説明

缶蓋用水性塗料、缶蓋用プレコートアルミニウム合金板及びその製造方法

【課題】塗装性に優れた缶蓋用水性塗料、耐食性等の塗膜性能に優れた塗膜を有する缶蓋用プレコートアルミニウム合金板、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム合金板の表面に塗膜をプレコートしてなる缶蓋用アルミニウム合金板における塗膜を形成するための水性塗料である。水性塗料100重量部に対し、5〜40重量部の樹脂と、5〜20重量部の溶剤と、40〜90重量部の水を含有している。溶剤のうち、沸点が140℃以下の低沸点溶剤成分の含有量が、水性塗料100重量部に対して2重量部以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装性に優れた缶蓋用水性塗料、耐食性等の塗膜性能に優れた塗膜を有する缶蓋用プレコートアルミニウム合金板、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレコート金属板は、その優れた耐食性、加工性等から、飲料・食缶用材料、建築用材料、家電製品等で広く利用されている。特に基板がアルミニウム材料の場合においては、本来の優れた耐食性にさらに腐食防止効果が樹脂コーティングによって付与され、より高性能な耐食性、高加工性を発揮することが知られている。
【0003】
このようなプレコート金属板を製造する際の塗装方法としては、高速、大量生産に適したコイルコーティングが広く用いられている。使用される塗料は、従来、有機溶剤を多く含有した溶剤系塗料であった。近年は酸性雨、地球温暖化などの環境問題、塗装時の作業環境対策、乾燥焼付け時の排気による汚染、臭気の問題から、溶剤の使用量を少なくした塗料の使用が検討されている。
【0004】
飲料缶においては、通常内外面に塗装が施されており、缶内面塗料としては、密着性、耐食性の面で優れていることから、通常、エポキシ/アクリル樹脂系、エポキシ/フェノール樹脂系等の塗料が用いられている。アルミ缶蓋に用いられる塗料も、環境問題に対する規制、世論の高まりから、改良され、水溶性塗料化が着実に進行しつつある。
【0005】
従来の水性塗料は、溶剤系塗料と比較して耐食性などの塗膜特性、塗装性が劣るのが一般的である。そのため、飲料缶用塗膜においては、内容物が炭酸含有酸性液や果汁液の場合には、それを充填する容器塗装の耐食性に関する要求レベルが厳しく、特に塗膜を厚膜化する必要がある。しかしながら、水性塗料の厚膜化は、「アワ」や「ワキ」と呼称される泡状の塗装欠陥を生じ易く、塗装性における問題が従来から課題となっている。
【0006】
アルミニウム材を水性塗料でコイルコーティングする製造方法としては、化成処理等の前処理後の被塗布材をあらかじめ50〜250℃に加温し、次いで被塗布材の表面に乾燥後の塗布量として50〜200mg/dm2の水性塗料をコイルコーティングすることで、塗装外観に優れ、塗膜性能を損なうことのないコイルコーティング材を得る製造方法が報告されている(特許文献1)。
【0007】
また、塗装前の化成処理として、10〜50mg/m2のZr付着量となる化成処理を施した後、水性塗料を塗布し、乾燥を行うことで、ワキの発生を抑えられた缶蓋用アルミニウム材を得る製造方法が報告されている(特許文献2)。
【0008】
また、厚膜塗装アルミニウム材の製造方法として、クロメート処理を行ったアルミニウム上に水性塗料の固形分量20〜40wt%、有機溶剤量が10〜30wt%、残部が水性媒体からなり、かつ塗料の表面張力が26〜29mN/mで焼付け乾燥を行い、乾燥後重量が90〜150mg/dm2となるように行うことで作業環境性、経済性、耐食性、及び塗装表面性を改善し、優れた塗膜を形成しうる厚膜塗装アルミニウム材を得る製造方法が報告されている(特許文献3)。
しかしながら、これらの従来技術には、塗膜性能に優れた缶蓋用塗膜を形成しうる、塗装性に優れた缶蓋用水溶性塗料はなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平6−79233号公報
【特許文献2】特開平6−79226号公報
【特許文献3】特開2002−219405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、塗装性に優れた缶蓋用水性塗料、耐食性等の塗膜性能に優れた塗膜を有する缶蓋用プレコートアルミニウム合金板、及びその製造方法を提供しようとするものである。なお、本明細書中の「アルミニウム合金板」は、アルミニウムを主体とする金属板及び合金板の総称であり、いわゆるアルミニウム合金の板だけでなく、純アルミニウムの板を含む概念である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、アルミニウム合金板の表面に塗膜をプレコートしてなる缶蓋用アルミニウム合金板における上記塗膜を形成するための水性塗料であって、
該水性塗料100重量部に対し、5〜40重量部の樹脂と、5〜20重量部の溶剤と、40〜90重量部の水を含有しており、
上記溶剤のうち、沸点が100〜140℃の低沸点溶剤成分の含有量が、上記水性塗料100重量部に対して2重量部以下であることを特徴とする缶蓋用水性塗料にある(請求項1)。
【0012】
本発明は、アルミニウム合金板の表面に塗膜をプレコートしてなる缶蓋用アルミニウム合金板における上記塗膜を形成するための水性塗料であり、該水性塗料中の溶剤成分を選定することにより、塗装性に優れた缶蓋用水性塗料を得ることができる。
【0013】
すなわち、上記水性塗料は、該水性塗料100重量部に対し、5〜40重量部の樹脂と、5〜20重量部の溶剤と、40〜90重量部の水を含有している。そして、上記溶剤のうち、沸点が100℃〜140℃の低沸点溶剤成分のものに着目してその含有量を特に制限し、上記水性塗料100重量部に対して2重量部以下としたことが最も注目すべき点である。上記低沸点溶剤成分含有量を2重量部以下に制限することによって、水性塗料は、優れた作業環境性を有し、また、塗膜形成時にワキの発生を抑制することができるのである。
【0014】
第2の発明は、アルミニウム合金板に化成処理を行って板表面に化成皮膜を形成した後、第1の発明の缶蓋用水性塗料を塗布し、焼付け開始後15〜45秒で板面が200〜280℃となる条件で焼付けを行うことにより、上記アルミニウム合金板表面に塗膜を形成することを特徴とする缶蓋用プレコートアルミニウム合金板の製造方法にある(請求項4)。
【0015】
本発明は、上記アルミニウム合金板表面に塗膜を形成することを特徴とする缶蓋用プレコートアルミニウム合金板の製造方法であり、該製造方法の条件を選定することにより、塗膜性能に優れた缶蓋用プレコートアルミニウム合金板を得ることができる。
すなわち、アルミニウム合金板に化成処理を行って板表面に化成皮膜を形成した後、第1の発明の缶蓋用水性塗料を塗布し、焼付け開始後15〜45秒で板面が200〜280℃となる条件で焼付けを行う。
このため、高速塗装において生産性を低下させることなく、上記アルミニウム合金板表面に耐食性等の塗膜性能に優れた塗膜を形成することができる。
【0016】
第3の発明は、第2の発明に記載の製造方法により製造してなり、塗膜中に存在する粒径50μm以上の泡状の欠陥(ワキ)が1個/cm2以下であることを特徴とする缶蓋用プレコートアルミニウム合金板にある(請求項7)。
この場合には、耐食性等の塗膜性能に優れた塗膜を有する缶蓋用プレコートアルミニウム合金板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
第1の発明の缶蓋用水性塗料は、上記のごとく、アルミニウム合金板の表面に塗膜をプレコートしてなる缶蓋用アルミニウム合金板における上記塗膜を形成するための水性塗料であり、該水性塗料100重量部に対し、5〜40重量部の樹脂と、5〜20重量部の溶剤と、40〜90重量部の水を含有している。
上記水性塗料において、樹脂の含有量が5重量部未満の場合には、一回の塗装では所定の塗膜量が得られず、何度も塗装を行う必要があるため、生産効率が低下するという問題があり、一方、樹脂の含有量が40重量部を超える場合には、水性塗料中の樹脂エマルションがその安定分散性を失い、凝集生成し、ゲル化するという問題がある。
【0018】
また、上記水性塗料において、溶剤の含有量が5重量部未満の場合には、塗料の表面張力が高くなり、塗装時にはじき欠陥が発生するという問題があり、一方、溶剤の含有量が20重量部を超える場合には、臭気性に劣り、作業環境性が悪くなるという問題がある。
また、上記水性塗料において、水の含有量が40重量部未満の場合には、臭気性に劣り、作業環境性が悪くなるという問題があり、一方、水の含有量が90重量部を越える場合には、一回の塗装により得られる塗膜量が少なく、所定の塗膜量を得るために何度も塗装を行う必要があるという問題がある。
【0019】
また、上記溶剤のうち、沸点が100℃〜140℃の低沸点溶剤成分の含有量が、上記水性塗料100重量部に対して2重量部以下である。
上記溶剤の沸点が100℃〜140℃の低沸点溶剤成分の含有量が、上記水性塗料100重量部に対して2重量部を超える場合には、ワキの発生を抑制することができなくなるという問題がある。また、沸点が100℃〜140℃の低沸点溶剤成分の含有量は実質的に0としても良い。
上記溶剤において、沸点が100℃以下の溶剤成分は、塗膜焼付け時に水よりも先に揮発するため、造膜時の塗膜形成に影響を及ぼさないが、揮発し易いため、作業環境性を考慮すると、水性塗料100重量部に対して1重量部以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5重量部以下である。もちろん、沸点が100℃以下の溶剤成分の含有量は実質的に0であることが好ましい。
【0020】
上記溶剤のうち、沸点50℃未満の高揮発性成分の含有量は、上記水性塗料100重量部に対して実質的に0であることが好ましい(請求項2)。上記高揮発性成分は常温環境下で揮発するため、積極的に含有される場合には、臭気により作業環境性が悪くなるおそれがあるためである。
上記含有量において、実質的に0とは、積極的に含有しないことを意味するものであり、不可避的不純物として含有されるものは許容される。
【0021】
上記樹脂は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂のグループから選択される1種以上の樹脂よりなることが好ましい(請求項3)。
この場合には、アルミニウム合金板と塗膜との密着性が優れ、また、耐食性、成形性に優れた缶蓋用プレコートアルミニウム合金板を得ることができる。
【0022】
また、上記溶剤としては、例えば、2−メチル−1−プロパノール、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、2−n−ブトキシエタノール、2−(2−nブトキシエトキシ)エタノール等、あるいはその他の公知の溶剤1種以上を用いることができるが、その含有成分の割合は、上記のごとく、沸点によって制限する。
【0023】
第2の発明の缶蓋用プレコートアルミニウム合金板の製造方法においては、アルミニウム合金板に化成処理を行って板表面に化成皮膜を形成した後、第1の発明の缶蓋用水性塗料を塗布し、焼付け開始後15〜45秒で板面が200〜280℃となる条件で焼付けを行うことにより、上記アルミニウム合金板表面に塗膜を形成する。
上記焼付け時間が15秒未満の場合には、焼付け時間が短く、塗装直後の板面温度から所定の焼付け温度に至る昇温速度が速いため、ワキが発生しやすいという問題があり、一方、焼付け時間が45秒を超える場合には、焼付け時間が長く、高速塗装において生産性が低下するという問題がある。
【0024】
また、塗装焼付け時の板面の温度が200℃未満の場合には、塗膜の焼付けが不足し、塗膜中に溶剤が残留するため、缶封入液中に溶剤が溶出し耐食性が維持できないおそれがあり、一方、板面の温度が280℃を超える場合には、塗膜を焼きすぎてしまうため、樹脂間の結合鎖が断裂し、塗膜のバリア性を損なわれ、耐食性が悪化するという問題がある。
【0025】
上記塗膜は、塗膜重量が30〜200mg/dm2となるように形成することが好ましい(請求項5)。この場合には、耐食性などの塗膜性能を満足することができる。
上記塗膜重量が30mg/dm2未満の場合には、耐食性を満足できないというおそれあり、一方、上記塗膜重量が200mg/dm2を超える場合には、ワキ欠陥が発生し易くなり、耐食性が悪化するというおそれがある。
【0026】
上記化成処理は、Cr量が5〜50mg/m2であるクロメート皮膜、またはZr量が3〜50mg/m2である酸化ジルコニウム皮膜或いは水酸化ジルコニウム皮膜、フッ化ジルコニウム皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜を形成させることが好ましい(請求項6)。
上記Cr量、Zr量とは、アルミニウム合金板の表面1m2に付着したクロム又はジルコニウムの重量(皮膜量)である。
これにより、上記塗膜と上記アルミニウム合金板との密着性を向上させることができ、
優れた加工性、耐久性を有する上記缶蓋用プレコートアルミニウム合金板を得ることができる。
【0027】
上記Cr量が5mg/m2未満の場合には、耐食性が悪化するという問題があり、一方、上記Cr量が50mg/m2を超える場合には、化成処理時間が長くなるため、生産性が低下するという問題がある。
また、上記Zr量が3mg/m2未満の場合には、耐食性が悪化するという問題があり、一方、上記Zr量が50mg/m2を超える場合には、化成処理時間が長くなるため、生産性が低下するという問題がある。
【0028】
第3の発明である缶蓋用プレコートアルミニウム合金板においては、第2の発明の製造方法により製造してなり、塗膜中に存在する粒径50μm以上の泡状の欠陥(一般にワキと呼称される)が1個/cm2以下である。
上記ワキの粒径が50μm未満の場合には、耐食性等の塗膜性能に影響を及ぼさない。また、上記ワキが2個/cm2以上存在する場合には、上記塗膜性能に影響を及ぼすという問題がある。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってのみ限定されるものではない。
本例では、複数種類の試料(プレコートアルミニウム合金板)を作製し、本発明の実施例及び比較例として、その特性を評価した。
【0030】
各試料を製作するに当たっては、まず、金属板として、厚さ0.25mmのJIS A5182合金のアルミニウム合金板を使用した。
また、上記アルミニウム合金板には、塗装前の下地処理を施した。具体的には、アルカリ系脱脂材で上記アルミニウム合金板を脱脂後、リン酸クロメート処理、酸化ジルコニウム処理、水酸化ジルコニウム処理、フッ化ジルコニウム処理、またはリン酸ジルコニウム処理を実施した。
【0031】
また、塗布する水性塗料について、水性塗料の塗布量は焼付け乾燥後の塗膜重量が所定量となるように調整した。また、水性塗料中の有機溶剤成分濃度については、GC−MS分析法にて定量した。
【0032】
また、塗装処理は、下地処理後の上記アルミニウム合金板の一方の面に対して、上記水性塗料(有機溶剤を含むエポキシ−アクリル系樹脂)を、ロールコーター方式にて所定量塗布し、上記アルミニウム合金板の表面の焼付け板面温度が所定温度になるようガスオーブン加熱方式の乾燥炉の中で乾燥・焼付け処理を所定時間行い、硬化することによりプレコートアルミニウム合金板を形成した。
なお、下地処理の成分、水性塗料中の成分、塗装処理の条件は、表1、表2、表3に示す。以下に記号を説明する。
A:沸点が40℃の有機溶剤
B:沸点が50℃の有機溶剤
C:沸点が110℃の有機溶剤
D:沸点が140℃の有機溶剤
E:沸点が150℃の有機溶剤
F:沸点が230℃の有機溶剤
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
本例では、各試料について、水性塗料の作業環境性、製造工程における生産性、プレコートアルミニウム板のワキ評価(塗装焼付け後の泡状の欠陥の発生個数)、塗装はじき、及び耐食性を判定した。
<作業環境性>
水性塗料の臭気を感応検査によって測定し、○を合格とした。
(評価基準)
○:匂いを感受しなかった場合
×:匂いを感受した場合
【0037】
<生産性>
高速塗装における生産性を本例で使用したラインにおける通板速度(化成処理速度及び塗装速度)によって判定し、○を合格とした。
(評価基準)
○:100m/min以上
×:100m/min未満
【0038】
<ワキ評価>
ワキ評価は、塗装焼付け後の缶蓋用プレコートアルミニウム合金板の表面を光学顕微鏡にて観察し、塗装面1cm2あたりの50μm以上の泡状の欠陥(ワキ)の発生個数を計測し、○を合格とした。図1に、沸点100℃〜140℃の低沸点溶剤成分の合計含有量と、塗装焼付け後のワキの発生個数との関係を示す。
(評価基準)
○:φ50μm以上のワキが1個以下の場合
×:φ50μm以上のワキが2個以上ある場合
<塗装はじき>
塗装はじきは、塗装焼付け後の缶蓋用プレコートアルミニウム合金板の表面を目視検査によって観察し、塗装はじきの発生頻度を計測し、○を合格とした。
(評価基準)
○:はじきなし
×:はじきあり
【0039】
<耐食性>
耐食性試験は、モデルジュースに浸漬後の缶蓋用プレコートアルミニウム板の腐食状態を目視にて判定し、○を合格とした。
(評価基準)
○:腐食なし
×:腐食あり
これらの評価結果は表4及び表5に示す通りである。
【0040】
まず、異なる溶剤成分を含む水性塗料を用い、塗装処理を同条件で行って作製した複数のプレコートアルミニウム板(試料E1〜試料E10、及び試料C1〜試料C6)について、評価した。
表4より知られるごとく、本発明の実施例としての試料E1〜試料E10は、作業環境性、生産性、ワキの発生個数、塗装はじき、耐食性という全ての評価項目において、いずれも良好な結果を示した。
【0041】
また、表3及び表5より知られるごとく、比較例としての試料C6は高揮発性成分が含有されて本発明の好ましい範囲から外れているため、臭気により、作業環境性が低下した。
【0042】
また、比較例としての試料C1、試料C2、及び試料C3は、沸点が100℃〜140℃の低沸点溶剤成分の含有量が本発明の上限を上回るため、水性塗料の作業環境性が悪く、また、缶蓋用プレコートアルミニウム合金板にワキの発生個数が増加したため、耐食性が低下した。
【0043】
また、比較例としての試料C4は、水性塗料中の有機溶剤成分の含有が本発明の下限を下回るため、塗装後にはじきが生成したため耐食性が低下した。
比較例としての試料C5は、水性塗料中の有機溶剤成分の含有量が本発明の上限を上回るため、水性塗料中の溶剤量が多く臭気があり、作業環境性が低下した。
【0044】
次に、同じ成分の水性塗料を用い、塗装処理を異なる条件で行って作製した複数の試料(試料E11〜試料E14、及び試料C7〜試料C10)について、作業環境性、生産性、ワキの発生個数、塗装はじき、耐食性を評価した。
表4より知られるごとく、本発明の実施例としての試料E11〜試料E14は、作業環境性、生産性、ワキの発生個数、塗装はじき、耐食性という全ての評価項目において、良好な結果を示した。
【0045】
また、表4及び表5より知られるごとく、比較例としての試料C7は、焼付け時間が本発明の下限を下回るため、塗装直後の板面温度から所定の焼き付け温度に至る昇温速度が速くなるため、ワキの発生個数が増加し、耐食性が低下した。
また、比較例としての試料C8は、塗装の焼付け時間が本発明の上限を上回るため、生産性が低下した。
【0046】
また、比較例としての試料C9は、焼付け板面温度が本発明の下限を下回るため、焼付けが不足し、塗膜中に溶剤が残留するため、溶剤が溶出し、塗膜のバリア性を維持することができず、耐食性が低下した。
また、比較例としての試料C10は、焼付け時の板面温度が本発明の上限を上回るため、塗膜の焼き過ぎにより樹脂間の結合鎖が断裂し、ワキが発生し易い、または塗膜のバリア性を維持することができず、耐食性が低下した。
【0047】
また、本発明の塗膜の塗膜重量の好ましい範囲を求めるために、塗膜重量が異なる複数の試料(試料E15、試料E16、試料C11、及び試料C12)について評価した。
表4及び表5より知られるごとく、比較例としての試料C11は、試料E15及び試料E16と比較すると、塗装の塗膜重量が本発明の好ましい範囲の下限を下回っているため、耐食性が低下したことがわかる。また、比較例としての試料C12は、試料E15及び試料E16と比較すると、塗装の塗膜重量が本発明の好ましい範囲の上限を上回っているため、ワキの発生個数が増加して耐食性が低下したことがわかる。
これにより、本発明の塗装の塗膜重量の好ましい範囲が、30〜200mg/dm2であることが確認された。
【0048】
さらに、本発明の下地処理における成分の好ましい範囲を求めるため、皮膜種及び皮膜量の異なる複数の試料(E17〜E24、及びC13〜C16)について評価した。
クロメート皮膜の場合には、実施例としての試料E1、試料E17、及び試料E18は、比較例としての試料C13と比較すると、耐食性が優れていることがわかる。これは、上記試料C13の化成皮膜の皮膜量が本発明の好ましい範囲の下限を下回っていることによると考えられる。また、上述の試料E1、E17、E18は、比較例としてのC14と比較すると、生産性が優れていることがわかる。これは、上記試料C14の化成皮膜の皮膜量が本発明の好ましい範囲の上限を上回っていることによると考えられる。
【0049】
また、ジルコニウム皮膜の場合には、実施例としての試料E19、試料E20及び試料21は、比較例としての試料C15と比較すると、耐食性が優れている。これは、上記試料C15の化成皮膜の皮膜量が本発明の好ましい範囲の下限を下回っていることによると考えられる。また、上述の試料E19、試料E20及び試料21は、比較例としての試料C16と比較すると、生産性が優れていることがわかる。これは、上記試料C16の化成皮膜の皮膜量が本発明の好ましい範囲の上限を上回っていることによると考えられる。
これにより、本発明の化成皮膜の皮膜量の好ましい範囲は、Cr量が5〜50mg/m2、またはZr量が3〜50mg/m2であることがわかる。
【0050】
また、上述したように、図1には、沸点100℃〜140℃の低沸点溶剤成分の合計含有量と塗装焼付け後のワキの発生個数との関係を示す。同図は、横軸に沸点100℃〜140℃の低沸点溶剤成分の合計含有量をとり、縦軸に塗装面1cm2あたりの50μm以上の泡状の欠陥(ワキ)の発生個数をとる。
同図から知られるごとく、上記低沸点溶剤成分の合計含有量が水性塗料100重量部に対し、2重量を超える場合には、ワキの発生個数が増大することがわかる。そのため、上記低沸点溶剤成分の合計含有量は、水性塗料100重量部に対し2重量部以下であることが必須である。
【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例における水性塗料中の低沸点溶剤成分の含有量と塗装焼付け後のワキの発生個数の関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板の表面に塗膜をプレコートしてなる缶蓋用アルミニウム合金板における上記塗膜を形成するための水性塗料であって、
該水性塗料100重量部に対し、5〜40重量部の樹脂と、5〜20重量部の溶剤と、40〜90重量部の水を含有しており、
上記溶剤のうち、沸点が100〜140℃の低沸点溶剤成分の含有量が、上記水性塗料100重量部に対して2重量部以下であることを特徴とする缶蓋用水性塗料。
【請求項2】
請求項1において、上記溶剤のうち、沸点50℃未満の高揮発性成分の含有量は、上記水性塗料100重量部に対して実質的に0であることを特徴とする缶蓋用水性塗料。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記樹脂は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂のグループから選択される1種以上の樹脂よりなることを特徴とする缶蓋用水性塗料。
【請求項4】
アルミニウム合金板に化成処理を行って板表面に化成皮膜を形成した後、請求項1〜3のいずれか一項に記載の缶蓋用水性塗料を塗布し、焼付け開始後15〜45秒で板面が200〜280℃となる条件で焼付けを行うことにより、上記アルミニウム合金板表面に塗膜を形成することを特徴とする缶蓋用プレコートアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、上記塗膜は、塗膜重量が30〜200mg/dm2となるように形成することを特徴とする缶蓋用プレコートアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、上記化成処理は、Cr量が5〜50mg/m2であるクロメート皮膜、またはZr量が3〜50mg/m2である酸化ジルコニウム皮膜或いは水酸化ジルコニウム皮膜、フッ化ジルコニウム皮膜、リン酸ジルコニウム皮膜を形成させることを特徴とする缶蓋用プレコートアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載の製造方法により製造してなり、塗膜中に存在する粒径50μm以上の泡状の欠陥が1個/cm2以下であることを特徴とする缶蓋用プレコートアルミニウム合金板。

【図1】
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【公開番号】特開2007−126549(P2007−126549A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320050(P2005−320050)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】