説明

耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルム

【課題】優れた耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルム及び該フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】スチレン系フィルム基材の成形時において、該基材を縦延伸した後、該基材上にスチレン−アクリル共重合体及びワックスを含有する耐磨耗層を積層し、加熱乾燥の後もしくは加熱乾燥と同時に、さらに横延伸して得られる耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムであって、スチレン−アクリル共重合体におけるスチレンモノマー比が5〜50重量%であり、スチレン−アクリル共重合体:ワックスの質量比が90:10〜55:45であることを特徴とする、フィルム、ならびに該フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性スチレン系フィルムの基材表面に耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン基材は耐磨耗性が悪く、輸送した場合にラベル表面が磨耗したり、場合によっては穴あきが発生することが問題となっている。このような問題を回避するため、ポリスチレン基材表面にオーバーコート層を設けることが通常行われている。(例えば特許文献1)。オーバーコート層(主成分:アクリル)を形成する方法としては、ラベル印刷の最終工程に、コンバーターで基材を反転し、ウェットコーティングする方法が一般的である。しかしながら、このような方法では、基材の反転によって生産ラインの速度が低下することが問題となっている。また、反転設備を持たない中小のコンバーターでは、再度コーティングする必要があり、生産工程が増加することが問題となっている。
【0003】
一方、滑剤成分を含み、スチレンーアクリル系共重合体を主成分とするオーバーコート剤をフィルム表面にコーティングして易滑層を設ける方法も知られている(例えば特許文献2)。しかしながら、スチレンーアクリル系共重合体とワックスの配合比率や、スチレン−アクリル共重合体におけるスチレンモノマー比を特定量に設定することによって優れた耐摩耗性が得られることは知られていない。
【特許文献1】特開2002−196677号
【特許文献2】特開2005−187518号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルム及び該フィルムの製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定のスチレンモノマー比を有するスチレン−アクリル共重合体及びワックスを特定の割合で配合して、これをコーティング剤とし、熱収縮スチレン系フィルムの基材表面にコーティングすることによって、得られた熱収縮スチレン系フィルムに優れた耐磨耗性が付与されることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに研究を重ねた結果完成されたものである。
【0006】
本発明は、以下の耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルム、及びその製造方法を提供する。
項1.スチレン系フィルム基材の成形時において、該基材を縦延伸した後、該基材上にスチレン−アクリル共重合体及びワックスを含有する耐磨耗層を積層し、加熱乾燥後もしくは加熱乾燥と同時に、さらに横延伸して得られる耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムであって、
スチレン−アクリル共重合体におけるスチレンモノマー比が5〜50重量%であり、
スチレン−アクリル共重合体:ワックスの質量比が90:10〜55:45であることを特徴とする、フィルム。
項2.スチレン系フィルムの基材が、
ビニル芳香族炭化水素75〜90重量%と共役ジエン炭化水素10〜25重量%とからなるブロック共重合体を含有する表裏層(A)
ならびに
(b1)ビニル芳香族炭化水素98〜40重量%と脂肪族不飽和カルボン酸エステル2〜60重量%との共重合体、及び/又は
(b2)ビニル芳香族炭化水素70〜85重量%及び共役ジエン炭化水素15〜30重量%からなるブロック共重合体
を含有する芯層(B)
を含む少なくとも3層からなる熱収縮性スチレン系フィルムである、項1に記載の耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルム。
項3.ワックスが、ポリエチレンワックスである項1又は2に記載の耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルム。
項4.項1〜3のいずれかに記載される耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムが装着された容器。
項5.スチレン系フィルムを縦延伸して基材を得る工程;
前記基材の表面に、スチレン−アクリル共重合体におけるスチレンのモノマー比が5〜50重量%であり、
スチレン−アクリル共重合体:ワックスの質量比が固形分換算で90:10〜55:45であるコーティング剤を塗工する工程;及び
前記コーティング剤が塗工された基材を乾燥及び横延伸する工程
を含む、耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルム性熱収縮性フィルムは、優れた耐磨耗性を有することから、容器ラベル、包装フィルム等として装着された場合、梱包、輸送等、ラベルに摩擦が加わるような状況下においてもラベルの穴あき、磨耗等の破損を起こすことがなく、商品価値を損ねることがない。
【0008】
加えて、本発明のフィルムは、優れた透明性及び光沢度をも有している。これはコーティング剤に延伸追従性があり、収縮時も白化せず透明性が維持されるためと考えられる。また、コーティング剤は、塗布性に優れ、均一に塗工することができる。このようなコーティング剤によって形成される耐磨耗層は、基材との密着性に優れている。
【0009】
さらに、本発明のフィルムは、耐ブロッキング性に優れ、フィルムを巻いた状態で保管した場合や収縮フィルム同士が圧着された状態でもブロッキングを起こすことがない。
【0010】
本発明の製造方法によれば、1つの生産ライン中においてコーティング剤を塗布・乾燥することができる。また、本発明の製造方法によれば、縦延伸後にコーティング剤を塗工し、加熱乾燥することから、縦延伸ローラーにコーティング剤が付着せず、生産ライン上好ましいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルム
本発明の耐磨耗層を有する熱収縮スチレン系フィルムは、以下の基材上にコーティング剤を塗工して得られるものである。以下、本発明のフィルムを構成する各層の成分について説明する。
【0012】
本発明において基材として使用される熱収縮スチレン系フィルムは、以下の組成物aを表裏層(A)、共重合体b1及び/又は共重合体b2を芯層(B)として構成されるものである。
【0013】
(1)表裏層(A)
表裏層(A)は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体に、必要に応じて、有機系微粒子及び耐衝撃性ポリスチレン樹脂を配合した組成物aで形成される。
【0014】
(1−1)ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体
本発明において使用されるビニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、またはα−メチルスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
【0015】
共役ジエン炭化水素としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、または1,3−ヘキサジエン等が挙げられ、好ましくは1、3−ブタジエン又はイソプレンである。
【0016】
上記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素をブロック共重合体とする場合、好ましい組み合わせとしては、例えば、スチレンと1,3−ブタジエンの組み合わせが挙げられる。
【0017】
上記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体を1種単独で用いてもよいが、組成が異なるビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体を2種以上組み合わせて用いることもできる。すなわち、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素の含有比率が異なるブロック共重合体を2種以上組み合わせて用いることもでき、またビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素の素材の組み合わせが異なるブロック共重合体を2種以上用いてもよい。
【0018】
該ブロック共重合体におけるビニル芳香族炭化水素の含量は、75〜90重量%程度、好ましくは80〜90重量%程度、より好ましくは80〜85重量%程度である。また、該ブロック共重合体において、共役ジエン炭化水素の含量は10〜25重量%程度、好ましくは10〜20重量%程度、より好ましくは15〜20重量%程度である。ビニル芳香族炭化水素の含量が75重量%以上であると、フィルムが加熱された状態のときにブロッキングが起こりにくく、また90重量%以下であれば熱収縮率が低下することもなく好ましい。
【0019】
該ブロック共重合体のMFR(温度200℃、荷重49.03N)は、2〜15g/10分、好ましくは4〜9g/10分である。
【0020】
(1−2)耐衝撃性ポリスチレン
上記ブロック共重合体に、必要に応じて耐衝撃性ポリスチレンを添加することができる。
【0021】
本発明において耐衝撃性ポリスチレンとしては、例えば、ブタジエンにスチレンをグラフト重合したスチレン−ブタジエンゴム(スチレン−ブタジエングラフト重合体);ポリブタジエンゴムをスチレンモノマーに溶解し、この溶液を塊状重合、溶液重合又は懸濁重合するか、あるいは、単純に機械的に混合することによって得られる樹脂を用いることができる。また、例えば、トーヨースチロールE640(東洋スチレン株式会社製)、PSJ−ポリスチレンH6872(PSジャパン株式会社製)等の商業的に入手できるものを用いてもよい。一般的に耐衝撃性ポリスチレンは、ポリスチレン相とゴム相とからなる二相構造をとっており、ポリスチレン相中にゴム相が分散している、いわゆる海−島構造をとっている。
【0022】
ポリスチレン相に分散しているゴム相の粒子径は、1〜3μm程度が好ましく、より好ましくは2〜2.5μm程度である。ゴム相の粒子径が1μm以上であれば、フィルム表面が改質されて、ブロッキング等の問題を生じにくい。また、ゴム相の粒子径が3μm以下であれば、印刷加工時にインキとびによる不良が発生しにくい。
【0023】
本発明に使用される耐衝撃性ポリスチレンのMFR(温度200℃、荷重49.03N)は、1.5〜10g/10分程度が好ましく、より好ましくは2〜8g/10分程度である。
【0024】
本発明において耐衝撃性ポリスチレンの含有量は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体100重量部に対して、0.8〜2.5重量部程度、好ましくは1〜2重量部程度、より好ましくは1〜1.8重量部程度である。耐衝撃性ポリスチレンの含有量が、0.8重量部以上であれば、フィルム面同士のブロッキングが起こりにくく、2.5重量部以下であればフィルムの透明性が低下することもなく好ましい。
【0025】
(1−3)有機系微粒子
上記ブロック共重合体に、必要に応じて有機系微粒子を添加することができる。
【0026】
有機系微粒子としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等が例示でき、好ましくはメチルメタクリレート−スチレン共重合体である。これらの有機系微粒子を、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明において有機系微粒子は、架橋物又は非架橋物の別を問わない。本発明の有機系微粒子として、商業的に入手可能なものは、例えば、ガンツ化成株式会社製ガンツパールまたは根上株式会社製アートパール等が挙げられる。
【0027】
本発明に使用される有機系微粒子の平均粒径は0.5〜5μm程度、好ましくは1〜4μm程度である。平均粒径が0.5μm以上であれば滑性や耐ブロッキング性の改善効果に優れ、5μm以下であれば印刷加工時にインキとび等が生じにくく好ましい。本発明においては、異なる粒径の有機系微粒子を組み合わせて用いることもできる。
【0028】
有機系微粒子の含有量は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体100重量部に対して、0.02〜0.15重量部程度、好ましくは0.04〜0.12重量部程度、より好ましくは0.05〜0.12重量部程度である。有機系微粒子の含有量が0.02重量部以上であれば滑性や耐ブロッキング性の改善効果に優れ、0.15重量部以下であればフィルムの透明性が低下することもなく好ましい。
【0029】
表裏層(A)に上記(1−2)耐衝撃性ポリスチレン及び(1−3)有機系微粒子を配合することによって、本発明の熱収縮性スチレン系フィルムの表面に均一な海−島構造を形成することができる。
【0030】
本発明の基材の表裏層(A)を構成する成分の好ましい組み合わせは、例えば、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体としてスチレン−ブタジエンブロック共重合体(スチレン85重量%、ブタジエン15重量%);耐衝撃性ポリスチレンとしてスチレン−ブタジエングラフト重合体(トーヨースチロールE640:東洋スチレン株式会社製);有機系微粒子としてメチルメタクリレート−スチレン共重合体架橋微粒子が挙げられる。
【0031】
本発明の熱収縮性スチレン系フィルムをラベルとして使用する場合、印刷面と容器に接する面とで要求される表面の粗さが違う場合があるため、本発明の表裏層(A)は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で表面と裏面で耐衝撃性ポリスチレンと有機系微粒子の添加量を変えてもよい。
【0032】
(2)芯層(B)
芯層(B)は、以下の共重合体b1及び/又は共重合体b2を含むものである。
【0033】
(2−1)共重合体b1:ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルとの共重合体
本発明のフィルムの芯層に使用されるビニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、またはα−メチルスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
【0034】
また、脂肪族不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等を用いることができる。ここで上記(メタ)アクリレートとはアクリレート及び/又はメタクリレートを示している。脂肪族不飽和カルボン酸エステルとして、好ましくはブチル(メタ)アクリレートである。
【0035】
上記ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルを共重合体とする場合、好ましい組み合わせとしては、例えば、スチレンとブチルアクリレートの組み合わせが挙げられる。
【0036】
上記ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルとの共重合体を1種単独で用いてもよいが、組成が異なるビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルとの共重合体を2種以上組み合わせて用いることもできる。すなわち、ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルの含有比率が異なる共重合体を2種以上組み合わせて用いることもでき、またビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルの素材の組み合わせが異なる共重合体を2種以上用いてもよい。
【0037】
該共重合体におけるビニル芳香族炭化水素の含量は98〜40重量%程度、好ましくは95〜75重量%程度、より好ましくは85〜75重量%程度である。脂肪族不飽和カルボン酸エステルの含量は、2〜60重量%程度、好ましくは5〜25重量%程度、より好ましくは15〜25重量%程度である。
【0038】
ビニル芳香族炭化水素が40重量%以上であれば、ビカット軟化温度は低下することがなく、本発明のフィルムに耐自然収縮性を付与することができる。また、ビニル芳香族炭化水素が98重量%以下であれば、ビカット軟化温度が高くなりすぎず、収縮性、特に低温収縮性に優れたフィルムを得ることができる。
【0039】
(2−2)共重合体b2:ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体
ビニル芳香族炭化水素としては、前記共重合体b1と同様のものを使用することができ、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、またはα−メチルスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
【0040】
共役ジエン炭化水素としては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、または1,3−ヘキサジエン等が例示でき、好ましくは1、3−ブタジエン又はイソプレンである。
【0041】
上記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体を1種単独で用いてもよいが、組成が異なるビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素とのブロック共重合体を2種以上組み合わせて用いることもできる。すなわち、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素の含有比率が異なるブロック共重合体を2種以上組み合わせて用いることもでき、またビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素の素材の組み合わせが異なるブロック共重合体を2種以上用いてもよい。
【0042】
上記ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素をブロック共重合体とする場合、好ましい組み合わせとしては、例えば、スチレンと1,3−ブタジエンの組み合わせが挙げられる。
【0043】
また、本発明の芯層(B)に使用される前記ブロック共重合体のMFR(温度200℃、荷重49.03N)は2〜15g/10分程度、好ましくは4〜9g/10分程度である。
【0044】
芯層(B)に使用されるブロック共重合体において、ビニル芳香族炭化水素の含量は70〜85重量%程度、好ましくは75〜80重量%程度である。また、共役ジエン炭化水素の含量は15〜30重量%程度、好ましくは20〜25重量%程度である。
【0045】
ビニル芳香族炭化水素の含量が70重量%以上であれば、フィルムの剛性および耐自然収縮性が高められ、また85重量%以下であれば、衝撃強度および熱収縮率が低下することがなく好ましい。
【0046】
前記共重合体b1とb2をそれぞれ単独で用いて熱収縮性スチレン系フィルムを形成してもよく、両者を併用してもよい。上記ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルとのブロック共重合体(共重合体b1)は、フィルムに剛性や耐自然収縮性を付与させる反面、硬くて脆い性質があり、耐破断性が充分でない場合がある。そこで本発明のフィルムに充分な耐破断性を付与させるためには、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素からなるブロック共重合体(共重合体b2)を併用することが好ましい。これにより、高い剛性を有し、耐自然収縮性に優れ、さらに耐破断性に優れたフィルムを得ることが可能となる。
【0047】
(2−3)本発明において基材として使用される熱収縮性スチレン系フィルムは、典型例としては表裏層(A)と芯層(B)とからなり、(A)層/(B)層/(A)層の構成をとる。また、本発明の他の態様としては、(A)層及び(B)層以外の層、中間層(C)を組み合わせた(A)層/(C)層/(B)層/(C)層/(A)層又は(A)層/(B)層/(C)層/(B)層/(A)層の5層構成の形態が挙げられる。ここで(C)層としては、スチレン単独重合体(GPPS)、スチレン−共役ジエンブロック共重合体水素添加物(SEBS、SIBS等)又はA層とB層を構成する樹脂の混合物等を使用することができる。
【0048】
熱収縮性スチレン系フィルム収縮特性としては、70℃の温水に10秒間浸漬した場合、主収縮方向の収縮率は10〜30%程度となり、かつ沸騰水に10秒間浸漬した場合、主収縮方向の収縮率は65〜80%程度となる。容器形状や容器のどの部分までラベルを被せるか、また装着条件(速度、湿熱かあるいは乾熱のトンネルを使用するか等)により、要求される収縮特性が異なるため、収縮率にある程度の幅を持たせることが好ましい。
【0049】
(3)耐磨耗層
耐磨耗層は、以下のスチレン−アクリル共重合体とワックスとを含有するコーティング剤を、基材表面に塗工して形成される。
【0050】
(3−1)スチレン−アクリル共重合体
スチレン−アクリル共重合体を構成するモノマーとしては、スチレン系モノマー、アクリル酸もしくはメタクリル酸等によるエステル系モノマーが挙げられる。
【0051】
スチレン系モノマーとしては、例えばスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,3−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン等を挙げることができる。これらのモノマーを1種単独で用いてもよく、複数のものを組合せて用いてもよい。
【0052】
アクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステル系モノマーとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸−2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、α−クロルアクリル酸メチル等のアクリル酸エステル類;例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類等を挙げることができる。
【0053】
本発明において使用されるスチレン−アクリル共重合体としては、スチレン系モノマーとアクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステル系モノマーとの共重合体であって、該スチレン−アクリル共重合体におけるスチレンのモノマー重量比が5〜50重量%程度、好ましくは5〜45重量%程度、より好ましくは5〜35重量%程度であるものを使用する。
【0054】
また、簡便には、商業的に入手可能なスチレン−アクリル共重合体を使用してもよく、例えばスチレン−アクリル共重合体を主成分とするビニフラン(日信化学工業(株)製)、ニューコート4407(新中村化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0055】
スチレンの比率が5%よりも少なくなると、塗布時に基材にハジキが発生したり、基材との密着性が非常に悪くなる。スチレンの比率が50%を超えると、耐磨耗性が大幅に低下したり、基材上にはじきが発生し塗布できなくなる。
【0056】
本発明において、スチレン−アクリル共重合体は、好ましくは水等の溶媒に分散させて使用することができる。例えば、水分散剤中におけるスチレン−アクリル共重合体の固形分濃度は、3〜70重量%程度、好ましくは7〜50重量%程度、より好ましくは10〜40重量%程度である。
【0057】
(3−2)ワックス
本発明において使用されるワックスは、従来公知の物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の炭化水素ワックスが好ましく、より好ましくはポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス等が挙げられ、さらに好ましくはポリエチレンワックスである。また、簡便には、商業的に入手可能なワックスを使用することもできる。例えば、ポリエチレンワックスとしては、ポリロンL−618(中京油脂(株)製)、AQADISPA−3015(日本精鑞(株))等が挙げられる。
【0058】
本発明においては、上記のワックスを水等に分散させて使用することが好ましい。例えば、ワックスを水分散剤として用いる場合、水分散剤中のワックスの固形分濃度は、3〜50重量%程度、好ましくは5〜40重量%程度、より好ましくは10〜30重量%程度である。
【0059】
本発明のフィルムにおいて耐磨耗層を形成するコーティング剤中における、上記スチレン−アクリル共重合体とワックスの質量比は、固形分換算で90:10〜55:45程度、好ましくは85:15〜60:40程度、より好ましくは80:20〜65:35程度である。
【0060】
ワックスの配合が10重量%未満の場合、延伸追従性がなくなり、フィルムが白化する。この白化は塗布した膜にクラックが発生することにより起こる。また、ワックスの配合が、45%より多い場合においては、基材上にはじきが発生し、均一塗布することが不可能となる。
【0061】
(3−3)その他の成分
本発明のフィルムにおいて耐磨耗層を形成するコーティング剤は、上記成分以外に、有機系微粒子、静電気防止剤等を含んでいてもよい。
【0062】
有機系微粒子は、上記(1−3)の欄に記載の通りであり、例えば、PMMA等を用いることができる。また、耐摩耗層における有機系微粒子の配合量は、スチレン−アクリル共重合体及びワックスの固形分総重量100重量部に対して、0.5〜10重量部程度、好ましくは0.5〜5重量部程度である。
【0063】
また、静電気防止剤としては、簡便には、エレクノンCW(ニューファインケミカル(株)製)等を使用することができる。耐摩耗層における静電気防止剤の配合量は、特に限定しないが、表面抵抗値で1×1011Ω/□程度となるように適宜添加すれば良い。静電気防止剤を配合することによって、フィルムどうしの摩擦によって生じる静電気の発生を抑制することができる。
【0064】
本発明の耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルムにおいて、耐磨耗層は、前記基材の表面に形成され、表層及び裏層上の両方に積層されていてもよいが、少なくともいずれか一方に積層されていればよい。
【0065】
本発明の耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルムの総厚み(基材と耐磨耗層含めて)10〜100μm程度、好ましくは20〜80μm程度、より好ましくは30〜70μm程度である。
【0066】
表裏層(A)と芯層(B)のそれぞれの厚みは、表裏層(A)は2.7〜10μm程度、好ましくは3.2〜9.2μm程度であり、芯層(B)は20〜49μm程度、好ましくは23.4〜45μm程度である。表裏層(A)と芯層(B)の構成比は、表裏層(A)を1とした場合、芯層(B)が2〜9、好ましくは4〜9、より好ましくは5〜9である。
【0067】
また、フィルムのカール等を防止するため、表裏層(A)を表と裏で同じ厚みにすることが好ましい。
【0068】
耐磨耗層の塗布重量は、0.01〜10g/m程度、好ましくは0.05〜5g/m程度、より好ましくは0.1〜3g/m程度である10g/mを超えると、フィルムのヘイズが高くなり、透明性が悪くなる。0.01g/m未満の場合は、耐磨耗性が得られない。
【0069】
本発明のフィルムは均一に延伸することができ、さらに耐磨耗層と基材との密着性に優れている。また、本発明の耐磨耗層を形成するコーティング剤は、塗布性に優れている。
【0070】
2.耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムの製造方法
本発明は、スチレン系フィルムを縦延伸して基材を得る工程;前記基材の表面に、コーティング剤を塗工する工程;及び前記コーティング剤が塗工された基材を乾燥及び横延伸する工程を含む、耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルムの製造方法をも提供するものである。
【0071】
ここで、基材となるスチレン系フィルム及びコーティング剤の組成は上記の通りである。スチレン系フィルム基材の成型は、下記本発明の製造方法に包含される。
【0072】
本発明においては、コーティング剤を塗工する前にスチレン系フィルムを縦延伸し、その後、コーティング剤を塗工してから該フィルムを乾燥、横延伸工程に共する。また、横延伸の後、必要に応じて熱セット工程等の処理工程を適宜追加することができる。
【0073】
具体的な製造方法の一例として、以下の方法が挙げられる。
(A)層/(B)層/(A)層で構成されるスチレン系フィルムに耐磨耗層を有する耐磨耗性熱収縮スチレン系フィルムを製造する場合、(A)層及び(B)層を構成する樹脂を、それぞれ、バレル温度160〜190℃の一軸押出機に投入し、温度185〜200℃のマルチマニホールドダイより板状に押出しした後、20〜50℃に調整された引取りロールにより冷却固化する。その後、80〜85℃に調整されたロール延伸装置内にて、低速度ロールと高速度ロールの速度比により1〜1.5倍に縦延伸する。次にコーティング剤を、ドクターブレード、バーコーター、グラビアーコーター、コンマコーター、リバースコーター、スプレー法等の公知の塗工方法で塗工し、テンター延伸機内にてコーティング剤を乾燥(40〜65℃)し、延伸ゾーン(85〜120℃)で5〜6倍に横延伸し、固定ゾーン(60〜70℃)で熱セットした後、巻き取り機にて巻き取ってフィルムロールを得ることができる。
【0074】
また、コーティング剤塗布後の乾燥工程及び横延伸工程は、同時に行ってもよく、別々の工程として行ってもよい。
【0075】
上記製造方法によって得られる本発明の耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルムは、以下の様な特徴を有する。
【0076】
・耐磨耗性
本発明のフィルムは、耐磨耗性に優れ、下記試験例に記載される評価方法で測定された場合、ピンホールができるまでの摺動回数が350回程度、好ましくは400回以上、より好ましくは450回以上であり、容器にラベルとして装着して輸送した場合であっても、ラベルの破損が極めて少なく商品価値を損なうことのないものである。
【0077】
・ヘイズ
本発明のフィルムのヘイズ値は、12%程度、好ましくは10%以下程度である。前記ヘイズ値は、JIS−K−6782の方法に従って測定される。
【0078】
・光沢度
本発明のフィルムの光沢度は、130%程度、好ましくは135%程度以上、より好ましくは140%程度以上である。前記光沢度は、JIS−Z−8741の方法に従って測定された光沢度
・ブロッキング
本発明のフィルムは、下記試験例に記載される評価方法で測定されたブロッキングが0.50g程度、好ましくは0.30g程度以下、より好ましくは0.25g程度以下である。
【0079】
3.用途
本発明の耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルムを、容器のラベルとして用いることもできる。容器としては、例えば、PETボトル、ガラスボトル等の容器が挙げられる。従来公知の方法に従って、本発明の耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルムを熱収縮によってこれらの容器に密着させ、容器のラベルとすることができる。すなわち、本発明は、このような耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムが装着された容器を提供することができる。
【0080】
例えば、本発明の耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムをPETボトルのラベルとして用いる場合は、まずフラット状の本発明のフィルムを、センターシール処理によって筒状(チューブ状)になるようにフィルムの両端を貼付ける。その後、チューブ状にした本発明のフィルムをPETボトルに被せ、スチームを用いる湿熱トンネルにおいて70〜130℃程度で2〜15秒程度加熱し、あるいは熱風を用いる感熱トンネルでは100〜250℃程度で5〜30秒程度加熱し、該フィルムを熱収縮させてPETボトルに密着させる。この様にして本発明のフィルムによってラベリングされたPETボトルを得ることができる。
【0081】
他にも、本発明の耐磨耗性を有する熱収縮性スチレン系フィルムは、例えば、キャップシール、帯ラベル、結束包装、または集積包装等に好適に使用され得る。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び試験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例等に限定されない。
【0083】
実施例1
コーティング剤の調製
スチレン−アクリル共重合体(ビニフラン 日信化学工業(株)製;主成分スチレン−アクリル共重合体、Tg33℃、固形分濃度35重量%、PH8、最低造膜温度35℃)とポリエチレンワックス水分散剤(中京油脂(株)製 ポリロンL−618:固形分濃度30重量%、融点138℃)を固形分の重量比率70(スチレン−アクリル共重合体):30(ポリエチレンワックス)で配合し、100重量部とした。
【0084】
このスチレン−アクリル共重合体とポリエチレンワックスの調製液100重量部に対して、粒子径2.0μmのポリメチルメタクリレート(PMMA;日本触媒製MA1002)1重量部、及び静電気防止剤(エレクノンCW:ニューファインケミカル(株)製)を2重量部添加する。固形分の総量が15重量%となるように水で調整し、T.K.ホモミキサー(プライミクス社製)にてよくかき混ぜて分散した水溶液を水系コーティング剤とした。
【0085】
(2)ポリスチレン系樹脂基材の成形
表裏層には、スチレン85重量%、1,3−ブタジエン15重量%のスチレンーブタジェンブロック共重合体樹脂100重量部、耐衝撃性ポリスチレン樹脂1.2重量部、有機微粒子0.06重量部と、芯層には、スチレン80重量%、1,3−ブタジエン20重量%のスチレンブタジェンブロック共重合体樹脂を3層構成となるように温度200℃のTダイスから共押出し、50℃の冷却ロールで冷却、固化して原反シートを得た。次いで該シートを80℃に加熱し、MD(縦)方向に1.5倍ロール延伸した。得られた基材の厚みは、6μm/38μm/6μmであった。
【0086】
(3)耐磨耗層の積層
得られたシートに、グラビア方式により、前記(1)にて調製済みの水系コーティング剤を塗布し、60℃の乾燥炉を通して乾燥した後、テンターにて設定温度100℃でTD方向に6.0倍延伸した。その後、巻き取り機で巻き取って、耐磨耗層を持つ二軸延伸ポリスチレン系熱収縮性フィルムを得た。得られたポリスチレン系熱収縮性フィルムの総厚みは、耐磨耗層を含め約50μmであった。
【0087】
なお、(2)ポリスチレン系樹脂基材の成形と、(3)耐磨耗層の積層は、図1に示されるように、一連の工程として行った。
【0088】
実施例2
耐磨耗層のスチレン−アクリル共重合体としてスチレン−アクリル ニューコート4407(新中村化学工業(株)製;スチレン10重量%程度,Tg48℃、固形分濃度43%)を用いる以外は、実施例1と同様に熱収縮性ポリスチレン系フィルムを製造した。
【0089】
実施例3
耐磨耗層のスチレン−アクリル共重合体としてスチレン−アクリル ニューコート4407(新中村化学工業(株)製;スチレン10重量%程度,Tg48℃、固形分濃度43重量%)、ポリエチレンワックス水分散剤(中京油脂(株)製 ポリロンL−618:固形分濃度30重量%、融点138℃)を固形分の重量比率60:40で配合使用する以外は、実施例2と同様に熱収縮性ポリスチレン系フィルムを製造した。
【0090】
比較例1
実施例1の製造方法に従い、(3)耐磨耗層の積層を行わずに得た熱収縮性ポリスチレン系フィルムを比較例1とした。
【0091】
なお、比較例1のフィルムは、耐磨耗層を有していないため、密着性については測定していない。
【0092】
比較例2
スチレン−アクリル共重合体水分散剤と、ポリエチレンワックス水分散剤(中京油脂(株)製 ポリロンL−618:固形分濃度30重量%、融点138℃)を固形分の重量比率95:5で配合使用する以外は、実施例2と同様に熱収縮性ポリスチレン系フィルムを製造した。
【0093】
比較例3
スチレン−アクリル共重合体水分散剤と、ポリエチレンワックス水分散剤(中京油脂(株)製 ポリロンL−618:固形分濃度30重量%、融点138℃)を固形分の重量比率30:70で配合、使用する以外は、実施例2と同様に熱収縮性ポリスチレン系フィルムを製造した。
【0094】
比較例4
スチレン−アクリル共重合体のかわりにアクリル系エマルジョン(昭和高分子製アクリルエマルジョン M−17 固形分濃度39重量%)と、ポリエチレンワックス水分散剤(中京油脂(株)製 ポリロンL−618:固形分30%、融点138℃)を固形分の重量比率70:30で配合する以外は、実施例2と同様に熱収縮性ポリスチレン系フィルムを製造した。
【0095】
比較例5
スチレン−アクリル共重合体のかわりにスチレン系エマルジョン(主成分 変性スチレン 固形分濃度50%、PH8.5 粘度:50〜250mPa・s)と、ポリエチレンワックス水分散剤を固形分の質量比率70:30で配合する以外は、実施例2と同様に収縮性ポリスチレン系フィルムを製造した。
【0096】
比較例6
実施例1と同様にスチレン−ブタジエンブロック共重合体樹脂を押出し、MD方向に1.5倍延伸し、TD方向に6.0倍延伸後に実施例2と同一の耐磨耗層をコーティングして、60℃にて乾燥した。得られたポリスチレン系熱収縮性フィルムの総厚みは、耐磨耗層を含め約50μmであった。
【0097】
以上の実施例及び比較例の耐磨耗層の組成を下記表1にまとめた。
【0098】
【表1】

【0099】
試験例
得られた各フィルムについて、以下の方法に従って物性を評価した。
【0100】
[ヘイズ]
JIS−K−6782に基づいて試験した。評価基準は、ヘイズ値10%以下をヘイズ良好とした。
【0101】
[光沢度]
JIS−Z−8741に基づいて試験した。評価基準は、光沢度135%以上を光沢良好とした。
【0102】
[密着性]
耐磨耗層にセロファンテープ(JIS5600−5−6に準拠の透明感圧付着テープ)を貼り付け、指で強く押さえて密着させた後、一気に剥がし、密着性を評価した。耐磨耗層がセロファンテープに剥ぎ取られているかどうかを目視にて判断し、全く剥離しないものを密着性良好とした。
【0103】
[熱収縮を30%させたフィルムの密着性,ヘイズ]
加熱によって熱収縮を30%させたフィルム(以下30%熱収縮フィルムと記載。)のヘイズ及び密着性を、上記ヘイズ及び密着性の評価と同様の方法に従って評価した。また、下記の方法により30%熱収縮フィルムを得た。
【0104】
図4に示されるように、収縮治具の間隔を70mmに設定し、フィルム幅は100mmとしてフィルムを弛ませた状態で治具に固定した。これを80℃の湯に7秒浸漬し、フィルム収縮後、湯槽から引き上げ冷却した。これにより、フィルムの幅は100mmから70mmとなる。なお、熱収縮率=(初期の長さ−収縮後の長さ)/(収縮前の長さ)と定義される。
【0105】
熱収縮率を30%設定した理由は、実際の生産ラインにおいてPETボトル等に被せて、収縮させる際に最大収縮率が30%程度となるためである。
【0106】
このようにして得た30%熱収縮フィルムの密着性及びヘイズを、上記と同様の方法によって評価した。
【0107】
[耐磨耗性]
形が錐状のポリアセタール製の治具に、テープ等を用いてポリスチレン系フィルムを装着し、錐状の治具の頂点を、該フィルムを介してボール紙(コクヨCampus板目美濃判用430g/m)に接触させた。頂点のRは摺動方向R=0.1〜1.0mm、摺動方向と直角の方向R=0.1〜1.0mmとした。
【0108】
次に、治具に200gの荷重を乗せた。湿度65%の条件下で、治具を3000mm/秒の速度で、かつ移動距離45mmの範囲でボール紙に対して平行に摺動させ、ピンホールができるまでの摺動回数を数えた(図2及び3を参照)。
【0109】
ピンホールの発生は、ポリスチレン系フィルムに治具の頂点が当たっていたところに浸透液を滴下して、白色紙の上で浸透するか否かにより判定した。8枚のサンプルについてピンホールができるまでの摺動回数を測定し、その平均値を算出した。摺動回数が350回以上を耐磨耗性良好とした。
【0110】
[耐ブロッキング性]
ポリスチレン系フィルムを3cm×10cmの大きさにカットし、試料として10枚採取した。このとき該フィルムの耐磨耗層面と印刷面(非耐磨耗層)を明確にしておいた。3cm×16cmのわら半紙の上に、フィルムの中央3cm×4cmの位置で耐磨耗層面(コート面)と反対面が重なるようにセットし、さらにその上にわら半紙を重ねた。この操作を5回繰り返し重ね、ブロッキング測定試料とした。結果を、表2のブロッキング 耐摩耗面vs印刷面の欄に示す。
【0111】
耐磨耗面と耐磨耗面の試験も同様に実施した。3cm×16cmの厚紙でポリスチレン系フィルムをサンドイッチし、その両端を目玉クリップで止め、600gの重りを厚紙の上にセットした。これを40℃の恒温槽に24時間静置し、その後、恒温槽から試料を取り出して、目玉クリップ、重りをブロッキング測定面が剥離しないように外し、約20分室温下で静置した。次に、1組ずつブロッキング測定面が剥離しないように剥離試験機にセットし、剥離強度を測定した。結果を、表2のブロッキング 耐摩耗面vs耐摩耗面の欄に示す。
【0112】
剥離強度の値は「g」で読み取り、0.25kg/3cm×4cm以下をブロッキング性良好とした。
【0113】
[延伸性]
延伸性は、横延伸の時、基材が破れないとともに、目視でフィルムが白化しないことが確認された場合に、均一延伸されたと判断した。均一延伸されたフィルムは、表1中○で表される。これは、フィルムは延伸できても、コーティング膜に白化などの不具合が生じることがないことを確認したものである。
【0114】
なお、比較例3〜5のフィルムは、塗料のハジキや延伸時の破れが発生し、評価することができなかった。
【0115】
[塗布性]
コーティング剤の塗布性については、コーティング直後にフィルム上にハジキがないか目視によって評価した。これは、コーティング液が均一にレベリングしていることを確認したものである。なお、ハジキが生じた場合には、フィルム上にコーティング液が玉状に凝集することから容易に確認することが可能である。
【0116】
[輸送試験]
得られたフィルムを筒状に加工してラベルを作製し、角型PETボトル(500mL)の容器に被せて、蒸気トンネルに通し、ボトルに装着させた。24本のPETボトルを輸送用ダンボールに入れて、トラックにて(滋賀〜東京:往復)輸送を実施した。各ダンボール内のボトル24本中のラベルの穴あき個数を、目視で計測した。穴あきは、1mm程度の穴があいている場合を穴あき1個とした。評価は、24本中の穴あき個数が平均5本以下、又は1本中の穴あき個数が平均2個未満を合格とした。
【0117】
なお、比較例2〜5については、延伸時にヤブレが発生したため、フィルムの製膜ができず、輸送試験については実施していない。
【0118】
以上の試験結果を、下記表2に示す。
【0119】
【表2】

【0120】
表2に示されるように、本発明のフィルムは、ヘイズ、光沢度、密着性、耐摩耗性、耐ブロッキング性、延伸性の全てに優れていることが確認された。また、本発明のフィルムを容器ラベルとして用いた場合の輸送に際しても、穴あきが極めて少ないことから商品の価値を損なうことがなく、実用性にも優れていることが示された。さらに、耐磨耗層に使用されるコーティング剤は均一に塗布できるものであることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】ポリスチレン系樹脂基剤成形工程及び耐磨耗層積層工程の一連の工程の例を表す模式図である。
【図2】耐磨耗性評価に用いた測定装置の模式図を示す
【図3】錐状のアルミ製治具の一例を示す図である。
【図4】30%熱収縮フィルムを得るための収縮治具の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系フィルム基材の成形時において、該基材を縦延伸した後、該基材上にスチレン−アクリル共重合体及びワックスを含有する耐磨耗層を積層し、加熱乾燥後もしくは加熱乾燥と同時に、さらに横延伸して得られる耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムであって、
スチレン−アクリル共重合体におけるスチレンモノマー比が5〜50重量%であり、
スチレン−アクリル共重合体:ワックスの質量比が90:10〜55:45であることを特徴とする、フィルム。
【請求項2】
スチレン系フィルムの基材が、
ビニル芳香族炭化水素75〜90重量%と共役ジエン炭化水素10〜25重量%とからなるブロック共重合体を含有する表裏層(A)
ならびに
(b1)ビニル芳香族炭化水素98〜40重量%と脂肪族不飽和カルボン酸エステル2〜60重量%との共重合体、及び/又は
(b2)ビニル芳香族炭化水素70〜85重量%及び共役ジエン炭化水素15〜30重量%からなるブロック共重合体
を含有する芯層(B)
を含む少なくとも3層からなる熱収縮性スチレン系フィルムである、請求項1に記載の耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルム。
【請求項3】
ワックスが、ポリエチレンワックスである請求項1又は2に記載の耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載される耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムが装着された容器。
【請求項5】
スチレン系フィルムを縦延伸して基材を得る工程;
前記基材の表面に、スチレン−アクリル共重合体におけるスチレンのモノマー比が5〜50重量%であり、
スチレン−アクリル共重合体:ワックスの質量比が固形分換算で90:10〜55:45であるコーティング剤を塗工する工程;及び
前記コーティング剤が塗工された基材を乾燥及び横延伸する工程
を含む、耐磨耗層を有する熱収縮性スチレン系フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−201943(P2008−201943A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40982(P2007−40982)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】