説明

耐高温部材およびその製造方法と耐高温接着剤

【課題】複雑な形状の耐高温部材でも容易に得ることができる耐高温部材の製造方法を提供する。
【解決手段】耐高温部材の製造方法は、炭化タンタル等のいずれか一種以上の炭化物粉末のペーストからなる接着層23を介して第1基材21と第2基材22とを連結した組立体とする組立工程と、この組立体を加熱して第1基材21と第2基材22との間を焼結させる結合工程とを備える。また耐高温部材の製造方法は、耐高温基材の表面に炭化タンタル等のいずれか一種以上の炭化物粉末からなるスラリーを塗布する塗布工程と、塗布工程後の耐高温基材を乾燥する乾燥工程と、乾燥工程後の耐高温基材を加熱して該耐高温基材の表面に炭化物被膜を焼結させる成膜工程とを備え、複雑な形状の耐高温部材も容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐高温部材およびその製造方法と耐高温部材の製造等に適した耐高温接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料などに用いられる炭化ケイ素(SiC)などの単結晶は、昇華再結晶法で製造されることが多い。この方法は、一般的に原料粉末(SiC粉末など)と単結晶の種結晶を、黒鉛製などのルツボ内に対向させて配置し、不活性雰囲気中で2000〜2400℃に高温加熱してなされる。
【0003】
ここで黒鉛製ルツボなどをそのまま使用して結晶成長させた場合、その内壁から炭素が昇華等して、単結晶の成長に悪影響を与え得る。そこで黒鉛に替えて、非常に融点の高い高融点金属の炭化物(炭化タンタルなど)をルツボに用いることが考えられる。このような高融点金属炭化物に関する一般的な先行技術文献を下記に示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−107751号公報
【特許文献2】特開昭50−80303号公報
【特許文献3】特開平6−87656号公報
【特許文献4】特開平4−187739号公報
【特許文献5】特開平6−87655号公報
【特許文献6】特開平10−236892号公報
【特許文献7】WO2006/85635号公報
【特許文献8】特開平6−280117号公報
【特許文献9】特開平11−116398号公報
【特許文献10】特開2008−169111号公報
【特許文献11】特開2005−68002号公報
【特許文献12】特開平11−116399号公報
【特許文献13】特開2004−84057号公報
【特許文献14】特開平8−64110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが金属炭化物は高価であり、またその焼結バルク体は難加工材でもある。そのため、金属炭化物からなる耐高温部材を低コストで生産することは従来困難であった。金属炭化物粉末を射出成形することで複雑な形状の耐高温部材を得ることも可能である。しかし、射出成形には多量のバインダーなどを必要とし、その除去や焼失が形状歪みや炭素析出物の欠陥の発生要因となる。
【0006】
一方、ベースとなる基材に黒鉛等を用いつつ、その表面に高融点金属炭化物を被覆することも考えられる。例えば、黒鉛基材上に高融点金属を蒸着または貼付した後、それを加熱して炭化させ、黒鉛基材上に金属炭化物の被覆層を形成する方法である。
【0007】
もっとも、このような従来の方法では、高融点金属が炭化する際に体積膨張し、被覆層は圧縮応力の作用により剥離し易かった。その他、CVD、CVR、AIP、反応性イオンプレーティング等の方法により、被覆層を形成することも可能であるが製造コストが高い。高融点金属の基材表面のみを炭化することも考えられるが、高融点金属自体が高価で加工困難である。また、その耐熱性は母材である金属の物性に支配されるため、金属炭化物を基材とした場合ほど高い耐熱性は得られない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、高温用ルツボなどに利用できる耐高温部材およびその耐高温部材を低コストで得ることができる耐高温部材の製造方法を提供することを目的とする。また、複数の耐高温基材を接合して複雑な形状の耐高温部材を低コストで得ることを可能にする耐高温接着剤も併せて提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、薄板状の炭化タンタルの成形体の両面に黒鉛平板を覆設した状態で、その成形体を焼結させることにより、形状歪み等のほとんどない炭化タンタルの焼結体を得ることに成功した。そしてこの成果をさらに発展させることにより、以下のような一連の本発明を完成するに至った。
【0010】
《耐高温部材の製造方法1》
(1)本発明は、炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タンタルまたは炭化タングステンのいずれか一種以上の炭化物粉末のペーストからなる接着層を介して第1基材と第2基材とを連結した組立体とする組立工程と、該組立体を加熱して該第1基材と該第2基材との間を焼結させる結合工程とを備え、該組立体が焼結してなる耐高温部材が得られることを特徴とする耐高温部材の製造方法としても把握できる。
【0011】
(2)本発明によれば、金属炭化物からなるペーストを用いて耐高温基材同士を連結し、その後、焼結することでそのペーストの接着層を介して基材同士を焼結させている。これにより、複雑な耐高温部材であっても、比較的低コストで簡易に製造することが可能となる。しかも、射出成形した場合のようにバインダーの脱けに起因する欠陥を生じることもなく、また、一次焼結後の切削加工も不要であり、加工屑もないので高価な金属炭化物を有効に利用できる。
【0012】
(3)なお、本発明でいう組立体は、第1基材と第2基材の2部材からなるものには限られず、3つ以上の基材を連結、焼結させたものでもよい。その際、連結される各基材は、ペースト(接着剤)と主成分が同類の炭化物成形体または炭化物焼結体でもよし、黒鉛、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(Al)またはタングステン(W)などからなる耐高温基材でもよい。同種基材同士の接合には、その基材と同種の炭化物をベースとするペーストを用いるとよい。異種基材の接合には、両基材に対して化学的に安定な炭化物をベースとするペーストを適宜選択するとよい。
【0013】
炭化物成形体同士を連結した場合、その焼結工程を本発明でいう結合工程で兼ねると効率的である。また、炭化物焼結体を連結する場合でも、前述の本発明によれば平坦性に優れた薄板状の炭化物焼結体が容易に得られるので、薄肉で形状歪みの少ない複雑形状の耐高温部材を低コストで比較的容易に得ることができる。組立体で容体を形成する場合、平板状の基材を組み合わせてもよいが、筒状の基材と平板の基材などを組み合わせてもよい。円筒状の基材などは、遠心成形法等を用いることで比較的容易に製作することも可能である。
【0014】
《耐高温部材の製造方法2》
(1)本発明の耐高温部材の製造方法は、炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タンタルまたは炭化タングステンのいずれか一種以上の炭化物粉末からなる原料粉末を成形して薄板状の炭化物成形体とする成形工程と、該炭化物成形体を焼結して炭化物焼結体とする焼結工程とを備え、該炭化物焼結体からなる耐高温部材を得る耐高温部材の製造方法であって、前記焼結工程は、前記炭化物成形体の主たる平面である主平面に対向する対向平面を有する蔽塞部材を該炭化物成形体に着設し、該主平面を該対向平面で蔽塞した状態で該炭化物成形体を加熱する工程である、ことを特徴とする。
前記焼結工程は、例えば、前記蔽塞部材の対向平面を前記炭化物成形体の主平面に押圧せずに接触させた状態で加熱される工程である。また前記蔽塞部材は、例えば、黒鉛平板である。さらに前記成形工程は、例えば、前記原料粉末を一軸方向に圧縮成形する工程である。前記原料粉末は、例えば、前記焼結工程中の焼結温度以下の融点をもつ遷移金属または該遷移金属の炭化物からなる助剤粉末を含むと好適である。
【0015】
(2)本発明に係る耐高温部材は、まず、非常に高い融点をもつ金属炭化物の焼結体(炭化物焼結体)からなる。このため、その耐高温部材自体も著しく耐熱性(例えば2000℃以上)に優れる。この耐高温部材は、成形工程で金属炭化物の粉末を予め所望の薄板状にした成形体を焼結したものであり、原料を無駄にすることなく、かつ、その使用量の低減が可能なため、耐高温部材の低コスト化を図ることができる。
【0016】
もっとも、薄板状の炭化物成形体を単純に焼結させると、炭化物成形体中に含まれる炭素などの成分が脱け(いわゆる脱炭)、炭化物成形体中に部分的な成分の偏在が生じる。そして板状の炭化物焼結体は、その形状を歪ませたり、表面が荒れた状態となり、平坦性に優れた炭化物焼結体(炭化物バルク平板)ひいては所望の耐高温部材は得られない。勿論、追加工により平坦性を確保すれば、その分、コスト高となり好ましくない。上記の脱炭を防止するために、炭化物成形体の周囲に炭素粉末を充填して焼結させても(上記特許文献2参照)、やはり表面が荒れ、平坦性に優れた炭化物焼結体は得られない。そこで本明細書では、平板の表面性状のみならず平板自体の歪みも含めて、適宜「平坦性」という。
【0017】
本発明はこのような従来の方法とは異なり、炭化物成形体の主たる平面である主平面が、その炭化物成形体に接触若しくは極近接して設けられた(つまり着設した)蔽塞部材の対向平面で蔽塞された状態のまま、焼結工程がなされる。このため焼結加熱中、その蔽塞部材の対向平面によって炭化物成形体の主平面から炭化物成形体中の成分が脱けることが抑止され、平坦性に優れた炭化物焼結体ひいては耐高温部材が得られる。この本発明によれば、原料コストのみならず製造加工コストをも低減しつつ、平坦性に優れた炭化物焼結体ひいては耐高温部材を比較的容易に得ることが可能となる。
【0018】
(3)本発明でいう「薄板状」とは、炭化物粉末の使用量を低減した炭化物焼結体の平坦性が問題となる程度に、厚さが全面積に対して薄い板状であることを意味する。従って、その程度を定量的に示すことは困難であるが、例えば、炭化物焼結体でいえば0.3〜3mm程度であり、炭化物成形体でいえば0.4〜4mm程度である。炭化物成形体の「主平面」とは、薄い平板の構成面のうちで、面積が格段に大きな面であり、通常は表面および裏面の両面である。もっとも、本発明の主平面は、その平坦性(表面粗さや平面度)が重要であり、それら両面間の平行度までは必ずしも厳格には要求されない。
【0019】
この主平面に対向する蔽塞部材の対向平面も、主平面と同様に平坦性に優れるほど好ましい。主平面と対向平面との面積の大小は問題ではないが、炭化物焼結体の形状歪みを抑制する観点から、主平面の全面が対向平面で覆われているのが好ましい。別体の蔽塞部材を2個用意して、炭化物成形体の各主平面をそれぞれ別々の蔽塞部材の対向平面で蔽塞してもよい。また、薄板状の炭化物成形体の炭化物成形体の両方の主平面を挟持する二つの対向平面をもつ一体の蔽塞部材を用いてもよい。
【0020】
《耐高温部材の製造方法3》
(1)さらに本発明は、耐高温基材の表面に炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タンタルまたは炭化タングステンのいずれか一種以上の炭化物粉末からなるスラリーを塗布する塗布工程と、該塗布工程後の耐高温基材を乾燥する乾燥工程と、該乾燥工程後の耐高温基材を加熱して該耐高温基材の表面に炭化物被膜を焼結させる成膜工程とを備え、該炭化物被膜で被覆された耐高温部材が得られることを特徴とする耐高温部材の製造方法としても把握できる。
【0021】
(2)本発明によれば、比較的安価な耐高温基材を用いつつも、その表面に金属炭化物の被膜を形成することで、耐高温部材を低コストで得ることができる。しかも、基本的には金属炭化物のスラリーを塗布、乾燥、焼結させるだけであるから、耐高温基材の様々な形状に対応できる高い自由度を備える。従って、複雑な形状の耐高温部材も容易に得ることが可能である。
【0022】
(3)本発明でいう耐高温基材は、金属炭化物からなるものでもよいが、黒鉛や窒化ホウ素などスラリーの金属炭化物とは異なる異種材であるとコスト的に好ましい。なお、耐高温基材の耐熱性は材質により異なるが、融点が2000℃以上であると好ましい。
【0023】
《耐高温部材》
本発明は、上述したような製造方法としてのみならず、その製造方法から得られた耐高温部材としても把握できる。
【0024】
《耐高温接着剤》
さらに本発明は、基材を連結して組立体とする際に使用した、炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タンタルまたは炭化タングステンのいずれか一種以上の炭化物粉末のペーストからなる耐高温接着剤としても把握できる。
【0025】
《その他》
(1)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限xおよび上限yを含む。また、本明細書に記載した下限および上限は任意に組合わせて、「a〜b」のような範囲を構成し得る。
【0026】
(2)本明細書中で原料粉末、ペースト、接着剤などは、適宜、「改質元素」を含み得る。改質元素は、耐高温部材や接着剤の特性改善に有効な元素である。代表的なものは、本明細書でいう遷移金属やその炭化物である。その他、遷移金属ホウ化物または遷移金属窒化物などもある。改善される特性の種類は問わない。各元素の組合せは任意であり、通常その含有量は微量である。なお、原料中に含まれる不純物や各工程時に混入等する不純物などであって、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素(不可避不純物)が含まれることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1に係る炭化タンタル平板の焼結工程を示す概略説明図である。
【図2】実施例2に係る高温用ルツボ用の直方体状の組立体を示す概略図であり、同図(A)はその平面図であり、同図(B)はその正面図である。
【図3】実施例2に係る高温用ルツボ用の六角筒状の組立体を示す概略図であり、同図(A)はその平面図であり、同図(B)はその正面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 高周波加熱炉
2、3 高温用ルツボ
15 黒煙ルツボ
21、22、31 炭化タンタル平板
23 接着部
34 接合部
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係る耐高温部材の製造方法のみならず、その耐高温部材や耐高温接着剤などにも適用可能である。本発明は、上述した構成に加えて、次に列挙する構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加され得る。下記から選択される構成はいずれも、カテゴリーを越えて、重畳的または任意的に付加可能である。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0030】
《原料粉末》
本発明にかかる炭化物成形体、炭化物焼結体、耐高温接着剤のペーストさらには炭化物被膜となるスラリーなどの原料粉末は、主成分である炭化物粉末の他、助剤粉末、有機バインダー、可塑剤、溶媒などをも適宜含む。
【0031】
(炭化物粉末)
(1)本発明でいう炭化物粉末は、炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タンタルまたは炭化タングステンのいずれか一種以上からなる。いずれも融点が非常に高い高融点金属炭化物である。それぞれを化学式で示すと、NbC、NbC、HfC、HfC、TaC、TaC、WC、WCなどとなり、本発明ではいずれでもよい。本発明で用いる炭化物粉末は、上述したいずれかの炭化物粉末からなる単一粉末でもよいが、複数種の炭化物粉末を混合した混合粉末でもよい。もっとも、炭化タンタルが最も高融点であるから、炭化タンタル粉末のみか、炭化タンタル粉末が主成分(原料粉末全体を100質量%としたときに50質量%超、好ましくは90質量%以上さらには95質量%以上)であると好ましい。
【0032】
(2)原料粉末は、平均粒径が0.2〜5μmであると好ましい。その平均粒径が過小では、焼結時の収縮量が多くなり、炭化物焼結体に形状歪みが発生し易くなる。その平均粒径が過大では、炭化物焼結体の緻密化を図れない。平均粒径の下限または上限は、上記の数値範囲内で任意に選択し設定し得る。特に、1μmまたは3μmを下限または上限とすると好ましい。
【0033】
(助剤粉末)
(1)本発明でいう助剤粉末は、炭化物焼結体などの焼結温度以下の融点をもつ遷移金属または該遷移金属の炭化物からなる。この助剤粉末が焼結中に溶融することにより、炭化物焼結体の緻密化、炭化物接着層や炭化物被膜の安定化、均質化を図れる。例えば、助剤粉末を用いた場合の炭化物焼結体の密度は、その理論密度の90%以上ともなる。
【0034】
このような助剤粉末に用いる遷移金属として、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などが、焼結が始まる温度帯(1400〜1700℃)において溶融する点および焼結中(最高焼結温度)に昇華して不純物として残らない点で好ましい。具体的には、沸点(B.P.)が2600〜3300℃の遷移金属が助剤粉末に好ましい。助剤粉末に用いる遷移金属の炭化物としては、TiC、Cr25、FeC、CoC、NiCなどが入手容易で好ましい。
【0035】
(2)助剤粉末は、平均粒径が0.2〜5μmであると好ましい。その平均粒径が過小でも過大でも、炭化物焼結体、接着層さらには炭化物被膜にムラができ易い。特に炭化物焼結体の場合、その緻密化を図れず、形状歪みが発生し易くなる。助剤粉末は、炭化物粉末との合計全体を100原子%(at%)としたときに、0.01〜3原子%であると好ましい。助剤粉末が過少では効果がなく、過多では金属炭化物以外の残留不純物となり好ましくない。助剤粉末の含有量の下限または上限は、上記の数値範囲内で任意に選択し設定し得るが、特に、0.5原子%または2原子%を下限または上限とすると好ましい。
【0036】
(有機バインダー)
有機バインダーは、炭化物成形体の成形性を高め、その取り扱いを容易にする。また、耐高温接着剤のペーストや炭化物被膜用のスラリーに用いるときは粘着性や粘度の調整が容易となり、塗布性を改善する。さらには、比較的低温域における接着性を確保する上でも有機バインダーは有効である。このような有機バインダーには、(ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、メチルセルロース、エチルセルロース、アセチルセルロース、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等があり、用途に応じて任意に選択可能である。
【0037】
有機バインダーの含有量は、炭化物成形体の成形を行う場合であれば、原料粉末全体を100質量%としたときに、有機バインダーおよび有機バインダーの可塑剤を合計で0.2〜2質量%含むと好ましい。有機バインダーが過少では、前述した効果を十分に得ることができず、有機バインダーが過多になると、炭化物焼結体の形状歪みや炭素析出物等の欠陥が発生し易くなる。
【0038】
耐高温接着剤用のペーストや炭化物被膜用のスラリーとする場合は、さらに全体を100質量%としたときに有機バインダーを0.1〜5質量%としてもよい。この場合、例えば、溶媒は1〜20質量%とするとよい。溶媒としてはエタノール、α−ターピネオールなどがある。ちなみに可塑剤には、フタル酸ジプチルなどがあるが、有機バインダーに応じて適宜選択される。
【0039】
《成形工程》
本発明の成形工程は、原料粉末を成形して薄板状の炭化物成形体とする工程である。成形方法は特に限定されないが、成形工程が原料粉末を一軸方向に圧縮成形する工程であると好ましい。低コストで炭化物成形体が得られ、また、有機バインダーを少量とすることができるので、炭化物焼結体の形状歪みや炭素析出物等の欠陥の低減を図れる。このときの成形圧力は20〜100MPaであると好ましい。成形圧力が過小では成形体の密度が低く取り扱いにくい。成形圧力が過大では成形体が金型に固着して破壊し易く好ましくない。成形圧力は30〜60MPaであるとより好ましい。
【0040】
本発明に係る炭化物成形体は、薄い平板状であるが、その形状は円板状でも、多角形板状でも、穴あき平板状等でもよい。また、成形当初から所望形状に成形されていてもよいし、加圧成形等した板状の成形体に穴空け加工などを加えたものでもよい。加熱前の炭化物成形体の加工は比較的容易である。なお、焼結前の加工屑は再利用でき、それにより材料コストの低減を図れる。
【0041】
《焼結工程》
焼結工程は、炭化物成形体を所望の焼結温度で焼結して炭化物焼結体とする工程である。ここで本発明の焼結工程は、その炭化物成形体の主たる平面である主平面に、蔽塞部材の対向平面を対向させた状態でなされる。
【0042】
(1)蔽塞部材
蔽塞部材は、炭化物成形体の両主平面を蔽塞できる対向平面をもつものであれば、一体でも別体でもよい。この蔽塞部材は、焼結中の脱炭などを抑止できる限り、その材質や形状などは特に限定されない。平坦な対向平面を比較的容易に安価で製造でき、また炭素源ともなり得る点で、蔽塞部材は黒鉛製(例えば、黒鉛平板)が好ましい。そして、炭化物成形体の両面側に配置される蔽塞部材のそれぞれの対向平面(特に黒鉛材の対向平面)の性状は、密度、熱膨張係数、不純物濃度、組成などの点で同等であると、炭化物焼結体の歪みなどを抑制できて好ましい。この他、炭化物バルク平板なども蔽塞部材として用いることができる。
【0043】
炭化物成形体に対する蔽塞部材の設置は、焼結工程中に、両者が焼結・結合することなく、かつ、炭化物成形体中からの成分の脱けを抑止できる程度とするのがよい。そうであるかぎり、隙間が1mm以下、0.5mm以下さらには0.1mm以下程度あってもよい。勿論、炭化物成形体の主平面と蔽塞部材の対向平面とは接触していてもよい。その際、主平面と対向平面の接触面間に作用する荷重は、無荷重か、焼結しない程度のわずかな荷重とするのが好ましい。その荷重は例えば、蔽塞部材の自重程度以内であると好ましい。このように焼結工程は、蔽塞部材の対向平面を炭化物成形体の主平面に押圧せずに接触させた状態で加熱される工程であると好適である。
【0044】
(2)焼結条件
好ましい焼結条件は、原料粉末の成分、炭化物焼結体の形状、大きさ、焼結炉などにも影響を受けるので一律には特定できないが、概ね次のような範囲であると好ましい。焼結温度は2000〜2800℃が好ましい。焼結温度が過小では炭化物焼結体の緻密化を図れず、焼結温度が過大では炭化物粉末の粒成長が進みすぎて炭化物焼結体に歪み(反り)、割れ、破損などを生じ易くなる。焼結温度は2300〜2700℃であるとより好ましい。焼結時間は焼結時間や炭化物成形体の大きさにも依るが、0.5〜3時間程度である。焼結雰囲気は真空雰囲気または不活性ガス雰囲気が好ましい。例えば、アルゴン、水素、窒素、ヘリウム、ネオン、キセノンまたはそれらの混合ガス雰囲気である。その際の焼結雰囲気圧は1〜95kPaとすると好ましい。これらの焼結条件は、後述の耐高温接着剤による結合工程や炭化物被膜の成膜工程についても同様である。
【0045】
《耐高温接着剤》
耐高温接着剤は、前述した炭化物粉末のペーストからなる。適宜、それに遷移金属または該遷移金属の炭化物からなる助剤粉末や有機バインダーが加えられ、接着層を形成し易いように(有機)溶媒などで希釈される。複数の耐高温基材(炭化物焼結体など)を組立し易く、それらを焼結させ易いものであればよい。塗布は刷毛塗り、ヘラ塗りなどにより行える。
【0046】
《炭化物被膜》
炭化物被膜は、炭化物粉末のスラリーを耐高温基材の表面に塗布、乾燥、焼結(焼成)させてなる。このスラリーも前述したペーストと同様に、適宜、助剤粉末、有機バインダーを含み、溶媒で希釈される。このスラリーは、ムラの少ない均一な塗布膜が形成し易い粘度であると好ましい。スラリーの具体的な塗布方法としては、刷毛塗り、噴霧塗布、浸漬塗布などもあるが、薄く均一な塗布膜を形成する点でスピンコート法などを用いると好適である。スピンコート法は、回転する耐高温基材の表面上へスラリーを流入させて遠心力でスラリーを基材表面に薄くかつ均一に引き延ばす塗布方法である。
【0047】
炭化物焼結体の平坦性を向上させるために、炭化物焼結体の表面にさらに炭化物被膜を形成する場合も考えられる。通常は、炭化物焼結体とは異種材の表面に炭化物被膜を形成するのがコスト的に優れる。この異種基材としては、耐高温部材の耐高温性を確保しつつ、炭化物被膜の密着性などを確保する観点から、黒鉛基材、窒化ホウ素基材などが好ましい。その際、炭化物被膜の厚さは、5〜30μm、10〜25μmさらには15〜25μmであると好ましい。膜厚が過小では炭化物被膜による耐高温性の向上が望めず、膜厚が過大では炭化物被膜にクラックなどを生じ易い。
【0048】
用途により、耐高温基材の表面に厚い炭化物(特に炭化タンタル)の被覆層(被膜)を形成する必要がある場合には、炭化タンタルの熱膨張係数に近い耐高温基材を用いるとよい。例えば、黒鉛基材を耐高温基材とする場合、熱膨張係数が3.5〜5.5x10−6/K(室温〜500℃程度での測定)程度の一般的な黒鉛基材に換えて、5.5〜8.5x10−6/K(室温〜500℃程度での測定)程度の比較的大きな熱膨張係数を有する黒鉛基材を用いるとよい。これにより主に炭化タンタルからなる炭化タンタルスラリーを塗布して形成された炭化物被膜と黒鉛基材との熱膨張係数差が小さくなり、例えば、30μm以上の厚いクラックフリー炭化物被膜が形成され得る。もっとも、炭化物被膜の厚さが200μmを超えると、炭化物被膜の表面の平坦性が損なわれがちになる。そこで上記のような黒鉛基材を用いた場合であっても、その表面に形成する炭化タンタルを主成分とした炭化物被膜の厚さは30〜200μmさらには30〜100μmとするのがよい。
【0049】
《耐高温部材》
本発明にかかる耐高温部材として、高温用ルツボ、高温用ヒータ、高温用フィラメント、化学気相成長(CVD)用サセプタなどやそれらの構成部材がある。基材自体が金属炭化物からなる場合の他、異種材の表面のみに炭化物被膜が形成されている場合、複数の耐高温基材が耐高温接着剤で接着、焼結されている場合なども、本発明にかかる耐高温部材に含まれる。本発明の耐高温部材は、耐高温であると共に耐活性である。具体的には、溶融金属や雰囲気ガス、昇華ガスによって変性され難い。このため、高温熱処理や結晶成長(例えばSiC、GaN、AlNなどの結晶成長)での再現性が高く、さらに本発明の耐高温部材はそのような環境下でも繰返使用が可能であり経済的である。
【実施例】
【0050】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《実施例1:炭化タンタル平板の製造》〈試料の製造〉
(1)原料として、炭化物粉末であるTaC粉末(純度99.9%)、助剤粉末であるCo粉末(平均粒径:5μm)、有機バインダーであるポリビニルブチラール(PVB)、可塑剤であるフタル酸ジブチルおよび有機溶媒(エタノール)を用意した。TaC粉末は、平均粒径が2μmのものを基本的に用いたが、平均粒径が0.1μmと平均粒径が10μmのものも用意して、炭化物粉末の粒径の影響を評価した。また、表1に示した各原料の配合量は、成形前のTaC粉末全体を100質量%または100原子%としたときの割合である。これらを表1に示すように配合、調製して、試料No.1〜18の原料粉末(混合粉末)を調製した。具体的には、各原料粉末をミキサーで混合した後に、乾燥させたものを粉砕して混合粉末とした。
【0051】
(2)各種の混合粉末を用いて、φ80mm x t0.8mmの薄い円板状の炭化タンタル平板(炭化物焼結体)を製作した。焼結前の成形体は、成形圧力50MPaで、一軸圧縮成形して得た(成形工程)。また、試料No.5の成形体には、焼結前に円板の中央にφ30mmの貫通孔をカッターナイフにより加工しておいた。これら成形体を、表1に示すように1900〜2900℃の各焼結温度で焼結させた。焼結雰囲気はアルゴン雰囲気(80kPa)、焼結時間(最高焼結温度での保持時間)は1時間とした。この際の加熱には図1に示す高周波加熱炉1を用いた(焼結工程)。高周波加熱炉1は、黒煙ルツボ15と、それを包囲する断熱材16と、さらにその外周囲に設けた高周波加熱コイル17とからなる。
【0052】
この焼結工程の際、炭化タンタル平板(成形体)P1の上面および下面には、黒鉛製の平板である黒鉛平板12、黒鉛平板13((蔽塞部材)を載置した。つまり、炭化タンタル平板P1の主平面(φ100mmの円平面)を黒鉛平板12、13の対向平面で蔽塞するようにして、その主平面からの脱炭防止を図った。黒鉛平板12、13と炭化タンタル平板P1との間には、黒鉛平板12、13または炭化タンタル平板P1の自重以外の荷重を作用させなかった。このときの焼結工程の概略を図1に示す。表1(試料No.2〜4)に示すように、黒鉛平板を載置しない試料や黒鉛平板を黒鉛粉末に置換した試料も併せて製作した。
【0053】
〈測定〉
得られた各試料について、成形性および焼結性を調査、観察した。成形性は炭化物成形体に割れなどが無いかを目視で確認して行った。焼結体の形状性(反りの有無)は曲率半径で評価した。この曲率半径は接触式の高さ計により測定した。なお、焼結体に割れやクラックが発生していたものは曲率半径を測定せずに「X」とした。
【0054】
焼結体の密度は、アルキメデス法により測定し、相対密度で評価した。基準とした理想密度(理論密度)は、助剤が消失したものと仮定し、炭化タンタル100%のときの密度を用いた。炭化タンタル平板の主平面の荒れは目視により観察した。また、焼結体中に含まれるTa以外の金属量(不純物量)は蛍光X線分析により測定した。
【0055】
〈評価〉
(1)試料No.1〜4の比較から、炭化物成形体の上下両面に黒鉛平板を載置することにより、反りの少ない形状性に優れた炭化物焼結体が得られることがわかった。これは炭化物成形体からの脱炭量または黒鉛平板からの炭素供給量が、その両方の主平面間でほぼ同等になったためと考えられる。つまり、焼結状態が両面間で同等になったためと考えられる。この事情は、試料No.5からわかるように、炭化物成形体を焼結前に加工した場合であってもかわらなかった。
【0056】
(2)試料No.1、6および7の比較から、炭化物粉末の粒径が過小であると、焼結収縮の進行が過剰となり、反りを生じ易くなった。一方、その粒径が過大になると焼結体の密度が大きくならず、緻密化し難くなる。
【0057】
(3)試料No.1、8および9の比較から、焼結助剤を加えることで、炭化物焼結体の緻密化を図れることがわかる。もっとも、焼結助剤の濃度が大きくなりすぎる、高融点金属(Ta)以外の助剤が不純物として残留し易くなる。
【0058】
(4)試料No.1および10〜14の比較から、有機バインダーおよび可塑剤を適量配合させることで、炭化物成形体の成形性が向上する。それらが過少でも過多でも成形性が低下して取扱い難くなる。また、有機バインダーが増加すると、炭化物焼結体の反りも大きくなり、緻密化も図り難くなる。
【0059】
(5)試料No.1および15〜18の比較から、焼結温度が高くなるほど、焼結体の緻密化は図り易いが、一方で反りなどを生じ易くなり好ましくない。従って焼結温度は2000〜2800℃の範囲が好ましいことがわかる。以上の各評価を通じて、試料No.8に示した試料が、成形性および焼結性のいずれにおいても優れたものとなった。
【0060】
《実施例2:耐高温部材の製造》
〈試料の製造〉
図2に示すように、炭化タンタル平板21、22をTaC粉末のペーストからなる接着剤で連結して上方が開口した直方体状の容器2(高温用ルツボ)を製作した。まず、実施例1の表1に示した試料No.1と同条件で製作した長方形状の炭化タンタル平板21(30mmx50mm x厚さ0.8mm)4枚(側面用)と、正方形状の炭化タンタル平板22(32mmx32mm x厚さ0.8mm)1枚(底面用)を用意した。
【0061】
次に接着剤として、前述したTaC粉末(平均粒径:2μm)と、有機バインダー(エチルセルロースまたはPVB)と、有機溶媒(α-ターピネオールおよびエタノール)を、TaC:80質量%、有機バインダー:3質量%、有機溶媒:17質量%の割合で混練したペーストを用意した。この接着剤を用いて、基材となる炭化タンタル平板21、22を図2に示すように組み立てた(組立工程)。炭化タンタル平板間に塗布した接着剤の厚さは約10μmとした。接着剤の塗布はヘラを用いて行った。この接着剤により図2に示す接着部23が形成される。
【0062】
こうして得られた組立体(炭化物組立体)をホットプレートで、200℃の大気中に保持して乾燥させた(乾燥工程)。その後、組立体を図1に示した高周波加熱炉1内に入れ、焼結温度:2500℃、焼結雰囲気:アルゴン雰囲気(50kPa)、焼結時間(最高焼結温度での保持時間):1時間の焼結条件下で焼結させた(結合工程)。
【0063】
〈評価〉
こうして各炭化タンタル平板が強固かつ緻密に結合した耐高温部材(高温用ルツボ)が得られた。上記のように接着層の厚さを10μm程度としたとき、クラック等は見られなかった。しかし、接着層の厚さが30μmを超えるようになると、接合部に目視で観察できる程度のクラックが焼結後に多数発生した。
【0064】
〈その他の形状の組立体〉
形状の異なる組立体として、図3に示すような六角筒状の高温用ルツボ3も製作した。すなわち、実施例1の表1に示した試料No.1と同条件で製作した長方形状の炭化タンタル平板31(18.2mmx10mm x厚さ0.8mm)6枚(台座側面用)と、正六角形状の平板32(一辺18.2mm x厚さ0.8mm)1枚(台座上面用)および試料No.5と同条件で製作した穴あきの炭化タンタル円板33(外径φ80mm x内径φ30mm x厚さ0.8mm)1枚(台座下面用)を用意して、六角筒状に組み立てた。いずれの場合も接合部34の強度は、炭化タンタル平板31自体と同程度の強度を有しており、本発明にかかる接着剤によって各炭化物焼結体が強固に接着されることが確認された。また、炭化タンタル平板31の平坦性も確保されており、それらの組立体を焼結しても反りなどは発生しなかった。
【0065】
《実施例3:耐高温部材の製造》〈試料の製造〉
実施例2で示した以外の基材を結合する場合について以下に説明する。
(1)連結後に焼結結合させる基材(被接着材)として、黒鉛板、SiC単結晶板、AlN単結晶板、TaC板(実施例1の試料No.1)、パイロリティックBN(CVDにより製作したバルクBN材)、W圧延板を用意した。いずれの被接着材も、φ10mmの円板状とし、アンカー効果を持たせるために接着面は適宜ラッピング処理した。
【0066】
次に、前述したTaC粉末またはWC粉末と、CoまたはFeの助剤粉末有機と、バインダー(フェノール樹脂)と、有機溶媒(メタノール)を用意し、ミキサーで混練してペースト状の接着剤を得た。炭化物粉末は、TaC粉末100原子%、WC粉末100原子%またはTaC粉末50原子%−WC粉末50原子%のいずれかを用いた。それらの平均粒径は2〜5μmとした。助剤粉末は、それら炭化物粉末100原子%に対して1原子%加えた。有機バインダー量は炭化物粉末100質量%に対して約3質量%とした。各接着剤の具体的な組成は次の通りである。TaC粉末を用いた接着剤は、TaC:81質量%、有機バインダー:2.6質量%、Co:0.5質量%、有機溶媒:15.9質量%とした。(TaC+WC)粉末を用いた接着剤は、TaC+WC:81質量%、有機バインダー:2.6質量%、Co:0.5質量%、有機溶媒:15.9質量%とした。WC粉末を用いた接着剤は、WC:81質量%、有機バインダー:2.6質量%、Co:0.5質量%、有機溶媒:15.9質量%とした。
【0067】
(2)これらの接着剤を用いて、適宜、各被接着材を接着した(組立工程)。被接着材間に塗布した接着剤の厚さは約10〜20μmとした。接着剤の塗布はヘラを用いて行った。 こうして得られた被接着材を大気中、ホットプレートで200℃に保持して、接着剤を硬化させた(硬化処理工程)。
【0068】
こうして硬化させた被接着材に対して、さらに2種の高温処理を施した。すなわち(i)アルゴン雰囲気(50kPa)中で、室温から1700℃まで昇温した後に徐冷する第1処理と、(ii)アルゴン雰囲気(50kPa)中で、室温から2100℃まで昇温した後に徐冷する第2処理である。なお、この高温試験処理は、接着剤の焼結を兼ねている。
【0069】
〈測定〉
上記の高温処理を行った各被接着材について、それぞれ引張試験を施した。引張強度が0.1kgf/cm以上の場合を接着性良好(○)、引張強度0.1kgf/cm未満の場合を接着性不十分(△)、被接着部材が接合していなかった場合を接着不可(×)として、測定結果を表2に示した(試料No.A1〜A16)。また、上記の炭化物粉末からなる接着剤に替えて、市販のセラミックス接着剤等を用いて行った結果も表2に併せて示した(試料No.B1〜B16)。
【0070】
〈評価〉
表2の結果から、炭化物粉末を用いた接着剤は、様々な耐高温部材同士の接着が可能であることが明らかとなった。特に、従来の市販の接着剤では使用できなかった2000℃以上の温度範囲でも使用可能であることが確認された。
【0071】
これは、その接着剤の主成分である炭化物粉末が高温域でも非常に安定であるためと考えられる。特に、広範囲の全温度域(室温から2000℃以上)で、被接着材の接着部が破損しない(つまり接着力が維持される)ことは特筆すべきことである。炭化物粉末からなる接着剤の場合、低温時(500℃以下)では有機バインダーにより接合が維持され、中温時(500〜1500℃)では有機バインダーが分解して生成した難黒鉛化性炭素により接合が維持され、高温時(1500℃以上)では主成分の高融点炭化物の焼結(同時に難黒鉛化性炭素は高融点金属炭化物によって吸収されて消失)によって接合が維持されると考えられる。ちなみに従来のセラミックス接着剤は、高温域(1700℃以上)で接着剤(主成分および有機/無機バインダー)と被接着材とが反応して接着部が破損する場合が多かった。
【0072】
《実施例4:炭化物被膜の形成》
〈試料の製造〉
(1)耐高温基材の表面に炭化物粉末からなる炭化物被膜を形成した耐高温部材について以下に説明する。
耐高温基材として、黒鉛基材と、パイロリティックBN基材(PBN)を用意した。これらの基材上に塗布するスラリーは次のようにして準備した。
【0073】
次に、前述したTaC粉末(平均粒径:1〜2μm)と、Coの助剤粉末と、有機バインダー(エチルセルロースまたはPVB)と、有機溶媒(α-ターピネオールおよびエタノール)を用意した。助剤粉末を加える場合は、TaC粉末100原子%に対して1原子%とした。有機バインダー量は炭化物粉末100質量%に対して1〜3質量%とした。これらをミキサーで混合処理した後、超音波ホモジナイザーにより分散処理を行った。
【0074】
(2)こうして得られたスラリーを、スピンコート、噴霧塗布または刷毛塗りによって、黒鉛基材(熱膨張係数:4.5x10−6/Kの等方性黒鉛と熱膨張係数:6.5x10−6/Kの等方性黒鉛)またはPBN基材上に塗布した(塗布工程)。塗布後、200℃程度で溶媒を乾燥させた後(乾燥工程)、加熱(焼結)処理をして各基材上に炭化物被膜を成膜した(成膜工程)。
この成膜工程中の焼結条件は、図1に示した高周波加熱炉内を用いて、焼結雰囲気:アルゴン雰囲気(80kPa)、焼結時間(最高焼結温度での保持時間):1時間の焼結条件下で焼結させた(結合工程)。焼結温度は、黒鉛基材の場合は2500℃、PBN基材の場合は2100℃とした。
【0075】
〈評価〉
各基材上に形成された炭化物被膜について、目視および顕微鏡にて、クラックの有無を観察した。その結果を表3に併せて示す。表3の試料No.C1〜C9から、スピンコート法および噴霧塗布法の両方において良好な炭化タンタル被膜が、黒鉛基材およびPBN基材上へ形成されることが確認された。他方、スラリーを刷毛塗りして形成した炭化タンタル被膜は、厚すぎるためにクラックが多数発生した。なお、Coの焼結助剤を適量含むと、微視的にもより良好な(クラック幅の小さい)炭化タンタル被膜が形成されることが確認された。さらに熱膨張係数の大きな黒鉛基材を用いると厚い被膜でもクラックを抑制できた。
【0076】
《実施例5:耐高温部材の用例1》
〈単結晶の成長実験〉
TaCからなる炭化物被膜を黒鉛基材上に形成した高温用ルツボ(耐高温部材)を用いて、昇華法によるSiC単結晶の成長実験を行った。炭化タンタル被膜は、上述の実施例4の試料No.C3と同様にして形成した。この炭化タンタル被膜は、黒鉛の蓋体および種結晶部を除く黒鉛ルツボの内側全面に施した。
【0077】
炭化タンタル被膜を形成した黒鉛ルツボ内にSiC原料粉末を充填し、SiC種結晶を炭化タンタル被膜を形成した黒鉛蓋体に固定した。成長条件は種結晶部の温度が2200℃、原料部温度を2300℃とした。雰囲気はアルゴン雰囲気(1kPa)、成長時間は24時間とした。比較例として、炭化タンタル被膜のない黒鉛ルツボを用いて同様の成長実験を行った。
【0078】
〈評価〉
少なくとも目視で観察する限り、炭化タンタル被膜を形成した黒鉛ルツボの場合、炭化タンタル被膜は、SiCの成長後も剥離等の損傷がなく、非常に良好な状態を保持していた。一方、炭化タンタル被膜を形成しなかった黒鉛ルツボの場合、黒鉛ルツボの黒鉛表面が非常に荒れた状態となり、SiC昇華ガスにより大きく損耗を受けていた。
【0079】
またそれぞれの場合にできた成長結晶を切断・研磨して、顕微鏡により断面観察を行った。炭化タンタル被膜のない黒鉛ルツボを使用した場合、成長結晶中に多数の不定形黒鉛粒子が混入していることが観察された。一方、炭化タンタル被膜のある黒鉛ルツボを使用した場合、成長結晶中にそのような混入物は観察されず、より高品質な結晶が得られることが確認された。
【0080】
《実施例6:耐高温部材の用例2》
〈単結晶の成長実験〉
炭化タンタル平板を高温用ルツボの蓋体に用いて、昇華法によるAlN単結晶の成長実験を行った。炭化タンタル平板は、実施例1の試料No.1に示した円板状バルク材(φ80mm x 厚さ0.8mm)である。
【0081】
この炭化タンタル平板からなる炭化タンタル蓋体へ、AlN種結晶を接着固定した。接着には実施例3の試料No.A11に示した接着剤を用いた。タンタル表面を炭化した炭化層付きタンタルルツボに、原料となるAlN粉末を充填した。成長条件は、種結晶部の温度を2200℃、原料部温度を2300℃とした。雰囲気はアルゴン雰囲気(80kPa)、成長時間は24時間とした。比較例として、炭化層付きのタンタル円板(φ80mm x 厚さ0.8mm)を蓋体に用いた場合についても、同様の成長実験を行った。
【0082】
〈評価〉
炭化タンタル平板の蓋体を用いた場合、AlNの結晶成長前後で、その蓋体の外観や形状(平坦性)に大きな変化はなかった。他方、炭化層付きタンタル蓋体を用いた場合、AlNの結晶成長後に、その蓋体は大きく反り、割れも発生していた。さらに、その反りのため、AlN種結晶が成長中に脱落し、単結晶ではなく多結晶が蓋体に成長する結果となった。
【0083】
《実施例7:耐高温部材の用例3》
〈ヒータの製作〉
表面に炭化物被膜を被覆した黒鉛ヒータについて説明する。棒状の黒鉛ヒータの表面に、実施例4に示した試料No.3と同様の炭化物被膜(炭化タンタル被覆)を形成した。ただし、焼結時の加熱は高周波加熱ではなく、黒鉛ヒータの自己加熱(通電加熱)により行った。
【0084】
〈評価〉
こうして得られた炭化タンタル被覆された黒鉛ヒータの耐久性を評価した。具体的には窒素およびアンモニア雰囲気(窒素90%、アンモニア10%、100kPa)中で、ヒータ温度を1500℃として10時間加熱した。比較例として、炭化タンタル被覆を施さない黒鉛ヒータを用いて、同様の加熱試験を行った。
【0085】
炭化タンタル被覆を施した黒鉛ヒータは、上記の加熱試験前後で、形状および外観に大きな変化がなく、非常に高い耐久性を示すことが明らかとなった。一方、炭化タンタル被覆を施さなかった黒鉛ヒータは、表面が大きく損耗する結果となった。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タンタルまたは炭化タングステンのいずれか一種以上の炭化物粉末のペーストからなる接着層を介して第1基材と第2基材とを連結した組立体とする組立工程と、
該組立体を加熱して該第1基材と該第2基材との間を焼結させる結合工程とを備え、
該組立体が焼結してなる耐高温部材が得られることを特徴とする耐高温部材の製造方法。
【請求項2】
前記ペーストは、前記結合工程中の焼結温度以下の融点をもつ遷移金属または該遷移金属の炭化物からなる助剤粉末を含む請求項1に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項3】
前記遷移金属は、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはニッケル(Ni)のいずれかである請求項2に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項4】
前記ペーストは、有機バインダーを含む請求項1に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項5】
前記接着層は、厚さが2〜30μmである請求項1に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1基材または前記第2基材の少なくとも一方は、炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タンタルまたは炭化タングステンのいずれか一種以上の炭化物、黒鉛、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)またはタングステン(W)のいずれかからなる請求項1に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の製造方法により得られることを特徴とする耐高温部材。
【請求項8】
請求項1に記載した炭化物粉末からなるスラリーを耐高温基材の表面に塗布する塗布工程と、
該塗布工程後の耐高温基材を乾燥する乾燥工程と、
該乾燥工程後の耐高温基材を加熱して該耐高温基材の表面に炭化物被膜を焼結させる成膜工程とを備え、
該炭化物被膜で被覆された耐高温部材が得られることを特徴とする耐高温部材の製造方法。
【請求項9】
前記スラリーは、前記成膜工程中の焼結温度以下の融点をもつ遷移金属または該遷移金属の炭化物からなる助剤粉末を含む請求項8に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項10】
前記遷移金属は、Ti、Cr、Fe、CoまたはNiのいずれかである請求項8に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項11】
前記スラリーは、有機バインダーを含む請求項8に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項12】
前記耐高温基材は、黒鉛基材または窒化ホウ素基材である請求項8に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項13】
前記塗布工程は、前記耐高温基材の表面上へ前記スラリーを噴霧する噴霧工程または回転する該耐高温基材の表面上へ該スラリーを流入させるスピンコート工程である請求項8に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項14】
前記炭化物被膜は、厚さが5〜30μmである請求項8に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項15】
前記耐高温基材は、熱膨張係数が5.5〜8.8x10−6/Kの黒鉛基材であり、
前記スラリーは、炭化タンタルを主成分とする炭化物粉末からなる炭化タンタルスラリーであり、
前記炭化物被膜は、厚さが30〜200μmである請求項8に記載の耐高温部材の製造方法。
【請求項16】
請求項8に記載の製造方法により得られることを特徴とする耐高温部材。
【請求項17】
請求項1に記載した炭化物粉末からなる原料粉末を成形して薄板状の炭化物成形体とする成形工程と、
該炭化物成形体を焼結して炭化物焼結体とする焼結工程とを備え、
該炭化物焼結体からなる耐高温部材を得る耐高温部材の製造方法であって、
前記焼結工程は、前記炭化物成形体の主たる平面である主平面に対向する対向平面を有する蔽塞部材を該炭化物成形体に着設し、該主平面を該対向平面で蔽塞した状態で該炭化物成形体を加熱する工程である、
ことを特徴とする耐高温部材の製造方法。
【請求項18】
炭化ニオブ、炭化ハフニウム、炭化タンタルまたは炭化タングステンのいずれか一種以上の炭化物粉末のペーストからなることを特徴とする耐高温接着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248060(P2010−248060A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66995(P2010−66995)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】