説明

耐食性ガラスセラミック物品を備える装置

【課題】リチウム含有ガラスセラミックを燃焼加熱を伴う用途で使用可能にする。
【解決手段】ガラスセラミック物品が、混晶を有するアルミノケイ酸リチウムガラスセラミックを含み、その際、前記混晶中でケイ素イオンが部分的にアルミニウムイオンに置換されており、且つリチウムイオンの他に、付加的にマグネシウムイオン及び/又は亜鉛イオンが含有されており、その亜鉛イオン及び/又はマグネシウムイオンは、混晶の結晶構造のチャネルに存在している、燃焼加熱されるガラスセラミック物品を備えた加熱装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、耐火ガラス及びガラスセラミック分野に関する。特に本発明は、燃焼ガスの腐食攻撃に対して高い耐性を有するガラスセラミック物品を備えた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス加熱されるガラスセラミック製調理面では一般に、ガラスセラミックは、火炎に直接は当てられることはない。むしろ、これに対して、ガラスセラミック製プレートは、ガスバーナーのための開口部を有するか、又はガスバーナーが、ガラスセラミックの下部に配置されているマットを加熱する。燃焼生成物は短時間でも、高温のガラスセラミックを腐食して、強度の損失及び膨張係数の変化をもたらしうるので、ガス火炎との直接的な接触は一般に回避される。このような間接的なガス輻射熱を伴うガラスセラミック製調理面は例えば、ドイツ特許第19545842C2号明細書、ドイツ特許出願公開第19637666A1号明細書、欧州特許第0638771B1号明細書及びドイツ特許第10041472C1号明細書から知られている。
【0003】
特に、熱膨張係数の変化は、微小なひびの形成をもたらし、これは、強度を著しく低減させる。この場合には特に、火炎中で生じる酸化イオウが、腐食プロセスの原因である。高温でイオウガスに攻撃されると、多くのガラスセラミックでは特に、イオン交換が生じる。それというのも、温度の上昇に伴って、イオンの可動性が高まるためである。この際、ガス中に生じるイオウ含有酸又は硫酸の水素イオンが、アルカリ金属イオンと交換される。そのガラスセラミックがリチウムを含む場合には、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの他に、特にリチウムイオンが該当する。リチウムイオンは、サイズが小さく、そのため可動性及び拡散速度が高いので、特に迅速に交換される。
【0004】
ナトリウムイオン及びカリウムイオンのゆっくりとした交換は特に、表面領域の残留ガラス相で生じる。このことも、ガラスセラミックの強度に、不利に作用する。しかし、特に存在するリチウムイオンは、間隙の相当な部分内で交換されて、ガラスセラミック内の広い領域で、構造的変化を引き起こす。
【0005】
他方では、リチウム含有ガラスセラミックは、多数の利点を示す。特に、アルミノケイ酸リチウムタイプのガラスセラミックは、良好な再現性において際立っており、容易に加工することができる。
【特許文献1】ドイツ特許第19545842C2号明細書
【特許文献2】ドイツ特許出願公開第19637666A1号明細書
【特許文献3】欧州特許第0638771B1号明細書
【特許文献4】ドイツ特許第10041472C1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、リチウム含有ガラスセラミックも、燃焼加熱を伴う用途で使用することができることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、かなり意外な簡単な方法で、独立請求項の対象により解決される。本発明による好ましい実施形態及び発展形態は、従属請求項に記載されている。
【0008】
相応して、本発明は、燃焼加熱されるガラスセラミック物品を備える加熱装置を提供し、この際、ガラスセラミック物品は、混晶を有するアルミノケイ酸リチウムガラスセラミック(以下では、LASガラスセラミックとも記述する)を含み、その際、上述の混晶中で、ケイ素イオンが部分的にアルミニウムイオンに置換されており、リチウムイオンの他に、追加的にマグネシウムイオン及び/又は亜鉛イオンが含有されている。ここで意外にも、亜鉛イオン及び/又はマグネシウムイオンが、混晶の結晶構造のチャネル内に配置されていると、亜鉛イオン及び/又はマグネシウムイオンは、リチウムイオンの拡散を有効に抑制し、それによって、ガラスセラミック体積の浸出を妨げるか、かなり遅くすることが判明した。
【0009】
特に、リチウムイオンが、混晶の結晶構造のチャネルに配置されている場合にも、その拡散は、チャネル中でバリケードとして作用する亜鉛イオン又はマグネシウムイオンによって遅くなる。亜鉛イオン又はマグネシウムイオンが無いと、リチウムイオンは、そのサイズの小ささにより、チャネルに沿って比較的迅速に移動する。それというのも、チャネル内の四面体位置の間で場所変換が行われうるためである。
【0010】
特に、ガラスセラミック中に含まれる様々な混晶のc軸に沿って、このようなチャネルが存在するので、本発明によるマグネシウム及び/又は亜鉛をそのチャネルに含むような混晶を有するガラスセラミックは、燃焼加熱を伴う加熱装置のために使用することができるようになる。
【0011】
マグネシウム含有ガラスセラミックを使用する際には、ガラスセラミック物品が混晶を有するLASガラスセラミックを含有することが、特に有利であり、その際、混晶内では、八面体酸素配位を有する格子空隙(Gitterplatze)は少なくとも部分的に、マグネシウムイオンで占められている。この場合、浸出に対する高い抵抗を達成するために、ガラスセラミックは、有利な発展形態では、少なくとも0.75重量%のMgO、好ましくは少なくとも0.9重量%のMgOを含有する。リチウムイオンがチャネル内で移動しようとしても、本発明により少なくとも部分的にマグネシウムオンで占められている八面体位置を通過しなければならない。
【0012】
これに対して、亜鉛含有ガラスセラミックを使用して、リチウムイオンの拡散を抑制するためには、混晶中で、四面体酸素配位を有する格子空隙が少なくとも部分的に亜鉛イオンで占められているように、ガラスセラミックを形成することが好ましい。少なくとも0.8重量%のZnO、好ましくは少なくとも1重量%のZnO、特に好ましくは少なくとも1.5重量%のZnOを有するガラスセラミックは、リチウムの低減に対して特に抵抗性があることが判明している。四面体位置に存在する亜鉛イオンも、八面体配位されている空隙でのマグネシウムイオン同様、一定の封鎖チャネル構造をもたらし、これが、混晶のチャネルに沿ってのリチウムイオンの可動性を制限する。
【0013】
特に、組成MAlSi2x+2の成分を有し、ここで、1≦x≦5、好ましくは1.75≦x≦5及びM=Li又はM=0.5Zn2+又はM=0.5Mg2+である上記のガラスセラミックの混晶は、本発明による加熱装置のための高い耐食性を示すガラスセラミックをもたらすことが判明している。約3≦x≦4の値が、特に好ましい。それというのも、このような組成のガラスセラミックは付加的に、良好に加工することができるという有利な特性を有するためである。特に、高いSiO含分は一般に、高い粘度をもたらし、特にセラミック化(Keramisierung)の際の加工を容易にする。
【0014】
本発明のもう1つの有利な発展形態では、Liイオンの数とMg2+イオン及び/又はZn2+イオンの数との比は、ガラスセラミック物品の混晶中で、5:1から20:1の範囲内、好ましくは8:1から14:1の範囲内である。LiイオンとMg2+イオン又はZn2+イオンとの比が大きすぎると結局は、チャネル内で、Mg2+イオン及び/又はZn2+イオンに占められる位置の割合が小さすぎて、これらの僅かなイオンでは、リチウムイオン交換をもはや十分に阻止することができなくなる。これに対して、Mg2+イオン及びZn2+イオンの割合が、存在するLiイオンに対して高すぎると、LASガラスセラミックの容易な加工性及び熱特性の再現性の利点が失われる。
【0015】
ガラスセラミックの所望のガラス技術特性及び良好な加工性を達成するためにはさらに、本発明のもう1つの有利な発展形態では、ガラスセラミック中のLiO含有量を、2から5重量%の範囲内にするように努める。
【0016】
さらなる成分として、ガラスセラミックの所望の特性を達成するためにさらに、
NaO: 0〜0.65重量%、
O: 0.0〜0.35重量%、ここで、NaO及びKO割合の合計は、0.2から0.8重量%の範囲内であり、
CaO、SrO及びBaO、ここで、これらの割合の合計は、0から2重量%の範囲内であり、
Al: 15から25重量%、
SiO: 60から70重量%、
TiO: 1.5から3.5重量%、
ZrO: 0から2.5重量%、
: 0から2重量%、
As: 0〜1.5重量%、
Sb: 0〜2重量%、
SnO: 0〜0.3重量%
が好ましい。
【0017】
最後の3種の成分は、清澄剤として役立ち、したがって例えば、他の清澄剤に代えることもできる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、混晶がキータイト混晶又は高石英混晶を包含するガラスセラミックを使用する。キータイト混晶又は高石英混晶もしくはこのような結晶の混合が形成されるかどうかは特に、セラミック化の方法に左右される。調理面では、高石英混晶を有するガラスセラミックが好ましい。
【0019】
特に、その熱特性により、ガラスセラミックの低いか、ほんの僅かな熱ゼロ膨張の達成に貢献する高石英混晶又はキータイト混晶では、結晶構造中に、SiO四面体及びAlO四面体からなるらせん状の鎖が存在する。このらせん形の鎖は、通常は全部の結晶を貫通する長く延びるチャネルを画定し、チャネル中で、リチウムイオンが移動しうる。特に、このような結晶では、リチウムイオンの他に、亜鉛イオン及び/又はマグネシウムイオンも、結晶構造中のこのようなチャネル中に配置されていると、有利である。
【0020】
燃焼加熱の際の耐食性をさらに改良するために、ガラスセラミック物品は、リチウムの乏しい非晶質辺縁層を有してもよい。これにより、リチウムイオンのための拡散路が延長されて、リチウムイオンはさらに、非晶質辺縁層を通過しにくくなる。付加的で有効な耐食性を辺縁層により達成するために、このリチウムの乏しい非晶質辺縁層は好ましくは、300から700ナノメートルの厚さを有する。
【0021】
耐久性を改善するためのさらなる手段は、特には物品の加熱表面上での付加的なバリア被覆である。これは好ましくは、100から1000ナノメートル、好ましくは300から700ナノメートルの範囲内の厚さを有する。バリア被覆のための材料としては、酸化ケイ素が特に適している。酸化ケイ素バリア層は、非常に耐熱性があり、スパッタリング被覆又はCVD被覆、特にPICVD(プラズマインパルス誘導化学蒸着)、APCVD(大気圧でのCVD)などの様々な析出方法により容易に析出させることができる。
【0022】
もう1つの有利な発展形態では、バリア層を火炎熱分解により析出させる。火炎熱分解析出は特に、コスト的に特に有利であり、簡単な方法で、大面積のガラスセラミックに空気中で実施することができる。意外にも、このような火炎熱分解被覆を用いても、良好なバリア作用を達成することができる。ガラス辺縁層又は非晶質辺縁層と同様に、バリア被覆は本質的に、表面で作用し、したがって特に、主に表面範囲で生じるナトリウムイオン及びカリウムイオンとHイオンとの交換に対する拡散バリケードとして有効である。もう1つの可能性は、特に酸化ケイ素層を用いてのゾル−ゲル被覆である。この方法も、比較的僅かな装置費用しか要しない。
【0023】
本発明のガラスセラミックを使用することにより、ガラスセラミックが特に高温で長期の温度作用に耐える加熱装置を構成することが可能である。
【0024】
本発明の一発展形態では、燃焼加熱による運転を、700℃で1時間、及び/又は燃焼加熱による運転を、少なくとも600℃で24時間の継続運転で、火炎面とは反対側で行う、加熱装置が提供される。特に、本発明の一発展形態では、ガラスセラミック物品を、少なくとも220日間の加熱運転の後にも、スプリングハンマーを0.5Nmの運動エネルギーでガラスセラミック物品に衝突させるスプリングハンマー試験に耐えるように提供し、その際、前記の運転中には、火炎面とは反対側でそれぞれ、700℃で少なくとも1時間又は少なくとも600℃で24時間の継続運転を行う。好ましくは、ガラスセラミック物品は、700℃で合計100時間の加熱又は600℃で合計5000時間の加熱の後にも、スプリングハンマー試験に耐えることができ、その際、温度は、炎に当る面とは反対側の面での温度に関する。試験に使用されるスプリングハンマー試験はこの場合、IEC60068−2−75又はEN60335−1規定に対応する。本発明による加熱装置は相応して、家庭用分野のためだけでなく、特に、かなり長時間の運転時間を伴う飲食店分野でも持続的に使用することができる。
【0025】
特に、加熱装置は、ガラスセラミック物品がレンジのクッキングプレートもしくは調理面であるレンジを包含してもよい。
【0026】
加熱装置は、炉、特に、ガラスセラミック製観察ガラスをガラスセラミック物品として備える暖炉を包含してもよい。
【0027】
本発明により達成される高い腐食性により、ガラスセラミック物品は、加熱装置の燃焼室の内張としても使用することができる。例えば、暖炉の燃焼室は、ガラスセラミックで内張されているか、少なくとも部分的にガラスセラミックにより形成されていてよい。もう1つの有利な用途は、本発明による加熱装置を備えた燃料セルである。特に、このような加熱装置は、燃料セルのための改質器(Reformer)として使用することもできる。
【0028】
本発明の一実施形態では、燃焼加熱には、燃焼運転レンジでは一般的なガス加熱が包含される。ガス加熱ではすぐに、ガラスセラミックに特に高い温度が生じるので、腐食に対する本発明による保護は、特に有利である。本発明のさらなる一発展形態では、ガラスセラミック物品を運転中に直接に炎に当てて、表面を著しく加熱し、燃焼排ガスと直接接触させるような燃焼加熱が提供される。例えばこのために、その火炎がガラスセラミック物品に直接触れるガスバーナーを提供することができる。
【0029】
しかし、他の燃焼加熱でも、著しい利点を示す。例えば、ガラスセラミック製観察ガラスを備えた暖炉では、温度は一般に、調理面の場合ほどには高くないが、酸化イオウ含分はこの場合、使用される燃料によっては往々にして、何倍も高い。
【0030】
次では、本発明を実施例に基づき、図面に関して詳述するが、この際、同一及び類似の要素は、同一の記号で示されており、異なる実施例の特徴を、相互に組み合わせることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1には、全体として記号1で示されている本発明による加熱装置の一実施例が概略的な断面図で示されている。加熱装置1は、ガラスセラミック物品10を含み、これは、燃焼加熱器3によって加熱される。ガラスセラミック物品10は例えば、ガラスセラミック製調理面であってよく、加熱装置は、調理レンジであってよい。
【0032】
加えて、燃焼加熱器3は、ガスバーナー5及びマット7を含み、マット7は、運転中にガスバーナー5の火炎9に当てられる。マット7は、火炎によって灼熱して、面12の上のガラスセラミック物品10を加熱する。
【0033】
これらは、混晶20を含み、これは、残留ガラス相22に囲まれている。残留ガラス相の割合は、10%から40%、通常は30〜35%であり、混晶の割合は、60%から90%、一般には60〜75%である。
【0034】
本発明では、ガラスセラミック物品は、アルミノケイ酸リチウムガラスセラミックを含み、この際、混晶20中では、ケイ素イオンが部分的にアルミニウムイオンに置換されており、リチウムイオンの他に追加的に、マグネシウムイオン及び/又は亜鉛イオンが含有されており、亜鉛イオン及び/又はマグネシウムイオンは、混晶20の結晶構造のチャネルに存在している。
【0035】
混晶のこの形成により、リチウムイオンの拡散が著しく制限されるので、火炎中で生じるイオウ含有燃焼ガスの攻撃による腐食及びそれにより誘発されるHイオンとのイオン交換は著しく抑制される。
【0036】
さらに、加熱面12の上にも、反対側の面14の上にも、リチウムの乏しい非晶質若しくはガラス様の辺縁層16が厚さ300から700ナノメートルで形成されているように、ガラスセラミックは製造される。これらのリチウムの乏しい非晶質辺縁層によって、ガラスセラミックの混晶含有内部領域へのHイオンの侵入が遅くなる。辺縁層には通常、Naイオン及び/又はKイオンも存在するが、これらは、高温でイオウ含有燃焼ガスが作用すると、Hイオンと交換されうる。
【0037】
辺縁層16も保護し、バリア作用をさらに改善するために追加的に、加熱面12の上に、バリア被覆18を設ける。これは好ましくは、例えばスパッタリング又はCVD被覆、特にPICVD又はAPCVDにより析出されたSiO層であるか、これを含む。有利な発展形態では、バリア被覆18は、火炎熱分解被覆を含む。酸化ケイ素は簡単に、大面積の上に火炎熱分解により空気中で析出させることができるので、真空室中でのコストのかかる真空被覆又は低圧被覆を省くことができる。意外にも、このような火炎熱分解被覆も、良好なバリア作用をもたらす。さらに、バリア被覆18は、ゾル−ゲル層、例えばゾル−ゲル法で付与された酸化ケイ素層を含んでもよい。腐食作用性ガスの攻撃を回避するためには、バリア被覆は好ましくは、100から1000ナノメートル、特に好ましくは300から700ナノメートルの範囲内の厚さを有する。
【0038】
このようなガラスセラミック物品により、図1に図示されている実施例におけるガラスセラミック物品10の寿命を長くした図2に図示されている変形形態を、実現することもできる。図2に図示されている変形形態では、通常とは異なり、ガラスセラミック物品10は、ガスバーナー5の火炎9に直接当てられる。この場合にもなお、腐食作用性燃焼ガス及び高温の強烈な作用にも関わらず、ガラスセラミック物品10は、火炎に当る面とは逆の面で、毎日700℃を1時間、少なくとも220日間行うか、又はこの面で、700℃の温度で合計100時間の加熱時間を行う運転に耐える。
【0039】
同様に、加熱装置は、火炎による、少なくとも600℃で24時間の継続運転で、又は5000時間の全運転期間で、火炎に当る面とは逆の面で生じるように、少なくとも220日間運転することができ、その際、ガラスセラミック物品がその強度を失うこともない。使用に十分な強度が存在することは、IEC60068−2−75又はEN60335−1規定に従いスプリングハンマー試験により実証することができる。臨界値はこの場合、0.5Nm未満の衝撃エネルギーでのガラスセラミックの割れ又は損傷に相当する。
【0040】
特に、LASガラスセラミックと、混晶の結晶構造のチャネルに配置されているMg2+イオン及び/又はZn2+イオン、十分に厚いリチウムの乏しい辺縁層及びバリア被覆との組み合わせにより、例えば図1及び図2に例示されているような本発明の加熱装置1を、家庭用装置と比較するとかなり長期の使用期間及び運転時間を伴う飲食店分野でも良好に使用することができるほど、ガラスセラミック物品は耐腐食性になる。
【0041】
図3は、本発明の実施形態による加熱装置に存在するようなガラスセラミック中の、混晶20のタイプの構造モデルを斜視図で示している。図3に示されている例では特に、高石英混晶28の一部が、斜視図でc軸に対してやや斜めに示されている。
【0042】
混晶の骨格は、酸素四面体32をもとに単純化されて示されている。この場合、四面体32のそれぞれの角に、酸素原子1個が存在する。四面体の内部には、Si4+イオン及び部分的にAl3+イオンが存在する。Si4+イオンがAl3+イオンに交換されることによる形式的な電荷平衡は、追加的に格子内に存在するリチウムイオン40、マグネシウムイオン36、ならびにマグネシウムイオンと選択的に、又はそれに追加的に、存在する亜鉛イオン38によりもたらされる。
【0043】
高石英混晶28の結晶構造は、図3を基にすると分るように、c軸に沿って走るチャネル30を有し、この際、リチウムイオン40はこのチャネル30の内部に存在する。このチャネル30は、図3に示されている構造では、SiO及びAlO四面体32からなるらせん鎖により形成されている。
【0044】
慣用のガラスセラミックではこの場合、リチウムイオンは、比較的容易に、チャネル30に沿って移動することができる。このことによって、侵入性のHイオンにより、迅速なイオン交換が生じ、このことが、混晶の結晶構造、特に熱特性を変えることとなる。
【0045】
しかし、本発明で使用されるガラスセラミックでは、少なくとも部分的に、Mg2+イオン及び/又はZn2+イオン36又は38も、チャネル30内に存在する。この場合、Mg2+イオン36は好ましくは、八面体酸素配位を有する位置を占め、亜鉛イオンは、Liイオンと同様に好ましくは、四面体酸素配位を有する格子空隙を占めている。
【0046】
八面体及び四面体酸素配位を有するこの格子空隙は、c軸に沿ってほぼ交互にチャネル内部に延びている。しかし、いずれの場合にも、イオンはそれぞれ、チャネル30内に配置されており、そのことによって、この方向に沿ってのLiイオンの可動性はかなり制限される。それというのも、空隙交換を実施するためには、リチウムイオンは、八面体配置されていて、Mg2+イオンで占められている位置、又は四面体配置されていて、Zn2+イオンに占められている位置を通過しなければならないためである。したがって、イオン交換も阻止されて、このようなガラスセラミックは、かなりの耐食性になる。
【0047】
この場合、少なくとも0.75重量%のMgO、好ましくは少なくとも0.9重量%のMgO及び/又は少なくとも0.8重量%のZnO、好ましくは少なくとも1重量%のZnO、特に好ましくは少なくとも1.5重量%のZnOを有するガラスセラミックが特に適していることが判明している。特に、この組成範囲では、Liイオンの可動性をかなり制限するために、十分に多いMg2+イオン又はZn2+イオンがチャネルに存在する。
【0048】
混晶28の成分はこの場合、好ましくは、組成MAlSi2x+2を有し、ここで、1≦x≦5、好ましくは1.75≦x≦5、特に好ましくは3≦x≦4及びM=Li又はM=0.5Zn2+又はM=0.5Mg2+である。図3に示されている格子構造の四面体表示では、成分は、四面体32により、又はイオン36、38、40のいずれかを有する四面体により形成される。したがって、3≦x≦4である特に好ましい組成範囲では、3個から4個の四面体当たり1個の四面体で、Si4+イオンがAl3+イオンに置換されている。しかし、1≦x≦5である全組成範囲では、格子空隙は、イオン36、38、40で非常に密に占められている。
【0049】
さらに、Liイオンの数とMg2+イオン及び/又はZn2+イオンの数との比は、5:1から20:1の範囲内、好ましくは8:1から14:1の範囲内であると、有利である。したがって、約10/1の比では平均して、チャネル中に、2個のマグネシウムイオンの間に約10個のリチウムイオンが存在する。追加的に例えば、亜鉛イオンが約12/1のZn2+/Li比で存在するガラスセラミックを使用すると、Mg2+及び/又はZn2+タイプの2個のイオンの間に平均して、5.45個のLiイオンがチャネル中に存在する。したがって、イオン交換が非常に有効に抑制される。
【0050】
図4には、本発明のさらなる実施形態による加熱装置1のためのガラスセラミック物品10中のキータイト混晶29の構造モデルが、斜視図で示されている。
【0051】
図4の図は、キータイト混晶のc軸に沿っている。往々にして、高石英混晶を含有するガラスセラミックと比較して高い温度でセラミック化すると、このような混晶を多様に製造することができる。図3に示されている高石英混晶28の代わりに、又はそれに付加的に、ガラスセラミック中に生じうるようなキータイト混晶29の場合にも、混晶中に、チャネル30が存在し、そのチャネルに沿って、リチウムイオンは、空隙交換により相対的に容易に移動しうるので、特に、イオウ含有ガスの作用下では、Hイオンとのイオン交換が生じる。
【0052】
しかし本発明では、混晶29中でケイ素イオンが部分的にアルミニウムイオンに置換されているLASガラスセラミック中にも、特にマグネシウムイオン36及び/又は亜鉛イオン38が含有されていて、この際、少なくとも一部の亜鉛イオン及び/又はマグネシウムイオンが、チャネル30内に存在する。キータイト混晶29の場合にも、チャネル30は、結晶構造のSiO及びAlO四面体32からなるらせん鎖によって形成される。
【0053】
その他の点については、図3をもとに詳述された本発明の実施形態及び発展形態、例えば、ガラスセラミックの組成及びその成分もしくはリチウムイオンの数とMg2+イオン及び/又はZn2+イオンの数との比を、キータイト混晶を含有するガラスセラミック物品を備える本発明の実施形態に適用することができる。
【0054】
図5は、本発明による加熱装置1のもう1つの実施例を、暖炉45の形態で示している。暖炉45は、ガラスセラミック物品10をガラスセラミック製観察ガラス47の形態で備えている。ガラスセラミック製観察ガラス47で生じる温度は一般に、調理面においてのようには高くないが、この場合の排ガスは往々にして、より高いイオウ含分を有するので、この場合にも、長期の運転では、ガラスセラミックの腐食が生じうる。これに対して、ガラスセラミック製観察ガラス47を本発明により形成すると、腐食プロセスは明らかに遅くなる。
【0055】
図6はさらに、本発明による加熱装置1のためのもう1つの例を示している。この実施例では、燃料セル50の改質器52は、本発明による加熱装置1を有する。改質器52又は加熱装置1で、天然ガスは、水素リッチガスに代えられ、この水素リッチガスは、水素管60を介して、セルスタック(Zellstapel)56に供給される。改質器54の燃焼室には、空気、水蒸気、及び天然ガスのための管58が接続されている。次いで、天然ガスを燃焼室内で、水蒸気を負荷された雰囲気中で燃焼させると、セルスタックに移されるべき水素が生じる。この実施例では、燃焼室は、本発明によるガラスセラミック物品10を内張プレートの形態で備えている。
【0056】
ガラスセラミックはこの場合、高い耐熱性という利点を示すだけではない。他の耐熱材料よりも密な構造により、望ましくないガス放出も回避される。しかし特に、湿った雰囲気中では、イオウ含有排ガスは迅速に反応して酸になることがあり、この酸は次いで、内壁を著しく攻撃する。しかし、本発明による加熱装置1のガラスセラミックの高い耐食性により、長期の運転が可能である。
【0057】
本発明は、上述の実施形態に制限されず、むしろ、様々に変化させることができることは、当業者には明らかである。特に、例示された実施形態の個々の特徴を相互に組み合わせることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明による加熱装置の1実施例の一部を示す概略断面図である。
【図2】図1に示されている実施形態の一変形形態を示す図である。
【図3】本発明による加熱装置のガラスセラミック物品中の高石英混晶の構造モデルを示す図である。
【図4】本発明による加熱装置のガラスセラミック物品中のキータイト混晶の構造モデルを示す図である。
【図5】暖炉の形態での本発明による加熱装置のもう1つの実施例を示す図である。
【図6】本発明により形成された改質器を備えた燃料セルを示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 加熱装置
3 燃焼加熱器
5 ガスバーナー
7 マット
9 火炎
10 ガラスセラミック物品
12 ガラスセラミック物品10の加熱面
14 ガラスセラミック物品10の加熱面12とは反対の面
16 リチウムの乏しい非晶質若しくはガラス様の辺縁層
18 バリア被覆
20 混晶
22 残留ガラス相
28 高石英混晶
30 高石英混晶28の結晶構造中のチャネル
32 酸素四面体
34 c軸
36 Mg2+イオン
38 Zn2+イオン
40 Liイオン
45 暖炉
47 暖炉45の観察ガラス
50 燃焼セル
52 改質器
54 改質器52の燃焼室
56 燃焼セル50のセルスタック
58 改質器52への管
60 水素管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼加熱されるガラスセラミック物品を備えた加熱装置であって、前記ガラスセラミック物品は、混晶を有するアルミノケイ酸リチウムガラスセラミックを含み、その際、前記混晶中でケイ素イオンが部分的にアルミニウムイオンに置換されており、且つリチウムイオンの他に、追加的にマグネシウムイオン及び/又は亜鉛イオンが含有されており、亜鉛イオン及び/又はマグネシウムイオンは、前記混晶の結晶構造のチャネルに存在していることを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記ガラスセラミック物品は、混晶を有するアルミノケイ酸リチウムガラスセラミックを含み、その際、前記混晶中で、八面体酸素配位を有する格子空隙が少なくとも部分的に、マグネシウムイオンで占められていることを特徴とする、請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記ガラスセラミックは、少なくとも0.75重量%のMgO、好ましくは少なくとも0.9重量%のMgOを含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記混晶中で、四面体酸素配位を有する格子空隙が少なくとも部分的に、亜鉛イオンで占められていることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記ガラスセラミックは、少なくとも0.8重量%のZnO、好ましくは少なくとも1重量%のZnO、特に好ましくは少なくとも1.5重量%のZnOを含有することを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記ガラスセラミックの混晶は、組成MAlSi2x+2の成分を伴い、ここで、1≦x≦5、好ましくは1.75≦x≦5、特に好ましくは3≦x≦4及びM=Li又はM=0.5Zn2+又はM=0.5Mg2+であることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記ガラスセラミック物品は、2から5重量%の範囲のLiO含有量を有することを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記ガラスセラミック物品は、次の成分:
NaO: 0〜0.65重量%、
O: 0.0〜0.35重量%、ここで、NaO及びKOの割合の合計は、0.2から0.8重量%の範囲内であり、
CaO、SrO及びBaOであり、これらの割合の合計は、0から2重量%の範囲内であり、
Al: 15から25重量%、
SiO: 60から70重量%、
TiO: 1.5から3.5重量%、
ZrO: 0から2.5重量%、
: 0から2重量%、
As: 0から1.5重量%、
Sb: 0〜2重量%、
SnO: 0〜0.3重量%
の内の少なくとも1種を含有することを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項9】
前記ガラスセラミックの前記混晶内でのLiイオンの数とMg2+イオン及び/又はZn2+イオンの数との比は、5:1から20:1、好ましくは8:1から14:1の範囲内であることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項10】
リチウムイオンは、前記混晶の前記結晶構造のチャネル内に配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の加熱装置。
【請求項11】
前記混晶は、キータイト混晶を含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項12】
前記混晶は、高石英混晶を含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項13】
前記リチウムイオンならびに亜鉛イオン及び/又はマグネシウムイオンは、前記結晶構造のSiO四面体及びAlO四面体からなるらせん状の鎖により形成される前記結晶構造のチャネルに配置されていることを特徴とする、請求項11又は12に記載の加熱装置。
【請求項14】
前記混晶の前記結晶構造の前記チャネルは、前記結晶のC軸に沿って延びていることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項15】
前記ガラスセラミック物品は、リチウムの乏しい非晶質辺縁層を有することを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項16】
前記リチウムの乏しい非晶質辺縁層は、300から700ナノメートルの厚さを有することを特徴とする、請求項15に記載の加熱装置。
【請求項17】
前記ガラスセラミック物品は、特には前記ガラスセラミック物品の加熱表面に、バリア被覆を有することを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項18】
前記バリア被覆は、100から1000ナノメートル、好ましくは300から700ナノメートルの範囲の厚さを有することを特徴とする、請求項17に記載の加熱装置。
【請求項19】
酸化ケイ素バリア層を有することを特徴とする、請求項17又は18に記載の加熱装置。
【請求項20】
火炎熱分解及び/又はCVD、特にPICVD又はAPCVD、及び/又はスパッタリング及び/又はゾル−ゲル析出により付与されたバリア被覆を有することを特徴とする、請求項17から19までのいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項21】
燃焼加熱による運転を、火炎面とは反対側で、少なくとも700℃で1時間行うことを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項22】
燃焼加熱による運転を、火炎面とは反対側で、少なくとも600℃で24時間の継続運転ら行う、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項23】
前記ガラスセラミック物品は、少なくとも220日間の加熱運転の後にも、スプリングハンマーを0.5Nmの運動エネルギーで前記ガラスセラミック物品に衝突させるスプリングハンマー試験に耐え、その際、前記加熱運転ではそれぞれ、火炎面とは反対側で、少なくとも700℃で少なくとも1時間、又は少なくとも600℃で24時間の連続運転を行うことを特徴とする、請求項21又は22に記載の加熱装置。
【請求項24】
前記ガラスセラミック物品は、火炎面とは反対側で700℃で合計100時間、又は600℃で合計5000時間行う加熱の後に、スプリングハンマーを0.5Nmの運動エネルギーでガラスセラミック物品に衝突させるスプリングハンマー試験に耐えることを特徴とする、請求項21から23までのいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項25】
飲食店用に設置されている、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項26】
前記加熱装置はレンジを含み、前記ガラスセラミック物品は前記レンジの調理面である、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項27】
前記加熱装置は、炉、特にガラスセラミック製観察ガラスを備えた暖炉を含むことを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項28】
少なくとも1個のガラスセラミック物品を備えているか、又は前記ガラスセラミック物品により少なくとも部分的に形成されている燃焼室を有すること特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項29】
前記加熱装置は、燃料セルの改質器であることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項30】
ガス加熱を特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項31】
運転中の燃焼加熱により、前記ガラスセラミック物品に直接火炎があたることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の加熱装置。
【請求項32】
特には前記請求項のいずれか1項に記載の燃焼加熱されるガラスセラミックを備える加熱装置を製造するための、アルミニウムイオンが部分的にマグネシウムイオン及び/又は亜鉛イオンに置換されている混晶を有するアルミノケイ酸リチウムガラスセラミックの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−22910(P2007−22910A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193453(P2006−193453)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】