説明

肝臓疾患等の予防または治療剤のスクリーニング方法

【課題】肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤をスクリーニングする方法を提供する。また、これらの疾患に有効な治療剤または予防剤を提供する。
【解決手段】ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を検出できる系に被検物質を存在させて測定することにより、該結合または該反応の阻害物質を選択する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング法、ならびに該スクリーニング法により選択されたこれらの疾患の治療または予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケモカインCCL16のヒスタミンレセプターH4への結合もしくはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応を特異的に阻害する物質を選択する方法、および該選択方法による肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、もしくは炎症性疾患に対する治療剤または予防剤の取得方法に関する。
【0002】
また、本発明は上記選択方法により得られた物質を有効成分とする、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、もしくは炎症性疾患の治療剤または予防剤に関する。
【背景技術】
【0003】
ケモカインは細胞遊走や活性化作用を有する活性ポリペプチドである。ケモカインは、その構造上の特徴から4つのサブファミリーに分類される。一部の例外を除き、いずれも塩基性のヘパリン結合性ポリペプチドで、分子内に非常によく保存されたシステイン残基をもっている。最初の2つのシステイン残基の配列の特徴から、CC、CXC、C、CX3Cの4つのサブファミリーに分類される。また、ケモカイン遺伝子は染色体上でクラスターを形成しており、ヒトでは、一部の例外を除き、CCケモカインは第17染色体、CXCケモカイン遺伝子は第4染色体、Cケモカインは第1染色体、CX3Cケモカインは第16染色体上に位置している。そのようなケモカインの主要なものは現在のところCCケモカインについては28種(CCL1〜CCL28)、CXCケモカインについては16種(CXCL1〜CXCL16)Cケモカインについては2種(XCL1、XCL2)、CX3Cケモカインは1種類(CX3CL1)が知られている(非特許文献1、非特許文献2)。これらのケモカインは7回膜貫通型レセプター類に属するケモカインレセプターに結合して遊走反応などの細胞反応を引き起こし、炎症反応や免疫調節に関与している。ケモカインレセプターも4つのサブファミリーに分類され、CCケモカインレセプター(CCR1〜CCR10)、CXCRレセプター(CXCR1〜CXCR6)、Cケモカインレセプター(XCR1)、CX3Cケモカインレセプター(CX3CR1)等が存在する。それぞれのケモカインは特定のケモカインレセプターに反応するが、1種類のケモカインが複数の種類のケモカインレセプターに反応する例や、1種類のケモカインレセプターが複数のケモカインと反応する例も認められる(非特許文献2、非特許文献3)。また白血球の細胞はその種類によって発現しているケモカインレセプターの種類が異なることが知られており、このようなケモカインの発現細胞とその分布および各白血球細胞のケモカインレセプター発現パターンの組み合わせによって、炎症や免疫調節が行なわれていると考えられている。
【0004】
ケモカインはその構造上の特徴からバイオインフォーマティックスの手法を用いて多く種類が同定されたことや、ケモカインレセプターは7回膜貫通型レセプターの中でも構造上類似した一群を形成することが知られている。しかしながら各ケモカインとケモカインレセプターとの反応は構造上からの解析のみから同定することは困難であり、各ケモカインを実際に各ケモカインレセプター発現細胞に接触させて反応を調べることによってその反応性が検証されてきた。また、7回膜貫通型レセプターにおいては、構造上から類推された反応物質(リガンド)とは全く異種類のリガンドとの反応がみられた例もある。たとえばバクテリア由来のペプチドfMLPのレセプターであるFPR1に構造上強い相同性を示すFormyl peptide receptor-like 1(FMRL1)はfMLPに対してごく弱い反応しか認められないが、脂質由来の生体活性成分であるLipoxin A4や血清中のタンパク質であるアミロイドAと強く反応することが示されている(非特許文献4、非特許文献5)。しかしながら、ケモカイン類のケモカインレセプター以外のレセプターに対する反応については報告された例はない。
【0005】
CCL16(その他の名称としてはLEC、SCYA16、NCC−4、HCC−4、LMC、LCC−1、CKb12、Mtn−1とも呼ばれる)はGenbankのESTデータベースを用いてバイオインフォーマティックスの手法で発見されたCCケモカインファミリーに属するケモカインで(非特許文献6、特許文献1)、肝臓での発現が認められる(非特許文献7)。CCL16はヒトでは遺伝子およびタンパク質共に発見されているが、マウスにおいての対応する遺伝子はpseude−geneであるためマウスではCCL16タンパク質が発現されないとされている(非特許文献8)。また、CCL16はヒト肝臓組織での免疫染色によって、肝臓実質細胞および胆管上皮細胞において細胞内に多量に貯蓄されていることが示され、またヒト血清中にも10nM程度が存在することが知られている(非特許文献9)。さらに、IL−10によって刺激された単球がCCL16を発現することが知られている(非特許文献10)。CCL16はケモカインレセプターCCR1およびCCR8(非特許文献11)、またはCCR1、CCR2およびCCR5(非特許文献8)との弱い反応性が示されているが、生理的役割または病態での作用については不明であった。
【0006】
CCL16は肝臓以外では、脾臓・胸腺などの免疫に関連する臓器においても発現が認められる(非特許文献12)。CCL16はヒトの単球・リンパ球・樹状細胞(DC)などの免疫の中枢となる細胞に対して遊走を誘導する(非特許文献10、非特許文献13、非特許文献14)。
【0007】
CCL16は、リポポリサッカライドやインターフェロンγで刺激したヒトの活性化単球においても発現が誘導されることが示されており(非特許文献10、非特許文献12)、また最近の報告ではCCL16は、マウス腹腔マクロファージの細胞障害活性の亢進やCCL2・IL−12などの炎症性のケモカインやサイトカインを誘導すること、およびCCL16で活性化されたマウス腹腔マクロファージは抗原提示能が亢進して細胞障害性Tリンパ球の分化を強く誘導することが示されている(非特許文献15)。これらのことはCCL16がいわゆるTh1型の免疫反応に関与している可能性を示唆している。なお、Th1型免疫反応の異常亢進は、自己免疫疾患や炎症性疾患などを引き起こすことが知られている。
【0008】
それに対して、マウスに移植した固形腫瘍(ガン)の中にCCL16の遺伝子を導入して発現させると、Tリンパ球や樹状細胞およびマクロファージが集積されるが、これらの細胞は抗腫瘍効果を示さないという報告がなされ、それらの細胞を解析した結果、マクロファージはTNFやIL−12を産生しないM2型であり、樹状細胞はIL−12を産生しないDC2型または未熟型であったという結果が示されている(非特許文献16)。このことはCCL16によって集積した免疫担当細胞は、Th2型の免疫反応または免疫抑制状態にあると考えられる。Th2型の免疫反応または免疫抑制状態が関与する疾患としては、アレルギーや免疫不全症などが挙げられる。さらにこの報告ではマウスに移植した固形腫瘍(ガン)の中にCCL16の遺伝子を導入して発現させ、その後にCpGおよび抗IL−10抗体というTh1型の免疫を誘導する物質を投与すると、非常に強力な抗ガン作用が認められている。このことは、CCL16によって集積したTh2型または免疫抑制型となっている免疫担当細胞が、強力なTh1型への刺激が存在する場合には、Th1型の免疫担当細胞に分化して強力な細胞・組織破壊や炎症を惹起するものと考えられる。
【0009】
このように、CCL16は生体の免疫調節にかかわる重要な分子と考えられ、免疫異常による疾患、たとえばアレルギー、免疫不全症、悪性腫瘍、自己免疫疾患、炎症性疾患などとの関連が推定されるが、現在のところその作用や調節の機構などは不明であり、治療などへの応用の方策は示されていない。
【0010】
ヒスタミンはアミノ酸ヒスチジンよりヒスチジン脱炭酸酵素によって作られる生体内アミンで、アレルギーなどの反応に関与している。ヒスタミンの反応は細胞上のヒスタミンレセプターを介して行なわれる。ヒスタミンレセプターは現状4種類(H1、H2、H3、H4)が知られており、それらは総て7回膜貫通型レセプターに属している。ヒスタミンレセプターH4は最近発見された新規なレセプターであり、好酸球および肥満細胞で発現していることが知られている(非特許文献17、非特許文献18)。また、古くより知られていたヒスタミンによる好酸球での細胞内カルシウム濃度上昇反応および遊走反応(非特許文献19、非特許文献20)において、ヒスタミンレセプターH4が関与していることが示された(非特許文献21)。また、アレルギー性の疾患にヒスタミンレセプターH4が関与していると考えられている(非特許文献22)。しかしながら、ヒスタミンレセプターH4を介しての反応にはかなり高濃度のヒスタミンが作用する必要がある。このことはアレルギー反応を起こしている局所などで大量のヒスタミンが肥満細胞から放出されている状態ではヒスタミンレセプターH4を介した反応が起こるものと考えられるが、ヒスタミンは放出後にヒスタミンデアミネースなどの作用で速やかに活性を失うことを考えると、骨髄などから好酸球を誘導するなどの作用との関係については説明できない。またヒスチジン血症の患者において血中の好酸球量が増えるとの報告も無いことから、ヒスタミンによる骨髄からの好酸球の誘導や疾患臓器への遊走反応との関係については知られていない。
【0011】
また、ヒスタミンレセプターH4は好酸球および肥満細胞以外にも好中球、好塩基球、樹状細胞、皮膚のランゲルハンス細胞、Tリンパ球などの免疫系の細胞に発現が認められ、アレルギー反応や炎症反応に関与していると考えられている(非特許文献23、非特許文献24、非特許文献25、非特許文献26)。
【0012】
さらに、最近の報告として、ヒトの単球からIL−4とGM−CSFで分化させた樹状細胞においてはヒスタミンレセプターH4の発現が亢進すること、該樹状細胞をヒスタミン等のヒスタミンレセプターH4のアゴニスト存在下でIL−12を誘導する刺激を行ってもIL−12を産生が抑制されるが、IL−10の産生は抑制されないことが示された(非特許文献27)。このことはヒト樹状細胞の分化の過程においてヒスタミンレセプターH4を介した細胞のシグナルは、樹状細胞がTh1型の免疫を誘導するDC1型の樹状細胞に分化することを阻害し、Th2型の免疫または免疫抑制状態を誘導するDC2型または未熟型の樹状細胞の形質を維持させることを示している。Th2型の免疫反応または免疫抑制状態が関与する疾患としては、アレルギーや免疫不全症などが挙げられる。しかし、この樹状細胞におけるIL−12の産生抑制抑制には24時間程度高濃度のヒスタミン等で前処理を行い、さらに高濃度のヒスタミン等が存在した状態でIL−12産生誘導刺激を行った結果であり、血中での半減期が1〜2分程度といわれるヒスタミンが生体内で長時間・高濃度で維持されるかについては疑問がある。
【0013】
多くの肝臓疾患においては古くより好酸球と好酸球顆粒より放出されるMajor Basic Protein(MBP)やeosinophilcationic protein(ECP)などによる組織障害が注目されている。例えば、薬剤性肝障害の診断においては血中の好酸球増加は重要な指標となっており、肝臓組織への浸潤も認められる(非特許文献28、非特許文献29)。また、肝臓移植患者での臓器拒絶においては、血中の好酸球増多、組織中の好酸球浸潤、組織中へのMBPやECPの放出などが認められ、臓器拒絶の原因として重要と考えられている(非特許文献30、非特許文献31、非特許文献32)。そのほか原発性胆汁性肝硬変(非特許文献33、非特許文献34、非特許文献35)および原発性硬化性胆管炎(非特許文献36、非特許文献37)においても、好酸球増多や組織中の好酸球および顆粒タンパク質と病態との関係が示されている。また、好酸球増多症が認められた患者において肝臓障害が生じた例も報告がある(非特許文献38、非特許文献39)。
【0014】
以上のことから肝臓疾患と好酸球増多および組織への好酸球浸潤は深く関係していることが分かる。好酸球増多に対する治療としては現状ステロイドの投与が行なわれているが、ステロイドは患者の免疫全体を抑制することから感染などの副作用が懸念される。そのため肝臓疾患および肝臓疾患に関連する好酸球増多を特異的に抑制する薬剤の開発が求められている。
【0015】
さらにB型肝炎またはC型肝炎などのウイルス性肝炎においては、細胞障害性Tリンパ球や樹状細胞の機能とウイルス排除または組織破壊との関連が関心となっている。一般に、DC2型の樹状細胞や細胞障害性Tリンパ球の活性が低下している場合には、ウイルスを排除できずキャリアーとなり、DC1型の樹状細胞の増加や細胞障害性Tリンパ球の活性が極端に高まると急激な組織障害を起こして劇症化すると考えられている。このようなウイルス性肝炎などにおける免疫の調節においてもそのメカニズムは不明であり、その解明と治療への応用が望まれている。
【0016】
また好酸球はアレルギー性疾患において中心的な役割を果たしているおり、血中の好酸球増多や組織中への好酸球浸潤による病態のメカニズムなどについて注目されている。特にTh2リンパ球が産生するIL−5やIL−10の関与などについても盛んに研究されている。アレルギー性疾患においても、好酸球の骨髄からの誘導や組織への浸潤を特異的に抑制する薬剤の開発が求められている。
【0017】
アレルギーにおいては一般にTh2型免疫が亢進していると考えられており、その制御においてはDC2型または未熟型の樹状細胞の関与が示唆されている。DC2型の樹状細胞はTh2型のTリンパ球の画分を増大させ、そのようなTh2型Tリンパ球から産生されたIL−4、IL−5、IL−10、IL−13などのサイトカインやTh2型リンパ球からの指令で産生されるIgE型抗体などはアレルギーの病態形成において重要な役割を演じている。
【0018】
アレルギーにおいては、好酸球、Th2リンパ球、樹状細胞、または産生されるサイトカインや抗体などの役目についての情報は集まりつつあるものの、そのような免疫の制御がどのように行われているのかは十分には解明されておらず、この点についても今後のアレルギー治療における課題として残されている。
【0019】
【特許文献1】特表平10−510430号公報
【非特許文献1】サイトカイン・ファミリー・データベース(Cytokine Family Database)http://cytokine.medic.kumamoto-u.ac.jp/
【非特許文献2】ズロトニック&義江 イミュニティ(Immunity)(USA) 2000年
【非特許文献3】烏山編 免疫学イラストマップ 2004年 羊土社
【非特許文献4】フィオーレ(Fiore)等 ザ・ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(The Journal of Experimental Medicine)(USA)1994年 180巻 p253-260
【非特許文献5】ス(Su)等 ザ・ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン( The Journal of Experimental Medicine)(USA)189巻 p395-402
【非特許文献6】Naruse等 ジェノミックス(Genomics)(USA)1996年 34巻 p236-240
【非特許文献7】Shoudai等 バイオキミカ・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica acta)(Netherlands) 1998年 1396巻 p273-277
【非特許文献8】Fukuda等 ディーエヌエー・アンド・セル・バイオロジー(DNA and Cell Biology)(USA) 1999年 18巻 p275-283
【非特許文献9】野見山等 インターナショナル・イミュノロジー(International Immunology)日本免疫学会発行 2001年 13巻 p1021-1029
【非特許文献10】ヘンドリック(Hendrick JA)等 ブラッド(Blood)(USA) 1998年 91巻 p4242
【非特許文献11】ハワード(Howard)等 ブラッド(Blood)(USA) 2000年 96巻 p840-845
【非特許文献12】ヨーロピアン・バイオインフォーマティックス・インスティチュート(Europian Bioinformatics Institute)・ユニプロット(UniProt)Query:CCL16_Human http://www.ebi.uniprot.org/uniprot-srv/uniProtView.do?proteinId=CCL16_HUMAN&pager.offset=null
【非特許文献13】ヨン(Youn)等 バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications) (USA)1998年 247巻 p214-222
【非特許文献14】ナルデリ(Nardelli)等 ザ・エフエーエスイービー・ジャーナル:オフィシャル・パブリケーション・オブ・ザ・フェデレーション・オブ・アメリカン・ソサエティー・フォー・エクスペリメンタル・バイオロジー(The FASEB journal : official publication of the Federation of American Societies for Experimental Biology)(USA) 1999年 13巻 pA317
【非特許文献15】ジャーナル・オブ・リューコサイト・バイオロジー(Journal of Leukocyte Biology)(USA) 2004年 75巻 p135-142
【非特許文献16】グイドゥッチ(Guiducci)等 キャンサー・リサーチ(Cancer Research)(USA) 2005年 65巻 p3437-3446
【非特許文献17】Oda等 ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)(USA) 2000年 275巻 p36781-36786
【非特許文献18】Liu等 モレキュラー・ファーマコロジー(Molecular Pharmacology)(USA) 2001年 59巻 p420-426
【非特許文献19】ライブル(Raible)等 ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal of Immunology)(USA)1992年 148巻 p3536-3542
【非特許文献20】ライブル(Raible)等 アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・アンド・クリティカル・ケア・メディシン(American journal of respiratory and critical care medicine)(USA) 1994年 149巻 1506-1511
【非特許文献21】オライリー(O‘Reilly)等 ジャーナル・オブ・レセプターズ・アンド・シグナル・トランスダクション(Journal of Receptors and Signal Transduction)(USA) 2002年 22巻 p431-448
【非特許文献22】ブルース(Bruce LD) ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(British Journal of Pharmacology) 2004年 142巻 p5-7
【非特許文献23】ホフストラ(Hofstra)等 ザ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー・アンド・イクスペリメンタル・セラピューティックス(The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics)(USA) 2003年 305巻 p1212-1221
【非特許文献24】ガントナー(Gantner)等ザ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー・アンド・イクスペリメンタル・セラピューティックス(The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics)(USA) 2002年 303巻 p300-307
【非特許文献25】Takeshita等 ザ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー・アンド・イクスペリメンタル・セラピューティックス(The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics)(USA) 2004年 310巻 p272-280
【非特許文献26】リパート(Lippert)等 ザ・ジャーナル・オブ・インベスティゲーティブ・ダーマトロジー(The Journal of Investigative Dermatology)(USA) 2004年 123巻 p116-123
【非特許文献27】ガッツマー(Gutzmer)等 ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal of Immunology)(USA)1992年 174巻 p5224-5232
【非特許文献28】マクマスター(McMaster)等 ラボラトリー・インベスティゲイション(LaboratryInvestigation)(USA)1981年 44巻 p61-73
【非特許文献29】ダンセッテ(Dansette)等 ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ドラッグ・メタボリズム・アンド・ファーマコキネティックス(European Journal of Drug Metabolism and Pharmacokinetics)(Switzerland) 1998年 23巻 p443-451)
【非特許文献30】フォスター(Foster)等 ヘパトロジー(Hepatology)(USA) 1991年 13巻 p1117-1125
【非特許文献31】Kakumitsu等 ジャーナル・オブ・ガストロエンテロロジー(Journal of Gastroenterology)日本消化器病学会発行 2000年 35号 p548-551
【非特許文献32】ナグラル(Nagral)等 リバー・トランスプランテーション・アンド・サージェリー(Liver transplantation and Surgery)(USA)1998年 4巻 p355-362
【非特許文献33】Terasaki等 ヘパトロジー(Hepatology)(USA) 1993年 17巻 p206-212
【非特許文献34】Nakamura等 アメリカン・ジャーナル・オブ・ガストロエンテロロジー(American Journal of Gastroenterology)(USA) 1997年 92巻 p2245-2249)
【非特許文献35】ゴールドスタイン(Goldstein)等 アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・パソロジー(American Journal of Clinical Pathology)(USA) 2001年 116巻 p846-853
【非特許文献36】加川等 総合臨床 1988年 37巻 p2339-2342
【非特許文献37】ハートレブ(Hartleb)等 ジャーナル・オブ・ガストロエンテロロジー(Journal of Gastroenterology)日本消化器病学会発行 1998年 33巻 p134-135
【非特許文献38】フーン(Foong)等 ヘパトロジー(Hepatology)(USA) 1991年 13巻 p1090-1094
【非特許文献39】ウン(Ung)等 ジャーナル・オブ・クリニカル・ガストロエンテロロジー(Journal of Clinical Gastroenterology)(USA) 2000年 31巻 p323-327
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明が解決しようとする課題は、従来のケモカインとケモカインレセプターとの反応という概念を超えて、ケモカインによる好酸球の誘導に関する新規の機構を解明することである。また、別の課題としては、従来不明であった肝臓疾患における好酸球増多および好酸球の組織浸潤の機構を解明して、その治療のための方策を提供することにある。さらに、本発明の課題は肝臓疾患およびそれに関する好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍(ガン)、免疫不全症、自己免疫疾患、ならびに炎症性疾患の予防剤または治療剤を取得する方法を提供することである。さらに、そのような予防剤または治療剤を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、ケモカイン類のヒスタミンレセプターに対する反応性について解析を行っている過程で、ケモカインCCL16が予想外にもヒスタミンレセプターH4と特異的に反応することを見出した。また、肝臓疾患やアレルギーの病態と深く関連のある好酸球においてはヒスタミンレセプターH4が発現することが見出された。さらに、ケモカインCCL16は実際に好酸球での遊走反応を誘導すること、またケモカインCCL16を投与した動物において骨髄より好酸球を誘導して該動物を好酸球増多の状態になし得ること見出した。
【0022】
以前の研究において、本発明者らはケモカインCCL16が肝臓の実質細胞および胆管上皮細胞内に多く蓄積され、このような細胞が一部でも破壊された場合には血中に大量のケモカインCCL16が放出されるであろうことまでは予見していた。このことから、肝臓疾患において少なくとも一部の組織の障害によって肝臓よりケモカインCCL16が放出されることによって、骨髄より好酸球が誘導されると考えられる。また、循環している好酸球が肝臓組織に浸潤して組織破壊が起こることが肝臓疾患の病態形成において重要な役割を担っていると考えられる。さらに本発明者らはヒスタミンレセプターH4を発現させた組変え体細胞およびヒトまたはマウスの好酸球を用いた検討によって、ケモカインCCL16とヒスタミンは調べたすべてにおいて同様の反応を引き起こすことを示しており、CCL16はヒスタミンと同等のヒスタミンレセプターH4に対するアゴニストであることを見出した。ヒスタミンが血中での半減期が1〜2分程度とされるのに対して、ケモカインCCL16は正常人においても血中に10nM程度存在することが考えられていて、よりヒスタミンレセプターH4と接する機会の多いリガンドであるとも考えられる。また活性化マクロファージなどにおいてはCCL16を発現することが知られており、局所的にケモカインCCL16の濃度が上昇することによって、好酸球、好中球、肥満細胞、好塩基球、樹状細胞、Tリンパ球などの免疫系の細胞の集積に関与しているものと思われる。また、ヒトの単球からIL−4存在下で分化させた樹状細胞においてヒスタミンレセプターH4の発現が誘導されることからは、ケモカインCCL16の濃度による調節のみではなく、細胞のおいてもヒスタミンレセプターH4の発現調節によって、ケモカインCCL16やヒスタミンによる免疫調節を行っている可能性も考えられる。さらに、IL−4存在下でヒト単球から分化したヒスタミンレセプターH4発現が誘導された樹状細胞は、長時間ヒスタミン存在下で培養することで、DC2型または未熟型と思われる樹上細胞の形質をとる。このことはケモカインCCL16がより安定的なヒスタミンレセプターH4のリガンドであることを考えると、免疫の中枢と考えられている樹状細胞のDC2型もしくは未熟型への分化および維持に関与していることが推察される。そして、そのような樹状細胞の形質は、生体における免疫をTh2型もしくは免疫抑制型に調節するものと考えられ、そのような状態が異常に亢進した状態ではアレルギー疾患や免疫不全症などの疾患、ウイルス性肝炎のウイルスキャリア状態の維持、また悪性腫瘍への生体の抗がん作用の低下に結びつくことが類推される。また、CCL16の作用によって集積し、Th2型もしくは免疫抑制型に維持されていた免疫担当細胞も、Th1型の免疫を誘導する刺激が起こった場合にはTh1型の免疫担当細胞に分化することが示されている。このような状況下では細胞障害性T細胞などによる細胞および組織の障害性が亢進し、生体の悪性腫瘍への攻撃性は亢進するものの、それ以外に細胞・組織障害性の疾患、たとえば自己免疫疾患、炎症性疾患、ウイルス性肝炎における劇症化などに関与する可能性がある。以上のこのことからケモカインCCL16は、生体内での安定性の高いヒスタミンレセプターH4のリガンドとして、樹状細胞・単球/マクロファージ・細胞障害性Tリンパ球・肥満細胞などの遊走・機能の調節に関与することで、ガン・アレルギー・免疫不全症・炎症などの病態に関与しているものと考えられる。これらの知見をもとに、本発明者らは以下の発明に到達した。
【0023】
すなわち、本発明は、ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を検出できる系に被検物質を存在させて、該結合または該反応の有無もしくは程度を測定する工程を含む、該被検物質による該結合または該反応の阻害の有無もしくは程度の測定法に関する。
【0024】
前記測定法は、被検物質非存在下での測定結果と比較する工程をさらに含むことが好ましい。
前記測定法は、ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を測定するに際し、先にヒスタミンレセプターH4に被検物質を接触させてから該結合または該反応の阻害の有無もしくは程度を測定してもよい。
【0025】
または、前記測定方法は、ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を測定するに際し、先にケモカインCCL16に被検物質を接触させてから該結合または該反応の阻害の有無もしくは程度を測定してもよい。
前記測定法は、ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無または程度を検出できる系を用いることが好ましい。
【0026】
前記測定法において、ヒスタミンレセプターH4発現細胞は、哺乳類の好酸球であることが好ましい。中でも、ヒトまたはマウスの好酸球がより好ましい。
前記測定法において、ヒスタミンレセプターH4発現細胞はヒスタミンレセプターH4の遺伝子が導入された組換え体細胞であることが好ましい。中でも、ヒスタミンレセプターH4の遺伝子が導入されたマウスプレBリンパ球系細胞株L1.2の組換え体細胞がより好ましい。
前記測定法において、ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応は、細胞遊走反応、または細胞内カルシウム濃度上昇反応であることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明は、前記測定法により前記結合または前記反応の阻害物質を選択する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法にも関する。
【0028】
また、本発明は、試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物にケモカインCCL16を投与する工程、および該試験動物における血中の好酸球増多の抑制または骨髄中の好酸球減少の抑制を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法に関する。
【0029】
また、本発明は、ケモカインCCL16遺伝子を試験動物に導入してこれを発現させる工程、該試験動物に被検物質を投与する工程、および該試験動物における血液中の好酸球増多の抑制または骨髄中の好酸球減少の抑制を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法に関する。
【0030】
また、本発明は、試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物の臓器または組織にケモカインCCL16を投与する工程、およびCCL16を投与した該試験動物の臓器または組織における好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞のいずれかの集積を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法に関する。
【0031】
また、本発明は、ケモカインCCL16遺伝子を試験動物に導入してこれを発現させる工程、該試験動物に被検物質を投与する工程、およびケモカインCCL16を発現する該試験動物の臓器または組織における好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞のいずれかの集積を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法に関する。
【0032】
また、本発明は、試験動物にヒスタミンレセプターH4を発現させた組換え体細胞を投与する工程、該試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物の臓器または組織にケモカインCCL16を投与する工程、およびケモカインCCL16を投与した該試験動物の臓器または組織における該組換え体細胞の集積を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法に関する。
【0033】
また、本発明は、ケモカインCCL16遺伝子を試験動物に導入してこれを発現させる工程、試験動物にヒスタミンレセプターH4を発現させた組換え体細胞を投与する工程、該試験動物に被検物質を投与する工程、および該試験動物の臓器または組織における該組換え体細胞の集積を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法に関する。
【0034】
前記スクリーニング方法において、試験動物はマウスであることが好ましい。
詳細には、前記スクリーニング方法は、薬剤性肝障害、肝臓移植における拒絶反応、胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、および原発性好酸球増多症にともなう肝臓障害からなる群から選ばれた一つまたは複数の疾患の治療剤または予防剤のスクリーニングに適する。
【0035】
前記スクリーニング方法は、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、花粉症、疱疹状皮膚炎、肺好酸球増加症、アレルギー性血管炎からなる群から選ばれた一つまたは複数の疾患の治療剤または予防剤のスクリーニングにも適する。
【0036】
前記スクリーニング方法は、肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、喉頭癌、咽頭癌、舌癌、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫からなる群から選ばれた一つまたは複数の疾患の治療剤または予防剤のスクリーニングにも適する。
【0037】
前記スクリーニング方法は、二次免疫不全症、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、全身性硬化症、多発性筋炎、ギラン・バレー症候群、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫溶血性貧血からなる群から選ばれた一つまたは複数の疾患の治療剤または予防剤のスクリーニングにも適する。
【0038】
前記スクリーニング方法は、慢性または急性の炎症を伴う炎症性疾患の治療剤または予防剤のスクリーニングにも適する。
前記スクリーニング方法において、ケモカインCCL16またはケモカインCCL16遺伝子は、ヒト由来のものであることが好ましい。
【0039】
さらに本発明は、前記スクリーニング方法により得られる、前記結合もしくは前記反応の阻害物質、試験動物における血中の好酸球増多の抑制物質もしくは骨髄中の好酸球減少の抑制物質、または試験動物の臓器もしくは組織における好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞もしくはヒスタミンレセプターH4発現組換え体細胞のいずれかの集積の抑制物質を有効成分として含有する、肝臓疾患、肝臓障害に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、もしくは炎症性疾患の治療剤または予防剤に関する。
前記治療剤または予防剤は、ヒスタミンレセプターH4またはケモカインCCL16に結合性があるものが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、肝臓疾患、肝臓障害に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍(ガン)、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患の治療剤または予防剤の有効成分として用いることのできる物質を選択することができる。また、本発明によれば、これらの疾患の治療剤または予防剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を検出できる系に被検物質を存在させて、該結合または該反応の有無もしくは程度を測定する工程を含む、該被検物質による該結合または該反応の阻害の有無もしくは程度の測定法に関する。該測定法は、ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度を検出できる系、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を検出できる系を利用するものである。このような系の具体例については後に詳しく説明する。
【0042】
本発明の測定法では、被検物質非存在下での測定も同時に、または別個に行い、その結果と前記被験物質存在下での結果を比較することが好ましい。ここでいう被検物質非存在下での測定条件としては、被検物質が存在しないこと以外は被検物質存在下と実質的に同一条件であることが好ましい。例えば被検物質の溶液の代わりに緩衝液のみを用いたり、不活性であることが明らかな物質を対照として用いたりすることが挙げられる。
【0043】
本発明の測定法は、ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を測定するに際し、先にヒスタミンレセプターH4に被検物質を接触させてから該結合または該反応の阻害の有無もしくは程度を測定してもよいし、先にケモカインCCL16に被検物質を接触させてから測定してもよい。
【0044】
本発明の測定法は、ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無または程度を検出できる系を用いることができる。その場合には、ヒスタミンレセプターH4発現細胞として、例えば哺乳類の好酸球を用いることができる。なかでもヒトまたはマウスの好酸球を用いることが好ましい。別の例としてはヒトもしくは他の哺乳動物の活性化マクロファージ、単球より分化させた樹状細胞、その他Tリンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞なども挙げられる。また、ヒスタミンレセプターH4発現細胞として、ヒスタミンレセプターH4の遺伝子が導入された組換え体細胞を用いてもよい。例えば、ヒスタミンレセプターH4の遺伝子が導入されたマウスプレBリンパ球系細胞株L1.2の組換え体細胞が挙げられる。
【0045】
また、本発明の測定法において測定されるケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応としては、例えば、細胞遊走反応、または細胞内カルシウム濃度上昇反応が挙げられる。これらの反応の測定方法については後に詳説する。
【0046】
さらに、本発明は、前記測定法により前記結合または前記該反応の阻害物質を選択する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍(ガン)、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法にも関する。
【0047】
本発明スクリーニング方法の別の態様としては、試験動物を用いる方法が挙げられる。そのような方法としては、例えば、試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物にケモカインCCL16を投与する工程、および該試験動物における血中の好酸球増多の抑制を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍(ガン)、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法が挙げられる。試験動物にケモカインCCL16を投与する代わりに、ケモカインCCL16遺伝子を導入してこれを発現させた試験動物を用いてもよい。また、血中の好酸球増多の抑制を検出する代わりに、骨髄中の好酸球減少の抑制を検出してもよい。
【0048】
また別の試験動物を用いる方法の例としては、試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物の臓器または組織にケモカインCCL16を投与する工程、および該試験動物におけるケモカインCCL16を投与した臓器または組織に好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞のいずれかの集積を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍(ガン)、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法である。試験動物にケモカインCCL16を投与する代わりに、ケモカインCCL16遺伝子を導入してこれを発現させた試験動物を用いてもよい。
【0049】
また、試験動物にヒスタミンレセプターH4を発現させた組換え体細胞を投与する工程、試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物の臓器または組織にケモカインCCL16を投与する工程、ケモカインCCL16を投与した臓器または組織に導入した組換え体細胞の集積を検出する工程という形で、該スクリーニング方法を実施することも可能である。試験動物にケモカインCCL16を投与する代わりに、ケモカインCCL16遺伝子を導入してこれを発現させた試験動物を用いてもよい。
【0050】
本発明のスクリーニング方法に使用する試験動物としては、マウスが好ましい。そのほか、好酸球においてヒスタミンレセプターH4が発現している動物、特にヒトヒスタミンレセプターH4と高い類似性を示すヒスタミンレセプターを保有するブタ、ラット、モルモットなどを用いてもよい。
【0051】
本発明のスクリーニング方法における検出に利用される臓器および組織は、特に限定されるものではなく、ケモカインCCL16が投与された臓器もしくは組織、またはケモカインCCL16を発現する臓器もしくは組織であれば、どのような部位のものでもよい。
【0052】
本発明のスクリーニング方法は、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍(ガン)、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患からなる群から選ばれた一つまたは複数の疾患の治療剤または予防剤のスクリーニングに適する。肝臓疾患としては、例えば薬剤性肝障害、肝臓移植における拒絶反応、胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、および原発性好酸球増多症に伴う肝臓障害が挙げられる。また、アレルギー性疾患としては、例えばアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、花粉症、疱疹状皮膚炎、肺好酸球増加症、アレルギー性血管炎が挙げられる。また、悪性腫瘍の例としては、上皮性細胞由来の悪性腫瘍として、例えば肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、喉頭癌、咽頭癌、舌癌が挙げられ、造血器由来の悪性腫瘍として、例えば白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫が挙げられ、非上皮性細胞由来(肉腫)として、例えば骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫などが挙げられる。また免疫不全症としては、特に二次免疫不全症が挙げられ、例えば遺伝および代謝疾患(尿毒症、糖尿病、栄養不良、蛋白喪失性腸症、またはネフローゼ症候群)によるもの、免疫抑制因子(放射線照射、免疫抑制薬、またはコルチコステロイド)によるもの、感染症(先天性風疹、ウイルス性発疹、HIV感染、サイトメガロウイルス感染、伝染性単核球症、急性細菌性疾患、重症のマイコバクテリア性もしくは真菌性疾患、組織球増加、またはサルコイドーシス)によるもの、浸潤性および血液学的疾患(ホジキン病、リンパ腫、白血病、骨髄腫、顆粒球減少、再生不良性貧血、または熱傷)によるもの、その他の原因(SLE、慢性活動性肝炎、アルコール性肝硬変、加齢、抗けいれん薬、または移植片対宿主病)によるものが挙げられる。また、自己免疫疾患としては、例えば慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、全身性硬化症、多発性筋炎、ギラン・バレー症候群、特発性血小板減少性紫斑病、および自己免疫溶血性貧血が挙げられる。さらに炎症性疾患は、種々臓器および組織における慢性および急性の炎症を伴う疾患一般が含まれる。該慢性または急性の炎症とを伴う疾患としては、気管支炎、肺炎、かぜ症候群、心筋炎、心膜炎、動脈硬化症、動脈炎、静脈炎、リンパ管炎、口内炎、食道炎、胃炎、腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、腎炎、髄膜炎、脳炎、筋炎、腱炎、甲状腺炎、膵炎、乾癬、関節炎、歯周炎、副鼻腔炎、および蕁麻疹が挙げられる。
【0053】
前記スクリーニング方法において用いられるケモカインCCL16またはケモカインCCL16遺伝子は、ヒト由来のものであることが好ましい。
【0054】
さらに本発明は、前記スクリーニング方法により得られる、前記結合もしくは前記反応の阻害物質、試験動物における血中の好酸球増多の抑制物質もしくは骨髄中の好酸球減少の抑制物質、または試験動物の臓器もしくは組織における好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞のいずれかの集積の抑制物質を有効成分として含有する、肝臓疾患、肝臓障害に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、もしくは炎症性疾患の治療剤または予防剤に関する。そのほか、該治療剤または予防剤は、ケモカインCCL16の投与を受けた試験動物において、血中の好酸球増多もしくは骨髄中の好酸球減少を抑制する物質、またはケモカインCCL16の投与を受けた試験動物の臓器または組織において、好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞のいずれかの集積を抑制する物質、あるいは試験動物にヒスタミンレセプターH4を発現させた組換え体細胞を投与した試験動物において、該組換え体細胞の集積を抑制する物質を有効成分として用いることもできる。また、ケモカインCCL16の投与を受けた試験動物の代わりに、ケモカインCCL16遺伝子を導入してこれを発現させた試験動物を用いてもよい。これらの試験動物としては、マウスが好ましいが、そのほか好酸球においてヒスタミンレセプターH4が発現している動物、特にヒトヒスタミンレセプターH4と高い類似性を示すヒスタミンレセプターを保有するブタ、ラット、モルモットなどを用いてもよい。
【0055】
また、このような治療剤または予防剤は、ヒスタミンレセプターH4に結合性があるものや、ケモカインCCL16に結合性があるものが好ましい。
【0056】
本発明の治療剤または予防剤の対象疾患は、本発明のスクリーニング方法について記載した疾患の通りである。本発明の治療剤または予防剤に関して、スクリーニングに使用されるケモカインCCL16またはその遺伝子は、ヒト由来のものが好ましい。
【0057】
なお、本発明の治療剤または予防剤の対象疾患がアレルギー性疾患である場合において、ある物質がヒスタミンによるヒスタミンレセプターH4への作用をも阻害する場合には、該阻害物質は本発明で用いる有効成分の範囲からは除かれる。
【0058】
以下に本発明を実施するために必要とされる要素について説明する。
<ケモカインCCL16>
本発明で用いるケモカインCCL16は、上述のようにアミノ酸配列既知のケモカインであり、市販のヒトケモカインCCL16(ヒトCCL16)、たとえばR&D社の製品(Cat No. 802−HC)を用いることができる。また、他の方法としてはヒトCCL16のcDNA(Entrez Acc. No. NM004590)をコーディングする部分を含む形で発現ベクターに組み込んで、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞などに導入して発現させるなど、当業者が自分で調製することもできる。この技術は当業者の技術常識に属するものにすぎないが、たとえばハービン(Harbin)著クローニング・ジーン・イクスプレッション・アンド・ピューリフィケイション・エクスペリメンタル・プロシデゥアー・アンド・プロセス・ラショナル(Cloning, Gene Expression and Protein Purification: Experimental Procedures and Process Rationale)オックスフォード大学出版(Oxford University Press)2001年記載の方法が用いられる。もしくは、cDNAをT7、T3、SP6などのRNA転写プロモーターを含むベクター中に組み込んで、転写によってヒトCCL16のmRNAを作製し、無細胞蛋白質合成系で発現させる方法、たとえばシュワルツとジェームズ(Swartz,&James)著 無細胞タンパク質発現(Cell-Free Protein Expression) スプリンジャー出版(Springer Publication) 2003年に記載の方法で発現させることで取得できる。また、ヒトCCL16のアミノ酸配列を基にペプチド合成法(泉谷等 ペプチド合成の基礎と実験 丸善株式会社 1975年発行、矢島等−日本生化学会編 生化学実験講座1 タンパク質の化学IV 東京化学同人株式会社 1977年発行)や部分的な配列をペプチド合成してそのペプチドを縮合する反応(日本生化学会編 新生化学実験講座 タンパク質IV 合成および発現 東京化学同人株式会社 1991年)によっても作製することが可能である。
【0059】
<ヒスタミンレセプターH4発現細胞>
本発明で用いるヒスタミンレセプターH4発現細胞としては、例えば遺伝子組換えによって作製された細胞、動物より取得した細胞、または培養細胞株などが挙げられる。
遺伝子組換えによって作製されたヒスタミンレセプターH4発現細胞は、例えば、ヒスタミンレセプターH4遺伝子を用いて、実施例1に示した方法によってヒスタミンレセプターH4を発現する組換え体細胞を取得することができる。ここで、例えば、ヒトのヒスタミンレセプターH4遺伝子は、後述する実施例1に示した方法、またはGenBank accession no. NM 021624に記載のDNA塩基配列を基にPCR法(チェンとジェームズ(Chen & James)著 PCRクローニングプロトコル第2版(PCR Cloning Protocols, 2nd ed.) ヒューマナ出版(HUMANA press)2002年)やcDNAクローニング法(サンブロック、フリッチ、マニアティス著(Sambrook J, Fritsch EF, Maniatis T.)モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル 第2版(Molecular Cloning:a laboratory Manual,2nd Edn.)(USA)Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989年)を用いることで取得することが可能である。
【0060】
また実施例1に記載の方法以外でも、当業者が用いる一般的な方法(横田および新井編集 バイオマニュアルシリーズ4 遺伝子導入と発現解析 羊土社発行 1994年、およびハービン(Harbin)著クローニング・ジーン・イクスプレッション・アンド・ピューリフィケイション・エクスペリメンタル・プロシデゥアー・アンド・プロセス・ラショナル(Cloning, Gene Expression and Protein Purification: Experimental Procedures and Process Rationale)オックスフォード大学出版(Oxford University Press)2001年)を用いて酵母、動物細胞、昆虫細胞等で発現させることが可能である。
【0061】
本発明においてヒスタミンレセプターH4発現細胞として使用し得る遺伝子組換え体細胞としては、実施例1に示した方法のほかに、例えば、CHO細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、WIHI−3細胞などの哺乳類細胞やSf9、Sf21細胞などの昆虫細胞に、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、アデノウイルス法、レトロウイルス法、バキュロウイルス法など一般的な方法で遺伝子を導入することにより得られる細胞が挙げられる(横田および新井編集 バイオマニュアルシリーズ4 遺伝子導入と発現解析 羊土社発行 1994年、およびハービン(Harbin)著クローニング・ジーン・イクスプレッション・アンド・ピューリフィケイション・エクスペリメンタル・プロシデゥアー・アンド・プロセス・ラショナル(Cloning, Gene Expression and Protein Purification: Experimental Procedures and Process Rationale)オックスフォード大学出版(Oxford University Press)2001年)。組換え体細胞における発現は、一過性発現および安定性発現のどちらでも使用できる。
【0062】
動物より取得したヒスタミンレセプターH4発現細胞としては、好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、または肥満細胞が挙げられる。例えば、後述する実施例6にはヒトおよびマウスの好酸球の取得方法が記載されているが、ヒスタミンレセプターH4の発現が確認されている樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞を用いることも可能である。これらの細胞はヒトまたはマウスのものを使うことが望ましいが、他の種の細胞を用いることも可能である。特にブタ、ラット、モルモットにおいては、ヒトに対するマウスのヒスタミンレセプターH4におけるアミノ酸配列のホモロジー(類似性)と比較して同等以上のホモロジーのあるヒスタミンレセプターH4分子をもつことが報告されていることから(ヒトヒスタミンレセプターH4のアミノ酸配列を用いたFASTA解析結果、各ヒスタミンレセプターのEMBL Acc. No.はヒトH4:Q9H3N8、マウスH4:Q91ZY2、ブタH4:Q8WNV9、ラット:Q91ZY1、モルモット:Q91ZY3)、これらの種の好酸球を用いることも可能である。
【0063】
ヒスタミンレセプターH4を発現している培養細胞株としては、ヒト白血病細胞株であるHL−60などを用いることが可能である。HL−60細胞にヒスタミンレセプターH4が発現していることは遺伝子的および機能的に確認されており、その発現はIL−5刺激によって増強されることも示されている(リュウ(Liu)等 モレキュラー・ファーマコロジー(Molecular Pharmacology)(USA) 2001年 59巻 p420-426およびリン(Ling)等 ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(British Journal of Pharmacology)(UK) 2004年 142巻 p161-171)。
【0064】
<ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合阻害物質の評価方法>
ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合阻害の評価は、例えば後述する実施例5に記載のように125Iで標識したヒトCCL16とヒスタミンレセプターH4発現細胞への結合を定量する系において被検物質を共存させることにより、ヒトケモカインCCL16の結合量を低下させる効果をみることによって実施できる。ヒスタミンレセプターH4発現細胞としては、前述の、遺伝子組換えによって作製された細胞、または動物より取得した好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球もしくは肥満細胞、または培養細胞株などを用いることができる。
【0065】
また、ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合阻害の評価は、ヒスタミンレセプターを発現した細胞を細胞の状態で用いるほか、該細胞をホモジェナイズによって破壊してレセプターが発現している細胞膜を回収して用いることによって行なうことも可能である。標識化ケモカインCCL16として、125Iの他にHで標識化されたケモカインCCL16も用いることができ、該H標識化ケモカインCCL16は、H標識化されたアミノ酸を用いて上記の方法で細胞系もしくは無細胞系で発現させることによって、またはペプチド合成法によって得ることができる。これらのラジオアイソトープされたケモカインCCL16のヒスタミンレセプターへの結合量は、例えばガンマカウンターやシンチレーションカウンターを用いることで測定できる。
【0066】
また、ケモカインCCL16を蛍光物質または発光物質で標識してヒスタミンレセプターH4への結合量を測定することも可能である。CCL16の蛍光物質または発光物質の標識は、ハーマンソン(Hermanson)著 バイオコンジュゲート・テクニックス(BIOCONJUGATE Techniques) アカデミック・プレス(Academic Press)発行 1996年などに記載の方法で行うことができる。蛍光物質で標識されたケモカインCCL16の結合量は、例えば蛍光分光光度計による測定やフローサイトメトリーなどの方法が用いられる。また、発光物質で標識されたケモカインCCL16の結合量は、例えば発光光度計やシンチレーションカウンターでの測定法などが用いられる。さらに、別のケモカインCCL16の標識法としては、アルカリフォスファターゼやパーオキシダーゼなどの酵素を結合させることであり、それらの酵素活性を測定するための基質を反応させて各基質の性状によって発色、蛍光、発光などを測定することで結合したケモカインCCL16量を測定できる。酵素のケモカインCCL16への結合は、ハーマンソン(Hermanson)著 バイオコンジュゲート・テクニックス(BIOCONJUGATE Techniques) アカデミック・プレス(Academic Press)発行 1996年などの方法を用いることができる。また、遺伝子工学的にCCL16をコードするDNA分子とアルカリフォスファターゼなどの酵素をコードするDNA分子を使って融合タンパク質として発現させることも可能である(稗島(Hieshima)等 ジャーナル・オブ・イミュノロジー(Journal of Immunology)(USA)1997年 159巻 p1140-1149)。また、ケモカインCCL16をビオチンやその類縁物質で標識して、酵素や蛍光物質や発光物質などが結合したアビジンまたはその類縁タンパク質を反応させることによって、結合量を測定することも可能である。さらに、標識されていないケモカインCCL16を用いてヒスタミンレセプターH4との結合を検出することも可能である。その一つの方法は、BIACORE(R)等の表面プラズモン共鳴法による測定で、センサーに固定化されたヒスタミンレセプターH4発現細胞または該細胞の細胞膜に対してのケモカインCCL16の結合を、BIACORE(R)システム(BIACORE社)などを用いて測定することができる(永田・半田編 生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法 シュプリンガー・フェアラーク東京発行 1998年)。また別の方法としては、BRET法によるケモカインCCL16の結合を検出することも可能である。この方法はヒスタミンレセプターH4をコードするDNAとルシフェラーゼをコードするDNAを、これらが融合タンパク質として発現するように遺伝子を構築して細胞に遺伝子導入し、レセプターが活性化した際に結合が認められるアレスチンにオワンクラゲの蛍光タンパク質を融合したタンパク質を発現するように作られた遺伝子を同時に細胞に導入してルシフェラーゼの発光性基質と反応させると、レセプターにケモカインCCL16が結合したときにのみ発光基質からの光エネルギーがオワンクラゲ蛍光タンパク質に転移することで波長のシフトが起こることを測定することにより、ケモカインCCL16の結合量を測定することが可能となる(パッカード・バイオサイエンス社 アプリケーション・ノート#BLT-001)。
【0067】
ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との特異的な結合を阻害する化合物の種類には大別して2種類考えられ、ひとつはケモカインCCL16側に結合する化合物であり、もうひとつはヒスタミンレセプターH4に結合する化合物である。ケモカインCCL16に結合する化合物は、先にケモカインCCL16と化合物を接触させた後、得られた混合物を化合物による非特異的な結合の影響がないように希釈してヒスタミンレセプターH4との結合を調べるか、限外ろ過法などで過剰な化合物の濃度を下げた後にケモカインレセプターH4との結合を調べることによって確認できる。また別の方法としては、BIOCOREなどの表面プラズモン共鳴法などによってもケモカインCCL16と化合物の結合を解析することが可能である。ヒスタミンレセプターH4と結合する化合物については、ヒスタミンレセプターH4発現細胞または該細胞の細胞膜と化合物を接触させた後に、該細胞または細胞膜を洗浄し、ケモカインCCL16との結合を調べることなどで確認できる。
【0068】
<ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応を阻害する物質の評価>
前述のケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合を阻害する化合物として得られた化合物は、必ずしもヒスタミンレセプターH4を介しての細胞への作用を阻害するとは限らず、ある場合においては化合物が単独でヒスタミンレセプターH4の活性化を及ぼす可能性、すなわちアゴニスト作用をもつ可能性がある。したがって、以下に述べるようなケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の細胞反応についても評価することが望ましい。ここで、ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応とは、ケモカインCCL16がヒスタミンレセプターH4と結合してレセプターを活性化し、その活性化のシグナルが細胞内の種々のシグナルを介して細胞内の物質の変動や変化、または細胞自体の形態や動きの変化を起こすことをいう。このようなケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応を抑制し得る化合物を取得することで、目的の化合物を選択することができる。7回膜貫通型レセプターのうちでGαqやGαiという種類のG蛋白質と共役するものは、レセプターが活性化することによって一過性に細胞内のカルシウム濃度が上昇することが知られている。そのような反応は、細胞内カルシウム濃度上昇反応と呼ばれており一般的には後述する実施例2、3、8に示したようにFura2−AM試薬を用いて蛍光波長のシフトによる細胞内カルシウム濃度変化を見る方法が用いられるが、Fura2−AMの代わりにFura3などの試薬が使われることもある。
【0069】
また、細胞内カルシウム濃度上昇反応は、カルシウム結合発光蛋白質エオクリンをヒスタミンレセプターH4発現細胞に注入または発現させることによって、発光によって検出することも可能である(レ・ポウル(Le Poul)等 ジャーナル・オブ・バイオモレキュラー・スクリーニング・ザ・オフィシャル・ジャーナル・オブ・ザ・ソサエティ・フォー・バイオモレキュラー・スクリーニング(Journal of biomolecular screening : the official journal of the Society for Biomolecular Screening.) 2002年 7巻 p57-65)。
【0070】
また、評価に使用できる細胞反応として、ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の細胞遊走反応が挙げられる。細胞遊走反応は通常は実施例4に記載の方法のように、トランスウェルなど遊走を惹起する因子がない場合には通過できない程度の小孔のあいたメンブレンを通過した細胞の数を指標とする。遊走した細胞数の算定については、実施例4のように細胞のDNAを蛍光染色などで染色する方法や、フローサイトメトリー法を用いたり血球算定盤を用いて顕微鏡下で計数する方法も用いられる。
【0071】
その他の細胞の反応を評価する方法としては、ヒスタミンレセプターH4はGαi型のGタンパク質と共役しているものと考えられることから、Gタンパク質と共役しているアデニルサイクレースの阻害による細胞内サイクリックAMP(cAMP)上昇の抑制反応の検出する方法を用いることができる。この方法の概要は、ヒスタミンレセプターH4発現細胞をForskolinなどの細胞内cAMP濃度を上昇させる薬剤の存在下でケモカインCCL16を細胞に反応させることによってcAMP濃度上昇が抑えられることを検出する(リュウ(Liu)等 モレキュラー・ファーマコロジー(Molecular Pharmacology)(USA) 2001年 59巻 p420-426)。ケモカインCCL16と共に該ケモカインとヒスタミンレセプターH4との反応を阻害する化合物が存在すれば、該ケモカインによるcAMP上昇抑制効果が濃度依存的に解除されることを調べることによって、化合物のケモカインCCL16とヒスタミンレセプター発現細胞に対する反応の阻害効果を評価できる。cAMP濃度の測定は市販のELISAキット(Cayman社 Cat#581101 等)やパーキンネルマー社cAMP AlphaScreen camp assay kit(CatNo.6760600)などを用いることで測定できる。
【0072】
また、別の細胞反応の評価方法としては、レセプター活性化からカルシウム流入のシグナル系の間にあるIP3の濃度を測定することが挙げられる。ケモカインCCL16がヒスタミンレセプターH4細胞へ作用することで細胞内のIP3濃度の上昇が引き起こされるが、その作用を低下させる効果を試験することで目的の化合物を得ることができる。細胞内のIP3測定については既知の方法で実施可能であるが、たとえばパーキンエルマー社のAlpha Screen IP3 assay supplement(Cat No.6760621)とGST detection kit(Cat No. 6760603)の組み合わせなどを用いることもできる。
【0073】
また、好酸球ではヒスタミンレセプターH4の作用として細胞形態の変化を起こすことが知られており(リン(Ling)等 ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(British Journal of Pharmacology)(UK) 2004年 142巻 p161-171)、このような反応を用いてケモカインCCL16の作用およびその作用を阻害する化合物を評価することも可能である。ヒスタミンレセプターH4が活性化された好酸球においてはフローサイトメトリーにおける前方散乱光がより高い方にシフトすることが観察されるため、ケモカインCCL16と化合物によるこのような作用について評価できる。また、その他の7回膜貫通型レセプターの機能を解析するための細胞反応系についても、適宜ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の解析に応用することができる。
【0074】
ここで用いるヒスタミンレセプターH4発現細胞は、特に断りの無い限りは、前述の、遺伝子組換えによって作製された細胞、または動物より取得した好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球もしくは肥満細胞、または培養細胞株などを用いることができる。
【0075】
ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞における細胞反応を阻害する化合物の種類は大別して3種類考えられる。ひとつはケモカインCCL16側に結合する化合物であり、もうひとつはヒスタミンレセプターH4に結合する化合物であり、さらにもう一つは細胞内でヒスタミンレセプターH4のシグナル伝達系を阻害する化合物である。ケモカインCCL16に結合する化合物は、先にケモカインCCL16と化合物を接触させた後、得られた混合物を化合物による非特異的な結合の影響がないように希釈してヒスタミンレセプターH4との結合を調べるか、限外ろ過法などで過剰な化合物の濃度を下げた後にケモカインレセプターH4との結合を調べることによって確認できる。また、ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4の反応に対して阻害効果の得られた化合物については、BIOCOREなどの表面プラズモン共鳴法などによってもCCL16と化合物との結合を解析できる。ヒスタミンレセプターH4と結合する化合物もしくは該レセプターのシグナル伝達系を阻害する化合物については、ヒスタミンレセプターH4発現細胞もしくは該細胞の細胞膜と化合物を接触させた後に、該細胞もしくは細胞膜を洗浄し、ケモカインCCL16の反応性を検証できる。ヒスタミンレセプターH4に結合する化合物と細胞内で該レセプターのシグナル伝達系を阻害する化合物の弁別するためには、上に示したケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の阻害について調べるか、ヒスタミンレセプターH4発現細胞もしくは該細胞の膜画分を用いてBIOACORE(R)などによって化合物のヒスタミンレセプターH4への結合を確認することによって行うことができる。
【0076】
<試験動物を用いてのケモカインCCL16による好酸球誘導に対する化合物の試験方法>
ヒトにおいてケモカインCCL16は肝臓に特異的な発現をすることが示されているものの、マウスにおいてはケモカインCCL16の機能的な遺伝子や発現については証明されていない。しかしながら、実施例7においてマウスの好酸球がヒトCCL16と反応して遊走反応を起こすこと、および実施例9に示したようにマウスにヒトCCL16を投与することによって、好酸球の骨髄からの誘導と血中の好酸球増多状態を惹起することができることを証明した。そのため、試験動物において血中または肝臓組織中にケモカインCCL16を高濃度存在させることによって、ケモカインCCL16による好酸球増多および好酸球の肝臓組織浸潤による組織障害に対する、予防剤または治療剤候補化合物の試験を行うことができる。その一つの様式としては実施例9に示したように試験動物としてマウスを用いてケモカインCCL16を注射することで血中のケモカインCCL16濃度を上げる方法が挙げられる。この方法においては血中のケモカインCCL16の濃度が1〜10,000nM程度、好ましくは10〜1000nM程度になるようにケモカインCCL16を投与する。試験に供される化合物は経口的または非経口的に投与され、ケモカインCCL16が投与された直後から2時間の間、好ましくはケモカインCCL16投与後30分から1時間30分の間の血中、骨髄中の好酸球量を測定して投与した化合物の効果を判定できる。
【0077】
化合物の投与は、ケモカインCCL16を投与する前に行うことによって該化合物の予防効果を、ケモカインCCL16を投与して血中での好酸球量の上昇か骨髄での好酸球減少が認められるタイミングで投与することによって該化合物の治療効果を検証できる。また別の形態としては、マウスにヒトCCL16をコードした遺伝子を導入して発現させることによっても血中もしくは肝臓組織中のケモカインCCL16量を上げることができる。その方法の例としては、ケモカインCCL16の遺伝子が導入されたトランスジェニックマウスが挙げられる。この方法では適当なプロモーター配列(場合によってはエンハンサー配列を組み合わせる)に制御される形でケモカインCCL16をコードする遺伝子を含むベクターをマウス受精卵にマイクロインジェクション法などで導入し、偽妊娠させたマウスの子宮内に移植して生まれてきた仔を得る。この仔の尾もしくは部分切除した肝臓についてケモカインCCL16遺伝子が組み込まれていることPCR法等で確認し、血中もしくは組織中でケモカインCCL16の発現を抗体(R&D System社 MAB328およびBAF802等)によるELISA、ウエスタンブロティング、免疫組織化学的手法によって確認できる。またケモカインCCL16を制御するプロモーターやエンハンサーの種類として、アルブミン(albumin)プロモーターとエンハンサーの組み合わせやアルファ1アンチトリプシン(α1-antitrypsin)プロモーターなどを用いることによって、該トランスジェニックマウスの成体肝臓中に特異的にケモカインCCL16を発現させることが可能である(ピンカート(Pinkert)等 ジーンズ・アンド・デベロップメント(Genes and development)(USA) 1987年 1巻 p268-276、ガイ(Gay)等 エンドクリノロジー(Endocrinology)(USA) 1997年 138巻 p2937-2947)。また、CYP1A1プロモーターを用いたベクターを導入したマウスにダイオキシンや3−メチルコラントレンを投与したり、C-reactive proteinのプロモーターを用いたベクターを導入したマウスにリポポリサッカライド(LPS)を投与することなどによって、これらのプロモーターの下流に組み込んだケモカインCCL16遺伝子の肝臓における発現を誘導することも可能である(キャンベル(Campbell)等 ジャーナル・オブ・セル・サイエンス(Journal of Cell Science)(England) 1996年 109巻 p2619-2925、キッフ(Cuif)等 オンコジーン(Oncogene)(England)1993年 8巻 p87-93)。
【0078】
また、試験動物においてケモカインCCL16をハイドロダイナミックーベースド・トランスフェクション法(ロスマニス(Rossmanith)等 ディーエヌエー・アンド・セル・バイオロジー(DNA and cell biology)(USA)2002年 21巻 p847-853)によって適当なプロモーター(場合によってエンハンサー配列も含む)の制御されたケモカインCCL16のcDNAを含むベクターを注入することによって行うことができる。この方法においては注入したベクターが肝臓に選択的に取り込まれるため、肝臓においてケモカインCCL16が選択的に発現されるが、より選択的に肝臓で定常的もしくは誘導的にケモカインCCL16を発現させるために前述のように肝臓特異的発現のためのプロモーターやエンハンサーを用いることも可能である。
【0079】
さらに、試験動物に遺伝子を導入する方法としてはアデノウイルスベクターなどウイルスベクターや(オウリッチオ(Auricchio)等 ジーン・セラピー(Gene therapy)(England) 2002年 9巻 p963-971)、リポソームによる遺伝子導入法(イイムロ(Iimuro)等 ジャーナル・オブ・ヘパト・ビリアリー・パンクレアティック・サージェリー (Journal of hepato-biliary-pancreatic surgery)(Japan) 2003年 10巻 p45-47、ハシダ(Hashida)等 アドバンスド・ドラッグ・デリバリー・レビューズ(Advanced drug delivery reviews)(Netherlands) 2001年 52巻 p187-196)なども用いることができる。
【0080】
ケモカインCCL16の投与もしくはケモカインCCL16遺伝子を導入した試験動物においては、肝臓疾患モデルの手法、例えば四塩化炭素投与肝硬変誘導モデル(イナガキ(Inagaki)等 ヘパトロジー(Hepatology)(USA) 2003年 38巻 p890-899)やマウス肝炎ウイルス感染モデル(フチザキ(Fuchizaki)等 ジャーナル・オブ・メディカル・バイロロジー(Jouralof Medical Virology)(USA)2003年 69巻 p188-194)との組み合わせによって肝臓疾患における化合物の効果を検討することも可能である。
【0081】
また、ケモカインCCL16の投与もしくはケモカインCCL16遺伝子を導入した試験動物においては、アレルギー性疾患モデルの手法、例えば喘息モデル(田中ら 薬学雑誌 (日本薬学会発行) 2002年 122巻 p637-642)や、アレルギー性皮膚炎モデル(マツモト(Matsumoto)等 スキン・リサーチ・アンド・テクノロジー(Skin research and technology)(Denmark) 2004年 10巻 p122-129)、もしくはアレルギー性鼻炎モデル(マックカスター(McCusker)等 カレント・オピニオン・イン・アラジー・アンド・クリニカル・イミュノロジー(Current opinion in allergy and clinical immunology)(USA)2004年 4巻 p11-16)などとの組み合わせによってアレルギー性疾患における化合物の効果を検討することも可能である。
【0082】
以上の検討に用いる試験動物としてはマウスのほかに、好酸球においてヒスタミンレセプターH4が発現している動物、特にヒトヒスタミンレセプターH4と高い類似性を示すヒスタミンレセプターを保有するブタ、ラット、モルモットなどを用いることが可能である。
【0083】
<試験動物を用いての、ケモカインCCL16による樹状細胞、マクロファージ、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞またはヒスタミンレセプターH4発現組換え体細胞誘導に対する化合物の試験方法>
好酸球以外を指標にして、例えば試験動物における樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞の集積を指標として、該試験動物における化合物の試験を行うことができる。グイドゥッチ(Guiducci)等 (キャンサー・リサーチ(Cancer Research)(USA) 2005年 65巻 p3437-3446)の中に、マウスに固形腫瘍を形成させて、遺伝子導入によってその腫瘍の中でケモカインCCL16を発現させた場合、樹状細胞、マクロファージ、リンパ球が集積することが報告されている。同様にケモカインCCL16またはケモカインCCL16の遺伝子を動物の臓器または組織に導入することによって、樹状細胞、マクロファージ、リンパ球の該臓器または組織への集積を検出することができる。このような方法において、試験動物に試験物質を投与する工程を組合わせることで、該試験物質のケモカインCCL16の樹状細胞、マクロファージ、リンパ球などの集積に対する抑制の効果を試験することが可能である。また集積を検出する対象の細胞としては、ヒスタミンレセプターH4の発現が知られている好中球、好塩基球、肥満細胞などを用いることができる。さらに、試験動物にヒスタミンレセプターH4を発現させた組換え体細胞を導入し、試験動物においてケモカインCCL16を投与した、またはケモカインCCL16の遺伝子を導入して発現させた臓器または組織への該組換え体細胞の集積を検出することで、試験を行うことも可能である。これらの試験方法で特定した化合物は、前述のケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4を発現した細胞を用いた試験方法と組合わせることで、該物質のケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との反応に対する特異性を検証することも可能である。用いる動物としてはマウスが好ましいが、ヒスタミンレセプターH4が発現している動物、特にヒトヒスタミンレセプターH4と高い類似性を示すヒスタミンレセプターを保有するブタ、ラット、モルモットなどを用いることも可能である。
【0084】
<本発明の予防または治療薬の選択方法に供する被検物質>
以上述べてきたケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4または該レセプターを発現する細胞との関係に着目した肝臓疾患、肝臓疾患に関連する好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍(ガン)、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患の予防剤または治療剤の選択方法に供される被検物質について説明する。ここで被検物質は、無機化合物、有機化合物、有機ポリマー、ペプチド、タンパク質、糖、脂質およびそれらの複合体を含む。このような化合物は適当な溶媒、好ましくは水系溶液もしくは水系分散溶液の形で試験に供することができる。
【0085】
ケモカインCCL16と、ヒスタミンレセプターH4または該レセプター発現細胞との結合や反応を阻害する化合物の一つの形態としては、ヒスタミンレセプターH4に結合して該レセプターのシグナルを遮断する化合物が挙げられる。このような化合物の一例としてはヒスタミン作用におけるヒスタミンレセプターH4のアンタゴニストが挙げられる。現在まで、ヒスタミンレセプターのアンタゴニストの肝臓疾患や肝臓疾患に関連する好酸球増多症に対する作用については報告がないが、実施例3〜5および7〜9においてヒスタミンレセプターH3、H4アンタゴニストであるthioperamideは、求める活性をもつことが示されている。
【0086】
このほかのヒスタミンレセプターH3やH4に対してのアンタゴニストとしてはClobenpropitやIodophenpropitなど(オライリー(O‘Reilly)等 ジャーナル・オブ・レセプターズ・アンド・シグナル・トランスダクション(Journal of Receptors and Signal Transduction)(USA) 2002年 22巻 p431-448)、ヒスタミンレセプターH1、H4アンタゴニストとしてはDexepinやCinnarizineおよびPromethazineなどが知られている(ギュエン(Nguyen)等モレキュラー・ファーマコロジー(Molecular Pharmacology)(USA) 2001年 59巻 p427-433)。また、ヒスタミンレセプターH4に対する特異的なアンタゴニストとしてJNJ7777120(サーモンド(Thurmond)等 ザ・ジャーナル・オブ・イクスペリメンタル・セラピューティックス(The Journal of pharmacology and experimental therapeutics)(USA) 2004年 309巻 p404-413)も報告されている。
【0087】
また、別のケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4または該レセプター発現細胞との結合または反応を阻害する化合物の形態としては、ケモカインCCL16に結合して、ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合もしくは反応を阻害する化合物がある。このような化合物の一例としてはケモカインCCL16の中和抗体が挙げられる。このような抗体としてはR&D社のCCL16中和抗体(MAB328)などがあるが、当業者は市販のヒトCCL16などをマウスや他の動物に免疫してケモカインCCL16の中和活性のあるポリクローナルもしくはモノクローナル抗体を取得することができる。これらの抗体については、抗体結合能を保持した形での抗体断片とすることができる。またモノクローナル抗体をコードする遺伝子の塩基配列を解析することによってscFvやキメラ抗体、ヒト型化抗体などの組換え型抗体の作製も公知の技術で可能である。これらのケモカインCCL16に結合する化合物も、本発明の評価に供される化合物として挙げられる。
【0088】
このように本発明のスクリーニング方法により評価され、所望の活性を有する化合物は、肝臓疾患、肝臓障害に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍(ガン)、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患の治療剤または予防剤として用いることができる。
【0089】
本発明のスクリーニング方法により選択される化合物は、製剤化して経口または非経口的に、ヒトまたは動物に対して安全な薬剤として投与することができる。
非経口投与には、例えば静脈注射、筋肉内注射、皮下注射、腹腔内注射、経皮投与、経肺投与、経鼻投与、経腸投与、口腔内投与、経粘膜投与等が挙げられる。例えば注射剤、坐剤、エアゾール剤、経皮吸収テープなどである。
【0090】
経口投与製剤としては、例えば錠剤(糖衣錠、コーティング錠、バッカル錠を含む)、散剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、顆粒剤(コーティングされたものを含む)、丸剤、トローチ剤、液剤、またはこれらの製剤学的に許容されうる徐放化製剤等が挙げられる。経口投与用液剤には懸濁剤、乳剤、シロップ剤(ドライシロップを含む)、エリキシル剤などが挙げられる。
これらの製剤は公知の製剤学的製法に準じ、製剤として薬理学的に許容されうる担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等とともに医薬組成物として投与される。
【0091】
これらの製剤に用いる担体や腑形剤としては、例えば乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末などを、結合剤としては例えばデンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどを、崩壊剤としては例えばデンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなどを、滑沢剤としては例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴールなどを、着色剤としては医薬品に添加することが許容されているものを、それぞれ用いることができる。
【0092】
錠剤、顆粒剤は必要に応じ白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体などで被膜してもよい。さらにエチルセルロースやゼラチンのような物質のカプセルでもよい。また、注射剤を調製する場合は、必要に応じ、主薬にpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加してもよい。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0094】
[実施例1]ヒスタミンレセプターH1、H2、H4を発現する組換え体細胞の調製
種々のケモカインがヒスタミンレセプターH1、H2、H4に対する反応性の有無を調べるため、それぞれのヒスタミンレセプターを発現する組換え体細胞を調製し、細胞内カルシウム濃度上昇反応を指標にした実験を行なった。ヒスタミンレセプターH1、H2、H4をコードするDNA核酸分子は、フィトヘムアグルチニンで刺激したヒト末梢血単核球細胞よりcDNA合成システム(GIBCO BRL社:現Invitrogen社)を用いて作製したcDNAライブラリー、および各々のヒスタミンレセプターのコード領域を増幅しうるプライマーセットを用いてPCR法によって増幅し、その産物を精製することにより取得した。PCR法による増幅に用いたプライマーセットの配列は以下の通りである。
H1: Forward CATGTCGACATGAGCCTCCCCAATTCC
Reverse CATGCGGCCGCTTAGGAGCGAATATGCAG
H2: Forward CATGTCGACATGGCACCCAATGGC
Reverse CATGCGGCCGCTTACCTGTCTGTGGCTCC
H4: Forward CATGTCGACATGCCAGATACTAATAGC
Reverse CATGCGGCCGCTTAAGAAGATACTGACCG
【0095】
得られたそれぞれのヒスタミンレセプターをコードするDNA核酸分子を、レトロウイルスベクターpMX−IRES/EGFP(吉田等 FEBSレターズ(FEBS letters)(Netherlands) 1999年 458巻 p37-40)のSal I− Not Iサイトに挿入し、クローニングした。得られた各ヒスタミンレセプターをコードするDNA核酸分子がクローニングされたpMX−IRES/EGFPベクター各1μgを、BOSC23細胞(ATCC CRL-11270 、ピアー(Pear)等 プロシーディング・オブ・ザ・ナショナルアカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)(USA)1993年90巻 p8392-8396)にトランスフェクトし、その培養上清を回収することで各ヒスタミンレセプターをコードしている核酸分子がパッケージされたウイルス含有培養液を得た。そのウイルス含有培養液を、マウスのプレBリンフォーマ細胞株L1.2細胞(キャンベル(Campbell)等 ザ・ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(The Journal of Cell Biology)(USA)1996年 134巻 p255-266)の培養液中に添加して培養した。各ヒスタミンレセプターをコードする核酸分子を含有しているレトロウイルスが感染して各ヒスタミンレセプターが発現したL1.2 細胞を取得するために、pMX−IRES/EGFPにおいて各レセプターをコードするDNA核酸分子の下流に存在して各ヒスタミンレセプターが発現したときのみに発現されるEGFP(オワンクラゲ蛍光タンパク質)の発現した細胞を、FACSCaliburTMフローサイトメーター(ベクトン・ディッキンソン社)によってFL1の蛍光強度が高い細胞を取得して培養により増殖させるステップを3回繰り返した。
【0096】
その結果、各ヒスタミンレセプターを発現した細胞は、全細胞数の95%以上がEGFP陽性という形で得ることができた。これらの細胞についてヒスタミンレセプターH1をコードするDNA核酸分子を導入して発現させたものをL1.2−H1、ヒスタミンレセプターH2をコードするDNA核酸分子を導入して発現させたものをL1.2−H2、ヒスタミンレセプターH4をコードするDNA核酸分子を導入して発現させたものをL1.2−H4とそれぞれ名づけた。
【0097】
[実施例2]各種ケモカイン分子のヒスタミンレセプターH1、H2、H4レセプター発現細胞に対する反応性の検討
32種類のケモカイン分子(CCケモカイン:CCL1、2、3、4、5、7、8、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、24、25、26、27、28;CXCケモカイン:CXCL4、8、9、10、12、13、16;その他:XCL1、CXCL1 総てのリコンビナントケモカインはR&D Systems社製を使用)について、ヒスタミンレセプターH1、H2、H4との反応性を細胞内カルシウム濃度上昇反応を用いて解析した。その方法は、L1.2−H1、L1.2−H2、L1.2−H4の各細胞106個を、1mlの1mg/mlのBSAを含む10mM HEPES緩衝液(pH7.4)に懸濁し、そこに3μMになるようにfura2−AM fluorescence dye(Molecular Probes社)を添加して45分間静置した。そののち、該細胞を1mg/mlのBSAを含む10mM HEPES緩衝液(pH7.4)で洗浄し、F2000型分光蛍光光度計(日立製作所)のキュベット中に移した後、各ケモカインを最終濃度100nMになるように添加して蛍光強度を測定した。蛍光測定によるカルシウムイオン流入の強度は、510nMの波長の励起光を用いて340nMと380nMの蛍光強度を測定し、340nMの蛍光強度/380nMの蛍光強度の比が上昇することを指標にしてモニタリングした。
【0098】
32種類のケモカイン分子と3種類のヒスタミンレセプターの反応を細胞内カルシウム濃度上昇反応で解析した結果、CCL16をL1.2−H4細胞と反応させた場合にのみ顕著な細胞内カルシウム濃度上昇反応が認められた。
【0099】
[実施例3]CCL16のヒスタミンレセプターH4との反応の検証
実施例2で認められたCCL16のヒスタミンレセプターH4との反応性について、細胞内カルシウム濃度上昇反応を指標にして検証した。細胞内カルシウム濃度上昇反応の検出は、実施例2に記載の方法と同様に行なった。反応するレセプターの特異性を調べるため、L1.2−H1、L1.2−H2、およびL1.2−H4細胞に、種々の濃度のCCL16(R&D Systems社)を添加してカルシウム流入の強度を測定した。コントロールとしては最終濃度100nMのヒスタミン(Sigma社)を用いた。またCCL16の反応がヒスタミンレセプターH4を介していることを検証するため、デセンシタイゼイション反応による検証を行なった。デセンシタイゼイション反応とは、ケモカインレセプターをはじめとした七回膜貫通型レセプターにおいて、一度その特異的リガンドによって活性化された後に、該レセプターを再度そのリガンドで刺激しても反応が抑制される現象をいう(ミューラー(Mueller)等 ザ・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(The Journal of Biochemistry)(USA) 1997年 272巻 p8207-8214)。その方法は、L1.2−H4細胞にCCL16またはヒスタミンを反応させて細胞内カルシウム濃度上昇反応を検出し、その反応がほぼベースライン程度まで低下した時点でヒスタミンまたはCCL16のうち最初に加えたものとは異なる試薬を加えた時の細胞内カルシウム濃度上昇反応を観察する。このとき最初に加えた試薬によって後から加えた試薬の細胞内カルシウム濃度上昇反応が抑制されている場合には、両者は同じレセプターを介して反応していると解釈される。また、ヒスタミンレセプターH3およびH4のアンタゴニストであるthioperamide(Sigma社)を添加した後に、CCL16またはヒスタミンに対する細胞内カルシウム濃度上昇反応の抑制効果を観察することで、ヒスタミンレセプターH4との反応性について検証した。なお、ここで行なっている細胞内カルシウム濃度上昇反応の観察は実施例2に記載の方法で行なった。
【0100】
L1.2−H1、L1.2−H2、およびL1.2−H4細胞におけるCCL16およびヒスタミンによる細胞内カルシウム濃度上昇反応の結果を図1Aに示す。最終濃度100nMのヒスタミンによれば、L1.2−H1、L1.2−H2、およびL1.2−H4細胞に顕著な細胞内カルシウム濃度上昇反応が検出された。それに対してCCL16では、L1.2−H1およびL1.2−H2細胞においては最終濃度100nMでは細胞内カルシウム濃度上昇反応は認められず、L1.2−H4細胞においてのみ最終濃度10nMおよび100nMで細胞内カルシウム濃度上昇反応が認められ、CCL16はヒスタミンレセプターH4と特異的に反応することが示された。また、L1.2−H4細胞を用いたCCL16およびヒスタミンの相互によるヒスタミンレセプターH4におけるデセンシタイゼイションの結果、ならびにヒスタミンレセプターH4におけるthioperamideによるCCL16またはヒスタミンとの反応性の結果を図1Bに示す。L1.2−H4細胞に最初に最終濃度50nMから400nMのCCL16を添加し細胞内カルシウム濃度上昇反応を起こした後、最終濃度100nMのヒスタミンを加えて細胞内カルシウム濃度上昇反応を調べた結果では、CCL16の濃度に依存して後から加えたヒスタミンによる細胞内カルシウム濃度上昇反応が抑制される現象が観察された。またL1.2−H4細胞に最初に最終濃度100nMのヒスタミンを添加して、その後に最終濃度100nMのCCL16を添加した場合には、ヒスタミン添加によるカルシウムイオン流入に続くCCL16の反応は強く抑制されることが観察された。また最終濃度50μMのthioperamideを最初に添加しておいて、その後に最終濃度100nMのCCL16またはヒスタミンを添加しても細胞内カルシウム濃度上昇反応は認められなかった。以上の結果より、CCL16はヒスタミンレセプターH4と特異的に反応して、細胞反応を引き起こすことが示された。
【0101】
[実施例4]CCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の遊走反応
ケモカイン分子の特徴であるレセプター反応を介しての細胞遊走反応について、L1.2−H4細胞を用いて検証した。細胞遊走反応の検出方法は5μm ポアのポリカーボネート膜のトランスウェルプレート(Costar社)を用いて以下の方法で行なった(野見山等 インターナショナル・イミュノロジー(International Immunology)日本免疫学会発行 2001年 13巻8号 p1021-1029)。ヒスタミンレセプター発現細胞を2x10細胞/mlになるように0.5%BSA、10mM HEPES緩衝液(pH7.4)を含み、フェノールレッドを含まないRPMI1640倍地(Invitrogen社)よりなる遊走反応用培地に懸濁させ、その細胞懸濁液100μlをトランスウェルプレートの上槽(upper well)に注入した。下槽(lower well)にはCCL16またはヒスタミンを所定の濃度含むように遊走反応用培地に溶解したものを600μl注入し、5%COで37℃の細胞培養インキュベーター中に4時間静置した。遊走反応により上槽から下槽へ膜を通過して移動した細胞は、0.1%のTriton X−100で溶解してPicoGreen(R) double-stranded DNA quantitation reagent (Molecular Probes社)を用いてDNA量を定量した。測定したDNA量を基に、上槽に入れた細胞数に対して下槽に移動した細胞の割合(%)を算定して、遊走反応の強度の指標とした。CCL16のヒスタミンレセプター発現細胞の種類による違いを検証するためにL1.2−H1、L1.2−H2、およびL1.2−H4細胞をそれぞれ上槽に入れ、下槽に0.1から1000nMのCCL16またはヒスタミンを添加したときの遊走反応実験を行なった。次にL1.2−H4細胞を用いてヒスタミンレセプターH3およびH4のアンタゴニストであるthioperamideを0.01から100μM添加して、下槽に100nMのCCL16を入れた時の遊走反応反応実験を行なった。またCCL16のL1.2−H4の遊走反応におけるヒスタミンの作用を調べるため、下槽に1、10、100nMのCCL16とヒスタミンを10nM共存させたとき、または共存させなかったときの遊走反応実験を行なった。またさらに、CCL16のL1.2−H4への作用がケモカインの特徴である細胞を呼び寄せる作用(Chemotaxis)であることを検証するため、上槽、下槽に対してCCL16(100nM)を両方に入れない(−/−)、上槽のみに入れる(+/−)、下槽のみに入れる(−/+)および両方に入れる(+/+)のパターンで遊走反応実験を行なった。ケモカインレセプターなどの細胞内でのシグナル伝達による遊走反応は、レセプターに共役するGαi型のGタンパク質の作用を介するといわれている。そのためL1.2−H4細胞にGαiの阻害剤である百日咳毒素:PTX(Invitrogen社)を500ng/mlで加えた場合と加えなかった場合について、100nMのCCL16による細胞遊走反応実験を行なった。
【0102】
L1.2−H1、L1.2−H2およびL1.2−H4細胞を用いてヒスタミンおよびCCL16での細胞遊走反応実験の結果を図2Aに示す。ヒスタミンおよびCCL16の両者においてL1.2−H1およびL1.2−H2細胞での遊走反応は認められなかったが、L1.2−H4細胞においてはいずれも100nMの濃度をピークとする遊走反応が認められた。CCL16のピークでの遊走の程度(% Input cell)は、ヒスタミンの場合のピークと比べて同等かやや高い傾向にあった。次にL1.2−H4細胞のCCL16に対する遊走反応におけるthioperamideの作用を調べた結果を図2Bに示す。100nMのCCL16によるL1.2−H4細胞の遊走反応はthioperamideによって濃度依存的に抑制されたことからCCL16の細胞遊走作用はヒスタミンレセプターH4を介していることが示された。またその際のIC50値は約50μMであった。またCCL16のL1.2−H4の遊走反応においてヒスタミンをCCL16に加えた場合の細胞遊走反応実験の結果を図2Cに示す。1、10、100nMのCCL16に10nMのヒスタミンを加えた場合にはCCL16単独よりも高い遊走反応(% Input cell)が認められ、ヒスタミンがCCL16と相加的にL1.2−H2細胞の遊走反応に作用することが示された。CCL16のL1.2−H4への作用が細胞を呼び寄せる作用(Chemotaxis)であることを検証するため、上槽、下槽に対してCCL16(100nM)を両方に入れない(−/−)、上槽のみに入れる(+/−)、下槽のみに入れる(−/+)および両方に入れる(+/+)のパターンで遊走反応実験を行なった結果を図4Dに示す。この結果では下槽(lower well)のみにCCL16を入れた場合(−/+)にのみL1.2−H4の強い遊走反応が観察されたことから、CCL16の細胞遊走への作用は細胞をChemotaxisであることが証明された。またCCL16によるL1.2−H4の遊走反応に対するPTXの作用を検討した実験結果を図2Eに示す。この結果、PTXの作用によってCCL16によるL1.2−H4細胞の遊走は完全に抑制されるため、CCL16のヒスタミンレセプターH4を介した反応もケモカインレセプター等と同じGαi型のGタンパク質による細胞内シグナルによることが示された。
【0103】
[実施例5]CCL16のヒスタミンレセプターH4への結合
CCL16がヒスタミンレセプターH4に直接結合することおよびその親和性について調べるため、125Iで標識したCCL16のL1.2−H4細胞での結合実験を行なった。リコンビナントCCL16(R&D sysytem社)を125I-labeled Bolton and Hunter reagent(Amersham Biosciences社)を用いて業者添付のプロトコールに準じて標識化を行なった。得られた125I−CCL16の比活性は1.2x10cpu/μgであった。飽和結合実験は、1x10細胞のL1.2−H4に対して種々の濃度の125I−CCL16を含む200μlの結合実験用培地(0.1% BSAおよび20mM HEPES緩衝液(pH7.4)を含むRPMI1640)を15℃で1時間反応させることによって行なった。その後細胞を5回結合実験用培地で洗浄して、結合した125I量をガンマカウンターで計測した。この際のバックグランド値としては125I−CCL16に対して100倍のモル比の標識していないCCL16を加えて反応させたときのカウントを計測して、各測定値より差し引いた。また125I−CCL16のL1.2−H4への結合に対するCCL16、ヒスタミン、thioperamideの結合競合実験においては10nMの125I−CCL16と種々の濃度のCCL16、ヒスタミン、thioperamideそれぞれを含む200μlの結合実験培地を1x10細胞のL1.2−H4と反応させて同様な方法で結合125Iの量を測定した。結合実験の結果の解析はGraphPad PRISM(R)ソフトウエア(GraphPadSoftware社)を用いて行なった。
【0104】
飽和結合実験の125I−CCL16結合量のグラフを図3Aに、その結果から算定したスキャッチャードプロットのデータを図3Bに示した。この結果より125I−CCL16はヒスタミンレセプターH4に対してKd=17nMの親和性を示し、L1.2−H4上の125I−CCL16結合サイトは41,000sites/cellであることが分かった。また結合競合実験の結果を図3Cに示す。この結果から125I−CCL16のヒスタミンレセプターH4に対する結合へのCCL16、ヒスタミン、thioperamideの結合阻害活性はそれぞれIC50=8.8nM、4.1nM、57nM であり、CCL16とヒスタミンは、ヒスタミンレセプターH4に対してほぼ同程度の親和性を持つことが示された。
【0105】
[実施例6]ヒトおよびマウス好酸球におけるヒスタミンレセプターH3およびH4の発現の解析
ヒトおよびマウスの好酸球のヒスタミンレセプターH3およびH4の発現を確認するため、RT−PCR法による解析を行なった。ヒト好酸球の取得はハンセル(Hansel)等 ジャーナル・オブ・イミュノロジカル・メソッズ(Journal of Immunological Methods)(Netherlands) 1991年 145巻 p105-110に記載の方法に従って行なった。その概要はアレルギー罹患歴の無い健常人(4名)より静脈採血した血液をデキストランT500存在下で遠心分離してバフィーコートを取得した。得られた細胞は比重1.088g/mlのPercoll(Pharmacia Biotech社)による比重遠心法で好酸球画分を取得した。さらに好酸球の純度を上げるため、anti-CD16-bound micromagnetic beadsおよびmagnetic-activated cell sorter column(以上Miltenyi BioTech社)を用いて混在する好中球を除去し、そのカラムの素通り画分を取得した。得られた好酸球の純度は99%以上であった。マウスの好酸球の取得はTokui等 バイオケミカル・アンド・バイオフィジッカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochemical and biophysical research communications)(USA)1997年 233巻 p527-531に記載の方法に従って行なった。その概要は以下の通りである。8週齢で購入したBalb/cマウス(日本クレア社)を少なくとも1週間SPF飼育環境で馴化した。そのマウスの両側ヒラメ筋に50μlの0.25% bupivacaine(Sigma社)を注射し、その3日および10日後に同じ部位に50μlのPBSに溶解した75μgのpCAGGS−IL−5プラスミドを注射した。その2から3週間後にマウスの血中白血球のうち好酸球が>50%になったことを確認してマウスを屠殺して脾臓を摘出し、脾臓細胞を調製した。脾臓細胞は比重が1.06、1.07、1.09g/mlのPercoll(Pharmacia Biotech社)による不連続密度勾配遠心法で250xgで20分間遠心して比重1.07g/mlと1.09g/mlの間の層に存在する細胞を回収した。さらに好酸球はPercoll遠心法で得られた細胞をanti-CD90(Thy1.2), anti-CD45R (B220), anti-CD8α-bound micromagnetic beadsとImagnet(以上BD Bioscience社)を用いて素通りする細胞群を回収する操作を2回繰り返すことによって精製した。得られたマウス好酸球の純度は90%以上であった。好酸球からの全RNAの抽出は、TRIzol(R) reagent(Invitrogen社)を用いて業者添付のプロトコールに従って行なった。またヒトおよびマウスの脳および骨髄の全RNAはBD Biosciences社より購入した。全RNAからのcDNA合成は、各全RNA1μg、Oligo(dT)18プライマー、およびSuperScript(R) First-Strand Synthesis System for RT−PCR(Invitrogen社)を用いて業者添付のプロトコールの方法で行なった。得られたcDNA(元の全RNA 20ng相当量)は、ヒト、マウスのヒスタミンレセプターH3およびH4に対する特的プライマー各10pmolを含んだ全量20μlの系で、1UのEx−Taq DNA polymerase(宝酒造社)を用い、94℃で5分間の反応の後、94℃30秒+60℃30秒+72℃30秒の温度サイクルを37回行なった後に72℃5分間の反応で増幅した。また内部標準としては、ヒト、マウスのグルコース3リン酸脱水素酵素遺伝子(GAPDH)のプライマーを用いて、同様の系で温度サイクル27回による増幅反応を行なった。得られたRT−PCR増幅産物は、各10μlをエチジウムブロミドを含む2%アガロースゲルでの電気泳動を行い、写真撮影を行って各遺伝子についての発現を確認した。なおRT−PCR反応に用いたプライマーセットは以下の通りである。
【0106】
ヒトのヒスタミンレセプターH3遺伝子増幅用プライマーセット
5’-CCACTGTATGTACCCTACGTGCTG-3’と5’-AGCTATGACCGATTCCTGTCAGTC-3’
マウスのヒスタミンレセプターH3遺伝子増幅用プライマーセット
5’-AGCTATGACCGATTCCTGTCAGTC-3’と5’-CCTCTGGATGTTCAGGTAGATGCT-3’
ヒトのヒスタミンレセプターH4遺伝子増幅用プライマーセット
5’-ATGCCAGATACTAATAGC-3’と5’-TTAAGAAGATACTGACCG-3’
マウスのヒスタミンレセプターH4遺伝子増幅用プライマーセット
5’-TGTGGTGGACAGAAACCTRTAGACA-3’と5’-AAGAATCTGAAGCCAGAATCATCG-3’
ヒトおよびマウスのGAPDH遺伝子増幅用プライマーセット
5’-GCCAAGGTCATCCATGACAACTTTGG-3’と5’-GCCTGCTTCACCACCTTCTTGATGTC-3’
【0107】
ヒトおよびマウスにおける好酸球、脳、および骨髄のcDNAを用いたRT−PCRの結果を図4Aに示す。この結果からヒトでは脳においてはヒスタミンレセプターH3の増幅バンドが認められ、発現が示されたが、ヒスタミンレセプターH4の発現は認められなかった。それに対して骨髄および4人の健常人からそれぞれ採取した好酸球(eosinophils)においては、ヒスタミンレセプターH4の発現は認められたが、H3の発現は認められなかった。内部コントロールのGAPDHの増幅産物量はほぼ同じ程度であり全RNAからcDNAへの変換は同じ効率で行なわれた事を示している。また、マウスの場合も同じ結果が得られ、脳においてはヒスタミンレセプターH3のみの、骨髄および好酸球においてはヒスタミンレセプターH4のみの発現が認められた。このことからヒトおよびマウス好酸球においては、ヒスタミンレセプターH3とH4のうちH4のみが選択的に発現されていることが示された。
【0108】
[実施例7]ヒトおよびマウス好酸球のCCL16による遊走反応
ヒスタミンレセプターH4を発現していることが示されたヒトおよびマウスの好酸球におけるCCL16による細胞遊走反応について検証した。好酸球の調整は実施例6に示した方法を用いた。また、細胞遊走反応については実施例4に示した方法を用いて行なった。また好酸球に対して強い細胞遊走反応をもつことが知られているCCL11(eotaxin)10nMでの遊走反応をコントロールとした。また、CCL16のヒトおよびマウス好酸球の遊走反応に対する、ヒスタミンレセプターH3、H4に対するアンタゴニストであるthioperamideの阻害作用についても実施例4に記載の方法と同様に検証した。
【0109】
ヒト好酸球(eosinophil)に対するCCL16の遊走反応の結果を図4Bの左側に、マウス好酸球に対するCCL16の遊走反応を図4B右側に示す。ヒト好酸球における遊走反応はCCL16が10nM以上の濃度で認められ、1000nM以上まで濃度をあげるにしたがって遊走の程度は増大した。また遊走の程度は10nMのCCL11(eotaxin)の遊走反応の程度と比較して、CCL16が10nMでの反応性はほぼ同じ程度であった(CCL11の場合にはほぼ最高の遊走を示す濃度)のに対して、CCL16では濃度を上昇させるにしたがって遊走の程度はさらに増大し、1000nMで約50%程度と非常に強い遊走反応を示すことが判明した。マウス好酸球についてもヒトCCL16により遊走反応が誘導されることが示され、その遊走の程度は1000nMで約30%程度とヒト好酸球よりも若干低いものの、全体の傾向としてはヒト好酸球と同じパターンが得られた。CCL16によるヒト好酸球の遊走反応のthioperamideによる反応阻害の結果を図4C左側に、マウス好酸球に対する作用を同図右側に示した。その結果、ヒトおよびマウスの好酸球のCCL16による遊走反応は、thioperamideによって濃度依存的に阻害されることが示された。実施例6の結果より、ヒトおよびマウス好酸球においてはヒスタミンレセプターH3は発現しておらず、H4のみの発現がみられたことから、このCCL16のヒトおよびマウス好酸球への遊走反応は、ヒスタミンレセプターH4を介した反応と考えられる。
【0110】
[実施例8]マウス好酸球に対するCCL16の細胞内カルシウム濃度上昇反応
マウス好酸球を用いて、CCL16のヒスタミンレセプターH4を介しての細胞内カルシウム濃度上昇反応について検証した。方法としては実施例3のデセンシタイゼイション実験と同様の方法で行った。概要としてはマウス好酸球にfura2−AM fluorescence dyeを取り込ませて、100nMのCCL16で刺激した後に100nMのヒスタミンで刺激した場合の細胞内カルシウム濃度上昇反応の検出、および逆に同濃度のヒスタミンで刺激した後のCCL16の反応を調べた。またヒスタミンレセプターH3、H4のアンタゴニストであるthioperamideを反応させた後に100nMのCCL16の細胞遊走反応についても検証した。
【0111】
マウス好酸球に対するCCL16およびヒスタミンの細胞内カルシウム濃度上昇反応の実験結果を図4Dに示す。図4D上に示したように、CCL16はマウス好酸球に対して細胞内カルシウム濃度上昇反応を引き起こし、その後のヒスタミンの反応をデセンシタイゼイションすることが示された。また図4D中に示したように、ヒスタミンによって細胞内カルシウム濃度上昇反応が引き起こされた後にCCL16を反応させた場合にもデセンシタイゼイションされることから、CCL16とヒスタミンは同一のレセプターを介してマウス好酸球に細胞内カルシウム濃度上昇反応を引き起こすことが証明された。また図4Dに示したように、thioperamideはCCL16の細胞内カルシウム濃度上昇反応を阻害することから、CCL16によるマウス好酸球の細胞内カルシウム濃度上昇反応はヒスタミンレセプターH4を介した反応と考えられる。
【0112】
[実施例9]CCL16投与動物における血中および骨髄中においての好酸球動態
動物における血中CCL16濃度の上昇に対しての好酸球の動態を調べる実験を行った。メスの6週齢BALB/c系マウス(日本クレア社)を購入し、1週間以上馴化を行った。そのマウスに対して、0.5nmolのヒトCCL16を含む100μlのPBSを尾静脈より投与した。コントロールは100μlのPBSのみを投与した。またヒスタミンレセプターH3、H4のアンタゴニストであるthioperamideの効果を調べる実験においては、thioperamide 250nmolをヒトCCL16またはPBSと同時に投与した。経時的にマウスをジエチルエーテルで麻酔して血液を採取し、その後頚椎脱臼法でマウスを屠殺して大腿骨を解剖的に取得した。得られた大腿骨は骨頭を切り離して注射筒に入れた1mlのPBSで骨髄細胞を押し流して回収し、骨髄細胞懸濁液を得た。得られた血液および骨髄細胞懸濁液をスライドグラス上に塗沫した標本を作製し、メイ・グリュンワルド−ギムザ染色法で染色を行った。得られた染色塗沫標本について1枚の標本につき最低500細胞を観察して白血球の種類を同定した。その観察を基に血中および骨髄細胞懸濁液中の好酸球(eosinophil)、リンパ球(lymphocyte)および好中球(neutorphil)の量を算定した。
【0113】
CCL16を投与した場合または投与しなかった場合のマウスにおける血中の好酸球(eosinophil)、リンパ球(lymphocyte)および好中球(neutorphil)を図5A左側に、骨髄細胞懸濁液の各細胞量を図5A右側に示した。その結果、CCL16を投与したマウス(図中●)においては投与後60分をピークに血中の好酸球量の顕著な増大がみられ、骨髄中においては逆に好酸球の減少がみられた。それに対してPBSのみを投与した群(図中○)においては血中および骨髄細胞懸濁液中の好酸球において細胞数の変動は認められなかった。また、リンパ球および好中球においては、CCL16またはPBSのみの投与において細胞数の変動は認められなかった。この実験における投与後60分での好酸球、リンパ球、好中球の血中での細胞数変化を図5B上の段に、骨髄細胞懸濁液における各細胞の変動を図5B下の段に示す。この結果によるとCCL16を0.5nmol投与したことによって血中の好酸球量は約5倍に増加するのに対して、骨髄中の好酸球量は半分程度に減少していた。それに対してリンパ球および好中球はほとんど変動は認められなかった。thioperamideが投与された群においては、CCL16の投与によって認められた血中の好酸球量の増多および骨髄の好酸球減少がコントロールレベルまで抑制された。このCCL16投与による血中の好酸球増加および骨髄中の好酸球減少は、骨髄よりCCL16によるヒスタミンレセプターH4を介した作用によって好酸球が血中に誘導されたことが原因と考えられる。
【0114】
[実施例10]ケモカインレセプターとヒスタミンレセプターの相同性の解析
ケモカインは通常ケモカインレセプターファミリーのレセプターと反応すると考えられており、CCL16はすでにケモカインレセプターファミリーのCCR1、2、5、8と弱い反応を示すことが知られている。それに対して本発明において、ケモカインCCL16はヒスタミンレセプターH4と結合して細胞反応を引き起こすことが示された。このことからケモカインレセプター・ヒスタミンレセプターを含むヒトの7回膜貫通型レセプター類のアミノ酸配列類似性についての検討を行った。ケモカインレセプターはCCR1:EMBL Acc No. P32246・CCR2:EMBL Acc No. P41597・CCR5:EMBL Acc No. P51681・CCR8:EMBL Acc No. P51685、ヒスタミン(Histamine)レセプターはH1R:EMBL Acc No. P35367・H2R:EMBL Acc No. P25021・H3R:EMBL Acc No. Q9Y5N1・H4R:EMBL Acc No. Q9H3N8、その他ブラジキニン(Bradykinin)レセプターRB1:EMBL Acc No. P46663・RB2:EMBL Acc No. P30411、アンジオテンシン(Angiotensin)レセプターR1:EMBL Acc No. P30556・R2:EMBL Acc No. P50052、オピオイド(Opioid)レセプターRD:EMBL Acc No. P41143・RM:EMBL Acc No. P35372・RK:EMBL Acc No. P41145・RX:EMBL Acc No. P41146、ソマトスタチン(Somatostatin)レセプターR1:EMBL Acc No. P30872・R2:EMBL Acc No. P30874・R3:EMBL Acc No. P32745・R4:EMBL Acc No. P31391、セロトニン(Serotonin)レセプター1AR:EMBL Acc No. P08908・1BR:EMBL Acc No. P28222・1DR:EMBL Acc No. P28221・1ER:EMBL Acc No. P28566、ドーパミン(Dopamine)レセプターRD2:EMBL Acc No. P14416・RD3:EMBL Acc No. P35462・RD4:EMBL Acc No. P21917およびムスカリン(Muscarinic)レセプターR1:EMBL Acc No. P11229・R2:EMBL Acc No. P08172・R3:EMBL Acc No. P20309・R4:EMBL Acc No. P08173のアミノ酸配列について、PRRPプログラム(後藤(Gotoh)等 (1999) アドバンスズ・イン・バイオフィジックス(Advances in biophysics)(Japan) 1999年 36巻 p159-206)を用いて分子系統樹解析を行った。
【0115】
分子系統樹解析の結果を図6に示す。この結果ではケモカインレセプターはブラジキニン、アンジオテンシン、ソマトスタチンなどのペプチド性のリガンドに対するレセプター群に属するのに対して、ヒスタミンレセプターはセロトニン、ドーパミンなどの生体アミン類のレセプター群に属する形となり、ケモカインレセプターとヒスタミンレセプターは構造上まったく異なるグループに属してかなり類似性の低い関係にあることが示された。このことから、レセプターのアミノ酸配列からケモカインCCL16がヒスタミンレセプターH4のリガンドであることをバイオインフォーマティックの観点から予測することは困難であったことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明のスクリーニング方法によって選択された物質は、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、もしくは炎症性疾患の治療剤または予防剤の製造のための有効成分として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】図1Aは、ヒスタミンレセプターH4発現組換え体細胞におけるケモカインCCL16による細胞内細胞内カルシウム濃度上昇反応を示す。図1Bは、該反応についての、デセンシタイゼイション反応およびヒスタミンレセプターH4のアンタゴニストによる効果を示す。
【図2】図2Aは、ヒスタミンレセプターH4発現組換え体細胞におけるケモカインCCL16による細胞遊走反応を示す。図2Bは、該反応に対するヒスタミンレセプターH4のアンタゴニストによる効果を示す。図2Cは、ヒスタミンレセプターH4発現組換え体細胞におけるCCL16とヒスタミンの併用使用による細胞遊走反応を示す。図2Dは、CCL16によるChemotaxis効果を示す。図2Eは、CCL16による細胞遊走反応のPTXによる阻害反応を示す。
【図3】図3Aは、ヒスタミンレセプターH4に対するケモカインCCL16の結合を示す。図3Bは、図3Aに示すヒスタミンレセプターとCCL16との結合量の結果から算定したスキャッチャードプロットデータを示す。図3Cは、ヒスタミンレセプターH4のアンタゴニスト等の化合物による結合の阻害を示す。
【図4】図4Aは、ヒトおよびマウスの好酸球におけるヒスタミンレセプターの発現の確認結果を示す。図4Bは、各好酸球に対するケモカインCCL16の細胞遊走反応および細胞内細胞内カルシウム濃度上昇反応の反応性を示す。図4Cは、該反応に対するヒスタミンレセプターH4のアンタゴニストの効果を示す。図4Dは、マウス好酸球におけるCCL16およびヒスタミンによる細胞内カルシウム濃度上昇反応についての、デセンシタイゼイション反応およびヒスタミンレセプターH4のアンタゴニストによる効果を示す。
【図5】図5Aは、ケモカインCCL16を投与されたマウスにおける血中および骨髄中の好酸球、リンパ球、および好中球数の変動を示す。図5Bは、PBS、CCL16またはCCL16+ヒスタミンレセプターH4のアンタゴニスト投与60分後の、血中の好酸球、リンパ球および好中球の細胞数を示す。
【図6】ヒスタミンレセプター、ケモカインレセプターを含む7回膜貫通型レセプターの中でのヒスタミンレセプターH4と他のレセプターとの類似性の解析結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を検出できる系に被検物質を存在させて、該結合または該反応の有無もしくは程度を測定する工程を含む、該被検物質による該結合または該反応の阻害の有無もしくは程度の測定法。
【請求項2】
被検物質非存在下での測定結果と比較する工程をさらに含む、請求項1記載の測定法。
【請求項3】
ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を測定するに際し、先にヒスタミンレセプターH4に被検物質を接触させてから該結合または該反応の阻害の有無もしくは程度を測定する、請求項1または2記載の測定法。
【請求項4】
ケモカインCCL16とヒスタミンレセプターH4との結合の有無もしくは程度、またはケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無もしくは程度を測定するに際し、先にケモカインCCL16に被検物質を接触させてから該結合または該反応の阻害の有無もしくは程度を測定する、請求項1または2記載の測定法。
【請求項5】
ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応の有無または程度を検出できる系を用いた請求項1から4のいずれかに記載の測定法。
【請求項6】
ヒスタミンレセプターH4発現細胞が、哺乳類の好酸球である請求項5記載の測定法。
【請求項7】
前記哺乳類が、ヒトまたはマウスの好酸球である請求項6記載の測定法。
【請求項8】
ヒスタミンレセプターH4発現細胞が、ヒスタミンレセプターH4の遺伝子が導入された組換え体細胞である請求項5記載の測定法。
【請求項9】
前記組換え体細胞が、ヒスタミンレセプターH4の遺伝子が導入されたマウスプレBリンパ球系細胞株L1.2の組換え体細胞である請求項8記載の測定法。
【請求項10】
ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応が、細胞遊走反応である請求項5から9のいずれかに記載の測定法。
【請求項11】
ケモカインCCL16によるヒスタミンレセプターH4発現細胞の反応が、細胞内カルシウム濃度上昇反応である請求項5から9のいずれかに記載の測定法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の測定法により該結合または該反応の阻害物質を選択する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項13】
試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物にケモカインCCL16を投与する工程、および該試験動物における血中の好酸球増多の抑制を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物にケモカインCCL16を投与する工程、および該試験動物における骨髄中の好酸球減少の抑制を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項15】
ケモカインCCL16遺伝子を試験動物に導入してこれを発現させる工程、該試験動物に被検物質を投与する工程、および該試験動物における血液中の好酸球増多の抑制を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項16】
ケモカインCCL16遺伝子を試験動物に導入してこれを発現させる工程、該試験動物に被検物質を投与する工程、および該試験動物における骨髄中の好酸球減少の抑制を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項17】
試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物の臓器または組織にケモカインCCL16を投与する工程、およびケモカインCCL16を投与した該試験動物の臓器または組織における好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞のいずれかの集積を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項18】
ケモカインCCL16遺伝子を試験動物に導入してこれを発現させる工程、該試験動物に被検物質を投与する工程、およびケモカインCCL16を発現する該試験動物の臓器または組織における好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞のいずれかの集積を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項19】
試験動物にヒスタミンレセプターH4を発現させた組換え体細胞を投与する工程、該試験動物に被検物質を投与する工程、該試験動物の臓器または組織にケモカインCCL16を投与する工程、およびケモカインCCL16を投与した該試験動物の臓器または組織における該組換え体細胞の集積を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項20】
ケモカインCCL16遺伝子を試験動物に導入してこれを発現させる工程、試験動物にヒスタミンレセプターH4を発現させた組換え体細胞を投与する工程、該試験動物に被検物質を投与する工程、およびケモカインCCL16を発現する該試験動物の臓器または組織における該組換え体細胞の集積を検出する工程を含む、肝臓疾患、肝臓疾患に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、または炎症性疾患に有効な治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項21】
試験動物がマウスである、請求項13から20のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項22】
スクリーニングする治療剤または予防剤の対象疾患が、薬剤性肝障害、肝臓移植における拒絶反応、胆汁性肝硬変、硬化性胆管炎、および原発性好酸球増多症にともなう肝臓障害からなる群から選ばれた一つまたは複数の疾患である、請求項12から21のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項23】
スクリーニングする治療剤または予防剤の対象疾患が、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、花粉症、疱疹状皮膚炎、肺好酸球増加症、アレルギー性血管炎からなる群から選ばれた一つまたは複数の疾患である、請求項12から21のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項24】
スクリーニングする治療剤または予防剤の対象疾患が、肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、喉頭癌、咽頭癌、舌癌、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫からなる群から選ばれた一つまたは複数の疾患である、請求項12から21のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項25】
スクリーニングする治療剤または予防剤の対象疾患が、二次免疫不全症、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、全身性硬化症、多発性筋炎、ギラン・バレー症候群、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫溶血性貧血からなる群から選ばれた一つまたは複数の疾患である、請求項12から21のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項26】
スクリーニングする治療剤または予防剤の対象疾患が、慢性または急性の炎症を伴う炎症性疾患である、請求項12から21のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項27】
ケモカインCCL16またはケモカインCCL16遺伝子が、ヒト由来のものである請求項12から26のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項28】
請求項12から27のいずれかに記載のスクリーニング方法により得られる、前記結合もしくは前記反応の阻害物質、試験動物における血中の好酸球増多の抑制物質もしくは骨髄中の好酸球減少の抑制物質、または試験動物の臓器もしくは組織における好酸球、樹状細胞、リンパ球、好中球、好塩基球、肥満細胞もしくはヒスタミンレセプターH4発現組換え体細胞のいずれかの集積の抑制物質を有効成分として含有する、肝臓疾患、肝臓障害に伴う好酸球増多症、アレルギー性疾患、悪性腫瘍、免疫不全症、自己免疫疾患、もしくは炎症性疾患の治療剤または予防剤。
【請求項29】
ヒスタミンレセプターH4に結合性がある請求項28に記載の治療剤または予防剤。
【請求項30】
ケモカインCCL16に結合性がある請求項28に記載の治療剤または予防剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−51025(P2006−51025A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207265(P2005−207265)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】