説明

耐熱成形物及びその製造方法

【課題】粉末焼結積層造形法において、汎用のレーザー焼結機にて成形可能でありかつ、従来の成形体に比べて耐熱性に優れ、一度に複数成形することが可能な成形物を提供する。
【解決手段】球状カーボンと樹脂粉末を必須成分とする複合材料粉末を使用し、粉末焼結積層造形法により作製された成形体に、耐熱性樹脂を含浸した成形物であることを特徴とする。特に耐熱性樹脂として、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミドを使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末積層造形法により作製された成形体に耐熱性樹脂を含浸させた成形物に関する。より詳細には、球状カーボン及び樹脂粉末を必須成分とする複合材料粉末を使用し、粉末焼結積層造形法により作製された成形体に、耐熱性樹脂を含浸させた成形物であり、汎用のレーザー焼結機にて成形可能でありかつ、従来の成形物に比べて、耐熱性に優れ、一度に複数成形することができる。
【背景技術】
【0002】
従来、粉末焼結積層造形用材料として使用されていたポリアミド11より、寸法精度、成形性、機械強度、リサイクル性に優れたポリアミド12が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、耐熱性に優れた成形物を作製するために、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の高耐熱性樹脂ブロックを、NC加工機を使用し切削加工する方法(例えば、特許文献2参照。)や、粉末焼結積層造形用材料として、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)を使用する方法(例えば、特許文献3参照。)や、1,10−デカンジアミン及びテレフタル酸、1,6−ヘキサンジアミン及びテレフタル酸を使用する方法(例えば、特許文献4参照。)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−216779号公報
【特許文献2】特開2002−187013号公報
【特許文献3】特開2007−39631号公報
【特許文献4】特開2008−274288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のポリアミド12により作製された成形物は、粉末焼結積層造形する際に、汎用のレーザー焼結機を使用することが可能であるが、耐熱性に乏しく100℃以上の環境では使用することが出来なかった。
【0006】
また、特許文献2に記載の高耐熱樹脂ブロックを切削加工し成形品を得る方法は、耐熱性に優れるものの、成形物の作製に時間がかかり、切削加工機1台につき一度に1個ずつしか作製することができない。さらに、特許文献3及び特許文献4に記載の材料は、融点が高いため、粉末焼結積層造形する場合、汎用のレーザー焼結機では、レーザー照射面が反ってしまうため造形ができない。そのため、高温仕様のレーザー焼結機(例えば、EOS製EOSINT P 800等)を使用しなければならない。
【0007】
本発明は、上記従来技術が有する問題点を解決するためのものであり、汎用のレーザー焼結機にて成形可能でありかつ、従来の成形物に比べて、耐熱性に優れ、一度に複数成形することが可能な成形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、球状カーボンと樹脂粉末を必須成分とする複合材料粉末を使用し、粉末焼結積層造形法により作製された成形体に、耐熱性樹脂を含浸した成形物であることを特徴とする。
【0009】
本発明の耐熱性樹脂はエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミドであることが好ましい。
【0010】
本発明の複合材料粉末中に球状カーボンを40〜85質量%、樹脂粉末を15〜60質量%含むことが好ましい。
【0011】
本発明の樹脂粉末はポリアミド、ポリプロピレンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
球状カーボンと樹脂粉末を複合材料粉末の必須成分として使用し、粉末焼結積層造形法により作製された成形体に、耐熱性樹脂を含浸させた本発明の成形物は、汎用のレーザー焼結機にて成形可能でありかつ、従来の成形物に比べて耐熱性に優れ、一度に複数成形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の耐熱性樹脂を含浸する前の成形体に用いられる複合材料粉末について説明する。本発明の複合材料粉末は球状カーボンと樹脂粉末を必須成分とする。
【0014】
本発明の耐熱性樹脂を含浸する前の成形体に用いられる複合材料粉末を構成する球状カーボンとしては、球形度が0.7〜1.0であるものが好ましい。
本発明において、球形度は、「粒子の投影面積に等しい円の直径」/「粒子の投影像に外接する最小円の直径」により求められる値であり、該値が1に近いほど、真球状に近いことを示す。「粒子の投影面積に等しい円の直径」及び「粒子の投影像に外接する最小円の直径」は、それぞれ、マイクロスコープと画像解析ソフト(例えば、キーエンス社製マイクロスコープVH−5000と同社製ソフトVH−H1A5)により求められる。
本発明の球状カーボンは、例えば球状熱硬化性樹脂硬化物を400〜1000℃、窒素雰囲気下で炭化することによって得ることができる。具体的には群栄化学工業社製のGCタイプが好ましい。球状カーボンの比重は樹脂粉末の比重に近く、樹脂粉末への分散性がよいため添加量を85質量%と多量でも優れた成形性を有する。一方、従来から粉末焼結積層造形法で用いられている骨材、例えばアルミニウム粉末、ガラスビーズは樹脂粉末との比重差が大きいため分散性が悪く、50質量%以上の添加では成形不良が発生し、カーボン繊維はその繊維状の形状から樹脂粉末への分散性が悪く30質量%以上で成形不良が発生する。
【0015】
また、本発明の耐熱性樹脂を含浸する前の成形体に用いられる複合材料中の含有量は、好ましくは球状カーボンが、40質量%から85質量%、樹脂粉末が、15質量%から60質量%、さらに好ましくは、球状カーボンが70質量%から80質量%、樹脂粉末が20質量%から30質量%である。この範囲の場合、耐熱性の高い球状カーボンの比率が多いため、成形物の耐熱性が向上する。一方、球状カーボンが40質量%未満の場合、耐熱性の高い球状カーボンの比率が少なく、耐熱性の低い樹脂粉末の比率が多くなるため、成形物の耐熱性が低いものとなる。また、球状カーボンが85質量%以上、樹脂粉末15%以下の場合、粉末焼結法で造形する際にバインダーである樹脂粉末が少ないため造形できない。
【0016】
本発明の耐熱性樹脂を含浸する前の成形体に用いられる複合材料中の球状カーボンは、カップリング剤等で表面処理を行うことができる。表面処理を行うことで成形時に球状カーボンと樹脂粉末の接着性が向上する。添加量は球状カーボンに対して、0.05〜0.1質量%が好ましい。
【0017】
本発明の含浸前の成形体に用いられる複合材料粉末を構成する樹脂粉末としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂などが挙げられ、これらのいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
樹脂粉末としては、粉末焼結積層造形法によく用いられている、ポリアミド、ポリプロピレンが好ましく、取り扱いが容易なポリアミドが特に好ましい。
【0018】
本発明の含浸前の成形体に用いられる複合材料粉末は必要によって、帯電防止剤、滑剤を添加することで粉末の流動性が向上し、成形しやすくなる。帯電防止剤、滑剤としては、好ましくは、界面活性剤、シリコーン樹脂、金属石鹸であり、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、添加量は複合材料粉末に対して0.05〜0.1質量%が好ましい。
【0019】
本発明の耐熱性樹脂含浸前の成形体を作製する粉末焼結積層造形法とは、樹脂粉末、または複合材料粉末を薄層に展開する工程と、形成された薄層に、造形対象物の断面形状に対応する形状にレーザー光を照射して、樹脂粉末、または複合材料粉末を結合させる工程とを、順次繰り返して製造する方法である。具体的には、レーザー焼結機(例えば、EOS社製:EOSINT P380)を使用し成形体を作成することができる。
【0020】
粉末焼結積層造形法により作製された成形体に含浸する耐熱性樹脂は、樹脂自体が液状、又は有機溶剤に溶解することができるものが多く、室温でも容易に含浸することができるため、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミドが好ましく、これらのいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、接着力が高いため含浸、硬化後の機械強度が向上するため、エポキシ樹脂であることが特に好ましい。
【0021】
また含浸方法としては、例えば、真空加圧含浸法、真空含浸法、内部加圧法、内部真空法、ディッピング法(ジャブ漬け)があり、特に工程が簡単で付帯設備の簡略化が可能なためディッピング法が好ましい。
【0022】
また、含浸剤には難燃剤を添加することができる。難燃剤として好ましくは、リン含有化合物、ハロゲン含有化合物、アンチモン含有化合物、金属水酸化物が挙げられ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明を利用できる分野として、耐熱性が必要な箇所であればどの分野でもよく、例えば電気製品のコイル周辺部材、自動車のエンジン周辺部材、電動車両周辺部材、射出成形、発泡成形、RIM成形、注型、真空注型、真空成形、RTM成形、粉末成形、ブロー成形、圧縮成形、プレス成形、押出成形、FRP成形等の成形型等に利用できる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
球形度0.95の球状カーボン(群栄化学工業社製:GC−050)70質量部とポリアミド12(EOS社製:PA2200)30質量部をスクリュー型ミキサーで5分間混合した試料を用いてレーザー焼結機(EOS社製:EOSINT P380)で成形体Aを作製した。
ナフトールタイプの多官能エポキシ樹脂(DIC社製:HP−4700)50質量部、2−フェニルイミダゾール1質量部をメチルエチルケトンで溶解し含浸剤Aを得た。
成形体Aに含浸剤Aを室温常圧でディッピングし、乾燥後、オーブンで200℃5時間加熱硬化し、成形物Aを得た。
【0026】
[実施例2]
球形度0.95の球状カーボン(群栄化学工業社製:GC−050)80質量部とポリアミド12(EOS社製:PA2200)20質量部をスクリュー型ミキサーで5分間混合した試料を用いてレーザー焼結機(EOS社製:EOSINT P380)で成形体Bを作製した。
成形体Bに実施例1と同様の含浸剤Aを室温常圧でディッピングし、乾燥後、オーブンで200℃5時間加熱硬化し、成形物Bを得た。
【0027】
[実施例3]
オルトクレゾール型エポキシ樹脂(DIC社製:N−680)50質量部、2−フェニルイミダゾール1質量部をメチルエチルケトンで溶解し含浸剤Bを得た。
実施例2と同様の成形体Bに含浸剤Bを室温常圧でディッピングし、乾燥後、オーブンで200℃5時間加熱硬化し、成形物Cを得た。
【0028】
[比較例1]
球状ポリアミド12(EOS社製:PA2200)100質量部を用いてレーザー焼結機(EOS社製:EOSINT P380)で成形物Dを得た。
【0029】
[比較例2]
耐熱200℃グレードのガラス繊維入りポリエチレンテレフタレート樹脂ブロックをNC加工機で切削加工し成形物Eを製作した。
【0030】
[曲げ強度試験]
実施例1〜3、比較例1〜2で作製した成形物A〜Eの一部を採取しテストピースを作製した。このテストピースを用いて、JIS K 7171に記載の方法に準じて曲げ強度を測定し、結果を表1にまとめた。
【0031】
[200℃貯蔵弾性率]
実施例1〜3、比較例1〜2で作製した成形物A〜Eの一部を採取しテストピースを作製した。このテストピースを用いて、JIS K 7244に記載の方法に準じて、エスアイアイ・ナノテクノロジー製DMS110にて、200℃貯蔵弾性率を測定し、結果を表1にまとめた。
【0032】
【表1】

【0033】
表1より、本発明の球状カーボンと樹脂粉末としてポリアミド12を用いた実施例1、2、3で作製した成形物A、B、Cは、曲げ強度、貯蔵弾性率が高く、一度に複数成形することが可能である。一方、樹脂粉末としてポリアミド12のみ使用した比較例1で作成した成形物Dは、曲げ強度は高いものの、貯蔵弾性率が測定できないほど低く、耐熱性が要求される箇所には使用できない。また、切削加工した比較例2で作製した成形物Eは、曲げ強度、貯蔵弾性率ともに高いが、一度に複数成形することが出来ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状カーボンと樹脂粉末を必須成分として含有する複合材料粉末を使用し、粉末焼結積層造形法により作製された成形体に耐熱性樹脂を含浸させた成形物。
【請求項2】
耐熱性樹脂がエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミドイミド、ポリイミドであることを特徴とする請求項1記載の成形物。
【請求項3】
複合材料中、球状カーボンを40〜85質量%、樹脂粉末を15〜60質量%含有することを特徴とする請求項1または2記載の成形物。
【請求項4】
樹脂粉末がポリアミド、ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の成形物。

【公開番号】特開2011−68125(P2011−68125A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174238(P2010−174238)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】