説明

肺疾患を治療するための粘液活性剤

【課題】本発明の目的は、のう胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患など用の、肺中の粘液を貯留するための安価で有効な治療を提供することである。さらに、本発明の目的は、粘液の弾性および粘性の低下につながり、改善された咳および気道の粘液浄化をもたらし、繊毛作用による浄化も可能にする治療を提供することである。
【解決手段】本発明は、粘液の浄化を促進するための組成物であって、粘液内の架橋を減少させるため、粘液を希釈するため、および/または粘液内の裸DNAおよび細胞残骸を消化するための、1つまたは複数の粘液活性剤を含む組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、のう胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患などの過剰な粘液が呼吸管中に存在する疾患の治療において有用な医薬組成物に関する。詳細には本発明は、肺吸入によって投与するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粘液は粘性のゲルであり、その性質はさまざまな要因に依存する。粘液は主に、さまざまな量の粘液性糖タンパク質、水、低分子量イオン、タンパク質および脂質の混合物で構成されている。これらの要素は幾つかの方法で相互作用し、これらの相互作用によってゲルの三次元構造が生じ、ゲルの粘性および弾性が決定される。
【0003】
ムチンは粘液ゲルの主なポリマー要素であり、グリコシル化および非グリコシル化ドメインならびにオリゴ糖鎖を有するペプチド骨格からなる。硫酸化およびシアル化末端の存在によって、分子は非常にポリアニオン性になる。ムチンは非常に帯電した線状ポリマーの多分散系の群を形成し、それらの幾つかは6μmまでの長さであり、ランダムな混乱状態である。レオロジー特性は混乱状態の密度に主に依存し、したがって粘液の水和の程度およびムチンの分子長によって決定される。壊死活性好中球は多量のDNA、アクチンおよびタンパク質を放出し、ムチンと重合および相互作用もする。このプロセスによって混乱状態の密度が大幅に増大して、充分に粘弾性のある粘液ゲルが形成される。
【0004】
気道の粘液中のさまざまな異なる型の結合は、粘弾性などの粘液の化学的および物理的性質に影響を与える。ジスルフィド結合は、糖タンパク質サブユニットをムチンとして知られる大きな、伸長したマクロ分子鎖に連結させる共有結合である。おそらくそれらの大きなサイズの結果として、架橋は隣接するムチンポリマー間に形成される。オリゴ糖側鎖を構成しムチン重量の約80%を占める糖単位は、隣接するムチン上に相補的単位と水素結合を形成する。それぞれ個々の結合は弱く容易に解離するが、非常に多数の結合部位が存在し、粘液内の重要な型の結合を作り上げる。さらに、ムチンはイオン化もし、正に帯電したアミノ酸残基および負に帯電した糖単位、主にシアル酸および硫酸化残基を含む。実際ムチンイオン化の程度は気道疾患において増大する可能性がある。例えば、のう胞性線維症(CF)では、ゴルジ装置内のグリコシルトランスフェラーゼ活性の変化のために、硫酸化残基の比率がさらに増大する。固定負電荷間のイオン相互作用によって堅く、さらに伸長したマクロ分子の立体配座が生じ、ポリマーの大きさを効果的に増大させ、絡み合いの数を加える。最後に、CFなどの感染および炎症によって特徴付けられる気道疾患では、高分子量DNAおよびアクチンフィラメントが死んでいる白血球によって放出され、細胞外多糖が細菌によって分泌される。これらによって、さらなる結合および容積が粘液に加わる。
【0005】
粘液は呼吸管の主要な防御機構の重要な要素であり、粘液繊毛系を介して除去されるべき吸入粒子および微生物物質を捕捉する。しかしながら、この機構によって充分に浄化できない場合、粘液は蓄積し、喀痰として吐き出されなければならず、さもなければ粘液は呼吸管内に貯留し、慢性的な肺の炎症および閉塞症をもたらす可能性がある微生物によるコロニー形成を助長する可能性がある。
【0006】
呼吸管内に粘液が貯留することは、それは気道を塞ぐだけではなく、感染も容易にし、感染および炎症の自己永続可能なサイクルを助長するので具体的な問題となる。細菌などの病的因子(例えば緑膿菌)は、粘液中にコロニーを定着させることができることが多い。
【0007】
最初の細菌感染が好中球の化学走性を刺激する場合に、問題が生じる傾向があるが、好中球は効率良く浄化することができない。欠陥のある好中球アポトーシスおよび障害のある食作用は、CFにおける肺疾患の病因の主な要因である。好中球プロテアーゼおよび酸化剤はこのプロセス中に放出され、これらには幾つかの効果がある。これらは細胞の損傷と繊毛の動きの障害の両方を引き起こす。これらは強力な分泌促進物質でもあり、実際にさらなる粘液分泌を助長する。プロテアーゼは抗プロテアーゼおよび細胞表面マーカーも切断し、宿主の防御機構をさらに害する。したがって、そのサイクルは永続的である、何故ならこれらの影響が、粘液分泌が増大するのと同時に粘液浄化をさらに害し、細菌の停滞を助長し、気道の炎症を促進するからである。したがって、好中球が本来の感染を一掃できないことによって、CFを有する患者において観察される罹患率および死亡率の大部分を担う、状況およびプロセスの急速な悪化が実際にもたらされる。
【0008】
粘液貯留には2つの主な原因が存在する。第1の原因は気道の粘液分泌過多であり、ここで身体は高レベルの粘液を生成および分泌し、粘液繊毛系は多量の粘液を充分速く処理し浄化することはできない。第2の原因は、粘液が異常な粘弾性を有する場合である。粘液が異常に高い粘弾性を有する場合、粘液繊毛系が粘液を移動させそれを気道から除去することはより一層困難である。
浄化を促進するような方法で粘液に影響を与える物質は、伝統的に「粘液溶解性」物質と呼ばれてきている。しかしながら、この用語は不正確である可能性がある、何故なら、問題の物質は溶解により粘液に対してその効果を発揮しない可能性があるからである。したがって、粘液の浄化を促進する物質は、本明細書では粘液活性剤と呼ぶ。
気道の分泌過多および/または異常な粘液の粘弾性で苦しむ個体を治療するために行われる古典的な作業過程は、抗生物質療法、気管支拡張薬の投与、全身または吸入コルチコステロイドの使用、または粘液を液化するための去痰薬の経口投与を含む。エアロゾル送達される「粘液溶解性」物質、水および高張食塩液などを用いて罹患者を治療することも知られている。組換えヒトDNアーゼI(rhDNアーゼ)は、CF罹患者を治療するために使用されてきている。rhDNアーゼは、細菌、好中球、および他の細胞残骸から気道表面流体に放出される裸DNAを酵素的に消化すると考えられている。CF罹患者の粘液の高い粘弾性に貢献すると考えられているのは、このDNAである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開No.WO99/01141
【特許文献2】国際公開No.WO01/15672
【特許文献3】WO97/03649
【特許文献4】WO96/23485
【特許文献5】WO01/00262
【特許文献6】GB2353222
【特許文献7】米国特許第6,257,233号
【特許文献8】国際公開No.WO02/43701
【特許文献9】特許公開GB2322326
【特許文献10】WO95/01324
【特許文献11】WO95/01221
【特許文献12】米国特許第5,851,453号
【特許文献13】WO96/00610
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sunら(Sun F、Tai S、Lim T、Baumann U、King M (2002) 「Additive effect of dornase alfa and Nacystelyn on transportability and viscoelasticity of cystic fibrosis sputum」Can Respir J、9 : 401〜406)
【非特許文献2】King(King M (1988) 「Magnetic microrheometer」 Methods in Bronchial Mucology、pp.73〜83.)
【非特許文献3】(King M、Festa E (1998) 「The evolution of the frog palate model for mucociliary clearance」 Cilia、Mucus and Mucociliary Interactions、pp.191〜201)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これらの従来の手法の成功は限定的であり、肺中の粘液を貯留するための安価で有効な治療が求められている。さらに、本発明の目的は、粘液の弾性および粘性の低下につながり、改善された咳および気道の粘液浄化をもたらし、繊毛作用による浄化も可能にする治療を提供することである。
【0012】
粘液中の裸DNAを消化するrhDNアーゼなどの物質、および粘液中のアクチンを消化するゲルソリンは、粘性とは正反対に、ネットワークの弾性要素に影響を与えることが示されてきている。モデル試験では、これによって繊毛作用による浄化の手助けではなく、咳および気道の浄化が改善される傾向がある。
【0013】
粘液中の架橋を破壊する物質は、弾性と粘性の両方の低下を引き起こすことが示唆されてきている。これは好ましい結果である、何故ならモデル試験によれば、その物質が繊毛作用による浄化の改善をもたらすからである。
【0014】
国際公開No.WO99/01141において、デキストランは、粘液の浄化を改善するのにおそらく有用な物質として同定されている。この特許出願中では、デキストランが粘液の粘弾性を低下させ、粘液繊毛による浄化性を増大させることがin vitroモデルから示唆されている。デキストランは三次元の粘液構造内のムチン間の水素結合を破壊することによって、この効果を有すると考えられる。デキストランは水素結合部位に関してムチンと競合し、デキストランの炭水化物部分と、粘液ゲルを構成する高分子量ムチンペプチドと結合したオリゴ糖部分の置換をもたらすと仮定される。使用するデキストランは著しく小さな分子量を有するので、これらの新しい水素結合は構造的および流動学的に無効であり、したがって粘液中全体の架橋密度を低下させ、これによって繊毛および咳のメカニズムにより粘液の浄化が改善されると考えられる。
【0015】
後の特許出願、国際公開No.WO01/15672では、帯電形を使用することによってデキストランの作用をさらに高めることができることが、さらに示唆されている。帯電デキストラン、例えば硫酸デキストランは二重活性を有すると考えられる。第1にそれは、前に論じた水素結合部位を争う競合による効果を有すると言われている。第2に、帯電デキストランのイオン性には他の影響があると考えられ、ムチンポリマーのマクロ分子中心に沿ったある程度の固定電荷を保護し、それを軟化させ、粘液内の隣接するマクロ分子との絡み合い架橋の数を減少させ、これによってイオン相互作用により粘弾性が低下する。
【0016】
WO01/15672では、帯電したオリゴ糖ヘパリンは、それを生成するのに費用がかかるので、およびさらに重要なことに、気管支粘膜の出血である肺喀血などの毒性副作用をそれが有する可能性があるので、CFなどの肺疾患を治療するのに適していないことも示唆されている。
【0017】
ヘパリンは線状の多糖であり、これはヘパラン硫酸などの関連プロテオグリカンと共に、グリコサミノグリカンと呼ばれるマクロ分子群のメンバーである。その線状のアニオン性多価電解質構造のために、これらのマクロ分子はさまざまな生物学的プロセスと関連している。血漿抗トロンビンIIIとのその結合に基づくその抗凝血効果のためにヘパリンは主に使用されてきているが、ヘパリンおよび他のグリコサミノグリカンが、T-リンパ球の調節、補体活性化、好中球の化学走性の阻害、平滑筋の成長および内因性DNAの粘性の低下を含めた、さまざまな抗炎症性および免疫調節性をも有する証拠は存在する。
【0018】
ヘパリンは6000〜30,000ダルトンの分子量範囲を有するさまざまに硫酸化した多糖鎖の異種混合物である。当分野でよく知られているように、全体または非分画ヘパリン(UFH)を分画して、低分子量分画および高分子量分画を与えることができる。分画した、低分子量ヘパリン(LMWH)はイヌ粘液の粘弾性を低下させ、カエル口蓋モデルでは粘液繊毛による浄化を改善することが示されてきている。
【0019】
ネブライザーを使用してヘパリン水溶液を吸入することの気管支喘息に対する影響は、幾つかの研究の主題となってきている。しかしながら、おそらく呼吸管下部に達する吸入ヘパリンの用量を定量化することが困難であるために、これらの研究の結果は一貫性のないものとなっている。
【0020】
一般にアセチルシステインまたはNACとも呼ばれるN-アセチル-L-システインは、強力な抗酸化剤である酵素グルタチオンの生成を増大させる、身体によって生成される化学物質である。NACは粘液活性剤であることが知られており、慢性呼吸疾患に罹患している人々に存在することが多い濃い粘液の消失を助けるために使用される。摂取またはエアロゾル投与および吸入することができるMucomyst(商標)として、経口溶液中にNACを利用することができる。
【0021】
従来技術は水素結合の競合とイオン保護を組合せて、二重式の粘液粘弾性の低下をもたらす可能性を論じているが、それによって粘弾性を低下させることができるさらに他の機構が存在し、本発明はこれらの他の機構の使用を探求して、特にのう胞性線維症(CF)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎、急性喘息、または気管支拡張などの疾患に罹患している患者における粘液の浄化を促進するための、さらにより効率の良い手段を提供する。
【0022】
粘液の浄化は、粘液ゲルの粘性および弾性を低下させることによって改善することができる。催咳法によって、粘液繊毛の運動によって、あるいはこの2つの組合せによって、これらの性質に影響を与えて浄化を促進することができる、幾つかの機構が存在する。
【0023】
第1に、粘液ゲル構造内の架橋は破壊することができる。粘液中の糖タンパク質間のジスルフィド結合を破壊する物質によって、このことを実施することができる。代替的あるいは追加的に、粘液ゲル構造内の架橋は、デキストランに関して前に記載した水素結合部位に関して競合する物質によって破壊することができる。さらに、ゲル内に存在するイオン結合は、イオン物質を使用して電荷を保護するによって破壊することもできる。このことは、帯電デキストランを使用することに関して記載されてきている。
【0024】
第2に、その水含量を増大させることによって粘液を希釈することができる。これによってゲルの粘性が低下し、粘液の浄化が容易になる。これは粘液に物質を投与することによって行うことができ、浸透圧効果を発揮することによって粘液中に水を引き込む。あるいは、肺気道中のナトリウムチャンネルを制御する、したがって気道上皮を介した塩および水の摂取を阻害することができる物質によって、粘液の水含量を増大させることができる。
【0025】
第3に、粘液中に見られる裸DNAおよび他の細胞残骸、繊維状アクチンなどの消化も、粘液の粘度および弾性を低下させるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0026】
したがって、本発明の第1の態様では、粘液の浄化を促進するための組成物であって、粘液内の架橋を減少させるため、粘液を希釈するため、および/または粘液内の裸DNAおよび細胞残骸を消化するための、1つまたは複数の粘液活性剤を含む組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の組成物は、吸入によって肺に直接投与することが好ましい。粘液活性剤は、肺中の粘液に対して局所効果を有する。これらの物質は全身性効果を有することを目的とするものではなく、これらは肺中の血流に吸収されることを目的とするものではない。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、組成物は2つ以上の粘液活性剤を含み、粘液に対する少なくとも2つの列挙する影響を有する。
【0029】
本発明の組成物は、炎症を低下させる効果をさらに有することが好ましい。
【0030】
本発明の一実施形態では、組成物は1つまたは複数の粘液活性剤および他の活性剤を含む。他の活性剤は、根底にある原因または気道の分泌過多および/または異常な粘液の粘弾性と関係がある状態の症状の治療を促進する、治療効果を有する物質であってよい。あるいは、異なる状態を治療または予防するために、他の活性剤を含ませることができる。
【0031】
特に好ましい実施形態では、他の活性剤は抗炎症剤、以下に列挙する抗炎症剤の1つなどである。したがって組成物は、例えばNACとイブプロフェンの組合せを含むことができる。
【0032】
本発明の他の実施形態では、粘液内の架橋を減少させるための粘液活性剤は、隣接するムチン上に相補的単位と水素結合を形成するムチンの側鎖の水素結合部位と競合する、水素結合部位を有する物質である。特に有用なのは帯電した粘液活性剤であり、これはムチンポリマーのマクロ分子中心に沿ったある程度の固定電荷を保護することに加えて、水素結合部位と競合もする。この二重効果によって粘液は軟化し、粘液内の隣接するマクロ分子との絡み合い架橋の数が減少し、これによってイオン相互作用により粘弾性が低下する。一実施形態では、この二重効果を有する粘液活性剤はデキストランではない。
【0033】
本発明の特に好ましい実施形態では、架橋を減少させるための粘液活性剤はグリコサミノグリカンである。グリコサミノグリカンは、特徴的な反復二糖単位中にN-アセチル化ヘキソースアミンを含むヘテロ多糖の一群である。ヘパリンは好ましいグリコサミノグリカンである。
【0034】
本発明の一実施形態では、組成物中で使用するヘパリンはUFH、すなわち高分子量ヘパリンを含む。驚くことに、この高分子量形のヘパリンは粘液の浄化を促進する際に有効であることが発見されており、in vitroでのヒト粘液の粘弾性を低下させる際に、低分子量分画よりもそれが有効であることがさらに見出されている。
【0035】
他の実施形態では、本発明の組成物中に粘液活性剤として使用するヘパリンは、低分子量分画のヘパリンである。
【0036】
さらに、ヘパリンの類似体は市販されており、本発明において粘液活性剤として使用することもできる。このような類似体には、硫酸化ヘパリンおよびグリコシル化ヘパリンがある。驚くことに本発明者は、硫酸化ヘパリンはヒト粘液の弾性を低下させる際に非硫酸化ヘパリンより有効であることを見出している。したがって、本発明の好ましい実施形態では、本発明の組成物は硫酸化ヘパリンを粘液活性剤として含む。
【0037】
ヘパリン誘導体は一般にヘパリノイドと呼ばれ、これらを本発明の組成物中で使用することもできる。ヘパリノイドはヘパリンと非常に関係があり、その性質の多くを共有する。ヘパリノイドは粘液内の架橋を減少させるのに有用であり、それらは抗炎症性も示す。
【0038】
コンドロイチンは、本発明において使用することができる他群のグリコサミノグリカンであり、これらにはデルマタン硫酸およびコンドロイチン硫酸がある。硫酸ケラチンおよびヒアルロン酸は、本発明の組成物中に粘液活性剤として使用することができる他のグリコサミノグリカンであり、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどのヘパリチン硫酸も同様である。
【0039】
本発明の一実施形態では、粘液活性剤はダナパロイドナトリウムである。この低分子量ヘパリノイドは、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸およびコンドロイチン硫酸のナトリウム塩の混合物を含み、粘液内の架橋を減少させる際に有用である。使用することができる他のヘパリノイドは、ヘパリン、デルマタン硫酸およびコンドロイチン硫酸の組合せを含む。
【0040】
天然に存在するグリコサミノグリカン、および合成によって充分に硫酸化させたグリコサミノグリカンも、本発明の組成物に含めることができる粘液活性剤の例である。ポリ硫酸グリコサミノグリカン化合物、または硫酸化ムコ多糖としても知られるこれらの化合物も、浄化する粘液内の架橋を減少させる際に有用である。
【0041】
デキストランなどのグリコサミノグリカン以外の他の多糖を、粘液内の架橋を減少させる粘液活性剤として使用することができる。好ましくは、多糖の粘液活性剤は比較的小さな分子量を有するはずである。例えば、この物質は30,000未満、より好ましくは20,000未満、およびさらにより好ましくは10,000未満の平均分子量を有するはずである。
【0042】
最後に、粘液の浄化を促進することができる他の群の粘液活性剤はアミノ酸である。特に有効なアミノ酸にはリシン、アルギニンおよびヒスチジンなどの塩基性アミノ酸、ならびにこれらの誘導体がある。これらのアミノ酸は、経上皮電位差を増大させ塩素輸送の刺激を引き起こし、それによって上皮内層流体への水の移動を誘導し粘液の流体化をさらに増大させることによって、粘液の浄化を促進すると考えられる。システインなどの他のアミノ酸は、粘液中のジスルフィド結合を破壊すると考えられる。ロイシンなどの疎水性アミノ酸を含めたアミノ酸も、粘液内の架橋を減少させる。
【0043】
アセチルシステイン(NAC)およびアセチルシステイン塩誘導体ナシステリン(すなわちNAL)も、本発明の組成物に含めるのに適した有効な粘液活性剤である。実際にNALの有効性を、以下で論じる実験データ中に示す。
【0044】
他の好ましい実施形態では、帯電物質を使用して、ムチン上の電荷を保護しそれによって隣接するムチン間のイオン相互作用を低下させることにより、架橋を減少させる。適切な帯電物質には、例えばヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、またはダナパロイドナトリウムを含めた、前に論じた帯電グリコサミノグリカンがある。硫酸デキストランまたはリン酸デキストランなどの、他の硫酸多糖またはリン酸多糖を使用することもできる。ムチン上の電荷を保護することによって架橋を減少させることができる他の粘液活性剤は、塩化ナトリウム溶液などである。
【0045】
糖タンパク質サブユニット間のジスルフィド架橋を破壊することによって、粘液内の架橋を破壊するのに適した粘液活性剤は、システインなどの遊離スルヒドリル基を有する化合物である。これらの物質には、システイン誘導体NAC、アセチルシステイン塩誘導体NALおよびジチオスレイトールがある。
【0046】
本発明の他の実施形態では、好ましくは組成物がただ1つの粘液活性剤を含む場合、あるいは組成物が他の活性剤を含まない場合、粘液活性剤は硫酸デキストランまたはリン酸デキストランなどの、デキストランまたは帯電デキストランではない。他の実施形態では、架橋を減少させるための物質は、5,000を超える分子量を有するデキストランである。
【0047】
本発明のさらに他の実施形態では、好ましくは組成物がただ1つの粘液活性剤を含む場合、あるいは組成物が他の活性剤を含まない場合、粘液活性剤はヘパリンまたはヘパリン硫酸でなく、あるいは低分子量ヘパリンではない。
【0048】
他の実施形態では、好ましくは組成物がただ1つの粘液活性剤を含む場合、あるいは組成物が他の活性剤を含まない場合、粘液活性剤はrhDNアーゼでなく、あるいはNACではない。
【0049】
さまざまな粘液活性剤が、粘液の水含量を増大させることによって粘液の浄化を促進する。これらの物質の幾つかは粘液中に追加的な水を引き込むことによって作用し、浸透剤あるいはさらに非破壊的粘液溶解性物質と呼ばれることが多い。あるいはこれらの物質は、気道上皮を介した塩および水の摂取を阻害することによって働く。
【0050】
粘液中に水を引き込むことによって作用する、本発明の組成物に含めるのに適した粘液活性剤には、デキストラン、デキストリン、マンニトール、グルコースなどの低分子量の糖類、または尿素がある。さまざまな他の単糖、二糖およびオリゴ糖も浸透圧効果を有する。アミロリドは、気道上皮を介した塩および水の摂取を阻害し、それによって水和を増大させ粘液のマクロ分子要素を希釈すると考えられる物質である。フェナミルおよびベンザミルを含めたアミロリドの誘導体の幾つかは、類似の活性を有する。
【0051】
粘液内の裸DNAおよび細胞残骸を消化することによって、粘液の浄化を促進することができる粘液活性剤の例には、裸DNAを消化するrhDNアーゼがある。繊維状アクチンは、ゲルソリンおよびチモシンβ4などの脱重合剤によって分解することができる。
【0052】
炎症を低下させる粘液活性剤には、前に論じたグリコサミノグリカン、および特にヘパリン、ヘパリノイドおよびコンドロイチンがある。このような粘液活性剤を使用することによって、本発明の組成物は気道中の過剰な粘液を同時に攻撃することができるだけでなく、前に論じたように過剰な粘液によって効果的に助長される感染から生じることが多い、過剰な粘液の非常に望ましくない結果の1つ、すなわち炎症を解決することもできる。
【0053】
本発明で使用するのに適した粘液活性剤の前述の考察から明らかであるように、これらの物質の多くは、粘液に対する2つ以上の所望の効果を実際に示す。例えば、ヘパリンは粘液内の架橋を減少させ、それは抗炎症効果を有する。デキストランは粘液内の架橋を破壊することができ、ならびに粘液の希釈を誘導することができる。
【0054】
非分画ヘパリンなどのヘパリン生成物は、1つの生成物中に高分子量ヘパリンと低分子量ヘパリンの両方を含むことを記さなければならない。これらの異なる形のヘパリンは、前に論じたように粘液に対して異なる影響を有する可能性があり、したがって水素結合破壊、イオン干渉および浸透圧効果の組合せが、この1つの生成物の投与から観察される。
【0055】
本発明の一実施形態では、組成物はグリコサミノグリカン、好ましくは帯電グリコサミノグリカンを含む。
【0056】
本発明の他の実施形態では、組成物は少なくとも2つの粘液活性剤を含む。一実施形態では、粘液活性剤の少なくとも1つがグリコサミノグリカンである。他の実施形態では、2つ以上の粘液活性剤は、前に論じたように、粘液に対して互いに異なる影響を有する。
【0057】
前に論じた粘液の浄化を促進する異なる機構による、粘液に対する異なる型の影響の組合せは驚くほど有効である。その組合せ効果は粘液の粘性および弾性を低下させ、催咳法と粘液繊毛運動の両方によって、肺由来の粘液の浄化を可能にすると考えられる。
【0058】
さらに、粘液活性剤の幾つかの組合せは相乗効果を示す。例えば、rhDNアーゼは過去において、何人かの患者に対して限られた影響を有することが見出されており、これは粘液を透過する難点を有するrhDNアーゼの結果であると考えられた。しかしながら、粘液中の架橋を破壊することができる他の粘液活性剤、例えばヘパリンとrhDNアーゼを同時投与すると、rhDNアーゼはゲル構造をうまく透過することができ、したがってさらに有効である。したがって、粘液活性剤の組合せの影響は、物質を個々に投与する場合の物質の影響の合計より大きい。
【0059】
本発明の好ましい実施形態では、組成物は架橋を減少させるため、および粘液を希釈するための物質の組合せを含む。例えば、架橋を減少させるための物質はヘパリンまたはヘパリン硫酸、システイン、NACまたはNALであってよく、一方で粘液を希釈するための物質はデキストランなどの低分子量の糖であってよい。他の組合せは、異なるヘパリンまたはヘパリノイドの混合物を含む。あるいはこの組合せは、浸透圧または水素結合破壊効果を高めるために、グリコサミノグリカン、およびデキストラン、マンニトールおよび/またはラクトースなどの架橋を減少させるための物質を含むことができる。他の実施形態では組成物は、ヘパリン、ヘパリノイドまたは他のグリコサミノグリカン、およびリシン、システインまたはロイシンなどのアミノ酸などの架橋を減少させるための物質を含む。他の組合せは、ヘパリン、デルマタン硫酸およびコンドロイチン硫酸を含む。
【0060】
本発明の他の実施形態では、粘液活性剤および抗生物質を同時または逐次に投与する。例えばCFを治療するために、抗生物質をトブラマイシン、ゲンタマイシン、シプロフロキシンまたはコロマイシンから選択することができる。COPDを治療するために、抗生物質はアモキシシリン、コトリミキサゾールまたはドキシサイクリンであってよい。1つまたは複数の抗生物質を、1つまたは複数の粘液活性剤と共に組成物に含ませることができる。
【0061】
本発明のさらに他の実施形態では、粘液活性剤および抗炎症剤を同時または逐次に投与する。例えば抗炎症剤は、ジクロフェナクナトリウム、ケトプロフェン、イブプロフェン、ネドクロミルおよびクロモグリケートから選択することができる。1つまたは複数の抗炎症剤を、1つまたは複数の粘液活性剤と共に組成物に含ませることができる。
【0062】
本発明のさらに他の実施形態では、粘液活性剤および表面活性剤を同時または逐次に投与する。表面活性剤は粘液の癒着を低下させ、粘液の浄化を手助けし、あるいはひとたび肺中に入った後の粘液分泌促進組成物の分散を助長することができることが知られている。レシチン、天然または合成肺表面活性剤などの表面活性剤、あるいはDPPC、DPPEなどのリン脂質、および他のこのような脂質は、当分野で知られているように、粘液の表面張力に有利に影響を与えることができ、したがってその浄化を促進することができる。
【0063】
あるいは、これらの組合せは1つまたは複数の粘液活性剤と、以下から選択されるいずれか1つまたは複数の活性剤であってよい:
1)ステロイド薬剤、例えばアルコメタゾン、ベクロメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ベータメタゾン、ブデソニド、クロベタゾール、デフラザコート、ジフルコルトロン、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、フルドロコルチゾン、フルニソリド、フルオシノロン、フルオメトロン、フルチカゾン、プロピオン酸フルチカゾン、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、デカン酸ナンドロロン、硫酸ネオマイシン、リメキソロン、メチルプレドニソロンおよびプレドニソロンなど;
2)抗生物質および抗菌剤、例えばメトロニダゾール、スルファジアジン、トリクロザン、ネオマイシン、アモキシシリン、アンホテリシン、クリンダマイシン、アクラルビシン、ダクチノマイシン、ニスタチン、ムピロシンおよびクロルヘキシジンなど;
3)抗ヒスタミン薬、例えばアゼラスチン、クロルフェニラミン、アステミゾール、セチリジン、シナリジン、デスロラタジン、ロラタジン、ヒドロキシジン、ジフェンヒドラミン、フェクソフェナジン、ケトチフェン、プロメタジン、トリメプラジンおよびテルフェナジンなど;
5)抗炎症剤、例えばピロキシカム、ネドクロミル、ベンジドアミン、ジクロフェナクナトリウム、ケトプロフェン、イブプロフェン、ネドクロミル、クロモグリケート、ファサファンジンおよびヨードキサミドなど;
6)抗コリン作動性薬、例えばアトロピン、ベンズアトロピン、ビペリデン、シクロペントレート、オキシブチニン、塩酸オルフェナドリン、グリコピロニウム、グリコピロレート、プロサイクリジン、プロパンテリン、プロピベリン、チオトロピウム、トロピカミド、トロスピウム、臭化イプラトロピウムおよび臭化オキシトロピウムなど;
7)気管支拡張薬、サルブタモール、フェノテロール、フォルモテロールおよびサルメテロールなど;
8)交感神経様作用薬、アドレナリン、ノルアドレナリン、デキサムフェタミン、ジピレフィン、ドブタミン、ドペキサミン、フェニレフリン、イソプレナリン、ドーパミン、偽性エフェドリン、トラマゾリンおよびキシロメタゾリン
など;
9)抗真菌剤、例えばアンホテリシン、カスポファンジン、クロトリマゾール、硝酸エコナゾール、フコナゾール、ケトコナゾール、ニスタチン、イトラコナゾール、テルビナフィン、ボリコナゾールおよびミコナゾールなど;
10)局所麻酔薬、例えばアメソカイン、ブピバカイン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニソロン、プリロカイン、プロキシメタカイン、ロピバカイン、チロスリシン、ベンゾカインおよびリグノカインなど;
11)前述のいずれかの薬剤として許容可能な塩。
【0064】
粘液の浄化を促進する所望の効果を有するために必要とされる粘液活性剤の用量は、使用する物質に明らかに依存するであろう。一般に用量は、250mgを超えない、好ましくは200mgを超えない、好ましくは150mgを超えない、好ましくは100mgを超えない、50mgを超えない、あるいは20mgを超えない、1つまたは複数の粘液活性剤を含むことができる。ヘパリンおよびヘパリノイドなどのグリコサミノグリカンの場合、好ましい送達用量は高くなる傾向がある、何故なら多量のこれらの物質が、粘液に対する望ましい効果に必要とされるからである。必要とされる1日の用量は、おそらく1日当たり約100〜200mgであるので、これらの粘液活性剤の個々の用量は20〜120mg、好ましくは40〜80mgまたは50〜60mgの範囲でなければならない。NACおよびNALなどの他の粘液活性剤が低濃度で有効である可能性があり、したがって低用量で使用することができ、あるいは低い頻度で投与することができる。
【0065】
これらは範囲の下端でさえも比較的多用量であり、これは以下で扱う幾つかの送達に関する問題点を表す。
【0066】
本発明の組成物は、このような疾患の現在の治療に伴う問題点を克服しながら、肺および他の疾患の治療に充分適合させてある。これらの組成物は、慢性気管支炎、急性喘息、のう胞性線維症(CF)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張、アレルギー刺激または機械的磨耗などの上皮の損傷から生じる分泌過多、および鼻部の分泌過多を含めた、症状として気道内の粘液分泌物の過剰な形成がある疾患を治療するために使用されるのが好ましいと思われる。
【0067】
本発明の第1の態様の特に好ましい実施形態では、粘液の浄化を促進するための組成物は乾燥粉末の形である。
【0068】
粉末粒子の大きさは、活性剤が局所効果を有する肺中に堆積させるために選択することが好ましい。特に、10μm未満、8μm未満、7μm未満、5μm未満、3μm未満、または2μm未満のMMADを有する粒子が好ましい。
【0069】
CF、COPDなどに罹患する患者の肺中の過剰な粘液を乾燥粉末配合物で治療することに対する一般的な先入観が、当技術分野において存在する。過去においてこのような状態は、ほぼ完全に溶液で治療していた。この先入観にもかかわらず、1つまたは複数の粘液活性剤を含む組成物を乾燥粉末として配合することは、本発明の実施を可能にし商業上魅力的な方式で実施するのを可能にする、幾つかの重大な利点と関係があることが見出されている。
【0070】
吸入によって肺に溶液または懸濁液を投与する場合、これはネブライザーを使用して行う。これらのデバイスは微噴霧の形で溶液および懸濁液を分配し、これらは典型的には付属のフェイスマスクを有しているので、対象は、口または鼻を介して微噴霧を吸入することができる。しかしながら、それらは酸素タンクによって加圧されることが多いために、ネブライザーは大きなデバイスになりがちであり、それらは一般に持ち運び不能である。この理由のため、ネブライザーは固定患者に医薬品を分配するために使用されがちであり、本発明の場合と同様に医薬品の容易で便利な(自己)投与が望まれる場合、それらは不適切であることが多い。
【0071】
ネブライザーの使用に伴うさらなる問題点は、患者に実際に送達する用量に関する正確な情報を得るのが困難であることである。投与する用量を増大させて所望の治療効果を得ることを確実にする必要性につながり、薬剤の浪費および悪影響の高い危険性をもたらす、医薬品の送達の正確さ、再現性、および有効性の一般的な欠如もある。
【0072】
最後に、比較的多量の活性剤を患者に投与する場合、これは長時間の微噴霧の吸入を必要とすることが多い。例えば、吸入ヘパリンの影響の一試験では、比較的少量の8,000IUのヘパリンを15分の間投与しなければならなかった。これは明らかに、便利な投与形式ではない。
【0073】
対照的に、乾燥粉末配合物を送達するために使用されるデバイスはシンプルで比較的安価であり、したがってそれらは使い捨てである可能性もある。さらにデバイスは小さく、したがって容易に持ち運び可能である。それらは患者にとって使用するのが非常に容易でもある。
【0074】
しかしながら、乾燥粉末として本発明の組成物を配合することに伴う、幾つかの問題が存在する。第1に、それらのポリアニオン性のために、グリコサミノグリカンは「粘着性」分子であり、粒子形成において提供されると、それらは容易に凝集体を形成することが見出されてきている。このような凝集体は、吸入により肺深部に到達するには大きすぎる。第2に、気道由来の粘液の浄化を促進するためには、多量の粘液活性剤が必要とされる。乾燥粉末吸入によって約10ミリグラムの用量の活性剤の投与を可能にするために、高い投与効率が必要とされ、それ以外の場合は許容不能な量の粉末を肺に吸入させなければならないと思われる。現在市販されている乾燥粉末吸入器は、比較的低い投与効率を有する傾向がある。これらの乾燥粉末配合物の多くに関して、吸入時にデバイスを出る、しばしばごく少量(わずか約10%であることが多い)の活性粒子が肺下部に堆積することが見出されている。多量を投与する必要がある場合、これは完全に許容不能である。
【0075】
本発明は、乾燥粉末として粘液活性剤を効率良く分配することを可能にする、方法および組成物を提供する。本発明のこれらの態様は、以下でさらに詳細に論じる。
【0076】
本発明において使用するための乾燥粉末配合物の配合は、特に組成物がヘパリンまたはヘパリノイドなどの「粘着性」グリコサミノグリカンを含む場合、幾つかの問題点を示す。これらの化合物の性質は、それらが微粒子形の配合に充分には役立たないことを意味する。したがって、特別な配合技法を使用して、粘液浄化を促進することができる効率の良い方法で分配することができる粉末を生成することが必要である。簡単な乾燥粉末配合物を使用する場合、その投与効率は、粘液浄化を促進する所望の効果を有する充分な1つまたは複数の粘液活性剤を、肺に投与することがほぼ不可能であるような投与効率であろう。
【0077】
投与効率は乾燥粉末配合物の微粒子の割合(FPF)に非常に依存し、さまざまな賦形剤を加えて、非常に充分なFPFが得られることを確実にする必要がある。
【0078】
乾燥粉末として本発明の組成物を送達することを可能にする他の障害は、効果を有するために必要とされる高用量の粘液活性剤である。過剰な乾燥粉末に肺を曝さずに非常に充分な用量を投与することができる唯一の方法は、投与効率を高めることである。乾燥粉末を使用して送達する薬剤の通常の最大用量は約5mgである。本発明では、この用量はそのレベルをはるかに超えることが多く、投与効率が非常に高くない限り、必要とされる高用量の粘液活性剤を送達することは単に不可能である。
【0079】
したがって本発明は、幾つかの粘液活性剤またはこれらの物質の組合せの使用を決定するだけではない。そうではなくて、それが医薬製品であり得るような方法で本発明を実施するために必用とされる相当量の作業がある。
【0080】
本発明の組成物は、乾燥粉末の肺投与に適した任意のデバイスを使用して分配することができる。組成物は乾燥粉末吸入器(DPI)を使用する投与に適していることが好ましい。
【0081】
本発明の組成物は、安定剤または賦形剤物質などの他の物質を含むこともできる。粘液活性剤の粒子は通常、少なくとも1%の粘液活性剤、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、あるいは少なくとも99%の粘液活性剤を含むであろう。粘液活性剤の粒子は、安定剤または賦形剤物質などの他の物質を含むこともできる。
【0082】
組成物に含まれる他の粒子または物質は、送達デバイスから呼吸管下部または肺深部への、活性粒子の有効で再現可能な送達を促進することを目的とするものであり、これらは以下で詳細に論じる。
【0083】
乾燥粉末医薬組成物の呼吸管への送達は、幾つかの問題を示すことが知られている。吸入デバイス(通常はDPI)は、好ましくは数人の患者に限られる低い吸入能力で、肺下部への相当な比率を含めた、肺に放出される最大限可能な比率の活性粒子を送達するはずである。結果として、多くの作業が乾燥粉末配合物を改善する際に行われて、呼吸管下部または肺深部に送達される活性粒子の比率が増大する。
【0084】
使用する乾燥粉末吸入器の型は、呼吸管への活性粒子の送達の効率に影響を与えるであろう。さらに、粉末の物理的性質が、活性粒子の送達の効率および再現性、ならびに呼吸管中の堆積部位に影響を与える。
【0085】
吸入デバイスから出る際に、活性粒子は物理的および化学的に安定した気体コロイドを形成するはずであり、これは伝達する細気管支または肺樹状構造の小さな枝または他の吸収部位、好ましくは肺下部中に達するまで懸濁液中に存在する。活性粒子は吸収部位から発散されないことが好ましい。
【0086】
局所作用用に肺に配合物を送達する場合、配合物中の活性粒子の大きさは、身体中の吸収部位の決定において非常に重要である。
【0087】
吸入によって肺深部に到達させる配合物に関しては、配合物中の活性剤は、例えば10μm未満の空気力学的質量中央径(MMAD)を有する非常に細かい粒子(活性粒子)の形でなければならない。10μmを超えるMMADを有する粒子は咽頭部の壁に衝突する可能性があり、一般には肺に到達しないことは充分確かである。5〜2μmのMMADを有する粒子は一般に呼吸細気管支中に堆積し、一方3〜0.05μmのMMADを有する粒子は肺胞中に堆積し、血流中に吸収される傾向がある。
【0088】
粘液活性剤は気道中で粘液に直接作用するので、乾燥粉末組成物は呼吸管下部に送達させるために配合しなければならない。したがって、乾燥粉末配合物は10μm未満または約2〜5μmのMMADを有する粘液活性剤の粒子を好ましくは含むはずである。少なくとも90重量%の粘液活性剤粒子がこの範囲内の直径を有することが好ましい。
【0089】
グリコサミノグリカンのポリアニオン性のために、粒子形成において提供されると、それらは容易に凝集体を形成する。このような凝集体は、肺深部に到達するには大きすぎる。しかしながら本発明者は、乾燥粉末吸入器にエアロゾル投与し肺深部に送達することができるグリコサミノグリカンなどの粘液活性剤を含む、粒子状配合物を提供することができている。
【0090】
本発明の組成物は、配合物の全重量に基づき少なくとも30重量%、少なくとも50重量%、少なくとも75重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%または少なくとも99重量%の粘液活性剤を含むことが有利である。
【0091】
粘液活性剤の「粘着性」の性質に加えて、相当過剰な表面自由エネルギーを与え粒子が凝集するのを助長する、その大きな表面積と体積の比のために、微粒子は熱力学的に不安定でもある。吸入器内では、小粒子の凝集および吸入器の壁へのこのような粒子の付着は、大きな安定した凝集体として吸入器に残る、あるいは吸入器をでることができない、かつ吸入器の内側に付着したままの状態である、あるいはさらに吸入器を塞ぐか遮断する微粒子を生成する問題である。
【0092】
吸入器の各作動間および異なる吸入器同士の間および異なる粒子バッチ同士間の、粒子の安定した凝集体の形成度の不確かさのために、用量の再現性が悪くなる。さらに凝集体の形成は、活性粒子のMMADは大きく増大する可能性があり、したがって活性粒子の凝集体は、必要とされる治療効果に望ましい肺の部分に到達しないことを意味する。
【0093】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、配合物のエアロゾル投与によって高細粒分(FPF)および細粒分量(FPD)を最初にもたらす。さらに本発明の組成物は、肺の適切な部分に堆積するのに適切なMMADの粒子を含む。有利なことに本発明は、良いFPFおよびFPDならびに正確な粒径範囲を有するこれらの組成物を調製する、幾つかの簡単な方法を確認している。
【0094】
乾燥粉末配合物の計測量(MD)は、問題の吸入デバイスによって示される計測形中に存在する活性剤の合計質量である。例えばMDはCyclohaler(商標)用のカプセル中、Aspirair(商標)デバイスのフォイルブリスター中に存在する活性剤の質量であってよい。
【0095】
発散量(ED)は、作動の後にデバイスから発散される活性剤の合計質量である。発散量(ED)は、デバイスの内部または外部表面、あるいは例えばカプセルまたはブリスターを含む計測システム中に残った物質は含まない。EDは用量均一サンプリング装置(DUSA)として認められることが多い装置中のデバイスからの全発散質量を集め、有効な定量湿性化学アッセイによってこれを回収することによって測定する。
【0096】
細粒分量(FPD)は、定義された限界より小さい空気力学的粒径で存在する、作動の後にデバイスから発散される活性剤の合計質量である。3μmまたは2μmなどの他の限界が明確に述べられない場合、この限界は一般に5μmであると考えられる。二段階インピンジャー(TSI)、多段階液体捕集用インピンジャー(MSLI)、Andersen Cascade インパクター(ACT)または次世代インパクター(NGI)などのインパクターまたはインピンジャーを使用してFPDを測定する。それぞれのインパクターまたはインピンジャーは、それぞれの段階の所定の空気力学的粒径収集中断点を有する。FPD値は有効な定量湿性化学アッセイによって定量化される段階毎の活性剤の回収を解釈することによって得られ、この場合単なる段階の中断を使用してFPDを測定するか、あるいは段階毎の堆積のより複雑な数学的内挿法を使用する。
【0097】
微粒子の割合(FPF)はEDで割ったFPDとして通常定義し、パーセンテージとして表す。本明細書では、EDのFPFはFPF(ED)と呼び、FPF(ED)=(FPD/ED)×100%として計算する。
【0098】
微粒子の割合(FPF)はMDで割ったFPDとして定義し、パーセンテージとして表すこともできる。本明細書では、MDのFPFはFPF(MD)と呼び、FPF(MD)=(FPD/MD)×100%として計算する。
【0099】
微粒子が凝集する傾向は、所与の量のFPFは非常に予測不能であることを意味し、さまざまな比率の微粒子が結果として肺、または肺の適切な部分に投与される。
【0100】
この状況を改善し一貫したFPFおよびFPDを与えるための試みでは、乾燥粉末配合物は添加剤物質を含むことが多い。
【0101】
添加剤物質は、乾燥粉末配合物中の粒子間の凝集性を低下させることを目的とする。添加剤物質は小粒子間の弱い結合力に干渉し、粒子を離れた状態に保つのに助力し、このような粒子の互いの接着、存在する場合は配合物中の他の粒子との接着、および吸入デバイスの内側表面との接着を低下させると考えられる。粒子の凝集体が形成される場合、添加剤物質の粒子を加えることによってこれらの凝集体の安定性が低下し、その結果凝集体は、吸入デバイスの作動で生じる乱流空気流中で分解される可能性が高くなり、それによって粒子がデバイスから放出され吸入される。凝集体が分解すると、活性粒子は肺下部に到達することができる小さな個々の粒子の形に戻る。
【0102】
従来技術では、添加剤物質の異なる粒子(一般には活性微粒子の大きさに匹敵する大きさ)を含む、乾燥粉末配合物が論じられている。幾つかの実施形態では、添加剤物質は、活性粒子および/または任意の担体粒子上に連続的または不連続的コーティングを形成することができる。
【0103】
好ましくは、添加剤物質は抗接着性物質であり、それは粒子間の凝集性を低下させる傾向があり、微粒子が吸入デバイスの内側表面に付着した状態になるのも妨げる。添加剤物質は減摩剤または流動促進剤であり、吸入器中での医薬組成物のより良い流れを与えることが有利である。このように使用される添加剤物質は、通常は必ずしも抗接着剤または減摩剤と呼ぶことはできないが、それらは粒子間の凝集性を低下させる効果、または粉末の流れを改善する効果を有する。添加剤物質は力制御物質(FCA)と呼ばれることが多く、これらは通常はより良い用量再現性および充分な細粒の割合をもたらす。
【0104】
したがって、本明細書で使用するFCAは、粒子の表面上のその存在によって、他の粒子の存在下でその粒子が経る接着および凝集表面力を改変することができる物質である。一般にその機能は、接着力および凝集力を低下させることである。
【0105】
一般に、乾燥粉末配合物に含まれる添加剤物質の最適量は、添加剤物質および活性剤の化学組成および他の性質、ならびに存在する場合は担体粒子などの他の粒子の性質に依存するであろう。一般に、添加剤物質の有効性は、組成物の細粒の割合に関して測定する。
【0106】
知られている添加剤物質は通常は生理的に許容可能な物質からなるが、添加剤物質は常に肺に到達することができるわけではない。例えば、添加剤物質の粒子が担体粒子の表面に付着する場合、添加剤物質の粒子は一般に、使用者の咽頭部の裏側にこれらの担体粒子と共に堆積するであろう。
【0107】
活性微粒子の凝集を低下させ一貫性のあるFPFおよびFPDを与えるための他の試みでは、乾燥粉末配合物は、活性物質の微粒子と混合された賦形剤物質の粗製担体粒子を含むことが多い。互いに粘着するのではなく、活性微粒子は粗製担体粒子の表面に付着する傾向があるが、一方で吸入デバイス中では、分配デバイスの作動によって放出され分配された状態になり、呼吸管中に吸入されて浮遊微粒子を与えると考えられる。担体粒子は60μmを超えるMMADを有することが好ましい。
【0108】
粗製担体粒子の封入は、比較的少量の活性剤を分配する場合魅力的である。非常に少量の粉末を正確かつ再現可能に分配することは大変難しく、分配する粉末量のわずかな違いは、粉末が主に活性粒子を含む場合、活性剤の用量の大きな違いを意味する。したがって、大きな賦形剤粒子の形で希釈剤を加えることによって、投与はより再現性のある正確なものとなるであろう。しかしながら、粘液浄化に対する影響を有することが必要とされる、ヘパリンなどの粘液活性剤の用量は比較的多い。これは、FPFおよびFPD値を増大させるために本発明の組成物の幾つかに担体粒子を封入することは、魅力的でないかあるいは単にオプションではないことを意味する。
【0109】
本発明の組成物に含まれる場合、担体粒子は任意の許容可能な賦形剤物質または物質の組合せであってよい。例えば担体粒子は、糖アルコール、ポリオールおよび結晶糖から選択される1つまたは複数の物質から構成されていてよい。他の適切な担体には、塩化ナトリウムおよび炭酸カルシウムなどの無機塩、乳酸ナトリウムなどの有機塩、ならびに多糖およびオリゴ糖などの他の有機化合物がある。担体粒子はポリオールから構成されることが有利である。特に、担体粒子は結晶糖、例えばマンニトール、デキストロースまたはラクトースの粒子であってよい。担体粒子は、前述のように粘液活性剤であるラクトースまたはマンニトールから、構成されることが好ましい。
【0110】
ほぼ全ての(重量)の担体粒子が、20μmと1000μmの間、より好ましくは50μmと1000μmの間に存在する直径を有することが有利である。ほぼ全ての(重量)の担体粒子の直径は355μm未満であり、20μmと250μmの間に存在することが好ましい。
【0111】
少なくとも90重量%の担体粒子が、40μmと180μmの間の直径を有することが好ましい。担体粒子の比較的大きな直径によって、他の小さな粒子が担体粒子の表面に付着した状態になる機会が改善されて、気道中の活性粒子の優れた流動および飛沫同伴性、ならびに改善された放出が与えられて、肺下部中の活性粒子の堆積が増大する。
【0112】
担体粒子(存在する場合)と組成物の活性粒子が混合される割合は、使用する吸入デバイスの型、使用する活性粒子の型、および必要とされる用量に当然ながら依存する。担体粒子は、複合活性粒子と担体粒子を組合わせた重量に基づいて、少なくとも50%、より好ましくは70%、有利には90%および最も好ましくは95%の量で存在することができる。
【0113】
しかしながら、活性微粒子の組成物に粗製担体粒子を加えると他の難点に遭遇し、その難点によって、送達デバイスの作動時に大きな粒子の表面から微粒子が分離することが確実になる。
【0114】
他の活性粒子由来、存在する場合は担体粒子由来の活性粒子を分配して、吸入用の活性微粒子のエアロゾルを形成するステップは、肺中の所望の吸収部位に到達する活性物質の用量の比率を決定する際に重要である。その分散の効率を改善するために、前に論じた性質のFCAを含む添加剤物質を組成物に含ませることが知られている。活性微粒子および添加剤物質を含む組成物は、WO97/03649およびWO96/23485中に開示されている。
【0115】
知られている乾燥粉末配合物に関する前述の問題を鑑みると、それらが添加剤物質および/または担体粒子を含む場合でも、本発明の目的は、高いFPFおよびFPDをもたらす物理的および化学的性質を有する乾燥粉末組成物を提供することである。これは高い投与効率をもたらし、分配した活性剤の大部分は必要とされる治療効果を得るために肺の所望部分に到達する。
【0116】
詳細には本発明は、乾燥粉末配合物を構成する粒子を工学処理することによって、および詳細には活性剤粒子を工学処理することによって、乾燥粉末配合物中で使用する活性剤粒子の調製を最適化しようと努めるものである。さらに、粒子間の凝集性を低下させ、乾燥粉末組成物のFPFおよびFPDを増大させる。これはFCAの存在下でヘパリン粒子を調製することによって行う。
【0117】
乾燥粉末配合物のFPFおよびFPDは粉末自体の性質に依存する一方で、これらの値は粉末を分配するために使用する吸入器の型によっても影響を受ける。乾燥粉末吸入器は、患者の息がデバイス中の原動力をもたらす唯一の供給気体である「受動的」デバイスである可能性がある。「受動的」乾燥粉末吸入デバイスの例には、RotahalerおよびDiskhaler(GlaxoSmithKline)、ならびにTurbohaler(Astra-Draco)およびNovolizer(商標)(Viatris GmbH)がある。あるいは、圧縮気体の源または他のエネルギー源を使用する、「活性」デバイスを使用することができる。適切な活性デバイスの例には、Aspirair(商標)(Vectura Ltd-WO01/00262およびGB2353222を参照)、および(米国特許第6,257,233号によって含まれるのと同様の)Nektar Therapeuticsによって製造された活性吸入デバイスがある。概して、受動的デバイスを使用して得られるFPFは、同じ粉末を用いて、ただし活性デバイスを使用して得られるFPFほど良くない傾向がある。
【0118】
本発明の一実施形態では、乾燥粉末組成物は少なくとも40%のFPFを有し、少なくとも50%のFPFを有することが好ましい。FPF(ED)は50%と99%の間、より好ましくは70%と99%の間、および最も好ましくは80%と99%の間であってよい。FPF(MD)は少なくとも35%であってよい。好ましくはFPF(MD)は40%と99%の間、より好ましくは50%と95%の間、および最も好ましくは70%と90%の間であろう。
【0119】
さらに他の実施形態では、医薬組成物は少なくとも1つの粘液活性剤および力制御物質を含み、力制御物質は粘液活性剤の粒子の表面上に存在することが好ましい。他の実施形態では、医薬組成物は少なくとも1つの粘液活性剤を、前述のリストから選択される活性剤および力制御物質と組み合わせて含み、力制御物質は粘液活性剤の粒子の表面上に存在することが好ましい。
【0120】
本発明の組成物に含まれる好ましいFCAは、前に論じた添加剤物質のいずれかであってよい。FCAはアミノ酸、特に疎水性アミノ酸、0.25kDaと1000kDaの間の分子量を有するペプチドおよびポリペプチドならびにこれらの誘導体、両性イオンなどの双極性イオン、レシチンなどのリン脂質、およびステアリン酸マグネシウムなどのステアリン酸金属から選択されることが好ましい。特に好ましいのはアミノ酸、ならびに特にロイシン、リシンおよびシステインである。
【0121】
知られているFCAは通常は生理的に許容可能な物質からなるが、FCAは常に肺に到達することができるわけではない。例えば、FCA粒子が担体粒子の表面に付着する場合、FCA粒子は一般に、使用者の咽頭部の裏側にこれらの担体粒子と共に堆積するであろう。
【0122】
本発明で使用するFCAは、フィルム形成物質、脂肪酸およびそれらの誘導体、脂質および脂質様物質、および表面活性剤、特に固体表面活性剤であってよい。
【0123】
FCAはアミノ酸およびそれらの誘導体、ならびにペプチドおよびそれらの誘導体から選択される1つまたは複数の化合物を含むことが有利である。アミノ酸、ペプチドおよびペプチドの誘導体は生理的に許容可能であり、吸入時に活性粒子の許容可能な放出をもたらす。
【0124】
FCAはアミノ酸を含むことが非常に有利である。FCAは以下のアミノ酸のいずれか:ロイシン、イソロイシン、リシン、システイン、バリン、メチオニン、およびフェニルアラニンの1つまたは複数を含むことができる。FCAはアミノ酸の塩または誘導体、例えばアスパルテーム、アセサルフェムK、またはアセチルシステインであってよい。FCAはアミノ酸、より好ましくはロイシン、有利にはL-ロイシンから本質的になることが好ましい。D-およびDL-形を使用することもできる。前述のようにL-ロイシンは、吸入時に活性粒子の非常に有効な分散性を与えることが見出されてきている。リシンおよびシステインもFCAとして有用である。前に論じたように、これらのアミノ酸も粘液活性剤である。他の実施形態では、アミノ酸はグリシンまたはアラニンではない。
【0125】
FCAは1つまたは複数の水溶性物質を含むことができる。FCAが肺下部に到達する場合、これによって身体による物質の吸収が助長される。FCAは両性イオンを含むことができ、これは双極性イオンであってよい。
【0126】
あるいはFCAは、リン脂質またはその誘導体を含むことができる。レシチンはFCAとして使用するのに優れた物質であることが見出されてきている。
【0127】
FCAはステアリン酸金属またはその誘導体、例えばステアリルフマル酸ナトリウムまたはステアリル乳酸ナトリウムを含むことができる。FCAはステアリン酸金属を含むことが有利である。例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウムまたはステアリン酸リチウム。FCAはステアリン酸マグネシウムを含むことが好ましい。
【0128】
FCAは1つまたは複数の表面活性物質、特に固体状で表面活性がある物質を含むか、あるいはこれらからなっていてよい。これらは水溶性、あるいは水中懸濁液を形成することができる物質、例えばレシチン、特にダイズレシチンであってよく、あるいは実質的に非水溶性である物質、例えばオレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、エルカ酸、ベヘン酸などの固体状脂肪酸、またはその誘導体(エステルおよび塩など)、ベヘン酸グリセリルなどであってよい。このような物質の具体例は:ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトールであり、天然および合成肺表面活性剤の他の例は;ラウリン酸およびその塩、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム;Dynsan118およびCutinaHRなどのトリグリセリド;および一般に糖エステルである。あるいはFCAは、スポロポレニンなどの花粉または胞子細胞壁要素を含めた、コレステロールまたは天然細胞膜物質であってよい。
【0129】
他の考えられるFCAには、安息香酸ナトリウム、室温では固体である硬化油、タルク、二酸化チタン、二酸化アルミニウム、二酸化ケイ素およびデンプンがある。
【0130】
幾つかの実施形態では、複数の異なるFCAを使用することができる。
【0131】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様の組成物を生成するための方法を提供する。
【0132】
噴霧乾燥は、物質の粒子を生成するための、よく知られており広く使用されている技法である。簡単に要約すると、粒子にされる物質は液体に溶けるかあるいは分散し、あるいは圧力下でノズルを介して噴霧して微液滴の霧または蒸気を生成する液体にすることができる。これらの微滴は通常は熱に曝して、滴中の過剰な揮発性液体を直ぐに蒸発させ、乾燥粉末粒子を効果的に残す。
【0133】
本発明の他の態様によれば、本発明の組成物は噴霧乾燥によって調製する。一実施形態では噴霧乾燥法は、1つまたは複数の粘液活性剤と1つまたは複数の力制御物質の同時噴霧乾燥を含む。
【0134】
1つまたは複数の粘液活性剤、場合によっては1つまたは複数の他の追加的な活性剤、および噴霧乾燥して乾燥粉末配合物を形成するFCAの組合わせまたは混合物は、宿主液に溶けた溶液あるいはそれに懸濁した懸濁液であってよい。幾つかの実施形態では、粘液活性剤および/またはFCAの全体または少なくとも一部分は、噴霧乾燥を施す前は宿主液の溶液中に存在する。実質的に全ての粘液活性剤およびFCAが、噴霧乾燥を施す前に宿主液の溶液中に存在することができる。
【0135】
1つまたは複数の粘液活性剤は、噴霧温度および圧力において宿主液中のFCAより、少なくとも1.5、2、4およびより好ましくは少なくとも10倍可溶性があることが好ましい。好ましい実施形態では、この関係は30℃と60℃の間の温度、および大気圧で存在する。他の実施形態では、この関係は20℃と30℃の間の温度および大気圧、あるいは好ましくは20℃および大気圧で存在する。
【0136】
前に論じた噴霧乾燥技法以外に、噴霧凍結乾燥および凍結乾燥などの、微粒子を生成するための他の技法を使用することができる。
【0137】
本発明の他の実施形態では、1つまたは複数の粘液活性剤は、所定の大きさの制御速度で動く滴を生成するための手段を含む非従来型の噴霧乾燥機を使用して噴霧乾燥させる。滴形成および乾燥概略のこの制御の利点は、以下でさらに詳細に論じる。
【0138】
最後に噴霧乾燥法は、噴霧乾燥させた粒子の含水率を調節して粒子の性質を「微調整」する、他のステップも含むことができる。これも以下でさらに詳細に論じる。
【0139】
乾燥粉末配合物のFPFおよびFPDは、噴霧乾燥する滴を生成させるために使用する手段によって影響を受けることが発見されてきている。滴を形成する異なる手段は、滴の大きさおよび大きさの分布、ならびに形成時に滴が移動する速度、および滴周辺の気体の流れに影響を与える可能性がある。この点において、形成時に滴が移動する速度、および滴周辺の気体(通常は空気)の流れは、生成する乾燥粒子の大きさ、大きさの分布および形状に著しく影響を与える可能性がある。
【0140】
所定の大きさの制御速度で動く滴を生成するための手段を含む噴霧乾燥機を使用して、1つまたは複数の粘液活性剤を噴霧乾燥させる、乾燥粉末配合物を調製する方法を提供する。滴の速度は、滴が噴霧される気体の塊に対して制御されることが好ましい。滴が噴霧される気体の初速および/または気体の塊の速度を制御することによって、これを行うことができる。
【0141】
噴霧乾燥法中に形成される滴の大きさを制御することができ、滴の大きさが乾燥粒子の大きさに影響を与えることが明らかに望ましい。滴形成手段によって比較的狭い範囲の滴、したがって粒子、大きさの分布も生じることが好ましい。これによって、さらに均一な粒径、したがってさらに予想可能な一貫したFPFおよびFPDを有する乾燥粉末配合物が生成するであろう。
【0142】
滴の速度を制御する能力によって、生成する粒子の性質のさらなる制御も可能になる。特に滴周辺の気体の速度は、滴が乾燥する速度に影響を与えるであろう。二流体ノズル配置を使用して形成される(空気中に噴霧される)滴などの、迅速に移動する滴の場合、滴周辺の空気は絶えず交換される。滴から溶媒が蒸発すると、水分が滴周辺の空気中に入る。この湿った空気が新鮮な乾燥した空気と絶えず交換される場合、蒸発速度は増大するであろう。対照的に、滴が空気中をゆっくりと移動する場合、滴周辺の空気は交換されず、滴周辺の高い湿度が乾燥速度を低下させるであろう。以下でさらに詳細に論じるように、滴が乾燥する速度はFPFおよびFPDを含めた形成される粒子のさまざまな性質に影響を与える。
【0143】
好ましくは、その生成地点から10mmにおける滴の速度は100m/s未満、より好ましくは50m/sand未満、最も好ましくは20m/s未満である。好ましくは、滴が生成する地点から10mmにおける、滴を生成させる際に使用する気体の速度は100m/s未満、より好ましくは50m/s未満、および最も好ましくは20m/s未満である。一実施形態では、滴が噴霧される気体の塊に対する、その生成地点から10mmにおける滴の速度は100m/s未満、より好ましくは50m/s未満、および最も好ましくは20m/s未満である。
【0144】
所定の大きさの制御速度で動く滴を生成するための手段は、一般的に使用されている二流体ノズルに対する代替法であることが好ましい。一実施形態では、噴霧乾燥法において超音波ネブライザー(USN)を使用して滴を形成する。
【0145】
超音波ネブライザー(USN)は知られているが、これらは薬剤を含む溶液を直接吸入するための吸入デバイスにおいて従来使用されており、薬剤用噴霧乾燥装置では以前は広く使用されていなかった。吸入用に粒子を噴霧乾燥させるための方法において、このようなネブライザーを使用することには幾つかの重要な利点があることが発見されてきており、これらは以前は認められていなかった。好ましいUSNは滴の速度、したがって粒子が乾燥する速度を制御し、したがって生成する粒子の形状および密度に影響を与える。USNの使用は大規模で噴霧乾燥を行う機会も与え、これは二流体ノズルなどの滴を生成するために使用される従来型のノズルを有する、従来の噴霧乾燥装置を使用することよりも可能性がある。
【0146】
USNは滴を生成するための充分な気体速度を必要としないので、乾燥機は煙の形状、速度および方向のさらなる制御をもたらすことができ、従来の二流体、圧力または回転噴霧器を用いることよりも可能性がある。したがって利点には、少ない乾燥機壁への堆積、さらに制御されより一貫した乾燥速度がある。低い煙速度は小さな乾燥単位が考えられることを意味する。
【0147】
好ましいUSNは、液体中に沈んでいる超音波トランスデューサーを使用する。超音波トランスデューサー(圧電性結晶)は超音波周波数を振動させて、液体噴霧に必要とされる短い周波数を生成する。1つの一般的な形のUSNでは、結晶表面からネブライザー液に直接、あるいは通常は水であるカップリング液を介して振動が伝わるように、結晶底部を保持する。超音波振動が充分強い場合、ネブライザーチャンバー内の液体の表面に液体の泉が形成される。大きな滴が先端から放出され、小さな滴の「霧」が放出される。標準的なUSNがどのように働くかを示す概略図を、図1に示す。
【0148】
(>1.5メガヘルツでのこのような単位振動の)一圧力単位当たりのアウトプットは1.0cc/分より大きく、3.0cc/分より大きく、5.0cc/分より大きく、8.0cc/分より大きく、10.0cc/分より大きく、15.0cc/分より大きくあるいは20.0cc/分より大きいことが好ましい。したがってこのような単位は、少なくとも90重量%の粒子が乾燥粉末分散単位からMalvern Mastersizerにより測定して3μm未満、2.5μm未満または2μm未満の大きさを有する、乾燥粒子を生成するはずである。
【0149】
(>2.2メガヘルツでのこのような単位振動の)一圧力単位当たりのアウトプットは0.5cc/分より大きく、1.0cc/分より大きく、3.0cc/分より大きく、5.0cc/分より大きく、8.0cc/分より大きく、10.0cc/分より大きく、15.0cc/分より大きくあるいは20.0cc/分より大きいことが好ましい。したがってこのような単位は、d(90)が乾燥粉末分散単位からMalvern Mastersizerにより測定して3μm未満、2.5μm未満または2μm未満の大きさを有する、乾燥粒子を生成するはずである。
【0150】
吸入用の微粒子乾燥粉末を生成するためのUSNの魅力的な特性には:低い噴霧速度;ネブライザーを操作するのに必要とされる少量の担体気体;生成する比較的小さな滴の大きさおよび狭い範囲の滴の大きさ分布;USNの単純な性質(汚染する可能性がある可動部分の不在など);滴周辺の気体の流れを正確に制御し、それによって乾燥速度を制御する能力;および従来の二流体ノズル配置を使用すると困難で費用がかかる方法で、USNを使用する乾燥粉末の生成を商業上実現可能にする高いアウトプット率がある。これは従来の噴霧乾燥装置のスケールアップは困難であり、従来の噴霧乾燥装置中に空間を使用することは不充分であるためであり、大規模な噴霧乾燥は多くの装置および多くの床空間を必要とすることを意味する。
【0151】
USNが液体の速度を増大させることによって液体を滴に分離することはない。そうではなくて、超音波ネブライザーによって引き起こされる振動によって必要なエネルギーが与えられる。
【0152】
さらにUSNを使用して滴の乾燥を調節し、生成する粒子の表面上の力制御物質の発現を制御することができる。活性剤自体が力制御物質として作用することができる場合、USNを用いる噴霧乾燥をさらに助長して、力制御物質を含むことの効果を、それを含まなくても得ることができるように、疎水性部分の位置を制御することができる。
【0153】
したがって、従来のBuchi二流体ノズルに対する代替として、超音波ネブライザーを使用して滴を生成することができ、次いでこれをBuchi乾燥チャンバー内で乾燥させる。1つの配置では、USNは活性剤を含む供給溶液中、特別に設計されたガラスチャンバー中に置き、USNによって生成した滴の塊の噴霧乾燥機の加熱乾燥チャンバー中への直接の導入を可能にする。
【0154】
二流体ノズルは、それが通常存在するが圧縮空気は流れない穴を塞ぐように配置する。乾燥チャンバーは100%のアスピレーター設定で、次いで150℃の入口温度まで加熱する。Buchi系の負圧のために、噴霧した滴の塊は乾燥チャンバー中に容易に引き寄せられ、そこで滴が乾燥されて粒子を形成し、これらは次いでサイクロンによって分類され、収集容器に収集される。連続的噴霧の結果としての供給溶液の濃縮を避けるために、チャンバー内の供給溶液のレベルが定期的に最高になることは重要である。
【0155】
噴霧乾燥法が乾燥させる滴を形成するために、二流体ノズルなどの従来のノズルの使用を含む場合、滴周辺の大きな気体流速によって速い乾燥速度がもたらされる。比較すると、USNを使用して形成された滴周辺の気体速度は対照的に低いので、USNを使用して形成された滴は、従来の二流体ノズルを使用することによって生成した滴よりゆっくりと乾燥する。これは生成する粒子に対して幾つかの顕著な影響を有する。
【0156】
滴が直ぐに乾燥する場合、特に活性剤をFCAと同時に噴霧乾燥する場合、ひだ状の粒子形態が観察される。USNを使用して形成された滴からの低い溶媒蒸発速度は、ひだ状の粒子形態につながる現象である低下した「ブローイング」をもたらすと考えられる。したがって、USNを使用して粒子が生成される場合に観察される物理的により小さく、より滑らかな主要粒子。
【0157】
USNを使用して滴が形成される場合に予想される遅い乾燥速度によって、同時に噴霧乾燥させたFCAが乾燥プロセス中に滴の表面に移動することができることも推測される。FCAの疎水性部分が滴の表面に位置した状態になるのを助長する(極性)溶媒の存在によって、この移動をさらに促進することができる。例えば水性溶媒は、この点において助けとなると考えられる。
【0158】
FCAはそれが生成する粒子の表面に存在するようにresultant滴の表面に移動することができるので、滴に含まれる大部分のFCAは実際に力の制御効果を有することは明らかである(何故ならFCAは表面上に存在して、この効果を有していなければならないからである)。したがってUSNの使用は、従来の噴霧乾燥法を使用して生成される粒子と比較して、生成する粒子において同じ力の制御効果を生み出すために、それがより少ないFCAの添加を必要とする他の利点を有することにもなる。
【0159】
本来、活性剤自体が粒子表面上に主な組成物として存在し得る疎水性部分を有する場合、別のFCAをほとんどあるいは全く用いずに優れたFPFおよびFPD値を得ることができる。実際このような状況では、粒子の表面上でのその疎水性部分の配置のために、活性剤自体がFCAとして作用する。
【0160】
ひだ状の粒子形態は望ましいと以前は考えられていた、何故なら、それは粒子の接着性および凝集性を低下させるのを手助けすると考えられていたからである。この粒子形態は、粒子が吸入デバイスに放出される場合、粒子を飛散させることさえも手助けすることができるとも以前は推測されていた。しかしながら、この推測にもかかわらず、本発明者は実際、粒子表面の化学的性質はFPF、EDなどの点で粒子の性能により一層影響を与える可能性があると感じている。特に、粒子表面上の疎水性部分の存在は、クレーターまたは窪みの存在よりも、凝集性を低下させる際にさらに重要であると考えられる。したがって、従来技術の示唆とは反対に、優れたFPF値をもたらすために非常に窪んだ粒子またはひだ状の粒子を生成することを探求する必要はない。
【0161】
確かに、非常に窪んだ粒子またはひだ状の粒子を生成しないことは実際有利である。何故ならこれらは、粒子間が高い間げき率を有する低密度粉末を生成する可能性があるからである。この形の結果として、このような粉末はその質量に対して多大な体積を占め、パッケージ化の問題をもたらす、すなわち所与の粉末の塊用に、さらに大きなブリスターまたはカプセルが必要とされる可能性がある。噴霧乾燥法においてUSNを使用して生成される粉末などの高密度粉末は、特に投与する活性剤の用量が多い本発明では、したがって有益である可能性がある。
【0162】
さらに前述のように、噴霧乾燥粒子に含まれるFCAの効果は、USNなどの他の手段を使用して滴が形成される場合は、粒子表面に添加剤が移動するために増大する。したがってこれは、少量のFCAが含まれる必要があることを意味し、この場合高用量の活性剤が必要とされ、これは他の利点である。
【0163】
本発明の粉末は、少なくとも0.1g/cc、少なくとも0.2g/cc、少なくとも0.3g/cc、少なくとも0.4g/ccまたは少なくとも0.5g/ccのタップ密度を有することが好ましい。
【0164】
前に論じたように、本発明の組成物に含まれる少なくとも幾つかの粘液活性剤は多量に必要とされる。したがって、組成物中または粒子中に担体または充填剤などの他の物質を含むことは望ましくない。したがって、本発明の一実施形態では、本発明の組成物中で使用するための粒子を生成する噴霧乾燥法は、活性剤と担体または充填剤の同時噴霧乾燥は含まない。
【0165】
高いアウトプット率で低速滴を生成する他の手段を使用すると、USNを使用する前に示した結果と同様の結果を得ることは予想されるであろう。例えば、電気噴霧型ノズルまたは振動オリフィス型ノズルなどの、他の代替的なノズルを使用することができる。これらのノズルは、超音波ノズルと同様に運動量ゼロであり、担体空気流によって容易に方向付けすることができる噴霧をもたらす。しかしながら、それらのアウトプット率は一般に、前に記載したUSNのそれより低い。
【0166】
噴霧乾燥法において使用するための他の魅力的な型のノズルは、電気-流体力学的噴霧を利用するノズルである。先端に高電圧を印加することにより例えばファインニードルで、テイラーコーンを作製する。これによって滴を許容可能な単分散系に飛散させる。この方法は、乾燥後の滴の輸送以外は気体流を使用しない。許容可能な単分散系は、スピニングディスク形発電機を使用して得ることもできる。
【0167】
超音波ノズル、電気噴霧型ノズルまたは振動オリフィス型ノズルなどのノズルは、多くの単ノズルオリフィスが小領域に配置され供給溶液の高い全体スループットを助長する、多ノズル形式で配置することができる。超音波ノズルは、超音波トランスデューサー(圧電性結晶)である。超音波トランスデューサーを縦長容器中に置く場合、アウトプットが著しく上昇する可能性がある。
【0168】
粘液活性剤の粒子が噴霧乾燥によって生成される場合、幾らかの水分が粒子内に残存する。これは特に、粘液活性剤が温度感受性であり、粒子からさらなる水分を除去するために通常必要とされると思われる、長時間の高温に耐えられない場合に当てはまる。
【0169】
粒子中の水分の量は、密度、多孔性、飛散性などの、さまざまな粒子の特性に影響を与えるであろう。
【0170】
したがって、乾燥粉末組成物を調製する方法も提供し、この方法は粒子の含水率を調節するステップを含む。
【0171】
一実施形態では、水分調節またはプロファイリングステップは水分の除去を含む。このような二次的乾燥ステップは、他の水分を昇華によって除去する凍結乾燥を含むことが好ましい。他の型の乾燥は真空乾燥である。
【0172】
一般に二次的乾燥は、活性剤をFCAと同時に噴霧乾燥させた後に行う。他の実施形態では、二次的乾燥は、噴霧された粘液活性剤が噴霧乾燥された後に行い、活性剤はFCAと場合によっては混合させた。
【0173】
二次的乾燥ステップは、2つの特定の利点を有する。第1にそれを選択して、長時間高温にヘパリンを曝すのを避けることができる。さらに、二次的乾燥による残留水分の除去は、噴霧乾燥により粒子から全水分を除去することより、大幅に安価である可能性がある。したがって、噴霧乾燥と凍結乾燥または真空乾燥の組合わせは経済的かつ効果的であり、温度感受性のある薬剤活性剤に適している。
【0174】
二次的乾燥は、粘液活性剤粒子の含水率を大幅に低下させる(約8.5%〜2%)。これは、残留水分を保持する硬質の外殻が存在し、これが二次的乾燥によって作動し、他の水分が中心部に捕捉されるような方法で、粘液活性剤粒子が乾燥していることを示すと思われる。乾燥チャンバー中での粒子の滞留時間は短すぎ、外殻が急速に形成され、これは最初の噴霧乾燥プロセス中に水分を容易に通過させるには硬すぎることは推測されると思われる。
【0175】
二次的乾燥は、粉末の含水率を低下させることによって、生成物の安定性に対して有益である可能性もある。このことは、非常に熱感受性であり得る薬剤は低温で噴霧乾燥させてそれらを保護することができ、次いで二次的乾燥に施して水分をさらに減少させ、それによって薬剤を保護することができることも意味する。
【0176】
本発明の第3の態様の他の実施形態では、水分のプロファイリングは、粉末乾燥粒子の含水率を増大させることを含む。
【0177】
粒子を湿気雰囲気に曝すことによって、水分を加えることが好ましい。加える水分の量は、湿度および/または粒子をこの湿度に曝す時間の長さを変えることによって制御することができる。
【0178】
二次的乾燥も場合によっては含むことができる噴霧乾燥の後、例えばエアージェットミルにおいて粉末を製粉して、粒子間に強力な架橋を形成した任意の粒子凝集体を分離させることは有利である可能性もある。
【0179】
本発明のさらに他の実施形態では、1つまたは複数の粘液活性剤を噴霧乾燥させて乾燥粉末配合物を形成することの代わりに、乾燥粉末を調製する他の方法を使用することも可能である。例えば、多くの乾燥粉末は微粉化、すなわち大きな粒子を粉砕して所望の大きさの小粒子を形成することによって形成される。
【0180】
国際公開No.WO02/43701中に詳細に記載されたのと同様の、同時ミリングおよびメカノヒュージョンとして知られる技法は、複合活性粒子を生成し、本発明の乾燥粉末配合物を調製するのにも適している。
【0181】
本発明において同時ミリングおよびメカノヒュージョンによって形成される複合活性粒子は、その表面上に一定量のFCAを有する、1つまたは複数の粘液活性剤の非常に細かい粒子である。FCAは、1つまたは複数の粘液活性剤の粒子の表面上の、コーティングの形であることが好ましい。コーティングは不連続なコーティングであってよい。FCAは1つまたは複数の粘液活性剤の粒子の表面に付着した粒子の形であってよい。以下で説明するように、少なくとも幾つかの複合活性粒子は凝集体の形であってよい。
【0182】
複合活性粒子が医薬組成物に含まれる場合、前に論じた吸入器の作動による患者へのその組成物の投与時に、FCAは複合活性粒子の分散を促進する。したがって、ここでもFCAの存在は、乾燥粉末配合物のFPFおよびFPDを増大させることができる。
【0183】
FCAの存在下での1つまたは複数の粘液活性剤の粒子のミリングは著しく小さな粒子を生成する、かつ/あるいはFCAの不在下で行われる同等のプロセスより少ない時間および少ないエネルギーを必要とすることも見出されてきている。これは、5、4、3または2μm未満の空気力学的質量中央径(MMAD)または体積中央径(VMD)を有する複合活性粒子の生成を可能にする。他のミリング法によってよりこの方法によって小粒子を得ることが、はるかに容易であることが多い。
【0184】
ミリング処理は、ミリング粒子の表面上に無定形物質を生成しそのレベルを増大させ、したがってそれらをさらに粘着性にする傾向があることは知られている。対照的に、本発明の複合粒子は、ミリング処理後に粘着性が低いことが発見されることが多い。
【0185】
本明細書で使用する用語「ミリング」は、粗製粒子(例えば、100μmを超える空気力学的質量中央径の粒子)を50μmを超えない空気力学的質量中央径の微粒子に分解することができる充分な力を活性剤の粒子に施す、あるいはメカノヒュージョン、回転混合法および同様の方法に関して以下に記載したのと同様の比較的制御された圧縮力を施す、任意の機械的処理を指す。
【0186】
効果的な混合およびこれらの粒子の表面へのFCAの効果的な施用が達成されるように、1つまたは複数の粘液活性剤の個々の粒子(特に粘液活性剤が粘着性であるヘパリンを含む場合、粒子は凝集する傾向がある)を分離させるためには、高度の力が必要とされる。ミリング処理の特に望ましい態様は、FCAがミリング中に変形状態にある可能性があり、粘液活性剤粒子の表面上に塗られるかあるいはそこに融合する可能性があることであると考えられる。しかしながら、1つまたは複数の粘液活性剤の粒子がすでに細かい、例えばミリングステップの前に20μm未満のMMADを有する場合、これらの粒子の大きさを著しく減少させることはできないことは理解されるはずである。重要なのは、ミリング処理が充分高度な力またはエネルギーを粒子に施すことである。
【0187】
この方法は一般に、FCAの粒子を粘液活性剤粒子の表面に充分に接近させて、コーティングされた粒子を得ることを含む。両成分の凝集体の充分な分解、粘液活性剤粒子上でのFCAの分散および均一な分布を確実にするために、強度の混合が必要とされる。
【0188】
ミリングステップの結果として、完全または部分的、連続または不連続、多孔性または非多孔性コーティングが形成される可能性がある。これらのコーティングは、ヘパリンとFCA粒子の組合わせから生じる。これらは、1つまたは2つの要素の溶解を必要とする湿式法によって形成されるようなコーティングではない。一般に、このような湿式コーティング法は、本発明のミリング処理よりコストがかかりより時間を消費する可能性があり、コーティングの位置および構造を制御することがあまり容易ではないという欠点もある。
【0189】
広範囲のミリングデバイスおよび条件が、本発明の方法中で使用するのに適している。ミリング条件、例えばミリングの強度および時間を選択して、必要とされる程度の力を与えなければならない。
【0190】
ボールミリングは適切なミリング法である。遠心型および遊星型ボールミリングは特に好ましい方法である。あるいは、粒子を含む流体が充分なせん断力および乱流の条件を生み出す高圧においてバルブを介して送られる、高圧ホモジナイザーを使用することができる。
【0191】
粒子に対するせん断力、粒子と機械表面または他の粒子の間の衝撃、および流体の加速による空洞現象はいずれも、粒子の破砕に貢献する可能性があり、圧縮力を与える可能性もある。
【0192】
このようなホモジナイザーは、複合活性粒子の大規模な調製において使用するためのボールミルより適切である可能性がある。
【0193】
適切なホモジナイザーには、4000バールまでの圧力が可能であるEmulsiFlex高圧ホモジナイザー、Niro Soavi高圧ホモジナイザー(2000バールまでの圧力が可能である)、およびMicrofluidics Microfluidisers(最大圧力2750バール)がある。あるいはミリングステップは、高エネルギー媒体ミルまたは攪拌ビーズミル、例えばNetzch高エネルギー媒体ミル、またはDYNO-ミル(Willy A.Bachofen AG、スイス)を含むことができる。あるいはミリングは、MechanoFusionシステム(Hosokawa Micron Ltd)、Hybridizer(Nara)、または任意の同様の充分な強度の圧縮法などの乾燥コーティング高エネルギー法であってよい。
【0194】
他の考えられるミリングデバイスには、エアージェットミル、ピンミル、ハンマーミル、ナイフミル、超遠心分離型ミル、ならびに乳鉢および破砕ミルがある。
【0195】
特に好ましい方法は、MechanoFusion、HybridiserおよびCyclomix装置を伴う方法である。エアージェットミルも特に好ましい。
【0196】
他の適切な方法にはボールおよび高エネルギー媒体ミルがあり、これらは所望の高いせん断力および表面間の圧縮応力を与えることもできるが、クリアランスギャップは制御されないので、コーティング法はメカノヒュージョンミリングほど充分には制御することができず、望ましくない再凝集の程度などの幾つかの問題が生じる可能性がある。これらの媒体ミルは、回転性、振動性、攪拌性、遠心性または遊星性であってよい。
【0197】
粘液活性剤粒子と添加剤物質をボールミリングすると、微粉末が生成しないことが、幾つかの場合観察されてきている。その代りに粉末を、ミルの作用によってミルの壁上で圧縮成形した。これがミリング作用を抑制し、複合活性粒子の調製を妨げた。特に数個の添加剤物質を使用した場合、添加剤物質が少量(典型的には<2%)で存在した場合、ミリングボールが比較的小さかった(典型的には<3mm)場合、ミリング速度が遅すぎた場合、最初の粒子が細かすぎた場合に、その問題が生じた。この発生を防ぐために、液状媒体中でボールミリングすることが有利である。液状媒体は圧縮する傾向を低下させ、添加剤物質の分散を促進し、任意のミリング作用を改善する。
【0198】
液状媒体は、それが如何なる有意な程度でも粘液活性剤粒子を溶かさず、その粘性が有効なミリングを妨げるほど高くない限り、高または低揮発性および任意の固形分であってよい。液状媒体は水性ではないことが好ましい。好ましくは液体は、その中では添加剤物質は実質的に不溶であるが、充分な添加剤物質が存在し非溶解状態の添加剤物質の粒子が残存する限り、ある程度の溶解度を認めることができる液体である。適切な液状媒体には、ジエチルエーテル、アセトン、シクロヘキサン、エタノール、イソプロパノールまたはジクロロメタンがある。不燃性である液状媒体、例えばジクロロメタンおよびフッ素化炭化水素、特に吸入器中で推進剤として使用するのに適したフッ素化炭化水素が好ましい。
【0199】
FCA(ヘパリン+ロイシン(95:5))を用いて噴霧乾燥したヘパリンおよびジェットミリングしたヘパリンの結果は、以下の表1中に示す。
【0200】
【表1】

【0201】
2%(w/w)溶液に溶かしたヘパリンおよびロイシン(95:5)を、従来の二流体噴霧器を有するSL10噴霧乾燥機を使用して噴霧乾燥した。250℃の温度および80psiのノズル空気圧で、粉末を噴霧乾燥した。使用した液体の流速は32ml/分であった。
【0202】
生成した粉末はサイクロン内で回収した。この粉末を次いで真空下で二次乾燥させた。粉末は次いで20mgでカプセルに充填し、次いでMonohalerデバイスから二段階インピンジャーに移した。生成したFPF(MD)は37%であった。後に粉末を空気によりジェットミリングして凝集体中の粒子間の任意の固体架橋を減少させた後に、FPF(MD)は40%に増大した。粉末はMalvern粒径測定器によっても分析した。
【0203】
ヘパリンとロイシン(95:5)の組合せも、Hosokawa Micron AS50ミルを使用して空気によりジェットミリングした。物質はミルを二回通過させた。粉末はMalvern粒径測定器によっても分析した。
【0204】
d(50)値およびFPF(MD)は、前の噴霧乾燥粉末で得た結果と同様であった。
【0205】
純粋なヘパリン粉末は二回通過させて空気によりジェットミリングし、わずか7%のFPF(MD)を得た。この粉末のd(50)は、空気によりジェットミリングしたサンプルを含むロイシンのそれより実質的に大きい。
【0206】
他の実施例では、USNを使用して、活性剤(ヘパリン)のみ、および活性剤1%〜5%と10%w/wのFCA(l-ロイシン)の混合物の供給溶液を使用して乾燥粉末を調製した。超音波ネブライザーのアウトプット率は130ml/時間であった。噴霧粉末の炉温度は350℃に設定した。図2は超音波設定の概略図を示す。
【0207】
粉末の処理を試験するために、Monohalerおよび20mgの粉末を充填したカプセルを使用して作業を行い、前に説明した方法で迅速なTSIに移した。この試験は60lpmのTSI流速、および約5μmのカットオフを使用した。
【0208】
それぞれの混合物に関して3つの測定を行い、それらの結果は以下に要約し、得られた3組の結果の平均値を与える。
【0209】
【表2】

【0210】
USNを使用して生成した乾燥粉末を使用する迅速なTSIの結果は、純粋なヘパリン粒子の非常に低いエアロゾル投与効率を示すが、FCAとしてl-ロイシンを加えることによってFPFに改善が見られた。
【0211】
粒径の試験では、USNを使用して形成した噴霧乾燥粒子の粒径を分析した。乾燥粉末はSympatec粒径測定器中において4バールで分散させた(Helos乾燥分散)。超音波ネブライザー処理した粉末のd(10)、d(50)およびd(90)の値を測定し、以下の表中に示す(10体積%の粒子がSympatecにより測定してd(10)値未満の大きさであり、50体積%の粒子がSympatecにより測定してd(50)値未満の大きさであるなど)。これらの値は3つの測定の平均である。
【0212】
さらに、5μm未満の大きさを有する粒子の質量の割合を粒径データから得て、FPFとして表す。
【0213】
【表3】

【0214】
超音波ネブライザーを伴う噴霧乾燥法を使用して形成された粒子は、例えば二流体ノズル配置を有する標準的な噴霧乾燥装置を使用して生成された粒子より、大きなFPFを有することが見出されたことを見ることができる。
【0215】
さらに、USNを使用する噴霧乾燥法を使用して形成された粒子は、例えば二流体ノズル配置を有する標準的な噴霧乾燥装置を使用して生成された粒子より、狭い粒径分布を有することが見出されている。
【0216】
明らかに、粘液活性剤およびFCAを含む微粒子を形成するための、他の知られている技法が存在する。このような技法には例えば、粒子生成目的で長年探求されてきている超臨界流体(SCF)を使用する技法がある。噴霧乾燥技法と同様に、この技法によって、吸入粉末に適したミクロンサイズ粒子の直接的な形成がもたらされる。粒子生成のために最も一般的に使用される超臨界流体技術は、超臨界溶液(RESS)および超臨界非溶媒(SAS)または気体非溶媒(GAS)法を迅速に広げることである。
【0217】
RESSはSCFの迅速な拡大に基づく。この方法は薬剤混合物をSCF中に溶かすこと、次に化合物を沈殿させる流体の迅速な拡大を含む。この技法は、粒子の大きさの分布および形態を制御しながら、均一な粒子を生成することができる。しかしながらこの技法は、大部分の薬剤はSCF中で低い溶解度を有するという事実によって制限される。
【0218】
SASは、非溶媒として作用して液体溶液中の粒子を沈殿させる、SCFの能力に頼る再結晶化法である。RESS技法と異なり、SASはSCF中での薬剤化合物の高い溶解度を必要としない。したがってSASは、粉末を生成するために商業上より実現可能である。
【0219】
近年、超臨界流体による溶液増大分散(SEDS)が導入された、例えば特許公開GB2322326、WO95/01324、WO95/01221、米国特許第5,851,453号およびWO96/00610を参照のこと。この技法は、非常に乱れた流れ中での同時分散、溶媒抽出および粒子形成に基づく。方法の条件を操作することにより粒子の大きさおよび大きさの分布を制御する能力によって、SEDSは非帯電状態の結晶生成物を生成することができる。
【0220】
他の手法は、エマルジョン沈殿として知られる技法である。この方法を使用して、粘液活性剤および1つまたは複数のFCAの微粒子を調製することができる。
【0221】
選択した粘液活性剤の粘液溶解活性を試験するための、実験プログラムを行った。この最初のプロトコルの第1の目的は、おそらく臨床的関連がある濃度におけるのう胞性線維症喀痰中のヘパリンの、粘液溶解活性(粘性および弾性を低下させて、それによって浄化性に影響を与える能力)を測定することである。これが以下の段階1の実験を構成する。第2の目的は、段階2の実験に組み込んだ活性に関するスクリーニング試験において、他のヘパリン分画とヘパリンを比較することである。
【0222】
これらの実験は、Sunら(Sun F、Tai S、Lim T、Baumann U、King M (2002) 「Additive effect of dornase alfa and Nacystelyn on transportability and viscoelasticity of cystic fibrosis sputum」Can Respir J、9 : 401〜406)によって記載されたプロトコルと同様のプロトコルを使用して行った。段階1では、幾つかの濃度のヘパリンを調べ、それらの結果は賦形剤対照(通常0.15M生理食塩水)および対照(Nacystelyn)と比較する。喀痰サンプルは、のう胞性線維症を有する成人患者から回収した。
【0223】
磁気マイクロレオメーターは、King(King M (1988) 「Magnetic microrheometer」 Methods in Bronchial Mucology、pp.73〜83.)によって記載された。この装置を使用して、マイクロリットル量の粘液の体積粘性および弾性を測定する。100μmのスチール製ボールを1〜10μLの粘液サンプル中に注意深く置き、電磁場勾配によって振動させる。この球体の動きは光電池によって追う。ボールの転位と磁力のプロットを使用して、施した周波数(1〜100rad/s)の関数として粘液の粘度および弾性を測定する。これらのレオロジー特性を使用して、繊毛作用による浄化における、および空気流の相互作用による浄化に関する粘液の有効性を予想することができる。この装置は、必要なサンプルが最小限なので、多数の喀痰治療を伴う提案された試験に特に適している。
【0224】
粘液繊毛浄化のカエル口蓋の試験も、これらの試験中で使用した。カエル口蓋上皮は繊毛の内側を覆い、哺乳動物の気管と非常に同様に粘液を分泌し浄化する。粘液繊毛による浄化は、口蓋を殺傷および切除した後に数時間安定した速度で続く(King M、Festa E (1998) 「The evolution of the frog palate model for mucociliary clearance」 Cilia、Mucus and Mucociliary Interactions、pp.191〜201)。この時間中、口蓋粘液繊毛による浄化の速度は、繊毛の活動を変える物質、または超臨界流体層(粘液および繊毛周辺流体)の性質を変える物質によって調節することができる。さらに長く待つことによって(ウシガエルでは1〜2日)、粘液分泌は止まり、一方で繊毛の活動は少なくとも5〜6日間続く。この長時間の間、内因性または外因性(例えば、のう胞性線維症)源由来の粘液または擬似粘液は、それらの粘弾性を反映する速度で運ばれる。
【0225】
粘液繊毛速度(MCV)は、目盛り付きマクロスコープおよびストップウォッチを使用して、内因性粘液の運動速度を観察することによって測定した。マーカー粒子が移動した距離を経過時間で割ったもの(mm/s)として、MCVを計算する。それぞれの試験溶液について5つの連続した実施の平均を使用して、MCVのそれぞれの値を計算する。
【0226】
本明細書で論じる試験の結果を解釈すると、当該の第1の変数は、(賦形剤治療に補正した)デルタlogG*として表される粘液の粘弾性の低下である。ヘパリンの所与の濃度におけるlogG*の有意な低下は、粘液溶解活性を支持する証拠として考えられる。粘液繊毛による浄化性(賦形剤で処理した喀痰に対する粘液溶解性物質で処理した喀痰の浄化率)は、当該の第2の変数である。基本的粘液ゲル構造を破壊せずに架橋の程度を低下させる粘液溶解性物質による処理は、in vitroでの浄化性の改善をもたらすはずである。
【0227】
段階1(ヘパリンの用量応答性)
10CFの喀痰サンプルそれぞれから、それぞれ約10〜15mgの6個までの等分試料を、0.9%のNaClまたは1つの濃度のヘパリン、またはN-アセチルシステインL-リシネート(NAL)(309mcg/mL)と共に37°で30分間インキュベートした。インキュベーション前およびその後に、10rad/sでの喀痰の粘弾性を磁気ミクロレオメトリーによって測定した。それぞれの溶液の粘液溶解効果は、試験した10のサンプルの平均的な分画のG*の低下(粘性と弾性のベクトル合計)によって定義する。
【0228】
これらの結果は図3に要約する。試験した物質が望ましい活性を示し粘液活性剤として作用することを、グラフから見ることができる。さらに、最も低い用量のヘパリンはほとんど効果がないが、ヘパリンの活性は用量依存性であり、高用量は明らかに有効であり、粘液浄化を促進する。ヘパリンと比較して低い濃度でNALが有効であったことも注目に値する。
【0229】
段階2(ヘパリン分画および/またはヘパリン配合物)
この実験の設計は、ヘパリンサイズの分画およびNacystelyn対照の使用以外は段階1と同様であった。これらの結果は図4に示す。
【0230】
データ地点1および2はヘパリン十糖に関するものであり、地点3および4はヘパリン多糖に関するものであり、および地点5および6はそれぞれ1.6mg/mLおよび5mg/mLでの非分画ヘパリンそれぞれに関するものである。
【0231】
これらの結果は、2つのヘパリン分画と本来の非分画ヘパリンの、レオロジー効果の差はほとんどないことを示す。そのそれぞれが用量依存性の粘液溶解効果、すなわち1.6mg/mLに関してよりも5mg/mLに関して大きいlogG*の低下をもたらす。5mg/mLでは、本来の非分画ヘパリンのlogG*の低下は、2つの新しい調製物に関してよりわずかに大きい。
【0232】
本発明の乾燥粉末組成物は吸入デバイスによって、最も好ましくは乾燥粉末吸入器(DPI)によって送達することが好ましい。この型の吸入器は、乾燥粉末配合物の肺投与用に一般的に使用されている。したがって、本発明の他の態様によれば、本発明の組成物を分配するためのDPIを提供する。
【0233】
DPIは粉末組成物を保持するための貯蔵器、および貯蔵器からの配合物の個々の用量を計測するための計測機構を含むことができる。このようなデバイスの例には、Turbohaler(商標)(AstraZeneca)またはClickhaler(商標)(Innovata Biomed Ltd)がある。
【0234】
あるいは、乾燥粉末吸入器を整えて、予め計測した用量の配合物を例えば硬質または軟質ゼラチンカプセルあるいはブリスターパック中にパッケージ化して使用することができる。Rotahaler(商標)(GlaxoSmithKline)、Spinhaler(商標)(Rhone-Poulenc Rorer)、Cyclohaler(商標)(Pharmachemie B.V.)およびMonohaler(商標)(Miat)は、この型の乾燥粉末吸入器の例である。本発明は、例えば硬質または軟質ゼラチンカプセルあるいはブリスターパックに含まれる、計測した用量の配合物も提供する。前述のデバイスは受動的デバイスであるが、Aspirair(商標)デバイス(WO01/00262およびGB2353222を参照のこと)などの活性デバイスも使用することができる。
【0235】
吸入器を整えて、それぞれの用量が吸入用に利用可能となる1つまたは複数の粘液活性剤を有効量含む、1つまたは複数の用量の配合物を分配することが好ましい。この用量は250mgを超えない1つまたは複数の粘液活性剤、好ましくは100mgを超えない、より好ましくは50mgを超えない、および最も好ましくは20mgを超えない1つまたは複数の粘液活性剤を含むことができる。この用量は少なくとも5mgの1つまたは複数の粘液活性剤、好ましくは少なくとも20mg、より好ましくは少なくとも50mgを含むことができる。好ましい用量は70〜80mgの1つまたは複数の粘液活性剤を含む。
【0236】
本発明の他の実施形態では、DPIを適合させて1つまたは複数の粘液活性剤を、少なくとも5,000IUの用量で患者の肺深部に送達する。
【0237】
本発明の他の態様によれば、少なくとも20mgの1つまたは複数の粘液活性剤を含む量の組成物を含むDPI中で使用するための、パッケージを提供する。本発明のDPIを整えて、本発明のパッケージを使用することが好ましい。
【0238】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明の組成物は治療における使用のために使用する。好ましくは本発明の組成物は、気道中の過剰な粘液または気道から粘液を除去する問題と関係がある、肺疾患の治療において使用するためのものであり、それらの例は前に論じている。
【図面の簡単な説明】
【0239】
【図1】USNがどのように働くかを示す図である。
【図2】超音波設定の概略図である。
【図3】ヘパリンの用量応答性を示す。
【図4】ヘパリン分画および/またはヘパリン配合物の用量応答性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘液内の架橋を減少させるため、粘液を希釈するため、および/または粘液内の裸DNAおよび細胞残骸を消化するための、1つまたは複数の粘液活性剤を含む、粘液の浄化を促進するための組成物。
【請求項2】
1つまたは複数の粘液活性剤が炎症を低下させることができる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
2つ以上の粘液活性剤を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
1つまたは複数の粘液活性剤が粘液内の架橋を減少させ、粘液を希釈する、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
1つまたは複数のグリコサミノグリカンを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
グリコサミノグリカンがヘパリンおよび/またはヘパリノイドである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ヘパリノイドがダナパロイドナトリウム、またはデルマタン硫酸である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
ヘパリノイドがヘパリン、デルマタン硫酸およびコンドロイチン硫酸を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
硫酸化グリコサミノグリカン、ポリ硫酸グリコサミノグリカン化合物、または硫酸化ムコ多糖を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
単糖、二糖および/またはオリゴ糖を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
デキストラン、デキストリン、グルコースおよび/またはマンニトールを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
アミノ酸を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
rhDNアーゼ、ゲルソリンおよび/またはチモシンβ4を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
アセチルシステインおよび/またはナシステリンを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
肺吸入用の乾燥粉末である、請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
少なくとも50%、および好ましくは70%と99%の間、または80%と99%の間の微粒子分画(<5μm)を有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
50%と90%の間、および好ましくは60%と70%の間の微粒子の割合を有する、請求項15または請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも1つの粘液活性剤および力制御物質の粒子を含む、請求項15から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
力制御物質がアミノ酸またはペプチド、あるいはこれらの誘導体、リン脂質またはステアリン酸金属である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
力制御物質がロイシン、リシン、システイン、またはこれらの混合物である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
力制御物質が50%w/wまで、好ましくは10%w/w未満、およびより好ましくは5%w/w未満の量で含まれる、請求項18に記載の組成物。
【請求項22】
10μm未満のMMADを有する粘液活性剤の粒子を含む、請求項15から21のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
粘液活性剤の粒子が2〜5μmのMMADを有する、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
担体粒子をさらに含み、好ましくは前記担体粒子が少なくとも20μmの粒径を有する、請求項15から23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
治療において使用するための、請求項1から24のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
肺疾患を治療するための、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
肺疾患が粘液の分泌過多または粘液の異常な粘弾性を伴う、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
肺疾患が慢性気管支炎、急性喘息、のう胞性線維症(CF)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または気管支拡張である、請求項26または27のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項29】
請求項1から24のいずれか一項に記載の医薬組成物を治療有効量、そのような治療の必要がある対象に投与することを含む、肺疾患を治療する方法。
【請求項30】
1つまたは複数の粘液活性剤を噴霧乾燥することを含む、請求項1から24のいずれか一項に記載の組成物中で使用するための粒子を生成する方法。
【請求項31】
噴霧乾燥が、制御された速度で動く小滴を生成するための手段を含む噴霧乾燥機の使用を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
小滴の生成地点から5mmにおける小滴の速度が20m/s未満である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
噴霧乾燥機が超音波ネブライザーを含む、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
1つまたは複数の粘液活性剤を力制御物質と同時に噴霧乾燥する、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1から24のいずれか一項に記載の組成物中で使用するための粒子を生成する方法であって、空気または圧縮ガスまたは流体の存在下で1つまたは複数の粘液活性剤の粒子をジェットミリングすることを含む方法。
【請求項36】
力制御物質の存在下で粒子をジェットミリングする、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
0.1バールと3バールの間の入口圧力でジェットミリングを行う、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
3バールと12バールの間の入口圧力でジェットミリングを行う、請求項35または36に記載の方法。
【請求項39】
少なくとも90体積%の活性粒子がジェットミリングの前に直径20μm未満である、請求項35から38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
生成する乾燥粒子の90%がレーザー回折によって測定して10μm未満の大きさを有する、請求項30から39のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31204(P2012−31204A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−243533(P2011−243533)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【分割の表示】特願2006−525902(P2006−525902)の分割
【原出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(504085521)ベクトゥラ・グループ・ピーエルシー (15)
【Fターム(参考)】