耐火シール体および耐火シール構造
【課題】煩雑な手間を必要としない耐火シール体および耐火シール構造を提供することである。
【解決手段】耐火シール体1は、建物の隙間に嵌め込むものであり、適宜大きさの無機系発泡体2の火に晒される側にセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3を接着してなることである。
【解決手段】耐火シール体1は、建物の隙間に嵌め込むものであり、適宜大きさの無機系発泡体2の火に晒される側にセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3を接着してなることである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は耐火シール体および耐火シール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物より突出するバルコニーや外廊下などのコンクリート床スラブがコンクリート躯体への熱橋となりやすく、このコンクリート床スラブからのコンクリート躯体内部への熱強防止手段として、図18に示すように、コンクリート床スラブ34とコンクリート躯体35との間に断熱材36を設けた構造が知られている。この断熱材36は、コンクリート床スラブ34とコンクリート躯体35とにわたって配筋された鉄筋37を火災時における熱から保護しなければならないため、耐火性能を有する耐火シール構造38となっている。また、その他の耐火シール構造としては、例えば特開平10−245911号の発明が知られている。
【特許文献1】特開平10−245911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の耐火シール構造の断熱材はロックウールなどの人造鉱物繊維断熱材を使用しているため、コンクリート床スラブとコンクリート躯体との間への設置が型枠を必要とするため非常に困難で煩雑になっていた。
【0004】
本願発明はこれらの問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、煩雑な手間を必要としない耐火シール体および耐火シール構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための耐火シール体は、建物の隙間に嵌め込む耐火シール体であり、適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を介して無機系発泡板を接着してなることを特徴とする。また建物の隙間に嵌め込む耐火シール体であり、適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を被覆してなることを含む。また無機系発泡体には鉄筋を通すための貫通孔が開口されたことを含む。また無機系発泡体および無機系発泡板は炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板であることを含むものである。
また耐火シール構造は、請求項1〜4のいずれかの耐火シール体を、躯体とバルコニーの接合部における隙間、柱と耐震補強壁の縁切り部における隙間、カーテンウォールと梁材との層間隙間のいずれかに嵌め込んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を介して無機系発泡板を接着したことにより、この無機系発泡板側が火災による熱で熱せられたとしてもセメント系接着剤も断熱効果を発揮するため、十分な耐火性能が発揮される。また無機系発泡体に設けた貫通孔により鉄筋を簡単に配筋することができる。また無機系発泡体および無機系発泡板を炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板にしたことにより、十分な耐火性能を確保することができる。また耐火シール板を、躯体とバルコニーの接合部における隙間、柱と耐震補強壁の縁切り部における隙間、カーテンウォールと梁材との層間隙間のいずれかに嵌め込んだことにより、十分な耐火性能を確保することができる。また従来のロックウールなどの人造鉱物繊維断熱材を設置する場合はポリエチレンシートにより袋詰め等の形状保持型枠が必要となるが、耐火シール体は形状保持性能を有するため、現場打ちコンクリートを打設する際の形状保持型枠を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の耐火シール体および耐火シール構造の実施の形態について説明する。はじめに耐火シール体の実施の形態について説明し、次に、この耐火シール体を使用した耐火シール構造の実施の形態について説明するが、各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。
【0008】
図1は第1の実施の形態の耐火シール体1であり、この耐火シール体1は、適宜大きさの矩形状の無機系発泡体2と無機系発泡板3とから構成され、この無機系発泡板3が無機系発泡体2の火に晒される側(図1において下側)にセメント系接着剤4を介してが接着されている。この無機系発泡体2は適宜厚さの炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板であり、鉄筋を通すための貫通孔5、6が上下部に開口され、下部の貫通孔6は上部の貫通孔5よりも大径になっている。この無機系発泡体2と無機系発泡板3とはそれぞれ耐火性能が高いが、セメント系接着剤4もこれらに劣らず耐火性能が高いため、これらを有機的に組み合わせることにより、耐火性能をさらに高めることができる。また無機系発泡体2は嵌合される隙間の大きさに合わせた厚さに一体形成される。
【0009】
また図2は第2の実施の形態の耐火シール体7である。この耐火シール体7は、無機系発泡体2の上下両面にセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3が接着されたもの、すなわち第1の実施の形態の耐火シール体1の上面にもセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3を接着したものである。これは上下両面が火に晒されたとしても、その熱を無機系発泡板3とセメント系接着剤4とで上下両面から遮断するものであり、十分な耐火性能を保持することができる。
【0010】
また図3は第3の実施の形態の耐火シール体8である。この耐火シール体8は、無機系発泡体2の火に晒される側をセメント系接着剤4で被覆したものである。すなわち、第1の実施の形態の無機系発泡体1の下面をセメント系接着剤4で被覆したものである。このセメント系接着剤4も無機系発泡板3と同じように、十分な耐火性能を有するため、火災による熱から鉄筋など保護するものである。これは上記のように無機系発泡体2の片面でだけではなく、図4に示すように、無機系発泡体2の上下両面をセメント系接着剤4で被覆することもできる。
【0011】
また、第4の実施の形態の耐火シール体9として、図5に示すように、上記の第1〜第3の実施の形態の耐火シール体1、7、8の無機系発泡体2の上下部における貫通孔5、6の内周面にセメント系接着剤4を適宜厚さ塗布したものとすることもできる。このように貫通孔5、6の内周面にセメント系接着剤4を適宜厚さ塗布すると、この貫通孔5、6に鉄筋を通したときに鉄筋の外周面がセメント系接着剤4で被覆されるため、さらに耐火性能が高くなる。
【0012】
また図6は第5の実施の形態の耐火シール体10である。この耐火シール体10は、無機系発泡体2に鉄筋を通す貫通孔5、6が開口されていないものであり、これ以外は上記の第1の実施の形態の耐火シール体1と同じ構成である。
【0013】
また第6の実施の形態の耐火シール体11として、図7に示すように、第5の実施の形態の耐火シール体10の上面にもセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3を接着することもでき、無機系発泡体2には鉄筋を通す貫通孔5、6は開口されていない。この耐火シール体11も上記と同じように、上下両面が保護されて火災による熱から保護されて十分な耐火性能を保持する。
【0014】
さらに鉄筋を通す貫通孔5、6のない無機系発泡体2の片面または両面をセメント系接着剤4のみで被覆することもでき、いずれも十分な耐火性能を保持することができる。これは第3の実施の形態の耐火シール体8と同じように、無機系発泡体2の片面または両面に直接セメント系接着剤4を被覆するものであり、無機系発泡板3を省略したものである。
【0015】
また第7の実施の形態の耐火シール体12として、上記の第1〜第6の実施の形態の耐火シール体1、7、8、9、10、11における無機系発泡体2を、図8に示すように、薄い発泡板2aを複数枚重ね合わせて形成することもできる。
【0016】
また第8の実施の形態の耐火シール体13として、図9に示すように、上記の第1、第2、第4〜第7の実施の形態の耐火シール体1、7、9、10、11、12における無機系発泡板3を複数枚として、これらをセメント系接着剤4を介して無機系発泡体2に接着することもできる。
【0017】
また、上記の第1〜第4、第7および第8の実施の形態の耐火シール体1、7、8、9、12、13の無機系発泡体2における貫通孔5、6は上下部が同径、または上部が下部よりも大径であってもよい。
【0018】
また、上記の実施の形態の耐火シール体における無機系発泡体2は上記のような炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板に限らず、耐熱性のあるものならそれでもよい。さらに、セメント系接着剤に限らず、モルタル、石膏および珪藻土などが混合された接着剤であってもよい。
【0019】
また図10および図11は第1の実施の形態の耐火シール体1を、バルコニー14とコンクリート躯体15との接合部に設置した耐火シール構造16であり、無機系発泡体2の上部の貫通孔5にはバルコニー14とコンクリート躯体15とにわたって配筋された上端支持筋17が挿入され、前記貫通孔5よりも大径の下部の貫通孔6にはバルコニー14とコンクリート躯体15とにわたって配設されたステンレス製の下端支持材18が挿入され、該下端支持材18の両端部には支圧板19が設けられている。この耐火シール体1はバルコニー14とコンクリート躯体15との接合部の全長にわたって設置されており、適宜長さの耐火シール体1を長さ方向に連続して接合している。
【0020】
また無機系発泡体2の下面にはセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3が接着されているため、下側(下階)における火災による熱から下端支持材18および上端支持筋17が保護される。これらは無機系発泡板3、セメント系接着剤4および無機系発泡体2でそれぞれ保護されるが、セメント系接着剤4中における水分が火災による熱で蒸発することによっても下端支持材18および上端支持筋17が保護される。この耐火シール体1は上端支持筋17と下端支持材18との貫通孔5、6への挿入によってバルコニー14とコンクリート躯体15との接合部16における隙間20に設置されるが、この他にも無機系発泡体2の両側面にセメント系接着剤4を塗布して行うことができる。このように無機系発泡体2の両側面にセメント系接着剤4を塗布すると、無機系発泡体2の全面がセメント系接着剤4で被覆されるため耐火性能がさらに高められる。
【0021】
なお、この耐火シール構造16には耐火シール体1の他にも、第2〜第4、第7および第8の実施の形態の耐火シール体7、8、9、12、13を使用することもでき、この場合も上記と同様の効果を得ることができる。
【0022】
また図12は、第5の実施の形態の耐火シール体10を、カーテンウォール21と梁材22との層間隙間23に嵌め込んだ耐火シール構造24であり、鉄骨梁のフランジ22aの上面の幅半分に設置されると共に、先端側はカーテンウオール21の裏面側に当接させて層間隙間23を塞いでいる。そして、このフランジ22aの上面からカーテンウオール21の裏面にかけた下面にセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3が接着されている。そのため下階における火災による熱からカーテンウオール21のファスナーなどが保護される。また鉄骨梁22の表面にはロックウールなどの耐火材25が被覆されている。
【0023】
なお、この耐火シール体10の他にも、第6の実施の形態の耐火シール体11を使用することもでき、この場合も上記と同様の効果を得ることができる。
【0024】
また図13は、第2の実施の形態の耐火シール体7を、柱26と耐震補強壁27の縁切り部における隙間28に設置した耐火シール構造29である。この隙間28は構造体に及ぼす影響を極力小さくするために、耐震補強壁27の剛性を無視できるように構造体と耐震補強壁27との間に設置するものである。この耐火シール体7は無機系発泡体2の前後両面にセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3を接着したものであり、両側における火災による熱から柱26と耐震補強壁27とにわたって配筋された鉄筋30が保護される。また、この耐火シール体7も無機系発泡体2の両側面にセメント系接着剤4を塗布して縁切り部28における隙間29に設置することができる。
【0025】
図14および図15は、第1の実施の形態の耐火シール体1の耐火性能試験を示したものである。これは図14に示すような、厚さ50mmの薄型耐火シール体1aと、厚さ80mmの厚型耐火シール体1bが設置され、かつこれらに鋼材31が配設された縦が1100mmで、横が1810mmの大きさのコンクリート床板32の下面を加熱したものである。
【0026】
これはコンクリート床板32の下側からIS0834の耐火標準加熱曲線にしたがって60分間加熱した結果、薄型耐火シール体1aと厚型耐火シール体1bとも、非加熱側へ10秒を超えて継続する火炎の噴出、非加熱面で10秒を超えて継続する発炎、火炎が通る亀裂などの損傷および隙間の発生はそれぞれ全く無かった。
【0027】
また、図15に示すように、薄型耐火シール体1aにおける鋼材31の最高温度が168℃、厚型耐火シール体1bにおける鋼材31の最高温度が155℃であり、薄型耐火シール体1aの上面の最高温度が42℃、厚型耐火シール体1bの上面の最高温度が39℃であった。この結果、第1の実施の形態の耐火シール体1が十分な耐火性能を有していることを確認することができた。
【0028】
また第3の実施の形態の耐火シール体8も上記と同様に十分な耐火性能を有していることを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図2】第2の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図3】第3の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図4】第3の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図5】第4の実施の形態の耐火シール体の断面図である。
【図6】第5の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図7】第6の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は断面図である。
【図8】第7の実施の形態の耐火シール体の断面図である。
【図9】第8の実施の形態の耐火シール体の断面図である。
【図10】第1の実施の形態の耐火シール構造の断面図である。
【図11】第1の実施の形態の耐火シール構造の断面図である。
【図12】(1)および(2)は第2の実施の形態の耐火シール構造の断面図である。
【図13】第3の実施の形態の耐火シール構造であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図14】(1)は耐火性能試験で使用した第1の実施の形態の耐火シール体の平面図、(2)および(3)は同断面図である。
【図15】耐火シール体の耐火性能試験を示したグラフ図である。
【図16】従来の耐火シール構造の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1、7、8、9、10、11、12、13 耐火シール体
2 無機発泡体
2a 発泡板
3 無機発泡板
4 セメント系接着剤
5、6 貫通孔
14 バルコニー
15 コンクリート躯体
16、24、29、38 耐火シール構造
17 上端支持筋
18 下端支持材
19 支圧板
20、28 隙間
21 カーテンウオール
22 梁材
22a フランジ
23 層間隙間
25 耐火材
26 柱
27 耐震補強壁
30 鉄筋
31 鋼材
32 コンクリート床板
34 コンクリート床スラブ
35 コンクリート躯体
36 断熱材
37 鉄筋
【技術分野】
【0001】
本願発明は耐火シール体および耐火シール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物より突出するバルコニーや外廊下などのコンクリート床スラブがコンクリート躯体への熱橋となりやすく、このコンクリート床スラブからのコンクリート躯体内部への熱強防止手段として、図18に示すように、コンクリート床スラブ34とコンクリート躯体35との間に断熱材36を設けた構造が知られている。この断熱材36は、コンクリート床スラブ34とコンクリート躯体35とにわたって配筋された鉄筋37を火災時における熱から保護しなければならないため、耐火性能を有する耐火シール構造38となっている。また、その他の耐火シール構造としては、例えば特開平10−245911号の発明が知られている。
【特許文献1】特開平10−245911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の耐火シール構造の断熱材はロックウールなどの人造鉱物繊維断熱材を使用しているため、コンクリート床スラブとコンクリート躯体との間への設置が型枠を必要とするため非常に困難で煩雑になっていた。
【0004】
本願発明はこれらの問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、煩雑な手間を必要としない耐火シール体および耐火シール構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための耐火シール体は、建物の隙間に嵌め込む耐火シール体であり、適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を介して無機系発泡板を接着してなることを特徴とする。また建物の隙間に嵌め込む耐火シール体であり、適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を被覆してなることを含む。また無機系発泡体には鉄筋を通すための貫通孔が開口されたことを含む。また無機系発泡体および無機系発泡板は炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板であることを含むものである。
また耐火シール構造は、請求項1〜4のいずれかの耐火シール体を、躯体とバルコニーの接合部における隙間、柱と耐震補強壁の縁切り部における隙間、カーテンウォールと梁材との層間隙間のいずれかに嵌め込んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を介して無機系発泡板を接着したことにより、この無機系発泡板側が火災による熱で熱せられたとしてもセメント系接着剤も断熱効果を発揮するため、十分な耐火性能が発揮される。また無機系発泡体に設けた貫通孔により鉄筋を簡単に配筋することができる。また無機系発泡体および無機系発泡板を炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板にしたことにより、十分な耐火性能を確保することができる。また耐火シール板を、躯体とバルコニーの接合部における隙間、柱と耐震補強壁の縁切り部における隙間、カーテンウォールと梁材との層間隙間のいずれかに嵌め込んだことにより、十分な耐火性能を確保することができる。また従来のロックウールなどの人造鉱物繊維断熱材を設置する場合はポリエチレンシートにより袋詰め等の形状保持型枠が必要となるが、耐火シール体は形状保持性能を有するため、現場打ちコンクリートを打設する際の形状保持型枠を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の耐火シール体および耐火シール構造の実施の形態について説明する。はじめに耐火シール体の実施の形態について説明し、次に、この耐火シール体を使用した耐火シール構造の実施の形態について説明するが、各実施の形態において同じ構成は同じ符号を付して説明し、異なった構成にのみ異なった符号を付して説明する。
【0008】
図1は第1の実施の形態の耐火シール体1であり、この耐火シール体1は、適宜大きさの矩形状の無機系発泡体2と無機系発泡板3とから構成され、この無機系発泡板3が無機系発泡体2の火に晒される側(図1において下側)にセメント系接着剤4を介してが接着されている。この無機系発泡体2は適宜厚さの炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板であり、鉄筋を通すための貫通孔5、6が上下部に開口され、下部の貫通孔6は上部の貫通孔5よりも大径になっている。この無機系発泡体2と無機系発泡板3とはそれぞれ耐火性能が高いが、セメント系接着剤4もこれらに劣らず耐火性能が高いため、これらを有機的に組み合わせることにより、耐火性能をさらに高めることができる。また無機系発泡体2は嵌合される隙間の大きさに合わせた厚さに一体形成される。
【0009】
また図2は第2の実施の形態の耐火シール体7である。この耐火シール体7は、無機系発泡体2の上下両面にセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3が接着されたもの、すなわち第1の実施の形態の耐火シール体1の上面にもセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3を接着したものである。これは上下両面が火に晒されたとしても、その熱を無機系発泡板3とセメント系接着剤4とで上下両面から遮断するものであり、十分な耐火性能を保持することができる。
【0010】
また図3は第3の実施の形態の耐火シール体8である。この耐火シール体8は、無機系発泡体2の火に晒される側をセメント系接着剤4で被覆したものである。すなわち、第1の実施の形態の無機系発泡体1の下面をセメント系接着剤4で被覆したものである。このセメント系接着剤4も無機系発泡板3と同じように、十分な耐火性能を有するため、火災による熱から鉄筋など保護するものである。これは上記のように無機系発泡体2の片面でだけではなく、図4に示すように、無機系発泡体2の上下両面をセメント系接着剤4で被覆することもできる。
【0011】
また、第4の実施の形態の耐火シール体9として、図5に示すように、上記の第1〜第3の実施の形態の耐火シール体1、7、8の無機系発泡体2の上下部における貫通孔5、6の内周面にセメント系接着剤4を適宜厚さ塗布したものとすることもできる。このように貫通孔5、6の内周面にセメント系接着剤4を適宜厚さ塗布すると、この貫通孔5、6に鉄筋を通したときに鉄筋の外周面がセメント系接着剤4で被覆されるため、さらに耐火性能が高くなる。
【0012】
また図6は第5の実施の形態の耐火シール体10である。この耐火シール体10は、無機系発泡体2に鉄筋を通す貫通孔5、6が開口されていないものであり、これ以外は上記の第1の実施の形態の耐火シール体1と同じ構成である。
【0013】
また第6の実施の形態の耐火シール体11として、図7に示すように、第5の実施の形態の耐火シール体10の上面にもセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3を接着することもでき、無機系発泡体2には鉄筋を通す貫通孔5、6は開口されていない。この耐火シール体11も上記と同じように、上下両面が保護されて火災による熱から保護されて十分な耐火性能を保持する。
【0014】
さらに鉄筋を通す貫通孔5、6のない無機系発泡体2の片面または両面をセメント系接着剤4のみで被覆することもでき、いずれも十分な耐火性能を保持することができる。これは第3の実施の形態の耐火シール体8と同じように、無機系発泡体2の片面または両面に直接セメント系接着剤4を被覆するものであり、無機系発泡板3を省略したものである。
【0015】
また第7の実施の形態の耐火シール体12として、上記の第1〜第6の実施の形態の耐火シール体1、7、8、9、10、11における無機系発泡体2を、図8に示すように、薄い発泡板2aを複数枚重ね合わせて形成することもできる。
【0016】
また第8の実施の形態の耐火シール体13として、図9に示すように、上記の第1、第2、第4〜第7の実施の形態の耐火シール体1、7、9、10、11、12における無機系発泡板3を複数枚として、これらをセメント系接着剤4を介して無機系発泡体2に接着することもできる。
【0017】
また、上記の第1〜第4、第7および第8の実施の形態の耐火シール体1、7、8、9、12、13の無機系発泡体2における貫通孔5、6は上下部が同径、または上部が下部よりも大径であってもよい。
【0018】
また、上記の実施の形態の耐火シール体における無機系発泡体2は上記のような炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板に限らず、耐熱性のあるものならそれでもよい。さらに、セメント系接着剤に限らず、モルタル、石膏および珪藻土などが混合された接着剤であってもよい。
【0019】
また図10および図11は第1の実施の形態の耐火シール体1を、バルコニー14とコンクリート躯体15との接合部に設置した耐火シール構造16であり、無機系発泡体2の上部の貫通孔5にはバルコニー14とコンクリート躯体15とにわたって配筋された上端支持筋17が挿入され、前記貫通孔5よりも大径の下部の貫通孔6にはバルコニー14とコンクリート躯体15とにわたって配設されたステンレス製の下端支持材18が挿入され、該下端支持材18の両端部には支圧板19が設けられている。この耐火シール体1はバルコニー14とコンクリート躯体15との接合部の全長にわたって設置されており、適宜長さの耐火シール体1を長さ方向に連続して接合している。
【0020】
また無機系発泡体2の下面にはセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3が接着されているため、下側(下階)における火災による熱から下端支持材18および上端支持筋17が保護される。これらは無機系発泡板3、セメント系接着剤4および無機系発泡体2でそれぞれ保護されるが、セメント系接着剤4中における水分が火災による熱で蒸発することによっても下端支持材18および上端支持筋17が保護される。この耐火シール体1は上端支持筋17と下端支持材18との貫通孔5、6への挿入によってバルコニー14とコンクリート躯体15との接合部16における隙間20に設置されるが、この他にも無機系発泡体2の両側面にセメント系接着剤4を塗布して行うことができる。このように無機系発泡体2の両側面にセメント系接着剤4を塗布すると、無機系発泡体2の全面がセメント系接着剤4で被覆されるため耐火性能がさらに高められる。
【0021】
なお、この耐火シール構造16には耐火シール体1の他にも、第2〜第4、第7および第8の実施の形態の耐火シール体7、8、9、12、13を使用することもでき、この場合も上記と同様の効果を得ることができる。
【0022】
また図12は、第5の実施の形態の耐火シール体10を、カーテンウォール21と梁材22との層間隙間23に嵌め込んだ耐火シール構造24であり、鉄骨梁のフランジ22aの上面の幅半分に設置されると共に、先端側はカーテンウオール21の裏面側に当接させて層間隙間23を塞いでいる。そして、このフランジ22aの上面からカーテンウオール21の裏面にかけた下面にセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3が接着されている。そのため下階における火災による熱からカーテンウオール21のファスナーなどが保護される。また鉄骨梁22の表面にはロックウールなどの耐火材25が被覆されている。
【0023】
なお、この耐火シール体10の他にも、第6の実施の形態の耐火シール体11を使用することもでき、この場合も上記と同様の効果を得ることができる。
【0024】
また図13は、第2の実施の形態の耐火シール体7を、柱26と耐震補強壁27の縁切り部における隙間28に設置した耐火シール構造29である。この隙間28は構造体に及ぼす影響を極力小さくするために、耐震補強壁27の剛性を無視できるように構造体と耐震補強壁27との間に設置するものである。この耐火シール体7は無機系発泡体2の前後両面にセメント系接着剤4を介して無機系発泡板3を接着したものであり、両側における火災による熱から柱26と耐震補強壁27とにわたって配筋された鉄筋30が保護される。また、この耐火シール体7も無機系発泡体2の両側面にセメント系接着剤4を塗布して縁切り部28における隙間29に設置することができる。
【0025】
図14および図15は、第1の実施の形態の耐火シール体1の耐火性能試験を示したものである。これは図14に示すような、厚さ50mmの薄型耐火シール体1aと、厚さ80mmの厚型耐火シール体1bが設置され、かつこれらに鋼材31が配設された縦が1100mmで、横が1810mmの大きさのコンクリート床板32の下面を加熱したものである。
【0026】
これはコンクリート床板32の下側からIS0834の耐火標準加熱曲線にしたがって60分間加熱した結果、薄型耐火シール体1aと厚型耐火シール体1bとも、非加熱側へ10秒を超えて継続する火炎の噴出、非加熱面で10秒を超えて継続する発炎、火炎が通る亀裂などの損傷および隙間の発生はそれぞれ全く無かった。
【0027】
また、図15に示すように、薄型耐火シール体1aにおける鋼材31の最高温度が168℃、厚型耐火シール体1bにおける鋼材31の最高温度が155℃であり、薄型耐火シール体1aの上面の最高温度が42℃、厚型耐火シール体1bの上面の最高温度が39℃であった。この結果、第1の実施の形態の耐火シール体1が十分な耐火性能を有していることを確認することができた。
【0028】
また第3の実施の形態の耐火シール体8も上記と同様に十分な耐火性能を有していることを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図2】第2の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図3】第3の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図4】第3の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図5】第4の実施の形態の耐火シール体の断面図である。
【図6】第5の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図7】第6の実施の形態の耐火シール体であり、(1)は正面図、(2)は断面図である。
【図8】第7の実施の形態の耐火シール体の断面図である。
【図9】第8の実施の形態の耐火シール体の断面図である。
【図10】第1の実施の形態の耐火シール構造の断面図である。
【図11】第1の実施の形態の耐火シール構造の断面図である。
【図12】(1)および(2)は第2の実施の形態の耐火シール構造の断面図である。
【図13】第3の実施の形態の耐火シール構造であり、(1)は正面図、(2)は同断面図である。
【図14】(1)は耐火性能試験で使用した第1の実施の形態の耐火シール体の平面図、(2)および(3)は同断面図である。
【図15】耐火シール体の耐火性能試験を示したグラフ図である。
【図16】従来の耐火シール構造の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1、7、8、9、10、11、12、13 耐火シール体
2 無機発泡体
2a 発泡板
3 無機発泡板
4 セメント系接着剤
5、6 貫通孔
14 バルコニー
15 コンクリート躯体
16、24、29、38 耐火シール構造
17 上端支持筋
18 下端支持材
19 支圧板
20、28 隙間
21 カーテンウオール
22 梁材
22a フランジ
23 層間隙間
25 耐火材
26 柱
27 耐震補強壁
30 鉄筋
31 鋼材
32 コンクリート床板
34 コンクリート床スラブ
35 コンクリート躯体
36 断熱材
37 鉄筋
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の隙間に嵌め込む耐火シール体であり、適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を介して無機系発泡板を接着してなることを特徴とする耐火シール体。
【請求項2】
建物の隙間に嵌め込む耐火シール体であり、適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を被覆してなることを特徴とする耐火シール体。
【請求項3】
無機系発泡体には鉄筋を通すための貫通孔が開口されたことを特徴とする請求項1または2に記載の耐火シール体。
【請求項4】
無機系発泡体および無機系発泡板は炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐火シール体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの耐火シール体を、躯体とバルコニーの接合部における隙間、柱と耐震補強壁の縁切り部における隙間、カーテンウォールと梁材との層間隙間のいずれかに嵌め込んだことを特徴とする耐火シール構造。
【請求項1】
建物の隙間に嵌め込む耐火シール体であり、適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を介して無機系発泡板を接着してなることを特徴とする耐火シール体。
【請求項2】
建物の隙間に嵌め込む耐火シール体であり、適宜大きさの無機系発泡体の火に晒される側にセメント系接着剤を被覆してなることを特徴とする耐火シール体。
【請求項3】
無機系発泡体には鉄筋を通すための貫通孔が開口されたことを特徴とする請求項1または2に記載の耐火シール体。
【請求項4】
無機系発泡体および無機系発泡板は炭酸カルシウム板または炭酸アルミニウム板であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐火シール体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの耐火シール体を、躯体とバルコニーの接合部における隙間、柱と耐震補強壁の縁切り部における隙間、カーテンウォールと梁材との層間隙間のいずれかに嵌め込んだことを特徴とする耐火シール構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−50828(P2008−50828A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227563(P2006−227563)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000228350)日本カイザー株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000228350)日本カイザー株式会社 (14)
【Fターム(参考)】
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