説明

耐火性樹脂発泡積層体

【課題】屋根鋼板裏貼り断熱材として使用した場合に、その屋根が屋根耐火30分認定試験に合格する優れた耐火性を有する耐火性樹脂発泡積層体を提供する。
【解決手段】無機系難燃剤を含有する樹脂発泡体シートの表面に、リン化合物、窒素含有化合物および低融点ガラスを含むコート剤を塗工してなることを特徴とする耐火性樹脂発泡積層体16とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根鋼板裏貼り断熱材として好適に使用される耐火性樹脂発泡積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂発泡体は、その優れた軽量性、断熱性、耐水性、耐薬品性のため、建材、家電、自動車、エネルギー、玩具等の広い分野で使用されている。ポリオレフィン系樹脂自体は易焼性であるため、難燃性を要求される分野では、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤を配合して難燃性を付与することが行われている。
【0003】
上記のように無機系難燃剤を配合して難燃性を付与したポリオレフィン系樹脂発泡体の用途として、屋根鋼板裏貼り断熱材がある。この断熱材は、ポリオレフィン系樹脂発泡体シートの表面にプライマーを塗工したもので、プライマー塗工面を屋根鋼板に貼り合わせるものである。しかし、この断熱材は、屋根耐火30分認定試験において厚みおよび鋼板との接着性が不十分になり、屋根耐火30分認定試験に合格しない可能性があるという問題があった。
【0004】
上述した問題を解消するために、上記屋根鋼板裏貼り断熱材のプライマーとして、発泡性耐火塗料を用いることが考えられる。このような発泡性耐火塗料としては、例えば特許文献1〜3に記載されたものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2005−97509号公報
【特許文献2】特開2004−155889号公報
【特許文献3】特開2005−314693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの発泡性耐火塗料は、建材(梁、柱等)の鋼材に直接施工されるものであり、コストアップに繋がる。また、建材部位による耐火性能の相違より、2mm程度の厚塗りを前提としたものであり、コストダウンのために薄塗りするとその耐火性能が大きく低下する問題がある。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、屋根鋼板裏貼り断熱材として使用でき、更に耐火性能評価時において発泡体に含有される無機質難燃剤を効果的に屋根鋼板に付着させることで、屋根鋼板の温度上昇を抑制させ、その屋根が屋根耐火30分認定試験に合格する優れた耐火性を有する耐火性樹脂発泡積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するため、下記(1)〜(6)の耐火性樹脂発泡積層体を提供する。
(1)無機系難燃剤を含有する樹脂発泡体シートの表面に、リン化合物、窒素含有化合物および低融点ガラスを含むコート剤を塗工してなることを特徴とする耐火性樹脂発泡積層体。
(2)前記コート剤は、エマルジョン系塗料、または接着剤もしくは粘着剤プライマーにリン化合物、窒素含有化合物および低融点ガラスを配合したものであることを特徴とする(1)の耐火性樹脂発泡積層体。
(3)前記コート剤は、エマルジョン系塗料、または接着剤もしくは粘着剤プライマーの固形分100重量部に対し、リン化合物20〜300重量部と、窒素含有化合物5〜300重量部と、低融点ガラス5〜100重量部とを配合したものであることを特徴とする(2)の耐火性樹脂発泡積層体。
(4)前記窒素含有化合物は、1つ以上の水酸基を有するものであることを特徴とする(1)〜(3)の耐火性樹脂発泡積層体。
(5)前記低融点ガラスの屈伏点は、300〜750℃であることを特徴とする(1)〜(4)の耐火性樹脂発泡積層体。
(6)前記リン化合物は、窒素含有化合物によりマイクロカプセル化されていることを特徴とする(1)〜(5)の耐火性樹脂発泡積層体。
【0009】
屋根耐火30分試験は、炉内をISO834の加熱曲線に準じて加熱し、炉上部に設置した屋根試験体の撓み量および撓み速度を測定するもので、試験に合格するためには、上記撓み量および撓み速度を一定基準内におさめる必要がある。本発明の耐火性樹脂発泡積層体は、上記構成としたことにより、燃焼時に樹脂発泡体に元々含有されている無機系難燃剤の燃焼残渣を効率的に鋼板に固着させるとともに、加熱時の屋根の撓み(強度)に影響する屋根鋼板自体の温度上昇を抑制するための断熱層を形成するため、屋根耐火30分認定試験に合格する優れた耐火性を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の耐火性樹脂発泡積層体は、屋根鋼板裏貼り断熱材として使用した場合に、その屋根が屋根耐火30分認定試験に合格する優れた耐火性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明の耐火性樹脂発泡積層体は、無機系難燃剤を含有する樹脂発泡体シートの表面に、リン化合物、窒素含有化合物(例えば、トリアジン環を有する化合物)および低融点ガラスを含むコート剤を塗工したもので、上記コート剤としては、エマルジョン系塗料またはプライマーにリン化合物、窒素含有化合物および低融点ガラスを配合したものを好適に使用することができる。以下、本発明における各成分について説明する。
【0012】
樹脂発泡体シートの材料としては、ポリオレフィン系樹脂を好適に使用することができ、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等の1種単独または2種以上の混合物を用いることができる。これらの中では、エチレン−酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。また、樹脂発泡体としては、樹脂架橋発泡体が好ましい。
【0013】
無機系難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミ、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、タルク、マイカ、カオリン、シラスバルーン、中空セラミック等を用いることができる。これらの中では、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモンが特に好ましい。
【0014】
コート剤のエマルジョン系塗料としては、例えば、ポリエステル系塗料、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、エポキシ系塗料、酢酸ビニル系塗料、ポリブタジエン系塗料、アルキッド樹脂系塗料、塩化ビニル系塗料、メラミン樹脂系塗料等を用いることができる。これらの中では、ポリエステル系塗料、アクリル系塗料、エポキシ系塗料が特に好ましい。
【0015】
コート剤の接着剤または粘着剤プライマー(接着剤または粘着剤塗工のためのプライマー)としては、例えば、クロロプレンゴム系、SBR系、アイオノマー系、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系等のプライマーを用いることができる。これらの中では、クロロプレンゴム系プライマーが特に好ましい。
【0016】
コート剤のリン化合物は、発泡剤としての役割および脱水炭化促進の役割を有する。リン化合物としては、例えば、リン、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ポリリン酸アミド、トリフェニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート等を用いることができる。これらの中では、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミンが特に好ましい。また、リン化合物は、窒素含有樹脂によりマイクロカプセル化されていることが、エマルジョン系塗料またはプライマーに添加する上でリン化合物の耐水性を高めるという点で好ましい。
【0017】
コート剤の窒素含有化合物は、炭化発泡剤としての役割を有する。窒素含有化合物としては、1つ以上の水酸基を有するものであることが好ましく、このような化合物として、例えば、メラミンシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ニトリロトリスメチレンホスホン酸メラミン塩、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素等を用いることができる。これらの中では、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートが特に好ましい。
【0018】
コート剤の低融点ガラスは、炭化物安定化の役割を有する。低融点ガラスとしては、例えば、B系、NaO系、KO系、P系、Al系、BaO系、CaO系、MgO系、LiO系、SrO系、CuO系低融点ガラス等を用いることができる。これらの中では、BO系、NaO系、P系低融点ガラスが特に好ましい。また、低融点ガラスは、屈伏点が300〜750℃、より好ましくは500〜650℃のものが好ましく、屈伏点における体積膨張係数の大きいものが好ましい。低融点ガラスは、フレーク状または粉末状のガラスフリットの形態でコート剤に配合することが適当である。
【0019】
コート剤における各成分の配合量は、エマルジョン系塗料またはプライマーの固形分100重量部に対して、リン化合物は20〜300重量部、より好ましくは100〜200重量部、窒素含有化合物は5〜300重量部、より好ましくは50〜200重量部、低融点ガラスは5〜100重量部、より好ましくは40〜80重量部である。
【0020】
また、コート剤には、上述した成分のほか、炭化触媒などの任意成分を配合することができる。この場合、炭化触媒としては、例えば、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硼酸亜鉛、硫酸マンガン、酢酸マンガン、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、等を用いることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでない。
【0022】
下記表1に示す組成のコート剤を調製し、このコート剤を無機系難燃剤(水酸化アルミニウムあるいは水酸化マグネシウム)を含有するポリオレフィン系発泡体シート(古河電気工業株式会社製フネンエース)の片面に塗工して実施例1〜8、比較例の耐火性樹脂発泡積層体を作製した。比較例は従来例である。表1におけるプライマーとしてはクロロプレンゴム系プライマー、リン化合物としてはポリ燐酸アンモニウム、窒素含有化合物としてはトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを用いた。また、表1における難燃剤塗工量は、コート剤塗工量中の難燃剤固形分量であり、ポリ燐酸アンモニウム、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートおよびガラスフリットの単位面積当りの含有量である。
【0023】
上記耐火性樹脂発泡積層体を用いて下記実験を行った。
(実験方法)
図1に示すように、樹脂発泡体の片面に実施例、比較例のプライマー12を塗工して耐火性樹脂発泡積層体14とし、この積層体のプライマー面と鋼板片面をスプレー糊で貼り合わせ実験用サンプルを作製した後、耐火性樹脂発泡積層体14が電気炉16側となるように実験用サンプルを電気炉16の扉の外面に当接させて設置した。炉内温度が0〜5min:237℃、5〜8min:435℃、8〜11min:549℃、11〜35min:850℃となるように昇温を行い、その際の耐火性樹脂発泡積層体14非貼合側の鋼板10表面の温度をK熱電対で測定し、温度変化を確認することで、耐熱試験を行った。
(判定基準)
1.鋼板温度が550℃に到達する時間(550℃は鋼板強度の低下が大きくなると考えられる時間)により下記基準で耐熱性を判定した。
◎:20分以上
○:15分以上
×:15分未満
2.35分加熱後の鋼板温度により下記基準で耐熱性を判定した。
◎:700℃未満
○:700〜749℃
×:750℃以上
【0024】
実験結果を表1、2に示す。表1、2より、コート剤にリン化合物、窒素含有化合物および低融点ガラスを配合した実施例の積層体は、優れた耐火性を有することがわかる。これに対し、コート剤にリン化合物、窒素含有化合物および低融点ガラスをいずれも配合しない比較例は、実施例の積層体に較べて耐火性が劣るものであった。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例における実験を示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
10 鋼板
12 プライマー
14 耐火性樹脂発泡積層体
16 電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機系難燃剤を含有する樹脂発泡体シートの表面に、リン化合物、窒素含有化合物および低融点ガラスを含むコート剤を塗工してなることを特徴とする耐火性樹脂発泡積層体。
【請求項2】
前記コート剤は、エマルジョン系塗料、または接着剤もしくは粘着剤プライマーにリン化合物、窒素含有化合物および低融点ガラスを配合したものであることを特徴とする請求項1に記載の耐火性樹脂発泡積層体。
【請求項3】
前記コート剤は、エマルジョン系塗料、または接着剤もしくは粘着剤プライマーの固形分100重量部に対し、リン化合物20〜300重量部と、窒素含有化合物5〜300重量部と、低融点ガラス5〜100重量部とを配合したものであることを特徴とする請求項2に記載の耐火性樹脂発泡積層体。
【請求項4】
前記窒素含有化合物は、1つ以上の水酸基を有するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐火性樹脂発泡積層体。
【請求項5】
前記低融点ガラスの屈伏点は、300〜750℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐火性樹脂発泡積層体。
【請求項6】
前記リン化合物は、窒素含有化合物によりマイクロカプセル化されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐火性樹脂発泡積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−208355(P2009−208355A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53687(P2008−53687)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】