説明

繊維複合基材及びその製造方法

【課題】繊維複合基材の表面平滑性を良好にし、強度を高めるとともに、熱圧形成時にプレス機への樹脂の付着が起こりにくく、水蒸気による繊維複合基材の爆裂を防ぐことができる繊維複合基材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】植物繊維からなる繊維マット1に樹脂2を含浸し、繊維マット1の含水率が5質量%以上、20質量%未満になるまで乾燥し、乾燥した繊維マット1を基材3の表面に積層して積層体4とし、樹脂2の硬化温度以下で予備圧締した後に、樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化してなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、繊維マットを基材と複合成形した繊維複合基材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物繊維からなる繊維マットに接着剤を分散させ、熱圧成形して繊維板を得、繊維板と合板を接着剤にて接着して繊維複合基材を製造していた。この繊維複合基材は、図6に示すように、基材3と繊維板11を接着剤12にて接着している。
【0003】
また、特開2003−39411号公報に示されるように、樹脂が含浸された繊維マットと基材を加熱加圧して一体化した繊維複合基材が知られている。この繊維複合基材は、図7に示すように、繊維マット1を基材3の両側の表面にそれぞれ配して一体化している。
【特許文献1】特開2003−39411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例の前者においては、図6に示すように、繊維板11は適度な強度と厚みがあるため、基材3の表面に凹部8がある場合には、繊維板11と基材3の間に隙間が生じてしまう。そのため、繊維複合基材の表面強度が弱いという問題があった。
【0005】
また、上記従来例の後者においては、繊維マット1の含水率が20〜100質量%であり高いので、熱圧形成時にプレス機に樹脂の付着が起こりやすいものであった。加えて、熱圧形成時に水蒸気による繊維複合基材の爆裂が生じやすく、繊維複合基材が良好に成形できないという欠点があった。
【0006】
本願発明は、上記背景技術に鑑みてなしたものであり、その目的は、繊維複合基材の表面平滑性を良好にし、強度を高めるとともに、熱圧形成時にプレス機への樹脂の付着が起こりにくく、水蒸気による繊維複合基材の爆裂を防ぐことができる繊維複合基材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明は、繊維複合基材において、植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸し、繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満になるまで乾燥し、乾燥した繊維マットを基材の表面に積層して積層体とし、樹脂の硬化温度以下で予備圧締した後に、樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化してなるようにしている。
【0008】
本願請求項2記載の発明は、繊維複合基材において、植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸し、繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満になるまで乾燥し、乾燥した第一の繊維マットを基材の表面に積層して第一の積層体とし、樹脂の硬化温度以上で加圧した後、さらに乾燥した第二の繊維マットを一体化した第一の積層体の表面に積層し、樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化してなるようにしている。
【0009】
本願請求項3記載の発明は、上記請求項1又は2記載の繊維複合基材において、繊維マットは、ケナフ繊維、ジュート繊維、ラミー麻繊維のうち少なくとも一つから得られる繊維を絡ませたものであり、繊維長が10mm以上、100mm以下、繊維束径が20μm以上、100μm以下であることを特徴としている。
【0010】
本願請求項4記載の発明は、上記請求項1乃至3のいずれか一項記載の繊維複合基材において、樹脂含浸前の繊維マットの面重量が500g/m2以上、1500g/m2以下であることを特徴としている。
【0011】
本願請求項5記載の発明は、上記請求項1乃至4のいずれか一項記載の繊維複合基材において、基材が、合板、木質単板、繊維板、パーティクルボード、MDF、OSBのうち少なくとも一つから選ばれる木質材であることを特徴としている。
【0012】
本願請求項6記載の発明は、繊維複合基材の製造方法において、植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂が含浸された繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満の範囲になるまで乾燥する乾燥工程と、乾燥された繊維マットを基材の表面に重ねて積層体を形成する第一の積層工程と、積層体に積層方向の圧力を加え、樹脂の硬化温度以下で予備圧締する予備圧締工程と、積層体を樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化する第一の熱圧形成工程からなることを特徴としている。
【0013】
本願請求項7記載の発明は、繊維複合基材の製造方法において、植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂が含浸された繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満の範囲になるまで乾燥する乾燥工程と、乾燥された第一の繊維マットを基材の表面に重ねて第一の積層体を形成する第一の積層工程と、第一の積層体を樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化する第一の熱圧形成工程と、第一の熱圧形成工程により一体化された第一の積層体の表面に乾燥された第二の繊維マットを重ねて第二の積層体を形成する第二の積層工程と、第二の積層体を樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化する第二の熱圧形成工程からなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1記載の発明の繊維複合基材においては、乾燥した繊維マットを基材の表面に積層して積層体とし、樹脂の硬化温度以下で予備圧締した後に、樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化してなることにより、予備圧締では繊維マットが基材表面の凹部に入り込み、空気層を排して凹部を埋めることができ、次いで、樹脂の硬化温度以上で加圧して、表面平滑性を高めることができる。よって、強度が高く、表面平滑性の優れた繊維複合基材を簡便に得ることができる。また、繊維マットの含水率を5質量%以上、20質量%未満とすることにより、繊維マットの含水率が低いので、熱圧形成時にプレス機への樹脂の付着が起こりにくくなるうえ、水蒸気による繊維複合基材の爆裂も防ぐことができる。
【0015】
本願請求項2記載の発明の繊維複合基材においては、乾燥した第一の繊維マットを基材の表面に積層して第一の積層体とし、樹脂の硬化温度以上で加圧した後、さらに乾燥した第二の繊維マットを一体化した第一の積層体の表面に積層し、樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化してなることにより、まず、繊維マットが基材表面の凹部に入り込み、空気層を排して凹部を埋めることができ、次いで、新たな乾燥した繊維マットを積層して、表面平滑性を高めることができる。よって、強度が高く、表面平滑性の優れた繊維複合基材を簡便に得ることができる。また、繊維マットの含水率を5質量%以上、20質量%未満とすることにより、繊維マットの含水率が低いので、熱圧形成時にプレス機への樹脂の付着が起こりにくくなるうえ、水蒸気による繊維複合基材の爆裂も防ぐことができる。
【0016】
本願請求項3記載の発明の繊維複合基材においては、特に、繊維マットは、ケナフ繊維、ジュート繊維、ラミー麻繊維のうち少なくとも一つから得られる繊維を絡ませたものであり、繊維長を10mm以上、100mm以下とすることにより、強度に優れた繊維複合基材を得ることができる。また、繊維束径を20μm以上、100μm以下とすることにより、表面の意匠性が良好な繊維複合基材を得ることができる。
【0017】
本願請求項4記載の発明の繊維複合基材においては、特に、樹脂含浸前の繊維マットの面重量を500g/m2以上、1500g/m2以下とすることにより、強度を保持しながら、繊維マットと基材とを接着するのに必要な量の樹脂を繊維マットに含浸させることができる。
【0018】
本願請求項5記載の発明の繊維複合基材においては、特に、基材が、合板、木質単板、繊維板、パーティクルボード、MDF、OSBのうち少なくとも一つから選ばれる木質材であることにより、例えば、節穴や目隙などがあり表面平滑性が低く、意匠性の良くない木質材として有効に活用することができる。
【0019】
本願請求項6記載の発明の繊維複合基材の製造方法においては、植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂が含浸された繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満の範囲になるまで乾燥する乾燥工程と、乾燥された繊維マットを基材の表面に重ねて積層体を形成する第一の積層工程と、積層体に積層方向の圧力を加え、樹脂の硬化温度以下で予備圧締する予備圧締工程と、積層体を樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化する第一の熱圧形成工程からなるので、予備圧締工程では繊維マットが基材表面の凹部に入り込み、空気層を排して凹部を埋めることができ、第一の熱圧形成工程では樹脂の硬化温度以上で加圧することにより表面平滑性を高めることができる。また、繊維マットの含水率を5質量%以上、20質量%未満とすることにより、繊維マットの含水率が低いので、熱圧形成時にプレス機への樹脂の付着が起こりにくくなるうえ、水蒸気による繊維複合基材の爆裂も防ぐことができる。
【0020】
本願請求項7記載の発明の繊維複合基材の製造方法においては、植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂が含浸された繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満の範囲になるまで乾燥する乾燥工程と、乾燥された第一の繊維マットを基材の表面に重ねて第一の積層体を形成する第一の積層工程と、第一の積層体を樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化する第一の熱圧形成工程と、第一の熱圧形成工程により一体化された第一の積層体の表面に乾燥された第二の繊維マットを重ねて第二の積層体を形成する第二の積層工程と、第二の積層体を樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化する第二の熱圧形成工程からなるので、第一の熱圧形成工程では繊維マットが基材表面の凹部に入り込み、空気層を排して凹部を埋めることができ、第二の熱圧形成工程では樹脂の硬化温度以上で加圧することにより表面平滑性を高めることができる。また、繊維マットの含水率を5質量%以上、20質量%未満とすることにより、繊維マットの含水率が低いので、熱圧形成時にプレス機への樹脂の付着が起こりにくくなるうえ、水蒸気による繊維複合基材の爆裂も防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1乃至図3は、本願発明の第1の実施形態である繊維複合基材を示している。この繊維複合基材は、植物繊維からなる繊維マット1に樹脂2を含浸し、繊維マット1の含水率が5質量%以上、20質量%未満になるまで乾燥し、乾燥した繊維マット1を基材3の表面に積層して積層体4とし、樹脂2の硬化温度以下で予備圧締した後に、樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化してなるようにしている。ここで、繊維マット1は、ケナフ繊維、ジュート繊維、ラミー麻繊維のうち少なくとも一つから得られる繊維を絡ませたものであり、繊維長が10mm以上、100mm以下、繊維束径が20μm以上、100μm以下であり、樹脂含浸前の繊維マット1の面重量が500g/m2以上、1500g/m2以下である。また、基材3は、合板、木質単板、繊維板、パーティクルボード、MDF、OSBのうち少なくとも一つから選ばれる木質材である。
【0022】
以下、この実施形態の繊維複合基材を、より具体的詳細に説明する。繊維マット1は、ケナフ繊維、ジュート繊維、ラミー麻繊維等の植物繊維のうち少なくとも一つから得られる繊維を絡ませたものである。これらの植物繊維はその成長性から非木材資源として、有効である。繊維長は、10mm以上、100mm以下である。ここで、繊維マット1は、これらの繊維をフォーミングし、ニードルでパンチングすることにより作製される。繊維長が10mm未満であると、繊維マット1の強度が弱くなり、繊維長が100mmを超えると、繊維マット1の作製がしにくくなる。繊維束径は20μm以上、100μm以下である。ここで、繊維束径が20μm未満であると、繊維マット1の強度が弱くなり、繊維束径が100μmを超えると、繊維マット1の表面意匠性が悪くなる。樹脂含浸前の繊維マット1の面重量は、面重量が500g/m2以上、1500g/m2以下である。ここで、面重量が500g/m2未満であると、繊維マット1の強度が弱くなり、面重量が1500g/m2を超えると、繊維マット1と基材3とを接着するのに必要な量の樹脂2が含浸しにくくなる。
【0023】
樹脂2は、水性であり、熱により硬化、架橋が可能な樹脂である。例えば、フェノール系樹脂、レゾルシノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいは、熱により架橋可能な成分を含むアクリル酸樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。ここで、固形分として、樹脂2は、繊維マット1の重量に対し、10〜50質量%含浸することが好ましい。樹脂2を繊維マット1に含浸することにより、繊維複合基材の曲げ強度、硬度、寸法安定性が向上する。
【0024】
基材3は、合板、木質単板、繊維板、パーティクルボード、MDF、OSBのうち少なくとも一つから選ばれる木質材である。本願発明の繊維複合基材では、繊維マット1を用いることにより、繊維複合基材の表面平滑性を向上させることができるため、基材3は表面平滑性が低くても使用することができる。例えば、表面に節穴や目隙があってもよい。
【0025】
次に、本実施形態の繊維マット1、樹脂2、基材3を用いて、繊維複合基材を製造する方法を説明する。この繊維複合基材の製造方法は、図2及び図3に示すように、植物繊維からなる繊維マット1に樹脂2を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂2が含浸された繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満の範囲になるまで乾燥する乾燥工程と、乾燥された繊維マット1を基材3の表面に重ねて積層体4を形成する第一の積層工程と、積層体4に積層方向の圧力を加え、樹脂2の硬化温度以下で予備圧締する予備圧締工程と、積層体4を樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化する第一の熱圧形成工程からなっている。
【0026】
樹脂含浸工程は、繊維マット1に樹脂2を含浸させる工程であり、図2に示すように、フローコーター5で繊維マット1に樹脂2を均一に塗布させる。次に、少なくとも一台の絞りロール6で絞ることにより、繊維マット1に樹脂2を含浸させる。
【0027】
乾燥工程は、樹脂2が含浸された繊維マット1を含水率が5質量%以上、20質量%未満の範囲になるまで乾燥させる工程であり、図2に示すように、乾燥炉7を用いる。乾燥方法は特に限定されるものではない。ここで、繊維マット1の含水率が20質量%を超えると、熱圧形成時にプレス機への樹脂の付着が起こりやすくなったり、水蒸気による繊維複合基材の爆裂が生じやすくなったりするため、好ましくない。その後、乾燥された繊維マット1は切断機(図示せず)により、必要な大きさに切断される。
【0028】
第一の積層工程は、乾燥された繊維マット1を基材3の表面に重ねて積層体4を形成する工程であり、図3(a)に示すように、基材3の表面にある凹部8を覆うように、繊維マット1を基材3の表面に重ねる。繊維マット1は適度な強度と厚みがあるため、繊維マット1と基材3の間には凹部8に伴う隙間が生じる。なお、繊維マット1を基材3に積層する面は必要に応じて、表層一面、あるいは、表裏層二面にしてもよい。
【0029】
予備圧締工程は、積層体4に積層方向の圧力を加え、樹脂2の硬化温度以下で予備圧締する工程であり、図3(b)に示すように、ロールプレス9にて行なう。これにより、繊維マット1と基材3の間に生じていた凹部8を埋め、繊維マット1と基材3の密着性を高めることができる。なお、予備圧締時に加熱しなくてもよいが、樹脂の硬化温度以下で加熱しながら加圧すると、繊維マット1が基材3により密着しやすくなる。
【0030】
第一の熱圧形成工程は、積層体4を樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化する工程であり、図3(c)に示すように、平板プレス10により、積層体4を両側から挟みこんでプレスする。プレス温度は、樹脂2が硬化可能な温度であり、140℃以上、250℃以下であることが好ましい。プレス圧力、プレス時間は、用いる樹脂2の種類や繊維マット1の厚さなどにより適宜、設定されるが、プレス圧力は、1MPa以上、10MPa以下、プレス時間は、1分程度から10分程度が好ましい。この際、熱圧形成後の繊維板11の厚さは、繊維複合基材の剛性や寸法変化率から適宜、設定されるが、0.2mm以上、3.0mm以下であることが好ましい。
【0031】
さらに、表面仕上げ工程を必要に応じて行ってもよい。表面仕上げ工程は、熱圧形成後の積層体4の上に表面仕上げ材を接着する工程であり、積層体4の上に接着剤を塗布し、表面仕上げ材を載せてプレス機などで圧締する。表面仕上げ材は、オーク、バーチ等の銘木類の丸太や集成材を薄くスライスした化粧単板を用いたり、PET、PP、紙等の化粧シートを用いたりしてもよい。
【0032】
したがって、乾燥した繊維マット1を基材3の表面に積層して積層体4とし、樹脂2の硬化温度以下で予備圧締した後に、樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化してなることにより、予備圧締では繊維マット1が基材表面の凹部8に入り込み、空気層を排して凹部8を埋めることができ、次いで、樹脂2の硬化温度以上で加圧して、表面平滑性を高めることができる。よって、強度が高く、表面平滑性の優れた繊維複合基材を簡便に得ることができる。また、繊維マット1の含水率を5質量%以上、20質量%未満とすることにより、繊維マット1の含水率が低いので、熱圧形成時にプレス機への樹脂2の付着が起こりにくくなるうえ、水蒸気による繊維複合基材の爆裂も防ぐことができる。さらに、繊維マット1は、ケナフ繊維、ジュート繊維、ラミー麻繊維のうち少なくとも一つから得られる繊維を絡ませたものであり、繊維長を10mm以上、100mm以下とすることにより、強度に優れた繊維複合基材を得ることができる。加えて、繊維束径を20μm以上、100μm以下とすることにより、表面の意匠性が良好な繊維複合基材を得ることができる。また、樹脂含浸前の繊維マット1の面重量を500g/m2以上、1500g/m2以下とすることにより、強度を保持しながら、繊維マット1と基材3とを接着するのに必要な量の樹脂2を繊維マット1に含浸させることができる。そして、基材3が、合板、木質単板、繊維板、パーティクルボード、MDF、OSBのうち少なくとも一つから選ばれる木質材であることにより、例えば、節穴や目隙などがあり表面平滑性が低く、意匠性の良くない木質材でも基材3として有効に活用することができる。
【0033】
図4及び図5は、本願発明の第2の実施形態である繊維複合基材を示している。ここでは、上記第1の実施形態と相違する事項についてのみ説明し、その他の事項(構成、作用効果等)については、上記第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。この繊維複合基材は、植物繊維からなる繊維マット1に樹脂2を含浸し、繊維マット1の含水率が5質量%以上、20質量%未満になるまで乾燥し、乾燥した第一の繊維マット1aを基材3の表面に積層して第一の積層体4aとし、樹脂2の硬化温度以上で加圧した後、さらに乾燥した第二の繊維マット1bを一体化した第一の積層体4aの表面に積層し、樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化してなるようにしている。
【0034】
次に、本実施形態の繊維マット1、樹脂2、基材3を用いて、繊維複合基材を製造する方法を説明する。この繊維複合基材の製造方法は、植物繊維からなる繊維マット1に樹脂2を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂2が含浸された繊維マット1の含水率が5質量%以上、20質量%未満の範囲になるまで乾燥する乾燥工程と、乾燥された第一の繊維マット1aを基材3の表面に重ねて第一の積層体4aを形成する第一の積層工程と、第一の積層体4aを樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化する第一の熱圧形成工程と、第一の熱圧形成工程により一体化された第一の積層体4aの表面に乾燥された第二の繊維マット1bを重ねて第二の積層体4bを形成する第二の積層工程と、第二の積層体4bを樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化する第二の熱圧形成工程からなっている。
【0035】
第一の積層工程は、乾燥された第一の繊維マット1aを基材3の表面に重ねて積層体4aを形成する工程であり、図5(a)に示すように、基材3の表面にある凹部8aを覆うように、第一の繊維マット1aを基材3の表面に重ねる。第一の繊維マット1aは適度な強度と厚みがあるため、第一の繊維マット1aと基材3の間には凹部8aに伴う隙間が生じる。なお、繊維マット1を基材3に積層する面は必要に応じて、表層一面、あるいは、表裏層二面にしてもよい。
【0036】
第一の熱圧形成工程は、第一の積層体4aを樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化するする工程であり、図5(b)に示すように、平板プレス10により、積層体4aを両側から挟みこんでプレスする。プレス温度は、樹脂2が硬化可能な温度であり、140℃以上、250℃以下であることが好ましい。プレス圧力、プレス時間は、用いる樹脂2の種類や繊維マット1の厚さなどにより適宜、設定されるが、プレス圧力は、1MPa以上、10MPa以下、プレス時間は、1分程度から10分程度が好ましい。なお、熱圧形成に用いる装置はバッチ式の平板プレス10に限定されるものではなく、連続式のロールプレス等でもよい。
【0037】
第二の積層工程は、第一の熱圧形成工程により一体化された第一の積層体4aの表面に乾燥された第二の繊維マット1bを重ねて第二の積層体4bを形成する工程であり、図5(c)に示すように、第一の積層体4aの表面にある凹部8bを覆うように、第二の繊維マット1bを第一の積層体4aの表面に重ねる。第二の繊維マット1bは適度な強度と厚みがあるため、第二の繊維マット1bと第一の積層体4aの間には凹部8bに伴う隙間が生じる。ここで、第二の繊維マット1bを第一の積層体4aに積層する面は、第一の積層工程と同じ面とし、表層一面、あるいは、表裏層二面とする。
【0038】
第二の熱圧形成工程は、第二の積層体4bを樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化するする工程であり、図5(d)に示すように、平板プレス10により、積層体4bを両側から挟みこんでプレスする。プレス温度は、樹脂2が硬化可能な温度であり、140℃以上、250℃以下であることが好ましい。プレス圧力、プレス時間は、用いる樹脂2の種類や繊維マット1の厚さなどにより適宜、設定されるが、プレス圧力は、1MPa以上、5MPa以下、プレス時間は、1分程度から10分程度が好ましい。この際、熱圧形成後の繊維板11の厚さは、繊維複合基材の剛性や寸法変化率から適宜、設定されるが、合わせて0.2mm以上、3.0mm以下であることが好ましい。
【0039】
したがって、乾燥した第一の繊維マット1aを基材3の表面に積層して第一の積層体4aとし、樹脂2の硬化温度以上で加圧した後、さらに乾燥した第二の繊維マット1bを一体化した第一の積層体4aの表面に積層し、樹脂2の硬化温度以上で加圧して一体化してなることにより、まず、第一の繊維マット1aが基材表面の凹部8aに入り込み、空気層を排して凹部8aを埋めることができ、次いで、第二の繊維マット1bを積層して凹部8bを覆い、表面平滑性を高めることができる。よって、強度が高く、表面平滑性の優れた繊維複合基材を簡便に得ることができる。また、繊維マット1の含水率を5質量%以上、20質量%未満とすることにより、繊維マット1の含水率が低いので、熱圧形成時にプレス機への樹脂2の付着が起こりにくくなるうえ、水蒸気による繊維複合基材の爆裂も防ぐことができる。さらに、繊維マット1は、ケナフ繊維、ジュート繊維、ラミー麻繊維のうち少なくとも一つから得られる繊維を絡ませたものであり、繊維長を10mm以上、100mm以下とすることにより、強度に優れた繊維複合基材を得ることができる。加えて、繊維束径を20μm以上、100μm以下とすることにより、表面の意匠性が良好な繊維複合基材を得ることができる。また、樹脂含浸前の繊維マット1の面重量を500g/m2以上、1500g/m2以下とすることにより、強度を保持しながら、繊維マット1と基材3とを接着するのに必要な量の樹脂2を繊維マット1に含浸させることができる。そして、基材3が、合板、木質単板、繊維板、パーティクルボード、MDF、OSBのうち少なくとも一つから選ばれる木質材であることにより、例えば、節穴や目隙などがあり表面平滑性が低く、意匠性の良くない木質材でも基材3として有効に活用することができる。
【0040】
以下、本願発明を実施例によって具体的に説明する。実施例1は第1の実施形態に、実施例2、3は第2の実施形態にそれぞれ対応する。
【0041】
(実施例1)ケナフ繊維から平均繊維長約80mmのケナフ繊維マット(面重量1000g/m2)を作製し、フェノール樹脂15質量%の水溶液をフローコーターにより塗布する。直後に絞りロールを通し、ケナフ繊維マットに均一に樹脂液を含浸させる。次に、乾燥炉で110℃、1.5分間、乾燥させて含水率を約10%に調整することにより乾燥したケナフ繊維マットを得た。
【0042】
次に、基板として、表面平滑性が低いコア用単板を積層した10.5mm厚みの針葉樹合板を用い、乾燥したケナフ繊維マットを針葉樹合板の表面に重ねて積層体とした。積層体に積層方向の圧力をロールプレス(表面温度常温、線圧200N/mm)にて加えて予備圧締して、ケナフ繊維マットを針葉樹合板に密着させた。その後、平板プレスで温度200℃、1.5MPaの圧力で、3分間プレスして、総厚12mmの床用繊維複合基材を得た。さらに、床用繊維複合基材の上に、酢酸ビニル系接着剤を塗布し、表面仕上げ材である厚さ0.2mmのオークの化粧単板を接着し、床材を作製した。
【0043】
(実施例2)ケナフ繊維から平均繊維長約80mmのケナフ繊維マット(面重量1000g/m2)を作製し、フェノール樹脂15質量%の水溶液をフローコーターにより塗布する。直後に絞りロールを通し、ケナフ繊維マットに均一に樹脂液を含浸させる。次に、乾燥炉で110℃、1.5分間乾燥させて含水率を約10%に調整することにより乾燥したケナフ繊維マットを得た。
【0044】
次に、基板として、表面平滑性が低いコア用単板を積層した9.0mm厚みの針葉樹合板を用い、乾燥したケナフ繊維マットを針葉樹合板の表面に重ねて積層体とした。積層体に積層方向の圧力を平板プレスで、温度180℃、5.0MPaの圧力で、1.5分間プレスして、ケナフ繊維マットを針葉樹合板に密着させた。その後、さらに乾燥したケナフ繊維マットを一体化した積層体の表面に積層し、平板プレスで温度200℃、1.5MPaの圧力で、3分間プレスして、総厚12mmの床用繊維複合基材を得た。さらに、床用繊維複合基材の上に、酢酸ビニル系接着剤を塗布し、表面仕上げ材である厚さ0.2mmのオークの化粧単板を接着し、床材を作製した。
【0045】
(実施例3)ジュート繊維から平均繊維長約50mmのジュート繊維マット(面重量1000g/m2)を作製し、フェノール樹脂15質量%の水溶液をフローコーターにより塗布する。直後に絞りロールを通し、ジュート繊維マットに均一に樹脂液を含浸させる。次に、乾燥炉で110℃、1.5分間乾燥させて含水率を約10%に調整することにより乾燥したジュート繊維マットを得た。
【0046】
次に、基板として、表面平滑性が低いコア用単板を積層した9.0mm厚みの針葉樹合板を用い、乾燥したジュート繊維マットを針葉樹合板の表面に重ねて積層体とした。積層体に積層方向の圧力をロールプレス(表面温度250℃、線圧200N/mm)にて加えて圧締して、ジュート繊維マットを針葉樹合板に密着させた。その後、さらに乾燥したジュート繊維マットを一体化した積層体の表面に積層し、平板プレスで温度190℃、2.0MPaの圧力で、3分間プレスして、総厚12mmの床用繊維複合基材を得た。さらに、床用繊維複合基材の上に、酢酸ビニル系接着剤を塗布し、表面仕上げ材である厚さ0.2mmのオークの化粧単板を接着し、床材を作製した。
【0047】
(比較例1)ケナフ繊維から平均繊維長約80mmのケナフ繊維マット(面重量1000g/m2)を作製し、フェノール樹脂15質量%の水溶液をフローコーターにより塗布する。直後に絞りロールを通し、ケナフ繊維マットに均一に樹脂液を含浸させる。次に、乾燥炉で110℃、1.5分間乾燥させて含水率を約10%に調整することにより乾燥したケナフ繊維マットを得た。
【0048】
次に、乾燥したケナフ繊維マットを平板プレスで温度150℃、1.5MPaの圧力で、3分間プレスして、1.5mm厚のケナフ繊維板を得た。次に、基板として、表面平滑性が低いコア用単板を積層した10.5mm厚みの針葉樹合板を用い、ケナフ繊維板を針葉樹合板の表面に重ねて水性ビニルウレタン接着剤で接着し、総厚12mmの床用繊維複合基材を得た。さらに、床用繊維複合基材の上に、酢酸ビニル系接着剤を塗布し、表面仕上げ材である厚さ0.2mmのオークの化粧単板を接着し、床材を作製した。
(比較例2)ケナフ繊維から平均繊維長約80mmのケナフ繊維マット(面重量1000g/m2)を作製し、フェノール樹脂15質量%の水溶液をフローコーターにより塗布する。直後に絞りロールを通し、ケナフ繊維マットに均一に樹脂液を含浸させる。次に、乾燥炉で110℃、1.5分間乾燥させて含水率を約10%に調整することにより乾燥したケナフ繊維マットを得た。
【0049】
次に、基板として、表面平滑性が低いコア用単板を積層した10.5mm厚みの針葉樹合板を用い、乾燥したケナフ繊維マットを針葉樹合板の表面に重ねて積層し、平板プレスで温度190℃、2.0MPaの圧力で、3分間プレスして、総厚12mmの床用繊維複合基材を得た。さらに、床用繊維複合基材の上に、酢酸ビニル系接着剤を塗布し、表面仕上げ材である厚さ0.2mmのオークの化粧単板を接着し、床材を作製した。
【0050】
上記の実施例1〜3及び比較例1〜2の床材の性能評価を、表面平滑性、耐衝撃性、耐キャスター性について行なった。
【0051】
表面平滑性は、床材表面の最凹部の凹み量をダイヤルゲージで測定した。
【0052】
耐衝撃性は、デュポン式衝撃試験にて500g鋼球を30cm高さから落下した場合の凹み量を測定した。
【0053】
耐キャスター性は、鉄製キャスターに80kgの荷重をのせ、20往復/分の速度でキャスターを移動させたときの、表面仕上げ材が剥離するまでの回数を測定し、下記の評価基準に従って、4段階評価を行なった。
◎:4万回以上
○:2万回以上
△:1〜2万回
×:1万回以下
上記実施例及び比較例の床材における性能評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

表1にみられるように、各実施例のものはいずれも、比較例のものに比べて、表面平滑性、耐衝撃性、耐キャスター性のそれぞれが優れるものであった。表面平滑性は、比較例2が他に比べて、劣った。耐衝撃性は、比較例1が他に比べて、劣った。耐キャスター性は繊維マットを複層としたものが、良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本願発明の第1の実施形態である繊維複合基材を示す断面図である。
【図2】同繊維複合基材の製造工程を示し、樹脂含浸工程と乾燥工程を示す模式図である。
【図3】同繊維複合基材の製造工程を示す模式図であり、(a)は第一の積層工程、(b)は予備圧締工程、(c)は第一の熱圧形成工程をそれぞれ示している。
【図4】本願発明の第2の実施形態である繊維複合基材を示す断面図である。
【図5】同繊維複合基材の製造工程を示す模式図であり、(a)は第一の積層工程、(b)は第一の熱圧形成工程、(c)は第二の積層工程、(d)は第二の熱圧形成工程をそれぞれ示している。
【図6】従来例である繊維複合基材を示す断面図である。
【図7】従来例である繊維複合基材を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1 繊維マット
1a 第一の繊維マット
1b 第二の繊維マット
2 樹脂
3 基材
4 積層体
4a 第一の積層体
4b 第二の積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸し、繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満になるまで乾燥し、乾燥した繊維マットを基材の表面に積層して積層体とし、樹脂の硬化温度以下で予備圧締した後に、樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化してなることを特徴とする繊維複合基材。
【請求項2】
植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸し、繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満になるまで乾燥し、乾燥した第一の繊維マットを基材の表面に積層して第一の積層体とし、樹脂の硬化温度以上で加圧した後、さらに乾燥した第二の繊維マットを一体化した第一の積層体の表面に積層し、樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化してなることを特徴とする繊維複合基材。
【請求項3】
繊維マットは、ケナフ繊維、ジュート繊維、ラミー麻繊維のうち少なくとも一つから得られる繊維を絡ませたものであり、繊維長が10mm以上、100mm以下、繊維束径が20μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の繊維複合基材。
【請求項4】
樹脂含浸前の繊維マットの面重量が500g/m2以上、1500g/m2以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の繊維複合基材。
【請求項5】
基材が、合板、木質単板、繊維板、パーティクルボード、MDF、OSBのうち少なくとも一つから選ばれる木質材であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の繊維複合基材。
【請求項6】
植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂が含浸された繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満の範囲になるまで乾燥する乾燥工程と、乾燥された繊維マットを基材の表面に重ねて積層体を形成する第一の積層工程と、積層体に積層方向の圧力を加え、樹脂の硬化温度以下で予備圧締する予備圧締工程と、積層体を樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化する第一の熱圧形成工程からなることを特徴とする繊維複合基材の製造方法。
【請求項7】
植物繊維からなる繊維マットに樹脂を含浸させる樹脂含浸工程と、樹脂が含浸された繊維マットの含水率が5質量%以上、20質量%未満の範囲になるまで乾燥する乾燥工程と、乾燥された第一の繊維マットを基材の表面に重ねて第一の積層体を形成する第一の積層工程と、第一の積層体を樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化する第一の熱圧形成工程と、第一の熱圧形成工程により一体化された第一の積層体の表面に乾燥された第二の繊維マットを重ねて第二の積層体を形成する第二の積層工程と、第二の積層体を樹脂の硬化温度以上で加圧して一体化する第二の熱圧形成工程からなることを特徴とする繊維複合基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−30092(P2010−30092A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193279(P2008−193279)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】