説明

織物データ生成装置、織物データ生成方法、プログラム、織物布地調エンボス版製造装置、織物布地調エンボス版製造方法、及び織物布地調シート

【課題】 繊維の微細な形状の表現を可能とする織物データ生成装置、織物データ生成方法、プログラム、織物布地調エンボス版製造装置、織物布地調エンボス版製造方法、及び織物布地調シートを提供する。
【解決手段】 織物データ生成装置1の制御部10は、3次元空間内に所定長さの線分を設定し、所定分節数に区切った各ノードの端点を所定の揺らぎ幅内にランダムに揺らすことにより繊維データを定義する。また複数の繊維データを所定の円柱または円錐台内に略平行に配置し、各繊維データの各線分端点を所定角度だけ回転させて糸データを生成する。制御部10は複数の糸データを織物のたて糸及びよこ糸として夫々所定間隔で配置し、各糸データの表裏配置に基づいて該たて糸及びよこ糸の形状を変形する。更に、生成された織物形状データを2次元のハイトフィールドに変換し織物データとして出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物布地の表面形状を有する織物布地調シート、そのシートを製造するためのエンボス版装置等、及び織物布地の表面形状を表す織物データの生成装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建材の壁紙等に用いられるエンボス版またはシートの意匠には、織物布地に近い表面形状を有するものがある。このような織物布地調シートの製造工程には、織物布地調のエンボス版を製造するために織物布地の型を取る工程が含まれる。型取りの方法には、シリコンやスキャナを用いて対象の素材から型を取得する手法と、コンピュータ等の計算装置を用いて布地表面の凹凸の質感をデータとして生成する手法とがある。
【0003】
コンピュータ等を用いて織物布地調のエンボス版またはシートを生成する技術としては、例えば、特許文献1、2、3に示すものが公知である。特許文献1では、たて糸とよこ糸を交互に織った「平織」布地を表現したシートを作成するため、布領域のサイズ、糸幅、繊維幅、糸の高さ等のパラメータを用い、たて糸及びよこ糸の相対座標値を算出し、その相対座標値に基づいて布領域における各画素の高さを決定し、織物データを生成する手法が開示されている。また、特許文献2は、特許文献1を基本概念として、たて糸とよこ糸とがほぼ2対1の割合で表れる「綾織り」布地を表現したシートを作成するものである。また、特許文献3では、絹調の布地を表現したシートを作成するために、光の乱反射を多く発生させる多角錐形状を布領域内に適用し、その座標値に応じた高さを決定し、織物データを作成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−58459号公報
【特許文献2】特開2001−179825号公報
【特許文献3】特開2001−113891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1〜3に記載された織物データは、繊維のレベルまで細密に表現したモデルではない。そのため布地表面から繊維の飛び出した、いわゆる「ケバ」や、撚り糸の太さのばらつきである「ムラ」といった実際の布地の質感を表現できる程、精細なものではなかった。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、繊維の微細な形状の表現を可能とする織物データ生成装置、織物データ生成方法、プログラム、織物布地調エンボス版製造装置、織物布地調エンボス版製造方法、及び織物布地調シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために第1の発明は、3次元空間内に任意の長さの線または任意数の点群の集合を設定し、前記線または前記点群の集合を任意の分節数に区切った各ノードの端点を任意の揺らぎ幅内に配置することにより、繊維データを生成する繊維データ生成手段と、前記繊維データ生成手段によって生成された繊維データを、任意の閉空間モデル内に複数配置することにより糸データを生成する糸データ生成手段と、前記糸データ生成手段により生成された複数の糸データを、織物のたて糸及びよこ糸として配置し、織り方に応じた各糸の表裏配置情報に基づいて、各糸の形状を変形し、織物形状データを生成する織物形状データ生成手段と、前記織物形状データ生成手段により生成された織物形状データを2次元のハイトフィールドに変換し、織物データとして出力する織物データ出力手段と、を備えることを特徴とする織物データ生成装置である。
【0008】
また、前記繊維データに対するパラメータとして、繊維の長さ、繊維の揺らぎ幅、繊維を構成するノードの数を入力する繊維パラメータ入力手段を更に備えることが望ましい。
【0009】
また、前記閉空間モデルは、任意の半径を有する円柱モデルまたは円錐台モデルであることが好適である。
【0010】
また、前記糸データ生成手段は、前記閉空間モデル内に配置された各繊維データの一端を固定しつつ、他端側を、該閉空間モデルの中心軸を中心に所望の角度だけ回転させる撚り糸データ生成手段を更に備えることが望ましい。
【0011】
また、前記撚り糸データ生成手段は、前記各繊維データを回転させる際に、元の長さを保つことが望ましい。
【0012】
また、前記糸データに対するパラメータとして、繊維データの数、前記閉空間モデルを定義する関数を入力する糸パラメータ入力手段を更に備えることが望ましい。
【0013】
また、前記織物形状データ生成手段は、織物の最小単位となる組織におけるたて糸及びよこ糸の表裏配置情報を定義する織物組織定義手段と、前記織物組織定義手段により定義された表裏配置情報に基づいて、たて糸とよこ糸との隣り合う二つの交差点間で、糸が滑らかに補間するように各繊維を変形処理する変形手段と、を備えることが望ましい。
【0014】
また、第2の発明は、3次元空間内に任意の長さの線分を設定し、任意の分節数に区切った各ノードの端点を任意の揺らぎ幅内に配置することにより、繊維データを生成する繊維データ生成ステップと、生成された繊維データを、任意の半径を有する円柱または円錐台内に複数配置することにより糸データを生成する糸データ生成ステップと、生成された複数の糸データを、織物のたて糸及びよこ糸として配置し、織り方に応じた各糸の表裏配置情報に基づいて、各糸の形状を変形し、織物形状データを生成する織物形状データ生成ステップと、生成された織物形状データを2次元のハイトフィールドに変換し、織物データとして出力する織物データ出力ステップと、を含むことを特徴とする織物データ生成方法である。
【0015】
また、第3の発明は、コンピュータを第1の発明の織物データ生成装置として機能させるためのプログラムである。
【0016】
また、第4の発明は、3次元空間内に任意の長さの線分を設定し、任意の分節数に区切った各ノードの端点を任意の揺らぎ幅内に配置することにより、繊維データを生成する繊維データ生成手段と、前記繊維データ生成手段によって生成された繊維データを、任意の半径を有する円柱または円錐台内に複数配置することにより糸データを生成する糸データ生成手段と、前記糸データ生成手段により生成された複数の糸データを、織物のたて糸及びよこ糸として配置し、織り方に応じた各糸の表裏配置情報に基づいて、各糸の形状を変形し、織物形状データを生成する織物形状データ生成手段と、前記織物形状データ生成手段により生成された織物形状データを2次元のハイトフィールドに変換し、織物データとして出力する織物データ出力手段と、前記織物データ出力手段により出力された織物データに基づいて、織物布地の表面形状をエンボス版シリンダに形成したエンボス版を製造するエンボス版製造手段と、を備えることを特徴とする織物布地調エンボス版製造装置である。
【0017】
前記エンボス版製造手段は、前記エンボス版シリンダに対して、打刻刃またはレーザビームを用いて前記織物布地の表面形状を彫刻する彫刻手段とすることが望ましい。
【0018】
前記エンボス版製造手段は、レジスト層をコーティングした前記エンボス版シリンダ、または該エンボス版シリンダへの露光処理に用いるフォトマスクに対して、前記織物データに基づく露光パターンを形成するパターン露光手段を含むことが望ましい。
【0019】
また、第5の発明は、3次元空間内に任意の長さの線分を設定し、任意の分節数に区切った各ノードの端点を任意の揺らぎ幅内に配置することにより、繊維データを生成する繊維データ生成ステップと、生成された繊維データを、任意の半径を有する円柱または円錐台内に複数配置することにより糸データを生成する糸データ生成ステップと、生成された複数の糸データを、織物のたて糸及びよこ糸として配置し、織り方に応じた各糸の表裏配置情報に基づいて、各糸の形状を変形し、織物形状データを生成する織物形状生成ステップと、生成された織物形状データを2次元のハイトフィールドに変換し、織物データとして出力する織物データ出力ステップと、出力された織物データに基づいて、織物布地の表面形状をエンボス版シリンダに形成したエンボス版を製造するエンボス版製造ステップと、を含むことを特徴とする織物布地調エンボス版製造方法である。
【0020】
また、第6の発明は、第4の発明の織物布地調エンボス版製造装置によって製造されたエンボス版を用いてシート表面形状を加工した織物布地調シートである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、繊維の微細な形状の表現を可能とする織物データ生成装置、織物データ生成方法、プログラム、織物布地調エンボス版製造装置、織物布地調エンボス版製造方法、及び織物布地調シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】織物データ生成装置1のハードウエア構成を示すブロック図
【図2】織物データ生成装置1の機能ブロック図
【図3】織物データ生成処理の流れを示すフローチャート
【図4】繊維データについて説明する図
【図5】円柱モデル34の糸データについて説明する図
【図6】円錐台モデル36について説明する図
【図7】糸データの3D画像の一例
【図8】織物の組織について説明する図。(A)は平織、(B)は綾織。
【図9】糸の変形について説明する図
【図10】ベジエ曲線に基づいて変形された糸の3D画像の一例
【図11】生成された織物データの3D画像の一例
【図12】糸の太さの「ムラ」を表現した織物データの3D画像の一例
【図13】糸データに「ケバ」を付加した織物データの3D画像の一例
【図14】生成された織物データの3D画像の一例
【図15】生成された織物データの3D画像の一例
【図16】織物布地調エンボス版製造装置9のハードウエア構成の一例を示すブロック図
【図17】エンボス版製造装置9Aの全体構成図
【図18】エンボス版製造装置9Bの全体構成図
【図19】エンボス版の製造に供するフォトマスクの製造装置9Cを説明する図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
[第1の実施の形態]
まず、本発明に係る織物データ生成装置1について説明する。
図1は、本実施の形態の織物データ生成装置1のハードウエア構成を示す。
織物データ生成装置1は、図1に示すように、例えば、制御部10、記憶部11、メディア入出力部12、周辺機器I/F部13、通信部14、入力部15、表示部16、印刷部17等がバス18を介して接続されて構成される。
【0025】
制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Accsess Memory)等により構成される。
CPUは、記憶部11、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス18を介して接続された各部を駆動制御する。制御部10のCPUは後述する織物データ生成処理(図3参照)を実行する。
【0026】
ROMは、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持する。RAMは、ロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部10が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0027】
記憶部11は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部10が実行するプログラムや、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティング・システム)等が格納されている。これらのプログラムコードは、制御部10により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて実行される。
【0028】
メディア入出力部12(ドライブ装置)は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、PDドライブ、CDドライブ、DVDドライブ、MOドライブ等のメディア入出力装置であり、データの入出力を行う。
【0029】
通信部14は、通信制御装置、通信ポート等を有し、ネットワークとの通信を媒介する通信インタフェースであり、通信制御を行う。
入力部15は、例えば、キーボード、マウス等のポインティング・デバイス、テンキー等の入力装置であり、入力されたデータを制御部10へ出力する。
【0030】
表示部16は、例えば液晶パネル、CRTモニタ等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携して表示処理を実行するための論理回路(ビデオアダプタ等)で構成され、制御部10の制御により入力された表示情報をディスプレイ装置上に表示させる。
印刷部17は、プリンタであり、生成された織物データの画像の印刷処理等を行う。
【0031】
次に、本発明の織物データ生成装置1の機能について、図2を参照して説明する。
【0032】
図2に示すように、織物データ生成装置1の制御部10は、織物データを生成するための機能として、パラメータ入力部21、繊維形状生成部22、糸の形状生成部23、織物の組織生成部24、織物の形状生成部25、階調画像生成部26、及び出力部27を有する。
【0033】
すなわち、制御部10は、織物データを生成するために、織物データ生成装置1の各部を制御して、パラメータ入力、繊維形状生成、糸の形状生成、織物の組織生成、織物の形状生成、階調画像生成、及び出力といった各処理を行う。これらの処理の詳細については後述する。
【0034】
次に、織物データ生成装置1の動作を説明する。
図3のフローチャートに示すように、織物データ生成装置1の制御部10は、パラメータ入力ステップ(ステップS1)、繊維形状生成ステップ(ステップS2)、糸の形状生成ステップ(ステップS3)、織物の組織生成ステップ(ステップS4)、織物の形状生成ステップ(ステップS5)、階調画像生成ステップ(ステップS6)、及び出力ステップ(ステップS7)の各ステップを含む織物データ生成プログラムを実行することにより、織物データを生成し、出力する。
【0035】
以下、各ステップにおける処理を説明する。
【0036】
<パラメータ入力ステップ(図3のステップS1)>
本実施の形態の織物データ生成装置1において、制御部10は、まず、後述する繊維生成ステップS2、糸の形状生成ステップS3、織物の組織生成ステップS4、織物の形状生成ステップS5、階調画像生成ステップS6で利用されるパラメータの入力を受け付ける。
【0037】
繊維生成ステップS2で利用されるパラメータとしては、繊維の長さ、繊維の揺らぎの幅、及び繊維の分節数等が挙げられる。
糸の形状生成ステップS3で利用されるパラメータとしては、糸の単位長さ当りの繊維数、繊維の撚り(回転角度)、糸の半径、糸の形状を表現するモデルを定義する関数等が挙げられる。
織物の組織生成ステップS4で利用されるパラメータとしては、織物の一組織におけるたて糸及びよこ糸の表裏配置情報を定義する二値の行列等が挙げられる。
織物の形状生成ステップS5で利用されるパラメータとしては、たて糸及びよこ糸の間隔、繊維の「ケバ」や「ムラ」を調整するための値等が挙げられる。
階調画像生成ステップS6で利用されるパラメータとしては、階調数等が挙げられる。
【0038】
各種パラメータの入力を受け付ける際、制御部10は必要なパラメータを入力するための入力画面を生成し、表示部16に表示するようにしてもよい。また、制御部10は、入力部15から入力されたパラメータを、RAMに保持する。入力されたパラメータは、各ステップで読み出され、繊維データ、糸データ、または織物データの生成に使用される。
【0039】
<繊維形状生成ステップ(図3のステップS2)>
次に、制御部10は、繊維の形状を定義する。
制御部10は、入力されたパラメータ「繊維の長さ」に基づいて、3次元空間内に任意の長さの線または任意数の点群の集合を設定する。ここで、線とは、直線、曲線、または曲線の集合を含むものとする。以下の説明では、繊維を定義するため、任意の長さの線分を繊維データとして3次元空間内に設定する。そして、パラメータ「分節数」に基づいて、その線分(任意の長さの線または任意数の点群の集合を設定した場合は、線または点群の集合)を区切り、各ノード(区切られた線分の1要素)をパラメータ「繊維の揺らぎ」の幅内にランダムに揺らして配置することにより、繊維データを生成する。
【0040】
具体的には、図4(A)に示すように、繊維31の両端を含む分節数をNとした場合、線分の始点の座標をn、終点の座標をnNn−1、i番目のノードの始点の座標をniとする。これらの座標n、nNn−1、niは3次元ベクトルで表される。
i番目のノードの始点の座標nは、次の式(1)に示す位置となる。
【0041】
【数1】

【0042】
ここで、Znは、各ノードに揺らぎを与えるために設定される3次元ベクトルである。Znの各要素を、区間[JgMin,JgMax]の乱数とすれば、ランダムな揺らぎをもつ繊維を表現できる。
【0043】
また、定義した繊維データに、図4(B)に示すような所望の表面形状を付加してもよい。繊維の表面の形状は、定義した繊維データ上のサンプル点sを中心とした、球表面の関数である式(2)の論理和として定義する。或いは、多角形によって定義する。
【0044】
【数2】

【0045】
ここで、xは3次元ベクトルであり、rはサンプル点sから表面までの距離とする。
【0046】
<糸の形状生成ステップ(図3のステップS3)>
次に、制御部10は、糸の形状を定義する。糸は、繊維を束ね、撚ったものとして表現される。
【0047】
糸の形状を表現するため、所定の閉じた空間内に、繊維データが所定数配置される。このような糸のモデルを閉空間モデルと呼ぶものとする。閉空間モデルは、その閉空間を表現する関数によって定義される。
閉空間モデルの一例として、例えば、図5に示すような、所定の単位長の長さ及びパラメータ「糸の半径」分の半径rを持つ円柱モデル34を使用する。
制御部10は、まず、円柱モデル34内に、繊維データ31,31,31,・・・をパラメータ「繊維数」だけ略平行に配置する(図5(A))。
各繊維データ31,31,31,・・・は、円柱モデル34の上面と下面とを結ぶ方向(図中z方向)に対して略平行に配置されるものとする。
【0048】
具体的には、制御部10は、繊維生成ステップS2で生成された繊維データ31に対して、平行移動等の処理を行い、円柱モデル34内に複数の繊維31をランダムに配置する。
各繊維の移動のベクトルT=(Ttx,Tty,Ttz)は式(3)の値となる。
【0049】
【数3】

【0050】
ここで、lは円柱モデル34の長さ、Z,Z,Z,Z,Zは区間[0,1]の乱数列の値とし、各繊維にそれぞれ設定される。
【0051】
また、図6に示すように、上面と下面の半径が異なる円錐台を複数連結した円錐台モデル36を使用して糸を形成してもよい。
【0052】
円錐台モデル36を用いる場合は、式(3)のrを、糸の長軸(z軸)の値に応じた円錐台の半径を返す関数r(a)に置き換える。
円錐台の半径を返す関数r(a)を式(4)で定義するものとする。
【0053】
【数4】

【0054】
ここで、aは、区間[0,1]の値、rとrは、それぞれ円錐台の上面と下面の半径である。
【0055】
また制御部10は、パラメータ「繊維の撚り(回転角度θ)」の分だけ、糸に含まれる各繊維データを回転させ、撚りを表現する(図5(B)、(C))。
【0056】
制御部10は、繊維データ31の各ノードを糸の中心軸(円柱モデル34または円錐モデル36の上面及び下面の中心を結ぶ軸)を回転の軸として、繊維データの1端点を固定しつつ、各ノード端点を順次θ度回転させる。
【0057】
図5(C)は、糸35の長軸の任意位置における垂直断面(x−y)である。図5(C)の黒点は、糸35に含まれる繊維データを意味する。
繊維データを回転させる際は、各ノード端点を順次円の接線方向にθ度移動させるとともに、ノード長さの補正を行う。一般的な回転処理では、回転の軸から離れた点ほど移動量が多くなる。そのため、糸の外側の繊維が密に表現されてしまう。これを避けるため、各ノードの長さが元の長さを保つように移動後の位置を補正する。
【0058】
すなわち、式(5)に示すように、i番目のノード端点の座標nを、n’’の位置に移動する。
【0059】
【数5】

【0060】
ここで、iは区間[0,N]とする。Nは、ノード数を表す上限値である。
この回転処理によって繊維の束である糸が撚られ、図7に示すような糸データが生成される。図7は、撚りの処理が行われた糸の3D画像を示す図である。糸の長軸が回転軸(z軸)である。図7に示すように、糸の複数の繊維が撚られた様子が表現される。
【0061】
<織物の組織生成ステップ(図3のステップS4)>
次に、制御部10は、織物の組織を定義する。
織物は、たて糸とよこ糸とから構成されるため、たて糸とよこ糸との交差する点(以下、組織点と呼ぶ)では、たて糸及びよこ糸のうちどちらか一方が表面に現れ、他方は裏面に現れる。
【0062】
図8(A)は平織の基本単位となる組織、図8(B)は綾織の基本単位となる組織を表している。図中、黒で示すブロックがたて糸であり、白で示すブロックがよこ糸である。
【0063】
定義した一組織の繰り返しである完全組織の場合、全組織の表裏の関係は、一単位の組織の行列Aにより定義される。以下、一単位の組織の表裏の関係を示す行列Aを表裏配置情報と呼ぶ。
例えば、平織の表裏配置情報は、式(6)に示すような2×2行列により定義される。
【0064】
【数6】

【0065】
一方、たて糸の数をM、よこ糸の数をNとした場合、組織点の数はM・N点である。
ここで、組織点の位置を、たて糸のインデックスj、よこ糸のインデックスkで表現すると、たて糸のインデックスjと行列Aの行数mの余剰、またはよこ糸のインデックスkと列数nの余剰を参照することにより、注目する組織点が行列Aのどの要素に該当するかが決定され、各糸の表裏配置情報が決定される。
また、ここでは、行列Aの要素が1のとき、たて糸が表であるとして定義する。更に、たて糸の長軸をz方向、よこ糸の長軸をx方向、表裏をy方向に配置するものとする。
【0066】
以上から、各組織点におけるたて糸の座標g=(g,g,g)は式(7)で定義される。
【0067】
【数7】

【0068】
ここで、Iwarpは、たて糸の間隔と、Iweftは、よこ糸の間隔、rは、たて糸の半径である。
【0069】
よこ糸については、行列Aを−Aとすることで、同様に組織点での座標を算出できる。
【0070】
本実施の形態では、制御部10は、ステップS4の処理を、組織点の数M・N回だけ繰り返す。
【0071】
<織物の形状生成ステップ(図3のステップS5)>
次に、制御部10は、たて糸とよこ糸の繊維が、それぞれ隣り合う組織点間を滑らかに補間するように、繊維を構成する各ノードを適宜平行移動する処理を行う。
図9は、糸56の変形について説明する図である。図9では、紙面の左右方向をz方向、紙面上下方向をy方向、紙面鉛直方向をx方向としている。
糸46と糸56とが交差するz位置zから、糸47と糸56とが交差するz位置zk+1までの間を、糸56内の繊維が滑らかに補間する。
【0072】
ここで、二つの値(隣り合う組織点の座標)を滑らかに補間する関数f(y,y,t)を用いる。
とyは対象となる組織点のy軸の座標であり、tは、隣り合う組織点間の位置を示し[0,1]の値をとる媒介変数である。
【0073】
糸を変形するために、以下の式(8)に示すf’(y,y,t)を、各繊維を構成するノードのy座標に加える。
【0074】
【数8】

【0075】
上述の媒介変数tは、糸生成時の式(3)のZと同値である。
ここでは、補間の関数f(y,y,t)の一例として、式(9)に示す3次元ベジエ曲線を用いるものとする。
【0076】
【数9】

【0077】
なお、式(9)に代えて、式(10)を使用してもよい。式(10)のパラメータy,yは、布地の織り方に依存するパラメータであり、ユーザにより指定可能とする。
また、ベジエ曲線に代えて、他の補間の関数としてもよい。
【0078】
【数10】

【0079】
変形処理された糸の3D画像を、図10に示す。
また、たて糸とよこ糸をそれぞれ6本ずつ用いた平織の織物の3D画像を図11に示す。
図10、図11に示すように、本織物データ生成装置1で生成された糸データまたは織物データは、糸に含まれる繊維の質感が微細に表現されていること分かる。
【0080】
この段階で、更に、生成した織物データについて、糸の太さの「ムラ」や、糸の表面もしくは内部に含まれる繊維がほつれている様子を示す「ケバ」を調整するようにしてもよい。
【0081】
糸の「ムラ」を表現するために、制御部10は、糸を定義した円錐台モデル36の上面の半径と、その上面と接している下面の半径とが同値となるようにしつつ、それらの半径をランダムに揺らす。すなわち、糸の円錐台の上面もしくは下面の半径を区間[JrMin,JrMax]の乱数として与える。
糸に「ムラ」を加えたときの織物の3D画像を図12に示す。
【0082】
また、「ケバ」を表現するために、制御部10は、まず、糸として束ねられた繊維の中から「ケバ」とする繊維を所望の数Nだけ無作為に選択する。ここで、Nは区間[NfMin,NfMax]の無作為な値とする。NfMinは0以上、NfMaxは糸の円錐台モデル36に充填された繊維の数N以下とする。
制御部10は、選択した繊維を糸の表面に飛び出させるために、直線状に変形させ、各ノードにノイズを付加する。ケバとなる繊維のノードnの位置は、式(11)のn’に移動する。
【0083】
【数11】

【0084】
このとき、Zf1は糸の飛び出し距離を定義するパラメータであり、区間[Jf1Min,Jf1Max]の乱数とする。Zf2は、繊維の揺らぎを定義するパラメータであり、各要素が区間[Jf2Min,Jf2Max]の乱数の3次元ベクトルとする。
【0085】
糸の「ケバ」を付加した織物の3D画像を図13に示す。
【0086】
<階調画像生成ステップ(図3のステップS6)>
次に、織物データ生成装置1は、生成された織物データの3次元形状をハイトフィールドに変換する処理を行う。制御部10は、生成された織物データの3次元形状の表側から繊維の表面で最も高い部分を選択し、高さ情報を例えば256階調の階調画像(グレースケール等)で表し、2次元平面に射影する。
【0087】
ハイトフィールドに変換する処理において、制御部10は、織物データの繊維の線分をラスタライズした後に、距離に依存した減衰関数を用いて曲面を生成する。或いは、制御部10は、線分を中心とする陰関数を用いたモデリングを行って曲面を生成し、その後ラスタライズしてハイトデータを生成するようにしてもよい。
【0088】
<出力ステップ(図3のステップS7)>
制御部10は、入力部15から入力される指示操作にしたがって、階調化された織物データの画像を、表示部16に表示させたり、印刷部17に出力して印刷したり、記憶部11またはメディア入出力部12に接続された記憶媒体等に記憶したりする。
【0089】
本発明の実施の形態に係る織物データ生成装置1を利用して、表1に示すパラメータを設定し、織物データを生成した。
【0090】
【表1】

【0091】
このようなパラメータを用いて生成した織物データを、256階調のグレースケールで表現した画像を図14及び図15に示す。
図14及び図15に示すように、織物データは、糸の撚りの「ムラ」や繊維の「ケバ」等の微細な形状が表現されており、実際の布地の質感を十分微細に表現している。
【0092】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る織物データ生成装置1の制御部10は、3次元空間内に任意の長さの線や任意数の点群の集合を設定し、この線や点群の集合を任意の分節数に区切った各ノードの端点を所定の揺らぎ幅内にランダムに揺らすことにより、繊維データを定義し、複数の繊維データを、例えば円柱または円錐台といった閉空間モデル内に略平行に配置し、配置された各繊維データの各線分端点を所定角度だけ回転させることにより表現される糸データを生成する。そして制御部10は、生成された複数の糸データを、織物のたて糸及びよこ糸として夫々所定間隔で配置し、各糸データの表裏配置に基づいて、該たて糸及びよこ糸の形状を変形し、織物形状データを生成する。更に制御部10は、生成された織物形状データを2次元座標空間のハイトフィールドデータに変換し、織物データとして出力する。
【0093】
従って、織物を繊維のような微細なレベルまで表現することが可能となり、写実性が向上する。
【0094】
また、織物データ生成装置1では、繊維データに対するパラメータとして、繊維の長さ、繊維の揺らぎ幅、繊維を構成するノードの数等をユーザの所望の値で入力可能としたり、糸データに対するパラメータとして、繊維データの数、回転角度、糸の半径、糸の閉空間モデルを定義する関数等をユーザの所望の値で入力可能とするため、繊維の形状、糸の形状、繊維の粗密さ、織物の糸間隔、繊維のケバ、糸のムラ等を直感的に操作でき、様々な質感の織物データを得ることができる。
【0095】
また、糸データを生成する際は、糸の撚りを表現するために繊維を回転させる際に、元の繊維の長さを保つようにしているため、糸の太さ方向位置における繊維の不均衡がなくなり、実際の繊維を撚っているような自然な糸データを生成できる。
また、織物データの出力サイズを任意に変更できるので、実用性が向上する。
【0096】
なお、上述の実施の形態では、平織について説明したが、綾織としてもよい。この場合、上述の平織の織物組織の表裏配置情報を示す式(6)に代えて、次の式(12)を用いるものとする。
【0097】
【数12】

【0098】
[第2の実施形態]
次に、本発明に係る織物布地調エンボス版の製造装置、及び織物布地調シートについて説明する。
【0099】
本第2の実施の形態の織物布地調エンボス版の製造装置9は、第1の実施の形態の織物データの生成手順に従って生成された織物データに基づいて、エンボス版シリンダに織物布地調のエンボス彫刻を施すものである。
【0100】
図16に示すように、織物布地調エンボス版の製造装置9は、織物データを生成または格納するコンピュータ91(織物データ生成装置1)と、エンボス版製造手段92と、を備える。
【0101】
コンピュータ91は、織物データを生成し、または予め生成された織物データを記憶部に記憶する。また、コンピュータ91は、エンボス版製造手段92の動作を制御する。
【0102】
第2の実施の形態では、エンボス版製造手段92として、機械彫刻またはレーザ彫刻を施す彫刻機93を利用するものとする。
図17に第2の実施の形態のエンボス版製造装置9Aの構成を示す。
【0103】
図17に示すように、エンボス版製造装置9Aは、コンピュータ91、彫刻機93、支持台101、及び回転駆動部104を備える。
彫刻機93は、彫刻機制御部931、駆動部932、及び彫刻用刃(打刻刃)933を備える。彫刻機制御部931は、コンピュータ91から入力される織物データのハイトデータに従って彫刻機駆動部932を駆動し、彫刻用刃933を支持台101,101に支持されたエンボス版シリンダ100の版面に対して深さ方向に上下動するとともに、エンボス版シリンダ100の回転軸方向(図中A−A方向)に移動させる。回転駆動部104は、コンピュータ91から入力される指示に従って、支持台101,101に支持されたエンボス版シリンダ100を回転軸A−A方向を中心に回転する。
これにより、彫刻機93は、コンピュータ91から入力された織物データのハイトデータに従った深さで金属製或いは樹脂製のエンボス版シリンダ100に彫刻を施し、織物布地調の表面形状を形成する。
【0104】
なお、彫刻機93は、彫刻用刃933に代えて、レーザ等を用いる方式のものでもよい。この場合、彫刻機93は、図17の駆動部932及び彫刻用刃933に代えて、走査部、レーザ発振器、及び光学ユニットを備え、レーザ発振器によって生成されるレーザビームを光学ユニットを介して照射する。
彫刻機制御部931は、走査部を駆動し、光学ユニットをエンボス版シリンダ100の回転軸方向(図中A−A方向)に移動させるとともに、レーザ発振器を制御してレーザの出力値を深さ情報(ハイトデータ)に従った出力値に変調する。これにより、エンボス版シリンダ100の所定位置に所定の出力でレーザビームを照射して、エンボス版シリンダ100の表面に織物布地調の凹凸を彫刻する。
【0105】
彫刻機93は、例えば、階調画像におけるグレースケール0%の部分を凸、グレースケール100%の部分を凹として彫刻を行う。彫刻の深さは任意に設定可能であるが、例えば、500μmに設定した場合は、グレースケール0%の部分は深さ0μm、グレースケール50%の部分は深さ250μm、グレースケール100%の部分は深さ500μmで彫刻される。
【0106】
グレースケール画像データからエンボス版シリンダを彫刻する手法については、例えば特開2008−246853に詳述されている。
【0107】
本第2の実施の形態の織物布地調エンボス版の製造装置9により製造されたエンボス版を用いて、所望のシートに対してエンボス加工を行えば、織物布地調の表面形状を有するシートを得ることが可能となる。シートは、紙、樹脂、合成皮革、金属等からなり、例えば、壁紙等の建材として利用される。
【0108】
以上説明したように、第2の実施の形態の織物布地調エンボス版の製造装置9Aによれば、第1の実施の形態と同様の手法で生成された、繊維の微細な形状を表現した織物データに基づいて、エンボス版シリンダ100に織物布地調の表面形状を形成することが可能となる。また、このエンボス版シリンダ100を用いて、所望のシートにエンボス加工を施すことが可能となる。これにより作成されたエンボス版シリンダは、織物布地柄を任意の大きさに設定できるので、従来のエンボス版の製造においてみられたようなシリンダ幅方向での同一柄の繰り返しがないものを作成することができる。幅方向に同一織物布地柄の繰り返しがない当該シリンダで得られたシートは、意匠性に優れたものが得られる。
【0109】
その結果、織物の繊維のレベルまで微細に表現した織物布地調の表面形状を有するエンボス版を製造することが可能となる。また、この手法で製造したエンボス版には、実際の布地を型取る手法を用いた場合に生じる布地の皺やよれ、或いは布地表面の起伏の低減(繊維のつぶれ)による質感の損失が生じない。
また、エンボス版を用いてシート表面を織物布地調に加工し、量産することが可能となる。
【0110】
なお、第2の実施の形態において、織物データは、例えば、彫刻機93に接続されたコンピュータ91とは異なるコンピュータ等にて生成されたものを、記憶媒体を介してコンピュータ91に入力したり、所定の通信インタフェースを介してコンピュータ91に入力したりしてもよい。
【0111】
[第3の実施形態]
第3の実施の形態の織物布地調エンボス版の製造装置は、第1の実施の形態の織物データの生成手順に従って生成された織物データに基づいて、エンボス版シリンダにエッチングの手法を用いて織物布地表面の凹凸形状を形成する。
【0112】
図18に示すように、第3の実施の形態の織物布地調エンボス版の製造装置9Bは、織物データを生成するコンピュータ91(織物データ生成装置1)、パターン露光装置96、支持台101、及び回転駆動部104を備える。また、支持台101にはレジスト層をコーティングしたエンボス版シリンダ200が取り付けられている。
支持台101及び回転駆動部104の構成及び動作は、第2の実施の形態と同様である。
【0113】
なお、コンピュータ91の織物データは、例えば、別のコンピュータ等にて生成されたものを、記憶媒体を介して入力したり、所定の通信インタフェースを介して入力したりしてもよい。
【0114】
パターン露光装置96は、走査部961、レーザ発振器962、及び光学ユニット963を備える。パターン露光装置96は、コンピュータ91から入力される織物データのハイトデータに従って走査部961を駆動し、レーザ照射口である光学ユニットをエンボス版シリンダ200の回転軸方向(図中A−A方向)に移動させるとともに、レーザ発振器962を制御して深さ情報(ハイトデータ)に従った出力値に変調する。これにより、エンボス版シリンダ200の所定位置に所定の出力でレーザビームを照射し、露光部と非露光部とからなるパターンを形成する露光処理を行う。この露光処理が完了したエンボス版200は図示しない現像装置において現像、および版洗浄によって、レジスト層のうち露光部(ポジ型レジストの場合)もしくは非露光部(ネガ型レジストの場合)が除去される。その後、エンボス版に腐食液を作用させると、露出した金属面が腐食を受けて窪み、露光したパターンに応じた凹凸構造が形成される。このレジスト層コーティング、露光処理、現像処理、洗浄処理(非レジスト部の除去)、腐食処理、洗浄処理(レジスト部の除去)を複数回繰り返すことにより、エンボス版シリンダ200の表面に深さの異なる凹凸が形成される。
また、レーザービームによってレジストを形成する手段としては、他にも、レジスト層をコーティングしたシリンダーに直接描画(レジスト層を焼飛ばす)をし、現像処理や、洗浄処理による非レジスト部の除去を必要としないレーザー刷版装置もある。
【0115】
本第3の実施の形態のエンボス版製造装置9Bを使用して製造されたエンボス版を利用して、紙、樹脂、合成皮革、金属等からなる所望のシートに対してエンボス加工を行えば、織物布地調の表面形状を有するシートを得ることが可能となる。これにより作成されたエンボス版シリンダは、織物布地柄を任意の大きさに設定できるので、従来のエンボス版の製造においてみられたようなシリンダ幅方向での同一柄の繰り返しがないものを作成することができる。幅方向に同一織物布地柄の繰り返しがない当該シリンダで得られたシートは、意匠性に優れたものが得られる。
【0116】
以上説明したように、第3の実施の形態のエンボス版製造装置9Bによれば、第1の実施の形態と同様の手法で生成された、繊維の微細な形状を表現した織物データに基づいて、エンボス版シリンダ200に織物布地調の表面形状を形成することが可能となる。その結果、織物の繊維のレベルまで微細に表現した織物布地調の表面形状を有するエンボス版を得られる。また、この手法で製造したエンボス版には、実際の布地を型取る手法を用いた場合に生じる布地の皺やよれ、或いは布地表面の起伏の低減(繊維のつぶれ)による質感の損失が生じない。
【0117】
また、このエンボス版シリンダ200を用いて、所望のシート表面を織物布地調に加工し、量産することが可能となる。
【0118】
[第4の実施の形態]
第4の実施の形態の織物布地調エンボス版の製造装置は、第3の実施の形態と同様に、第1の実施の形態の織物データの生成手順に従って生成された織物データに基づいて、エンボス版シリンダにエッチングの手法を用いて織物布地表面の凹凸形状を形成する。エッチングにはフォトマスク97を使用する。
【0119】
図19(A)に示すように、本第4の実施の形態では、上述のコンピュータ91及びパターン露光装置96をフォトマスク97の製造段階で利用する。すなわち、フォトマスク製造装置9Cは、織物データを生成するコンピュータ91(織物データ生成装置1)及びパターン露光装置96によって構成される。
【0120】
なお、コンピュータ91の織物データは、例えば、別のコンピュータ等にて生成されたものを、記憶媒体を介して入力したり、所定の通信インタフェースを介して入力したりしてもよい。
【0121】
フォトマスク97は、フォトマスク基板973上に遮光膜972が形成され、更にその上にレジスト層971がコーティングされる。このような状態のフォトマスク97に対して、パターン露光装置96は、織物データのハイトデータ(所定深さ方向位置の2値データ)に従った露光を行なうことにより、レジスト層971に露光部と非露光部とを形成する。露光後に、現像、洗浄し、不要なレジスト層を除去し、更に、腐食液を作用させ、腐食、洗浄を行うことにより不要な遮光膜を除去し、フォトマスク基板973上に遮光パターンを形成する。
【0122】
このように遮光パターンの形成されたフォトマスク97は、必要な深さ位置の数だけ製造され、それぞれ図19(B)に示すようにエンボス版シリンダ200への露光の際に使用される。
図19(B)に示すように、フォトマスク97にてレジスト層のコーティングされたエンボス版シリンダ200を覆い、露光することにより、フォトマスク97に形成されている遮光パターンに従った露光部及び非露光部が形成される。更に、現像処理、腐食処理、洗浄処理を行うことにより、エンボス版シリンダ200の表面に凹凸が形成される。フォトマスク97を交換して、レジスト層コーティング、露光、現像、腐食、洗浄を繰り返すことにより、エンボス版シリンダ200の表面に複数段に凹凸が形成される。
【0123】
以上説明したように、本第4の実施の形態のフォトマスク製造装置9Cによれば、織物データに基づく遮光パターンを施したフォトマスク97を製造できる。このフォトマスク97を使用して、エンボス版のエッチングを行えば、織物データに基づく凹凸が形成されたエンボス版を得ることが可能となる。その結果、織物の繊維のレベルまで微細に表現した織物布地調の表面形状を有するエンボス版を得られる。また、この手法で製造したエンボス版には、実際の布地を型取る手法を用いた場合に生じる布地の皺やよれ、或いは布地表面の起伏の低減(繊維のつぶれ)による質感の損失が生じない。
【0124】
また、このように製造されたエンボス版を利用して、紙、樹脂、合成皮革、金属等からなる所望のシートに対してエンボス加工を行えば、織物布地調の表面形状を有するシートを得ることが可能となる。これにより作成されたエンボス版シリンダは、織物布地柄を任意の大きさに設定できるので、従来のエンボス版の製造においてみられたようなシリンダ幅方向での同一柄の繰り返しがないものを作成することができる。幅方向に同一織物布地柄の繰り返しがない当該シリンダで得られたシートは、意匠性に優れたものが得られる。
【0125】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る織物データ生成装置、織物布地調エンボス版製造装置、または織物布地調シート等の好適な実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0126】
1・・・・・・・織物データ生成装置
10・・・・・・制御部
15・・・・・・入力部
16・・・・・・表示部
17・・・・・・印刷部
21・・・・・・パラメータ入力部
22・・・・・・繊維形状生成部
23・・・・・・糸の形状生成部
24・・・・・・織物の組織生成部
25・・・・・・織物の形状生成部
26・・・・・・階調画像生成部
27・・・・・・出力部
31・・・・・・繊維データ
34、35、36・・糸のモデル
9・・・・・・・織物布地調エンボス版の製造装置
100・・・・・エンボス版シリンダ
200・・・・・エンボス版シリンダ(レジスト層被覆)
91・・・・・・コンピュータ
92・・・・・・エンボス版製造手段
93・・・・・・彫刻機
96・・・・・・パターン露光装置
97・・・・・・フォトマスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元空間内に任意の長さの線または任意数の点群の集合を設定し、前記線または前記点群の集合を任意の分節数に区切った各ノードの端点を任意の揺らぎ幅内に配置することにより、繊維データを生成する繊維データ生成手段と、
前記繊維データ生成手段によって生成された繊維データを、任意の閉空間モデル内に複数配置することにより糸データを生成する糸データ生成手段と、
前記糸データ生成手段により生成された複数の糸データを、織物のたて糸及びよこ糸として配置し、織り方に応じた各糸の表裏配置情報に基づいて、各糸の形状を変形し、織物形状データを生成する織物形状データ生成手段と、
前記織物形状データ生成手段により生成された織物形状データを2次元のハイトフィールドに変換し、織物データとして出力する織物データ出力手段と、
を備えることを特徴とする織物データ生成装置。
【請求項2】
前記繊維データに対するパラメータとして、繊維の長さ、繊維の揺らぎ幅、繊維を構成するノードの数を入力する繊維パラメータ入力手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の織物データ生成装置。
【請求項3】
前記閉空間モデルは、任意の半径を有する円柱モデルまたは円錐台モデルであることを特徴とする請求項1に記載の織物データ生成装置。
【請求項4】
前記糸データ生成手段は、前記閉空間モデル内に配置された各繊維データの一端を固定しつつ、他端側を、該閉空間モデルの中心軸を中心に所望の角度だけ回転させる撚り糸データ生成手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の織物データ生成装置。
【請求項5】
前記撚り糸データ生成手段は、
前記各繊維データを回転させる際に、元の長さを保つことを特徴とする請求項4に記載の織物データ生成装置。
【請求項6】
前記糸データに対するパラメータとして、繊維データの数、前記閉空間モデルを定義する関数を入力する糸パラメータ入力手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の織物データ生成装置。
【請求項7】
前記織物形状データ生成手段は、
織物の最小単位となる組織におけるたて糸及びよこ糸の表裏配置情報を定義する織物組織定義手段と、
前記織物組織定義手段により定義された表裏配置情報に基づいて、たて糸とよこ糸との隣り合う二つの交差点間で、糸が滑らかに補間するように各繊維を変形処理する変形手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の織物データ生成装置。
【請求項8】
前記織物形状データ生成手段は、各糸の形状を変形させる際に、よこ糸とたて糸との隣り合う二つの交差点を結ぶ糸データに対してベジエ曲線を適用することを特徴とする請求項1に記載の織物データ生成装置。
【請求項9】
3次元空間内に任意の長さの線または任意数の点群の集合を設定し、前記線または前記点群の集合を任意の分節数に区切った各ノードの端点を任意の揺らぎ幅内に配置することにより、繊維データを生成する繊維データ生成ステップと、
生成された繊維データを、任意の閉空間モデル内に複数配置することにより糸データを生成する糸データ生成ステップと、
生成された複数の糸データを、織物のたて糸及びよこ糸として配置し、織り方に応じた各糸の表裏配置情報に基づいて、各糸の形状を変形し、織物形状データを生成する織物形状データ生成ステップと、
生成された織物形状データを2次元のハイトフィールドに変換し、織物データとして出力する織物データ出力ステップと、
を含むことを特徴とする織物データ生成方法。
【請求項10】
コンピュータを請求項1に記載の織物データ生成装置として機能させるためのプログラム。
【請求項11】
3次元空間内に任意の長さの線または任意数の点群の集合を設定し、前記線または前記点群の集合を任意の分節数に区切った各ノードの端点を任意の揺らぎ幅内に配置することにより、繊維データを生成する繊維データ生成手段と、
前記繊維データ生成手段によって生成された繊維データを、任意の閉空間モデル内に複数配置することにより糸データを生成する糸データ生成手段と、
前記糸データ生成手段により生成された複数の糸データを、織物のたて糸及びよこ糸として配置し、織り方に応じた各糸の表裏配置情報に基づいて、各糸の形状を変形し、織物形状データを生成する織物形状データ生成手段と、
前記織物形状データ生成手段により生成された織物形状データを2次元のハイトフィールドに変換し、織物データとして出力する織物データ出力手段と、
前記織物データ出力手段により出力された織物データに基づいて、織物布地の表面形状をエンボス版シリンダに形成したエンボス版を製造するエンボス版製造手段と、
を備えることを特徴とする織物布地調エンボス版製造装置。
【請求項12】
前記エンボス版製造手段は、前記エンボス版シリンダに対して、打刻刃またはレーザビームを用いて前記織物布地の表面形状を彫刻する彫刻手段であることを特徴とする請求項11に記載の織物布地調エンボス版製造装置。
【請求項13】
前記エンボス版製造手段は、レジスト層をコーティングした前記エンボス版シリンダ、または該エンボス版シリンダへの露光処理に用いるフォトマスクに対して、前記織物データに基づく露光パターンを形成するパターン露光手段を含むことを特徴とする請求項11に記載の織物布地調エンボス版製造装置。
【請求項14】
3次元空間内に任意の長さの線または任意数の点群の集合を設定し、前記線または前記点群の集合を任意の分節数に区切った各ノードの端点を任意の揺らぎ幅内に配置することにより、繊維データを生成する繊維データ生成ステップと、
生成された繊維データを、任意の閉空間モデル内に複数配置することにより糸データを生成する糸データ生成ステップと、
生成された複数の糸データを、織物のたて糸及びよこ糸として配置し、織り方に応じた各糸の表裏配置情報に基づいて、各糸の形状を変形し、織物形状データを生成する織物形状生成ステップと、
生成された織物形状データを2次元のハイトフィールドに変換し、織物データとして出力する織物データ出力ステップと、
出力された織物データに基づいて、織物布地の表面形状をエンボス版シリンダに形成したエンボス版を製造するエンボス版製造ステップと、
を含むことを特徴とする織物布地調エンボス版製造方法。
【請求項15】
請求項11に記載の織物布地調エンボス版製造装置によって製造されたエンボス版を用いてシート表面形状を加工した織物布地調シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−287204(P2010−287204A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227720(P2009−227720)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】