説明

耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体の溶接方法および船舶用溶接構造体

【課題】70mm以上の板厚の鋼板であっても、万一、溶接継手に脆性き裂が発生した場合に、溶接部にて脆性き裂の伝播を防止して船舶用溶接構造体の破断を防止できる船舶用溶接構造体の溶接方法および船舶用溶接構造体を提供する。
【解決手段】溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体の溶接方法であって、
前記船舶の垂直部材の溶接継手と水平部材の溶接継手が交差する領域の一部あるいは全部の領域、および/または前記船舶の突合せ溶接継手に対し、当該領域の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した後、当該部分に破壊靭性の優れた溶接材料で補修溶接を実施することを特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体の溶接方法および船舶用溶接構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体の溶接方法および溶接構造体に関する。
具体的には、例えば大型コンテナ船、バルクキャリアーなどの船舶の溶接継手に発生する可能性のある脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体の溶接方法および船舶用溶接構造体に関するもので、大型コンテナ船、バルクキャリアーなどの船舶の安全性を向上させた船舶用溶接構造体の溶接方法および船舶用溶接構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接構造体であるコンテナ船やバルクキャリアーは、タンカー等と異なり船倉内の仕切り壁がなく、船上部の開口部が大きく開いている。即ち、タンカーは油槽により内部が細かく仕切られており、内部壁や上甲板に強度を持たせた構造となっている。これに対して、コンテナ船は、積載能力の向上や荷役効率の向上等のため仕切り壁を無くして上部開口部を大きくとった構造となっている。このため、コンテナ船では特に船殻外板および船殻内板の強度を確保する必要がある。
【0003】
近年、コンテナ船は大型化し、6000TEU以上の大型コンテナ船が製造されるようになってきて、船体外板の鋼板は厚肉化、高強度化し、板厚70mm以上で降伏強度390N/mm2級以上の鋼板が用いられるようになってきている。なお、TEU(Twenty feet Equivalent Unit)は、長さ20フィートのコンテナに換算した個数を表し、コンテナ船の積載能力の指標を示している。
船殻外板および船殻内板となる鋼板は大入熱溶接である例えばエレクトロガスアーク溶接方法により溶接されているが、溶接入熱が大きいため大きな溶接熱影響部が形成され、溶接継手での万一の脆性き裂の発生に注意する必要があった。
【0004】
このため、溶接継手等での脆性き裂発生を防止するために、脆性破壊特性に優れた鋼板(TMCP鋼板)が開発されている(例えば、特許文献1)。
これまで、6000TEU以下のコンテナ船では、板厚50mm程度のTMCP鋼板等が使用されていて、溶接継手で脆性き裂が発生しても、溶接部の残留応力により、脆性き裂が溶接継手部から母材側に逸れていくので、母材のアレスト性能を確保しさえすれば、万一、溶接継手部で脆性き裂が発生しても母材で脆性き裂を停止できると考えられてきた。
また、板厚25mm程度の鋼板を用いた船殻の溶接構造体に関しては、複数の鋼板を交差状態に複合化して補強した構造が採用されていて、構造的に脆性き裂伝播停止性能が飛躍的に改善されている。例えば、図1に示すように船殻内板1が複数枚の平板を突合せ溶接継手2によって接合して一体に形成されるとともに、船殻内板1の表面に、補強材3が突合せ溶接継手2と交差するように隅肉溶接部4により取り付けられており、かつ、突合せ溶接継手2と隅肉溶接部4との干渉を逃し穴5の形成によって避けるようにしているものがある(例えば、特許文献2)。
【0005】
しかしながら、コンテナ船の大型化が進み、6000TEUを超えるコンテナ船では板厚70mmを超える、かつ設計応力が高い高張力鋼の厚鋼板が使用されるようになってきている。このような厚鋼板では、溶接継手部の破壊靭性の程度によっては、脆性き裂が母材に逸れることなく、溶接継手部の熱影響域に沿って伝播する可能性がある。
【0006】
本発明者らによる鋼板の脆性破壊に係る試験によれば、板厚50mm以下の鋼板に、図2に示すように、鋼板の溶接継手部と交差するように隅肉溶接により骨材(補強板)を取り付けると、鋼板に脆性亀裂が発生しても骨材により脆性亀裂の伝播が止められて(アレスト)、鋼板の破断に至らないことも多い。 しかし、板厚が50mmを超え、70mm程度と板厚が厚くなると、骨材自体のアレスト性能の確保も充分でなくなる可能性がある。
【特許文献1】特開平6−88161号公報
【特許文献2】特開平6−336188号公報(第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、70mm以上の板厚の鋼板であっても、万一、溶接継手に脆性き裂が発生した場合に、溶接部にて脆性き裂の伝播を防止して船舶用溶接構造体の破断を防止できる船舶用溶接構造体の溶接方法および船舶用溶接構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、船舶用溶接構造体において、船舶の重要な溶接部について、特定の補修溶接を行うことによって、溶接継手の脆性き裂伝播を防止して大規模破壊を未然に防止することができることを見出し本発明を完成したものであり、その要旨とするところは、特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
【0009】
(1)溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体の溶接方法であって、
前記船舶の垂直部材の溶接継手と水平部材の溶接継手が交差する領域の一部あるいは全部の領域に対し、当該領域の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した後、当該部分に破壊靭性の優れた溶接材料で補修溶接を実施することを特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体の溶接方法。
(2)溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体であって、前記船舶の垂直部材の溶接継手と水平部材の溶接継手が交差する領域の一部あるいは全部の領域におけるアレスト性能(Kca)を6000(N/mm21.5以上とすることを特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、70mm以上の板厚の鋼板であっても、万一、溶接継手に脆性き裂が発生した場合に、溶接部にて脆性き裂の伝播を防止して船舶用溶接構造体の破断を防止できる船舶用溶接構造体の溶接方法および船舶用溶接構造体を提供することができ、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態を図3および図4を用いて詳細に説明する。
図3は、脆性き裂伝播を防止するための船舶用溶接構造体を示す図である。
図3において、3は骨材(補強材)、6はデッキプレート(水平部材)、7は船殻内板(垂直部材)、8は船殻外板を示す。
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態は、図3のAあるいはA´のように、船舶の垂直部材(例えば船殻内板7)の溶接継手(継手(1))と水平部材(例えばデッキプレート6)の溶接継手(継手(2))が交差する領域の一部あるいは全部の領域に対し、当該領域の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した後、当該部分に破壊靭性の優れた溶接材料で補修溶接を実施することを特徴とする。
図4は、前記の継手(1)と継手(2)の交差部の詳細図である。
すなわち、船舶の垂直部材(例えば船殻内板7)の溶接継手(継手(1))と水平部材(例えばデッキプレート6)の溶接継手(継手(2))が交差する領域の一部あるいは全部の領域に対し、当該領域の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した後、当該部分に破壊靭性の優れた溶接材料で補修溶接を実施することによって、この部分から脆性き裂が伝播を防止することができる。
本発明においては、ガウジングあるいは機械加工の深さは特に規定しないが、垂直部材の板厚の1/2以上をガウジングあるいは機械加工により除去することにより、耐脆性き裂伝播性をさらに向上させることができる。
また、前述の破壊靭性の優れた溶接材料は、アレスト性能(Kca)が20000(N/mm1.5 )以上を有する溶接材料とすることが好ましく、補修溶接することによって発生する当該領域周辺の残留応力分布と相まって、突合せ溶接部の最脆弱部を伝播してきた脆性亀裂が、補修溶接部の溶接境界に沿って伝播するように亀裂の伝播方向を変化させうるため、交差する部材の母材側へと亀裂を誘導することができるため、鋼材の母材の性能により亀裂を停止させることができる。
【0012】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態は、溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体であって、船舶の垂直部材の溶接継手と水平部材の溶接継手が交差する領域の一部あるいは全部の領域におけるアレスト性能(Kca)を6000(N/mm21.5以上とすることを特徴とする。
例えば、図3におけるAあるいはA´のように、船舶の垂直部材(例えば船殻内板7)の溶接継手(継手(1))と水平部材(例えばデッキプレート6)の溶接継手(継手(2))が交差する領域の一部あるいは全部の領域における溶接金属自体のアレスト性能が6000N/mm1.5以上有していれば、脆性亀裂の速度が極めて大きかったり、負荷された応力が大きく残留応力により亀裂の伝播方向の変化が期待できない状況下でも、亀裂を停止させることを知見した。
なお、溶接金属自体の破壊靭性を高めるため、溶接材料は、例えば、溶接ワイヤの成分を高Ni化して靭性の高い材料とする方法が好ましい。
【実施例】
【0013】
本発明の実施例を表1に示す。
表1における母材―1、母材―2、継手(1)〜継手(3)は図4に示す表記と一致している。
NO.1〜NO.13は、本発明に従って、溶接部を除去して補修溶接を行った本発明例であって、いずれの実施例も、耐き裂伝播性が良好であった。
伝播位置がFL(Fusion Line)とは、き裂が溶融線に沿って伝播したことを示し、停止位置がWM(Weld Metal)とは、き裂が補修溶接領域内で停止したことを示し、停止位置が母材とは、き裂が補修溶接領域内を伝播し母材−2にて停止し、溶接部同士が交差する構造体であっても、破断しなかった。
一方、NO.14〜NO.20は比較例であって、NO.14およびNO.15は溶接部の除去および補修溶接を行ったが、溶接材料の破壊靭性が低くアレスト性能(Kca)が2000以下と低いため、き裂が補修溶接領域内を伝播して破断した。
また、NO.14〜NO.20は比較例であって、溶接部の除去および補修溶接を行わなかったので、突合せ溶接部で発生させた脆性亀裂が、その溶接継ぎ手に沿って伝播し、交差した部材に突入した後も、さらに交差した部材の溶接部に沿って伝播し、試験片が破断した。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】船殻の補強溶接構造体を示す図である。
【図2】船舶用溶接構造体の脆性き裂伝播を説明するための図である。
【図3】脆性き裂伝播を防止するための船舶用溶接構造体の溶接方法を示す図である。
【図4】脆性き裂伝播を防止するための船舶用溶接構造体の溶接方法および船舶用溶接構造体を示す詳細図である。
【符号の説明】
【0015】
1 鋼板、
2 突合せ溶接継手部、
3 骨材(補強材)、
4 隅肉溶接部、
5 逃がし穴、
6 デッキプレート、
7 船殻内板、
8 船殻内板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体の溶接方法であって、
前記船舶の垂直部材の溶接継手と水平部材の溶接継手が交差する領域の一部あるいは全部の領域に対し、当該領域の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した後、当該部分に破壊靭性の優れた溶接材料で補修溶接を実施することを特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体の溶接方法。
【請求項2】
溶接継手に発生した脆性き裂の伝播を妨げる耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体であって、
前記船舶の垂直部材の溶接継手と水平部材の溶接継手が交差する領域の一部あるいは全部の領域におけるアレスト性能(Kca)を6000(N/mm21.5以上とすることを特徴とする耐脆性き裂伝播性に優れた船舶用溶接構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−75874(P2006−75874A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263146(P2004−263146)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】