説明

耐火物、及びそれの製造方法

本発明は、改良された表面特性を有する、一般的な耐火物に関する。本発明の目的は、溶融シリカマトリックスのよく知られた性能を保持しながら、いくつかの欠点を解決する、溶融シリカマトリックスを含有する耐火物の改良品を提案することである。この目的は、焼結したセラミック相が、マトリックスの少なくとも表面の少なくとも一部の多孔部に存在する場合に、達成する。本発明は、また、そのような耐火物を製造するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された表面特性を有する、一般的な耐火物に関する。特に、溶融シリカマトリックスを含む耐火物、たとえば、熱物品を運搬するロール、又は溶融ガラス若しくは非鉄金属の処理のために使われる物品、たとえば、ケイ素を溶融若しくは結晶化するための坩堝、及びアルミニム等の処理のための回転式脱ガス炉等、に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火材料は、高い要求がある用途、たとえば、溶融金属の処理又は熱物品の取扱いで、広く使われる。特に、溶融シリカを含む材料は、高温での優れた作用、たとえば、高耐火度及び低熱膨張、並びにガラス又は数種の溶融金属に対して比較的不活性ということで、よく知られている。
【0003】
ところが、溶融シリカ材料の、ある表面特性では、いくつかの用途に対して、溶融シリカ材料は不適当である。特に、"表面ピックアップ作用"(運搬物の表面に存在する不純物又は破片をピックアップする材料の作用)又は"表面ビルドアップ作用"(金属粒子、たとえば、錫、ケイ素等、おそらく酸化されたもの(酸化錫)を付着して、蓄積する表面の作用)によって、ガラスアニーリングロール(LOR,Lehr)、ガラステンパリングロール(GTR)、又は溶融ガラス若しくは金属の取り扱い及び/若しくは処理のための容器(たとえば、ケイ素を溶融するための坩堝)としての使用は、たいへん問題になる。運搬物の跡(マーキング)及び坩堝の内壁に付着したケイ素の結晶は、そのような問題の例示である。
【0004】
そのような用途に対しては、高額で精巧なコーティングをした、シリカマトリックスを供給するか又は他の材料(たとえば、金属)を使うかが必要である。
【0005】
英国特許第2154228A号には、所定の位置に耐火物を形成するために、表面に噴霧する組成物に関して、記載されている。そのような組成物は、たとえば、ガラス溶融炉の塩基性耐火ブロックを修理するために使用する。米国特許4230498号には、耐火炉ブロック、特に、シリカブロックの補修(パッチング)の組成物に関して、記載されている。その補修(パッチング)の組成物は、適用される熱シリカブロックに結合する。そのような組成物は、高温の炉又はコークス炉の内壁を修理するために使用される。両者において、噴霧又は補修(パッチング)された表面は粗く、もはや制御できない。
【0006】
フランス特許第2707084号には、非腐食性の膜を、溶融金属用途のガラス質のシリカ耐火物に塗布することに関して、記載されている。ガラス質のシリカ基材には有害である1200℃よりも低い温度で、塗膜を焼結するために、焼結助剤を添加する。そのような焼結した塗膜は、弱く、脆く、さらには熱サイクルに順応しない。
【0007】
米国特許4528244号には、溶融シリカ製品に用いられるサイアロン(SiAlON)塗膜に関して、述べている。サイアロン(SiAlON)も、また、いくつかの欠点がある。サイアロン(SiAlON)の材料に存在するガラス層は、基材に接着又は貼りつくことが可能と考えられる。その上、サイアロン(SiAlON)は熱による酸化の可能性があり、さらに、溶融シリカは不可逆的に結晶化をするので、サイアロン(SiAlON)の材料は、熱サイクルをすることには不適当である。
【0008】
また、塗膜の設置は、付加的な製造工程を必要とするので、つねに、高額であり、さらに、避けられないことであるが、塗膜材料のさらに追加する層は、シリカマトリックス材料の表面から離層する傾向があり、塗膜の優位性を失うだけでなく、剥れの欠陥を生じるので、一時的な解決しかならない。運搬用途又は固体接触用途のために、塗膜材料を表面上に添加するので、表面を均質にするために、塗膜後に、機械的加工処理を塗膜物に施すことが度々必要である。さらに、この追加する層の熱膨張(又は、一般的な熱の作用)は、シリカマトリックスの熱膨張(又は、一般的な熱の作用)とは異なるので、塗膜とシリカマトリックスの境界面に制約が生じる。そして、これにより、表面特性に対して、悪い方向で影響が生じる。そのうえ、この追加する層の熱伝導性は、溶融シリカマトリックスの熱伝導性と同じではないので、その物を介した熱の移動は、均一ではない。金属は、処理又は運搬される物に対して、比較的高い反応性を示すので、そのような物に対して金属材料を使用することも、また、満足のいくものではない。加えて、金属物品は、溶融シリカ物と比較して、たいへん高い曲げ変形を有し、厳しい環境下(たとえば、Lehr又は結晶成長炉)において、使用するのに適した時間帯は、比較的短い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、溶融シリカマトリックスの優れた公知性能を保持しながら、上述した欠点を解決する、溶融シリカマトリックスを含有する耐火物の改良品を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によると、この目的(さらに、他の目的)は、焼結したセラミック相が、マトリックスの少なくとも表面の少なくとも一部の多孔部に存在する場合に、達成され、表面とは、基材又は活性層を意味する。焼結セラミック相を含まないが溶融シリカを含むその物のコアとは対照的に、その物の基材又は活性層は、その多孔部中に、焼結セラミック相の大部分を含有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
発明者らは、実に、上記に示された欠点が、主に、ガラス又は金属と、溶融シリカ物の表面に存在する開孔部との相互作用が原因である仮説を立て、この表面の多孔部を充填する方法を見出すことを試みた。表面の多孔部を充填した結果として、表面の密度が、溶融シリカマトリックスの中心部の密度より、それゆえに、高くなる。表面の開孔が溶融シリカ物のコアの開孔よりも、少なくとも20%低いことが、好ましい。50%以上低いことが、最も好ましい。
【0012】
本発明によると、表面の開孔が約200μmから約1mm、好ましくは約500μmまで充填され、シリカマトリックスの当初表面が、完成品の表面とし残る。結果として、含浸後に、さらなる機械的処理を必要としない。シリカマトリックスの表面を充填することは、シリカマトリックスと焼結セラミックス相間の物質的な連続性を保証する。マトリックスの表面層とともにフィラ−のさらなる焼結は、マトリックスとフィラ−間のたいへん高い密着性を保証する。同時に、両者は、その物の特性及び性能を大幅に改良することに対して相乗的に寄与する。フィラ−は、表面層に均質的に分散され、質量換算で、全体の表面層材料の10%未満を構成する。このようにして、系は、熱的に安定状態を保ち、応力が少なく、張力、剥がれ又はひびのある亀裂は減少する。
【0013】
溶融シリカ材料の表面多孔部は、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びマグネシウムの各酸化物、及びそれらの組み合わせ、並びに、ホウ素、アルミニウム、及びケイ素の各窒化物、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選ばれるセラミック材料で充填されていることが好ましい。
【0014】
本発明は、また、そのような物を製造するための方法に関する。本発明の有利な態様によれば、溶融シリカマトリックスの表面に、必要とされる金属原子を供給する有機金属化合物の溶液を含浸する。適切な有機金属化合物は、ケイ素に基づくもの(テトラエチルオルトシリケート類、メチルオルトシリケート類、シラン類、等)、ジルコニウムに基づくもの(ジルコニウムアセテート、ジルコニウムニトレート、塩化ジルコニウム類、オキシ塩化ジルコニウム類、等)、アルミニウムに基づくもの(アセテート、等)、及びマグネシウムに基づくもの(塩化物類)である。代替として、必要とされる金属原子を含む樹脂(たとえば、ポリシラン、アルミニウムキレート変性樹脂、ポリ酸樹脂の塩、等)も、また使用することができる。
【0015】
代替として、多孔質フィラ−は、液体キャリア中の懸濁液としても導入することができる。そのような場合に、材料の微粒子(平均粒子サイズ0.01μm未満)は、適切な液体キャリア中に懸濁される。たとえば、適当な材料は、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、それらの酸化物、又はホウ素、アルミニウム若しくはケイ素の窒化物、又はサイアロン(SiAlON)の金属粒子である。
【0016】
さらなる段階において、セラミックを焼結するために、物の表面に、さらに、熱処理を施す。特に好適な処理は、表面充填部の火炎処理による焼結からなる。もっとも、生成物を単に硬化させるだけで所要の処理が得られる場合はある。
【0017】
測定により、表面の多孔度(開孔)は、溶融シリカマトリックスのコアの多孔度に対して、少なくとも50%減少し得ることが示された。表面の孔の大きさは、また、未処理の溶融シリカの平均表面孔径1μmから、本発明による製品の0.1μm未満に減少する。本発明による物品の表面粗さは、また、先行技術の物品に基づいた溶融シリカマトリックスと比して、劇的に減少する。本発明によれば、表面粗さ(RaとRz)は、著しく減少する。Raは、3μmから、1.5μm未満に変化し、Rzは、15μmから、6μm未満に変化する。視覚的には、表面構造の改良(ホール、傷、泡、及びピンホール、等の減少)を観察することもできる。溶融シリカ材料の曲げ強度(20MPa超)が、表面改質によって影響を受けることはない。
【実施例】
【0018】
本発明を、さらに詳細に説明するために、実施例を示して説明をする。実施例は、本特許の適用の範囲を限定するものではない。
【0019】
実施例1a−溶融シリカ物の表面の含浸
50質量%のテトラエチルオルトシリケート(純度99.3%)、33質量%のイソプロパノール(純度99.7%)、と17質量%(5%水溶液)を混合し、シロキサンの粘性溶液を調製する。結果として、pHが、約5.5の溶液になる。真空(1時間、<0.2bar)下で、この溶液中に、溶融シリカロール(直径100mm)を含浸する。それから、その含浸されたロールに熱をかける(24時間、60℃で強制乾燥)。ゲルは、表面層内に、発現し、安定化する。その結果、ロールの表面多孔部内に、現場で自然シリカの超微粒子が形成される。
【0020】
実施例1b−溶融シリカ物の表面の含浸
60質量%のテトラエチルオルトシリケート(純度99.3%)と40質量%のイソプロパノール(純度99.7%)を混合して、第一の含浸の溶液を調製する。ロールの表面の多孔質を、毛管状に含浸するために、10分間、この溶液中に、溶融シリカロール(直径100mm)を浸す。それから、そのロールを、塩酸溶液(5%水溶液)に浸す。そして、その含浸させたロールに熱をかける(2時間60℃)。表面多孔質をさらに減少させることを望むのであれば、この一連の操作を繰り返す。一回の含浸によって、表面の開孔が40%減少する。2回の含浸によって、表面の開孔がさらに20%減少する。3回の含浸によって、表面の開孔がさらに10%減少する。
【0021】
実施例1c−溶融シリカ物の表面の含浸
テトラエチルオルトシリケートを、56質量%のテトラエチルオルトシリケートと44質量%のジルコニウムアセテートの混合物に変更する以外は、実施例1aと同様な方法を繰り返す。
【0022】
実施例1d−溶融シリカ物の表面の含浸
溶融シリカロールを含浸する前に、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、それらの酸化物、又はホウ素、アルミニウム若しくはケイ素の窒化物、又はサイアロンの金属粒子を、溶液中に懸濁する以外は、実施例1aと同様な方法を繰り返す。
【0023】
実施例2−溶融シリカ物の表面の焼結
実施例1aから1dに従って調製した物を、2時間800℃で、焼成する。
【0024】
本発明による耐火物は、優れた性能により、多くの工業上の用途を見出すことができる。その性能により、熱物品を運搬するためのロール、たとえば、ガラスシートを運搬するためのガラスアニーリングロール(Lehr若しくはLOR)、若しくはガラステンパリングロ−ル、電気鋼板に基づいた熱処理するステンレス若しくはケイ素のためのロール、又は高温溶融亜鉛メッキ用途の熱処理する炭素鋼板のためのロールを提供し、また、溶融材料(ガラス、金属、等)の処理のために使用される容器、たとえば、ケイ素を溶解、処理、及び/若しくは結晶化するための坩堝、又は高性能用途のガラス(たとえば、レンズ等の光学用途のガラス)を、溶解及び/若しくは処理するための坩堝を提供し、さらにまた、溶融材料の処理に使用するための物品、たとえば、アルミニウム等の処理のための回転式脱ガス炉を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと少なくとも表面を有する溶融シリカマトリックスを含む耐火物であって、当該マトリックスの少なくとも表面の少なくとも一部の多孔部に、焼結セラミック相が、存在する耐火物。
【請求項2】
前記焼結セラミックス相が、前記マトリックスの表面から200μmから1mmの深さまで、好ましくは、500μmの深さまで、存在することを特徴とする請求項1に記載の耐火物。
【請求項3】
前記マトリックスの前記表面の少なくとも一部が、前記マトリックスの前記コアの密度よりも高い密度を有し、前記マトリックスの前記コアの多孔度よりも低い多孔度を有することを特徴とする請求項1に記載の耐火物。
【請求項4】
前記焼結セラミック相が、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びマグネシウムの酸化物、及びそれらの組み合わせ、並びにホウ素、アルミニウム、及びケイ素の窒化物、及びそれらの組み合わせ、並びにアルミニウム、及びケイ素の酸窒化物、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の耐火物。
【請求項5】
熱物品を運搬するためのロールであって、当該ロールが、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の耐火物によることを特徴とし、前記焼結セラミック相が、運搬される当該物品に接する表面の一部に存在することを特徴とするロール。
【請求項6】
溶融金属の取扱いまたは処理のための坩堝であって、当該坩堝が、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の耐火物によることを特徴とし、前記焼結セラミック相が、当該坩堝の内側表面に存在することを特徴とする坩堝。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の物の製造方法であって、a)コアと少なくとも表面を有する溶融シリカマトリックスを含むセラミック物を供給し、b)当該物の少なくとも表面の少なくとも一部を含浸し、d)当該物の少なくとも表面の当該少なくとも一部を焼結する、製造方法。
【請求項8】
前記焼結工程d)が、500℃から800℃で前記物を焼成することを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
c)前記含浸工程b)後であって、前記焼結工程d)前に、当該含浸物を乾燥する、さらなる工程を含むことを特徴とする、請求項7又は請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程b)及びc)が、前記工程d)に移行する前に繰り返されることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。

【公表番号】特表2009−537431(P2009−537431A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510335(P2009−510335)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/004248
【国際公開番号】WO2007/131749
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(500573370)ベスビウス クルーシブル カンパニー (23)
【Fターム(参考)】