説明

耐震壁

【課題】初期剛性及び最大耐力が効果的に得られ、所定値よりも大きいせん断力を受けたときに変形性能を発揮する耐震壁を提供する。
【解決手段】耐震壁10は、コンクリートによって形成された壁本体18の表面に形成された第1溝20と、正面視にて第1溝20と間隔をあけて壁本体18の裏面に形成された第2溝22と、を有する。これにより、耐震壁10は、初期剛性及び最大耐力を効果的に得ることができ、所定値よりも大きいせん断力を受けたときに変形性能を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートによって形成された耐震壁に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートによって形成された耐震壁は、一般に、高い初期剛性及び最大耐力を有するが、比較的小さい変形レベルで最大耐力に達した後に耐力が極端に低下してしまう。すなわち、最大耐力に達した後の変形性能を期待できない。特許文献1には、スリットを形成することにより変形性能を向上させたコンクリート造の耐震壁が紹介されている。しかし、スリットの形成により初期剛性や最大耐力が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−144452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は係る事実を考慮し、初期剛性及び最大耐力が効果的に得られ、所定値よりも大きいせん断力を受けたときに変形性能を発揮する耐震壁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、コンクリートによって形成された壁本体と、前記壁本体の表面に形成された第1溝と、正面視にて前記第1溝と間隔をあけて前記壁本体の裏面に形成された第2溝と、を有する耐震壁である。
【0006】
請求項1に記載の発明では、コンクリートによって形成された壁本体の表面に第1溝が形成され、裏面に第2溝が形成されている。第2溝は、正面視にて第1溝と間隔をあけて形成されている。
【0007】
よって、所定値よりも大きいせん断力が耐震壁に作用したときに、第1溝と第2溝との間に形成されるせん断面で切れて2つの袖壁に分割され、耐震壁の変形性能を向上させることができる。これにより、所定値よりも大きいせん断力が耐震壁に作用したときに発揮させる変形性能に大きく影響されることなく、所定値以下のせん断力に対して必要とする初期剛性及び最大耐力を発揮させることができる。すなわち、耐震壁の初期剛性及び最大耐力が効果的に得られる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記第1溝と前記第2溝との間に形成される前記壁本体のせん断面にエネルギー吸収部が設けられている。
【0009】
請求項2に記載の発明では、第1溝と第2溝との間に設けられたエネルギー吸収部によってエネルギーを吸収することができ、所定値よりも大きなせん断力が耐震壁に作用した場合に、この耐震壁が設置された建物の階層の変形を抑制することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記第1溝と前記第2溝とは縦溝であり、前記第1溝を介して前記第2溝の反対側に位置する前記壁本体の表裏面に正面視にて間隔をあけて形成された一対の第1横溝と、前記第2溝を介して前記第1溝の反対側に位置する前記壁本体の表裏面に正面視にて間隔をあけて形成された一対の第2横溝と、を有する。
【0011】
請求項3に記載の発明では、壁本体の表裏面に形成された一対の第1横溝と、一対の第2横溝とによって、耐震壁の端部への応力集中によるコンクリートひび割れの発生を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記構成としたので、初期剛性及び最大耐力が効果的に得られ、所定値よりも大きいせん断力を受けたときに変形性能を発揮する耐震壁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る耐震壁を示す正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る耐震壁を示す平断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る耐震壁を示す正面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る耐震壁の変形例を示す平断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る耐震壁の変形例を示す平断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る耐震壁の変形例を示す正面図である。
【図8】図7のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0015】
図1の正面図に示すように、第1の実施形態の耐震壁10は、建物の躯体となる鉄筋コンクリート製の柱12A、12Bと、梁14A、14Bとによって構成された架構16内に設置されている。耐震壁10は、鉄筋コンクリート製の壁本体18、第1溝としての溝20、及び第2溝としての溝22を有している。
【0016】
図1のA−A断面図である図2(a)に示すように、溝20は、壁本体18の表面(図1における壁本体18の前面)に形成された矩形断面を有する縦溝であり、溝22は、壁本体18の裏面(図1における壁本体18の背面)に形成された矩形断面を有する縦溝である。溝20と溝22とは、梁14Aの下面から梁14Bの上面へ略鉛直に形成され、図1における壁本体18の正面視にて間隔をあけて略平行となるように、壁本体18の右側と左側とに配置されている。
【0017】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0018】
鉄筋コンクリート製の一般的な耐震壁は、必要とするせん断耐力に応じて壁厚がほぼ決まってしまうので、耐震壁のせん断剛性も一義的に決まってしまう。すなわち、耐震壁の剛性を調整することが難しく、建物の偏心率や応力集中を考慮したバランスのとれた構造設計の阻害要因の1つと成り得る。
【0019】
これに対して、耐震壁10では、図2(a)に示すように、溝20、22の設定(例えば、溝20、22の幅、長さ、深さ、断面形状、配置、数、溝20と溝22との間の距離の設定等)により、断面欠損による壁本体18の剛性低下率を変えることができ、耐震壁10の剛性を調整することができる。
【0020】
また、例えば、大地震において大きな変形性能が得られるように耐震壁にスリットを形成すると、中小地震に対して発揮することができる耐震壁本来の初期剛性及び最大耐力を低下させてしまう。
【0021】
これに対して、耐震壁10では、中小地震等により耐震壁に作用する所定値以下のせん断力に対しては、図2(a)に示すように、壁本体18のせん断剛性により、耐震壁10が設置された建物の階層の変形を抑制する。
【0022】
そして、大地震等により、所定値よりも大きいせん断力が耐震壁10に作用したときに、図2(a)、(b)に示すように、溝20と溝22との間に形成されるせん断面24で壁本体18が切れて2つの袖壁18A、18Bに分割され、これらの袖壁18A、18B同士に相対的なずれが生じる。これにより、耐震壁10の変形性能を向上させることができる。
【0023】
よって、大地震時等によって所定値よりも大きいせん断力が耐震壁10に作用したときに発揮させる変形性能に大きく影響されることなく、中小地震時等によって所定値以下のせん断力が耐震壁10に作用したときに必要とする初期剛性及び最大耐力が得られるように壁本体18に溝20、22を設ければよいので、耐震壁10の初期剛性及び最大耐力が効果的に得られる。例えば、コンクリート耐震壁本来の初期剛性及び最大耐力を発揮できる限界せん断力が先の所定値となるように、耐震壁10を設計することができる。
【0024】
また、溝20、22の設定(例えば、溝20、22の幅、長さ、深さ、断面形状、配置、数、溝20と溝22との間の距離の設定等)により、せん断面24が切れるタイミングを調節することができる。
【0025】
また、せん断面24で切れて分割された袖壁18A、18B同士の相対的なずれによりせん断面24に生じる摩擦により、エネルギーを吸収することができる。
【0026】
次に、本発明の第2の実施形態とその作用及び効果について説明する。第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0027】
図3(a)の平断面図に示すように、第2の実施形態の耐震壁26は、溝20と溝22との間に形成される壁本体18のせん断面に、エネルギー吸収部としてのゴムシート28が設けられている。
【0028】
よって、ゴムシート28によりエネルギーを吸収することができる。これにより、大地震等によって所定値(例えば、限界せん断力)よりも大きなせん断力が耐震壁26に作用したときに、変形性能が向上した耐震壁26の変形を抑制することができる。
【0029】
また、ゴムシート28により、壁本体18を袖壁18A、18Bに分割し易く(溝20と溝22との間に形成されるせん断面で切れ易く)することができる。
【0030】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。
【0031】
なお、第2の実施形態では、エネルギー吸収部をゴムシート28とした例を示したが、エネルギー吸収部はエネルギーを吸収できる構成であればよく、例えば、図3(b)の平断面図に示す耐震壁30のようにしてもよい。
【0032】
耐震壁30では、エネルギー吸収部としてのダボ筋32が、溝20と溝22との間に形成される壁本体18のせん断面24を跨ぐようにして壁本体18内部に埋設されている。これにより、せん断面24で切れて分割された袖壁18A、18B同士が相対的にずれたときに、ダボ筋32がせん断降伏してエネルギー吸収する。また、袖壁18A、18B同士が離れることをダボ筋32が防ぐので、袖壁18A、18Bの接合面同士が接触した状態が保持され、せん断面24に生じる摩擦によるエネルギー吸収効果を確実に得ることができる。
【0033】
また、第2の実施形態で示したゴムシート28は、溝20と溝22との間に形成されるせん断面の一部に設けてもよいし、全部に設けてもよい。また、エネルギー吸収効果を期待しない場合には、ゴムシート28を鉄板や樹脂製のシート等として、壁本体18を袖壁18A、18Bに分割し易くするようにしてもよい。
【0034】
次に、本発明の第3の実施形態とその作用及び効果について説明する。第3の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0035】
図4の正面図に示すように、第3の実施形態の耐震壁34では、壁本体18に、一対の第1横溝としての溝36、38と、一対の第2横溝としての溝40、42とが設けられている。
【0036】
溝36は、壁本体18の右端部44の下端部表面(図4における壁本体18の前面)に形成された矩形断面を有する横溝であり、溝38は、壁本体18の右端部44の上端部裏面(図4における壁本体18の背面)に形成された矩形断面を有する横溝である。図4における壁本体18の正面視にて、溝36は、溝20の右側面から柱12Bの左側面へ梁14Bの上面に沿って略水平に形成され、溝38は、溝20の右側面から柱12Bの左側面へ梁14Aの下面に沿って略水平に形成され、溝36と溝38とは、間隔をあけて略平行となるように配置されている。
【0037】
溝40は、壁本体18の左端部46の上端部表面(図4における壁本体18の前面)に形成された矩形断面を有する横溝であり、溝42は、壁本体18の左端部46の下端部裏面(図4における壁本体18の背面)に形成された矩形断面を有する横溝である。図4における壁本体18の正面視にて、溝40は、溝22の左側面から柱12Aの右側面へ梁14Aの下面に沿って略水平に形成され、溝42は、溝22の左側面から柱12Aの右側面へ梁14Bの上面に沿って略水平に形成され、溝40と溝42とは、間隔をあけて略平行となるように配置されている。
【0038】
よって、耐震壁34では、大地震等により、所定値よりも大きいせん断力が耐震壁34に作用して、溝20と溝22との間に形成されるせん断面24で壁本体18が切れて2つの袖壁18A、18Bに分割されるときに(図2(b)、(c)と同様の作用)、溝36と溝38との間に形成されるせん断面、及び溝40と溝42との間に形成されるせん断面でも壁本体18が切れて分割される。
【0039】
これにより、耐震壁34の端部(壁本体18の右端部44及び左端部46)への応力集中によるコンクリートひび割れの発生を低減することができる。
【0040】
以上、本発明の第3の実施形態について説明した。
【0041】
なお、第3の実施形態では、第1溝(溝20)及び第2溝(溝22)を縦溝とし、壁本体18の右端部44に一対の第1横溝(溝36、38)設け、左端部46に一対の第2横溝(溝40、42)を設けた例を示したが、壁本体18に第1溝及び第2溝を横溝として上下に配置し、一対の第1縦溝を、第1溝を介して第2溝の反対側に位置する壁本体18の表裏面に、正面視にて間隔をあけて壁本体18の左右に形成し、一対の第2縦溝を、第2溝を介して第1溝の反対側に位置する壁本体18の表裏面に、正面視にて間隔をあけて壁本体18の左右に形成してもよい。
【0042】
以上、本発明の第1〜第3の実施形態について説明した。
【0043】
なお、第1〜第3の実施形態で示した第1溝としての溝20、及び第2溝としての溝22を縦溝とした例を示したが、壁本体18の第1溝と第2溝との間にせん断面を形成できれば、第1溝と第2溝とはどのように形成してもよい。例えば、第1溝及び第2溝は、縦溝、横溝、斜め溝の何れでもよいし、第1溝及び第2溝の幅、長さ、深さ、断面形状、配置、数や、第1溝と第2溝との間の距離等は、適宜決めればよい。
【0044】
例えば、図5の平断面図に示す耐震壁48のように、壁本体18の表面に第1溝としての溝20を複数形成し、壁本体18の裏面に第2溝としての溝22を複数形成してよい。この場合、壁本体18の正面視にて、溝20と溝22とが重ならないようにする。このように、第1溝及び第2溝を複数形成することにより、第1溝と第2溝との間に形成されるせん断面を確実に切ることができる。
【0045】
壁本体18を耐震壁として機能させるためには、壁本体18が設置される周辺架構(例えば、周辺架構を構成する柱)に、壁本体18に設けられた壁筋をアンカーし、壁筋に生じる応力を周辺架構に伝達する必要があるが、第2溝としての溝22と、第1溝としての溝20とを壁本体18の左右端部にそれぞれ形成する場合、溝20、22で壁筋が途切れてしまい周辺架構にアンカーされなくなってしまう。
このような場合には、図6の平断面図に示す耐震壁50のように、重ね継ぎ手により壁筋52の応力が周辺架構(柱12A、12B)に伝達されるようにすればよい。
【0046】
また、第1〜第3の実施形態では、溝20と溝22との奥壁面が同一の鉛直面にある例を示したが、溝20と溝22との奥壁面は、同一の鉛直面になくてもよい。
【0047】
また、第1〜第3の実施形態では、鉄筋コンクリートによって壁本体18が形成されている例を示したが、壁本体18は、コンクリート製であればよく、例えば、スチールファイバ、炭素繊維等を有する繊維補強コンクリートや、高強度コンクリートによって形成してもよい。
【0048】
また、第1〜第3の実施形態で示した第1溝及び第2溝には、壁本体の表面に形成された凹部も含まれる。例えば、図7の正面図に示す耐震壁54のように、壁本体18の表面(図7における壁本体18の前面)に正面視にて矩形の凹部56を形成し、壁本体18の裏面(図7における壁本体18の背面)に正面視にて矩形の凹部58を形成してもよい。このような構成においても、図7のB−B断面図である図8に示すように、凹部56と凹部58との間にせん断面60を形成することができる。
【0049】
また、第1〜第3の実施形態で示した耐震壁10、26、30、34、48、50、54が設置される建物の設計においては、所定の外力(地震力)が入力された際に、耐震壁が設置された建物の階層の周期を、耐震壁の剛性を低下させて長くしたり、耐震壁にエネルギーを吸収させたりして地震力の低減(免震効果)を図る設計手法を用いることができる。
【0050】
以上、本発明の第1〜第3の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1〜第3の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
10、26、30、34、48、50、54 耐震壁
18 壁本体
20 溝(第1溝)
22 溝(第2溝)
28 ゴムシート(エネルギー吸収部)
32 ダボ筋(エネルギー吸収部)
36、38 溝(第1横溝)
40、42 溝(第2横溝)
56 凹部(第1溝)
58 凹部(第2溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートによって形成された壁本体と、
前記壁本体の表面に形成された第1溝と、
正面視にて前記第1溝と間隔をあけて前記壁本体の裏面に形成された第2溝と、
を有する耐震壁。
【請求項2】
前記第1溝と前記第2溝との間に形成される前記壁本体のせん断面にエネルギー吸収部が設けられている請求項1に記載の耐震壁。
【請求項3】
前記第1溝と前記第2溝とは縦溝であり、
前記第1溝を介して前記第2溝の反対側に位置する前記壁本体の表裏面に正面視にて間隔をあけて形成された一対の第1横溝と、
前記第2溝を介して前記第1溝の反対側に位置する前記壁本体の表裏面に正面視にて間隔をあけて形成された一対の第2横溝と、
を有する請求項1又は2に記載の耐震壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−57335(P2012−57335A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200346(P2010−200346)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】