説明

義歯床の製造方法

【課題】射出成形法および複数の樹脂シートを使用しないで簡便な方法で義歯床を製造することができる義歯および義歯床ならびにそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】患者から採取した歯型模型の歯型形状に対応した形状を有する転写型を作製し、当該転写型の歯型形状に対応した形状を有する面に成形材料を充填し、当該成形材料に前記患者から採取した歯型模型の歯型形状に対応した形状を有する作業模型を作製し、当該作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面にアクリル樹脂シートを載置し、当該アクリル樹脂シートを加熱することによって軟化させ、軟化されたアクリル樹脂シートを当該作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面と密着させ、冷却することにより当該アクリル樹脂シートを固化させ、余剰のアクリル樹脂シートを除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床の製造方法に関する。さらに詳しくは、義歯および義歯床ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体に対して安全であり、耐衝撃性に優れた義歯床の製造方法として、ポリメチルアクリレートのペレットに極性を有するエラストマーを混合し、得られた混合物を乾燥させた後、220〜270℃の温度に加熱溶融させて義歯床型枠に射出成形することにより、義歯床を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1の[請求項6]参照)。
【0003】
しかし、この義歯床の製造方法では、前記ペレットを加熱溶融させ、得られた溶融物を義歯床型枠に充填した後、冷却することによって固化させるため、冷却の際に溶融物が熱収縮することから、所定形状の義歯床を製造することが困難である。さらに、この義歯床の製造方法では、前記溶融物が義歯床型枠の内面にこびりつき、得られる義歯床の表面に義歯床枠を構成している材料の一部が固着するため、義歯床に外観不良が生じるおそれがある。
【0004】
そこで、射出成形後の冷却によって義歯床が収縮したり、義歯床の原料がその成形型内でこびりつくという欠点を解消した義歯床の製造方法として、患者から採取した型を基にして成型した模型の上にソフト質の熱可塑性樹脂シートを載せて熱軟化させて型面に被着させ、その上に弾性に富んだ熱可塑性樹脂シートを積層し、熱軟化させて被着させた状態で、余分の部分を除去して基礎床となる部分を残し、この基礎床の上に義歯床を重ね、かつ人工歯を固定してから、前記模型から取り外す義歯の製作方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかし、この義歯の製作方法には、ソフト質の熱可塑性樹脂シートと弾性に富んだ熱可塑性樹脂シートとを必要とし、これらの樹脂シートは、それぞれ異なる性質を有するため、得られた義歯床を口内で使用しているあいだに、これらの積層された樹脂シート間で隙間が生じ、その隙間に口内の唾液などが入り込むことによって口内で雑菌が繁殖したり、口臭が発生したりするおそれがある。さらに、この義歯の製作方法には、義歯床として、ポリカーボネートやビニル樹脂が用いられているが(特許文献2の段落[0038]、[0067]など参照)、ポリカーボネートには、いわゆる環境ホルモンと称されているビスフェノールAが残留していることがあり、また塩化ビニル樹脂などのビニル樹脂にも、環境ホルモンであると考えられているジオクチルフタレートなどの可塑剤が含有されていることがあるため、いずれも人体に対して好ましいものであるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−258908号公報
【特許文献2】特許第3732474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、従来のような射出成形法によって成形せずに、複数の樹脂シートを使用しないで簡便な方法で義歯床を製造することができる義歯床の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、口内で使用しているあいだに、積層された樹脂シート間で隙間が生じることにより、その隙間に口内の唾液などが入り込むことによって口内で雑菌が繁殖したり、口臭が発生したりするおそれがない義歯床を提供することを課題とする。
【0008】
さらに、本発明は、従来のような射出成形法によって成形せずに、複数の樹脂シートを使用しないで簡便な方法で義歯を製造することができる義歯の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、口内で使用しているあいだに、積層された樹脂シート間で隙間が生じることにより、その隙間に口内の唾液などが入り込むことによって口内で雑菌が繁殖したり、口臭が発生したりするおそれがない義歯を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)患者から採取した歯型模型に形成されている歯型形状に対応した歯型対応形状を有する転写型を作製し、
当該転写型の歯型対応形状を有する面に成形材料を充填し、歯型模型に形成されている歯型形状に対応した形状を有する作業模型を作製し、
当該作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面にアクリル樹脂シートを載置し、
当該アクリル樹脂シートを加熱して軟化させることにより、前記作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面と密着させて冷却し、
前記アクリル樹脂シートの余剰部分を除去する
ことを特徴とする義歯床の製造方法、
(2)前記(1)に記載の製造方法によって得られた義歯床、
(3)患者から採取した歯型模型に形成されている歯型形状に対応した歯型対応形状を有する転写型を作製し、
当該転写型の歯型対応形状を有する面に成形材料を充填し、歯型模型に形成されている歯型形状に対応した形状を有する作業模型を作製し、
当該作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面にアクリル樹脂シートを載置し、
当該アクリル樹脂シートを加熱して軟化させることにより、前記作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面と密着させて冷却し、
前記アクリル樹脂シートの余剰部分を除去し、
前記アクリル樹脂シートの所定位置に人工歯を固定する
ことを特徴とする義歯の製造方法、および
(4)前記(3)に記載の製造方法によって得られた義歯
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の義歯床の製造方法によれば、従来のような射出成形法を使用せずに、また複数の樹脂シートを使用しないで簡便な方法で義歯床を製造することができる。本発明の義歯床は、従来のような複数の樹脂シートが使用されていないので、口内で使用しているあいだに、積層された樹脂シート間で隙間が生じることにより、その隙間に口内の唾液などが入り込むことによって口内で雑菌が繁殖したり、口臭が発生したりすることを防止することができる。
【0011】
また、本発明の義歯の製造方法によれば、従来のような射出成形法を使用せずに、また複数の樹脂シートを使用しないで簡便な方法で義歯を製造することができる。本発明の義歯は、従来のような複数の樹脂シートが使用されていないので、口内で使用しているあいだに、積層された樹脂シート間で隙間が生じることにより、その隙間に口内の唾液などが入り込むことによって口内で雑菌が繁殖したり、口臭が発生したりすることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1で得られた義歯床の図面代用写真である。
【図2】比較例1で得られた義歯床の図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の義歯床の製造方法は、患者から採取した歯型模型に形成されている歯型形状に対応した歯型対応形状を有する転写型を作製し、当該転写型の歯型対応形状を有する面に成形材料を充填し、歯型模型に形成されている歯型形状に対応した形状を有する作業模型を作製し、当該作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面にアクリル樹脂シートを載置し、当該アクリル樹脂シートを加熱して軟化させることにより、前記作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面と密着させて冷却し、前記アクリル樹脂シートの余剰部分を除去することを特徴とする。
【0014】
患者から採取した歯型模型は、通常、歯科医師が患者などの口内の顎堤に歯型模型用材料を充填することによって形成される。この歯型模型は、従来と同様の方法で製造することができる。
【0015】
次に、患者から採取した歯型模型に形成されている歯型形状に対応した歯型対応形状を有する転写型を作製する。転写型を形成する材料は、歯型形状に対応した歯型対応形状を維持することができる材料であることが好ましい。転写型を形成する材料としては、歯型形状に対応した歯型対応形状を維持する観点から、例えば、シリコーン、寒天、アルジネートなどが好ましく、シリコーンがより好ましい。
【0016】
次に、転写型に形成されている歯型対応形状を有する面に成形材料を充填する。成形材料は、載置されたアクリル樹脂シートを軟化させる際の加熱に耐えるものであることが好ましい。また、成形材料は、歯型対応形状を保持する観点から、変形や収縮などが生じがたい材料であることが好ましい。成形材料としては、耐熱性に優れ、収縮などが生じがたいことから、石膏が好ましい。また、転写型の成形材料として石膏を用いた場合には、アクリル樹脂シートを軟化させたときに当該アクリル樹脂シートと転写型とが固着することを防止することができる。成形材料として、石膏を用いる場合、石膏と水との混合物を転写型に形成されている歯型対応形状を有する面に充填し、静置することによって固化させ、歯型模型に形成されている歯型形状に対応した形状を有する作業模型を作製することができる。
【0017】
以上のようにして作製される作業模型は、歯型模型に形成されている歯型形状と実質的に同一の形状を有する。
【0018】
次に、作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面にアクリル樹脂シートを載置する。本発明においては、このように作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面に載置される樹脂シートとして、アクリル樹脂シートが用いられている点に、1つの大きな特徴がある。
【0019】
本発明においては、樹脂シートとしてアクリル樹脂シートが用いられているので、従来のように、積層された樹脂シートを用いる必要がなく、さらに射出成形法を採用したときのように成形材料を加熱溶融させることが不要であり、アクリル樹脂シートを軟化させるだけでよいので、作業模型とアクリル樹脂シートとの固着を防止することができる。したがって、本発明には、アクリル樹脂シートの作業模型との接触面が口腔内の粘膜と接触する面となるが、当該アクリル樹脂シートの作業模型との接触面が作業模型と固着しがたいので、従来のような義歯床の研磨を行なわなくてもよいという利点がある。
【0020】
また、本発明においては、樹脂シートとして、アクリル樹脂シートが用いられ、当該アクリル樹脂シートを加熱して軟化させることにより、当該アクリル樹脂シートと作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面とを密着させることができるため、作業用模型の歯型形状に対応した形状と実質的に同一の形状をアクリル樹脂シートに付与することができる。
【0021】
したがって、本発明によれば、従来の射出成形によって成形したときのような熱収縮による変形や成形材料と成形型との固着を防止し、作業用模型の歯型形状に対応した形状と実質的に同一の形状をアクリル樹脂シートに付与することができる。
【0022】
また、本発明の義歯床は、前記樹脂シートによって製造されることから、義歯床の厚さを均一にすることができるので、従来の射出成形法で義歯床を製造した場合と対比して、義歯床の軽量化、ひいては義歯の軽量化が図られるため、患者の負担を軽減させることができるという利点もある。
【0023】
さらに、前記アクリル樹脂シートには、残存モノマー量が少なく、機械的強度が高く、吸水性が低いので汚れが沈着しがたく、さらに従来の歯科用アクリル樹脂からなる補修材料との親和性に優れているので義歯床の補修が容易であり、義歯床の研磨による光沢仕上げも容易であるなどの利点がある。
【0024】
アクリル樹脂シートの原料ポリマーとしては、耐衝撃性および靭性に優れた義歯床を製造する観点から、ポリメチルメタクリレートと極性を有するエラストマーとの混合物であることが好ましい。
【0025】
ポリメチルメタクリレートの重量平均分子量は、機械的強度を高める観点から、好ましくは100000以上であり、成形性を向上させる観点から、好ましくは300000以下、より好ましくは250000以下である。
【0026】
極性を有するエラストマーとしては、例えば、アクリルゴム、メチルメタクリレート−アルキルアクリレート−スチレン共重合体、フッ素樹脂などが挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記アクリルゴムは、例えば、アルキルアクリレートと架橋性ビニルモノマーとを重合させることによって容易に調製することができる。
【0028】
アルキルアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレートなどのアルキル基の炭素数が1〜12であるアルキルアクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルキルアクリレートのなかでは、そのホモポリマーのガラス転移温度が低く、熱可塑性に優れていることから、イソブチルアクリレート、n−ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
【0029】
架橋性ビニルモノマーとしては、例えば、2−クロロエチルビニルエーテル、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどが挙げられる。架橋性ビニルモノマーの量は、機械的強度を高め、成形性を向上させる観点から、アルキルアクリレート100重量部あたり、好ましくは3〜30重量部、より好ましくは5〜20重量部である。
【0030】
前記メチルメタクリレート−アルキルアクリレート−スチレン共重合体において、アルキルアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレートなどのアルキル基の炭素数が1〜12であるアルキルアクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0031】
前記フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
ポリメチルメタクリレート100重量部あたりの極性を有するエラストマーの量は、靭性を向上させる観点から、好ましくは2重量部以上、より好ましくは5重量部以上であり、機械的強度を高める観点から、好ましくは30重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。
【0033】
前記アクリル樹脂シートの原料ポリマーは、例えば、(株)ビーエムジー製、商品名:アクリショット(登録商標)などとして商業的に容易に入手することができる。
【0034】
アクリル樹脂シートは、例えば、前記原料ポリマーを用いて射出成形することによって製造することができるほか、例えば、Tダイなどを用いて前記原料ポリマーを押出成形することによって製造することができるが、本発明は、アクリル樹脂シートの製造方法によって限定されるものではない。
【0035】
アクリル樹脂シートの厚さは、機械的強度を高める観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、アクリル樹脂シートと作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面とを密着させる観点から、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1mm以下である。
【0036】
次に、作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面にアクリル樹脂シートを載置した後、当該アクリル樹脂シートを加熱して軟化させる。
【0037】
アクリル樹脂シートの加熱温度は、当該アクリル樹脂シートの種類によって異なるので一概には決定することができないが、通常、当該アクリル樹脂シートを十分に軟化させる観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、当該アクリル樹脂シートの溶融を防止する観点から、好ましくは当該アクリル樹脂シートの融点よりも5℃以上低い温度、より好ましくは当該アクリル樹脂シートの融点よりも10℃以上低い温度である。
【0038】
このようにアクリル樹脂シートを加熱し、軟化させることにより、当該アクリル樹脂シートを作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面に密着させることができる。なお、作業模型およびアクリル樹脂シートを成形装置に装着し、アクリル樹脂シートの上部から圧風を付与したり、作業模型の下面から吸引することにより、アクリル樹脂シートを作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面に密着させることが、作業模型の歯型形状に正確に対応した形状を有するアクリル樹脂シートを製造する観点から好ましい。
【0039】
作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面にアクリル樹脂シートを載置し、当該アクリル樹脂シートを加熱して軟化させ、前記作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面と密着させた後、当該アクリル樹脂シートを冷却する。これにより、患者から採取した歯型模型に形成されている歯型形状に対応した歯型対応形状を有するアクリル樹脂シートが得られる。アクリル樹脂シートは、通常、室温にまで冷却させればよい。アクリル樹脂シートを冷却させた後、このアクリル樹脂シートの余剰部分を除去することにより、義歯床が得られる。
【0040】
得られた義歯床は、作業模型から離型されるが、当該作業模型は不要となるため、当該作業模型を破砕することにより、得られた義歯床を回収してもよい。その際、前記アクリル樹脂シートの余剰部分は、義歯床を作業模型から離型する前に除去してもよく、あるいは義歯床を作業模型から離型した後に除去してもよい。
【0041】
本発明の義歯床の製造方法によれば、従来のような射出成形が不要であり、さらに複数の樹脂シートを使用しないで簡便な方法で義歯床を製造することができる。
【0042】
また、本発明の義歯床は、積層された樹脂シートが不要であるため、積層された樹脂シートを用いたときのように、口内で使用しているあいだに積層された樹脂シート間で隙間が生じることにより、その隙間に口内の唾液などが入り込むことによって口内で雑菌が繁殖したり、口臭が発生したりすることを防止することができる。
【0043】
さらに、本発明においては、患者から採取した歯型模型を用いて直接義歯床を製造していないので、当該歯型模型は損傷を受けていないことから、前記で得られた義歯床が当該歯型模型と適合するかどうかを容易に確認することができる。
【0044】
したがって、本発明によれば、義歯床を患者に使用する前に、あらかじめ当該義歯床の製造者らが自ら所定形状の義歯床を製造することができているかどうかを確認することができる。
【0045】
本発明においては、前記で得られた義歯床の所定位置に人工歯を固定することにより、義歯を製造することができる。より具体的には、前記アクリル樹脂シートの余剰部分を除去した後、前記アクリル樹脂シートの所定位置に人工歯を固定することにより、義歯を製造することができる。
【0046】
本発明の義歯床を用いた義歯の製造方法は、従来の義歯床を用いた義歯の製造方法と同様であればよく、特に限定されないが、その一例を以下に説明する。
【0047】
まず、人工歯を義歯床に固定するための金属製バネを、患者から採取した歯型模型に適合するように作製する。一方、人工歯については、ワックスで人工歯を固定し、入れ歯の原型を作製し、この原型を石膏と水との混合物中に埋没させ、石膏を固化させた後、石膏内のワックスを熱湯などによって洗い流し、形成された空間に義歯床の原料と同様にアクリル樹脂などの樹脂を充填することによって形成された人工歯を石膏から取り出すことにより、入れ歯を作製することができる。
【0048】
次に、前記で得られた義歯床に、前記金属製バネを介して前記人工歯を固定することにより、義歯を作製することができる。なお、義歯床および人工歯には、必要により、研磨を施してもよい。
【0049】
以上のようにして得られる本発明の義歯は、従来のような複数の樹脂シートが使用されていないので、口内で使用しているあいだに、積層された樹脂シート間で隙間が生じることにより、その隙間に口内の唾液などが入り込むことによって口内で雑菌が繁殖したり、口臭が発生したりすることを防止することができる。
【0050】
また、本発明の義歯は、患者から採取した歯型模型に嵌めた状態で歯科医師などに納品することができることから、当該義歯が納品された歯科医師らは、作製依頼したときの歯型模型の形状どおりの義歯が製造されているかどうかを容易に確認することができる。また、歯型模型は、破壊させずに歯科医や患者などに返却することができるので、必要により、当該歯型模型を用いて再度、義歯を製造することができるという利点がある。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
実施例1
患者の口内の顎堤に歯型模型用材料を充填することによって形成された歯型模型を歯科医師から入手した。この歯型模型に形成されている歯型形状に対応した歯型対応形状を有する転写型をシリコーンで作製した。
【0053】
次に、転写型に形成されている歯型対応形状を有する面に、石膏と水との混合物を充填し、静置することによって固化させ、歯型模型に形成されている歯型形状に対応した形状を有する作業模型を作製した。
【0054】
前記で得られた作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面に、アクリル樹脂〔(株)ビーエムジー製、商品名:アクリショット(登録商標)〕からなる樹脂シート(縦:15mm、横:15mm、厚さ:15μm)を載置し、当該アクリル樹脂シートを190℃に加熱して軟化させ、前記作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面と密着させた後、当該アクリル樹脂シートを室温まで冷却した。アクリル樹脂シートの冷却後、前記アクリル樹脂シートの余剰部分を除去することにより、義歯床を得た。
【0055】
以上の結果から、実施例1によれば、従来のように射出成形によらずに、複数の樹脂シートを使用しなくても簡便な方法で義歯床を製造することができることがわかる。
【0056】
前記で得られた義歯床を図1に示す。図1は、前記で得られた義歯床の図面代用写真である。図1に示されるように、得られた義歯床は、作業模型の付着がまったくみられず、歯型模型に隙間なく嵌め合わせることができたことから、歯型模型に対応する形状を有することを確認することができた。
【0057】
また、義歯床を製造する際に使用した歯型模型は、義歯床との接触面に欠落部分が認められないので、再利用することができるものであった。
【0058】
実施例2
実施例1で得られた義歯床の所定位置に人工歯を固定することにより、義歯を製造した。この義歯は、従来のような複数の樹脂シートが使用されていないので、口内で使用しているあいだに、積層された樹脂シート間で隙間が生じることにより、その隙間に口内の唾液などが入り込むことによって口内で雑菌が繁殖したり、口臭が発生したりすることを防止することができるものであった。
【0059】
比較例1
従来の義歯床として、患者の口内の顎堤に歯型模型用材料を充填することによって形成された歯型模型を歯科医師から入手し、この歯型模型に、アクリル樹脂〔(株)ビーエムジー製、商品名:アクリショット(登録商標)〕を加熱溶融させた溶融樹脂を充填した後、室温まで冷却することにより、義歯床を製造した。得られた義歯床が歯型模型に固着しているため、離型することが困難であった。得られた義歯床を図2に示す。図2は、前記で得られた義歯床の図面代用写真である。
【0060】
図2に示されているように、得られた義歯床は、白い斑点状の作業模型の付着がみられ、付着した作業模型を除去するのに煩雑な研磨作業を要した。また、義歯床を製造する際に使用した歯型模型は、義歯床との接触面に欠落部分が認められたため、再利用することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者から採取した歯型模型に形成されている歯型形状に対応した歯型対応形状を有する転写型を作製し、
当該歯型対応形状を有する面に成形材料を充填し、歯型模型に形成されている歯型形状に対応した形状を有する作業模型を作製し、
当該作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面にアクリル樹脂シートを載置し、
当該アクリル樹脂シートを加熱して軟化させることにより、前記作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面と密着させて冷却し、
前記アクリル樹脂シートの余剰部分を除去する
ことを特徴とする義歯床の製造方法。
【請求項2】
転写型がシリコーンで形成されてなる請求項1に記載の義歯床の製造方法。
【請求項3】
作業模型が石膏で形成されてなる請求項1または2に記載の義歯床の製造方法。
【請求項4】
アクリル樹脂シートが、ポリメチルメタクリレートと極性を有するエラストマーとの混合物からなる樹脂シートである請求項1〜3のいずれかに記載の義歯床の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られた義歯床。
【請求項6】
患者から採取した歯型模型に形成されている歯型形状に対応した歯型対応形状を有する転写型を作製し、
当該歯型対応形状を有する面に成形材料を充填し、歯型模型に形成されている歯型形状に対応した形状を有する作業模型を作製し、
当該作業模型の歯型形状に対応した形状を有する面にアクリル樹脂シートを載置し、
当該アクリル樹脂シートを加熱して軟化させることにより、前記作業用模型の歯型形状に対応した形状を有する面と密着させて冷却し、
前記アクリル樹脂シートの余剰部分を除去し、
前記アクリル樹脂シートの所定位置に人工歯を固定する
ことを特徴とする義歯の製造方法。
【請求項7】
転写型がシリコーンで形成されてなる請求項6に記載の義歯床の製造方法。
【請求項8】
作業模型が石膏で形成されてなる請求項6または7に記載の義歯床の製造方法。
【請求項9】
アクリル樹脂シートが、ポリメチルメタクリレートと極性を有するエラストマーとの混合物からなる樹脂シートである請求項6〜8のいずれかに記載の義歯床の製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法によって得られた義歯。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−206090(P2011−206090A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73962(P2010−73962)
【出願日】平成22年3月28日(2010.3.28)
【出願人】(510086202)有限会社聖和デンタル (3)
【Fターム(参考)】