説明

耐候性に優れた難燃性樹脂組成物および絶縁電線

【課題】高い耐候性を示す電気絶縁性の難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)ポリオレフィン樹脂、(b)エチレン系共重合体及び(c)スチレン系エラストマーからなる群から選ばれた少なくとも1種を主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウムが120〜320質量部を加えた難燃性樹脂組成物において上記水酸化マグネシウムの少なくとも1/3以上が脂肪酸及び/又はリン酸エステルで表面処理されており、その水酸化マグネシウムに対する処理量が1.5質量%以上である難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がない電気絶縁性の難燃性樹脂組成物および電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線には、難燃性、引張特性、耐熱性など種々の特性が要求される。このため、これら絶縁電線の被覆材料として、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドや分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合した、エチレン系共重合体を主成分とする樹脂組成物を使用することがよく知られている。
近年、このような被覆材料を用いた絶縁電線を適切な処理をせずに廃棄した場合の種々の問題が提起されている。例えば、埋立処理した場合には、被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤の溶出、また焼却した場合には、多量の腐食性ガスの発生、ダイオキシンの発生などという問題が起こる。
このため、有害な重金属やハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料で電線を被覆する技術の検討が盛んに行われている(特許文献1及び2参照)。
従来のノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させたものであり、このような被覆材料の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物が用いられ、また、樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体などが用いられている(特許文献3参照)。
【0003】
ところで電子機器内に使用される電子ワイヤハーネスには、安全性の面から高い難燃性が要求されており、非常に厳しい難燃性規格 電気用品安全法に規定されているFマークなどに規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)のVW−1規格やJIS C3005に規定される60度傾斜難燃特性をクリアするものでなければならない。
【0004】
ノンハロゲン難燃材料は上記のような難燃性を確保するために、上述の樹脂成分に対し、同量程度以上の水酸化マグネシウムを加えることにより難燃性を保持している。
しかしながらこのような水酸化マグネシウムを大量に加えた樹脂組成物及びこれを用いた電線は著しく耐候性に乏しく、屋外や照明配線に使用することが出来ない。
そこでこれまで屋外でノンハロゲン難燃材料を被覆した電線・ケーブルを使用する際には、カーボンを加えることにより耐候性を高め使用してきた。しかし、照明系配線等の種々の配線を行い場合においては、電線の多色化が不可欠であり、このような領域にノンハロゲン電線が使用できない等の問題があった。(例えば、特許文献4参照)
【0005】
【特許文献1】特開2000−129049号公報
【特許文献2】特開2001−60414号公報
【特許文献3】特開2000−129064号公報
【特許文献4】特開平10−147651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は高い耐候性を示す電気絶縁性の難燃性樹脂組成物を提供することである。
さらに本発明の目的は上記の難燃性樹脂組成物を被覆した絶縁電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、水酸化マグネシウムの表面に特定の処理を施した水酸化マグネシウムを使用することによって高い耐候性を維持可能なノンハロゲン電線を得ることができることを見い出した。さらに水酸化マグネシウムの純度やベース樹脂の組成を制御することにより、さらに高い耐候性を保持することができることを見い出した。本発明はこれらの知見に基づきなされるに至ったものである。
すなわち本発明は、
(1)(a)ポリオレフィン樹脂、(b)エチレン系共重合体及び(c)スチレン系エラストマーからなる群から選ばれた少なくとも1種を主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウムが120〜320質量部を加えた難燃性樹脂組成物において、
前記水酸化マグネシウムの少なくとも1/3以上が脂肪酸及び/又はリン酸エステルで表面処理されており、その水酸化マグネシウムに対する処理量が1.5質量%以上であることを特徴とする難燃性樹脂組成物、
(2)ポリオレフィン樹脂及び/又はエチレン系共重合体及び/又はスチレン系エラストマーを主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウムが120〜320質量部を加えた難燃性樹脂組成物において、
前記水酸化マグネシウムの少なくとも1/2以上が脂肪酸及び/又はリン酸エステルで表面処理されており、その水酸化マグネシウムに対する処理量が1.5質量%以上であることを特徴とする難燃性樹脂組成物、
(3)前記樹脂成分(A)100質量部に対し水酸化マグネシウムの量が200〜320質量部であることを特徴とする(1)または(2)項記載の難燃性樹脂組成物、
(4)前記樹脂成分(A)において、エチレン系共重合体中の酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、及び不飽和カルボン酸成分の合計が樹脂成分中の21〜68質量%であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物、
(5)前記樹脂成分(A)において、エチレン系共重合体中の酢酸ビニル量、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、及び不飽和カルボン酸成分の合計が樹脂成分中で38〜68質量%であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物、
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を導体又は光ファイバの周りに被覆したことを特徴とする絶縁電線、及び
(7)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物が導体又は光ファイバの周りに被覆され、該被覆部樹脂組成物が架橋されていることを特徴とする絶縁電線
により達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃性樹脂組成物は、導体の周りに被覆することにより、高度の難燃性と優れた機械特性、耐候性を有し、かつ埋立、燃焼などの廃棄時においては、重金属化合物やリン化合物の溶出や、多量の腐食性ガスの発生のないノンハロゲン絶縁電線を提供することができる。さらには、任意の色に着色可能な絶縁電線を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明に用いられる樹脂成分(A)について説明する。樹脂成分(A)は(a)ポリオレフィン樹脂、(b)エチレン系共重合体及び(c)スチレン系エラストマーからなる群から選ばれた少なくとも1種を主成分とするものである。
本発明において(a)ポリオレフィン樹脂、(b)エチレン系共重合体及び(c)スチレン系エラストマーからなる群から選ばれた少なくとも1種を主成分とするとは樹脂成分(A)中(a)〜(c)成分の合計が、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であることをいう。
【0010】
(a)ポリオレフィン樹脂
ポリオレフィン樹脂としてはポリプロピレン樹脂、エチレン・αオレフィン共重合体が挙げられる。
本発明に用いることのできるポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体や、プロピレンと他の少量のα−オレフィン(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)との共重合体、またポリプロピレンとエチレンープロピレンゴムの共重合体の混合物等が挙げられる。
エチレン・α−オレフィン共重合体としては、好ましくは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体であり、α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。
エチレン・α−オレフィン共重合体としては、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)、EPR(エチレン・プロピレンゴム)、EBR(エチレン・ブタジエンゴム)、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体等がある。このなかでも、シングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましい。
本発明において用いられるシングルサイト触媒の存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体としては、Dow Chemical社から、「AFFINITY」「ENGAGE」(商品名)が、Exxon Chemical社から、「EXACT」(商品名)が、日本ポリケムから「カーネル」がそれぞれ上市されている。
ポリオレフィン樹脂(a)の含有量は、樹脂成分(A)中、好ましくは80〜5質量%であり、より好ましくは50〜5質量%の範囲である。
【0011】
(b)エチレン系共重合体
本発明に用いられるエチレン系共重合体としてはエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸アルキル系アクリルゴム、エチレン−アクリル酸アルキル−アクリル酸系アクリルゴムなどが挙げられる。エチレン系共重合体の中で難燃性や耐候性を向上させるためにはエチレン−酢酸ビニル共重合体を使用するのがよい。
エチレン系共重合体(b)の含有量は、樹脂成分(A)中、好ましくは95〜30質量%であり、より好ましくは90〜50質量%の範囲である。
【0012】
また樹脂成分中の酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、不飽和カルボン酸成分の合計が21〜68質量%、さらに好ましくは38〜68質量%となるように1種類以上のエチレン系共重合体を使用することにより耐候性が著しく向上する。
さらに難燃性においても樹脂成分中の酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、不飽和カルボン酸成分の合計が高いほど難燃性が向上する。
【0013】
(c)スチレン系エラストマー
芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物を主体とする共重合体の水素添加物が好ましく用いられる。
具体的には共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック構造を主体とする共重合体又はランダム構造を主体とする共重合体の水素添加物であって、芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレンなどがあげられ、中でもスチレンが好ましい。
また共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどがあげられ、これらのうちから、1種または2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。
【0014】
また、水素添加量として共役ジエン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
芳香族ビニル化合物成分の含有量は、スチレン系エラストマー中50質量%以下が好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。この量が多すぎると柔軟性が低下する。
また、スチレン系エラストマーの数平均分子量は5,000〜1,000,000程度が好ましく、単分散度(Mw/Mn)の値が10以下が好ましい。また、230℃、荷重21.18Nでのメルトフローレート(以下、MFRと記す)(ASTM D 1238準拠)は12g/10分以下が好ましく、さらに好ましくは6g/10分以下が好ましい。
このような材料としては例えばクラレからセプトン(商品名)、JSR(株)からダイナロン(商品名)が販売されているものがある。
スチレン系エラストマー(c)の含有量は、樹脂成分(A)中、好ましくは0〜30質量%であり、より好ましくは0〜25質量%の範囲である。
【0015】
本発明においては難燃性樹脂組成物には、樹脂成分(A)として上記の(a)〜(c)に加えて、任意成分として下記の(d)、(e)を含有させることができる。さらに(B)の水酸化マグネシウムに加えて下記(C)〜(F)の抗酸化剤や紫外線吸収剤や光安定剤を含有させることができる。以下これらの添加成分について説明する。
【0016】
(d)非芳香族系ゴム用軟化剤
樹脂成分(A)にスチレン系ブロック共重合体を使用する場合、非芳香族系の鉱物油または液状もしくは低分子量の合成軟化剤を用いることができる。その含有量は、好ましくは樹脂成分(A)中30質量%以下であり、より好ましくは0〜15質量%の範囲である。
ゴム用として用いられる鉱物油軟化剤は、芳香族環、ナフテン環およびパラフィン鎖の三者の組み合わさった混合物であって、パラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものをパラフィン系とよび、ナフテン環炭素数が30〜40%のものはナフテン系、芳香族炭素数が30%以上のものは芳香族系と呼ばれて区別されている。
本発明に用いられる鉱物油系ゴム用軟化剤は上記区分でパラフィン系およびナフテン系のものである。芳香族系の軟化剤は、その使用によりスチレン系ブロック共重合体が可溶となり、架橋反応を阻害し、得られる組成物の物性の向上が図れないので好ましくない。鉱物油系ゴム用軟化剤としては、パラフィン系のものが好ましく、更にパラフィン系の中でも芳香族環成分の少ないものが特に好ましい。
これらの非芳香族系ゴム用軟化剤の性状は、37.8℃における動的粘度が20〜500cSt、流動点が−10〜−15℃、引火点(COC)が170〜300℃を示すものが好ましい。
【0017】
(e)不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂
樹脂成分(A)には、前記の(a)のポリオレフィン樹脂の具体例の1種として、不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン樹脂を含有させてもよい。その含有量は、好ましくは樹脂成分(A)中30質量%以下であり、より好ましくは0〜20質量%の範囲である。
不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されるポリオレフィン樹脂としては、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる(以下、これらを併せて不飽和カルボン酸等という)。変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などを挙げることができる。ポリオレフィンの変性は、例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。不飽和カルボン酸またはその誘導体による変性量は通常0.1〜7質量%程度である。
この不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリオレフィン樹脂を加えることにより、得られる樹脂組成物の伸びを大きくすると共に強度を保持する効果があり、さらに体積固有抵抗を高く保つことが可能となる。このポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したものは、金属水和物による機械特性の低下を緩和する効果や電線の白化を防ぐ効果もある。
【0018】
(B)水酸化マグネシウム
本発明においては、樹脂組成物、配線材に難燃性を付与することを目的として、前記熱可塑性樹脂成分(A)に所定量の水酸化マグネシウム(B)を配合する。水酸化マグネシム(B)の配合量は樹脂成分(A)100質量部に対し、120〜320質量部、好ましくは150〜300質量部、さらに好ましくは180〜280質量部である。
ポリオレフィン樹脂やエチレン系共重合体などの樹脂成分に通常の水酸化マグネシウム等の金属水和物を120重量部以上加えてゆくと、樹脂組成物の耐候性が著しく低下する。
ところが水酸化マグネシウムに脂肪酸及び/又はリン酸エステルを1.5質量%以上表面処理を施した水酸化マグネシウムを用いると、大幅に耐候性が向上する。この場合、水酸化マグネシウム中の鉄とマンガンの総量が200ppm以下とすることにより、さらに耐候性が向上する。
【0019】
本発明において用いられる水酸化マグネシウムは質量ベースで少なくとも1/3以上、さらに好ましくは1/2が脂肪酸及び/又はリン酸エステルで処理されていることが必要で、さらに表面処理された水酸化マグネシウムにおける処理前の水酸化マグネシウム当り用いられた脂肪酸及び/又はリン酸エステルの質量、すなわち水酸化マグネシウムに対する処理量は1.5質量%以上でなければならない。
脂肪酸としてはステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ベヘニン酸、アラキジン酸及びナトリウム塩やカリウム塩などの金属塩化合物が挙げられる。
リン酸エステルは下記式(2)のものが挙げられ、ステアリルアルコールリン酸エステルやその金属塩やラウリルアルコールリン酸エステルやその金属塩等が挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
[式(2)中、Rは炭素原子数1〜24のアルキル基またはアルケニル基、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基、Mはアルカリ金属または炭素原子数1〜4のアルキルアミンのカチオンまたは式(3)
【0022】
【化2】

【0023】
(ただし式(3)中、R’は水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基、Bは炭素原子数2〜4のアルキレン基、rは1〜3の整数を示す)で示されるアルカノールアミンのカチオンを表し、nは0〜6の整数、mは1または2を表す。]
【0024】
この処理量は水酸化マグネシウム量に対して1.5質量%以上、好ましくは1.8質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上である。
さらに処理された又は処理される本水酸化マグネシウムに対して、シランカップリング等で処理しても良い。
【0025】
上記の水酸化マグネシウムに加えて、無処理、或いはシランカップリング剤で処理された水酸化マグネシウムを追加して加えてもよい。但し水酸化マグネシウムは少なくとも1/3以上、さらに好ましくは1/2が脂肪酸及び又はリン酸エステルで処理されていることが必要で、さらにその水酸化マグネシウムに対する処理量は1.5質量%以上でなければならない。
【0026】
脂肪酸及び/又はリン酸エステルで1.5質量%以上で処理された水酸化マグネシウムを使用することにより、飛躍的に耐候性が向上する。特に水酸化マグネシウム量が樹脂成分100質量部に対し、120質量部以上の場合に顕著である。この要因についてはっきりしてはいないものの、紫外線によりポリマーと樹脂の界面に欠陥が生じ、ラジカルが発生するが、脂肪酸やリン酸エステルで十分水酸化マグネシウムが処理されているものは、このラジカルの発生が少なく、ポリマーの劣化が生じにくいことが考えられる。
特に水酸化マグネシウムの配合量が150質量部を超えると、この効果が非常に顕著となり、当該処理の水酸化マグネシウムが必要不可欠となる。
【0027】
(C)ヒンダートフェノール抗酸化剤
本発明においてヒンダートフェノール抗酸化剤を含有させるのが好ましい。
その具体例としてはペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)―1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス(3−(3,5−ジ−t―ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。
【0028】
通常ヒンダートフェノール抗酸化剤の使用量は樹脂成分100質量部に対して0.5質量部以下であるが、本発明の樹脂組成物では樹脂成分100質量部中好ましくは少なくとも1質量部、より好ましくは1.3質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上である。
このヒンダートフェノール抗酸化剤は本樹脂組成物の耐熱性を保持するだけでなく、光によって劣化したラジカルをトラップする働きがある。さらにシランカップリング剤によって結合された金属水和物とポリマー間の光による劣化により生じたラジカルをトラップし、これを修復する事により、ポリマーと金属水和物間の欠陥を抑え、紫外線等の光で当たった後の樹脂組成物の伸びの低下やストレスクラックを抑えることが出来る。
【0029】
(E)ベンゾフェノン系又はベンゾトリアゾール紫外線吸収剤
本発明において含有させることができるベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0030】
また本発明に使用しうるベンゾトリアゾール紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル)−ベンゾトリアジン、2−(2’ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアジン、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミル)ベンゾトリアジン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアジン等が挙げられる。
【0031】
これらの紫外線吸収剤は金属水和物の塩基性やヒンダートアミン系光安定剤の塩基性により分解が引き起こされる。特に金属水和物として水酸化マグネシウムを大量に用いた場合、分解が激しくなる。樹脂組成物として酸含有量20重量%以上のエチレン系共重合体を樹脂成分として使用することにより、この塩基性が抑えられ、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール紫外線吸収剤の分解を抑えることが出来るため、耐候性を大幅に向上することが可能となる。
このベンゾフェノン系及び/又はベンゾトリアゾール紫外線吸収剤の含有量は樹脂成分100質量部中、好ましくは0.4〜8質量部、より好ましくは0.8〜6質量部、さらに好ましくは1.2〜5質量部、特に好ましくは1.5〜5質量部である。
【0032】
(F)ヒンダートアミン系光安定剤
本発明に使用されるヒンダートアミン光安定剤はコハク酸ジメチル1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ((6,(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ))、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4―ピペリジル)セバケート等が挙げられる。
このヒンダートアミン系光安定剤はシランカップリング剤を介しての金属水和物とポリマーの結合が紫外線等の光で切断された際、修復する作用がある。特に樹脂表面近傍におけるこの結合の修復に大きな効果がある。その使用量は樹脂成分(A)100質量%中、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0033】
この他、汎用添加剤として、2次老化防止剤としてチオエーテル系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、ベンゾイミダゾール系老化防止剤等が挙げられる。
【0034】
本発明の電気絶縁性の難燃性樹脂組成物(以下、単に「本発明の絶縁樹脂組成物」ともいう)には、必要に応じスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を配合することができ、さらに難燃性を向上することができる。これらの化合物を用いることにより、燃焼時の殻形成の速度が増大し、殻形成がより強固になる。
本発明で用いるホウ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛は平均粒子径が5μm以下が好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
本発明で用いることのできるホウ酸亜鉛として、具体的には例えば、アルカネックスFRC−500(2ZnO/3B23・3.5H2O)、FRC−600(いずれも商品名、水澤化学社製)などがある。またスズ酸亜鉛(ZnSnO3)、ヒドロキシスズ酸亜鉛(ZnSn(OH)6)として、アルカネックスZS、アルカネックスZHS(いずれも商品名、水澤化学社製)などがある。
【0035】
本発明の絶縁樹脂組成物には、さらに電線・ケ−ブルにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0036】
金属不活性剤としては、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などがあげられる。
難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボンなどがあげられる。
【0037】
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などがあげられ、なかでも、ワックスE、ワックスOP(いずれも商品名、Hoechst社製)などの内部滑性と外部滑性を同時に示すエステル系滑剤が好ましい。
【0038】
本発明の絶縁樹脂組成物は、上記の各成分を、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダ、ロールなど、通常用いられる混練装置で溶融混練して得ることができる。
【0039】
次に本発明の絶縁電線について説明する。
本発明の絶縁電線は、導体及び光ファイバの外側に上記の本発明の絶縁樹脂組成物を被覆されたものである。被覆部樹脂組成物は架橋されていることが好ましい。本発明の絶縁樹脂組成物を通常の電線製造用押出成形機を用いて導体や光ファイバ周囲に押出被覆することができる。
【0040】
シランカップリング剤とポリマーを結合させるためその後架橋しても良いし、ニーダやバンバリーミキサーで樹脂組成物作成時に樹脂の一部分を架橋すると共にポリマーと金属水和物をシランカップ剤を介して結合させても良い。
樹脂被覆層の架橋の方法は特に制限はなく、電子線架橋法や化学架橋法などの常法で行うことができる。
【0041】
電子線架橋法で行う場合、電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
【0042】
化学架橋法の場合は樹脂組成物に、ヒドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシエステル、ケトンペルオキシドなどの有機過酸化物を架橋剤として配合し、押出成形被覆後に加熱処理により架橋をおこなう。
【0043】
本発明の絶縁電線の導体径や導体の材質などは特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。導体の周りに形成される絶縁樹脂組成物の被覆層の肉厚も特に制限はないが、0.15〜1mmが好ましい。また、絶縁層が多層構造であってもよく、本発明の絶縁樹脂組成物で形成した被覆層のほかに中間層などを有するものでもよい。
【実施例】
【0044】
次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。なお、下記例中、組成又は割合を示す%、部は、特に断わらない限り、質量%、質量部をそれぞれ表わす。
実施例及び比較例
まず、表に示す各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各絶縁樹脂組成物を製造した。
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径1.14mmφの錫メッキ軟銅撚線 構成:30本/0. 18mmφ)上に、予め溶融混練した絶縁樹脂組成物を押し出し法により被覆して、各々絶縁電線を製造した。外径は2.74mm(被覆層の肉厚0.86mm)とした。電線製造後、一部の電線には電子線照射を行うことにより架橋を行った。
【0045】
なお、表1〜3に示す各成分は下記のものを使用した。
(01)エチレン−酢酸ビニル共重合体
酢酸ビニル成分(VA)含有量 33質量%
EV−180(三井デユポンポリケミカル製)
(02)エチレン−エチルアクリレート共重合体
エチルアクリレート成分(EA)含有量 25質量%
A−714(三井デユポンポリケミカル製)
(03)エチレン−酢酸ビニル共重合体
酢酸ビニル成分(VA)含有量 80質量%
レバプレン800HV(バイエル製)
(04)アクリルゴム
エチレン−アクリル酸メチル共重合体ゴム
ベイマックDP(デュポン製)
(05)無水マレイン酸で変性されたポリエチレン
アドテックスL−6100M(日本ポリエチレン製)
(06)スチレン系エラストマー
ダイナロン1320P(クラレ製)
(07)ブロックポリプロピレン
BC8A(日本ポリプロピレン製)
(08)脂肪酸処理水酸化マグネシウム
ステアリン酸処理3% (神島化学工業製)
(09)脂肪酸処理水酸化マグネシウム
ステアリン酸処理2.3% (神島化学工業製)
(10)脂肪酸処理水酸化マグネシウム
ステアリン酸処理1.8% (神島化学工業製)
(11)脂肪酸処理水酸化マグネシウム
ステアリン酸処理0.7% (協和化学工業製)
(12)リン酸エステル処理水酸化マグネシウム
リン酸エステル処理2.3%
キスマ5J (協和化学工業製)
(13)リン酸エステル処理水酸化マグネシウム
リン酸エステル処理0.9% (協和化学工業製)
(14)末端にビニル基を有するシランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウム
キスマ5L(商品名、協和化学社製)
(15)ヒンダートフェノール系老化防止剤
イルガノックス1010(商品名、チバガイギー社製)
(16)チオエーテル系老化防止剤
アデカスタブAO−412S(旭電化製)
(17)ベンゾフェノン系紫外線吸収剤
アデカスタブ1413(旭電化製)
(18)ヒンダートアミン光安定剤
アデカスタブLA52(旭電化製)
(19) 多価アクリル化合物
NKエステル3G(新中村化学製)
(20)ステアリン酸カルシウム
ステアリン酸カルシウム(日本油脂製)
(21)CR−60
ルチル型酸化チタン
【0046】
得られた各絶縁電線について、以下の試験を行った。結果を表1〜3に示した。
1)伸び、抗張力
各絶縁電線の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)を、標線間20mm、引張速度200mm/分の条件で測定した。
伸びおよび抗張力の要求特性はそれぞれ、各々200%以上、8MPa以上である。
2)耐候性
電線工業会 技資第130号『照明器具用電線・ケーブルの紫外線劣化促進試験』の方法を用い、110℃60日間加熱処理を行った後、各絶縁電線の被覆層の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)を、標線間20mm、引張速度200mm/分の条件で測定した。伸び50%以上、抗張力残率65%以上が合格である。
3)難燃性
JIS C 3005の60度傾斜難燃試験に基づき試験を行った。火をつける燃焼時間は7秒とした。
N=3燃焼試験を行い、全数合格することが必要である。
また、また樹脂成分中の、エチレン系共重合体中の酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、不飽和カルボン酸成分の合計の量(質量%)を「系の酸/エステル含有量(%)」として表1〜3に合わせて示した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
上記表1、2及び3の結果より、耐候性試験において、比較例1〜3では伸びが著しく低く、抗張力残率も大きく低下したが実施例1〜12では上記の伸び及び抗張力残率も高い値を示し、優れた耐候性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリオレフィン樹脂、(b)エチレン系共重合体及び(c)スチレン系エラストマーからなる群から選ばれた少なくとも1種を主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウムが120〜320質量部を加えた難燃性樹脂組成物において、
前記水酸化マグネシウムの少なくとも1/3以上が脂肪酸及び/又はリン酸エステルで表面処理されており、その水酸化マグネシウムに対する処理量が1.5質量%以上であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂及び/又はエチレン系共重合体及び/又はスチレン系エラストマーを主成分とする樹脂成分(A)100質量部に対し、水酸化マグネシウムが120〜320質量部を加えた難燃性樹脂組成物において、
前記水酸化マグネシウムの少なくとも1/2以上が脂肪酸及び/又はリン酸エステルで表面処理されており、その水酸化マグネシウムに対する処理量が1.5質量%以上であることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂成分(A)100質量部に対し水酸化マグネシウムの量が200〜320質量部であることを特徴とする請求項1または2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分(A)において、エチレン系共重合体中の酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、及び不飽和カルボン酸成分の合計が樹脂成分中の21〜68質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂成分(A)において、エチレン系共重合体中の酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、及び不飽和カルボン酸成分の合計が樹脂成分中の38〜68質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を導体又は光ファイバの周りに被覆したことを特徴とする絶縁電線。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物が導体又は光ファイバの周りに被覆され、該被覆部樹脂組成物が架橋されていることを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2009−7463(P2009−7463A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169586(P2007−169586)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】