説明

缶蓋用アルミニウム合金塗装板

【課題】シーリングコンパウンドと缶蓋内面塗膜との密着性を確保することができ、耐消泡性に優れた缶蓋を得ることができる缶蓋用アルミニウム合金塗装板を提供すること。
【課題を解決するための手段】炭酸含有飲料缶の缶蓋に用いられるアルミニウム合金塗装板であって、アルミニウム合金塗装板における缶蓋の内面側に位置する内面塗膜の表面には、ワックスとして薄膜状のカルナウバのみが付着しており、付着しているカルナウバの量が、0.5〜15mg/m2である。内面塗膜は、水系あるいは溶剤系の有機樹脂塗料の固形分100重量部に対して、インナーワックスとしては0.1〜1.5重量部のカルナウバのみを含有した塗料を用いて、30〜60mg/dm2の塗膜重量となるよう塗装焼付けされていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール、発泡酒あるいは雑種の炭酸含有飲料を収容する缶の缶蓋に用いられるアルミニウム合金塗装板に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール、発泡酒あるいは雑種の炭酸含有飲料用の缶に要求される特性として、コップ等の別の容器についだ時の良好な泡立ち性とその泡の消えにくさを示す耐消泡性がある。
泡立ち性を良好にする方法としては、例えば、特許文献1に、缶蓋内面塗膜に凹凸を付与する方法が提案されている。しかしながら、実際にこのような技術を実施した例は見られず、この技術で耐消泡性に優れた蓋用アルミニウム合金塗装板が得られるか否かは不明である。
【0003】
また、缶の密封性を維持するために缶蓋内面の巻締め相当部にシーリングコンパウンドを塗布している。しかし、内容物を充填後、缶蓋を缶胴に巻締める工程において、そのシーリングコンパウンドが巻締め部からしみ出すという不具合が生じる場合がある。これはシーリングコンパウンドと缶蓋内面塗膜との密着力不足により発生する不具合であり、缶蓋内面の塗膜表面に付着しているワックスの種類に影響される。そのため、ワックスを選定するにあたって、上記シーリングコンパウンドの密着性は考慮すべき重要な特性のひとつである。従って、上述した耐消泡性の向上を目指すに当たっては、シーリングコンパウンドと缶蓋内面塗料との密着性を確保することが前提となる。
【0004】
一方、その他のこれまでの缶蓋用アルミニウム合金板に関する技術としては、例えば、以下の特許文献2、3に示されたものがある。
特許文献2には、水性型塗料の塗膜表面に粒径10μm以下の有機潤滑剤粒子が所定量存在する缶蓋用アルミニウム合金塗装板が示されている。しかしながら、この有機潤滑剤粒子の存在は、耐消泡性を改善させることが困難である。
【0005】
特許文献3には、カルナウバとラノリンを特定量インナーワックスとして含有し、表面に付着する両ワックスの割合を限定した缶蓋用アルミニウム合金塗装板が示されている。この板は、缶蓋成形時における金型へのワックス堆積を防止することを目的としたもので、耐消泡性については全く考慮されていない。そして、実際に、この構成では耐消泡性の改善は見られない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−123208号公報
【特許文献2】特開2000−176372号公報
【特許文献3】特開2005−343043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、シーリングコンパウンドと缶蓋内面塗膜との密着性を確保することができ、かつ、耐消泡性に優れた缶蓋を得ることができる缶蓋用アルミニウム合金塗装板を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、炭酸含有飲料缶の缶蓋に用いられるアルミニウム合金塗装板であって、該アルミニウム合金塗装板における上記缶蓋の内面側に位置する内面塗膜の表面には、ワックスとして薄膜状のカルナウバのみが付着しており、付着しているカルナウバの量が、0.5〜15mg/m2であることを特徴とする缶蓋用アルミニウム合金塗装板にある(請求項1)。
【0009】
本発明の缶蓋用アルミニウム合金塗装板は、上記のごとく、内面塗膜の表面に、ワックスとしてはカルナウバのみが薄膜状に付着している。そして、そのカルナウバの付着量が上記特定の範囲に限定されている。この構成を実現することによって、シーリングコンパウンドと缶蓋内面塗膜との密着性の確保と耐消泡性向上の両方を同時に実現することができる。
【0010】
缶ビールなどを別容器に注いだときに発生するクリーミーな泡(きめの細かい泡)は、ビールが缶から出るときおよび別容器内に入るときに受ける衝撃および乱流によって発生する。そのときに大きな泡が別容器に数多く混入すると、クリーミーな小さな泡と合体し消泡してしまうため、クリーミーな泡が短時間に消滅してしまう。
【0011】
発明者による多くの実験の結果、塗装板をビールや発泡酒などに浸漬するだけで、塗膜表面から泡が発生し、その大きさや数は塗膜表面に付着しているワックスの種類に影響されることを見出すことができた。
すなわち、缶に入ったビールや発泡酒を別容器に注ぐときに内容物が缶蓋内面に接触して、塗膜表面に発生した泡が内容物と一緒に別容器に混入することから、缶蓋内面に付着しているワックスの種類が耐消泡性に影響することになることを見出したのである。
そして、缶蓋内面に内容物が接触した際に発生する泡が大きいほどクリーミーな泡を早く消滅させるので、大きい泡の発生を抑制することができるワックスを選択することが重要であることを見出したのである。
【0012】
一方、前述したように、缶蓋用内面塗膜に要求される特性の中で、シーリングコンパウンドとの密着性がある。これは内面塗膜表面に付着しているワックスの種類および量に影響され、原因はシーリングコンパウンドへの溶解しやすさやワックスの分布状態によることも見出した。
【0013】
缶蓋に適用されるワックスはインナーワックスとアウターワックスに大別される。インナーワックスは予め塗料に添加させるワックスで、塗装焼付後に塗膜表面にしみ出させるタイプである。アウターワックスは塗装焼付後に塗膜表面に塗布するタイプである。アウターワックスは一般的にパラフィンが用いられ、パラフィンは搬送経路などに堆積してしまうため、塗布しない方が望ましい。その場合はインナーワックスのみを用いる。
【0014】
各種ワックスにつき、これらの特性を研究した結果、耐消泡性およびシーリングコンパウンドとの密着性に優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板は、上述した通りである。即ち、内面塗膜の表面に、ワックスとして薄膜状のカルナウバのみが付着しており、付着しているカルナウバの量が、0.5〜15mg/m2であることが必須要件となる。ここでいう薄膜状とは、粒状、あるいは凝集状態となって付着しているのではなく、略均一な状態で膜状に配設されている状態をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の缶蓋用アルミニウム合金塗装板は、アルミニウム合金板よりなる基板の両面に塗膜を形成してなる。上記塗膜に適用できる塗料としては、溶剤系塗料と水系塗料の両方がある。
溶剤系塗料としては、例えばエポキシフェノール系樹脂、塩ビオルガノゾル系樹脂、エポキシユリア系樹脂、熱硬化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂がある。
水系塗料としては、エポキシアクリル系樹脂がある。
【0016】
また、上記基板となるアルミニウム合金板の材料としては、開口性等の観点からAl−Mg系合金が主に使用されているが、これに限らず、純アルミニウム系、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Si系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系合金など、いかなるアルミニウム合金でもよい。
【0017】
また、上記塗膜の下地には、化成皮膜が形成されていることが好ましい。すなわち、上記缶蓋用アルミニウム合金塗装板の基板となるアルミニウム合金板には、上記塗膜を形成する前に、下地処理を施すことが好ましい。この場合、洗浄、エッチングのみでもよいが、量産塗装材の塗膜密着力および耐食性を安定して確保するために、化成皮膜を形成することが好ましい。化成皮膜を形成する化成処理としては、リン酸クロメート処理、その他のZr系、あるいはTi系の化成処理がある。
【0018】
また、上記内面塗膜の表面に付着しているカルナウバの量は、上記のごとく0.5〜15mg/m2である。カルナウバの量が0.5mg/m2未満の場合には、缶蓋成形を行う際の成形性に問題が生じる場合がある。一方、15mg/m2を超える場合には、耐消泡性が低下するという問題がある。
【0019】
また、上記内面塗膜は、水系あるいは溶剤系の有機樹脂塗料の固形分100重量部に対して、インナーワックスとしては0.1〜1.5重量部のカルナウバのみを含有した塗料を用いて、30〜60mg/dm2の塗膜重量となるよう塗装焼付けされていることが好ましい(請求項2)。
【0020】
上記の優れた缶蓋用アルミニウム合金塗装板における上記内面塗膜の形成方法としては様々な方法が考えられるが、特に、このように塗料中にインナーワックスとしてのみカルナバを上記特定量含有させ、上記特定の塗膜重量となるように塗装焼付けすることによって、上記構成を確実かつ容易に実現することができる。
【0021】
ここで、上記インナーワックスとして含有させるカルナウバの量が、有機樹脂塗料の固形分100重量部に対して0.1重量部未満の場合には、最終的に内面塗膜の表面にしみ出るカルナウバの量を十分に確保することができず、また、1.5重量部を超える場合には、最終的に内面塗膜の表面にしみ出るカルナウバの量が多くなりすぎる場合がありという問題がある。
また、内面塗膜の塗膜重量が30mg/dm2未満の場合には、量産時にアルミニウム合金コイルの全長全幅に均一に塗装することが難しく、塗膜重量の少ない部分では耐食性を確保できないという問題がある。一方、60mg/dm2を超える場合には耐食性向上効果が飽和し、それを超える塗装塗膜の増大はコストアップにつながる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
本発明の実施例に係る缶蓋用アルミニウム合金塗装板につき説明する。
本例では、板厚0.25mmのA5182合金板よりなる基板にリン酸クロメートを約20mg/m2施し、これに、インナーワックスの種類を変えた内面塗膜を形成した複数の片面塗装板を作製し、各種試験を行った。
【0023】
内面塗膜用の塗料としては、インナーワックスとして、ポリエチレン、カルナウバ、ラノリン、マイクロクリスタリンをそれぞれ単独添加したエポキシユリア系樹脂塗料を用いた。塗装条件は、約45mg/dm2片面塗装し、最高到達温度が260℃になるように30秒焼き付けするという条件とした。なお、上記カルナウバを用いたものとしては、その含有量を変えて3種類作製した。
得られた6種類の塗装板(試料1〜6)を用いて、次のような試験を実施した。
【0024】
(1)耐消泡性試験:
ビーカーに10℃以下に冷やした250〜300mlのビールを入れ、各種片面塗装板(試料1〜6)を幅50mm×長さ70〜80mmの面積に切断したものを30秒浸漬し、内面塗膜表面に発生する泡の分布を調査した。調査結果を表1に示す。
塗膜表面に発生した泡の判定は、大きな泡が多いほど耐消泡性が低下するので、次の通りとした。
耐消泡性良好(○):直径0.2mm以上の泡の面積率が30%未満
耐消泡性通常(△):直径0.2mm以上の泡の面積率が30%以上70%未満
耐消泡性悪い(×):直径0.2mm以上の泡の面積率が70%以上
【0025】
上記直径0.2mm以上の泡の面積率は、浸漬した塗装板の内面塗膜表面を垂直方向から観察し、付着している直径0.2mm以上の泡の塗装板への投影面積の合計をA、塗装板の内面塗膜表面全体の面積をBとした場合の、(A/B)×100(%)の値である。
【0026】
(2)シーリングコンパウンドとの密着性試験:
上記片面塗装板に溶剤系シーリングコンパウンドを薄く塗布し、乾燥後、鉛筆硬度(JIS K5600−5−4に準じて)塗膜との密着性を調査した。シーリングコンパウンドが剥離する鉛筆硬度が高いほど、密着性が良好である。評価結果は、シーリングコンパウンドが剥離しない限界の鉛筆硬度を用い、これを表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
調査の結果、表1に示すごとく、耐消泡性とシーリングコンパウンドとの密着性を両立させるワックスはカルナウバであることが判明した。そして、カルナウバ付着量が多いとシーリングコンパウンドとの密着力が低くなった。
そこで、耐消泡性とシーリングコンパウンドとの密着性を両立させるカルナウバ量は、缶蓋内面側に付着しているカルナウバ量として、少なくとも15mg/m2以下であればよいことがわかる。また、成形性の面から0.5mg/m2以上であることが必要であるので、最適な範囲は0.5〜15mg/m2の範囲であるといえる。
【0029】
なお、表1に示したカルナウバ量の測定方法は次のように実施した。
内面塗膜の表面に付着しているワックスを一定量の四塩化炭素で洗い流し、回収する。上記ワックスは四塩化炭素に溶解するため、ほぼ全量回収可能である。このようにして回収したワックスを含んだ四塩化炭素を80℃に加熱して濃縮した後、ガスクロマトグラムにて分析するという測定方法である。ラノリン、マイクロクリスタリンについても同様である。ただし、ポリエチレンは上記測定方法では定量測定できないので、今回の試験では定量測定を行っていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸含有飲料缶の缶蓋に用いられるアルミニウム合金塗装板であって、
該アルミニウム合金塗装板における上記缶蓋の内面側に位置する内面塗膜の表面には、ワックスとして薄膜状のカルナウバのみが付着しており、付着しているカルナウバの量が、0.5〜15mg/m2であることを特徴とする缶蓋用アルミニウム合金塗装板。
【請求項2】
請求項1において、上記内面塗膜は、水系あるいは溶剤系の有機樹脂塗料の固形分100重量部に対して、インナーワックスとしては0.1〜1.5重量部のカルナウバのみを含有した塗料を用いて、30〜60mg/dm2の塗膜重量となるよう塗装焼付けされていることを特徴とする缶蓋用アルミニウム合金塗装板。

【公開番号】特開2007−203627(P2007−203627A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25980(P2006−25980)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】