維層12Mの第1繊維束121と必ず交差する。
【0036】
一方、第2繊維層13の層面132に接する拘束糸群15の層部152における拘束糸151は、第1繊維層12の第1繊維束121の長さ方向に揃えられている。第1繊維層12の第1繊維束121と第2繊維層13の第2繊維束131とは、斜交しているため、層部152における拘束糸151は、層部152に層面132で接する第2繊維層13の第2繊維束131と必ず交差する。同様に、拘束糸群15Mの拘束糸151は、この拘束糸151に層面132で接する第2繊維層13Mの第2繊維束131と必ず交差する。
【0037】
従って、抜け止め糸群14と拘束糸群15の層部152との間に挟み込まれた第1繊維層12及び第2繊維層13は、抜け止め糸141と拘束糸151との協働による拘束作用によって、繊維束の配列を乱さないように良好に保持される。
【0038】
抜け止め糸141の長さ方向を第2繊維束131の長さ方向に揃えると共に、拘束糸151の長さ方向を第1繊維束121の長さ方向に揃えた構成では、繊維織物中の繊維方向が2つのみとなる。従って、第1繊維層12に接する抜け止め糸141の長さ方向を第2繊維束131の長さ方向に揃えると共に、第2繊維層13に層部152を介して接する拘束糸151の長さ方向を第1繊維束121の長さ方向に揃えた構成は、優れた賦形性をもたらす上で最適である。
【0039】
(3)バンパリィンフォース18の強度は、その壁厚を大きくすることによって高めることができる。壁厚を大きくするには、複数の繊維織物11を重ね合わせたり、複数の繊維織物11Mを重ね合わせたり、あるいは繊維織物11と繊維織物11Mとを重ね合わせたりすればよい。特に、鏡映対称な関係にある繊維織物11〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)の繊維織物〕と繊維織物11M〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,−45°)の繊維織物〕とを鏡映対称に重ね合わせた重ね合わせシート19は、反りのない複合材(バンパリィンフォース18)を得る上で好ましい。繊維織物11Mを裏返した繊維織物の第1,2繊維束121,131の長さ方向は、(45°,0°)となり、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(45°,0°)の繊維織物と、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)の繊維織物11とを重ね合わせた重ね合わせシート19の第1,2繊維束121,131の長さ方向は、(0°,45°,45°,0°)となる。
【0040】
(4)0°方向と45°方向との組み合わせ、つまり第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)の繊維織物11は、繊維織物11の裏返し〔図2(a)において左右反転〕によって−45°方向と0°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(−45,0°)の繊維織物〕をもたらす。又、0°方向と45°方向との組み合わせは、繊維織物11の90°回転によって90°方向と−45°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,−45°)の繊維織物〕をもたらす。第1,2繊維束121,131の長さ方向が(−45°,0°)の繊維織物を90°回転、又は第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,−45°)の繊維織物を裏返せば、45°方向と90°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(45°,90°)の繊維織物〕がもたらされる。
【0041】
同様に、0°方向と−45°方向との組み合わせ、つまり第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,−45°)の繊維織物11Mは、繊維織物11Mの裏返しによって45°方向と0°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(45°,0°)の繊維織物〕をもたらす。又、0°方向と−45°方向との組み合わせは、繊維織物11Mの90°回転によって90°方向と45°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,45°)の繊維織物〕をもたらす。第1,2繊維束121,131の長さ方向が(45°,0°)の繊維織物を90°回転、又は第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,45°)の繊維織物を裏返せば、−45°方向と90°方向とを組み合わせた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(−45°,90°)の繊維織物〕がもたらされる。
【0042】
例えば、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°,90°,−45°,−45°,90°,45°,0°)の重ね合わせシートを作るには、以下のようにすればよい。繊維織物11〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)〕と、繊維織物11を90°回転させた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,−45°)〕とを重ね合わせて重ね合わせシート(S1と記す)を作る。又、繊維織物11M〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,−45°)〕と、繊維織物11Mを90°回転させた繊維織物〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(90°,45°)〕とを重ね合わせて重ね合わせシート(S2と記す)を作る。重ね合わせシートS2は、重ね合わせシートS1に対して鏡映対称な関係にある。そして、重ね合わせシートS1〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°,90°,−45°)〕と、重ね合わせシートS2を裏返した重ね合わせシート〔第1,2繊維束121,131の長さ方向が(−45°,90°,45°,0°)〕とを重ね合わせれば、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°,90°,−45°,−45°,90°,45°,0°)の重ね合わせシートが得られる。
【0043】
鏡映対称な関係にある重ね合わせシートS1,S2を鏡映対称に重ね合わせた重ね合わせシートは、反りの出ない複合材を作る上で好適である。第1繊維束121と第2繊維束131とを45°で斜交させた繊維織物11,11Mは、鏡映対称な関係にある重ね合わせシートS1,S2の製作を可能にする。つまり、第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,45°)の繊維織物11、及び第1,2繊維束121,131の長さ方向が(0°,−45°)の繊維織物11Mは、厚みのある複合材を構成する重ね合わせシートの素材として好適である。
【0044】
本発明では以下のような実施形態も可能である。
・図6(a),(b),(c)に示すように、抜け止め糸141が第1繊維束121に対して90°の角度で交差するようにしてもよい。繊維織物11Aを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び拘束糸151の長さ方向は、第1の実施形態の場合と同じである。図6(d)は、繊維織物11Aに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11AMである。
【0045】
・図7(a),(b),(c)に示すように、第1繊維束121の長さ方向が45°方向、第2繊維束131の長さ方向が90°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Bを構成する抜け止め糸141及び拘束糸151の長さ方向は、第1の実施形態の場合と同じである。図7(d)は、繊維織物11Bに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11BMである。
【0046】
・図8(a),(b),(c)に示すように、第1繊維束121の長さ方向が90°方向、第2繊維束131の長さ方向が45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Cを構成する抜け止め糸141及び拘束糸151の長さ方向は、第2の実施形態の場合と同じである。図8(d)は、繊維織物11Cに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11CMである。
【0047】
・図9(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が−45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Dを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第1の実施形態の場合と同じである。図9(b)は、繊維織物11Dに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11DMである。
【0048】
・図10(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が−45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Eを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第2の実施形態の場合と同じである。図10(b)は、繊維織物11Eに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11EMである。
【0049】
・図11(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が−45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Fを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第3の実施形態の場合と同じである。図11(b)は、繊維織物11Dに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11FMである。
【0050】
・図12(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が−45°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Gを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第4の実施形態の場合と同じである。図12(b)は、繊維織物11Gに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11GMである。
【0051】
・図13(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が90°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Hを構成する第1繊維束121、第2繊維束131及び抜け止め糸141の長さ方向は、第1の実施形態の場合と同じである。図13(b)は、繊維織物11Hに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11HMである。
【0052】
・図14(a)に示すように、拘束糸151の長さ方向が90°方向となるようにしてもよい。繊維織物11Jを構成する第1繊維束121の長さ方向は45°方向であり、第2繊維束131の長さ方向は0°方向であり、抜け止め糸141の長さ方向は0°方向である。図14(b)は、繊維織物11Jに対して鏡映対称な関係にある繊維織物11HMである。
【0053】
・図15に示すように、繊維織物11Kを構成する第1繊維束121と第2繊維束131との一方の長さ方向を22.5°方向とし、他方を−22.5°方向としてもよい。
例えば、梁の長手方向に対して第1繊維束121と第2繊維束131とを22.5°の角度で斜交させるように梁を形成する場合を考える。第1の実施形態における矩形状に製作された繊維織物11を用いる場合、第1繊維束121の0°方向に対して22.5°の方向に切断し、かつ−67.5°の方向に切断して必要な大きさに切り出すことになる。しかし、このように切断して繊維織物11から必要な大きさに切り出す場合には、利用できない無駄部分が多くできてしまう。
【0054】
図15のように矩形状に製作された繊維織物11Kから必要な大きさに切り出す場合には、0°方向と90°方向とに切断すればよく、無駄部分が少ない。
・図16に示すように、繊維織物11Lを構成する第1繊維束121と第2繊維束131との一方の長さ方向を67.5°方向とし、他方を−67.5°方向としてもよい。
【0055】
例えば、梁の長手方向に対して第1繊維束121と第2繊維束131とを67.5°の角度で斜交させるように梁を形成する場合を考える。第1の実施形態における矩形状に製作された繊維織物11を用いる場合、第1繊維束121の0°方向に対して67.5°の方向に切断し、かつ−22.5°の方向に切断して必要な大きさに切り出すことになる。しかし、このように切断して繊維織物11から必要な大きさに切り出す場合には、利用できない無駄部分が多くできてしまう。
【0056】
図16のように矩形状に製作された繊維織物11Kから必要な大きさに切り出す場合には、0°方向と90°方向とに切断すればよく、無駄部分が少ない。
・第1繊維束121と第2繊維束131との繊維種類を異ならせてもよい。例えば、第1繊維束121を炭素繊維とし、第2繊維束131をガラス繊維としたり、第1繊維束121をアラミド繊維とし、第2繊維束131を炭素繊維とする等の組み合わせを行なってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1実施形態を示し、(a)は一部破断簡略斜視図。(b),(c)は、断面図。
【図2】(a)は、繊維織物の一方の面を示す図。(b)は、繊維織物の他方の面を示す図。(c)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図3】(a),(b)は、繊維織物の製作を説明する平面図。
【図4】(a)は一部破断簡略斜視図。(b)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図5】(a)はバンパリィンフォースの断面図。(b)は一部破断簡略斜視図。
【図6】第2の実施形態を示し、(a)は、繊維織物の一方の面を示す図。(b)は、繊維織物の他方の面を示す図。(c)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。(d)は、(c)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図7】第3の実施形態を示し、(a)は、繊維織物の一方の面を示す図。(b)は、繊維織物の他方の面を示す図。(c)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。(d)は、(c)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図8】第4の実施形態を示し、(a)は、繊維織物の一方の面を示す図。(b)は、繊維織物の他方の面を示す図。(c)は、繊維織物の一方の面を示す簡略図。(d)は、(c)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の一方の面を示す簡略図。
【図9】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図10】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図11】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図12】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図13】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図14】別の実施形態を示し、(a)は簡略斜視図。(b)は、(a)の繊維織物に対して鏡映対称な関係にある繊維織物の簡略斜視図。
【図15】別の実施形態を示す簡略図。
【図16】別の実施形態を示す簡略図。
【符号の説明】
【0058】
11,11A,11B,11C,11D,11E,11F,11G,11H,11J,11M,11AM,11BM,11CM,11DM,11EM,11FM,11GM,11HM,11JM,11K,11L…繊維織物。12,12M…第1繊維層。121…第1繊維束。122…層面。13,13M…第2繊維束。131…第2繊維束。132…層面。14,14M…抜け止め糸群。141…抜け止め糸。15,15M…拘束糸群。151…拘束糸。18…複合材としてのバンパリィンフォース。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向を揃えられた複数の第1繊維束からなる第1繊維層と、
前記第1繊維束の方向に対して斜交する方向に長さ方向を揃えられた複数の第2繊維束からなる第2繊維層と、
長さ方向を揃えられた複数の抜け止め糸からなる抜け止め糸群と、
前記抜け止め糸と交差する方向に長さ方向を揃えられた複数の拘束糸からなる拘束糸群とを備え、
前記第1繊維層と前記第2繊維層とは、隣接して積層されており、前記抜け止め糸群と前記拘束糸群とは、織り組織を成して前記第1繊維層と前記第2繊維層とを保持している繊維織物。
【請求項2】
前記抜け止め糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている請求項1に記載の繊維織物。
【請求項3】
前記拘束糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている請求項1に記載の繊維織物。
【請求項4】
前記抜け止め糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられており、前記拘束糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている請求項1に記載の繊維織物。
【請求項5】
前記第1繊維束の長さ方向と前記第2繊維束の長さ方向とは、45°の角度で斜交している請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の繊維織物。
【請求項6】
繊維織物によって樹脂を強化した複合材において、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の繊維織物を用いた複合材。
【請求項7】
前記繊維織物と、該繊維織物に対して鏡映対称な繊維織物とが鏡映対称に配置して用いられている請求項6に記載の複合材。
【請求項1】
長さ方向を揃えられた複数の第1繊維束からなる第1繊維層と、
前記第1繊維束の方向に対して斜交する方向に長さ方向を揃えられた複数の第2繊維束からなる第2繊維層と、
長さ方向を揃えられた複数の抜け止め糸からなる抜け止め糸群と、
前記抜け止め糸と交差する方向に長さ方向を揃えられた複数の拘束糸からなる拘束糸群とを備え、
前記第1繊維層と前記第2繊維層とは、隣接して積層されており、前記抜け止め糸群と前記拘束糸群とは、織り組織を成して前記第1繊維層と前記第2繊維層とを保持している繊維織物。
【請求項2】
前記抜け止め糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている請求項1に記載の繊維織物。
【請求項3】
前記拘束糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている請求項1に記載の繊維織物。
【請求項4】
前記抜け止め糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられており、前記拘束糸の長さ方向は、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの一方の層面に接する側で、前記第1繊維層と前記第2繊維層とのうちの他方の繊維束の長さ方向に揃えられている請求項1に記載の繊維織物。
【請求項5】
前記第1繊維束の長さ方向と前記第2繊維束の長さ方向とは、45°の角度で斜交している請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の繊維織物。
【請求項6】
繊維織物によって樹脂を強化した複合材において、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の繊維織物を用いた複合材。
【請求項7】
前記繊維織物と、該繊維織物に対して鏡映対称な繊維織物とが鏡映対称に配置して用いられている請求項6に記載の複合材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−341565(P2006−341565A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171407(P2005−171407)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】
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