説明

耐侵食衝撃性被膜

衝撃損傷を通常与える名目上丸形の粒子及び侵食損傷を通常与えるより侵食性の高い不規則な形状の粒子を含む粒子との衝突を受けやすい表面を保護するのに適する耐侵食衝撃性セラミック被膜。セラミック被膜は、約25〜約100μmの厚さを有する窒化チタンアルミニウム(TiAlN)の少なくとも1つの層;被膜総厚が少なくとも約3μmになるように各層が約0.2〜約1.0μmの厚さを有する窒化クロム(CrN)及びTiAlNの複数の層;及び約15〜約100μmの厚さを有する炭化窒化チタンケイ素(TiSiCN)の少なくとも1つの層という3つの組成のうち1つを有するように形成される。セラミック被膜は約100μmまでの被膜総厚を有するのが好ましく且つ柱状及び/又は緻密微細構造を有するように物理気相成長処理により堆積される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に保護被膜に関し、特に、ガスタービンエンジンにおいて使用するのに適する耐侵食衝撃性被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンを含むガスタービンは、圧縮機、圧縮機からの燃料と空気の混合物を燃焼させることにより燃焼ガスを発生する燃焼器及び燃焼器から排出された燃焼ガスにより回転駆動されるタービンを一般に具備する。圧縮機及びタービンは共に、エーロフォイルを有する羽根を利用する。ガスタービンエンジンの動作中、空気(圧縮機)又は燃焼ガス(タービン)が羽根に衝突するので、羽根の表面は、エンジンにより吸い込まれる空気に含まれる粒子による衝撃損傷及び侵食損傷を受けやすい。ヘリコプターで使用されるターボ軸エンジンは、砂の吸い込みが起こりやすい砂漠環境などのある特定の条件の下で動作する場合に大量の微粒子を吸い込みがちである。
【0003】
衝撃損傷及び侵食損傷はいずれも吸い込まれた粒子によって起こるが、衝撃損傷と侵食損傷は区別できる。衝撃損傷は、主に運動エネルギーの高い粒子の衝突によって起こり、通常エーロフォイルの前縁で発生する。相対的に高速で飛行している場合、粒子はエーロフォイルの加圧側(凹)面に対して浅い角度でエーロフォイルの前縁又は前方部分に衝突するので、前縁との衝突は正面衝突であるか又はそれに近い。エーロフォイルは少なくとも多少の延性を有する合金から通常形成されるので、粒子の衝撃により前縁は変形し且つばりを形成する。それらのばりは気流を妨害し且つ抑制し、圧縮機の効率を劣化し且つエンジンの燃料効率を低下する可能性がある。侵食損傷は、主にエーロフォイルの加圧側をかすめる粒子又は加圧側に斜めに衝突する粒子によって起こり、第1に後縁の前方の領域に集中しがちであり、第2に前縁の後方又は前縁を越えた場所に集中する。そのように表面をかすめる粒子の衝突は、特に後縁の付近で加圧側から材料を剥ぎ取ろうとする。その結果、エーロフォイルは徐々に薄くなり且つ翼弦長損失によって有効表面積を失うので、エンジンの圧縮機効率は低下する。圧縮機羽根は衝撃損傷及び侵食損傷の双方を受けるが、特に前縁に沿って衝撃損傷を受けやすく且つ加圧側(凹)面で侵食損傷を受けやすい。
【0004】
ヘリコプターで使用される種類のガスタービンエンジンの圧縮機は、ブリスクとして製造されることが多い。ブリスクの場合、円板と羽根が別に製造された後に円板に羽根が組み付けられるのではなく、円板及び羽根は1つの一体形部品として製造される。ブリスクの羽根は、物理気相成長(PD)処理及び化学気相成長(CVD)処理を含む種々の技術を使用して堆積されてもよい被膜によって通常保護される。問題になるほどの侵食損傷又は衝撃損傷が起こった場合、ブリスク全体をエンジンから取り外さなければならないので、ブリスクの羽根の保護被膜の有効性は特に重要である。ブリスク羽根を保護するために広く使用されている被膜材料は、一般に窒化物及び炭化物などの硬質耐侵食性材料である。例えば、Gupta他の米国特許第4,904,528号公報(窒化チタン被膜)、Sue他の米国特許第4,839,245号公報(窒化ジルコニウム被膜)及びNaik他の米国特許第4,741,974号公報(炭化タングステン及び炭化タングステン/タングステン被膜)を参照。窒化チタンなどの硬質被膜材料は適切な耐侵食性を示すが、衝撃損傷にはそれほどの耐性を示さない。高速オキシ燃料(HVOF)堆積処理により約0.003インチ(約75μm)の厚さまで塗布された炭化タングステン及び炭化クロムから形成される相対的に厚い被膜によって耐衝撃性の向上が実現されている。当該技術において周知であるように、HVOF堆積は、燃焼中の水素及び酸素の超音速流れに巻き込まれた粒子を表面に吹き付け且つ軟化した粒子を「スプラット」として付着させることにより、非柱状の不規則な平坦粒子を含み且つある程度の不均一性及び多孔性を有する被膜を形成する溶射処理である。
【0005】
上記の被膜材料には所定の厚さが必要とされるため、被膜は過剰に重くなり、その結果、羽根の疲労寿命(例えば、高サイクル疲労(HCF))に悪影響を及ぼす場合もある。そのため、被膜は翼端付近の羽根の加圧側にのみ塗布されることが多い。更に、HVOFによって堆積された炭化タングステン被膜及び炭化クロム被膜は、砂漠砂で見られる相対的に丸い粒子に衝突された場合は十分な性能を示すが、破砕アルミナ及び破砕石英などの鋭い角部によって砂より不規則な形状になりがちである更に侵食作用の強い粒子の衝突を受けた場合には短時間のうちに侵食されてしまう。
【0006】
スパッタリング又は電子ビーム物理気相成長(EB‐PVD)などのPVD処理によって堆積される被膜は、HVOF被膜と比較して緻密であり且つ/又は柱状微細構造を有するという点で、HVOF被膜とは異なる微細構造被膜を堆積する。それらのPVD処理により堆積された場合、窒化物及び炭化物などの硬質耐侵食性材料は、破砕アルミナ及び破砕石英などの侵食作用の強い媒体にさらされた場合の耐侵食性に関して高い性能を示す。しかし、PVDにより堆積された被膜は、延性及び弾性係数などの機械的特性に関してもHVOF堆積被膜とは異なり、丸形粒子の衝突を受けた場合に亀裂及び剥離を発生しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/123737号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の状況を考慮すると、ガスタービン羽根、特に砂漠環境の中で飛行するヘリコプター及び他の航空機の圧縮機羽根の保護被膜として使用するために耐侵食性及び耐衝撃性の双方を示す被膜材料が必要とされる。更に、そのような被膜が圧縮機に過度な重量増加をもたらすことなく又は疲労寿命などの羽根の所望の特性に悪影響を及ぼすことなく有効に作用することも望ましいだろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、衝撃損傷を与えがちな名目上丸形の粒子及び侵食損傷を与えがちな作用のより強い不規則な形状の粒子を含む粒子との衝突を受けやすい表面を保護するのに適する耐侵食衝撃性被膜を提供する。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、耐侵食衝撃性被膜は次の3つの組成のうち1つを有するように形成される。第1の組成は、1つ以上の層として存在する窒化チタンアルミニウム(TiAlN)から成り、各層は約25〜約100μmの厚さを有する。第2の組成は、1つ以上のCrNの層が1つ以上のTiAlNの層に挟まれるように形成された窒化クロム(CrN)及びTiAlNの多層構造から成り、被膜総厚が少なくとも約3μmになるように、各層は約0.2〜約1.0μmの厚さを有する。第3の組成は、1つ以上の層として存在する炭化窒化チタンケイ素(TiSiCN)から成り、各層は約15〜約100μmの厚さを有する。いずれの場合も、被膜総厚は約100μm以下であり、被膜は、柱状及び/又は緻密微細構造を有するように物理気相成長処理により堆積される。これは、同一の組成の被膜をHVOFにより堆積させた場合に得られると考えられる非柱状で不規則な多孔質微細構造とは対照的である。
【0011】
本発明の重大な利点は、被膜総厚が少なくとも15μm、好ましくは少なくとも25μmとなるように堆積された場合、被膜組成が衝撃損傷及び侵食損傷の双方に対してHVOFにより堆積された炭化タングステン被膜及び炭化クロム被膜より優れた耐性を示すことである。更に、被膜組成は、HVOFにより堆積された炭化タングステン被膜及び炭化クロム被膜より薄くても有用なレベルの保護を実現可能である。従って、本発明の被膜は、ガスタービン羽根、特に、砂漠環境の中で飛行するヘリコプター及び他の航空機の圧縮機羽根の保護被膜として使用するのに非常に適しており、被膜の使用により重量が過剰に増すこと又は羽根の所望の特性に悪影響が及ぶことはない。
【0012】
本発明の他の目的及び利点は、以下の詳細な説明から更によく理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の被膜を使用可能な圧縮機ブリスクを示した斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る多層被膜の走査画像を示した図である。
【図3】図3は、本発明の被膜組成及び従来の被膜組成に対して実施された比較侵食試験から得られたデータを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1はガスタービンエンジンのブリスク10を示す。ブリスク10はハブ12を有し、ハブ12から複数の羽根14が延出する。羽根14は、ハブ12と一体に製造されることによりブレードディスク又はブレード一体型ロータとも呼ばれる構造を形成してもよい。「一体」という用語は、複数の部品が当初は個別に形成され且つその後に金属接合されるか又は当初から1つの工作物として形成されたかにかかわらず、部品間に機械的な不連続性を含まずに単一の部材を有効に形成するそれらの部品を示すために使用される。本発明は、航空機用ガスタービンエンジンの低圧ファンとして使用されるブリスクに特に適合するが、他の用途で使用されるブリスクにも適用可能である。更に、例えば、送風機、インペラ、分留器、ファン部品、ピトー管、ベンチュリ管、粒子分離器、航空機着陸装置部品、動力伝達装置部品、計器などの耐衝撃性及び耐侵食性を必要とする他の用途にも有用である。
【0015】
各羽根14は、互いに反対の側に配設された凹(加圧側)面16及び凸(吸引側)面18と、互いに反対の側に配設された前縁20及び後縁22と、翼端24とを有するエーロフォイル部分を有する。羽根14は、所望の形状に形成可能であり、必要な動作負荷に耐え且つハブ材料に適合する合金から製造される。適切な合金の例は、チタン系合金、アルミニウム系合金、コバルト系合金、ニッケル系合金及び鋼系合金を含むが、それらに限定されない。特定の例は、A286(約24wt%〜27wt%のニッケル、13.5wt%〜16wt%のクロム、1wt%〜1.75wt%のモリブデン、1.9wt%〜2.3wt%のチタン、0.10wt%〜0.50wt%のバナジウム、0.003wt%〜0.010wt%のホウ素、最大0.35wt%のアルミニウム、最大0.08wt%の炭素、最大2.00wt%のマンガン、最大1.00wt%のケイ素、残部鉄)及びAM‐355(約15wt%〜16wt%のクロム、4wt%〜5wt%のニッケル、2.5wt%〜3.25wt%のモリブデン、0.07wt%〜0.13wt%の窒素、0.50wt%〜1.25wt%のマンガン、最大0.50wt%のケイ素、最大0.040wt%のリン、最大0.030wt%のイオウ、残部鉄)などの鋼、IN718(約50〜55wt%のニッケル、17〜21wt%のクロム、2.8〜3.3wt%のモリブデン、4.75〜5.5wt%のニオブ+タンタル、0〜1wt%のコバルト、0.65〜1.15wt%のチタン、0.2〜0.8wt%のアルミニウム、0〜0.35wt%のマンガン、0〜0.3wt%の銅、0.02〜0.08wt%の炭素、最大0.006wt%のホウ素、残部鉄)などのニッケル系合金並びにTi‐6Al‐4V(約6wt%のアルミニウム、4wt%のバナジウム、残部チタン)及びTi‐8Al‐1V‐1Mo(約8wt%のアルミニウム、1wt%のバナジウム、1wt%のモリブデン、残部チタン)などのチタン系合金を含む。
【0016】
羽根14の前縁20は衝撃による損傷を受けやすく、侵食による損傷は羽根14の加圧側面16、特に翼端24の付近で起こりやすい。衝撃損傷を最小限に抑えるために、羽根の少なくとも前縁20は耐侵食性及び耐衝撃性のセラミック被膜で保護され、侵食損傷を最小限に抑えるために、羽根14の加圧側面16の少なくとも一部、好ましくは各羽根14の加圧側面16全体は同一の耐侵食性及び耐衝撃性のセラミック被膜で保護される。被膜は各羽根14の吸引側面18並びに羽根14の後縁22にも塗布されてよい。被膜全体が1つ以上のセラミック組成から構成されるのが好ましく、被膜は金属ボンドコートによって羽根基板に接合されてもよい。
【0017】
本発明によれば、セラミック被膜は、TiAlNの1つ以上の層、CrN及びTiAlNを組み合わせた複数の層(例えば、CrNとTiAlNを交互に積層した構造)及びTiSiCNの1つ以上の層を含み、セラミック層間に金属中間層が配置されないのが好ましい。セラミック被膜は約100μmまでの厚さを有するのが好ましく、約25〜約100μmの厚さであるのが更に好ましい。100μmを超える被膜は、保護に関して不必要であり且つ重量超過によって望ましくないと考えられる。
【0018】
セラミック被膜がTiAlNから形成される場合、被膜総厚はTiAlNの1つの層又はTiAlNの複数の層から構成されてもよい。各層は約25〜約100μmの厚さを有してもよい。TiAlNはセラミック被膜の耐侵食性を向上する硬質材料である。TiAlNの複数の層を使用することは、被膜内部の応力除去を促進するのに有益であると考えられる。
【0019】
セラミック被膜がCrN及びTiAlNの複数の層から形成される場合、少なくとも約3μmの被膜総厚を得るために、各層は約0.2〜約1.0μmの厚さを有してもよく、約0.3〜0.6μmの厚さであるのが更に好ましい。CrNはセラミック被膜に耐腐食性及び弾性作用を与え、弾性は耐衝撃性を向上する。TiAlNはセラミック被膜の耐侵食性を向上するような硬度を被膜に与える。CrN層とTiAlN層の順序は重大ではないと思われる。
【0020】
セラミック被膜がTiSiCNから形成される場合、被膜総厚は、TiSiCNの1つの層又はTiSiCNの複数の層から構成されてもよい。各層は約15〜約100μmの厚さを有してもよい。単一の層が適しているのは、セラミック中のケイ素含有量(大まかに言って約3wt%)によってセラミック被膜の侵食性能及び弾性作用が改善されるからである。
【0021】
金属ボンドコートは、1つ以上の金属層から構成されてもよく、チタン及び/又はチタンアルミナイド金属間化合物を含むチタンアルミニウム合金の1つ以上の層であるのが好ましい。セラミック被膜と基板との接着を助けるために、ボンドコートは、セラミック被膜とセラミック被膜が保護する基板との間全体に配置されるように限定されてもよい。
【0022】
セラミック被膜がHVOFにより堆積された場合に形成されると考えられる非柱状で不規則な多孔質微細構造ではなく、柱状及び/又は緻密微細構造を形成するように、セラミック被膜は物理気相成長(PVD)技術により堆積されるのが好ましい。適切なPVD処理は、EB‐PVD、カソードアークPVD及びスパッタリングを含み、スパッタリングが好ましいと考えられる。適切なスパッタリング技術は、直流ダイオードスパッタリング、高周波スパッタリング、イオンビームスパッタリング、反応性スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、プラズマ強化マグネトロンスパッタリング及びステアドアークスパッタリングを含むが、それらに限定されない。マグネトロンスパッタリング及びステアドアークスパッタリングは被覆速度が速いため、本発明のセラミック被膜の製造にはそれらの方法が特に好ましい。堆積される被膜の炭化物成分、ケイ素成分及び/又は窒化物成分を形成するために、スパッタリングは、炭素の供給源(例えば、メタン)、窒素の供給源(例えば、窒素ガス)又はケイ素及び炭素の供給源(例えば、トリメチルシラン(CHSiH)を含む雰囲気の中で実行されるのが好ましい。金属ボンドコート及び他の任意の金属層は、例えば、アルゴンなどの不活性雰囲気の中でスパッタリング処理を実行することにより堆積されるのが好ましい。
【0023】
図2は、TiAlN層とCrN層を交互に積層することにより形成された本発明の多層被膜の走査画像を示す。各層は約1μmの厚さに堆積され、被膜総厚は約18μmであった。図2から明らかであるように、各層は個別に分かれているが、それぞれ隣接する層に適切に接合されている。
【0024】
本発明に至る研究の中で、先に説明した組成及び微細構造を有する被膜をTi‐6Al‐4V基板試料、Ti‐8Al‐1V‐1Mo基板試料及びIN718基板試料の上に堆積させ、且つ同様の基板上に堆積された他の被膜組成並びに被膜なしのTi‐6Al‐4V基板、Ti‐8Al‐1V‐1Mo基板及びIN718基板と共に試験した。被膜は、反応性ガスが存在する中でステアドアークスパッタリング(反応性スパッタリング)により25μm未満から約50μmまでの厚さに堆積された。特定の被膜組成は、本発明のセラミック被膜(TiAlNの単一の層、TiAlN及びCrNのほぼμm厚さの交互積層及びTiSiCNの単一の層)、並びにPVDにより堆積された窒化チタン(TiN)被膜及びHVOFにより堆積された炭化タングステン/コバルト(WC/Co)被膜を含んでいた。
【0025】
侵食媒体(侵食物質)として砂漠砂を使用して被膜の侵食速度を評価し、且つ侵食速度に基づいて被膜性能(侵食物質1gあたりの被膜厚さ損失)を評価した。侵食物質は、約50〜約1,500μmの粒径を有し、約30°の入射角及び約100〜400m/sの速度で試験試料に向かって発射された。試験の結果を図3に示す。図3は、TiAlN被膜が1つの被膜群としてこの試験条件の下で最良の性能を示すことを立証している。IN718基板上の2つのTiAlN被膜の侵食速度の相違及びTi‐6Al‐4V基板上の2つのTiAlN被膜の侵食速度の相違は被膜の厚さの差に起因するものであり、厚さが50μmに近づくにつれて性能は向上し、厚さが25μm未満の被膜の性能は低下する。被膜の厚さが侵食速度(耐性)に関して結果を左右するパラメータあり且つこの試験条件の下では少なくとも25μmの厚さが好ましいと結論付けられることはこれらの試験から明らかである。被膜群として、HVOF WC/Co被膜は2番目によい性能を示した。しかし、続いて50μmを超える厚さに堆積されたTiAlN/CrN試料及びTiSiCN試料を試験した結果、HVOF WC/Co被膜より侵食速度が遅い(耐侵食性が高い)ことがわかり、これは、侵食速度が被膜厚さに従属すること及び十分な厚さに堆積された場合のTiAlN/CrN及びTiSiCNはHVOF WC/Co被膜よりよい耐侵食性を示すことが可能であるという結論を強固なものにする。
【0026】
研究により、スパッタリングにより形成されたTiAlNの単一の層、TiAlN及びCrNの交互積層又はTiSiCNの単一の層から成る被膜は、丸形衝突媒体に対して従来のHVOF炭化物被膜より優れた耐衝撃侵食性を示すことができるという結論が得られた。耐衝撃侵食性の向上は被膜と基板との接着及び被膜の個々の層の接着の改善によるものであり、これは被膜の亀裂及び剥離が減少したことにより立証される。
【0027】
特定の実施形態に関して本発明を説明したが、当業者により他の形態が採用されてもよいだろうということは明らかである。従って、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【符号の説明】
【0028】
10 ブリスク
12 ハブ
14 羽根
16 凹面
18 凸面
20 前縁
22 後縁
24 翼端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の衝突を受けやすい表面の耐侵食衝撃性セラミック被膜において、柱状及び/又は緻密微細構造を有し、約100マイクロメートルまでの被膜総厚を有し且つ
約25から約100マイクロメートルの厚さを有する少なくとも1つのTiAlNの層;
TiAlNの層の間にCrNの層が挟まれ、被膜総厚が少なくとも約3マイクロメートルになるように各層が約0.2から約1.0マイクロメートルの厚さを有する複数のCrN及びTiAlNの層;及び
約15から約100マイクロメートルの厚さを有する少なくとも1つのTiSiCNの層より成る群から選択された組成を有するように物理気相成長処理により堆積された耐侵食衝撃性被膜。
【請求項2】
前記セラミック被膜は、チタン及びチタンアルミニウム合金より成る群から選択されたボンドコートによって前記表面に接合される請求項1記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項3】
前記セラミック被膜はTiAlNから形成される請求項1記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項4】
前記セラミック被膜はTiAlNの単一の層から形成される請求項3記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項5】
前記被膜総厚は約25から約100マイクロメートルである請求項3記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項6】
前記セラミック被膜は複数のCrN及びTiAlNの層から形成される請求項1記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項7】
前記被膜総厚は約25から約100マイクロメートルである請求項5記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項8】
前記セラミック被膜はTiSiCNから形成される請求項1記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項9】
前記セラミック被膜はTiSiCNの単一の層から形成される請求項8記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項10】
前記被膜総厚は約25から約100マイクロメートルである請求項8記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項11】
前記表面はガスタービンエンジン部品にある請求項1記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項12】
前記部品はブリスクのエーロフォイルである請求項11記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項13】
前記エーロフォイルは、互いに反対の側に配設された凹面及び凸面と、互いに反対の側に配設された前縁及び後縁とを有し且つ前記セラミック被膜は少なくとも前記凹面に存在する請求項12記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項14】
前記セラミック被膜は前記エーロフォイルの前記凹面全体を被覆する請求項13記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項15】
前記表面は、鋼合金、ニッケル系合金及びチタン系合金より成る群から選択された基板材料により形成される請求項11記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項16】
請求項1記載の耐侵食衝撃性被膜を堆積する方法において、前記セラミック被膜をスパッタリングにより堆積することから成る方法。
【請求項17】
ガスタービンのエーロフォイルの凹面の耐侵食衝撃性セラミック被膜において、柱状及び/又は緻密微細構造を有し、約100マイクロメートルまでの被膜総厚を有し且つ
約25から約100マイクロメートルの厚さを有する少なくとも1つのTiAlNの層;
TiAlNの層の間にCrNの層が挟まれ、被膜総厚が少なくとも約3マイクロメートルになるように各層が約0.2から約1.0マイクロメートルの厚さを有する複数のCrN及びTiAlNの層;及び
約15から約100マイクロメートルの厚さを有する少なくとも1つのTiSiCNの層より成る群から選択された組成を有するようにスパッタリングにより堆積された耐侵食衝撃性被膜。
【請求項18】
前記セラミック被膜はTiAlNの単一の層から形成される請求項17記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項19】
前記セラミック被膜はCrN及びTiAlNの複数の層から形成される請求項17記載の耐侵食衝撃性被膜。
【請求項20】
前記セラミック被膜はTiSiCNの単一の層から形成される請求項17記載の耐侵食衝撃性被膜。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−501386(P2012−501386A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525039(P2011−525039)
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/051092
【国際公開番号】WO2010/044936
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】