説明

耐食性、密着性に優れるアルミニウム合金缶蓋及びその製造方法

【課題】密着性及び耐食性を有する樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋を提供する。
【解決手段】
アルミニウム合金板からなる缶蓋において、前記アルミニウム合金板が、重量%で、Mg:0.2〜5.5%、Si:0.05〜1%、Fe:0.05〜1%、Cu:0.01〜0.35%、Mn:0.01〜2%、Cr:0.01〜0.4%を含有するアルミニウム合金であり、該アルミニウム合金板の少なくとも片側表面に、ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で3〜30mg/m含有する表面処理層を有し、さらにその上に、エポキシアクリル樹脂塗料またはポリエステル系樹脂塗料を塗布後乾燥したことを特徴とする、耐食性、密着性に優れる樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板の少なくとも片側表面にノンクロム無機被膜層を有し、その上に有機樹脂層を有してなる、耐食性、密着性に優れるアルミニウム合金缶蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料缶や食品缶等に用いられる缶蓋には、アルミニウム板又はアルミニウム合金板が使用される。蓋材としてアルミニウムは加工性や風味保持性に優れているが、表面処理を施した鋼材に比して耐食性で劣るという問題がある。
一方、アルミニウム板の表面処理としては、リン酸クロメート系表面処理剤が使用されてきた。このリン酸クロメート系表面処理剤により形成される化成皮膜は、皮膜単独の耐食性に優れており、また、各種樹脂系塗料を塗装した後の耐食性、密着性に優れているため、建材向け、家電向け、フィン材向け、カーエバポレーター向け、飲料缶材向け等アルミニウム材の広範囲な用途において使用されている。
しかし、近年、環境保護の観点から、リン酸クロメート系表面処理剤と同等の高い耐食性、密着性を付与することができるノンクロム系表面処理剤が求められている。
【0003】
ノンクロム表面処理剤としては、例えば、飲料缶ボディ向けとして、ジルコニウム又はチタニウム化合物とリン酸化合物とを併用した系が用いられている。しかしながら、これらの系により形成される化成皮膜は、リン酸クロメート系表面処理剤により形成される皮膜と比べて、塗装後の耐食性、密着性が劣るため、広範囲な用途に使用できるものではなかった。
【0004】
特許第2828409号公報(特許文献1)には、リン酸イオンと、フルオロジルコニウム酸と、フッ化物水素酸と、過酸化水素並びに、亜硝酸、タングステン酸、モリブデン酸、ペルオクソ酸及びこれらの酸の塩から選ばれた少なくとも1種からなる酸化剤とを含むアルミニウム含有金属材料用表面処理剤が開示されている。しかしながら、この技術では、塗料との高い密着性及び塗装材としての防食性が不充分であった。
【0005】
特許第3349851号公報(特許文献2)には、アルミニウム含有金属材料の表面に化成皮膜を形成する水系表面処理液であって、下記成分:(A)リン酸化合物、(B)ジルコニウム化合物、(C)酸化剤、および(D)水溶液においてフッ化水素を、0.0001〜0.2g/リットルの濃度で発生する量のフッ化水素供給源化合物を含有し、かつ1.5〜4.0のpHを有することを特徴とする、スラッジ抑制性に優れたアルミニウム含有金属材料用表面処理剤が開示されている。しかしながら、このようなノンクロム系表面処理剤は、塗装材としての防食性が不充分であった。
【特許文献1】特許第2828409号公報
【特許文献2】特許第3349851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、アルミニウム合金板にリン酸クロム酸被膜を付与し、更にその上を有機樹脂層で被覆した場合と同等の密着性及び耐食性を有するアルミニウム合金缶蓋を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋は、請求項1に記載するように、
アルミニウム合金板からなる缶蓋において、
前記アルミニウム合金板が、重量%で、Mg:0.2〜5.5%、Si:0.05〜1%、Fe:0.05〜1%、Cu:0.01〜0.35%、Mn:0.01〜2%、Cr:0.01〜0.4%を含有するアルミニウム合金であり、
該アルミニウム合金板の少なくとも片側表面に、ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で3〜30mg/m含有する表面処理層を有し、
さらにその上に、エポキシアクリル樹脂を塗膜固形分に対して0.1重量%以上1.0重量%未満含有する塗膜を形成させることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋は、請求項1において、前記ジルコニウム化合物がリン酸ジルコニウム系化合物であり、且つ、皮膜中のリン酸化合物の含有量がリン原子換算で1〜15mg/mであることを特徴とする。
【0009】
本発明のアルミニウム合金缶蓋の製造方法は、請求項3に記載するように、アルミニウム合金板の表面に、水溶性ジルコニウム化合物と水溶性リン酸化合物と水溶性フッ化物を主成分とする水系組成物を用いて、ジルコニウム化合物の付着量がジルコニウム原子換算で3〜30mg/mの化成被膜を形成し、該化成処理被膜の上に、エポキシアクリル樹脂塗料またはポリエステル系樹脂塗料を塗布後乾燥させ、得られた表面処理アルミニウム板をプレス加工にて成形して得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋は、請求項1に記載するように、アルミニウム合金板からなる缶蓋において、前記アルミニウム合金板が、重量%で、Mg:0.2〜5.5%、Si:0.05〜1%、Fe:0.05〜1%、Cu:0.01〜0.35%、Mn:0.01〜2%、Cr:0.01〜0.4%を含有するアルミニウム合金であり、該アルミニウム合金板の少なくとも片側表面に、ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で3〜30mg/m含有する表面処理層を有し、さらにその上に、エポキシアクリル樹脂塗料またはポリエステル系樹脂塗料を塗布後乾燥したことを特徴とするので、アルミニウム合金板にリン酸クロム酸被膜を付与し、更にその上を有機樹脂層で被覆した場合と同等の密着性及び耐食性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のアルミニウム合金缶蓋について詳細に説明する。
(蓋の構造)
図1は本発明のアルミニウム合金缶蓋の平面図であり、図2は、図1におけるA−A断面の拡大図である。
本発明のアルミニウム合金缶蓋(イージーオープン缶蓋 )4は、図1及び図2に示すように、中央パネル部5、強化環状溝6及び最外周の巻締部からなり、中央パネル部5には、スコア7で囲まれた開口予定部8があり、また開封用タブ9がリベット10を介して固着されている。
開封用タブ9は、把持用リング11と、押込用先端12と、リベット固定用舌片13と、を備えており、押込用先端12が開口予定部8と重なるように取付けられている。
【0012】
強化環状溝6は、内壁部14、ラジアス部15及び外壁部(チャックウォール)16とからなり、この外壁部16は、シーミングパネル部17及びカール部18に接続されている。
シーミングパネル部17及びカール部18の裏側は、溝19となっており、この溝19には、密封用ゴム組成物(図示せず)がライニングされ、缶胴フランジ(図示せず)との間に二重巻締による密封が行われることになる。
【0013】
また、本発明のアルミニウム合金缶蓋4は、アルミニウム合金板の少なくとも片側表面に、ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で3〜30mg/m含有する表面処理層を有し、さらにその上に、エポキシアクリル樹脂を塗膜固形分に対して0.1重量%以上1.0重量%未満含有する塗膜を形成させることに特徴がある。以下に本発明の内容について詳細に説明する。
【0014】
(アルミニウム合金板の構成)
前記アルミニウム合金板は、重量%で、Mg:0.2〜5.5%、Si:0.05〜1%、Fe:0.05〜1%、Cu:0.01〜0.35%、Mn:0.01〜2%、Cr:0.01〜0.4%、を含有するアルミニウム合金であることを特徴とする。
【0015】
合金組成を前記のごとく限定したのは次の理由による。
Mgは強度を向上させるために添加するものである。その含有量を重量%で、0.2〜5.5%と限定したのは、0.2重量%未満では所望の強度が得られず、5.5重量%を超えると圧延の際に耳割れが大きくなるためである。
【0016】
Si及びFeは成形性を改善するために添加するものである。その含有量をSi:0.05〜1重量%、Fe:0.05〜1重量%と限定したのは、何れも不可避的に混入され、0.05重量%未満に規制するのは通常処理では困難であり、一方、1重量%を超えると巨大晶出物をつくりやすくなり、成形性を劣化するためである。
【0017】
Cuは強度を向上するために添加するものである。その含有量を0.01〜0.35重量%と限定したのは、添加しなければ強度に乏しく、上限を超えると鋳造時に割れが発生するようになるためである。
【0018】
Mn、Crは強度と耐熱性を向上し、更に限界絞り比を向上させるとともに、結晶粒を微細化するために添加するものである。その含有量を、Mn:0.01〜2重量%、Cr:0.01〜0.4重量%と限定したのは、いずれも下限未満では上記効果が少なく、上限を超えると限界絞り比が減少し、製蓋工程で割れが発生するようになるためである。
【0019】
本発明では、一般に厚みが0.15〜0.40mm、好ましくは0.20〜0.30mmの厚みのアルミニウム合金板が使用可能である。
0.15mm未満では、蓋成形が困難で、かつ所望の蓋強度が得られず、一方0.40mmを超えると、経済性が悪くなるためである。
【0020】
上記アルミニウム合金板としては、具体的には、アルミニウム、アルミニウム−銅合金、アルミニウム−マンガン合金、アルミニウム−珪素合金、アルミニウム−マグネシウム合金、アルミニウム−マグネシウム−珪素合金、アルミニウム−亜鉛合金、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム合金等を挙げることができる。
【0021】
上記アルミニウム合金板としては、例えば、アルミニウム合金5182材、アルミニウム合金5021材、アルミニウム合金5022材、アルミニウム合金5052材、アルミニウム合金3004材、アルミニウム合金3005材、アルミニウム合金3104材、アルミニウム合金1100材等が好適に用いられる。アルミニウム材料の形状については特に制限はないが、例えば板状、シート状、コイル状であることが好ましい。
【0022】
(表面処理層)
上記無機表面処理皮膜(本明細書では表面処理層という)は、耐食性の付与と、アルミニウム合金板及び塗膜との密着性付与との二つの効果を主な目的としている。
表面処理層にはジルコニウム化合物を含む。ジルコニウム化合物の付着量は耐食性と密着性を左右する。表面処理層に用いられるジルコニウム化合物としては、ジルコニウムを含有する化合物であれば特に限定されないが、当該pHでの安定性が良好で、皮膜形成性に優れることから、フッ素を含有している水溶性ジルコニウム化合物が好ましい。
【0023】
上記表面処理層に用いられるジルコニウム化合物としては、ジルコニウムを含有する化合物であれば特に限定されないが、当該pHでの安定性が良好で、皮膜形成性に優れることから、フッ素を含有している水溶性ジルコニウム化合物を用いても良い。上記フッ素を含有している水溶性ジルコニウム化合物としては特に限定されず、例えば、HZrF、(NHZrF、KZrF、NaZrF、LiZrF等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記ジルコニウム化合物の含有量は、上記表面処理皮膜中において、ジルコニウム原子換算で、3〜30mg/mである。3mg/m未満であると、処理皮膜の密着性、耐食性が低下するおそれがある。30mg/mを超えると、処理皮膜の密着性が低下するおそれがあり、また、性能向上は認められず、コスト高となるおそれもある。上記下限は、10mg/mであることが好ましく、上記上限は、20mg/mであることが好ましい。
【0025】
また、上記表面処理層に用いられるジルコニウム化合物としては、特にリン酸ジルコニウム系化合物あることが望ましい。
リン酸ジルコニウム系化合物としては、フルオロジルコニウム酸と燐酸の反応で燐酸ジルコニウムを析出させたものが挙げられる。
リン成分の含有量は、上記表面処理被膜中で、リン原子換算で1〜15mg/mであることが好ましい。1mg/m未満であると、処理皮膜の密着性、耐食性が低下するおそれがある。15mg/mを超えると、処理皮膜の密着性が低下するおそれがあり、また、性能向上は認められず、コスト高となるおそれもある。上記下限は、5mg/mであることが好ましく、上記上限は、10mg/mであることが好ましい。
【0026】
上記表面処理層中の上記ジルコニウム化合物のジルコニウム量、リン量は、蛍光X線分析装置により測定することができる。
より詳しくは、ジルコニウム又はリンの付着量が既知で付着量の異なるサンプルを複数測定し、この際の強度より、強度−付着量の検量線を作製する。同様の条件で本発明の被覆金属材料からサンプルを切り出し測定する。この測定強度を検量線に基づき付着量に変換することにより、上記ジルコニウム化合物の付着量、及びリン化合物の付着量を測定することができる。
【0027】
前記表面処理層の厚みについては、皮膜厚が5〜500nmであることが必要であり、15〜300nmであることが好ましく、50〜300nmであることがさらに好ましい。皮膜厚が5nm未満では塗膜若しくはラミネートフィルムの優れた密着性が得られず、500nmを超えると金属材料の有する色調を損ねる可能性が高い。
さらに、前記表面処理層は、アルミニウム合金材料の表面の90%以上を被覆していることが好ましい。90%未満の被覆率では加工時にフィルムが剥離しやすい。
【0028】
上記表面処理層の皮膜厚および被覆率は、常法により、市販のXPS(X線光電子分光分析)装置で定量することができる。XPSとはサンプルを超高真空(10−5Pa以下)においてX線で励起し、この際に放出される光電子を分析する装置である。この光電子の強度と感度係数より表面に存在する原子の比率を計算することができる。
【0029】
(処理液)
上記表面処理層は、表面処理液を、アルミニウム合金板に皮膜処理することにより得られる。
上記処理液において、上記ジルコニウム化合物の含有量は、ジルコニウムイオンとして、50〜1000mg/L、好ましくは100〜300mg/Lである。50mg/L未満であると、短時間処理で充分なジルコニウム皮膜量が得られず、密着性、耐食性が低下するおそれがある。一方、1000mg/Lを超えると、性能向上、処理時間の短縮は認められず、かつコスト高となるおそれがある。なお、上記水溶性ジルコニウム化合物の含有量とは、ノンクロム金属表面処理剤中に含まれるジルコニウムの含有量である。
【0030】
上記処理液において、上記リン酸化合物の含有量は、上記表面処理剤中で、リン酸化合物として3〜1300mg/L、好ましくは100〜400mg/Lである。3mg/L未満であると、形成される皮膜中に適切なリン皮膜量が得られず、塗装後の塗膜密着性が低下するおそれがあり、1300mg/Lを超えても、過剰に存在することになるだけで密着性、耐食性を向上させる効果は見られず、コスト高となるおそれがある。
【0031】
上記処理液のpHは、下限1.8、上限4.0の範囲内である。pHが1.8未満の場合は、金属表面のエッチングが促進され過ぎるため、皮膜外観が不良となり、また、得られる皮膜の耐食性も悪化する。pHが4.0を超えると、化成反応が満足に進行せず、化成皮膜が形成されにくくなる。上記下限は、2.0であることが好ましく、2.4であることがより好ましい。上記上限は、3.2であることが好ましく、2.8であることがより好ましい。
【0032】
上記表面処理液には、上記成分の他に必要に応じて、更に、エッチング助剤、キレート剤、pH調整剤を使用することができる。
上記エッチング助剤としては、例えば、フッ化水素酸、フッ化水素酸塩、フッ化硼酸等を挙げることができる。なお、フッ素イオンの供給源として、上記水溶性ジルコニウム化合物として挙げたジルコニウムの錯体を用いる場合には、生成するフッ素イオンの量が不充分であるので、上記フッ素化合物を併用することが好ましい。
【0033】
上記キレート剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等、アルミニウムと錯体を形成する酸及びそれらの金属塩等を挙げることができる。
【0034】
上記pH調整剤としては、例えば、硝酸、過塩素酸、硫酸、硝酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等の表面処理に悪影響を与えない酸又は塩基を挙げることができる。
【0035】
(樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋の製造方法)
本発明の樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋の製造は、調整した上記表面処理液をアルミニウム合金板に被覆処理し、化成処理アルミニウム合金板を作製した後、該化成処理アルミニウム合金板の表面に塗膜を形成させ、該樹脂被覆アルミニウム合金板を蓋に成形することにより行うことができる。以下、具体的な工程を追って説明する。
【0036】
(アルミニウム合金板への被覆処理)
上記表面処理アルミニウム板は、前記処理液でアルミニウム合金板を処理することにより得られる。この処理皮膜を施すことにより、上記アルミニウム合金板に優れた塗装後の耐食性、塗膜密着性を付与することができる。
【0037】
上記アルミニウム合金板の処理が行われるに先立ち、まずアルミニウム合金板の洗浄を行うことが好ましい。すなわち、工業的に使用される金属材料は圧延油が付着していたり、防錆湯等が塗布されていたりすることが多いので、これらを除去(脱脂)する必要がある。脱脂方法としては特に限定されず、一般的に使用される溶剤脱脂、アルカリ脱脂、又は酸系脱脂を行うことができる。最も好ましい洗浄の態様は、アルカリ洗浄→水洗→酸洗浄→水洗→ノンクロム金属表面処理→水洗→乾燥の各工程を順次行う方法である。
【0038】
上記アルカリ洗浄処理としては特に限定されず、例えば、従来アルミニウムやアルミニウム合金等の金属のアルカリ洗浄処理に用いられてきた処理を行うことができる。上記アルカリ洗浄処理において、通常、アルカリ洗浄はアルカリ性クリーナーを用いて行われる。また、上記酸洗浄は酸性クリーナーを用いて行われる。
【0039】
上記アルカリ性クリーナーとしては特に限定されず、通常のアルカリ洗浄に用いられるものを用いることができ、例えば、日本パーカライジング株式会社製「ファインクリーナー4377」(商標)等を挙げることができる。上記酸性クリーナーとしては特に限定されず、例えば、硫酸、硝酸、塩酸等の無機酸;日本パーカライジング株式会社製「パルクリーン500:」等を挙げることができる。
【0040】
上記酸洗浄及びアルカリ洗浄処理は、通常、スプレー法で行われる。上記酸洗浄又はアルカリ洗浄処理を行った後は、基材表面に残存する酸洗浄剤又はアルカリ洗浄剤を除去するために、水洗処理を行う。
【0041】
次に、アルミニウム合金板への皮膜処理について述べる。皮膜処理は、上記表面処理液をアルミニウム合金板の表面に接触させて該表面と反応させることにより皮膜を形成させて行う。上記アルミニウム合金板を処理する方法としては、上記アルミニウム合金板を上記処理液に接触させる方法であれば特に限定されず、ロールコート法、スプレー法、浸漬法等の通常の方法を挙げることができる。なかでも、スプレー法で行うことが好ましい。
【0042】
上記アルミニウム合金板の処理は、下限30℃、上限80℃の温度範囲で行うことが好ましい。30℃未満であると、反応速度が低下し、皮膜の析出性が悪くなるため、充分な皮膜量を得るために処理時間を延長する必要が生じ、生産性を低下させる。80℃を超えると、エネルギーのロスが大きくなる可能性がある。上記下限は、50℃であることがより好ましい。上記上限は、70℃であることがより好ましい。
【0043】
上記アルミニウム合金板の処理は、スプレー法で処理する場合は、処理時間が下限1秒、上限20秒の範囲内であることが好ましい。1秒未満であると、形成される皮膜量が充分でなく、耐食性や密着性が低下するおそれがあり、20秒を超えると、皮膜形成時のエッチングが過度に進行し、密着性、耐食性が低下するおそれがある。また、より好ましくは上記下限は3秒であり、上記上限は8秒である。
【0044】
上記アルミニウム合金板の処理の後、必要に応じて水洗処理を行うことができる。
上記水洗処理は、皮膜外観等に悪影響を及ぼさないようにするために、1回又はそれ以上行われるものである。この場合、最終の水洗は、純水で行われることが適当である。この水洗処理においては、スプレー水洗又は浸漬水洗のどちらでもよく、これらの方法を組み合わせて水洗することもできる。
【0045】
上記アルミニウム合金板の処理により得られる皮膜は、水洗後に乾燥させることが好ましい。上記皮膜を乾燥する方法としては加熱乾燥が好ましく、例えば、オーブン乾燥及び/又は熱空気の強制的循環による加熱乾燥を挙げることができる。これらの加熱乾燥は、通常、40〜120℃で6秒〜60秒間行われる。
【0046】
皮膜厚、皮膜付着量および被覆率、ジルコニウム化合物若しくはリン化合物の付着量は、本発明の被覆金属材料について説明した範囲になるように適宜調整することができる。調整は、上記水系組成物中の重合体の濃度、エッチング剤の濃度、リン化合物の濃度、処理温度、処理時間等を調整することにより行うことができる。
【0047】
(塗膜の形成)
上記表面処理層の上には、塗膜を形成させる。塗膜としては、熱硬化性樹脂塗料、例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、フラン−ホルムアルデヒド樹脂、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂、ケトン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリル樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、シリコーン樹脂、油性樹脂、或いは熱可塑性樹脂塗料、例えば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体部分ケン化物、塩化ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−マレイン酸−酢酸ビニル共重合体、アクリル重合体、飽和ポリエステル樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂塗料は単独でも2種以上の組合せでも使用される。
【0048】
これらの内でも特に、密着性の観点から、エポキシアクリル樹脂、ポリエステル樹脂を含有するものであることが好ましい。エポキシアクリル樹脂塗料としては、アクリル樹脂としてメタクリル酸、スチレン、及び任意に含有する共重合性モノマーから構成されており、エポキシ樹脂としては、フェノキシ樹脂を含有しているものであってもよい。ポリエステル樹脂としては、
無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの二塩基酸および、必要に応じて併用する三価以上の多塩基酸と、 エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチルペンタジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、などの二価アルコールおよび、必要に応じて併用する三価以上の多価アルコールとのエステル化反応により製造される。
【0049】
前記塗膜を形成するための塗料組成物は、塗料構成成分を水可溶性溶媒に溶解した水性塗料、塗料構成成分を水不溶性溶媒に溶解した溶剤型塗料のいずれの形態とすることもできるが、水性塗料として使用することが好ましい。
このような水可溶性溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、またはジアセトンアルコールのような種々のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、または、プロピレングリコールジメチルエーテルのような各種のグリコール類;あるいは、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノールのような種々のアルコール類が挙げられる。これらは、単独使用でも2種以上の併用でもよいことは勿論であり、さらに、少量のその他の水不溶性溶媒を混合した形態で使用してもよい。
【0050】
前記塗料組成物には、必要に応じて、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、又はリン酸等の種々の酸触媒;あるいはこれらの各種アミン塩等を、硬化触媒として添加してもよい。硬化触媒の配合量は、通常は樹脂固形分100重量部に対して0.1〜1.0重量部程度である。本発明の塗料組成物には、また通常塗料に配合されるレベリング剤、消泡剤、滑剤等の種々の添加剤を配合することもできる。
【0051】
前記塗膜の厚さとしては、1μm〜15μmであることが好ましい。1μm未満の場合、金属露出のため問題となる。一方、15μmを超えると発泡等が発生し好ましくない。
【0052】
好適な乾燥塗膜質量の例を以下に述べる。エポキシアクリル系塗料の塗膜の乾燥塗膜質量は、10〜160mg/dmであることが好ましい。ポリエステル系塗料の塗膜の乾燥塗膜質量は、10〜160mg/dmであることが好ましい。
【0053】
前記塗膜は、例えばターボミル、分散攪拌機等の混合装置を使用して製造された塗料組成物を、ローラコート、ブレードコート、スプレーコート等の手段により有機−無機複合表面処理層の上に被覆することにより得る。
さらに、被覆された塗膜は、通常約130〜250℃程度の温度で、約5秒間〜10分間といった加熱条件下で、熱風炉、赤外線加熱炉等で焼き付けられ、アルミニウム合金缶蓋用素材とされる。
上記塗膜の一例と、乾燥条件、乾燥後の塗膜重量を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
(蓋の成形)
本発明のアルミニウム合金缶蓋の成形は、前述したアルミニウム合金缶蓋用素材を使用して、プレス成形法などの公知の成形法で行うことができる。
先ず、被覆アルミニウム板乃至コイルを所定の形状及び寸法に打抜き、次いで、或いは同時にプレス型で蓋に成形する。一般に、ステイ・オン・タブタイプのイージーオープン蓋や、フルオープンタイプのイージーオープン蓋に適用される。
【0056】
(蓋の成形方法)
本発明のアルミニウム合金缶蓋の成形方法を以下説明する。
本発明のアルミニウム合金缶蓋の成形は、前述したアルミニウム合金缶蓋用素材を使用して、プレス成形法などの公知の成形法で行うことができる。
先ず、被覆アルミニウム板乃至コイルを所定の形状及び寸法に打抜き、次いで、或いは同時にプレス型で蓋に成形する。一般に、ステイ・オン・タブタイプのイージーオープン蓋や、フルオープンタイプのイージーオープン蓋に適用される。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0058】
(表面処理液の調製)
(実施例1、10)
常温のイオン交換水を攪拌装置付きベッセルに仕込んだ。常温にて攪拌しながら、40%フッ化ジルコニウム水素酸(Zrとして17.6%含有)35.5g/L、85%リン酸23.2g/L、55%フッ化水素酸9g/Lの割合で加え攪拌した。その後、イオン交換水を用いて4%に希釈した後、アンモニアを添加してpH2.6に調整し、微褐色の水溶液を得た。
【0059】
(実施例2、11)
40%フッ化ジルコニウム水素酸(Zrとして17.6%含有)を14.2g/L、85%リン酸 9.3g/Lとした以外は実施例1、10と同様にして行った。
【0060】
(実施例3〜9、12〜15、比較例1〜6)
前記実施例1において、ジルコニウム成分及びリン成分を表2に示すように変化させ、その他は実施例1と同様とした。
【0061】
(アルミニウム合金板の洗浄)
市販のアルミニウム−マンガン合金板(JIS A5182 板厚:0.25mm 板寸法:200×300mm)を、市販の強アルカリ系脱脂剤「ファインクリーナー4377」(商標、株式会社日本パーカライジング社製)を用いて、薬剤濃度:20g/L、処理温度60℃、処理時間7秒の条件でスプレー処理した。その後、表面に残存しているアルカリ分を水道水により洗浄した。
【0062】
(アルミニウム合金板への処理)
得られたアルミニウム合金板に、実施例及び比較例の表面処理液を用いスプレーにて温度50℃〜60℃、処理時間1秒〜5秒にて表面処理した後、未反応物を水道水により洗浄後、更に3000,000Ω以上の脱イオン水にて洗浄し、その後80℃で乾燥し、有機−無機複合表面処理層を形成させた表面処理金属板を得た。
【0063】
(比較例7〜9)
処理剤として、日本ペイント社製「アルサーフ4130」(比較例7:リン酸ジルコニウム系処理剤)、日本ペイント社製「アルサーフ402」(比較例8:ジルコニウム系処理剤(リン酸化合物含有せず))、日本ペイント社製「アルサーフ401/45」(比較例9:リン酸クロメート処理剤)を使用した他は、いずれも、上述の洗浄工程、スプレー処理と同条件にて化成皮膜を形成させた表面処理金属板を得た。
【0064】
(皮膜量測定)
実施例及び比較例によって得られた乾燥皮膜のジルコニウム及びリンの質量を、島津製作所社製 蛍光X線分析装置「XRF−1700」を用いて測定した。
【0065】
【表2】

【0066】
(塗膜の形成)
得られた表面処理アルミニウム板に、エポキシアクリル系塗料、エポキシフェノール系塗料、ポリエステル系塗料、エポキシユリア系塗料、ビニルオルガノゾル系塗料を、ローラコーターを用いて塗装し、表1に示した条件にて熱風炉で焼き付けることにより、塗膜を被覆したアルミニウム合金缶蓋用素材を得た。
【0067】
(缶蓋の作製)
作製した樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋用素材を、上記樹脂被覆面が少なくとも蓋の内面側に存在する方向で直径68.7mmに打ち抜き、次いで蓋の外面側にパーシャル開口型のスコア加工(幅22mm、スコア残厚110μm、スコア幅20μm)、リベット加工並びに開封用タブの取り付けを行い、SOT蓋の作製を行った。
【0068】
(評価方法)
下記評価を行い、結果を表3に示した。
1.皮膜外観
上記により得た樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋の表面を目視で評価した。
表3において、はじき、ムラ、著しい変色等の異常の無い、良好な外観が得られたものを「O」で表し、異常があったものはその状態を表記した。
【0069】
2.フェザリング評価(密着性)
上記により得た熱可塑性樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋について、レトルト殺菌処理(130℃で50分間)を実施した後、実際に缶蓋を開口し、開口部分のフェザリングの発生を評価した。
また、上記により得た塗膜被覆アルミニウム合金缶蓋について、煮沸処理(30分間)を実施した後、実際に缶蓋を開口し、開口部分のフェザリングの発生を評価した。
各n=50枚実施し、評価結果は、
○:平均フェザリング長さ0.5mm未満
△:平均フェザリング長さ0.5mm以上、1.0mm未満
×:平均フェザリング長さ1.0mm以上
で示し、表3にまとめた。製品としての使用可能範囲は○及び△で示した製品である。
【0070】
3.開口性評価
上記により得た熱可塑性樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋について、レトルト殺菌処理(130℃で50分間)を実施した後、開口性評価を実施した。
また、上記により得た塗膜被覆アルミニウム合金缶蓋について、煮沸処理(30分間)を実施した後、開口性評価を実施した。
評価結果は、タブ折れなどによる開口不良数/開口数で示し、表3にまとめた。
【0071】
4.パック試験
一般食缶用溶接缶胴に、内容物コーンスープを充填し常法に従い、上記により得た熱可塑性樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋を巻締め、130℃−90分間殺菌処理した。倒立で55℃−2カ月貯蔵後開缶機で巻締部を切断し、蓋を缶胴から離した後、該内面の腐食状態を顕微鏡で観察し評価した。
スチール製絞りしごき缶胴に、内容物コカコーラ(商標)を充填し常法に従い、上記により得た塗膜被覆アルミニウム合金缶蓋を巻締めた。倒立で37℃−3カ月貯蔵後開缶機で巻締部を切断し、蓋を缶胴から離した後、該内面の腐食状態を顕微鏡で観察し評価した。
n=50で実施した。評価結果を、表3にまとめた。
【0072】
【表3】

【0073】
上記のように、実施例により得られたアルミニウム合金缶蓋は、密着性、開口性、耐食性、共に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明においては、アルミニウム合金板からなる缶蓋において、アルミニウム合金板が、重量%で、Mg:0.2〜5.5%、Si:0.05〜1%、Fe:0.05〜1%、Cu:0.01〜0.35%、Mn:0.01〜2%、Cr:0.01〜0.4%を含有するアルミニウム合金であり、該アルミニウム合金板の少なくとも片側表面に、ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で3〜30mg/m含有する表面処理層を有し、さらにその上に、エポキシアクリル樹脂塗料またはポリエステル系樹脂塗料を塗布後乾燥させて樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋とすることにより、アルミニウム合金板にリン酸クロム酸被膜を付与し、更にその上を有機樹脂層で被覆した場合と同等の密着性及び耐食性を有するアルミニウム合金缶蓋を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施形態に係る樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋の一例の上面図である。
【図2】図1の樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋の線A−Aにおける拡大断面図である。
【符号の説明】
【0076】
4: イージーオープン缶蓋
5: 中央パネル部
6: 強化環状溝
7: スコア
8: 開口予定部
9: 開封用タブ
10: リベット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板からなる缶蓋において、
前記アルミニウム合金板が、重量%で、Mg:0.2〜5.5%、Si:0.05〜1%、Fe:0.05〜1%、Cu:0.01〜0.35%、Mn:0.01〜2%、Cr:0.01〜0.4%を含有するアルミニウム合金であり、
該アルミニウム合金板の少なくとも片側表面に、ジルコニウム化合物をジルコニウム原子換算で3〜30mg/m含有する表面処理層を有し、
さらにその上に、エポキシアクリル樹脂塗料またはポリエステル系樹脂塗料を塗布後乾燥したことを特徴とする、耐食性、密着性に優れる樹脂被覆アルミニウム合金缶蓋。
【請求項2】
前記ジルコニウム化合物がリン酸ジルコニウム系化合物であり、且つ、皮膜中のリン酸化合物の含有量がリン原子換算で1〜15mg/mであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金缶蓋。
【請求項3】
アルミニウム合金板の表面に、水溶性ジルコニウム化合物と水溶性リン酸化合物と水溶性フッ化物を主成分とする水系組成物を用いて、ジルコニウム化合物の付着量がジルコニウム原子換算で3〜30mg/mの化成被膜を形成し、該化成処理被膜の上に、エポキシアクリル樹脂塗料またはポリエステル系樹脂塗料を塗布後乾燥して得られた表面処理アルミニウム板をプレス加工にて成形して得ることを特徴とする、アルミニウム合金缶蓋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−76651(P2007−76651A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263100(P2005−263100)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】