説明

耐還元性誘電体磁器組成物、それを用いた誘電体及び積層セラミックコンデンサ

【課題】 焼成時の耐還元性に優れ、焼成後に優れた容量温度特性及び誘電特性を有するとともに、高い絶縁破壊電圧及び長い高温負荷加速寿命を有する積層セラミックコンデンサを製造することができる誘電体磁器組成物を得ることを目的とする。また、この誘電体磁器組成物を用いて得られる誘電体を使用して、高い絶縁破壊電圧及び長い高温負荷加速寿命を有する積層セラミックコンデンサを得ることを目的とする。
【解決手段】 Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末と、添加物成分粉末と、を含み、ペロブスカイト型複合酸化物粉末の比表面積に対して、添加物成分粉末の比表面積が10〜100倍である、誘電体磁器組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元性雰囲気で焼成可能な誘電体磁器組成物、その誘電体磁器組成物を用いた誘電体及びその誘電体からなる誘電体層を有する積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、プロセッサ、特に高出力マイクロプロセッサの電源の減結合用及び緩衝用として用いられる。高出力モードで動作する間、これらの能動電子部品は多量の熱を発生し、たとえ集中的に冷却しても、永続的な動作における高出力マイクロプロセッサの温度は70〜80℃にもなる。一方、これらの積層セラミックコンデンサは、例えば寒冷地の冬季には−20℃程度以下まで低下する周囲の環境温度で使用されることもある。このように、積層セラミックコンデンサは、広い温度範囲で使用されるため、温度特性が平坦であることが要求される。
【0003】
更に、近年では、積層セラミックコンデンサの内部電極に、Pd、Au、Ag等の高価な貴金属の他、Ni等の卑金属も用いることを可能にするために、誘電体磁器組成物は、還元性雰囲気中で焼成可能であることが要求される。
【0004】
これらの要求を受けて、種々の誘電体磁器組成物が開発されている。例えば、特許文献1〜3では、チタン酸バリウムを主成分に、MgO、CaO、BaO、SrO及びCr等の副成分を所定濃度加えた、耐還元性を有する誘電体磁器組成物が提案されている。しかし、これらの誘電体磁器組成物は誘電率が低く、特に誘電特性の点で更なる改善が要求されている。
【0005】
また、容量温度特性及び誘電特性を改善する別な方法として、特許文献4では、誘電体層が、チタン酸バリウムを中心としたコア部分と、その表面部分にシェル部分とを有するコア・シェル構造の粒子から構成されている積層セラミックコンデンサが提案されている。
【0006】
しかしながら、上記の誘電体磁器組成物及びそれを用いた積層セラミックコンデンサの電圧耐性はまだ十分とはいえず、更に高める必要がある。
【特許文献1】特開2000−154057号公報
【特許文献2】特開2001−192264号公報
【特許文献3】特開2002−255639号公報
【特許文献4】特開2004−111951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
焼成時の耐還元性に優れ、焼成後に優れた容量温度特性及び誘電特性を有するとともに、高い絶縁破壊電圧及び長い高温負荷加速寿命を有する積層セラミックコンデンサを製造することができる誘電体磁器組成物を得ることを目的とする。また、この誘電体磁器組成物を用いて得られる誘電体を使用して、高い絶縁破壊電圧及び長い高温負荷加速寿命を有する積層セラミックコンデンサを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末と、添加物成分粉末と、を含み、ペロブスカイト型複合酸化物粉末の比表面積に対して、添加物成分粉末の比表面積が10〜100倍である、誘電体磁器組成物である。好ましくは、ペロブスカイト型複合酸化物粉末が、チタン酸バリウムである、誘電体磁器組成物である。また、好ましくは、添加物成分粉末が、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Tb、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選択される元素の酸化物の少なくとも一種を含む、誘電体磁器組成物である。また、より好ましくは、添加物成分粉末が、Mn、W、Mo、V、Mg及びCoからなる群より選択される元素の酸化物又は炭酸塩の少なくとも一種を更に含む、誘電体磁器組成物である。また、より好ましくは、添加物成分粉末が、BaSiO及びCaSiOからなる群より選択される少なくとも一種を更に含む、誘電体磁器組成物である。
【0009】
また、本発明は、誘電体磁器組成物を用いて得られ、コア・シェル構造を有し、コア部分がペロブスカイト型複合酸化物であり、シェル部分が添加物成分である誘電体である。
【0010】
また、本発明は、誘電体からなる誘電体層を有する、積層セラミックコンデンサである。
【0011】
また、本発明は、誘電体磁器組成物の製造方法であって、ペロブスカイト型複合酸化物粉末の比表面積に対して、添加物成分粉末の比表面積が10〜100倍であるように、ペロブスカイト型複合酸化物粉末と、添加物成分粉末とを混合する工程を含む、誘電体磁器組成物の製造方法である。好ましくは、ペロブスカイト型複合酸化物粉末が、チタン酸バリウムである、誘電体磁器組成物の製造方法である。また、好ましくは、添加物成分粉末が、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Tb、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選択される元素の酸化物の少なくとも一種の酸化物を含む、誘電体磁器組成物の製造方法である。また、より好ましくは、添加物成分粉末が、Mn、W、Mo、V、Mg及びCoからなる群より選択される元素の酸化物又は炭酸塩の少なくとも一種を更に含む、誘電体磁器組成物の製造方法である。また、より好ましくは、添加物成分粉末が、BaSiO及びCaSiOからなる群より選択される少なくとも一種を更に含む、誘電体磁器組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焼成時の耐還元性に優れ、焼成後に優れた容量温度特性及び誘電特性を有するとともに、高い絶縁破壊電圧及び長い高温負荷加速寿命を有する積層セラミックコンデンサを製造することができる誘電体磁器組成物を得ることができる。また、本発明によれば、この誘電体磁器組成物を用いて得られる誘電体を使用して、高い絶縁破壊電圧及び長い高温負荷加速寿命を有する積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の誘電体磁器組成物は、コア・シェル構造を有する誘電体であって、コア部分がBa及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物であり、シェル部分が添加物成分である誘電体を製造するための原料として用いることができる。コア・シェル構造とすることにより、良好な温度特性の静電容量を有する誘電体を得ることができる。
【0014】
本発明の誘電体磁器組成物の特徴は、ペロブスカイト型複合酸化物粉末の比表面積(BET)と比較して、大きな比表面積を有する添加物成分を含むことである。具体的には、ペロブスカイト型複合酸化物粉末の比表面積に対して、添加物成分粉末の比表面積が、10〜100倍である。しかしながら、微小な粉末のハンドリング等を考慮すると、比表面積の比が、10〜50倍であることが好ましい。このような比表面積とすることによって、電圧耐性が高められた誘電体を得ることができる。
【0015】
本発明において、比表面積(BET)とは、単位質量の粉体が有する表面積を意味し、公知の方法、例えば日本工業規格R1626号「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」を用いて測定することができる。
【0016】
本発明の誘電体磁器組成物において、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末は、好ましくはチタン酸バリウム(一般的にはBaTiO)である。なお、本発明の誘電体磁器組成物に用いるチタン酸バリウムは、BaとTiが常に1:1で含まれている必要は必ずしもない。チタン酸バリウムを〔BaTi(2−x)〕Oと表した場合、xが0.990〜1.010の範囲であることが好ましい。また、xが0.990以上、0.995以下の範囲である場合には、この誘電体磁器組成物を焼成することに得られた誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの温度による容量変化が更に抑制され、かつ、寿命も更に長くなるので、より好ましい。また、チタン酸バリウムを(BaO)m・TiO2と記載した場合、mは、0.990以上、1.010以下の範囲であることが好ましい。mが0.990以上、0.995以下の範囲である場合には、この誘電体磁器組成物を焼成することに得られた誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの温度による容量変化が更に抑制され、かつ、寿命も更に長くなるので、より好ましい。ペロブスカイト型複合酸化物粉末の比表面積は、3〜5m/gの範囲が好ましい。このペロブスカイト型複合酸化物粉末は、誘電体磁器組成物を焼成後、誘電体中のコア・シェル構造のコア部分となることができる。
【0017】
本発明の誘電体磁器組成物に含まれる添加物成分粉末は、焼結後、誘電体を形成することができるものであれば特に限定されない。以下、添加物成分粉末を、その主成分粉末、その副成分粉末及びその他の添加物成分粉末の三種類に分けて説明する。なお、添加物成分粉末が、これらの三種類の全てを含むことは、必ずしも必要ではない。これらの添加物成分粉末は、誘電体磁器組成物を焼成後、誘電体中のコア・シェル構造のシェル部分となることができる。
【0018】
本発明の誘電体磁器組成物は、添加物成分粉末の主成分粉末として、好ましくは、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Tb、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選択される元素の酸化物の少なくとも一種を含む。更に、好ましくは、添加物成分粉末の主成分粉末として、Y及びYbからなる群より選択される元素の酸化物の少なくとも一種を含む。
【0019】
誘電体磁器組成物中のY23の含有量は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、0.6〜1.2重量部であることが好ましく、より好ましくは0.6〜0.9重量部である。Y23がこの範囲にあると、この誘電体磁器組成物を焼成した誘電体を誘電体層として有する積層セラミックコンデンサの温度による容量変化が抑制され、誘電率が十分高く、かつ、寿命も長い。
【0020】
誘電体磁器組成物中のYb23の含有量は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、0.18〜0.5重量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.4重量部である。この誘電体磁器組成物中のYb23がこの範囲にあると、この誘電体磁器組成物を焼成することによって得られた誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの温度による容量変化が抑制され、誘電率が十分高く、かつ、寿命も長い。
【0021】
本発明の誘電体磁器組成物は、添加物成分粉末の副成分粉末として、Mg、W、Mn、Mo、V及びCoからなる群より選択される元素の酸化物又は炭酸塩を少なくとも一種、更に含むことが好ましい。より好ましくは、添加物成分粉末の副成分粉末として、Mg、W、Mn及びMoからなる群より選択される元素の酸化物又は炭酸塩を少なくとも一種、更に含む。
【0022】
本発明の誘電体磁器組成物は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、MgOを、好ましくは0.6〜1.5重量部、より好ましくは0.6〜1.2重量部含む。この誘電体磁器組成物中のMgOがこの範囲にあると、この誘電体磁器組成物を焼成することによって得られた誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの温度による容量変化が抑制され、絶縁破壊電圧が十分高い上に、誘電率も十分高く、かつ、寿命も長い。
【0023】
本発明の誘電体磁器組成物は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、WO3を、好ましくは0.02〜0.2重量部、より好ましくは0.02〜0.1重量部含む。WO3がこの範囲にあると、この誘電体磁器組成物を焼成することによって得られた誘電体層を有する積層セラミックコンデンサのCR積(静電容量と絶縁抵抗の積)が大きく、絶縁破壊電圧も十分高く、かつ、寿命も長い。
【0024】
本発明の誘電体磁器組成物は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、MnCO3を、好ましくは0.1〜0.4重量部、より好ましくは0.2〜0.4重量部含む。MnCO3がこの範囲にあると、その誘電体磁器組成物によって形成される誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの温度による容量変化が抑制され、CR積が大きく、誘電率も十分高く、かつ、寿命も長い。
【0025】
本発明の誘電体磁器組成物は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、MoO3を、好ましくは0.02〜0.2重量部、より好ましくは0.05〜0.15重量部含む。MoO3がこの範囲にあると、その誘電体磁器組成物によって形成される誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの温度による容量変化が抑制され、CR積が大きく、絶縁破壊電圧も十分高く、かつ、寿命も長い。
【0026】
本発明の誘電体磁器組成物は、添加物成分粉末が、その他の添加物成分粉末として、BaSiO及びCaSiOからなる群より選択される少なくとも一種を更に含むことが好ましい。これらの粉末は、焼結助剤としての機能も有する。
【0027】
本発明の誘電体磁器組成物は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、BaSiO3を、好ましくは0.6〜2重量部、より好ましくは、0.8〜1.5重量部含む。BaSiO3がこの範囲にあると、焼成後において、温度による容量変化が抑制され、誘電率が十分高く、かつ寿命も長い。
【0028】
本発明の誘電体磁器組成物は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、CaSiO3を、好ましくは0.4〜1.5重量部、より好ましくは0.5〜1.0重量部を含む。この誘電体磁器組成物中のCaSiO3がこの範囲にあると、この誘電体磁器組成物を焼成することによって得られた誘電体層を有する積層セラミックコンデンサの温度による容量変化が抑制され、誘電率が十分高く、かつ、寿命も長い。
【0029】
本発明の誘電体磁器組成物は、ペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、添加物成分粉末の重量の合計を1〜6重量部とすることが好ましい。また、この合計を3〜4重量部とすることが更に好ましい。
【0030】
また、本発明の誘電体磁器組成物に含まれる、添加物成分粉末の好ましい例示的組成は、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末100重量部に対して、Yb23を0.18〜0.5重量部、MgOを0.6〜1.5重量部、CaSiO3を0.4〜1.5重量部、WO3を0.02〜0.2重量部、MnCO3を0.1〜0.4重量部、及びMoO3を0.02〜0.2重量部である。
【0031】
本発明の誘電体磁器組成物は、本発明の積層セラミックコンデンサの特性に影響を与えない範囲でその他の微量の酸化物や不純物などを含有してもよい。
【0032】
本発明の誘電体磁器組成物を焼成することにより、コア部分がBa及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物であり、その表面に添加物成分であるシェル部分を備えたコア・シェル構造を有する誘電体を形成することができる。また、その誘電体は、積層セラミックコンデンサの誘電体層とすることができる。
【0033】
以下に、本発明の誘電体磁器組成物及びそれを用いた誘電体の製造方法を、積層セラミックコンデンサの製造方法を例にとって説明する。
【0034】
まず、Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末と、添加物成分粉末とを混合することにより誘電体磁器組成物を得る。この混合の際、このペロブスカイト型複合酸化物粉末の比表面積に対して、添加物成分粉末の比表面積を10〜100倍、好ましくは10〜50倍とすることが本発明の誘電体磁器組成物の製造方法の特徴である。この場合、ペロブスカイト型複合酸化物粉末は、チタン酸バリウムであることが好ましい。添加物成分粉末は、既に例示した酸化物又は炭酸塩を含むことが好ましい。
【0035】
ボールミルや媒体攪拌ミルを用いて、ペロブスカイト型複合酸化物粉末及び添加物成分粉末を所定時間粉砕することにより、比表面積を所定の値にすることができる。なお、粉砕効率が高いため、ビーズミルを用いることが好ましい。粉砕後の比表面積は、概ね粉砕時間に比例するので、所望の比表面積になるまで粉砕を行う。ビーズミルによる粉砕に用いるビーズの直径は0.1mm〜2.0mmが好ましい。また、ビーズミルのローターの周速は7〜12m/sが好ましい。周速がこの値より低いと粉砕能力に劣り、また、これより高い場合には、装置の運転が不安定になるなどの問題が生じるためである。
【0036】
(1)基材に、本発明の誘電体磁器組成物を印刷又は塗布する。本発明の誘電体磁器組成物は、場合により、慣用の成分、例えばエタノール、トルエン、プロパノール、水等の溶媒、ポリビニルブチラール、エチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)等のバインダ、フタル酸エステル等の可塑剤と混合してペースト化して用いてもよい。印刷又は塗布の厚さは、積層セラミックコンデンサが所望の静電容量を得るように定められるが、一般的には、焼成後の誘電体層の厚さは、1〜10μm程度である。印刷又は塗布の方法は、特に限定されず、スクリーン印刷法、転写法、ドクターブレード法等により行うことができる。
【0037】
(2)次いで、工程(1)で印刷又は塗布された誘電体磁器組成物層を乾燥させる。乾燥は、通常、温度80〜100℃で、5〜10分間加熱することによって実施される。
【0038】
(3)形成された誘電体磁器組成物層に、内部電極用ペーストを印刷又は塗布する。内部電極用ペーストは、ニッケル等の卑金属を含んだペーストを好適に用いることができる。例えば、内部電極用ペーストとして、ニッケル粉末と、有機ビヒクル(例えば、エチルセルロース8重量部をターピネオール92重量部に溶解したもの)と、ターピネオールとを混練してペースト化したものを用いることができる。印刷又は塗布の方法は、特に限定されない。印刷する厚さは、通常、焼成後の内部電極の厚さが0.8〜1.2μmになるような厚さである。
【0039】
(4)次いで、工程(3)で印刷された内部電極ペースト層を乾燥する。乾燥は、通常、80〜100℃で5〜10分間加熱することによって実施される。
【0040】
(5)次いで、上記の工程(1)〜(4)を、所望の積層回数が得られるまで反復することにより、未焼成の積層体を得る。例えば160層程度の積層体の場合、チップ積層セラミックコンデンサの厚みは0.5mm程度となる。
【0041】
(6)このようにして得られた未焼成の積層体を、基材から外し、ブレード等を用いて切断することにより積層ブロックを作製する。最終的なチップ積層セラミックコンデンサの寸法が、例えば、幅=0.5mm、長さ=1.0mmとなるような大きさに切断する。その後、得られた積層ブロックをH2:N2が体積比で1:99の雰囲気中で500℃まで加熱しバインダを燃焼させる。その後、酸素分圧10−9〜10−12MPaであり、H2、N2及びH2Oからなる還元性雰囲気中において、1100〜1300℃、好ましくは1170〜1250℃の温度で1時間半〜2時間半焼成する。この焼成によって、コア部分がBa及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物であり、その表面に添加物成分であるシェル部分を備えたコア・シェル構造が形成される。また、誘電体磁器組成物層、及び内部電極ペースト層は、それぞれ誘電体層、及び内部電極となり、積層セラミックコンデンサを得る。
【0042】
この焼成の後、必要に応じて、N2雰囲気中、950〜1100℃、好ましくは1000〜1050℃の温度で1時間半〜2時間の再酸化処理を行うことが好ましい。
【0043】
(7)焼成後の積層セラミックコンデンサに外部電極用の導電ペーストを塗布し、その後に別途、中性雰囲気中において、温度900℃で5分〜15分程度、焼成を行うことにより、一対の外部電極を形成して、チップ積層セラミックコンデンサとすることができる。
【0044】
本発明の誘電体磁器組成物を用いて得られる誘電体を用いると、優れた容量温度特性及び誘電特性を有するとともに、高い絶縁破壊電圧及び長い高温負荷加速寿命を有する積層セラミックコンデンサを得ることができる。また、本発明の誘電体磁器組成物は、還元性雰囲気において焼成可能であるために、この誘電体磁器組成物を用いて得られる誘電体を使用した積層セラミックコンデンサは、従来の貴金属より安価な卑金属を使用することができる。その結果、積層セラミックコンデンサの大幅なコストの低減が期待できる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例及び比較例によって説明する。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例において、特に断りの無い限り、「部」は重量部で示す。
【0046】
実施例及び比較例では、ペロブスカイト型複合酸化物粉末としてBaTiO粉末を用い、この粉末100重量部に対して、Yを0.8重量部、BaSiOを1重量部、MnCOを0.3重量部、MgOを0.9重量部、WOを0.1重量部及びMoOを0.1重量部からなる添加物成分粉末を用いた。実施例及び比較例の添加物成分粉末の組成は一致するが、比表面積については、異なったものを用いた。実施例1及び2並びに比較例1の比表面積を表1に示す。
【0047】
比表面積を所定の値にするために、媒体攪拌ミル(ビーズミル)を用いてペロブスカイト型複合酸化物粉末及び添加物成分粉末を粉砕した。ビーズミルによる粉砕は、具体的には、直径0.3mmのジルコニアビーズを用い、ビーズミルのローターの周速10m/sにて粉砕した。なお、この粉砕条件を用いると、7分間の粉砕時間で比表面積50m/g、14分間の粉砕時間で比表面積100m/gというように、粉砕時間に比例して比表面積を大きくすることができた。
【0048】
【表1】

【0049】
次いで、これらをボールミルで、エタノール、トルエンを加えて湿式混合粉砕した。その後、ポリビニルブチラール系バインダとフタル酸ブチルベンジルを更に投入し、混合してペーストを調整した。このペーストをドクターブレード法でシート成形後、乾燥し、厚さ2.3μmのグリーンシートを得た。そしてこのグリーンシート上にニッケル電極ペーストをスクリーン印刷し、乾燥後互いに対向電極になるように積層し、熱圧着により一体化した。なお、ニッケル電極ペーストは、平均粒径0.2μmのニッケル粒子100重量部に対して、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をターピネオール92重量部に溶解したもの)40重量部と、ターピネオール10重量部とを三本ロールミルを用いて混練してペースト化したものを用いた。
【0050】
熱圧着により一体化した積層体から個々のコンデンサ用積層ブロックをブレードで切り出した。このようにして得られた積層ブロックを、H2:N2が体積比で1:99の雰囲気中で500℃まで加熱しバインダを燃焼させた後、酸素分圧10−9〜10−12MPaのH2、N2及びH2Oからなる還元性雰囲気中において1200℃の温度で2時間焼成した。その後、N2雰囲気中、1000℃で2時間、再酸化処理を行い、積層セラミックコンデンサとした。
【0051】
得られた積層セラミックコンデンサの表面に銅電極ペーストを塗布し、中性雰囲気(窒素雰囲気)中において、温度900℃で10分間、焼付けし、外部電極を形成し、チップ積層セラミックコンデンサとした。この実施例及び比較例で作製したチップ積層セラミックコンデンサの寸法は、それぞれ以下のとおりである。
外観寸法:幅=0.5mm、長さ=1.0mm、厚み=0.5mm
誘電体厚み:t=1.7μm
有効積層数:N=163
【0052】
実施例の各試料について各種特性を測定した。測定方法は以下のとおりである。
静電容量(C)、誘電体損失(誘電正接;tanδ):キャパシタンスメータ(ヒューレット・パッカード社製 型番4278A)を用い、自動ブリッジにより1KHz、0.5Vrmsで測定した。
絶縁抵抗(R):高絶縁抵抗測定装置(トーア(TOA)製 型番DSM-8541 デジタル・スーパー・メグオームメータ)により、積層セラミックコンデンサに6.3Vを1分間印加した後の抵抗値を測定し、絶縁抵抗(R)とした。
容量温度変化率:25℃での静電容量を基準とし、−55℃から85℃までの温度範囲での変化率で最大である値を示した。なお、全ての試料について85℃での容量温度変化率の絶対値が最大であったので、85℃での変化率を表2に記載した。
高温負荷加速寿命試験(HALT):各試料を5個づつ105℃の恒温槽に入れて直流電圧25Vを印加し、直流電界下で絶縁抵抗を測定した。電圧印加を開始してから絶縁抵抗が1×10Ω以下になるまでの時間を試料の寿命時間とした。
絶縁破壊電圧(VB):10V/秒の昇圧スピードで直流電圧を試料に印加し、5mAの漏洩電流が観察されたときの電圧を測定し、この電圧を絶縁破壊電圧(VB)とした。なお、実施例及び比較例は、同一の厚さのサンプルで測定を行なった。
【0053】
表2及び図1〜5に、実施例1及び2並びに比較例1の測定結果を示す。これらの結果が示すように、本発明の実施例では、還元性雰囲気での焼成にもかかわらず、焼成後に優れた容量温度特性及び誘電特性はもちろんのこと、高い絶縁破壊電圧、及び長い高温負荷加速寿命を有する積層セラミックコンデンサを得ることができた。
【0054】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1の容量温度特性試験結果である。
【図2】実施例1の高温負荷加速寿命試験結果である。
【図3】実施例2の容量温度特性試験結果である。
【図4】実施例2の高温負荷加速寿命試験結果である。
【図5】比較例1の容量温度特性試験結果である。
【図6】比較例1の高温負荷加速寿命試験結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ba及びTiを含むペロブスカイト型複合酸化物粉末と、
添加物成分粉末と、を含み、
ペロブスカイト型複合酸化物粉末の比表面積に対して、添加物成分粉末の比表面積が10〜100倍である、誘電体磁器組成物。
【請求項2】
ペロブスカイト型複合酸化物粉末が、チタン酸バリウムである、請求項1記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
添加物成分粉末が、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Tb、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選択される元素の酸化物の少なくとも一種を含む、請求項1又は2記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
添加物成分粉末が、Mn、W、Mo、V、Mg及びCoからなる群より選択される元素の酸化物又は炭酸塩の少なくとも一種を更に含む、請求項3記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
添加物成分粉末が、BaSiO及びCaSiOからなる群より選択される少なくとも一種を更に含む、請求項3又は4記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の誘電体磁器組成物を用いて得られ、コア・シェル構造を有し、コア部分がペロブスカイト型複合酸化物であり、シェル部分が添加物成分である誘電体。
【請求項7】
請求項6記載の誘電体からなる誘電体層を有する、積層セラミックコンデンサ。
【請求項8】
誘電体磁器組成物の製造方法であって、ペロブスカイト型複合酸化物粉末の比表面積に対して、添加物成分粉末の比表面積が10〜100倍であるように、ペロブスカイト型複合酸化物粉末と、添加物成分粉末とを混合する工程を含む、誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項9】
ペロブスカイト型複合酸化物粉末が、チタン酸バリウムである、請求項8記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項10】
添加物成分粉末が、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Tb、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選択される元素の酸化物の少なくとも一種の酸化物を含む、請求項8又は9記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項11】
添加物成分粉末が、Mn、W、Mo、V、Mg及びCoからなる群より選択される元素の酸化物又は炭酸塩の少なくとも一種を更に含む、請求項10記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項12】
添加物成分粉末が、BaSiO及びCaSiOからなる群より選択される少なくとも一種を更に含む、請求項10又は11記載の誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−162826(P2008−162826A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352392(P2006−352392)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】