説明

肌焼鋼用の熱間鍛造品の製造方法

【課題】熱間鍛造の後に焼準を施さなくとも、切削加工における被削性に優れ、浸炭熱処理での歪の発生が少ない鍛造方法を提供する。
【解決手段】
肌焼鋼として用いられるCr鋼、CrMo鋼など構造用合金鋼を、1150〜1200℃で加熱し、熱間鍛造の最終加工を900〜1100℃で鍛錬比1.5以上の鍛造を与えた後、650〜750℃まで強制空冷し、オーステナイト結晶粒度を細粒にすることにより、焼入性倍数(Di値)を95以下に制御し、かつ700〜600℃間を5〜20℃/分の冷却速度で徐冷することによって、50%以上のフェライト分率で、結晶粒度番号が5番以上の細粒の(フェライト+パーライト)組織に変態させることを特徴とする熱間鍛造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車のカウンターギアシャフト、メインシャフト、インプットシャフト、アウトプットシャフトなどに採用される肌焼鋼(構造用合金鋼)の熱間鍛造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肌焼鋼の熱間鍛造品は、Cr、Mo、Mnなどの合金元素量が高く、かつ熱間鍛造でオーステナイト粒が粗大化するため、焼入性が非常に高くなっている。そのため、鍛造後に鍛造品を放冷すると、図1に示すように、粗大なベイナイト〜パーライトの硬質組織に変態する。肌焼鋼熱間鍛造品には、機械加工、浸炭、焼入れが施されるが、ベイナイトを含んだ硬質組織は被削性が悪く、粗大な硬質組織は浸炭、焼入れ時の歪の原因になる。そのため、従来より、熱間鍛造後に焼準を施し、図2に示すような、軟質で微細な(フェライト+パーライト)組織に整えることによって、被削性を改善し、その後の熱処理時の歪発生を防止している。
【0003】
近年、製造コスト低減、省エネの観点から、焼準の省略が求められており、熱間鍛造のままで良好な被削性、耐歪性をもつ鍛造方法が提案されつつある。例えば、特開2002−316231には、V、Nb、Taなどを含む非調質型機械構造用炭素鋼を熱間鍛造後、500〜700℃で30〜60分保持することによって、微細な(フェライト+パーライト)組織に変態して機械的性質を高め、焼入れ焼戻しを省略する技術が示されている。しかしながら、当技術はV、Nb、Taなどを含む非調質型機械構造用炭素鋼を用いた鍛造法であり、これらの鋼材は基本的には炭素鋼でありCr、Moなど合金元素量をほとんど含んでないので、本発明の肌焼鋼に要求される高い強度、靭性が得られない。また、V、Nb、Taなどの炭窒化物を析出させて強化するために、500〜700℃で30〜60分の長時間保持を行っているが、このような長時間の保持は省エネ、生産性の観点で好ましくない。
【0004】
また、特開2001−303174にも、Al、Nb、Nなどを含んだ特定の鋼材を、1150℃以上の温度で加熱し熱間鍛造した後、800〜500℃間を徐冷する鍛造方法が示されている。当技術は加熱温度を1150℃以上と規定しているが、好適範囲を1200〜1300℃としており、実施例でもAlN、Nb(CN)を固溶するため加熱温度のほとんどが1225〜1350℃の高温で加熱している。しかし、このような高温で加熱を行った場合は結晶粒が著しく粗大化するので、この粗大粒を鍛造で細粒化することは困難である。オーステナイト粒度の粗い肌焼鋼(構造用合金鋼)は、焼入性が高いため、当技術の実施例である冷却速度0.1〜1℃/秒で徐冷しても、軟質の細粒の(フェライト+パーライト)組織に変態させることはできない。さらに、当技術の規定するミクロ組織によれば、パーライト分率が75%以下と示されているが、これはフェライト分率に換算すると25%以上となる。しかし、このように少ないフェライト分率では、所望の低い硬さが得られないので良好な被削性は得られない。以上のとおり、いずれも従来の熱処理を省こうとするものではあるが、本発明の課題とする熱間鍛造のままで良好な被削性と耐熱処理歪性を兼備させるという技術ではなく、またその製造方法も異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−316231号公報
【特許文献2】特開2001−303174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱間鍛造の後に焼準を施さなくとも、切削加工における被削性に優れ、浸炭熱処理での歪の発生が少ない鍛造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。肌焼鋼である構造用合金鋼のCr鋼、CrMo鋼を、下記(1)〜(5)の工程で処理することにより、50%以上のフェライト分率で結晶粒度番号が5番以上の細粒の(フェライト+パーライト)組織を得ることを特徴とする熱間鍛造品の製造方法。
(1)鋼材を1100〜1200℃に加熱する工程。
(2)加熱された鍛造素材を熱間鍛造し、その最終加工における温度を900〜1100℃の範囲で、鍛錬比を1.5以上で鍛造する工程。
(3)熱間鍛造された高温の鍛造品を(フェライト+パーライト)変態の開始直前の650〜750℃まで強制空冷する工程。
(4)(フェライト+パーライト)変態の開始直前の温度まで強制空冷された鍛造品の焼入性倍率(Di値)が95以下になるよう、合金元素量に応じて、加熱温度と最終加熱温度を設定し熱間鍛造する工程。
但し、Di値=(炭素鋼のDi)×fSi×fMn×fNi×fCr×fMo
炭素鋼のDiは図4のγ粒度から求め、各合金元素の焼入倍数(fSi、fMn、fNi、fCr、fMo)は表6より読み取り求める。
(5)Di値が95以下に調整された鍛造品を引き続いて冷却する際、700〜600℃の(フェライト+パーライト)変態域を5〜20℃/分の冷却速度で徐冷する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、熱間鍛造、強制空冷および徐冷の工程だけで、切削加工において良好な被削性が得られ、かつ浸炭、熱処理時において歪の発生が小さい、肌焼鋼(構造用合金鋼)の熱間鍛造品が製造できる。よって、従来、鍛造後に施していた、焼準が省略できるので、製造コストを大きく低減することができる。また、この方法は、熱間鍛造の後に連続して強制空冷および徐冷を行うので、生産性が高い。さらに、徐冷においては、鍛造品の保有熱と徐冷ラインの保温だけで賄うので、熱エネルギー投入が不要の省エネ処理である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】従来の熱間鍛造後に放冷した場合の粗大なベイナイト組織
【図2】従来の熱間鍛造後に焼準を施した場合の微細な(フェライト+パーライト)組織
【図3】本発明の熱間鍛造法で得られた(フェライト+パーライト)組織
【図4】炭素鋼のDiに及ぼすc含有量、結晶粒度の影響
【図5】鍛造結晶粒度に及ぼす加熱温度、仕上温度の影響
【図6】各種合金元素の含有量と焼入性倍数
【図7】HB硬さに及ぼす焼入性倍数、冷却速度の影響
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明者らは、熱間鍛造後の冷却時に鍛造品を焼準する技術を確立するために、肌焼鋼の焼入性、鍛造時の細粒化および冷却時の変態特性を調べ、以下のことを明らかにした。
1)熱間鍛造条件を制御し、その後の高温域を強制空冷することによって、従来、粗大であった、オーステナイト結晶粒度をかなりの細粒に調整することができる。
2)オーステナイト結晶粒度を細かくすることによって、合金元素量の高い肌焼鋼(構造用合金鋼)でも焼入性(Di値)を小さく抑えることができる。
3)さらに、鍛造後の冷却速度を徐冷することにより、軟質かつ微細な(フェライト+パーライト)組織に変態させることができることが判った。
すなわち、熱間鍛造(および冷却)の工程だけであっても、上記のとおり、鍛造時のオーステナイト粒度を細かく制御し、かつ鍛造後の冷却を徐冷することによって、図3に示すように、焼準で得られる(フェライト+パーライト)組織と同様の組織に変態できることが可能になる。
【0011】
まず、熱間鍛造条件を限定した理由を説明する。
鋼材の加熱温度は、従来よりも低い1100〜1200℃とする。加熱温度を低くするのは、加熱時の結晶粒の粗大化を防止するためである。加熱温度が1200℃以上になると、オーステナイト粒度の粗大化が顕著となり、粒度番号で1番以下の粗大粒となってしまうため、鍛造での再結晶細粒化が困難になり、鍛造後に粒度番号で3番以上の細粒が得難くなくなる。一方、1100℃より低温での加熱では素材の変形抵抗が大きくなり、ハンマー鍛造のブロー数(時間)の増加、金型の磨耗増加を招くことになる。よって、加熱温度は1100〜1200℃に限定する。
【0012】
熱間鍛造は通常、再結晶温度域で行うが、細粒化のためにとくに重要になるのは最終加工温度である。 最終加工温度が高いと、鍛造で再結晶細粒化を図っても、高温であるために粒成長を起こして粗大粒になってしまう。粒成長を抑制し粒度番号で3番以上の細粒を得るためには、最終加工温度を1100℃以下に抑える必要がある。粒成長抑制の観点からは、最終加工温度は低い方が望ましいが、900℃以下になると、素材の変形抵抗が大きくなりハンマー鍛造成形が困難になる。したがって、鍛造仕上温度は900〜1100℃に限定する。
【0013】
最終加工での鍛錬比を大きくとるほど、再結晶が活発になるので細粒化が図れる。しかし、鍛錬比が1.5未満の小さい加工量では、再結晶が起こり難いので細粒化がほとんど図れない。再結晶細粒化のために、鍛錬比を1.5以上に限定する。最終加工で所定の鍛造品(シャフト)形状に仕上げる際の鍛造法として、一般に鍛伸および型打ちがある。最終加工における鍛錬比は、(1)式に示すように、鍛伸と型打ちの両鍛錬比の積で求める。まず、鍛伸では多数回の鍛造ブローを加えるが、その鍛錬比は、各ブロー毎の圧下比(直径比D0/D1)の積の1/2乗とし、(2)式で求める。次に、型打ちの鍛錬比は、型打ち前の断面積A0と型打ち後の断面積A1との比(A0/A1)より求める。段付きシャフトでは部位によって直径(断面積)が異なるので鍛錬比も異なるが、この場合は鍛錬比が最も小さくなる部位で、鍛錬比1.5以上を確保する。
最終加工の鍛錬比=鍛伸の鍛錬比×型打ちの鍛錬比・・・・・・・・・・(1)式

型打ちの鍛錬比=型打ち前の断面積A0÷型打ち後の断面積A1・・・・(3)式
【0014】
次に、鍛造後の冷却を強制空冷する理由を説明する。鍛造後を強制空冷する理由は3つある。
1つ目は、鍛造後の高温からを強制空冷することによって、フェライト変態温度までの冷却時間を極力短くするためである。本発明では700〜600℃間を徐冷して(フェライト+パーライト)変態を進行完了させるが、それより高温域(鍛造後〜750℃)の冷却は変態特性にほとんど関与しないので、この間の冷却は強制空冷して時間短縮を図るためである。
2つ目の理由は、鍛造品の温度差を小さくすることにある。段付き形状のシャフト鍛造品を大気中で放冷した場合、鍛造品の小径部、端部は冷却が速いのに対し、大径部、中央部は冷却が遅くなり、鍛造品の部位による温度差が生じる。この部位による温度差は、その後の徐冷時の変態特性(ミクロ組織、硬さ)にバラツキを生じさせるので、冷却の遅い(温度の高い)大径部、中央部を強制空冷することによって、鍛造品の温度差を揃えることができる。
3つ目の理由は、結晶粒の粗大化抑止にある。本発明では、鍛造の最終加工温度を900〜1100℃に規定することで、結晶粒の粗大化抑止を図っているが、最終加工温度が規定範囲内であっても高め側の場合は粗大化が若干起きている。この若干の粗大化抑止に対しても、強制空冷が有効に作用する。以上の3つの理由で、鍛造後を強制空冷している。強制空冷の冷却速度は、各部位の温度を揃えたり、停止温度を制御するのに、150℃/分程度が望ましい。
【0015】
強制空冷の停止温度を750〜650℃に限定した理由を説明する。強制空冷を750℃以上の高温で停止してしまえば、変態開始までの徐冷にかなりの時間を要することになる。徐冷時間の増加は、生産性を低下させるし、設備的に徐冷のコンベアを非常に長くしなければならないという欠点を招く。一方、強制空冷の停止温度が600℃以下になると、被削性の悪いベイナイトが変態生成するとともに、フェライト変態が緩慢になり十分に低い硬さが得られなくなるので、強制空冷の停止温度下限は過冷却を考慮して650℃に止めるのが望ましい。したがって、強制冷却の停止温度は650〜750℃に限定する。
【0016】
次に、焼入性倍率(Di値)を限定した理由を説明する。オーステナイト化温度域から冷却した際に得られる変態組織は、鋼材の焼入性に依存する。焼入性は、鋼材の化学組成とオーステナイト結晶粒度で決まる、焼入性倍数(Di値)で示されるが、熱間鍛造時のDi値と変態組織との関係についてはよく判っていない。本発明者らは、熱間鍛造時のDi値とその後の冷却で得られる変態組織について調査した。その結果、通常の熱間鍛造では、結晶粒が粗いので必然的にDi値が大となり、その後の空冷でベイナイトを含んだ硬質組織に変態してしまう。しかし、熱間鍛造条件を制御し結晶粒を細かくすれば、鍛造時のDi値を小さく抑えることができ、その後の冷却でベイナイト変態を抑制できることがわかった。さらに、適正Di値について調査した結果、Di値が95以下になるように鍛造条件を制御すれば、その後の冷却を徐冷することで、軟質の(フェライト+パーライト)組織に変態できることが判った。すなわち、細粒のフェライトを適量確保し、硬質のベイナイトおよび粗大なパーライトの生成を抑止するために、Di値を95以下に抑える必要がある。よって、鍛造時のDi値は95以下に限定した。
【0017】
なお、Di値は以下の式より計算できる。
Di値=(炭素鋼のDi)×fSi×fMn×fNi×fCr×fMo
炭素鋼のDiは、オーステナイト結晶粒度とC含有量で決まるもので、図4より読み取り求める。図中の結晶粒度4〜8のデータは一般に示されているものであるが、結晶粒度1〜3の粗粒のデータは発明者らが調査して明らかにし、図中に追記したものである。
【0018】
鍛造時のオーステナイト結晶粒度についても、発明者らが調査して明らかにした、図5の加熱温度と最終鍛造温度の関係から簡易的に求めることができる。合金元素の含有量による焼入倍数(fSi、fMn、fNi、fCr、fMo)は、一般に示されている、図6より求めることができる。
【0019】
鍛造後の冷却条件および変態組織を限定した理由を説明する。
徐冷する温度域を700〜600℃間に規定したのは、(フェライト+パーライト)変態を効率的に短時間で完結させるためである。肌焼鋼の(フェライト+パーライト)変態は、650℃程度の温度で最も速く進行する。温度が700℃よりも高かかったり、600℃よりも低くかったりすると、(フェライト+パーライト)変態の開始、完了が著しく遅いので、そこを徐冷しても(フェライト+パーライト)変態はほとんど進行しないので、限られた徐冷時間では変態が完結できない。その場合、未変態オーステナイトはその後の冷却で硬質のベイナイトに変態する。したがって、徐冷域は700〜600℃範囲に限定した。
【0020】
700〜600℃間を5〜20℃/分の冷却速度で徐冷するのは、(フェライト+パーライト)変態を完了させるためである。発明者らは、軟質の(フェライト+パーライト)が得られる、焼入倍数(Di値)と冷却速度の関係を調査し、図7の結果を得た。それによると、鍛造品のDi値を70〜95程度に調整し、かつその後の冷却を20℃/分以下の徐冷却にすることにより、硬さがHB180以下の軟質の(フェライト+パーライト)に変態できることが判る。この徐冷却は、鍛造品の保有熱と徐冷コンベアの保温とで賄うもので、基本的には自然冷却であるので、徐冷可能な速度範囲が存在する。遅い側の冷却速度の下限は5℃/分程度である。また、これより冷却が遅くなると処理時間が長くなり作業性が低下する。よって、徐冷の範囲を5〜20℃/分に限定した。
【0021】
このようにして得た(フェライト+パーライト)組織は、フェライトの分率が50%以上で、その結晶粒度は粒度番号で5番以上の細粒となる。また、フェライト分率の増加とともに、パーライト、ベイナイトの分率が減り、硬さが低くなる。フェライトの分率を50%以上にすることによって、ベイナイトの生成が抑止でき、被削性に優れた軟質の(フェライト+パーライト)組織に変態させることができる。したがって、フェライトの分率を50%以上に限定した。
【0022】
前述のとおり、鍛造時のオーステナイト粒度を3番以上の細粒とし、その粒界に微細なフェライトを50%以上 生成させることにより、パーライト粒(未変態オーステナイト粒)を5番以上の細粒に縮小できる。結晶粒度で5番以上の細粒、すなわち粗大パーライトを含まない、均一かつ細粒の(フェライト+パーライト)組織を得ることができる。この細粒かつ均一な(フェライト+パーライト)組織は、浸炭熱処理時の歪の発生が少ないと考えられている。したがって、(フェライト+パーライト)組織の結晶粒度を5番以上の細粒に限定した。
【0023】
Cr鋼、CrMo鋼の主要合金元素であるCr、Mo含有量の上下限を説明する。Cr、Moは焼入性、機械的性質の確保に有効な合金元素であるが、その含有量が高くなり過ぎるとDi値が大となり所望の(フェライト+パーライト)組織が得難くなる。
Cr鋼におけるCr含有量は、0.85%未満では十分な焼入性、機械的性質が得られず、1.25%を超えると構造用合金鋼として通常用いられるCr含有量の範囲を外れるので、本発明の対象外とした。以上より、Cr鋼のCr含有量を0.85〜1.25%に限定した。
CrMo鋼におけるMo含有量についても同様に、0.15%未満では十分な焼入性、機械的性質が得られず、0.45%を超えると適正Di値が得難くなるとともに、構造用合金鋼として通常用いられるMo含有量の範囲を外れるので、本発明の対象外とした。以上より、CrMo鋼のCr含有量を0.85〜1.25%に、Mo含有量を0.15〜0.45%に、限定した。
【実施例】
【0024】
φ50〜90mm丸棒鋼材を熱間鍛造用素材に使用した。鍛造用素材の化学組成は表1に示すとおり、JIS G4052構造用合金鋼に相当する鋼材である。
【0025】
鍛造用素材を1120〜1180℃に加熱し、1/4トンのエアハンマーで素材を予備成形した後、1.5トンのエアドロップハンマーで仕上げ鍛造を行った。 仕上げ鍛造、すなわち、最終加工を900〜1100℃で鍛錬比1.5以上の加工を加えて所定の製品形状に鍛錬成形した後、鍛造品の表面を700℃前後まで強制空冷した。その際、鍛造素材の焼入倍数(Di値)が95以下になるように、加熱温度と最終加工温度を調節し鍛造した。
【0026】
次に、保温材でカバーしたコンベア上に鍛造品を搬送することによって、700〜600℃間を5〜20℃/分の冷却速度で徐冷した。600℃以降は、製品缶の中に投入し室温まで放冷した。これらの熱間鍛造条件は、本発明規定の範囲で行ったものである。
【0027】
鍛造冷却後の鍛造品についてミクロ組織を観察し、ブリネル硬さ(HB)を測定した。これまでの肌焼鋼鍛造品の調査結果から、熱処理歪の防止に関しては、フェライト分率が50%以上で、結晶粒度が粒度番号で5番以上の細粒であることが有効と判断している。被削性については、硬さがHB180を超えるもの、ミクロ組織が粘っこいベイナイトを含むものは、被削性が劣ると判定した。
【0028】
これらの調査結果を整理して表2に示す。本発明により製造した鍛造品は、ミクロ組織はベイナイトをほとんど含まない(フェライト+パーライト)組織で、その結晶粒度は粒度番号で5番以上の細粒であった。かつ、その硬さはいずれもHB180以下に調節されていた。本発明によれば、熱間鍛造のままでも良好な耐歪性、被削性を有していると判断される。従って、従来より、熱間鍛造の後に施していた焼準が省略できる。
【0029】
一方、本発明規定の範囲から外れた比較例では、ミクロ組織にベイナイトを含んだり、硬さが高くなり過ぎていた。また、粗大なベイナイトもしくはパーライトを含む、不均一なミクロ組織となっていた。そのため、被削性が劣り、耐歪性も悪いと判断された。これらの比較例では、鍛造ままでの被削性、耐歪性が劣るので、焼準を省略することができないのは明白である。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
肌焼鋼用構造用合金鋼の熱間鍛造素材を、下記(1)〜(5)の工程で処理することにより、50%以上のフェライト分率で結晶粒度番号が5番以上の細粒の(フェライト+パーライト)組織を得ることを特徴とする熱間鍛造品の製造方法。
(1)鋼材を1100〜1200℃に加熱する工程、
(2)加熱された鍛造素材を熱間鍛造し、その最終加工における温度を900〜1100℃の範囲で、鍛錬比を1.5以上で鍛造する工程、
(3)熱間鍛造された高温の鍛造品を(フェライト+パーライト)変態の開始直前の650〜750℃まで強制空冷する工程、
(4)(フェライト+パーライト)変態の開始直前の温度まで強制空冷された鍛造品の焼入性倍率(Di値)が95以下になるよう、合金元素量に応じて、加熱温度と最終加熱温度を設定し熱間鍛造する工程、
但し、Di値=(炭素鋼のDi)×fSi×fMn×fNi×fCr×fMo
炭素鋼のDiは図4のγ粒度から求め、各合金元素の焼入倍数(fSi、fMn、fNi、fCr、fMo)は表6より読み取り求める。
(5)Di値が95以下に調整された鍛造品を引き続いて冷却する際、700〜600℃の(フェライト+パーライト)変態域を5〜20℃/分の冷却速度で徐冷する工程。
【請求項2】
肌焼鋼である構造用合金鋼が0.85〜1.25質量%のクロムを含有するクロム鋼である請求項1に記載の熱間鍛造品の製造方法。
【請求項3】
肌焼鋼である構造用合金鋼が0.85〜1.25質量%のクロムと0.15〜0.45質量%のモリブデンを含有するクロムモリブデン鋼である請求項1に記載の熱間鍛造品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−125838(P2012−125838A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294734(P2010−294734)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(305007908)株式会社川上鉄工所 (1)
【Fターム(参考)】