説明

耐摩耗性膜被覆物品

【課題】 高温においても劣化し難く所望の耐摩耗性を維持、発揮し得る耐摩耗性膜で被覆された耐摩耗性膜被覆物品を提供する。
【解決手段】窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物の層を最上層として含む耐摩耗性膜Fで被覆されており、該耐摩耗性膜Fの室温でのマイクロビッカース硬度が2000以上である耐摩耗性膜被覆物品(例えばエンドミルEM)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車部品、各種機械の部品、各種工具や、自動車部品、機械部品等の成形に用いる金型等の成形用型等の物品であって、耐摩耗性膜を被覆した耐摩耗性膜被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
物品に耐摩耗性を付与する膜として、窒化チタン(TiN)膜、窒化チタンアルミニゥム〔(Ti,Al)N〕膜のようなチタン系の窒化膜、炭化チタン(TiC)膜のようなチタン系の炭化膜、さらには、炭窒化チタン(TiCN)膜、炭窒化チタンアルミニゥム〔(Ti,Al)(N,C)〕膜のようなチタン系の炭窒化膜などが知られている。
【0003】
また、クロム系の耐摩耗性膜として、例えば特開平6−81952号公報は、ピストンリング等の摺動部材表面に形成する膜として、摺動相手部材との初期なじみ性のよい、クロム、窒素及び酸素からなるCr−N−O系皮膜(酸窒化クロム膜)を開示している。
【0004】
特開2000−271699号公報は、機械部品等の鉄系部品、アルミニゥム合金部品等を得る金型、鋳型等の成形型の表面に、耐熱性、表面硬度を向上させるために形成する膜として(Al1-x Crx )N膜(1.0 >x ≧0.02)(窒化アルミニゥムクロム膜)を開示している。
【0005】
【特許文献1】特開平6−81952号公報
【特許文献2】特開2000−271699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、今日では、高温においても耐摩耗性を維持できる皮膜の出現が要請されている。
何故なら、例えば、金属材料のエンドミル等の切削工具による切削加工を例にとると、今日においては、環境悪化を招く恐れのある潤滑剤を用いないで、或いは用いたとしても潤滑剤使用量を少量化するため液体のまま用いるのではなく噴霧して用いて切削加工を行うことが求められており、しかも、最終製品の一層の低コスト化のために、切削加工時間の短縮化、従って加工時に大きい熱を発する高速切削が求められている。
【0007】
このような要請に応え得る切削工具は、高温においても十分耐摩耗性を維持、発揮し得るものでなければならず、従って、該工具に被覆する耐摩耗性膜は、潤滑剤を用いない、或いは潤滑剤を噴霧して用いる高速切削加工時の高熱に曝されても劣化し難く、耐摩耗性を発揮、維持できるものでなければならない。
【0008】
いま切削工具を例にとったが、高温においても十分耐摩耗性を維持、発揮し得る膜で被覆されることが要請される物品は、切削工具に限定されず、前記の成形用型もその1例である。
【0009】
しかしながら、前記の窒化チタン膜、窒化チタンアルミニゥム膜のようなチタン系窒化膜、炭化チタン膜のようなチタン系炭化膜、炭窒化チタン膜や炭窒化チタンアルミニゥム膜のようなチタン系炭窒化膜は、例えばこれらを切削工具表面に形成した場合、該膜は工具母材に比べて高硬度なので、該膜を形成することで工具の耐摩耗性を向上させることができるが、膜中のチタンが高温酸化しやすく、高温環境下で耐摩耗性が劣化する傾向がある。
【0010】
前記のアルミニウムが添加されているチタン系窒化膜やチタン系炭窒化膜では、酸化されたアルミニウムが保護層を形成して酸化の進行を妨げるので、アルミニウム添加の無いチタン系膜よりは高温における耐摩耗性が向上するが、それでも過酷な高温環境(例えば800℃以上の環境)では耐摩耗性が劣化する。
【0011】
また、前記の酸窒化クロム膜や窒化アルミニゥムクロム膜は、チタン系膜と比べると耐熱性に優れているが、硬度がマイクロビッカース硬度にして高々2000に近い程度の低いものであり、耐摩耗性の点で満足できるものではない。
【0012】
そこで本発明は、高温においても劣化し難く所望の耐摩耗性を維持、発揮し得る耐摩耗性膜で被覆された耐摩耗性膜被覆物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため本発明は、
窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物の層を最上層として含む耐摩耗性膜で被覆されており、該耐摩耗性膜のマイクロビッカース硬度が室温で2000以上である耐摩耗性膜被覆物品を提供する。
【0014】
本発明に係る耐摩耗性膜被覆物品は、窒素(N)、酸素(O)、炭素(C)及びホウ素(B)のうち少なくとも窒素(N)及び酸素(O)を含むクロムアルミニゥム(CrAl)の化合物からなり、高温においても劣化し難い層を最上層として含み、また、マイクロビッカース硬度が室温下で2000以上である高硬度を有し、これらにより、高温下で使用しても所望の耐摩耗性を維持、発揮することができる耐摩耗性膜で被覆されている。従って、該膜で被覆された物品部分は高温環境下で使用される等してたとえ高温(例えば1000℃程度の高温)に曝されても摩耗し難く、該物品部分の所期の性能を発揮できる。
【0015】
本発明に係る耐摩耗性膜被覆物品における耐摩耗性膜の硬度は、マイクロビッカース硬度にして室温下(25℃)で2000以上あればよいが、2000より大きい方がより好ましい。
また、高温(例えば1000℃)加熱後でもマイクロビッカース硬度が1800以上、或いは1900以上であることが好ましい。
【0016】
前記耐摩耗性膜における、窒素(N)、酸素(O)、炭素(C)及びホウ素(B)に対する酸素(O)の存在比率は、10原子%より大きく100原子%未満であることが望ましい。 特に、該耐摩耗性膜を構成する層のうち前記の最上層における窒素、酸素、炭素及びホウ素に対する酸素の存在比率は、10原子%より大きく100原子%未満であることが望ましい。
【0017】
いずれにしても、かかる酸素の存在比率が10原子%以下になってくると、それは不純物混入のレベルに近くなってきて、膜硬度が低下してくる。
かかる酸素の存在比率は大きくてもよいが、酸素のほか少なくとも窒素を含有させる関係上、100原子%未満である。また、酸素の存在比率が大きくなると硬度は増してくるが、膜応力が高くなってくるので物品本体への膜密着性が低下してくる。従って、上限については75原子%程度がより好ましい。或いは、例えば物品本体から遠ざかるにつれ次第に酸素濃度が増加するようにするなど、酸素濃度を膜中において傾斜させるとか、酸素濃度の異なる複数層を積層するなどしてもよい。
【0018】
また、膜硬度を前記の硬度とするうえで、耐摩耗性膜中にはCrN<111>及びCrN<220>のうち少なくとも一方の結晶配向方位が存在していることが好ましい。
特に、耐摩耗性膜を構成する層のうち前記の最上層には、CrN<111>及びCrN<220>のうち少なくとも一方の結晶配向方位が存在していることが好ましい。
【0019】
前記耐摩耗性膜の厚さとしては、例えば0.1μm〜10μm程度を挙げることができる。0.1μmより薄くなってくると、耐摩耗性の効果が持続し難くなる。10μmを超えてくると、膜応力が高くなってきて物品本体への膜密着性が低下してきて、それが膜の耐摩耗性に悪影響を与える可能性がでてくる。
【0020】
本発明に係る耐摩耗性膜被覆物品における耐摩耗性膜は、物品に応じて、その全体にわたり形成されていてもよく、部分的に形成されているだけでもよい。
また、該耐摩耗性膜は、窒素(N)、酸素(O)、炭素(C)及びホウ素(B)のうち少なくとも窒素(N)及び酸素(O)を含むクロムアルミニゥム(CrAl)の化合物の層の一層だけからなる膜でもよい。かかる膜の1例としてCrAl(OX 1-X )(原子比或いは原子%比xは、0.1<x <1)を挙げることができる。
【0021】
また、かかる層を複数積層した膜でもよく、或いはつぎのような膜でもよい。
(1) 前記クロムアルミニゥム(CrAl)の化合物からなる最上層と物品本体との間の下地層を含んでいる膜であり、該下地層は、クロム(Cr)からなる下地層、又は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうちいずれかを含むクロムの化合物からなる下地層である膜。
かかる下地層を物品本体上に形成することで、前記クロムアルミニゥム(CrAl)の化合物からなる層の物品本体への密着性が向上する。
なお、下地層としてはこの他、クロムアルミニゥム、アルミニゥム、クロムの合金膜や、TiN、TiAlNなども採用できる。
【0022】
(2) 窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層と、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうちいずれかを含むクロムの化合物からなる層とを含む多層積層構造の膜であり、該膜を構成する層のうち最上層は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層である膜。
【0023】
(3) 窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層と、クロムアルミニゥムの窒化層とを含む多層積層構造の膜であり、該膜を構成する層のうち最上層は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含む前記クロムアルミニゥムの化合物からなる層である膜。
【0024】
(4) 窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層と、チタンアルミニゥムの窒化層とを含む多層積層構造の膜であり、該膜を構成する層のうち最上層は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層である膜。
【0025】
前記耐摩耗性膜はさらに少なくとも最上層にシリコンを含んでいてもよい。
シリコンを含有させることで、耐熱性と耐摩耗性が向上する。
【0026】
また、本発明に係る耐摩耗性膜被覆物品における耐摩耗性膜はその表面を滑り性良好に平滑にして耐摩耗性を向上させるうえで、膜表面粗さRaを0.2μm以下とすることが好ましい。例えば、本発明に係る耐摩耗性膜被覆物品が他の部材や物品と摺動したり、擦れ合う物品(例えば成形用型)であったり、切削工具等である場合は、耐摩耗性膜の表面粗さRaが0.2μm以下であることが望ましい。
【0027】
本発明に係る耐摩耗性膜被覆物品における物品本体の前記耐摩耗性膜で被覆された部分の材質は、耐摩耗性膜を密着性よく形成できるのであれば特に制限はないが、代表例としてWC−Co系、WC−TiC−Co系、TaC−Ni系、Cr3 C−Ni系等の超硬合金を挙げることができる。超硬合金を前記の窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層を最上層として含む膜で被覆することで、該超硬合金の特性を十分発揮させることができる。このほか、炭素工具鋼、合金工具鋼及び高速度鋼等も例示できる。
【0028】
物品の種類は特に制限はないが、本発明に係る膜の特性が求められるものの例として切削工具(バイト、ドリル、リーマ、フライス、エンドミル等)や成形用型(例えば、冷間鍛造金型、温間鍛造金型、ダイカスト金型、プラスチック成形用金型、ゴム成形用金型等の成形金型)を挙げることができる。中でも、潤滑剤無しの条件下で(無潤滑で)又は潤滑剤の噴霧条件下で使用される切削工具や、400℃以上の高温環境下で使用される成形用型(成形金型等)を挙げることができる。
【0029】
本発明に係る耐摩耗性膜被覆物品における耐摩耗性膜を生産性よく形成し、ひいては該物品を生産性よく、安価に提供するために、該耐摩耗性膜或いはそれを構成する層について次のように形成されるものを例示できる。
【0030】
(1) 前記耐摩耗性膜を構成する層のうち窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層は、真空アークイオンプレーティング装置を用い、クロムとアルミニゥムの合金をカソード材料とし、又はクローム及びアルミニゥムをそれぞれカソード材料として該カソード材料を真空アーク放電より蒸発させ、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むガスと反応させることで形成された層である。
【0031】
このようにして形成される窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層は結晶性が高く、それより下の層或いは物品本体への密着性が高い。また、カソード材料の融点の違いによる蒸発量の変化が少なく、高い成膜速度が得られる利点がある。
【0032】
(2) 前記のクロムからなる下地層、或いは窒素、酸素、炭素及びホウ素のうちいずれかを含むクロムの化合物からなる下地層を有する耐摩耗性膜の場合における該下地層は、真空アークイオンプレーティング装置を用い、クロムをカソード材料として該カソード材料を真空アーク放電より蒸発させて、或いはクロムをカソード材料として該カソード材料を真空アーク放電より蒸発させ、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうちいずれかを含むガスと反応させることで形成された層である。
このようにして形成される下地層は、結晶性が高く、物品本体への密着性が高い。
【0033】
上記(1) 、(2) のいずれの場合においても、例えば、耐摩耗性膜を構成する層のうち窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層がクロムアルミニゥム(CrAl)の酸窒化層〔代表的にはCrAl(OX 1-X )(0.1<x<1)〕である場合、該クロムアルミニゥム(CrAl)の酸窒化層を形成するための前記少なくとも窒素及び酸素を含むガスの例として、前記カソード材料に近い位置〔膜被覆対象物品よりはカソード材料に近く、好ましくは該カソード材料に臨む位置〕から導入される不活性ガス(He、Ne、Ar、Kr及びXeから選ばれた少なくとも一種のガス)及び窒素ガスを含むガスと、耐摩耗性膜被覆対象物品に近い位置〔カソード材料よりは膜被覆対象物品に近く、好ましくは該物品に臨む位置〕から導入される酸素ガスとを含むガスを挙げることができる。
【0034】
なお、該窒素ガスに代えてアンモニアガス等の窒素含有ガスを用いることも可能である。
不活性ガスをカソード材料に近い位置から導入する理由は、カソード材料自身の酸化等を抑制するためである。
クロムアルミニゥムの酸窒化層にさらに炭素を含有させる場合は、例えば炭化水素ガス(例えばメタンガス、ブタンガス、プロパンガス等のメタン系炭化水素ガス、アセチレンガス等のアセチレン系炭化水素ガス、エチレン系炭化水素ガスから選ばれた少なくとも1種のガス)も採用すればよい。炭素を含有させてクロムアルミニゥムの炭酸窒化物の層を形成することでも硬度の高い耐摩耗性膜を得ることができる。ただ、このとき炭化水素ガスを使用すると、真空アークイオンプレーティング装置におけるアノードに炭化水素系の導電性不良の膜が形成されやすく、そのためアーク放電維持の点で不利になる。従って、この観点から言えば、クロムアルミニウムの酸窒化物の方が好ましい。
【0035】
クロムアルミニゥムの酸窒化層にさらにホウ素(B)を含有させる場合は、例えばジボラン(B2 6 )ガスも採用すればよい。
【0036】
また、前記の窒素、酸素、炭素及びホウ素のうちいずれかを含むクロムの化合物からなる下地層についても、例えばそれが窒化クロムからなる下地層であれば、それを形成するための反応性ガスとして、例えば窒素ガス、アンモニアガス等の窒素含有ガスを挙げることができる。
【0037】
いずれにしても、前記真空アークイオンプレーディング装置におけるアノードのアーク放電面の面積は前記カソード材料のアーク放電面の面積より大きいことが望ましい。例えば、カソード材料のアーク放電面の面積aに対するアノードのアーク放電面の面積bの比率b/aが2以上であることが望ましい。真空アークイオンプレーディング装置を構成する成膜チャンバの内壁面全体がアノードとなっていてもよい。
【0038】
例えば酸素を含んだ雰囲気での前記の少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物の層或いは膜を形成する場合においてアノードに絶縁皮膜が形成されることがあっても、このようにアノードのアーク放電面の面積をカソード材料のアーク放電面の面積より大きくすることで、かかるアノードへの絶縁皮膜の形成によって放電電圧(アーク電圧)が高くなり、ついには放電が持続できなくなるという事態の発生を遅らせることができる。
【0039】
なお、かかるアノードへの絶縁皮膜の形成により放電電圧(アーク電圧)が高くなり、アーク放電が不安定になる場合でも、既述のように、導電性の下地層を形成する場合には、アノードが導電性膜で覆われ直されるため、耐摩耗性膜形成の繰り返し処理により膜形成の安定した環境が得られるという利点がある。
【0040】
いずれにしても、前記真空アークイオンプレーディング装置は、前記真空アーク放電による前記カソード材料の蒸発に基づいて発生する真空アークプラズマを増強させる(プラズマを集束させプラズマ密度を上げ、カソード材料の溶融巨大粒子の分解を促す)磁場形成部材を有するものでもよい。
【0041】
また、前記真空アークイオンプレーディング装置は、前記真空アーク放電により蒸発してイオン化されるカソード材料を耐摩耗性膜被覆対象物品へ飛翔させる偏向磁場形成部材を付設した湾曲フィルターダクトを有しているものでもよい。これにより、カソード材料の巨大溶融粒子をフィルターダクトに衝突させて、それが膜被覆対象物品へ飛来することを抑制できる。
【0042】
このようにカソード材料の巨大溶融粒子(ドロップレット)が物品へ付着すること抑制する状態で形成された耐摩耗性膜は表面がそれだけ平滑であり、他の物品や部材との接触による摩擦抵抗がそれだけ低減され、それにより膜表面での摩擦発熱が抑制され、これらにより膜の耐摩耗性が維持される利点がある。
【発明の効果】
【0043】
以上説明したように本発明によると、高温においても劣化し難く所望の耐摩耗性を維持、発揮し得る耐摩耗性膜で被覆された耐摩耗性膜被覆物品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は耐摩耗性膜Fを被覆した物品の1例である切削工具(図示例ではエンドミルEM)を示しており、図(A)はその側面図、図(B)は図(A)のX−X線に沿う切断拡大端面図である。図(C) は図(B)と同様の図であるが、下地層を有する耐摩耗性膜を形成したエンドミルを示している。
なお、図1に示すエンドミルEMはJIS B4116によるストレート2枚刃ストレートシャンク型のエンドミルである。
【0045】
図1(B)に示す耐摩耗性膜Fは、クロム(Cr)とアルミニゥム(Al)の酸窒化膜〔CrAl(OX 1-X )〕( 原子比x は0.1 <x <1.0)からなっている。
また図1(C)に示す耐摩耗性膜Fはかかるクロム(Cr)とアルミニゥム(Al)の酸窒化膜の下に、エンドミルEMの本体上に形成された下地層fを含んでいる。
【0046】
この耐摩耗性膜Fを被覆したエンドミルEMは、潤滑剤無しでエアブローのみで、或いは潤滑剤を噴霧しながら、高速回転させて被削材を切削すると、該切削に伴って高熱が発生し、切削刃の部分Cが高温に曝される。にもかかわらず、耐摩耗性膜Fは劣化し難く、十分に耐摩耗性を維持、発揮する。従って、エンドミルEMは摩耗が抑制される状態でその所期の性能を十分発揮し得る。
【0047】
次にかかるエンドミルEMの製造例について説明する。図2は耐摩耗性膜被覆エンドミルを得るための真空アーク蒸着装置(真空アークイオンプレーティング装置)の1例を上方から見て、且つ、一部を断面で示す図である。図3は同エンドミルを得るための真空アーク蒸着装置の他の例を上方から見て、且つ、一部を断面で示す図である。
【0048】
図2、図3に示す装置は、カソードとアノード間の真空アーク放電によりカソード材料を蒸発させるとともにイオン化する蒸発源と、被成膜物品を支持するホルダと、該カソード材料構成元素を含む膜を該ホルダに支持される被成膜物品上に形成するために該蒸発源によりイオン化されたカソード材料を該ホルダに支持される被成膜物体へ向け導く磁場形成部材が付設されたダクトとを含んでいるタイプのものである。
【0049】
図2に示す装置では磁場形成部材が付設されたダクトは真っ直ぐ延びるダクトである。図3に示す装置では、磁場形成部材が付設されたダクトは湾曲ダクトであり、磁場形成部材はこのダクトに沿う偏向磁場を形成する。
【0050】
なお、このように磁場形成部材を付設したダクトを有しないタイプの真空アーク蒸着装置も本発明に係る耐摩耗性膜被覆物品の製造に用いることができる。
【0051】
先ず、図2に示す装置とそれによる耐摩耗性膜被覆エンドミル〔図1(B)の耐摩耗性膜で被覆されたエンドミル〕の製造について説明する。
図2に示す装置Aは、蒸発源1、成膜室2、蒸発源1と成膜室2を接続するダクト3及び成膜室2内に設置された、ここでの被成膜物品であるエンドミルEMを支持するホルダ4を備えている。
【0052】
蒸発源1は、カソード11、トリガー電極12、アーク放電用電源13、カソード11背後のリング形状永久磁石mg等を備えている。ダクト3の後部にはカソード装着部30が形成されており、カソード11は該装着部30に絶縁部材14を介して装着されている。
【0053】
カソード11は形成しようとする膜に応じて選択した材料で形成される。ここでのカソード11はクロムとアルミニウムの合金〔CrY Al1-Y ( 原子比y=0.5)〕である。
このカソードに対するアノードはここでは接地された成膜室2がこれを兼ねている。なお、アノードについては、例えば図1に鎖線で示すようにダクト3内においてカソード11の端部を囲むアノードANを設ける等してもよい。
【0054】
トリガー電極12はダクト3内においてカソード11の端面(蒸発面)111に臨んでおり、図示を省略した往復駆動装置によりカソード蒸発面に対し接触離反可能である。図1においては、トリガー電極12はカソード11を貫通しているかの如く示されているが、カソード11を貫通しているのではなく、図1には現れていないカソード周囲の壁体に往復動可能に通されている。
【0055】
アーク放電用電源13はカソード11とアノードとの間にアーク放電用電圧を印加できるように、また、カソード11とアノード間のアーク放電を誘発するためにカソード11とトリガー電極12との間にトリガー用電圧を印加できるように、カソード11等に配線接続されている。トリガー電極12はアーク電流が流れないように抵抗15を介して接地されている。
【0056】
ダクト3は一方では既述のように絶縁部材14を介してカソード11が装着されており、他方では絶縁部材21を介して成膜室2に接続されている。ダクト3には磁場形成用コイル31が周設されており、該コイルは電源32に接続されている。該電源から通電することで、ダクト3に後述するプラズマ集束のための磁場を形成できる。
またダクト3にはガスを導入するガス導入部33も設けられている。
【0057】
成膜室2には、排気装置22が接続されており、これにより成膜室2内及びこれに連通する前記ダクト3内を所定の成膜圧に減圧維持することができる。成膜室2にはガス導入部23も設けられている。
【0058】
ホルダ4は、図1に示す例では、図示省略の駆動装置により回転駆動可能の縦軸41と、これに支持された回転台42と、回転台42上に配設され、図示省略の連動機構により回転台の回転に連動して公転しつつ自転する複数の保持穴部43を備えたものである。各保持穴部43はここに被成膜物品であるエンドミルEMをその切削刃部分を上に向けて差し込む穴部である。図示の例では保持穴部43は一本のエンドミルEMを差し込み立設できるものであるが、穴部を例えば円状配列で複数有し、複数本のエンドミルを差し込み立設できるものとしてもよい。
【0059】
以上説明した図1に示す真空アーク蒸着装置Aによると、次のようにしてエンドミルEMの切削刃部分Cに耐摩耗性膜〔CrAl(OX 1-X )〕( 0.1 <x <1.0 )を被覆形成できる。
まず、ホルダ4上に成膜前のエンドミルEMを搭載する。次いで排気装置22を運転して成膜室2及びダクト3内から排気し、それらを成膜圧力まで減圧する。
【0060】
また、ホルダ4上のエンドミルEMには、膜形成用イオンを引き寄せるためのバイアス電圧を図示省略の電源から印加する。成膜中、ホルダ4上のエンドミルEMは回転台42の回転により公転させつつ自転させる。
【0061】
かかる状態で、蒸発源1におけるトリガー電極12をカソード11の蒸発面111に接触させ、引き続き引き離す。これにより電極12とカソード11間に火花が発生し、これが引き金となってアノード(成膜室2)とカソード11との間に真空アーク放電が誘発される。このアーク放電によりカソード材料が加熱され、カソード材料が蒸発し、さらにカソード11前方にイオン化カソード材料を含むプラズマが形成され始める。
カソード11背後の永久磁石mgは数ガウス程度のもので、蒸発面111におけるアークスポットの動きを制御し、アークスポットが蒸発面111における微小突起や割れ目等に集中することを抑制する。
【0062】
また、磁場形成コイル31へ電源32から通電してダクト3内に磁場を形成しておく。さらに、ダクト3のガス導入部33(すなわち、カソード11に近い位置)からダクト3内へ不活性ガス(He、Ne、Ar、Kr及びXeから選ばれた少なくとも1種のガス)及び窒素含有ガス(例えば窒素ガス)をそれぞれ所定量導入するとともに、成膜室2のガス導入部23(すなわち、耐摩耗性膜被覆対象物品であるエンドミルに近い位置)から酸素ガスを成膜室2内へ所定量導入する。
このとき導入する不活性ガス及び窒素含有ガスの各量、酸素ガス量は、それぞれ耐摩耗性膜〔CrAl(OX 1-X )〕( 0.1 <x <1.0 )を形成できる量である。
【0063】
蒸発源1において生成された前記プラズマは磁場形成コイル31により形成されたダクト内磁場により集束し、その後エンドミルEMへの膜形成のために適度に広がり、イオン化されたカソード材料(ここではクロムイオンとアルミニゥムイオン)がエンドミルEMの切削刃部分Cへ向け飛翔するとともに導入された窒素含有ガス及び酸素ガスと反応し、かくして各エンドミルEMの切削刃部分Cにクロム(Cr)とアルミニゥム(Al)の酸窒化膜〔CrAl(OX 1-X )〕( 0.1 <x <1.0 )が形成される。
以下の説明では〔CrAl(OX 1-X )〕( 0.1 <x <1.0 )の膜は「CrAlON」と称することがある。
【0064】
なお、成膜室2及び(又は)ダクト3内へ、さらに炭素含有ガス(代表的には炭化水素ガス)を導入することで、クロムアルミニゥム(CrAl)の炭酸窒化膜(以下「CrAlCON」という。)を形成したり、ホウ素含有ガス(例えばジボラン(B2 6 )ガス)を導入することでクロムアルミニゥム(CrAl)の硼酸窒化膜(以下「CrAlBON」という。)を形成したり、炭素含有ガス及びホウ素含有ガスを導入することでクロムアルミニゥム(CrAl)の硼炭酸窒化膜(以下「CrAlCBON」という。)を形成することもできる。
【0065】
以上の説明では、CrAlON等の層或いは膜を形成するにあたり、カソード11としてクロムとアルミニゥムの合金を用いたが、これに代えて、クロムからなるカソードを採用した蒸発源とアルミニウムからなるカソードを採用した蒸発原とをそれぞれ少なくとも一つずつ採用してCrAlON等の層或いは膜を形成することも可能である。
【0066】
下地層fを形成するときは、かかるCrAlON膜等を形成するに先立って下地層を形成する。ここでは下地層fとしてCr膜、又は窒素、酸素、炭素及びホウ素のいずれかを含むクロムの化合物膜を形成するが、この下地層形成においては、カソード11としてクロムカソードを採用し、Crの化合物膜を形成するときは、さらに、反応性ガスとして窒素、酸素、炭素及びホウ素のいずれかを含むガスを成膜室2及び(又は)ダクト3内へ所定量導入する。
【0067】
また、カソード11として例えばクロムとアルミニウムの合金からなるカソードを用い、反応性ガスとして窒素ガス等の窒素含有ガスを採用することで、クロムアルミニゥムの窒化層を形成したり、カソード11として例えばチタンとアルミニウムの合金からなるカソードを用い、反応性ガスとして窒素ガス等の窒素含有ガスを採用することで、チタンアルミニゥムの窒化層を形成したりすることもできる。
【0068】
これらの手法を適宜組み合わせて、次の耐摩耗性膜を形成することも可能である。
(a) 窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層と、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうちいずれかを含むクロムの化合物(例えばCrN)からなる層とを含む多層積層構造の耐摩耗性膜であって、該膜を構成する層のうち最上層は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層である膜。
【0069】
(b) 窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層と、クロムアルミニゥムの窒化層(以下「CrAlN」という。)とを含む多層積層構造の膜であり、該膜を構成する層のうち最上層は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含む前記クロムアルミニゥムの化合物からなる層である膜。
【0070】
(c) 窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層と、チタンアルミニゥムの窒化層(以下「TiAlN」という。)とを含む多層積層構造の膜であり、該膜を構成する層のうち最上層は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層である膜。
【0071】
いずれにしても成膜中、コイル31に通電してダクト3内に磁場を形成するときは、その磁場によりプラズマが集束した高密度プラズマ領域においては、その領域へ飛来することがあるカソード材料の巨大溶融粒子が該高密度プラズマにより分解され、それだけ被成膜物品への巨大溶融粒子の飛来を抑制して被成膜物品上に良質の膜を形成することができる。
【0072】
以上説明した真空アーク蒸着装置Aにおいては、ダクト3は真っ直ぐ延びたものであるが、図3に示す真空アーク蒸着装置Bのように、湾曲したダクト3’を採用してもよい。かかるダクト3’を採用するときにも、該ダクト3’に磁場形成コイル31’を周設し、これに電源32’から通電することでダクト内に磁場を形成することができる。
なお、装置Bでは、装置Aにおけるダクト3のガス導入部33に相当するものとして、ダクト3’のカソード近傍部位にガス導入部33’を設けてある。
【0073】
次に、図2に示すタイプの真空アーク蒸着装置においてエンドミルEMに、耐摩耗性膜として、
・CrAlON膜を形成した実験例1〜3、
・CrAlBON膜を形成した実験例4、
・CrAlCON膜を形成した実験例5、
・CrAlCBON膜を形成した実験例6、
・下地層(CrN)上にCrAlON層を形成した実験例7、
・CrAlN層とCrAlON層の積層構造膜を形成した実験例8、
・CrN層とCrAlON層の交互積層構造膜を形成した実験例9、及び
・コイル31に通電して磁場を形成してCrAlON膜を形成した実験例10、並びに
・TiAlN膜を形成した比較実験例1、
・CrON膜を形成した比較実験例2及び
・CrAlN膜を形成した比較実験例3について表1にまとめて示す。
なお、実験例1〜9及び比較実験例1〜3ではコイル31に通電しなかった。
【0074】
これらの膜形成は、いずれも成膜圧力を3.0Pa、カソードへのアーク電流を100アンペア、エンドミルへのバイアス電圧を−50Vとして、全膜厚3μmを得るように行った。実験例7におけるCrN層厚は1μm、CrAlON層厚は2μmであった。実験例8でのCrAlN層厚は1.2μm、CrAlON層厚は2μmであった。実験例9での各CrN層の厚さは0.5μm、各CrAlON層の厚さは1.0μmであった。
【0075】
以上の実験に用いたエンドミルEMの本体の詳細は以下のとおりである。
・JIS B4116で定めるエンドミル
・切削刃の部分が超硬合金(WC−Co系)で形成されている。
・切削刃の部分が10mm径に形成されており、切削刃による切り込み深さは半径方向に1mm、軸方向に10mmである。
【0076】
表1に示す各エンドミルについて評価するため、エンドミルに形成された耐摩耗性膜の大気中における室温及び1000℃で1時間加熱後のそれぞれにおけるマイクロビッカース硬度(Hmv)の測定、並びにダイヤモンド圧子に荷重を加えて引っ掻くスクラッチ試験による膜密着性評価(種々の荷重による膜剥離荷重による評価)及び切削性評価(逃げ面摩耗量による評価)を行った。また、膜表面粗さRaについて表面粗さ計で測定し、結晶配向方位(CrN<111>及び/又はCrN<220>の有無についてX線回折法で測定した。これらの結果も表1にまとめて示す。
【0077】
切削性評価は次の条件で行った。
・被削材:ダイス鋼(SKD61)
・エンドミル回転速度:1000回転/分
・エンドミル送り速度:134mm/分
・切削方式:ダウンカット、無潤滑、エアブロー
【0078】
【表1】

【0079】
表1から、本発明に係る実験例1〜10のそれぞれの耐摩耗性膜は比較実験例1〜3に示される従来タイプの膜より、高温においても劣化し難く、耐摩耗性を維持、発揮し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば自動車部品、各種機械の部品、各種工具や、自動車部品、機械部品等の成形に用いる金型等の成形用型等の物品であって、たとえ高温に曝されてもなお耐摩耗性を維持、発揮し得る耐摩耗性膜で被覆された物品を提供することに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図(A)は耐摩耗性膜被覆物品の1例である耐摩耗性膜被覆エンドミルの側面図であり、図(B)は図(A)のX−X線に沿う切断拡大端面図であり、図(C) は下地層を有する耐摩耗性膜を有するエンドミルの図(B)と同様の切断拡大端面図である。
【図2】真空アーク蒸着装置の1例を上方からみて、且つ、一部を断面で示す図である。
【図3】真空アーク蒸着装置の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
EM エンドミル
C エンドミルの切削刃部分
F 耐摩耗性膜
f 下地層
A 真空アーク蒸着装置
1 蒸発源
11 カソード
111 カソード蒸発面
12 トリガー電極
13 アーク放電用電源
14 絶縁部材
15 抵抗
mg 永久磁石
2 成膜室
21 絶縁部材
22 排気装置
23 ガス導入部
3 ダクト
30 カソード装着部
31 磁場形成用コイル
32 電源
33 ガス導入部
AN アノード
4 ホルダ
41 縦軸
42 回転台
43 エンドミルの保持穴部
B 真空アーク蒸着装置
1’ 蒸発源
3’ 湾曲ダクト
31’ 磁場形成コイル
32’ 電源
33’ ガス導入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物の層を最上層として含む耐摩耗性膜で被覆されており、該耐摩耗性膜のマイクロビッカース硬度が室温下で2000以上であることを特徴とする耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項2】
前記耐摩耗性膜における、窒素、酸素、炭素及びホウ素に対する酸素の存在比率が10原子%より大きく100原子%未満である請求項1記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項3】
前記耐摩耗性膜中にCrN<111>及びCrN<220>のうち少なくとも一方の結晶配向方位が存在している請求項1又は2記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項4】
前記耐摩耗性膜の厚さが0.1μm〜10μmである請求項1、2又は3記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項5】
前記耐摩耗性膜は、前記クロムアルミニゥムの化合物からなる最上層と物品本体との間の下地層を含んでおり、該下地層は、クロムからなる下地層、又は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうちいずれかを含むクロムの化合物からなる下地層である請求項1から4のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項6】
前記耐摩耗性膜は、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層と、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうちいずれかを含むクロムの化合物からなる層とを含む多層積層構造の膜であり、該膜を構成する層のうち最上層は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含む前記クロムアルミニゥムの化合物からなる層である請求項1から4のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項7】
前記耐摩耗性膜は、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層と、クロムアルミニゥムの窒化層とを含む多層積層構造の膜であり、該膜を構成する層のうち最上層は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層である請求項1から4のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項8】
前記耐摩耗性膜は、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層と、チタンアルミニゥムの窒化層とを含む多層積層構造の膜であり、該膜を構成する層のうち最上層は窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層である請求項1から4のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項9】
前記耐摩耗性膜はさらに、少なくとも最上層にシリコンを含んでいる請求項1から8のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項10】
前記耐摩耗性膜の表面粗さRaが0.2μm以下である請求項1から9のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項11】
物品本体の前記耐摩耗性膜で被覆された部分の材質は超硬合金、炭素工具鋼、合金工具鋼及び高速度鋼から選ばれた少なくとも1種である請求項1から10のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項12】
潤滑剤無しの条件下で又は潤滑剤の噴霧条件下で使用される切削工具である請求項1から11のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項13】
400℃以上の高温環境下で使用される成形用型である請求項1から11のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項14】
前記耐摩耗性膜を構成する層のうち窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層は、真空アークイオンプレーティング装置を用い、クロムとアルミニゥムの合金をカソード材料とし、又はクローム及びアルミニゥムをそれぞれカソード材料として該カソード材料を真空アーク放電により蒸発させ、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むガスと反応させることで形成された層である請求項1から13のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項15】
前記耐摩耗性膜を構成する層のうち窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層は、真空アークイオンプレーティング装置を用い、クロムとアルミニゥムの合金をカソード材料とし、又はクローム及びアルミニゥムをそれぞれカソード材料として該カソード材料を真空アーク放電により蒸発させ、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むガスと反応させることで形成された層であり、
前記下地層は、真空アークイオンプレーティング装置を用い、クロムをカソード材料として該カソード材料を真空アーク放電より蒸発させて、或いはクロムをカソード材料として該カソード材料を真空アーク放電より蒸発させ、窒素、酸素、炭素及びホウ素のうちいずれかを含むガスと反応させることで形成された層である請求項5記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項16】
前記耐摩耗性膜を構成する層のうち窒素、酸素、炭素及びホウ素のうち少なくとも窒素及び酸素を含むクロムアルミニゥムの化合物からなる層はクロムアルミニゥムの酸窒化層であり、該クロムアルミニゥム酸窒化層を形成するための前記ガスは前記カソード材料に近い位置から導入される不活性ガス及び窒素含有ガスを含むガスと、耐摩耗性膜被覆対象物品に近い位置から導入される酸素ガスとを含むガスである請求項14又は15記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項17】
前記真空アークイオンプレーディング装置におけるアノードのアーク放電面の面積は前記カソード材料のアーク放電面の面積より大きい請求項14、15又は16記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項18】
前記真空アークイオンプレーディング装置は、前記真空アーク放電による前記カソード材料の蒸発に基づいて発生する真空アークプラズマを増強させる磁場形成部材を有している請求項14から17のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。
【請求項19】
前記真空アークイオンプレーディング装置は、前記真空アーク放電により蒸発してイオン化されるカソード材料を耐摩耗性膜被覆対象物品へ飛翔させる偏向磁場形成部材を付設した湾曲フィルターダクトを有している請求項14から17のいずれかに記載の耐摩耗性膜被覆物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−188736(P2006−188736A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2339(P2005−2339)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】