説明

耐剪断性カルボキシメチルセルロースおよびそれを配合した口腔用組成物

【課題】耐剪断性を有するカルボキシメチルセルロースまたはその塩を製造すること。
【解決手段】セルロース原料とアルカリとを反応させてアルカリセルロースを調製し、ついで、該アルカリセルロースとエーテル化剤とを反応させてカルボキシメチルセルロースを製造する方法において、該アルカリセルロース調製が、第1段目として10〜25℃にて反応させた後、第2段目として10〜25℃上げて反応させる2段アルカリセルロース調製法であることを特徴とするカルボキシメチルセルロースまたはその塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐剪断性を有するカルボキシメチルセルロースまたはその塩(以下、CMCと略す)、およびそれを配合した口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料製剤、とりわけ口腔用の練歯磨、口腔用ジェル等においては、その粘性および保形性が重要になる。粘度が低すぎると保形性がなく、キャップ開栓時に容器から内容物が飛散したり、歯磨剤を歯ブラシ上に載せることができなくなる。逆に粘度が高すぎると容器から歯磨剤が出ないか、または出すのに過度な力を必要としたり、ブラッシングしても口の中で適切に広がらなくなる。したがって、これらの要件を満たした粘性および保形性を有する口腔用組成物の調製が種々検討されている。
【0003】
練歯磨の製造機械としては、これまで、ニーダーなどの混練機(撹拌羽根により混合するもの)、ホモジナイザーなどの分散機(高速回転する剪断力のある羽根により撹拌するもの)が存在し、このうち、工業的には混練機が一般に使用されている。これは、練歯磨の製造は歴史的に粉歯磨における粉体の混合という観点から製造機械が発展してきており、混練機は粉体の均一混合に適しているからである。しかしながら、混練機での混合は製剤の均一化の観点から見ると、従来の練歯磨における均一化は十分満たしてはいるものの、ミクロな部分の均一化においては課題があった。例えば、原料の品質や処方、製造方法によっては、水溶性高分子が完全溶解せずに溶け残った粒が発生するといった課題があった。また、高粘度製剤の混合には適するものの、低粘度製剤の混合については、混練機では製造が困難であるといった問題もあった。さらに、混練機は撹拌羽根に多大な負荷がかかるため、スケールの大きい製造が困難であるといった問題もあった。最近になり、そのような観点から、混練機に代わって、剪断力によって製剤を高速で均一化する分散機での製造が試みられている。しかし、剪断力を利用する分散機を使用すると、製剤中の成分、とりわけ高分子材料の分子鎖が切断され、粘度低下を招くという不具合が生じる。したがって、分散機による製造に際しては、製造後の粘度低下を見込んだ原料の選定、配合量の調整などを行う必要があり、製剤設計を行う際に煩雑さを招いていた。
【0004】
このような均一化の向上や、剪断力に対する粘性の調整・保持の解決策として、従来から粘結剤や増粘剤と称される高分子材料の態様を工夫することや、複数の高分子材料を組合せて使用することが試みられてきた。特に練歯磨の成分として汎用されるCMCは、練歯磨組成物における粘性の調整のために種々の工夫がされている。例えば、特許文献1には、特定の粘度特性のCMCを使用することによって、流動性と保形性が両立された練歯磨組成物が開示されている。また、特許文献2には、特定の2種類のCMCを歯磨成分として使用することによって、曳糸性が改善された歯磨組成物が開示されている。
しかしながら、これらの文献には、剪断力を利用する混合機械による製造に対する高分子材料の耐性については何も開示されていない。
【0005】
【特許文献1】特開2000−038327号公報
【特許文献2】特開2002−047159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑み、剪断力を利用する混合機械を用いて製造しても粘度が低下せず、保形力が維持される化粧料、とりわけ歯磨組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アルカリセルロース調製時の反応温度設定を2段階で行うことによって耐剪断性に優れたCMCを製造できること、そのCMCを配合した歯磨組成物が剪断力を利用する分散機による混合後も粘度低下度が小さく、保形性・均一性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]セルロース原料とアルカリとを反応させてアルカリセルロースを調製し、ついで、該アルカリセルロースとエーテル化剤とを反応させてカルボキシメチルセルロースまたはその塩を製造する方法において、該アルカリセルロース調製が、第1段目として10〜25℃にて反応させた後、第2段目として10〜25℃上げて反応させる2段アルカリセルロース調製法であることを特徴とするカルボキシメチルセルロースまたはその塩の製造方法;
[2]第1段目の反応を30〜60分間行い、第2段目の反応を30〜60分間行うことを特徴とする[1]記載のカルボキシメチルセルロースまたはその塩の製造方法;
[3]セルロース原料と、15〜30重量%の水および7〜15重量%のアルカリを含む含水アルカリ有機溶媒とを、該セルロース原料1重量部に対して3〜10重量部の含水アルカリ有機溶媒の割合で反応させてアルカリセルロースを調製することを特徴とする[1]または[2]記載のカルボキシメチルセルロースまたはその塩の製造方法;
[4][1]ないし[3]のいずれか1に記載の方法で得られるカルボキシメチルセルロースまたはその塩;
[5]エーテル化度が0.5〜1.5であって、2重量%水溶液の粘度が5000〜10000mPa・sである[4]記載のカルボキシメチルセルロースまたはその塩;
[6][4]または[5]記載のカルボキシメチルセルロースまたはその塩を含有する口腔用組成物;
[7]カルボキシメチルセルロースまたはその塩の配合量が口腔用組成物の全量に対して0.01〜10重量%である[6]記載の口腔用組成物;および
[8]練歯磨組成物である[6]または[7]記載の口腔用組成物
を提供する。
なお、本願の特許請求の範囲および明細書において単に「CMC」という場合は、特記しない限り、遊離酸および塩の両方の形態のカルボキシメチルセルロースをいう。
【発明の効果】
【0009】
本願の請求項1に係る発明によれば、耐剪断性に優れたCMCを製造することができるため、このCMCを含む組成物を分散機など高い剪断力を利用する混合機械によって製造することができる。
【0010】
本願の請求項2に係る発明によれば、前記請求項1に係る発明と比較して、より効率的にセルロースとアルカリとを反応させることができるため、より効率的にCMCを製造することができる。
【0011】
本願の請求項3に係る発明によれば、前記請求項1または2に係る発明と比較して、アルカリのセルロース繊維への浸透をより促進することができるため、より短時間でCMCを製造することができる。
【0012】
本願の請求項4に係る発明によれば、前記請求項1ないし3のいずれか1項に係る発明の効果を有するCMCを得ることができる。
【0013】
本願の請求項5に係る発明によれば、前記請求項4に係る発明と比較して、特有の物性を有するCMCを得ることができるため、かかる物性に応じたCMCの適用が可能になる。
【0014】
本願の請求項6に係る発明によれば、前記請求項4または5に記載した優れた効果を有するCMCを配合するため、製造後の粘度低下度が小さく、かつ、より均一に成分が配合された口腔用組成物を提供することができる。
【0015】
本願の請求項7に係る発明によれば、前記請求項6に係る発明と比較して、耐剪断性CMCが有する機能がより良好に発揮される口腔用組成物を提供することができる。
【0016】
本願の請求項8に係る発明によれば、前記請求項6または7に係る発明と比較して、耐剪断性CMCが有する機能がより適当に発揮される形態の口腔用組成物を提供することができる。
【0017】
本発明においては、アルカリセルロース調製時の反応温度を2段階に設定することにより、耐剪断性に優れたCMCを得ることができ、剪断力を利用する混合に適したCMCを製造することができる。さらに、本発明で得たCMCを配合することにより、製造後の粘度低下度が小さく、保形性・均一性に優れた歯磨組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
第1の態様において、本発明は、CMCの製造方法を提供する。
本発明のCMCの製造方法は、(1)セルロース原料とアルカリとを特定の条件下で反応させてアルカリセルロースを調製する工程、および、(2)該アルカリセルロースとカルボキシメチルエーテル化剤(以下、エーテル化剤と略す)とを反応させてCMCを製造する工程、からなる。
本発明の製造方法における工程(1)においては、セルロース原料とアルカリとを反応させる。
セルロース原料としては、特に限定されず、例えば、木材パルプ、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、コットンリンターパルプなど従来使用されているセルロース原料を使用することができる。
【0019】
また、アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。これらの中では、安価である点で、苛性ソーダとして通称される水酸化ナトリウムが好ましい。水酸化ナトリウムを反応させた場合、CMCナトリウムが製造できる。
【0020】
セルロースとアルカリとを反応させる形態には、セルロースをアルカリ水溶液に浸漬して反応させることができる。
【0021】
また、本発明においては、アルカリを、含水有機溶媒に溶解した含水アルカリ有機溶媒としてセルロース原料に適用することができる。この含水アルカリ有機溶媒は、15〜30重量%の水、7〜15重量%のアルカリおよび残部の有機溶媒を含み、セルロース原料1重量部に対して3〜10重量部で用いるのが好ましい。アルカリセルロース調製時の溶媒に水を含有させることにより、エーテル化剤の有効利用率を高めることができる。
水の量が15重量%未満の場合は水によるセルロース分子へのアタックが減少し、結晶化領域の破壊が少なくなり、水溶液としたときに透明性が高いCMCを得ることが困難になる。一方、水の量が30重量%を超える場合は水とエーテル化剤との間での副反応が進み、エーテル化剤の有効利用率が低下する。
アルカリの量が7重量%未満の場合は十分な量のアルカリセルロースを生成することができない。一方、アルカリの量が15重量%を超えると後の工程で使用するエーテル化剤の有効利用率の低下を招く。
【0022】
含水アルカリ有機溶媒に使用する有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール類、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジオキサンおよびジエチルエーテルよりなる群から選択される溶媒などが挙げられる。
これらの有機溶媒は1種または2種以上を併用することができる。特に入手の手軽さ、低価格、取り扱いやすさの点で、イソプロピルアルコール、エチルアルコールが好ましく、イソプロピルアルコールがさらに好ましい。また、エチルアルコール−ベンゼン、エチルアルコール−トルエン、イソプロピルアルコール−ベンゼンなどの混合溶媒も使用できる。
【0023】
セルロース原料に含水アルカリ有機溶媒を適用する形態においては、セルロース原料1重量部に対して、含水アルカリ有機溶媒を3〜10重量部で使用するのが好ましい。セルロース原料1重量部に対する含水アルカリ有機溶媒の量が3重量部未満の場合はセルロース原料と含水アルカリ有機溶媒とを十分に攪拌混合することができなくなり、反応機に対する攪拌時の負担が大きくなり、均一な反応を達成することができなくなる。一方、10重量部を超える場合は特に有利な効果が奏されないため、原料経費が大きくなる。
【0024】
本発明の製造方法においては、工程(1)のアルカリセルロース調製時に、第1段目として10〜25℃にて反応させ、ついで、第2段目として10〜25℃上げて(すなわち、20〜50℃にて)反応させる。それにより、耐剪断性のCMCを製造することができる。通常、これらの工程は二軸型ニーダー反応機を用いて行うことができる。このように2段階の温度設定でアルカリ化する(2段アルカリセルロース調製法)ことにより、剪断力に対する抵抗性をCMCに付与することができる。これら2段階の各温度設定範囲を外れる場合は、耐剪断性を有するCMCを製造することができない。また、反応時間の目安として、第1段目は通常30〜60分間、第2段目は通常30〜60分間である。詳細には、第1段目の反応温度が10℃以下の場合は特に問題はないが、不必要に冷却することによるエネルギーコストが増加し、一方25℃を超える場合はエーテル反応が不均一となり耐剪断性が十分に発現できない。また、第1段目の反応時間が30分間未満の場合はアルカリによるセルロースの結晶構造の破壊が不十分となりCMCが十分に溶解されず、一方60分間を超える場合はアルカリがセルロース分子の解重合に作用してCMCの粘度低下を引き起こす。また、第2段目の反応温度が第1段目の反応温度よりも10℃以上高くない場合はCMCに耐剪断性を付与することができず、一方25℃を超えて高い場合はアルカリがセルロース分子の解重合に作用してCMCの粘度低下を引き起こす。また、第2段目の反応時間が30分間未満の場合は部分的に遊離するアルカリの未反応のセルロース部分に対する反応が不均一となり、一方60分間を超える場合は、アルカリセルロース反応に特に支障はないが、長時間反応を行うとセルロース分子の解重合に作用してCMCの粘度低下を引き起こす。
【0025】
ついで、本発明の製造方法における工程(2)においては、工程(1)において調製したアルカリセルロースをカルボキシメチルエーテル化する。
アルカリセルロースをエーテル化するために用いられるカルボキシメチルエーテル化剤としては、例えば、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチルおよびモノクロロ酢酸イソプロピルよりなる群から選択される剤などが挙げられる。
これらのエーテル化剤は1種または2種以上を併用することができる。これらの中では、酸・アルカリ反応という点でモノクロロ酢酸およびモノクロロ酢酸ナトリウムが好ましい。
【0026】
カルボキシメチルエーテル化剤の添加量は、目的とするCMCのエーテル化度に応じて適宜決定することができる。本発明の製造方法により得られるCMCのエーテル化度は、好ましくは0.5〜1.5、より好ましくは0.7〜1.0である。エーテル化度が0.5未満の場合は目的とする耐剪断性が得られない。一方、1.5を超える場合は粘性といった高分子特性が十分に得られない。
ここで、0.5〜1.5のエーテル化度のCMCを得るためには、セルロース原料1重量部に対して、0.25〜1.35重量部のカルボキシメチルエーテル化剤を添加するのが好ましい。
通常、エーテル化剤は、含水有機溶媒に溶解してアルカリセルロースに添加する。含水有機溶媒としては、セルロース原料とアルカリとの反応に用いた含水有機溶媒と同様の溶媒を用いることができる。
【0027】
エーテル化剤の添加混合は5〜55℃で行なうことが好ましく、10〜30℃で行なうことがより好ましい。添加混合の温度が5℃未満の場合は冷却に時間を要し、冷却エネルギーを多く必要とする。一方、55℃を超える場合はエーテル化剤の有効利用率が低下する。エーテル化剤の添加混合は、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜60分間かけて行なう。添加混合にかける時間が10分未満の場合はエーテル化剤の副分解反応が促進され、120分を超える時間をかけてもいたずらに反応時間の延長となる。
【0028】
前記エーテル化剤の添加混合によりエーテル化反応が進行する。エーテル化反応は50〜90℃で行なうことが好ましく、70〜90℃で行なうことがより好ましい。反応温度が50℃未満の場合は反応の進行が遅く、90℃を超える場合は高温による溶媒の気化が強く、環境上好ましくない。また、エーテル化反応は60〜360分間かけて行なうことが好ましく、60〜120分間かけて行なうことがより好ましい。反応時間が60分未満の場合は反応が充分完結せず、360分を超える時間行ってもいたずらに反応時間の延長となる。
【0029】
エーテル化反応後、温度を60℃以下とし、有機酸によって過剰のアルカリを中和することにより、反応は終了する。中和に使用する有機酸としては、例えば、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、プロピオン酸およびギ酸よりなる群から選択される有機酸などを用いることができる。これらの有機酸は1種または2種以上を併用することができる。液状品であり、かつ中和調整しやすい点で、酢酸の水溶液が好ましい。一方、無機酸を使用すると、中和終点の調整が難しいという問題が生じる。中和はpH5.0〜8.5を終点とするのが好ましく、pH6.5〜7.5とするのがより好ましい。
【0030】
中和後、反応物を含水メタノールなどの含水有機溶媒で洗浄し、溶媒を除去した後に、乾燥させることにより本発明のCMCを得ることができる。
【0031】
第2の態様において、本発明は、上述した製造方法によって得られる耐剪断性CMCを提供する。
本発明の耐剪断性CMCは、2%水溶液の粘度が5000〜10000mPa・sであることが好ましい。CMCの水溶液の粘度は、例えば、セルロース原料の種類の変更、エーテル化度の変化などにより、調整することができる。
【0032】
本発明のCMCは、化粧料や口腔用組成物の基剤、とりわけ歯磨などの口腔用組成物の基剤に使用することができる。特に、従来技術で述べた通り、練歯磨や口腔用ジェルにおいては、組成物の粘性の調整および保持は重要である。本発明の歯磨組成物は、剪断力を利用する混合機械により製造しても粘度低下度が極めて小さく、分散機などの剪断力を利用する歯磨の製造に特に適している。
従来の混練機の代わりに分散機などの混合機械を歯磨などの製造に利用することができれば、配合成分をより均一に配合することができ、より多様な形態の商品を効率よく製造することができる。
【0033】
さらなる形態において、本発明は、上述したCMCを含む口腔用組成物を提供する。
口腔用組成物中のCMCの配合量は、好ましくは0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。この範囲の配合量にすることにより、高い剪断力が製造工程において与えられても、本発明の耐剪断性CMCの特有の性質により、組成物の粘度を維持することができる。組成物に配合するCMCの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、ナトリウム塩であるCMCナトリウムがより好ましい。
【0034】
また、本発明の口腔用組成物は、耐剪断性CMCを配合成分として用いて、剪断力を有する製造機械を使用し製造することができる。剪断力を有する製造機械としては、アジテーターホモジナイザーやホモミキサーなどがある。このうちアジテーターホモジナイザーは、アジテーターによる広範な混合分散操作とホモミキシングによる剪断操作による均質化が行われるため、より好ましい。アジテーターホモジナイザーを使用した場合、ホモミキシングの周速は5〜50m/sが好ましく、15〜25m/sがさらに好ましい。また、撹拌時間としては5〜60分であることが好ましく、10〜30分であることがさらに好ましい。
【0035】
また、本発明の口腔用組成物には上記のCMC塩以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の成分を適宜配合できる。
【0036】
研磨剤としては、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、酸化チタン、非晶質シリカ、結晶質シリカ、研磨性シリカ、増粘性シリカ、アルミノシリケート、酸化アルミニウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、レジン、ハイドロキシアパタイトなどが挙げられる。これらの研磨剤は1種または2種以上を併用することができる。その配合量は、通常、口腔用組成物の全量に対して0.01〜30重量%である。
【0037】
発泡剤、洗浄剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、ミリストイルサルコシンナトリウムなどのアシルサルコシンナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウムなどのN−アシルグルタミン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸2ナトリウムなどのスルホサクシネート類、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステルなどの糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、脂肪酸アルカノールアミド類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などのポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、N−ラウリルジアミノエチルグリシン、N−ミリスチルジエチルグリシンなどのN−アルキルジアミノエチルグリシン、N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、2−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリンベタインナトリウム、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種または2種以上を併用することができる。その配合量は、通常、口腔用組成物の全量に対して0.1〜10重量%である。
【0038】
湿潤剤としては、例えば、ソルビット、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、パラチニットなどが挙げられる。これらの湿潤剤は1種または2種以上を併用することができる。その配合量は、通常、口腔用組成物の全量に対して5〜70重量%である。
【0039】
pH調節剤としては、例えば、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、ケイ酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウムなどが挙げられる。これらは、口腔用組成物のpHが5〜9の範囲となるよう、1種または2種以上を併用することができる。その配合量は、通常、口腔用組成物の全量に対して0.01〜2重量%である。
【0040】
香味剤としては、例えば、メントール、カルボン、オイゲノール、サリチル酸メチル、メチルオイゲノール、チモール、アネトール、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネール、α−テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、シネオール、リナロール、エチルリナロール、ワニリン、タイム、ナツメグ、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、ティーツリー油、ダバナ油などが挙げられる。これらの香味剤は、1種または2種以上を併用することができる。その配合量は、通常、口腔用組成物の全量に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。
【0041】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド(ステビアエキス)、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、タウマチン、α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニン メチルエステル、メトキシシンナミックアルデヒド、キシリットなどが挙げられる。これらの甘味剤は、1種または2種以上を併用することができる。その配合量は、通常、口腔用組成物の全量に対して0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0042】
薬効成分としては、例えば、酢酸dl−α−トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロールなどのビタミンE類、塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウムなどのカチオン性殺菌剤、ドデシルジアミノエチルグリシンなどの両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノールなどの非イオン性殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)などの酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウムなどのアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫などのフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルリチン塩類、グリチルレチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、水溶性無機リン酸化合物などが挙げられる。これらの薬効成分は、1種または2種以上を併用することができる。
【0043】
着色剤としては、例えば、酸化チタン、グンジョウ、コンジョウ等の顔料、青色1号、赤色3号、赤色104号、赤色202号、赤色226号、黄色4号、黄色203号などの法定色素などが挙げられる。これらの着色剤は、1種または2種以上を併用することができる。
【0044】
さらに、本発明の口腔用組成物には、前述の耐剪断性CMCに加えて他の増粘剤を配合することができる。かかる増粘剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カラゲナン、アルギン酸ナトリウム等のアルカリ金属アルギネート、キサンタンガム、トラガカントガム、アラビアガム、ジェランガム等のガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成粘結剤、増粘性シリカ、ビーガム等の無機粘結剤などが挙げられる。これらの増粘剤は1種または2種以上を併用することができる。
【0045】
本発明の口腔用組成物はチキソトロピー性または粘性を有する。口腔用組成物の形態としては、例えば、低粘度の練歯磨、歯磨ペーストもしくは歯磨ジェルや、糸曳き性を有するデンタルリンス、マウスウォッシュ、歯周病治療用ジェルもしくは歯肉炎治療用クリームなどが挙げられる。例えば、歯磨ペースト形態を有する口腔用組成物の粘度は5〜100Pa・Sの範囲であり、好ましくは10〜60Pa・Sの範囲である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。言うまでもなく本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特記しない限り、[%]は[重量%]を示す。
【0047】
実施例1:耐剪断性カルボキシメチルセルロースの製造
容量5Lのニーダー型反応機に、日本製紙ケミカル製N−DSPパルプをミキサーで粉砕して得られたチップ状のパルプ550gを仕込んだ。これとは別に、イソプロピルアルコール2147gと水679gを5L容器にとりフレーク苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)375gを溶解させた後、20℃まで冷却した。なお、この含水アルカリ有機溶媒のアルカリ濃度は11.7重量%、水濃度は21.2重量%であり、セルロースに対する重量比は5.82である。この含水アルカリ有機溶媒を反応機のパルプに馴染ませながら添加し、20℃で45分間、リフラックスコンデンサーを付けて溶媒組成変化を起こさないように反応させた。反応機の設定温度を上げ、さらに30℃で45分間、リフラックスコンデンサーを付けて溶媒組成変化を起こさないように反応させた(2段アルカリセルロース調製法)。なお、この間、反応機の回転数は30rpmとした。
【0048】
モノクロロ酢酸410gをイソプロピルアルコール205gと水68gで調製した溶媒溶液に溶解し、20℃にした。このモノクロロ酢酸溶液を60分間かけて、反応機中のアルカリセルロースに添加した。添加終了後、30分間かけて反応温度を77℃まで上げた。さらに、この温度で90分間エーテル化反応を実施した。反応後、50℃まで冷却し、10重量%酢酸水溶液を用いて反応物を中和し、反応物をpH=6.5〜7.5とした。中和後、75重量%メタノールを粗反応物に対し10倍量加え、攪拌機により精製した。減圧ろ過でメタノールを除いた後、風乾し、メタノール分が無くなってから、さらに105℃で20分乾燥した。得られた乾燥物を、ミキサーで粉砕することにより、
実施例1のCMCナトリウム(CMC−Na)を得た。
【0049】
パルプ組成、溶液量等を表1のように変え、同様の方法で実施例2ないし6のCMCナトリウムを製造した。
【0050】
得られたCMCナトリウムの水分量、塩分、エーテル化度、2%粘度、水溶液pHを次のようにして測定した。結果を表1に示す。
【0051】
[水分]
試料1〜2gを秤量瓶に精密に量りとり、105±2℃の定温乾燥器中において4時間乾燥し、デシケーター中で冷却し重さを量り、その減量から水分を求めた。
水分(%)=減量(g)/試料(g)×100
【0052】
[塩分]
無水物試料約1gを300mlビーカーに精密に量り、水約200mlを加えて溶かす。0.1モル/L硝酸銀で、電位差滴定し、塩分を求める。
塩分(%)=0.1モル/L硝酸銀(ml)×f×0.585/無水物試料(g)
f:0.1モル/L硝酸銀の力値
【0053】
[エーテル化度]
無水物試料0.5〜0.7gを精密に量り、濾紙に包んで磁性ルツボに入れ、600℃で灰化した。冷却後、ビーカーに移し、水約250mlと0.05モル/L硫酸35mlを加えて30分間煮沸した。これを冷却し、フェノールフタレイン指示薬を加えて、0.1モル水酸化カリウム標準液で過剰の酸を滴定した。
A=af−bf/無水物試料(g)
エーテル化度=162×A/10000−80A

A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05モル硫酸の量(mL)
a :0.05モル/L硫酸の使用量(mL)
:0.05モル/L硫酸の力価
b :0.1モル水酸化カリウムの使用量(mL)
:0.1モル水酸化カリウムの力価
162:グルコースの分子量
80:CH2COONa−Hの分子量
【0054】
[2%粘度]
共栓三角フラスコに試料4.4gを精密に採取し、次式によって求めた溶解水を加えた。
溶解水(g)=試料(g)×98−水分(%)/2
この水溶液を一昼夜放置後、マグネチックスターラーで約5分間かきまぜ、完全な溶液とした後、フタつき容器に移し、30分間25±0.2℃の恒温槽に入れた。溶液をガラス棒でゆるやかにかき混ぜ、BM型粘度計により、ローター4、回転数30rpmで開始3分後の目盛りを読み取った。
粘度=目盛りを読み取り値×200
[pH]
無水物試料1gを99mlの水に溶かし、ガラス電極を備えたpHメーターにて測った。
【0055】
【表1】

【0056】
[耐剪断性試験]
前記と同様に本発明の方法で製造したCMCナトリウム(実施例4〜8)および従来のCMCナトリウム(商品名:セロゲンF−880B、セロゲンBS−H、セロゲンF−AGS、セロゲンHE−90F)を用い、溶解時の耐剪断性試験を実施した。なお、それぞれのCMC−Naの分析値は以下の通りであった。
【0057】
【表2】

【0058】
CMCナトリウムをそれぞれ2重量%となるように、精製水またはグリセリン水溶液(精製水:グリセリン=1:1(容積比))300mlに以下の方法により溶解させ、溶解後の粘度を測定した。
A:スターラーの緩やかな回転により溶解
B:ホモミキサー(TKホモミキサー MODEL M(特殊機化工業(株)製))(回転数4500rpm、10分間)により溶解
C:同ホモミキサー(回転数9000rpm、10分間)により溶解
粘度は、BM型粘度計により、最適ローターにて、回転数30rpmで開始3分後の目盛りを読み取った。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示すように、実施例4から8のCMCナトリウムは、従来のCMCナトリウムと比較して、剪断力の強い条件においても粘度低下を抑えることができた。したがって、本発明のCMCナトリウムは剪断力のある製造機械に対する抵抗性が高いことが確認された。
【0061】
[実施例9]
表4で示される処方の歯磨組成物をアジテーターホモジナイザー(15L容量のペコミックス真空乳化攪拌装置(ベレンツ社製))を使用して製造した。実施例9には実施例1のCMCナトリウムを使用し、比較例1には従来のCMCナトリウム(商品名:セロゲンF−880B)を使用した。製造工程におけるホモジナイジング時間による粘度の変化は表4および図1の通りとなった。なお、ホモミキシングの周速は20m/sで行った。この結果により本発明のCMCナトリウムは耐剪断力に優れること、およびそれを用いた歯磨組成物は剪断力を利用する混合機械を用いた場合、従来のCMCナトリウムに比べ、好ましい粘度特性を有することが確認された。
【0062】
【表4】

【0063】
[試験例]
さらに、実施例9で得られた練歯磨(ホモジナイジング時間 30分)について経日(室温保管)における粘度変化を測定した(図2)。CMCナトリウムなどの高分子材料は製造後徐々に架橋構造を形成し粘度が製造直後よりも上昇することが経験的に知られている。実施例9および比較例1の口腔用組成物は、製造後5日以上経ることにより、一定の粘度になっている。しかしながら、製造直後においては、比較例1の口腔用組成物ではホモジナイジング時間が30分間の場合において、剪断力による分子鎖の切断により初期の粘度低下が発生している。それに対して、耐剪断性CMCナトリウムを配合した実施例9の口腔用組成物では初期の粘度低下が抑えられている。最終的な口腔用組成物の粘度に対する初期の粘度低下の割合を少なくことは製品設計上および品質管理上有用であり、本発明のCMCナトリウムの剪断力に対する耐性により、経時的に安定な口腔用組成物が製造できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】CMCナトリウムを配合する練歯磨のホモジナイジング時間による粘度変化を示すグラフである。
【図2】CMCナトリウムを配合する練歯磨のホモジナイジング時間30分の経日における粘度変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース原料とアルカリとを反応させてアルカリセルロースを調製し、ついで、該アルカリセルロースとエーテル化剤とを反応させてカルボキシメチルセルロースまたはその塩を製造する方法において、該アルカリセルロース調製が、第1段目として10〜25℃にて反応させた後、第2段目として10〜25℃上げて反応させる2段アルカリセルロース調製法であることを特徴とするカルボキシメチルセルロースまたはその塩の製造方法。
【請求項2】
第1段目の反応を30〜60分間行い、第2段目の反応を30〜60分間行うことを特徴とする請求項1記載のカルボキシメチルセルロースまたはその塩の製造方法。
【請求項3】
セルロース原料と、15〜30重量%の水および7〜15重量%のアルカリを含む含水アルカリ有機溶媒とを、該セルロース原料1重量部に対して3〜10重量部の含水アルカリ有機溶媒の割合で反応させてアルカリセルロースを調製することを特徴とする請求項1または2記載のカルボキシメチルセルロースまたはその塩の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法で得られるカルボキシメチルセルロースまたはその塩。
【請求項5】
エーテル化度が0.5〜1.5であって、2重量%水溶液の粘度が5000〜10000mPa・sである請求項4記載のカルボキシメチルセルロースまたはその塩。
【請求項6】
請求項4または5記載のカルボキシメチルセルロースまたはその塩を含有する口腔用組成物。
【請求項7】
カルボキシメチルセルロースまたはその塩の配合量が口腔用組成物の全量に対して0.01〜10重量%である請求項6記載の口腔用組成物。
【請求項8】
練歯磨組成物である請求項6または7記載の口腔用組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−231186(P2008−231186A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70359(P2007−70359)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】