説明

肥満予防及び治療用発酵物、糖尿病予防用発酵物、肥満予防及び治療用発酵食品および糖尿病予防用食品

【課題】食品で容易に摂取することができ、糖質の消化吸収を抑制して血糖降下効果による糖尿病の予防効果を得ることができ、また糖質の消化吸収阻害による肥満防止及び治療効果を得ることができる発酵物及びこれを含む機能性食品を提供する。
【解決手段】本発明によれば、1−デオキシノジリマイシンを含有する機能性発酵物に関し、更に詳しくは、清麹醤から分離したバチルスサブチルスDC−15菌株によって発酵され、発酵物内に多量存在するα−グルコシダーゼ阻害剤として1−デオキシノジリマイシンを有効成分とする発酵物及びこれを含む機能性食品が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満予防及び治療用発酵物、糖尿病予防用発酵物、肥満予防及び治療用発酵食品および糖尿病予防用食品に係り、更に詳細には、1−デオキシノジリマイシンを含有する機能性発酵物と、これを適用した肥満予防及び治療用機能性食品及び糖尿病予防用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
α−グルコシダーゼは小腸に存在する酵素であり、二糖類やオリゴ糖類を、消化吸収される状態である単糖類まで分解する役割を果たす、糖類の消化には重要な酵素である。このようなα−グルコシダーゼは、炭水化物摂取後の血糖値を上昇させるために、一次的な役割を果たす。従って、小腸のα−グルコシダーゼの活性を阻害することによって、食後の血糖値を効率的にコントロールすることができる。特に、第2型糖尿病には、重要な治療法の一つである。実際にα−グルコシダーゼ阻害剤は、医薬品として既に糖尿病の治療に用いられている。α−グルコシダーゼ阻害剤を過量投与した場合、二糖類やオリゴ糖類は大部分分解されず、大腸で腸内微生物によって代謝されるので、糖の吸収が制限され、結果的にカロリーカット(Calorie cut)の効果をもたらす。しかし、このような治療薬は、日常の食品に使用することはできない。
【0003】
天然の食品成分中のα−グルコシダーゼ阻害剤に関しては、これまでにいくつかの報告がある。その中で、1−デオキシノジリマイシンを有効成分とする桑属中のアルカロイド(特開平9−140351号公報)が食品として一番広く使われている。
【0004】
α−グルコシダーゼ阻害剤を活性成分とした血糖降下効果を有する清麹醤(チョングッチャン)と関連する技術としては、大韓民国公開特許公報第2005−0071101A号に開示されている。この技術では、血糖降下活性を有する成分をアピゲニンと規定し、清麹醤発酵物をそのままでは使わずに、抽出物の形態で利用している。更に、発酵によりアピゲニンが生成されるという点を証明しておらず、アピゲニンは通常的に植物体に存在するFlavonoid系化合物の一つであって、清麹醤発酵が生ずる前から大豆の中に存在した可能性がある。
【0005】
1−デオキシノジリマイシンは、血糖降下用医薬品原料として注目されているので、工業的な生産に関する多くの試みが行われてきた。例えば、特公平8−5858号公報、特許第3162123号公報等では、1−デオキシノジリマイシン及び誘導体の有機合成を方法として提示している。また、Bacillus subtilisまたはStreptomyces菌株を利用して1−デオキシノジリマイシンを生産する方法は、既に学術報告(Appl.Env.Microbiol.1984、280−284、Tetrahedron 1993、6707−6716、J.Ferment.Bioeng.1995、391−394)に開示されている。しかしながら、有機合成や微生物による生産は、すべて医薬品原料の工業的生産のためのものであって、食品に適用することができない。
【0006】
1−デオキシノジリマイシンの他の供給源としては、桑の葉が挙げられる。桑の葉は、そのまま食品に適用することができるが、服量が多くて食品としての限界があるため、桑の葉の抽出物形態に加工して、血糖降下または抗肥満食品組成物として応用されて来た(例えば、特開2002−51735号公報、特開2004−194635号公報、特開平10−265397号公報、特開2000−219632号公報、特開平9−140351号公報、特開2001−103928号公報)。以上の文献に挙げられた桑の葉抽出物を食品に利用する場合には、その他食餌成分との組成物であるので、有効成分の抽出による追加費用の増加及び適用食品の制限等があり、特に清麹醤のような発酵食品への適用には限界がある。
【0007】
前述の通り、桑の葉に含有されている1−デオキシノジリマイシンのような糖類似アルカロイドには、血糖値の改善またはカロリーカットの効果があるが、これを日常の食品へ利用する場合、食品適用性及び呈味の点で制限がある。桑の葉に含有されている1−デオキシノジリマイシンは、食品として主に桑茶または桑エキス等のような簡単な形に加工される。即ち、1−デオキシノジリマイシンのような有効物質を、食べやすくて慣れている形態の食品として供給する必要がある。
【0008】
一方、一部のバチルスサブチルス(Bacillus subtilis)菌株が1−デオキシノジリマイシンを生産することは、既に学術報告(Appl.Env.Microbiol.1984、280−284、Tetrahedron 1993、6707−6716)に開示されている。バチルスサブチルスは、韓国、日本等の国で大豆を利用した発酵食品、すなわち、清麹醤、納豆等の主発酵菌として、伝統的に利用されて来た。
【0009】
しかし、上記の1−デオキシノジリマイシンを生産するバチルスサブチルス菌株を利用した培養は、医薬品原料としての1−デオキシノジリマイシン生産のためのものであって、合成培地あるいは工業用培地を使用するため食品原料として利用できないばかりでなく、これを食品加工に適用した例は未だ存在しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、1−デオキシノジリマイシンを有効成分として含み、血糖降下及びカロリーカット効果を奏することが可能な、新規かつ改良された肥満予防及び治療用発酵物、糖尿病予防用発酵物、肥満予防及び治療用発酵食品および糖尿病予防用食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記のような問題点を解決するために発酵食品を鋭意研究した結果、韓国の伝統的大豆発酵食品である清麹醤から分離したバチルスサブチルスDC−15(Bacillus subtilis DC−15、大韓民国特許登録第0708286号)がα−グルコシダーゼ阻害剤を多量生産することを見出し、上記α−グルコシダーゼ阻害剤として1−デオキシノジリマイシンを確認し、これを食品に適用して本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、バチルスサブチルス菌株によって発酵された発酵物であって、1−デオキシノジリマイシンを有効成分として含む肥満予防用発酵物及び肥満治療用発酵物が提供される。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、バチルスサブチルス菌株によって発酵された発酵物であって、1−デオキシノジリマイシンを有効成分として含む糖尿病予防用発酵物が提供される。
【0014】
前記バチルスサブチルス菌株の発酵物は、大豆、牛乳及びそれらの加工物からなる群から選ばれた1種または2種以上の混合物からなるものであってもよい。
【0015】
前記バチルスサブチルス菌株は、清麹醤から分離したバチルスサブチルスDC−15菌株(KCTC 10763BP)であってもよい。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、上記発酵物を含む肥満予防用発酵食品および肥満治療用発酵食品が提供される。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、上記発酵物を含む糖尿病予防用発酵食品が提供される。
【発明の効果】
【0018】
上述のように、本発明による発酵物は、1−デオキシノジリマイシンを含有し、これを様々な形態の食品に製造して摂取する場合、食後血糖の上昇を抑制することが可能であり、糖尿病の予防に効果がある。また、本発明による発酵物の摂取することで体重減量効果があることが確認でき、肥満予防及び治療効果を期待することができる。
【0019】
このような本発明の発酵物は、肥満予防及び治療用食品、糖尿病予防用食品として有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
本発明は、清麹醤から分離したバチルスサブチルスDC−15菌株(KCTC 10763BP)によって発酵されるものであって、1−デオキシノジリマイシンを有効成分として含む肥満予防発酵物及び肥満治療用発酵物を含む。
【0022】
また、本発明は、上記発酵物を含む肥満予防用発酵食品及び肥満治療用発酵食品を含む。
【0023】
また、本発明は、清麹醤から分離したバチルスサブチルスDC−15菌株(KCTC 10763BP)によって発酵されたものであって、1−デオキシノジリマイシンを有効成分として含む糖尿病予防用発酵物を含む。
【0024】
更に、本発明は、上記発酵物を含む糖尿病予防用食品を含む。
【0025】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明すると、次の通りである。
【0026】
本実施形態は、清麹醤から分離したバチルスサブチルスDC−15菌株によって発酵されたものであって、1−デオキシノジリマイシンを有効成分とする発酵物により糖質の消化吸収を抑制して、肥満予防及び肥満治療効果を得ることができ、血糖降下効果による糖尿病の予防効果を得ることができる発酵物に関する。また、この発酵物を適用した肥満予防及び治療効果を有し、糖尿病の予防効果を有する機能性食品に関するものである。
【0027】
本発明者らは、韓国の伝統的大豆発酵食品である清麹醤から分離した新たな菌株バチルスサブチルスDC−15(Bacillus subtilis var.DC−15、KCTC 10763BP)がα−グルコシダーゼの阻害剤を大量生産する能力を保有し、上記バチルスサブチルスDC−15によって発酵された発酵物には、α−グルコシダーゼの阻害剤として1−デオキシノジリマイシンを含むことを確認した。
【0028】
上記の分離した菌株は、長い間食用として使われていて安全性が立証された清麹醤から得られたものであり、上記菌株が生産するα−グルコシダーゼ阻害剤は、適量、適正な方法で機能性食品に添加して使用することが可能である。
【0029】
上記のバチルスサブチルスDC−15は、大韓民国特許登録第0708286号に記載された方法によって、製造することが可能である。
【0030】
本発明において提示しているα−グルコシダーゼ阻害剤である1−デオキシノジリマイシンは、全てのバチルス菌株が生産するものではなく、一部の菌株でのみ生産が確認されている。また、本発明において提示する方法は、L−Brothや大豆のように、互いに異なる培地造成でその生産量の差はあるものの、α−グルコシダーゼ阻害剤を生産している。特に、培養時間が経過することによって、α−グルコシダーゼ阻害剤の生産量は変化があり、牛乳を始めとして例えば脱脂粉乳、チーズ等の加工品と、大豆を始めとして例えば脱脂大豆等の加工品及び最小培地等の多様な培地で活性を示すため、α−グルコシダーゼ阻害剤が培養原料物起源のものでないことが明確である。
【0031】
本実施形態において、1−デオキシノジリマイシンを始めとするα−グルコシダーゼ阻害剤は、上記の清麹醤菌であるバチルスサブチルスDC−15の培養物又はその抽出物を用いることができる。本実施形態では、1−デオキシノジリマイシンを純粋な形態で分離する必要はなく、1−デオキシノジリマイシンを含有する発酵物それ自体の形態で、あるいは乾燥粉砕物や抽出物の形で用いても良いことは勿論である。
【0032】
本実施形態に係る発酵物は、培地として、大豆、牛乳及びそれらの加工物からなる群から選択された1種または2種以上の混合物を用い、上記のバチルスサブチルスDC−15を分株発酵させて得ることができる。上記した大豆、牛乳及びそれらの加工物に限定されるものではないが、具体的には、例えば、牛乳、脱脂粉乳及びチーズ等と大豆、脱脂大豆等を単独または混合して用いることができる。
【0033】
例えば、1−デオキシノジリマイシンを含有する清麹醤抽出物を得るためには、清麹醤に水を加えて抽出する。抽出の原料に使用するものは限定されるものではなく、脱脂大豆、牛乳、脱脂粉乳、チーズ等又はそれらの混合物の培養物も使用することができる。また、これらの乾燥物を粉砕機で粉砕した粉末を、使用することもできる。
【0034】
上述の本実施形態に係る清麹醤から分離したバチルスサブチルスDC−15菌株(KCTC 10763BP)によって発酵されたものであり、1−デオキシノジリマイシンを有効成分として含む発酵物は、肥満予防及び治療用発酵物として使用することができ、糖尿病予防用組成物として使用することもできる。
【0035】
1−デオキシノジリマイシンは、発酵組成物の中にα−グルコシダーゼ阻害活性が1×10unit/mlの範囲となるように含まれる場合に、本発明の目的とする効果を達成するのにより好ましい。
【0036】
また、上記の発酵物は、多様な肥満予防及び治療用食品、糖尿病予防用食品として使用することができる。
【0037】
上記の発酵物は、食餌繊維、例えばポリデキストロス、キチン、キトサン、ゼラチン等の賦形剤とともに噴霧乾燥して得られる粉末又は顆粒状に成型しても使用できるが、タブレットまたはカプセル状にしても使用できる。上記した本実施形態に係る発酵物を食品に適用する場合、食品では特定の食品群と指定することではないが、例えば、ラーメン、即席めん、カップめん、即席みそ汁などの即席食品、チーズ、乳飲料、乳酸菌飲料などの乳製品、醤油、味噌、ソース類などの調味料、即席お茶漬けのり、イミテーションチーズ等に1−デオキシノジリマイシンを含有する清麹醤菌の培養物を加えることにより調製することができる。この場合、当業者であれば、様々な種類の添加剤を適当な含量の範囲内で加えることが可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(本実施例で使用した菌株)
本実施例で使用した菌株は、通常的なバチルス属菌株とは異なり、α−グルコシダーゼ阻害剤を大量生産する特性を示すものであって、「バチルスサブチルスDC−15」(Bacillus subtilis var.DC−15)と命名し、便宜上上記の菌株の名称を「バチルス属DC−15」(Bacillus sp. DC−15)として、2005年1月18日付で韓国生命工学研究院の遺伝子銀行(KCTC、大田広域市儒城区魚隠洞52に所在)にKCTC 10763BPの受託番号で寄託した。
【0040】
(実施例1:大豆発酵物の製造)
原料大豆を洗浄後、室温で水に16時間浸漬後、蒸煮釜で2kg/cm、達圧30分蒸煮した。これに、参照例で提示するバチルスサブチルスDC−15(Bacillus subtilis DC−15)希釈液を蒸煮大豆1g当たり清麹醤菌が10個となるように散布した後、50g用PSP容器に充填し、細穴あきビニール皮膜で覆った。この容器を30℃の恒温器で24〜48時間発酵させた。
【0041】
(実施例2:大豆発酵乾燥粉末の製造)
上記の大豆発酵物を凍結乾燥、噴霧乾燥、熱風乾燥など通常の多様な方法で乾燥して、大豆発酵粉末を得た。
【0042】
(実験例1:有効成分の確認)
実試例2で噴霧乾燥して得た大豆発酵乾燥粉末100gに蒸留水1リットルを加えて撹拌しながら4℃で10時間抽出した後、沈殿物を遠心分離により除去した。得られた上澄液をDowex×50×4(H+型)のカラムを通し、蒸留水で十分に洗浄して酸中性部を除去した後、0.5NのNHOH液で塩基成分を溶出した。この溶出部を減圧濃縮してLC−MSで分析した結果、HPLCのクロマトグラムと質量分析のデータが標準品の1−デオキシノジリマイシンのそれと一致することが確認された。
【0043】
(実験例2:大豆発酵物と桑の葉のα−グルコシダーゼ阻害活性の比較)
実試例1で得られた大豆発酵物を加圧滅菌してα−グルコシダーゼ及びプロテアーゼなどの酵素を失活させた後、大豆発酵物10gに10倍量の50mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)を加えてホモジナイザー(homogenizer)で破砕した後、4℃で10時間振とう抽出した。これを遠心分離して得た上澄液から、α−グルコシダーゼ阻害剤の活性を測定した。1Mリン酸緩衝溶液(pH7.0)50μL、豚小腸起源α−グルコシダーゼ酵素液50μL、適当に希釈した実試例1の大豆発酵抽出物50μLを混合して37℃で3分間予備加温した後、0.075%麦芽糖溶液500μLを加えて反応させた。30分間反応後、湯で5分間加熱して反応を停止させた。反応液に生成されたブドウ糖をブドウ糖定量用キットで反応させて、500nmで吸光度を測定した。大豆発酵抽出物の代わりに水を加えて反応させたものを、空試料(Blank)として次の<式1>によって阻害率を求めた。
【0044】
阻害率(%)=((A−B)/A)×100 ・・・(式1)
【0045】
上記の式1において、AはBlankの吸光度、Bは試料の吸光度である。
【0046】
【表1】


【0047】
上記の<表1>は、大豆発酵物及び桑の葉のα−グルコシダーゼ阻害活性の分布を示したものであり、1ユニット(unit)は、α−グルコシダーゼを1%阻害する活性を意味する。上記<表1>によれば、本実施例に係る大豆発酵物は、培養時間によってα−グルコシダーゼ阻害活性が高くなることが認められ、乾燥粉末の場合、活性がより高いことが認められた。また、培養時間が24時間より長くなる場合には、桑の葉よりも高いα−グルコシダーゼ阻害活性を示すことが認められた。
【0048】
上記の結果から、本実施例に係る発酵物は、発酵物それ自体、乾燥粉末などの多様な形態に製造してもα−グルコシダーゼ阻害活性が高く示されることが認められた。これに対し、市販清麹醤では、α−グルコシダーゼ阻害活性が得られなかった。
【0049】
(実験例3:大豆発酵物摂取による血糖値の変化測定)
薬物を服用していない健康な男性に、測定前日の午後9時以降の食事を制限し、翌朝に実施例1で得た生大豆発酵物30gを食べた10分後に砂糖40gを摂取させた。30分後に、簡易血糖測定器(ファインテスト、インフォピア)を用いて血糖値を測定した。その結果を、次の<表2>に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
上記の<表2>は、実試例1の大豆発酵物摂取による血糖値の変化を示したものであり、対照群に比較して大豆発酵物を摂取した場合、血糖値の上昇抑制効果が認められた。
【0052】
(実験例4:大豆発酵乾燥粉末摂取による体重変化の測定)
実試例2で得た1−デオキシノジリマイシン含有大豆発酵乾燥粉末250mgを、カプセルに充填した。対照群は、実験例2で使用した市販清麹醤の粉末250mgをカプセルに充填した。この試料を、健康な20代成人女性30人による体重減量試験に供した。すなわち、毎食事10分前にカプセル5錠を服用後、普段と同じ量の食事をしながら朝9時に体重を測定した。体重変化の結果を図1及び2に示す。
【0053】
図1及び2によれば、市販清麹醤粉末を摂取した場合(図2)に比べて、本実施例に係る大豆発酵乾燥粉末を摂取した場合(図1)の方が、体重減量の変化が大きいことが認められた。
【0054】
(実施例3:大豆発酵粉末を加えたラーメンの製造)
小麦粉100質量部に実施例2で得た1−デオキシノジリマイシン含有大豆発酵乾燥粉末2質量部(ラーメン1)及び3質量部(ラーメン2)を配合して、ラーメンを常法によって製造した。このように製造したラーメンでは、清麹醤独特の臭いは感じられなかった。
【0055】
(実験例5:大豆発酵粉末を加えたラーメンのα−グルコシダーゼ阻害活性の測定)
上記の実施例3によって製造されたラーメンのα−グルコシダーゼ阻害活性を、実験例2の方法により測定した。その結果を、次の<表3>に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
上記の<表3>によれば、ラーメンに製造した後α−グルコシダーゼ阻害活性は、変化がないことが認められた。
【0058】
(実験例6:大豆発酵乾燥粉末含有ラーメン摂取による血糖値の変化測定)
実試例3で製造したラーメン1を、健康な成人男性に摂取させた後、血糖値の変化を観察した。すなわち、試験前日の午後9時より絶食した被験者に、実施例3のラーメン1を経口負荷させた後、簡易血糖測定器(ファインテスト、インフォピア)を用いて経時的に血糖値を測定した。対照群は、同じ方法で製造した一般ラーメンを、経口負荷させた。得られた血糖値の変化を、次の図3に示す。
【0059】
図3によれば、本発明の実施例3のラーメン1を摂取した場合、血糖値の上昇が抑えられることが認められた。
【0060】
(実施例4:多様な培地を使用した事例の検討)
本発明の応用範囲を広げる目的で、培地に使用する原料として、大豆の他に脱脂大豆、牛乳、脱脂粉乳、チーズなどを用いて1−デオキシノジリマイシンの生産を検討した。
【0061】
培養条件は、液体振とう以外は、実施例1と同一である。その結果は、<表4>、<表5>及び<表6>に示すように、牛乳または脱脂粉乳を発酵主剤にした場合、高いα−グルコシダーゼ阻害活性を示してチーズのような発酵乳製品に適用出来ることが判明した。
【0062】
【表4】

【0063】
上記の<表4>は、脱脂粉乳と脱脂大豆粉及びそれらの混合物を培地に使用した食品用α−グルコシダーゼ阻害剤の生産可能性を示したものである。
【0064】
【表5】

【0065】
上記の<表5>は、牛乳と脱脂大豆粉及びそれらの混合物を培地に使用した食品用α−グルコシダーゼ阻害剤の生産可能性を示したものである
【0066】
【表6】

【0067】
上記の<表6>は、チーズと脱脂大豆粉及びそれらの混合物を培地に使用した食品用α−グルコシダーゼ阻害剤の生産可能性を示したものである
【0068】
(実施例5:機能性チーズの製造)
プロセスチーズ20質量部に上記実試例4で発酵した培養物を噴霧乾燥したものを2質量部配合して、機能性チーズを製造した。培養物の添加によるチーズの風味への影響は、なかった。
【0069】
(実施例6:機能性発酵乳の製造)
発酵乳100質量部に、実施例2で得た大豆発酵乾燥粉末1〜2質量部配合して、機能性発酵乳を製造した。このように製造した機能性発酵乳は、清麹醤独特の臭いは感じられなかった。上記の機能性発酵乳の製造後十日間α−グルコシダーゼ阻害活性の変化はなかった。
【0070】
以上、説明したように、本発明は、バチルスサブチルスDC−15によって発酵された清麹醤から分離した1−デオキシノジリマイシンを有効成分として血糖降下及びカロリーカット効果を奏する発酵物を提供する。
【0071】
また、本発明は、上記の発酵物を含む肥満予防及び治療用食品と糖尿病予防用食品等を提供する。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の大豆発酵乾燥粉末摂取による30日間の体重の変化を示したグラフである。
【図2】市販清麹醤粉末摂取による30日間の体重の変化を示したグラフである。
【図3】市販清麹醤粉末と実試例3のラーメン2(本発明の大豆発酵乾燥粉末2質量部)の摂取による血糖値の変化を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルスサブチルス菌株によって発酵された発酵物であって、
1−デオキシノジリマイシンを有効成分として含む
ことを特徴とする、肥満予防及び治療用発酵物。
【請求項2】
バチルスサブチルス菌株によって発酵された発酵物であって、
1−デオキシノジリマイシンを有効成分として含む
ことを特徴とする、糖尿病予防用発酵物。
【請求項3】
前記バチルスサブチルス菌株の発酵物は、
大豆、牛乳及びそれらの加工物からなる群から選ばれた1種または2種以上の混合物からなるものである
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の発酵物。
【請求項4】
前記バチルスサブチルス菌株は、
清麹醤から分離したバチルスサブチルスDC−15菌株(KCTC 10763BP)である
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の発酵物。
【請求項5】
請求項1、3及び4のいずれかに記載の発酵物を含むことを特徴とする、肥満予防及び治療用発酵食品。
【請求項6】
請求項2、3及び4いずれか記載の発酵物を含むことを特徴とする、糖尿病予防用食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−222701(P2008−222701A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178484(P2007−178484)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(506306226)江原大学校 産学協力団 (4)
【出願人】(506306237)株式会社ニューバイオエンタープライズ (2)
【Fターム(参考)】